( ^ω^)ブーンの妄想が現実になってから1年後

552: 蕎麦屋 ◆SOBAYAmrcU :2008/02/05(火) 07:58:39
―ドクオの場合―

病院から数百メートル、住人がいなくなった住宅街は騒音に塗れていた。
ガラスの割れる音、コンクリートの砕ける音に、普通の生活では聞けない鋭いエンジン音。
そして何より、鉄と鉄とがぶつかる音。

果たしてこれで何度目か。
白い機影がビルを蹴り、黒い機影に襲い掛かった。
交差する刹那に音は無く、すれ違った両機は再び互いを見つめ相対する。

(*゚∀゚)「あぁん…またはずれ!」
('A`)「もうちょい踏み込んでみたほうが良いかな」

器用にも電柱の上に着地したリリィを見上げながら、ドック・オーが僅かに後退した。
病院を出てリリィと戦闘と開始してから、何度か今のような攻防があったが、両者ともに決定的な一撃は与えていない。
その理由はドック・オーの盾にあった。

元は飛行用の翼だったそれは、ドック・オーが持つ数素ない武器だ。
後部座席に乗ったつーの腕と連動し自在に動く盾にして、高周波振動する刃を内臓した大型の斧。
当たりさえすればリリィの装甲も叩き切れる。

('A`)「当たりさえすれば、な…」
(*゚∀゚)「そうは言うけど難しいよ、すばしっこいし。ドクオ君もああいう運転できないの?そうすれば当てて見せるよ」
('A`)「どうにかして動きを止めらんねーかな」
(*゚∀゚)「むぅ、華麗にスルー…っと!」

リリィの機銃が展開する音を聞き、つーが盾を構える。
ドクオも即座にペダルとアクセルを操作し、火を吹いた機銃の射線から逃れた。

('A`)「場所が悪いんだよ、場所が!大通りまでいくぜつーさん、広けりゃ俺のスーパーなドラテクがブイブイよ!」
(*゚∀゚)「なんでか分からないけどすごくダメ臭いよその台詞!」

機銃弾を防ぎながら走りだしたドック・オーを、少し遅れてリリィが追いかける。
機動性では及ばないが、直線での走行速度なら互角だ。大通りまでなら行ける。
そう思ったとき、つーの耳がはじめて聞く機械音を聞いた。

(*゚∀゚)「!?…ちょっ!」

つーのバイザーに後ろから追いかけてくるリリィの姿が一瞬映り、消えた。
残った緑の光が軌跡を残している。
その軌跡は、ドック・オーのすぐ隣まで伸びて。



553: 名無しさん :2008/02/05(火) 07:58:58
('A`)「!?」

驚いた時には、ドック・オーの左側すぐそばをリリィが併走していた。
リリィのカメラアイが光るのが見える。
9本のパイルバンカーが、ドック・オーの装甲を貫こうと踊りかかった。

('A`)「なんとぉーっ!?」
(*゚∀゚)「くぅうっ!」

機銃掃射に備えて背後に回していた盾の片方を、つーが何とかパイルバンカーに合わせた。
何本かのパイルバンカーは盾に突きたった。針先が盾の表面を削り火花を散らす。
同時にドクオもリリィに対し正面を見せる形で機体をドリフトさせていたが、あまりにも距離が近すぎた。

盾をすり抜けた数本のパイルバンカーがドック・オーの装甲を削り、そのうちの一本が、ドック・オーの右前脚を穿つ。
間接部分を貫かれた脚が、自重と慣性の負荷を支えきれず瞬く間に自壊した。
急激な方向転換の最中に前脚の1本を失い、さらにパイルバンカー9本分を受けた衝撃で、ドック・オーのバランスが大きく崩れる。

('A`)「うお!?」

加速しきってなかったとはいえ、時速は優に100キロを超えている。
この速度でコントロールを失えば、乗っている者は少なくないダメージを受けるだろう。
ドクオは咄嗟に叫んでいた。

('A`)「つーさん!!」
(*゚∀゚)「はいな!」

それだけで通じたのか、同じことを考えたのか。
つーは、防御にまわさなかった右の盾を地面に突きたてた。
破壊された右前脚の変わりに盾がドック・オーを支え、強引ながらも何とかバランスを立て直す。

('A`)「っと…つーさん偉い!」
(*゚∀゚)「もちのろん!それよりもっかい仕掛けてくるよ!」

走行途中で脚を1本破壊されながらも懸命に体勢を維持したドック・オーに対し、脚部の剛性で劣るはずのリリィはどういう手品か、地面との摩擦などないような滑らかに過ぎる挙動で、あっさりとドック・オーに面を向けていた。パイルバンカーを引き戻す気配が装甲ごしに伝わってくる。
この時ドクオは、何も考えずにドック・オーのアクセルペダルを踏み込んだ。

