( ^ω^)ブーンがゲイバーのスタッフになるようです
- 84: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 12:10:43.96 ID:ufJwfin60
- 第六話 真夏の夜の祭典in二丁目。
そこは、古びた洋館だった。
黒く変色したレンガの壁に、蔦が幾重にも重なってへばりついている。その蔦の海を辿っていくと、洋館に隣接した巨大な時計塔。巨大な短針が、今12の文字を指そうとしていた。
それを見上げるのは一人の少女。黒髪を腰まで伸ばした彼女は、畏怖のためか、瞬きもせずにじっと洋館を凝視している。
―――さあ、ジェニファー・・・行きましょう
―――メアリー先生!
―――何?ジェニファー・・・
―――私・・・怖い・・・。この洋館に、入っちゃいけないような・・・
メアリーと呼ばれた女性が、ジェニファーと呼ばれた少女の方を抱こうとする。
その時、雲間から唐突の霹靂。
そしてそれに照らされた洋館の窓には、巨大な何かを持った・・・気味の悪い男の姿が、一瞬だけ映し出された。
そして二人は歩み出す。洋館の玄関と思しき、巨大なドアへと向かって―――
- 85: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 12:14:34.92 ID:ufJwfin60
('A`)「判りやすい死亡フラグよね、コレ・・・。」
バー『VIP』内のカウンターにて。
ドクオはボトルの整理をしながら、そう呟いた。
( ^ω^)「でも洋館に入らないと何も始まらないお?」
( ゚∀゚)「ま、ホラー映画なんて死亡フラグの塊すぎてツッコむなってのがムリな話なんだけどなぁ
(´・ω・`)「映画に夢中になるのもいいけど、みんなしっかり働いてね。さもなくば掘り倒すよ」
(;'A`)(;^ω^)(;゚∀゚)『すいません』
慌てて三人は、カウンターの上に設置された巨大なモニターから目を逸らし、それぞれのついていた客との会話に戻る。
ショボンは浴衣の袖をまくりながら、まったく、と苦笑した。
―――今日は七月某日、第三土曜日。
浴衣パーティーの日である。
二丁目近辺でも今日はおおがかりな花火大会があるらしく、二丁目界隈は浴衣を着込んだイナセなオキャマたちでごった返していた。
皆、浴衣から覗く鍛えに鍛えた腕や足、胸元を見せ付けるように、しかし瞳は乙女のそれを維持している。普段は真面目な顔をして会社勤めしている者もこの中にいるのかと思うと、どこか空しい。
さて、そんなことはさておき。
- 86: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 12:18:55.16 ID:ufJwfin60
- その日、VIP内では催し物として、ホラー映画の上映会(ショボンが厳選してきたもので、時計塔という映画らしい)とドラッグクイーンによるショー、それに屋外に場所を移しての花火大会を予定している。
今は初めの段階の上映会だ。
<丶`∀´>「しかしチョッパリの作った映画にしてはよくできてるニダ」
ミ,,゚Д゚ミ「そうだなぁ、俺も映画は詳しくないけどコレは面白そうだ」
他の客もうんうんと頷いている。反応は上々のようだった。勿論、皆手元には酒の入ったグラスが置かれている。
ブーンも同じく、フサにいただいているグラスを傾けながら、なんだかんだで意識はちゃっかりビデオの方に向いていたりするのだが。
さて、映画が始まって数十分。
すでに第一の被害者が出るシーンへと差し掛かっていた。
洋館を歩き回るジェニファー。先生の姿が見当たらない。
せんせい・・・そう心細げに呟き、暗闇の中を進む少女。彼女はバスルームの扉を開け・・・ライトを点けた。
そこに・・・・・・巨大なハサミで串刺しにされた、彼女の恩師・・・メアリーの遺体がある。
ドーーーーーーン!(効果音
ドーン!
