( ^ω^)ブーンの妄想が現実になってから1年後

487: 名無しさん :2007/09/18(火) 00:37:41
それはおよそ、対等とは言い難い戦闘だった。
内藤は純粋な戦力としてモニュを上回っている。炎は効かず、爆風だけではさしたるダメージにはならない。
モニュにとって、内藤はとてつもなく相性が悪いといえた。

( ^ω^)「くっ!すばしっこい!」
(=゚ω゚)ノ 「……っ!!」

モニュとて大したものではある。
未だ直撃は受けておらず、避けられない攻撃は纏った強化服の外装部分で何とか受け止めていた。
当たれば一撃で戦闘不能になるだろう剛拳を、集中力のみで捌ききっている。

いや、集中力だけではない。
絶対的に劣っているはずの機動力の差を埋める特殊装備。モニュの足には、ハイヒールとローラーブレードを足したような加速器が装着されていた。
そのスピードは驚愕に値する。おそらく単純な速さ比べでは市長以外では叶わないだろう程に。

( ^ω^)「けど…!」

幾度目かも分からない煙草の投擲を避けて、内藤はモニュの進路を塞いだ。
モニュの見切りも加速器を扱う技量も認める。だが、だからといって負けはしない。
生身と同様の曲線的な動きが出来る内藤に対し、モニュは速度はあっても直線的な動きしかできないのだ。

モニュは急には止まれない。止まっても時すでに遅く。
脳内麻薬やらの影響か、ゆっくりと感じる交錯にあわせ、内藤は大きく身を捻った。

( ^ω^)「これでっ!」
(=゚ω゚)ノ 「…甘いぜこのスットコドッコイが!」



488: 名無しさん :2007/09/18(火) 00:37:54
交差する刹那。
内藤の拳は空を切り大気を打ち据えた。その音は爆風にかき消される。
爆発は、モニュの背後で起きた。

内藤の拳が撃ち出されたその瞬間、モニュが気付かれないように背後に放っていた煙草が爆発し、モニュはその爆風を受けさらに加速。
そのまま前転、内藤の攻撃を回避すると同時に、爆風と加速器の加速、さらには回転の遠心力をも加えた渾身の踵落としが内藤の肩に突き刺さる。

いくら外装が強固でも、紅夜叉は強化「服」なのだ。装甲のない部分も当然存在する。
モニュの踵はちょうど装甲がなく人工筋肉も薄い鎖骨部分に直撃し、踵の強固な加速器固定具が内藤の鎖骨をしたたかに打ち砕いた。

( ^ω^)「ぐぁぅっ!?」
(=゚ω゚)ノ 「そして逃げる俺」

堪らず蹲った内藤が反撃に転じる前に、モニュは素早く数本の煙草を内藤の眼前に放ると、その爆風を利用し今度は後方に大きく跳躍、距離をとった。
蹲っていた内藤は十分な受身を取ることが出来ず、爆風の威力によって地面に叩きつけられる。
モニュは肩を抑え立ち上がった内藤を見つめながら、どこからか出した葉巻をくわえ笑みを浮かべた。

(=゚ω゚)ノ 「ふっ。へっへっへ…言ったろ?追い風、ってよ…」
( ^ω^)「くっ…!やっぱ追い風じゃねぇかお!この見栄っ張り!無教養!」
(=゚ω゚)ノ 「ふん、何とでも言いやが…れ?あれ?無教養はひどくね?」
( ^ω^)「僕、大学生。モニュ、14歳で傭兵の真似事で追い風」
(=゚ω゚)ノ 「絶望した!学歴社会に染まりきったお前の考えに絶望した!」

およそ30メートルの距離を保ち間抜けな会話を交わしながらも、内藤の注意はモニュの葉巻に向けられている。
モニュもそれは分かっているだろうが、妙に無警戒に見えるのが怪しい。
普通の紙煙草でも最高まで威力を挙げればアスファルトを溶かし地面をえぐる程の威力があるのは、数日前に見たとおりだ。



