( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

6: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:33:36.92 ID:sQP5qiGo0


     登場人物一覧 ・逃亡軍 

( ^ω^) 名=ナイトウ 異名=無し 民=??? 
       武器=短剣・戦爪 階級=兵奴

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=アルキュの至宝 民=リーマン
      武器=鉄鞭 階級=王女

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン
      武器=無し 階級=付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン
     武器=大鎌 階級=元・千騎将。薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン
      武器=鉄弓(轟天) 階級=バーボン領の馬鹿息子。黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手・心無き暗殺人形) 民=???
     武器=仕込み箒・飛刀 階級=給士長

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 民=リーマン
     武器=鉄弓・格闘 階級=副給士長



11: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:35:11.79 ID:sQP5qiGo0
            ・リーマン族

<丶`∀´> 名=ニダー 異名=翼持つ蛇 民=リーマン
      武器=??? 階級=評議長

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=狐・人形使い(七英雄) 民=???
      武器=??? 階級=評議会情報部

(-_-)  名=ヒッキー 異名=鉄壁 民=リーマン
     武器=鉄鎚 階級=千騎将。鉄柱騎士団団長

J( 'ー`)し 名=カーチャン ヒッキーの母

??? 名=??? 異名=常勝将(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=バーボン領主 元帥

??? 名=??? 異名=全知全能(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=ニイト自治区監査

??? 名=ダイオード 異名=???(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=ネグローニ領主

??? 名=ヒロユキ 異名=統一王 民=リーマン
    武器=鉄鞭 階級=先王



13: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:36:56.78 ID:sQP5qiGo0
            ・メンヘル族

(´∀`) 名=モナー 異名=預言者(七英雄) 民=メンヘル
     武器=??? 階級=指導者

ミ,,゚Д゚彡 名=フッサール 異名=天使の塵・砂漠の涙(七英雄) 民=メンヘル
      武器=天星十字槍 階級=司祭。神聖騎士団団長(十二神将)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル
       武器=手斧・兄者玉 階級=???(十二神将)

(´<_` ) 名=弟者 異名=混合吽 民=メンヘル
       武器=手斧・弟者砲 階級=???(十二神将)

??? 名=??? 異名=不敗の魔術師 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)

??? 名=??? 異名=光明の巫女 民=メンヘル
    武器=??? 階級=巫女(十二神将)

??? 名=??? 異名=羅王 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)

??? 名=??? 異名=神の巨人 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)



15: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:38:05.69 ID:sQP5qiGo0
            ・その他

('A`) 名=ドクオ 異名=無し 民=モテナイ
    武器=短槍 階級=兵奴(現在行方不明)

??? 名=??? 異名=???(七英雄) 民=ニイト
    武器=??? 階級=元・ニイト最高指導者

??? 名=??? 異名=無限陣 民=???
    武器=??? 階級=???

??? 名=??? 異名=紅飛燕 民=???
    武器=細身の剣とマント 階級=キュラソー解放戦線リーダー



18: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:40:35.10 ID:sQP5qiGo0
〜超手抜き地形説明〜

             Aギムレット高地
@キール山脈     
                         Bニイト自治区

=====大地の割れ目==========     
                               Cネグローニ地区
         Eバーボン地区

              Fローハイド草原      Dデメララ地区

Gモスコー地区
   
                 Hシーブリーズ地区

※島の高度は、@→A→B→C…と番号が大きくなるにつれて低くなる。
人々の暮らしは温暖なD〜Fに集中している。
また、南から西南に抜ける風の影響でGHは北部とは比較にならないほど気温が高くなっている。

大地の割れ目を流れるのはマティーニ河。
そこから枝分かれしてEとFの境目を流れるのがバーボン河。
バーボン河は更にGとHの境を抜けて海に出る。

@…どこにも支配されていない。
ACDE…リーマン支配下。ただし@Aは半ば放置されている。
B…ニイトの自治が認められているが、実質的にはリーマンの支配下。
F…中立帯だが、リーマンの力が強い。
G…メンヘル支配下
H…中立帯だが、この地区を占拠する【海の民】とメンヘルが同盟関係にあり、メンヘルの力が強い。



24: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:43:13.92 ID:sQP5qiGo0


     第10章 赤い燕と白い鷲


( ゚∀゚)『ぉおおおおおおおらぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

馬上の少年…いや、少女を追う山賊の群れの中に大鎌を振りかぶったジョルジュが突っ込んでいく。
所詮は数を頼りに少女を追い回すような山賊ども。
正規に訓練を受け、日々を殺し合いの中で過ごしてきた彼に敵う筈も無い。
夜空を振動させるようなジョルジュの雄叫びを耳にした彼らは、目的の少女を置き去りにして早々に退散してしまった。

(#゚∀゚)『おい!! 逃げるな馬鹿!! せめて首の一つでも落とさせてから逃げやがれ!!』

『逃げるが勝ち』と言う言葉が真理だとすれば、この小競り合い(?)の勝者は山賊。
敗者はジョルジュと言う事になるのだろう。
負け惜しみめいた叫び声が虚しく夜空に響きわたった。

(#゚∀゚)『くそ…逃げ足の速い奴らだ』

とうに追いつけない場所まで逃げた山賊どもを見ながら忌々しげに吐き捨てる。
それも当然。【無敵 急先鋒】の名はアルキュ全体に、このような辺境の地にまでも知れ渡っていた。
【王都】デメララや【神都】モスコーのような大都市に行けば、絵画師によって姿絵までが売られている程なのだ。
当時の人々は、その様な姿絵を飾る事によって

