( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

5: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:18:12.26 ID:NN6yVO1T0
・         ※          ※          ※

ネグローニの更に北。
深き森の中にニイト王国。かつてのニイト自治区は存在する。
ネグローニと同じく土地は固く、開墾には適さない。
同じ北方でも、ギムレットとの大きな違いはそこにある。
現代の地質調査によって、【大地の裂け目】によって大きく分かれたとは言え
かつてのギムレットはローハイドやバーボンと同じ標高の平地地帯であった事が判明している。
それがギムレットとニイトの最大の違いであろう。

常緑樹を中心とした森と、なだらかな斜面を持つ大地に点在する草原。
人々がそこで選んだ道は酪農であった。
羊や山羊を放牧し、彼らから得た乳製品を売って生計を立てる。
質素な暮らしの中でも歌と踊りを愛する事を忘れないニイトの民は、本来戦などとは無縁な牧歌的民族であった。

そこに一人の大英雄が産まれた事は、はたして喜ぶべき事であっただろうか。
【勝利の剣】ニイト=モララー。
彼の異名ともなった勝利の剣は、若くして北の大国ラウンジの更に北。
神話の国より持ち帰ったと言われる聖剣である。
板金を思わせる巨大な両手剣。
一撃必殺の破壊力を誇る大剣は、その重量ゆえに攻撃手段が大味になりがちである。
が。
『人々の祈りを星が鍛えた』とも『剣に意思があり、敵の姿を追いかけた』とも伝えられる剣は、
その伝説の通りに幾千の敵兵を退けた。

ヒロユキによるアルキュの統一後。
モララーは偉大なる【七英雄】の一人に数えられるようになり。
王の死後。
叛乱の旗をあげて敗れ、世を去った。



7: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:20:57.88 ID:NN6yVO1T0
モララー亡き後、ニイトの民は逆賊として迫害された。
具体的に言うと、戦後復興支援金の打ち切りが主である。
しかし、本来貧しい土地に暮らすニイトの民にとって、土地を復興させる為の資金を打ち切られる事は生死に関わる問題であった。
かの土地は放っておけば緑に包まれるような地ではないからだ。

人々が朝の光に希望を見出せなくなった頃。
この地に一人の女が帰還する。
ニイト=クール。
モララーと最も親しくしていた七英雄【全知全能】スカルチノフの後ろ盾を得た彼女は単身ニイトの復興に乗り出した。

力ではなく、智を武器に。
腕力ではなく、経済を武器に。
戦乱によって富を得る卑怯者と罵られても、ただ民の為に。
彼女は戦った。

そして。
彼女自身はやがてニイト自治区責任者代理から正式な責任者に。
民の支援の下、責任者から正式な王を名乗る事となった。

ギムレットの【黄金獅子】に対するニイトの【白き狼】。
智によって寡兵を無限とも思える兵の壁に変える稀代の戦術家。

???『己の民を守る為なら物語の登場人物でなくともかまわない』

そう語る彼女であったが、運命はそれを許さなかった。

(*゚∀゚)『にょろ〜ん』

三華仙が一人【無限陣】クー。
南からの旅人が居城に辿り着いた時から、彼女は運命の舞台に上がる事を余儀なくされたのかもしれない。



11: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:23:38.45 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)『いや〜っ!! 美味しいご飯に美味しいお酒っ!! これぞ旅の醍醐味ってもんだねぇっ!!
     そうは思わないかいっ、ペニス丸っ!?』

自らを乗せた愛亀・ペニス丸の甲羅をバシバシと叩きながら彼女は上機嫌であった。
その足は遅々として進まないが、その分旅の景色を『不自然にならぬように』覚える事が出来る。
経済を武器に成り上がったニイト城の市は、故郷メンヘルのそれよりも充実していて
それが彼女の機嫌を更に上昇させた。

彼女が最も気に入ったのは、山羊や羊の乳から作ったチーズであった。
御存知の様に、チーズを製造する際にあまりにも暑い地域は適さない。
よってメンヘルでは高級品として扱われる物が、ここでは当たり前のように並んでいて。
特に、茶葉で燻製にして長期保存を可能にしたそれは彼女の心を鷲掴みにした。

原料となる乳。
茶葉の醗酵具合。
燻製時間。
様々な条件下で味が全く変わってしまうのだ。
このニイト城内に入ってから、一体どれ位のチーズを口にしたか?
彼女自身もおぼえていなかった。

そして今も、一つの店を覗き込んだ彼女が店主に声をかける。

(*゚∀゚)『やぁやぁ、御主人。スモークチーズはあるかいっ!?』

主人『あるわけねーだろ!! ここは鍛冶屋だ!!!!!!』

(*゚∀゚)『…にょろ〜ん』



13: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:26:08.12 ID:NN6yVO1T0
そうこうしながら道を進む彼女は、途中ある事に気付いた。
一つ目は些細な事である。

(*゚∀゚)。oO(やっぱヴィップと違って全然注目されないねぇっ)

ニイトは経済都市だ。
自然、ニイトの民だけでなくリーマンの民や、彼女と同じく浅黒い肌を持つ者もいる。
さすがに山賊の類は城内に侵入できないようだが、それが当たり前のように人々は市を満喫していた。
そしてもう一つ。

(*゚∀゚)。oO(女がやけに少ないねぇ)

いや。
よく観察すれば、少ないのは『女物の服』を着た者である事が分かる。
他領の者はまだしも。
ニイトの女は皆が皆、男物の服に身を包んでいるのだ。
本来ニイトに男装の伝統など無く、おそらくそれは王である【無限陣】とその臣下達への憧れによる影響であろう。

ほどなくしてツーは宮殿前に辿り着いた。
そのま門を潜ろうとして、当然門を警備する兵に静止させられる。

(*゚∀゚)『やぁやぁ、お仕事ご苦労さんっ!!
     ところであたしはメンヘル十二神将・第二位【不敗の魔術師】ツーってもんだっ!!
     【無限陣】は暇かいっ!?』

堂々と自身の正体を明らかにする彼女に、
衛兵達は思わず目を丸くした。



15: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:28:54.60 ID:NN6yVO1T0
???『ネグローニとメンヘルの件ですが…』

???『うん。知っている。どちらにとっても効果的な盟になるだろう。
    だが、ネグローニの独立がリーマンによる策の可能性もある。
    影に監視を強めるよう言っておいてくれ』

???『かしこまりました。我が主よ』

宮殿内の廊下を、一組の男女が歩いていた。
いや。
訂正しよう。
正確には歩いているのは只一人。
そして、彼は男物の官服を身に着けてはいるの、その声は確かに女のそれであった。

本来ダボッとしている筈の官服は、ほっそりとしたラインをしていて彼女の本職が戦士である事を微かに匂わせている。
急時、無駄にふわふわした官服は鎧を纏うのに邪魔になる。
つまり、彼女は平時は文官。戦時は武官として腕を振るうのだろう。
それだけで、この人物がどれ程重宝されているか分かろうと言うものだ。

そして、彼女は一台の四輪車を押している。
そこに座した人物。
纏うは足まですっぽりと隠す純白の鶴縫。手には羽毛扇を持ち、よく手入れされた長髪は緑がかるほどに黒い。
柔らかく垂れ気味の瞳は、光の加減で緑色に輝いた。

川 ゚ -゚)『頼んだぞ、レーゼ』

爪゚ー゚)『御意』

座している者の名を【無限陣】ニイト=クール。通称クー。
その背後で車を押している者の名をレーゼと言う。



17: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:31:25.72 ID:NN6yVO1T0
爪゚ー゚)『ところで、ギムレットの落ちぶれ貴族が援助要請をしてきている件ですが…』

川 ゚ -゚)『放っておけ』

一刀両断。
背筋をピンと伸ばしたその姿は堂々としていて。
諸兄らの周りにも一人はいる、『見るからに優等生タイプ』である。

川 ゚ -゚)『ヤツラが進んで山賊狩りでも考える性質(タチ)か?
     どうせよからぬ事を考えているのだ。相手にするな』

爪゚ー゚)『はっ。以上で本日の商い話はお終いです』

ところが。
『商いの話は終わり』と聞くや否や、その表情は途端に曇ってしまった。
それをレーゼは見逃さない。

爪゚ー゚)『……クー様』

川 - )『……すまない、レーゼ。痛むんだ』

それを聞いてレーゼは心中、大きな溜息をつく。
クーの表情からは先程までの優等生顔はどこへやら。
まるで、仮病を使って学校をサボろうとしている子供のようなそれに変わってしまっていた。



20: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:36:32.27 ID:NN6yVO1T0
爪゚ー゚)『いけませぬ。訓練を休んではならぬとお医者様も仰っていた筈です』

そして、男装の麗人のそれはまるで駄々っ子を嗜める母親の物である。
手馴れている。
つまり、このような事は日常茶飯事なのだろう。

川 - )『本当だ。本当に痛いんだ……』

俯く彼女は羽毛扇を手放し、ぎゅうと服の裾を握り俯いてしまっている。
背後にいるレーゼからはその表情を窺い知る事は出来なかった。

本来クーは一度口にしたら絶対に曲げない頑固者だ。
そうでも無ければ闇のネットワークを築きあげ独立するなど、まず不可能であり
ニイトの住人達も彼女を『鉄の如き強い意志の持ち主』と捕らえている。

