( ^ω^)ブーンの妄想が現実になってから1年後

47: 名無しさん :2006/09/16(土) 06:58:30
  

雲が、空気が、雪が、流れていく。
熱気を纏い凍嵐を切り裂き、それは空を走っていた。

黒い装甲。二枚の翼。
かつての流線型から鋭角的になったフォルム。

それはバイクだった。
翼を広げ空を走るそのバイクを、ドクオスペシャルという。


あの戦いから1年。
ドクオはつーを後ろに乗せ、相棒であるドクオスペシャル改を駆っていた。
1年前の戦いで戦地に置いてきたもう一つの相棒、ドクオスペシャルの兄弟であるリリィを回収するために。

('A`)「つーさん、寒くないか?もうロシア上空なんだけど」
(*゚∀゚)「だいじょぶだいじょぶ。気にしないでいっちゃって良いよ」
('A`)「あいよ。すぐつくから堪えてくれな」

ドクオとつーの眼下にロシアの町並みが見える。
領空侵犯でロシア空軍でも出てくるかと思ったが、ドクオの作ったステルス機構はちゃんと機能しているようだ。
懐かしい街、アスキーアート。その上空。遠くには1年前越えた山脈。
その山脈の向こう。山に囲まれた平地に、リリィが眠っている。

('A`)「機嫌悪くしてなけりゃ良いんだけどな・・・」



48: 名無しさん :2006/09/16(土) 06:58:45
  

こうして空から見下ろすと、いつかの研究所は意外に街に近かったことに気づく。
1年前車で行かずに空から行けば良かったな、などと詮も無いことを考えながら、ドクオは着陸の準備にはいった。

1年前の戦いの最終舞台である研究所。
2発のミサイルで廃墟となった研究所には、人の気配はない。
ドクオは施設の瓦礫の少ない場所にドクスペ改を着陸させ、つーの手をとって下ろしてやった。
暖房装置のついたドクスペ改から降りたつーは軽く身震いしながらも、さっさとリリィの埋もれた地点に向かう。

('A`)「ちょ、つーさん、誰かいたら危ないってのに・・・」
(*゚∀゚)「誰もいないよ、少なくとも周囲1キロにはね」
('A`)「へ?あ・・・そっか、つーさんにはわかるんだな」

ドクオはつーの能力を今更思い出す。
能力をその身に保持する者、ホルダー。つーの能力は自らの五感を強化すること。
感覚強化されたつーの耳なら、安全か否かなどすぐに判断できるだろう。

そして風の通る音などから、瓦礫の中に何かが埋もれているかどうか、等も聞いて取れる。
つーはある地点で足を止め耳に両手をかざした。
そこはリリィが埋もれた場所の3メートルほど手前。リリィがあるはずの地点に向かうドクオを、唐突につーは呼び止めた。

(*゚∀゚)「・・・ドクオ君。リリィ、そこに埋まったはずだよね。勘違いじゃないよね?」
('A`)「つーさん?たしかにここだけど・・・なんかあったのか?」
(*゚∀゚)「そこ、何も埋まってない。瓦礫しか」
('A`)「・・・なんだって?」



49: 名無しさん :2006/09/16(土) 06:58:59
  

一応、瓦礫を取り除くべくドクスペ改の主砲が火を噴く。
リリィの装甲なら壊れはしないだろうし、そもそも瓦礫の重量で埋まったわけだから上面装甲以外リリィには大きな損傷はないはずだ。
直撃ではないドクスペの一撃くらいなら耐えるだろう。

だが、吹き飛ばされた瓦礫と粉塵が収まったそこには、やはり瓦礫があるだけだった。
間違いなくリリィが埋まった地点のはずなのに、リリィの姿はない。

('A`)「…本当に無いでやんの…」
(*゚∀゚)「・・・」
('A`)「マジかよ、おいおいおい…どういうこった?」
(*゚∀゚)「場所が間違ってないなら…なんらかの理由で移動した、もしくはされた。とか…」

1年前の戦いで敗れた研究所の所長、ジョルジュ長岡は、最後にどこからか自分のいる研究所にむけてミサイルを発射した。
今の今まで考えなかったが、そもそもあのミサイルはどこから発射されたのか。
いや、考えた者ならいるかも知れないが、ただの発射用の基地があるだけだと思ったのだろう。