ξ )ξ「ウボァアアアアアアアア!」
(;'A`)「嫌ぁああああああああっ!」
- 88: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 12:24:01.83 ID:ufJwfin60
- その巨大な効果音と、ほぼ同時だっただろうか。
突然店のドアが開け放たれると、凄い勢いでデスマスクを被った縦ロールの謎の人物が突入してくる。
右手に美容師の使う大き目のシザー、左手に何故かコンドームの箱。身に纏っているのは女性物の浴衣で、そのギャップが正直異常に怖い。
ξ )ξ「わるいごはいねがぁあああああああ!」
デスマスクはそう叫ぶと、慄いているドクオに向かってコンドームをぺちりと投げつけた。さらに驚いて酒を噴出していたブーンと、苦笑いするジョルジュとショボンにもぺちぺち。
ξ )ξ「まんござまのおどおりじゃぁああああああああ!おまえらのはらわたひきだしてぐっぢまうどぉおおお!」
(´・ω・`)「いらっしゃいツン。今日はハロウィンじゃないから仮装しても何の特典もないよ」
腰を抜かしているドクオに手を貸すと、ショボンは言って珍入者の目の前にメニューを差し出す。
ξ )ξ「・・・・・・」
ξ ゚听)ξ「ま、一応浴衣は着てきたし・・・ワンドリンクは無料よね?」
肩をすくめてデスマスクを脱いだツンが指差したのは、浴衣パーティーのフライヤー。ブーンの書いたイラストが掲載されたそれは、店中にぺたぺたと貼られていた。
- 89: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 12:30:45.74 ID:ufJwfin60
('A`)「もうっツン!驚かさないでよ!」
ξ ゚听)ξ「あはははは、デスマスクは怖いよねぇー」
席に着いたツンの前に、赤面したドクオが立ってまくし立てる。どうもツンは、元々この映画が上映されることを知っていたようだ。
スプモーニ!と彼女が注文を伝えると、はいはいとドクオがカンパリのボトルを手にする。
('A`)「まったく・・・そういうのはハロウィンパーティーでやってよね!もう・・・」
ドクオはひとりごちると、素早くバースプーンを手にし、カクテルを混ぜ合わせた。そしてツンの前に出そうとしてくるりと振り返り、
ξ )ξ「ウボァアアアアアアアアアアア!」
(;'A`)「嫌あああああああああああああああああっ!嫌ああああああああああああっ!」
(;^ω^)「何やってんだおwww」
再びデスマスクを被ったツンと、安心したところに不意打ちを食らって再び叫ぶドクオ。ブーンはフサのグラスを作りながら、呆れて笑った。
- 93: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 12:45:42.15 ID:ufJwfin60
ξ ゚听)ξ「んで、どうなのよ?今日の客入り」
ひとしきりドクオをいじり倒すと(おかげでドクオの着ていた浴衣が随分とヨレヨレになった)、ツンはブーンに向かって言う。まるでおにゃにー後のようなスッキリした面持ちだ。
( ^ω^)「んー、そうですおねー・・・まあまあじゃないですかお?」
( ゚∀゚)「去年よりは多いんじゃねーの?」
割り込んできたのはジョルジュ。右手にウォッカの入ったボトルを手にしている。
ξ ゚听)ξ「確かに、去年はボックス席まで満席、ってまでは行かなかったもんね」
言って、ツンは店の奥にあるボックス席に目をやった。そこはまだ早い時間だというのに、常連客の連れてきた数人の客で賑わっている。
ξ ゚听)ξ「コレもあのフライヤーのお陰かしらねえ?」
( ゚∀゚)「去年までお前が書いてたフライヤーも悪くはなかったんだけどよ、まあ劇画チックにオカマの顔を書いたりするから客ウケは少し・・・な・・・」
ξ ゚听)ξ「私のは芸術だからいいのよ・・・しかしブーン、さすが芸大生なだけあるわね。構図もデッサンもパーペキよ」
( ^ω^)「どうもwww」
褒められて、ブーンは照れくさそうに頭をかく。モニターの中では、ジェニファーが巨大なハサミを持った男に追い回されていた。
