( ^ω^)ブーンの妄想が現実になってから1年後

5: 名無しさん :2006/08/22(火) 22:16:41
  

人とは違う特異な力を持つ人。
遺伝子の二重螺旋の中に特殊かつ独自の配列パターンを持つ者。
その体のうちに能力を保持することから、彼らはホルダーと呼ばれた。



6: 名無しさん :2006/08/22(火) 22:17:03
  

彼らホルダーが出現し始めたのがいつごろなのか、それはわからない。
遥か昔には人はみなホルダーだったとする説、なんらかの突然変異、異種生物との交配。
諸説は様々だが、出自はともかくとして今現在、たしかにホルダーは存在している。

歴史上、彼らの能力はとても重宝された。
何もないところから火をおこし、水の在り処を探し当て、天気を予測し聞こえないものを聞く。
その能力は生活の役にたち、戦の役にたち、人々の役にたったからだ。

だが人類の技術の発達とともに、彼らはしだいにその立場を弱めていった。
人の生み出した科学はホルダーの持つ能力をこえる汎用性と手軽さで、瞬く間に普及していったのだ。
火はライターに、水は水道に取って代わられた。
そしていつしか、その存在は忘れられていった。
…公には。



7: 名無しさん :2006/08/22(火) 22:17:26
  

('、`*川「…んだけどぉ、今もホルダーは存在するし生まれてるの。しかも減ったとか言われてるけど結構な数がいるわけ。これは何でかと言うと特別な存在、ホルダーの神聖視などを好まなかった当時の指導者たちによって…ん?」

ここはとある大学の、ホルダーについての授業を行うゼミの一室。
数少ないホルダー受入場所である日本の指定都市、ニュー速市に建てられたこの大学には、故郷を追われた難民ホルダーや偶然ホルダーの存在を知り、純粋に彼らの歴史を学ぼうとする心ある生徒たちが集まってきていた。といっても10人ほどしか生徒はいないのだが。
その教室の最後列で机に突っ伏している生徒がいる。

( ーωー)「Zzz…」
('、`*川「…また内藤君か。え〜、当時の指導者達によってその存在は隠匿されていったわけ。今もホルダーという名称や実態は知られてないけどぉ、明らかに普通とは違う人間ってのはいるからねぇ、そういうのに気づいたり知ったりする人はだんだん増えてきていてー…」

生徒の名は内藤。史上最高のホルダースキル、V.I.Pを使うホルダー…だった青年。
今は自らの能力を消し去り、ただの学生としてホルダーの歴史や仕組みを学んでいるのだが、最近は居眠りが多くなってきて困る。
最初のころは隣の生徒が起こしてくれていたのだが、あの様子ではそれももう無いだろう。

ξー凵[)ξ「Zzz…」
('、`*川「…ふぅ。増えてきていて、そういう人達の認知運動によって世界に数箇所、ホルダーの受け入れ用の都市が作られ、彼らはそこで半ば自立的、鎖国的に生活してるの。このような授業を受けられるのもそういった受け入れ都市であるニュー速市にあるこの大学だからであって、その意味を良く…なんたらかんたら」
( ーωー)「ムニャムニャ…だ…が…ことわー、る…」

寝てばかりなのに無駄に成績が良いから何とも説教のし甲斐もなく、今日もこの授業の講師であるペニサス伊藤は微妙な表情で授業終了を告げるチャイムを聞いた。



8: 名無しさん :2006/08/22(火) 22:17:46
  

('、`*川「…さてぇ、内藤君とツンさん。あのねぇ、いくら成績良くてもいーっつも寝てばかりじゃダメだと思うのね、先生。内藤君なんか先生でも知らないこと知ってるのに、なんでいっつも寝てるのかな?家で勉強してるの?」
( ^ω^)「いやいや、昔あった能力のおかげで検索済みの能力の仕組みわかってるだけで…ところで先生何歳だったかお?」
('、`*川「へ?先生は28だけどぉ…」
ξ゚听)ξ「コラ内藤!女の人に歳きいちゃダメでしょ!先生も何答えて…」

一日の授業が終わり陽が落ちてきた頃、内藤とツンはペニサスに説教をうけていた。
これはいつものことで、今ではとても説教とは思えないような雑談になってしまっている。
そのおかげか、内藤とツン、教師であるペニサスは実に仲が良い。ペニサスなどこの説教タイムのために何故か三人分の紅茶と茶菓子を持参するほどだ。

