( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:57:57.00 ID:f9ePKG050


     第二章 陰謀と思惑と


ナイトウとドクオが粥に舌鼓を打っている頃。
数里離れた森の中。
やはり小さな小屋の中に2人の男達がいた。

???『それにしても参ったな。服がビショビショになってしまったぞ』

???『この雨でせっかくの【至宝】まで見失ってしまったと言うのに服の心配か。流石だな』

呆れ返った様な声。
…奇妙である。確かに小屋の中には男が2人。
にもかかわらず、聞こえてくる声の質は全く同じであった。

やがて暗闇に目が慣れてくる。一人の男が小屋の隅に詰まれた薪を、囲炉裏に放り込んだ。

???『準備出来たぞ、兄者』

???『うむ』

兄者と呼ばれた男が懐から手の平大の玉を取り出す。

???『くらえっ!! 兄者玉・五式っ!!』

掛け声と共にそれを囲炉裏に叩きつける。
数分の後。小屋は囲炉裏が放つ炎に明るく照らされていた。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:00:17.86 ID:6cSOB08l0
(´<_` )『おぉ。珍しく成功したではないか、兄者』

( ´_ゝ`)『何を言うか。俺の兄者玉に失敗の文字は、ほとんどない』

炎に照らされたその顔は全くの瓜二つ。
頭に巻きつけた色とりどりのターバンが、彼らがメンヘルの民である事を表わしていた。

リーマン首都であり、アルキュ王国の王都デメララ。
そこの【沈黙の塔】番人が彼らの顔を見れば、
一目で彼らが【至宝】を盗みだした犯人だと指摘しただろう。
もっとも彼はこの場にいなかったし、死人に口がきける筈も無いのだが。

濡れた服を脱ぎ捨て、炎にあたる二人。
その上には水を湛えた鍋が架けられ、沸き立つのを待っている。

(´<_` )『それにしても…俺達は声も顔つきも体格も全てそっくりなのに、
       どうして兄者のはそんなにお粗末なのか理解に苦しむな』

( #´_ゝ`)『やかましい』

言いながら兄者は脱ぎ捨てた服からまたもや一つの玉を取り出した。

( ´_ゝ`)『兄者玉・十九式!!』

威勢の良い掛け声と共に静かにそれを鍋に落とす。
やがて、それはゆっくりと溶け出しなんとも言えないいい香りが小屋中に充満した。

(´<_` )『ほぉ、今日は鳥粥か』

( ´_ゝ`)『卵入りだ。喜べ』



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:03:18.22 ID:6cSOB08l0
言いながらどこからか取り出した卵を鍋に割りいれ、半熟になった頃合を見計らって椀に盛る。。
塩を豊富に使ったその味は、ミセリが作ったそれに引けを取らないものだった。

d(´<_` )『旨い。流石は兄者。無駄な方向に才能を活かしきっているな』

( ´_ゝ`)b『…褒め言葉と受け取っておこう』

それからは黙ってひたすら粥を食べ続け、鍋が空になった頃2人は倒れるように横になった。

(´<_` )『で、兄者。どうするんだ?』

( ´_ゝ`)『うむ。どうせ我々の物ではないんだ。このまま洗わずトンズラしよう』

(´<_`# )『鍋の事ではない。このまま【至宝】を見逃すのか?』

弟者の台詞に兄者は大きな欠伸をしながら答える。

( ´_ゝ`)『この雨だ。やつらだってどこにも行けんさ。
       放っておいても遠くに逃げられるわけでもないだろう』

(´<_` )『流石だな。物臭な兄者らしい考えだ』

( ´_ゝ`)『…頭脳派と言ってくれ。どちらにしても逃がしはせんよ』

ーーーーーメンヘル最高の隠密・【金剛阿】【金剛吽】と呼ばれた我らの名に懸けて。

兄弟は声を合わせて言うと、いかにも愉快そうにニヤリと笑った。

翌朝。完全に雨が上がったのを確認して2人は小屋を出る。
結局最後まで彼らは、彼らが惨殺したこの小屋の元住人の方を見ようとしなかった。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:05:45.52 ID:6cSOB08l0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

