( ^ω^)川゚-゚)ξ゚-゚)ξ'A`)´・ω・`)

1: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 02:01:27.94 ID:6HpydLB10
一体、何に驚けばいいのだろう

今日、一回も口を利かなかったドクオの、親しげな挨拶に?
それとも、校内だというのに、くわえタバコをしていることに?
そもそも、来ないはずのドクオの来訪そのものに?

ぐるぐると、混乱にもにた、不安を伴う疑問符が頭を巡り、
どれも聞きたいのに、どれを聞こうとしても、互いが互いを邪魔しあい、言葉にならない
そんな心の動きは、そのまま口の動きとして現れたのだろうか、

('A`)  「ん? なんだ、面白い顔して?」
ξ゚听)ξ 「なっ!? ば……」
('A`)  「おちつけ」

衝撃に固まるツンを他所に、ドクオは視線をキャンバスに移すと、
当たり前のように手近にあったイスに腰掛けると、

('A`) 「なんだ、まだ準備中だったか?」
ξ゚听)ξ 「え?」

ドクオから見れば、キャンバスは真っ白なままに見えるのだろう、それを見て意外そうに言う
が、それはそうだろう、授業が終わってから、もう既に一時間近くが経過している。しかし、ツンには、

ξ#゚听)ξ 「!! バ……ち、違うわよっ!?」

まだ準備も終わっていないのか、と、ドクオに言われたような、気がして、

ξ#゚听)ξ 「今は地塗りの途中で……」
('A`) 「……どうしたよ、らしくねぇな?」
ξ゚听)ξ 「なっ……」



2: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 02:02:12.15 ID:6HpydLB10
確かに、いつものツンならば、きっとドクオの無知を、笑っていただろう
注意深くキャンバスを見れば、白絵の具の塗られた場所とそれ以外で、微妙に色が違うことぐらいわかる
それ以前に油彩の知識があれば、こんな基本的なこと、説明する必要すら、無い

ξ゚听)ξ 「何が、よ……?」

何をムキになって、弁解しようとしているのだろうか
漏れ出すように、聞き返し、その事に気づくと、

ξ゚听)ξ 「……」

一度、呼吸

そうだ、別に、ドクオに説明してやる理由なんか、無い。勝手に勘違いして、恥をさらしているだけだ
そう、冷静に思い直し、再び、口を開く
直前に

('A`) 「ま、そっちのが、らしいっちゃらしいと思うけどな?」
ξ゚听)ξ 「え…………?」
('A`) 「ショボンみたいでよ」
ξ゚听)ξ 「!」



4: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 02:02:54.45 ID:6HpydLB10
ドクオは、一体何を言っているのだろう

―――ショボンみたい?
―――誰が?
―――アタシが?

ξ゚听)ξ 「ど、どこが……!」

と、否定しようとして、思い出すのは、昨日のショボン

『(´・ω・`) 「どうしてこんなカッコいい物を、そんな風にけなすのさ? 絶対、おかしいもん!」 』

ξ゚听)ξ 「あ…………」

否定の言葉は、続かなかった
しかし、だからと言って、肯定することも、出来ないツンは、

ξ゚听)ξ 「そ、それより……何しに来たのよ?」

強引な、話題の変え方だとは、自分でも思う
しかし、話題を変えるためではない、元から、これを聞こうと思っていたのだ、と自分に言い聞かせ、
口にすることで、少しだけ冷静さを取り戻したツンは、これ見よがしに、ため息をついた

ξ゚听)ξ 「あんた達がいると集中できないって、言ったわよね?」
('A`) 「ああ、そりゃ悪かった」
ξ゚听)ξ 「悪いと思ってるんだったら……!」

最初から来ないで、と、怒鳴りつけようとして、ドクオが頭をかいた

('A`) 「けどよ。……お前の絵、見に来たんだからよ、しょうがねぇだろ?」



6: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 02:03:44.75 ID:6HpydLB10
ξ゚听)ξ 「え……?」
('A`) 「つかよ、それ以外に何の用があるよ?」

今日はお前が使うって言っただろ、と付け加え、
それでも反応を見せないツンに、ドクオは大仰に肩をすくめて見せた

('A`) 「言わなくてもわかるだろ、こんぐらい」

何を、当然のように、言っているのだろう、わかるわけが、無い
それ以前に、ドクオが、ツンの絵を見に来る理由が、無い

ξ゚听)ξ 「わ……わかるわけ、ないでしょ……?」

―――なんで、ドクオはアタシの絵を見に来たの?
―――昨日、アタシがあんなことを言ったから?
―――だから、ドクオも、同じように……

―――('A`) 「似合わねぇ趣味だな」

ξ゚听)ξ 「!!」

想像の中のドクオの言葉に、思わず、肩がゆれる
もしも、もしも、目の前のドクオも同じ事を考えていたら……

だが、身構えたツンとは裏腹に、ドクオはあっさりと、笑みを浮かべながら

('A`) 「だよなw」

わかるわけねぇよな、と、言った



8: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 02:04:12.05 ID:6HpydLB10
真剣に、悩んだ。不安に、なった。なのに、その言い方は、なんだ

