( ^ω^)ブーンがゲイバーのスタッフになるようです
- 3: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:27:32.50 ID:C02dzjlD0
- 第七話 歪み
( ^ω^)「おーん。もう秋かおー」
―――とある私立芸術大学の片隅。
それまでイーゼルを前に筆を振るっていた青年が、今まで自らが描いていた銀杏(イチョウ)の樹を仰ぎながら、ぐっと背伸びをしていた。やや傾きかけた朱色の陽光が、血色の良い頬を更に際立たせる。
( ^ω^)「光陰矢のごとし、だおね」
秋風に吹かれて舞い落ちてくる黄色い欠片を手に取り、いとおしげに見つめた。芸術を愛し、芸術を生業とすることを目指す彼にとって、自然とはそれそのものが巨大なアートであり、今こうして彼が手にしているモノもまた、アートの子供だ。
ぱくりと、何となしに銀杏の葉を口にしてみる。
(;^ω^)「にげぇwwwワロチwww」
- 5: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:28:40.84 ID:C02dzjlD0
- 「おいブーン、何やってんだよ」
眉をしかめた彼に、背後から呼びかける声。
振り返ると、そこに見慣れた顔があった。
( ^ω^)「ジョルジュさん、お疲れ様ですお」
筋骨隆々とした男性の上半身をかたどった石膏モデルを小脇に抱えたジョルジュ。随分と重そうな荷物を持っているにもかかわらず平然としているのは、おそらく鍛え上げられた彼の体躯に拠るものなのだろう。
秋口だと言うのにTシャツを肩までまくりあげ、Gパンにタオルを挟み込んでいた。まるで作業中のガテンな人の様ないでたち。
( ゚∀゚)「ようブーン。お疲れ・・・って、ここは店じゃないんだし、一般人っぽく挨拶しようや」
空いている右手で敬礼した彼は、苦笑交じりに答えた。
(;^ω^)「そういえばそうですおね。えっと、こんにちは」
( ゚∀゚)「おうこんにちは。で、何で葉っぱくわえてんだ?」
( ^ω^)「はむ?ああ、」
ぺっぺっと葉っぱを吐き出すと、ブーンは目の前のキャンバスを指差した。
( ^ω^)「自分が描いているモノを、視覚だけじゃなくて味覚とか聴覚とか、いろんな感覚で感じてみたかったんですお」
( ゚∀゚)「感覚?」
- 8: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:32:16.11 ID:C02dzjlD0
- ( ^ω^)「そうですお。たとえば、銀杏の樹が風に凪がれると、さやさやともざわざわともつかない音が鳴りますお。すると、絵にちょっとした、蒼や碧の影を入れようかな、って思いつくんですお。」
視覚だけでは黄色く鮮やかに感じる銀杏だけど、耳で感じた銀杏はちょっと陰があって、寂しげですお、ブーンは銀杏の大樹を見上げながら、笑った。
( ゚∀゚)「っへぇー」
よくわからん、と言いたげに目を瞬かせて、
( ゚∀゚)「お前、根っからの芸術家なのな」
感心したように言うジョルジュ。流石に味では何もわかりませんでしたお、と頬を染めると、ブーンはくすぐったそうに首をかしげて、手に持っていたパンを口にした。
( *^ω^)「もぐ、なんか、はずかしいもぐですもぐおもぐ」
( ゚∀゚)「・・・絵の具がべっとりついたパン食べて美味いか?」
( ^ω^)「・・・・・・お?」
- 11: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:34:14.27 ID:C02dzjlD0
- 無意識のうちに口に運んだそれは、ついさっきまでブーンが絵を描いていたときに、消しゴムの代わりに使っていたパンの切れ端(学内にあるパン屋のおばちゃんからタダで貰った)。
嚥下しかけていたパンを慌てた様子でぺっぺっと吐き出すブーン。焦ってシャツで口元を拭い、絵の具がそこに鮮やかなオレンジを残す。
(;^ω^)「ぐおっ、買ったばかりのシャツだったのに」
ガーン、と青ざめた表情で袖を見つめるブーン。
(;゚∀゚)「なーにやってんだかこの子は」
胸像を地面に置くと、ジョルジュは腰に挟んでいたタオルを差し出した。口拭えよ、と言うと、ブーンの横に座り込む。枯れかけた芝生がそれを優しく受け止めた。
