( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

5: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 21:50:13.34 ID:7QW2o60J0


     第6章 泥の味


(#-_-)『殲滅せよ!!!!!』

掛け声と共に戦いは始まった。
【鉄壁】ヒッキー率いる500の兵が雄叫びを上げ、一斉にバーボン城門に押し寄せる。

(´・ω・`)『ぶち殺せ』

城内からはショボンの静かな一言を合図に、【黄天弓兵団】が矢の雨を侵略者の頭上に降らせまくる。

そんな戦の光景にそぐわぬ、抱き合う一組の男女がいた。
銀髪の青年ナイトウと【アルキュの至宝】ツンである。

ξ )ξ『…ごめんね…ごめんね…ちゃんと言わなきゃってずっと思ってたんだけど…
     みんなアタシが王家の人間だって知ると…態度を変えたり、利用しようとしたりして…
     もし…ナイトウも同じかもって考えたら怖くて…ごめんね…ごめんね…』

ナイトウはそんな少女の髪を優しく撫で付ける。

( ^ω^)『うん。うん。寂しかったんだおね。悲しかったんだおね。
       大丈夫だお。僕はツンの友達だお。だから泣かなくても大丈夫だお』

城壁を挟んで怒号と悲鳴が響きわたる戦場。
だが、彼にとっては殺し合いよりも…少女の心を支える事の方が遥かに重要と思えた。
やがて名残惜しそうに金髪の少女から身を離す。



7: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 21:52:27.39 ID:7QW2o60J0
( ^ω^)『…僕も戦いに参加してくるお。あまり弓は得意じゃないけど…ショボンさんを助けなきゃだお。
        でも…』

ξ )ξ『…でも?』

( ^ω^)『ツンが泣いてると、気になって戦どころじゃないお。だから笑って欲しいお』

ξ )ξ『……』

( ^ω^)『笑うお』

少女の両肩に手を置き、優しい微笑みを崩さないナイトウ。

ξつー;)ξ『…うん』

( ^ω^)『やっぱりツンは笑ってた方が可愛いお』

それを聞いた【アルキュの至宝】は瞬時に顔を赤らめる。

ξ////)ξ『にゃにゃにゃにゃにゃにを馬鹿な事言ってんのよ!?
     あちゃま悪いんじゃないの!!』

ちなみに。
諸兄らはお気づきかと思うが、彼の言葉に深い意味は 一 切 無い。



8: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 21:54:15.60 ID:7QW2o60J0
              王族…?

              あのクソ女が【統一王】の忘れ形見だって言うのか?

              ガキの頃から何度も言われてきた…。

              王家の人間は一族にとって不倶戴天の敵。

              モテナイを滅ぼした…その恨みだけは決して忘れてはならないと。

              【魔犬】と言われた始祖の名と誇りに懸けて【統一王】の一族だけは許してはならないと。

              だけどよ…。

              だけどよ…。

              あのクソ女は俺やナイトウと同じじゃねーか…。

              自分の体に流れる血に翻弄されてよ…。

              俺は…。

              俺は…。







9: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 21:56:08.64 ID:7QW2o60J0
( ;^ω^)『ドクオッ!!』

('A`)『…え? って、うわっ!!』

ドクオは親友の叫び声で我に返った。
目の前には城壁にかけられた長梯子を登りきり、剣を振りあげて襲いくる兵士の姿。
反射的にその胸に短槍を突きたて、叩き落した。

( ^ω^)『何をボンヤリしてるんだおっ!!』

(;'A`)『…ワリィ。考え事してた』

言いながらドクオは長梯子に足を掛け、押し倒す。
梯子をよじ登っていた兵士が叫び声を上げながら大地に叩きつけられ、動かなくなった。

(´・ω・`)『困ったね。こんなに劣勢になるとは思わなかったよ』

ショボンが相も変わらずのんびりと言う。
手にするは【轟天】と銘付けられた彼の愛弓。
常人では引く事も敵わない鉄弓だが、仕組んだ滑車の力で非力な彼にも使いこなす事が出来るようになっていた。
そこから放たれた矢は、【鉄柱騎士団】の重鎧ですら薄紙の様に貫く。

だが、その仕掛けゆえ連射も量産も出来ない【轟天】を持つのはショボン一人であり
【黄天弓兵団】の放つ矢は【鉄壁】の誇る騎士達に傷すらつける事は出来なかった。

軽装の下級兵に対しては彼らの矢も効果的ではあったが、それでも接近戦になるととたんに脆さを見せる。

ショボンが言うように戦いはバーボン軍が圧倒的に押されていた。



11: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 21:58:30.23 ID:7QW2o60J0
( ^ω^)『…あんた、【天智星】様だおね? こうなる事は予想していなかったのかお?』

ナイトウが右手の短剣に着いた血脂を拭いつつ問いかける。

(´・ω・`)『うん。なんとかなるかなって…』

( ;^ω^)『…あんた本当に天才【天智星】かお?』

\(´・ω・`)/『うん。しょーがないじゃないか』

天才といわれた男はいけしゃあしゃあと答えた。

(´・ω・`)『僕は戦略家であって戦術家じゃないからね。本来戦術を立てるのは専門外なのさ』

( ;^ω^)。oO(…使えねぇお)

戦略と戦術。
2つは時として混同する者もいるが、本質は大きく異なる。
戦略とは本来政治や外交の分野に当たる物であり、戦術とは実際の戦場での作戦を意味する。
先のイラク戦争において、米国が圧力をかけイラクを武装解除させたのが戦略。
実際に攻め込んだ際に現場で取られた作戦が戦術…と言えば分かりやすいだろうか。

ハインが竹箒で城壁から頭を出した敵兵を叩き落し。
ミセリが逃げ回り。
王女であるツンまでが鉄鞭を抜かなければならないほどの不利な戦場。

その中で一人、鬼神の如く活躍を見せる者がいた。

ヒートである。



13: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:00:19.16 ID:7QW2o60J0
ノハ#゚听)『どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇいぃっ!!!!!』

城壁に片足を上げ、闇夜を照らす松明の明かりに
その意外なほど白く細い足を浮かび上がらせるヒート。
雄叫びにも似た気合と共に手にした弓を引き絞る。

彼女の背丈より遥かに長大なそれは、ショボンの愛弓【轟天】の試験版。
つまり、滑車も何も仕込まれていない単なる鉄弓である。
一般人では微塵たりとも引く事が出来ない鉄弓を、彼女は軽々と使いこなしていた。

それだけではない。
放たれる矢は常に3本。
そしてその狙いは正確無比。

彼女の標的になった騎士達をこそ哀れむべきだろう。

ある者は兜を貫通した矢に脳味噌を破壊され。

ある者は心の臓を貫かれ。

何が起こったのかすら…自身が死んだ事すら気付かずに倒れていった。



16: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:02:30.15 ID:7QW2o60J0
从 ゚∀从『おーおー。相変わらず化け物だな、おいwww』

