( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:29:31.64 ID:stEQpnSV0


     登場人物一覧 ・ヴィップ軍

( ^ω^) 名=ブーン 異名=??? 民=??? 
       武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長
       現在地=白面の村 状況=訓練中
       特徴=銀髪の神の青年。死んだと思われていたが生存。陰でツンを支える。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン
      武器=禁鞭 階級=アルキュ王
      現在地=ギムレット 状況=???。
      特徴=金髪の少女。

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン
      武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=医学・栄養学などに精通。髪飾りを集めるのが趣味らしい。

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン
     武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=熊を思わせる大男。愛用の抱き枕が無いと眠れない。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:30:24.25 ID:stEQpnSV0
(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン
      武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=白眉の青年。ジョルジュとは義兄弟。馬鹿。

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手・心無き暗殺人形) 民=???
     武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=黒髪が美しい黒衣の給士。料理以外の仕事は完璧

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 民=リーマン
     武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=癖が強い赤髪を持つ赤い給士。料理だけなら完璧。

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙) 民=リーマン
     武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=灰色の髪と神秘的な瞳を持つ、無口な少女。

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン
      武器=長剣 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=隻腕の老将。白髪を丁寧に後頭部に流している。ジョルジュとヒートの師にあたる存在。

(,,^Д^) 名=プギャー 異名=??? 民=???
     武器=??? 階級=???
     現在地=白面の村 状況=???



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:31:55.81 ID:stEQpnSV0
            ・リーマン族

<丶`∀´> 名=ニダー 異名=翼持つ蛇 民=リーマン
      武器=??? 階級=評議長
      現在地=デメララ 状況=???
      特徴=黒髪を後頭部で束ねた痩せた男。評議会を牛耳る。

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=狐・人形使い(七英雄) 民=???
      武器=??? 階級=評議会情報部
      現在地=??? 状況=???
      特徴=派手派手しい外套に身を包んだ隠密。阿片の常習者。

(-_-)  名=ヒッキー 異名=鉄壁 民=リーマン
     武器=鉄鎚 階級=千騎将。鉄柱騎士団団長
     現在地=デメララ 状況=???
     特徴=重厚な鎧に身を包んだ将。ジョルジュとは犬猿の仲。

??? 名=シャキン 異名=常勝将(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=バーボン領主 元帥

??? 名=スカルチノフ 異名=全知全能(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=ニイト自治区監査


??? 名=ヒロユキ 異名=統一王 民=リーマン
    武器=鉄鞭 階級=先王



7 名前: >>6 色々と無かった事にしてください 投稿日: 2008/05/22(木) 04:35:02.31 ID:stEQpnSV0
            ・リーマン族(ネグローニ城)

/ ゚、。 / 名=ダイオード 異名=狂戦士 民=???
      武器=??? 階級=ネグローニ領主
      現在地=ネグローニ 状況=心を入れ替えたかのように国政に精を出す。
      特徴=仮面とフードに身を包んだ男。

(=゚ω゚)ノ 名=イヨゥ 異名=繚乱 民=???
     武器=斧槍 階級=黒色槍騎兵団長
     現在地=ネグローニ 状況=???
     特徴=頬に傷を持つ小柄な戦士。少年と間違えられても不思議は無い。

( ´ー`) 名=シラネーヨ 異名=??? 民=???
     武器=??? 階級=領主補佐
     現在地=ネグローニ 状況=???
     特徴=弛んだ二重顎の文官。自称知識人。

??? 名=??? 異名=??? 民=???
    特徴=イヨゥの妹



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:36:42.12 ID:stEQpnSV0
            ・メンヘル族

(´∀`) 名=モナー 異名=預言者(七英雄) 民=メンヘル
     武器=??? 階級=指導者
     現在地=モスコー 状況=???
     特徴=唯一神マタヨシの声を聞くとされる人物で、アルキュにおけるマタヨシ教団の頂点に立つ男。

ミ,,゚Д゚彡 名=フッサール 異名=天使の塵・砂漠の涙(七英雄) 民=メンヘル
      武器=天星十字槍 階級=司祭。神聖騎士団団長(十二神将)
      現在地=モスコー 状況=???
      特徴=長髪長髭の老将。

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル
       武器=手斧・兄者玉 階級=???(十二神将)
       現在地=??? 状況=???
       特徴=変態。武器である兄者玉は108式まであるが、大半は夢と浪漫が詰まっている。

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル
       武器=手斧・弟者砲 階級=???(十二神将)
       現在地=??? 状況=??? 
       特徴=外見こそ兄者とそっくりだが、常識人。腕は一歩劣るか?



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:37:28.38 ID:stEQpnSV0
??? 名=??? 異名=不敗の魔術師 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)

??? 名=??? 異名=光明の巫女 民=メンヘル
    武器=??? 階級=巫女(十二神将)

??? 名=??? 異名=羅王 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)

??? 名=??? 異名=神の巨人 民=メンヘル
    武器=??? 階級=???(十二神将)



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:37:43.66 ID:stEQpnSV0
            ・その他

('A`) 名=ドクオ 異名=無し 民=モテナイ
    武器=短槍 階級=元・兵奴
    現在地=??? 状況=ナイトウを裏切り行方不明。どうやらネグローニにいるようだ。
    特徴=陰気寡黙な男。口は非常に悪い。

??? 名=モララー 異名=勝利の剣(七英雄) 民=ニイト
    武器=??? 階級=元・ニイト最高指導者

??? 名=クー 異名=無限陣(三華仙) 民=???
    武器=??? 階級=ニイト自治区監査代理
    現在地=ニイト 状況=???
    特徴=苦しむ同胞を救う為、人道を外れる。闇市の支配者とされる人物。

??? 名=??? 異名=九紋竜(三華仙) 民=???
    武器=漆黒の長剣 階級=浪士
    現在地=??? 状況=???
    特徴=左半身に九匹の龍を彫りこんだ【最強剣士】

??? 名=??? 異名=??? 民=???
    特徴=ナイトウの夢に現れる黒髪の少女



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:41:11.60 ID:stEQpnSV0
〜超手抜き地形説明・お前はこの3ヶ月何をやっていたんだ?編〜

             Aギムレット高地
@キール山脈     
                         Bニイト自治区

=====大地の割れ目==========     
                               Cネグローニ地区
         Eバーボン地区

              Fローハイド草原      Dデメララ地区

Gモスコー地区
   
                 Hシーブリーズ地区

※島の高度は、@→A→B→C…と番号が大きくなるにつれて低くなる。
人々の暮らしは温暖なD〜Fに集中している。
また、南から西南に抜ける風の影響でGHは北部とは比較にならないほど気温が高くなっている。

大地の割れ目を流れるのはマティーニ河。
そこから枝分かれしてEとFの境目を流れるのがバーボン河。
バーボン河は更にGとHの境を抜けて海に出る。

@…どこにも支配されていない。
ACDE…リーマン支配下。ただしAは厳しい気候の為か半ば放置されている。
B…ニイトの自治が認められているが、実質的にはリーマンの支配下。
F…中立帯だが、リーマンの力が強い。
G…メンヘル支配下
H…中立帯だが、この地区を占拠する【海の民】とメンヘルが同盟関係にあり、メンヘルの力が強い。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:42:47.64 ID:stEQpnSV0


     第15章 天下百景


一筋の明かりすら差し込まぬ部屋の中。
その青年は立っていた。
そうするのが当たり前だと言うように、
瞳は軽く閉じられ両の手には『拐』と呼ばれる特殊な武器を持っている。

『拐』とは現代で言うところの大型のトンファーである。
その先端には鉤爪を思わせる鋭い刃がつけられ、闇の中鈍く輝いていた。

???『さて。そろそろ行くぜ』

暗闇に声が響く。
が、その声の持ち主が一つ所に留まる事はない。
気配を断ち。音も無く移動しながら青年の隙を窺っていた。

( −ω−)『……』

意識を集中する。
見るべきは一点に非ず。
全ての空間内に意識を蜘蛛の巣が如く張り巡らせる。
しかし、それはただ意識を散漫にしている訳ではない。
広がった意識は触れる者全てを捕らえる恐ろしき罠。
剣気の結界とも言える代物だった。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:46:13.76 ID:stEQpnSV0
暗闇の中。
見えずとも見える。
聴こえずとも聴こえる。
息遣いさえも完全に殺して。滲むように背後から接近する姿が手に取るように分かる。

やがて。

???『……』

( −ω−)『……』

動いた。
一瞬で距離を縮めると、手にした小太刀を青年の頭に振り下ろす。
それを左手にした拐で受け止めると、右手の拐をグルリと回転させ
振り向きざま影の側頭部に叩き込む。

???『ちっ』

舌打ちと共に後退した影を追跡。
足払いこそ軽い跳躍で避わされたが、同時に放つ大上段から叩きつけるような拐の一撃までは避けきれぬ。

ギンッ!!

手が痺れる様に確かな衝撃と金属音。
とらえる事こそ出来なかったが、その一撃は襲撃者を床に倒れ込ませるには十分な物であった。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:48:03.57 ID:stEQpnSV0
???『だぁぁぁぁっ!! ナイトウ!! ストップ!! ストップッ!!』

叫ぶのも無視して拐の刃をその首に突き立てる。

???『……』

( ^ω^)『……』

いや。
その刃は突きたてられる寸前。
皮一枚の距離でピタリと止められていた。
恐るべき芸当。
だが、剣気を網の如く練りあげるまでに熟練した彼にとっては当然の範疇。
それを証明するかのように、この闇の中で青年の眼は生唾を飲み込んだ襲撃者の喉が小さく動くのを捉えていた。

???『それまで』

別の男の声の直後、その部屋の全ての窓が開放される。

飛び込んできたのは高地独特の冷たい空気と春の日差し。
風は部屋に満ちていた闘争の空気を一瞬で洗い流し、光は白塗りの壁と板張りの床を皆の眼に曝け出す。

その光に暗闇に慣れていた眼を刺激されて。

( ^ω^)『おっ?』

青年は軽く顔を顰めた。


(´・ω・`)『うん、まさかハイン相手にここまでやるとは思わなかったよ。強くなったね』



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:50:13.86 ID:stEQpnSV0
(,,^Д^)『プギャーwwwやるじゃねーかwww』

(兵゚∀゚)『さすが隊長!! ただの馬鹿じゃなかったんですね!!』

( *^ω^)『おっおっおっ。照れるお』

それまで壁際で勝負を見守っていた青年の部下が一斉にはやし立てる。
ブーンは口元を綻ばせながら手にした拐を腰に戻した。
だが、面白くないのは本来彼を上回る実力を持ちながら軽く捻りあげられてしまった襲撃者の方だ。

从#゚∀从『ナイトウ、テメェ!! ストップって言ったじゃねぇかよ!!』

床にへたり込んだ黒い給士服の襲撃者、ハインが声をあげる。
その額にはびっしりと脂汗が浮かんでいた。

( ^ω^)『おっおっおっ。今の僕はナイトウじゃありませんお。ブーンですお』

从#゚∀从『屁理屈だっ!!』

こめかみに青筋をヒクつかせながらの抗議も、大股開きで尻餅をついている姿では効果がない。
それどころか

(´・ω・`)『ハイン。見えてるよ』

(;^ω^)『ハインさん、抗議の前に隠してくださいお』

(,,^Д^)『プギャーwww毛w糸wのwパwンwツwwwねーよwwwサーセンwww』

それで、自身のあられもない姿にようやく気がつくと言う有様だ。
慌てて裾を押さえ込んだ彼女は赤面したまま黙り込んでしまった。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:53:40.29 ID:stEQpnSV0
(´・ω・`)『さてと』

しばらくしてから。
板張りの床に直に座り込んでいたショボンが腰を上げる。
それを合図とするように、見物の兵士達もゾロゾロと道場を後にしていった。

(´・ω・`)『ナイト…ブーン君の技量も確かめられた。あとは【鍵】の確認だけなんだけど…』

話しかけられたハインはエプロンドレスの裾を押さえながら動かない。
八重歯が刺さるほど固く唇を噛みしめ、瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。

もし、これが【赤髪鬼】ヒートであれば高笑いをしながら男どもを殴り飛ばしただろう。
しかし、ハインにはそれが出来ない。
主の命とあれば男湯にも入り込むし、男勝りの性格は時として粗暴にも思われる。
が、実際の彼女は茶器を愛し、花を愛でる。
女性将官の多いヴィップの中でも人一倍女らしい一面を持っていた。

(;^ω^)『と、とにかく』

ニヤケ笑いを浮かべるプギャーと、己が従者の顔を覗き込もうとするショボンの背を押して
石造りの訓練舎を追い出す。

(;^ω^)『あとは僕とハインさんだけで大丈夫ですお!!
       御二人はどこかで暇でも潰しててくださいお!!』

そう宣言すると、青年は勢い良く引き戸を閉め内部からしっかりと鍵をかけた。

(;^ω^)『…危なかったお』

思わずそう一人語ちる。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:55:51.34 ID:stEQpnSV0
後世になって。
この青年の持つ能力の代表として、『天性の瞬歩使い』という点が必ずクローズアップされている。
しかし著者はそれよりむしろ、『獣並みの危機感知能力』について票を挙げたい。
この時もまた、彼の本能がこれ以上給士を刺激するのは危険だと告げていた。

(;^ω^)『全く…。もしハインさんがキレだしたら誰が止めると思ってるんだお』

ブツブツ言いながら板張りの道場の隅に移動した。
そこには室内を暖める為のストーブが置かれ、上では鉄鍋の中グラグラと湯が沸き立っている。
そして、その横には当然のように給士が持ち込んだ茶道具が並んでいた。

( ^ω^)『さて、と』

軽い気合を入れながら腰を下ろし、ポットに茶葉を一つまみほど入れる。
本来であれば気合など入れるほどの行動ではないのだが、何せ飲み相手は『あの』ハインだ。
茶を愛する彼女におかしな物を出したりなどしたら、どんなに機嫌が良い時でも瞬時に怒らせる結果になるのだし、
ただでさえ静かに激昂している今の彼女に変な茶を飲ませたりしたら火に臭水を注ぐような物だ。
慎重かつ真剣にやらねばなるまい。