489: 名無しさん :2007/09/18(火) 00:38:11
葉巻ならばもしかしたら、紅夜叉の装甲を抜けるかもしれない。
人工筋肉を焼き尽くし、内藤の体を消し炭に出来るかもしれない。
その緊張と警戒が、内藤の足元に転がったソレへの発見を妨げた。

(=゚ω゚)ノ 「さて、ところで内藤よ。お前さん前はあんなに強かったのに、なんで今は俺に先制点取られたかわかるかい?」
( ^ω^)「さぁ。僕はそれほど強くないお」
(=゚ω゚)ノ 「面白い冗談だなおい。そりゃぁな、お前さんの頭の中が手玉に取りやすいからさ。この無教養め!」
( ^ω^)「教養はこんな争いごとには関係ないお?」
(=゚ω゚)ノ 「どの口で言いやがるこいつぁ…そんなだからほれ、足元のソレにも気付かないでやんの」
( ^ω^)「…?」

ソレは一言でいうなら、スプレー缶だった。少なくとも日常生活で見当たる物で言い表せば、だが。
噴射用のノズルもなく押し込みボタンもないが、明らかに中に何かしらの気体が入っていると連想させる。
怪獣映画なんかだと特殊な爆弾として登場しような形でもあるか。

(=゚ω゚)ノ 「ここでひとつ、俺が教養に満ち溢れたナイスガイだってぇことを証明してやろう。爆発についてな」

爆発とは一般的に、膨張だ。気体の急速な熱膨張のことをさす。
燃焼による膨張速度が音速に達しないものは、爆風こそあれ衝撃波を伴わない。これを爆燃という。
対して、膨張速度が音速を超えるものを爆轟と呼び、この爆轟は衝撃波を伴いその威力は筆舌に尽くしがたい。

(=゚ω゚)ノ 「普通の爆発は爆燃ってぇ方だな。衝撃波なんかねぇから、その分例えば手榴弾なんかだと破片を飛ばして殺傷するようになってる。が、爆轟ってのは違うんだよねぇ…なんせ音速超えた衝撃波だ。生身なら手足の一本や二本簡単に千切れ飛んじまう。で、お前の足元のそれな」
( ^ω^)「…あぁ、そういう…」
(=゚ω゚)ノ 「それ圧縮酸素弾だから」

圧縮酸素弾。その言葉が発された時には、すでに十分に吸われ短くなった葉巻が内藤の足元向けて飛んでいた。
着弾。発火。引火。膨張。全ての工程が内藤の網膜に焼きつく。
冷酷なまでにゆっくりと。

音はなかった。
それよりも早く、目に見えない何かが体を切り刻むような感覚が訪れ、それも一瞬で消えていった。
何も感じず、何も聞こえず、何も見えなかった。



500: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:51:14
-ショボンの場合-

内藤の近くにまた1つ、熱源反応が現れた。
どうやら自分たちに不利な状況ができてるらしいと思いながらも、ドクオの意識はディスプレイ上を移動する大きな熱源反応に向けられている。
遠くから、聞きなれた音が聞こえる。

('A`)「…距離400。先生、俺行くぜ」
(´・ω・`)「勝手にいけ」
('A`)「いやもうちょっと心配とかさ、何かねーの?」
(´・ω・`)「心配するな、香典は出してやる」
('A`)「そうじゃな…もういいや、どうせ負けねーよ!ケッ!行くぜつーさん!!」

まだ姿の見えない敵に向かい、ドック・オーのエンジンが過熱する。
ショボンは、背中でそれを感じていた。
一応申し訳程度に手を振ってやると、今にも走り出そうというドック・オーからドクオとは別の声が聞こえた。

