( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:33:42.87 ID:6cSOB08l0


     第4章 白眉と給士


ローハイド草原から北に延びる大街道。
そこを抜ければ、すでにバーボン領である。

リーマン上級貴族に政権を牛耳られ王位継承者すら不在の形ばかりの小国とは言え、
それでもアルキュ王国禁軍最高権力者【常勝将】元帥の封土であるこの地は、
戦乱収まらぬアルキュ島において数少ない穏やかな土地だった。

今も街道に近い大邸宅の庭で咲き誇る梅を楽しむ男が一人。
頭にアルキュ貴族独特の竹冠を乗せ、豪奢な絹の服に身を包んでいる。

腕を組み梅を見上げるその姿からは想像できないほどに彼は若かったのだが、
落ち着いた物腰と隠者を思わせる白髪交じりの垂れ下がった眉のせいか
実年齢よりはるかに年上に見られる事が多かった。

そこへ近づく人物がいる。
両手で白磁の椀を乗せた盆を持つ10代後半の女性だ。
膝まで届く艶やかな黒髪。青年とは正反対に意志の強そうな細い眉と大きな瞳。
北のラウンジ帝国で使用されている黒の給士服に身を包んでいる。

彼女が青年に盆を差し出すと、彼は梅を見上げながら椀を手に取った。
薄焼きの椀の中には黄金色の茶が芳香豊かな湯気を立ち上らせ、
ジャスミンの花が一輪浮かんでいる。

青年はそれを口に含んで満足げに頷くと…椀を盆に戻そうとして手を滑らせた。
熱い茶が豪奢な絹の服に降りかかる。



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:36:14.54 ID:6cSOB08l0
(;´・ω・)『ぉわちゃーーーーーーっ!!』

青年はよほど驚いたのか、その場を飛びのくと熱い茶を被った服を冷まそうと必死で仰ぎ出した。
しかし給士の女性は、主人の急場にもかかわらず動こうとしない。
盆を両手で抱えこみ眺めているだけである。

(;´・ω・)『…で、どうだった?』

と、青年がいきなり主語も述語も抜かした問い掛けを発する。
給士服の女性には、その問い掛けの意味が分かっているのだろう。
それでも『…何が?』と意地悪な問いを返す。

(;´・ω・)『今の駄洒落だよ。お茶と【ぉわちゃーーーーーーっ!!】で絡めてみたんだ。
      このショボン一世一代の駄洒落。君の感想を聞きたいんだけど…』

その言葉に彼女は大きな溜息をついた。
左手で盆を小脇に抱えなおし、右手を腰に当てる。

从#゚∀从『笑いの為に体を張る根性は認めるけどよ。
     せっかくの茶を粗末に扱って欲しくないもんだぜ、ご主人』

怒りを隠さず、八重歯を光らせながら答えた。

(;´・ω・)『うん、そうだね。ハインごめん』

彼は素直に頭を下げる。

白眉の青年の名はショボン。
給士の女性の名はハインと言う。
……そして彼こそは【天智星】のショボンとして天下に広く知られた人物であった。



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:38:52.51 ID:6cSOB08l0
从 ゚∀从『…まぁ、いいけどよ
      世の中には茶も飲めない貧しい連中の方が多いんだぜ。
      それは覚えておかねーとな』

言いながらハインはジョボンの前にひざまづき、
茶に濡れた股間にどこからか取り出したハンカチを押し当てる。

从 ゚∀从『…それにしても…笑いの為とは言えなんつートコに零しやがったんだ』

(´・ω・`)『うん、そうだね。大きくなったらごめん。でも主の下の世話も給士としての…』

从#゚∀从『……』

獲物を前にした蛇の如く冷ややかな視線。
ショボンもこれ以上刺激するのは危険だと悟ったのか、言葉を慎んだ。
互いに微妙な姿勢のまま時間が過ぎる。

(´・ω・`)『ところで…あとどれ位かなぁ?』

再びの主語も述語も無い問い掛け。それにハインは再び『何が?』と答える。

(´・ω・`)『例の4人さ。君は見て来たんだろう? あとどれ位で到着するのかな?』

从 ゚∀从『もうすぐバーボン川だったからよ。
     夕方までには到着するだろ。道に迷わなければの話だけどな』

(´・ω・`)『…退屈だなぁ。早く到着しないかなぁ』

立場の弱い主は空を見上げ呟く。
立場の強い給士は、主の下品な冗談に対する報復を考えていた。



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:41:34.25 ID:6cSOB08l0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その頃。
噂されている事など露知らず、4人は街道で馬を走らせていた。
ローハイド草原を出てから早2日が経過している。

途中街道の商家から2頭の馬を買い、一頭にナイトウとツン。もう一頭にはドクオとミセリが騎乗している。
急ぐのであれば4頭の馬を買うべきであったが、
侍女であるミセリに騎乗経験が無かった事から2人で1頭の馬に騎乗する事になったのである。

平坦な街道ゆえ馬車と言う選択肢もあったが、
足元を見た商人が相場よりはるかに高額な価格を提示してきた事に、ドクオが猛反対した為断念。
馬の疲労も考え、走るよりちょっと早い程度の速度でバーボン荘へ向かっていた。

( ^ω^)『そんな訳で、貴族様が店に入るとみんな食堂の裏に集まるんだお。
       貴族様は肉しか食べないから…鶏のトサカや足を食べた事あるかお?
       歯応えコリコリだけど舌の上では蕩けて…これが本当に美味しいんだお』

