( ^ω^)ブーンがゲイバーのスタッフになるようです

110:1 :2006/05/11(木) 14:09:00.14 ID:NMSfibVw0
  
 暇だから、荒巻が主人公の短編でも書きますかお( ^ω^)
 適当に書くんで、あんまり期待しないでください><



112:1 :2006/05/11(木) 14:14:35.13 ID:NMSfibVw0
  
 短編: In Rhapsody


 ―――荒巻スカルチノフ。19歳の冬。
 その時彼は、絶望のどん底にあった。

 /川 ,’ 3「・・・スカルチノフ、どうするんだ?」

 / 8,’ 3「そうよ・・・。どうするつもりなの?」

 / ,’ 3「う・・・・」

 ・・・当時。世間にはまだフリーターという言葉は無く、嘲りの意味をこめてプー太郎、と呼ばれていた荒巻。
無職だった。

 / 川,’ 3「俺は、今までお前を甘やかして育てて来たのかも知れんな」

 / 8,’ 3「そうよ。まさか一浪して、なおかつまた大学受験に失敗するなんて・・・」

 そんな彼を攻め立てる両親。その足元に、3枚の不合格通知が落ちている。



113:1 :2006/05/11(木) 14:21:09.46 ID:NMSfibVw0
  
 ―――俺は、駄目な人間なのかな

 / 川,’ 3「まったく・・・荒巻家には優秀な血筋が流れているはずのに、お前は何でこんなにダメな人間なんだ」

 当時医者であった父は、椅子に座ってうなだれる荒巻を見下ろしながら威圧的に言った。
 
 / 8,’ 3「そうよ。お母さんの顔に泥を塗らないで頂戴」

 世間体ばかり気にする、小学校の教頭を勤める母。彼女にとって、教育者である自らの子が落伍者であるというのは許しがたい事実なのであろう。
荒巻は、そんな母が嫌いだった。
 厳格すぎるほどに厳しく彼をしつけてきた父もまた、彼にとっては苦手な存在。
 そんな二人に同時に攻め立てられ、荒巻は頭を抱える。

 / 川,’ 3「大体お前はな、いつもそうやって勉強から逃げてきたじゃないか」

 / 8,’ 3「そうよ。私がどんなに勉強しなさい、勉強しないとまっすぐな人間になれないわよ、って言ってもあなたは知らん振り。
  野球なんかに熱中して、そのザマがこれよ?惨めったらしいったらありゃしないわ」

 荒巻は唇を噛み締め、黙ってその言葉を聞いていた。
 それらの言葉が間違いだとは思えなかったので、余計に重かった。



114:1 :2006/05/11(木) 14:27:17.85 ID:NMSfibVw0
  
 / 川,’ 3「とにかく、お前をさらに今年一年浪人させるだけの余裕は、もうウチには無い」

 父は、そう無常に言い放つ。
 母も頷いた。

 / 川,’ 3「金はある。だが、私達はもう、待てん。」

 イラだっているのだろう。ツバでも吐き掛けそうな勢いだ。

 / 8,’ 3「これからどうするのか、考えておいて頂戴。」

 母の言葉。
 ・・・それは、遠まわしに、親と子の縁を切る、という宣告をしたに等しかった。

 両親が部屋を出て行ってからも、荒巻はしばらくの間顔を上げず、俯いたままだった。
 細く、息を吐く。白い。
 ―――勉強に集中するために、部屋の気温は低めの方がいい。眠くならないから。
そう主張する時代遅れの両親の配慮で、暖房器具のないその冬の部屋は、今の荒巻にとってことさら寒く感じられた。



117:1 :2006/05/11(木) 14:36:26.85 ID:NMSfibVw0
  
 夜の、道を歩く。
 
 長い間勉強漬けだった荒巻には、その行為は数ヶ月ぶりのことで、とても新鮮に感じられた。
 夜は、勉強の時間。
 そして、眠る時間。

 昼は予備校に通い、一日に1時間だけ、かつて部活でやっていた野球の中継をテレビで見る。それ以外は、トイレか、食事か、風呂か勉強。そんな生活が、一年間続いていた。

 ・・・だけど、その生活からも、もうおさらば。
じゃあ、これから何をすればいい?