しかし。
今の彼女からは”強さ”の欠片も見られない。
いや。
彼女が戦う真の理由を。
何故人道に背いてまでも戦い、この地にしがみつくのかを。
知っている彼女からすれば、これこそが彼女の元の姿なのである。

爪゚ー゚)『……分かりました』

川 - )『明日こそは…明日こそはちゃんとするから』

言い訳がましく呟く主の四輪車から手を離す。



23: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:37:50.90 ID:NN6yVO1T0
爪゚ー゚)『しかし、私の本日の役目はクー様の訓練にお付き合いする事です。
    それを拒否すると言うのであれば、私は本日はお暇いただきましょう』

川 - )『…!! 怒ったか? 怒ったのか、レーゼ』

それには答えず廊下を立ち去る。
彼女は主の執事であると共に姉のような存在である。
時には厳しくするのも必要なのだ。

川 - )『……』

そして、三華仙の一人に数えられた英雄【無限陣】は廊下にぽつねんと残される。
去っていくレーゼを追おうともしない。

川 - )『……ごめんなさい』

漏らす声は届いただろうか。

季節は春。
しかし、日によってはまだ石造りの廊下は冷たく寒い。

クーは座したまま動こうともしなかった。



24: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:39:56.25 ID:NN6yVO1T0
???『おやおや〜? こんなところで何やってるのですか?』

かけられた声にクーはハッと顔を上げた。
つい先程、彼女の執事が立ち去った廊下。それとは反対側から知った顔が駆け寄ってくる。

爪゚∀゚)『こんなところに一人でいたら寒いでしょう?』

レーゼ。
いや、違う。
ミルクティー色の髪や瞳の色。背丈スタイルから顔つきまで瓜二つであるが、表情の明るさがまるで違う。
レーゼが月なら、彼女の笑みはまるで太陽。
服装も、裾を引き摺るようなゆったりした橙色の文官服を、腰のところで縛って動きやすくしている。
レーゼの双子の妹、リーゼである。

川 - )『訓練を拒否したら置いてけぼりにされたんだ』

答えるクーにケラケラと笑ってみせる。

爪゚∀゚)『それでこんな所に? いやはや、お仕置きにはもう充分でしょう?』

言って四輪車の背後に回りこむ。

爪゚∀゚)『レーゼばかりが執事じゃないですよ? レーゼがいじめるなら、本日はリーゼがクーの執事ですよ?』

その明るい笑顔に、クーは助けられた気持ちになった。
行き先を訊ねる彼女に、『屋上へ』とだけ告げる。

元々、クーの四輪車を押すのはレーゼの役と決まっている。
その役目を奪ったのが嬉しいのか、リーゼは道中ずっと『お手洗いは?』だの『お腹すきませんか?』だの訊ねてきた。
それがクーにはありがたかった。



26: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:41:57.18 ID:NN6yVO1T0
階段がない。
それがニイト城の最大の特徴である。
階の移動はなだらかなスロープによって行なわれ、それに対して文句を言う者は誰一人としていない。
全てはクーの四輪車による移動の為である。

やがて屋上に辿り着いたクーは、四輪車を城の裏側に向けさせた。
眼下に広がるは大草原。
荒野帯とも言えるニイトにおいて唯一とも言える草原は若草に包まれていて。
風が吹くたびに、ざざぁと音を立てながら一斉に靡くのだ。
その光景はまるで波の満ち干きのよう。
これから季節が夏に向かうに従って、更なる深い緑に包まれるのであろう。

そして、その中央にズンと根を張る一本の大樹。
アルキュにただ一本しかないとされるそれは、この季節だけ薄紅色の花に包まれている。

爪゚∀゚)『いやはや。美しいですな?』

リーゼがうっとりと漏らすのも無理はない。

クーがニイトに戻ってきた時、この草原は戦で荒れ果ててしまっていた。
至る所に転がる死骸が草を倒し、夜になればそれを狙った死体漁りや野犬が出没した。
貧しいながらも彼女を迎え入れる同族達。
その姿よりも、彼女を奮い立たせたのはその光景だった。
それから彼女は己を捨て。戦い。草原を記憶の中に残る景色にまで甦らせたのだ。
そして。



28: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:45:32.29 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)『私はこの景色を護る。例え、この世の全てを敵に回そうとな』

誰に言うでもなくクーは呟いた。

爪゚∀゚)『ならば訓練も頑張らないといけませんよ?』

茶化すように言う声は耳に入らない。
クーの手は意識するでもなく、首から下げられた銀色の鈴を玩んでいる。
言われるまでも無く。眼下に広がる景色は彼女の決意を更に固くさせてくれた。

瞳を閉じれば浮かんでくる。
父母に見守られながら、草原を駆け回った過去の自分達。
在りし日の思い出。
永遠に戻らぬ、幸せだった頃の記憶。

     川 ゚ -゚)『私はこの景色を護る』

それこそが彼女が戦う真の理由。
誰かの為などではない。エゴにまみれた。それを知ってなお戦わねばならない本当の理由。
しがみつく。それが無ければ怖くて、悲しくて。生きていけない。
クーは強いから戦うのではない。弱いから。しがみつく物が無ければ生きられぬから戦うのだ。
それこそが英雄と呼ばれた女の正体。

その時。一陣の風が吹いた。
その風はクーの長髪をなびかせ、服の裾を巻き上げる。
そしてそこから覗く足は。



膝から下が失われていた。



31: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:47:22.36 ID:NN6yVO1T0
しばらくして。
二人が宮内に戻ろうとした時、扉を開けて駆け出てきた者があった。

爪゚ー゚)『クー様!! ここにおられましたか!!』

リーゼの姉、レーゼだ。
本当に良く似た双子である。
主であるクーですら、以前は見分けがつかなかった。

だが、よく見れば髪や肌に艶が失われているレーゼに比べ、リーゼは垢抜けている。
姉がクーと共に政を行なっている時、妹は市で子供達と鞠を蹴飛ばしたり、
買い食いをしたりしているのだから当然だ。
それもその筈。
外見こそ同じだが、リーゼは全く商いや政には無知なのだ。
それは既に『努力によって解決する』レベルの話ではなく。
胎内にいた頃に才能を姉に吸収されたと感じても不思議が無い。
よって。
【神算子】の異名を持つ姉が執事なら、妹はクーの話し相手としての感覚が強かった。

爪゚∀゚)『およ? どうしたのよレーゼ?』

しかし、彼女とて無能ではない。
一度戦場に出れば【金槍手】リーゼの名を知らぬ者は無い。
大の男でも持ち上げるのがやっとの長大な突撃槍(ランス)を竹竿の様に振り回す姿は、まさに脅威であった。

爪;゚ー゚)『客人です。それも…相当な馬鹿者が』

珍しくレーゼの顔には汗が浮かんでいる。
それを見てクーとリーゼは、何事かと顔を見合わせた。



34: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:48:52.81 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)ノ『にょろ〜ん』

川;゚ -゚)ノ『にょ…にょろーん?』

あたかも当然だとばかりに手を振ってみせる女に、ついクーもつられて手を上げた。
しかし、島中の商人が集まるこの城においても、このような挨拶は初見である。

爪;゚ー゚)『戯言です、クー様』

小声で言ってくる執事の声に、ようやっと自分が遊ばれたと気付く。
むっとした顔で挙げた手を下ろした。

(*゚∀゚)ノ『ばびょ〜ん』

川 ゚ -゚)『……もういい』

成る程、確かにレーゼの言うように相当な馬鹿者であるようだ。
馬鹿者は残念そうに舌打ちをしながら手を下ろす。

(*゚∀゚)『初めましてだね、【無限陣】。あたしゃメンヘルのツーってもんだ』

メンヘルのツー。
十二神将の第二位。【不敗の魔術師】の異名を持つ戦士にして、大馬鹿者。
【天使の塵】フッサールが突如死亡したとしたら、その原因の大半は彼女による心労による物、
とすら言われる変人だ。
それを笑い話。誇張された噂としか思っていなかったクーだが、本人を目の前にして何となく納得してしまった。

川 ゚ -゚)『……あぁ、なるほど』

(;*゚∀゚)『……なんか今、凄く失礼な事考えなかったかいっ!?』



35: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:51:10.93 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)『……別に』

(;*゚∀゚)『いやいやいやいやっ!! 考えたっ!! 絶対考えたねっ!!』

しつこい位に噛みついて来る。

川 ゚ -゚)。oO(あぁ、なるほど)

今度は声に出さずに心で思った。
が、響きは同じでもその示す意味は全く異なる。
クーは闇市の支配者として多くの巧みな商人達と渡り合ってきた。
その結果として、観察眼にはいささかの自信がある。

つまり、目の前にいる女はこのようなタイプなのだ。
珍妙な自分のスタイルを堂々と見せつけ、相手の興味関心を引きペースを握る。
そして、おそらくそれは計算による物ではなく本能による物だ。
ならばこちらは突き放す位にするのが丁度良い。

川 ゚ -゚)『貴様がそう思うのならばそう思えば良い。私は知らん』

言い捨てると、【魔術師】は頬を膨らませて黙り込んだ。
まるで子供だ。
そして、この手のタイプは別の餌を見せつけてやると、先程までの事などコロッと忘れて飛びついてくる。