馬を走らせながらナイトウは背後のツンが退屈しないよう、色々な話をして聞かせる。
自虐的な笑いを盛り込んだナイトウの話に彼女は夢中で相槌を打ち、
目を見開いて驚き、クスクスと笑いを漏らした。
特に食べ物の話をしている時の青年の表現力は鮮やかで、幾度と無く彼女の胃は抗議の音を漏らす。

('A`)『……』

反面無言で馬を走らせるのはドクオだ。
元来無愛想な男である。
だがそれ以上に己の民族に異常なまでの誇りを持ち、
反面その他の三民族を【侵略者】として嫌っている男でもある。
身元を完全に明らかにしようとしない彼女らに不信感を覚えているのも当然だった。



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:43:22.46 ID:6cSOB08l0
ミセ;゚ー゚)リ『あの…その…隣の家に塀が立ったそうですね…なんちゃって…』

ミセ;゚ー゚)リ『あの…今晩食べたい物とかあります?
     ボクは季節的にも蓬のお粥なんか食べたいなぁ…なんて…』

時折ドクオに抱えられるように支えられている短髪の少女が沈黙に耐えられず口を開く。
だがその度に

('A`)『…黙ってろ子猿。舌噛むぞ』

と一蹴されてしまい、泣きそうな顔で銀髪の青年と金髪の少女を見つめるのであった。

( ^ω^)『おっ、ここからはもうバーボン領だお』

街道を分けるバーボン川に架けられた橋を渡りながらナイトウが言う。

('A`)『…バーボン荘まであと少しだな。夕刻までには着くだろう』

前を行くナイトウに馬を並べながらドクオが言った。

ξ゚听)ξ『【天智星】ショボン…どんな人なのかしら』

ミセ*゚ー゚)リ『優しい人だと…』

…いいですね。続けようとしたミセリはドクオの『…黙ってろ子猿。舌噛むぞ』の一言で口を閉じた。
仕える主人は銀髪の青年と楽しそうに笑い合っている。

ミセ*;ー;)リ。oO(…泣かないもん)

そう決意を固める少女の目には大粒の涙が溜まっていた。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:44:54.47 ID:6cSOB08l0
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(-_-) 『…役に立ちそうな者はこれだけか』

簡素な座に腰掛け、ヒッキーは周囲を見渡した。
命からがらローハイド草原を逃げ出し、ようやく人心地ついた所で
どこからともなく生存者が彼の周りに集まりはじめた。
その大半が傷を負い、戦力になりそうな者は【鉄柱騎士団】が200。
一般兵が300と言った所であろう。

側近D『…将軍。これからどうしましょうか…』

言いながらも側近の目は『早く王都に戻りたい』と訴えかけていた。
王都を出た時には2000を数えていた軍が今やこの有様である。
彼の願いも当然であると言えた。

(-_-) 『この様な醜態を晒して王都に帰れるものか!!』

叫び立ち上がる。

側近D『ひっ』

小さな悲鳴を上げ、その場に尻餅をつく。
その情けない姿を見て沸きあがった怒りを納めたのか、
ヒッキーは『フン』と鼻で笑うと側近に背を向け口を開いた。

彼はこんな所で躓くわけにはいかなかいのだ。
汚名を晴らす手段は一つしかない。



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:47:06.12 ID:6cSOB08l0
(-_-) 『…確か【至宝】はバーボン領に向かったのだったな』

その言葉から、彼の思考を読み取った側近が口から泡を飛ばしながら訴えかける。

側近D『しょ、正気ですか!! バーボン領は元帥殿の封土!!
   現在元帥は南部の叛乱制圧の為不在とはいえ私兵も多く、
   留守を預かるは天才と謳われた【天智星】と【黄天弓兵団】ですぞ!!』

側近E『そ、そうですぞ!! 仮に【至宝】を発見したとしても、
   軍を率いて私領に足を踏み入れたとなれば、あの【常勝将】を敵に回す事になります!!
   そうなれば我らの将来は絶望と言わざるを得ません』

(#-_-)『黙れ!!』

ヒッキーは側近の進言を一喝、強引に口を閉じさせる。

(#-_-)『よいか。ジョルジュは元帥に師事していた時、
    【天智星】とは義兄弟の契りを結んだと聞く。
    この度の叛乱に【天智星】が絡んでいたとしても不自然ではないのだ!!』

死人に口無し。
如何に天才【天智星】と言えども、死後に被らされた罪を晴らす手段は無いだろう。
少数とは言え厚い鎧に守られた【鉄柱騎士団】は
弓兵中心で構成された【黄天弓兵団】に対して絶対的に有利であり、
【天智星】がどのような小細工を仕掛けてきても負けないだろうとの自信もあった。

(#-_-)『分かったか!!
    分かったら動ける者は出立の準備を整えるのだ!!』

顔を見合わせる部下に怒鳴り散らすと、ヒッキーは手元の水差しを一息に飲み干した。



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:50:06.51 ID:6cSOB08l0
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暗い表情で溜息をつく兵士の中に、2人の男がいた。
兵士達は疲労し己の運命を呪う事で精一杯だったが
もし余裕があったとしたら、この2人を見て首を傾げた事であろう。

どんなに古株の兵士であろうと彼らを見知らなかった事が、その理由の一つ。
更に、彼らは鏡で映したかのように全く同じ顔をしていたのである。

( ´_ゝ`)『どうだ、やはり北だっただろう』

(´<_` )『…てっきり、南の【常勝将】を頼るかと思っていたが。流石だな』

弟者は懐から銀を一枚取り出し放り投げる。それを掴み取ると兄者はニヤリと笑った。
実際は南を主張する弟に敢えて反対しただけなのだが、このような時だけ兄者の勘は冴えていた。

