( ^ω^)がアウターブーンの世界に入り込んだようです
- 13:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:25:44.86 ID:CNvvzHtf0
第二話
「竜玉」
これはひどい。
またやってしまった。
あの男の言い方は少し誇大広告なんじゃないか。
('A`)「ま〜たくだらないモン買っちまったな…。」
すっかり冷め切ったコーヒーを後悔と一緒に飲み干す。
ドクオの部屋にたどり着いたばかりの「超多機能包丁」は、早くもクーリングオフの危機にさらされていた。
- 15:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:26:51.49 ID:CNvvzHtf0
('A`)「なぁ包丁くん。なんで俺は通販なんかにはまったんだ?」
返事はかえってこない。
いくら超多機能とはいえ、ドクオの問いに答えられるような人工知能は備わっていないようだ。
ジャ○ネットもそこまで期待されてるとは思っていない。
ピンポーン
生活必需品しかない簡素な部屋に、来訪を告げる電子音が響いた。
- 16:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:28:30.40 ID:CNvvzHtf0
川゚−゚)「はんこを頼む。」
('A`)「ああ、はいはい…よっと。」
川゚ー゚)「ありがとう。では失礼する。」
えらく冷めた人だな。
ってかあの口調はどうなんだ??
最近の社会人ってのは言葉遣いってものを教えないのか。
('A`)「ったく。 …なんだコレ?こんなの注文したっけな〜。」
飾りつけもなんもない。
会社名も入ってなければ、宛名もない。
とても簡素な箱だった。
真っ黒という点を除いては。
- 17:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:30:57.84 ID:CNvvzHtf0
('A`)「…おいおい、勢いではんこ押しちゃったよ。サギとかじゃないだろうな…。」
蓋を開けてみる。
中には黒い発泡スチロール。
中央の、コブシ大の黒い石を守っている。
途端、寒気がした。
パンドラの箱。
曰く、開けてはいけないもの。
- 20:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:33:23.99 ID:CNvvzHtf0
('A`)「…? なんかあるぞ。「竜玉 Made in ナメック」??」
笑い飛ばして石をつまみあげる。
黒い。ただひたすらに黒い。
滑らかな曲面に自分の歪んだ顔が…映らない。
ドクオは黒に引きずり込まれる錯覚を覚え、それを投げ飛ばした。
●「いてっ!!」
ドクオは自分の聴覚を疑わなかった。
石が、今確かに、喋った。
('A`)「…はぁ?」
川゚−゚)「アウターブーンへの入り口はどこにでもある。彼もまた、異界への扉を開けてしまったようだ。」
- 21:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:35:24.10 ID:CNvvzHtf0
●「なにすんだよ!!いてえじゃねえか!!」
怒鳴り散らす黒い石にドクオは背を向けた。
●「ちょっ、シカトかよ!!おーい!!」
('A`)「…。」
数分後、部屋にはコーヒーの匂いが立ち込めた。
ドクオは台所からマグカップを二つ、お盆に載せて運んできた。
('A`)「砂糖は?」
●「あ、ふたつお願いします。って飲めねーよバカ!!」
('A`)「へぇ、随分人間くさく喋るんだな。」
●「いやいやいや、お前驚かないのか?石が喋ってるのなんて初めて見ただろ??」
('A`)「ああ、まぁ初めてだけど…。」
- 22:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:38:14.26 ID:CNvvzHtf0
黒い石はたじろいだ。
予想もしない反応。
最近のガキはここまで冷めているのか?
ゲームと現実の区別がつかないのか?
ドクオは落ち着き払った様子でタバコに火を点けた。
中学の頃からずっと相棒はセブンスター。浮気はしない。
深く、肺に満たした煙を黒い石に吹きかける。
●「ぶわ!!なにすんだバカ!!」
('A`)「俺なりに気持ちを落ち着けてんだよ。」
ドクオは口の端を吊り上げた。
('A`)「で、何ができるんだお前。」
- 23:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:39:51.48 ID:CNvvzHtf0
「3つ、願い事を叶えてやる」
実にシンプルな説明だった。
あまりに現実離れした馬鹿げた回答に、メーカーや製造元を聞く気もなかった。
しかしこの非現実をすんなり受け止めている自分がいる。
気が狂った?