川 ゚ -゚)『ところで、砂漠の魔女殿が何のようだ?
     まさか、わざわざ面白談話をしに来た訳でもあるまい』



38: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:53:32.99 ID:NN6yVO1T0
それを聞いてツーはパァッと顔を輝かせる。

川 ゚ -゚)。oO(単純なヤツだ)

【天智星】ショボンには有効だったツーの心理術もクーには通用しそうもない。
それは相性の問題であろう。
そして、それを無意識のうちにこなしているツーは、特に傷ついたと言う素振りも見せなかった。

(*゚∀゚)『おうよっ!! 何でも、このニイトに知り合いがいるって聞いてねっ!!
     で、わざわざ【預言者】様の伝言を伝えに来たってワケさね!!』

川 ゚ -゚)『知り合い?』

訊ねれば幾らでも答えてくれそうだ。
そう直感したクーは畳み掛ける。
そして、その予感の通りにツーは言葉を続けた。












(*゚∀゚)『【金剛阿吽】流石兄弟。あんたんとこにいるんだろっ!?』



41: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:56:10.45 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)。oO(むぅ)

表情にこそ出さぬが、一瞬クーはたじろいだ。
玉座代わりの四輪車に腰かけた彼女の背後では、双子の姉妹が顔を見合わせている。

前述したよう、クーは己の理想を掴む為に百戦錬磨の商人達と互角以上に渡り合ってきた実績がある。
その中には当然目の前で客人用の座に腰を下ろしている【魔女】のような者もいた。
が、しかし。
彼らは皆意識して自身の手の内を明かしてきたのだ。
それがツーとは違う。
例えるならば、ツーは何も考えずにど真ん中に直球を投げ込んでくる投手のようなものだ。
素直にバットを振ればいいのだろうが、それを連続されるとどうにもやりづらい。

一度座を外して息を整えたいのを我慢して、クーは答えた。

川 ゚ -゚)『知らん』

(*゚∀゚)ノシ『いやいやいやいやっ!! 隠さなくていいよっ!!
      あたしも分かってるからこそココまで来たんだからさっ!!』

川 ゚ -゚)。oO(嫌なタイプだな)

相手の出方は手に取るように分かる。その対処法も弁えている。
こちらに不利は無い。にもかかわらず、お構い無しに直球勝負を挑んでくる。

川 ゚ -゚)。oO(こうなれば…)

適当に相槌だけうっておこう。
そう決めたクーはとりあえず首を縦に振った。



42: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:58:48.34 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)『やっぱいるんだろっ!? じゃあ、ココに呼んどくれよっ!!』

川 ゚ -゚)『知らん』

これは本当の事だ。
確かに数年前、寝室に侵入しt……もとい、領内をウロウロしていた兄弟の身柄を捕獲したのは事実である。
が、今では二人は罪人としてではなく客将として手を貸してもらっている。罪人でも、臣下でもなく客将。

爪゚∀゚)『つまり、【金剛阿吽】の兄弟は急時でもない限りある程度の自由を約束されてる訳なのですよ?』

(*゚∀゚)『ありゃ? あんたもそーじゃないのかいっ!?
     さっき市でガキンチョどもと追いかけっこしてるの見かけたけど?』

爪;゚∀゚)『うっ!?』

ツーの辛らつな一言にリーゼは言葉を失った。刺さる視線が痛い。
そんな遊び人に目もくれず、ツーは『困ったなぁ』などと呟いている。

(*゚∀゚)『じゃあさ、じゃあさ、アンタが代わりに答えてくれないかなっ!?』

川 ゚ -゚)『は?』

意味が分からない。
ほんの一瞬であるが困惑するクーを前に【魔女】はピンと背筋をはって立ち上がった。

(*゚∀゚)『【金剛阿吽】流石兄弟に【預言者】モナーが命ず!!
     メンヘルの民を裏切った罪、真に重く!! その魂は死後永遠に焼かれるであろう!!
     滅びを怖れるならば方法は一つ!! その地に留まり我が影として【無限陣】を監視せよ!!
     さらば、魂は救われ天上にて永久の平和を迎えるであろう!! 以上!!
     ……と、まぁこんな感じなんだけどさっ? アンタが流石の代わりに答とくれよっ!!』



44: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:01:01.83 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)『答は否、だ』

(;*゚∀゚)『ありゃ』

即答され、思わずツーはずっこける。

(;*゚∀゚)『ア、アンタ全く考えずに答えたろっ!?』

川 ゚ -゚)『当然だ』

【不敗の魔術師】ツーの旅の理由。
それは、メンヘルを裏切りニイトに仕えている流石兄弟を懐柔し二重スパイに仕立て上げる事。
が、それは失敗に終わった。
いや。彼女自身がわざと失敗させたと言うべきだろう。

ともかく、だ。彼女の『仕事』は終了した。
【魔女】はやれやれとばかりに腰を上げる。

(*゚∀゚)『それじゃ仕方ないっ!! 邪魔したね【無限陣】っ!! いつか戦場でっ!!』

言うや片手を頭越しにヒラヒラと動かしながら部屋を後にする。

川 ゚ -゚)『……メンヘルには』

爪゚ー゚)『はい?』(゚∀゚爪

川 ゚ -゚)『あんなのしかいないのか?』

あまりに酷い一言。
だが、双子の姉妹はそれを否定する事が出来なかった。



45: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:03:05.69 ID:NN6yVO1T0
         ※          ※          ※

森の中の小さな湖が彼のお気に入りの場所だった。
葉陰を縫って射し込んでくる日の光は柔らかく、書を読むにも考え事をするにも最適な場所である。
だが、その日彼は草の上に座り込み頬杖をつきながら湖を見つめていた。
いや、正確には水を撥ねる影を眺めていたのである。

潜っていた体が水しぶきを撒き散らしながら湖上に姿を見せる。
それは日の光を浴びて宝石のように輝き、彼は素直にそれを『美しいな』と思った。

やがて泳ぎ疲れたのか、飽きたのか。
その者は水から上がって来た。

(´<_` )。oO(美しいものだな)

彼。【金剛吽】弟者は再度そう思う。
裸体を隠そうともせずに歩くその者には、必要以上の脂肪も筋肉もついていない。
引き締まった身体は水を弾き、七色の玉を纏ったように輝いている。
濡れた髪の下に見える顔は、適度な運動を心ゆくまで楽しんだのか満足げであった。

(´<_` )『……』

嫉妬する。
弟者の片腕は義腕である。
かつて戦場で永遠に失われた。
以来、代わりに付けられた義腕【弟者腕】は数多くのからくりを仕込み、彼の自慢にもなっている。
物事をとことん追及しなければ気がすまないメンヘル族の技術者達と、
彼の訓練の成果もあって日常生活には一切の支障も無い。
それでも、こうも目の前で見せ付けられると心のどこかがチクリと痛むのだ。



46: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:05:08.87 ID:NN6yVO1T0
(´<_` )。oO(水中では敵無しと言われたのは随分むかしの話になってしまったな…)

弟者は思う。
神将の地位を得る際に一度はメンヘルに帰化したものの、本来兄弟は南部に居を構える海洋民族【海の民】の出身である。
『一生を陸に上がらず過ごす者もいる』とさえ言われる彼らは、例外無く泳ぎに長けていた。
若くして隠密の道を志した兄弟は、瞬歩法を学びはしたものの
その力は【天翔ける給士】ハインに遠く及ばない。
しかし、いざ水中戦ともなれば白魚の如く自在に泳ぎまわり、給士を遥かに上回れるのだ。

だが。
弟者の左腕は鉄で出来ている。これでは水中を自由に泳ぐ事など出来ない。
だから彼は、愚かしいとは分かっていても嫉妬してしまうのだ。

???『どうした? 考え事か?』

その声に我に返る。
気付けば、彼の嫉妬の対象は湖からあがる直前で。
陸地の岩に片足を乗せ、こちらに片手を伸ばしていた。

(´<_`;)『あ、あぁ。すまんな』

引き上げてくれと言っているのだろう。
弟者は慌てて手を差し伸べる。
が。

(´<_`:)『う、うわっ!!』

岩に生えた苔にでも足を滑らせたのか。
その者は背中から湖に転げ落ちる。
当然、手を繋いだままの弟者も引っぱられるようにして、水しぶきと共に湖に転落した。



47: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:07:48.01 ID:NN6yVO1T0
???『………』

(´<_`;)『………』

下半身を冷たい水に浸しながら絡まりあう身体。
顔の距離は互いの熱い吐息を感じ取れるほどに近く。
声を絞り出す事も出来ず見つめ合う。

???『これは……』

(´<_`;)『ヤバイ…何だか分からぬが非常にヤバイ』

思う心と裏腹に身体は動かない。
いや、むしろ近づこうとしているにょろ。
そこにある想いは、少しの戸惑いと大きな期待。
微かに震える身体と、壊れそうなほどに高鳴る胸の鼓動。
潤んだ瞳の中に自分の姿が見える。
そして二人はゆっくりと……