(´<_` )『そうなると、後はここを脱走して北へ向かうだけか』

( ´_ゝ`)『まぁ、待て弟者。時に落ち着け』

ヒッキーとしては一人の脱走者も許さない心積もりであろうが、
この2人にとってそのような警備など何の意味も成さない。
それでも兄者は腰を上げようとする弟者を制止した。

(´<_` )『どうした、兄者? 何故止める?』

答える兄者の声は心なしか暗い。

( ´_ゝ`)『忘れたか? 北にはヤツが…【射手】がいる…』



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:52:14.91 ID:6cSOB08l0
【射手】。
正確には【闇に輝く射手】の異名を持つ隠密である。
幼くして戦火に両親を奪われた【射手】は、兄弟同様キール峠で隠密としての修行を積んだ。
血を浴びたように赤い髪を闇夜に翻し、幾つもの謀略に関わってきたとされる人物。
修行時代、メンヘルの隠密では1・2を争うこの兄弟ですら幾度と無く訓練で打ち負かされてきた。
心持たぬ暗殺人形。炎髪の人斬り。
そう言った意味では南の【常勝将】は表の人間であり、手ごわいとは言えまだ楽な相手と言えた。

( ´_ゝ`)『弟者は…【射手】と正面からやりあって勝てると思っているのか?』

弟者から巻き上げた銀を玩びつつ言う。
バーボン領は完全に【射手】のテリトリーだ。
2人が侵入すればたちどころに【射手】に知られるであろうし、そうなれば衝突は避けられない。

(´<_` )『……』

沈黙を返答と受け取った兄者は更に言葉を続けた。

( ´_ゝ`)『ならば、我ら兄弟はこの軍に潜み合戦のドサクサに紛れて【至宝】を掻っ攫う。
       これぞ、楽して最大の成果を挙げる一番の手段ではないか』

(´<_` )『おぉ!!』

弟者は思わず驚嘆の声を上げる。

(´<_` )『流石兄者だ!! セコイ!! 汚い!! えげつない!! 死ねばいいのに!!』

( ´_ゝ`)『…今、死ねばいいのにとか言わなかったか?』

しかし、それは弟者なりの兄に対する精一杯のの賞賛であった。



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:55:31.17 ID:6cSOB08l0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
辺りが夕闇に包まれ、一同が野宿を考え出した頃。
ようやく彼らは庭に梅の木が生えた邸宅に到着した。

ξ゚听)ξ『危なく今夜も野宿になるところだったわね。早く汗を流したいわ』

( ^ω^)『これもドクオが近道しようとか言い出すからだお』

('A`)『…いいじゃねーか。ちゃんと着いたんだからよ。
    それに汗を流したいなら、途中で川があったじゃねーか』

ドクオは何となくバツの悪そうな表情を浮かべる。

ξ゚听)ξ『川で水浴び? 冗談は止めてよね。気持ち悪い』

眉をしかめながらの言葉に、水浴び以外で汗を流す手段を知らない2人は顔を見合わせた。

ミセ*゚ー゚)リ『だからボクがあの道は間違ってr』

(#'A`)『…黙れ子猿』

ミセ*;ー;)リ(…ぜ、絶対泣かないもん!!)

そんな会話をしながら、彼らは門の前で馬を降りる。
訪問を告げ、扉を叩こうとした時ふいにそれは内側からゆっくりと…まるで彼らを待っていたかのように開けられた。
立っているのは、左右に屈強な門番を従えた黒い給士服の女性。

从 ゚∀从『よぉ、遅かったじゃねーか。近道しようとして迷子にでもなったのかと思ったぜ』

何故か、口調に軽い皮肉を込めながら彼女は言った。



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:57:27.01 ID:6cSOB08l0
かぽーん

湯気が充満した空間に、手桶を床に置く音がこだまする。
市に酒を買いに行っているという【天智星】が帰ってくるのを待つ間、
4人は男女に分かれて風呂に入っていた。

だが実際ショボンは市になど行っていない。
そもそも、これほどの大邸宅の主が夜半に自ら酒を買いに行くこと自体がありえない話だ。
まずは旅の汗を流してもらおう…と言う給士ハインの配慮であり、

('A`)『リーマンの連中なんかと仲良くなんて御免だね。
    俺は金貰ってさっさとおさらばしてぇんだ』

と頑なにそっぽを向くドクオを押し切り、好意に甘えた次第である。
そのドクオも今は大人が泳げるほど広い湯船の中で小さく鼻歌など漏らしている。
ほんの数刻前まで全く知らなかった幸福の中に2人はいた。

( *^ω^)『気持ちいいけど…なんだか体中がかゆいお』

男『それは体についた汚れがふやけてきているのです。
  宜しければ、お背中をお流しいたしますが?』

浴場の隅に控える男が答えた。
入浴法など全く知らない2人の為にハインが手配した、この邸宅の召使である。

( ^ω^)『おっ、お願いしますですお』

作法など全く知らない2人は勧められるがままに湯船を出る。
程よく温まった体から湯気が立ち上った。



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 01:59:47.72 ID:6cSOB08l0
从 ゚∀从『よし。じゃ、そこに座ってくれ。サービスするぜ』



( ^ω^)( 'A`)『……』



( ゚ω゚)( ゚A゚)



( ゚ω゚ )(゚A゚)




从 ゚∀从『こっち見んな。つか、前隠せ』



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:02:04.33 ID:6cSOB08l0
( ;゚ω゚)『な、なんで何時からこんな所にいるんだお!!』

