( ^ω^)ブーンの妄想が現実になってから1年後

750: 名無しさん :2009/07/13(月) 05:40:43
攻撃を受けた内藤の左腕が軋む。
どうやら今のFOXの一撃で、折れた左腕の骨がまたズレたようだ。人工筋肉がさらに強く締め付けていた。
痛みは感じないが、強烈な不快感があった。

(;^ω^)「鉄山靠!どうしてあんたが…」
FOX「私ではなく、ハインリッヒがな。数百年も生きているのだ、それくらいの事は出来るよ」
(;^ω^)「それじゃチートだお…!」
FOX「年の功というのは偉大でね」

平然とした口調のまま、FOXが地を蹴った。
地面を貫くような震脚に、踏み抜かれたアスファルトがひび割れる。
衝捶と呼ばれる突きを、内藤の手が上から押し付けるように防いだ。

FOX「だから、同じように長生きした私にも分かることがある」

かと思うと、FOXの動きが唐突に変化し、打ち下ろすようなソバットが内藤の肩に叩き込まれる。
続いてよろめいた内藤の顎にショートアッパーを見舞いながら、FOXはなおも口を動かした。
呼吸する必要のないFOXは、動作の最中であっても喋り続けられるようだ。

(;^ω^)「くっ…!」
FOX「おそらく君はもっと強いはず」

体勢の崩れた内藤の胴に、FOXの肘がめり込む。
紅夜叉の装甲とぶつかった肘が、まるで金属をぶつけたような鈍い音を立てた。
内藤はたたらを踏んで何とか堪える。

(;^ω^)「どっからそんなはた迷惑な考えがわくんだお……」
FOX「モニュは君の事を弱いと言ったが、それは恐らく精神的なものだろうな」
(;^ω^)「僕は全力でこの程度だお。過大評価は…」
FOX「自分でも分かっているんじゃないかな?」



751: 名無しさん :2009/07/13(月) 05:41:06
FOXがゆっくり内藤から離れた。
纏っていたプレッシャーも消えている。
恐らく開放していたハインリッヒの力を再び規制したのだろう。

FOX「自分の強さを知って、弱くなった・・・という所か」
( ^ω^)「……?」
FOX「ところで君が着ている紅夜叉だが、それはある程度鍛えていないと着用できないと知っていたかね」
( ^ω^)「VIPは自分で消去したお。けど、少しだけ…身体強化が残ってるお。そのおかげだお」
FOX「消したものは残らない。身体強化が残留しているのなら、君のVIPは消えていないということだ」
(;^ω^)「!?」

紅夜叉のヘルメットの中で、内藤の目が見開かれた。
自分で捨てたはずの力がまだ残っている。
そう言われて芽生えたのは、希望ではなく半ば嫌悪に近い感情だった。

FOX「もちろん使えなくなってはいるんだろうがね。それでも力は残っている」
( ^ω^)「そんなはずはないお。僕は確かに…」
FOX「残り続けたのは…そうだな、トレーニングでもしたか?他人の武術を、自分のものに出来るかどうか」
( ^ω^)「――!!」

内藤の背筋に冷たい電撃が走った。その通りだった。
確かにFOXの言うとおり、内藤は密かに修練の真似事をした。
強くなりたいがためではない。逆だった。

自分の体に染み付いているホライゾンの技を、どこまで思い出せるか。
どこまで意識し、扱え、それがホライゾンではなく自分の技であると認識できるか。
身についた力は誰のものなのか。

FOX「身体強化のような類のスキルは効果が常駐する。気持ちの持ちようだが、それなりに体を動かせば効果は薄れにくい」

結果は、内藤の予想を裏切った。完璧だった。いや、完璧になっていった。
ジョルジュと戦った時は無我夢中で、余計なことを考えていなかったからこそ、どうにか技の形を為したと思っていたのに。
鍛錬もしていない自分の肉体は未だ強靭で、習得していない技術は依然、自然と再現できる。

スポンジが水を吸い込むように、という表現があるが、まさにその逆だった。
染み込んだ水は、絞れば湧き出る。



752: 名無しさん :2009/07/13(月) 05:41:22
自分で修練を積んでいない能力が転がり込んできて、それを自在に扱える。
闘争を知らない平和な日々であるならば。
ある日突然目覚めた力と武術の技は、まさに内藤の焦がれたものだった。

