( ^ω^)ブーンは侍になるようです

  
275: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 17:57:40.09 ID:695ZLBtI0
  
8.

 エリート森川は冷静だった。
 クーの態度に怒りを覚えながらも、同時に頭のどこかでは徹底した冷静さを持つ別の自分が居た。
 少なくとも、先ほどまでは。

森川「糞―――ッ」

 右から来た斬撃をかわして飛び退く。
 慌てて右手をかざして衝撃波を打ち込むが、すでにクーは商品棚の影に隠れている。
 商品棚のフレームが弾け、並べられていたポテトチップスが中に舞う。

 コンビニ内での屋内戦に持ち込めば、あの長い野太刀を存分に振るうことが出来ないと踏んでいた。
 それがどうだ?クーの斬撃は鋭利さを極め、体のあちこちを掠めていく。対照的に、こちらの攻撃は障害物に隠れられて大方威力を減らされてしまっている。
 甘かった。クーはどれほど狭い屋内でも、障害物など気にすることなく、しかし決して刃を取られることなく器用に太刀を振るっていた。

 障害物は、むしろ森川の方に大きな障害となっている。
 なんとか、場所の狭さから刀の軌道を限定して読むことができるが、それだけだ。避けるのが精一杯だ。

森川「糞が―――ッ」
川 ゚ -゚) 「さっきから糞、糞と連呼しているが、糞がどうかしたか?トイレならそこにあるぞ?」



  
276: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:00:54.69 ID:695ZLBtI0
  
 森川はもう何度目になるかわからない舌打ちをする。
 全く余裕のない森川とは対照的に、クーの方はと言うと、全くの余裕なのだ。
 実はこれは森川の思い込みであって、クーの方は全く表情が変わらないだけで、内心では結構真剣だったりするのだが、彼に知る由も無く―――
 それ故彼は苛苛を募らせるのだった。

森川「うるせーよ糞女。だまってろ!!叩っ殺すぞ!!」
川 ゚ -゚) 「やってみろ」

 どんな挑発をしても、冷静な対応が帰ってくるだけだ。
 しかも、先ほどから彼の右手の能力は威力を落としている。
 目を向ければ、先ほどクーに貫かれた右腕は、傷口から血液と共に黒い液体を流しており、

 森川が動くたびに地面にそれが滴り、黒と赤の染みを作り出している。
 実は、その黒い液体にこそ森川の能力の根源たるものがあった。
 先ほど、内藤にマッコウクジラの話を出したが、森川の能力はそこにあった。

 マッコウクジラは世界最大とはいかなくとも、それに近い大きさを誇る巨大生物だ。
 もちろん、そんな巨体が動き、獲物であるイカに追いついて狩りをするには大量のエネルギーを必要とする。
 だが、果たしてそれほどのカロリーを消費して、一匹のイカを捕まえたところで、割に合うのだろうか。



  
277: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:03:59.35 ID:695ZLBtI0
  
 答えは否である。割にあうわけがない。つまり、マッコウクジラは別の方法で狩りをしていたのではないだろうか。
 その疑問の元、打ち立てられたのが、マッコウクジラもイルカのように音波を発していて、それで獲物を弱らせて捕まえているのではないかと言う仮説だ。
 事実、イルカの最大音源音圧レベルは200dbを超えるとも言われている。これは、魚に警戒心を抱かせて混乱させたり、時には損傷を与えるのに十分なレベルだと言われている。

 その仮説でいくと、マッコウクジラの脳油は音波を拡大させるための拡大レンズの役割を持っているのではないかと考えられており、
 森川の体内には音波を発生させるための機関が、腕にはそのマッコウクジラの脳油の代わりとなる、しかし効果は比べ物にならないほど強力な液体が生成され、詰まっている。
 彼の両掌にある瘤も、いわばスピーカーの振動板のようなものだ。彼自体がスピーカーとなり発せられる超音波と空気振動、それが彼の能力の正体だ。

森川「ちょこまかとすばしっこい―――」
川 ゚ -゚) 「おまえが遅すぎるだけだろう」

 地面に片手をつくと、低い大勢のままクーが突進する。
 直線的な動きで接近してきたクーを迎え撃つべく、森川が左の掌を掲げる。
 だが、いざ超音波を放とうとすると、その瞬間にもクーは飛び上がり、棚の上部を掴むとそのまま棚を乗り越えていってしまう。

森川(この糞アマ、俺の撃つ瞬間がわかんのか!!?)

