( ^ω^)ブーンが残された時間で喧嘩を売るようです

2: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 17:59:41.54 ID:WLo/6wps0
  
第6話 「思考の迷路」


ξ;゚听)ξ「ん、しょ、ん、しょ。」
(  ω )「………」

アタシはブーンを引きずりながらさっきの場所を後にした。
あそこにいたらまた捕まるかもしれない……という考えはなく。
ただただ血の臭いから離れたい。それしか考えられなかった。

ξ;゚听)ξ「……ここなら。」

岩陰になっていて、隠れるには持って来いの場所を見つける。少しだけ気を緩める。
アタシはブーンを見る。今は初めて会った時と同じ姿をしている。大人しい普通の青年の姿。
けれど…先程の…あの地獄の光景を作り出したは間違いなく彼の仕業だ。

ξ゚听)ξ「……あれは。」

あれは一体何だったのか?彼はその胸を剣で貫かれた。見間違いなんかじゃない。
背中からその切っ先が飛び出てていた。そして…間違いなく彼は……死んだはずだった。
刺されてから暫くして、彼の動きはいっさい止まった……はずだった。



3: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:00:12.14 ID:WLo/6wps0
  
ξ゚听)ξ「…けど。」

彼の体が急に動き始めた。意識して動かしたというよりも…まるで……

内側から別の生き物が這い出てこようとするように。

体のいたる所が割れて、そこから突起物が生え…全体的に刺々しく鋭角的なフォルムに変わる。
背中には四つの管のような物が生え、中心に割れめの入った円形の扉のような物が作られて…
そして…肥大した両手両足は完全に人のそれとはかけ離れていた。
人間のようでいて人間じゃない。生物のようでいて生物じゃない。有機的なようでいて有機的じゃない。
どこか冷たさを感じさせる。どこか機械的で。どこか兵器を彷彿とさせる。

ξ゚听)ξ「…それで。」

冷たい無表情のまま自分の胸を突き刺した剣を引き抜いて…引き抜いた箇所が閉じていくのを見つめて…
笑った。冷たい笑い。顔面の筋肉、ううん筋肉かどうかも分からない物を動かしただけの不気味な笑い。感情の無い笑い。
多分…ブーンを刺した男…ドクオって人はその顔を見て逃げたんだと思う。知り合いみたいだったから…なおさら…

ξ゚听)ξ「…それで……それで…」

数人の男達がブーンに襲い掛かってきて、一人が力任せに剣を振り下ろして。
もう一度ブーンの方を見る。体は元に戻っている。割れて突起が出来ていた箇所も、背中の管も無く、元通り。
手を凝視する。勿論この手も元に戻っている。けど……
本当に軽く振り払っただけのように思えた。でも、それだけで剣は砕け、男は 上半身 と 下半身 が二つに別たれた。



4: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:00:40.00 ID:WLo/6wps0
  
それを契機に彼らは逃げ出した。アタシはこれで終わったと思った。だけど…
ブーンの背中扉が開いてそこから光りが集まって……爆発した。
爆発と同時に彼は逃げた男達の目の前まで近づき、その後は殺戮…一方的な殺戮が始まった。殺戮と言うよりも、単純な破壊活動。
場は破壊する者と破壊される者の二通りしかなかった。

……破壊せよ……

彼は確かにそう言っていた。感情のこもっていない口調で。しっかりと。
言葉の通りに破壊して破壊して破壊した。
最後に残った男。もう走る気力もなかったんだと思う。尻餅をついた状態で必死に命乞いをしていた。

「ウリはお前の先輩ニダ」「止まるニダ」「近づくなニダ」「殺さないでくれニダ」

ブーンは止まらなかった。ゆっくりと一歩づつ近づいていき……彼は悲鳴を上げる事さえなく破壊された。

ξ゚ -゚)ξ「………」

アタシはその場所にいる事は怖かった。すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られた。
悲鳴を上げて逃げ出すのが普通の反応だと思う。血だらけで、腕を振っただけで人を殺すことが出来て、
何を考えているかも分からない。充分に恐怖するに値する存在。
なのに…アタシは結局すぐに逃げ出す事をせずに、ブーンを連れてここまで来た。
アタシには……ブーンが怖くなかった。殺されてしまうかもしれない。
けれど、心のどこかで…彼がアタシを殺すことはない……そんな確信があった。
それに…彼とアタシは似ている。そんな気がした。