荒巻は、どうすればいいのかわからなかった。

 フラフラと歩く夜道は、なんだか優しい。
 月光を浴びながら、青年はそう思った。
 闇は、全てを受け入れてくれる。
 今や光の無い、自分さえも。

 / ,’ 3「・・・死のうかな?」

 そう呟いて、止めた。
 どうせ、自分にそんな勇気はない。
 だけど、じゃあこれからどうすればいいんだ、と自問して、返す答えが無いことに苦笑すら込み上げる。



118:1 :2006/05/11(木) 14:43:44.83 ID:NMSfibVw0
  
 ふと、ポケットに手を突っ込んだ。
 むやみに重い財布が、そこにある。上等な皮で作られている、ブランド品の財布。
 街灯の下、彼はそれを開いた。一万円札が、十数枚。
 
・・・どうせ金を使う暇なんて、無かったのに。

 親がくれた、かつての小遣い。
 息子を束縛したのは、誰だ。
自由のチケットだけ渡して、足首の鎖は外さなかったのは・・・誰だ。
 
 / ,’ 3「・・・・・・」

 この金をどうしようかと迷った挙句、荒巻はパーッと使ってしまおう、と決めて財布をしまった。
 お金を捨てるなんてことは出来ないし、かといってずっと持っていたくも無い。
 これから親に捨てられたら生活費に困るかもしれないが、このお金は・・・かつての自分のものであって、未来の自分のものではない。
 それならば。
 荒巻はふと、遠くの街を見た。
 清澄な真冬の寒気にネオンが優雅にたなびく。
 ごくり、と喉が鳴った。



121:1 :2006/05/11(木) 14:54:53.57 ID:NMSfibVw0
  
 『はーいキャバクラいかがっすか〜!』

 青年の声に、荒巻はハッと顔を上げた。
 人々の波に圧倒されて、一瞬気が遠くなっていたようだ。

 ココは、歓楽街の入り口。
 それまで荒巻の知らなかった、夜の世界。

 / ,’ 3「・・・・・・・」

 何をしよう、という目的はなかった。
 ただ、お金を一気に消費できる場所と言えば、と考えて、思いついたのが歓楽街。それだけのことだ。
 しかし、ここまで来て、はたと彼は立ち止まり考えた。

 ・・・ここに来たとして、自分にいきたいと思える場所はあるのか?

 チケットを懐に、荒巻は考える。
 19歳童貞。だが、女の体にそこまで興味を感じない自分に、何だか妙な感覚を覚えた。
 そもそも、この19年間、女っ気のない、勉強まみれの生活を送ってきたのだ。正直なところ、オナニーを覚えたのだって一年前の事だというのに。
 
 何だか困ってしまった彼は、とりあえず、手近な場所にあった書店に入った。
 そして、のろのろと店の奥・・・そこには偶然、アダルト雑誌の山が積まれていた・・・へと、歩を進めた。



137:1 :2006/05/11(木) 17:07:12.92 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「・・・・・・」

 荒巻は、その異様な空間に圧倒されていた。
 さすがは歓楽街の書店、アダルト関係の書物に関しては下手な大型書店よりも品数が豊富。
 童貞君からしたら、そこはパラダイスというよりも、最早魔境であろう。
 少しだけ躊躇したあと、荒巻はその雑誌の山の中から、適当にエロ本を一つ、取り出した。
 ぱらぱらとめくる。
 女性の裸。
 局部のアップ。
 乳輪。くびれ。ヒダ。

 / ,’ 3「・・・・・・」

 雑誌を元に戻すと、違う雑誌を手に取る。
 それも、先ほどのものと似たような内容で、荒巻は苦笑した。

 うずきの来ない下半身に、戸惑いと、妙な予感がある。

 そして、まるで予定調和のようにそこにあった分厚い雑誌を、手に取った。

 表紙には、『薔薇族』、そう書かれている。



138:1 :2006/05/11(木) 17:13:47.44 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「あ・・・」

 荒巻には、初め、ソレが何かわからなかった。
 次のページを見て、ああ、と思う。
  
コレは、男のヌードだ。
 競泳用の水着だけをまとい、黒く焼けた肌を存分に、見せ付けるように眠る男性。

 荒巻の中で、それまでに感じたことの無かった感覚が、ゆっくりと鎌首を持ち上げた。

 荒巻は黙って、ページをめくっていく。
 グラビア、ビデオ紹介、特集モノ。それら全てが、さまざまなジャンルの男性の写真で、または男性に関わる言語で埋め尽くされていた。
 アニキ、野郎、褌、汗、ラグビー、ケツワレ、ゲイバー、オカマ、ドラッグクイーン、日焼け、