だが。もしかしたらこの研究所のような施設がまだあるのかもしれない。
施設があるということは、仲間がいるということだ。
そいつらがリリィを持ち去ったのだろうか。

(*゚∀゚)「・・・荒巻さんのところに行ってみよ?何か知ってるかもしれないし」
('A`)「ああ・・・そだね」
(*゚∀゚)「む。こら、元気だしなさい。もしかしたら荒巻さんが回収してくれてるかもしれないよ?・・・って、それはないか、さすがに」



50: 名無しさん :2006/09/16(土) 06:59:11
  

(*゚∀゚)「荒巻さーん?つーですけどー・・・荒巻さん?いませんかー?」
('A`)「留守なのかね・・・にしても何か、生活感がないっていうか・・・」

どれだけ呼びかけても荒巻はでてこない。
荒巻の家にくるのは2回目、しかも1年ぶりだから詳しくはないが、片付けられた室内などからは生活観が感じられなかった。
少なくとも1年前は人の住む暖かさがあったが、今はまるで長い間人が使っていないような静けさが家中を支配している。

(*゚∀゚)「どこか行ってるのかな・・・勝手にあがってますよー?ついでに台所借りますよー」
('A`)「つーさんもうちょっと遠慮を・・・ってこれ、手紙?」

ドクオは居間のテーブルに視線を向ける。
かつて仲間たちと食事をとったテーブルの上に、少し日に焼けた手紙がおかれていた。
つーが手紙を手に取り、宛名を確認すると、わざわざ日本語で書かれた宛名が目に入ってきた。
どうやらつー宛の手紙のようだ。



51: 名無しさん :2006/09/16(土) 06:59:25
  

( ,' 3 )

つーちゃん。娘さん。君がこの手紙を読んでいるころには私は家を留守にしているだろう。
長年離れていた息子と再会できてね、今は離れていた分一緒に遊ぼうと思って引っ越したんだ。
ずいぶん遠くに引っ越すから、もし君達が尋ねてきてくれても再会できないだろう。

それが少々残念だが、私は息子と一緒にいられて楽しい日々を送っていると思う。
この家はこのまま置いておくから、良ければ別荘としてでも使っておくれ。
大して人と関わらず過ごしてきた私にとって、急に現れた君はまるで娘のようだったよ。

ほんの数日だったが、実に楽しかった。
だから気兼ねせずにこの家を使ってくれ。中々広くて良い家だろう?
そうそう、いつか会えたら、その時はまたスープを作っておくれ。
その時を楽しみに待っているよ。

荒巻より



52: 名無しさん :2006/09/16(土) 06:59:38
  

日本語で書かれた手紙を読み終え、テーブルの上に戻す。
つーの横から手紙を覗きこんでいたドクオが横を見ると、間近に残念そうなつーの顔があった。

(*゚∀゚)「荒巻さん、引っ越しちゃったんだ・・・ロシアで家貰っても困るよ、荒巻さん・・・」
('A`)「何気に金持ちだな、あのじいさん。まぁ、息子と再会できたらしいし良かったじゃねーの」
(*゚∀゚)「うーん・・・そうだね。家かぁ・・・勿体無いし、そうだなー・・・ここに住んじゃおっか?」
('A`)「へ?それはえーと・・・俺とつーさん、で・・・?いやあの、それはちょっと・・・」
(*゚∀゚)「あれ、ドクオ君もしかして嫌?お姉さん泣いちゃうよ?」
('A`)「嫌っていうかそれは全然嬉し・・・いやいや、ほら、ここロシアだし!」

ドクオは悲しそうな顔をして見せるつーに慌てて弁解する。
それを見て意地の悪い笑みを浮かべたつーがドクオににじり寄る。

だが、途中で急につーの顔が真剣な色を浮かべた。窓の外を見つめる。
ドクオは窓に近づき外を見たが、別に何かがいるわけではない。
だが、音がした。
ドクオにとって聞きなれた、懐かしい駆動音が。

('A`)「リリィ・・・?」

窓の向こうの景色に、遠くから影が近づいてくる。
ドクオがあの特徴のある駆動音を聞き間違えるはずがない。
高速で近づいてくるその影は、明らかにリリィ独特のエンジン音を響かせていた。

真っ白い雪化粧にも劣らない、純白の体躯。
まぎれもないリリィの装甲。
こちらに近づいてくるその影は、良く見れば形状が少し違っている。リリィの後部ユニットはあれほど大きくない。
やがて、荒巻邸の前に懐かしいが少し違うバイクが止まった。ドクオの相棒だったバイクが。

