( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

7: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:01:10.96 ID:EAAp9FqQ0


     登場人物一覧 ・逃亡軍 

( ^ω^) 名=ナイトウ 異名=無し 民=??? 
       武器=短剣・戦爪 階級=兵奴
現在地=ギムレット 状況=ツンのボディガードを務めつつ、訓練中。
       特徴=銀髪の青年。記憶を無くしている。記憶の手掛かりは首から下げた鈴?

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=アルキュの至宝 民=リーマン
      武器=鉄鞭 階級=王女
      現在地=ギムレット 状況=徐々に王族としての自覚を持ち始めている?
      特徴=金髪の少女。

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン
      武器=無し 階級=付き人
      現在地=ギムレット 状況=付き人としてツンを支える
      特徴=医学・栄養学などに精通。髪飾りを集めるのが趣味らしい。

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン
     武器=大鎌 階級=元・千騎将。薔薇の騎士団団長
     現在地=ギムレット 状況=逃亡軍一の猛将として活躍中
     特徴=熊を思わせる大男。愛用の抱き枕が無いと眠れない。



11: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:03:22.71 ID:EAAp9FqQ0
(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン
      武器=鉄弓(轟天) 階級=バーボン領の馬鹿息子。黄天弓兵団団長
      現在地=ギムレット 状況=キュラソー解放に向けて何やら考案中
      特徴=白眉の青年。ジョルジュとは義兄弟。馬鹿。

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手・心無き暗殺人形) 民=???
     武器=仕込み箒・飛刀 階級=給士長
     現在地=ギムレット 状況=情報収集に走りつつ、主に尽くす
     特徴=黒髪が美しい黒衣の給士。料理以外の仕事は完璧。

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 民=リーマン
     武器=鉄弓・格闘 階級=副給士長
     現在地=ギムレット 状況=愛すべき姉のストーキング
     特徴=癖が強い赤髪を持つ赤い給士。料理だけなら完璧。

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙) 民=リーマン
     武器=細身の剣と外套 階級=キュラソー解放戦線主将
     現在地=ギムレット 状況=逃亡軍と同盟を結びキュラソー解放を願う
     特徴=灰色の髪と神秘的な瞳を持つ、無口な少女。

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン
      武器=長剣 階級=キュラソー解放戦線副将
      現在地=ギムレット 状況=キュラソー解放に向けて進軍中
      特徴=隻腕の几帳面な老将。ジョルジュとヒートの師にあたる存在。



13: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:05:11.71 ID:EAAp9FqQ0
            ・リーマン族

<丶`∀´> 名=ニダー 異名=翼持つ蛇 民=リーマン
      武器=??? 階級=評議長
      現在地=デメララ 状況=???
      特徴=黒髪を後頭部で束ねた痩せた男。評議会を牛耳る。

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=狐・人形使い(七英雄) 民=???
      武器=??? 階級=評議会情報部
      現在地=??? 状況=???
      特徴=派手派手しい外套に身を包んだ隠密。阿片の常習者。

(-_-)  名=ヒッキー 異名=鉄壁 民=リーマン
     武器=鉄鎚 階級=千騎将。鉄柱騎士団団長
     現在地=デメララ 状況=バーボン領の領主代理に任命される。
     特徴=重厚な鎧に身を包んだ将。ジョルジュとは犬猿の仲。

??? 名=??? 異名=常勝将(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=バーボン領主 元帥

??? 名=??? 異名=全知全能(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=ニイト自治区監査

??? 名=ダイオード 異名=??? 民=リーマン
    武器=??? 階級=ネグローニ領主

??? 名=ヒロユキ 異名=統一王 民=リーマン
    武器=鉄鞭 階級=先王
※ごめんなさい。前回、ダイオードを七英雄に数えましたが、作者のミスです。
 彼は大きな手柄こそ立てましたが、七英雄ではありません。



15: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:06:45.24 ID:EAAp9FqQ0
            ・メンヘル族

(´∀`) 名=モナー 異名=預言者(七英雄) 民=メンヘル
     武器=??? 階級=指導者
     現在地=モスコー 状況=???
     特徴=唯一神マタヨシの声を聞くとされる人物で、アルキュにおけるマタヨシ教団の頂点に立つ男。

ミ,,゚Д゚彡 名=フッサール 異名=天使の塵・砂漠の涙(七英雄) 民=メンヘル
      武器=天星十字槍 階級=司祭。神聖騎士団団長(十二神将)
      現在地=モスコー 状況=???
      特徴=長髪長髭の老将。

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル
       武器=手斧・兄者玉 階級=???(十二神将)
       現在地=??? 状況=???
       特徴=変態。武器である兄者玉は108式まであるが、大半は無駄な物が詰まっている。

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル
       武器=手斧・弟者砲 階級=???(十二神将)
       現在地=??? 状況=??? 
       特徴=外見こそ兄者とそっくりだが、常識人。腕は一歩劣るか?