鉄鍋から柄杓で沸騰した湯をすくいとり、高い位置から一息にポットに注ぎ込む。
一見乱暴な風に見えるが、これは正しい。
まず、高い位置から湯を注ぐのはそれによって温度を下げる為である。
沸騰した状態の湯を注いだりなどしたら一瞬で茶葉の風味など消し飛んでしまう。
また、勢い良く湯を注ぐ事でポットの中に対流を起こし茶葉を開かせる目的もあった。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 04:58:33.23 ID:stEQpnSV0
( ^ω^)『ハインさん、お茶が入りましたお』

碗を2つ載せた盆を持って、ペタリと座り込んでしまっているハインの前に腰を下ろす。
茶葉は賊の根城から奪い取った安物。
水は茶には不向きな硬水である。
それでも元々『茶=色のついたお湯』としか思っていなかったブーンなのだから、
湯を長時間沸騰させて水のミネラル分を飛ばす辺り成長したと言えるだろう。

从 ∀从『…言っとくけどな』

(;^ω^)『お?』

給士がようやく口を開く。

从#゚∀从『ハインちゃんは負けたわけじゃねーぞ!! 本気出せば絶対負けないんだからな!!』

(;^ω^)『わ、わかってますお』

その勢いに青年は思わずたじろいだ。
だが、その言葉は口から出任せと言うわけではない。
なにせハインは得意とする飛刀も瞬歩も禁じられた状態で、
『襲撃を待ち構えている』ブーンに襲いかからねばならなかったのだ。
本来であれば地に倒れ込んでいるのは青年の方であっただろう。

♪〜从 ゚∀从『よし。分かってれば良いんだ。分かってれば』

それでも青年の言葉で給士は機嫌を取り戻す。

从 ゚∀从『それじゃ、始めるぜ』



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:01:04.28 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

(,,^Д^)『ったくよぉ。もーちょっとで面白くなりそうだったんだがなぁ』

(;´・ω・)『は?』

春の陽射しの下、大の男二人が並んで村をブラブラと歩く。
ブーンとハインの練武を見学していた村人達も、
ある者は訓練に勤しみ、ある者は畑の雑草を引き抜いている。
単純だが何物にも変えがたい日常の風景がそこには広がっていた。

     (´・ω・`)。oO(そう言えば、陛下達がバーボンにやって来たのもこれ位の時期だっけ)

そんな回想がショボンの脳裏をよぎる。
今の時期なら庭の梅の木が花を咲かせ、ちょうど見頃であろう。
自ら選んだ戦いの日々。
それには微塵の後悔もないが、その景色が見られない事だけは少しだけ残念であった。
ところが。

(,,^Д^)『は?、じゃねーよwwwwあとちょっとで姐さんがぶち切れてただろ?
     そーなったら面白かったと思わねーか?』

(;´・ω・)『いや、思わないよ。何考えてるのさ?』

ちょっと真面目な事を考えてみれば、この始末である。
どうにもこの男はクセが強すぎる。
ニヤケ笑いを浮かべるプギャーの顔を見ながら、ショボンはそう思った。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:04:29.05 ID:stEQpnSV0
だが、ショボンは知っている。
道化の仮面の板に隠れた、この男の心の闇を。

いや、彼だけではない。
平和な日常を過ごし、笑いあっていてもこの村の住人。
つまりは白面の兵士達はどこか悲しげな表情をしている。
その目の奥は平和を満喫などしていない。
ただ闘争を。
殺しても殺しても飽き足りぬ己の罪を償える場所を。
死では生温い程の罪を犯した己を罰する場所を求めているように思える。

(´・ω・`)『……』

(,,^Д^)『おう? どーしたよ、先生?』

(´・ω・`)『いや…何でもないよ。
      ただ、あの年になって毛糸のパンツはどうなんだろうって考えてただけさ』

そんな軽口を叩きながらショボンは思い出す。
あの話を彼の給士から聞かされたのはいつの話だっただろう。

【鉄牛】の異名を持つ男。
プギャーの血塗られた過去の話を……。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:07:48.77 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

(,,^Д^)『おう、それじゃ行って来るぜ』

(゚、゚トソン『いってらっしゃいませ』

*(‘‘)* 『お土産忘れるんじゃないですわよ!!』

アルキュ暦470年代後半。
所は【統一王】ヒロユキが急逝して間もない王都デメララ。
貴族達が競い合うように己の財力を示す塔を建てる片隅に、ささやかな営みを育む家族の姿があった。
主の名はタカラ。
滅ぼされし民族、モテナイの出身である。

迫害される身である彼が、片隅とは言え王都の中心地に居を構えられたのには訳があった。
統一王の革命が成就された後。
彼は剣を捨て、器用な指先を生かして髪結い師に転向したのだ。
髪結い師とは、その名の通り貴族の髪を結って生計を立てる者。
貴族達にとって華やかな衣装に見劣りしない髪型は必要不可欠な存在であり、
この男は生来の才能と類稀な努力によって貴族達の要望に応え続けていた。

(,,^Д^)『おう、約束だ。良い子にして待ってるんだぞ、ヘリカル』

タカラは自身を見上げる愛娘の髪をワシワシと撫で回す。

*(‘‘)* 『止めるんです!! 痛いですわよ!!』

言いながらも嬉しそうに顔中で笑う一人娘。
特に特徴も無く控えめではあるが、彼の愛を受け止めてくれる妻。
決して裕福とはいえない暮らしだが、彼は幸せだった。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:10:36.02 ID:stEQpnSV0
(゚、゚トソン『近頃は色々と物騒になっていると聞いております。お気をつけ下さい』

妻が心配そうに言う。
統一王の死後。
北部では七英雄の一人【勝利の剣】モララーが、王の後継たる評議会に叛乱の旗をあげた。
その勢いは凄まじく、王都でも【親評議会派】と【反評議会派】に分かれて貴族達が争っている。
そして、夜な夜な評議会に反する貴族達を暗殺してまわる謎の影の存在。
民草達は、いつモララー討伐の徴兵令が下されるのか。
また、姿無き暗殺者【闇に輝く射手】の恐怖に怯えながら日々を過ごしていた。

(,,^Д^)『大丈夫だ、トソン。心配するな』

不安げな妻に微笑みかける。
最下層民族の出身であるタカラは、本来であれば真っ先に兵奴として駆り出されるのが常である。
だが、そのような時の為に彼は人脈と裏金を駆使して
本来であれば貴族でしか入手できない【徴兵拒否符】を手に入れていたし、
【射手】が彼などを狙ってくる筈もない事を知っていた。

(,,^Д^)。oO(いや、それよりも)

問題なのは、今日髪結いを命じられている貴族。ボルジョワの事である。
若干二十歳にも満たずして家系を継いだボルジョワは、何故か事ある毎に妻に手を出そうとしてきた。
一度などは、金で妻を引き取ろうとした彼を殴りつけた事もある。
その時は一人の貴族が仲裁に入った為に事無きを得たが、以来妻はたまの外出さえ控えるようになってしまった。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:13:01.60 ID:stEQpnSV0
(,,^Д^)。oO(まぁ、余計な事言って心配させる必要もねーか)

そんな事を考えるタカラの服の裾を引く者があった。
ふと我に還ると、足元で娘が彼の顔を見上げている。

*(‘‘)* 『どうかしたんですの?』

見れば妻も心配そうに彼を見つめていた。

(,,^Д^)『何でもねぇよ』

言って二人に笑いかける。

(,,^Д^)『今日は一軒で終わりだからよ。帰りに市にでも寄ろうかと考えてただけよ』

それで妻と子はほっと笑顔を取り戻した。

(,,^Д^)『それじゃあよ。遅れると面倒だからな。行って来るぜ』

言い残して彼は小さいがよく手入れされた門を潜る。
その日。彼は色々と注文をつけてくるボルジョアに従い、完璧な仕事を終えて家に帰った。
帰り道、市で購入した陶器のアヒルを娘はたいそう気に入り、寝る時も手放そうとしなかった。
しかし。





数日後、彼は突然家に押しかけてきた王都警備兵によって拘束される事となる。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:16:10.43 ID:stEQpnSV0
(゚、゚トソン『あなたーーーーーっ!!』

*(‘‘)* 『とーさまーーーーーーっ!!』

背後から槍の柄で首を押さえつけられ2人が叫ぶ。
その視線の先にあるのは複数の男に組み伏せられたタカラの姿だ。

(,メ^Д^)『ボルジョア!! 貴様、何のつもりだ!!』

( ・3・)『五月蝿い!! 黙れ黙れ!!』

警備兵に左右を挟まれた貴族がヒステリックな声をあげる。

( ・3・)『お前の…お前の腕が悪いから僕は大恥をかいたんだぞ!!』

見れば彼の頭髪は真夏の入道雲のようになっていた。
現代風に言うところの。所謂一つのアフロヘアーである。

(,メ^Д^)『言いがかりは止せ!! 俺は貴様の注文どおりに仕上げただけだろう!!』

そうなのだ。
恨むべきは自身の趣味の悪さの筈なのである。
しかし、この若い貴族はそれを認める寛容さなど持ち合わせてはいない。

( ・3・)『黙れ黙れ黙れ!! 貴族に恥をかかせた罪は重い!!
     髪結い師タカラ!! 貴様の王都居住権を剥奪し、兵奴としてニイト討伐軍に送り込んでやる!!
     これは評議会の決定だからな!! 異論は許さんぞ!!』

(,メ^Д^)『!!!!!』



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:18:31.20 ID:stEQpnSV0
(,メ^Д^)『そ…そんな馬鹿な!! 俺は徴兵拒否符を持っている!!たとえ評議会でも俺を戦場に送り込む事は出来ない筈だ!!』

( ・3・)『……』

その言葉に貴族はニヤと笑う。
スッと手を上げると、背後に控えていた警備兵が玄関に飾り付けられていた徴兵拒否符を彼に手渡した。

( ・3・)『そんな物は』

それを受け取り

( ・3・)『最初から無かった』

破り捨てる。

(,メ^Д^)『……!!』

( ・3・)『評議会の命令である!! 罪人タカラを兵奴に落とし北方に連行せよ!!
     せめてもの情けだ!! 妻子の生活は僕が面倒を見てやる!!だが、もし抵抗すれば罪が妻子にまで及ぶと思え!!』

その言葉でタカラは理解した。

(,メ^Д^)。oO(…嵌められた)

全ては彼の妻を手中に収めんとするボルジョアの卑劣な罠。
しかし、愛する妻子を人質に取られた彼には為す術もなく、引き摺られる様にして連行されていく。

*(;;)* 『とーーーーーさまーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!』

その背に、父を呼ぶ幼子の泣き声だけがいつまでも響いていた。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:19:46.26 ID:stEQpnSV0
(,,^Д^)『……』

半年後。
戦は終わり、タカラは王都へ帰還した。
本来であれば生涯兵奴として過ごす筈であったが、彼と付き合いのあった貴族の嘆願により
罪を許されたのである。

終わってみれば戦いは一方的な評議会の勝利だった。
王都へ進撃するニイト公モララーの隙を突いて別働隊がニイト城を強襲。
評議会の懐刀【闇に輝く射手】により妻子を押さえられたモララーは降服し、首をはねられたのである。

(,,^Д^)。oO(【勝利の剣】と呼ばれたモララー公も…俺と同じという訳か)

愛する者を人質に取られ、道を断たれた。
ニイト公の無念や如何なる物であっただろう。
しかし、タカラは生きねばならなかった。
奪われた者を。護るべき者を再びその手の中に抱きしめる為に。

そして彼は彼のあるべき場所に帰還する。
そして。
そして。

(,,^Д^)『あ…あ……あああああああああああああああああ……』





そこにはもう何も無かった。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:22:00.07 ID:stEQpnSV0
彼を出迎えたのは、かつて彼の家族が暮らす家を支えてくれた柱や梁。
ただしそれは黒く炭化していて、慎ましくも暖かい毎日を過ごした家はそこには無い。
隣接する家にまで被害を及ぼした火災跡地を前にタカラは呆然と立ち尽くした。

(街゚−゚)『半月ほど前でしたか……奥方は「操を守れなかった罪を死んで詫びる」と叫ぶや
     家に油を撒き火を放ったのです』

(,,^Д^)『……』

街人の声は彼の耳には入らない。
タカラはフラフラと未だ大地すら黒ずんだ【家】にあがりこむ。
そうして、彼が拾い上げた物。
━━━━━それは煤で黒く汚れた陶製のアヒルの首。

(,, Д )『……』

なんで。
なんで。なんで。
なんで。なんで。なんで。

(,,^Д^)『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!』

男の絶叫が。
あの日の少女の泣き声にように、いつまでも響いていた。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:25:12.79 ID:stEQpnSV0
それから。
若年貴族ボルジョアとその屋敷に住む者全てが斬殺されるという前代未聞の事件が起き、
髪結い師タカラの姿は王都から消えた。

タカラが求めたのは戦場。
幾度も死を考えた。
しかし、己の罪は。
愛すべき者を護れなかった罪は、ただ一度きりの死ではあまりにも生温い。
泥濘のような戦場を。
血で血を洗う戦場を。
悪鬼羅刹に相応しい。一心不乱の大戦場を。
━━━━━輪廻が如く繰り返される、死んだ方がマシとも思えるこの世の生き地獄を。

その地獄で彼は生き続けた。
次なる裁きを受ける為に。

愛する者を抱きしめた手に、人を殺める冷たい鉄を。
愛する者を想い自然に浮かぶ微笑みは、己を蔑む笑いに。
愛する者が呼んでくれたタカラと言う名を捨て、『嘲笑する者』と言う意味のプギャーと名を変えた。

そうして彼は幾度も幾度も幾度も幾度もその身に罰を刻み続け━━━━━

     从 ゚−从『【鉄牛】プギャー様とお見受けいたします。我が主が是非一度お話をと…』

     (,,^Д^)『……』




白眉の青年と出会う事になる。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:27:23.98 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

そうなのだ。
この村に暮らす者。
つまり、全ての白面兵に共通する事。
それは、過去を悔やみ。己を憎み。苦行と死に場所を求めて戦っているという事。
そこには長く続く戦乱の根源とも言える、民族間の対立も、貧富の差も、永年の恨みも存在しない。
滅びを怖れず、ただ死を振り撒く純粋な戦士の集団。
伝説となった統一王の猟犬【白衣白面】の再現。
それが彼らなのだ。