 / ,’ 3「・・・」

 ―――そうだったのか。

 荒巻は、そう思った。

 そうだ、自分はゲイだったのだ。
 そうか。そうだったのか。だから、だから・・・

 ・・・俺は、欠陥品なのか。



139:1 :2006/05/11(木) 17:19:37.07 ID:NMSfibVw0
  
 雑誌の後半部分は、店の宣伝スペースとなっていた。
 さまざまなゲイバーやゲイ用の試写室、ゲイグッズの販売店なんかが、そこには詳細な地図付きで掲載してある。
 それをパラパラと捲る内に、その中にある共通したワードを、荒巻は拾っていた。

 ―――新宿、二丁目。

 ・・・新宿。
 ここから、そう遠くは無い場所に・・・この世界はあるのか?

 そこに行けば、俺の居場所は見つかるのか・・・?

 
 『1400円になります』

 会計を済ませ、荒巻は外に出た。
 そばに止まっていたタクシーを捕まえ、行き先を言う。運転手は一瞬だけ眉をひそめ、珍しいものでも見るかのように荒巻を見た後、はい、と言った。
 タクシーに乗り込み、車内の独特の空気を吸う。

 そして、再び、荒巻は薔薇族の扉を開いた。



142:1 :2006/05/11(木) 17:26:45.64 ID:NMSfibVw0
  
 ミ,,゚Д゚ミ「いらっしゃいませー・・・」

 ・・・そこは、小さな場末のバーだった。
 フラリと現れた荒巻は、躊躇うことなくドアを閉めると、黙ってカウンター席に座る。隠れ家的な雰囲気を特徴としたバーらしく、店内は狭い。他に客は一人もおらず、それまで歌謡番組を見ていたマスターと荒巻だけが、そこにいる。

 ミ,,゚Д゚ミ「えっと、始めましてかな」

 荒巻の格好を見て、テレビの音量を下げながらマスターは言った。
 荒巻は、目の前の男性・・・身長は低いががっしりとした体格をしており、人の良さそうな顔つきだ・・・が、ママではなくマスターであることを知っている。それは、さきほど読んだ薔薇族に、ここはゲイバーではなく、ゲイが開いたショットバーである、と書いてあったから。
 だから、落ち着き払った様子で荒巻は頷き、

 / ,’ 3「・・・・・・オススメのカクテルがあったら、それを」

 カクテルなんかはよくわからなかったので、そう適当に注文した。

 荒巻がコートを椅子にかけて息をつくと、目の前に乳白色の液体で満たされたゴブレットが置かれた。それを手に取ると、荒巻は一瞬躊躇って、クイッとソレを飲み干す。
 鼻腔をくすぐる、ほのかに甘い香り。ココナッツのような独特の芳香と、舌の上を流れる甘酸っぱい液体。
 だが、思ったよりもアルコールの度数が高かったらしく、思わずゲホゴホとむせる。おしぼりを口にあて、しばらくゴホゴホと咳をして、

/ ,’ 3「・・・次はそんなに強くないのを」

 情けない顔で、そう呟いた。



143:1 :2006/05/11(木) 17:34:14.25 ID:NMSfibVw0
  
 ミ,,゚Д゚ミ「ちょっとお客さん、大丈夫かい?」

 マスターは心配そうに言うが、荒巻には何が大丈夫なのか、何がいけないのか、よくわからない。
 両親は酒を飲まない人たちだったし、自分も酒を飲むのはこれが始めてだ。アルコールの摂取で人は酩酊するという事ぐらい知っているが、自分が酔ったらどんなことになるか、そもそもどれだけ飲んだら自分が酔うのか検討もつかない。
 だから、とにかく金を消費するために、荒巻は飲むつもりだった。
 もしも酔って潰れたら、その時はその時、そう荒巻は考える。
 いっそそのまま死んでしまえば、楽になれるからいいんだけど・・・

 ミ,,゚Д゚ミ「まあまあおちついて。ほら、カルーアミルク」

 次に差し出されたカクテルは、コーヒー牛乳のようで、思いのほか飲みやすかった。荒巻はほっとして、半分ほど飲み干す。
 ふー、と青年が一息ついたのを見計らって、マスターが口を開いた。

