( ^ω^)がアウターブーンの世界に入り込んだようです
- 16:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:28:49.67 ID:k5Iz217w0
第六話
「メイン義足」
(#゚д゚)「はぁっ!!はぁっ!!」
73対71。
2点ビハインド。
残り時間は……12秒。
異様な熱気につつまれる体育館でも、俺の頭は常に冷静。
相手のベンチも応援に力が入ってる。
そりゃそうだ。ここまで競りに競った試合なら、2点差じゃ安心できないだろ。
それとももう勝ったつもりのお祭り騒ぎか?
……なめんなよ。
- 17:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:30:56.29 ID:k5Iz217w0
(#゚д゚)「いくぞオラ……っ!!」
俺にタイトに当たってたディフェンスを一歩で置き去り。
すぐにヘルプが入るが構わず突っ込む。
フリースローレーンに進入し、センターまでもがカバーに出てくる。
一瞬だけ、外にパスを出すフリをする。
逆転スリーを警戒してたんだろう。
案の定、ディフェンスの意識が外に向く。
はっ、こんなフェイクに引っ掛かっちゃって…!!
- 19:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:31:39.67 ID:k5Iz217w0
フェイクで作られた空間に、ボールを持って体ごと割り込む。
一歩。
二歩。
この瞬間、雑多な音が聞こえなくなる。
俺に反応して飛んだディフェンスは……3枚か。
ほら、お前らの欲しいボールはここだ―――!!
- 20:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:32:15.51 ID:k5Iz217w0
- ピーーーーーーーーーーッ!!
「バスケットカウント!!ワンスロー!!」
審判が二本の指を作り手のひらを下に向けて上下させる。
瞬間、コート上は、いや体育館中が熱狂に包まれた。
- 21:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:35:19.81 ID:k5Iz217w0
「カウントワンスローで逆転勝ちとかマジ渋い!!」
「先輩!!マジかっこよかったっすよ!!」
「すごいもん見させてもらいました!!」
(#゚д゚)「あ〜、いいからホラ。撤収撤収。すぐに次の試合の奴らアップにくんぞ」
わらわらとよってくる後輩達に興味はない。
俺が好きなのは、あの時間だけ。
肌がチリチリするような、体育館中の視線を独占してるあの時間。
(#゚д゚)「わざと点差をつけずにギリギリの状況作ったって言ったら怒られんだろうな〜」
別に怒られようが引かれようがかまやしないか。
結果試合には勝ってんだし。
- 22:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:38:59.00 ID:k5Iz217w0
- 「お疲れ様っした!!」
「おい、マック寄ってかねえ?」
(#゚д゚)「いや。疲れたし寄り道はパスするわ」
部員と別れ、街道を一人トボトボ歩く。
次の試合はいつだっけ。
練習じゃあいつら手ぇ抜くからつまらん。
疲れんのがいやなら部活やめりゃいいのによ。
ああ、早く試合がし
- 24:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:42:29.42 ID:k5Iz217w0
俺の意識はここで途絶えた。
気づいたら病院のベッドの上。
お袋が心配そうに俺を覗き込んでくる。
なんだ?どうして俺はこんなとこに……体が動かねえ。
医者とお袋がなんか話してる。なに泣いてんの?