しかし。
全てを失った彼らは何時までも救われぬ、何処までも悲しい者達。
生きるべき理想も。夢も。希望も無くした彼らにとって、
『国の為、未来の為に戦う』と言う言葉は塵ほどの意味も無く。
自身の幸せを逃した手で誰かの幸せを護る為に戦う、と言うのはどれほど残酷な事だろう。
彼らの勝利に喜びはない。
ただ、笑顔を浮かべる者達を眺めながら、かつての悲しみに浸るしかないのである。

(´・ω・`)『……』

そしてまた。
彼らを影で組織した【天智星】ショボンもまた、己の下した残酷な決断に苦しむ一人だった。
彼の苦しみを知る者は、常にその背後に控える黒衣の給士のみ。
主であるツンにも、義兄であるジョルジュにもそれを語らず。
ただ、背に感じる給士の体温だけを信じて。
漂々とした仮面の下、自らの信念を貫き通してきたのである。

と、そこへ。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:32:39.28 ID:stEQpnSV0
( ^ω^)ノシ『やほー』

彼らの背後より声がかけられ、ショボンは回想の世界から引き戻される。
振り向くと、黒髪の給士と銀色の髪の青年が駆け寄ってくるところだった。

(,,^Д^)『おう、早かったじゃねーか。で、肝心の【鍵】はどうだったんだ?』

从 ゚∀从『あぁ、大丈夫だ』

青年に代わってハインが答える。

从 ゚∀从『ちゃんとハインちゃんの言い付け守ってたらしいからな。
     この分だといきなり【鍵】がぶっ壊れて…って事は無いだろうよ』

(*^ω^)『おっおっおっ』

その言葉にブーンは嬉しそうに微笑んだ。

(´・ω・`)『うん、良かったよ。君達にはこれから山賊狩りなんかじゃなくて、もっと大きな仕事をお願いすると思う。
      その時にブーンが動けないと困るからね』

何気ない一言。
しかし、【鉄牛】プギャーはそれに瞬時に反応する。

(,,^Д^)『大仕事だ? なんだ? 俺達の知らないうちに情勢でも変わったのか?』

頷く。

(´・ω・`)『それを伝えるのが今日一番の目的さ。
       少し長くなりそうだ。何処かで腰を下ろしてじっくり話そうじゃないか』



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:35:16.06 ID:stEQpnSV0
(´・ω・`)『ネグローニで不穏な動きがある』

村の片隅に生えた大樹の下。
誰が置いたかも分からぬ古臭い木製の椅子に腰掛けてショボンは言った。
4人の中央にはやはり木で作られたテーブル。
所々に虫食いの跡があるその上には茶が芳しい湯気を昇らせている。

(,,^Д^)『不穏な動き…つーと、叛乱か? 
     確かにネグローニは王都に近いが、バーボンには【鉄壁】が控えているんだ。
     それにネグローニの領主ダイオードは話にならない馬鹿男って話じゃねーか。
     あの土地は物資兵糧共に貯蔵が厳しく、簡単に王都進撃は出来ない筈。
     むしろ呆気なく返り討ちにあってお陀仏になるのが関の山だぜ』

プギャーの言葉は尤もである。
ネグローニ領主【狂戦士】のダイオード。
一介の戦士としては一流と言われたこの男ではあるが、政治家としては下の下以下の才覚しか持ちえていない。
諫言を嫌い甘言を好む。
アルキュの未来や己の将来などに興味は無く、ただ自領の財産を喰い散らかして喜びを得る低脳。
それが世間一般的な彼に対する評価であり、実際彼はそう言われても不思議の無い行いを送って来ている筈であった。

しかし、ショボンは静かに首を横に降る。

(´・ω・`)『うん、確かに僕もそう思ってた。
      でも、実はその行動自体が世間を欺く隠れ蓑だったみたいなんだよね』

言って立ち上がる。
そうしてゆっくりと3人の周囲を歩きながら言葉を紡ぎだした。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:37:05.75 ID:stEQpnSV0
ショボンの言によると。
今から4年ほど前から急にダイオードは人が変わったかのように行動を改め始めたらしい。
まず、奸臣を遠ざけ忠臣の言に耳を傾けるようになった。
民を労り、乱れきっていた官を厳しく取り締まった。
領内で生産には従事せず消費にのみ携わっていた戦士達を屯田兵として正規採用し、
自身も陽が高いうちは畑で泥にまみれ、月が昇ってからは事務に精を出すという変わりようである。

(´・ω・`)『悔しいけれど、この5年で最も進化したのは僕達じゃあないかもしれない』

自信家のショボンをしてそこまで言わせる程なのであった。

それだけではない。昨年、1000を越える賊がネグローニに侵入するという事件が起きた。
おそらく、ヴィップによってギムレット地方を追われたと見られる彼らをダイオードは兵を率いて出陣し壊滅させる。
そして、その死体を串刺しにし、街道に並べると言う暴挙に出たのだ。
まさに【狂戦士】の名に恥じぬ凶行。
しかしネグローニの民は彼を【串刺し公】と呼び、敬っていると言う。

(,;^Д^)『…そりゃあ、酷え事しやがるな』

思わずプギャーは声を漏らす。

(´・ω・`)『実は今ネグローニはバーボンのヒッキーと小競り合いを起こしている。
      もし、戦いになってそれに勝利したら…彼はニイトの【無限陣】と同じ行動に出るだろうね』

(;^ω^)『お? それってまさか……』

ブーンの言葉を耳にしながら、ショボンは卓に手を伸ばし茶を取って口に含んだ。
それが彼の碗ではなくハインの碗である事など今は些細な問題である。

(´・ω・`)『うん。即位宣言さ』



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:38:40.89 ID:stEQpnSV0
(;^ω^)『……』

(,;^Д^)『……』

何でもない風に吐き出されたショボンの一言。
それに二人は言葉を無くす。

ツンがキュラソーで王位宣言を行なった翌年。
ニイト自治区の領主代理、【無限陣】ニイト=クーは突如【統一王】ヒロユキの正統後継者として即位を宣言した。
彼女はニイト公モララーと統一王の妹であるペニサスの子である。
厳密に言えばモララーが前妻との間に作った子であり、王族との血縁関係は無い。

( ^ω^)『お? だったらどうして正統後継者を名乗れるんだお?』

(´・ω・`)『確かに直接な繋がりは無いけどね。
      彼女は【姓を持つ者】であり、ニイト公と王妹の子なんだよ?
      時が時なら正式に王座に座ってもおかしくないんだ』

(;^ω^)『?』

【姓を持つ者】。それがブーンには理解できない。
首を傾げていると、給士が大きな溜息の後に言う。

从 ゚∀从『なぁ。お前さ、統一王が出した【王姓令】の事くらいは知ってるよな?』

青年は自信満々な表情で首を横に振った。

ハァ 从 −∀从=3

それを見たハインは再び大きく息を吐く。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:41:00.12 ID:stEQpnSV0
【王姓令】。
簡単に言えば『王族以外に姓を持つ事を禁ずる』法律である。
王家の直系は姓が名前の後に。属系は姓が名前の先に来るなど幾つかのルールはあるが
この場で掘り下げるに大きな意味はあるまい。
おそらくは、こうする事によって『王族とは特別な存在である』事を意識させようとしたのだろう。
このように、支配者層が些細な特権を持つ事で自身の格を高めようとする行為は古今を問わずして数多い。
特に、始皇帝が【朕】と言う一人称を自分専用の為に作り出した例などは有名ではないだろうか。
ちなみに。
この【王姓令】であるが、今の世では考えられぬほど簡単にアルキュの民に受け入れられた。
歴史研究家達によれば、当時この島は『家族としての繋がり』よりも『民族としての繋がり』が重く見られていたからだ、と説明されている。

从 ゚∀从『ま、そんなワケで逆臣の子とは言え【姓を持つ者】として【無限陣】は王族に連なる者として認知されてるってワケだ』

(´・ω・`)『しかも逆臣とは言え、父はニイト族長であり七英雄の一人【勝利の剣】モララーだ。
       我が主は【統一王】直系とは言え母君は平民の出身と聞いた事がある。
       その意味で言えば【血統の格】は甲乙つけ難い。
       更に彼女は七英雄【全知全能】のスカルチノフの支援も受けている。
       闇市と言う力もある。そう考えれば、悔しいけど【無限陣】は王たるに相応しいと言わざるを得ないんだよ』

と。見ればブーンは頭から煙を上げて卓に突っ伏してしまっていた。

(  ω )『三行で』

(´・ω・`)『・逆臣の子とは言え法の上では王族
       ・実力的にも【無限陣】は王に相応しい
       ・ハインはぺたんこ』

(  ω )『把握ですお』



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:43:16.98 ID:stEQpnSV0
(´メメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメωメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメ`)『話を元に戻そう』

( メメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメωメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメ)『異論はありませんお』

顔を何倍にも腫れあがらせた二人と、頬を膨らませた給士。
そんな光景を前にして、プギャーは笑顔を引きつらせながら口を開いた。

(,,^Д^)『とにかく、だ。ダイオードが王を名乗ると来たら東は荒れるぞ。
     だが、経済的に立てなおったとは言え軍備はどうなんだ?
     1000を討ち破ったとは言っても、所詮はギムレットを追われた烏合の衆。
     その程度で評議会に喧嘩売ったところで勝てるとは思えないがな』

(´・ω・`)『うん、その通りだ』

从 ゚∀从。oO(あ。戻った)

(´・ω・`)『でもね。元々ネグローニは【戦士の街】と呼ばれるほど軍備だけは充実していた土地だ。
      中でも【繚乱】イヨゥ率いる【黒色槍騎兵団】は
      【薔薇の騎士団】と比べても実力的に引けを取らない、と僕は思ってる。
      更に新たに設立された近衛騎士団【赤枝の騎士団】は今は亡きモテナイの戦士達だけd』

(;^ω^)『!! モテナイ!!』

その言葉を耳にした瞬間。
青年は思わず立ち上がってしまっていた。
彼の前に置かれた碗が倒れ、零れた茶が卓上に地図を描く。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:45:03.81 ID:stEQpnSV0
(,;^Д^)『うおっ!? 何してんだお前さんは!!』

危うく茶の被害を免れたプギャーが叫ぶ。
が、ブーンの耳には入らない。

( ゚ω゚)『モテナイ!! モテナイ!! それじゃ、もしかしたらドクオも……』

モテナイ族。
その響きには彼にとって重要な意味合いがある。
共に並んで戦場を駆け抜けた親友。
理想を貫く為、袂を分かれた生涯の友、ドクオ。

あの時。ドクオがツンを殺そうとした時。
ブーンは我を忘れて彼と剣を交えた。
顔では平静を装っていても、裏切られた悲しみと大切な人を襲った憎しみから幾度も殺してやりたいと思った事もある。

だが。
現在の彼はツンを影から護る為とは言え、欺きその側を離れた身である。
今ならドクオの心中も分かる気がした。
どんなに辛い選択だっただろう。
どんなに悲しい決意だっただろう。
だからこそ。

( ^ω^)。oO(ドクオ。もう一度会いたい。会って話がしたいお)

だからこそ、本当に分かり合えると思うのだ。

出来るなら再び友として肩を並べ戦場へ。
その思いを胸に、ブーンは5年間ドクオを探し続けてきたのである。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:47:03.50 ID:stEQpnSV0
(´・ω・`)『うん、彼なら将としての才能もある。ネグローニに潜んでいるなら、いつか頭角を現してくるだろうね』

(*^ω^)『おっおっおっ』

ショボンの言葉にブーンはまるで我が事のように喜ぶ。

(,,^Д^)『あ〜。前から言おうと思ってたんだがよ。
     そのドクオってのは、お前さんの瞬歩による一撃を喰らっても生きてたって…ヤツだよな?』

(*^ω^)『そうだお』

ドクオは遊牧民族モテナイの戦士だ。遊牧民特有とも言える勘の良さや視覚を誇り、その実力は戦場で如何なく発揮された。
そして、ブーンが瞬歩の才能に開眼したバーボン城でのドクオとの戦い。
確かに当時は本能のままに突き進む事しか出来ず、瞬歩法を使いこなせていたとは言い難い。
が、瞬歩を発動したブーンと向かい合って生存した。尚且つ反撃までして見せたのはドクオ只一人なのである。

从;゚∀从『またその話かよ。モテナイの連中が化け物じみた目の良さをしてるってのは聞き飽きたぜ』

青年に代わりドクオの消息を求めて島中を駆け回っている給士がぼやく。
しかし。

(,;^Д^)『あ…いや、な。俺もそうだし【白面】にはモテナイの出身者が何人もいるだろ?
     でも、全員お前さんの瞬歩を見極められるどころか影すら捕らえられないんだが…』

(;^ω^)『お?』

(,;^Д^)『サーセン……』

そうなると、何故ドクオはブーンの瞬歩を捕らえる事が出来たのか?
その謎に一同は言葉を失ってしまった。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:49:02.29 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

閉じられた城門から宮殿へと続く大通り。
その両縁に陣取って、人々は【彼ら】がやってくるのを今か今かと待っていた。
粗末な椅子に腰掛け、過ぎし日の思い出に耽る老人。
憧れの英雄を待ちわびる子供達。
一秒でも早く想い人の姿を目にしたいと願う少女。
それらに商魂逞しい物売りまでが混じり、通りは雑然としていた。
【彼ら】の通り道を確保する為に、少しでも前に出ようとする城民を押し返す兵の額には汗が浮かんでいる。
しかし、その口元には仄かな笑みが浮かんでいて。
それは誰よりも間近で【彼ら】の帰還を目に出来る喜びを感じ取っての物だった。

そして。
城壁上に立つ兵士の合図で、閉じられた城門が徐々に左右に開きだす。
最初、射し込んでくる光は糸のように細いものであったが
それは段々と太くなり、やがてその光の中に【彼ら】のシルエットを確認すると
人々の歓声は最高潮にまで高まった。
【彼ら】は前もって計算された儀式のように、完全に城門が開くのを待ってから馬を進める。
身を包む甲冑は深淵の色。
風に靡く外套は闇の如く。
跨る馬もまた、当然のように黒毛であった。

その先頭にある男は、城門を操作し終え頭を下げる兵に向けて声をかける。

/ ゚、。 /『…出迎えご苦労』

ここは【戦士の街】ネグローニ。
そして、彼らこそネグローニが誇る二大騎士団【黒色槍騎兵団】と【赤枝の騎士団】。
先頭を行く男こそ、全ての民の羨望を一身に集める男。
ネグローニ領主。【狂戦士】ダイオードであった。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:51:12.28 ID:stEQpnSV0
そのダイオードの背後を、やはり全身黒一色の騎士達が2列になって行進していく。