『我が家はこの英雄と関わりがある。手を出したら後に酷い目にあうぞ』

と、盗賊や侵略者を牽制しようとしたのである。
ちなみに。【神都】モスコーには【乙女道】なる道があり、絵画屋が軒を連ねていた。
メンヘル十二神将が一人【不敗の魔術師】はその常連である。



28: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:49:01.47 ID:sQP5qiGo0
???『いや…それも当然だろうがよ』

全身から不満を立ち上らせているジョルジュに語りかける者がいた。
漆黒の長髪を後頭部で束ねた黒衣の給士。
いつからそこにいたのか?
白馬に跨ったジョルジュの背後に横座りになり、気持ち良さげに夜風に髪をたなびかせている。

( ゚∀゚)『あ? まぁ、そうかもな。有名すぎるのも考え物だぜ』

彼女の言葉を自分に良い様に解釈した騎士に向け、一本立てた人差し指をちっちっちっと左右に振って否定する。

从 ゚∀从『違ぇよ。テメェみたいな熊男が大声あげて突っ込んできたら誰だって逃げるっつーの』

( ゚∀゚)『…うるせえな。つか、いつからそこにいやがった。とっとと降りろ』

ジョルジュの一言に給士…ハインはまるで体重を感じさせない身軽さで馬から飛び降りる。
そうこうしているうちに、一人の青年が彼らの元に駆けつけてきた。
垂れ下がった太い白眉を持つ男。【天智星】ショボンである。

(;´・ω・)『ちょっと…君達速すぎるよ』

(#゚∀゚)『知るかバカ。文句は馬に言ってくれ』

从#゚∀从『バカ? テメェ、あんなんでも一応ハインちゃんのご主人だぞ。訂正しろ』

(;´・ω・)『……い…ちおう?』

ぎゃんぎゃんと騒ぎ始める3人。
マントを鮮血で染めた少女はそんな彼らのやり取りをじっと見つめていた。



30: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:52:01.00 ID:sQP5qiGo0
(メ・ω・`)『さて』

無意味な争いに飽きたのか。氷のような視線で見つめる少女にようやく気付いたのか。
ショボンは襟を正し、いまだ馬上の少女に向き直った。

(´・ω・`)『キュラソー解放戦線が将。【紅飛燕】殿とおみうけする。相違ございませんかな?』

返答は無い。
しかし、ショボンは構わず続ける。

(´・ω・`)『我が名はショボン。バーボン領にて【天智星】なる異名を持つ者にございます。
      よろしければ、我らが陣にて暫しの閑談の席を設けさせていただければ幸いかと…』

両手を胸の前で組み頭を下げる最上級の礼。
が、やはり少女は何も答えなかった。
値踏みするように正面から【天智星】の眼を見つめるだけである。

(;゚∀゚)『……』

从;゚∀从『……』

(;´・ω・)『……』

そこにはすでに言葉は無く。
沈黙だけが流れていた。



33: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 19:57:30.24 ID:sQP5qiGo0
深い。
とにかく深い瞳を持つ少女なのである。
正史によれば、『月光を映す夜の湖』を評されるその瞳の色は彼女の髪と同じ灰色。
恐れを知らない幼子のようにじっと見つめる瞳からは、
圧倒的な威圧感すら感じ取れる。

そして、それはツンの持つ直視するだけで失明するような輝きでも、
ジョルジュの持つそこにいるだけで押し潰されそうになるほどの烈風とも違う。
例えるならば、天馬に寄り添う乙女のような。
犯しがたい神々しさを全身から少女は放っていた。

例え今の彼女が。
蛮人どもの返り血に身を濡らしていたとしても、である。

やがて3人がプレッシャーと沈黙に堪えられなくなった頃。
自らの両手にべっとりとついた血に気付いた少女が
とうとう静かに口を開く。












(*゚ー゚)『…お風呂』



38: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:01:32.09 ID:sQP5qiGo0
(´・ω・`)『【三華仙】の連中はね。とにかく変わり者揃いなんだよ』

場所は変わって。
ここは陣中にあるショボンの幕舎。
ツンやヒートだけでなく、ミセリや全身を包帯でグルグル巻きにされたナイトウまでがそこに揃っていた。
【紅飛燕】…その名をしぃと言う…は彼女の希望どおり、陣内に設置された将官用の湯浴み場に篭っている。

从 ゚∀从 ゚∀゚)゚听)ξ ^ω^)パ听)セ*゚ー゚)リ。oO(…お前が言うな)

そんな一同の非難の視線などどこ吹く風。
ショボンは悠々と茶を啜っている。

だが、彼の言う事もまっぴら間違いではない。
北の三華こと、【紅飛燕】【九紋竜】【無限陣】の三人は揃いも揃って正式に士官さえすれば
最低でも千騎将の地位は約束されるほどの実力者として知られていた。
ただ、それと同時に手に負えない変わり者としても名を馳せている。

(;゚∀゚)『確かにアレじゃあなぁ…なんつーか、身体が石になるかと思ったぜ』

(;´・ω・)『うん。彼女は極端な無愛想で有名らしくてね…。
       キュラソー解放戦線が組織として成立しているのも副将の力による部分が大きいと聞いた事があるよ。
       ただ、あそこまで無愛想とは思わなかった』

