( ^ω^)ブーンが宇宙艦隊を指揮するようです

  
5: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:38:09.84 ID:PaXswHg80
  
第四話「絶望を貴方に」

6998年7月2日14時50分

( <●><●>) 「そういう事だ…つい先程、惑星連邦側から正式に宣戦布告があった」

(;`・ω・´) 「やはり戦争は確定ですか」

( <●><●>) 「ああ…まさか、この時期に来るとはな。とにかく、可能な限り早く撤退してくれ。
   それと、上は正式に戦時体制への移行を決定した」

(;`・ω・´) 「了解しました」

五つ星に流星、人類統合体の国章が表示されたあと映像は切れた。



  
6: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:38:44.35 ID:PaXswHg80
  
上官との通信を切ったシャキンは、やはり何処か変だった。
妙な汗をかいている。

自分はこれから25万名の人々を率いて何とか脱出しなければならないのに、この体たらくはなんだ!?
そう自分に言い聞かせても、平時とは桁違いのプレッシャーはそうそう乗り越えられるものではなかった。

(;`・ω・´) 「…こっちに移っといて正解だったな」

(`・ω・´) 「現在までの退避進行率は?」



  
7: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:38:59.03 ID:PaXswHg80
  

( ・∀・)「68%ですね。金星・火星・木星・海王星の各軌道分基地からの退避は既に完了しています」

(`・ω・´) 「ジャンプアウトまであと25分かそこらだな、間に合うか…」

( ・∀・)「なんとか、全力を尽くしてみましょう」

(`・ω・´) 「ああ、最後まで、な」

シャキンはムーンベースから本来の勤務地である、第117分艦隊旗艦『セヴァストーポリ』にその活動の場所を移していた。
惑星連邦との全面戦争に伴い人類統合体は戦時体制への移行を表明。

星系駐留艦隊や基地組織などは解体され、それぞれ規定通りの戦闘艦隊へ編入された。



  
8: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:39:15.73 ID:PaXswHg80
  

この場合は基地司令官は艦隊司令官の下に付くものだが、
太陽星系ではシャキンが兼任している為、特に変化は無い。

基地の全体映像を見れば、また一個戦隊が射出されているらしい。
ムーンベース側面の1隻ごとに設けられたドックの隔壁が開くと共に、
電磁射出された5キロ前後の灰色の船体が滑り出してゆく。

それが1個戦隊100隻同時に行われるのだから中々迫力のある光景だ。

果たしてその船は無事に目的地へ辿り着けるのだろうか。



  
9: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:39:30.70 ID:PaXswHg80
  


一方その頃ブーンたちは―

(´・ω・`) 「なんとか予定数の収容を完了、無人艦共々ムーンベースを離脱しました」

( ´ω`)「間に合ったお…」

一先ず自分に任された仕事はやり遂げた事に少し安堵の表情が浮かぶが、
いつまでも浸ってはいられないとばかりに表情を引き締め、続ける。



  
10: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:40:00.82 ID:PaXswHg80
  

( ^ω^)「他の戦隊の方はどうかお?」

(´・ω・`) 「多少遅れが目立ちますが10分以内には終了するようです」

( ^ω^)「そっちも、なんとか間に合いそうだお…」

(´・ω・`) 「ええ、跳躍さえ出来れば生き延びられますからね。」

( ^ω^)「15分後までに指定地点へ集結しろとの命令が出ているお。
       5分後には移動を始めてくれお。」



  
11: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:40:18.38 ID:PaXswHg80
  

(´・ω・`) 「了解」

再び自分の席に戻るショボンの後姿を見て、ブーンは少し目を瞑った。

―第13フロア・展望デッキ

( ,,゚Д゚)「……」

何を見るでもなく宙を眺めるギコ。
その姿は何時もの様子とはやたらと違う。



  
12: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:40:44.62 ID:PaXswHg80
  

何のことは無い、彼も戦争未経験の軍人の一人なのだから。

川 ゚ -゚)「どうした、ギコ。5分後には配置らしい、艦橋に戻るぞ?」

( ,,゚Д゚)「なぁ、クー。俺たち生きて脱出できるだろうな」

川 ゚ -゚)「そんなものはわからない」

真顔でそう言うクーにギコは一瞬なんとも言えないような微妙な表情を見せる。



  
13: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:41:28.39 ID:PaXswHg80
  

(; ,,゚Д゚)「おいおい…こういう時は嘘でも大丈夫だ、とかな」ギコは何かを思い出したかのように頭の後ろを掻いて
     「いや、そういう性格じゃないな」
 
そう言った。

川 ゚ -゚)「わかってるじゃないか、とにかく生き残りたかったら自分のやれる事を精一杯やる事だな。
     ベタだが、私たちにはそれ位しか出来ない。あとは司令達の職分だ」