18: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:09:25.89 ID:EAAp9FqQ0
??? 名=??? 異名=不敗の魔術師 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)

??? 名=??? 異名=光明の巫女 民=メンヘル
    武器=??? 階級=巫女(十二神将)

??? 名=??? 異名=羅王 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)

??? 名=??? 異名=神の巨人 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)



19: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:11:23.01 ID:EAAp9FqQ0
            ・その他

('A`) 名=ドクオ 異名=無し 民=モテナイ
    武器=短槍 階級=元・兵奴
    現在地=??? 状況=ナイトウを裏切り行方不明。
    特徴=陰気寡黙な男。口は非常に悪い。

??? 名=モララー 異名=勝利の剣(七英雄) 民=ニイト
    武器=??? 階級=元・ニイト最高指導者

??? 名=クー 異名=無限陣(三華仙) 民=???
    武器=??? 階級=ニイト自治区監査代理
    現在地=ニイト 状況=???
    特徴=苦しむ同胞を救う為、人道を外れる。闇市の支配者とされる人物。

??? 名=??? 異名=九紋竜(三華仙) 民=???
    武器=漆黒の長剣 階級=浪士
    現在地=??? 状況=???
    特徴=左半身に九匹の龍を彫りこんだ【最強剣士】



21: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:13:13.27 ID:EAAp9FqQ0
〜超手抜き地形説明・そろそろ本気で何とかしなきゃあかんね〜

             Aギムレット高地
@キール山脈     
                         Bニイト自治区

=====大地の割れ目==========     
                               Cネグローニ地区
         Eバーボン地区

              Fローハイド草原      Dデメララ地区

Gモスコー地区
   
                 Hシーブリーズ地区

※島の高度は、@→A→B→C…と番号が大きくなるにつれて低くなる。
人々の暮らしは温暖なD〜Fに集中している。
また、南から西南に抜ける風の影響でGHは北部とは比較にならないほど気温が高くなっている。

大地の割れ目を流れるのはマティーニ河。
そこから枝分かれしてEとFの境目を流れるのがバーボン河。
バーボン河は更にGとHの境を抜けて海に出る。

@…どこにも支配されていない。
ACDE…リーマン支配下。ただしAは厳しい気候の為か半ば放置されている。
B…ニイトの自治が認められているが、実質的にはリーマンの支配下。
F…中立帯だが、リーマンの力が強い。
G…メンヘル支配下
H…中立帯だが、この地区を占拠する【海の民】とメンヘルが同盟関係にあり、メンヘルの力が強い。



23: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:16:05.33 ID:EAAp9FqQ0


     第11章 誰が為に鐘は鳴るやと(前編)


寒風吹きずさむ草原に二人の男が対峙していた。

一方は木製の短剣を構えた銀髪の青年。
よほど緊張しているのか。
それとも目の前に悠然と立つ男に気圧されているのか。
その額から汗が滴り落ちている。

もう一方は隻腕の老人だ。
腕のない袖を風にたなびかせている。
やはり木製の剣を手に、ただその剣先を相手に向けているだけなのだが、
そこには微塵たりとも隙が窺えない。
いや。
獲物を狙う荒鷲のような三白眼からは、青年を十度打ちのめしてもまだお釣りが帰ってくるほどの
威圧感を感じ取れる。

やがて。
青年が痺れを切らしたかのように。
老人の発する気に耐え切れなくなったかのように動いた。

大地を抉り取るかのような力強い踏み足から生み出される神速の移動術、瞬歩。
青年は十歩の距離を一瞬にして詰めると、必殺の突きを老人の胸に放つ。

が。
それはあっけなく交わされた。
挙句、足を引っ掛けられた青年は顔面から地面に滑り込む。



27: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:19:31.04 ID:EAAp9FqQ0
ノパ听)『勝負あったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

赤毛の給士の一言で勝負は終わった。
老人…フィレンクトはヤレヤレとばかりに肩を回し、
顔中に泥汚れと新たな擦り傷をこさえた青年…ナイトウも悔しそうに立ち上がる。

(;^ω^)『参りました。完敗ですお』

言ってペコリと頭を下げるナイトウに、二人の勝負を見守っていた金髪の少女が駆け寄る。
腰袋から引き出した清潔な布で、青年の顔を拭い出した。

(‘_L’) 『完敗と申しますか。これでは時間の無駄と言わざるを得ないかと思います』

老人の言葉には遠慮の欠片も無い。

今後、彼らの軍編成計画に当たって。
ナイトウの成長は不可欠なものである、と【天智星】ショボンは言った。
彼もその期待に応えるべく、こうした行軍中の僅かな時間を見つけては訓練に勤しんでいる。

が。
今、彼は大きな壁にぶつかっていた。
自身が思い描くような動きが取れないのである。

思えば、戦場こそが当たり前の毎日で生き抜く事に必死だった。
自分自身が生きる手段として『強くなる』事を求めはしたが、
誰かの期待に応える為に『強くなろう』とした事など一度も無い。

ナイトウは悩んでいた。



30: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:23:32.76 ID:EAAp9FqQ0
ξ゚听)ξ『時間の無駄って…言い過ぎじゃないですか!?』

思わずツンは父の盟友であった男・フィレンクトに食ってかかった。
自分の為に怒ってもらえるのは嬉しい。
が、傷口に爪を立てるのは勘弁して欲しいとナイトウは思う。

彼の訓練は、実戦を想定した一騎討ちの形式をとる事が多い。
手にする武器こそ木製だが、それとて鉄製の鎧が身を守ってくれなければ十分致命傷を与えうる危険な物である。
そして、その一騎討ちの尽くに彼は惨敗した。

腕力では【急先鋒】ジョルジュに敵わない。
しなやかな肢体から繰り出される【燃え叫ぶ猫耳給士】ヒートの格闘術に倒れた。
【天翔ける給士】ハインの遠近両面からの攻撃に敗北した。
【紅飛燕】しぃの細身剣とマントのトリッキーな連携は交わす事が不可能だった。
【白鷲】フィレンクトの眼力に身を撃たれた。

【天智星】ショボンは、

(´・ω・`)『僕? 遠慮しておくよ。今すごく忙しいんだ』

と勝負を避けた。常に側にあるはずの黒衣の給士の姿が見えない事から、何やらまた悪巧みでもしているのだろう。
が、そうなると実際に彼が勝てるのは守るべき対象であるツンと、その付き人であるミセリだけなのである。