('A`)「…リリィ…誰が乗ってる?」



56: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:08:10
  

リリィは動かない。
動かないが、何か意思のようなものは感じる。
あの沈黙はなにかを探っているのだ。

そう、家の中にいるのは誰か。外に止められているドクスペ改は何か。
自分にとって家の中にいるであろうドクスペ改の乗り手は害になり得るか。
そういう意思をもっての沈黙。

誰が乗っているか確認しようと、ドクオは外に飛び出す。
だが、まるでドクオが出てくるのを待っていたかのようにリリィは戦闘形態に変形した。
飛び出てきたドクオをリリィのカメラが捕らえる。

('A`)「…!完全に修復された車体に増設された後部ユニット?てめぇどこぞの技術オタじゃないよなぁ、まさか」

しばらく見詰め合った後、ドクオはリリィに近づいた。
リリィは動かず、静かにドクオを見つめ続ける。
あと数メートルという所まで近づいたとき、わずかな駆動音がした。

(*゚∀゚)「ドクオ君、危ない!」
('A`)「ちっ!」

そのわずかな駆動音で、リリィの尻尾がドクオに襲い掛かる。
先端のパイルバンカーがドクオを貫く前に、つーの体当たりがドクオを救った。
雪を巻き上げパイルバンカーが地面を穿つ。

('A`)「やっぱり敵さんかよ、てめぇは!」



57: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:08:25
  

(*゚∀゚)「はやくバイクに!襲ってくる!」
('A`)「おおよ!ドクオスペシャルッ!!」

ドクオの声に反応しエンジンを始動させるドクオスペシャルと、それに向かい走る二人。
その背後でリリィの体躯が割れ、二対六門のガトリングがせりだす。
照準は逃げる二人に、回転するその銃身の音が風に乗った。

つーは、その音を聞いていた。
そして知った。自分たちがドクオスペシャルまでたどり着く前に、リリィの銃弾が自分たちを貫くことを。
あとほんの数秒あればドクスペ改の影に隠れることもできただろうに、そのほんの数秒が間に合わない。

拳銃の弾程度なら振り返り弾くこともできた。
だが相手はつーの持つ剣などたやすく千切り砕く6門の機関銃だ。たとえどんな能力者でも防げまい。
それでも諦めてはならないのに、その思考が邪魔をした。

歩みを鈍らせたつーに向けて、銃弾が撒き起こす雪煙が迫る。

(*゚∀゚)「やばっ…!」



58: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:08:39
  

目を瞑った暗闇の中に、鉄と鉄がぶつかり合う重奏音が響いた。
銃弾を防ぐ黒い装甲。無人のシートと、側面で点滅するLED。
目を開けた先で、ドクスペ改の漆黒の巨躯がつーを守っていた。

リリィ側の片面だけを展開した翼状装甲は、尚も銃弾を弾き続ける。
誰も乗っていないドクスペ改は、雪煙の中でライトを光らせた。
乗れ、と。

('A`)「俺が敵と遭遇することを想定してなかったと思うかい?リリィを敵に回すとは思わなかったけどよ…このドクスペ改の装甲はリリィを基準に作ってる。音声による遠隔操作、自立行動可能なAIシステム。飛行ユニットだけ付け足したわけじゃないんだな、これが」
(*゚∀゚)「…は、早く言っててくれれば良かったかなぁ…なんてお姉さん思ったり…して…」
('A`)「いや、その…まさか本当に戦闘になるとは」
(*゚∀゚)「無駄に死を覚悟しちゃったじゃん!うら若い乙女なのに世を儚んだりしちゃったじゃん!もー!」
('A`)「ま、まぁそれは置いといてさ、さっさと乗るぜつーさん!ぶっちゃけ装甲厚くなっただけでリリィにゃ勝てねぇや」

まだリリィの射撃は続いている。
それがチャンス。射撃中は射線から相手の位置がわかるし、近づかれれば音でわかる。
そして今はまだリリィは動いていないようだ。

装甲が上だとしても、おそらくリリィのパイルバンカーは防げない。
完全戦闘用のリリィを相手に、格闘戦をするほどの機動力を持たないドクスペ改にとって、とれる手段はただひとつ。
リリィに出来ないことをするだけだ。

('A`)「全速で逃げる。空まで行けばこっちのもんよ…うら若い乙女のうちに死ぬのは嫌だろ、つーさん?」
(*゚∀゚)「う…んー…まことに勝手ながらその台詞は忘れてほしいかなぁ…」