( ,,゚Д゚)「そうだな……。さぁ戻るか」

川 ゚ -゚)「ああ」



  
14: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:41:55.62 ID:PaXswHg80
  

そう言って転送装置に乗り込む寸前、ギコは再び
―今度は感情の篭った目で―
宙を見た。

広がるは何の変哲も無い、だが吸い込まれそうな宇宙空間、瞬かぬ星の海。
眼下に見える地球は大陸と海のコントラストがなんとも美しい。
唯一知性体が自然発生した惑星、ある意味この星の存在そのものが凄まじいほどの奇跡なのだろう。

時々星系外へ向けて航行していくのは避難する者達の乗る航宙船だ。



  
15: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:42:18.28 ID:PaXswHg80
  

( ,,゚Д゚)(我が往くは星の大海、か)

ふと、人類初のワープに成功した人物の言葉が脳裏に浮かんだ。

川 ゚ -゚)「ギコ」

( ,,゚Д゚)「ん」

彼はクーに呼ばれて装置に向けて再び歩みを進めつつも、再びこの光景を見ようと誓う。



  
16: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:43:02.30 ID:PaXswHg80
  

ちなみにこの時の宇宙に浮かぶ各惑星はどうなっているのかと言えば、全く静かなものだ。
幾多の星系破壊が繰り広げられた第2次星間戦争終結後に締結された、地上戦闘を禁じるオルフェウス条約発効より3700年余り、
戦争とは宇宙空間で繰り広げられるのが常識であり、今や地上はほぼ無関係だ。

それ故地上生活者は宇宙生活者に比べて国家への所属と言う意識が希薄であり、
星間国家同士の戦争も惑星の支配権が代わるくらいにしか考えていないのだ。



  
17: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:43:31.43 ID:PaXswHg80
  

無論、肉親などが軍人になっている場合や国家首星に近い宙域は別だが、
それも一部の例外に過ぎず、大半の地上生活者は何も変わらない日常を過ごしている。

対照的に直接戦闘に巻き込まれる可能性がある、宇宙生活者は大騒ぎだが。

( ^ω^)「全艦抜錨、機関始動し通常航行で合流地点へ向かえお!」

展望デッキから二人が戻っておおよそ一分後。
分艦隊全戦隊で第1級警戒態勢が発令され、同時に射出されたっきり暫く動きを見せなかった
『アルワナ・ウェージャフ』がブーンの号令の下、ついに始動の時を迎えた。



  
19: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:43:58.63 ID:PaXswHg80
  

命令と共に船体が僅かに振動し、人工重力と高次元亜空間によって保持されたマイクロブラックホールに
星間物質が放り込まれ、その回転エネルギーを受けてはじき出された物質は空間へ旅立つと共に、
反動によって推進力を生み出しながら船体各部に膨大なエネルギーを供給する。