( ゚∀゚)『だよなぁ…誰だか知らないけどよ、その副将さんの苦労が知れるぜ』

ジョルジュは自分がその立場になった時の事でも想像したのだろうか?
身震いすると、大きな溜息をついた。

                                                   (´・ω・`)……ニヤリ



40: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:07:05.46 ID:sQP5qiGo0
( ^ω^)『で、変わり者揃いって事は…?』

(´・ω・`)『あ、うん。そうだね。一応説明しておこうか』

ショボンは傍らの卓に碗を置くと、立ち上がり皆の前でゆっくりと歩き始めた。
この光景をナイトウらは今まで幾度も目にしている。
人に何かを説明する際の、この青年の癖なのかもしれない。

(´・ω・`)『まぁ、【紅飛燕】については…あのとおりの人物だ。
       用兵術にかけては天下一とされながらも、極端な無口と無表情から何を考えているか分からない。
       だから後ろめたいところを持つ者は彼女を近づけたがらない。
       僕? 僕は後ろめたいところなんて全然無いよ。
       ただ、キュラソーは彼女の父が没した地らしくてね。
       賊どもの専横を指を咥えて見ている事も出来ず挙兵したらしい』

( ゚∀゚)『つまり、もし俺達もキュラソーの解放を狙うなら…同盟も可能って事か?』

義兄の言葉にショボンはしっかりと頷く。

(´・ω・`)『うん。【キュラソー解放戦線】は義兵団とは言え正式に訓練を受けた騎士団と実力は大差ない。
       彼らと手を組めれば相当心強いだろうね』

言って彼は卓上に置いた飲みかけの茶に目を移す。
そこには彼愛用の碗の姿は無い。
が、忠実な給士がその手元にそっと碗を差し出し、ショボンは満足そうにそれを受け取った。



44: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:13:08.77 ID:sQP5qiGo0
(´・ω・`)『彼女の話はこの辺にして。次は【九紋竜】についてだけど…』

( ^ω^)『おっ。僕もその名前は聞いた事あるお』

ミセ*゚ー゚)リ『あ。ボクも以前姿絵を見た事があります。最強剣士…って人ですよね?』

ショボンの言葉に今まで会話に参加できなかった二人が我先にと喰らいつく。
それもそのはず。
黒塗りの長刀を下げ、左半身を九匹の龍の彫り物で覆われた流浪の剣士は【常勝将】や【急先鋒】以上に庶民の間では人気が高かった。
百を越える一騎打ちで負け知らず…と言う英傑。
どのような派閥にも属さず、戦場に身を置くはただ己を鍛える為…と言う彼の生き方が人々の賞賛を呼んだのだろう。

が。その背に【無敵】の二文字の旗印を背負った男は

(#゚∀゚)『けっ。どーせ弱い者いじめばっかりしてきたんだろ。もし俺様と会ったらその場で瞬殺してやるぜ』

と、箸で摘めそうなまでに眉をしかめていた。

(´・ω・`)『そして最後に。ニイト自治区の英雄。師である【全知全能】から監査代理を任されている人物【無限陣】。
      彼女はもしかしたらこのアルキュで最も強い力を持つ人物かもしれない』

( ^ω^)『お?』

アルキュ島において最も権力を持つ者。
鉄の流通を押さえるリーマンの【翼持つ蛇】ニダーと塩の供給を支配する【預言者】モナー。
この島に住む者ならば3歳の子供でも知っている常識だ。

しかしショボンは【無限陣】こそがこの2人を抑えて最高の実力を持っているかもしれないと言う。
決して誤解を生まぬよう。
白眉の青年はゆっくりと語り出した。



47: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:20:24.63 ID:sQP5qiGo0
(´・ω・`)『まず皆に聞きたい。南北の大陸からこの島に入ってくる塩と鉄。これはどうやって流通していると思う?』

ξ゚听)ξ『それは…』

アルキュは北のラウンジ。南の神聖ピンクの中間に浮かぶ貿易の中継地である。
南北の大国から運び込まれた物資。
鉄はリーマンの護衛隊によって。塩はメンヘルの語兵隊によって守られながら島を縦断し、再び海を渡る。
その際下賜された物資が島内に広まっていくのだ。
当然、何時どれ程の量の鉄や塩が下賜されたかは正確に記録されている。
だが、常識で考えれば常時戦時下のこの島で敵対民族にまで物資が行き渡る事がおかしい。
実際に人々の生活を支えているのは、闇市で扱われている『出所不明の』鉄や塩であった。

(;^ω^)『まさか…まさか…』

(´・ω・`)『闇市は足を踏み入れるだけで犯罪だが、それが無ければ人々の生活は成り立たない。
      だからニダーもモナーも闇市の存在に目を瞑っている。
      だけど、これは微妙なバランスの上に成り立つ商売だ。
      もし、どちらかの陣営が完全に勝利するような事があれば闇市自体が封鎖されるだろうね』

言ってショボンは茶を啜って喉を潤した。

(´・ω・`)『闇市は人々の生活の生命線だ。
      これを握られている以上ニダーもモナーも【鉄と塩の両方を扱う闇市のネットワーク】に手を出せない。
      そして【闇市の支配者】はそれを通して物資を供給しつつ、
      どちらかの陣営に天秤が傾いた際は供給を止める形でバランスをコントロールしている』

( ゚ω゚)『……』

(´・ω・`)『ここまで言えば分かるだろ? 闇市の支配者こそ、三華仙最後の一人【無限陣】のクー。
      彼女はラウンジ・神聖ピンクの両国の闇商人と繋がり…この島の戦況をコントロールしているんだ』