 クーは、森川が能力を放つ寸前の、全体の筋肉にかかる緊張や、顔の筋肉に加わる僅かな力などを見て、森川の攻撃してくるタイミングを読んでいるのだが、
 森川からしてみれば、それでも十分に化け物である。もっとも、森川にそんなことは知る由も無いが。
 慌ててクーの飛んでいった先を眺めるが、棚に陳列された菓子類が映るだけだ。



  
278: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:19:18.36 ID:695ZLBtI0
  
 とにかく、棚の向こう側へと移動しようと踵を返す。
 瞬間、棚の菓子類の箱を突き破って刀が飛び出してきた。
 森川の足音を冷静に聞き分け、位置を特定してきたのだろう。

森川「く―――ッ」

 森川は慌てて体を捻るが、避けられずに横下腹部を撫で切られる。
 慌てて両掌から振動波を放つが、棚が吹き飛ばされた先には既にクーの姿は無い。
 森川は冷静に、自らのスーツを脱いで腰に巻く。
 これは腹圧で自らの腸が飛び出すのを防ぐためだ。

森川「………………………」

 息を潜めて耳を澄ますが、彼の耳ではクーの足音を捉えることはできない。
 クーは動いていないのか、それとも足音を完全に殺して移動することができるのか。
 おそらく後者だろう。

 歯噛みしながらも、森川は冷静に考える。
 こちらから、相手の位置を知ることは出来ない。
 探ろうと動けば、即座にこちらの位置がバレて攻撃を受ける。



  
280: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:26:33.40 ID:695ZLBtI0
  
 かといって、動かなくても数秒で正確な位置はばれる。
 ならば、動く必要も、こちらから相手の位置を突き止める必要も無い。
 森川の背後の棚を突き破って刀の切っ先が飛び出す。

 だが、彼は一向にあせらず、ゆっくりと右腕をつきだした。
 棚の向こう、落下した陳列物によって作られた隙間から、クーの表情が見える。
 それはこれまでと変わらない無表情だったが、彼にはなんとなく、幾分か驚いているように思えた。
 刀の切っ先が森川の右掌を貫通する。一瞬送れて全身を駆け巡る激痛に眉をしかめながらも、彼は口を開く。

森川「肉を切らせて骨を絶つ、ってか」

 慌ててクーが太刀を引こうとするが、もう遅い。
 森川は切っ先を握ると、筋肉が切れるのも構わずにその能力を発動させた。

川 ゚ -゚) 「―――――!!!」

 初めてクーの表情が目に見えて変わる。刀を伝う振動に、腕がしびれるのだろう。
 甲高い音を立てて太刀の刃が震え、切っ先にひびが入ったかと思うと半ば程からへし折れる。
 それでも刀を手放さないのは大したものだが、もうこれまでのように刀を振るうことは出来ないだろう。



  
281: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:30:56.12 ID:695ZLBtI0
  
 なにせ、先ほどの超振動は刀を伝わってクーの腕にも響いていたはずだ。暫くの間、右手は痺れて力が入らないだろう。
 その証拠に、クーは刀の柄から左手を離して、左手一本で握り直す。
 森川は右手の能力を失ったが、刀のリーチと利き腕を失った相手の方がディスアドバンテージは大きい。

 なんとかクーはこちらに向かってこようとするが、遅すぎる。
 無事な左手を掲げて能力を発動させる方が早い。
 森川の口元に笑みが浮かぶ。勝利を確信したのだ。

 クーはその笑みを真っ向から見据えながらも折れた太刀を振るう。
 だが、距離が開きすぎている。先ほどまでならいざ知れず、太刀は半ば程で折れているのだ。

森川(―――適わないと見て気が触れたか?)

 森川の笑みに、さらに嘲笑が含有され、確実に相手を仕留めるべく余裕を持って左手が掲げられる。
 しかし、クーは確信を持ってその刃を振るった。
 振るいきった。

 そして、森川は見た。
 その澄んだ剣線の向こう、飛び散る筒状の物体を。



  
283: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:34:48.93 ID:695ZLBtI0
  
森川「え?」

 見れば、自分の掲げた左手の中指から小指までが切り飛ばされて消えていた。
 人差し指だけがかろうじて皮一枚で繋がっており、ぷらぷらと揺れている。

森川「あ?あ、あ、あぁっぁあぁぁぁぁああぁぁぁあああ!!!!!!」

 遅れて悲鳴が出る。
 森川自身にも信じられない。
 なぜ?なんであの距離で?