(;'A`)『…変態か!?』

慌てて湯船に逃げ込もうとするが、前を隠しながらでは思うように走れなかった。
湯船の手前で?まり、細腕からは想像も出来ない馬鹿力で無理矢理座らされる。

从#゚∀从『誰が変態だ!! 給士長として客人をもてなしてやろうってハインの気遣いがわからねぇのか!!』

( ゚ω゚)『ちょ、この人何とかしt』

咄嗟に助けを求めるが、唯一頼りになりそうだった召使の青年はいつの間にか消えていた。
ハインは給士服のスカートの裾を巻き上げて腰で縛り、
両手にたっぷりと泡立てられた垢すりを持っている。

从 ゚∀从『へへっ、観念しな』

内股座りで必死に股間を隠す2人の後ろで彼女は不敵な笑みを浮かべ…獣の如く襲い掛かった。

从#゚∀从『大人しくしろっ!! そんな汚れた体でお屋敷を歩き回られてたまるかってんだ!!
     オラオラっ!! 手ェどけろ!! そこは皮剥いて洗うんだよっ!!』

( ;ω;)『ら、らめぇ!! そこはらめぇ!!』

从 ゚∀从『うるせぇ!! 普通なら金取るぞ!!』

( ;ω;)『おっ、おっ、おっ…』

('A`)『…ウツダシノウ』



156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:05:42.26 ID:6cSOB08l0
力任せに全身を垢すりで擦られ、フラフラになって浴場を出た2人は
またしてもハインの手で体中の水分を拭いまわされ髪に櫛を通される。
若芽のように軽く柔らかい絹の服に袖を通し客室に案内される途中で
やはり入浴を終えたばかりのツンとミセリに鉢合わせた。

2人もまた体の線がくっきり分かるほど薄い無地の絹の服を着て、頭髪を纏める様に布を巻きつけている。
ほんのりと赤く染まった頬が艶っぽい。

ξ゚听)ξ『あら。ナイトウも今お風呂出たトコなの?』

水差しが汗をかくほどよく冷えた水を薄焼きの椀に注ぎ手渡す。
2人はそれを一息に飲み干した。

( ;^ω^)『…お風呂って怖い所ですお』

ミセ*゚ー゚)リ『…? はしゃぎ過ぎて溺れたんですか? って言うか、強く擦りすぎなんじゃ…?』

擦りすぎてみみず腫れになった男2人の肌を見て言う。

('A`)『…黙れ』

( ^ω^)『…今回ばかりはドクオに賛成だお。男には口に出来ない事も多いんだお』

ξ゚听)ξセ*゚ー゚)リ『???』

お互いに振り分けられた客間には入らず、その前の廊下で4人は談笑する。
そこへ、濡れた給士服を着替えたハインが姿を現した。
背中に回したエプロンドレスの紐を結びながら歩いてくる。

从 ゚∀从『? んなトコで何やってんだ? それより飯の支度が出来たからよ。食堂まで来てくれや』



162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:13:07.50 ID:6cSOB08l0
('A`)『…俺は庭の隅で干し肉でも齧らせてもらう。何度も言うようだが、リーマンの連中なんかと…』

この様な感じでやはり同席を固く拒否するドクオだったが、

从 ゚∀从『あぁ!? 野宿でもしようってのか? 
     折角の誘い断って、ハインちゃんに恥かかせるんじゃねーよ』

と胸倉掴まれて説得され、渋々首を縦に振る事となった。

彼らが案内された食堂はこれまた兵奴の2人が見た事もない豪華な部屋で、
穏やかな温暖系の色で統一された室内を柱に掛けられたランプが灯している。
テーブルの上にもランプが載せられ、どうやら精度の高い酒に香りをつけて火を点けているらしかった。

( ゚ω゚)『…お酒をこんな風に使うなんてもったいないお』

他にも椅子やテーブル・勿論柱や窓枠など細やかな部分にまで、この邸宅の代名詞ともいえる梅の花を模した彫刻が為され
鳳凰を描いた衝立、無造作に梅の枝を差しただけの花瓶まで目を見張るものばかりである。

从 ゚∀从『早く座ってくれねぇか? 飯が運べねーんだけど』

呆然と部屋中を眺め回していたナイトウは、その言葉で我に返った。
見ればツンとミセリ、ドクオまでがとっくに座に腰を下ろしている。
慌てて座り込んだ椅子は沈み込むように柔らかいクッションがひいてあって彼はまたそれに驚いた。

( ;^ω^)『…なんか緊張してご飯が喉通りそうにないですお』

彼らがたまの贅沢日に行く酒場は、壁に酔っ払いがぶち空けた穴が塞がれずに放置されていたものだ。
椅子は4本あるはずの足が3本しかなかったり、テーブルの代わりに木箱が積まれているような店だった。
意地汚さには絶対の自信を持っていた筈の彼だったが、今ではその自信も失いそうになっていた。



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:15:23.62 ID:6cSOB08l0
( ゚ω゚)『ハフッ…ハムハム…うまうま…ングッ!!』

('A`)『……』

ξ;゚听)ξ『……緊張して…?』

ミセ;゚ー゚)リ『…ご飯が喉通らない…って言ってませんでしたっけ?』

台風の様な勢いで皿に取り分けられた料理を口に流し込むナイトウ。
どうやら、彼の心配は杞憂だったようだ。
気難しそうな顔をして、それでも誘惑に勝てず静かに目の前の皿を空にしていくドクオ。
ツンとミセリは、箸を動かすのも忘れてそれを呆然と見つめている。