59: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:08:54
  

ドクオとつーがドクスペ改に乗り込むと同時に、リリィの射撃がとまる。
おそらく接近してくるつもりだろう。あと少し乗るのが遅ければパイルバンカーの餌食になっていただろうが、なんとか間に合った。
ドクスペ改が向いているのは街の中心への道。
だがドクオはあえてドクスペ改を反転させ、荒巻邸からさらに郊外へ向けて走り出した。

(*゚∀゚)「街のほう行かないの?」
('A`)「ああ、それがベターなんだろうが…もし相手が街中でも仕掛けてくるような奴なら市街地では小回りが効いて素早いリリィのほうが有利だからな」
(*゚∀゚)「おっ、ドクオ君あれだね、映画の主人公みたいだねぇ」
('A`)「…そう?それにこいつが飛ぶには障害物の多い街中じゃ難しいからさ、さっさと直線で加速して逃げようってわけよ」
(*゚∀゚)「かっくいーしびれるー」
('A`)「つーさん緊張感って知ってる?」

荒巻邸から急激に遠ざかるドクスペ改を、バイク形態に戻ったリリィが追う。
ドクオは、リリィのほうを見なかった。

白いリリィと、黒いドクスペ改。
雪に染まったロシアの大地を、二つのシルエットが高速で走る。
だが、ここで誤算が起きた。

('A`)「…こいつ!リリィ!」
(*゚∀゚)「こっちよりっ!」

速かった。
ドクオの知る以上に。ドクスペ改のフルスピードにあっさりと追いつくほどに。
ドクスペ改を追い越したリリィは、車体を滑らせドクスペ改の進路を妨害し、強制的にその足を止めさせる。

('A`) (やるしかないのか…?つーさん、ごめん…)

おそらく勝てはしないだろうリリィとの戦闘を思い浮かべ、ドクオはきつく眉を寄せる。
その視線の先では、装甲展開したままだったリリィが、何故か展開を解除していた。
その行動は、戦闘の意思はない、と言っているように見える。

装甲展開を解除したリリィの座席で、金色の髪が靡いた。



60: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:09:07
  

「面白いな?我が愛機のCIWSを防げるその装甲。その翼。君が作ったのか?」
('A`)「…てめぇどこの誰さんよ?」

その男は、そう。一言で言えば、気高い印象を受けた。
金色の髪に、頬には星のペイント。切れ長の目。
ロシアの雪風に流れる長い金髪は、妙にリリィに似合っている。

「フォックスという。よろしく、ドクオ君。失われたと思っていたこのフォックスター…良く大事にしてくれた」
(*゚∀゚)「フォックスター?」
('A`)「…リリィ・ザ・フォックスター。リリィの正式名称。なるほど、あんたが…」

ドクオは普段から、ドクスペに乗っていた。
リリィはシートをかぶせ倉庫に眠っていた。たまに走らせはしたが、それでもメインで乗ることはしなかった。
それは何故か。
ドクオは、ある人間の存在を知っていたからだ。

目のまえにいる男が、そうなのだ。
いつか来るかもしれない思っていた瞬間。いつからか来ないと思っていた瞬間。
そう、ニュー速市の廃棄場で、リリィと出会った時から。

('A`)「あんたが、リリィの本当の持ち主…か」



61: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:09:21
  

そもそも、ただの学生だったドクオがリリィという超先進技術の塊を所持しているのは不自然なのだ。
その不自然さが薄れていたのは、ドクオスペシャルの存在ゆえ。
もともとは市販のスカイウェイブだったものが、日ごとに改造に改造を重ね、これまた不自然なほどの改造バイクになったことが、周りの人間の感覚を麻痺させた。

だからこそ去年のロシアの戦いで、ギコがドクオの家に置いてあったリリィを持ってきても、内藤やショボンは受け入れた。
ああ、まだ性能が上の馬鹿バイクがあったんだ。それくらいの軽い認識で。
だが、それは間違いなのだ。

何故ならば、ドクスペはリリィの技術を解析して、日々こつこつと作られたもの。
それがオリジナルであるリリィを上回らなかっただけなのだ。
では、そのリリィは一体誰が何のために作ったのか。

FOX「そうだ。これは私のために作られたこの世にたった一つのもの。このFOXのための白い狐だ」
(*゚∀゚)「ドクオ君が作ったんじゃなかったんだ…。けど、そっか。ドクオ君があんなものを作れるってのいうのがおかしな話だもんね」
('A`)「あぁ…俺は廃棄場に捨てられていたリリィを持って帰って、中身覗いて勉強して…それで、ドクオスペシャルを作った」