 自然と、彼の視線は振り切られたクーの左手へと向けられる。
 彼の視線の先、クーの太刀は奇妙な形で握られていた。
 いや、それを握っていると呼べるのだろうか。

 正確には、太刀の柄の端をクーの左人差し指と中指の第一関節から先だけが挟んでいた。
 それ故、間合いが驚異的に伸びたのだ。
 有り得ない。森川の脳裏がその単語だけで埋め尽くされる。

 これは生半可な膂力でできるような事ではない。
 事実、クーの指先は太刀の重さにぷるぷると小刻みに震えている。
 クー自身もこれまで稽古の中でこれを成功させたのは数度のみである。



  
284: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:37:58.97 ID:695ZLBtI0
  

 しかも、実戦中に、それも利き手と反対の左手となると、今回が初めてだ。
 だが、刃が半ばからへし折れ、その分のダイエットに成功した太刀の軽さがそれを可能にした。

森川(皮肉なもんだな、おい)

 そこまでゆっくり考えていると、クーが振り切ったままの体勢から太刀を握りなおす。
 無意識に森川の傷だらけの右腕が掲げられた。
 しかしクーは顔色一つ変えず、返す刀で切りかかった。

 無慈悲な刃が、森川に叩きつけられた。








  
285: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:43:49.20 ID:695ZLBtI0
  

 横なぎに振るわれる五本のワイヤーを避ける。
 ワイヤーが乱舞するその向こう、至近距離でタントントンの笑う顔が見える。至って余裕、とでも言いた気な風情だ。
 そう、至近距離で。ワイヤーを振るいながらも接近してきていたタントントンの左の拳が飛ぶ。

 思わず刀を掲げて受け止めそうになるが、何度もあの思い一撃を受け止めれば、刀身が歪んで使い物にならなくなるどころか、折れてしまうかもしれない。
 この局面で、武器を失うことだけは避けたい。
 無理やり右足を上げ、タントントンの繰り出した左拳を受け止める。

 大人と子供では相当の身長差がある。容易ではないが、それほど困難でもない。
 拳骨が土踏まずに当たる。
 そのまま全体重をかけて踏みつけ、拳を押し戻してやるつもりだったが、それがいけなかった。

 拳と足の裏がぶつかった瞬間、靴を通して大きな衝撃が伝わり、重心を崩される。
 タントントンは自らの拳にかかった俺の足など気にすることなく、アッパー気味に拳を振りぬいた。
 もちろん、足を押されたわけだから、俺は自然に後ろに倒れることになる。

 倒れるのは構わないが、倒れたままで一瞬でも動きが停滞するのは拙い。
 体勢が崩されるや否や、残った左足で思い切り地面を蹴り、地面の上を後転。
 そのまま受身の要領で体勢を整えて立ち上がるが、目の前にはタントントンの右のワイヤーが迫っている。



  
286: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:46:54.53 ID:695ZLBtI0
  
 なんとか飛び退いて避けるが、思い切り地面を蹴り飛ばして跳んだ瞬間を狙われる。
 目の前に、先ほどの記憶を再生されているかのように五本の指先とそれに続くワイヤーが飛んできた。
 右手のワイヤーではない。それは先ほど避けたばかりなのだ。

 飛んできたのは、左手の義手に仕込まれたものだった。油断した。
 よくよく考えてみれば、右手にだけ仕込まれていて左手には仕込まないなどという保障は無い。
 勝手に俺が、左は接近戦用の拳だと思い込んでいただけなのだ。

 いや、頭のどこかで予測はしていたが、実際にこの状況でやられても反応しきれるわけが無い。
 なんとか、太刀を振るって飛来した指先を弾くのが精一杯だったが、それすら失敗した。
 ワイヤーの部分を叩いてしまい、結果、錘になっている指先が刀身の周りを回り、ワイヤーが絡みつく。

( ^ω^)「…………………ッッっっ」 

 ワイヤーを引っ張られ、刀を手繰られそうになるが、力をこめて耐える。
 タントントンの拳の重さは義手の重さ故だ。膂力は俺よりも下だった。
 が、鼻を刺す妙な臭気に気づき、手元に目を向ける。
 ごくごく僅かな変化だが、先ほどよりもワイヤーの表面が光っているような―――



  
288: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 18:50:36.44 ID:695ZLBtI0
  
(;^ω^)「!!!!!!!!!」

 慌てて刀から手を放す。
 と同時に、半ばからワイヤーが切断され、一拍遅れてワイヤーから火が上がった。
 先ほどワイヤーに奇妙な光沢が現れたのは、油のような液体が表面を伝っていたからだろう。

 匂いは油に似ていたが、火の勢いは段違いだ。
 爆発でも起きたかのような勢いで、一瞬にして刀のあった辺りが炎に包まれる。
 いや、爆発が起きたかのような、ではない。爆発が起きたのだ。