从 ゚∀从『だぁぁぁぁぁっ!! 飯は逃げねぇからもっとゆっくり喰えっ!!』

怒鳴り散らしながら、大皿の料理を次々と小皿に取り分けていくのはハインだ。
残念ながら、それは盛り分けるとほぼ同時に空になってしまうのだが。

( ゚ω゚)『逃げちゃうかもしれないですお…ングッ!!』

('A`)『…オムッ!!』

同時に喉を詰まらせ、目を白黒させる。
必死で目の前のグラスに手を伸ばした。

从;゚∀从『ちょ…それは…!!』

2人が一息に飲み干したのは、ラウンジから輸入された最高級葡萄酒。
彼らの生涯収入を合わせても手に入れられないであろう酒で喉の異物を胃に流し込み、
男達は再び卓上の料理を征服に乗り出した。



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:19:03.59 ID:6cSOB08l0
彼らがこの夜無我夢中で食べている料理は
この邸宅の料理人が腕を振るった甲斐もあり本当に素晴らしいものだったと記録にはある。

新鮮な貝を散らしたサラダに始まり
蜜を塗って表面をパリパリに炙った、舌の上で蕩ける豚の皮。
腹の中に野菜を詰め込んでオーブンでじっくり焼いた鶉。
野草を散らした川魚の塩包み焼。

海老は彼らの目の前で生きたまま酒を注がれ、宙を跳ね踊る。
やがて海老が酒に酔い動きが止まったところで軽く塩焼きにされた。
口に放り込むと、中から火傷しそうなほどに熱い肉汁があふれ出す蒸し物。

子牛の骨と香草をじっくり煮込んだスープ。
蓮の葉で包んで蒸したご飯。
当然の如く注がれる酒は口の中でふわりと複雑な香気が広がり、嫌味なく消えていく。

デザートに出された果物の蜜漬けを食べ終わった時には
4人は膨れ上がった腹を抱えて動けなくなっていた。

( ^ω^)『…もう食べられないお』

('A`)『…腹が破裂して死にそうだ…今襲われたら間違いなく死ぬな。
    …まさか、この隙に暗殺者が乱入する計略か!?』

从 ゚∀从『お前らバカだろ?』

言いながらも嬉しそうな表情でハインは椀に茶を注ぎ、彼らの前に静かに配って回った。



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:21:45.03 ID:6cSOB08l0
香り立つその液体を口に含むと柔らかい苦味と甘味が同時に鼻から抜け、自然と心地よい溜息が出る。
満腹にもかかわらず、飲まずにはいられない。ハインリッヒが注いだ茶はまさしくその様な味だった。

茶葉の質が良いのも勿論の事。全てを理解していなくてはここまで茶の味を引き出す事は出来まい。
ナイトウとドクオは、ここで初めて『茶とは美味い物だ』と知った。
彼らが普段飲んでいた物は、茶とは名ばかりの『色がついたお湯』だったからだ。

('A`)『…贅沢な飯を食べたかったらリーマン族に作らせろ、ってのは本当だったんだな。
    俺達モテナイの民はとてもじゃないがこんなのは作れん』

ドクオが珍しく本心から讃えた。
モテナイ族は遊牧民である。
日々を家畜の世話をして過ごす彼らの食文化は羊の乳から造った酒など簡素な物や保存食の類が多く、
一日中厨房に立って調理に勤しむ文化など興る筈もなかったのだ。

ミセ*゚ー゚)リ『ところで、【天智星】様のお姿がどこにも見当たりませんが…』

ここに来てようやくミセリが当然の疑問を口にする。

从 ゚∀从『あぁ、いいんだよ。疲れた客人にまず面倒な話をさせるほどバーボンは無粋じゃねーからよ』

片手をヒラヒラと動かしながら、さも当たり前と言った感じで続ける。

从 ゚∀从『納屋に監禁してある。お前らが寝た頃に解放してやるさ』

(;'A`);゚听)ξセ;゚ー゚)リ『……え?』



( ;^ω^)『いや、それは不味いだろう…常識的に考えて』



181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:24:20.81 ID:6cSOB08l0
翌朝。
雲のように柔らかく、陽の匂いがする布団の中でナイトウは目を覚ました。
ふと横を見るとドクオは寝台に腰掛けてボンヤリとしていた。

('A`)『…寝れたか?』

( ^ω^)『バッチリ熟睡だお。ドクオは?』

ナイトウの問い掛けにドクオは憂鬱そうに首を横に振る。

('A`)『…なんか落ち着かなくて寝れなかった。
    やっぱり、庭の片隅でも借りた方がマシだったぜ』

他者を見下す言動が多く傲慢に見られがちなドクオだが、この島では彼が特別と言うわけではなかった。
民族紛争が盛んな地では、幼少期より己の民族こそ至高の存在たる教育を受ける事は珍しくない。
その副作用として、『自己>他者』的な傾向を知らず知らずのうちに持ってしまう者も多いのだ。
だが、実際の彼は…1個人としての彼は意外なほど繊細な男であった。

( ^ω^)『……』

一枚作りの寝服を脱ぎ捨てると、いつの間にやら用意されていた平服に着替える。
寝不足で不機嫌な親友を見てなにやら躊躇していた様子のナイトウだったが、
やがて決意を固めたかのように口を開いた。

( ^ω^)『ドクオ』

('A`)『…あぁ?』

( ^ω^)『…あんまり変な意地張るなお』



184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:26:17.54 ID:6cSOB08l0
('A`)『…言ってる意味がわからねーよ』

友の予想外の忠告に一瞬ドクオは鼻白む。

( ^ω^)『ドクオなら分かる筈だお』

('A`)『…っ!!』

いつもどおりの柔らかな笑顔を崩さず、それでも強く断言するナイトウ。
対するドクオは彼にしては珍しく顔を硬直させた。

('A`)『…それなら言わせてもらうがな!!
    俺はリーマンのカスどもと仲良くなんて御免なんだよ!!
    お前の方こそ変なんじゃねーか!? あんな素性も知れない…どこの民族かも分からない女ども相手にヘラヘラするわ、
    御呼ばれとあればノコノコ着いて行くわ。
    脳に虫湧いてるとしか思えねーぞ!!
    それともあの金髪クソ女に惚れでもしたk』