50: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:26:22.79 ID:sQP5qiGo0
( ゚ω゚)『そんな…そんなのおかしいお!!』

ナイトウは軍の中でも最下級に属する兵奴である。
数多くの戦場で数え切れないほどの友を失ってきた。
勿論、自身が命の危機に晒された事すら幾度とある。

彼が望んで得た境遇ではない。
生きる為。
ただ、それだけの為に死と背中合わせの戦場に立つ。
そんな彼にとってショボンが発した言葉は許せる物ではなかった。

( ゚ω゚)『僕が…僕達が命懸けで戦っているのに…』

そう。命を賭けて戦う者達の影で、戦いを終わらせないようにしている者がいる。
ショボンの言葉はそのように聞こえたし、そしてそれは決して許せる物ではなかった。

(´・ω・`)『ナイトウ君。落ち着いて』

( ゚ω゚)『これが落ち着いていられるかお!!』

嗜めるショボンにすら掴みかからんとする勢いのナイトウ。

ミセ*゚ー゚)リ『でも…ナイトウさんの言う事ももっともかと思います。
      ボクもそんな事をする人が英雄【三華仙】の一人だなんて…信じられません』

彼女の言葉は、ここにいる皆の意見を代表しての物だっただろう。
しかし、ショボンは悲しそうに首を横に振った。

(´・ω・`)『いや。彼女は…彼女こそは英雄と呼ぶに相応しい人物だと僕は思う。
      いい機会だ。少し、彼女の事について話しておこう』



51: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:28:33.11 ID:sQP5qiGo0
何から話せば良いものか。
白眉を普段以上に垂れ下げていたショボンはやがて静かに口を開いた。

(´・ω・`)『まず。彼女は【勝利の剣】と呼ばれた男。ニイト公モララーの娘だ』

ξ゚听)ξ『!!』

ミセ*゚ー゚)リ『え…それってもしかして…』

【統一王】七英雄の一人であり、王の友でもあったニイト公モララーは王妹ペニサスを妻に迎えている。
つまり、【無限陣】がモララーの子であればツンとは従姉妹の関係。
王族の一員と言う事になるのだが…。

(´・ω・`)『いや。彼女はモララーの先妻の子供なんだ。
      よって王族への血の繋がりはない』

ξ゚听)ξ『そう…』

その言葉を聞いたツンは残念そうに息を吐き出した。

(´・ω・`)『皆も知ってのとおり、ニイト公モララーは王の死後評議会に背いて兵を挙げ敗北。処刑された。
      彼女もその際瀕死の重傷を負い、【全知全能】の元で保護されていたらしい』

そこまで話して喉を潤す。

(´・ω・`)『やがて、【全知全能】はニイト自治区の監査役に就く。
      彼に同行して自治区を訪れた彼女が見た物は…弾圧され疲れ果てたかつての仲間達の姿だった』

ノパ听)『……』



55: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:35:02.92 ID:sQP5qiGo0
(´・ω・`)『見る影も無いほどに疲弊した仲間達は、それでも彼女を暖かく出迎えた。
      彼らの為に自分に出来る事はないか?
      彼女は悩み、考えた。そして決意する』

一同の中心で一人立ち、言葉を紡ぐショボン。
その姿を燭台の薄明かりだけが照らし出している。
彼がこれから続けるであろう言葉を、皆予想しながらも誰一人言葉に出来ないでいた。

(´・ω・`)『己が同胞の為ならば…十の幸せを守る為、一つの命を諦めよう。
      十の命を救う為、百の幸せを踏みにじろう。
      それは人道に外れる行為だと彼女にも分かっている。
      でも、指導者として…人の上に立つ運命の者として彼女はそれを選択した。
      鬼畜と罵られようとも、ただ己を信じる人の為に……。
      今ではニイトの民は全ての者が彼女にアルキュを統一してもらいたいと考えている。
      人としての幸せを捨て、魔道を歩もうとも…それは全て民の為。
      確かに彼女の行動を許せない者も多いだろうさ。
      でも、彼女を英雄と呼ばずに誰を英雄と呼べと言うのか?
      僕には分からないよ』

一息に話したショボンはグッと冷め切った茶を流し込み、ほぅと息を吐き出した。
皆、心に何か思う所があるのか。
一人として口を開く者はいない。

そこへ、幕舎の入口をくぐって来た姿があった。
頭に手ぬぐいを乗せ、ほこほこと湯気を立てた灰色の瞳の少女。

(*゚ー゚)『ご飯』

渦中の【三華仙】が一人。
【紅飛燕】しぃである。



57: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:40:35.72 ID:sQP5qiGo0
場違いな一言と共に侵入してきた少女によってその場の空気は完全に壊され、今晩はお開きと言う事になった。
本来であれば、今後の同盟関係について話を詰めるべきなのだろうが、
皆が皆そのような気分ではなく、更にこの少女と細かい話し合いをするのは無理かと思われた。

おそらく明日にでも彼女と共に【キュラソー解放戦線】本隊と合流し、
『頼りになる副将』と話をつけるつもりなのだろう。

一同はそれぞれの幕舎に戻り、
ミセリは少女を将官用の食舎に案内する。

ξ゚听)ξ『……』

( ^ω^)『……』

松明に照らされた陣内を歩きながら、二人は【無限陣】と呼ばれる人物の事を。
そして、友を裏切り修羅に走った一人の青年の事を考えていた。

人である事を捨て、同胞の為だけに生きようとする【無限陣】クー。
修羅となり、全ての負の感情をその身に背負ってでもアルキュの為に生きる事を選択したドクオ。
限りなく、どこまでも強いと思わせる二人。
だが。
それが悲しげな強さであるように感じられるのは何故だろう。