まず右手。身の丈の3倍はあろうかという巨大な斧槍を手にした小柄な騎士がその先頭である。
夜色の甲冑は血を浴びて更に暗く輝き、幼い顔に刻まれた二本の刀傷がどこか不釣合いだ。
彼の名はイヨゥ。【黒色槍騎兵団】を率いる領主ダイオードの片腕とも言える存在である。

そして左手。先頭にいるのは甲冑を纏わず漆黒の外套のみを身に着けた女騎士だ。
身なりに気を使えばそれなりに異性の視線を引きそうではあるが、本人には至ってその気は無いらしい。
ろくに櫛も通していない黒髪を無造作に後頭部で縛り上げ、万民の注目の中で眠そうに大きく欠伸をして見せた。
腰に差した、決して実用的とは言いがたい細身の剣と
今にも頭からずり落ちそうになっている冠からして、本職は文官なのだろう。
その背後に従うは、兜に赤く染め上げた木の枝を刺した黒騎士達。
【赤枝の騎士団】団長。【一枝花】のロシェが彼女の名である。

城民の歓声に半ば義務的に手を振って答えていた彼女であるが、
真横を行く【繚乱】の異名を持つ騎士が不機嫌そうな顔をしているのに気付くと、とたんに目を輝かせる。
馬を接近させ、その顔を覗きこんだ。

(.≠ω=)『おやおやぁ? イヨゥちゃんは何かしら不満が溜まってそうだねぇ?』

(=゚ω゚)ノ『うるさいよぅ』

(.≠ω=)『あらまぁ、拗ねちゃって可愛いねぇ。このこのっ。
      よし、このお姉さんがイヨゥちゃんの不満をピタリと当ててしんぜよぉ』

ウザがるイヨゥを完全に無視。
言うや彼女は両手を額の前で組み合わせ、むむむと唸って見せる。

(.≠ω=)『分かりましたぞ。イヨゥちゃんは今回の出兵が不満なんだね?』



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:53:17.83 ID:stEQpnSV0
(=゚ω゚)ノ『そんな事はずっと前からお前に言ってる筈だよぅ』

(.≠ω=)『ありゃ? そうだっけ?』

惚けるロシェを口を尖らせ睨みつける。

(=゚ω゚)ノ『誤魔化すなよぅ。この戦は元々領境での子供同士の喧嘩が発端の筈だよぅ。
     それに正規軍まで出兵したとあっては僕らは島中の良い笑い者だよぅ』

(.≠ω=)『なるほどねぇ。でも、今回の出兵はちゃんと狙いがあっての事なんだよぉ』

(=゚ω゚)ノ『狙い?』

気だるそうに話す、その言葉に興味を惹かれたのか。
ようやくこちらに顔を向けた黒騎士に向け、ピッと人差し指を立て彼女は口を開いた。

(.≠ω=)『だってぇ。その方が面白そうじゃないかぃ? ん? ん?』

(=゚ω゚)ノ『……』

脱力し、落馬しかけたところでなんとかイヨゥは体勢を立て直す。
こういう女なのだ。一瞬でも耳を傾けようとした自分に嫌気が差して、ガックリと肩を落とす。
それを見て彼女は楽しそうに『ししし』と笑った。

ネグローニ軍参謀【一枝花】ロシェ。
後の世に【女天智星】とまで称されるこの戦術家が歴史に初登場したのは、
まさにこの時である。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:56:15.48 ID:stEQpnSV0
(.≠ω=)『と、それはまぁ冗談として。今回の出兵は【鉄壁】を引きずり出す布石なんだよねぇ』

(=゚ω゚)ノ『?』

イヨゥは首を傾げる。
【鉄壁】ヒッキーはアルキュ南部海の民による叛乱鎮圧に手を焼く禁軍元帥シャキンに代わって、バーボンの領主代理を任されている。
本来であれば二人の主ダイオードと共に北部の安定に尽力する筈であったが、今では領境を挟みこんで一触即発の仲であった。

(.≠ω=)『分かんないかなぁ。まずね。ネグローニがリーマンから独立するとしたら何かしら名分が必要でしょぉ?
      しかも、我らの正当性を声高に叫べるようなのがさぁ』

それを聞いてイヨゥはポンと手を合わせた。

(=゚ω゚)ノ『つまりは【鉄壁】を我らが領地に攻め込ませる…って事かよぅ』

(.≠ω=)『そそ。今回うちらはバーボンの兵隊を皆殺しにしたけど、それはネグローニ領内の事でしょ?
      我らはバーボン領には一歩も侵入していない。
      でも、こっちが正規軍を出したとあっては【鉄壁】も正規軍を出さざるを得ない。
      そうすればうちらは「領民の安全を守り、非道に属さない」と言う大義名分の元で独立を計れる』

(=゚ω゚)ノ『…お前は本当に悪いヤツだよぅ』

(.≠ω=)『あれ? 褒め言葉?
      それに【鉄壁】が進軍してきたらうちらは隅々まで知り尽くした地で迎撃できるんだよぉ。
      その結果奴らを殲滅すれば、今後の戦いが楽になる。
      尚且つ、勝ち戦の勢いに乗ってダイオード様が即位を宣言すれば民衆も挙って賛同してくれるさぁ』

憎まれ口を叩きながらも、イヨゥは【一枝花】の深謀に心中舌を巻く。
そして。
熱狂する城民の背後。民家の上から一同を見つめる黒い影があった。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 05:59:19.85 ID:stEQpnSV0
???。oO(……)

影の視線の先。

そこには勝利を当然の事のように受け止める騎士の姿があった。
厚いフードと仮面で素顔を隠し、腰に二本の短槍を下げた男。

急激な政治の方向転換に対する反抗を実力で押さえつけ。
冷え切った民衆の感情を自ら泥に塗れる事で温めなおし。
領内の賊どもを冷徹なまでの戦術で鎮圧して見せた男。

ネグローニ領主ダイオード。

影は行進する騎士団から見えぬように姿勢を落とすと、
屋根の上を駆け彼らの先頭方面に先回りする。
その間も視線は城民の熱狂に包まれた騎士から離す事は無い。

???。oO(今ですっ!!)

そして、先頭の騎士が影の真下に辿り着いた瞬間。

気合一閃。
影は屋根を蹴り、標的目掛けて宙を舞った。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:01:49.26 ID:stEQpnSV0
???『フライング・ナナ・アターーーーーーーック☆』

/ ゚、。 /『ぐはぁっ!!』

その背に思いもよらぬ一撃を受け、堪らずダイオードは馬から放り出された。
悲鳴をあげる城民を巻き込みながら、襲撃者と絡み合うようにして人の壁の中に転がりこんで行く。

(;=゚ω゚)ノ『りょ、領主殿!!!!!!』

暗殺者か?
瞬時にそう判断したイヨゥは愛馬の背を飛び降り、主の下に駆け寄った。

だが、彼が目にした物は。民衆に囲まれ、困ったように地べたにあぐらをかく主の姿。
そして。仮面に覆われた顔に頬をすりよせて、じゃれつく一人の少女の姿。

(#=゚ω゚)ノ『……』

このような時、人はどのような表情をすれば良いのか。

(.≠ω=)『おぅ。赤くなったり青くなったり…イヨゥちゃんって見かけによらず器用だねぇ』

そんな軽口も耳に入らない。
領主の背後から首に手を回して抱きつく少女の襟元をむんずと掴み、まるで猫の子でも扱うかのように軽々持ち上げて見せた。

(#=゚ω゚)ノ『…ナナ。お前何やってるんだよぅ』

川l.゚ ー゚ノ!『あ。お兄ちゃん☆ お帰りなさい☆』

臆面も無く言うと、にぱぁと顔全体で笑う。
春風の笑顔を持つ少女ナナ。それが【繚乱】の異名を持つ騎士の妹であった。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:05:36.46 ID:stEQpnSV0
(#=゚ω゚)ノ『この馬鹿!! 領主殿に何かあったらどうするつもりだったんだよぅ!! 家に帰ったらおしおきだよぅ!!』

川l.゚ ー゚ノ!『えーん、ごめんなさーい。許してー』

当然嘘泣きである。
少女の表情からは反省の色など微塵も見られず、悪戯っぽく舌をペロリと出していて、それが一層イヨゥの怒りに火を注ぐ。

(#=゚ω゚)ノ『領主殿も何か言ってくれよぅ!!』

/ ゚、。 /『…いや。今のは俺も悪い』

しかし、ダイオードには少女を責める素振りもない。
それどころか、

/ ゚、。 /『…俺の眼はナナの姿を確認していた。筋肉の動き。空気の流れ。それも分かっていた。
      それでも避けられなかったのは俺の甘さが原因だ。あまり責めてやるな』

そう言って少女の身体をヒョイと持ち上げると、自信の愛馬の背に乗せてやる始末である。

(=゚ω゚)ノ『…領主殿はナナに甘すぎるよぅ』

(.≠ω=)『ぅんぅん。全くだょ。ダイオード様には少しばかり自重して頂かないとねぇ』

珍しく同意したのはロシェであった。

(.≠ω=)『このままじゃ、ネグローニで一番偉いのはナナちゃんって事になっちまうょ。困った困った』

全く困った風には見えない。ワザとらしいその口調に、彼らを囲んでいた民衆はドッと笑いに包まれる。
笑いの種にされたネグローニ最高権力者は、何かを誤魔化すかのように自身も愛馬に跨り。
しかし、その仮面から覗く瞳は…確かに優しく微笑んでいた。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:07:24.52 ID:stEQpnSV0
ナナを加えた一同は、そのまま宮殿に向けて馬を進める。
城門と宮殿が直線の大通りで一本に結ばれているのが、当時アルキュの全ての城に共通する特徴であった。
つまり、城門が破られればその時点で城の命運は決まりと言うわけだ。
東洋の影響を受けているのか。民衆達もまた城壁内にて生活を営んでおり、
城内に敵の侵入を許すと言う事は為政者だけでなく民衆の生活も終わりを告げると言う事になる。
支配者階級のみが知る城外への秘密の抜け道を持つ者も少なからずいたようだが、多くの者は民衆と運命を共にし散っていった。
その意味では現代の為政者達よりも彼らは潔いと言えるかもしれない。

話を戻そう。
宮殿に辿り着いた彼らを出迎えたのは、常人よりも二回りは大きな腹を抱えた一人の文官である。
ネグローニは決して暑い地方ではない。
更に今まで何かしら身体を動かしていたわけでもない。
にも拘らず、男は頬の弛んだ顔に脂汗を浮かべていた。

( ´ー`)『ご無事で何よりでしターヨ、領主様』

/ ゚、。 /『……』

ダイオードは何も答えず側の兵に馬の手綱を預け馬を降りる。

(=゚ω゚)ノ『お前、また太ったかよぅ?』

イヨゥが皮肉を言いたくなるのも仕方が無いと思えるほど、この男。
シラネーヨは弛みきっていた。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:09:38.47 ID:stEQpnSV0
( ´ー`)『そ、そんな事無イーヨ。それより宴の支度が整って…』

/ ゚、。 /『…無用だ。協議すべき事が溜まっているだろう。行務室に行くぞ』

シラネーヨの言葉など相手にもせず、ダイオードは宮殿の奥に向かう。

(;´ー`)『そ、そんな!! せっかく準備させたのニーヨ』

慌てて漏らす言葉も、もはや領主の耳には入らない。
ダイオードは肩に少女を乗せたまま、宮殿の奥へと歩いていく。

(;´ー`)『そりゃネーヨ』

嘆息。
だが、もし諸兄らの中でダイオードの行動にやりすぎ感を覚える者がいるならば、それは誤りだ。
数年前。この領主はまるで人が変わったかのように覇道に乗り出した。
奸臣を遠のけ、忠臣を呼び寄せた。
流浪の軍師ロシェも、彼によって在野から掘り起こされた一人である。
そして、このシラネーヨこそ、かつてネグローニを食い物にしていた奸臣の代表たる者。
本来であれば追放されぬだけ感謝せねばならぬのだ。
にも拘らず。この男は過去の栄光を再び手中にせんと姑息な策を尽くしてくる。
それが彼らには我慢ならない。
もし、シラネーヨの行動が真に領主の労を労おうとする物であれば、さしもの彼もこのような対応はしなかっただろう。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:11:44.15 ID:stEQpnSV0
当初、人々はダイオードの急激な変身を当たり前のように気味悪がった。

     / ゚、。 /『優れた戦士は城民の初夜権を奪う権利がある』

とか。

     / ゚、。 /『戦場から帰還した戦士は敵兵の首を通貨の代わりに使う事が出来る』

などと無茶苦茶な悪法を乱立しようとしては【繚乱】イヨゥに止められていた男である。
それも止むを得ないだろう。

が、自ら田畑の泥にまみれ、戦場では傷ついた下級兵士に肩を貸す彼の姿に人々の目は変わった。
そして、まことしやかに囁かれる噂の数々。
曰く、過去の愚行は評議会の目を欺く為の芝居だった。
曰く、真に信頼できる配下を見極める為の芝居だった。
更に、宮殿内を警備する兵士が見たと言う、イヨゥ・ロシェに続く【第三の男】の影。
その男は痩身猫背。夜中一人で槍の訓練を行っていたと言う。

とにもかくにも。
現在のダイオードはネグローニ全ての民から慕われる立派な領主であった。
その主の背を追ってイヨゥも宮殿内へ足を運ぶ。

(.≠ω=)『あんたも馬鹿だねぇ。だ・か・ら。うちらが帰って来るまで大人しく
      庭の草の数でも数えてなさいって言ったでしょうにぃ』

ケラケラと笑いながら彼女も二人の後を追った。残されたのは呆然と立ち尽くす肥えきった文官のみ。

( ´ー`)『……』

拳は固く握り締められていた。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:14:25.34 ID:stEQpnSV0
その部屋はお世辞にも広いと言えぬ程だった。
大の大人が10人も入れば狭苦しく感じるであろう、そんな部屋だった。
調度品の類と言えば扉の脇に置かれた外套掛けと、これだけは金を使ったであろう厚い絨毯。
その他には何の特徴もない。窓すらもない部屋の中で3人の男女が酒甕を囲んで座り込んでいる。
小柄な騎士と参謀が外套を脱いでいるにもかかわらず、この城の主はフードも仮面も外さず。
その背後では少女がうつ伏せに寝転がり、子供向けの姿絵本を真剣な目で眺めていた。