いや俺は正常だ。
狂ってるのは俺を取り巻く世界だけ―――
- 24:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:53:24.66 ID:CNvvzHtf0
('A`)「いつも考えてたんだ。なぜ漫画や物語の世界ではこういうチャンスで馬鹿を見るのかって。」
●「?」
('A`)「願い事の回数を無制限にしろ。それが一つ目の願いだ。」
●「…それは出来ない。」
黒い玉は頭から否定した自分の答えに、ドクオが食って掛かるかと思った。
しかし、「やっぱりな」とだけ言ってドクオは押し黙った。
- 25:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/23(火) 23:58:29.88 ID:CNvvzHtf0
金が欲しいと願う。
事故で死んで慰謝料やら保険金やら口座に振り込まれる。
(金はだめだ)
物を燃やす能力を願う。
「物に触れただけで燃やせるじゃないか」と、火達磨にされる。
ゲームのキャラの様な能力を手に入れたいと願う。
TVの画面に閉じ込められる。
(超能力なんて手に入れてもなぁ)
世界を統べる王になりたいと願う。
俺の世界。この部屋限定、小さな冠の王になる。
(別に権力には興味ないしな)
死んだ家族の蘇生を願う。
B級映画よろしく、ゾンビが墓から這い出てくる。
(今更出てきてもらっても困る)
だめだ。いざとなったら何も思い浮かばない。
というよりも自分の無欲さに驚いた。
世の中がもっと面白くなること。
何も、思いつかない。
- 27:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:00:20.50 ID:LJMRckPX0
ピンポーン
本日二度目の来訪を告げるチャイムがドクオの思考を中断させた。
黒い石が忠告する。
●「俺の声はお前にしか聞こえてないからな。」
('A`)「意外と優しいんだな。」
俺にしか認識できない非現実を人に話しても、基地外扱いされて終わりだ。
けだるい午後の来訪者はブーンとショボン。
今日は日曜日。大学生の二人も暇を持て余しているのだろう。
( ^ω^)「おいすーwwwwwww」
(´・ω・`)「ドクオー。お邪魔するよー。」
- 28:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:01:30.54 ID:LJMRckPX0
ドクオは二人を追い返した。
フリーターのドクオは基本的にいつも家にいる。
バイトで家を開ける時も勝手に出入りすることを許されている。
かなり珍しい友人の行動に二人はただならぬ空気を感じた。
(´・ω・`)「なんかあったのかな。心配だねブーン」
( ^ω^)「邪魔しちゃダメだお。」
(´・ω・`)「?」
( ^ω^)「きっと新しいエロゲ買ったんだお!!邪魔せず早く終わらせて貸してもらうおwwwww」
(´・ω・`)「…。」
- 29:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:02:35.93 ID:LJMRckPX0
('A`)「あの二人の、ウチを訪ねて追い返された記憶を消してみてくれ。」
唐突に言い放った。黒い石はとまどいながらも願いを聞き入れた。
●「…おやすい御用だ。」
ピンポーン
- 30:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:04:47.20 ID:LJMRckPX0
('A`)「悪い、今ちょっと立て込んでるんだ。また今度。」
二人を追い返し、部屋に戻りまたセブンスターに火を点けた。
ドクオの頭がけだるく満たされる。
('A`)「(どうやら本当に力はあるらしいな)」
●「さぁ二つ目の願いは?」
どこかwktkしているような声。願いの一つは消化された。
- 31:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:11:55.82 ID:LJMRckPX0
('A`)「…あんた、いつからその姿なんだ?」
●「!?」
('A`)「あんたも元は人間だろう?三つ目の願いを叶えたなれの果てだ。」
ドクオは質問する口調で言ったが、既に確信めいていた。
('A`)「三つ目の願いを叶えた人間はまたどこかの誰かの願いを叶えに行く。反吐が出るシステムだ。」
●「…!!」
表情が読み取れなくても、沈黙が質問の正否と焦りを表していた。
「なぜわかったかって?」
前置きして、煙を吐き出す。
('A`)「あんた随分人間くさいしな。それにこういうのは使い古されたありがちな展開だ。」
- 32:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:13:18.08 ID:LJMRckPX0
('A`)「二つ目まで叶えさせてあんたを捨てる。」
黒い石はうなだれた。実際にうなだれた首や体があるわけではないが、しょげたイメージが伝わってくる。
('A`)「とまぁ普通の人間ならそうするかもしれんが…。」
('A`)「石っころになるのも悪くない。」
●「…何!?」
つまらないんだよ。この世界は。何をしても結果が読める。自信過剰なわけじゃない。
世界的大スターに、大富豪に、首相になったところで待っているのは「退屈」だ。
…ヒーローに憧れるあいつの気持ちも分かる。
非現実に直面して、体の中で血が踊り狂った。胸の鼓動を感じた。
生きてるって実感できた。
こんな気分は久々だった。
- 33:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:14:52.43 ID:LJMRckPX0
●「さっき訪ねてきたやつらは?あいつらも退屈なのか?」
('A`)「…いや…あいつらは…。」
ブーンとショボンの姿を思い浮かべる。
いつも陽気に駆け回り自分とは正反対のブーン。
どこか自信なさげでとても繊細なショボン。
二人とも自分にはないものを持っている。
(自分が持ってないものなんて、それこそ世の中に溢れていそうだが)
あいつらと過ごすのは、退屈じゃない。
- 34:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:23:05.76 ID:LJMRckPX0
●「…俺からは質問されない限りルールを話す事ができない。」
('A`)「?」
●「お前なら見つけられるはずだ。連鎖を終わらす鉄槌を。」
●「くそったれな世界をぶち壊すのは異世界の力じゃない。」
●「いつだってお前自身の力だ。」
('A`)「…生意気だな。まぁいいだろう。」
('A`)「二つ目の願いは――」
- 36:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/24(水) 00:29:02.86 ID:LJMRckPX0
〜数日後〜
相変わらず質素な部屋。
ブーンが食い散らかした菓子屑が、唯一生活感を匂わせている。
変わった事といえば、一人、住人が増えたことだ。
( ゚∀゚)「なぁなぁドクオ!!」
( ゚∀゚)「三つ目の願いさ、俺に決めさせてもらってもいいか?」
('A`)「? いいけどもうあの力は失われたんじゃねえのか。」
( ゚∀゚)「三つ目の願いは、さ。」
―――俺と、友達になってくれ。
川゚−゚)「異界からの届け物。アウターブーンショッピングは皆様のご利用をお待ちしている。」
川゚ー゚)「ただしクーリングオフは通用しないのであしからず。」
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