( #゚∀゚)『…あ〜、なんで俺様があの引き篭もりを出迎えなきゃならねーんだ』

リーマン軍陣地内。
総大将用の幕内でジョルジュは不機嫌を隠そうともせずに言った。
手にした水差しを勢いよく机に叩きつけ、
溢れた水が豪奢な外套に染みを作った。

( #゚∀゚)『おいっ!!』

使者『ひ…ひゃいっ!!』

( #゚∀゚)『亀野郎はまだつかねーのか!! すでに指定した時刻を半刻以上過ぎてるぞ!!』

使者『お…おおおそらく昨夜の雨で道がぬかるんでいる為に遅れているのかと…』

( #゚∀゚)『ちっ』

舌打ちを一つして使者から視線を外す。
一晩中この状態に置かれた、この男こそ不幸というべきである。
彼はただ、評議会よりの使者が来る事を伝えに来ただけなのだ。

そこにジョルジュ子飼いの兵、【薔薇の騎士団】の一人が入ってくる。
両手を胸の前で組み合わせ一礼すると、用件を伝えた。

騎士『将軍。【評議長】ニダー様よりの使者・【鉄壁】ヒッキー様到着されました』

使者は安堵の溜息を漏らす。
それを耳にしたジョルジュは、哀れな彼を思い切り蹴飛ばしてから幕舎を出た。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:07:46.94 ID:6cSOB08l0
リーマン族。
彼らはアルキュ島最大の人口を誇る民族である。
だが…いや、だからこそと言うべきか彼らは決して一枚岩と言うわけではない。

元々、貴族と民衆。
つまり、支配者層と被支配者層の差格が大きい事に加え
【統一王】の出現後は彼を敬う下級貴族を中心とした【王室派】
彼の残したシステムを利用する旧支配者層である上級貴族を中心とした【評議会派】
による争いまで起こる様になっていた。

【王室派】はヒロユキの妹婿であるモララー公率いるニイト族や
革命に力を貸したメンヘル族との共存を声高に叫んでいたし、
【評議会派】はヒロユキの遺命に逆らうニイト族・メンヘル族を逆臣と呼んで憚らなかった。

【統一王】の革命に少年兵として参戦し、
攻撃においてはリーマン随一とさえ言われる【急先鋒】ジョルジュは【王室派】の重鎮であり
【評議会派】の頂点に立つ男ニダーの腹心、
守備においてはリーマン随一と噂される【鉄壁】ヒッキーは【評議会派】の重鎮である。

ジョルジュはヒッキーを『虎の威を借る狐』『鎧を着なければ何も出来ない引き篭もり』
と、酒場での笑い話にして止まなかった。
ヒッキーはジョルジュを『偉そうにしているが結局は何も出来ない口先大将』
『突進するだけの猪武者』と、笑い飛ばした。

彼らの関係は、当時の【王室派】【評議会派】の対立・心理を
ストレートに表しているとして非常に興味深い。

この様な例はリーマン族独特の物ではない。
同一民族内であっても複数の政治組織が存在し、それがアルキュ島の混迷に拍車をかけていたのだ。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:09:57.69 ID:6cSOB08l0
そのような訳で、深夜遅くに使者訪問によって叩き起こされ
【評議会勅命】の元に出迎えまでさせられたジョルジュの不満たるや、今にも爆発寸前であった。

白銀の鎧の上から外套を纏う騎士の正装を整えたジョルジュの左右には
同じく白銀の甲冑に包まれた【薔薇の騎士団】500名が並ぶ。

正門からゆっくりと入ってきた馬車が止まり、
先行していた騎兵が馬を降り恭しく馬車の戸を開いた。

そこから堂々たる重装鎧に身を包んだ騎士が姿を現すや
ジョルジュは苦虫を噛んだ様な表情をしつつも胸の前で手を組み頭を下げる。

( #゚∀゚)『…遥々戦場まで使者の労、痛み入ります。【鉄壁】ヒッキー殿』

(-_-)『うん。出迎えご苦労である、【急先鋒】ジョルジュ殿。
    早速だが偉大なる【評議長】ニダー様よりの勅命を伝える。
    【評議長】の声は【統一王】の声も同じ。
    地に膝をつき、三拝して受けとるが良い』

正装たる外套も被らず、傲慢な態度を取るヒッキーに殴りかかろうとして
危うくジョルジュは己を押さえ込んだ。
今ココでヒッキーを殴っては、彼に着いて来た500の部下が路頭に迷う事になる。