- 95: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 12:51:55.14 ID:ufJwfin60
- 映画が終わるのと、店の音響のボリュームが急にハネ上がったのはほぼ同タイミングだった。
フサがうるさそうに耳をふさぎ、他の慣れていない客達は何事かと店内を見回す。
流れているのは、少し前に流行ったdistiny's girlsの曲だ。ただ、ボーカルの声が綺麗に抜かれ、バックミュージックだけが重低音と共に空気を震わせている。。
よくクラブに行くと流れているその曲をバックに、ショボンはマイクを持った。
(´・ω・`)「さて、映画が終わってホッとしたところで、早速次のホラーアトラクション・・・もといドラッグショーに移ろうと思います。」
ピュー!と指笛の音。ジョルジュだ。
今日だけのために作られた簡易のDJブースに、ショボンの知人と思しき男性の姿。
DJは指を立てると、ショボンにOKサインを出した。
(´・ω・`)「それではどうぞ!VIPの誇るクリーチャー・・・もといディーヴァ、ドクヲとマッキーです!」
ショボンの紹介が終わると、DJの流す曲が一瞬だけボリュームを絞られる。
そして・・・バックルームの扉が開いた。
川'∀`)『皆さんこんばんわ!今夜のメインステージを飾らせていただきます!ディーヴァのドクヲです!!!』
() ,' 3『・・・・・・・・・』
- 98: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 13:02:53.75 ID:AAzoY8Bj0
二人のいでたちは・・・なんというか、もう、その、ねえ・・・
ドラアグクイーン、でググってくれるともう紹介する手間も省けていいかもしれない、というほどにその姿は異質で、きらびやかだ。
長身で細身のドクオ、大柄で筋肉質な荒巻。二人の体を包んでいるのは、ピッタリと引き締まった絢爛豪華なドレス。スワロフスキーで豪奢に装飾されたそれは、店内の朧な明かりに照らされてキラキラと鬱陶しいくらいに煌いている。
何より特徴的なのはそのメイク。付けまつげを何枚重ねるんだよ、とツッコみたくなるほど分厚く重ねて装着し、アイシャドーは親の敵のように濃い。またイヤリングも巨大だ。
圧倒される皆を前に、ドクヲはヒールをゴツゴツと鳴らしながらしゃなりしゃなりと歩み出ると、ピンと胸を張った。
川'∀`)『それじゃDJさん!お願いします!』
マッキーは『正直俺って当て馬だよね?ね?』と訴えかけるような瞳でブーンの顔を見つめる。ブーンは目を合わせない。
そして、音楽が流れ始めた。
二人はマイクを手にすると、大きく一礼。顔を上げると、口を開く。
川'∀`)『I'm a stray girl!』
() ,' 3『I'm a lonely girl!』
そして、ショーが始まった。
- 99: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 13:13:00.73 ID:AAzoY8Bj0
( ^ω^)「凄いお・・・・・・・」
ブーンは、歌い続ける二人を見ながら思わず呟いていた。
その過剰なまでの女っぷりもそうだが(特にドクオ)、エンターテイメントとしてのそのショーは、迫力、インパクトともにかつてない衝撃である。
確かに二人は男で、ゲイで、だからあそこまできらびやかな服装を身に纏っているとそのアンバランスさが滑稽でおかしみを帯びている。
だが、道化としての卑屈さはそこにはなく、逆に『もっと私を見て!』といわんばかりの姿勢や歌いっぷりが逆に爽快であり、おかしい。
ξ ゚听)ξ「乱入してぇ・・・・・・」
なにやら腐マンコがハァハァ言っているが、それはまあさておき。
(´・ω・`)「マッキーは・・・・・・だから・・・でないと・・・・給料・・・」
( ゚∀゚)「なるほ・・・・天引き・・・・・・・脅迫・・・かわいそう・・・」