ξ゚听)ξ。oO(一人の人間としてでなく、指導者としての運命を選んだ人…)

( ^ω^)。oO(ただ己を信じる人の為に……)

歩を休め、夜空を見上げる。
濃紺の夜空に赤い月が輝いていた。



64: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:44:34.02 ID:sQP5qiGo0
翌朝。
ナイトウは陣門で見張りに立つ兵が騒ぐ声で目を覚ました。
敵襲を告げる銅鑼は鳴らされていない。
どうやら何か異変があった物の、見張りに立つ者達もどうすれば良いのか戸惑っているようだった。
将官達に報告はまだ為されていないらしい。

( ^ω^)。oO(何かあったのかお?)

跳ね起きると、傍らに置かれた短剣と戦爪を手に取り兵舎を飛び出す。

( ^ω^)。oO(何をしてるんだお? まずはショボンさんやジョルジュ将軍に報告しないと…)

どのような些細な変化であっても。
異変があった時には上官に報告するのが見張りの役目である。

例えば、今陣門の前にいるのが投降兵や戦火を逃れた農民であったとしても、
敵兵の変装による奇襲でないとは誰も言い切れないのだ。
それだけではない。
野犬の襲撃。
業病を背負った旅人。
竜巻。
たいした事ではないと言う判断が、一軍を全滅に追い込む例など幾らでもある。
そう考えると、ナイトウの足は自然に早まった。

経験不足による物であろう。
状況判断が甘い。
いや。
本人こそ全く気付いていないが、戦場こそが日常となっているナイトウの危機管理能力もまた
現代に生きる我々の目から見れば十分過ぎるほどに異常であった。



66: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:48:26.55 ID:sQP5qiGo0
( ゚∀゚)『よぉ、ナイトウ。早いじゃねぇか。昨夜は良く眠れたか?』

陣門に駆けるナイトウに並びかけてきた者がいた。【急先鋒】ジョルジュである。
彼もナイトウ同様、異変を感知するや飛び起きてきたのだろう。
頭髪がピンと跳ね上がっている。その右手には愛用の大鎌。左手に等身大のうさちゃん抱き枕。
その身に纏うは可愛らしいカエルの着ぐるみ。

( ^ω^)『なんですかお、その格好は。喧嘩売ってるんですかお?』

…と言いたい気持ちをグッと飲み込んだ。
今は状況を掴むのが先である。
そして、馬鹿げた姿にもかかわらず駆けながら兵に次々に指示を出す元千騎将の姿は非常に頼もしいものであった。

( ゚∀゚)『状況を報告しろ!!』

叫びつつ前進する彼の姿を前に、陣門前に集まった兵達は道を空けていく。

見張りの兵『はっ!! 先程、五十騎程の騎兵が突如姿を現しました!!
      が、彼らは百歩の位置で進軍を止め、白旗を掲げた状態で停止しております!!
      我らも判断に困り、報告するべきか悩んでいたところです!!』

( ゚∀゚)『馬鹿野郎!! 何かあったらすぐに報告するんだよ!! テメェが勝手に判断するんじゃねぇ!!』

陣門に辿り着いた彼が見た物は、規律正しく静止した騎馬隊である。
翻る旗印は青空を飛ぶ赤い燕。彼らが【キュラソー解放戦線】の一隊である事は間違いないだろう。
しかし。

(;゚∀゚)『げ』

その先頭に立つ隻腕の将の姿を見て、【急先鋒】は肺腑を押し潰されたような声を漏らした。



70: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:54:38.50 ID:sQP5qiGo0
(‘_L’) 『【キュラソー解放戦線】が副将。フィレンクトと申します』

迎え入れられた【天智星】ショボンの幕舎の中で。
奥の座に腰を下ろすツンに向かい、その男は力強い低音でそう名乗った。
頑丈な針金を思わせる痩身隻腕の初老の男。
白髪を丁寧に後頭部に撫で付け、猛禽類を思わせる高い鼻と三白眼。
身に纏う外套には染み一つ・皺一つ無く、この男の几帳面さを物語っていた。

フィレンクト。
諸兄らの中にも、この名前に聞き覚えがある方は多いと思う。
記憶があやふやになっている方でも、【白鷲】の異名を聞けば大半の方が彼の事を思い出す筈だ。
そう。
彼こそは偉大なる統一王【七英雄】が一人。
【勝利の剣】モララーが反旗を翻した際、『友を止められなかった』責を取って全ての官位を返還し、
以来消息を立っていた騎士の中の騎士。
【白鷲】のフィレンクトである。

(;^ω^)。oO(こりゃ、とんでもない大物が出てきたもんだお)

幕舎の片隅で泥汚れが染みになった己の平服を見下ろしてナイトウは縮こまる思いだった。
今の彼の待遇は、王女ツンのボディガード的位置にある。
よってこの場に滞在が許されているが、生きる伝説とも言える【七英雄】を前にして
ひたすら彼は緊張していた。

が。
緊張に身を固くしているのは彼だけではない。
ツンとミセリは当然の事。
ジョルジュからの知らせを受けるやちゃっかり身支度を整えたショボンやハインの隣で。
寝巻き姿に赤い頭髪を寝癖でパンクさせたもう一人の給士と、カエルの着ぐるみに身を包んだ騎将は
顔中を汗だらけにして固まってしまっていた。