( #゚∀゚)『…幕舎に香を焚き清めた上で、御使者の労を労う宴の準備をしてございます。どうぞこちらへ』

(-_-)『…フン』

本音を言えば、部下の前で彼に膝をつかせたかったのだろう。
しかし、それが叶わないと見るやヒッキーはジョルジュには目も向けず
足を地にめり込ませながら幕舎に入り込んだ。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:12:25.43 ID:6cSOB08l0
薔薇の騎士A『将軍!! 落ち着いて下さい!!』

薔薇の騎士B『ここで使者を殺したら…将軍は逆賊扱い。それこそ【評議会派】の思うツボですぞ!!』

怒りと屈辱に顔を赤く染めるジョルジュを彼の騎士団が宥める。

( #゚∀゚)『…分かってる。大丈夫だ』

噛みしめた唇から流れ落ちる血を袖で拭うと、ジョルジュはヒッキーの後を追った。
ここでまたしても彼は己の目を疑う光景を目にする。

( #゚∀゚)『…っな…ヒッキー…貴様…』

総大将たる己の座に腰を下ろすヒッキー。
それだけではない。
その尻の下には、女性の乳首を模った彼の戦旗が敷かれていた。

(-_-)『ん? どうされた…っと、コレは将軍の戦旗ではないか。
    あまりにも下品な絵図で気付かなかったわ』

カラカラと笑いながら、尻の下から旗を引き抜き乱暴に地に抛る。
それは、その旗の主の足元にはらりと落ちた。

【評議会勅命】と言う権力の元、宿敵を散々侮辱するのに満足したのか。
ヒッキーは『フン』と笑うと、胸元から勅書を取り出し広げる。

(-_-)『千騎将・【急先鋒】ジョルジュ!! 勅命である!!』

ヒッキーの声が幕舎内に響いた。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:14:34.37 ID:6cSOB08l0
( ゚∀゚)『…なんだと…もう一度言いやがれ…』

顔面蒼白でジョルジュが呟く。

(-_-) 『フン。頭だけでなく耳も悪いのか?』

反対に白け切った表情で小指で耳の穴をほじっているのはヒッキーだ。
小指の先に着いた耳垢をフッと吹き飛ばすと、言葉を繰り返した。

(-_-)『メンヘルが王都より盗み出した【至宝】。
    これがどれ程我が民族の繁栄に必要不可欠なものか、
    頭の悪い貴公にも分かるであろう。
    犯行者はメンヘル最高の隠密【金剛阿吽】こと、流石兄弟。
    我らも隠密を放ち、この近辺で流石兄弟の姿を確認した。
    将軍は兵を駆り、【至宝】奪回の後に王都に届けるのだ』

アルキュ最強の騎士団の誉れ高い【薔薇の騎士団】。
その彼らに対し【評議会】は、迷子の猫でも探し出せと言うような命を下してきた。
王の為…王室の為ならそれも耐えよう。
だが…しかし。

( ゚∀゚)『【沈黙の塔】…あんな開かずの門の奥に【至宝】は閉じ込められてたってのか!?』

(-_-) 『あそこなら外敵は簡単には入れん』

( ゚∀゚)『…もし、【至宝】を奪回したら…その後はどうする?』

(-_-)『再び【沈黙の塔】に封印し、更に警備を厳重にする。
    それこそが【至宝】の…ひいてはリーマン族全体の安泰に繋がるのだ』



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:16:15.36 ID:6cSOB08l0
( #゚∀゚)『ふざけるなっ!!』

その言葉にとうとうジョルジュの堪忍袋の緒が切れた。
壁に立てかけられた大鎌を手に取り、ヒッキーに切りかかる。

( #゚∀゚)『俺様が…何も知らないとでも思ったかっ!!
     【沈黙の塔】は本来重罪人を閉じ込める為の施設の筈だっ!!
     貴様ら【評議会派】は【至宝】の事など案じていないっ!!
     【至宝】の持つ権威がほしいだけだっ!!』