ショーにみとれている客達を尻目に、隣でショボンとジョルジュがやたらと不穏なことをしゃべっているのも、今のブーンの耳には遠く届かなかった。
第一ステージが終わり、ドクヲが羽織っていたドレスを急に脱ぎ捨てる。その下にはまるで全身タイツのようにピッチリした、もう一枚のドレス。こちらはシックに黒で統一されており、胸元にはスワロフスキーが気持ち程度に装飾されていた。
川'∀`)『テンション上げて行くわよー!次の曲お願いします!』
捨て犬のような瞳で見るマッキーを無視しながら、ブーンは続くステージにも魅入っていた。なんともエネルギッシュなステージであった。
- 101: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 13:23:06.57 ID:UaoULSXF0
- ―――りーりーりーりー・・・りりりりりー・・・・・・。
虫の音が、静かな夜の帳を裂いて切なく響いている。
( ^ω^)「風が気持ちいいお・・・」
緩やかな夜風に打たれ、ブーンは気持ち良さそうに瞳を細めていた。
ここはラウンジ川。2丁目から一駅、少し離れた場所にある川で、夏は花火をするノンケ達でにぎわっている。
ドラッグショーを終えると、次は花火大会。しかし店内でするわけにもいかないので、最も近い場所にあるこの河へと、お客さん共々店の人間全員が移動してきたのだ。
/ ,' 3「・・・ふー・・・」
メイクを落として私服に戻った荒巻が、肩にかけていたクーラーボックスを地面に下ろす。中にはビールやチューハイ、スカイブルーなんかがごっちゃになって入っているようだ。
( ^ω^)「お疲れ様ですおw」
/ ,' 3「本当にな・・・」
もう人生のあらゆる辛苦を舐めてきたと言わんばかりの顔で荒巻が返す。そこに、
('A`)「荒巻さんお疲れ様でしたー♪」
やたらご機嫌なドクオがやってきた。既に右手に缶ビールを握っているところからして、大分いい気持ちになっているようだ。
- 103: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 13:34:55.20 ID:UaoULSXF0
/ ,' 3「ああ、お疲れ様」
('A`)「今年も荒巻さんのおかげでいいショーになりました!」
( ^ω^)「ん?今年も、って事は去年も荒巻さんがドラッグしたんですかお?」
ああ、違うよと荒巻が手を振る。
/ ,' 3「ドクオはここ3年くらいずっと固定で女装してるけど、俺は今年が初めてだ」
('A`)「去年はジョルジュさんがしてくれたのよねw」
ブーンはジョルジュの女装を妄想する。
少し自分が嫌になった。
('A`)「ジョルジュさんもすっごく綺麗だったわよねえー」
/ ,' 3「アレを綺麗だと思えるお前の美的感覚が羨ましいよ・・・」
どこか遠い目で川原を見る荒巻。少し離れた場所では、早速最初の花火に火が点されるところだった。
- 104: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 13:48:57.33 ID:UaoULSXF0
ξ ゚听)ξ「おひょひょひょひょひょひょ!」
(;゚∀゚)「うわっ!てめえ、ロケット花火を人に向けて打つなって、うおっ!うおおっ!?」
どぼーん、と景気のいい音。
どうやらバランスを崩したジョルジュが川の中に落ちたらしい。
( ゚∀゚)「てんめーっ・・・!」
ξ ゚听)ξ「まだまだあっ!」
ツンは一気に5本のロケット花火を手にすると、時間差をつけて一つずつ点火する。ジョルジュは素早くあたりを見回し・・・
ξ ゚听)ξ「そこっ!」
( ゚∀゚)「甘いっ!」
ツンが一発目の花火を放った瞬間、横っ飛びにその場を離れ、傍にある草むらへと飛び込む。ツンがそこに向けて二射目を放とうとした時、不意に草むらから光る何かがいくつか飛び出してきた。
ξ;゚听)ξ「アッー!」
それは地面に落ちるや否や、強烈な閃光と火花を撒き散らしながら、ツンの周りを高速で回転しツンをひるませた。
その隙が、決定打となった。
パン!パパパパパン!