( ゚∀゚)「・・・なぁ、内藤?」
( ぅω^)「はいお?」
ほっぺたを拭いながら、ブーン。タオルが橙色に染まるが、元々そんなに綺麗なタオルではなかった様で、逆にブーンの口元にうっすらと炭のような痕が残る。
( ゚∀゚)「内藤は、やっぱり人を見るときも、感覚で見るのか?」
( ^ω^)「お?」
- 12: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:35:39.23 ID:C02dzjlD0
- いつもの様にブーンと呼ばず、意識せずに内藤と呼んだジョルジュ。それに気付かないブーンは、あっけらかんとした顔で、
( ^ω^)「うーん、まあ第一印象とかはともかく、とりあえず僕は見た目とかもあるけど、話の内容とか、ものの考え方とか、そういうので人を判断する事が多いですお」
( ゚∀゚)「ふーん・・・じゃあさ」
ブーンからタオルを受け取ると、ジョルジュは再びそれを腰に挟み込み、言う。
( ゚∀゚)「たとえば相手が何か、障害や病気持ってたらどうするんだ?」
( ^ω^)「お・・・うーん、それでも僕は、やっぱりその『人』そのものを見るようにすると思いますお。たとえその人がどんな人であれ」
( ゚∀゚)「じゃ、んーと、具体的な例を挙げるけど・・・マンコについてはどう思う?」
(;^ω^)「ま、マンコさんξ゚听)ξも勿論、ニューハーフだからどうとかじゃなくて、一人の人間として見てますお」
あの人はすごい人ですお。絵もうまいし、いざっていう時に冷静な判断もできますお。ブーンは笑みを浮かべながら喋る。確かに変な人だけど、僕は好きですお、と。
(;^ω^)「流石に、レアチーズケーキを手にして『これあたしのマンカスだからありがたく召し上がれやコロボックル共』って叫びながら店に闖入してきたときはこの人来世で神になれると確信しましたお」
(;゚∀゚)「その日休みでよかったー」
- 15: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:37:53.27 ID:C02dzjlD0
- ははは、と笑うジョルジュ。そしてポンと膝を叩くと、おもむろに立ち上がった。
( ゚∀゚)「うん。お前は、本当にいい奴だな」
( ^ω^)「お?」
尻についた芝生を払いながら、ジョルジュは微笑んだ。
日焼けした顔に、白い歯がキラリと輝く。
(*^ω^)「いや、ただ単に、人を何かのくくりで決め付けたくないだけですお」
照れて頬をかく青年を見ながら、ジョルジュは目を細めた。
( ^ω^)「そういえば、ジョルジュさんは確か建築学科でしたおね?」
ジョルジュが胸像を再び手にするのを見て、ブーンは不思議そうに首をかしげる。
( ゚∀゚)「おう、そうだぜ」
( ^ω^)「なんで美術科のデッサン用石膏像なんか持ってるんですお?」
( ゚∀゚)「そりゃお前、デッサンの練習してたんだよ」
( ^ω^)「何でまた」
( ゚∀゚)「そりゃお前、男のおっぱいを描くためさ!」
(;^ω^)「・・・・・・お?」
- 18: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:40:22.85 ID:C02dzjlD0
- お、おぱ?と困惑するブーンを余所目に、ジョルジュはぐっと拳を握り締めた。
( ゚∀゚)「分厚く、たくましく鍛え上げられた乳房!そこに散るピンク色の花弁!味わうとうっすら汗のフレーバーがして、ああ・・・」
( ゚∀゚)o彡゜「男のおっぱいは最高だぜ!おっぱいおっぱい!」
(;^ω^)「おっぱいっていうか、胸いt」
( ゚∀゚)o彡゜「おっぱい!おっぱい!」
( ^ω^)「胸いt」
(#゚∀゚)o彡゜「うるせぇ!おっぱいっつったらおっぱいなんだよ!なめんな!」
(;^ω^)「ヒィイイ!」
まさかこうにも凄まれるとは、とうろたえるブーン。
しばらく荒くれたジョルジュであったが、やがて平静を取り戻すと、
( ゚∀゚)「はぁはぁ、まあお前も、頑張ってウエイトトレーニングでもやって、至高のおっぱい目指して精進してくれよ」
(;^ω^)「はぁ、ワンモアセッでもやってみますお」
