('A`)ドクオが一歩踏み出したようです 第三部

71:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/06/21(水) 23:11:00.86 ID:tLa3SlVX0
  
第三部開始



ドクオが研究室に来てからどれほどの月日が経っただろうか。
今、ドクオには客員研究スタッフとしての肩書きが与えられている。
ただし、あくまで表には出ず、世間や学会からの目の届かない範囲での研究スタッフなのだが。

何にしろ、ドクオは既に研究者としての地位を僅かだが獲得することに成功していた。
あの時の論文…凝り固まった研究室の面々の頭脳を初めてドクオが凌駕した記念すべき論文は序章に過ぎず
ドクオは実に様々な発見や、難解な論文の理解に成功してきた。
もちろん、その業績がドクオのものとして認められることはないのだが、ツンや荒巻の支援の下、
ドクオはのびのびと研究を続ける毎日を送っていた。



75:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/06/21(水) 23:21:02.19 ID:tLa3SlVX0
  
('A`)「ふむふむ…、アメリカの学会では今こんなことが注目されてるのか…」

ロビーで物理雑誌を読みながらコーヒーをすするドクオ。
その姿はすっかり頼もしさを備え、引きこもりだったなどとはとても思えない。
そのドクオに近づく影があった。ツンである。

ξ゚听)ξ「ちょっと、何サボってるのよ。一丁前にアメリカの学会の記事なんか読んじゃって。」

('A`)「あ、ツン…」

二人の間はここのところギクシャクしていた。
ある日を境に急に素っ気無く…というよりむしろ、親しげに接しないようにツンがし出したからである。
ショボーンがやや申し訳なさそうにその様子を眺めているのだが、傍目からは何が起こったのか良く分からない状況で
大方痴話げんかか何かだろうと考えられていた。



77:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/06/21(水) 23:28:39.94 ID:tLa3SlVX0
  
ξ゚听)ξ「荒巻教授が呼んでるわよ、教授室に来てって」

('A`)「あ…、うん、今行く」

ここ数日、ドクオは多忙を極めていた。
物理の実験には良くあることなのだが、実験を始めてから数日間実験にくっついていなくてはならないうえ、
反応がすぐに起こらない。そして新しい領域の実験となると、反応がいつ起こるかも正確に予測できない。

神経をすり減らす毎日に充足感を感じつつも、疲労でドクオの身体はすっかり参っていた。

('A`)「…新しい実験の話なのかな。うーん、イヤだなぁ…。ちょっと2,3日寝てたい気分…」

廊下でドクオはそうこぼした。
慣れとはおそろしいものである。
研究スタッフに上り詰めた時のドクオはそれはもう頑張っていたものだったが、
その立場に慣れてくると、疲れもあいまって弱音をポツポツとこぼすようになった。



2:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:19:05.50 ID:VxnLCIyD0
  
('A`)「失礼します…」

ドクオは教授室の扉を開いた。

/ ,' 3 「ん、よく来たね」

荒巻はいつもと変わらず忙しそうに書類やらなにやらをひっかきまわしている。
片手間のような返事をした荒巻の前のパイプ椅子にドクオは黙って腰を下ろした。

('A`)「…」

あわただしく動き回る荒巻を黙って眺めているドクオの表情はどこか寂しげに見える。

(´・ω・`).o(……)



3:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:19:35.52 ID:VxnLCIyD0
  
ドクオは腐りかけているかもしれない。


想像以上に地味な日々、ドクオの興奮を掻き立てるような発見もなく、淡白に時間は過ぎていった。

実際、こんなものなのだ。
学者達が大興奮するほど発見など、そうそう頻繁にあるわけがなく、大抵は長期にわたる実験と論文検証。

そんなドクオの唯一の楽しみ、タイムマシンの研究。
ツンの元での研究だったが、それは明らかに壁にぶち当たっていた。

そんな状況が、よりドクオの日々を退屈にさせていたのだろう。
/ ,' 3 「ん、すまないね。ドクオくん。今度の実験のことだが…」

荒巻がけだるい説明を始める。長ったるしい説明に、ドクオは少しうんざりしつつも返事をする。

('A`)「はい、わかりました。それでは失礼します。」



4:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:20:07.43 ID:VxnLCIyD0
  
/ ,' 3 「・・・さて、ドクオくんはこれでよしと。あとはモニュ君たちに頼んでこれを片付けてもらわねば…」

(´・ω・`)「…おい」

あくせくする荒巻にショボーンが声をかける。

/ ,' 3 「なんだ、今忙しいのは分かってるだろう、後にしてくれ」

荒巻はここのところ、仕事が立て込んでいて色々と忙しい毎日を送っていた。
誰よりも早く研究室に現れ、深夜まで研究に没頭する。
ある意味独身だから可能なことなのかもしれないが、あまりに仕事に熱をあげすぎている状況だった。それにブレーキを掛ける存在がいないのだから。