(=゚ω゚)ノ『僕はもう限界だよぅ。あのデブの弛んだ顎見てるとそれだけで吐き気がするんだよぅ』

口火を切ったのはイヨゥだ。
それに対して、半ば義務的にロシェが反論する。

(.≠ω=)『まぁまぁ。そりゃ、うちもあの男見てると無意識に蹴飛ばしたくなるけどねぇ』

言いながら甕から白濁色の酒を掬い上げた。
まるでヨーグルトのような強い酸味を感じさせる香りは、アルキュで好まれている麦を原料にした物ではない。
モテナイ族独特の文化である、羊の乳を醗酵させた酒である。

(.≠ω=)『厄介なのがねぇ。あの男はダイオードの裏の事まで知りすぎてるのさぁ。
      追放するのは簡単だけど、後々面倒事起こされると怖いんだよねぇ』

それとも手っ取り早く暗殺しちゃう?
ケロッとした顔で物騒な事を言う参謀に対し、静かに首を振ってから領主は口を開いた。

/ ゚、。 /『…いや。止めておこう。あのような小人は自衛の為にどのような姑息な手を使うか分からん。
      ならば、目の届く場所において飼い殺しておいた方が良い』

言って、椀を直接甕に突っ込み酒を汲み上げる。
仮面を軽く持ち上げ、器用にそれを口に含んだ。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:16:50.22 ID:stEQpnSV0
それで、シラネーヨについての話は途切れる。
続いて議題を持ち上げてきたのは参謀ロシェだ。

(.≠ω=)『ん〜。今回の作戦成功で【鉄壁】は絶対攻め込んでくる筈なんだけどねぇ。
      ただ、戦のきっかけになった村は高い確率で焼き払われると思うのさぁ。そこんとこどう思ってるのか聞きたいねぇ』

相変わらずの眠たげな瞳。
しかし、その奥にある何かがダイオードの仮面の目元を覗き込む。
彼女が見ようとしている物。
それは、仮面の目元から僅かに見える彼の素顔ではない。
彼の真意。彼の決意をこそ再確認しようとしているのだ。
分かっているからこそ、ダイオードは応える。

/ ゚、。 /『…生存者には出来る限りの補償を約束しよう』

(.≠ω=)『…もし【鉄壁】が攻め込んできたら、当初の計画通り老兵を第一線に布陣する気かぃ?』

/ ゚、。 /『…犠牲は無駄にはしない』

それは修羅の決意。
例え人道を外れようとも、為さねばならぬ理想がある。
ロシェはそれを見届けると、ふぅと息を吐き出した。

(.≠ω=)『ん〜。分かった。あんたがそこまで言うなら、うちも地獄の底までお供すんわぁ』

/ ゚、。 /『…すまない』

そう言ってダイオードはあぐらをかいたまま深く頭を下げる。
しかし、彼女は元々ダイオードに命を救われた身であり、彼がどのような選択をしようとも一生を捧げる覚悟なのである。
それを思うと、彼女は彼が頭を下げてくるのを喜ばしいと感じると同時に、若干の物足りなさを覚えるのであった。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:19:50.33 ID:stEQpnSV0
/ ゚、。 /『…メンヘルと同盟を結ぶ』

何となく空気が重くなり、誰も言葉を発しなくなった席で口を開いたのはダイオードであった。

アルキュ島の平地と高地の境目に存在するネグローニは、守りに易く攻めに難い。
まさに天然の要害とも言える地形をしている。
周辺を湖に囲まれたデメララやヴィップも要害として知られるが、城までの道程は平地が主になり侵攻を許しやすい。
だが、領民全てが戦士と言っても過言ではないネグローニにおいては、伏兵を置くに困らない立地は天の加護とも言えるだろう。
何しろ、元々が北からの賊の侵入を阻む目的で建設された城なのである。

しかし。
地形的に見れば北東にニイト自治区。
北西にヴィップ。
南東にデメララ。
西にバーボン。
四方を完全に包囲されているのもネグローニの特徴だ。
これでもし独立宣言などしようものなら、最悪東西南北からの一斉攻撃すら考えられる。
そのような状況で、ダイオードが唯一領境を接していないメンヘルとの同盟を考えたのも当然であるかもしれなかった。

(=゚ω゚)ノ『でも…あのモナーが簡単に僕らと同盟なんか結ぶかよぅ』

【預言者】の異名を持つメンヘルの指導者モナーは無駄に自尊心の高い人物として知られている。
その彼が、得体の知れない者と盟を結ぶか? 多くの者は『否』と答えるであろう。

/ ゚、。 /『…結ぶさ。今なら間違いなくな』

しかし、ダイオードは自身ありげに。仮面の下でニヤリと笑う。

/ ゚、。 /『…そのワケを聞きたいか? 俺が放った影からの情報に寄れば、
      神聖ピンクのマタヨシ教皇が病に倒れたらしくてな…』



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:23:02.30 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

ダイオードらが密議を行なった部屋が倹約を尽くした部屋だとするならば。
その部屋は、まさしく贅を尽くしたと言っても良いほどの部屋だった。
2人がかりでないと開かないくらいに重い扉を潜ると、
目に飛び込んでくるのは彫刻の為された石柱と奥に長い部屋。
扉から最奥にある主の座までは赤い絨毯が敷かれていて、急時ともなればこの左右に文官武官が立ち並ぶのだろう。
高い天井一面に張り巡らされたステンドグラスが南の陽光を和らげてくれている。

『あのステンドグラスは誰がどうやって掃除をしているのか?』

そんな事を考えながら歩を進めた。
その先にある座に腰かけているのは彼らの指導者。
背後には【神の巨人】の異名を持つボディガードが控えている。
指導者の一歩前、左右に別れて座に腰を下ろしているのは老将と神に仕える巫女。
ちょうど彼らの目線を後頭部に感じる位置で膝をつき、両手を胸の前で組み合わせて頭を下げた。

( ・へ・)『メンヘル十二神将が第六位。【打虎将】ジタン参上いたしました』

( ´∀`)『うむ。苦しゅうないモナ。楽にするが良いモナよ』

その言葉にジタンと名乗った男は面を上げ、立ち上がる。
歳の頃で言えば、ヴィップの猛将ジョルジュより多少若く見えた。
腰には異名の元となった白虎の毛皮を撒きつけ、剥き出しの両腕はゴツゴツした筋肉に覆われている。
再び主、【預言者】モナーに頭を下げると石像のように動かない老将を一睨みしてから、その横にある座に腰を下ろす。

ミ,,゚Д゚彡。oO(やれやれ)

それに気付かぬ振りをして臍まで伸びた顎鬚を撫で付けていた老将。
フッサールであったが、心の奥で大きな溜息をついていた。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:24:44.96 ID:stEQpnSV0
メンヘルは【智】を重んじる民族である。
元々南東からの風に晒されている居住地その物が運動に不向きな土地柄であり、住人達もそれを甘受していた。
幸い、気候の助けもあって作物の成長は早い。
人々は午前の比較的涼しい時間のみ労働に勤しみ、
午後は書を読むなり酒場で簡単なカードを楽しんだりして時を過ごした。

そんな彼らにとって、南の大国・神聖ピンクによる塩の支援。
つまり、経済の力をもってアルキュ統一を狙うのは当然の事であったし、
鉄。つまり、直接的な戦争行動によって統一を計るリーマン族とそりが合わぬのも当然の事と言えるかもしれなかった。

そんな彼らであるから、所謂十二神将の位も自然【智】が優先された。
第一位【天使の塵】フッサールを始めとして、
第二位【不敗の魔術師】、第三位【光明の巫女】まで上位3人が知将・謀将で占められている。
今は空席になっているとは言え、【金剛阿吽】の兄弟がメンヘルに属していた頃は
【金剛阿】兄者が第五位の座にいたのだ。

( ・へ・)『……』

それがこの男には気に喰わない。
彼は第四位【羅王】、第五位【神の巨人】と並ぶ猛将である。
戦場では巨大な鎚鉾(メイス)を手にして、何百人もの敵兵の頭蓋を砕いてきた。
自分では、北を動かない【羅王】やモナーの背後に常に控える【神の巨人】以上の功績があるとすら思っている。
彼から見れば【不敗の魔術師】などは男同士が抱き合っている姿絵本を読みながらニヤけている変人。
【光明の巫女】は机上の空論を捲くし立てるだけの空想家。
彼女らの師である【天使の塵】フッサールは老害に過ぎなかった。

そして。
何故自身がもっと上位になれぬのか?
そんな事を考えながら日々を過ごしてきたのである。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:28:14.22 ID:stEQpnSV0
ミ,,゚Д゚彡。oO(寂しいもんだ)

本来であれば全ての神将が揃う筈の部屋。
それが揃っているのは半数にも満たぬ4人である。
【羅王】ミルナをはじめとする数名は領境を離れられず。
【金剛阿吽】の兄弟はその姿をくらませ。
娘である【不敗の魔術師】はモナーの命を受けて北へ旅立っている。

十二神将の制度はモナーが考案した物ではない。
唯一神マタヨシに従う十二人の弟子達に習って作られたこの制度は、すでに300年も前から変わる事無く続けられてきた。
常に戦雨で呪われてきたこの島であるから、数名の神将が議会に出られぬ事もあっただろう。
しかし、半数以上の神将が欠けると言う事態は歴史書に精通した彼でも記憶にない事であった。

ミ,,゚Д゚彡。oO(民が疲れて来ている)

過去、領境を守る神将が召集を受けた際には、副将たる者に兵を預けるのが慣わしである。
しかし、統一王の死により戦が再開されて十数年。
優秀な人材ほど早く戦場に散ってしまった。
民の生活を支える市場で看板を出す者達の平均年齢は30半ば〜40前半との資料がある。
しかし、実際に市を見てみればそのような年齢の者は戦場で傷を負った者を除いて非常に少なく、
彼のような老人や年端も行かぬ若者が市を支えているのである。

ミ,,゚Д゚彡。oO(私とてそう長い命ではない。出切る事であれば若者達には戦のない未来を歩んでもらいたい物だ)

心よりそう思う。
フッサールは【唯一神マタヨシによる島の統一】などには興味がない。
全ての民が個を磨き、助け合えば自然と島は一つになれると信じている。
しかし、戦の中で心の平穏を失った民が、己克に興味を持つはずもなく。
矛盾の中で老将は戦っていたのであった。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:30:37.34 ID:stEQpnSV0
そのようなフッサールであるから、【預言者】モナーが

     ( ´∀`)『ネグローニのダイオードと同盟を組むモナ』

などと言い出した時には真っ先に反対した。
仮面の領主ダイオードとは轡を並べて戦った仲でもあり、良く知っている。
戦士としては超一流だが、為政者としては二流以下。それがフッサールの彼に対する評価だった。

だが、それは評議会を欺く芝居だったらしい。
今では独自の政策をもってネグローニを一息に発展させた政治家としての噂を耳にしていた。

しかし、それでもフッサールはネグローニとの同盟には反対する。
何故ならネグローニは軍事国家としての面が強すぎるからだ。

ミ,,゚Д゚彡。oO(同盟を結ぶならばヴィップのツン=デレ陛下とだ)

彼はそう考える。
厳密に言えば、メンヘルとデレ王家の間には主従の関係は存在しない。
デレ王朝創始者ヒロユキは、あくまで革命軍の総大将でありメンヘルとは同盟関係にあったのだ。
ヒロユキの即位によりメンヘルもその臣下に入った印象を持つ者も多いが、
歴史的に見てもメンヘルはヒロユキに臣下の礼を取った事など一度としてないのである。
それでも。

ミ,,゚Д゚彡。oO(過去の経緯もある。陛下との同盟は必ずや上手く行くだろう。
       これが上手くいけばアルキュの西部は完全に押さえる事が出来る)

そうすれば、島を東西に分けて共同統治の形を取れる。
働き盛りの男達が軍に取られる事も無くなり、民の生活も安定するだろう。
永久の平和とはいかぬまでも、十年。二十年でも殺し合いの日々を止められるなら。
下策ではない、と思うのだ。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:32:52.11 ID:stEQpnSV0
しかし、モナーの考えは違う。
モナーは神の名の下にアルキュが一つになる事に固執している。
最近は頓にその傾向が見て取れた。

ミ,,゚Д゚彡。oO(原因はアレか…)

思うだけで不愉快になる。
マタヨシ教の総本山。神聖ピンク帝国の教皇が病に倒れた知らせは彼の耳にも届いていた。
教皇も齢70を越す高齢である。
おそらく長くはないだろう。

もし、教皇崩御ともなれば神聖ピンクの枢機卿達の誰かが新たな教皇の座に着く。
ここまでは一介の司祭に過ぎぬモナーには関係のない話だ。

しかし、そうなれば枢機卿の椅子が一つ空く事になるのだ。
唯一神マタヨシ最期の地、アルキュ。
そこを統一したとなれば枢機卿の座を得るには十分な手土産となるだろう。
そしていずれは教皇へ。

ミ,,゚Д゚彡。oO(愚かな話だ)

天界における永遠の生を追及する聖職者が、俗界の権勢を追い求めて何になるのか。
しかも、その為に無辜の民を死地に追いやろうとしている。
それこそがフッサールが政教分離を主張する理由であり、
モナーとの見えぬ確執の原因でもあった。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:35:12.05 ID:stEQpnSV0
( ´∀`)。oO(全く。相変わらずの頑固ジジイモナね)

モナーにはモナーの思惑がある。
彼とて、先の革命にてヒロユキに力を貸し、戦後【七英雄】とまで呼ばれるようになった男だ。
当然、デレ王家の者には親しみを感じていたし、かの者と手を組む事の有意義さも分からぬ訳ではない。
そうする事で一時の平穏を得られる事も十分理解している。
しかし、王の死後アルキュは再び乱世を迎えた。
一時の平和では駄目なのだ。
貿易の中間点たるこの島は、常に火種を抱えている。求めるならば永遠の平和でなければならない。
その為には、興立して間もない王家では弱すぎる。
もっと。もっと深く人の心の奥底まで掴み取れる何かでなければならない。
それが【神】だ。