???『……』

(´<_`;)『……にょろ?』





木|∀゚)『…はぁはぁはぁ……貪りあうように…互いの唇を求め合い…はぁはぁはぁ……』

(´<_`#)『……』



51: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:10:33.72 ID:NN6yVO1T0
(メ* ∀ )『…ねぇ。凄く痛いんだけど』

(´<_`#)『自業自得だ!! この腐れ馬鹿!!』

木陰に隠れて自分勝手なストーリーを展開させていた女に特大の拳骨を喰らわせてなお、
弟者の怒りはおさまらなかった。
芝の上にペタンと座り込み頭を抱えている女。
旧友【不敗の魔術師】ツーを怒鳴りつける。

( ´_ゝ`)『全くだ。馬鹿な事をしてないで声をかければよいだろうに』

褌で濡れた頭髪をかき混ぜるように拭きながら、水中の影。【金剛阿】兄者が話しかけた。
当然全裸である。
あまりにも激しく髪を拭くので、【魔女】の前で粗末なシンボルが振り子のように揺れている。

(´<_`#)『兄者も兄者だ!! 前を隠せ!!』

(*゚∀゚)『あ、そのままでいいよ』

弟者の八つ当たりにも近い叱責をツーが静止する。

(*゚∀゚)『よく観察してリアリティある作品を…キャンッ!!』

再び弟者の拳骨が彼女の頭頂部を直撃した。

(´<_`#)『全くこの女は…相変わらず品の無い…』

(;´_ゝ`)『早すぎたんだ。腐ってやがる』



54: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:14:29.84 ID:NN6yVO1T0
それから。弟者が火を起こし始めた脇で、ようやっと兄者は服を着始めた。
【腐敗の魔術師】はそれを観察しながら小さな紙切れに何やら必死に書き取っている。
その彼女にいちいちオーバーなポーズを決めている為、兄者の着替えは遅々として進まなかった。

(´<_` )『あのなぁ、ツーよ』

小さな火種に枯れ枝を放り込みながら弟者が口を開く。
幸い、ここは森の中。枯れ枝探しには苦労しない。

(´<_` )『お前ほどの容姿の持ち主だ。男探しには苦労しまい。
       そんな参考にもならぬ兄者のお粗末君など見てないで、とっとと特定の相手でも見つけたらどうだ?』

そうすれば彼女の奇癖も落ち着くだろう。そうと期待した。

(*゚∀゚)『ちっちっちっ。弟者は男と女の事は何にも知らないんだねぇ』

しかし、彼女は左手に持った筆を左右に振りながらそれを否定する。

(*゚∀゚)『この【不敗の魔術師】!! 現実の男などに興味は無いっ!!』

これがもし彼女が愛読する姿絵本の1シーンであれば、背後に落雷のシーンが描かれていたであろう。
耳ざとく捕らえたのは、ちょうど着替えを終えた兄者である。

(;´_ゝ`)『え? 俺は?』

それを聞いたツーはしばらくポカンとしていたが、やがてサッと顔を青くして。

(;*゚∀゚)『あ? …そっか…兄者にも生殖器官ついてるんだったか…。
      一応男だったんだ…てっきり何か小さな生物の集合体だとばかり…。
      え? って事はコレも性交で繁殖するの? うわ…キモ……そりゃ無いわ…絶対ありえないわ……………』



56: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:19:20.38 ID:NN6yVO1T0
(´<_`;)『お前…あんまりだわ』

(;*゚∀゚)『あの…その…ごめんなさい』

焚き火を囲む三人。
弟者は胡坐で。ツーは正座で。
そして兄者は体育座りで、膝の間に顔を埋めたままあげようとしない。

(´<_`;)『考えても見ろ。兄者が謎の生物の集合体だとすれば、弟の俺もそうなるのだぞ』

焚き火にかざした小さな片手鍋をグルグル回しながら言う。
全体が熱くなるよう、湯を巡回させているのだ。

(´<_`;)『第一、もしそうだとしたらお前が毎日毎日眺めている、我らの絡み本はどうなるのだ?』

(;*゚∀゚)『えっと…人外陵辱けっ!?』

言い終わる前に腰を上げず、足の力だけで蹴り飛ばす。
どうやら足が痺れていたらしい彼女は、ガードにも力がなく無様に転がった。

(#*゚∀゚)『あ、あんたねぇっ!! 何すんのさっ!! 常識ってもんが無いのかいっ!?』

倒れたまま喚く。

(´<_`#)『その言葉、綺麗そっくり包装してお返しするぞ。
       熱湯をかけられなかっただけマシだと思え』

ギャンギャンと犬猫の喧嘩のように騒ぎ立てる二人。
その間【金剛阿】兄者は━━━━━。
一人寂しくすすり泣いていた。



58: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:21:07.53 ID:NN6yVO1T0
( *´_ゝ`)『わははははははははははははは!! まぁ、貴様ら凡人が嫉妬する気持ちも分からぬでもないがね!!
       ほら。遠慮せずに飲むがいい』

ほんの少しの後。給士ハイン風に言えば『茶葉に湯を注いで完全に葉が開く位の時間』の後。
兄者の機嫌はコレでもか、と言うほどに良くなっていた。
なんて事は無い。ただ、兄者玉の一つを溶かし込んで作った茶を

     (*゚∀゚)『あ。コレ美味しい』

と褒めただけである。

(*゚∀゚)『ウザイなぁ。ウザイよなぁ』

不本意ながらも事の発端となってしまった本人は、城門を出てから腰につけた三本の愛刀の柄に手を当てている。

(*゚∀゚)『今すぐ謝れば失神するまで殴って許したげるさ』

(´<_` )『謝らなければ?』

(*゚∀゚)『失神してから14発追加で殴るね』

(´<_`;)『結局、失神だけはさせるんだな』

14発という数字はどこから出てきたのか? そんな考えが頭をよぎるが、口にはしない。
これ以上話を面倒臭くするのはゴメンだった。
兎に角、兄者がようやく復活したのだからそれで良しとするとして。
弟者は当初からの疑問を口にする。

(´<_` )『で、ツーよ。お前は一体何をしにきたのだ?』



61: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:40:09.77 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)『あぁ、あんた等をスカウトしにねっ!!』

まぁ、そんな所だろうと思っていた兄弟は動じる素振りも見せずに茶を啜る。

(*゚∀゚)『でも、あんたらが見つかんなかったから代わりに【無限陣】にお願いしたら拒否されたよっ!!』

(;´_ゝ`)『は?』(´<_`;)

しかし、そこまでは予想できなかった。
二人合わせて間抜けな声を漏らす。
兄者などは鼻から茶を垂らしてしまっていた。

(*゚∀゚)『あれ? どうかしたかいっ!?』

(´<_`;)『どうかしたかいっ、ではないわ。この大馬鹿者』

(;´_ゝ`)『馬鹿だ馬鹿だ、とは常日頃から思っていたが、ここまで馬鹿だったとは…』

(*゚∀゚)『にょろ?』

全く意味が分からないと言う表情のツーを弟者が怒鳴りつける。

(´<_`#)『あのなぁ!! そのような頼みをされて首を縦に振る者がどこにいる!?
       お前は少しでも【無限陣】が許可を出すとでも思っていたのか!?』

が、【魔女】の返答は兄弟の想像の更に斜め上を行く。



(*゚∀゚)『うんにゃ。全然思ってなかったよっ!!』



64: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:43:04.68 ID:NN6yVO1T0
(;´_ゝ`)『……』(´<_`;)

すでに漏らす声も無い。
彼女の行動の真意を分かりかねた二人は、ただ魔女が言葉を紡ぐのを聞く事しか出来なかった。

(*゚∀゚)『あたしゃね、あんたらがメンヘルやモナーに忠誠を誓ってるなんて全く思った事が無いよ。
     でも、バーボンであんたらが姿をくらませてから。
     あたしの調べじゃ、結構すぐに【無限陣】に仕えてる。間違いは無いねっ!?』

(´<_`;)『う、うむ』

これこそがツーと言う人間の本当に恐ろしい顔である。
ただ猪のように直進しているだけではない。
綿密な調査によって相手の事を知り尽くしているからこそ出来る、大胆な戦術なのだ。
豪放に見えて繊細。【不敗】の異名はこう見えて伊達ではないのである。

(*゚∀゚)『で、しかもあんたら兄弟は自分の意思で【無限陣】を選んだ。
     しかも、かなり真剣にやってるらしい。そんなあんたらに寝返りを打診しても無駄ってもんだろっ!?』

どうせ兄弟に裏切りを打診しても断られるに決まっている。
そして、その情報は間違いなくクーの元に伝わるだろう。
ならば自分の口からクーに伝えても結果は同じ。
大体、このような姑息な手段は自分は好まない、とツーは言う。

(* ∀ )『そもそも、ね。あんたらは自分の意思で主を選んだんだ。そこに死後の平和をチラつかせて寝返らそうだなんて……』

握った拳が震えている。
それを地面に思い切り叩きつけて叫んだ。

(#*゚∀゚)『そこに萌えはあるのかいっ!!』



66: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:45:28.66 ID:NN6yVO1T0
(´<_` )。oO(あぁ、やはり…)

(;´_ゝ`)。oO(…こいつは大馬鹿者だ)