('、`*川「あ、ごめん29だった。先週誕生日だったのよねぇ…ね、二人とも何かちょうだいよー」
( ^ω^)「だがっ」
ξ゚听)ξ「断る!」
('、`*川「…あなた達本当に仲が良いわねぇ」
( ^ω^)「それはもう愛のなせる技ですお」
ξ゚听)ξ「な、何いってのよ馬鹿!」
( ^ω^)「フヒヒ、すいません!」
('、`*川「羨ましいわ。ふふ、授業寝てても良いんだけどね。せめてもっとバレないようにしなさいね」

自分が持ってきた紅茶と茶菓子を片付けて、ペニサスは席を立つ。
いつもならこのまま解散するのだが、内藤はペニサスを呼び止めた。

( ^ω^)「先生、ご飯食べに行かないかお?誕生日プレゼントがわりに」
('、`*川「へ?どしたの急に」
ξ゚听)ξ「あんた、たまに良いこというわよね」
( ^ω^)「たまにはね。もちろん奢るお」
('、`*川「あ、なにか企んでる?」
ξ゚听)ξ「意外と信用ないわね…」

この時は知らなかった。
一年前のあの戦いが、まだ続いていることに。
この平和な生活がもうすぐ終わることに。



20: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:37:07
  

秋にさしかかろうとする季節の夕方。
暗くなっていく喫茶店に夕暮れ時の赤い光が差し込んでいる。
その中を、花びらが舞っていた。
ヒラヒラと舞い遊び、やがて花びらは水面に受け止められる。

手に持ったコップになみなみと注がれた薄紅の液体。
そこにゆっくりと、静かに。波紋がひとつ。
コップが傾き、波紋を作った花びらと共に、その液体が唇に流れていった。
注がれた液体をすべて飲み干し、コップが離れていく。
その唇には花びらが形を崩さずに張り付いていた。

夕暮れの赤い光の中、花びらをなめ取った舌が、いつもより赤く見えたような気がする。



21: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:37:29
  

(´・ω・`)「おぉい、兄さん。不味いぞこれ、変な味だ。だいたいなんだこの花びらはキモイんだよキザ野郎氏ね」
(`・ω・´)「ん…自信作なんだけどな…変なのはお前の味覚じゃないのか?」
(´・ω・`)「なんだと?ぶち殺すぞ」
(`・ω・´)「ほう、やる気か?いっておくが俺とやりあったらお前の圧勝だぞ。暴行容疑で逮捕されるがいい!フハハハハ!」

夕暮れ時の、客のはいらない喫茶店バーボンハウス。
その中のカウンターで高笑いしているのはマスターのシャキン、席に座り片頬を痙攣させているのが、その弟のショボン。
ともにいい年をしていながら無邪気にじゃれあう、良い兄弟だと思う。

1年前の戦いが終わってからも、彼らの生活は変わらい。
ショボンは怪我が治るとすぐに教師に復帰したし、シャキンは相変わらず客の少ない喫茶店で暇な毎日をすごす。
そのはずだった。
そのはずだったが、実際には大きく変わったことがある。

爪゚ー゚) 「…またやっているのか、ご両人。たまには麗しの兄弟愛でも見てみたいものだな」

彼女、レーゼの存在だ。
1年前の戦いでしぃに敗れ、あろうことか日本にまでついてきた元・敵の騎士。
今はバーボンハウスの一室に住み、週に何度か喫茶店の手伝いをしている。

(`・ω・´)「なにを言うんだ。こんなに仲の良い兄弟そうはいないぞ」
(´・ω・`)「まったくだ。そういえば兄さん、昨日の番組録画してくれたか?」
(`・ω・´)「あ、忘れてた」
(´・ω・`)「死ね」

爪゚ー゚) 「…仲のいい事だな」



22: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:37:51
  

(`・ω・´)「そういえばレーゼちゃん、明日は出勤の日だけど…なんか用があるとか言ってなかった?」
爪゚ー゚) 「うむ、姉上に呼び出されたのでね。顔を出してこようかと思う」
(`・ω・´)「うーん…そうか…。ま、なんとかしよう」
爪゚ー゚) 「すまんね」

今日こそ客はいないが、明日は客が来るだろう。
彼女のおかげで、バーボンハウスは昔のように閑古鳥のお世話にはなっていなかった。
美人のウェイトレスが居るということで客足が増えたのだ。それも爆発的に。

昨今のメイド喫茶ブームに乗るように、バーボンハウスは売り上げをのばしていった。
週に三日ほど、レーゼが出勤している日だけ大勢の客がやってくる。
つまり、明日はレーゼ目当てで千客万来という訳だ。