味方まで呆れさせる程の活躍を見せる破壊の女神。
炎色の髪を闇夜に輝かせる恐怖の射手。

ノハ#゚听)『うりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…って、あれ?』

大型台風を思わせる叫び声をあげていたヒートが突然、間の抜けた声を漏らす。
常人の3倍の速度で消化していた矢のストックが尽きたのだ。
逆さにしようが覗き込もうが…底を着いた矢が出てくるわけではない。

それを見たヒッキーが手にした鉄槌を振り上げ叫ぶ。

(-_-) 『あの化け物は矢が尽きたぞ!! 全軍全力前進!! この機会を逃すな!!』

ヒートのあまりに尋常離れした暴れっぷりに士気が落ちかけていた兵は、その一言で戦意を取り戻した。
この細やかな目配りが聞く辺りは、伊達に千歩将まで登りつめた男ではない。

ノハ#゚听)『誰が化け物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

(-_-) 『フン!! 貴様しかいないだろうが!!!!!』

ノハ#゚听)『黙れ!!!!!! 口を開くな!!!!! 童貞臭いんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』

(-_-) 『……』

重騎士『……』

ヒートの言葉と共に戦場に沈黙が訪れた。
どこかで吼える野犬の遠吠えすら聞こえるほどに。あおーん。



19: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:05:13.91 ID:7QW2o60J0
( ^ω^)『ちょwww童貞www』

从 ゚∀从『童貞wwwあるあr…ねーy…やっぱりあるあるwww』

ξ゚听)ξ『? 童貞って何?』

ミセ*゚ー゚)リ『…お嬢さm…姫には関係のない事でございます』

性生活が大らかだったこの時代。
清らかさも婚姻の一つのポイントになる女性はまだしも、15歳を越えて童貞と言うのはまずありえない事だった。
ナイトウですら艶町で『それ』を済ませていたし、【急先鋒】ジョルジュなどは9歳にして『それ』を済ませたと豪語していた。
ちなみにショボンの場合、2人の給士のどちらかがその役目を務めたと言う説もあるが真偽は定かではない。

(´・ω・`)『股間の亀は冬眠中か…早く『水辺』に挿れてあげないと干からびちゃうよ…ぷっ』

从#゚∀从『ご主人…テメェ後で覚えてろよ』

自身の下卑た冗談に笑いを抑えきれないショボンと、蛇のような視線で睨みつけるその給士。
一方、童貞のレッテルを貼られた本人は…。

(##-_-)『……』

静かに肩を震わせていた。
人はその本質を突かれた時、本当に怒ると言われている。
【鉄壁】ヒッキーは我々の時代から見ればとうに故人であり
死者の名誉を汚すつもりは一切無いが……激怒すると言う事はおそらくそういう事なのだろう。

(##-_-)『あの売女を引きづり下ろせ!!! 犯して犯して…死ぬまで犯してやれ!!!』

背後で何やら囁きあう兵に命を下す。 かくして戦いは再開された。



22: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:08:17.32 ID:7QW2o60J0
ヒッキーの一言で攻め手側の士気は更に高まった。
1個人限定とは言え、指揮官から強姦の許可が下りたのである。

いや。
戦場の常として、今であれば【勘違い】も許されるであろう。
戦場で膨れ上がった欲望を押し殺していた彼らは、
それを発散する場を与えられ目を血走らせて城壁に押し寄せる。

从 ゚∀从『うわぁwww男ってコレだから嫌だよなwww』

ハインが心底嫌そうにボヤいた。

ミセ;゚ー゚)リ『いや、でもコレってかなりヤバイんじゃないですか!?』

常識的意見を述べるのはミセリだ。
戦争の素人である彼女が見ても、情況が好転したとは決して思えない。

そして、ハインの横顔を何かを訴えるように見つめる赤毛の少女が一人。
【神出鬼没な御姉様】は、それと目を合わせないようにしていたが無駄と分かるや小さな溜息をついた。

从;゚∀从『分かったよ。そろそろ良いだろ。ただし、無茶はするんじゃねーぞ』

それを聞いた【従順な妹】は両拳を胸の前で叩き合わせ、自らに更なる気合を入れる。

ノハ*゚听)『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! 御姉様大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

叫び駆け出すと、勢いをつけそのまま城壁を…

            飛   び   降   り  た 。



24: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:11:00.42 ID:7QW2o60J0
ξ;゚听)ξ『は?』

突然目の当たりにした衝撃的光景にツンは思わず絶句した。
そんな事にはお構いなしとばかりにヒートは両手で給士服のスカートを押さえ、宙を舞う。
弓を捨てた射手は着地と同時に一回転して衝撃を大地に逃がすと、そのまま立ち上がった。

兵士『……』

驚いたのは、城内のツンやナイトウだけではない。
城外で攻め込んでいたヒッキー軍兵士も同様であった。
が、すぐさま我に返りヒートを取り囲む。

【アルキュ王国正史・第二次統一革命の章】によれば、
ヒートは『黙って大人しくしていれば女性将校の多い我が軍でも一二を争う美女』と評されている。
『黙って大人しくしていられない』のが彼女とはいえ、美女である事にはなんら変わりは無い。

城を落とさなければ手に入らないはずだったその『美しい標的』が、自分から目の前に降ってきたのである。
欲望を破裂寸前にしている兵士達が茫然自失となるのも、
それが現実に起こっている出来事と理解するや彼女に襲い掛かるのも当然と言えた。

重騎士A『慌てるな!! まずは押さえつけるんだ!!』

重騎士B『ギャーギャー騒がれては勃つ物も勃たん!! 口に布を詰めこんでやれ!!』

重騎士C『口に布? 馬鹿を言うな。俺の股間の聖剣を突っ込んでやるさwww』

ここぞとばかりに絶妙なチームワークを発揮する獣達。
相手は武器を持たない女である。多人数で押し倒してしまえばこっちの物。
『この【戦利品】を上官に奪われる前にせめて先っぽだけでも…』そう考え、目を血走らせながら飛びかかる。
そして惨劇が幕を開けた。



25: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:12:32.17 ID:7QW2o60J0
ノハ#゚听)『おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

閃光一閃。
ヒートは襲いくる正面の重騎士に跳び膝蹴りを放つ。
その 素 足 の一撃で彼は脳を揺すられ姿勢を崩した。

重騎士B『このアマ!!』

ノハ#゚听)『ていっ!!!!!』

そのまま背後から襲い掛かる騎士目掛けて体を捻っての後ろ回し蹴りは頭部を破壊。
『元・鉄兜』の破片を撒き散らしながら吹き飛んだ彼は、
子供がする小石を川面に跳ねさせる遊びの様に地面を2回3回バウンドし転がって、動かなくなった。

更にヒートは着地と同時に真横にいた最初の男に掌底を撃つ。
鋼鉄の肉球は鉄の鎧を砕き肉体すら貫通した。
ヒートが腕を引き抜くと同時に全身の『穴』から大量の血が噴き出す。

