( ^ω^)ブーンが残された時間で喧嘩を売るようです

7: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:14:50.02 ID:5IFq2ijU0
  
第1話 「滅び逝く世界 2CH」


(;'A`)「GEARに…ですか?」
/ ,' 3 「そうだ。国営研究所GEARに行き、先に行った隊員と共にある人物を第1セクションへとお連れする事が今回の任務だ。」
( ^ω^)「その…“ある人物”って誰ですかお?」
/ ,' 3 「それを知る必要はない。君らには第10セクションWまでの同行をしてもらう。」

第10セクションW……シラネーヨさんの所か。あの人嫌いなんだよな。
荒巻隊長がこちらを睨む。後ろに飾られている白金の巨斧がキラリと輝く。
僕は余計な事を頭から振り払い、慌てて隊長の方に意識を戻す。

( 'A`)「それじゃあ要人警護ってことでいいんですね?」
/ ,' 3 「その通りだ。政府にとって非常に重要な人物らしい。君達には心して望んでもらいたい。」
( ^ω^)「先に行った隊員って誰ですかお?」
/ ,' 3 「ニダーだ。」
(;^ω^)(;'A`)「………うへぇ。」

ニダー先輩。やたらと先輩風を吹かせて偉そうにして、自分のミスを後輩のせいに、
後輩の手柄を自分の物にする。そんな噂が有名というステレオタイプな嫌な奴だ。
………行きたくないなぁ。GEAR自体も気味悪いしなぁ。

/ ,' 3 「……今回は我々のみではなく、他のオブサーブとの連携任務だ。
     第13オブサーブWの一員という事をしっかり自覚して任務に当ってくれ。」
( ^ω^)( 'A`)「………了解。」

行きたくはないけど…仕事だから仕方がない。僕達に拒否権なんて気の利いたものは無いし。
僕とドクオは渋々部屋から出て、GEARへと向かう事にした。



9: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:15:16.11 ID:5IFq2ijU0
  
『黒の壁』に覆われた世界の下を歩く。昨日と変わらない世界を歩く。
薄暗い人工灯が僕達の足元を照らす。

( 'A`)「はぁ〜あ。マンドクセ。これなら見回りの方が楽だったぜ」
( ^ω^)「仕方ないお。これだって立派なオブサーブの仕事だお。」

『オブサーブ』。政府により住めると判断された場所、『セクション』に各一つずつ点在している警備組織。
主な仕事は担当しているセクションの見回り、犯罪者の取り締まり。
そして、今回のような政府直下の指令をこなすこと。

( ^ω^)「………」

僕は後ろを振り向き、政府のシンボルを見る。
この世界の何処にいても見る事ができる世界の中心『バーボンハウス』。
長い煙突の様な形をし、唯一黒の壁と直接接している。

( 'A`)「どったの?」
( ^ω^)「…何でもないお。」

バーボンハウスを取り囲むように位置する場所。第1セクション…通称VIP。
その名の通り、『VIP』と呼ばれる三人の男たちが住まい、バーボンハウスには『マスター』と呼ばれる男が住んでいる。
彼ら四人によってこの世界の全ては成り立ち、僕達は生きる事ができる……らしい。
また、全17あるセクションの内、第1セクションと第2セクションのみが東と西の区別がない。
僕達が住んでいる所は第13セクションW(ウエスト)。西側の端っこにある田舎セクションだ。



10: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:15:37.51 ID:5IFq2ijU0
  
( 'A`)「でもよぉ、何だって親父はオレ達を選んだんだろうな?」
(;^ω^)「ちょっ、ドクオ!また隊長のこと親父って言ってるお!」
( 'A`)「…流石に聞こえねぇだろ。いくらなんでも…たぶん。」
(;^ω^)「そんなこと言って、この間はしっかりばれてたお!父さんの地獄耳はとんでもないお!」
( 'A`)「……お前も今父さんって言ったじゃねぇか。」
(;^ω^)「…あっ。」

荒巻スカルチノフ隊長。僕達が今向かっている場所、国営研究所GEARから幼い僕らを引き取ってくれた父親代わり。
僕もドクオもGEARにいた頃の記憶は無いが、父さんに引き取られてからの事はよく覚えている。
本当の親子のように過ごしてきた記憶が甦る。楽しかった子供時代だ。
ただ…僕達がオブサーブに入ってから

「公私混同まかりならん!」

の一言で父親と呼ぶ事は禁止させられた。破った時は世にも恐ろしい目にあった。

( 'A`)「それでだな。どう思うよ?」
( ^ω^)「んあ?何がだお?」
( 'A`)「…人の話はちゃんと聞けよ。だからなんで俺達が選ばれたのかって事。」
( ^ω^)「ああ、そんな事もあったかお。」
( 'A`)「“あったかお”じゃなくて今聞いてんだよ。どう考えても政府要人の警護なんて分不相応だと思わね?」
( ^ω^)「まぁそうだけど…隊長も経験を積ませようとしてるんじゃないのかお?」
( 'A`)「そうかね?こんな取り得の無い下っ端にそれだけの理由で任せる任務とは思えねぇんだけどな。」