(-_-) 『違うね』

風をも切り裂く大鎌の一撃を微動だにせずその鎧で受け止めつつヒッキーが言う。

(-_-) 『アレが持つ権威を欲しているのはメンヘルの連中だ。
    だから【沈黙の塔】から【至宝】を盗み出すと言う暴挙に出た』

( ゚∀゚)『…権威欲しさに封印するテメェらと、盗み出すヤツラとどこがどう違うってんだ!!』

再度大鎌を振り上げるジョルジュ。
そこへ主の大声を聞きつけた【薔薇の騎士】団員達が幕舎に飛び込んできた。

薔薇の騎士A『将軍っ!!』『落ち着いてくださいっ!!』

暴風雨の如く大鎌を降りまわすジョルジュを押さえつける騎士団を
ヒッキーは面白くもなさげに見つめ、『フン』と鼻を鳴らす。

(-_-)『とにかく。貴公らは一刻も早く【至宝】を探し出すのだ。
    【評議長】の使者に手を出した罰はそれまで待ってやる』



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:18:20.92 ID:6cSOB08l0
それからしばらくして。
【薔薇の騎士団】は陣を出て馬上にあった。
彼らの先頭にいるのは【急先鋒】ジョルジュ。
しかし、その姿からは戦場で見せる大胆不敵なまでの
雄雄しさは微塵も感じられない。
500名の騎士達は、これほどまでに悔しげに肩を落としている主の姿を初めて見た。

薔薇の騎士『…しょ、将軍あれを…』

一人の騎士の言葉に、一同は自陣を振り返る。
彼らが作りあげた陣に入り込む兵の集団が見えた。
あちこちに見られる全身鎧に身を包んだ騎士達は、ヒッキー配下の『鉄柱騎士団』に間違いないだろう。

【急先鋒】ジョルジュ率いる【薔薇の騎士団】と【鉄壁】ヒッキー率いる【鉄柱騎士団】。
彼らは両団長の関係そのままにいがみあう仲である。
直接的な抗争こそ起きていない物の、市場ですれ違うだけで一般市民の間に緊張が走る。
それだけの確執はお互いに持ち合わせていた。

その政敵の手によって、命を懸けて守り通してきた戦旗が次々と引きづり降ろされていく。
今頃はゴミのように山にされ、しばらくすれば【鉄柱騎士団】の旗がたなびく事になるのだろう。

薔薇の騎士『…我らの旗が…』

薔薇の騎士『…なんたる屈辱か…』

     『 将 軍 !!!!!!』

比較的、まだ若い騎士たちがジョルジュを取り囲んだ。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:21:48.14 ID:6cSOB08l0
薔薇の騎士『我らはもう辛抱できません!!』

薔薇の騎士『こうなれば、あの薄汚い泥亀どもに一戦挑み蹴散らした後
      南の反乱鎮圧に向かわれている【常勝将】元帥に事の全てを訴えでましょう!!』

アルキュ王国禁軍を指揮する【常勝将】はジョルジュの師にあたる。
ジョルジュが少年兵として【統一王】の革命に参加した当時、
【常勝将】は王の右腕として活躍していた。

派閥に属する事を嫌い、【統一王】亡き後も孤高の立場から政治に携わってきた。
それゆえ、【評議会派】の権力の濫用には何度も苦言を呈している
公明正大で知られる男でもある。
その騎士の提言は悪い考えとは思えなかった。

だが…。

( ゚∀゚)『それは…まだできねぇ…』

眉間に深い縦皺を刻み、静かに瞳を閉じていた彼は苦々しげに口を開いた。

( ゚∀゚)『考えても見ろ。俺達が今、怒りに我を忘れて行動したら【至宝】はどうなる?
     こうしている間にも【至宝】はメンヘルに向かっているかも知れないのだぞ。
     そうなれば二度と我らの元に返ることはないばかりか、どのような扱いを受けるか分からん。
     王家の事を思うならまずは【至宝】を奪回せねばならん。
     …この屈辱を晴らすのはそれからだ』

身を焼かれるような屈辱を受けながらも王家への忠誠を忘れない主の姿に
騎士達は頬を殴られたような衝撃を覚える。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:23:26.12 ID:6cSOB08l0
( ゚∀゚)『【沈黙の塔】なんぞに【至宝】を封印させるワケにはいかねーが、
      それでも安全が分かる分、メンヘルなんぞに連れて行かれるより100倍マシだ。
      それこそ、後日元帥に直訴して待遇の改善をさせる事も出来る』

