( ^ω^)の内藤小説 1998年

82: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:28:15
  

第五話




(#'A`)「さっさと吐けっつってんだろぉがぁぁぁ!!」

(;^ω^)「いやだから(ry」

(#'A`)「嘘つくなぁああああ」

(;^ω^)「この分からず屋になんとか言ってくれお、ショボン」

( ´・ω・`)「まぁ身から出た錆だね、自業自得」

(;^ω^)「いやいや、ちゃんと言おうと思ってたんだお?」

忙しい三人がなんとか合間を縫って、こうして顔を合わすことが出来た。

話題はもちろん荻野春の事。

ショボンはいつものように思案顔で話を聞いていたが

ドクオは内藤がいくら説明しても耳を貸さずに荒れていた。



83: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:29:38
  

( ´・ω・`)「それにしても…これまた厄介な事に巻き込まれたねぇ」

( ^ω^)「…お。でも放っとくわけにもいかないお」

(#'A`)「下心マンマンっすねwwサーセンwwww」

(♯^ω^)「ビキビキ。お前と一緒にするなお」

(#'A`)「あ?ツンに言ってもいいかなwwwwいいともーwwwうはっwwwおkwww」

(;^ω^)「………あ」

ドクオの煽りで内藤は思い出した。

(;^ω^)「ツン…」

別にツンと付き合ってるわけでもなければ、将来を約束したわけでもない。

だが、今は実際に荻野春と同棲状態なのだ。

これがツンに知れれば…いや、別にツンにどうのこうの言われる筋合いはないのだが。



84: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:33:28
  

(´・ω・`)「まぁまぁ、陳腐で下劣な言い争いはそこまでにしろ、下等生物ども」

少しイラついた様子でショボンが口を開く。

(´・ω・`)「大体の事情は分かったよ。でも、はいそうですかと受け入れるわけにもいかない」

('A`)「ソーダソーダ」

黙れ、とショボンが調子に乗るドクオを一喝。

( ^ω^)「それはごもっともだお。でも…」

(´・ω・`)「分かってる。放っとけないんでしょ?しかし、いくらなんでも強引だとは思わないかい?」

優しく、ベテラン刑事のように詰問する。

(´・ω・`)「だって鍵を開けてまで君の部屋に入ってたんだよね?」

(;^ω^)「お。そういえばそうだったお…」

(´・ω・`)「それ異常だから」

表情を変えずにばっさりと切り捨てた。



85: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:34:20
  

(;^ω^)「………」

('A`)「…やっぱなんか例の事件と関係あんのか…」

ショボンの顔色を窺いながらドクオが恐る恐る言う。

どうもショボンには逆らえないらしい。

(´・ω・`)「分からない。としか言えないよね。本当にブーンに助けを求めに来たのかもしれないし…」

( ^ω^)「………」

内藤は春の顔を思い出していた。

美しく、それが故にどこか毒気のある表情。

正直、内藤自身もそれほど彼女のことを信用しているわけではなかった。

しかし、放っとけない。それに尽きる。



86: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:35:01
  

何ともいえない沈黙が、三人の中を漂った。

(´・ω・`)「……君は信じてあげればいい」

その沈黙に耐え切れなかったのは、意外にもショボンだった。

( ^ω^)「お?」

(´・ω・`)「疑うのは僕らがやるからさ、ね?」

僕ら、と言った所でショボンがドクオに目配せをする。

('A`)「寧ろ疑いたいくらいですよ、えぇ」

それでなくても細い目を更に細くしてドクオが続く。

( ^ω^)「……ありがとお」

流石に長い付き合いなだけあってこの二人は内藤の事を良く理解していた。

内藤が春を受け入れたのも、この二人の存在があるからこそだ。

内藤一人では到底手に負えないだろう。

(´・ω・`)「さぁそろそろ戻らなきゃね」

('A`)「マンドクセ…」

( ^ω^)「おっ!今日もバリバリ働くお!」

そして三人はそれぞれ掲示板に戻った。



87: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:42:36
  


―――――――――――――――――



薄暗く、まるでこの部屋自体が外界との接触を拒んでいるかのような。

薄暗い室内でも鈍く、しかし鋭い光を反射している黒のソファー。

その前に置かれているのは、分厚いガラスのテーブルだ。

上には人を殺すために作られたのだと思わせる程、重厚なガラスの灰皿がある。

その他にはこれといって物はなく、おそらく訪れる者には殺伐とした印象を与えるだろう。

「…で、どうなっているんだ?」

「計画通りといって差し支えないでしょう」

「…含みのある言い方だな。まぁいい、今回の事はお前に任せる」

「は、かならず成功させます」



88: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:44:29
  

「いいだろう。だが、しくじった時は容赦はせんぞ」

「…はい」