重騎士A『……げふ…』

膝から崩れ落ちるようにゆっくりと倒れると…やはり動かなくなった。

重騎士C『な…なにぃ…?』

知らず知らずに口にしながら後ずさる。
彼らとて幾多の戦場を潜り抜けてきた言わば殺しのエリート達だ。
その彼らが武器も持たない細腕の女に2人同時に瞬殺された。

瞬時に高揚心は消えうせ、全身を脂汗が冷やす。
目の前にいるのはすでに【獲物】ではない。全身に返り血を浴びた【赤い悪魔】。



29: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:14:24.03 ID:7QW2o60J0
重騎士C『く…くぁwせdrftgyふじこlp;!!!!!』

彼はワケの分からないことを叫びながらヒートに背を向け逃げ出した。
この男とて騎士の端くれ。
女を犯すような下衆でも、戦場で敵に背を向けるなど騎士の風上にも置けぬ行為である事は理解していた。

しかし。
敵は人間ではない。悪魔なのだ。
そして。
その悪魔が逃亡を許すはずも無いのだ。

ノハ#゚听)『させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

大声をあげながら騎士の肩に飛び乗る。
女性特有の柔らかい足をその首に絡め体を捻ると、嫌な音をたてながら男の視界は180度回転した。

重騎士C『……え?』

前のめりに倒れた男は、大地ではなく満天の星空を見上げながら絶命する。

ノパ听)『ふぅ』

一仕事終えたとばかりに小さく息を吐き出すヒート。
その周囲を全身鎧に身を包んだ騎士達がドーナツ状に取り囲んでいた。
が、襲いかかろうと言うものは誰一人いない。
彼女はそんな彼らをグルリと見渡すと、

ノハ#゚听)『それでも(自主規制)ついてんのか!!!!! 来ないならこっちから行くぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

叫び、とりあえず目に付いた次の標的目掛けて飛びかかった。



33: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:17:31.03 ID:7QW2o60J0
重騎士D『矢、矢だ!! いや、何でもいいから投げつけろ!! あの悪魔を近寄らせるな!!』

百人長の腕章をつけた騎士が叫ぶ。
それでもヒートは押し寄せる矢・兜・小石・槍などを器用に弾き、かい潜って速度を落とさない。
殴り、蹴り、投げ飛ばし、爪を立て…次々と死体の山を築いていく。

从 ゚∀从『wwwうはwwwやりすぎwww自重しろwww』

( ;^ω^)『……本当にあの人、人間ですかお?』

城壁上から援護射撃をしながらナイトウがぼやく。
確かにここまで人間離れしていると、シリアスを通り越してコミカルでしかない。

(´・ω・`)『…昔ね。義兄が酔った勢いでヒートの胸を鷲掴みにしたことがあるんだ』

ショボンがボソッと呟いた。
義兄とは天下に名高い【急先鋒】ジョルジュの事である。

(´・ω・`)『…ちょっとしたトラウマになる位殴られたらしいよ。
      今でも胸の大きい女性を見ると当時の事を思い出して涙目になるらしい』

ξ;゚听)ξ『…でしょうね』

ヒートの活躍で戦場は均衡状態となる。
それを打ち壊したのは、策士ヒッキーだった。

(#-_-)『化け物は僕が抑えてやる!! お前らは城門に攻撃を集中させるのだ!! 
    王女さえ押さえれば後はどうにでもなる!!!』

外套を脱ぎ捨てると、手にした鉄槌を軽々と回転させ構えを取る。



35: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:21:05.96 ID:7QW2o60J0
ノパ听)『【鉄壁】ヒッキー!!!!! 相手にとって不足なし!!!!!』

姿勢を低くしたその構えは獲物を狙う野生の肉食獣を思わせた。

(-_-) 『フン!! 調子に乗るなよ、小娘。
    上の黒髪共々、犯して犯して…気が狂うまでは生かしておいてやる。安心しろ』

黒髪とはミセリ。もしくはハインの事だろう。
ヒートの瞳が怒りに赤く燃えあがる。

ノハ#゚听)『下衆がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 御姉様を侮辱するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

先手を取ったのはヒート。
勢いよく大地を蹴り、顔面目掛けて必殺の跳び蹴りを放つ。

(-_-) 『ぬるぽ!!』

ヒッキーはつまらなそうに鼻を鳴らすと、鉄すら砕く一撃を鉄槌の柄で受け流した。
反動を利用して空中で身動き取れないヒートの脇腹にカウンターを叩き込む。

ノハ;゚听)『ガッ!!!!!』

無防備な態勢で攻撃を受けた彼女はよろめき、この戦いが始まって初めて血に膝をついた。
こみ上げて来る鉄の味がする胃液を無理矢理飲み込み、改めて攻撃の姿勢をとる。

(-_-) 『フン。この程度か』

余裕綽々…だが決して構えを解かない【鉄壁】を見て、ヒートは自身の考えを改めざるを得なかった。

ノハ;゚听)。oO(こいつ…相当強いぞ…)



40: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:23:55.62 ID:7QW2o60J0
【鉄壁】ヒッキーを『口先三寸で出世した無能者』と評価する歴史家は後を絶たないが、それは間違いである。

貧乏貴族の三男として生を受けた彼は、2人の兄が立て続けに戦死すると
13歳と言う若さで一族の運命を肩に背負う事になった。
以降彼は自身が持つ全てを使い、生きのびていかなくてはならなかったのだ。

確かに、口先や謀略も彼の得意とする所ではある。
が、一兵卒から始まって幾多の戦場を生き抜き千騎将にまで登りつめた戦闘技術こそ彼の本領であった。

ローハイド草原の戦いでは【急先鋒】ジョルジュの奇策に破れ、宿敵の前で腰を抜かすと言う失態を見せた彼だが
本来の実力は【赤い悪魔】ヒートと同格…もしくはそれ以上なのだ。

ノハ;゚听)『くそっ!!!!!!!』

思わぬカウンターを受けたヒートは、反撃を警戒して大技を捨てざるを得なかった。
不得手な小技を立て続けに撃ち、隙を窺う。
一方ヒッキーはそれらを軽く防ぎ、時折鋭い一撃を放った。

(-_-) 『フン。どうしたどうした。随分と大人しくなったじゃないか』

ノハ#゚听)『黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

互いに牽制しあう2人。
手数だけ見れば実力は伯仲していると言っても良い。

だが、ヒートは焦っていた。
時折視界に入るのは、周囲を取り囲む重騎士達。
【天智星】ショボンや【神出鬼没の御姉様】ハインであれば
例え城門が突破されたとしても活路を開いて見せるだろうが、だからと言って不安が解消されるわけではない。
集中力や精神力が必要とされる場で、彼女は完全にそれを失っていた。



42: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:26:27.51 ID:7QW2o60J0
(-_-) 『隙あり!!』

ヒッキーが動いた。
細かいジャブから突如掬い上げるような一撃をヒートの胸に放つ。
咄嗟に両手を十字に組みガードして…

ノハ;゚听)。oO(!! …やばいっ!!)