ナイトウとて、長年血まみれの戦場で生き抜いてきた己の技量に自信が無かった訳ではない。
更に。
バーボン城の戦いで親友ドクオと一騎討ちを演じた際。
彼の振るった刃は剣圧だけで大岩に傷をつけたと、ツンは言う。
戦場においても体格と筋力で勝るナイトウは一瞬だけなら最高の隠密ハインを超える事すらあるのである。
にもかかわらず、彼は一度として彼らに勝った事がない。
青年は自信を無くしていた。



31: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:28:13.82 ID:EAAp9FqQ0
ξ#゚听)ξ『ちょっと!! ナイトウってば聞いてるの!?』

眉を吊り上げた少女に耳元で叫ばれ、ナイトウは我に還った。

(;^ω^)『おっ、おっ、おっ。スマンコ。聞いてなかったお』

(‘_L’) 『…今のままのナイトウ殿ではどのような訓練をしても無駄。そう言ったのです』

言いながらフィレンクトは頭髪を手櫛で整える。
ナイトウとの訓練では、その白髪は一糸たりとも乱れていなかったから、
おそらく彼が自分の世界に嵌っている間に『何かしら』あったのだろう。

ξ#゚听)ξ『だ!か!ら!! それが言い過ぎだって言ってるんです!!
      ナイトウだって頑張ってるんだからその言い方はないんじゃないですか!?』

(‘_L’) 『いや。彼には決定的に足りない物があります。それを証明してみせましょう』

言うやフィレンクトは手にした木剣をナイトウに差し出す。

(‘_L’) 『これで私の胸を突いてごらんなさい。ただし、一切の手加減は無用です』

一瞬躊躇するナイトウだが、老人の言には『従わねばならない』と感じさせる威厳があった。
木剣を受け取った青年は、申し訳ないと思いつつも渾身の突きを放つ。
が。その一撃を受けながらも柳のように細い老人の身体はビクともしなかった。

(‘_L’) 『次は私の番です。歯を喰いしばりなさい』

続いて老人がまるで腰の入っていない姿勢から、すくい上げるように拳を振る。
ただ適当に撃っただけに見えるその一撃が頬を打つ。
しかし、それはナイトウをよろけさせるに十分な重さを込めていた。



35: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:32:05.84 ID:EAAp9FqQ0
(‘_L’) 『分かりますか。これが私とナイトウ殿の差です』

決して脳を揺さぶられるような衝撃は伝わっていない。
それでもその拳は岩石が如く重く、ナイトウの体をよろめかせた。

(‘_L’) 『はっきり申し上げましょう。ナイトウ殿の剣は軽い。
      いや、剣だけではありません。その全てに魂が込められていないのです』

どれ程厳しく鍛えあげても、人間の肉体には限界がある。
寸劇の中の話ではないのだから『秘められた力が覚醒する』事などありえない。
人は己に許された環境下で、己に許された力を振るうしかないのだ。

己に許された力とは何か?

己と言う存在は何を為す為に生を受けたのか?

そして、何の為に死ぬべきなのか?

内在する自らと語り、己を知り、芯となる想いに誓いを立てる。
それこそが剣に魂を込め、岩をも砕く一撃を産む。
そうフィレンクトは語った。

(‘_L’) 『想う心は力となる。
      己という存在を燃やし尽くす事も躊躇わないと思える程の…ナイトウ殿だけに許された道標。
      人はそれを【理想】と呼びます。
      ナイトウ殿。貴方は何の為に戦い、その剣にどのような想いを込めるのですか?
      それが分からぬ限り…貴方の剣は枯葉が如く軽いままでしょう』

老人の言葉には微塵の遠慮もない。
言い終えるとフィレンクトは背を向けて去っていった。



38: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:39:42.29 ID:EAAp9FqQ0
( ´ω`)『……』

高齢による衰えなどまるで見せない老人のピンとした背を見送りながら、ナイトウは沈むように座り込んだ。
自然と肩が丸くなっているのが自分にも分かる。

言われてみれば、自分は様々な偶然に流されるようにしてここにいるのだ。
ジョルジュやミセリには王女ツンに対する忠誠と言う芯がある。
しぃやフィレンクトにはキュラソー解放。そしてギムレットの安定と言う理想が。
明らかにしないが、ショボンやハインにも決して譲る事は出来ない熱い想いがあるのだろう。
あのヒートですら【愛の為】と言う答えを持っている。
道を違えた親友は今もどこかで理想の実現を目指しているはずで。
今、彼を心配そうに見守る少女も己と戦い、道標を探しているのだ。

ただ、彼一人が何も持っていなかった。
それもその筈。
理想とは、自身の内面と向かい合う時間によって積み重ねられる塔のような物。
そして彼には記憶がない。
ただ生きる事だけを考えていた…と言う意味では獣と同類である。

          ( ^ω^)『僕が君を護るお』

かつて青年は金髪の少女にそう言った。
だが、それは突然心に浮かび上がる光景から逃れる為の言い訳ではなかったのか?
君を護る。
涙を流す者にそう言う事で、心の平穏を得ようとしていたのではないのか?

仮にそうではないとして。
その為に彼は何を為し、何を許されているのか?