(´・ω・`)「それが来てみれば目当ての女の子がいない、か。しかも明日は土曜日、休みだ。いやぁ…怖いなあ。がんばれよ、兄さん」
(`・ω・´)「ちっ。そんなこといってどうせ逃げる気だろう、お前は。あぁ、歓楽街でも色町でも出かけてくるがいいさ」
(´・ω・`)「そうさせてもらおうかな。兄さんの好きな某店のチャーハンをたらふく食ってくるとするよ。ウェーハハハハ!」
(`・ω・´)「死ね」

本当に仲のいい兄弟だ。
毎日繰り返されるこの似たようなやり取りが、彼らの愛情表現なのだろう。
そんなことを考えながら、レーゼは付き合いきれないというように自室に戻っていった。

レーゼが二階の自室のドアを開けたとき、コップか何かが割れる音が聞こえた。
それも何度も続けて。

爪゚ー゚) 「…いや、本当に仲のいいことで」



23: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:38:20
  

(´・ω・`)「…う、む…ふあーぁ…休日は昼まで寝るに限るな…どっこいせっと」

ショボンが目を覚ましたのは、土曜日の12時ちょうどだった。
本当ならばもう少し眠っていたいところだったが、一階が騒がしい。
どうやら客が文句をいっている音で目を覚ましたようだ。

(´・ω・`)「レーゼちゃんがいないぞ、出しやがれ。って訳か。兄さんも災難だな、くっく…」

身支度を整え、慌てふためくシャキンの姿を想像しながら、ショボンは1階まで降りていった。
一人の客が顔を真っ赤にしてシャキンにつめよっている。

<丶`∀´>「どういうことニダ!はやくレーゼたんを出すニダ!!」
(`・ω・´)「いや、ですからねぇ。彼女は今日お休みでして」
<丶`∀´>「そんなこと知らんニダ!謝罪と賠償をry」

どうも見覚えのない男だが、あそこまで食って掛かるからには相当なファンなのだろう。
見渡せば、シャキンに食って掛かるとまではいかずとも不満そうな表情をした客が大勢いた。
恐るべきは美人の集客効果か。
とても去年まで客のはいらなかった店とは思えない。

(´・ω・`)「じゃあな兄さん、がんばって仕事してくれたまえよ、はっはっは」
(`・ω・´)「ぬっ!おのれ愚弟!」
(´・ω・`)「聞こえんなぁ?さて、チャーハンでも食べてこようかな。兄さんの大好きなチャーハンでも」
(`・ω・´)「貴様覚えていろよ、あとでぶち殺す!」
<丶`∀´>「殺す!?殺すといったニダ!これは明確な脅迫行為であり、我々は謝罪と賠償をry」
(#`・ω・´)「お客さんに言ったわけじゃないですよこん畜生がぁぁ!!」

さらにあわただしくなる騒動を尻目に、ショボンはさっさと外に止めてある自分の愛車に乗り込んだ。
ピカピカに磨き上げられたRX-8。
それに乗ってドライブするのが、ショボンの少ない趣味のひとつだ。

(´・ω・`)「あの分じゃ兄さん、そのうち客の頭かち割りそうだな。イスか何かで」

そうなったら警察になんてコメントしよう、とわりと本気で考えながら、ショボンは愛車を走らせる。
兄のことはすぐに頭から消えていった。



24: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:38:50
  

いい天気だった。
田舎ではないが決して都会でもないこの街の空は、まだ光化学スモッグに蝕まれてはいない。
ショボンの愛車である赤いRX-8は、ニュー速市が一望できる高台から愛すべき平凡な街を眺めていた。

(´・ω・`)「…平凡で、平穏で…変わり映えのない日々。これが幸せだと思える俺はもう若くないのかも知れんなぁ」

高台にある寂れた公園が、ショボンのお気に入りの場所。
ここから見える風景は別に感動的でも何でもない。だがそれがいい。
幼いころ、本当に幼いころはいつか外に出て宇宙飛行士やら警察官やらになると思っていた。やがて年頃になり上京していくと思っていた。
だが、違った。

(´・ω・`)「そうだな、例の阿呆どもに拉致られたせいで若さって奴を失ったかな?まだ恋愛やら何やらにうつつを抜かせる年なんだがな…」

連れ去られたときのことは良く覚えていない。
だが、連れ去られた先で最初に声をかけてきた老人の声がひどくやさしかったのは覚えている。
その声で安心した後、どんな仕打ちをされたんだったか。
無理やり脳をいじられ体をいじられ訓練をうけ、出来上がったのは大成功した失敗作。
ホルダーになりきれなかった学習能力向上型の作り物の天才たち。