(*゚∀゚)「あ、ねぇショボン」
(´・ω・`)「んー?」
(*゚∀゚)「心配しなくても香典は出してあげるね!」

やたらと爽やかなつーの声を残して、ドック・オーは走り出した。
加速の廃棄熱風が頬に熱い。
ショボンは振り返ると、僅かに残ったテールライトの光を見て苦々しくかぶりを振った。

(´・ω・`)「…ドクオのことになると過保護すぎるなアイツは」
川 ゚ -゚)「ただ単に嫌われてるんじゃないか?」
(´・ω・`)「勘弁してくれ。また眉の角度が下がる」

そして、改めて向き直る。
兄と並び、ショボンの最も古い記憶の住人。今でも生きている古い知り合いの一人。
両親の顔もよく思い出せないが、この国に帰ってきてからは兄が色々と教えてくれた。

そして、幼き頃あの研究所で世話を焼いてくれた少しだけ年上の女の子は。
今こうして、敵として眼前に居る。



501: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:51:35
すぐ近くで爆発音が聞こえた。
相手は誰かはわからないが、市長はおそらく疲労的な意味で働かない。戦っているのはおそらく内藤だろう。
今いる駐車場は広く、ショボンと内藤との間にはいくらか距離がある。

やろうと思わない限り、互いに干渉はないはずだ。
ドクオも行った。市長とその他もお疲れだ。
つまり、助けはこない1対1。

川 ゚ -゚)「これがおそらく最後の勝負だが…勝算はあるか?」
(´・ω・`)「そうだなぁ…こないだの橋では実質俺が負けてるしな」
川 ゚ -゚)「降参という手もあるが?」
(´・ω・`)「おいおい何言ってるんだ」

ショボンは笑う。出来の悪い生徒を注意する時の顔だった。
橋では形式上は勝ったが、あの時クーはまだ戦えた。
あれが本気で命のやり取りであったなら、ショボンは死んでいただろう。

その相手ともう一度戦う。
幼き頃の慕い人と、今度はおそらく命をかけて。
だからこそ笑うのだ。

(´・ω・`)「もうお前は勝てないよ」

命を懸けて戦って、自分が勝つならどちらも無事に済むから。
これほどありがたいことはない。

川 ゚ -゚)「…理解できんな?私はその気になればお前を5回は殺せるはずだが」
(´・ω・`)「そうだな。身体性能、風を操った時の攻撃力。こちらとは比較にもならん」
川 ゚ -゚)「その通りだ。加えて昔ならいざ知らず、今なら技術、センスともに互角…それでもお前が勝つと?」
(´・ω・`)「そこだ。それだよ、技術とセンス」

クーが眉をひそめる。
ショボンは未だに技術とセンス、つまり同じ天才を与えられたはずの脳の性能に大きな差があると言っている。
橋での戦闘でかつてあった技術の差は埋まったと確信したクーにとって、それは些か納得しかねる台詞だった。

川 ゚ -゚)「説明してもらいたいな?」
(´・ω・`)「…まず技術だが、これはまぁ大差ないとしよう。うん、技術は認める。問題はセンスってとこだな」
川 ゚ -゚)「同じ処置をうけたはずだが」
(´・ω・`)「まぁそうなんだが…実はついさっきまで橋でのケガのせいで病院の世話になっててな。その間考えてた」



502: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:51:56
(´・ω・`)「あの頃、俺達はV.I.Pを人口的に作り出すために学習能力を強化された人工の天才…とだけ、説明されたな?」
川 ゚ -゚)「…そうだったな」

互いに思い出す。遠い記憶、最も古い記憶を。
脳を弄った影響か、研究所以前の記憶はひどく曖昧で、それ以前にどういう生活を送っていたのかはもう思い出せない。
ある意味、だからこそあそこの生活にも耐えられたのだろう。

全部で7人。すでに成人していた者もいたし、幼児もいたし、双子もいた。
そういった様々なケースでの実験だったのだろう。ショボンとクーは、彼らと共に生活した。
学習と実験と訓練に塗れた日々だったが、共に暮らすうちに奇妙な絆も生まれていった。
彼らは、もういないが。