答えは何時になっても見つからなかった。



40: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:43:31.94 ID:EAAp9FqQ0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

湖に浮かぶ白鳥を思わせる優雅な都市【王都】デメララ。
このアルキュにおいて最も人々が集まるこの地区の北、
鬱蒼とした森を抜けるととたんにそこは荒れ果てた大地が広がっている。

進むにつれ坂道は高くなり、目を楽しませた青草の代わりに岩肌が目立つようになってくる。
この島の西部を南北に分ける【大地の割れ目】に繋がる岩石地帯である。

それを見て旅人は『あぁ、北部に来たんだなぁ』と、実感するのだ。

ただ、住民の名誉の為に言わせていただければ、北部は寒冷な気候とは言え決して荒廃地ではない。
現在もなお、この時代【天智星】が持ち込んだ農業形式によって少なからず食物は栽培されているし、
ギムレット地区やニイト自治区はどちらかといえば平坦な地形をしている。

つまり、北部と南部を結ぶこのネグローニ地区だけが特殊なだけなのだ。
ただし、この地がアルキュにとって全く生産性の無い土地という訳ではない。
この渇いた大地では流石に稲作は非効率的に過ぎるとして。
猫の額程の土地を開墾して小さな畑を持つ者は多かった。
また、伸び放題で放置されている雑草を羊や山羊に与えている酪農家も多い。

人はどのような環境でも自身の力で切り開く力を持った生き物なのだ。
この荒れ果てた地は、住民や領主の努力次第で幾らでも豊かになり得た筈である。

それをしなかったのは彼らの怠慢と言うべきか。
否。
ネグローニは、戦時下にあるアルキュにとって最も必要とされる【物資】を【生産】していたのだ。



43: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:47:10.64 ID:EAAp9FqQ0
当時、北からの賊を防ぐ目的で建設されたネグローニ城。
正確な円形を為す城壁は、戦時にはその上を馬車が擦れ違えるほど。平時には市が立つほど広く厚い。
アルキュの男達はこの城で戦いを覚え、各地に散っていく。

この街では強い戦士こそが正義である。
そこには民族の違いも主義主張の差も存在しない。
その意味では最も純粋な都市といえよう。

ネグローニの領主もそれを望んでおり、街には優れた鍛冶屋や甲冑屋。
戦士の為の訓練施設や闘技場。就職斡旋所まで存在していたというから驚きだ。
若き日のナイトウやドクオも少なからずこの街の世話になっている。

ただ。
優れた領主が一流の戦士の条件とは言えない様に。
この街の領主も戦士としては超一流だが、領主としては及第点以下の存在であったようだ。

その領主の名をダイオードと言う。
統一王の下で【狂戦士】の異名を受けたほどの男だが、その本質は武人であり、とことん治世には向かなかったと見える。

『一流の戦士は市で代金を払わなくても良い』

『一流の戦士は15歳を越えた娘の初夜権を奪う権利がある』

などと言う法律を気まぐれで発行されては住人も堪ったものではない。

この街は全てが腕の立つ戦士を中心に動いていた。
それが【戦士の街】と呼ばれる由縁である。

そしてこの日もネグローニ城の廊下を早足で駆け、領主の姿を探す男の姿があった。



46: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:51:05.03 ID:EAAp9FqQ0
その青年…いや。その背格好は少年というべきだろう。
ダブついた黒い外套を引きずり、肩を怒らせてパヤパヤと歩いている。
顔つきもまだまだ幼く、頬に残った二本の刀傷にすらもどこか背伸びしている微笑ましさを感じ取れた。

???『領主殿はどちらにおられるよぅ!?』

と近衛の兵を怒鳴りつけるその声もやはり若々しく、威厳の欠片もない。

が。
彼を笑う者はこの城に誰一人としていなかった。
戦場での彼は自身の身の丈の三倍はあろうかと言う長さの槍斧を振るう恐るべき手練れである。
少年が駆けたその後には、桜吹雪の如く敵兵の血が宙に舞う。
その恐るべき手腕からついた異名が【繚乱】。

同時にこのネグローニの政治の全てを身に受ける少年の名をイヨゥと言った。
とは言え、この時彼が肩に担いでいたのは愛用の槍斧ではない。
粗末な木製の立て看板を担いでいる。

一刻ほどの時間をかけて念入りに城中の床を外套の裾で掃除してから、
ようやく彼は宮殿の裏庭で酒宴を開いている目当ての人物を発見した。

(=゚ω゚)ノ『領主!! こんな所にいたのかよぅ!!』

ぷりぷりと怒りながら件の看板を男の前に突き立てる。
それを見て領主と呼ばれた男は不思議そうな顔で少年を見上げた。
いや。
実際にそのような表情をしたのかは定かではない。
何故なら、その男は深いフードを被り顔は仮面で覆われていたからである。



47: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:55:45.79 ID:EAAp9FqQ0
/ ゚、。 /『…これが何か?』

仮面の口元に空いた穴から器用に酒を流し込む。
この男。
【狂戦士】ダイオードが、この仮面を外す事は絶対に無い。
かつて戦場で負った火傷の跡を人目に晒す事を極端に嫌っているのだ。
故に食事も常に一人であったし、酒宴の席でもただ酒を飲むだけで肴を口にする事は無い。
房中で女を抱く時でも仮面を外さなかったと言う程の徹底ぶりである。

(=゚ω゚)ノ『これが何か?…じゃないよぅ!!』

平然とした様相のダイオードに食って掛かる少年。
その看板には、

『領民は一流の戦士から酒代を取り立てる事を禁止する』

と書かれていた。
これではネグローニ領民の生活を預かる者としては堪ったものではない。

/ ゚、。 /『…駄目か? 城内での酒代の支払いが溜まっている。
      財政回復には素晴らしい案だと思ったのだがな』

(=゚ω゚)ノ『当たり前だよぅ!! こんな法律が罷り通ったら半年もしないうちにネグローニは滅びちゃうよぅ』

このような悪法の前例を認めてしまったら市民は一人残らず城を逃げ出してしまうだろう。
そうなれば、酒どころの問題ではない。
食料や武具甲冑の類まで入手困難になるのは目に見えている。
どうしてこの男はこんな簡単な事が分からないのか?
イヨゥは思わず心の中で地団駄踏むのであった。



49: ◆COOK.INu.. :2007/11/25(日) 23:59:32.33 ID:EAAp9FqQ0
( ´ー`)『まぁまぁ。イヨゥも少し落ち着くーよ』