たじたじとなっている少年の肩を勢い良く叩いた。そして、おもむろに顔を上げる。
( ゚∀゚)「ま、無理すんなよ・・・って、もうこんな時間か」
その言葉に、ブーンも気付いた。風に乗って聞こえる、チャイムの音。これは17時を知らせる鐘の音色だ。
先ほどまでは柔らかかった太陽も、今は鮮烈な夕日となって二人を地に焼き付けていた。
- 21: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:43:27.04 ID:C02dzjlD0
( ^ω^)「秋って、」
ブーンは筆と絵の具を道具箱に戻しながら言う。
( ^ω^)「夕日がすごく綺麗に見えるのから好きですお」
( ゚∀゚)「うん、綺麗だ」
( ^ω^)「凄く、優しい気持ちになれるんですお。夕日、見てると」
キャンバスを布で丁寧に包むと、イーゼルを畳む。それを器用に専用のロープで纏め上げながら、青年。
茜空を見上げていたジョルジュは、無言で頷いた。
( ゚∀゚)「・・・そろそろ、コレ返しに行かなきゃ。教授に殺される」
かぁああ、と欠伸をすると、ブーンに背を向ける。
( ^ω^)「急がないと、研究室とか閉まっちゃいますお」
( ゚∀゚)「ああ、そうだな」
自らも帰り支度を済ませるブーン。ジョルジュは首をコキリと鳴らし、すう、息を吸い込んだ。
- 23: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:45:20.39 ID:C02dzjlD0
( ゚∀゚)「あのな、ブーン」
( ^ω^)「あいうえお?」
( ゚∀゚)「短い間だったけど、楽しかったぜ」
( ^ω^)「―――あい?」
びゅお、と秋風が二人を包み込む。
ジョルジュのタオルが、それに巻かれてはらりと踊った。
( ^ω^)「えっと、何がですかお?」
( ゚∀゚)「ん、色々」
いろいろ、さ。ジョルジュは繰り返した。
- 24: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:47:52.09 ID:C02dzjlD0
いろいろ?と首を傾げたブーンを見るジョルジュの目は、何かを達観しているようで。
(;^ω^)「それって、もしかしてジョルj」
不意に悪寒のような何かを感じ、咄嗟に言葉を紡ぎかけたブーン。だがその続きは、唐突に振り向いたジョルジュの薄い唇で閉ざされた。
ガタン、と絵描き道具の落ちる音。
( ゚ω゚)「・・・・・・!」
銀杏の葉が、二人を見守るかのように、さやさやと、優しく葉擦れの音色をかき鳴らした。
- 25: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:50:15.55 ID:C02dzjlD0
* * * * *
(´・ω・`)「ええと、君は・・・」
開店前の、VIP。
リキュールの発注表や公共料金の支払いリストなんかを左手に、その扉に右手をかけようとしていたショボンを呼び止めた声は、どこかで聞いたことがある響きを含んでいた。
「あの、ええと、俺・・・」
(´・ω・`)「あ、いや、なんとなくわかるよ。ギコ君、でしょ」
書類片手に眉をひそめて悩んでいたショボンは、かつてブーンに聞いた話を思い出し、目の前の少年の正体を推理する。
( ,,゚Д゚)「は、はい。俺、ギコです。ブーンの友達です」
通路の影からフラリと現れたギコ。ショボンは己の推理が的中したことに満足して微笑んだ。
少年はショボンに向かって会釈すると、
( ,,゚Д゚)「ちょっと、聞きたいことがあって来ました」
- 26: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:52:22.01 ID:C02dzjlD0
(´・ω・`)「ああ、そういえばブーンが言ってたな。何か僕に聞きたいことがあるんだって?」
一瞬、ギコは息を止める。
( ,,゚Д゚)「・・・はい」
(´・ω・`)「それは、ここでなきゃ話せない内容かい?」
( ,,゚Д゚)「え?」
雑多な紙切れをぐいとジャケットの左ポケットにねじりこみ、ショボンはやんわりと微笑む。そして右手でドアを押し開けた。