(´・ω・`)「結局、あそこから逃げるまでそこら辺は詳しく教わったことも聞いたこともなかっただろう?」
川 ゚ -゚)「余計なことを考える余裕もなかったからな」
(´・ω・`)「そう…俺は特に何も考えてなかったし、お前は…」
川 ゚ -゚)「……」
(´・ω・`)「…ま、それは良い。俺が思うに、多分俺たちに与えられたのは天才…天性の才能なんかじゃなかったってことだな」

天才とは字の如く、天の与えた掛け値なしの万能の才だ。
それは後から生み出すことも手に入れることも出来ず、人に出来るのはその真似事が関の山。
言ってみればあの時与えられたのは、1つっきりの何かの才能の容量だったのだ。

目指したV.I.Pのように何でもできるような物ではなく、何か一つに特化させて一流、全体的に容量を使えばせいぜい秀才といった類のボーナス。
思えば7人のうち、何人かは何か突出した点を持っていた。
おそらくそれは、与えられた才能の容量を使い元から持っていた才能を伸ばしたか、あるいは新しく開拓した才覚だったのだろう。

川 ゚ -゚)「なるほど。どう解釈しても個人の自由だとは思うが、それこそいわゆる天才という奴ではないのか?」
(´・ω・`)「確かにどう解釈しても自由だがね…俺は違うと思うよ。本物の天才って奴は、きっと何だって簡単に出来てしまうような奴なのさ」
川 ゚ -゚)「ふむ。“何か”の天才ではなくて、何でもできるのが本物だと。それで、それがどうしたと?」
(´・ω・`)「…お前はあの頃はひどかったが、それでも何故かボクシングにこだわった。その結果、今は大した技術をもってるだろう?その一点では俺を凌ぐような」

そこで一旦区切り、ショボンはゆっくりと歩き出した。
クーが構える。今しがた話にのぼったばかりのボクシングスタイル。
渾楔颯で加熱した腕ももう冷えている。話している間に、クーの体調は万全に戻っていた。

(´・ω・`)「…思い出せないか?あの頃俺は何にこだわっていた?」



503: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:52:10
研究所にいたころ、ショボンが秀でていた点。
言われてみれば思い出せない。不思議なことに、自分より優秀だったはずのショボンの抜きん出た所が思いつかなかった。
その問いかけを最後に近づいてきたショボンを迎え撃つべく鉄の拳を撃ちだしながら、クーはその思考を中断する。
ショボンは、歩いて向かってきていた。

初撃はかわされた。次も、その次も。
どこに攻撃がくるか分かっているような最小限の動きで、ゆらりと避ける。
まるで木の葉のような。

川 ゚ -゚)「…!?」

そう簡単に攻撃が当たらないのは橋での一戦でわかっていた。
だから避けられることはなんら不思議ではない。
だが、あの時はショボンも必死に動いていた。体捌きも今よりずっと素早かった。

だというのに、あの時よりも遠く感じる。
実際には紙一重の差で避けられているのだが、ショボンの表情には変化がない。
クーの拳はあの時と同じかあるいはそれ以上の速度で撃ち出されているというのに、歩いているだけのショボンは止まらない。
気付けば、自分が後退していた。

川 ゚ -゚) (なぜ当たらない…!?いや、何故止まらない!私は本気でやっている…!)