上の立場だと思われる片方の男が部屋を出て、もう片方の男が部屋に一人残された。

「……」

残された男が携帯電話を片手にダイヤルをプッシュする。

「もしもし…。あぁ俺だ……どうだ様子は………そうか、引き続き監視を頼む」

慣れた手つきで携帯電話を折りたたみ、背広のポケットにそれを放り込む。

ちょうどポケットに入れていた煙草が指先にあたった。

男は一度煙草を取り出そうかとしたが、思いとどまって元の位置にもどした。

ここでの一服はあの人が良く思わないだろうと。

それから、今日のこれからするべき予定を頭で確認して部屋をでた。

「……」

抜かりはない。

頭の中には既に最後の結末までが鮮明に描かれている。

そう思って、男は次の場所に急いだ。



89: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:50:37
  



―――――――――――――――――




(´・ω・`)「明日で二週間…か」

何度目か分からないため息をついて、呟く。

掲示板の管理人、いいかえれば自分の雇い主でもあるひろゆき氏が居なくなってからの日数だ。

しょぼくれた目尻をさらにしょぼつかせながら、テキーラを呑む。

(´・ω・`)「…うまい」

ショボンはこの時間が結構好きだったりする。

兄であるシャキーンの店で呑むのも悪くはないが、やはりこうして明け方の自分の家で呑むのは格別だ。

だが、その酒を少し不味くすることが起きている。



90: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:51:45
  

(´・ω・`)「……」

ショボンは荻野春という女性が、内藤の家に居候していることが分かってから多少大胆に情報を集めてみた。

今の所、荻野春を怪しむべき情報は出ていない。

もちろん、これほど不自然な形で内藤の前に現れたのだから怪しむべき存在なのは確かだが。

しかし、彼女の経歴などに偽りはなく、彼女の言うとおり、

大手の経済雑誌「エメラルド」を出版している企業などから依頼を受けているフリーのライターだった。

そして、今取り掛かっている仕事がある複数の企業の不良債権に関するものであることも分かった。

(´・ω・`)「ふむ」

荻野春は何者かから狙われているらしい。そのことで内藤を頼ってきた。

ショボンが自分で調べてみた結果、確かに彼女の周辺が騒がしくなっていた。

実際、有り得ない話ではない。



91: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:53:12
  

(´・ω・`)「荻野春が何か重大な秘密を握り、そのことで狙われる……しっくりこないな」

それは荻野春自身も狙われる理由がはっきりと分かっていないと言っている点だ。

相手にとって不利益な情報を荻野は得ている。だから、狙われる。

しかし、その情報が何なのかは彼女自身にも分からない。

可能性としては、彼女が本当に何も知らない可能性もある。

(´・ω・`)「……」

だが、とショボンは考える。

やはり荻野春は怪しいと。

今の段階では彼女を全面的に疑うべきだろう。

(´・ω・`)「…面倒だな。…もう一杯」

空になったグラスにテキーラを並々注ぐ。

暖房の効いた室内で、少しばかり温くなったそれはゆっくりと氷を溶かす。

アルコール度数の強い液体はぐるぐると蜃気楼のようにグラスの中を巡る。

(´・ω・`)「……」

からん、という透明な音を鳴らしてバランスを崩した氷。

ショボンはしばらくその様子を眺めていた。



92: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:58:14
  





春「どう?」

( ^ω^)「これは…第一次カレー革命だお」

荻野春が内藤の家に転がり込んで、数日が経った。

仕事の都合上、帰宅がどうしても明け方になる内藤だが、春は料理を作って寝ずに待っている。

またその料理の腕が絶品で、偏りがちな食生活を送っていた内藤もすっかりこの生活が気に入っていた。

今日も、カレーとサラダをぺろりと平らげ、もうお決まりの流れで二人はそれぞれビールを手にしていた。

( ^ω^)「そういえば、春は昼間何してるのかお?」

春「何って、取材とか原稿に起こしたりとかしてるけど」

( ^ω^)「お…」

部屋の隅に陣取っている使われないはずのデスクの上には、春のノートパソコンが乗っている。

その脇にはこれでもかという量の資料と思わしき紙が積み上げられていた。



93: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 13:59:07
  

( ^ω^)「…襲われたりしてないかお?」

春「大丈夫みたい。一応警戒はしてるけど」

( ^ω^)「おっ!なら良かったお」

自分のことのように喜ぶ内藤を見て、春が微笑む。

会話もそうだが、この数日で大分関係がフランクなものになってきた。

それも内藤が毎日疲れて帰ってきても、こうして話す時間を設けたおかげかもしれない。

話す内容は、くだらないことだったり、恋愛のことだったり、時には真面目に語り合うこともあった。

もちろん内藤は賢くはないから、春の話すことについていけないこともあるが、それでも内藤は流れを読んで相槌を打ったり、うなずいたりした。

そんな内藤でも唯一ついていける、まともに話すことが出来る話題があった。

春「で、今日は掲示板から逮捕者は出た?」