('A`)「アンカー解除、航行準備よし」

( ,,゚Д゚)「機関、マイクロブラックホール保持正常。エネルギー放出開始確認」



  
20: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:44:24.83 ID:PaXswHg80
  

ξ゚听)ξ「艦内重力制御よし、与圧正常、居住ブロックに異常なし」

川 ゚ -゚)「FCS正常稼動を確認、各種兵装異常無し、エネルギー供給確認」

('A`)「目標座標セット、星系基準座標より98度33分の+2.118、780光秒。
   戦隊全艦正常航行確認、到達まで6分02秒」

817以外の117分艦隊所属戦隊も同時期に航行を始める。



  
21: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:45:10.89 ID:PaXswHg80
  

10万隻の戦闘艦の群れは各艦ある程度の間隔を保ちながら、地球を背に静かに進む。

目的地は火星近傍宙域、集結後にアンドロメダ銀河系まで跳躍し、現地部隊と各方面からの部隊を再編。
その後増援を待って反攻作戦を開始する、といった寸法である。

数分後、火星を窺う位置に到達した艦群は静かに動きを止め、次の指令を待つ。

( ・∀・)「少佐、第117分艦隊の1000個戦隊は欠員無く無事集結を完了した模様です」

(`・ω・´) 「そうか…。よかった、何とか間に合ったな」



  
22: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:45:44.80 ID:PaXswHg80
  

シャキンがそう言って安堵した瞬間に飛び込んだ報告は、
その空気を一気に吹き飛ばして彼らの気分を最低最悪にまで突き落とした。

爪*゚〜゚)「大質量体の通常空間離脱を確認! 出現地点は地球軌道上です!」

(;`・ω・´) 「なんだって!? 早すぎるぞ…。映像は出せそうか?」

(´・_ゝ・`)「可能です、主仮想窓に出します」



  
23: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:46:12.60 ID:PaXswHg80
  

その映像は、同時に他の戦隊の司令官にしても気になるものであったらしく
大してタイムラグも無く、分艦隊全艦の艦橋要員達が目にすることになる。
無論それはブーンたちも例外ではなく

(;^ω^)「アレは一体なんなんだお…?」

(;´・ω・`) 「恐らく機動要塞の類でしょうね。しかし、アレだけ巨大なものがあったとは」



  
24: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:46:37.03 ID:PaXswHg80
  

彼らの目の前にはムーンベースと同じ軌道上を周回する、
同等かそれ以上の大きさの丸い灰色の塊が映っていた。
見た所凹みや溝などは見当たらず、また攻撃しようと思えば可能な距離なのにも関わらず、出現以来沈黙を保っている。

その沈黙がなんとも不気味なのではあるが。

(;`・ω・´) 「なにやら妙な事になってきたが、動きが無いならさっさと逃げるとしよう。
      どうせこの数じゃ大した事は出来ないだろうからな」



  
25: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:47:08.60 ID:PaXswHg80
  

一早く決断を下したショボンは艦の首席航術士官に問いかける。

(`・ω・´) 「跳躍してくるのはアレで終わりか?」

从'ー'从「いえ、まだあるようです。更に増援の跳躍が確認されました」

(`・ω・´) 「わかった。それじゃ、アンドロメダ銀河系への跳躍を行ってくれ」



  
26: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:47:34.94 ID:PaXswHg80
  

从'ー'从「それが…大質量体が現れて以降、跳躍波の同調が不可能になっていまして」

(`・ω・´) 「アレに妨害でもされているのか?」

シャキンの顔に疑問の色が浮かぶ。
跳躍波が同調不能など未だかつて無い事態だった。

从'ー'从「現時点ではなんとも言えませんが、量子滑走は可能です」



  
28: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:47:59.03 ID:PaXswHg80
  

(`・ω・´) 「わかった、頼む。それとドローンの射出を」

シャキンの命令に応じて『セヴァストーポリ』の後部から
三角形の全長1メートルも無いような小型機械が射出され、それは一直線に謎の灰色物体に向かって行く。


( ^ω^)「…理由は良くわからないが跳躍は不可能、量子滑走で離脱せよ。
       そういう事らしいお」

(´・ω・`) 「何やら妙な事になってますね…」



  
29: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 21:48:21.09 ID:PaXswHg80
  

流石のショボンも聊か疲れ気味に見える、ブーンとていきなり飛び込んできた
大量の情報に処理が追いつかず、簡単に言えば二人ともさっさと休息が取りたかった。

彼らだけではない、この場にいる大半の人間がこの期に及んでも尚、
現状を正確に認識できずに、職務に没頭する事で気を紛らわしているという有様だ。

( ^ω^)「高木准尉、分艦隊旗艦から送られてきた指定座標へ向けて量子滑走で航行してくれお!」



  
41: ◆1RCx6ePe5g :2007/02/15(水) 23:59:25.20 ID:PaXswHg80
  
('A`)「了解!」

命令を受けたドクオは座席のコンソールを操作し、手早く手順をクリアする。
首席士官の中で唯一四年間勤務しているだけあって、この事態下においても中々のスピードだ。

('A`)「量子滑走装置正常、スタピライザー正常、目標座標セット、
   アンドロメダ銀河系・ヴォストーク星系・星系基準座標より177度28分
   ・-12.686・21688.2331光秒、量子滑走による航行を開始します」

数秒後、10万隻余りの航宙艦が存在した場所には飛んで行くドローンを残して何も存在せず、
二番目の月は結局僅かばかりの絶望と、大きな疑問と、跳躍がらみの幾つかの現象という結果を残す。

後に第5次星間戦争と呼ばれる戦争での、初遭遇はこうして終わりを告げた。

ブーンたちは無事離脱に成功し、数分後現れた惑星連邦軍により太陽星系は接収される事となる。

第四話 終



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