- 107: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:01:45.98 ID:UaoULSXF0
-
ξ ゚听)ξ「ぎゃぼー」
ツンの持っていたロケット花火が、時間切れのため暴発。さらにそれらが暴発することによってツンの持っていた火のついていない状態のロケット花火にさらに引火し、次々に誘爆。
ひるんでいたツンは火花まみれになった。
( ゚∀゚)「貴様と戦うこともあろうかと、この草むらにゃネズミ花火が隠してあったんだよ!策に溺れたな!」
ξ ><)ξ「くうっ、カカロット・・・!もう容赦はせんぞっ!」
唐突に、ツンは腰の後ろへ手を回す。そして・・・何か、妙な形状のものを取り出した。
釣竿のようにしなる棒と、その先についている円盤状の物体。
ツンはジッポを取り出すと、不敵な笑みと共に、その円盤に着火した。
(;゚∀゚)「そ、それは!UFO花火!!!」
ξ#゚听)ξ「逃げ惑え虫ケラが!」
突如、ツンの持つ棒に釣り下がった物体が、高速回転を始めながら火花を振りまき始める。周りにいた客達が何事かと見守る中、ツンはジョルジュに向かってダッシュした。
ξ ゚听)ξ「ほーらほらほらほらほら!」
(;゚∀゚)「ちょ!アツい!首筋がアツい!」
(;^ω^)「・・・・・・た、楽しそうだお・・・」
- 109: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:08:10.82 ID:UaoULSXF0
―――ブーン。
ジョルジュとツンの攻防に目を見張っていたブーンに、語りかける声があった。
( ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「や。」
そこに立っていたのは、チューハイ片手に微笑むショボン。
(´・ω・`)「一緒に見ていいかな?」
( ^ω^)「どうぞどうぞだお・・・っと、頂きますお」
ショボンがクーラーボックスから取り出したチューハイ(梅味)を受け取ると、カシュ、とプルトップを持ち上げる。爽やかな芳香。
(´・ω・`)「・・・ブーンが店に入って、もう4ヶ月くらいだっけ?」
ショボンが口を開いた。
( ^ω^)「恐らくそれくらいだと思いますけど・・・」
(´・ω・`)「そうか・・・早いもんだね」
元気に駆け回る二人とそれを見守る客達を眺めながら、ショボンは目を細めた。
- 111: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:16:10.02 ID:UaoULSXF0
- (´・ω・`)「・・・・・・」
( ^ω^)「・・・・・・」
(´・ω・`)「・・・・・・ケジメ、のつもりだったんだ」
( ^ω^)「お?」
ショボンはビールをぐびりと傾け、苦々しそうに眉をゆがめる。
(´・ω・`)「始めて店に入ったときのこと、覚えてる?」
( ^ω^)「えっと、荒巻さんとショボンさんと3人で入ったときの事ですおね」
ショボンは頷く。
遠くから、七連発花火の猛烈な音が聞こえた。
(´・ω・`)「あの時ね、昔学生の子がちょっとしたポカをやらかした、っていう話をしたの、覚えてるかな?」
( ^ω^)「あ、ああー・・・なんかうやむやになった記憶がありますけど」
(´・ω・`)「うん、そうだね。あの時は忙しかったのもあるけど、君には言うべきではない、と思ってたんだよ」
あの事はね・・・。そう、ショボンは呟き、そして切り出した。
- 113: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:22:14.12 ID:UaoULSXF0
- そうだね・・・3年前、かな。
(´・ω・`)「丁度、ドクオが店に入ったばかりの頃だね。同期で入れた、ドクオと同年代の子がいたんだ。」
( ^ω^)「ほむほむ・・・んぐっ」
チューハイの切れ味のいい喉越しに、ブーンは頬を緩める。やっぱり野外で飲む酒は、美味い。
(´・ω・`)「さて、ドクオは今何歳でしょう?」
へ?とブーンは間抜けな声を上げる。
えっと、今二十歳だから・・・?