彼女は判断を誤った。
防ぐのではなく避わすべきだったのだ。
渾身の力で振り上げられた鉄槌に、軽量級の体がふわりと宙に浮く。

(-_-) 『死ね、売女!!!!!』

横薙ぎにハンマーのフルスイングが襲い掛かった。
ガードした両腕の骨を砕き、衝撃は鋼の胸当てすらも破壊する。
一瞬のうちに十数歩程の距離の景色が吹き飛び、受身すら取れずに石造りの城壁に背中から叩きつけられた。

ノハ; )『……がはっ』

一秒か。二秒か。
絵画のように城壁に貼り付いていたヒートの体は、
彼女が肺の中の空気を全て吐き出すような声を漏らすのと同時に剥がれ落ち…大地に倒れこむ。

鉄槌を手にした加害者はゆっくりと動かないヒートに近づくと、美しい顔を蹴り飛ばした。
ごろんと仰向けにひっくり返され、それでも誇り高い戦士は微動だにしない。

(-_-) 『…死んだか化け物め。手間を取らせやがって』

つまらなそうにそう呟くと、彼女の白い頬に唾を吐きかけた。



46: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:29:26.86 ID:7QW2o60J0
重騎士E『ぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』

重騎士F『流石はヒッキー様だ!!!!! あの化け物をいとも容易く倒してしまわれるとは!!!!』

壮絶な一騎討ちに見入っていた【鉄柱騎士団】から歓声が上がった。
傍目から見ればヒッキーの圧勝と言っても良い。

(-_-) 『フン。当然だ』

脱ぎ捨てた外套に袖を通し、鉄槌を右肩に担ぎ上げる。

(-_-) 『赤い髪をした射手…あの売女がバーボン最強と言われた【闇に輝く射手】に違いあるまい。
    となれば、残るは雑魚のみ。さっさと城を落とし王女を奪還するぞ!!
    反逆者に加担した裏切り者だ!! 城の女どもは王女を除いて好きにして構わん!!』

重騎士E『うはwwwラッキーwww』

重騎士F『流石はヒッキー様!!!!! 話が分かるぅ!!!!!』

再び騎士達の間に歓声が上がった。
場内から撃たれる抵抗の矢を全身に纏った鎧で弾きながら
彼らは城門に襲いかかる。

大人の胴体ほどの太さがある丸太を城門に何度も叩きつけ、堅固なはずのそれが徐々に歪んでいく。

あと数回の攻撃で城門が完全に開かれようとなったその時。

???『…そぅ…は…させんぞぉぉぉぉ…ぉ…ぉぉ……』

弱々しい叫び声が、城門に意識を集中させていた彼らの背後からあがった。



49: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:31:59.48 ID:7QW2o60J0
(-_-) 『フン。しぶとい奴め。貴様との遊びはもう終わったのだ』

もう飽き飽きと言わんばかりの表情を浮かべながら彼は振り返った。

ノパ刄=j『…なめるなぁ…ぁぁぁ…御姉様の所には…いかせん…ぞぉ…ぉぉぉぉ…』

声の主は……ヒート。

だが…大地を踏みしめる両足は震え、両腕は力なくダラリと垂れ下がっている。
足元に転がった胸当ての破損具合を見なくても、怪我はそれだけではないだろう事が分かった。

少し癖のある赤い髪。美しい顔。ピンと糊の張った裾の短い給士服。白い肌。
そのいずれもが泥と血にまみれ、【赤い悪魔】の面影はどこにも見られない。

いや。
それでも突き刺すように強敵を睨みつける瞳の赤い輝きだけは失われていなかった。

(-_-)『フン』

鼻を鳴らし、ヒッキーはヒートに歩み寄る。
彼を目の前にしながらも微塵も動こうとしない…いや、動けない少女の髪を鷲掴みにして無理矢理顔を引き上げた。

(-_-) 『寝ていれば良かった物を…なぜ立ち上がった!?』

ノパ刄=j『…童…貞には分かるま…い…これが…愛の力だぁぁぁ…ぁ…』

言うやヒートはにやりと笑い、ヒッキーの頬に唾を吐き飛ばした。



51: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:35:22.54 ID:7QW2o60J0
(#-_-)『小娘!!!』

激昂したヒッキーはヒートの頬を加減無しに殴り飛ばす。
ぶちぶちと髪が千切れる嫌な音をさせてヒートの体は再び地面に倒れこんだ。

ノパ刄=j『童…貞に…殴られても…全…然きかねぇんだ…ょぉぉぉ…ぉぉぉぉぉ…』

なおもヒートは立ち上がろうとする。
弱りきった肉体と相反して、瞳の輝きは一層強くなったように見えた。

(#-_-) 『生意気な!!』

またもやヒッキーはヒートの赤い髪を掴み、体を引き起こす。
うぅ…と弱々しい声が彼女の口からこぼれた。
その鼻の奥から漏らすような響きがヒッキーの残虐性に火をつける。

(#-_-)『そこまで言うなら貴様の体で童貞を捨ててやるわ!!
    愛の力とやらで抵抗してみるがいい!!!』

激怒したヒッキーの頭からはここが戦場であり、
勝敗はほぼ決したとはいえまだ戦いの真っ最中であると言う事など吹き飛んでいた。
ヒートの赤い給士服の胸元を掴むと、力任せに引き千切る。

その時。

重騎士E『うわぁぁぁぁぁぁっ!!』

重騎士F『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

戦場に彼の部下の悲鳴がこだました。



54: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:37:48.10 ID:7QW2o60J0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

( ;^ω^)『…ハァ、ハァ…』

ξ;゚听)ξ『…ちょっと…本当に…こっちで合ってるんでしょうね…』

(;'A`)『…俺に…聞くんじゃねーよ…』

ミセ;゚ー゚)リ『そう…ですよ…質問は…人を選ばないと…』

その頃、彼ら4人は西門からバーボン城を抜け出し森を駆けていた。
戦闘が始まるに先じて【天智星】ショボンと給士ハインから受けた、

(´・ω・`)『僕にはこの戦い必勝の策がある。
      だから、僕を信じて時間を稼ぐ事だけを考えて欲しい。
      でももし…期が熟するまでに城門が陥落するような事があれば、
      君達は王女を連れて西門から脱出してくれ』

从 ゚∀从『西門を抜けると小さな森がある。
     そこに土地神様を祭った社があるからよ。
     戦が終わるまでそこで待っててくれや』

と言う言葉に従っての事である。
彼らも単身敵軍につっこんだヒートが気にならないわけではない。
だが、ショボンの声裏には反論を許さない力強さがあったし
今は『護衛』こそが彼ら2人に与えられた【仕事】であった。

( ;^ω^)『ハァ…みんな…大丈夫かお…』

それでも自然と城に残った3人の事が会話になる。



55: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:39:38.08 ID:7QW2o60J0
ξ;゚听)ξ『大丈…夫よ…ヒートさん…あんなに強いんだもん』