まだ当たれば死ぬと気遣っているのか?あるいは、あの時受けた一撃を知らず恐れているのか?
否。断じて否。クー・クーデルカはこの最後の対決で明確に完膚なきまでに勝利し、自己の立脚点を確認し確立する。
その決意をもってして、恐れも戸惑いもない。

(´・ω・`)「思い出せないか?あの頃俺は落ちこぼれていたか?何も秀でた点がなかったか?」
川 ゚ -゚)「うぅ…!?」

ショボンは止まらない。数ミリ単位で攻撃を避け拳圧で頬が切れても、歩調は寸分も崩れない。
顔色ひとつ変えず、反撃もせず、それどころか攻撃をろくに見ずに歩き続ける。
そこには何か、得体の知れない圧力があった。

(´・ω・`)「俺は…何に容量を使ったと思う?」



504: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:52:27
そこで初めて繰り出されたショボンの攻撃を、クーは避けられなかった。
乾いた打撃音と同時に顔面が跳ね上がる。
鋭い痛みを感じて、はじめてクーは自分が攻撃を受けたと認識した。

川 ゚ -゚)「っ…!?な、なんだと…!」
(´・ω・`)「悪いが今回は顔でも何でも遠慮なく殴らせてもらう。女は殴らない…なんてのは失礼だからな」
川 ゚ -゚)「認めてもらえるのは嬉しいがな…!」

すぐさま撃ち返した拳はやはり空を切り、それどころかカウンターが頬に突き刺さる。
さらに、クーはショボンの姿を見失った。
右のストレートが伸びきった瞬間、視界の右下には死角が出来る。
ショボンはその死角から背後に移動していた。

(´・ω・`)「っと…背中は鉄か」
川 ゚ -゚)「後ろっ…!」

声に反応し振り返ると同時に、ショボンの両の手が伸びる。
咄嗟に反撃しようとした腕が、予想外の感覚に止まった。
はじめての感覚。出所は胸。

(´・ω・`)「あー、肋骨も金属かなこれ。心臓あたりはプレートか」
川 ゚ -゚)「なっ………にをしてるんだお前は…」

ショボンの両手は、思いっきりクーの胸をわしづかみにしていた。
それどころか揉みしだいていた。薄手のラバースーツなのだからさぞかしダイレクトに感触を楽しんでいるだろうな、と訳の分からない考えが脳裏をよぎる。
一瞬思考が停止した。

川 ゚ -゚)「世間ではそれをセクハラという!」

怒りに任せ振り払った腕を容易くかわし、ショボンはまた死角から死角へと流れるように移動した。
その軌跡は7つの点を結び、北斗七星を描いている。
七星転生と呼ばれる奥義だった。

(´・ω・`)「いっとくが俺は別に乳を揉んでたわけじゃないぞ」
川 ゚ -゚)「…前代未聞の言い訳だな」
(´・ω・`)「有効な攻撃は何か調べただけじゃないか。男が相手でもそうしたさ」
川 ゚ -゚)「顔以外だと打撃は効かんよ。例の背水掌とやらなら別だが、もう食らってはやらん」
(´・ω・`)「自分で言うか…揉み得だった」

どこまで本気で言っているのか量りかねるが、次に攻撃をしてくるのはわかった。
それも有効なダメージを与えられる類の攻撃。
内部へ浸透する類か、あるいは顎先にでも仕掛けてくるか。

川 ゚ -゚)「だが…私とていつまでも圧されている訳にはいかない…!」

ショボンの姿はいまだに死角を縫っている。
それならば、死角をなくせばいいだけだ。



505: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:52:41
クーの左目、眼球そのものが開くのを、ショボンは確かに見た。
次の瞬間、クーがショボンに向き直る。
振り返った際に出来た死角に即座に滑り込んだショボンに向けて、鋭い蹴りが放たれた。

(´・ω・`)「むっ…!」
川 ゚ -゚)「見えているぞ!」

さらに死角へ逃れようとするが、その軌道をクーの鉄拳が塞ぐ。
どういう理屈か知らないが、気配を殺し死角を縫っているというのに完全に見切られていた。
再び迫る鉄の拳を紙一重で避けながら交差する。
その瞬間見た。
確かに両側に開いた、左の眼球を。

(´・ω・`)「…!レーダーか何かか!?」
川 ゚ -゚)「衛星リンクシステムだ。ウジャトの眼とか言うらしいが。死角はもはや存在しない…!」
(´・ω・`)「眼も…あの時に?」
川 ゚ -゚)「そうじゃないが、目が覚めたらこうなっていたのさ…笑えるだろう?」
(´・ω・`)「……ふ、む」