( ^ω^)『ドクオ』

罵倒されても態度を乱さない、それでも確固たる意思を込めた一言にドクオは声を中断した。
熱くなっていた頭が水を掛けられたように冷めていく。

( ^ω^)『ドクオと僕は友達だお』

('A`)『…あ…あぁ』



186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:28:34.16 ID:6cSOB08l0
( ^ω^)『素性も知れない。どこの民族かも分からないのは僕も同じだお』

('A`)『…お前とあいつらは違う。この何日かでも分かっただろ?
    あの2人は間違いなくどっかの貴族…それもリーマン族の貴族だ。
    貴族連中を信じて死んでいった奴を何人も見ただろ?
    モテナイの民は貴族連中を信じて利用された挙句【統一王】のクソに滅ぼされたんだ。
    俺から見れば貴族も【王室派】も【評議会派】も、当然王家に関わる連中も信じられねぇ。
    仲良くするどころか…殺してやりてぇくらいなんだよ』

ドクオの言葉にはキレが感じ取れない。
ダラダラと反論じみた事を呟くのみであった。

( ^ω^)『…確かに僕も貴族は嫌いだお。
       あいつらは僕からやっと手に入れた少しだけのご飯やお金や…友達の命を奪っていったお。
       でも、貴族ってだけで嫌なヤツはいない筈だお』

更にナイトウは続ける。

( ^ω^)『ジョルジュ将軍は僕らに塩をくれたお。
       ミセリが作ってくれたお粥…美味しかったお。
       ハインさんは怖いけど…僕らと対等に話してくれるお。
       ツンはきっと今凄く困ってて…僕らを沢山いじめた貴族様と同じ位偉い人のはずなのに
       僕の話を聞いて嬉しそうに笑ってくれる…すごくいい娘だお。
       みんな…僕らみたいな兵奴に凄く良くしてくれて…それなのに僕らから壁を作っちゃいけないお』

('A`)『……』

ドクオの押しの強さは幼年期より植えつけられた物であるが、
ナイトウには生来よりここぞと言う時には自身の意見を曲げない頑固さがあったと伝えれている。
今も微笑みを浮かべながら肯定を迫るナイトウの迫力に負けて、ドクオは渋々と首を縦に振る事になった。



188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:31:06.00 ID:6cSOB08l0
('A`)『…分かったよ、ナイトウ』

( ^ω^)『おっ?』

('A`)『…いきなりじゃ難しいけど、努力してみるつもりだ』

( ^ω^)『流石ドクオだお!! ドクオなら絶対に分かってくれると思ってたお!!』

ナイトウは思わずドクオに抱きついた。

(;'A`)『…って、何しやがる!!』

( ^ω^)『信じてたお!! 好き好き愛してるだお』                       从∀゚ 从

(;'A`)『……』

( ;^ω^)『好き好き愛し…t…』                                从∀゚;从

(;'A`)『……』

( ;^ω^)『……』

                                                  )))))从;゚∀从




( ;^ω^)『 い や 、 マ ジ で ち ょ っ と 待 て 』



194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:35:30.15 ID:6cSOB08l0
从;゚∀从『は、離せ!! ハインちゃんは何も見てねぇ!!それに恋愛は自由…』

(;'A`)『…誤解だ』

( ;^ω^)『本当に勘弁してくださいお』

2人はドン引きのハインを無理矢理部屋に引っ張り込み、寝台に座りこませる。

同性愛者がタブー視されだしたのはあくまでも近代になってからであり
諸兄らの国でも明治時代に、男色・衆道と言われていたものが同性愛と言い換えられるなど
『性をタブー視』する風潮が広まるまではかなりオープンであった。

古代ギリシャではあのスパルタ軍を打ち破ったテーベ軍の中心が
同性愛者によって組織された軍隊であったと言う歴史的事実もある。

余談だが、欧州には固まりミルクなる遊びがあり……これについては興味がある人のみ調べていただきたい。
ただ、それでも人は自分と違う性癖を持つ者とは壁を作ってしまうわけで。

从;゚∀从『や、やめろ!! その男汁にまみれた手でハインちゃんに触るんじゃねぇ!!』

( ;^ω^)『ちょ…静かにしてくださいお!! お願いですお!!』

('A`)『……』

さて。
暴れるハインを必死に説得させようとするナイトウと、呆れて言葉もないドクオ。
この現場は全く経緯を知らない者が見れば
抵抗するハインを無理矢理押し倒すナイトウと、人が来ないか監視しているドクオ…という風にも見れるわけで。

( ;^ω^)。oO(…嫌な予感しまくりんぐりんぐばんげりんぐべいだお)



197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:39:17.39 ID:6cSOB08l0

???『とぉぅぅぅぅぅぅぅぅぅおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

( ゚ω゚)『ぶげらっ!!』

嫌な予感とは的中する為にあるような物である。
開いた扉から飛び込んできた【何か】に強烈な膝蹴りを頬に喰らい、ナイトウは床に転がった。

ハインを庇うようにそこに立つのは、やはり給士服に身を包んだ女性。
ただ裾はハインの物と比べてかなり短く、色は燃え上がるような赤。
肩に届かないほどの長さで毛先がクルンと跳ねあがった髪は同じく炎の様に赤く、怒りに全身を震わせている。