ドクオの言い方は酷く自虐的ではあるけど、確かに正しかった。
僕にしたって走るのが速いだけで、何か特技があるわけじゃない。
言われてみれば不思議な気もするが、考えた所で何が変わるでもない。
僕は気にせず歩を進めた。



11: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:16:01.74 ID:5IFq2ijU0
  
GEARに向かう途中に必ず通らなければならない吊り橋。
何時作られたのか定かではではないそれは、不安な心を増幅させるに十分な外観をしている。つまりもう壊れそうって事。
橋の下ではゴウゴウと音を立て、紅い川が流れている。

( 'A`)「おっ?誰かいるみたいだな。」

橋の上には男が一人で立っていた。ぼんやりと橋の下を眺めている。
そしてその身を乗り出し……

(;^ω^)「!?」
(;'A`)「おいっ!!」

落下した。僕達は急いで橋の上からその姿を確認する。
男は派手な飛沫を立てて着水し、川に飲まれて溶けて消えた。

( 'A`)「……またかよ。本当に嫌んなるぜ……」
( ^ω^)「………」

また、また自殺。自分で自分を殺す行為。
この世界ではよくあることだが…やはり慣れるものではない。

( 'A`)「何で自分から死にに行こうとすんだよ…意味分かんねぇ。」

ドクオはそう言うが、僕には少しだけ解る気がする…彼らは世界に飽いていたんだと思う。
限られた場所にしか住めず、空を見上げればその先は黒色に覆われ、全てを溶かす紅い川が世界を廻る。
常に必要な量だけの灯りの下を生き、飲み水を得るために仕事をする。
閉塞的で、変化の無い、黒の壁に囲われた小さな世界。2CH。

それが僕達の全てだった。



12: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:16:27.29 ID:5IFq2ijU0
  
国営研究所GEAR。紅い水の浄化システムから兵器の開発。そして何やら“怪しげ”な研究を行っている機関。
数多くの発明をしながらこんな辺鄙な場所に立てられているのは、非常に危険な実験を行っているかららしい。

<# `A´>「お前等遅いニダ!!どこで道草食ってたニダ!!」
(;^ω^)「す、すみませんだお。」
(;'A`)「御免なさい。反省してます。」

先輩は鼻を鳴らして怒り心頭で迎えてくれた。
僕達に落ち度は無いが、それを言った所で話がこじれるだけなので素直に従う。

<# `A´>「たくっ!これだから新人と組むのは嫌ニダ。ほら、こっちニダ。」

罵声を浴びせながら建物の内部に入る。通路に居並ぶ量産型オデジードが嫌でも目に入る。
そのまま歩き続け、先輩が扉を開く。中にはいかにもといった研究職員と、ローブを被った小柄な人物がいた。
ローブのせい顔が見えないが、何と無く女の子のような感じだ。

<丶`∀´>「お待たせしましたニダ。第13オブサーブWのニダーと申しますニダ!」
研究職員「自己紹介は結構です。あなた方には“これ”を速やかに移送していただきたい。」
<;`∀´>「そ、そうニダか?解りましたニダ。では早速……」
研究職員「破損などせぬよう、くれぐれも気を付けてVIPまで運んでください。」
/ - )ξ/「………」

職員の態度に違和感を覚える。“これ”、移送、破損等、人間に対してではなく、機械のような扱い方をしている。
しかし、ローブを被った小柄な姿は、どう見ても機械のようには見えなかった。



13: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:16:49.77 ID:5IFq2ijU0
  
<丶`∀´>「それでは行きますニダ。我々は第10セクションWまでお連れしますニダ。」
/ - )ξ/「………」

ローブの人物は何も反応しない。黙って僕達について来るだけだった。
それでも…この子は人間らしさを失わなかった。無理矢理に反応を押し込めているような気さえした。

( 'A`)「…先輩、これからどのルートを通って行くんですか?」
<丶`∀´>「まずは13セクションに戻り、11、10の順に行くニダ。」
( ^ω^)「歩きで行くんですかお?」
<# `A´>「13セクションでバギーを借りるに決まってるニダ!当たり前の事を聞くなニダ!!」
(;^ω^)「…すみませんだお。」

別に当たり前だとも思わないんだけどな。この世界は橋が多いし、
悪路でタイヤがやられる事が多いから徒歩の方が効率いい事の方が多々あるし…
大体そのルートなら結局途中で徒歩に切り替わるじゃないか。
そんな心中とは裏腹に表面ではただ謝るだけ。何言ったってこの人相手じゃ逆切れされて終わるだけだし。

/ - )ξ/「………」
<丶`∀´>「あっ、すみませんニダ。大きな声出して。」

機嫌取りでもしているつもりだろうか?見ていて嫌になる光景だ。
ドクオと顔を合わせる。似たような事を考えていたのだろう。同時に溜息をつく。
…第10セクションまで遠いなぁ。