ξ#゚听)ξ 「っ!? アンタねぇッ!」

からかうような物言いに、食って掛かる
が、ドクオはまるで意に介さない。視線はツンではなく、窓の外に向け、

('A`) 「言わなきゃよ、わかるわけねぇよ」
ξ゚听)ξ 「………………」

言葉はしみじみと、どこか独り言めいていた
口元に浮かぶ笑みは、しかし、楽しそうではなく、と、思えたのも一瞬

('A`) 「だからよ、お前も、変にカッコつけんなよ?」
ξ゚听)ξ 「あ、アタシは別に……!」

視線を逸らしそうになって、踏みとどまる

ξ゚听)ξ 「そういう、アンタはどうなのよッ!? タバコなんかくわえて、カッコいいつもり!?」
('A`) 「……これのどこがカッコいいんだ?」

ドクオはそう言うと、まじまじと、くわえたタバコを手にとり、

('A`) 「欲しけりゃやるよ」
ξ゚听)ξ 「ちょッ……?」

放り投げられたタバコを、とっさにツンが受け取る。と、手にとって、初めて、気がついた

ξ゚听)ξ 「これ……タバコ、チョコ?」



10: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 02:04:43.42 ID:6HpydLB10
('A`) 「な? 言わなきゃ、わからねぇだろ?」

呆けたように突っ立つツンに、ドクオは心底楽しそうに笑った
そのとたん、こんな物を声高に指摘していた事が、恥ずかしく、
だがそれ以上に、こんなくだらない罠をしかけたドクオに、腹が立つ

ξ#゚听)ξ 「くっだらない……!! こんなのに騙されるヤツなんていないわよ、今時!」
('A`) 「騙されたじゃねぇか?」
ξ#゚听)ξ 「う……」

言い返そうとするが、そう言われると、返す言葉が無い
と、ドクオは笑うのを止めると、でもよ、と呟き、

('A`) 「……あいつらは、騙されんだよな」

お前と、おんなじでよ、と

('A`) 「ブーンもよ、ショボンもよ。……あいつらは馬鹿だからな」

三馬鹿と言われ、自分も二人と同じく見られているのだが、
今はそんなこと、どうでもいい

('A`) 「言わなきゃよ、わからねぇんだよ」

今日、何度目かわからない、セリフは、

('A`) 「見た目だけじゃあよ?」

その言葉で締めくくられた



22: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 02:25:41.09 ID:6HpydLB10
説教じみた、ドクオの言っている事は、これが初めて聞いたという話では、ない
テレビで、マンガで、小説で、そして教師。どこの誰でも思いつく、手垢のついた、使い古された表現だ
だが、それでも

ξ゚听)ξ 「………」

ポス、と、気が抜けたように、イスに座りながら、ツンはドクオの言葉を反芻していた

―――見た目だけじゃあ、わからない
―――言わなきゃ、わからない
―――だからよ、お前も変にカッコつけんなよ?

ξ゚听)ξ 「………」

これが、ドクオではなく、たとえばベートーベンに言われたのなら、
ツンはきっと、そんなことわかっています、と聞きもしなかっただろう
そのぐらいに、聞きなれた、読みなれたフレーズ

なのに、どうしてだろう
ドクオの口から、ショボンやブーンの名前を交えてかたられる言葉に、

ξ゚听)ξ 「………」

今まで感じたことの無いほど、安堵するのは
今まで感じたことの無いほど、ほっとするのは



26: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 03:29:13.23 ID:6HpydLB10
ドクオもツンも、何も言わないまま、自然な沈黙が流れる美術室
何かを考えているのか、ぼうっと座るツンが、その中で、顔上げた。と、

('A`) 「んじゃ、俺は行くかなっと」
ξ゚听)ξ 「え?」

それを見計らうように立ち上がり、伸びをするドクオに、間抜けな声が出た

ξ゚听)ξ 「ちょ、待ちなさいよ、あんた、絵を見にきたんじゃないの?」
('A`) 「まだ、描けてないんだろ?」
ξ゚听)ξ 「あ……」

言われてみれば、ツンは何を言っているのだろう

ξ゚听)ξ 「そう、だけど……」

ドクオの言うとおり、絵を見に来たと言っているのだから、目的の物が無い以上、ドクオがここにいる理由はない
それ以外にあったとしても、あれだけ言えば、もう話すこともないだろう
それは、わかる。わかるが、