途中までしんみりと聞いていた兄弟はガックリと肩を落とした。
が、彼女の言いたい事も分からぬでは無い。
最後の一言を抜かしては。

( ´_ゝ`)『しかしな、馬鹿よ。質問してもいいか?』

(*゚∀゚)『うわぁ。馬鹿に馬鹿って言われちゃった。殺してぇ』

(´<_`;)『聞き流せ。話が先に進まん』

再び愛剣に手を伸ばしかけた魔女を弟者が静止する。

( ´_ゝ`)『気に入らぬならそのような命令断ればよかったであろう。
       少なくともお前は今までそうしてきた筈ではなかったのか?』

もっともな疑問である。

(*゚∀゚)『うん。でも、ちょっと気になる事があってね』

言ってツーはニヤリと笑う。

(*゚∀゚)『なんで今頃あんたらが特定の主に仕える気になったのか?
     それがあたしの影からの情報では全く分からない。
     だから、直接それを聞きに来たのさっ!!
     さぁ、あたしゃあんたらの質問には答えたよっ!! 今度はあんたらが答える番だっ!!』



67: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:48:51.10 ID:NN6yVO1T0
( ´_ゝ`)『絶世の美女と聞いて夜這いをかけたのだが逆に捕まってしまってな…』

(*゚∀゚)『あっそ。黙ってろ変態』

目もあわせず、ツーは野良犬でも追い払うようにシッシッと手を払う。
これもまぁ事実なのだが、彼女が知りたいのはその様な事ではないのだ。
しかし、兄者は再び膝に顔を埋めて黙り込んでしまう。

(´<_` )『…お前はクーの足を見たか?』

弟者の言葉は問い掛けで始まった。
ツーは黙ってコクンと頷く。

(´<_` )『あれは俺と同じだ』

言って弟者は左腕を持ち上げて見せた。
特殊な樹脂でコーティングされたそれは一見普通の腕のように見える。
だが、それは血の通わぬ冷たい鉄の塊。

(*゚∀゚)『どう言う事だい?』

(´<_` )『俺は腕を失い、泳げなくなった。
       あれは足を失い、駆ける事が出来なくなった。そういう事だ』

幼き日。彼女はあの大草原をどこまでも駆けていけると信じていたのだろう。
いや。疑う事すら知らなかった筈だ。
それが今、多くを失い。たった一つ残った思い出を護る為にもがいている。

(´<_` )『ならば俺はあれの力になりたい。
       あれが本来ずっと見れていた筈の夢を護ってやりたい。それだけでは足りぬか? ツーよ』



69: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:50:43.57 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)『……いや、十分さ』

呟くように漏らし。

(*゚∀゚)『十分だよっ!! 弟者っ!!』

堪えきれぬとばかりにバンバンと両手で弟者の肩を何度も両手で叩いた。

(*゚∀゚)『あんたの言葉には真実の萌えがあるっ!! それだけでもあたしがここまで来た意味があったってもんさっ!!』

彼女の瞳はキラキラと輝き。
何故か弟者は不気味な物を感じた。
それもその筈。
彼女の頭の中には、この主従を素晴らしい姿絵にする事でいっぱいなのである。

( ´_ゝ`)『しかしな!! 2人とも聞いてくれ!!』

突如割り込んでくる兄者。

(;´_ゝ`)『ヤツはしっかり訓練すれば義足とは言え日常生活に支障は無いのだぞ!!
       事実俺は夜這いが見つかった時、天井に身体がめり込むほどの力で蹴り上げられたのだ!!』

それもまた事実。
【無限陣】クーは稀代の兵法家であると同時に【勝利の剣】モララーの子でもあるのだ。
その武に天性の物があっても不思議は無い。

しかし、その必死の訴えも彼らの耳には届かず。
兄者は悲しそうに地面に渦巻きを描き続けるのであった。



72: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:53:19.18 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)『さて、と』

言いながら砂漠の魔女は立ち上がった。パンパンと尻を叩き、泥をはたき落とす。

(´<_` )『行くのか?』

弟者の問いに頷き返した。

(*゚∀゚)『良い話も聞けたしねっ!! とっとと帰るさっ!! 兄者。お茶美味かったよっ!!』

お茶美味しかった。その一言に体育座りの男がピクリと反応する。
しかし、彼が言葉を発する前に。その顔面には尖ったサンダルのヒールが突き刺さっていた。

(*゚∀゚)『あ。ごめん。間違って蹴っちゃったさ』

当然ワザとである。これ以上出発を遅らせたくはない。
むしろウザイ。

(´<_` )『どこか寄って行くのか?』

(*゚∀゚)『うん!! ネグローニにねっ!! どうもあたしの見た感じだとモナーはネグローニと手を組みたがってる。
     だったら、どんな国か見ていかないとねっ!!』

答えながら愛亀の背に飛び乗った。
この時、彼女はメンヘルとネグローニの同盟が可決された事を知らない。
恐るべき観察眼であった。
ゆるゆると森の影に消えていく背中を弟者は無言で見送る。
そしてその間。
兄者は地べたに仰向けになり、両手で顔を覆うようにして。
咽び泣いていたと言う。



73: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:55:47.05 ID:NN6yVO1T0
         ※          ※          ※

北の大国ラウンジ王国。
南の大国神聖ピンク帝国。
この両大国に挟まれる位置にありながら、アルキュは東洋圏の文化に色濃く影響を受けている。

【天智星】ショボンの竹冠。
【天翔ける給士】ハインは服装こそ北のラウンジで着用されている物だが、愛用の小太刀は東洋の武器である。
アルキュ全体で着用されている服も一枚作りのそれを腰帯で縛る形の物であったし、
物語中で彼らが好んで服用している茶も、ラウンジで飲まれているような紅茶ではなく、
茶葉の醗酵を抑えた緑茶の類が多かった。

この島に東洋の文化を伝えた者達がいる。

アルキュ東南部にて勢力を誇る【第五の民族】。
陸地に居を構えようとせず、特有の文字を使い。蛮勇を誇り、水戦に長けた者達。

交易船を襲い積荷を奪う彼らには幾度として討伐隊が組織された。
ラウンジ・神聖ピンク・アルキュによる大討伐隊が組まれた事もある。
しかし、その度に彼らはそれを退けた。

そして。
略奪による損害が増える事を怖れた神聖ピンクは、彼らにアルキュ島で唯一の『製塩権』を与えたのである。

塩が無ければ人は生きていけぬ。
彼らによって製造された塩は、アルキュ全域の民の生活を最低限保障する事となった。
それは言わば『第二の通貨』としての権力すら持っていたのである。

闇の流通ルートを牛耳る北部のニイトと並んで、島の経済を裏で支配する彼らを。
後世の歴史家達は【海の民】と呼ぶ。



74: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:57:40.92 ID:NN6yVO1T0
アルキュは気温差が激しい島である。
高地帯に属する北部。ニイトやギムレットがようやく春を迎えた頃。
南風の影響を強く受ける南部では、早くも夏の訪れを人々が感じ始めていた。

島の中央部であるローハイド草原を南下する。
すると、そこはアルキュ唯一の『製塩権』を有する、海の民のテリトリーだ。。
風車の力を利用して海水を汲み上げ、風の助けを借りて水分を蒸発させる。
所謂、塩田法が当時の主流であった。

肌を小麦色に焼いた男達が、上半身裸で作業に取り組む。
流した汗は瞬時に乾いてしまうので、彼らは浴びるように水分を補給し、
時折出来たての塩を舐めて塩分を補給する。

塩分の過剰摂取は高血圧症等の原因に数え上げられ、『塩分控えめ』が健康の代名詞のようになっているが、
それは大きな間違いだ。
塩分不足は、肉体や精神の疲労や精力減退、生殖機能低下などの問題を引き起こす。
そもそも、人間の血液とは海水と非常に成分が酷似しているのだ。
適度な塩分なくして健康を保つ事は出来ないようになっている、と言っても過言ではあるまい。

閑話休題。

遥かに続く塩田と風車の向こう。
帆を降ろした帆船が青い海に錨を下ろしていた。
その甲板上では。

???『暑いのじゃー』

一人の少女が太陽に文句をこぼしている。



76: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:00:24.82 ID:NN6yVO1T0
額に汗で張り付く髪を押さえる為、バンダナを巻きつけた男達。
食料や水を詰めた樽を押し転がしながら、甲板上を忙しそうに走り回る。
船は明日の朝一番で航海に出るのだ。

随分と重厚な船であった。
所々鉄で補強され、船尾には大筒まで装備されている。
積み込みの仕事が終われば、男達は街に繰り出す。
そして、娼館に向かい女達にしばしの別れを告げるのだ。

準備万端。士気も高い。
何せ、彼らにとっては久々の航海になるのだ。
この数年間。塩田を巡って彼らと戦い続けてきた【常勝将】は評議会の召還を受け、軍を一事引いた。
願ってもない『商売』のチャンスだった。

その時。

???『暑いのじゃーっ!!』

再び甲板上で怨嗟の声が上がる。
男達は一瞬その声が上がった方角をチラと見たが、すぐに作業に戻ってしまった。



77: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:02:53.45 ID:NN6yVO1T0
l从#・∀・ノ!リ人『ええぃ!! 気の利かぬヤツらめ!! 暑いと言っているではないか!!』