(;'A`)『…さぁ。どうだろうな』

思いもよらなかったドクオの否定にツンはギョッとする。
走りながらも、彼の横顔を睨みつけた。
形のよい眉がきりりと上向く。

(;'A`)『…なんだよ』

ξ#゚听)ξ『なんだよ…じゃないでしょ!! アンタはみんなが心配じゃないの!?』

('A`)『…それとこれとは別問題だ』

ドクオは金髪の少女と顔すらあわせずに言った。

('A`)『…あの女が強い事は認めるよ。
    だが、俺達は千騎将クラスの連中の強さも嫌と言うほど見てきたんだ。
    心配するのは勝手だが、過度に期待しすぎると後で後悔するぜ』

ξ#゚听)ξ『あんたねぇっ!!!!』

ミセ#゚ー゚)リ『この人でなし!!』

( ^ω^)『!! シッ!! 静かにするお!!』

ナイトウが何かを感じ取った。
全力で動かしていた足に急ブレーキをかけ、大地を強く踏みしめる。

微笑みを浮かべながらも、瞳はその『何か』を探り出そうとしていた。



57: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:41:07.88 ID:7QW2o60J0
ξ;゚听)ξ『な…なによ、いきなr』

('A`)『…黙れクソ女』

ツンに気を取られていたドクオも、ナイトウの一言でその『何か』に気付いた。
大きく息を吸い込み、呼吸を整える。
意識を目の前の茂みに集中させた。

( ;^ω^)『…ドクオ』

('A`)『…あぁ。分かってる』

ミセ*゚ー゚)リ『え? え? え?』

( ;^ω^)『…もしもの時は僕が…』

('A`)『…分かった』

何が起きているのか理解しきれていないツンとミセリを横目に
2人は最低限の会話でお互いの役割分担を確認する。
そして、殺気を放つ茂みから女性達を庇うように構えた。

静寂。

静寂。

( ;^ω^)『いい加減にするお。そこにいるのは分かってるんだお』

ナイトウが口を開こうとした時…



59: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:43:05.12 ID:7QW2o60J0
茂みの中から何かが彼の顔面に飛来した。

( ゚ω゚)『!!!!!!』

咄嗟に左手甲に装けられた戦爪で叩き落す。
瞬間、それが爆発した。

( ゚ω゚)『うおっ!!』

ξ;><)ξ『きゃあっ!!』

ミセ;゚ー゚)リ『ひぃっ!!』

('A`)『…ちっ!!』

閃光と火屑が彼らに降りかかる。
それを払いのけた4人の前に彼らは現れた。

???『ほう…今の攻撃をかわすとはな』

???『使い捨ての兵奴としては上出来と言った所か』

全く同じ顔をした2人の男。

( ´_ゝ`)『しかし、そのお前らを殺す我らこそが真の【流石】たる存在であると言っておこうか』(´<_` )



【金剛阿】兄者。【金剛吽】弟者。メンヘル最強の隠密ーーーーー流石兄弟。



60: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:45:25.78 ID:7QW2o60J0
(;'A`)『…なんだお前ら』

( ´_ゝ`)『名乗るほどの者ではないが…貴様に名乗る名などない!!!』

(´<_`; )『それでは話にならんだろう…死ねばいいのに』

それぞれ獲物である手斧を玩びながら漫談を展開する2人。
彼らに代わって答えたのはミセリだ。

ミセ;゚ー゚)リ『流石兄弟!! こんな所まで…』

( ;^ω^)『お知り合いですかお?』

視線を兄弟から外さずに、背後に問いかける。
ナイトウの経験が、この2人は危険だと警鐘を鳴らし続けていた。

ξ;゚听)ξ『メンヘルの隠密…アタシを【沈黙の塔】から連れ出した…』

振り返らなくてもツンが怯えているのが感じとれる。
いつのまにかナイトウの服の裾を握っている手が震えていた。

('A`)『…そんな事はどうでもいい!! もっとシンプルに答えろ!!』

ドクオが一喝する。

( ;^ω^)『敵か味方か…それだけで十分だお!!』

('A`)『…そうすりゃ…あとは俺達がやる』



62: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:47:07.85 ID:7QW2o60J0
(´<_` )『やれやれ。この期に及んで俺達が敵か味方かも判断できんのか?』

弟者が悪態をつく。
しかし、これも全てナイトウとドクオの計算のうち。
緊張で固くなった女性陣を気遣っての行動であった。

ξ#゚听)ξ『あんたらには…あいつらが味方に見えるの!?』

一喝された事に腹を立てたツンが何故かドクオ一人に怒鳴り返す。

ξ#゚听)ξ『あいつらはね!! 誘拐犯…犯罪者よ!! 特にあの微妙に鼻が低い方!!』

( ;´_ゝ`)『え? 俺?』

ξ#゚听)ξ『メンヘルに向かってる時も、ジッと寝顔を見つめてるわ、
      おしっK…じゃなくて花摘みしてるのを覗こうとするわ…
      理由はわからないけどなんとなくムカつくわ!!!』

この場にいる全員の目が一人に集中した。

( ;´_ゝ`)『ち、違うぞ!! 濡れ衣だ!! 
       俺はただ野犬が少女の放尿シーンに興奮して襲い掛かったりする事がないようにだな!!』

(´<_`# )『苦しすぎる言い訳だな。…死ねばいいのに』

心底情けないといった表情で首を横に振る弟者。
一方ナイトウは背中から伝わってきていた震えが治まったのを確認。
陰鬱な顔の相方に視線で合図を送る。



64: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:50:02.82 ID:7QW2o60J0
( ^ω^)『ドクオ』

('A`)『…あぁ』

それだけの会話で意思の疎通を終えると、2人は腰を落とし身構える。
兄弟も弁解と非難を言い合いつつも、傍目には分からない程度に踵を上げ襲撃に備えた。

( ^ω^)『いくおっ!!』

('A`)『…おぅ!!』

(´<_`# )『兄者よ。話は後でゆっくりと聞かせてもらおう』

( ´_ゝ`)『実の兄を信じられないとはな。悲しいぞ、弟者』

ナイトウが兄者に。
ドクオが弟者に飛びかかる。

薄暗い森での戦いが開始された。



67: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:52:13.78 ID:7QW2o60J0
( ^ω^)『これでも喰らえおっ!!』

最初の一撃はナイトウだった。
左手の戦爪で足元の落ち葉をすくいあげ、兄者の顔目掛けて振り投げる。

( ;´_ゝ`)『うおっ!!』

枯葉を利用した目隠しだ。
卑怯と言う無かれ。
地形を利用した立派な戦術である。

( ^ω^)『!!』

隙を狙って右手の短剣を振りかぶったナイトウだったが、
その目は慌てた表情の兄者が落ち着いて懐から小さな玉を取り出し放り投げてくるのを捕らえる。
よけきれないと判断するや咄嗟に攻撃を中止し、それを迎撃した。