14: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:17:22.67 ID:5IFq2ijU0
  
一人の男が暗闇の世界で佇んでいる。

(    )「……彼らで…いいんだね?」

近くに誰かがいるわけでは無い。だが男は喋り続ける。

(    )「……いいだろう…」

男の腕が蒼く光る。全身に電気を帯びる。
腕の光りと同じ色をしたも紋様が地面に描かれる。

(    )「君達が何を思って彼らに決めたか……それは解らないが…」
(    )「僕はただ信じる事にしよう…」

光りが一際強くなる。黒い空に蒼い光りが収縮していく。

(    )「『アミテイエ』。」
(    )「『タンドレス』。」

男が空を掴む。その瞳は壁の外を見つめているようだった。

(    )「君達と…彼らに全てを託す。」

(    )「さよならだ。」



15: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:17:53.61 ID:5IFq2ijU0
  
(;^ω^)「………」
(;'A`)「………」
<;`A´>「………」
/ - )ξ/「………」

無言の中をひたすらに歩く。歩く、歩く、歩く。非常に息苦しい。
先程まで機嫌取りに必死だった先輩も、何の反応もない事を見て話しかけるのを諦めたらしい。
僕もドクオも始めから話しかける気もないが、このまま歩き続けてたら変になりそうだ。

(;^ω^)「……あの。」
<;`A´>「何ニダ?」
(;^ω^)「……いえ、その先輩じゃなく。」
<# `A´>「………」

そう言ってローブの人物の方に顔を向ける。先輩はちょっと怒ったような顔をしたけど、特に文句をつけては来なかった。

(;^ω^)「……名前だけでも…教えて欲しいお。」
/ - )ξ/「………」
(;^ω^)「…ダメかお?」

やはり答えてはくれないか。そう思って視線を外す。

/ - )ξ/「……ツン。」
(;'A`)「!?」
<;`A´>「!?」
( ^ω^)「ツン……かお。」

紛れも無い女性の声で喋ってくれた。名前を言ってもらっただけなのに、何だか胸のつかえが取れた気がした。



16: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:18:18.90 ID:5IFq2ijU0
  
相変わらず誰も喋らなかったが、先程よりは幾分気が晴れていた。
うん。名前は大切だものね。これを知ってると知らないとでは、話しかける時の気安さが全く変わるしね。
一人で勝手にそんな事を考えていると、先程の橋まで戻ってきた。……嫌な記憶が甦る。
ドクオの方を見ると、やはり思い出しているのか、陰鬱な顔をしている。

<丶`∀´>「四人同時に渡るのは危険ニダ。ここは二人づつに分かれるニダ。」

僕達の気も知らずに先輩が嬉しそうに喋りだす。自分の仕事ができた事が嬉しいんだろうか?

<丶`∀´>「ウリとツンさんが一緒に渡
( 'A`)「ここは名前を聞きだせたブーンの方が適任じゃないですか?」
<# `A´>「ファビョーーン!!差別ニダ!!謝罪と賠償を………

何とかかんとか先輩を落ち着かせ、僕とツンが先に渡る事に決まった。
こんな事で一々怒らなくってもいいと思うんだけど……

( ^ω^)「それじゃあ渡るお。」
/ - )ξ/「………」
( ^ω^)「?」

中々渡ろうとしないツン。怖いのだろうか?僕は彼女の手を握り、そっと手を引く。
彼女の体温が僕に伝わってくる。ちょっとだけ恥ずかしさが込み上げてきた。

/ )ξ/「……あっ。」
( ^ω^)「大丈夫だお。別に壊れやしないお。」

そろそろと橋を渡っていく。このまま何も起きずに橋を渡りきる。はずだった……



17: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:18:43.91 ID:5IFq2ijU0
  
( ^ω^)「お?」
( 'A`)「なんだ?」

足元に蒼く光る線が浮かび上がる。何かの模様みたいだけど……
異変はそれだけに留まらなかった。光りが一層強くなったとき、上空で何かが音を立て始めていた。

(;^ω^)「な、何だお!?」
(;'A`)「電…気?いやそれより!」
<# `A´>「危険な感じがするニダ!さっさと走れニダ!」
(;^ω^)「ツン!走るお!!」
/; )ξ/「!?」

僕はツンを思いっ切り引っ張りながら走る。その間も上空の塊は肥大する。
僕が橋を渡り終えたと思ったその瞬間

(;゚ω゚)「!?」
(;゚A゚)「!?」
<; ゚A゚ >「!?」
/; )ξ/「!?」

光りが牙を向いた

辺り一体を破壊し、僕達一人一人に襲い掛かった。
僕は落ちていた。周りの動きが酷くスローに見えた。そして下を向いた時。
あぁ、僕も溶けて死ぬんだな……そう思って
意識が飛んだ。



18: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/24(月) 00:19:17.80 ID:5IFq2ijU0
  
……
  
  ……
    
    …コッ
       
       …コッ
          
          コッコッ
              
              コッコッ
                  
                  コツコツ
                      
                      コツコツ
                          
                          


ザリッ



第1話 「滅び逝く世界 2CH」  終



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