彼には彼の理想があった。
アルキュを統一し、神聖ピンクに帰順する。
この島は神聖ピンク帝国にとって、聖地とも呼べる地だ。
一旦帰順すれば、北の大国ラウンジの侵攻など許さぬだろう。
そうする事でアルキュは『神の加護の元』永遠の平和を得られるのだ。

そう言った考えから、モナーは積極的に各地の反リーマン勢力に助力している。
アルキュで唯一製塩の権利を持つ、南部の海の民。
アルキュ全域の闇市にネットワークを有するニイトの【無限陣】クー。
北部からリーマンを脅かしていたギムレットの山賊、【暴君】エクストと手を組んでいた事すらあった。
ヴィップ軍によって山賊が駆逐されつつある今は没落貴族達を煽ってみてはいるが、効果は薄いだろう。

海の民。ニイト。没落貴族。彼らには一つの共通点がある。
それは、自領の防衛を優先し、進んでリーマンを脅かそうとはしない所だ。
そのような状況において。
軍事国家とも言えるネグローニが同盟を求めてきた事は、彼にとって渡りに船とも言える出来事であった。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:37:07.95 ID:stEQpnSV0
フッサールとモナー。
一時の平和を得る事で人心を宥め、平和への足がかりを捜し求める老将軍。
神の名の下に一足飛びに平和を手にしようと考える預言者。
共に【七英雄】と呼ばれる彼らの理想は、二人が死してなお交わる事はなかった。
著者には戦争の歴史の中に生きた経験がない。
故にどちらが正しく、どちらが間違えている等と判断する事は出来ない。
いや。
共に正しいのかもしれない、と口にする事さえ傲慢という物ではないのだろうか。

閑話休題。
フッサールの反対を押しのけてモナーと4人の神将達で票が採られる。

ミ,,゚Д゚彡『なんだと…』

結果は賛成3。反対1。棄権1。
ここにおいてメンヘルとネグローニの同盟案は可決された。

( ゚∋゚)『……』

棄権したのは【神の巨人】の異名を持つ神将クックルである。
この巨人が政治に口を出す事はかつて無かったから、これは予想通りであった。
賛成票のうち2票はモナーとジタンによる物である。
おおよそジタンなどはフッサールに対する嫌がらせも込めて賛成に票を入れたのだろう。
しかし、問題は最後の1票である。

lw´‐ _‐ノv 『……』

フッサールは呆然と東方の神装束に身を包んだ女を。
【光明の巫女】の異名を持つ自身の愛弟子の横顔を見つめていた。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:39:29.40 ID:stEQpnSV0
ミ#,,゚Д゚彡『シュー!! 貴様、どう言うつもりだ!!』

屋敷に戻ったフッサールが最初にした事。それは、茶器を片手にバリバリと干し餅を食している弟子を怒鳴りつける事だった。
質素倹約を好むフッサールであるが、邸宅は意外なほどに大きい。
現在でも当時の文化を知る為の重要な資料として国宝指定の上存在しているから、写真で見た事がある者も多いのではないだろうか?

それもその筈。フッサールの邸宅は学び舎も兼ね、多くの弟子達が寝泊りしていたからである。
【不敗の魔術師】や【光明の巫女】を始め、多数の若者がここから巣立っていった。
今もなおアルキュの政治中枢に彼の遺志を継ぐ者達が存在しているのは、諸兄らもご存知であろう。

lw´‐ _‐ノv 『まぁまぁ。落ち着いてよ、パパ。血圧上がるよ』

ミ#,,゚Д゚彡『誰がパパだっ!! これが落ち着いていられるかっ!!』

怒髪天を突く勢いの老将にも巫女は動じない。それどころか平然と茶を差し出す肝の太さである。
しかし、手渡された茶を一息に飲み干してからもフッサールの怒りは治まらなかった。

ミ#,,゚Д゚彡『貴様はモナーの愚かさに気付かんのかっ!?
      今、人心は疲れ果て、民の生活は疲弊している!! これも全て長く続いている戦乱が原因だ!!
      我ら民の上に立つ者はその義務として人心をいたわり生活の安定を……』

と。そこまで捲くし立てて突然フッサールは手にした椀を床に落とした。
そのまま崩れるようにして倒れこむ。

ミ,,゚Д゚彡『貴様……何を……?』

lw´‐ _‐ノv 『痺れ薬。ちょっとは落ち着いた?』

巫女はけろっとした顔でそう言い放った。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:41:50.60 ID:stEQpnSV0
lw´‐ _‐ノv 『今のモナーに何を言っても時間の無駄』

ミ,, Д 彡『……』

動けぬフッサールの両足を脇に抱え込み、廊下をひきずりながらシューは言う。
向かう先はフッサールの自室だ。
いくら住み込みの弟子達が毎日掃除しているとは言え、廊下は決して清潔とは言いがたい。
たちまち老将の髪や髭は埃だらけになった。

lw´‐ _‐ノv 『例え今日否決されたとしても、後日あの手この手で案を通すに決まってる。
        ならば我らは後事に備えた方が賢明という物』

抑揚の無い愛弟子の言葉を聞きながら、ぼんやりとフッサールはその背中を眺めていた。
東洋で使われている、白装束と赤袴の巫女服。
先端をリボンで纏めた黒髪は艶やかに輝き、ぴょこんと頭頂部で一房はねている。

lw´‐ _‐ノv 『とりゃ』

やがてフッサールを彼の寝台に放り投げると、一仕事終えたとばかりに両手をパンパンと叩きながらシューは続けた。

lw´‐ _‐ノv 『今は姉上が帰ってくるのを待とう。それからでも遅くない』

先程から彼女はフッサールを『パパ』と呼んでいるが、彼女らの間に血縁関係は無い。
ただ、彼の娘である【不敗の魔術師】とシューが義姉妹の関係にあるのだ。
解毒の薬湯を枕元に置き、巫女は『それじゃ』と言い残し部屋を去る。
天井に張った蜘蛛の巣を見上げながら。フッサールは思っていた。

ミ,,゚Д゚彡。oO(あの……そんな所に置かれても……動けないんですが……)

結局。彼が救出されるまでには、半日以上の時間を要したという。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:44:00.85 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

ξ#゚听)ξ『あーーーーーーーっ!! ムカつくムカつくムカつくムカつくっ!!!!!!』

これ以上は無いと言うまでに眉間に皺を寄せながら【黄金の獅子】ツン=デレは叫んだ。
ふと目に付いた椅子を蹴り飛ばしたのは八つ当たり。
その拍子に小指を強打し、悶絶したのは自業自得と言う所であろうか。

ミセ;゚ー゚)リ『あの…陛下……お静まりください』

うづくまり声も出ないツンに付き人であるミセリが声をかける。
そのまま肩を貸すと寝台に腰かけさせた。

ξ;凵G)ξ『あ………あぅ……あぅ……』

ミセ;゚ー゚)リ『一体どうなされたのですか?』

問い掛けながらも、この色鮮やかな花飾りを髪に挿した少女は己の記憶をフル回転させている。
彼女の覚えでは、この日ツンは協力を申し出てきた貴族達と面会をしてきた筈だ。
かつて王都に居を定め、評議会派との政争に敗れてギムレットに流れ着いた彼らは
ツンにとって強力な味方となるはずだった。
それが何故金髪の王をここまで不機嫌にさせるのか?
理由が全くミセリには思い当たらない。

ミセ;゚ー゚)リ『ボクでよろしければお話しくだされば……』

言いながらミセリは水差しから水を椀に注ぎ、主に手渡す。
それをゆっくり飲み干してから、ツンは事のあらましを語り始めた。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:46:31.24 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

ξ゚听)ξ『テネシー公ジャックとダニエルですね。この度の帰順、嬉しく想います』

ヴィップ城謁見の間。
そこは【アルキュ・真の王】の玉座が置かれるにはあまりに質素であった。
メンヘルのそれと比べれば半分程度の広さであろうか。
それもその筈。
本来この地は流刑地であり、謁見の間など存在しなかった。
よって、謁見の間とは名ばかりで宮殿の最も広い一室を急遽改造したに過ぎない。
が、室内はミセリやハインを始めとする官女によって掃き清められていたし、
彼女が腰を下ろしている玉座も、民衆達が遥かニイトとの領境付近の森から運んできた樫の木に雪鼠の皮を張り合わせた物である。
純白のそれはギムレットの冬景色がそのまま姿を変えたように美しく、
黒をベースにした王の正装によく映えていたし、何よりも手作りの温かみをツンは気に入っていた。

( `貴´)『テネシー公ジャックです』

( ・貴・)『同じくダニエルです』

目の前で片膝をつく二人の男。煌びやかな官服は一見彼らの財力を証明しているように見える。
だが。

ξ゚听)ξ『……』

何となく。何となくだが、それが不釣合いに思える。
服を着こなしているのではなく、逆に服を着させてもらっているような。
その様な印象を覚えたツンは、慌てて首を何度も左右に振り、雑念を追い払った。
彼らは自分に協力を申し出ているのだ。
ならば、公平な眼で判断せねばならぬだろう。
余計な先入観は判断力を鈍らせるだけなのだから。



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:48:52.65 ID:stEQpnSV0
ξ゚听)ξ。oO(は?)

しかし、ツンの期待は大きく裏切られる事になる。

( `貴´)『そもそも、彼らには伝統や格式という物が足りないのです』

その口から吐き出されたのは、彼女の仲間達に対する誹謗中傷であった。

( `貴´)『フィレンクトなどとうに盛りを過ぎた老骨にすぎませぬ』

( ・貴・)『どこの馬の骨とも知れぬ赤毛や根暗な小童に政の何が分かりましょうか?
      そして、先日公布された【艶町国有法】。どこの変人が考えたか知りませぬが正気の沙汰とは思えません』

艶街国有法。別名【娼婦保護法】とも呼ばれるこの法は、世界最古の風営法として知られている。
考案者は立法の最高責任者、【天智星】ショボンだ。
ヴィップ軍は王の軍隊であり、軍規は非常に厳しく定められている。
戦場での略奪強姦は理由を問わず死罪とされているが、それでも法を犯す者は少なくない。
また、茂みの影に茣蓙を敷いて事を済ますような夜鷹から病を移される者も多かった。
ここまで言えば勘の良い諸兄らは察しがつくだろう。艶街国有法とはそのような悲劇を防ぐ為の法なのである。
全ての娼館を兵士達は格安で利用でき、差額は国庫から負担された。
また、彼女らは戦場で傷を負った傷病兵の性のフォローもつとめ、それに応じて国が賃金を支払っていたと言うから、
現代風に言えば『国家公務員』的な立場であったのだろう。
歳を経て職をあがった娼婦の再就職の為の職業訓練所も作られ、病の際は無償で医者に診て貰う事も出来たと言う。

このように【艶街国有法】とは女を守る為の法であり、戦とは無縁になった現在もなお
当時の名残か温泉地で有名なギムレットの裏に入れば世界有数の艶町が存在する。
しかし。
この『女性の権利を守る為の法』も、先日某女性権利団体によって『非人道的悪法』と糾弾された。
彼ら(正確には彼女ら)の言い分では『女性を性の対象としか見ていない前時代的な悪習』と言う訳だ。
だが、これは極めて穿った見方をしての意見であり、非常に残念であると言わざるを得ない。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:52:16.65 ID:stEQpnSV0
ξ#゚听)ξ。oO(……)

ともかく、だ。
当初こそ彼らが何故味方を糾弾しているのか、意味が分からなかったツンであるが
ようやくその意図が掴めてきた。
と、同時に嫌悪感から額に青筋が浮かびだす。

ξ#゚听)ξ『この……』

そう。
つまり、彼らは帰順するにあたって自身らを高く売りつけようとしていたのである。
それ自身は正統な権利であるから誰からも文句を言われる筋合いはあるまい。
が。
彼らは自身の手腕を示すのではなく、他者を貶める事によって立場を得ようとしているのだ。

ツンはアルキュ真の王。正統なる王位継承者である。
一人として彼女に居並ぶ者は無い。それが王という物だ。
しかし、一度玉座を離れれば彼女がショボンやジョルジュに感じているのは親愛の情であり、
彼女にとって彼らは臣下であると同時に恩人でもあり友だった。
その彼らが今、侮辱されている。
それも、権勢欲などと言う愚かしい存在によって、だ。

ξ#゚听)ξ『下衆……』

獅子の怒りも当然の物と言えよう。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:54:18.38 ID:stEQpnSV0
( `貴´)『それに引き換え我が家柄は19代の歴史を誇り、家名伝統共に王の側にあるに相応しく……』

更に続けられたのは、自身の手腕とは全く関係の無いお家自慢だった。

ξ#゚听)ξ。oO(この人馬鹿なのかしら?)