 ミ,,゚Д゚ミ「おし・・・それじゃまず、お名前は?」
 
 / ,’ 3「?ああ、荒巻といいます」

 ミ,,゚Д゚ミ「荒巻・・・さんか。僕はフサ。よろしく」

 右手を差し出され、なんだかドキドキしながら荒巻は握り返す。初めて握った父親以外の男性の手は、思ったよりも柔らかかった。



144:1 :2006/05/11(木) 17:40:19.25 ID:NMSfibVw0
  
 ミ,,゚Д゚ミ「はははは、もう酔ったのかい?」

 言われて、荒巻は顔が真っ赤になっていたことに気がついた。
 慌てて顔に手を当てる。熱い。

 / ,’ 3「あ、ああ、大丈夫です」

 そう言って、荒巻はクイッとグラスを飲み干した。もう一杯同じのを、と言うと、お絞りで顔を拭く。
 何だか照れくさかった。

 ミ,,゚Д゚ミ「ところで・・・」

 シェイカーを振りながら、フサは言った。
 
 ミ,,゚Д゚ミ「荒巻君は、今何歳くらいなんだい?」

 / ,’ 3「あ・・・えっと、二十歳です」

 まだ19歳なのだが、一応軽く年を誤魔化す。どうせもともとフケ顔だし、多少年を誤魔化しても大丈夫だろう、と思って。
すると、フサはクスリと笑った。

 ミ,,゚Д゚ミ「嘘つかなくてもいいよ。まだ未成年だろ?」



145:1 :2006/05/11(木) 17:46:30.46 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「えっ、なんで」

 なんでわかったんですか、と口にしかけて、荒巻は言葉をとめた。
 フサはおかしそうに笑うと、

 ミ,,゚Д゚ミ「さっきコートから、受験票がちょっと見えたからね」

 / ,’ 3「ぁ・・・」

 慌ててコートを探る。確かに、胸元に生年月日や年齢が書かれた受験票が入っていた。

 ミ,,゚Д゚ミ「目はいいんだ。それに、別に未成年だからってお酒を飲むなとは言わないよw」

 フサはニコニコしながらそう言う。
その顔を見て、荒巻は胸が高鳴るのを感じた。
 そんなことは知らず、フサは続ける。

 ミ,,゚Д゚ミ「まだ若いし、今が遊び盛りだよね。彼氏とかはいるの?」

 荒巻の前にグラスを置き、フサは言った。
 そこの言葉の意味が一瞬うまく飲み込めず、すぐに先ほどの薔薇族の『彼氏にこんな芸能人が欲しい!』という特集があったのを思い出して、

 / ,’ 3「あ、えっと、その・・・今日が、二丁目に来たりするの初めてなんです」

 そう、素直に言った。



146:1 :2006/05/11(木) 17:53:33.78 ID:NMSfibVw0
  
 ミ,,゚Д゚ミ「お、そうなのか〜。僕がデビューしたのは22歳になってからだから・・・いやー、若いって羨ましいねえ」

 頭をかきながら、フサは笑う。三十路越えると、やっぱり男を捜すのも大変でね、と、冗談じみた口調で言った。
 荒巻はソレを聞いて、

 / ,’ 3「でも、フサさんは十分かっこいいと思いますよ」

 真剣な顔で言う。それに、今度はフサが咳き込んだ。 
 謙遜しているのか、いやいやいやいや、と目の前で手を振ると、でも嬉しいよ、と言って口を拭った。
 荒巻は笑ってグラスを傾ける。目の前のフサを見ながら、なんだ、ゲイだから云々、っていうわけじゃないのかもな、と、頭の隅で考えたりもしていた。


 ―――荒巻とフサが会話を交わし始めて、一時間ほど経過しただろうか。

 ほろ酔いになった荒巻に、笑いながらフサは聞いた。

 ミ,,゚Д゚ミ「そういえば・・・どうして、荒巻君は二丁目に来たんだい?」



147:1 :2006/05/11(木) 18:00:48.88 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「いや、そのね、親に勘当されそうになっちゃって」