74: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 20:57:44.70 ID:sQP5qiGo0
(‘_L’) 『このような辺境の地にようこそ。ギムレットの民を代表して歓迎いたします』

言ってフィレンクトは深々と頭を垂れる。

(‘_L’) 『ギムレットの冬は厳しい。加えて陣中は決して衛生的とは言えませぬ。
      お体を壊してなどいらっしゃいませんか?』

ξ;゚听)ξ『は、はい。皆さん良くして頂いてますし…昔から身体だけは丈夫で…』

本来至高の座にあるべき少女も、伝説を前にして笑顔を引きつらせている。
無理もあるまい。
誰もが尊敬する父と共に戦場を駆けた男が目の前にいるのだ。
そして、彼自身が発する威圧感。
彼の三白眼で睨まれると、若者達は『鬼教師を前にした出来の悪い生徒』のような心境になってしまう。

(‘_L’) 『ジョルジュ。ヒート』

(;゚∀゚)ノハ;゚听)『は、はいっ!!』

何の前触れも無くフィレンクトが二人に声をかけた。
哀れ。
彼らは直立不動の姿勢で今にも砕け散らんばかりの表情である。

(‘_L’) 『陛下はこう仰られている。が、臣下たる者は主の身辺に気を配って当然という物。
      くれぐれも聞きますが、陣中は清潔なのでしょうね?』



76: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:01:45.40 ID:sQP5qiGo0
ノハ;゚听)『と、当然であります!!』

(‘_L’) 『間違いありませんね?』

(;゚∀゚)『は、はいっ!! 間違いありません!!』

二人の言葉に偽りはあるまい。
陣中。特に、将官用幕舎の周辺は暇さえあれば【天翔ける給士】ハインが掃き清めている。
本来むさ苦しい男ばかりが集まる軍隊の中では考えられない光景であると言えた。

(‘_L’) 『そうですか…』

呟くとフィレンクトはゆっくりとツンに近づいた。
『失礼』と声をかけてから、彼女が腰を下ろす座の背もたれ上辺に指を這わせる。

( ^ω^)『……?』

彼がその指についた埃をまじまじと見つめた後に、ふっと吹き飛ばして見せたところで、フィレンクトが何をしたかったのか。
そこにいる全員が理解した。

(‘_L’) 『……これが貴方達の言う【清潔】ですか?』

(;゚∀゚)ノハ;゚听)『!!!!! も、申し訳ありません!!』

(‘_L’) 『謝罪の言葉は必要ありません。行動で示しなさい。
      何故このような事態が起きたのか、分かりますか? それは貴方達が陛下をしっかりと見ていないからです。
      それではたして臣と言えるのでしょうか? よろしいですか? そもそも忠心という物はですね…』

嫁をいたぶる小姑のような口調で長々と説教を始めるフィレンクト。
ツンはそれを口を半開きにして呆然と見つめていた。



79: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:05:03.07 ID:sQP5qiGo0
(;^ω^)。oO(ショボンさん、ショボンさん)

背筋をピンと伸ばした姿勢で二人に小言を続けるフィレンクトに気付かれぬよう、ナイトウがショボンに声をかけた。
その向こうではジョルジュとヒートが喉が裂けんばかりの声で『そのとおりであります!!』とか『申し訳ありません!!』とか叫んでいる。

(;^ω^)。oO(あれは…一体どうなってるんだお?)

ξ;゚听)ξ『ア、アタシにもkwsk』

突然陣を訪れた【生きる英雄の一人】が、突然自軍の将に向けて説教を始める。
そのような光景を目にすれば、面食らうのは当然だった。

(´・ω・`)。oO(あぁ。フィレンクトは現役時代【薔薇の騎士団】団長だったんだよ)

つまり、ジョルジュにとっては先代団長。ヒートにとっては師匠にあたる。
怖い物知らずで知られる彼らが全く頭が上がらない存在。それがフィレンクトという男なのだろう。

ミセ*゚ー゚)リ。oO(…もしかして知ってたんですか?)

(´・ω・`)。oO(ん? 何をだい?)

意地悪そうな笑みを浮かべてショボンは返答する。

ξ゚听)ξ。oO(何を…って!! 決まってるじゃないですか!!
       フィレンクト様が【解放戦線】に籍を置いてるかどうか知ってたんじゃないんですか!?)

(´・ω・`)。oO(あぁ、その事ね。当然じゃないか)

ショボンはいけしゃあしゃあと答えた。



82: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:08:32.79 ID:sQP5qiGo0
(´・ω・`)。oO(あのね。僕だってギムレットに来てから、ただのんびりとしてたワケじゃない。
        こう見えて色々情報を集めていたんだよ。
        それに僕の給士が誰だか忘れたのかい?最強の隠密ハインだ。
        ハインが本気になれば、どんな不器用者でも失敗しないパンの焼き方から偽物と分からないパットの入手先まで。
        手に入らない情報なんて存在しないさ)

褒めているのか貶しているのか分からないショボンの言葉だが、褒められていると判断したのだろう。
腕を組んだハインは嬉しそうにウンウンと頷いている。

『友を止められなかった』責を負って中央を去ったと言われる彼だが、実際にはモララー同様【評議会】を快く思っていなかった節がある。
清廉な人柄で知られる彼には、議会と言うシステムをとりながら実際には一人の専横を許している状態が我慢ならなかったのだろう。

だからこそ、彼は【王権派】寄りの【解放戦線】に力を貸しているのであろうし、
ショボンも彼らとの同盟は今後勢力を拡大するに当たって必要不可欠と考えていた。

最初、山賊に追われる【紅飛燕】しぃを見た時。
ショボンが梯子を転げ落ちるほど狼狽したのは、この為である。

そして。
もし、フィレンクトと彼の弟子が顔を会わせればどうなるか?
分かっていた筈である。
にもかかわらず、何故彼は沈黙を守ったのか?