(´・ω・`)「こんな場所で立ち話もムードがない。まだ何の準備もできてないけど、どうだい?中。」
ギコは数瞬、躊躇するように瞬きをしたが、やがて、うっす、と答えてショボンの後ろに続く。
自らの主とその客人を飲み込んで、VIPの扉は静かに閉じた。
- 27: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:53:35.80 ID:C02dzjlD0
(´・ω・`)「コーラでも飲む?」
( ,,゚Д゚)「あ、いいえ、えっと・・・」
(´・ω・`)「ああ、ごめんごめん。アルコールがいいかな。コンチータでも作るかい?」
少年をソファーに座らせると、ショボンは店内の照明を点検し始めた。
やがて腰をかがめると、足元灯の一つが消えかけているのを発見し、舌打ちする。
( ,,゚Д゚)「いやその、飲み物はいい、です・・・」
(´・ω・`)「そうは行かないよ。ここはれっきとしたゲイバーで、僕はそのマスターだ」
ショボンはすらりと立ち上がり、腰を浮かしていた少年を見やった。
(´・ω・`)「―――かつて君のお父さんがそうであったように。僕もお客様に対して何のもてなしもしない様な、不躾な真似はできない」
( ,,゚Д゚)「え・・・?」
(´・ω・`)「・・・・・・ある、一人の男性に。君は良く似ているよ」
( ,,゚Д゚)「ッ!」
闇が。
未だ眠っているゲイバーの、うすらぼんやりとした照明にはかき消しきれない闇が、辺りを侵食していた。
ギコの表情も、ショボンの眼差しも。
- 29: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 01:58:25.37 ID:C02dzjlD0
(´・ω・`)「おや、まさかビンゴだったのかい?カンで言ったんだけどね」
涼しい顔で、己の推理の冴えを確信するショボン。
目の前の少年は、『あの人』の息子だ。声色や顔つき、言葉の奥底にある訛り。
よく知っている『あの人』がまだ幼い頃は、おそらくこの少年のような姿をしていたのだろう。
( ,,゚Д゚)「あっ、っつ、えっと、」
一人狼狽するギコ。
ショボンは穏やかな表情を崩さない。
(´・ω・`)「ああ、そんなに怯えなくてもいい。別に僕は読心術も持ってないし、君の頭の中を探ることも勿論できない」
(´・ω・`)「ただ、以前、ブーンに君の話は聞いていた」
( ,,゚Д゚)「ブーン、が?」
(´・ω・`)「ああ。その話を聞いていて、なんとなくうっすらと推理はしてたよ。まあ、こうも身近に双方がいるのは意外だったけどね」
そして君が僕にもちかけてくるであろう質問は、おそらくその、失踪した父親に関するものなのではないかと、僕は考えていたんだ。
ショボンは己の思考を露呈する。
- 30: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:00:53.79 ID:C02dzjlD0
( ,,゚Д゚)「・・・・・・ギ・・・コ・・・」
ソファーに再び腰を深くうずめると、少年は大きく息を吐きながら、呟く。
( ,,゚Д゚)「フサ・・・ギ・・・コ・・・は・・・この店に・・・やっぱり・・・」
搾り出すような声。
そこには決して、何かしらの縁者と久しぶりに出会うといったような穏やかさはなく、むしろ若干の怨嗟さえあるように見えて、
(´・ω・`)「やっぱりも何も。あの人は立派なおとくいさんだ」
主はその鋭敏な感覚を研ぎ澄ましながら、カウンターの上に置きっぱなしにされていたテキーラのボトルを、そっとボトル棚に直す。
(´・ω・`)「ゲイバーのマスターの先輩として、フサギコさんには良くしてもらっている」
そして少年の下へと歩み寄り、その右手をがっしりと、力強く握った。
(´・ω・`)「―――だから。こんな事は、絶対にさせないよ」
そこに、冷たく硬質な感触。
少年の右手、というよりも、右手首に近い位置。
季節はずれのリストバンドで隠されているが、確かにそこには、
( ;,゚Д゚)「・・・っく」
バタフライナイフが、仕込まれていた。
- 31: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:04:38.13 ID:C02dzjlD0
(´・ω・`)「殺すつもり?」