(´・ω・` )「7人いた。俺と同じようなのが…だから俺達は逃げたんだ。7人で助け合って」

こればっかりは忘れない。
苦労して掴んだ脱出経路。逃げる途中で捕まった仲間。
最後に残ったショボンともう一人、ショボンより少し年上の少女。もう少しで逃げられるというところで、ショボンを海に突き落とした少女。
人生で最初にショボンを裏切った人。その直後に追っ手に撃たれて死んだ人。
一緒に逃げようという夢を裏切った人。

(´・ω・`)「生きてれば俺のお嫁さんにでもなってたのかも…なんてなぁ。まぁともかく漫喫でも行くか」

ショボンは楽しくない思い出を振り払い、愛車のドアを開けた。
今となってはもう関係のないことだ、思い出さなくても良い。
そういえば最近は思い出さなかったのに、なぜ今日は急に思い出したのだろうか。



25: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:39:06
  

気がつけばもう夕方、どうも無駄に長い時間公園で過ごしたようだ。
これでは貴重な休日が勿体無い。
そんな訳で漫画喫茶に向かっているわけだが、常識的に考えると漫画喫茶も十二分に休日を無駄遣いしているような気がする。

ところでどうでもいいが、最近は風俗のお兄さん方が実に良くがんばっている。
お気に入りの寂れた漫画喫茶に向かう途中の路地裏で、風俗の客引きにつかまったショボンはそんな感想を抱いた。

男「ちょっとちょっとお兄さん、ウチで遊んでかない?」
(´・ω・`)「んん?いや、漫喫いくんで」
男「そんなこと言わずにさぁ。今なら…女子十二おっぱい」
(´・ω・`)「…8人ってことか?」
男「そうそう…あれ、違った。6人だ」
(´・ω・`)「4おっぱいも減ってるやんけ!ぶち殺すぞ!」
男「ひ、ひぃぃ!」

少し愉快な客引きを追い払って、ショボンは再び漫画喫茶へ歩き出す。
路地の角を曲がり、表通りを横切って、また角を曲がる。
あとひとつ角を曲がれば漫画喫茶につくという所で、ふいに声をかけられた。

「幸せそうに過ごしているんだな。オチャ・ドウゾ」
(´・ω・`)「!?」

声のしたほうを振り向くと、ちょうど自販機の陰になるあたりの壁に、女性的なシルエットが立っていた。
顔は暗くてよく見えない。
唐突に脳裏を駆ける、かつて自分に施された実験と、その末路である処分。それから名乗ったショボンの名前。

だが、そのシルエットは自分のことをオチャ・ドウゾと呼んだ。
最後に口にだしたのがいつか思い出せないその本名を知る人間は、兄であるシャキンくらいしか身近にいない。
身近にはいないが、昔は確かに居た。

身近にいない人間でその名を知っているとすれば、それは…。



26: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:39:22
  

(´・ω・`) (…7人の実験体?死人が?だが、この声の懐かしさは…?)
「いや、今はショボンだったな。元気にしているようで安心した」

陰から出てきたそのシルエットは、はじめてみる人物だった。
だが、このこみ上げてくる懐かしさは何だ。
忘れずにいた記憶に訴えかけてくるその容姿は。

その女の髪は、青かった。青い髪などあるはずもなく、良く見ればそれは黒すぎる黒髪。
あまりに黒く美しいその髪は、黒すぎて青く見える。細身ではあるが、まるで1流のアスリートのような鍛え上げられた体。
もし生きていれば、目の前に立つこの女性に似ているだろう人物を、たった一人だけ知っている。

(´・ω・`)「クー…お姉ちゃん…?」
川 ゚ -゚)「覚えていたか?大きくなったな」
(´・ω・`)「!…違う。そんなはずはない。クー・クーデルカ・チンポスキーは、俺の目の前で撃たれて死んだ。俺は…疲れてるのか?」
川 ゚ -゚)「撃たれたさ。それでも、死ななかった。実験と訓練のおかげか、紙一重で急所を避けてしまったから…」

そう言って目の前の女性、クーは着ている服のボタンをはずした。
はだけた胸にはいくつか傷跡が見える。心臓のそば、肺と気管の隙間。
体中にまだあるだろうその傷跡は、たしかに銃で撃たれたものに見える。

(´・ω・`)「急所を避けて…しまった…?」
川 ゚ -゚)「そう…生き残ってしまった。だが、こうしてまた会えるのは幸運といえるかも知れないな。きっと会わないほうが良かったのだろうけど」