 ミ,,゚Д゚ミ「ハァ?」

 目を丸くするフサ。
 荒巻は、包み隠さず、自分の素性を語った。
 自分がゲイだと知ったのはほんの数時間前のことで、それまでは二丁目の存在すらもしらなかったという事。
 今まで自分は勉強しかまともにしていなかったせいで、世間知らずだったという事。だから、こうやってバーに来たりも当然初めてなのだ、という事。

 そして、今は親に、絶縁されかけている、という事。

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・・・・」

 / ,’ 3「・・・だからね、僕はもう、何をどうすればいいのかわかんないんです」

 8杯目のカルーアミルクを一気に飲み干し、荒巻はトイレに行こうと席を立った。
 フサは何かを考えるように目を閉じていた。

 / ,’ 3「―――トイレ、借ります」

 言って荒巻は足を踏み出し、急に下半身から力が抜けて、がっくりとその場にへたり込んだ。



152:1 :2006/05/11(木) 18:16:48.93 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「・・・・う、むー・・・・・・ん・・・?」

 ―――チュンチュン、チチチ、チュン。

 窓辺に、雀が数羽停まっている。
 朝日に直射され、薄目を開けて荒巻はその雀達を見る。
 雀は、荒巻に見られていると悟ったのか、小ばかにするように何度か鳴いて、飛び立っていった。

 / ,’ 3「・・・って、ここど・・・うぇっ」

 起き上がろうとした瞬間、酷い頭痛でへたり込む。
 枕に顔を埋めながら、自分は何をしているのか、今どこにいるのか必死で思い出そうとした。
 
 ・・・最新の記憶を、何とか呼び覚ます。

 確か、二丁目のバーに行って、そこでフサっていう人と出あって、酒をたらふく飲んで・・・
 ・・・ブラックアウト?

 記憶の最後が曖昧すぎて、荒巻は訳がわからないといった様子で目を瞬かせる。
 そして、ふと、先ほどから小さく、いびきの様な音が聞こえているのに気がついた。

 頭痛を必死でこらえながら、そろそろと目線を動かす。
 どうも、自分が今寝ているのは、ちょっと背の高いベッドの上らしい。
 辺りに広がっているのは、全く持って見知らぬ部屋。荒巻の部屋よりも多少狭いが、こざっぱりと整頓されている。
 そろりそろりとベッドから身を乗り出し・・・

 ミ,,-Д-ミ「んごぉー・・・くかー・・・」

 畳の上で、安らかに眠るフサを、発見した。



154:1 :2006/05/11(木) 18:21:34.67 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「あの、フサさ・・・」

 起こそうとして、フサがパンツ一枚で眠っていることに気づく。
 なんとなく直感で、荒巻は声を抑え、そのパンツをじっと凝視した。
 
 ・・・やはり、

 / ,’ 3「(すごく・・・大きいです・・・!)」

 フサは健全な成人男性らしく、立派に朝勃ちを披露していた。
 うーんうーん、とうなされてどうやら悪夢を見ているようだが、下半身は脳とはそんなに密接に繋がっていないようだ、と荒巻はそれを見て思った。
 一分間ほど、それをまじまじとみつめる青年と、見られる三十路。ゴクリと喉をならすと、そーっとそれに触ってみようと手を伸ばし、

 Σミ,,-Д゚ミ「ううおお!!!茄子が!!親指王子をおお!!!!!111!!111!」
 
 突然、不意にガバッと起き上がったフサ。
 ビクリ、とその姿勢のまま驚きすくむ荒巻。

 数秒間、そのまま時が流れ、

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・な、何してるんだい?」

 先に声を出したのは、今しも荒巻に股間を触られそうになっていたフサだった。



155:1 :2006/05/11(木) 18:26:53.34 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「・・・い、いや、思わず」

 手を引っ込めながら、ばつが悪そうに荒巻は言った。いや、実際にばつが悪かったのだが、絶叫のインパクトがあまりに大きすぎた所為で、そこまで罪悪感は感じない。
 
 ミ,,゚Д゚ミ「あ、そうか、もしかして他人の勃起を見るのが初めてで・・・ってうぉい!」

 途中まで冷静に分析して、フサは恥ずかしそうに股間をタオルケットで隠した。

 / ,’ 3「あ、えっと、すみませんでした」

 ミ,,゚Д゚ミ「あ、いえいえ」

 ―――チュン、チュチュン

 再び、雀が大合唱を始めていた。


 ミ,,゚Д゚ミ「・・・つまりそういうわけで、昨日君が店で酔ってブッ倒れちゃって、とりあえずウチにつれてきて寝かせてたってわけさ」

 ジーパンにシャツというラフな格好に着替えると、フサはそう言って笑った。
 荒巻は自分の間抜けさにあきれ返り、すぐに頭を下げる。フサは、いいよいいよ、と笑って手を振った。