5: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:01:07.11 ID:WLo/6wps0
  
( ^ω^)「………お?」

どこだここ?真っ暗で何も見えない…いや、地面が薄く蒼く発光している。
目を凝らすと地面そのものが光っているのではなく、その上に浮かんでる線が光っているみたいだ。
この位置からじゃ分からないけど何かを画いているような…

( ^ω^)「……暗すぎだお。」

ぼくは辺りを見渡す。相当広い所のようで、壁も天井も見当たらない。
黒いペンキで塗りつぶされたみたいに床の蒼色以外は黒色しかなかった。

(;^ω^)「お…おーおーおー!」

不安になって意味も無く大声を出してみる。声が響くんじゃないかと期待したが、闇に飲まれるようにして消えていった。
本気で心配になってくる。僕は何故ここに居るんだ?こんなとこ来たこと無いぞ。
そういえば、さっきまで僕は何をしていたんだっけ?ん?あれ?
なんだか靄がかかったようにイマイチはっきりとしない。えと確か…



6: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:01:38.64 ID:WLo/6wps0
  

「君は死んだんだよ…」
(;^ω^)「だ、誰だお!?誰かいるのかお!?」

闇の中から声だけが聞こえてくる。どの方向から喋っているのかも分からない。
それにしてもこの声…どこかで…

「君は死んだんだよ…心臓を貫かれてね。」
(;^ω^)「死んだ……」

そうだ。僕はツンを庇ってドクオに……それじゃあここはあの世か?いや、こっちに来たならこの世が正しいのか?
違う。違う違う。そんなことはどうでもいい。僕は確かに刺し貫かれた。けど、その先に何かがあったはずだ。何かが……

「君は死んだ。けどね、君の中で共生する者と共に目覚めたんだよ。」
「君には聞こえたはずだ。内から響き渡る破壊を求める声を。」
(;^ω^)「………」

………破壊せよ………
確かにその声を聞いて僕は…僕は…
足音が聞こえる。相変わらずどこから聞こえているのかは分からないが、
少しづつ音が大きくなっている事から近づいてきている事が分かる。



7: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:02:10.15 ID:WLo/6wps0
  
「シンビオティックデビル・βシリーズ『アミテイエ』。」

足音が近づく。

「君は破壊者の力を手にした。」

足元が見え始める。

「君はこれから人であることを捨て、破壊者の意思を継がなければならない。」

腰の辺りまで見え始める。

「蘇ったその魂で。蘇ったその命で。」

首元まで見え始める。

「外の世界への道を開くために、1300年前に閉じられたこの世界を。」

…顔が…見え始める

(    )「残された時間を使い、聖女のために。」

………顔が…………見える…!

(´・ω・`)「破壊せよ。」



8: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:03:22.47 ID:WLo/6wps0
  
( ´ω`)「ん……。」
ξ////)ξ「!!」

ん?何だろ?ほっぺたが暖かいような…。

ξ////)ξ「お!おはよ!いつまで寝てるのよ!!」
( ´ω`)「…ふぁ?」

おはよ?おはよう?おはようってことは僕は寝起きな訳で、うん?寝てた?
頭がすっきりしないけどおはようの挨拶をされたなら僕も返事しないと。うん。返事は大事。

( ´ω`)「……おはようツン……何か顔赤いお?」
ξ////)ξ「な、何でもないわよ!!それより早くシャキっとしなさい!!」

どうやら僕が寝ていた事は間違いないようだ。それじゃあさっきのは……?
段々と頭が働いてくる。………!!!