(;^ω^)「じゅ、17歳ですおね」
(´・ω・`)「そうだね、高校生だね。」
言って、ほうー、とため息をつくショボン。
ポリポリと頭をかき、
(´・ω・`)「バカだったよ、僕が。何で高校生を雇ったりしたんだろう、と今でも後悔してる。」
( ^ω^)「で、でもそれが何か・・・?別に高校生でミセコをしてる子だって、結構沢山いるって聞きますけど・・・」
それが違法だとは知っていて、ブーンは言う。ショボンも頷いた。
- 115: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:30:31.12 ID:UaoULSXF0
- (´・ω・`)「ただ、その『高校生も二丁目で働いているという現実』が、僕の感覚を麻痺させていたんだよ」
( ^ω^)「?」
(´・ω・`)「17歳って、受験の時期だよね?」
( ^ω^)「そうですおねー・・・」
視界の端で、ツンがかんしゃく球をジョルジュに向かって数十個同時に投げつけるのが見えた。スッパパパパパパパン、と軽快な音と、ジョルジュの悲鳴。そしてすぐさま爆竹のカウンターと、それに驚くツンの声が響く。
(´・ω・`)「ドクオは、家庭の事情で元々大学に進学するつもりがなかった、とは聞いていたんだ・・・」
だけど、とショボンは元々悲しそうな眉をさらに傾斜させた。
(´・ω・`)「その、もう一人の学生、っていうのは・・・うん、国立の大学を目指していたんだよ」
- 116: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:33:53.98 ID:UaoULSXF0
( ^ω^)「あ・・・・・・」
(´・ω・`)「そうだよ・・・。ミセコってのは、どうしても夜にしかできないんだ・・・。だから、必然的にその子は学校や勉強がおろそかになる・・・結果、」
ショボンはぐびりとビールを一口。温いな・・・と小さく零して、
(´・ω・`)「その子は大学進学を諦め、それどころか高校にもまともに行かなくなり、中退。今はその足取りさえもつかめなくなっているのさ・・・」
ヒュー、と打ち上げ花火の音が聞こえた。それはきっと地面と水平に放たれたんだなあ、とブーンはぼうっと考えていた。
(´・ω・`)「勿論、親御さんにはミセコをやってる、なんて言ってなかっただろうね。でも、きっとそれは彼にとってとても辛い選択だったのかもしれない。」
ほんの小遣い稼ぎのつもりだったんだろう。でも、やっぱり夜の仕事は体に大きな負担をかけるから・・・そうショボンは言った。高校との兼ね合いなんて、所詮不可能なんだと。
(´ ω `)「僕の失態さ。僕があの時、未熟な高校生を雇ったりしちゃったから・・・結果的に、一人の人生をポシャにしてしまった」
( ^ω^)「・・・・・・・・・」
- 117: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:42:53.48 ID:UaoULSXF0
(´・ω・`)「だからね・・・ケジメ、なんだ。これは。いや、キミを誘ったのは」
( ^ω^)「はいお」
(´・ω・`)「僕はね、もう、若い子の人生をダメにしてしまいたくは無かったんだ。でも、やっぱりゲイバーってのは、若い風を入れないと風化してgdgdになってしまう」
(´・ω・`)「だから・・・高校卒業直後の君を誘ったんだよ」
(´・ω・`)「大学に行き始めの頃って、よく不登校になりがちじゃないか。高校と違って、登校が義務ではないし」
(´・ω・`)「つまり、ミセコという仕事にかまけて、学校をサボりまくる、という可能性がすごく高いんだよ、君の場合は」
客観的に見てね、とショボンは付け加える。
ブーンは黙ってチューハイを傾けていた。
(´・ω・`)「だから、あえて君を選んだ。そして・・・君に立派に大学とミセコを両立してもらうことで、昔の自分の言い訳をしようとしたんだよ」
エゴだね、とショボンはこぼした。そうだ、エゴなんだ、と。
(´・ω・`)「・・・・・・『僕は、やろうと思えばちゃんと学生生活と仕事の両立をさせることが出来た。アレは、あのケースの場合は、それが出来なかったあの子が悪いんだ』ってね」
ぽりぽりと頭をかく。ブーンは喉を鳴らしてツバを飲み込んだ。
- 119: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:52:21.70 ID:UaoULSXF0
- でも判ったよ。
(´・ω・`)「やっぱり、僕のしていることは間違いだった」