('A`)「えぇいなるようになれぇ!!」

同時にコンソールを操作、パターン登録していた動作を読み込み、実行。
爆音。機体後部に設置された、飛行用エンジンから瞬間的に大推力が生まれる。
半ば機体を預けるようにして飛び掛ったドック・オーを、攻撃動作に入っていたリリィは避けることが出来なかった。



554: 名無しさん :2008/02/05(火) 07:59:13
昔から攻撃は最大の防御と言うが、さすがに偉い人が残した言葉なだけはある。
尋常でないスピードアップを見せたリリィに対しドクオが仕掛けた体当たりは、効果的な奇襲でありカウンターであった。
総重量で勝るドック・オーの機体に押され、咄嗟に回避しようと半ば中空にあったリリィの機体が弾き飛ばされる。

体当たりを仕掛けたドック・オーも前脚を失ったために、完璧な着地が出来ずに前倒しに転倒した。
リリィが目の前に建っているマンションの1階に突っ込んでいく音を聞きながら、ドック・オーは再び翼を地面に突きたてる。

(*゚∀゚)「結局こけるんじゃ私のナイスフォローが無駄に!?ガビーンだよ!」
('A`)「むしろもう一回お願い!ブレーキブレーキ!」
(*゚∀゚)「いや、もうやってるけどさ!」

火花を散らし路面を削りながら滑るドック・オーが、どうにか停止した。
片翼を杖に立ち上がり、前脚をタイヤ状態に戻して体勢を整えようとしたが、やはり片脚がないと変形もできない。
著しく機動性を損なうことになったが、機体強度で劣るリリィも相当のダメージを受けただろう。

('A`)「…一応してやったりってとこか」
(*゚∀゚)「あの金髪キザ男、目回してたりして」
('A`)「激怒してたらウケルよな」

見てみると、リリィが突っ込んだのはマンション1階にある部屋だった。
管理人室か何かだろう、小さな庭がついている。その庭のフェンスと花壇を粉砕して、部屋の奥のほうで止まったようだ。
おそらく発射直前だったためか、パイルバンカーが暴発したらしく、粉砕された天井や壁の破片でリリィの姿は確認できない。

(*゚∀゚)「それにしてもあの加速…あれがペニサスさんの言ってた…えと、何とかドライブ?」
('A`)「スキルエミュレータドライブな。多分そうだろ…誰のか知んねぇけど、とりあえず動きが速くなるスキルみたいね」
(*゚∀゚)「ということは…」
('A`)「ああ、準備しといてつーさん。1回しか使えないらしいから、ばっちり頼むぜ」
(*゚∀゚)「こういう時はもっと失敗しても大丈夫だから、とかいって欲しいなぁ…」

渋い表情を作りながら、つーは自分のバイザーについているスイッチを切り替える。
ドック・オーのカメラからの映像に重なってウインドウが開き、ドック・オーの秘密兵器とでも言うべきプログラムが走り出した。
それこそが火器を拝してまでドック・オーに搭載された、ペニサスの研究成果だ。

DATの恩恵によって生まれたSEドライブを人の知恵で模倣できないかと足掻き、限りなく近づきながらも今一歩及ばなかったモノ。
製作者であるペニサスが満足のいく小型化が出来なかったそれに熱が入り、ドック・オーのメインCPUのリソースが食い潰されていく。
SEドライブと同じようにドック・オーの機体から発振機がせり出し、鳴動を始めた。

('A`)「さぁて…出てきなリリィ。いや、FOX…!」



555: 名無しさん :2008/02/05(火) 07:59:29
……マンションに突っ込んだ際、パイルバンカーで瓦礫を作った。
おかげで向こうからはこちらが見えず、こちらからは隙間からどうにか向こうが見える。
どうやら出てくるのを待っているようだ。

FOX「さて、どうするか……」

FOXはリリィのハンドルソケットから手を抜き、思案するように顎をさすった。
眠たそうにも見える半目は酷く退屈そうで、とてももはやバイクとは呼べないほどの機動兵器での高速戦闘の後とは思えない。

FOX「かなりイイ線には行っていると思うが、どうにも、な…彼はリリィを通り越して私こそを敵と認識している。それが良くないのか…それとも彼の相手はあくまでリリィと認識してしまっている私が悪いのか…私個人の意思としてはそれでも良いが、この体はもう退屈で仕方が無いようだし」

展開装甲で覆われた運転席で、FOXは誰ともなく思考を垂れ流す。
そのたびにリリィのディスプレイに一人でに文字が綴られて行き、FOXの目は、その文字の進みを追っていた。