(´・ω・`)「…わかったよ。…だけどな、あまり無責任なことはすんなよ。」

そう言い残して、ショボーンは教授室を出て行った。

/ ,' 3 「…? さ、次はこの資料を…」



5:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:21:02.94 ID:VxnLCIyD0
  
…夜の街で一人、酒を飲むショボーンの姿があった。

(´・ω・`)「…まったく、荒巻の奴。ドクオの変化に気づかないなんてな…。デービーになりたいのは結構だが、
手が回らないなら最初からそんな夢は諦めろってんだ…」

ショボーンはウォッカをぐいと口に含むと溜息をついた。

(`・ω・´)「おいおい、あんまり無理すんなよ。そんなに酒強くないだろお前。」

バーのマスターの制止にも聞く耳をもたず、ショボーンは痛飲した。
ドクオと荒巻のやり取りを一番近くで見れるショボーンにしてみれば、
忙しいとはいえ自分の夢の為に引っ張ってきたドクオをほったらかしにすることはどうにも納得がいかないのだ。

確かにドクオは一般の研究者としてもそこそこの水準に達していたが、そんな程度の人材ならいらない。
院に行きたがってる有能な学生はいくらでもいる。『ドクオは特別扱いされなくてはならない』良くも悪くもそれは仕方の無いことだった。

ドクオを活かすには、ドクオが活きる場所を与えなくてはならない。
唯一、それに気づいていたのはショボーンだけだったのだろうか。



6:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:21:34.90 ID:VxnLCIyD0
  
ξ゚听)ξ「ドクオくん、時間が空いたならタイムマシンの研究の続きをしましょう」

('A`)「ん?あ…ああ。」

この日もドクオは働きづめであった。
朝から晩まで退屈な実験経過の記録。少し時間があけばツンとの研究。
タイムマシンの研究はまだ楽しめていたが、ぶち当たった壁をなかなか越えることが出来ず、もどかしさとイライラが募る。
そして殆ど自由の時間がない、この日常にも…

('A`;)(最近しんどいなぁ…)

時間軸に対する見解を書き綴った論文を読み漁りながら、ドクオは溜息をついた。



8:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:23:19.31 ID:VxnLCIyD0
  
ξ゚听)ξ「ねぇ、やっぱり超高速で運動した時の時間軸のズレについてもっと掘り下げて考察すべきだと思うの。」

ツンがこれからの研究方針について意見する。

('A`)「そんな方法はもう世界中でやってるし…、そもそも空気との摩擦に耐えれる素材・形状とかももう突き詰められてるじゃんか。
今更そんなステージに進出しても先にやってる奴らに勝てないよ。新しい角度から切りこんだほうがいいんじゃないの?」

ξ゚听)ξ「突き詰められてるだなんて思ってたら、まだその分野にあるかもしれない新しい切り口すらも見えてこないんじゃないの?
もっとこの方向からもしっかり考えてみてもいいと思うけど?諦めるのはよくないわ、天才くん?」

('A`)「…はいはい、分かったよ。」

研究中、ツンとドクオはこんな皮肉混じりのやり取りばかりしている。互いが自分の主張ばかりを繰り返す。
これでは研究が進むわけがない。あっちへ逸れ、こっちへ逸れ…
最初にぶち当たった壁がどこにあるのかすら、二人は覚えているのだろうか…。



9:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:23:43.83 ID:VxnLCIyD0
  
(・∀・)「頼まれてたレポートあがりましたー」
(=゚ω゚)ノ「今朝、実験経過に変化が見られましたので、そろそろこちらは済みそうです。」
(*゚ー゚)「教授、この論文ですけどー」
(゚Д゚)「ゴルァ」

('A`)「ハァ…」

いつもの研究室、慌しく動き回る人達の中でうずくまるドクオがいた。
進まない研究、休まる暇のない日常、そして曖昧な、たとえばドクオが何らかの発見をしたとしても自分の手柄にはならないであろうこの立場…

その全てがドクオを蝕んでいた。

('A`)「フゥ…なんか…疲れた……」


ξ゚听)ξ「…?ちょっと…ドクオくんどうしたの?暇だったらタイムマシンのけんきゅ…」



            バタッ


ξ゚听)ξ「ちょ…ちょっとドクオくん!ドクオくん!大丈夫!?ドクオくん!!」



11:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:24:33.86 ID:VxnLCIyD0
  


ドクオが目覚めたのは病院のベッドだった。

ツンが涙を浮かべている。
目を開けたドクオに心から安心したという声で「良かった」と溜息のように吐き出したツンは最近のトゲトゲしさはなく、優しい表情をしている。
その表情からぽろぽろと涙がこぼれる、ツンはドクオの手を強く握りながら言った。