9: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:03:53.21 ID:WLo/6wps0
  
(;゚ω゚)「!!僕は!!僕は!!?」
ξ;゚听)ξ「ブーン!?ちょっと!どうしたの!?」
(;゚ω゚)「僕は……僕かお?ツン?僕はちゃんと僕かお?」
ξ;゚听)ξ「……ブーン。」

僕は自分の体を見る。いつも見ている自分の体。けれども酷く久しぶりに見た気がする。
自分の手を見る。嫌な感触がが甦る。血に濡れた感触。肉の内側を抉る感触。

(;゚ω゚)「…ツン…僕は……」
(;゚ω゚)「……人を……人を…」

本当に言いたい言葉が出てこない。喉がつっかえて、口の中が乾いていく。
全身から冷たい汗が流れ出てくる。これも…夢ならいいのに……

(;゚ω゚)「人を…殺したのかお…?」



10: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:04:17.86 ID:WLo/6wps0
  
ツンは結局答えてくれなかった。もしかしたら答えてくれなかったのではなく、答えないでくれたのかもしれない。

( ^ω^)「ん、落ち着いたお!元気100パーセントだお!」
ξ゚听)ξ「本当?無理してない?」
( ^ω^)「へっちゃらだお!僕は切り替えが早いので有名なんだお。それより。」

切り替えが早いのは本当だが、あんな事をすぐに記憶から追い出せるほど僕は器用じゃない。
手に残る殺戮の感触と鼻腔の奥に残る血の臭い。そして…心の奥底から這い出てくる声……
考えなきゃいけないことが沢山あって、考えても分からない事が更に沢山ある。

( ^ω^)「どこかで水を買うお。……あの場所からどれくらい移動したんだお?」
ξ゚听)ξ「………そんなには…」

マイナスに傾こうとする思考を無理矢理前方に捻じ曲げる。
考えても分からないことは後回しだ。今は出来る事から一つずつ解決させていくほうが先決だ。

( ^ω^)「13セクションに戻るわけには行かないし……11セクションの方に行くお。」
ξ゚听)ξ「11?12じゃないの?」
( ^ω^)「確かに直線距離は12の方が近いお。けどここから12に行く場合はグルッと大回りしないと着かないんだお。」
ξ゚听)ξ「そうなの?」
( ^ω^)「そうだお。それに12より11の方が規模も大きくて、売ってる物も豊富だお。」

笑顔で喋る。作り笑顔で。
本当は全然大丈夫なんかじゃない。叫んで、泣いて、喚きたい衝動に駆られる。
僕が人を殺した。最初はまだいい。僕を殺そうとしてきたのだから
正当防衛だと言えなくもない。けど…
その先はまるで違う…彼らは逃げたんだ。わざわざ追う必要なんてなかった。なのに……
………破壊せよ………
あの言葉のせいで、僕は先輩を……仲間を………



11: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:04:51.50 ID:WLo/6wps0
  
……………ン…ーンブーン

ξ゚听)ξ「ブーン!大丈夫?ぼーっとしてたけど。」
(;^ω^)「んん!何でもないお!それより早く行くお。ここにもオブサーブが来るかもしれないお。」

僕は逃げるように早足で歩き出す。いけない。思いつめるな!今は他にやる事があるだろう!!
しかし、自分の頭をコントロールすることは難しく、次々と嫌な記憶が浮かんでくる。
僕は何になったんだ?僕の中に何がいるんだ?何故彼らを殺したんだ?僕は死んだんじゃなかったのか?
ぐるぐると消化出来ない記憶が頭の中を回る。いっその事記憶喪失にでもなればこんな思いはせずにすむのに…
考えは消えることなく僕の脳を圧殺しようとしてくる。更に新しい記憶が潜り込んでくる。
あの夢……あの夢の出来事はいったい何だったのだろう…夢にしては現実感があった。
あの男が言っていた事…破壊者…1300年前…閉じられた世界…残された時間…聖女…そして…
………破壊せよ………アミテイエ………
この二つの言葉のせいで夢は夢と割り切る事が出来なかった。どちらも僕の内側から聞こえた言葉と同じだった。
それに聖女……たしか先輩がツンのことをそう……
聖女。100年に一度現れて、世界を崩壊から守る。古くから伝わる“お話”の中の人物。
ツンが…そうなのか?そんなのが本当に…存在するのか?

( ^ω^)「……ツン?」
ξ゚听)ξ「何?」
( ^ω^)「……もうすぐ着くからもうちょっとだけ頑張るお。」
ξ゚听)ξ「…うん。」

何となく聞くことが躊躇われた。そうだよな。今聞く必要は無いよな。
問題はこれ以上無いくらいに山積みで、解決の目処が立っていないものばかりだ。
もう少し…僕の中で余裕が出来てからで……いいよな?