ノハ#゚听)『御姉様に何してるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!』

更にドクオにまで殴りかかろうとする彼女をハインが必死に羽交い絞めにする。

从;゚∀从『ま、待てヒート!! お前が出てくると話がこじれる!!』

( ;^ω^)『…妹さんかお?』

床にへたり込んだナイトウが頬を擦りながら、場違いな疑問を口にした。

ノハ#゚听)『血の繋がりなんか愛の前に関係あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
     御姉様はあたしの心の御姉様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!』

从;゚∀从『ばっ…黙れっ!!』

( ^ω^)『……』

('A`)『……』



199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:45:05.80 ID:6cSOB08l0
( ;^ω^)『……うわぁ』

(;'A`)『……』

正にドン引き。

( ;^ω^)『…だから平気で男湯に入ってこれたのかお』

(;'A`)『……いや、どっちが男役(せめ)でもおかしくない気がするぜ』

从;゚∀从『待て!! お前らこそ誤解するな!!』

正に立場逆転である。今度はハインが男2人の肩をつかみ、必死で説得を始める。

( ;^ω^)『いや、いいと思いますお。
       僕もそんなシチュエーションを想像して何度かお世話になりましたし…』

ノハ#゚听)『黙れ下衆!! 御姉様そこをお退きください!!
     この汚らわしい生き物に本当に美しい愛とは何かを体に叩き込んでやります!!』

从;゚∀从『違うって言ってんだろ!! ヒートも少し黙れ!!』






ξ;゚听)ξ『…朝から何やってるんですか…』

その狂宴は扉の影から覗いていたツンが言葉をかけるまで続いた。



203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:48:48.01 ID:6cSOB08l0
ノパ听)『そう言う事だったら、もっと早く言ってくれればよかったんだ!!!!!』

( ;^ω^)『…説明する間もなく蹴りかかって来たのはあんただお』

ナイトウら一行は給士長であるハインの案内でショボンの書斎へ続く廊下を歩いていた。
窓からは朝の光が差し込み、梅の木に止まった鶯の鳴き声が風流とは無縁の生活を送ってきた
2人の兵奴の心にすら安らぎを与えてくれる。

やがて彼らは一段と豪華な両開きの大扉の前に辿り着いた。
その左右に立つ護衛の兵がスッと一歩下がり、道を空ける。

从 ゚∀从『さて…ここから先はお前らだけで行ってくれ』

ハインが何時にもなく真剣な表情で言った。

ξ゚听)ξ『…ハインさん達は一緒に来てくれないんですか?』

不安げな声で問いかけるツンに答えたのはヒートだ。

ノパ听)『ご主人様のご命令でね。
     あたしは御姉様と本当の愛について肉体言語で語り合う大事な使命が…』

从 ゚∀从『あるあr…ねーよwww
     心配すんな。ハインちゃんらは朝飯の支度をしなくちゃいけないってだけさ。
     バカみたいに喰う男どもがいるからなwww』

そう言ってハインは笑う。
そのやり取りがツンから不安を取り除いた。
扉に手をかけ彼女を見つめる兵に向かい静かに、だが強く頷く。
そしてゆっくりと扉が開かれた。



205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:50:39.45 ID:6cSOB08l0
扉をくぐった彼らの目に飛び込んできたのは、壁一面に陳列された莫大な量の本だった。
その前には樫の木で作られた重厚な机があり、白磁の碗が4つ並んで置いてある。
右手の壁や、彼らが通った扉側の壁もやはり書物で埋まり
唯一庭に面した壁だけが征服を免れている状態だった。

その壁にあいた窓から、庭の梅の木を見る者が一人。
背を向けているだけの姿からも、知性のオーラを感じ取らせる。
【急先鋒】ジョルジュとはまた違った気を発する男がそこにいた。

ーーーーー【天智星】。

ミセリが慌てて両手を胸の前で交差させ頭を下げる、
リーマン女性式の最敬礼の姿勢をとった。

ミセ*゚ー゚)リ『一宿一晩の御恩感謝致します、偉大なる【天智星】ショボン様。
     ボク…じゃなくて、私はリーマンのミセリ。異名も無き小さな者にございます。
     こちらにおわしますは我が主…』

自身に続いてツンを紹介しようとしたミセリを、彼は右手を軽く挙げて制した。
そのまま、机の上に置かれた碗を指差す。

( ^ω^)『…まずあれを飲めって言うのかお?』

梅の木から視線を外さずに頷く。

( ^ω^)。oO(…ワケわかめかめかめかめかめわかめだお)



208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:53:51.60 ID:6cSOB08l0
もし、これが何らかの陰謀だとすれば考えられるのは毒物の可能性だろう。
昨夜の盛大な歓迎を思えば杞憂かもしれないが
一旦安心させてから裏切るのは貴族のお得意とナイトウは考えていたし、
何よりもそのやり方で命を失くした者を数多く見てきた経験もある。