( ,,゚Д゚)「・・・家庭の事情に首を突っ込まないで下さい」
(´・ω・`)「何を言うんだ。ここは僕の店だ、僕がそうさせないと言ったら、絶対にそうさせない」
淡々と続けるショボン。だがその手は万力の様に、ギコの手首を握って離さない。
対するギコもぐっと力を込めて腕を振りほどこうとしているのだが、ショボンの見かけによらない異様な程の握力に何も出来ない。
やがて、その力の均衡が破れる。
カツン。
冷たい音と共に、ナイフがフローリングの床を鳴らした。
(´・ω・`)「・・・・・・」
( ,,゚Д゚)「・・・」
(´・ω・`)「・・・・・・何故、」
( ,,゚Д゚)「・・・」
(´・ω・`)「・・・殺そうと、思ったんだい?」
( ,,゚Д゚)「・・・・・・」
(´・ω・`)「・・・」
( ,,゚Д゚)「かーちゃんが」
- 32: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:08:01.39 ID:C02dzjlD0
- (´・ω・`)「ん?」
( ,,゚Д゚)「かーちゃんが、昨日、首、吊った」
(´・ω・`)「・・・・・・!!」
しっとりと静まり返るVIPの空気が、その一言に震える。
ショボンはその言葉の真意を推し量ろうとした。嘘か、真か。
そして彼の意識が悟る。目の前の少年はいたって健康で、真っ直ぐで、つまりのところ、彼の言っている事は、
本当の事だ。
- 34: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:11:28.56 ID:C02dzjlD0
( ,,゚Д゚)「とーちゃ・・・フサギコは、かーちゃんを殺した。だから、俺がかーちゃんの仇を討つ」
ギコの目つきが、徐々に険しさを帯びる。
流石のショボンも、若干の狼狽を覚えて、
(´・ω・`)「ちょtt」
( #゚Д゚)「どけやゴルァアアアアアア!」
言葉で制する前に、怒声で制された。
( #゚Д゚)「俺はアイツを殺すんだよ!邪魔すんなやゴルァア!」
(´・ω・`;)「そ、そうはさせない」
目の前の、つい先ほどまでただの少年であったそれが、今では猛る獣の様に目を煮立たせ、叫ぶ。
ショボンはあとじさった。
彼の発する殺気に、首筋を焼かれる感覚。そしてショボンがすくんでいる間に、ギコはすばやくナイフを拾い上げた。
(´・ω・`)「あっ」
( ,,゚Д゚)「・・・」
パチリ、と爆ぜる様な音を伴って、ギコの右手に刃が生える。
- 35: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:13:37.74 ID:C02dzjlD0
( ,,゚Д゚)「退いて下さい」
(´・ω・`)「・・・」
( ,,゚Д゚)「ここに来て、本当に良かった」
目を血走らせて、ギコ。
( ,,゚Д゚)「フサギコは、この町に、いる。それが判った」
(´・ω・`)「それがわかったところで、どうするのさ」
( ,,゚Д゚)「探し出す」
そして、殺す。ギコは呟いた。
(´・ω・`)「だ、だけどこの町は広い。そうそうあの人を見つけることはできないはずだ」
その言葉に、ギコはにんまりと笑った。
( ,,゚Д゚)「さっきアンタ、フサギコが昔、ゲイバーのマスターだったっつってただろ?」
(´・ω・`;)「うっ!」
何の気なしに、放った一言だった。
しかし、それが致命的なミスだったと。
ショボンは、今になって気付いた。
- 40: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:17:29.11 ID:C02dzjlD0
( ,,゚Д゚)「昔、ゲイバーのマスターをしていたショボンという男・・・。この町にいる古釜達に聞けば、誰かは知ってるだろ」
(´・ω・`;)「・・・・・・一つだけ、聞かせてくれ」
( ,,゚Д゚)「なんだゴルァ」
(´・ω・`;)「君のお母さんは、フサギコさんの事を気に病んで、自殺したのかい?」
( ,,゚Д゚)「・・・・・・」
(´・ω・`;)「証拠は?」
( ,,゚Д゚)「・・・」
(´・ω・`;)「しょ、証拠はないんだね?だったら」
がちゃり。