無表情だったショボンが、この時少しだけ表情を翳らせた。
あの眼もまた、自分を逃がすために払った代償なのだ。
つくづくこの世は理不尽だと思う。

ショボンは今の生活を気に入っていた。
言葉には出さないが兄は大事だし、生徒の顔も性格も全員覚えている。
自分の居場所というものを持っていられる。

だが、それは誰のおかげだったか。
もしあの時、海に落ちて助かったのがクーだったら、自分はどうなっていただろうか。
もう少しだけ、この世は平等であるべきではないか。



506: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:52:54
(´・ω・`)「…決着をつけよう。クー…お姉ちゃん。実を言うと俺も無理してたんでね」
川 ゚ -゚)「ん…?」
(´・ω・`)「そろそろ脳が茹で上がりそうなんだよ。頭痛が酷い」

余裕なようで、ショボンは本気で戦っていた。
1年前にジュルジュ長岡と戦った時もここまでは脳を使わなかったが、今回は別だ。
人は普段30%しか脳を使えていないと良く聞くが、つまりはそういうことなのだろう。

この時ショボンはおそらく、脳を80%は使っていた。
ほんの小さな風の音。機械音。相手の挙動、露出した機械の腕の関節の動き。クーの視線。
それらを同時に脳というコンピューターで計算し、攻撃場所を算出し、避けるための動きを導き出す。

そうすれば理論的に絶対避けられない攻撃でない限り、避けられる。
どんな攻撃も当てられるし、どんな技だって使いこなせる。
あくまで理論上の話だが、ショボンは本気でやれば、自分は何だって出来ると理解していた。

そう。
簡単ではないが、何だって出来ると。

川 ゚ -゚)「…良いだろう。私も、さっきお前が言わんとしていた事が何となく理解できて来た」

昔、研究所に居た頃のショボンの秀でた点。
それは強いて言えば、全てにおいて。劣った所はなく、何でもそつなくこなした。

(´・ω・`)「証明してみよう。俺の考えが当たってるかそうでないか」
川 ゚ -゚)「そうだな…確かめてみよう。私の予想が当たっているかどうか」

二人の間に、風が巻き起こる。
巻き起こった風はクーの体に流れ込み、腕の排出口から収束されずに吐き出される。
収束して掌から打ち出せば、あの風の刃になるのだろう。

今、分散された風は複雑な気流を生み、クーの両腕に渦巻いていた。
橋でショボンを引き裂いた2対の竜巻、神砂嵐。
ショボンに向けて風巻く両腕が突き出され。

川 ゚ -゚)「試してみろ。本物かどうかを…!」



507: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:53:08
そして、放たれる。
目には見えない破壊の渦が、交差しせめぎあって暴虐の風となり。
ショボンは、避けようともしなかった。

(´・ω・`)「別に偽者でも良いが…偽者でもこれくらいは出来ないとな…!」

背中が見えるほど大きく拳を振りかぶる。
脳が痛い。瞬きする一瞬が生死を分ける。
複雑な風の流れ。小さな風の刃が幾重にも折り重なった渦に、それは必ず発生する。

(´・ω・`)「逆十字闘技・ソニックトルネード…俺なら出来るはずだ…!」

風に巻き上がった土埃から、渦の構成を全て読み取る。
狙いは最前部、最小のダメージで抑えられる場所。
そこに生まれる、風の十字交差点。

(´・ω・`)「…見えた!!」

そこを、打ち抜く。
渾身の力で放った生身の右拳が、風に裂かれながらも十字の風の交差点を捉えた。
風の流れが逆転し、何割かは軌道を逸れて拡散する。
残った何割かの風は逆に収束し、高密度の竜巻となってクーに跳ね返る。