ジョルジュは自らに言い聞かせるように言葉を搾り出した。

( ゚∀゚)『まだメンヘルは軍を引いたわけじゃねーし、下手人はあの【金剛阿吽】の2人。
     単独行動は危険だ。軍を8つに分ける。
     【薔薇の騎士団】の名誉に懸けて【至宝】をメンヘルに渡すんじゃねーぞ』

その言葉を受けた騎士達は顔の前に剣を構え、一斉に答える。

騎士団『【薔薇の騎士団】の名誉に懸けて!!』

そして、即座に隊列を整え直すと東西南北に散っていった。

薔薇の騎士『では将軍。また後ほど』

最後に残った【百騎長】の腕章をつけた、中年の騎士が言う。

( ゚∀゚)『あぁ。こんなくだらねー仕事で命を無駄にするなよ』

薔薇の騎士『ふっ。あの鈍亀どもの首を落とすまでは死にませぬ』

片方の唇を上げて笑うと、騎士は馬首を返す。

( ゚∀゚)『…みんな…すまない。今少し堪えてくれ…この屈辱は必ず…』

その瞳に暗い炎が灯る。彼とて、この屈辱を甘受するつもりは毛頭無い。
遠のく騎士の姿に小さく呟きかけると、ジョルジュもまた愛馬の脇腹に軽く合図をいれ駆け出した。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:24:30.76 ID:6cSOB08l0
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兵士『司祭様。あれでございます』

舞台は変わってメンヘル軍陣地。
丸太とロープで組まれた物見櫓の上に二人の男がいた。

一人はメンヘル軍下級兵に配布される粗末な皮鎧を着込んだ青年。
もう一人は所々に銀の装飾が施された皮鎧を着込んだ老人である。

メンヘルでは階級の上下に関わらず鉄鎧を身に着ける者は殆どいない。
その理由として、【鉄の大国】ラウンジとの交流は天敵リーマン族が独占しており
純度の高い鉄を手に入れる為には各地に勢力を誇る【闇賊】を通さねばならなかった事が一つ。
更に、砂漠の民である彼らにとって鉄の鎧はあまりに不便であった事が挙げられる。

老人の頭に巻きつけたターバンからは肩まで届く白髪がのぞき、
戦場で浅黒く日焼けした顔には臍までヒゲが蓄えられている。
手にした【天星十字槍】さえなければ、年寄りの冷や水と笑う者もいるだろう。

しかし彼こそはメンヘルが誇る十二神将が一人。
この世に知らぬ者は無し。【天使の塵】【砂漠の星】の異名を持つ男。

ミ,,゚Д゚彡『…どれ。遠見眼鏡を貸せ』

その名をフッサールと言う。

ミ,,゚Д゚彡『…確かに妙だな』

自らの獲物を見張りの兵に渡し、遠見眼鏡を覗き込む。
そのレンズには昨日まで剣を交えていた侵略者の姿が映っていた。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:27:44.43 ID:6cSOB08l0
ミ,,゚Д゚彡『…ふむ』

右手で遠見眼鏡を持ち、左手で豊かな顎鬚を撫でつける。
彼が物事を考える時のクセであった。

遠見眼鏡の小さな筒の中。
勇猛で知られる【薔薇の騎士団】が見える。
だが彼らはこちらを目指すわけでもなく、隊を分け散っていった。

そして、代わりに敵陣に翻るは黒地に塔が描かれた旗。
【急先鋒】の政敵として知られる【鉄壁】ヒッキーの旗印だ。

ミ,,゚Д゚彡『あの二人が手を組んで戦場に立つとは思えんし…。
      それに、あの数少ない兵で我が軍を包囲するとも思えん…』

如何に【薔薇の騎士団】が鍛え抜かれた精鋭集団とは言え、隊を分ければ各個撃破の的になるだけだ。
ジョルジュは勇猛であっても愚かではない。

ミ,,゚Д゚彡『…何か策でもあるのか?』

フッサールは今回のリーマン軍侵攻の影に、
主である【預言者】モナーの命を受けた【金剛阿吽】流石兄弟の暗躍がある事を知らされていない。
武人であると同時に清廉な神職者でもある彼が『至宝強奪』等と言う蛮行を事前に知っていれば、
間違いなく反対しただろう。
それが名将フッサールの判断力を鈍らせた。