つーへの説明を聞き、先に反応を返したのはFOXだった。
自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、FOXはリリィから降りる。

FOX「やはり。それだ。そこが気に入ったんだよ、私は。そのバイクを自力で作り上げた君の才能、実に素晴らしい」
('A`)「…そいつはどうも」

無防備に歩いてくるFOXを警戒し、ドクオはドクスペ改のハンドルを握る力を強めた。
しかし思い直す。あのように無防備に近づいてくる相手に対し、なぜこうも警戒しなければならないのか。
こういう時はビビったほうが負けだ。
ドクオは力を抜き、FOXと同じように歩き出す。つーも慌ててそれに倣った。

FOX「いい度胸だ。実に良い。ドクオ君、私のもとへ来ないか。リリィを作った開発チームもいる。きっと楽しいぞ」
('A`)「あんたはよ…ジョルジュ長岡の側の人間なんだろ?ちょっと無理な相談だぜ、そいつは」



62: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:09:33
  

FOX「そうか。いや…残念だ」
(*゚∀゚)「…」

互いに手をだせば届くほどの距離で会話するドクオとFOXを、つーは少し後ろで見ていた。
FOXへの警戒は怠っていない。もしFOXがホルダーだったら、ドクオの身が危険だ。
そして、その可能性は十二分にある。

持ってきた剣はドクスペ改に置いてきたが、そのせいかFOXはつーのことを気にしていないように見える。
いざとなればつーは、コートの袖に仕込んだ警棒で割ってはいるつもりでいた。

FOX「あー、ところで、そこの君は…たしか、レーゼを負かしたのだったな?」
(*゚∀゚)「それがどうか…!?」

注意が自分に向けられ、つーは警棒のとめ具をはずそうと指を動かす。
だが、動かそうとした指は途中で止まり、ピクリとも動かない。
それどころかいくら動かそうとしても、体そのものが動かない。まるで体中の神経が麻痺したように。

FOXはドクオの横を通り過ぎ、つーの前まで歩いてきた。
ドクオはFOXの姿を追うことも出来ずに固まっている。おそらく、つーと同様に何故か体が動かないのだろう。
FOXは動けないつーの腕を掴み、警棒の感触を確かめる。

FOX「ここで君の彼女を殺すことも出来るが…」



63: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:09:52
  

('A`)「!?」
FOX「そんな卑怯な脅しをかけてまで欲しがる人材でもなし…。ま。縁がなかったのだな。私と君は」

FOXはつーの頬をそっと触った後、何気なく腕時計を見てリリィの座席に戻った。
リリィの座席からFOXが二人を眺めた時、ようやくドクオとつーの体が自由を取り戻す。
だが、それでも何もできなかった。
何か圧倒的なものを前にした時のような、絶対的な敗北感がある。

FOX「ドクオ君。私は君が気に入っている。私もバイクは好きだ。もしまた会うことがあれば、敵になってくれるなよ?」

爽やかささえ感じさせる微笑を浮かべ、FOXはリリィとともに雪原に消えていく。
リリィを回収しにここまで来たというのに、ドクオは何も出来なかった。
待ての一言さえも出せずに、ただFOXを睨むことくらいしか。

('A`)「……くそっ!」
(*゚∀゚)「ドクオ君…」
('A`)「あの野郎余裕かましやがって…俺の負けかよ!」
(*゚∀゚)「FOX、か。ジョルジュ長岡の関係者、仲間?ドクオ君、気が済まないかも知れないけど、一回帰ってショボンあたりに話さないと」
('A`)「…っ!」

思わず反射的につーを睨んでしまう。
つーはそれをわかっていたかのように、毅然とした瞳でドクオを見つめ返した。
つーの瞳に射抜かれ、ドクオは視線を落とす。
これではただの八つ当たりだ。情けない。



64: 名無しさん :2006/09/16(土) 15:10:04
  

('A`)「いや、ごめん。そうなんだろうな…わかったよ」
(*゚∀゚)「…ごめんね」
('A`)「俺は諦めちゃいないよ。帰ってショボン先生に警戒してくれっつったら、追いかけるさ。そんで…」

つーに背を向けて、煙草に火をつける。
おそらく、もうリリィとは会えないのだろう。
このまま日本に帰って悔しさに震えて、それで終わり。

だが、もしも。
もしもまた、あのFOXと会うことがあるなら。
そのときは。

('A`)「あの余裕面をボコしてやらねぇとな」



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