( ゚ω゚)『うおっ、まぶしっ!!』

またしても彼の目の前で小さな爆発が起きる。
爆音に聴覚を。閃光に視覚を奪われ、ナイトウは一瞬兄者を見失った。

( ´( ;゚ω゚)『ど…どこ『後ろの正面だ〜れ?』

背後からの声と同時に脇腹に強い衝撃。
蹴りを受けたと気付いたのは、2回3回湿った土の上を転がってからだった。
距離が開けたのを幸いに立ち上がり、再度身構える。
対する兄者は…両手を高くあげ片足を持ち上げる…所謂【荒ぶる鷹のポーズ】をとりニヒルに笑っていた。

( ;^ω^)『…こいつ…遊んでやがるお』



70: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:55:09.60 ID:7QW2o60J0
一方、ドクオと弟者は。
互いに隙を窺いつつ、幾度と無く攻守を入れ替えていた。

ドクオが鋭い突きを放てば、弟者はそれを最低限の動作で迎撃する。
かと思えば弟者のコンパクトな一撃を、ドクオは皮一枚の差でかわしていた。

それだけではない。
攻撃側は僅かな隙をわざと見せる事で相手を誘い込む高等なフェイントを組み込み、
守備側はそれを知ってわざとその隙を狙い、相手を誘い込む。
まるで訓練された舞踏の様な攻防を両者は続けていた。

弟者の利き腕を狙った攻撃をかわし、半歩距離をとってドクオは考える。

('A`)。oO(…問題はコイツにあの珍妙な玉があるかどうかだ)

弟者の背後では、ナイトウが兄者に苦戦を強いられている。
ナイトウがどんなに攻め込んでも、兄者玉とか言う武器に形勢を逆転されてしまうのだ。

('A`)。oO(…確かめてみるか)

彼が懐から取り出したのは、一握りの飛礫である。
遊牧民であるモテナイ族が、逃げた家畜を怪我をさせずに捕らえる為の武器。
それを弟者の顔面目掛けて放つと、はたして弟者はそれを手にした斧で全て叩き落した。
何度かそれを繰り返して、ドクオは確信する。

('A`)。oO(…こいつに飛び道具は無い)



71: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:57:20.24 ID:7QW2o60J0
ドクオの判断は単なる憶測によるものではない。戦いには【波】と言うものが存在する。
今まで一進一退を繰り返してきた相手が、距離を取っただけで守りに専念するようになった。
いや、専念せざるを得なくなったと言うべきか。
もし弟者が飛び道具を持っていたら、この【波】をドクオに独占させまいとするだろう。

更に、兄弟の一連の行動を見ていると非常識極まりない兄者を弟者が諌めている風に見れた。
つまり、弟者は常識人。兄者と違って奇天烈な行動を取る事は無いだろう。
この事も彼の判断を後押しした。

('A`)。oO(…そうと分かればこっちのもんだ。一気に決めてやる!!)

ドクオは懐からありったけの飛礫を取り出すと、全弾まとめて弟者に撃つ。
それは狙い通り弟者の全身を…いや。正確には微妙に右半身を集中して襲った。
手斧でそれを叩き落した弟者の左半身に、微かな隙が生じる。

('A`)『…もらった!!』

そして、コンマ数秒ほどがら空きになった左胸に雷の如く突きを繰り出した。

(´<_`; )『!!!!!』

飛礫と短槍のコンビネーション。
突如攻撃パターンを変化させた事に驚きつつも、弟者は左腕で心臓を庇う。

('A`)『…遅ぇよ。腕ごと串刺しにしてやるぜ!!』

必殺の片手突きは寸分違わず弟者の命を奪う……はずだった。
ギィィィィン!!
しかし…響いたのは弟者の断末魔の叫びではなく、濁った金属音。



74: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 22:59:45.74 ID:7QW2o60J0
(;'A`)『…なっ!?』

想定外の出来事に、ドクオは驚愕した。
それでも思いっきりバックステップで距離を空け、弟者の反撃に備える。
左手が金属を殴った時のように痺れ、自慢の短槍は刃先が欠けていた。

(´<_` )『まさか…兵奴相手に左腕を使う破目になるとはな』

弟者の左腕には篭手も何もつけられていない、全くの裸手である。
しかし…あの衝撃は…。

(;'A`)『…義手か?』

(´<_` )『からくり義手だ。この【金剛吽】がただ剣技に長けているだけとでも思ったか?』

言いながら掌を開いてみせる。
どこからどう見てもただの腕にしか見えない。
しかし…その中央にぽっかり空いた黒い穴。

(´<_` )『今度はこっちの番だろう。弟者砲・一式【突】!!!!!』

掛け声と共に、その穴から5本の矢が同時に飛び出した。



75: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:01:33.82 ID:7QW2o60J0
(;'A`)『…ちっ!!』

横っ飛びに転がりかわそうとしたドクオだったが、
至近距離から唐突に放たれた矢を全て避け切ることは出来ず
その1本が右肩に突き刺さった。
それでも立ち上がり、周囲を見渡すが……そこに弟者の姿はない。

ξ;゚听)ξ『後ろよっ!!!!』

(;'A`)『…!!!!! うわぁぁぁぁぁぁっ!!』

ツンの悲鳴に近い叫びに体が自然と反応する。
無我夢中で背後に槍を振るった。

キィンッ!!!!!

再びの金属音と左手に伝わる衝撃。
偶然…偶然背後からドクオの頭部に振り下ろされた手斧を、短槍が弾いたのだ。
信じてもいない神に感謝し、飛び退き距離を空けた。

(;'A`)『…くそっ!!』

大きく息を吐き呼吸を整えながら、肩に刺さった矢を引き抜く。
痛みはあるが、動かすのに支障はなさそうだ。

チラと横目で先程の声の主に視線を送る。
金髪の少女は、胸元で両手を組み合わせホッと肩を撫で下ろしていた。



77: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:03:18.84 ID:7QW2o60J0
(;'A`)。oO(…ったく。俺は何やってんだろうな)

ドクオは思わず小さな溜息をついた。

【アルキュの至宝】こと、金髪の少女ツン=デレは一族の仇。
四肢を引き裂いても飽き足りない憎むべき敵だ。

にもかかわらず、彼はツンも…その従者も嫌いではない。
親友ナイトウと仲良くやってくれればいいと思うし、
たった今命を助けられた事に対して感謝もしていた。

それでも心の奥底では、父母が。顔も知らない祖父、祖母が。
魔犬の末裔と言われた一族の者全てが泥濘の中から彼を責めたてる。

ツンを殺せ。【統一王】の血を引く者を根絶やしにしろと訴えかけるのだ。

('A`)『…バカな。んな事出来るかよ』

聞けば、ツンは父の死後【沈黙の塔】に幽閉されていたと言う。
彼女に罪は無い。
分かっている。立場こそ違えど、ツンも自分やナイトウと同じなのだ。

(´<_` )『考え事か? ずいぶん余裕だな』

弟者の声がドクオを現実に呼び戻す。

('A`)『…余裕なんかねーよ。あんたを殺す方法を考えてたのさ』

そう言ってドクオは短槍を下段に構えた



79: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:05:16.44 ID:7QW2o60J0
そのドクオの足元に転がってきた者がある。
ナイトウだ。
銀髪は煤にまみれ、顔中泥だらけである。