ミ,,゚Д゚彡『…しばらく様子を見る。備えだけは怠るなよ』

そう言い残し【天使の塵】フッサールは物見櫓を後にした。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:30:17.64 ID:6cSOB08l0
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『…どうする気だ、兄者?』

ジョルジュ率いる【薔薇の騎士団】一同が、やり慣れぬ人探しに四苦八苦している頃。
フッサールとは別の場所から騎士団を観察する4つの目があった。

ローハイド草原に面する森の中。
茂る葉の中に彼らはいる。

( ´_ゝ`)『…まさかこんなに早く【鉄壁】が到着するとはな』

【沈黙の塔】から【至宝】を奪って王都デメララを抜け出た時
その捜査を一任されたのが鈍重で知られたヒッキーと知って、兄者は油断した。
例え【至宝】とその侍女を連れているとは言え隠密たる自分達に追いつけるはずがないと。
だからこそ、昨夜は突然の雨で見失ったツン=デレの捜索を打ち止めたのだ。

兄者はヒッキーを侮りすぎた。
【評議長】ニダーに媚び諂う姿勢から、ヒッキーを単なる腰巾着と見る者も多い。
だが、彼もまた己の実力で千騎将にまで登りつめた男であり
その口先以上に頭脳と足の回転が速い男でもあったのだ。

(´<_` )『…だからあの時、邪魔になる侍女を殺せと言ったのだ。
       あの侍女さえいなければ今頃は神都に着いているだろうし、【至宝】を逃がす事も無かったはずだ』

( ´_ゝ`)『何を言うか!!』

兄者は【薔薇の騎士団】に見つかる危険も忘れて大声をあげる。

( ´_ゝ`)『少女愛好家の名誉に懸けてそれだけはできん!!』



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:32:30.45 ID:6cSOB08l0
その言葉に弟者はガックリと肩を落とし、溜息をつく。

(´<_` )『…死ねばいいのに。では、どうする気だ?』

この木の上に姿を隠して早半日。
幾度と無く繰り返されたやり取りは、最初こそ暇つぶしには持って来いだったが
あまりに度を過ぎると苛つきに拍車をかけるだけになる。

( ´_ゝ`)『…ここを出て我らも【至宝】を捜索すると言うのはどうだ?』

(´<_` )『…却下だ』

自分達が【薔薇の騎士団】に見つかる可能性も捨てきれない。
彼らは闇夜に暗躍する者であり、真正面から【薔薇の騎士団】と渡り合うだけの力も備えも無かった。

(´<_` )『…だからあの時、邪魔になる侍女を殺せと言ったのだ』

( ´_ゝ`)『何を言うか!!』

結論が分かりきっているやり取りが再開される。

( ´_ゝ`)とりあえず様子見。臨機応変に行動しよう(´<_` )

…2人がこの結論に達するまでに、更に長い時間を要した。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:34:57.28 ID:6cSOB08l0
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( ゚∀゚)『…マジかよ…お前ら…』

今、【急先鋒】を先頭とする小隊の前には4人の男女が立っていた。
うち2人の男は幾度と無く戦場を共にした兵奴である。
そして、残る2人は…。

櫛も通されていない髪。泥にまみれた顔。
茂みにでも引っ掛けたのか、元は豪奢であったであろう絹の服はあちこちがほつれ
その柔肌にまで傷がついていた。

ξ゚听)ξ『…貴方が…【急先鋒】将軍…?』

疲労し怯えたその瞳。しかし、そこから同時に懐かしい威厳を感じて
気がつけば彼は愛馬から飛び降り泥濘の中、膝まづいていた。

( ;^ω^);'A`)『…将軍?』

兵奴に質問する間も与えず、腰から貴重な塩袋と銀袋を取り外し2人の手に握らせる。

( ゚∀゚)『…お前等に頼みがある』

【王室派】の筆頭として…【至宝】を王家を蔑ろにする【評議会派】の思惑通りにさせる訳にはいかなかった。
だが、それ以上に少女の瞳が彼に決意させた。
武人として。男として。ヒッキーを許す事は出来なかったのだ。

( ゚∀゚)『…ここから街道を北に行くとバーボン領に着く。
     何も言わずに2人を連れてそこまで逃げてくれ。
     我が義弟【天智星】ショボンと言う男が力になってくれるはずだ』



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