いっこうに構う気配もない彼らに、少女がとうとう癇癪をあげた。
頭には彼女の胴体ほどはあろうかという麦藁帽子。
暑い暑いと喚きつつも、背に黄金の髑髏が刺繍された黒い外套を脱ごうともしていない。

???『妹者。そりゃ無茶苦茶だ』

そのすぐ側で帳簿を点検していた男が声をかけた。

l从・∀・ノ!リ人『渋沢!! 船上では艦長と呼べと言っているのじゃ!! 部下に示しがつかんのじゃ!!』

???『そりゃすまなかったな、可愛い艦長さん』

言って渋沢と呼ばれた男は、背に銀色の髑髏が刺繍された外套の内ポケットから
紙巻を取り出した。
  _、_
( , ノ` )『で。俺は暑さに苦しむ艦長さんに』   
  \ζ
  _、_
( ,_ノ` )y━・~~~『何をしてやれば良いんだい?』

優雅な仕草で簡易火打石を使い火をつけると、紫煙をふぅと吐き出す。

l从・∀・ノ!リ人『決まっているのじゃ!! 暑さを紛らわせる為に一芸大会を開くのじゃ!!』
  _、_
( ,_ノ` )y━・~~~『ふふふ。楽しい提案だが却下だ』



79: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:05:02.21 ID:NN6yVO1T0
一口吸い込んだだけの、まだ長いままの紙巻を指で弾いて海に投げ込む。
海面に触れた瞬間、それは塩水を吸い込み火は消えてしまった。

(兵゚∀゚)『やれやれだwwwまた妹者お嬢のわがままが始まったぜwwww』

作業を続けつつもその会話を聞いていた男達が楽しそうにぼやく。
その表情から見て、おそらくこのような光景は日常茶飯事なのだろう。
  _、_
( , ノ` )『ほんの少し我慢すれば』   
  \ζ
  _、_
( ,_ノ` )y━・~~~『もっと楽しい航海の始まりだ。我慢するんだな』

言いつつ再び紙巻に火をつける。少女はむぅと頬を膨らませると、それを奪い取り海に放り投げた。

l从#・∀・ノ!リ人『煙いのじゃ!! あたちの前では紙巻は止めるのじゃ!!』
  _、_
( , ノ` )『そいつは出来ない相談だな』   
  \ζ
  _、_
( ,_ノ` )y━・~~~『こいつは男の美学なんだ』

l从#・∀・ノ!リ人『むきーーーーーーーっ!!!!!!』

からかう様な物言いに、妹者は麦藁帽子を放り投げ、髪を掻き毟る。
それを見ていた男達は、またしても愉快そうに笑い声を上げるのだった。

海戦戦術ではアルキュ随一とさえ言われる少女。【小旋風】妹者。
その身一つで一軍を破ったとまで言われる男。【破軍】渋沢。
この二人が歴史の奔流に巻き込まれるまで。時は迫っている。



80: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:06:30.66 ID:NN6yVO1T0
         ※          ※          ※

???『ここでいい。停めろ』

(兵゚∀゚)『かしこまりましたっ!!』

統一王によって整備された優雅なる都市【王都】デメララ。
天を目指そうかとでもしているのか?
思わずそんな事を考えてしまう、幾多の塔でこの街は成り立っていた。

だが、実際にはそのようなロマンチックな理由ではなく。
広大な湖の中央に建設された都市は、外敵にこそ万全の守りを誇ってはいるものの
常に雨季に苦しめられてきたのである。
つまり、高い塔の存在価値とは、己の自己顕示と共に雨という大敵からの防衛手段としても必要であった訳だ。

この湖の孤島へ続く唯一の侵入経路、ビッグブリッヂを渡りきった所で男は馬車を降りた。
声などかけずとも、背後に傅く従者が持つ旗印を見ただけで城門が開かれる。

歳の頃で言えば、ちょうど中年期を終え高齢期にさしかかろうかというところだろうか。
顔には深い皺が刻み込まれ、髪にも白い物が随分と目立っている。
が、反り返った太い眉と南風に晒されて浅黒く焼けた肌が『隠居にはまだ早すぎる』と自己主張していた。

湖風に翻すは白銀の竜が刺繍された外套。
これを身に纏うを許されしは、アルキュに只一人。
先の革命において統一王を支えた戦車隊の長。バーボン領の正統領主。

(`・ω・´)『王都に戻ってくるのも随分と久しぶりだな』

禁軍元帥。【常勝将】シャキンである。



81: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:08:14.49 ID:NN6yVO1T0
従者を一人連れただけの格好で、城門から宮殿に続く大通りを歩く。
警備の兵など必要ない。住民は自らの意思で道を空け、悠然と歩く男に喝采の声を送る。
諸兄らの中には、シャキンの無防備さを非難する者もいよう。
恐れ多くもリーマン族の大重鎮である。
このような無防備さでは暗殺の機会は数多くあるだろうし、実際身の危険に晒された事も幾度としてある。

しかし。暗殺などと言う姑息な手段に頼る者は、全てその実力と眼光で退けてきた。
その度に警備の兵を増やそうと言い出す者が現れる。
それでも彼は

(`・ω・´)『それで散るならそれまでだ。因果応報という物である』

と、その意見を退けてきたのだ。
統一王の革命に参戦し、戦場に生きる事40と数年。
数え切れないほどの敵兵の命を奪い、それと同じ位の味方を死地に送り込んできたのだろう。
それ故の覚悟だ、と人々は噂しあった。

威風堂々とした彼とは正反対に、背後に従う男こそ哀れである。
どこぞの貴族の三男坊が修行に出された、と言う感じだろうか。
もやしのようにひょろ長い全身に緊張のあまり脂汗を垂らしている。
元帥の付き人、と言うだけでもかなりの重圧であるのに、これほど多くの人々の目に晒されているのだ。
それも止むなしであろう。

と、その時。
シャキンがふ、と歩を遅らせた。
自然彼と距離の縮まった従卒の方に顔だけ振り向かせる。

(`・ω・´)『少し遅くなってしまったな。もう他の連中は集まっているやも知れぬな』

言って笑いかける。



83: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:09:34.51 ID:NN6yVO1T0
戦場で幾千万の新兵の緊張をほぐしてきた、自信に満ち溢れた微笑みである。
おおよそ、ガチガチに硬くなった従者のそれを和らげようとしたのであろう。
が、非常に残念な事に。『元帥に1対1で話をする』と言う体験は、この場合逆効果であった。

(従;@∀@)『おっ、うおっ…おひょひゅおりゃりゃらきゅきゅきゅ』

口どもってしまって話にならない。
この男も軍に配属されるまでは平民達の間を肩で風切って歩いていたのである。
それなのに【元帥】の前では蛇に睨まれた蛙のようになってしまっていて。

(`・ω・´)。oO(強い者には弱く、弱い者には強い。困ったものだ)

シャキンに溜息をつかせた。やむなく話題を変える事にする。

(`・ω・´)『バーボンも今では【鉄壁】が治めていると聞く。奴め。我が宮殿を汚してはいないだろうな』

(従;@∀@)『ど、どどどどど』

従者が答える前に続けた。

(`・ω・´)『【鉄壁】めが潔癖症であれば良いのだが』

(従;@∀@)『……』

鉄壁と潔癖。
どうリアクションを取ればよいか悩む従者を背にシャキンは再び歩を進める。

バーボン領の正統領主。

つまり、この男は【天智星】ショボンの父である。



85: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:11:54.49 ID:NN6yVO1T0
【常勝将】シャキンが宮殿の門を潜ってからしばらくして。
賑わいを取り戻した大通りを一人の女が歩いていた。
身に着けているのは【金剛阿吽】の兄弟と同じ黒装束。
それは至る所にヒラヒラしたフリルが飾られており、その色も目が痛くなるようなピンク色であった。

あどけない表情に、肩を少し越える程度の黒髪。
それだけ見れば市中の少女がエキセントリックな着こなしをしているだけに見えるだろう。
しかし、その腰には狼牙棍と呼ばれる凶悪な武器が。
それも、血で変色した物が二本ぶら下がっている。

狼牙棍とは、果物のドリアンに持ち手を付けた様な形状の武器だ。
筋骨逞しい男がそれを振るえば、受け止めた武器ごと頭蓋を叩き割る事も可能である。
もし、急所を外したとしても肉を裂き骨を砕く一撃に戦闘を続ける事は不可能であろう。
ただし、彼女のそれは非力な女性向けに改良された物で、一般の物より随分細身に作られていた。
釘を打ち付けたバットをイメージするのが最も分かりやすいかもしれない。

市を。特に子供向けの菓子を扱っている店を覗きこみながら女は歩く。

从'ー'从 『えへへ〜☆。おじさん、これ少しオマケしてよ〜☆』

おじさん『悪いね、お嬢ちゃん。これ以上は安くできねぇや』

店主の位置からは腰にぶら下がった凶悪な棍棒が見えないのだろう。
ニコニコと笑いながらも彼女の頼みを一蹴した。
それに対して女は、まるで子供のように頬を膨らませる。