張り詰めた空気が、二人の耳には聞こえないほどの、小さな効果音でやわらかく崩れる。
続いて、ガサガサという紙袋の音と共に、
/ ,‘ 3「おつかれさん。鍵、開けっ放しは良くないぞー」
入ってきたのは、まさにクマと形容するのがぴったりな男。新巻。
- 43: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:21:47.82 ID:C02dzjlD0
(´・ω・`;)「新巻、来るな!」
/ ,‘ 3「は?」
荒巻がカウンターの上にチーズやクラッカーの入った紙袋を置こうとした、その瞬間だった。
死角にいたギコが、新巻の横をすり抜けるようにドアへと突進する。
(´・ω・`;)「ダメだ!彼を外に出すな!」
( #,゚Д゚)「うるせぇぞゴルァ!」
/ 。゚ 3「な、何だ何だ?」
状況が把握できず、咄嗟にショボンの言葉通りに少年を捕まえようとする新巻。
そして、それが決定的な失敗だった。
ギコを取り押さえようとした新巻。
その新巻の足に、ギコが躓き、
さくり。
- 46: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:25:08.92 ID:C02dzjlD0
/ ,‘ 3「え?」
(´・ω・`;)「あ」
( ,,゚Д゚)「・・・・・・!」
ギコが振り回したナイフの切っ先が、新巻の胸元にざっくりと食い込んだ。
刹那、空間が氷結し、三人が思い思いの格好で停止する。
自分の胸から生える、銀色を見つめる新巻。
ナイフから手を離し、あ、あうあ、と呻くギコ。
そして、運命の巡りを呪うショボン。
そして時は動き出し、
/ 3「・・・あぐ、ぐげ・・・お・・・あ」
ごぼり、と胸元から血を波打たせて、新巻が仰向けに倒れた。
慌てて駆け寄るショボン。ギコは放心したように、新巻の胸から溢れる血流を見つめていた。
- 48: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:28:19.52 ID:C02dzjlD0
(´・ω・`;)「っき、救急車!早く!」
( ;,゚Д゚)「あ、う、あ、ああ・・・」
刺した、刺した・・・ギコは呟く。
己の手のひらを見つめながら、刺した、刺した、刺した、さした、さした
(#´・ω・`)「ギコ!!!!!!」
咆哮。
びくりと身を震わせ、意識を取り直したギコはショボンを見た。
(´・ω・`)「救急車を呼べ!早く!」
( ;,゚Д゚)「ははははははははははい!」
焦りながら、ポケットをまさぐるギコ。
危うい手つきで携帯を取り出すと、震える指先で必死にキーを操作しようとする。
(´・ω・`)「ここは地下だから電波が届かない!地上に!」
( ,,゚Д゚)「!」
何も言わず、ギコはVIPから飛び出していく。
残されたショボンは、後悔のあまり涙目になって、新巻の傷口を手で押さえていた。
せめて圧迫することで、できる限りの止血をしなければ・・・そう思うものの、指の隙間から滲み出る血液に、主はうろたえていた。
- 53: 1 ◆qcI0kjF6tU :2007/07/13(金) 02:34:33.13 ID:C02dzjlD0
(´;ω;`)「僕の・・・僕のミスだ・・・」
ギコと己のやりとりを思い出しながら、そして荒巻にギコを取り押さえろと叫んだ自分を呪いながら、ショボンは搾り出すように声を出した。しかし涙は拭かず、ただ必死に新巻の胸元を圧迫しつづける。
心臓の位置からは大きくずれている事は、ショボンには判っていた。だが、それでも安心はできない。肺に刃が到達していたら十分致命傷となりうる。
薄闇の中、昏倒した新巻の傷口を押さえ続けるショボン。
そのポケットから、かさりと一枚の紙切れが落ちたのに、彼は気付かない。
・・・○月○日を以って、VIPを辞めさせていただきます。
そこには、そう記されていた。
そして、手紙の末尾に。
―――ジョルジュ 長岡
(´;ω;`)「うう・・・うっうっ・・・新巻ぃ・・・・・・!」
ギコと出会うまで、ショボンが悩んでいた理由。
それは、ジョルジュ長岡の、引退宣言だった。
(第七話 歪み 了)
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