\(´・ω・`)/『だって、この方が面白そうじゃないか』

…この男とことん駄目人間である。



84: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:12:36.64 ID:sQP5qiGo0
(‘_L’) 『つまり。それこそが臣たる者の取るべき道なのです。
       分かりましたか、二人とも』

( ;∀;)ノハ;凵G)『はい。分かりました。ありがとうございます』

二人の顔を流れる液体が汗だか涙だか分からなくなった頃。
ようやくフィレンクトの説教は終わりを告げた。

そのタイミングを見計らったかのように幕舎にひょっこり入ってきた者が一人いる。
【紅飛燕】のしぃ。
騒ぎの事など全く眼中になく、朝風呂と洒落こんでいたのだろう。
やはり今日も頭に手ぬぐいを乗せ、ほこほこと全身から湯気を上げている。

(*゚ー゚)『フィル』

(‘_L’) 『!! しぃ!!』

その姿を確認するや、フィレンクトは彼女に飛びかかった。

(‘_L’) 『何をしているのです!! まだ髪が濡れているではありませんか!!
      あれ程寒くなってきたから風邪を引かぬよう気をつけろと…』

口煩い事を言いながら、しぃの髪を手ぬぐいでわしわしと拭きはじめる。
とろんとした表情でなすがままになっている彼女は、どことなく心地良さそうだ。

(;´・ω・)『あの…お忙しいところ大変恐縮なんだけど…そろそろ来訪の理由など話を進めたいんだけど…』

白眉の青年が恐る恐る声をかける。
それでようやくフィレンクトは自身が何をしているか思い出したらしい。
慌てて手ぬぐいを放り出すと、呆然とした表情で座に腰掛けるツンに向き直った。



86: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:16:58.43 ID:sQP5qiGo0
(‘_L’) 『単刀直入に申しましょう。キュラソーの民は解放の時を。王の帰還を待っているのです』

統一王挙兵の地として知られるキュラソーは、二重の堀と鼠返しになった城壁を持つ難攻不落の地としても有名である。
しかし、今では山賊どもに支配され人々は明日をも知れぬ日々を過ごしていると言う。

( ^ω^)『……?』

一同は今ナイトウが運び込んだ座を車座に組んで座っている。
心地よい低音を響かせるフィレンクトを見ながら、ナイトウは首を傾げていた。
彼とて、統一王がキュラソーの出身である事くらいは知っている。しぃの父がキュラソーで戦死した事も聞いた。
だが、それだけでは何故人々が日常を捨ててまで戦場にあろうとするのか?
彼には理解できない。
しぃはともかくとして。フィレンクトや【キュラソー解放戦線】の戦士達には、そこまでキュラソーに拘る理由などないのではないだろうか?
故郷? 家族? そのどちらも持たないナイトウにはその重要さがわからない。
が、陣門前に整列した騎兵の誇りに満ちた顔つきを彼は覚えていた。

(‘_L’) 『…? ナイトウ殿…でしたね。如何されました?』

ナイトウは己の疑問を率直に口に出す。

(´・ω・`)『う〜ん。キュラソーの民はその辺特別かもしれないからなぁ。
      ところで、ナイトウ君は【白衣白面】と【クリテロ】の悲劇の伝説は知ってるよね?』

当然のように『知らない』と答えるナイトウに、一同は目を丸くした。

(´・ω・`)『なるほどね。それなら無理もないかもしれない。
      それじゃ、この優しいショボン様が説明してあげるから耳かっぽじってよく聞きたまえ』

言うやショボンは座をすくと立つ。
ナイトウは心に理不尽な怒りを覚えながらも彼の言葉に耳を傾けた。



88: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:20:14.90 ID:sQP5qiGo0
統一王ヒロユキがキュラソーに革命の旗を掲げた当時。
彼の横には常に一人の青年が控えていた。
名をクリテロ。
名ばかりの貴族であったヒロユキの幼馴染であったクリテロは、
平民の出でありながらも策を練れば不敗。剣を取れば無敵の猛将であった。

そして、それ以上に彼の名を天下に響かせたのは【白衣白面】と呼ばれる突撃隊の存在である。
死を怖れず、ただ敵兵をなぎ倒す事だけに特化した兵士。
守りを捨て、【突撃】と呼ばれる攻撃を得意とする戦士。
彼らの存在なくして王のアルキュ統一は無かったであろう。

しかし、クリテロとヒロユキの間にも別れの時が訪れる。
徐々に力をつける革命軍を怖れた、リーマン・メンヘル・モテナイの三民族連合軍がキュラソーを包囲したのだ。
一年に渡る籠城で兵糧も底をつき、絶体絶命の革命軍。

そこでクリテロをはじめとする【白衣白面】は王を、王妹ペニサスの嫁ぎ先であるニイトに逃がす事を画策する。
僅かに残った水を別れの杯にすると、彼らは城門を開いて敵陣に討って出た。