二人の間に割り込んできたのは酒壺を抱えた男である。
名をシラネーヨ。
でっぷりと太った腹を持つ彼は武人ではない。
この城で唯一の【知識人】である。

が、その彼が知識人らしさを発揮した事など一度としてない。
できる事と言えば領主ダイオードの横に張り付きご機嫌取りをする事だけである。
言うなれば取るに足らない小人。
いや、権力を持った小人こそは恐るべき存在と考えるべきであろう。
イヨゥはこの男の垂れ下がった顎を見るのが吐き気を及ぼす程に嫌いだった。

(=゚ω゚)ノ『黙れよぅ!! 僕は領主と話をしてるんだよぅ!!』

( ´ー`)『領主様も城の為を思っての行動だーよ。ここはネーヨの顔に免じて…』

(=゚ω゚)ノ『その脂ぎった顔の何に免じるって言うんだよぅ!!』

イヨゥの怒りは収まらない。
そもそも、領民が豊かになれば市に新たな武具だけでなく優れた農具なども並ぶ事になる。
市が栄えれば人が集まり、人手が増えれば荒れた土地の開墾にも着手できる。
土地が開ければ自然と税も多く徴収できる。
それを使って痛みが目立つ騎士団の甲冑を新調する事も出来るだろうし、
いずれは城壁の修理も可能になるだろう。

そんな事も分からず何が知識人か。
どうせ件の悪法の考案にもこの奸臣が一枚噛んでいるのだ。
イヨゥはこの豚のような男を切り殺したい気持ちを必死に押さえ込む。



50: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:02:10.54 ID:b0DXonZS0
/ ゚、。 /『…ふむ。イヨゥがそこまで言うのだ。この法には致命的な欠陥があるのだろう。
      法の施行は中止とする。それで良いな?』

(=゚ω゚)ノ『……』

冗談ではない。
法の決定とはもっと慎重に行なうべきだ。
夕食の献立と同じ感覚で簡単に扱われては、領主自身の威厳や領民からの信用に関わる。
が。

/ ゚、。 /『…よいな?』

とまでに念を押されては、臣下の者として引き下がらない訳にはいかない。
イヨゥは胃がキリキリと痛むのを感じた。

(=゚ω゚)ノ『……領主様の寛大な処置に住民はこぞって喜びの声をあげると思うよぅ』

精一杯の皮肉を込めて領主にそう答えると、
少年は手にした立て看板を奸臣に押し付け頭を下げる。
そのままこの不愉快極まりない場を立ち去ろうとして。

/ ゚、。 /『ところでイヨゥ。あの男はどうなった?』

背後から声をかけられた少年はピタリと動きを止めた。



51: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:04:51.89 ID:b0DXonZS0
この二人の間で『あの男』と言えば、一人しか存在しない。
並の人間であれば苦痛から意識を失うほどの傷を負いながらも、
短槍を杖代わりにバーボン領から逃走してきた陰鬱な男。

普通であれば出血死してもおかしくない状態であったが、
不屈の精神力で死地を脱し今はイヨゥの邸宅で看護をうけていると言う。

死をも退ける精神力。
ダイオードはそのような戦士が好きであり、その男が仕官してくるのを今か今かと待ち望んでいた。

(=゚ω゚)ノ『……何の事だかさっぱりだよぅ』

などと言う誤魔化しは通用しまい。
だから少年は、

(=゚ω゚)ノ『順調に回復しているよぅ。最近じゃ書庫に篭って、どうやら農耕学に興味があるよぅだよぅ』

と答える。

/ ゚、。 /『農耕学? まさかその男は文官なのか?』

(=゚ω゚)ノ『分からないよぅ。でも、とても勉強熱心で僕なんかよりずっと飲み込みが早いよぅ』

イヨゥは嘘は言っていない。
その男は、看護役を買って出たイヨゥの妹の目を盗んでは槍術の鍛錬に励んでいる。
が、妹の監視の目がある時は書庫に篭って政治学や戦闘学などの書物を漁るようにして読んでいた。



52: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:08:15.60 ID:b0DXonZS0
/ ゚、。 /『そうか…文官であったのか…』

しかし、それはダイオードの興味を逸らせるに十分な効果を発揮した。
この男は戦士にしか興味を持たない。
文官などと言う存在は毛嫌いしていると言って良いほどだった。

/ ゚、。 /『ご苦労だったな。下がってよいぞ』

まるで野良犬でも追い払うかのように手を振る領主に一礼して、
今度こそイヨゥは裏庭を後にする。

(;=゚ω゚)ノ。oO(危なかったよぅ)

廊下の角を曲がり、領主から見えない所まで来てから少年はホッと胸を撫で下ろした。
男が語った大いなる野望。
この島に生きる者全ての恨みを身に受けてでも…1000年の平和の為に戦ってみせる。
その言葉に少年は心底惚れぬいた。
この男は必ずやネグローニを支える人物になる。
この男の横に並んで共に戦場を駆けたい。

そして、その為にもこの堕落した領主の目を男から逸らしておきたかった。

(=゚ω゚)ノ『十年…いや、五年あれば…』

ネグローニは見違えるような繁栄を見せるだろう。
その時こそ。
全ての戦乱を終わらせる為の戦いが始まるのだ。

そう考えると自然と頬が緩んでくる。
その陰気な男と天下を語る為の僅かな時間を失う事すら惜しくて、イヨゥは自身の邸宅に足を急がせた。



54: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:10:20.14 ID:b0DXonZS0
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【白衣白面】と【クリテロ】最期の地として今も栄える都市キュラソー。
そこはちょうどC形の湖の中央に建設された城である。
湖の内側に沿うようにして外壁が建てられ、
もし湖から攻め込まれた際には汲み上げた水を流し落とす仕掛けまであったと言う。