ξ゚听)ξ 「………」

視線が、美術室のアチコチに移り、何か、ドクオが残る理由は無いか、探してしまう

('A`) 「………」



32: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 03:49:04.97 ID:6HpydLB10
結局、何か見つけられるわけも無く

('A`) 「じゃ、またな」

歩き始めるドクオを、見送ることしか出来なかった
ドクオが出て行くと、美術室に一人取り残されたように、
ツンは座ったまま、ドクオが出て行ったドアを眺め続けていた
しばらくして、ドクオがもういなくなっているだろう間を空けてから、ほぅ、と息を吐く

ξ゚听)ξ 「……あたし、何、やってるんだろう」

イライラ、ではなく、もやもやする
さっきと同じく、浮かぶ感情を理解できないのに、変わりは無いが、意味合いはまるで違う
パレットナイフを手にとり、作業を続けて気を紛らわせようとするが、

ξ゚听)ξ 「あれ?」

カツッ、と、固い感触
塗るべき絵の具が、ナイフにもパレットに残っていないからだ
ドクオが来る前に、絵の具を足そうかどうしようか、
考えていた筈なのに、それすらも忘れていたのだ
苦笑しながら、絵の具をパレットに搾り出し、今度こそ地塗りを再開する

ξ゚听)ξ 「……何、やってるんだろう」

作業を続けながら、独白
絵を描く時、ツンは誰かと一緒に作業する事はあまり無い
集中したい、というのもあるが、絵を描く時は、考え事をする時でもあるからだ
なのに、今日はどうしてだろうか。一人で絵を描く事に、疑問を感じる



35: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 03:59:43.85 ID:6HpydLB10
ξ゚听)ξ 「ううん、違う……」

パレットナイフを滑らせながら、首を振る
絵を描く事に、では無い。本当に疑問を感じているのは、今、一人でいることだ

ξ゚听)ξ 「………」

沈黙が、痛い
何故か、痛い

つい、考えてしまう
あの安心感は、なんだったんだろう、と

ξ゚听)ξ 「……」

考えても、答えは出ない
無言で、沈黙のまま、手を動かす
それが、痛い



36: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 04:49:21.58 ID:6HpydLB10
と、地塗りも、もうすぐ終りというところに差し掛かった時

―――……ィィィィィィィィ………

ξ゚听)ξ 「え?」

無音のはずの美術室に、何か、高い音が聞こえてきた
吹奏楽部か、でなければ軽音部の練習か、とも思ったが、違う
楽器の音ではないし、そもそも一種類の音しか聞こえてこない

ξ゚听)ξ 「……何の音?」

どこかで、聞いたことがあるような音を、
耳を澄まして、音がどこから来ているのか、確かめようとする

―――……ュィィィィィィィィ………!

小さい小さい音は、教室の前方。ツンから見て右の方から、聞こえてくる
見えない音を、目で追うように、顔をそちらの方向に向けると、そこは

ξ゚听)ξ 「準備室……?」

いや、それは正式名称だ。通称は『工房』
昨日ドクオが、シルバーアクセを作っていた場所だ

ξ゚听)ξ 「まさか……」

一歩、足を踏み出し、耳の後ろに手を当て、

―――チュィィィィィィィィ………!!



37: 貧乏人(神奈川県) :2007/04/09(月) 04:50:00.72 ID:6HpydLB10
音の正体は、銀粉粘土を削るリューターの音
一度しか聞いたことがないが、間違えようが無い

ξ゚听)ξ 「あいつ……。言ってることが違うじゃない」

帰るような事を言っておきながら、ドクオは工房にいる
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、止めた
どんな顔をすればいいのか、解らないし、それに今は、文句を言いたくない

気がつくと、もやもやは消えていた
ドクオが、帰っていないと知った途端、ほっとしたような感覚と一緒に、なくなっていた

ξ゚听)ξ 「……言ってることが、違うじゃない」

見た目じゃわからない。言わなきゃわからない。ドクオは、そう言った
なのに、ツンは何も言わなかった筈なのに、ドクオは、帰らないで、工房にいてくれた

ξ゚听)ξ 「……言わなくても、わかってるんじゃない」

イライラも、もやもやも、その原因が今、わかった様な気がする

―――ただ、わかって欲しかった
―――理解して欲しかったのに、理解してくれない

反抗期の子供のような、くだらない理由だ
けれど、そんなくだらない理由も、ドクオは理解してくれた

そう思うと、リューターの音が、やさしく聞こえてくるような、気がする



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