最初こそはふいを突かれ混乱した連合軍であったが、時間が経つにつれ戦況はアルキュに不利な方向へ傾いていく。
兵の数はもちろんの事、籠城で痩せこけたアルキュ兵には元より戦う力など残されていなかったのである。
それでも、ヒロユキに恨み言を吐く者など一人としていない。
戦士達は王こそがこの戦乱を終わらせると信じて。
己が理想と後事を託すと笑いながら死んでいった。

十重二十重の敵陣を切り開き、ニイトへ続く森を抜けきったヒロユキが背後を振り返った時。
そこに続く兵は一人としていなかったと言う。

それがショボンがナイトウに聞かせた話。
【白衣白面】と【クリテロ】の悲劇の伝説であった。



91: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:22:06.55 ID:sQP5qiGo0
(‘_L’) 『昼夜を問わず押し寄せる敵兵の群れ。長期にわたる籠城。
      にもかかわらず、統一王とクリテロは民を飢えさせる事だけはありませんでした。
      敗戦によって荒れ果てたキュラソーは、一時は王の支援によって復旧したかに思われましたが、
      現在は山賊どもに牛耳られている有様です』

言ってフィレンクトは俯いた。余程悔しいのだろう。
膝の上に置かれた右手は爪が喰い込まんばかりに固く握られている。

(‘_L’) 『当時の事を覚えている民は今も王の帰還を待ち望んでいます。
      この私も【評議会】の横暴を見るに堪えず、官位を辞してからは郷里で田畑でも耕して暮らすつもりでおりました。
      しかし…』

一度言葉を区切ってチラと灰色の瞳の少女に目をむける。
彼と目があった少女は、不思議そうに首を少し傾げた。

(‘_L’) 『今もなお王の理想を追い求めている若者がいる。
      それを知ると居ても立ってもいられなくなり、【解放戦線】に身を投じた次第です』

ミセ*゚ー゚)リ『…って事はフィレンクト様は最初から私達と手を組もうと……?』

(‘_L’) 『当然です』

【白鷲】は力強く首を縦に振る。

(‘_L’) 『王女が沈黙の塔より脱走し、このギムレットに向かっておられると聞いた時から
      我らの心は決まっておりました。
      そこにいる我らが将などは王女が付近にいると知った瞬間、一人王女の元に向かった程です。
      途上、どうやら命知らずの賊どもに追われたりしたようですが…』

そう言ってフィレンクトは苦笑した。



95: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:25:42.34 ID:sQP5qiGo0
( ゚∀゚)『よっしゃあ!! これで決まりだ!! 流石はフィレンクト先生!! 話が早いぜ!!』

叫び座を立ち上がるジョルジュ。
が、

(‘_L’) 『慎みなさい』

と一瞥されてスゴスゴと腰を下ろした。
その様はまるで主人に叱られた犬のようである。
もし、彼に尻尾があったとしたら。ぺたんと項垂れていたことだろう。

(´・ω・`)『うん、確かに義兄は少し落ち着くべきだね。
      この件を決定すべき人間は一人しかいない』

そう言って【アルキュの至宝】に視線を送る彼の手には暖かな湯気を立てる碗が握られている。
いや。
彼だけではない。
この場にいる者全員の前に芳香豊かな茶を注いだ碗が置かれていた。

このような真似が出来る者は一人しかいない。
ただ、彼女が皆に茶を配ったところを見た者が一人でもいただろうか?
あくまでも自然に。
空気すら動かさぬように。
熟練した給士の腕前は、なるほど確かに最高の隠密の手腕であると言えた。

そして。
獅子の鬣を思わせる金髪の少女は、手元の碗に視線を落としている。
が、やがて決意したかのように顔を上げた。

(´・ω・`)『さぁ、王女。君の意見を聞かせてくれないかな?』



103: ◆COOK.INu.. :2007/11/12(月) 21:31:09.66 ID:sQP5qiGo0
ξ゚听)ξ『昨日の夜…ニイトの【無限陣】の話を聞いた時からずっと考えていた事があるの。
     罵られ、人道を踏み外しても民の為に生きる。
     それが王としての義務。王家に生を受けた者の運命かもしれない』

でも…。

ξ゚听)ξ『それって何か違うと思う。
     何が違うって言われると困るんだけど…凄く寂しい生き方だと思う。
     例え運命だとしても、アタシはあの暗い塔の中で…小さな窓から見える空を眺めて考えてた…
     人間らしい毎日を諦めたくない』

その場に言葉を発する者は彼女以外一人として居なかった。

ξ゚听)ξ『アタシの考えは変わらないわ。
     今でも王家の血とか、アルキュの至宝とか。馬鹿馬鹿しいと思ってる。
     そんなものの為に人が殺しあうなら、そんなものいらないと思う』

でも…。

ξ゚听)ξ『でも…でも……。こんなアタシを待っていてくれている人がいる。
     来るかどうかも分からないアタシの為に傷つき戦っている人がいる。
     それなら…それならば向かいましょう、キュラソーへ!! 
     そして彼の地を解放しましょう!!』

その瞬間。灰色の瞳の少女を除く全ての者が歓声を上げ立ち上がった。
そして。その瞬間は。
後の世に【金獅子王】と呼ばれた彼女が初めて王として自身の声を発した瞬間。
人である事を捨てた王ではなく。
悩み、苦しみ、それでも一人の人間として歩む道を選んだ王が誕生した瞬間だった。



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