力を手に入れれば、人は変わる。
しかし告白すれば、内藤はツンを助けた後で、自分の能力であるVIPを恐れた。
だから力を消したかと問われれば、その通りかもしれない。

ホライゾンから受け継いだ武技。
嫌悪は感じなかった。それが自分の力ではなく、あくまでホライゾンの力だったから。
おかげで1年前、ツンを無事に助け出せた。

だが力は無用の争いを招くことも知った。
しかもその力は偶然拾った、他人の努力の結晶だ。
力に憧れ、その状況に置かれた自分が浅ましく思えた。

( ^ω^)「この力は・・・僕のものじゃないお」
FOX「君の力だ」

何故こうも馴染んでしまうのか。
そうなるまで何故、確認作業を続けてしまったのか。
内藤は否定したかったのだ。自分に力があることを。

人は自分に無いものを欲し、その実態を知るのはソレを手に入れた後なのだ。
ジョルジュ長岡を倒しツンを取り戻すために降って沸いた力は、自分が妄想し続けたシチュエーションを充分満たすものだったが…
それは、憧れるほど格好が良く、都合の良いものではないのではないか。

( ^ω^)「……あんたがこの街に来たのも僕のせいなのかお」
FOX「その通りだ」
( ^ω^)「僕がジョルジュ長岡を倒したから?」
FOX「それもある」
( ^ω^)「…また僕を戦わせるために?」
FOX「ああ」

FOXは黙ったまま、じっと内藤の眼を見つめていた。
紅夜叉のバイザー越しだというのに、余りにも真っ直ぐに。
それでは、この戦いが起きたのは。

( ^ω^)「じゃ、結局僕のせいかお?強くなったから。消したはずなのに、まだ力があったから」
FOX「……」
( ^ω^)「紅夜叉を着て走った時、ちょっと楽しかったから?分かったつもりだったのに、変に正義感だして戦ったからかお?」
FOX「違うな」

勘違いするな、というようにFOXは軽く首を振った。
諭すような眼が、内藤を見つめ続けている。

FOX「君も、力そのものも悪くはない」



753: 名無しさん :2009/07/13(月) 05:41:38

FOX「強大な力を持っていれば、たしかにいつかは争いを呼ぶだろう。だが、それは力のある者のせいか?」

違う。断じて違う。
FOXは、そう力強く言い放った。

FOX「その力を手に入れようと、危機感を抱き打ち倒そうと、あるいはどれほどのものか試そうと。そうする者が悪いのだ。敵なのだ」
( ^ω^)「…・・・」
FOX「力に善悪はない。争いが起こるのならば、それを起こしたものが悪なのだ。今この時、君にとっては私が悪であり、憎むべきは理不尽に争いを仕掛けたこの私だ」

至極当然の理論。
殴られるほうが悪いのではない、殴るほうが悪いのだ。
たとえ持った力が強大でどれだけ目立とうと、何もしていないのに攻撃を受けるのならば非は無いのだ。

( ^ω^)「なら…あんたは何で僕と戦うお」
FOX「私が為さねばならんことを為すためだ。私にとっての正義だが、君にとっては理不尽な暴力でしかない」
( ^ω^)「難しいこと言っても結局は争いを呼び込むんだお?それじゃあ…力があったって良いことじゃないお」
FOX「確かに不運ではある。大いなる力には責任が伴い、それは抗いようのない運命として人生に付き纏うだろう」

この私のように、とFOXが呟いた。

FOX「力がなくては意志を通せず、意志なき力は虚ろだ。力を持ってしまう者は明確な意志を持たねばならん」
( ^ω^)「あんたの意志は?」
FOX「…私はもうじき、ハインリッヒを抑えられなくなる。そうなった時に私を止められる者を見つけ、その後を託しておくのが最後の責任だ」
( ^ω^)「それが僕だと?」
FOX「世界を見渡しても、可能性のある人間は少ない…悪いが君は第一候補だよ」
( ^ω^)「…運命…かお」