(´・ω・`)「ブーンが今のブーンで、ちゃんと学校とミセコを両立させているのは、それはブーンの努力の賜物なんだよね」
( ^ω^)「ま、まあそれほどでも・・・」
店が終わった後の朝、フラフラになりながら学校へ行ったこと。
二日酔いでガンガンする頭を抑えながらテストを受けたこと。
どれもが辛くて、でもそれを乗り越えた先にある何かが欲しかったから、ブーンは耐えてこれた。
(´・ω・`)「僕はやっぱり、あんな若い子を店に入れるべきじゃなかった。そして今も、これからも。辛い思いをしてまで、店で働いて欲しくはないからね・・・」
ショボンも判っているのだ。昼の生活がある者に、夜の生活は辛い、という事。荒巻さんやいよぅさんががんばっている姿も、ブーンは何度も見てきた。
昼の仕事が終わってフラフラの状態で店に入る姿。気分が優れなくて、トイレで飲んだ酒を吐き出す気配なんかも何度も感じた。
(´・ω・`)「ねえ、ブーン。辛かったら・・・もう、やめていいんだよ。お店」
ショボンは言った。
ブーンは笑った。
( ^ω^)「お断りですおw」
- 120: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 14:57:43.67 ID:UaoULSXF0
( ^ω^)「僕は別に、昼と夜の生活がごっちゃになって嫌なわけじゃないんですお。確かに肉体的にはしんどいけど、それでもやりがいのある仕事だと思ってるし」
(´・ω・`)「・・・・・・」
( ^ω^)「何より、僕はショボンさんや荒巻さんみたいに、頼りがいのある『大人』になりたくて、VIPにいるんですお?」
(´・ω・`)「大人・・・?」
そうですお、とブーンは微笑む。大人ですお。
( ^ω^)「まだ僕は、高校卒業したての若造ですお。世の中なんもわかってないひよこなんですお」
( ^ω^)「だけど、VIPで働き始めて、改めてショボンさん達の凄さがわかったんですお」
人の痛みが判ること。
人の心配が出来ること。
人の悩みを聞けること。
人を、救えること。
( ^ω^)「ゲイバーって・・・そういう場所なんですお。きっと。心を癒す、って言うと変かもしれないけど、みんなの疲れを笑って、時には真剣なトークをしてスッキリさせてあげる場所」
( ^ω^)「そして、そこを仕切っているショボンさんや荒巻さん、それにジョルジュさんやドクオさん達だって、みんな僕にとって、尊敬すべき『大人』なんですお」
- 122: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 15:03:08.85 ID:UaoULSXF0
- ( ^ω^)「僕は、そういう風になりたい。そういう人になって、友達や家族や、いろんな人たちの心を理解できる、そんな人になりたい。」
( ^ω^)「だから、僕は働いてるんですお」
(´・ω・`)「・・・・・・・・・・・・・・・ねえブーン」
( ^ω^)「はいですお」
(´・ω・`)「ジョルジュとツンに、タオルを持って行ってあげてくれ。もう二人ともびしょびしょだし」
言って、ショボンは鞄の中からバスタオルを2枚取り出した。恐らく二人の間で戦争が起こることも予測していたのだろう。
ブーンは苦笑すると、それを受け取った。
ブーンが二人の下へ駆けて行くと、入れ替わりに荒巻がショボンの横に立った。
荒巻は何も言わず、ショボンの肩を叩いた。
(´;ω;`)「・・・今度、ブーンをよしよししてあげないといけないね」
彼の涙を知っていいのは、チーママである荒巻だけだった。
- 124: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 15:07:35.81 ID:UaoULSXF0
―――気がつくと、朝だった。
( ^ω^)「お?」
(^ω^ )
( ^ω^)
( ^ω^ )
死屍、累々。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
ブーンに回りの光景は、若干、というよりなかなかに異常だった。
つまり、ブーン以外の全ての人が、草むらや川原に敷いたビニールシートの上でブッ倒れているのだ。
(;^ω^)「全員のんだくれた訳だおね・・・」
ほう、とため息を落とす。
生存者は・・
ξ ゚听)ξ「あらチェリーボーイ、おはよう」
- 126: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 15:14:40.53 ID:UaoULSXF0
- 慌ててブーンは身構えた。
武器になる物を探すが、一切見当たらない。
―――食われる!