 爆風によろめき、尻餅をついて壁にもたれかけたところに、第一関節から先の無い左拳を握ったタントントンが現れる。
 繰り出された拳をなんとか避ける。早い。
 殆ど、顔に当たる風に対する条件反射のような感じだ。

 背後の壁に拳を半ばまでめり込ませながら、タントントン
 ワイヤーのついた右手がぴくりと動く。
 そのまま殴りかかってくる気だろう。

 そう直感したときには既に俺の体は動いている。
 右手で壁にめり込んだ左拳を押さえつけ、左手で右手首を掴み、動きを封じる。
 膂力は俺のほうが上なのだから、当然タントントンは動けない。膠着状態が生まれる。



  
291: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 19:52:39.70 ID:695ZLBtI0
  

タントントン「やるじゃん」

 タントントンが笑う。
 こちらは何か喋りかけているような余裕は無い。

タントントン「僕の体はね、TNBにも似た液体を作り出すことが出来る」
( ^ω^)「?」

 突然、手品の種を自慢するかのような調子で喋りだすタントントンに、どう反応していいのかわからず、つい押し黙ってしまう。
 一方、タントントンはそんなこちらの様子には構わずに喋り続ける。

タントントン「ただ、この液体が特殊なのは、僕の体の中から発せられる特定の振動数の音波を当てられている限りは爆発しないんだ。だから、ワイヤーが音波を伝達していた間は爆発しなかった」
( ^ω^)「それがどうしたお?」

 こちらとしては、今こんな状況で能力の種を明かされてもどうしようもないし、 
 それは向こうも同じことだろう。

タントントン「別に。ただの忠告。わからない?さっきのワイヤーに伝ってたってことは、この義手の中にも液体は詰まってんだよ?」

 言い終えるか終えないかのうちに、タントントンの両手が抜かれた。
 掴んでいる俺の腕からではない。
 手首が拳からすっぽ抜けたのだ。



  
292: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 19:59:31.60 ID:695ZLBtI0
  
(;^ω^)「―――は?」

 何間抜けな声出してんだよ、自分。
 慌てて両手を離す。

 ”僕の体の中から発せられる特定の振動数の音波を当てられている限りは爆発しないんだ”

 つまり、それは体から離れれば爆発するという事で、
 考えるよりも先に体が動く。
 急いで両手から力を抜きその場から飛び退く。

 同時に義手が爆発する。間に合わない。
 指先を駆ける熱を無視して、タントントンの次の挙動を探る。  
 タントントンは落ち着いた様子で手首から先の消えた腕を、ウインドブレーカーのポケットに突っ込む。

 すると、かちり、という機械音が鳴る。ポケットから取り出した時には、すでに新たな義手がその腕に装着されていた。
 その隙に自分の腕を確認するが、右手はなんとか動くが、左手の感覚が無い。
 見れば、親指以外の指が全て吹き飛んで、残った親指も真っ黒に炭化していた。

 手の甲から、炭化した表面の皮膚が剥がれ、奥からどこか黄色い感じのする透明な体液でぬらぬらと光る赤い肉が見えた。
 なんとなく泣き出したい気分になる。しばらく気持ち悪くて飯が食べられそうに無い。肉は一ヶ月くらい食べる気が起きないかもしれない。
 畜生。



  
293: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 20:03:04.80 ID:695ZLBtI0
  
タントントン「それじゃあ、そろそろ終わらせようか」

 言いつつ、一歩踏み出すタントントン。
 ヤバイ。こっちは刀と左手を失っているのに、相手は無傷だ。
 ヤバイ。滅茶苦茶ヤバイ。

 心の中で絶叫していると、またコンビニからガラスの割れる男が聞こえてくる。
 視線を向けると、森川がコンビニの自動扉のガラスを叩き壊して出てきたところだった。
 その右手はひじから先の前腕部が切り落とされ、荒々しい切断面から血液と黒い奇妙な液体が零れだしていた。
 左腕はだらりと下がり、その脇に切られた右手を挟んでいる。

森川「糞、糞、糞!Fuuuuuuuuuuuuuuccccckkk!!!マジかよ!マジかよあの糞女!切りやがった!俺の腕!切り落としやがった!!!」

 タントントンの姿を見ると開口一番そう喚く。
 喚きながらも走る。一目散にその場から離脱しようとしている。
 ほんの数分前まであれほど綺麗に、皺ひとつ無く整えられていたスーツも、今やズタズタに裂かれ、あちこちから血がにじんでいる。

 この数分間で一体何があったのだろうか。
 タントントンは逃げていく森川を数秒眺め、自らも撤退するか逡巡するが、やがて森川に続いて現れたクーと俺を交互に見ると、その場から走り去る。