FOX「確かに…ある意味これが試金石になるかも知れんな。もとより拾い物のような物だ、無かったものと考えても結果によっては得か…この体にあまり抵抗されても叶わん」

ふむ、と一息ついて、FOXは運転席の装甲展開を解除してみた。
人が抜け出る程度のスペースは充分ある。

FOX「好きにしろ…敗者は勝者に従うものだ。私は別に恨まんよ」

FOXはディスプレイを指で小突くと、キーパネルを叩き何事かのコードを打ち込む。
シートベルトを外し運転席を離れる際、FOXは自分の周囲数メートルの"音の伝達”を規制して、起動モードの立ち代ったディスプレイに向けて呟いた。

FOX「それはそれで…燃えるからな」



556: 名無しさん :2008/02/05(火) 07:59:43
―傍観者の場合―

やっぱ納得いかないなぁ。
仕事を終え、もはや事態を見守るだけの傍観者の高見台となった大学地下不思議研究所の静寂は、唐突な一言で打ち破られた。

ξ゚听)ξ「何ですかいきなり」
('、`*川「今回の事の顛末よ。やっぱり現状では正しい情報があまりにも少なくて、ラウンジ側の筋書きがちーっともわかんない」
ξ゚听)ξ「…別に分かっても何が出来るでもないんじゃ?」
('、`*川「ダメよ、ツンさん。何事も好奇心を持たなきゃ老けるの早まるわよ」
ξ゚听)ξ「私まだ老いを気にする年でもないんだけど…」
('、`*川「…どうせ私は三十路前よ。そうですよーだ。けど二十歳越えたらすぐなんだから。ちょっとピチピチのお肌してるからって油断してるが良いわよ!」

ξ゚听)ξ (結構キてるわね…暇な時じっとしてられないタイプかしら)

ドック・オーをどうにか仕上げて送り出してから、ペニサスはもう何杯か数えたくない程コーヒーをおかわりしていた。
余談だがコーヒーは比較的水分の吸収が遅く、胃が悪い人はコーヒーを大量に飲むと一時的な脱水症状に陥ることがある。
いや本当に余談だけど。

ξ゚听)ξ「そんなに腐らないでくださいよ、もう…で、どの辺が納得できないんです」
('、`*川「うむうむ。あんまり頭のよろしくないツンさんに説明してあげようじゃないか」
ξ゚听)ξ「あ、あるぇー?何か不当な評価を受けた気がしますよー?」
('、`*川「わりと真っ当な評価だわよ。まずは事のあらましを俯瞰的に整理してみましょうか」

よほど暇だったのか、それとも誰かに説明しながらでないと考えをすっきり纏められないタイプなのか。
ともかく何にせよ、ペニサスは自分たちが知りうる情報からなぜ今のような状況になったのかを説明しだした。

('、`*川「時系列で考えると、おそらくラウンジは受け入れ都市3つに対して同時に制圧作戦をかけたと思われるわね。
最初に制圧されたのは守りも薄く、すでに半分ラウンジの息がかかっていたようなもののアスキーアート。
そしてここ、ニュー速市が抵抗している間にメルボルンが無血降伏…メルボルンの唯一絶対の戦力であるハインリッヒ高岡の人形群は直通でこちらに現れたことから、少なくともハインリッヒがラウンジへ協力しているのは確かよね」

('、`*川「で、ニュー速市内の話だと、かなりレベルの高い能力者による検閲境界…まぁいわゆる結界ね。
これが張られたことにより外部からは市内の状況は分からないから、ラウンジとしてはある程度好き放題できるようになった。
まずはホルダーをいくらか拉致…内藤君は自力で帰ってきたけど、ほかの人はもうどこかに移送されてると見て間違いないわね。
そして街で暴れて、残っていた少ない市民を一箇所に誘導することに成功…これは戦える人とそうでない人を見極めるためだったと考えられなくもないわ。
今は病院に集められた市民を守るために戦える人達が頑張ってる、と…こういう流れな訳だけど」

ξ゚听)ξ「はあ…まぁそうですけど」
('、`*川「ね?おかしいと思わない?」
ξ゚听)ξ「いやそんなこと言われても…どうせ私バカですから。パープリンですから。若いだけですから」
('、`*川「そんなに怒らないでよやぁねぇ」



557: 名無しさん :2008/02/05(火) 07:59:58
('、`*川「とにかく、変なことだらけなのよ。まず一番変なのは、ニュー速市にきた理由がまるで戦う相手を探しに来たみたいってことね」
ξ゚听)ξ「えぇ?だってホルダーを拉致しにきて、その後騒いで残ったショボン先生やドクオ君、内藤が…あ、ほんとだ言われて見れば…」
('、`*川「そう、ホルダー確保が目的なら拉致した段階で撤退、制圧が目的なら他にやりようがあったはずなのよねぇ」