確かに19代の歴史と伝統は立派な物かもしれない。
が、語っている男は、政争に敗れ19代に亘って暮らしてきた王都を追われた者なのだ。
偉そうに自身の無能を語る愚者。
そこが彼女の限界だった。
すっと右手を上げ声を遮ると、声を発する。

ξ#^ー^)ξ『御高説、確かに頂戴しました。しかし我がデレ王家は未だ2代にしか亘らぬ若輩の家柄。
      テネシー公の助力を得るなどあまりに身の程知らずなようですね』

(;`貴´)『そ、それは……』

明らかに動揺している。
ツンはこれ以上この場の空気を吸う事自体耐えられぬ、と言った風に座を立ち上がった。

ξ#^ー^)ξ『御高説のお礼に一つお教えしましょう。
      アタシは自分の無能を棚に上げて他者を貶めるような卑怯者が大嫌いです。
      貴公がそれなりの地位を望むなら、戦場にて兵の先頭に立ち、法を定め民心を安定させなさい。
      口先だけの下衆など、我が臣下には必要ありません』

獅子はあくまでも気高く、蝙蝠などとは手を組まぬ。
吐き捨てるやツンは必死に弁解しようとする貴族に背を向け自室に向かう。
その後の出来事は諸兄らもご存知の通りであるが、その頃市中ではまた別の問題が発生していたのである。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 06:56:30.81 ID:stEQpnSV0
         ※          ※          ※

彼女は巨大な亀に乗っていた。

???『くぁ〜っ!! 酸っぱいねぇ、こりゃ!!』

一人叫ぶや額をペチと叩く。

???『でもこの酸っぱさが北の味ってヤツなんだろうねぇ!!
    うん、そう考えるとコイツが愛しくて堪らなくなってくるから不思議だよっ!!』

市場で購入したと見られる林檎を皮ごと齧りながら嬉しそうにこぼした。
そのまま放っておけば頬擦りでも始めかねない勢いである。

いや、彼女が頬張っている林檎は本来生食用ではないのだ。
日光量の問題か土壌の問題か。
この地方で採れる果実類は強い酸味を持つ物ばかりである。
それらは日干しにするか蜜で煮るかしてようやく食卓に上がるのであり、
『生の林檎』と言えば泥酔者の気付けに使われるほど強烈な酸味を帯びているのであった。

     (娘゚ー゚)『お母さん、あの人ひとりでお話ししてるよー』

     (母゚ー゚)『ダメ!! 見ちゃいけません!!』

そんな城民の奇異の視線など何のその。
出店の商品に首を突っ込んでは呵呵大笑している。

そもそも、彼女は風貌からして異常だった。
いや、亀の首に手綱をつけ甲羅の上で胡坐をかいている事自体異常なのだが、
その服装は更にヴィップ城民の常識の遥か斜め上を飛んでいる。



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:03:41.35 ID:stEQpnSV0
まず、浅黒く健康的に焼けた肌。
このような肌を持つ者はギムレットには存在しない。
それだけで彼女が南のメンヘルの出身である事が見て取れた。
元々は黒かったであろう髪は強い日光と潮風に長期間晒されたせいか、茶色く色落ちしていて。
それを左耳の上で一つに束ねている。

そして問題の服装だ。
上半身は胸元に布地を『貼りつけた』ような姿で、透けるほど薄い絹をその上に纏っている。
首からはじゃらじゃらと黄金の細工物を幾つもぶら下げ、
足首まで隠れるような長いスカートも、腰骨までの深いスリットが入っていては慎ましさの欠片も無かった。
いくら季節は春とは言え、このギムレットでは人気の無い夜鷹でもこのような服装はしない。
風邪を引くのが目に見えているからだ。
にも拘らず、彼女は『寒いっ!! 寒いよっ!!』などと
自らを乗せた亀の後頭部に向けて愚痴をこぼしている。

やがて女は市中の中心地。噴水のある大広場へと辿り着いた。
キョロキョロと辺りを見渡し、広場使用注意書きの看板が並ぶ一角に目をつける。

『噴水に飛び込むな』『ゴミを捨てるな』等と書かれた看板の中から
『フィレンクト立ち入り禁止』と書かれた一本を選び出し、背中にしょっていたズタ袋を引っ掛けた。
その中からスケッチブックやパレット・絵筆などを取り出し、宮殿に向かって腰をすえる。
両手の親指と人差し指で窓を作り、これから描く風景の構図を定めた所で━━━━━

( ゚∀゚)『おい。そこの不審者。ちょっと来てもらおうか』





(*゚∀゚)『……にょろ〜ん』



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:07:33.29 ID:stEQpnSV0
(#*゚∀゚)『だ・か・らっ!! 何度も同じ事言わせないでおくれっ!! ただの旅人だよっ!!』

( ゚∀゚)『いや。どこからどう見ても不審者。つか、メンヘルのスパイにしか見えん』

ヴィップ宮殿内、司書省(司法最高機関)業務室の一角で一組の男女が向かい合っていた。
周囲では恋人から貰った指輪を失くした青年や、迷子の子供が泣き叫んでいる。
そんな中、飽きもせずに延々と同じやり取りを繰り返しているのだ。
女が再度自身の冤罪を声高に叫ぼうとした時。
突如室内がざわめいたかと思うと、波が引いたかのように鎮まりかえる。
それまで筆の尻で鼻をほじっていた官兵は、慌てて立ち上がろうとして奥深くそれを突き刺してしまった。

ξ゚听)ξ『将軍。市中で不審者を捕らえたと聞きましたが』

何故なら。至高の存在。真の王が付き人ミセリをつれて姿を現したからである。
本来であれば彼女が司書省に顔を出す事などない。
王たるツンは、玉座において司書令ジョルジュの報告を聞くのが仕事であるからだ。
が、この時彼女は不愉快な面談を終えたばかりで気が立っていた。
ならば気晴らしの種にでもなればと、ミセリの提案でひょっこり登場した次第なのである。

ノパ听)『ジョルジュ!! この女の持ち物からこんな物がっ!!』

(;*゚∀゚)『あ…それはっ!!』

と、そこへ女のズタ袋を漁っていたヒートが何やら差し出してきた。
二重になっていた袋の底から発見されたそれは、丸めた書を仕舞う筒である。十中八九、密書であろう。
それ見た事かと笑う【急先鋒】。必死にそれを奪い返そうとする女を押しのけ、兵に命ずる。

( ゚∀゚)『よし。動かぬ証拠だ。それを陛下にお見せしろ』

そして。固唾を呑む彼らが見た物とは━━━━━。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:10:46.80 ID:stEQpnSV0

( ゚∀゚)『……』

ノパ听)『……』

ミセ*゚ー゚)リ『……』

ξ゚听)ξ『……』

月明かりの下。
裸で抱き合う【金剛阿吽】流石兄弟。

薔薇の園で。
見つめ合う【急先鋒】ジョルジュと【鉄壁】ヒッキー。

白百合を背景に。
口づけを交わす【天翔ける給士】ハインと【赤髪鬼】ヒート。

(  ∀ )     ゚ ゚

ノハ )     ゚ ゚

ミセ* ー )リ     ゚ ゚ 

ξ )ξ     ゚ ゚

それらの姿絵を前に絶句する4人を前に。
焼けた肌を持つ女は『だから止めたのに』とでも言わんばかりに大きな溜息をついた。



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:14:05.38 ID:stEQpnSV0
(  ∀ )『な…ななななななななな……』

数刻とも思える数秒が過ぎ去った後で、ジョルジュがようやっと声を絞り出した。
自身の描かれた姿絵を持つ両手は震えている。

(#゚∀゚)『何じゃこりゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!』

叫ぶや否やそれを左右に引き千切った。

(;*゚∀゚)『あーーーーーっ!! 何すんだいっ!! それを手に入れるのに何日徹夜したか……』

(#゚∀゚)『うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

ノハ*゚听)『けしからん。全くもってけしからん』

言いながらもヒートは手にした姿絵を給士服の胸元に仕舞いこむ。

ξ;゚听)ξ『ミミミミミミミシェリ? いいいいいい今【こんぎょー阿吽】があひゅーんって……』

ミセ;゚ー゚)リ『黙れ小娘。ボボボボボクにだって何が何だか分からなくて泣きそうです』

この女がメンヘル神都にある【乙女道】で入手したと言うそれは、4人にとっては正に未知との遭遇。
だが、まぁ。
兎にも角にもこれで彼女の無罪は証明された訳で━━━━━。

(#゚∀゚)『失せろ変態!! 次、俺様の前に顔出しやがったら叩き切るぞ!!』

その言葉と共に、彼女は文字通り司書省を追い出されたのであった。



115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:19:11.68 ID:stEQpnSV0
(;*゚∀゚)『全く。酷い目にあったよ』

ブツブツ呟きながら、石造りの道に散らばった荷物をズタ袋に詰め直す。
と、そこへ市中見回りの任を終えた騎士団が宮殿に帰ってきた。

(*゚∀゚)『や?』

軽装の騎士達は馬から下りると、その背から鞍を外してやっている。
迎えに出てきた見習い兵士達がそれを預かり、汚れを拭き取ってから馬具室に運び込む事になっていた。

(*゚∀゚)『ややややややややややっ!?』

一同の中に見慣れた灰色の頭髪を見つけて、女はそこに駆け寄る。

(*゚∀゚)『ばっびょーん!!』

(;*゚ー゚)『!!』

愛馬の鼻先を愛撫してやっている少女の背に飛びかかった。
突然背後から圧し掛かられた少女は、声もなく転倒する。

(*゚∀゚)『いや〜、久しぶりっ!! 一目で分かったよっ!!』

尻餅をついたまま呆然としている灰色の髪の少女【紅飛燕】しぃ。
女はその少女の両手を握ると、ブンブンと激しく振り回した。
深い湖の様な瞳を何度かぱちくりさせて、ようやくしぃは現状を把握する。

(;*゚ー゚)『……………ツー?』

絞り出すように呟いた。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:21:43.82 ID:stEQpnSV0
(*゚∀゚)『あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!! そのとーり!! ツー様だよっ!!
     つか、こんな絶世の美女を他人と間違えるはずも無いにょろねっ!!』

ツーと呼ばれた女は、自分で自分を絶世の美女扱いしながら嬉しそうに笑っている。

(騎`.´)『た、隊長……その女は?』

(*゚∀゚)『古い知り合いさっ!!』

無口な赤い燕に変わって答えた。
背後に回りこんで抱きついてもポーカーフェイスを崩さない騎士と、互いの頬を摺り合わせる。

(*゚∀゚)『昔はあたしもよくメンヘルからこっちに遊びに来ててねっ!!
     この子が【解放戦線】にいた頃は日が暮れるまでじゃれ合ったもんさねっ!!』

(*゚ー゚)『……』

(騎`.´)『は、はぁ…そうですか……失礼致しました』

まだ軍に入って日が浅いのだろう。
当時の事は全く知らないのか、若い騎士はそれを聞いてようやく緊張を解いた。

(*゚∀゚)『いや〜。会えて良かったよっ!! また今度遊ぼうねっ!!』

そう言い残すや女は城門に向かってその場を駆け去る。
その背を見送りながら『随分と風変わりなご友人をお持ちなんですね』と漏らす騎士に向けて。

(*゚ー゚)『……魔術師』

小柄な女騎士は一言。そう答えた。



117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:24:41.19 ID:stEQpnSV0
(#‘_L) 『何ですとっ!! メンヘルの【魔女】が現れたですとっ!!』

(騎`.´)『ひぃっ!!』

その日の夜半。北部の巡察に周っていた【白鷲】フィレンクトは知らせを聞くや声を荒立たせた。
口煩い隻椀の老将の怒りを知って騎士は肩を震わせる。

(´・ω・`)『まぁまぁ、フィレンクト老。落ち着いて』

(*゚ー゚)『……』

宥めるのは、同じく西部の巡察から帰還したショボンだ。
対して、【魔女】を逃した【紅飛燕】しぃは普段どおり沈黙を貫いている。
いや。
その姿格好からして濡れた髪に手拭いを巻きつけ、全身から湯気を立ち昇らせているのであるから、
深入りするつもりなど毛頭ないのであろう。

(;゚∀゚)『そうですよ、先生。まさかあんな変人が噂に名高い【不敗の魔術師】だなんて誰も思いませんよ』

ノハ;゚听)『ジョ、ジョルジュの意見に同意しますっ!!』

若い騎士と同じく、女の正体を見抜けなかった二人が庇いに入った。
が。

(#‘_L) 『黙らっしゃい!!』

Σノハ;゚听);゚∀゚)『ひっ!!』

逆に己に矛先を向けるだけの結果となってしまう。



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:26:01.89 ID:stEQpnSV0
(#‘_L) 『良いですか!? 
      そもそも貴方がたが簡単に【魔女】を逃がしてしまうからこのような事態になるのです。
      【不敗の魔術師】ツーはメンヘルの重鎮中の重鎮です!!
      その姿・性格を知らなかった事こそ怠慢ではないのですか!?
      百歩譲って、【魔女】があまりに狡猾で見抜けなかったとしましょう!!
      しかし、私は人は見かけによらぬものと教え込んだはずです!!。
      外見だけの判断で全てが分かるほど貴方達は経験豊富なのですか!?
      もし、これが戦場であったら? 将校の下手な判断一つで千の軍が全滅した例など過去幾らでもあるのです!!
      陛下の軍隊を預かるという重責が、貴方がたにはまだ理解できていないと言わざるを得ません!!
      【魔女】の性格的に有り得る話ではありませんが、
      もし陛下のお命を狙っていたとしたらどうするつもりだったのですかっ!!』

久々の落雷であった。
二人は直立不動のまま顔中を冷や汗だらけにし、騎士などは今にも失神しそうになっている。

ノハ;゚听);゚∀゚)『い、いや、先生!! でもしぃだって俺達より【魔女】に詳しかった筈なのに
         取り逃がしている訳でありまして……』

(#‘_L) 『誰が口を開いて良いといいましたかっ!?』

ノハ;゚听);゚∀゚)『も、申し訳ありませんっ!!』

必死の弁解は火に油を注ぐ結果で終わった。

(*゚ー゚)『……』

湯上りの少女は蜜を溶かした冷茶を、両手で椀を包み込むようにして啜っている。
いつの間にか。
黄色く塗られた木製のアヒルが、頭の上にちょこんと鎮座ましていた。



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:28:34.73 ID:stEQpnSV0
(´・ω・`)『うん。フィレンクト老のお相手はあの二人に任せるとして、だ』

必死に助けを求める義兄の眼差しを完全無視して、ショボンは続ける。

(´・ω・`)『追っ手は出さなかったのかい?』

ξ゚听)ξ『出したわよ』

チラチラと説教を受ける臣下の方を気にしながらツンが言う。

ξ゚听)ξ『南部にはジョルジュ将軍が。東部にはしぃ将軍がすぐさま兵を出したわ。
     でも、【魔術師】の姿は影も形も発見できなかった。
     だから、北と西を回っていたあなた達に聞いたのよ』

(´・ω・`)『なるほどね』

ξ゚听)ξ『しぃ将軍から報告を得てから半刻も経過してなかったのに』

などとブツブツ言っているツンを見て、何か閃いたのかショボンは踵を返す。

ミセ*゚ー゚)リ『ショボン様? どちらへ?』

(´・ω・`)『うん、それなら今度は僕が探してみよう。
      いや、兵はいらないよ。ハインがいてくれれば十分さ』

そう言い残すと、天才【天智星】は自信ありげに部屋を後にした。

(#‘_L) 『くどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくど……………』

眼の幅ほどの涙を流して叱られている、己の義兄と給士を置き去りにして。



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:30:41.78 ID:stEQpnSV0
湖と言う天然の大堀に守られた北の要害ヴィップ。
東に面した唯一の出入り口である城門を潜ると、市を兼ねた大通りの向こうに【金獅子王】ツン=デレらが住まう宮殿が見える。
衣服や食物などの生活必需品から何に使うのか分からないような薬草まで取り扱っている市には、
客引きの男達によるしわがれ声や女子供の笑い声が響きわたり、手に入らぬ物など無いと思われるほどの盛況ぶりだ。