森川「なんだよ、なんだよあの女!!聞いてねえぞ糞が!!!皆伝クラスの使い手だったぞ!!おい!!!」
タントントン「うるさいよ……。普通に近所迷惑だから……。っていうか目立つからやめてください」



  
294: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 20:06:16.58 ID:695ZLBtI0
  
 そんな言葉を交わしながらも、見る見る適当な路地に入り込み、見えなくなってしまう。
 人ごみにでも紛れられたら追うことはまず不可能だろう。
 追えるような余裕も無いが………。

(;^ω^)「無事だったのかお」

 こちらに向かって歩いてくるクーに話しかける。
 気がつけば、ビルからツンとその護衛らしき人影数人もこちらに歩いてくる。
 ツンは、ゆったりとした感じの裾が少し膨らんだバルーンカットソーを着ていた。

 動きやすそうな格好を選んだつもりなのだろう。
 心なしか、その顔は不安に青くなっているような気がする。
 当然だ。
 頼れるものなど殆ど無しに美府市の最大勢力を敵に回して逃げ回っているのだ。

ξ;゚听)ξ「内藤―――」

 だが、口を開いたツンをクーが手で制した。

川 ゚ -゚) 「随分、苦戦したようだな。たかだか片腕が使えない程度で」



  
295: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 20:11:48.74 ID:695ZLBtI0
  
 俺の炭化した左手を眺めながら、クーが嘲笑しきった口調で言う。
 表情からはその感情は窺がえないし、自分の右腕を調子を確かめるかのように、握ったり開いたりしている様子からも窺い知れない。
 しかし、俺にはどこか責めているように思えた。

川 ゚ -゚) 「何をしにきた?」
(;^ω^)「………何って…、助けに」
川 ゚ -゚) 「その様でか?」
(;^ω^)「!!!!!!」

 何を言い出すんだ?この女。
 助けに来た相手に向かってその言い草はなんなんだよ!
 思っても声には出せない。

 事実、こんな様で助けに来ただなんて、クーが森川を撃退していなければ殺されていたかもしれないこの状況で、
 恩を売ろうとしているようにも取れる発言が出来るほど恥知らずではない。

川 ゚ -゚)「おまえの実力はよくわかった。あんな程度の連中に遅れをとっているようでは、ついて来られても迷惑なだけだ」
ξ;゚听)ξ「クー!!!」

 ツンが咎めるように叫ぶ。だが、クーの舌峰は、寡黙な彼女にしては本当に珍しいことだったが、全く止まることは無かった。



  
296: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 20:15:22.77 ID:695ZLBtI0
  
川 ゚ -゚)「助けに来ただと?ヒーロー気取りか?お前のことは入居時にだいたい調べ上げている。
     過去に部隊を全滅させた贖罪に関係ない少女を助けて自己満足に浸りたいか?カタルシスに浸りたいか?
     弱い奴には、身体的にも精神的にも弱い蛆のような男にはお似合いだな。
     そんなに自分に酔いたければ大好きなドラッグでもキメていろ。いいか、」

 矢継ぎ早に繰り出される言葉。
 俺は何も言い返せない。
 これが根拠の無い誹謗中傷ならどれだけでも言い返せる。

 だが、クーの言っていることは全て真実なのだ。
 彼女の言葉は残酷なほどに俺の心の奥底の醜さを、卑怯さを、低俗さを、全てを暴き出して射抜いていた。
 打ちひしがれる俺を前に、彼女はゆっくりと口を開き、
 そしてとどめを刺した。

川 ゚ -゚)「弱い癖に迷惑だ、懐くな。反吐が出る」

 こちらに何か言いたげに、心配するような視線を送るツンの手を無理やり引いて歩き出すクー。
 その背に護衛らしき男たちも続いていく。
 俺は、ただ膝をついて呆然とその背を見送った。

 一度だけツンが振り返る。



  
297: ◆VIPKING98o :2007/03/05(月) 20:18:05.22 ID:695ZLBtI0
  
 ごめんね。声は聞こえなかったが口の形でわかった。
 待てよ。なんでおまえが謝るんだ。

 俺は勝手に追いかけてきて、勝手にやられて、俺を助けるためにわざわざ居場所を晒して、クーは不要な戦闘までして。
 なのになんでおまえが謝るんだ!やめてくれ!

(;^ω^)「俺は―――」

 俺はなんだというのだろうか。俺は何が言いたいんだ。
 無意識に開いた口が、続く言葉が重い浮かずに閉じる。
 ツンもクーも、もう二度と振り返らなかった。










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