すっきりしない頭を回転させながら歩き続け、僕達は第11セクションWへと到達した。



12: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:05:24.81 ID:WLo/6wps0
  
第11セクションW。最西端の商売人の集う場所。
かなりの田舎である13セクションと12セクションがなんとか食いつなげているのはここによる成果が大きい。
ただし、人の往来がそれなりに激しく、中にはかなりふっかけてくる店もあるらしい。

( ^ω^)「とりあえず水を買って、後の事はそれから考える事にするお。」
ξ゚听)ξ「……ねぇブーン?」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「水はアタシが買ってくるからブーンはここで待ってて。」
(;^ω^)「お?何を言い出すんだお?僕が買ってくるお。」
ξ゚听)ξ「何言ってるのよ!下手に歩いてたらあなた捕まるわよ!」
(;^ω^)「あっ。」

そういえば僕は今犯罪者扱いされてるんだった。
考えなきゃいけない事が多すぎてその事をすっかり忘れていた。

(;^ω^)「で、でもツンだって見つかったら大変な事になるお!?」
ξ゚听)ξ「アタシは…多分まだ大丈夫だと思う。まだ面が割れてるとは思えないもの。」
ξ゚听)ξ「それに……少しは休まないと体に悪いわよ。」
ξ////)ξ「か、勘違いしないでよね!?ブーンがちゃんとしてくれないと
      アタシが困るから言ってるだけなんだからね!?」
(;^ω^)「いや、でm
ξ////)ξ「いいの!!もう決めたの!!ブーンはここで待ってなさい!!」



13: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:05:51.59 ID:WLo/6wps0
  
(;^ω^)「………行っちゃった。」

………追いかけるべきか否か迷ったが、僕はツンの厚意を素直に受け止める事にした。
本音を言えば、一人になりたかった。何も気にせずにただただ呆けていたかった。

( ^ω^)「………あ〜〜〜〜。」

空を見上げてよく分からない声を出す。意味は無い。暗い空が僕を押しつぶす錯覚を覚えただけだった。
何となく空を見上げるのが嫌になったので辺りを見る。
商業の発達したセクションとはいえ、外れの方になると随分と閑散としてるんだな…あっ、でもあの家でけぇ。三階建てくらいか?
………現実逃避ここに極まれり。視界が歪む。ああ、このまま何も考えずに寝ちゃおうかな………










14: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:07:09.19 ID:WLo/6wps0
  
「ドゥワ〜〜〜〜〜〜〜ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
(;^ω^)「おお!?」

馬鹿みたいにでかい笑い声が響き渡る。うるせぇ!!安眠妨害だ!!
セクション中、いや2CH中に響いてるんじゃないかと思うほどのでかい笑い声!

「悪党がこんな所で眠りこけるたぁ笑わせてくれるじゃぁねぇか!!!!!」
(;^ω^)「………」

どこから聞こえてくるのか分からずキョロキョロと頭を動かす。しかしうるせぇ。

「オレがどこにいるのか分からんかぁ!!オレの居場所はここだ!!ここだ!!!ここだぁぁぁああああ!!!!!」
(;^ω^)「……馬鹿だお。」

さっき僕がみたでかい家の天井の上で意味不明なポーズで立っている男がいた。あれは意味があるんだろうか?それにしても無駄にうるさい。



15: ◆y7/jBFQ5SY :2006/07/26(水) 18:07:49.44 ID:WLo/6wps0
  
「うははははwwwとうっ!!!!!」
(;゚ω゚)「と!飛んだ!!!!」

三階立て(推測)の家の上から跳躍!!!馬鹿な!?いや馬鹿だ!?
人工灯の位置の関係で逆光になっていてとく見えないが、複雑にキリモミ回転して……おおう!!頭が突き刺さった!!生きてんのか?

「んぼ!!ぐっ!!ぶはぁあ!!!」

すげぇ!!生きてる!!おっもがいてる。お〜お〜お〜、あっ今グキッて鳴った。震えとる……おっ、何とか抜けた。

(;゚∀゚)「はぁはぁはぁ………待たせたな!!凶悪犯罪者兼オレのオマンマ!!」
( ゚∀゚)「俺の名はジョルジュ!人呼んでジョルジュ!俺が呼んでもジョルジュ!!皆知ってるジョルジュ!!」
(;^ω^)「………」

知らねぇよ。



第6話 「思考の迷路」  終



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