川 ゚ -゚)「…!やはりお前は…!!」

跳ね返った竜巻を、腕に纏った風を操り相殺せんと押さえ込むクー。
実質神砂嵐の2連発と同じだけの負荷がかかり、スペアの左腕が吹き飛んだ。

川 ゚ -゚)「天才の…」

残った右腕に全圧力を預け、風を全力開放。
力任せに風の力場を押しつぶす。
爆発にも似た風の相殺、収縮になぎ払われながら、クーは確信した。

川 ゚ -゚)「天才、か…!」

小さく呟きながら、クーの体は地面を滑り駐車場に止めてあった乗用車に激突し停止した。
左腕は吹き飛び、残った右腕もひしゃげている。
顔をあげると、右腕を真っ赤に染めて近づいてくるショボンが見えた。



508: 名無しさん :2007/10/25(木) 02:53:22
すぐ傍まで来たショボンが右手を差し伸べようとして、かぶりを振って左手を差し伸べた。
その手とショボンの顔を見上げながら、感慨深げにクーはため息を吐いた。

川 ゚ -゚)「…負けた、か。これから私はどうすれば良いんだろうな…」
(´・ω・`)「らしくない言い草だな?俺より強くないと存在価値がないとでも思ってるんじゃないか?」
川 ゚ -゚)「私は…研究所以前の記憶がもう、ない。だからお前の保護者きどりの自分しかなかった。けど、もうそんなのはいらないだろう?」

やはりそう来たか、面倒臭い。
いらん所で素直だから俺にとっちゃタチが悪い。
そういう露骨な表情を浮かべながら、ショボンは内藤が戦っているだろう方向に向いて、言いにくそうに口を開いた。

(´・ω・`)「そんなとこだろうと思ってたが…その、なんだ。あんまり思い込むこともないだろう。それならそれで別の生き方だってある」
川 ゚ -゚)「ふふ…普通の女ならそうしても良いかもな」

クーは自らの右腕を見ながら、指を動かした。
ひしゃげて剥き出しになった内部機構が、指に連動して動く様子が見える。

川 ゚ -゚)「けどさ、私の体は戦闘用だろう?ラウンジの侵攻からお前を庇うために、お前を倒してラウンジに連れ帰る…それも叶わない今、他に何が出来るのか…」
(´・ω・`)「そりゃお前……ウチで味噌汁作るとかな」

すぐそこでまだ爆発音がしているというのに、その一瞬だけ音が止まったように感じた。
ギコや市長が聞いていたら末代まで語り継がれただろうその台詞を理解するのに、クーは停止した脳細胞に活を入れねばならなかった。

川 ゚ -゚)「―――は?」

間抜けな声をあげて、右目を丸くして。
見上げた先には明後日の方向を向いて表情がわからないショボン。
向こうで起こっている戦闘が気になるのだろうと頭は冷静に考えたが、それがなぜか可笑しくて笑いが込みあがってきた。

川 ゚ -゚)「は…はは。くっく…あはははは!」
(´・ω・`)「…なんだよ」
川 ゚ -゚)「また随分と…くく…お決まりの文句を言ったな。ふふっ…」
(´・ω・`)「んん?」
川 ゚ -゚)「お嫁さんになってくださいと来たか…はははは!」
(´・ω・`)「ちょっ、待て。誰がんなこと言ったよ」

これまでにない、まさに苦渋そのものといった顔のショボンが自分を睨んでくるのがまた面白くて、クーは笑った。
舌打ちしてまた明後日の方向を向いたショボンが可笑しくて、また笑った。
こういうのも悪くはないと、笑わなかった年月分クーは笑った。

何かに気付いたショボンが自分を抱いて地面に伏せても、クーはまだ笑い続けていた。
衝撃波がクーの持たれかかっていた乗用車を吹き飛ばした時、地面に伏せてお互いの顔が近づいた時に。
クーが何か言ったようだが、ショボンには良く聞こえなかった。



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