ほんの数時間前、久しぶりに彼女のことを思い出したのは予兆だったのか。
ショボンにとっては嬉しいはずの再会に、天は雨を降らせた。
それが幸運ではないと言うように。



27: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:39:52
  

(´・ω・`)「…本当にお姉…クー、なのか。いや…」
川 ゚ -゚)「うん?もうお姉ちゃんとは呼んでくれないのか?」
(´・ω・`)「この歳でそれは恥ずかしいんでね。生きていたのは良いことだが、なぜ俺に会いにきた」
川 ゚ -゚)「良いこと、か。そうでもないが…お前に謝りたかった」
(´・ω・`)「謝るだと?」
川 ゚ -゚)「あの時、お前を海に突き落とした。あの冷たいロシアの海へだ。私はお前を裏切った。死んだと…思っていた。ごめんな…」

そんなことかと思う。
なぜあの時自分を突き落としたのか、そんなこととっくに分かっていた。
あの時海に逃がしてもらえなければ、自分は死んでいただろうから。

そして、目の前の女性はやはり本物のクーだ。
ショボンの知るお姉ちゃんなら、どんな理由があるにせよショボンを海に突き落としたことを悔いていただろうから。
十数年ぶりに出会った彼女は、拉致された先で良くしてくれた、優しいクーのままだった。

(´・ω・`)「俺を助けるためだろう。感謝しているんだ、謝ることはないよ」
川 ゚ -゚)「けど、お前は私と逃げたかったんだろ?一緒に逃げて、どこか静かなところでお姉ちゃんと暮らすんだと…幼いお前はよく言っていた」
(´・ω・`)「……そんなこと。恥ずかしいな、よしてくれ」

たしかにそう思っていたし、口にだして言っていた記憶もある。
だからこそ、自分を助けるためだったとわかっていながら、心のどこかで裏切られた感があったのも事実だ。
短い間しか一緒にいなかったが、クーは自分のことを良く理解してくれていたのだろう。

(´・ω・`)「まさかそれを言うために、わざわざ俺に?」
川 ゚ -゚)「それならどれほど良かったかな。分かるだろう?あの後私がどう生き延びて、なぜここにいるのか」



28: 名無しさん :2006/09/14(木) 06:40:10
  

(´・ω・`)「十中八九、研究所の奴らに治療されて生き延びたんだろうな。その後はあまり考えたくないんだが、そういう訳にはいかないか?」
川 ゚ -゚)「…ごめん、いかないよ。私はきっとお前の…敵だからな」

悲しそうに微笑むクーは、おそらくあの時生き延びて、今まで使われ続けてきたのだ。
研究所の連中に、道具として。
だが、かつてショボンが連れて行かれた研究所はジョルジュの暴走によって壊滅したはずだ。

その後ジョルジュに拾われていたとしても、そのジョルジュも1年前にショボンや内藤の手によって倒された。
それならば、少なくとも自由ではあるはずだ。

川 ゚ -゚)「違う。お前達が潰したジョルジュ長岡の研究所は、世界中にいくつかあるものの1つにすぎない」
(´・ω・`)「…なんだと?では、大元の組織がある、ということか?」
川 ゚ -゚)「そうだ。それが私達を拉致し、ジョルジュ長岡を含め、様々な研究と実験を繰り返してきた秘密結社…ラウンジという。今の私はそこのエージェントだ」
(´・ω・`)「…なんとまぁ…コメントに困るな」
川 ゚ -゚)「ラウンジはお前と一緒にいた内藤という少年の能力を欲している。そして、その少年以外のスキルもな」

クーが言うには、その秘密結社ラウンジとやらは内藤以外にも、ツンの言霊、しぃの異常なまでの回復力等を手にいれようとしているらしい。
いや、それだけではない。ホルダー受け入れ都市であるこのニュー速市なら、どんな能力をもったホルダーがいるかわからない。
ラウンジがそれも手に入れようとしているなら、事実上この街をまるごと狙っていると言っていい。

もし、それが現実となった場合。
ジョルジュにつぎ込んでいた様々な能力のストックがあるとはいえ、極レアなスキルであるVIP、普通にレアな言霊、そして、しぃの再生はめったに現れないほどレベルの高いものだ。
そうなれば、内藤とツンは消去した能力を復活させるために人体実験を繰り返され、しぃは能力テストと称して切り刻まれるのだろう。

(´・ω・`)「…させるわけにはいかんな」
川 ゚ -゚)「そうだろう。すでに数人のエージェントがこの街に潜伏している。気をつけてくれ。私もいつか、牙を剥く」
(´・ω・`)「何故だ。そんなことを俺に教えるなら、すでに組織を裏切っている。なぜラウンジとやらに居続ける?」
川 ゚ -゚)「運命だよ…あの時お前を裏切った私は、もうお前の傍にはいられない。そういう運命なんだ」
(´・ω・`)「…俺は、裏切られたなんて思っちゃいない」



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