城門に続く陸地の左右には軍船が堂々たる巨影を湖に浮かべ、
攻略に手間取る侵入者に矢の雨を降らせる砦の役目を果たしていた。

お気付きの方も多いだろう。
そう。
この城は【ビッグブリッヂ】こそ無い物の【王都】デメララの防衛設備に酷似しているのだ。

何故ならば。デメララは統一王ヒロユキがアルキュを統一した後、
思い出の地キュラソーを模して改建した都市だからである。
言うなればこの城は難攻不落を謳われるデメララのプロトタイプとも考えられるのだ。

加えて冬将軍と言う強大な敵が攻め手を苦しめる。
一同がギムレットに入って初めて本格的な城攻め。
本格的な大戦(おおいくさ)である。

が。
このキュラソーを陥とさない限り、王都解放どころか下手をすれば冬を越す事すら危ういのである。
ギムレットの冬は予想以上に厳しく、女子供の中には体調の不良を訴える者も日に日に増えていた。
同盟関係にある【キュラソー解放戦線】のアジトも、結局は民兵を中心とした義勇軍であり決して裕福とはいえない。
全軍は勿論、女子供だけでも引き受ける事すら不可能だろう。

負けられない戦い。
それを思うと、末端の兵士に到るまで自然と表情が引き締まるのであった。



55: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:13:21.26 ID:b0DXonZS0
(´・ω・`)『は〜るばる来たぜキュラソー♪』

そんな中。
攻め手の陣中で音程はずれな歌声を披露している者がいた。
【天智星】の異名を持つ男。天才戦略家と名高いロクデナシ。ショボンである。

彼らの陣容は、中央に【急先鋒】ジョルジュ率いる騎兵【薔薇の騎士団】400。

右翼に【紅飛燕】しぃ率いる騎兵【キュラソー解放戦線・騎兵隊】300。
左翼には【白鷲】フィレンクトが自身の配下の騎兵200と共に控えていた。

主将ツンはショボン率いる【黄天弓兵団】400と共に後陣にて援護にあたる。

更に【赤い悪魔】ヒートを先頭とした歩兵1500。
【天翔ける給士】ハインとナイトウは共に50の歩兵を預かり遊撃隊としての責務を任されていた。

騎兵1300。歩兵1600。
総勢3000名にも満たない彼らを待ち受ける城の内部には、
やはり3000の賊が身を潜めているとの情報が入ってきていた。

そもそも攻城戦は防壁を持つ守勢がはるかに有利である。
よって攻め手側は自然と数による力押しが基本となる。
しかも、目の前に聳えるは守勢の十倍もの数を誇る三民族連合を相手に一年間耐え抜いた実績を持つ、
あのキュラソーである。

連合軍側の不利は目に見えて明らかであった。



57: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:15:44.67 ID:b0DXonZS0
加えて、賊どもを束ねる自称領主が只者ではない。
その名をエクストと言い、外套の襟を気障に立てた優男である。
が、只の役者かぶれではない。

元々はリーマンで若くして百人長にまでのし上がった男であり、
問題を起こして軍を追放されてからはニイトの闇市で仕入れた鉄をメンヘルに流して財を得ていた。

ギムレットの山賊には、このような形でメンヘルと繋がりを持つ者が少なくない。
メンヘルもリーマン支配下にある北部の混乱を狙って彼らを積極的に支援している。
彼はこの先駆者とも言える存在だった。

更にこの男は、『統一王から直々にキュラソーを預かった』と公言していたからタチが悪い。
死人に口なしとばかりに勝手に領主を名乗っても、混乱の極地にあるギムレットでは咎められる者など皆無である。

腕が立つ。
頭も回る。
にもかかわらずエクストが賊にまで身を落とした理由。
単に彼の凶悪性による物である。

村々を襲う時、彼はまず男達を殺さぬ程度に痛めつけた。
そして、動けない男達の前で彼らの妻。娘。時には息子を犯すのである。
この狂人の首からは、その時の戦利品。
犯しつつ噛み千切った被害者の耳が数珠繋ぎにされ飾られている。

残虐と知性の混血児。
それがエクストと言う男の本質だった。



58: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:17:11.03 ID:b0DXonZS0
    〜キュラソー城〜

【天智星】ショボンが軍議の前にのんびりした歌声を披露していた頃。
城壁の上から攻め手を見下ろす者達があった。

プー゚)フ『こりゃ、また…随分と集めやがったな』

呟き、足元の甕から柄杓で酒を汲み取ると、そこから直に飲み干す。
唇から零れて顎をつたい落ちるそれを、側にいた女が震える手で拭き取った。

(A`ハ´)『そんな悠長な事いってる場合じゃないアルよ!!』

(B`ハ´)『そうアル!! その通りアル!!』

背後で騒ぎ立てる賊将達を一睨みで黙らせる。
が、彼らが慌てるのも無理はない。
将を名乗っていても、彼らとてこれ程の大戦(おおいくさ)は未経験。
彼らに出来る事と言えば、無抵抗の村人を殺す事くらいな物だった。

プー゚)フ『だからよ。俺達が負ける道理は無い訳よ。さっきも言っただろ』

(A`ハ´)『……難しくてよく分からなかったアル』

その言葉にエクストは大きな溜息をつく。

プー゚)フ『…ったく。馬鹿は不自由だな。もう一回説明してやるから良く聞けよ』

そう前置きしてからエクストは心底嫌そうに口を開いた。



60: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:19:11.68 ID:b0DXonZS0
プー゚)フ『あのな。奴らは数が多い。まず、それが欠点なんだよ』

(B`ハ´)『…そこですでに理解不能アル』

プー゚)フ『……』

簡単な理屈である。
城攻めとは基本的に長期戦を覚悟して行う物だ。
本国からの物資支援を受けられた三民族連合の時と違って、
彼らに長期を戦い抜くだけの兵糧があるとは思えなかった。