本能が、そう叫んでいた。
ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと・・・流石に私だって二日酔いと筋肉痛の状態でアンタを取って食おうとはしないわよ」
ひらひらと手を振ると、降参のポーズを取るツン。緊張感から開放されると、ブーンはほっと息をついた。
ξ ゚听)ξ「・・・にしても、凄いわねえ」
( ^ω^)「ですお・・・全滅なんて・・・」
ξ ゚听)ξ「まあジョルジュのバカはいいとしても、ショボンやアラマッキーまで泥酔して寝ちゃってるなんて・・・。」
( ^ω^)「僕も始めてみましたおー」
言いながら、ブーンはうーん、と背伸び。朝の日差しが心地よい・・・が、日中の灼熱になる前にみんなをたたき起こして家に帰さなければ、そう考えるとぞっとした。
ξ ゚听)ξ「・・・ま。」
( ^ω^)「お?」
ξ ゚听)ξ「ショボンをこうしたのはアンタなんだし、責任持ってちゃんと持って帰りなさいよ?」
- 127: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 15:20:33.06 ID:UaoULSXF0
- (;^ω^)「おお?」
わけがわからずうろたえるブーン。
ツンはその顔を見て、クスリと笑った。
ξ ゚听)ξ「ま、責任ってほどでもないけど。きっとアンタに言いたいこと全部言って、それで安心したんじゃない?」
・・・ブーンは素直に驚いた。
ツンはジョルジュとの戦いの最中も、自分とショボンがずっと話しこんでいたのを聞いていたというのか。
思考を読んだか、ツンが言う。
ξ ゚听)ξ「私が何者だか判ってる?ツン様よツン様。マンコ様でもいいわ。とにかく今度家に神棚作って崇めなさいよ」
( ^ω^)「それはねえよwwww」
ξ ゚听)ξ「まあ冗談はさておき。とにかく、何か真剣な話があったんでしょ?」
( ^ω^)「はいお」
ξ ゚听)ξ「じゃ、その中で話したり約束したことなんかを、きっちり守って生活とか、仕事に打ち込みなさいよ。じゃないと許さないからw」
( ^ω^)「了解ですお!」
ξ ゚―゚)ξ「ん、良し」
- 128: 1 ◆qcI0kjF6tU :佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 15:26:46.44 ID:UaoULSXF0
ξ ゚听)ξ「じゃ、アンタは自分の店のスタッフ達を起こしてね。私は客達をなんとかするわ」
(;^ω^)「で、でもそれだとツンさんに負担が・・・」
ξ ゚听)ξ「まあ、私は大丈夫よ。手馴れてるし。それよりアンタ、荒巻とかジョルジュみたいな大型クリーチャーがアンタんとこ多いんだし、そこんとこちゃんとがんばりなさいよ?」
(;^ω^)「言われてみればwww」
ξ ゚听)ξ「よし、じゃあこのクソボケ共を叩き起こすわよ!ちゃっちゃとやっちゃって!」
ツンはブーンをけしかけ、足早に客達の下へと進んだ。
客の一人の背中をさすると、起きてくださーい、と声をかける。
そして、後ろでブーンがジョルジュの体を触って若干どぎまぎしているのを気配で感じながら呟いた。
ξ ゚ー゚)ξ「がんばんなさいよ、ブーン」
ギラリと差し込む朝日。
日が昇りきるのは、まだこれからだ。
(第六話 真夏の夜の祭典in二丁目 了)
戻る/第7話