ξ;凵G)ξ「…っ…心配…っ、したん…だからぁ…!」

('A`)「…ごめん」

優しくドクオがツンの手を握り返す。
その途端、バタバタと扉が開き研究室の面々が入ってくる。

/ ,' 3 「おい…っ、目を覚ましたって!?」
(*゚ー゚)「大丈夫!?ドクオさんっ!」

('A`)「…ここは?…俺、どうしたんですか?」

自分の置かれた状況を把握できないドクオは、うつろな目で荒巻に尋ねた。



12:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:25:02.75 ID:VxnLCIyD0
  
/ ,' 3 「大学の病院だよ、ドクオくん。君はいきなり倒れてしまって…」

搾り出すように荒巻が言う。

/ ,' 3 「…私が無理をさせたせいだ。すまない。」

(=゚ω゚)ノ「まあ、医者によると大したことはないそうなので、安心していいですよ。」

('A`)「びょう・・・いん?」

ドクオは倒れた時のことを思い出そうとしたが、どうにも記憶があいまいでよく思い出せない。
そうしてる間に医師があらわれ、ドクオの症状を説明しだした。

('(゚∀゚∩「なおるよ医師だよ!」
('(゚∀゚∩「ドクオさんの症状は過労と心労だよ!最近疲れすぎだったんだよ!」

荒巻とツンは内心ドキリする。



13:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:25:26.20 ID:VxnLCIyD0
  

('(゚∀゚∩「これからはあまり無理しちゃだめだよ!」
('(゚∀゚∩「今はちょっと苦しくても おいしいものたべて うんこして寝たら治るよ!」
('(゚∀゚∩「今回は検査入院として何日かは入院してもらうよ!」

('A`)「はぁ…」

/ ,' 3 「…ま、大事にならんくて良かった。今日はゆっくり休むといい。それでは私達は研究室に戻るよ。」

('A`)「あ、はい、すみません。」

/ ,' 3 「や、気にするんじゃない。それじゃあな。」

/ ,' 3 「…すまなかったな…」

小声でモニュが漏らす。
(=゚ω゚)ノ「…はぁ、まったく手間のかかる教授だ。」

荒巻達は静かにドアを閉め、病院を後にした。

('A`)「…教授…」



14:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:26:08.82 ID:VxnLCIyD0
  
その夜、遅くまで荒巻とショボーンはドクオのこれからの扱いについて話し合いを続けていた。

(´・ω・`)「荒巻、とにかく今のままじゃお前が何をしたいのか全然分からないぞ。ドクオを単純に研究員の補充の為に招いたわけじゃないんだろう?」

/ ,' 3 「あぁ、分かってるよ。俺自身自分が恥ずかしいんだ。最近忙しすぎてな。分かってる、もう大丈夫だ。」

(´・ω・`)「・・・ドクオの原動力は夢、つまりはタイムマシンだ。ドクオの力を活かすも殺すも、扱い次第だってことはよくわかったろう。気をつけろよ。
実際、普通の研究員としては数学力に欠けるドクオは水準以下なんだからな。」

/ ,' 3 「あぁ、分かったよ…、…分かった。俺もどうかしてたんだ。」

頭を抱えている荒巻を背に、ショボーンが言う。

(´・ω・`)「さてと、それじゃあ俺はそろそろお暇するよ。研究員が足りないなら院から俺が何とか引っ張ってくるからよ。お前も考え込みすぎないようにな。」

バタン。と玄関の扉が閉まる。
鍵を掛けながら、荒巻は大きく溜息をついた。

俺は何をやっているんだ。俺は何の為にドクオくんをここに招いたんだ。何の為に受験を回避させてまで…。
ツンくんやモニュくんとのいざこざを必死で収めたのは何のためだったか忘れているとは…。
今でも昔ほどの熱意がドクオくんに残っているのだろうか?もし腐らせてしまっていたら、あの才能を捨ててしまったのは自分の責任だ…。

自分の愚かさを呪い、自責の念に苛まれながら荒巻は一夜を過ごした。



15:ドS ◆DOS.18R.Tg :2006/07/17(月) 22:26:49.19 ID:VxnLCIyD0
  
静かな病室。ドクオは日中にたっぷり眠ったせいか眠れず、綺麗な月夜の空を眺めながら考えていた。自分のこと、そしてこれからのことを…


('A`)「最近…疲れてたもんなぁ。それにしても…、まさか倒れるとはねぇ…」

静かな夜である。こんなにゆっくりと時間が流れてる感覚は久しぶりだ。そしてこんなにゆっくりと空を眺めたのも。

('A`)「・・・もしかしたら、潮時なのかもな。」

最近の倦怠感と結果が出ない現状、それは実際の派手さは殆どない物理の現場からすれば当たり前の事なのだが、ドクオはそれを自分の力の無さと考えていた。
その力無い自分がこんな優遇された状態で研究室に居るのは迷惑なのではないかと考え始めたからである。
もう自分もいい歳になってしまったが、すっかり対人恐怖症は無い。場所さえ選ばなければ普通に、まっとうに働けないことはないだろう。

('A`)「…こんな月夜見てると思い出すよ、あの頃はタイムマシン目指して、ひたすらに夜の散歩を繰り返してたっけ。
ずいぶん、回り道したもんだなぁ…。」

脱ヒキの第一歩だった、深夜の散歩の日課。
久しぶりにゆっくり眺めた月が、ドクオにそれを思い出させていた。夢と希望、活力に溢れていたあの頃を。



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