プー゚)フ『つまり、だ。俺達はいつも通りに籠城してりゃいいんだよ。
     うまくいけば北風さんが本格的に吹く前に勝手に自滅してくれるぜ』

(A`ハ´)『しかし、無理矢理力押ししてくる可能性もあるアル。
      その時はどうするアルか?』

プー゚)フ『……そうだな』

言ってエクストは再び敵陣に目をやった。
彼はこの城の攻略には3つのパターンがあると考えている。
一つが湖からの侵入。
一つが軍船を攻略の後、正門突破。
最後が軍船を無視・もしくは隊を分けて攻撃。
以上である。

そして、今回彼は攻め手が最後のパターン。
つまり、隊を分けて攻撃してくる物と読んでいた。



62: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:21:30.94 ID:b0DXonZS0
(A`ハ´)『その根拠はどこにあるアル?』

プー゚)フ『見ろよ』

眼下に広がる敵陣は、中央に攻撃に秀でた【薔薇の騎士団】。
左右にキュラソーを知り尽くした【キュラソー解放戦線】。
中央背後には歩兵部隊が控えている。

プー゚)フ『こりゃ、天才【天智星】ってのも只の噂みてぇだな。
     左右の騎兵が船を抑えてる間に中央の騎兵が正門を攻撃。
     歩兵と弓兵がそれを支援する。馬鹿でも分かる単純な陣構えだぜ』

言って嘲笑する姿を見て、ようやく賊将達も安堵したらしい。
正門を堅く守り、左右の軍船はのらくらと攻め手をかわしながら矢の雨を降らせる。
つまりはいつもと同じ事をするだけなのだ。
単純が故に間違いが無い。
堅実な策と言えた。

プー゚)フ『しかも、歩兵を指揮するのはあの憎き【赤髪鬼】だそうだ。
     いい機会だ。捕らえてアイツに殺された仲間の分まで犯してやれ。俺が許す』

その言葉に賊将は下卑た笑いを浮かべる。

【赤髪鬼】とは【天智星】ショボンの副給士、ヒートに対して彼らがつけた異名である。
ハインとナイトウが『勝負』と銘打って互いの足を引っ張り合っているのをよそ目に、
ヒートは数多くの賊将を討ち取ってきた。
その彼女の燃えるように赤い癖っ毛からついた異名である。

ただし、彼女本人はあくまでも【燃え叫ぶ猫耳給士】を自称しており、
もし【赤髪鬼】などという異名をつけられていると知ったら『可愛くない』と猛反対した事だろう。



64: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:25:14.18 ID:b0DXonZS0
(A`ハ´)『我々の勝利が間違いないのは理解したアル。
      でも…逃がしたくはないアルね』

プー゚)フ『あぁ? 逃げたっていいじゃねーか。何の問題もねぇよ』

もし攻め手がキュラソーを陥落させる事が出来ず撤退した場合。
ほぼ100%の確率で冬を越す事は出来ないだろう。
小煩い【解放戦線】は生き延びるやも知れないが、彼らだけでキュラソーを落とす事は不可能である。
よって何もせずに篭城していれば勝利は自然と転がり込んでくる。
エクストはそう考えていた。

(A`ハ´)『それでは困るアル。それだと懸賞金が手に入らないアル』

プー゚)フ『懸賞金?』

全くの初耳だ。問い質す彼に賊将が説明する。

プー゚)フ『【天智星】と【急先鋒】の身柄には生死問わず銀を大甕一杯。
     王女ツンを生かして捕らえた者には大甕五杯の銀を授ける…か』

【評議会】が出したと思しき懸賞金の情報。
それは確かに魅力的な情報だった。
元々彼はこのような辺境の地で生涯を終えようとは思っていない。
王女ツンの捕縛。
それだけの手柄と軍資金があれば、中央に返り咲く事も十分に可能だろう。
ならば、戦況を見て討ち出でるのも悪くない話かもしれない。

プー゚)フ『ま。どっちにしても【赤髪鬼】は共同便所だな。懸賞金無しみてぇだし』

その呟きに、賊将達は愉快そうな笑い声をあげるのだった。



67: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:29:33.05 ID:b0DXonZS0
    〜連合軍陣地〜

ノパ听)『ぶえっくしょぉん!! っと来らぁ!!』

何の前触れも無く爆発した、下町の親父を髣髴とさせるくしゃみに一同の視線が集まる。
それに気付いた赤い給士は、彼女の髪と同じ色に頬を染めた。

ノハ*゚听)『ななな、何だろうッ!! どこかの素敵な御姉様が心の中で噂してるのかなぁぁぁぁぁぁっ!?』

从 ゚∀从『それは無い。断言する』

ノハ*゚听)。oO(KOOLな御姉様も素敵…)

うっとりした表情でヒートが何を考えているのか察したのだろう。
ハインはわざとらしく視線を逸らし、後頭部をガシガシと掻いた。
嘘をつけない。物事を誤魔化せない。それは彼女の欠点でもあり美点でもあるだろう。
ちなみに。自称【燃え叫ぶ猫耳給士】は確かに噂の的である。それは彼女の希望とは全く外れてはいたが。

(‘_L’) 『そのような裾の短い服を着ているからくしゃみなどするのです。
      大体、その様な服は女性の嗜みとしてですね…』

ノハ;゚听)『そ、そんな!! 第一これは御姉様と同じサイズの物でして…決して短い訳では…』

姿絵によれば、ヒートの身長は現代成年男子の平均並だったらしい。
当然ハインとは随分な差があるのだから、同じサイズの服を着れば裾が短くなるのは当然だ。
今で言うモデル美人と言うところなのだが、

(‘_L’) 『問答無用』

師による静かな一言で彼女はしゅんとしょげてしまった。



68: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:31:19.60 ID:b0DXonZS0
(‘_L’) 『それにしても…このような単純な陣構えで本当に勝てるのでしょうか?』

(´・ω・`)『うん。勝てる。間違いなくね』

今回の攻城戦は全てショボンが指揮を取っている。
最初こそ天才と呼ばれる才知に期待していたフィレンクトであったが、
そのショボンが選んだ策が力押しによる物と知って少々不安げであった。

(‘_L’) 。oO(ショボン殿はキュラソーの守りを甘く見ているのではないか?)