157:1 :2006/05/11(木) 18:38:16.80 ID:NMSfibVw0
  
 ミ,,゚Д゚ミ「ま、これでも力には自身があるからね。君をココまで連れて帰るのも、そう大変じゃなかったよ・・・っと」

 ちゃぶ台の前に荒巻を座らせると、フサは台所の戸棚をバコンと開く。菓子パンを取り出して客人に渡すと、フサは冷蔵庫から麦茶を取り出した。

 ミ,,゚Д゚ミ「飲むかい?」

 / ,’ 3「あ、はい、頂きます」

 たぽたぽたぽ、とグラスにお茶を注ぐ音。菓子パンの袋を開けながら、荒巻は妙な事になったなあ、と首を捻っていた。

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・さて」

 どっかりと荒巻の向かい側に座ると、フサは言った。

 ミ,,゚Д゚ミ「ご飯を食べ終わったら、家に帰るんだよ。いいね」

 / ,’ 3「・・・え?」

 ミ,,゚Д゚ミ「え?じゃないだろ。・・・僕は別に君がずっとここにいてもいいけど、君のご両親が心配してるだろ」

 それには答えず、荒巻は菓子パンを一口口にする。甘い。

 ミ,,゚Д゚ミ「いくら絶縁したからって、そうそう簡単に、子供は手放せないと思うよ。お父さんも、お母さんも。」

 / ,’ 3「そんなことないです」

 ミ,,゚Д゚ミ「いや、そんなことあるよ」



158:1 :2006/05/11(木) 18:45:45.37 ID:NMSfibVw0
  
 フサは麦茶を飲み干すと、再び自分のグラスに注ぎ足す。優しい音。

 ミ,,゚Д゚ミ「僕も、二年前に息子を失ったからね」

 ―――チュン、チュチュン。チチチチチ。

 ・・・ブーン、と、表からバイクの走り去る音が聞こえて。

 / ,’ 3「・・・え?」

 荒巻は、呆けたようにフサの顔を見た。
 冗談かと思ったが、その顔は至極真剣で、荒巻は訳がわからなくなった。

 ミ,,゚Д゚ミ「離婚、したんだよ。一昨年。妻とね」

 / ,’ 3「・・・離婚?結婚、してたんですか」

 ミ,,゚Д゚ミ「ああ」

 淡々と話すフサ。目の前の男を見ながら、荒巻は妙な感覚に囚われていた。

 ミ,,゚Д゚ミ「ま、いろいろあったんだけど・・・要するに、僕が結局ゲイで、妻はそれにショックを受けて・・・って感じ、かな」

 子供ができちゃってたから、いろいろ大変だったけどね。そう言うフサの顔は、少し影を帯びていた。

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・辛いものだよ。生まれたての男の子。本当に可愛かった。」

 ミ,,゚Д゚ミ「だから・・・19年間君を見守ってきたご両親が息子を失ったらどんな気持ちになるか、僕にはよくわかるんだ」



159:1 :2006/05/11(木) 18:52:09.85 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「だけど・・親父も母さんも、僕に絶縁するぞ、って・・・」

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・僕にはよくわからないけど、それは多分、口が過ぎただけだよ。君が戻って頭を下げれば、許してくれると思う。」

 / ,’ 3「頭を・・・!?」

 荒巻は、菓子パンを握りつぶしそうな勢いで拳を握り、顔を紅潮させた。

 / #,’ 3「ぼ、僕は悪くない!何も、何も悪くない!」

 ミ,,゚Д゚ミ「じゃあ、君は何で大学に落ちたんだい?」

 / ,’ 3「・・・え?」

 ミ,,゚Д゚ミ「君は、ちゃんと目的を持って、大学を受験したのかと聞いているんだ」

 荒巻のグラスにお茶を注ぎ足しながら、フサは静かに言う。

 ミ,,゚Д゚ミ「わからないのかい。親の本当の願いってのはね、子供が自分達の理想から、自分達の元から羽ばたいて行くことなんだ」

 ミ,,゚Д゚ミ「親のおしつける未来ってのも、無いわけじゃないだろう。だけど、君がそれに言いなりになってばかりで、親御さんが穏やかな気持ちでいられると思ってるのかい?」