( ^ω^)「だからそうそう逮捕者なんて出ないおwww」

まだまだ発展途上のインターネットについてのことだ。



94: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 14:00:26
  

ライターである春にとってはインターネットのことは十分仕事の対象になり得るし、また資料集めにする手段でもある。

ネットに関しては自分の方が上手だと思っていた内藤は、春の知識の深さに驚いた。

春「そうかしら。…これからネット上での犯罪者なんてもっと増えると思うけど」

( ^ω^)「……それは一部の限られた人だお。ちゃんと使えばネットは間違いなく一つの文化だお」

この数日で内藤が荻野春という女性について知ったことは幾つかあるが、その中でも一つだけ気になることがあった。

インターネットに対しての嫌悪感。

内藤が見る限り、春は少なからずそれを持っていた。

もちろん、春は内藤の仕事を把握しているし、それで今回頼ってきたのだからはっきりとそれを口にはしない。

( ^ω^)「…なんで春はそんなにネットを嫌うんだお?」

少し考えた後、出来るだけ軽く内藤は聞いてみた。

春「ん?あ、ビールないから取ってくるね」

( ^ω^)「お。ありがとお」

そうはぐらかし、立ち上がった春の後姿を見て内藤は思う。

やはりまだまだネットは時代に受け入れられていないのだと。

春がなぜネットを嫌うのか、その理由は内藤には分からないが、

おそらく嫌悪感というより抵抗感ではないかとも思った。



95: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 14:01:21
  

春「はい」

と、両手に一缶ずつのビールを持ち、内藤に差し出す。

( ^ω^)「サンクスコ」

手渡されたビールの蓋を開け、喉に流し込んだ。

春「そういえば…」

ソファーに腰を掛けながら、春が言う。

( ^ω^)「お?」

春「ちょっと耳に挟んだんだけど…ひろゆきっていったかな。掲示板の管理人の」

(;^ω^)「…お。それがどうかしたかお?」

春の口から意外なワードが飛び出してきて、内藤は少したじろぎながら問い返した。

春「…消息不明って聞いたけど、本当なの?」

(;^ω^)「……なんのことやらさっぱりですお」

なぜ春が知っているのだろうか。

そんな疑問を考える間もなく、内藤の頭はとぼけることで一杯だった。

いくら馬鹿で高名な内藤でもこれを自分が認めるのは不味いということくらいは分かる。

ここで認めようものならドクオやショボンに大目玉をくらうことは間違いない。

しかも、目の前に居る女性はライターなのだ。



96: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 14:02:07
  

春「あぁやっぱりガセなんだ。…分かってたけどね」

その言葉に胸をほっと撫で下ろし、言う。

( ^ω^)「だおだお。そんな…ことあるわけないお」

春「そうだよね」

にこっと微笑を内藤に向けて、ビールを口にする。

( ^ω^)「いったいどこのどいつがそんなガセネタ流すのかお…」

春「ん、気になる?」

(;^ω^)「まぁ…だお」

春「じゃあ教えてあげる。私が会社勤めをしてたころの女上司で、ミチっていう人」

( ^ω^)「お?春は昔、OLだったのかお?」

春「そ、OLっていうかフリーになる前は記者として働いてたの。その時の上司…というか先輩かな」

少しだけ遠い目をして言う。



97: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 14:04:29
  

春「その時は憧れだったんだけどね…。
  あ、そんな話はいいか。で、その人はフリーになったあと引退して、
  たまにこうして私に情報を流してくれるんだ」

( ^ω^)「おっお」

春「ガセネタも多いわよ。平気な顔をして人をからかうんだから」

(;^ω^)「おっおっ…」

春「でもいい人。…変わり者だけど」

そう言って笑う。

笑い声が消えてから、会話の終了を示すような間が空いた。

内藤もあまり深く聞くと、自分にボロが出そうだったので、あえて会話を続けようとは思わなかった。

( ^ω^)「…お。もうこんな時間かお」

春「…本当。寝なきゃね」

( ^ω^)「だお。片づけは僕がやっとくから早く寝るといいお」

春「ありがと。じゃあ…おやすみなさい」

( ^ω^)「おやすみお」



98: ◆P.U/.TojTc :2007/02/09(金) 14:05:31
  

僅かに残っていたビールを飲み干し、春は寝室に向かった。

もちろん内藤とは別々の寝室だ。

春がリビングから出て行くのを見送って、内藤は一息ついた。

( ^ω^)「……ミチ…かお。おばあさんっぽいお」

もう既にどこかから情報は漏れている。

頭の悪い内藤でも確信した。

明日にでもショボンかドクオに話したほうがいいだろう。

だからといってどうにかなる問題でもないのだが。

もしかしたら、近いうち掲示板でも管理人の失踪が話題にあがるかもしれない。

そうなったら、今まで以上に忙しくなることは目に見えている。

( ^ω^)「…給料制じゃ割りにあわんお」

ひろゆきの心配をするわけでもなく、一人そう呟いた。



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