从'ー'从 『えへへ〜☆。死ね』

おじさん『へ?』



90: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:19:30.58 ID:NN6yVO1T0
从'ー'从 『えへへ〜☆。垂れ流したテメェの糞に顔突っ込んで溺れ死ね☆』

おじさん『……』

あまりに辛辣な一言に固まる店主の前で堂々と飴玉を一つ口に放り込むと、
値札の半分程度の銀を放り投げ女は店を後にする。

从'ー'从 『ちぇ☆。ニダー様のお土産にしようと思ったのになぁ』

土産なら正規の値段で買えば良いだろうに、そのような考えは無いらしい。
足元にじゃれついてくる飼い犬に 『喰っちまうぞぉ☆』などと笑いかけながら宮殿の方向に向かって進む。

と、宮殿まであと少し、と言うところで彼女は奇妙な集団を発見した。
将官達に従う少年兵の正装に身を包んだ10名前後の子供達である。
その全てが手に思い思いの楽器を持っている。

从'ー'从 。oO(ま…さか)

何やら嫌な予感に後押しされて彼女は少年達のすぐ背後。
3階建ての塔を見上げた。

そこには陽光を背に外套をひらめかせる男の姿。
と、同時に少年達が壮大な行進曲を奏で始める。
それをBGMにして。
塔の上の男が轟音が如き声で吼え叫ぶ。

\( ФωФ)/『天知る!! 地知る!! 人ぞ知る!! 【国士無双】ロマネスク!! 見!! 参!!』
     |∧
    /



93: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:21:36.38 ID:NN6yVO1T0
从'ー'从 『……』

'ー'从

ー'从

'从









(;ФωФ)『待て!! 今すぐ降りていくから少し待ってくれ!!』



96: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:23:35.71 ID:NN6yVO1T0
口の中の飴玉が溶けきる程の時間の後、
ロマネスクは几帳面に階段を使って降りてきた。
当然、住人に礼を言うのも忘れない。

真紅の外套に黄金の甲冑。
整った顔立ちをしているが、その派手な外装より人は彼の瞳にまず気を惹かれるであろう。
右の瞳は青く、左の瞳は緑。
金銀妖眼と呼ばれる一種の奇形である。

少年『おじちゃん!! 上手に出来ただろ!!』

( ФωФ)『うむ。上出来である』

少年『じゃあ、約束どおりお駄賃おくれよ!!』

騒ぎ立てる子供達に腰の袋から数枚の銀片を手渡すと、彼らは市の中心に向かって走り去った。

( ФωФ)『楽器は後日、禁軍府まで返却するのだぞ!!』

その背に呼びかけてから、ようやっと彼は女と向き合った。

( ФωФ)『偶然であるな、ワタナベよ』

从'ー'从 『えへへ〜☆。凄い偶然だねぇ☆。マジ殺してぇ☆』

ワタナベと呼ばれた女はガックシと肩を落とし、額に手をあてて大きな溜息をつく。
その表情は『厄介なのに見つかったなぁ』と如実に物語っていた。



98: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:26:28.35 ID:NN6yVO1T0
( ФωФ)『まぁ、そう言うな。共に五虎将と呼ばれた仲ではないか』

从'ー'从 『迷惑だけどね〜☆』

五虎将とは、リーマンにおいて【七英雄】を継ぐと期待されていた五人の千騎将達を指ししめす呼称である。

【国士無双】【千刃】の異名を持つ禁軍武芸師範ロマネスクを筆頭に。
王都警備を役とする【天目将】ワカッテマス。
評議会近衛兵隊長【一丈青】ワタナベ。
重層歩兵隊・鉄柱騎士団長【鉄壁】ヒッキー。
残る一人。強襲騎兵隊・薔薇の騎士団長【急先鋒】ジョルジュは王都を去り【金獅子王】に仕えている。
ニダーの近衛兵的な役割を務める前者三人を除いて、戦場に立つ事が多い後者二人を【双璧】と呼ぶ事は
諸兄らも周知の通りである。

( ФωФ)『ククク…照れずとも良いのだぞ』

言いながらロマネスクは塔に立てかけられていた巨大な棺桶を背に担いだ。

( ФωФ)『吾輩の耳には聞こえる!! 貴様の股座から滝のように滴る水の音がな!!
       恥ずかしがらずに一言「吾輩の子種が欲しい」と言うが良い!!
       貴様の足腰が立たなくなるまで天国を見せてやろうではないか!!』

完全なる性的嫌がらせ。流石のワタナベも頬を赤らめた。

从'ー'从 『えへへ〜☆。引き千切られたタマ喉に詰め込まれて窒息死するかぁ?』

(;ФωФ)『ごめんなさい』

電光石火が如くの土下座に背を向けてワタナベは再び宮殿に向けて歩く。
なお、彼女が頬を赤らめていたのは恥ずかしさによる物ではなく怒りによる物であるのは、諸兄らが想像するとおりである。



100: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:29:13.75 ID:NN6yVO1T0
宮殿警護の兵に言われたとおり、【円卓】と呼ばれる部屋に入ったロマネスクが見た物は、
互いに口を開く事も無くムッツリとした将達の姿であった。

( <●><●>) 『貴方が遅刻してくるのは分かってました』

そう挨拶をしてきたのはやはり瞳が印象的な男だ。
が、それは金銀妖眼を持つロマネスクのそれとは性質が大きく異なる。
心の深遠まで覗き込むようなそれは、むしろヴィップの【紅飛燕】しぃに近い。

( ФωФ)『ククク…吾輩ほどの男にもなると忙しくてな』

言いながらその隣に腰を下ろす。

( <●><●>) 『確かに土下座にお忙しいようで』

(;ФωФ)『貴様!! 何故それを!?』

全てを見通すと呼ばれる男ワカッテマス。
その特殊能力を用いて敵陣の最も弱き点を突き、一騎討ちにおいても連勝を重ねてきた。
故に人々は彼を【天目将】と呼ぶのである。
この時ロマネスクが

(;ФωФ)。oO(まさか…吾輩の心を読んだのか!?)

と思ったのもせん無き事であろう。

( <●><●>) 『見てましたから。犬に小便をかけられてましたね』

(;ФωФ)『助けろよ!!』



102: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:31:43.30 ID:NN6yVO1T0
( ФωФ)。oO(それにしても)

ロマネスクは部屋内を見渡す。
ワカッテマスを挟んだ向こう側にはワタナベがほわわんと妄想に浸っている。
おおよそ、【評議長】ニダーの事でも考えているのであろう。
その更に奥。2つの座は空席になっている。
ネグローニとの交戦を控えているとされるヒッキーと、この地を去ったジョルジュの席だ。

空席になっているのはその2つだけではない。
本来この【円卓】は評議会による会議専用の場である。
それに出席すべき【勝利の剣】モララーはすでにこの世に無く。
【白鷲】フィレンクトは一時は引退したが、今ではジョルジュと同じく【金獅子王】に仕えている。
【預言者】モナーと【天使の塵】フッサールは遥か西メンヘルの地で敵対する関係だ。

そして。
腕を組み石像のように動かない【常勝将】の隣で茶を啜っている好々爺。
花を散らせた外套を纏った彼は白い顎鬚を撫でつけながらにこやかに笑っている。

/;3『ほっほっほっ。なかなかの甘露じゃて』

数幾多の戦を勝利に導いた天才軍師。
今もなお王都を囲う、デメララ湖を守護する水軍の長である老人。
人呼んで【全知全能】。
海の民の出身である彼は、今では『荒巻』と言う名を捨て
『荒巻く波』と言う意味の『スカルチノフ』と言う名を王から与えられていた。



103: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:33:14.89 ID:NN6yVO1T0
共に【七英雄】と崇められる立場にあり、今も隣り合って座りながらも
シャキンとスカルチノフは挨拶すら交わそうとしない。
この二人がお互いを嫌悪しあっている事は、王都では子供すら知っている事実だ。

ヒロユキの遺志を継ぎ、アルキュの統一こそが平和に繋がると主張するシャキン。
個々の思想には違いがあるのだから、無理に統一に拘らず郡県制を採用すべきだと主張するスカルチノフ。

シャキンはスカルチノフの出身地である【海の民】を制圧にかかっているし、
スカルチノフはシャキンらがやっとの思いで制圧した【勝利の剣】モララーの娘を庇護し、結果独立までさせている。

( ФωФ)。oO(全く下らぬ事だ)

心の中で溜息を一つ。
突出した才を持つ将が集まりながらも、全ての歯車が噛みあっていない。
手を取り合えさえすれば戦乱など簡単に治められるであろうに、
皆が皆心に持つ理想を信じるが故に協力し合えない。
しかし、その柱を捨ててしまっては戦いに生きる意味すら無くしてしまう事もまた確かなのだ。

( ФωФ)。oO(吾輩も人の事は言えぬか)

そして。
自らが置かれた立場の事を考え、ロマネスクは思わず苦笑した。



105: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:33:56.56 ID:NN6yVO1T0
てんでバラバラになってしまっているのは、アルキュ各地に散らばる【七英雄】だけではない。
彼が身を置く【五虎将】もまた、反目しあっているのだ。