161:1 :2006/05/11(木) 18:57:57.70 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「だけど・・だけど・・・」

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・もう一度、言うよ。どうして、大学を受験、したんだい?」

 / ,’ 3「親が・・・受けろって、言ったから」

 ミ,,゚Д゚ミ「君は、本当は何がしたかったんだい?」

 / ,’ 3「僕は・・・・・・」

 荒巻は、思い出していた。
 かつての、自分の夢。


 ・・・幼い頃、祖父と祖母を、アルツハイマーで亡くした荒巻。
 大好きだった祖父母に、忘れられていく、自分の記憶。
 そして、最後は、床ずれで酷いことになった体を誰も治療しようとはせず、苦悶のうちに死んだ祖父と、何も喰わなくなり、最後は見放されて静かに死んだ祖母・・・。


 / ,’ 3「・・・・僕は・・・介護師に、なりたい・・・」

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・」

 / ,’ 3「・・・」

 ミ,,゚Д゚ミ「・・・」



163:1 :2006/05/11(木) 19:04:29.96 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「―――お邪魔、しました」

 ドアを開けた。
 すでに時刻は正午を回り、風は冷たいものの、日差しは幾分か温かい。
 いい天気だな、荒巻はそう一人ごちた。

 ミ,,゚Д゚ミ「ああ。また、遊びに来いよ」

 / ,’ 3「・・・絶対に、また来ますね」

 ミ,,゚Д゚ミ「待ってるからな」

 ―――夢をかなえたら、また、ウチのバーにおいで。
 その時に、立派になった顔を見せて欲しい。

 / ,’ 3「それじゃ、さよなら。また・・・」

 ミ,,゚Д゚ミ「ああ、また会おう。」

 ―――はい、絶対に、いつか絶対に介護師になります。

 ―――そしたら、その時に、また今朝の続きをさせてあげるよww

 ―――っ!//////

 
 荒巻は、一人歩く、
 本屋の袋に入れて持ち歩いていた薔薇族は、ついさっきゴミ箱に放り込んだ。



165:1 :2006/05/11(木) 19:17:17.55 ID:NMSfibVw0
  
 ミ,,゚Д゚ミ「―――い、―きろ・・・ろ――おき・・・ろ・・・」

 / ,’ 3「・・・・んー・・・」

 んーっ、と荒巻は大きく伸びをした。
 ベッドがぎしり、ときしむ。

 ミ,,゚Д゚ミ「もう7時だぞ。仕事。」

 寝起きの目をこすり、フサを見た。

 / ,’ 3「・・・まだ慌てるような時間じゃない」

 余裕をぶっこいて起き上がると、荒巻は大口を開けて欠伸をした。そして、ごく普通に、隣で心配げな顔をしているフサを、ぎゅっと抱きしめる。
 一瞬なにがなんだか、という風に戸惑ったが、フサもすぐに、荒巻を抱き返した。

 / ,’ 3「・・・懐かしい、夢を見た」

 ミ,,゚Д゚ミ「ん?何か言ったか?」

 甲斐甲斐しく荒巻の朝食を作りながら、フサが聞き返す。なんでもないよ、と荒巻は笑いかけ、

 / ,’ 3「そういえば、俺達が付き合い始めてもう5年だったか?」

 そう、確認した。
 フサは一瞬考えるように目線を上げ、ああ、そうだなと笑った。



166:1 :2006/05/11(木) 19:18:55.99 ID:NMSfibVw0
  
 / ,’ 3「今日は、仕事は休みなのか?」

 今は心理カウンセラーをしているフサに、荒巻は聞く。今年で47になる彼氏だが、まだまだ第一線で働くその姿は、荒巻にとって自慢以外の何物でもない。

 ミ,,゚Д゚ミ「ああ。じゃなかったら、こんなに女房臭い事しねえよw」

 大分親父臭くはなったが・・・

 ミ;,,゚Д゚ミ「あ、おい、何だ、ちょ、今日のお前おかしいぞ、こら、料理中に抱きつくな!」


 ―――俺の、自慢の彼氏だ。


  短編  In Rhapsody 了



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