それに、とペニサスは座っている椅子の背もたれに体を預け、手に持ったマグカップをさすった。
もう冷めたコーヒーが小さく揺れる。

('、`*川「それに…やっぱり不自然なのはシティ・メルボルン…あのハインリッヒ高岡が居ながら無血降伏は有り得ない…」

制圧されたらしい各国々は、ホルダーという特殊な力に対しての対抗力を持っていない。
そもそも制圧といっても、それはおそらく政治的なレベルの話で、戦争をした訳ではなく内々から長い時間をかけて手を回していたのが一斉に行動に移されただけだろう。
つまりホルダーはそれほど関与していないはず。

ならばラウンジの保有するホルダーの大半をメルボルンに充て、それを持ってハインリッヒを打倒し服従させたか?
それも否。ハイリンッヒ高岡という存在は、ペニサスのような研究者にとっては良く知られている半ば都市伝説のような存在。
彼、あるいは彼女は、そういったホルダーに負けもしなければ服従もせず、それ以前に意思の疎通もとれないはずなのだ。

('、`*川「ツンさん、ハインリッヒ高岡はラウンジ全てを相手にしても条件次第では勝てる、って前に言ったわよね」
ξ゚听)ξ「ええ、すごく強いんでしょ?」
('、`*川「うん。すごく強いはずよ。だってハインリッヒってね?」

ハインリッヒ高岡という個人を認識できる人間は存在しない。
何故ならばハインリッヒ高岡はさして珍しくも無い何かを――大抵は意識を移し操りやすい、人と同じ形をもった人形を――操るというスキルを"極めすぎた”存在であるからだ。
長年に渡り幾百幾千の人形を同時に操っているうちに意識は拡散、細分化し、いつしかオリジナルの人の体を思い出せず自分の体に戻れなくなった、体を失くした人形遣い。

それがどうやら、少なくとも数百年規模の昔の話らしい。
まだ人がスキルを必要としていた時代の人間。まだ強力なホルダーがたくさん居た時代。
その時代から現代まで存在し続け、研究者の間で語られ続けてきたハインリッヒ高岡、それはもはや個人ではなく現象であるとも言える。

('、`*川「殺せないのよ。誰にも…」



558: 名無しさん :2008/02/05(火) 08:00:19
一瞬、静寂が戻ってきた。
人の体を抜け出し意識だけが人形を操り続け、遠い昔から今も生きて…いや、存在している。
それはまるで。

ξ゚听)ξ「幽霊…ってことですか?」
('、`*川「メカニズム的には同じかもしれないわね。問題はそれをどうやって手懐けたか…世界レベルでの事の運びとこのニュー速市内での騒動とは何か指針の違いみたいなものを感じるし、そこん所が分かればまた事情も違って…」

「…シティ・メルボルンがラウンジの手に落ちたのは1年前の話でございますよ」

('、`*川「!!」
ξ゚听)ξ「誰!?」

突然介入してきた声に、弾かれたようにツンが反応した。ペニサスも身を固くしている。
男の声だった。当然知っている声ではない。
となれば、ほぼ間違いなく敵ということになる。

しかし、この地下研究所は誰にも知られていないはずだ。
出入り口は一つだけ、それも丈夫な鉄の扉で守られている。
それなのにどうやって、気付かれもせずに侵入したのか。

「これは失礼。驚かせるつもりはなかったのですが…」

声に続いて杖をつく音と硬い革靴の音が響き、出入り口に通じる廊下の暗がりから、初老の男が姿を現した。
穏やかな顔をしているが、気配がない。不気味だ。
敵意がないとかそういう話ではなく、そこに立っている気配そのものがない。

( ̄ェ ̄)「どうも隠形が癖になってしまいましてな。ご安心なさいませ、貴方たちに危害を加えるつもりはありませんので」
('、`*川「…あなたは?」
( ̄ェ ̄)「私の名はウローン。少し物知りなだけのただの一般人と思ってもらって結構です」
ξ゚听)ξ「一般人がどうやってあの扉を開けてきたってのよ!」
( ̄ェ ̄)「ああ、修繕費用は最小限に留めてありますのでご安心を…これで少々、閂を外させて頂きまして」

ウローンと名乗った男は、手に持った杖の柄を少し引き抜いて見せた。
覗いた刃が鈍く薄明かりを受ける。仕込み杖だ。

('、`*川「…鉄製のロックをね……貴方、ラウンジの人でしょ?私達を始末しにきたって訳ね?」
( ̄ェ ̄)「いえいえ滅相もない。それに私はラウンジと関係はありますが、必ずしも味方しているということはありませんので」

ツンを後ろに庇いながら一歩退いたペニサスに向けて、ウローンは穏やかな笑みを向けた。
その笑みのまま勝手にコーヒーメーカーから3人分のコーヒーを淹れて、テーブルに置く。

( ̄ェ ̄)「それよりも…先程の話の続き、気になりはしませんかな?」



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