('A`)『…よぉ、相棒。調子はどうよ?』

( ;^ω^)『最悪だお。あの変態…まだ遊ぶ余裕があるお』

( ´_ゝ`)『誰が変態だ』

(´<_` )『兄者しかおるまい』

( ´_ゝ`)『フン。……【鉄壁】の真似』

(´<_` )『似てない。死ねばいいのに』

確かに【金剛阿吽】の兄弟は強かった。今もなおその表情には余裕が見て取れる。

( ;^ω^)『仕方ないお…出来れば使いたくなかったけど…』

('A`)『…そうだな。あれをやるしかあるまい』

2人は目を合わせると小さく頷いた。

この場を乗り切る作戦は一つしかない。

( ;^ω^)『予定通りアルティメット・エターナル・フォース・フォーメーションαで行くお…』



85: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:08:37.93 ID:7QW2o60J0
( ;´_ゝ`)『何!? アルチメ…アルティメタミフル…アリュティ………αだと!!』

(´<_` )『噛んでる、噛んでる』

その物々しい響きは、兄弟の笑みを消すのに十分な力を発揮した。
なおもナイトウは続ける。

( ;^ω^)『アルティメットうんたらかんたらαは不敗のフォーメーションだお』

('A`)『…俺達がこのフォーメーションを取ったのは幾度と無くあった。
    そして、俺達は死なずにここに立っている』

( ;^ω^)『出来れば…もう少し後退して欲しいお。死体を撒き散らすのは趣味じゃありませんお』

歴戦の達人であれば、この2人から巻き上がるオーラを見て取れたかもしれない。
それほどまでに彼らから発せられる威圧感は凄まじかった。

( ;´_ゝ`)『くっ…』(´<_`; )

そして、歴戦の達人である兄弟は思わず2歩3歩後ずさる。

( ;^ω^);'A`)『逝くぞ!! これぞ究極不敗の奥義!!!!!
          アルティメット・エターナル・フォース・フォーメーションα!!!!!!』

腰を落とした構えから、180度体を回転させる。

ーーーーーそして。


( ;^ω^);'A`)『逃げろっ!!!!!!!』



90: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:11:14.92 ID:7QW2o60J0
叫ぶや否やナイトウはミセリの。ドクオはツンの手を引いて駆け出した。

( ;´_ゝ`)『なんだと!! 更に距離を空けるというのかっ!! そこからどんな攻撃が…!!』

(´<_` )『落ち着け変態。あれは逃げているだけだ。
       まぁ、そんな事だろうと思ったが…。』

全くこの兄貴は。頼りになるのかならないのか分からんな。
そんな事をブツブツ言いながら、弟者は左腕を伸ばし狙いを定める。

(´<_` )『弟者砲・二式【縛】!!!!!』

意味も無く技の名を叫ぶと同時に、その義手から拳大の玉が飛び出した。
必死で逃げる一同の背後に襲いかかる。
それは突如網のように広がり、最後尾のミセリの足に絡みついた。

ミセ;゚ー゚)リ『あっ!!』

堪らず転倒するミセリ。

( ;^ω^)『くっ!!』

倒れこんだ彼女に掴んだ手を引かれたナイトウは、その場で足を止める。
彼女を庇うように短剣を構えた。



94: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:13:20.60 ID:7QW2o60J0
ξ;゚听)ξ『ナイトウッ!!!』

(;'A`)『…子猿っ!!!』

背後の異変に気付いた2人が振り向き叫ぶ。

( ;^ω^)『止まるなおっ!!』

内藤も負けじと叫ぶと、加勢しようとするドクオを制止した。

(;'A`)『…って、バカ!! 一人で勝てるわけねーd』

( ;^ω^)『今はツンの【護衛】が僕らの仕事だお!!!』

こうなった時のナイトウは梃子でも動かない。
無理にでも加勢しようとすれば、切りつけてでもそれを拒否しようとするだろう。

(;'A`)『…このバカ野郎』

ドクオは苦々しげに呟いた。
それでも無理矢理にツンの手を引いて駆け出そうとする。

ξ;゚听)ξ『ちょ…ちょっと待って!!』

('A`#)『…うるせぇ!! ナイトウが心配なら走れ!! ナイトウを信じるなら走れ!!』

その言葉に、ツンは半ば泣きそうな顔で足を動かす。
ーーーーーそれでいいお。
小さな呟きと、激しい剣戟音が背中越しに聞こえてきた。



97: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:15:14.99 ID:7QW2o60J0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(-_-) 『何事だっ!!』

それは正に一瞬の出来事だった。
突然響きわたった配下の悲鳴に、彼が美しい獲物から目を離した…一瞬の出来事。
一陣の風と共に、【鉄壁】ヒッキーの手の中から瀕死のヒートの姿は消え失せていた。

代わりに、ぐったりとした赤い髪の少女を左手に抱きかかえ
彼の喉元に竹箒を突きつける黒衣の給士が一人。
白いリボンで縛り上げた長髪を風になびかせ、瞳は爛々と燃え上がり、額にはくっきりと青筋が浮かんでいる。

从#゚∀从『…テメェ…許さねぇぞ…』

【天智星】ショボンに仕えるもう一人の給士。ハインであった。

(-_-)『フン。下郎風情が偉そうな口を…………きくなっ!!!!!!』

ゆっくりとしたモーションからいきなりギアを最速にチェンジした急襲。
鋼鉄に覆われた拳がハインの頭蓋を叩き割r……かと思いきや、それはあっけなく空を切りヒッキーは思わずよろめく。

(-_-)『なっ…!!!』

彼女は彼の背後。それも十歩以上離れた場所に悠々と立っていた。


从#゚∀从『【天翔ける給士】【神出鬼没の御姉様】ハイン。
     テメェを殺す者の名だ、と言いてぇ所だが…今はヒートの治療が優先だ。
     ちょっくら野暮用もあるんでこの場だけは見逃してやるぜ…』

戦場にまたもや一陣の風が吹く。まばたきをする間に黒衣の給士はその姿を消していた。



102: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:18:30.33 ID:7QW2o60J0
(-_-)『…何者だ』

ヒッキーはハインが消えたと思われる城壁を睨みながら呟いた。
当然の如く、答える者はいない。

(#-_-)『何者だと聞いている!!!!!』

今度は恫喝するかのように叫ぶ。
しかし、【答える者】はいたのだ。
栗毛の駿馬に跨り、からくり仕掛けの剛弓を手にした白眉の男。
着慣れない甲冑に疲れが出たのか、首をポキポキと鳴らしながら近づいてくる。

(´・ω・`)『何者って…? 彼女は【天翔ける給士】【神出鬼没の御姉様】ハインさ。
      15歳を越えて童貞だと耳が悪くなるのかい?』

(#-_-)『ふざけるな!!』

\(´・ω・`)/『ふざけてなんかいないよー』

十分ふざけている。

(#-_-)『バーボンで腕の立つ者と言えば、元帥【常勝将】と貴様…
    それに僕が倒した【闇に輝く射手】だけの筈だ!!
    そもそも【給士】だの【御姉様】だのと言うふざけた異名など聞いた事がないわ!!』

現代風に言い直せば【天翔ける給士】は【空飛ぶメイドさん】、
【神出鬼没の御姉様】は【どこにでも現れる姉】という意味である。
今回に限っては、ヒッキーが怒りたくなる気持ちも分からなくは無かった。



106: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:21:28.63 ID:7QW2o60J0
(#-_-)。oO(…それにしても)

ヒッキーは周囲を見渡す。
城門は未だ閉じているにもかかわらず、そこには弓を棍に持ち替え戦場を駆ける
【黄天弓兵団】の騎兵の姿があった。

(-_-) 。oO(こやつら…いつの間に沸いてきおったのだ?)