ホライゾンもこういう気持ちだったのだろうか。
他に選択肢がない状況で決断を迫られた時。
それでも前に進めた彼は。



754: 名無しさん :2009/07/13(月) 05:41:52

( ^ω^)「ふぅ……最後にひとつ。ハインリッヒとかいうのがあんたの体を完全に乗っ取ったとして…」
FOX「ふむ?」
( ^ω^)「僕にはどんな実害が?僕が止めるメリットはあるかお?」
FOX「…何とも、即物的だな」
( ^ω^)「あんたみたいに年寄りじゃないんだお。悪いけど、世界の危機だなんて言われたとしてもピンと来ないお」
FOX「おそらくだが…私の側でないラウンジの連中がハインリッヒに従い…」

内藤が軽く手を振ってFOX言葉をさえぎった。
いぶかしむFOXに、腕をくんでふんぞり返ってみせる。

( ^ω^)「そうじゃないお。もっと分かりやすくて、単純な言葉だお」
FOX「………なるほど」

珍しい物を見たような顔で、FOXは一瞬だけ笑みを見せた。
すぐに笑みは消え、十字を切るのに似た奇妙な祈りのような動作をする。
もう忘れ去られた敬意を示す印。

数百年前、FOXの故郷にあったものだ。
一拍おいて、FOXは真摯な眼差しで口を開いた。

FOX「君の恋人が死ぬ」
( ^ω^)「それで良いお…そう言われちゃあ仕方ないお…」

内藤は腕組みをしたまま大きく息を吸った。
長く、深く。
一気に呼気を吐き出す。開き直るために。

( ^ω^)「仕方ないからついでに!あんたの望みも叶えてやるお!」

理由もなく戦うのは嫌だ。世界の危機も日本の危機も、正直どうでもいい。
悩みもまだある。抵抗もある。
しかしそれが受け入れるべきどうしようもないことで、そうするべき理由があるのなら。

( ^ω^)「FOX…!あんたをボコって鎖でがんじがらめにした挙句マリアナ海溝に沈めてやるお!!」



755: 名無しさん :2009/07/13(月) 05:42:05

内藤の体を包む紅夜叉が蠕動した。
引き絞るように人口筋肉が収縮し、首のアタッチメントから血霧が吹き出る。
それだけではなく、排気の風には炎が踊っていた。

内藤のヘルメットの内側を、見たこともない文字が縦横無尽に駆け巡る。
全身を巡る血液が熱い。まるで自身が炎になったように。
首筋の、全身の廃熱孔から吹き出た熱風が、大気に舞う塵を焼く。

FOX「…分かりやすくて助かるよ」

FOXのプレッシャーが復活した。
規制を解除し、ハインリッヒの馬鹿げた操縦能力を開放する。
対峙しようとする両者の様子を見守っていたペニサスが呆然として呟いた。

('、`*川「……ロード…した…?意識せずに、ブレイザーを…」
ξ゚听)ξ「ちょ、ちょっと…内藤燃えてるんですけど」
('、`*川「あれは紅夜叉の限界出力を無理やり引き出す唯一の手段…だけど…」

だけど、人の身体が機能に追いつかない。
かつて唯一あれを、ロードブレイザーシステムを自分の意思で使用できたホライゾンも、ほんの僅かな時間しか耐えられなかった。
果たして不死身のFOXを相手に、焼き尽くされる前にどうにか出来るとは思えない。

( ^ω^)「ツンーー!!」
ξ゚听)ξ「な、なによ!?」

炎を纏った内藤が叫ぶ自分の名に、ツンは若干上擦った声を返す。
内藤の背中がやけに堂々として、それが何だか怖かった。

( ^ω^)「そこで見ててくれお、僕を!」
ξ゚听)ξ「み、みてるわよ!」
( ^ω^)「ツンのためにちょっくら世界を救うから!!」
ξ゚听)ξ「何いってんのあんた!?」

あの熱風が吹き荒れる場に、はたして声が届くだろうか。
しかし内藤には確かに聞こえていた。
いつもと同じツンの声が。

( ^ω^)「そういう訳でFOX…大急ぎであんたを停止させるお。何となく時間がなさそうだから…!」
FOX「・・・そのようだな」

風と炎の混ざった流線を従えて、内藤が地を蹴った。
FOXが、正確にはハインリッヒの操るFOXの体が迎撃の構えを取る。
戦闘はハインリッヒがやってくれる。
FOXは自らのなすべき作業に備えて、精密に規制のスキルを多重起動した。

FOX (さて…間に合うかどうか)



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