だが、彼は【天智星】という男を…何よりも文字通り命を捨てて彼らをここに送り届けた
【急先鋒】ジョルジュを信じた。
いや、疑う気など微塵も起こさなかった。

不安げな表情のツン。
オロオロするミセリ。
片手を懐に入れ、もう片方の手で道を塞ぐようにして立つドクオ。
その顔を見渡し軽く頷く。

碗を手に取ると、まずは鼻に近づけ匂いを確かめた。
精度の高い酒が発する刺激臭がツンと鼻につく。

(   )『…毒なんて入ってないから安心してくれていいよ』

( ;^ω^);'A`);゚听)ξセ;゚ー゚)リ『!!!!!!』

無関心な風を装っていた筈の人物から発せられた突然の一言に驚き、彼らは一斉にその声の元を見る。
視線を全身に浴びながら、邸宅の主はゆっくりと振り向いた。

そして言う。



(´・ω・`)『ようこそバーボン領へ。
      このテキーラはサービスてきーな物だから、まずは飲んで落ち着いて欲しい』



211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:55:48.32 ID:6cSOB08l0

               この テ キ ー ラ は

( ;゚ω゚)『ま…まさか…』

(´・ω・`)b

             サービス て き ー な 物だから

(;゚A゚)『…その一言を言いたいが為に…こんなふざけた舞台を用意したってのか…?』

d(´・ω・`)b

                  テ キ ー ラ

ξ;゚听)ξ『そ…そんな…ありえないわ…』

\(´・ω・`)/

                  て き ー な

ミセ;゚ー゚)リ『さ…さすが天下に名の知れた【天智星】様…考える事が違う』

从#(*´・ω・)v



215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 02:59:32.75 ID:6cSOB08l0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以下は、【アルキュ王国正史・第二次統一革命の章・ショボン伝】よりの抜粋になる。

〜(中略)壁一面に陳列されていた書物は今や床に山積みになり、部屋の主の体を覆い隠していた。
飛び散った血は庭の梅の木を赤く染め、それでも動じずに鳴く鶯の声が
惨劇から目を背けようとしていた一同を正気に戻した(中略)〜

若干誇大表現が混ざっているであろうが、
【天智星】の行動が給士ハインを激怒させたであろう事は想像に難くない。

私としてはショボンが茶と偽って強い酒を飲ませた程度の出来事であったと考えているのだが、
この男に纏わる数多くの奇言奇行がこの話に妙なリアリティを持たせている。

長々と私見を述べて諸兄らを退屈させる訳にもいくまい。
話を書斎に戻そう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

从#゚∀从『…バーボン領の恥晒し野郎が』

ニーソックスに包まれた太股の奥まで顕わになるのも構わず、
ハインは書籍の山から覗いている主の頭部を踏みにじった。
その背後には当然の如くヒートが控えている。

从#゚∀从『ヒート!! 縄持って来い!! この馬鹿縛り上げてバーボン河に捨ててやる!!』

ノハ*゚听)。oO(殺気立った御姉様も素敵…好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

どこからか取り出した荒縄をハインに手渡す。
部屋の主がグルグル巻きにされかけたところで、ようやく一同は慌てて我に還りそれを止めにかかった。



219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 03:02:10.44 ID:6cSOB08l0
(;´・ω・)『やれやれ。ちょっとした歓迎のつもりだったんだけど…酷い目にあったよ』

散乱した書物を避けるように、床に直接胡坐をかいて座り込むショボン。
その横ではハインが腫れあがった彼の頬に濡らした布を押し当てている。

从 ゚∀从『歓迎は昨夜したって言っただろ!! 馬鹿なことしやがって…。
     だから軟禁されたって事くらい気付けよな』

八重歯が丸見えになるほどの大口を開けて抗議する。
そんな、この邸宅では日常的な風景をナイトウ達は呆れて眺めていた。

(;'A`)『…なぁ、【天智星】ってあの有名な【天智星】だよな?
    本当にコレが本物の【天智星】なのか?』

( ;^ω^)『……僕に聞かれても…困るお』

ミセ*゚ー゚)リ『いいえ!! 常人には思いつかないであろう素晴らしい言葉遊びのセンス!!
     ボクは【天智星】様こそ本当の天才だと確信しました!!』

('A`)『…黙れ子猿』

囁きあう一同。
彼らが心の底から【天智星】=天才の方程式を疑い始めたのを横目に
ハインがショボンの耳に口を近づけ、何やら言伝た。

それを聞き終えたショボンは真剣な表情に変わり、服の埃を払って立ち上がる。
そして、嫌味なほど優雅に一礼してみせた。



221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 03:03:41.22 ID:6cSOB08l0
それで十分だった。
あまりにも落ち着き払ったその礼だけで風に飛ばされるように部屋の空気が変わる。
まるで珍奇な言動など最初から無かったかのような彼の行動に、
一同は慌ててテンデバラバラな仕草で礼を返した。

それに対して軽く微笑みかけるショボン。

(´・ω・`)『挨拶が遅くなって申し訳ない。
      我が名はショボン。【天智星】なる大袈裟な異名を得ておりますが…単なる凡人にございます。
      いきなりで申し訳ないけど、御令嬢達は今後の行動方針は何か決まっているのかな?』

ξ゚听)ξ『あ…え…ううん、まさかあんな事が起こるなんて思ってなかったから…。
     最初は南を目指そうと思っていたんだけど、【急先鋒】将軍が北へ向かえって言うから…』

(´・ω・`)『うん、その判断は正解だろうね。
      南には我が父もいるけど、そこに辿り着くまでに相当な数の追っ手を撒く必要があった筈だよ』

( ;^ω^)(;'A`)『?????』

一人納得した表情のショボンと、全くワケが分からないと言った風の一同。
天才と言われる人間にありがちなのだが、周囲の人間にまで己と同じ頭脳の回転を求める為
最終的に話が全く噛みあわずに終わってしまう事が多い。
ショボンにもこの悪癖は幾度も見られ、彼の言動を完全に理解できるのは
付き合いの長いハインくらいなものであった。

(´・ω・`)『それならば……まずは一緒に更に北にあるバーボン城に向かってほしい。
      外に馬車を用意させてある。
      事は急を要する。説明は馬車の中でさせてもらうよ。
      出来れば護衛の2人にも一緒に来てもらえればありがたい。
      報酬はちゃんと払うからさ』



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