思いもよらなかった反撃に彼の配下は完全に浮き足立っている。
このままでは敗北の可能性すらあった。

(´・ω・`)『ヒートが暴れている間に全軍を東門から出撃させ、君達の側面を突いたのさ。
      遠回りしたおかげで時間がかかって…あとでヒートにごめんなさいしないといけないよね』

ショボンがヒッキーの心を読んだかのように言う。

(-_-) 『これが【天智星】と言われた男の策と言う訳か!! でも、僕はまだ負けたわけじゃない!!
    今からでも兵をまとめ直せば、不慣れな棍を持った貴様らなど軽く殲滅して見せるぞ!!』

しかしショボンは唇の端を軽く持ち上げた表情を崩さない。

(´・ω・`)『甘いね。僕が何の考えもなしに隊を動かすとでも思っているのかい?
      時は来た。君の負けだよ、童貞君』

そう言って街道の先を指差す。

(;-_-)『なんだと……あぁっ!!』

夜の闇の中。
そこには一直線にこちらに突き進んでくる騎馬の群れの姿があった。



113: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:23:59.81 ID:7QW2o60J0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
              …これでいい。
              これでいいんだ。

              【統一王】は一族全ての仇。
              【統一王】亡き今、王の血を滅ぼす事で恨みを晴らすのだ。
              ガキの時から子守歌の様に言われてきた。

              だからってよ。一族の恨みってのはそんなに大切なもんなのか?

              ナイトウの気持ちを知って…それでも祖先の誇りを選べって?

              ナイトウは、もう何年も一緒に戦ってきた本当のダチなんだ。
              裏切るなんて出来ねぇよ。

              このクソ女を土地神の社とやらに放り込んだら、ナイトウに加勢しに戻る。

              んで、あの2人組を撃退したら…後の事はナイトウとクソ女で決めればいいさ。
              【天智星】はクソ女がその気になれば戦乱を終わらせる事が出来るって考えてるらしいが…
              んな事関係ねぇ。

              【統一王】に恨みを持つ連中。
              【統一王】の威光を笠に着たがる連中。
              世の中にはそんなのがごまんといる。
              そんなトコに自分から飛び込む必要はねぇ。

              ナイトウと2人で畑でも耕して暮らしていけばいい。

              これでいい。
              これでいいんだ。



116: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:26:35.16 ID:7QW2o60J0

ξ#゚听)ξ『ちょっと!! 聞いてるの!?』

考え事をしながら、茂みを掻き分け走っていたドクオは
耳元で怒鳴られ我に返った。

('A`)『…なんだ、クソ女』

ξ#゚听)ξ『なんだじゃないわよ!! アタシはもう大丈夫だから早くナイトウを助けに行ってよ!!』

お願いだから…と続ける声は擦れていた。

('A`)『…あぁ、その事か』

面倒臭そうに頭を掻く。

('A`)『…それなら心配ねぇよ。防御に徹した時のナイトウのしつこさは半端じゃねぇ。
    そう簡単にくたばりやしねぇさ』

だからこその役割分担でもあった。
彼ら2人は戦闘訓練で幾度と無く剣を交えた事がある。
結果はドクオの全戦全勝だったが、その全てが攻撃に転じたナイトウの隙を突いての物である。

ξ;゚听)ξ『それでm…きゃあっ!!』

ツンは言葉の途中で悲鳴をあげた。
湿った腐葉土に足を滑らせたのだ。
そのままドクオに抱きつくように体勢を崩し、2人は顔面から土の中に倒れこむ。



118: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:29:56.05 ID:7QW2o60J0
(#'A`)『…痛ぇな。気をつけろ、クソ女』

ドクオはブツブツと文句を言いながら、勢いで吹っ飛んだ愛用の槍を拾い上げる。

ξ;><)ξ『悪かったわね。あ〜、もう!! 口の中が泥だらけ!!』

たかがそれだけの。
たかがそれだけの言葉だった。

だが、それがドクオの脳裏に幼い日々の記憶を思い起こさせる。

泥の沈んだ水を飲み。
泥の味がする飯を喰らい。
泥の混じった涙を流した日々。

それと共に心の奥に封じ込めた筈の『モノ』が再び頭を上げ叫んだ。

コロセ。
コロセ。コロセ。
コロセ。コロセ。コロセ。






ξ )ξ『……何のつもり?』

気付いた時。彼は片膝をつくツンの前に仁王立ち……その首に槍先を突きつけていた。



120: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:32:41.92 ID:7QW2o60J0
あぁ、そういう事か。
ドクオは悟る。

どれほど強く押さえ込んだとしても。
どれほど深く封じ込めたとしても。

それは必ず鎌首を持ち上げてくる。

そう。
『それ』は血の呪縛。

そう。
『それ』は幼き頃から摺りこまれてきた…悪夢の記憶。

誰かが止めなくてはならない…
止めない限り永遠に続く死の螺旋階段。










そしてドクオは決意する。
冷たい風が木々を揺らし、木の葉が舞い散った。



123: ◆.B2lcGiYSA :2007/06/04(月) 23:34:52.80 ID:7QW2o60J0
『…ガキの頃から言われてきたよ。【統一王】を殺せ。王の血筋を根絶やしにし、祖霊の無念を晴らす生贄にしろってな』

              それなら…それならば…。

『…お前には恨みはねぇ。
生まれた立場。場所。時代さえ違っていればナイトウと小猿と…楽しくやっていけただろうな』

              涙を捨てよう。友を捨てよう。

『…でも…そうはいかねぇんだ』

              過去を捨てよう。己を捨てよう。

『…誰かがやらなくちゃいけねぇ』

              全てを捨てて修羅として生きよう。

『…この狂った世界を終わらせる為に。明日を築きあげる為に』

              修羅として悪夢の連鎖を断ち切り…
                   自分のような愚者がいない新しい世界を作り上げよう。
                        それは俺にしか…呪われた血を継く俺にしか出来ない。

('A`)『…すまねぇ。本当にすまねぇ。
    ……死んでくれ!!!!!』

頬を涙がつたうのを感じる。
この涙が彼が一人の人間として流す、最後の涙となるのだろうか。

ドクオは…いや。一人の修羅は手にした短槍を振りかぶった。



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