あ〜だめだ…眠い……
- 27:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:46:50.17 ID:k5Iz217w0
やっとまともに話が出来るようになってから、医者が俺に説明してきた。
あの日、俺は酔っ払いの車に轢かれたこと。
特に脳にはダメージがないので頭のほうは大丈夫らしい。
…いや、脳に障害きたして意識が戻らない方がまだマシだった。
……俺の右足が、ない。
- 28:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:47:18.29 ID:k5Iz217w0
あれからしばらくたった頃、
俺のところに新しい看護婦がやってきた。
川゚−゚)「クーだ。よろしく」
(#゚д゚)「……」
(#゚д゚)「もう、バスケは出来ないんすかね?」
川゚−゚)「……」
(#゚д゚)「別に俺は貧乏だろうが飯がなかろうがバスケさえやれりゃ充分だったんだ」
川゚−゚)「君はバスケットボールをやっていたのか」
女が適当に相槌を打つ。
それがひどく癇に障った。
- 29:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:51:09.67 ID:k5Iz217w0
(#゚д゚)「なんでだ?俺は別にそれ以外何も望んでいなかったじゃないか」
急に抑えていた何かが爆発した。
腹の下にたまっていた何か。
俺は、ずっと叫びたかった。
(#゚д゚)「おい!!答えろ!!なんで俺の脚がないんだ!!ふざけんな!!」
(#゚д゚)「なんなんだよ…うう…俺…悪いコトなんてしてないじゃないか…」
この女に答えなんて望んじゃいない。
ただ、目を瞑れば聞こえてくるのは床をバッシュがこする音。
馬鹿みたいに声を張るベンチの応援。
俺を包む大歓声……。
- 30:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:56:01.53 ID:k5Iz217w0
- その日の夜、俺はなかなか眠れなかった。
ないはずの足がうずく。
気になって眠れない。
眠剤でももらえないかとナースコールを押す。
川゚−゚)「眠れないのか」
やってきたのは昼間の時の看護婦。
八つ当たりしてしまったのを思い出してしまって、バツがわるい。
(#゚д゚)「あ、あの、薬かなんか出してもらえませんか?」
川゚−゚)「む。わかった。少し待っていろ」
しばらくすると水と錠剤を持って戻ってきた。
(#゚д゚)「あ、どうも」
川゚−゚)「気にするな」
- 31:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 00:58:34.02 ID:k5Iz217w0
な、なんか不思議な女の人だな……。
薬を飲み終わっても、部屋から出て行こうとしない。
(#゚д゚)「あの……?」
川゚−゚)「眠れないんだろう? 薬が効いてくるまで少し話でもしようか」
……。
………………。
…………………………………………。
なにこの沈黙。
(#゚д゚)「あの」
川゚−゚)「やりたいか?」
- 32:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 01:02:26.40 ID:k5Iz217w0
(#゚д゚)「へ?」
川゚−゚)「バスケットボールだ。もう一度やりたいか?」
ああ、バスケね。びっくりした……。
何考えてんだ俺は。なんか恥ずかしいぞオイ。
(#゚д゚)「そりゃあ…当たり前じゃないすか。俺の人生バスケだけだったんだ」
(#゚д゚)「もうこんなの、死んでるのと変わんねーよ」
川゚−゚)「……」
女が急に立ち上がった。
しまった。怒られる。
- 33:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 01:02:42.21 ID:k5Iz217w0
川゚−゚)「なら君にチャンスをあたえてもいい」
はい??
「馬鹿なことを言うんじゃない!!」
なんていってぶたれるかと思ったのに。
それに今なんて言った?
……チャンスだって??
- 34:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 01:04:46.60 ID:k5Iz217w0
あ、やばい。薬が効いてきた。
川゚−゚)「答えろ。今の自分の人生を捨ててもいいなら、またバスケットをやらせてやろう」
何言ってんだ。
そんなの。決まってる。
「後悔するなよ」
沈んでいく意識の中で
女の人が笑った気がした
- 36:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 01:22:05.24 ID:k5Iz217w0
「パスパスパス!!」
汗とバッシュの匂い。
「リバウンド!!落ちるぞ!!」
飛び交う声と体育館の熱気。
俺はまたここに帰ってきた。
- 41:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 01:31:39.17 ID:k5Iz217w0
目を覚ましたら俺は知らない部屋にいた。
机の上に積まれた流行のCD。
壁にはビンスのポスター。
なんとなく、この部屋の主は同世代の男を連想した。
これといった焦りはなく、不思議と落ち着いた気持ちでベッドから降りる。
床に手紙が置いてある。
なんの確信もないけど、俺宛だと思った。
- 44:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 01:47:43.42 ID:k5Iz217w0
これといった焦りはなく、不思議と落ち着いた気持ちでベッドから降りる。
床に手紙が置いてある。
なんの確信もないけど、俺宛だと思った。
信じられない話だが、どうやら俺はこの部屋の持ち主になったらしい。
前の持ち主も足を切断する事故に合ったそうだ。
どうやらその男の足を俺に移植した、ということだ。
うっすらと、少しづつ記憶が蘇ってくる。
いや蘇るというのは正しくないな。
この足の持ち主だった男の記憶が頭に流れ込んでくる。
その男はどうなったんだろうか?
俺と人生を交換したなら、今頃はベッドの上か。
なんにせよお前にゃ悪いが、
これでまたバスケが出来る……!!