しかし。
年頃の男達にとって、唯一この市では手に入らぬ物があった。
『女』である。
外見や話術に自信がある者ならば、酒場の娘に一晩限りの愛を語る事も出来ただろう。
しかし、当然世の中にはそのように器用な者ばかりではないし、
親の使いで子供らも来る様な場所では商売女が客を引くにも気が引ける。
もう一つ。この時代はまだ性に開放的ではあったとは言え、
娼館に出入りしている所を眼をつけている娘に見られたりなどしたら、ある意味身の破滅である。
これらの理由から後年アルキュ最大の繁栄を見せる艶街は、宮殿を挟んで市の反対側。
つまり、宮殿の背後にそれは存在した。

アルキュ独特のシステムである『娼室』を諸兄らはご存知だろうか?
簡単に説明するならば、個室居酒屋である。まず、女は『娼室』に金を払って部屋を借りる。
その部屋は廊下から小窓で覗けるようになっていて、男達はそこから女達を品定めする。
気に入った女が見つかった場合は、交渉の後(当然小窓は閉じて)事を為すのであった。

このシステムは、先に『娼室』に間借り料を払わねばならぬとは言え、女達にとってもメリットが大きい。
まず、私営の『娼室』に所属するよりも取り分が多い事が一つ。
殆どの『娼室』は国営であり、何か問題が起きた際にはすぐさま兵士が駆けつけてきてくれる事が一つ。
自分の『都合』に合わせて商売が出来る上、決まった塒を持たない夜鷹にとって天候に左右されず衛生的な『娼室』は魅力的であった。

だが、これ程魅力的な環境であるから、当然格差は生まれてくる。
男達も安心して利用できる『娼室』を好んで利用したのだから、ある程度は職業努力で改善できる物なのだが、
それも止むを得ないのだ。
そして。ここにも一人、好景気の神から完全に見放された一人の女がいた。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:32:19.02 ID:stEQpnSV0
名誉の為に断言しよう。
彼女は決して器量が悪い訳ではない。
クリッとした瞳や、表情豊かそうな顔つきはむしろ魅力的な部類に入るだろう。
更に見ているだけで香ってくるような成熟した体つき。
健康的に焼けた肌。
エキゾチックな南国メンヘルの衣装も、北国ギムレットの男達にとっては新鮮味に溢れている。
だが、その周辺が良くない。

(*゚∀゚)『あひゃ。ひゃひゃひゃっ。ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ』

彼女は床一面に広げた姿絵本。
それも男色系の姿絵本を眺めながらニヤニヤと一人笑っているのである。
これには部屋を覗き込んだ男達も、一度はいきり立った股間の己自身をがっかりさせて
その場を立ち去るのであった。

やがて夜も更ける。
幾つかの部屋から薄く漏れていた嬌声もすっかり途絶え、静かな寝息だけが響く頃。
やっぱり来たか、とばかりに女は姿勢を正す。
頬杖をついてだらしなく投げ出していた身体を起こし、胡坐をかいた。

(*゚∀゚)『そこにいるんだろっ。入っておいでっ』

その声と同時に紙を貼られた引き戸がスッと開けられる。
そこに立っているのは白い眉を持つ青年。

(´・ω・`)『うん、済まない。ひと気がなくなるのを待っていたものだからね。
      それにしても、灯台下暗しとはよく言ったものだよ。城外のどこを探しても見つからない訳だ』

【天智星】ショボンである。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:35:17.56 ID:stEQpnSV0
(´・ω・`)『ヒートから絵を見せてもらったよ。上手いもんだね。感心するよ』

(*゚∀゚)『ありがとさんっ。でも、アレを描いたのはあたしじゃないよっ。
     あたしゃ、職人に指示を出しただけさっ!!
     ところで、いつまでそんな所につっ立ってんだいっ!? 入ってお座りよっ!!』

(´・ω・`)『……じゃ、お言葉に甘えて』

靴を脱いで座敷に上がった青年は『よっこらしょ』などと言いながら腰を下ろした。

(´・ω・`)『……』

(*゚∀゚)『? どうしたんだいっ?』

(´・ω・`)『いや、別に。ただ、自然とよっこらしょなんて言ってしまう自分に嫌気が差しただけさ』

(*゚∀゚)『ひゃひゃひゃ、全くだ』

【魔術師】は愉快そうに笑う。
対する【天智星】は一瞬ムッとするが、すぐさま表情を戻した。

(´・ω・`)『あれ程精密な姿絵を描ける君らの事だ。僕の背後の闇に誰がいるか位は想像できてるだろう。
      乱暴はしたくないんだ。大人しくして欲しい』

その言葉を聞いたツーの眼が挑発するかのように細められる。

(*゚∀゚)『へぇ。噂の飛刀使いだねっ。でも、あたしの腕だって捨てたもんじゃないよっ?
     つらぬき丸・かみつき丸・なぐり丸。【不敗】を支える名剣の切れ味。
     その身で味わってみるかいっ!?』



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:37:51.15 ID:stEQpnSV0
その言葉が終わるか終わらないかの瞬間だった。
白眉の青年の背後。闇の中から突風が如く殺気がツーを襲う。
しかし、ツーは動じなかった。
【射手】の異名を持つ彼女なら、殺気を感じさせる事無く死を放つ事も出来る筈。
つまり、これは彼女の主に手を出そうものなら死をもって償わせると言う警告なのだ。

そして。
それが分かっているからこそ、ツーは言わずにはいられない。

(*゚∀゚)『…この狭い部屋の中。【天駆ける】と称されたあんたの瞬歩と飛刀がどれだけ役に立つかねぇ。
     あたしの山刀があんたの主人の首を落とすのが先か?
     あんたの飛刀があたしの身を穿つのが先か? 試してみるかいっ!?』

そう。ハインの瞬歩法も飛刀術も、開けた地形でこそ本領を発揮する。
むしろ、狭い屋内では短刀や手斧などコンパクトな武装の方が有利な状況すらあるのだ。

言いながらも【不敗の魔術師】はゆるりと上半身を倒し、腰を浮かせる。
ショボンの頬を一筋の汗が垂れ落ちる。
闇の中。発せられていた殺気が凝縮されたそれに変わる。
そして━━━━━。

(*゚∀゚)『な〜んちゃって』

(;´・ω・)『へ?』

ツーは纏っていた剣気を一瞬にして脱ぎ捨てた。
切れるほどに緊迫していた空気が断ち切ったかのように元に戻る。

(*゚∀゚)『冗談冗談っ!!あんたらがあたしに危害を加えるつもりが無い事くらい分かってるよっ!!
     夜も遅いんだっ!! とっととやる事やっちゃおうよっ!!』



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:40:10.61 ID:stEQpnSV0
(*゚∀゚)『モナーは大層ご立腹だよっ!!』

一体どこに携帯しているのか?
【天智星】ショボンの影としての顔から給士の顔に戻ったハインの淹れた茶を囲んで三人は腰を下ろす。
口火を切ったのは南からの旅人だった。

(*゚∀゚)『モナーはね。リーマンを北から圧迫する為に山賊どもを影から支援していたのさっ!!
     モナーは山賊に塩を供給する。山賊はモナーに鉄を送る。
     そうやって上手くやってきたんだっ!! でも、その関係は崩れてしまった』

それは何故か?

(´・ω・`)『…白き狼。【無限陣】だね?』

(*゚∀゚)『御名答』

茶化すように手を叩いてみせる。

(*゚∀゚)『ニイト王の闇市政策によって、ドンパチの最中でも民衆は塩や鉄を手に入れられる様になった。
     それ自体は悪い事じゃないよっ!! 【無限陣】を怒らせたら大変な事になるからねっ!!
     モナーも積極的にニイト王を支援してる。問題はあんたらの王様さっ!!』

从 ゚∀从『陛下が?』

ハインは首を傾げた。

(´・ω・`)『あ、成る程ね。我がヴィップはギムレットの山賊をあらかた征伐しているからね』

(*゚∀゚)『そーゆー事さっ!! リーマンを北から脅かす先兵である山賊をあんたらはやっつけちまっただろっ!?
     モナーはそれが気に入らないのさっ!!』



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:42:46.98 ID:stEQpnSV0
从 ゚∀从『いや待てよ。それはちょっとおかしくないか?』

口を挟んできたのは、黒衣の給士ハインだ。

从 ゚∀从『ハインちゃん達は別にメンヘルと敵対する気はねーぞ。
     むしろ、前王の時代は王家とモナーは友好関係にあったはずだ。王家とメンヘルが同盟を結んでリーマンを攻める。
     これは前の革命で実際にあった事なんだし、モナーにとっても悪い話じゃないはずだ』

(*゚∀゚)『それが難しい話なんだよねぇ』

言ってツーは困った風に人差し指で頬を掻いた。

(*゚∀゚)『預言者様は王家に見切りをつけてる感じなのさ。モナー風に言えば、

     (*´∀`)『ニダーなどと言う何処の馬の骨とも知れない男に実権を奪われた軟弱な政権』

     って事になるのかねぇ』

両手の人差し指で思い切り目尻を下げて話す姿に真剣味は見られない。
だが、これでも彼女はこれ以上は無いまでに真剣だった。

从 ゚∀从『…つまりは、どう言う事だ?』

(*゚∀゚)『つまりは、ね。モナーは神の名の下にアルキュの統一を計っているのさっ!!
     その為には、評議会に弓引く形で即位を宣言したニイト王は兎も角、
     【統一王の正統後継者】を名乗るあんたのとこの王様は目障りでしょーがないんだよっ!!
     今は貧乏貴族どもを支援してるみたいだけど、これからも影に日向にちょっかい出してくるだろうねっ!!』

この時、彼女は。堂々と自国の秘密を公言して見せたのである。
あっけらかんと。大胆に。



130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:45:18.28 ID:stEQpnSV0
(;´・ω・)『ちょ、待って!!』

青年は困惑する。
元々、彼にはツーを拿捕しようなどと言うつもりはない。
会話の端々から、メンヘルがヴィップに対してどのような政治意識を持っているか?
それだけ探れれば十分だった。
更に言えば、【魔術師】がツンに危害を与えようと近づいたとは到底思えず、
うまく事が運べば十二神将のナンバーUと政治的接点が持てるかもしれない。
それは今後のヴィップにとって悪い話ではないはずだった。

しかし。
ショボンの狙いを遥か彼方に通り越して、目の前の女は自国の機密事項すら暴露して見せた。
罠か?
表情から読み取ろうにも、彼女は半分ほど中身の減った碗に慎重に酒を注いでいるだけ。

从;゚∀从『おいおい。それは変だろ?』

(;*゚∀゚)『ありゃ? やっぱ変かいっ!? でも、北の酒は強くてねぇっ。こうでもしないと飲めない…』

从;゚∀从『いや、問題はそこじゃねぇよ』

チラと横を見れば彼の給士も頭の上に巨大なクエスチョンマークを浮かべている。
ショボンは元帥シャキンの一人息子。所謂お坊ちゃんだ。
どんなに民草と生活を共にしても、長年のお坊ちゃん生活で染み付いた癖までは完全に抜け切らない。
どうしてもどこかで平凡とはかけ離れた物の考え方をしてしまう。
そんな彼にとって、給士の観察眼は貴重な存在だった。
自分では見えない部分を観察し、遠慮無く教えてくれる人物。それがハインだ



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:47:37.95 ID:stEQpnSV0
しかし、今。その頼れる給士も完全に困惑の最中にあった。

(´・ω・`)。oO(これは…駆け引きなんかしてる場合じゃないかもね)

彼の本質は戦略家。政治家である。
漂々とした仮面の下で相手の顔色を伺う。
それは互いに手の内を探り合っている際には有効であるが、相手が堂々と手の内をさらけ出している場合、
一方的な疑心暗鬼に陥る危険も孕んでいる。
ここに来てショボンは自らの持つカードを曝け出す覚悟を決めた。

忘れかけていた茶を啜り、喉を潤す。
いつの間にか冷め切っていたそれは、彼が長い時間自分のペースを見失っていた事を教えてくれた。
それで少し冷静さを取り戻す。

(´・ω・`)『率直に聞く』

(*゚∀゚)『ん?』

(´・ω・`)『メンヘルの我がヴィップに対する対外政策を話してくれた事は本当に興味深い。
      でも、僕はそれをどこまで信用して良いのか。悩んでる。
      何故、君はこんな重要機密を僕達に教えてくれたんだい?』

それは命惜しさゆえの行動ではない筈。

(*゚∀゚)『……』

そして。
彼の言葉の後に、どこか遠い目をした【魔術師】の姿に、
ショボンは自身の決断が正しかった事を確信した。



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 07:48:58.40 ID:stEQpnSV0
(*゚∀゚)『…この国はいい国だねぇ。ついつい長居したくなっちまうよっ』

相槌は必要ない。それはおそらく、彼女自身に向けて語られた言葉なのであろうから。

(*゚∀゚)『王様も将官も民草も。みんなで幸せになろうと頑張ってる。ぶっちゃけちまうとね、今のメンヘルはバラバラさ。
     みんな幸せになりたいけど、誰が主張する幸せが一番なのか、みんな分からない。
     でもね、【天智星】。幸せの形が一つじゃないなんてのは元々みんなが知ってた事なのさっ。
     昔はみんながみんなの幸せを尊重して…うまくやってたんだよっ』

(´・ω・`)『でも、今は違う。そして、君は我が国にかつてのメンヘルの姿を見た。それが答えかい?』

(*゚∀゚)『……』

今度はツーが沈黙する番だった。しかし、答えを聞きたがるだけ野暮というものだろう。

(´・ω・`)『これから何処へ?』

(*゚∀゚)『当初の予定通りニイトにねっ。なんでも昔の馴染みがいるらしいのさっ!!』

(´・ω・`)『もし、ヴィップとメンヘルが戦になったら君は……?』

(*゚∀゚)『うんっ!! 全身全霊でストロベリーな一撃を叩き込んでやるよっ!!
     誰であろうと我が故郷に危害を加えるヤツは許してやらないよっ!!』

(´・ω・`)『……そうか』

それで会談は終わった。ショボンは何も言わずに座を立つと部屋を後にした。

翌朝。【不敗の魔術師】ツーはヴィップを立ち去る。
それを知って、ショボンは彼女に只一人の追っ手もかけなかった。



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