数年に渡ってこの城を幾度と無く攻めてきた。
キュラソーの事ならば誰よりも熟知している自負がある。
それが彼の心に影を落とした。
が、彼とて騎士の中の騎士とまで呼ばれた男である。
もし、ショボンの策に不備があるならば自身が穴埋めすれば良いではないか。
そう思いなおすと、影を追い払うかのように会話の内容を変える。

(‘_L’) 『ところで。評議会は王女に懸賞金をかけたそうですな』

評議会の使者たる【鉄壁】ヒッキーと一戦交えたショボンやジョルジュはやむを得ないとして。
【アルキュの至宝】たる王女に懸賞金を賭けるとは何事か。
これではまるで犯罪者。
王と評議会の立場が完全に入れ替わってしまっている。
フィレンクトの怒りももっともと言えた。



72: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:33:50.28 ID:b0DXonZS0
(´・ω・`)『知ってるよ』

対するショボンは冷静な物である。
いつもの様に茶を啜り、その渋みの奥に隠れた甘味に堪らないと言った表情で息を吐く。

(‘_L’) 『おぉ、ご存知でしたか』

それならば話は早い。
懸賞金に目が眩んだ賊どもが王女を狙ってくる可能性は高い。
ショボン率いる【黄天弓兵団】が警護に当たるとは言え、もう少し護衛の数を増やすべきではないのか。
フィレンクトはそう進言するつもりであった。

が。
天才…いや。変人と呼ばれた男の返答は彼の想像を斜め上に行く物であったのだ。

\(´・ω・`)/『だって。その情報を流したのは僕だからね』

(‘_L’) 『はぇ?』

ミセ;゚ー゚)リ『ひぇ?』

ξ;゚听)ξ『ふぇ?』

(;゚∀゚)『へぇ?』

ノハ;゚听)『ほぇ?』

この時。
確かに空気が凍りついた。



74: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:36:44.04 ID:b0DXonZS0
(‘_L’) 『…どう言うおつもりですかな?』

怒りで眉をヒクヒクと動かしながらショボンに詰め寄る。
見る者が見れば、彼の全身を包む青白い炎を感じ取れただろう。

(´・ω・`)『言葉の通りだよ。あ、ハインおかわり』

从 ゚∀从『おうよ』

ハインの淹れた茶を飲む時。主の為に茶を注ぐ時。
この二人は本当に幸せそうな顔をする。

(‘_L’) 『あ、ハインおかわり。ではありません!!』

が、この時ばかりはフィレンクトに愛用の碗を奪われ、ショボンは心から残念そうな顔をした。
しかしそれでも、彼は【白鷲】が帯剣していなかった幸運を喜ぶべきであっただろう。

(‘_L’) 『何を考えているのです!! まさか、陛下のお身体を囮にしようなどと考えているのではないでしょうな!?』

(´・ω・`)『うん、その手もあったね』

完全に遊んでいる。
怒りのあまりショボンに掴みかかろうとするフィレンクトを、必死でジョルジュが止めに入った。

(;゚∀゚)『おい馬鹿!! ちゃんと説明しろ!! 殺されるぞ!!』

熊の様な図体で目に涙を浮かべた義兄の姿に満足したのか、
ショボンは『馬鹿じゃないよー』などと言いながら立ち上がる。

(´・ω・`)『うん、分かった。それじゃ、今回の作戦を説明しようか』



80: ◆COOK.INu.. :2007/11/26(月) 00:39:43.76 ID:b0DXonZS0
ミセ*゚ー゚)リ『……』

【天智星】ショボンが全ての説明を終えた時、一同はそのあまりの内容に声すら失くしていた。
大胆不敵。
いや。綿密に計画・準備されたその策は、ただただ敵軍を欺き小馬鹿にする為に練り上げられた物。
そして、キュラソーに巣食う賊どもを根絶やしにする物。
その全てが、ショボンと言う人間の表と裏を如実に語っていた。

(‘_L’) 『…信じられません。これは戦術などと言う類の物ではない。騙まし討ち…いや、ペテンの類です』

ようやっと、呆れたようにフィレンクトが声を漏らす。
騎士の中の騎士。正攻法を好む老人には思いもよらぬ奇策だった。
主の背後では黒衣の給士が嬉しそうに八重歯を見せて笑っている。

(´・ω・`)『僕は戦術家じゃないからね。綺麗な作戦は戦術の専門家の為に取っておくさ。
      それに、敵軍もまさか王の軍隊がこんなふざけた作戦を立ててくるとは思わないと思うよ。
      さぁ、どうする王女。僕の作戦で行くか…別の作戦で行くか。
      って言っても今から他の策なんて準備できないけどね』

確かにロクな作戦ではない。
が、自軍の被害を最小限に抑える為にも有効的な作戦であると言えるだろう。
そう判断したツンは、力強く首を縦に振る。

(´・ω・`)『分かってくれて助かるよ。さぁ、先陣を開くのは君だよ、ヒート。
      精々派手にやってきておくれ』

その一言に、猫を模した戦装束に身を包んだヒートが頷いた。
そして、今ここに。
悲しみの地キュラソーを奪い返すための戦いが幕を開ける。



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