- 45:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 01:53:03.37 ID:k5Iz217w0
どうやらこの男もバスケ部員だったらしい。
弱小バスケ部のベンチ。
新しい人生をやり直すのに、この環境は悪くない。
「よう、どしたんだよお前。急にウマくなったな」
当たり前だ。俺を誰だと思ってる。
「なんだ!?秘密特訓でもしてたのか!?」
そんなの必要ない。俺は強豪高校のエースだったんだぞ。
- 46:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:07:34.66 ID:k5Iz217w0
あ〜疲れた。
思ったより体が動かないな。
しかしあのバスケ部の連中は糞だな。
俺の足を引っ張る存在でしかない。
まぁいい。またバスケが出来るんだ。
明日練習試合に備えて寝るとしよう……。
- 47:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:10:58.82 ID:k5Iz217w0
最悪だ。
負けてしまった。
あんなカスみたいな連中相手に。
それにチームの奴らもなんなんだ。
まるで役に立たない。
これじゃ試合に勝つことなんて出来ない。
それにこの足、うまく動かない気がする。
前の男はよっぽど運動神経がなかったのか。
この足のせいだ。俺が万全ならあんな連中の力なんて借りずに一人で勝てる。
- 48:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:11:17.67 ID:k5Iz217w0
ダメだ。
公式戦でも負けてしまった。
おまけに俺をスタートから外すだと?
何考えてるんだあの糞監督。
クソッたれ。
クソックソックソックソックソッ
皆クソだ。
全部この足のせいだ。
- 49:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:12:35.70 ID:k5Iz217w0
もうだめだ。我慢できない。
あんなクソバスケ部にいても、何も面白くない。
今日退部届けを出してきた。あんなとこに未練はない。
全部この足が悪い。
……そうだ。この足が悪いんだ。
- 50:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:13:16.18 ID:k5Iz217w0
一応太ももに止血のためにゴムを巻いておく。
手にはキラリと光る包丁。
もうこんな足はいらない。
また足を切断すればあの女が来るはず。
そうだ。またやり直せばいい。
意識して足を見ると、つなぎ目のようなものが見えた。
そこに向かって一気に包丁を振り下ろす。
ズブリ
という感触が手に伝わり、痛みを感じる間もなく俺の意識がとんだ。
- 54:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:40:01.50 ID:k5Iz217w0
川゚−゚)「やあ」
……
川゚−゚)「意識はあるか?」
……頭がいてえ。体も動かねえ……。
川゚−゚)「頭? それは興味深い」
なに言ってやがる?いいから早く次のところに……
川゚−゚)「まぁ待て。一度、自分の姿を見てみたらいい」
うるせえよ。鏡なんかもってくん……!?
- 55:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:40:33.80 ID:k5Iz217w0
川゚−゚)「教えてくれ。君の頭はどこにあるんだ?」
……なんだよコレ。なんだよこの足は……
川゚−゚)「見ての通り、君の姿だ。見えてるということは目もついてるのか」
おい待て!!なんで俺が切断したほうの足になってんだよ!!
川゚−゚)「気づかなかったのか。移植したのは切断された君の足だよ。体は君のモノじゃない」
どうなってんだ…マジ勘弁してくれ……!!
川゚−゚)「残念だ。折角いい買い手が見つかったのにな。自分の意思で自分を切り落とすとは」
- 56:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:40:51.87 ID:k5Iz217w0
聞いてねえよ!!なんだよこれ!!俺の、俺の体はどうなったんだ!!
川゚−゚)「処分した」
ちょ……なんてことするんだ!!返してくれ!!俺の体……!!
川゚−゚)「さぁそろそろ行こうか。ああ、もう痛んできてるな」
行くって……どこに……
川゚−゚)「ウチの店の倉庫だよ。……腐りきってしまう前に早く保存液に漬けないとな」
や、やめて……助けて……
や め て く れ ぇ っ ! !
- 57:1 ◆yl3K3xulPc :2006/05/28(日) 02:41:17.54 ID:k5Iz217w0
川゚−゚)「人生を変えてしまうような事故はいつだって誰にだって起こりうる」
川゚−゚)「もし人生に耐えられなくなったらいつでも呼んでほしい」
川゚ー゚)「アウターブーンならきっと君の要望に答えられるだろう」
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