王家の守護者を自称していた【急先鋒】は王都に無く。
評議会の先兵を名乗っていた【鉄壁】はジョルジュと犬猿の仲である。
ニダーの近辺警備を受け持つ【一丈青】ワタナベはニダー個人にしか興味が無い。
名門軍閥の出身である【天目将】ワカッテマスは自身の一族の発展にのみ血肉を注いだ。
かく言うロマネスクも自らの技量を高める事以外に関心を持てないのだ。

( ФωФ)『……』

ずず、と音を立てて茶を啜りながらロマネスクは考える。
西の砂漠の覇者メンヘルもまた、諸将の意思が統一されていないと聞く。
【預言者】モナーと【天使の塵】フッサール。
あまりに強い光を持つ二人が同居している為、派閥が出来てしまっている。

しかし、このリーマンはそうではない。
【常勝将】シャキン。【全知全能】スカルチノフ。【人形遣い】フォックス。
三人の【七英雄】が居並びつつも、更にその上には【評議長】ニダーその人が存在している。
が、リーマンの頂点に立ち国政の全権を握りながらもニダーが諸将を自由にしすぎている事もまた事実なのだ。

( ФωФ)。oO(これは…ニダーめの考えを明らかにしてもらわねばならぬだろうな)

元々ロマネスクは国政などに興味は無い。
今までも【円卓】の機会には仮病を使って欠席を繰り返してきた。
しかし、北部でツン。クーの両王族が即位を宣言し、
新たにネグローニのダイオードまでが独立を計っている今の状況ではそうもいくまい。
ニダーの考えを表明させる。
それがロマネスクがこの【円卓】に出席した最大にして唯一の理由であった。



106: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:35:16.98 ID:NN6yVO1T0
<丶`∀´>『【金獅子王】ツン陛下にウリの全権を返還し帰順するニダ』

やがて【評議長】ニダーと【人形遣い】フォックスが入場する。
そして、座に着いたニダーが最初に発した一言がそれであったから一同は目を見開いて驚いた。

(`・ω・´)『ニダー!! 貴様、正気か!?』

<丶`∀´>『勿論ニダ』

元帥シャキンなどは思わず立ち上がってしまっており、その勢いで座が背後に倒れ込んでしまっている。

(`・ω・´)『貴様は王女が貴様を許すとでも思っているのか!?
       長きに亘り実権を奪い【沈黙の塔】に己を幽閉した貴様を!!』

<丶`∀´>『あの時はそうせねばならなかったニダ。
      そうせねば王女は殺され、この島はラウンジ・神聖ピンクによる戦場になっていた筈ニダ』

統一王死後の王女幽閉は、ニダーによる権力簒奪が目的であったと言うのが世間一般の見方であった。
【急先鋒】ジョルジュを始めとする【王権派】もそれを頑なに信じている。
しかし、この時ニダーはその行動を『次期王の身を護る為』と主張した。
その言葉に嘘偽りはなく、それ故にこの場にいる者たちもそれを否定はしない。
何故なら彼らは『全ての真実』を知っているから。
だからこそ彼らの間で、今この時真相が語られる事は無い。

だが。
諸兄らにはこの時の【評議長】ニダーの言葉を強く心に留めておいていただきたい。
それは、この物語の終焉に向けての鍵となり。
そして【天智星】ショボンが戦いの道を選んだ最大の理由に繋がる出来事だからである。



108: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:37:56.30 ID:NN6yVO1T0
シャキンは納得しない。いや、出来ない。
戦場に生きた幾十年。
後半は統一王ヒロユキと。彼の掲げた理想と共にあった。
その中で何度も手を汚した。
友を殺し、大罪すら犯した。
そうまでして護ろうとした物を、矜持をそう簡単に曲げる事などどうして出来ようか?

(`・ω・´)『ニダー。貴様、死ぬ気か?』

それでもニダーの身を案じたのは、この男なりの譲歩である。
例え全ての真相を明かしたとしても、黄金の獅子はニダーを許すだろうか?
仮に王が許したとしても、【常勝将】シャキンを始めとする側近達は?
今は許されたとしても、走狗は煮られる運命にあるものなのだ。

しかしニダーは静かに首を横に振った。
その細い目には確かな光が浮かび、背後の窓から差し込む光がこけた頬に影を作る。

<丶`∀´>『シャキン。貴様は忘れたニダか? 我らの夢を……』

答えは無い。

<丶`∀´>『我らは王の夢。民が作りあげる民の為のアルキュを作りあげる為に戦ってきたニダ。
      そして今。かの王女はあの時王が犯した過ちを繰り返さず…民と共に歩もうとしていると聞くニダ』



110: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:39:56.69 ID:NN6yVO1T0
かつて辺境の地とされていたギムレット。
その地で即位を宣言したツン=デレは、三権を分立し。科挙による登用を推進し。
優れた臣を登用する反面、家柄のみで身を起こそうとする者達を遠ざけてきた。
重臣である筈の【白鷲】フィレンクトや【天智星】ショボンも例外ではなく。
【赤髪鬼】ヒートなどは科挙に及第するまで司書門下。
つまりは司法副官としての全権及び給金を与えられなかった程なのだ。

(`・ω・´)『……』

<丶`∀´>『ならば。我らの夢は北で叶おうとしているニダ。
      一度は諦めかけた理想はヒロユキの血を引く者が実現させようとしているニダ』

それこそがニダーの真なる野望。
かつて北の地で『民の手によるアルキュ』を旗印に立ち上がった統一王ヒロユキ。
その王亡き後、人々に『裏切り者』『権力の亡者』とさげずまれても耐えてきたのは
夜を明かして語り合った夢の為。
その為にこの男は。【議会】と言うシステムを残し、民による政治を護る為に戦ってきたのだ。

<丶`∀´>『真なる王・ツン=デレと我らが手を組めば、この島は今度こそ一つになれるニダ。
      いや。もし、王の死後権力を握ったウリを憎む形で民が政治に理想を求めるようになったのならば』

ピタピタとその細い首を叩いてみせる。

<丶`∀´>『この皺首。幾らでもくれてやるニダ。
      それ位の。死を怖れぬ覚悟は出来ているニダ』

言って【評議長】は愉快そうに笑って見せた。



111: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:41:32.74 ID:NN6yVO1T0
全てが終わった【円卓】に一人の男が腰を下ろしている。
窓から差し込む日は赤く、夕闇が迫っている事を彼に教えてくれた。

(`・ω・´)『このような事になるのならば…あの時モララーを殺さず全てを渡してしまえばよかったのだ』

男。【常勝将】シャキンはそう一人呟く。
その彼の背後に一つの影。

(`・ω・´)『寄るな。貴様は臭い』

???『おやおや。これはつれないお言葉ですね』

影は肩をすくめて訊ねる。
【影を極めし者】と呼ばれる彼にどうして気付く事が出来たのか、と。

(`・ω・´)『言ったであろう。貴様は臭い。阿片の甘ったるい香りが染み付いている』

その返答に影は愉快そうに笑った。

???『先程の独り言ですがね。あの時ニダーはモララーを殺さぬ訳には行かなかったのですよ。
    【真相】を知って挙兵したモララーを生かしておいては、全てが明るみに出る可能性がありましたから。
    そうなれば我ら…いや、貴方がたが手を汚した意味が無くなる。
    下手をすればラウンジ・神聖ピンクの両国が「逆臣討伐」の名目の元攻め込んできたでしょうからねぇ』

甘ったるい声。
この男は阿片に。いや、それ以上に己に酔っている。



113: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:44:06.32 ID:NN6yVO1T0
(`・ω・´)『一つだけ教えろ』

シャキンは背後の影に声をかける。

(`・ω・´)『何故貴様はあの時モララー討伐に力を貸した?
       貴様らラウンジにとってはモララーの叛乱は濡れ手に粟だったはずだ』

???『そうですね』

影は懐から取り出した阿片のパイプを口にくわえた。
毒々しい煙が吐き出される。

???『我がラウンジも一枚岩ではない、と言う事ですよ。
    モララーが手を組もうとしたのは私が属する派閥とは別…穏健派とやらの臆病者の集まりでしてね』

(`・ω・´)『……』

???『それに時期が悪すぎた。
    ラウンジは神聖ピンクとの戦を望んではいません。
    どうせならもっと効率よく…この島を手に入れたいものです』

(`・ω・´)『下衆め。何故貴様如きが我らの戦いに口を挟むのか。理解に苦しむ』

それを聞いて、影は口元を歪めた。



115: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:45:13.80 ID:NN6yVO1T0
???『それは私がこの島の事を案じているからですよ。力無き者達が自分の主張を声高に叫ぶから民が苦しむ。
    我がラウンジの傘下に入る事。それこそが民が平和な生活を掴む最高の近道なのです』

(`・ω・´)『それは家畜の生き方だ。人間の生き方では無い』

???『家畜の生き方を選んだからこそ…ヒロユキが現れるまで民は誰一人として立ち上がらなかった。
    違うのですか? 民は求めているのです。豚と同じ扱いを。
    島の事など。未来の事など考えたくは無い。ただ日々を自堕落に生きていられれば良い。それが民と言うものなのです』

言って影は『これ以上の討論は無用』とばかりに歩を進めた。その姿が夕陽に晒される。

(`・ω・´)『どこへ行く?』

???『北へ。どうやら昔壊れたと思っていた人形が面白い動きをするようになったようでして。
    ちょっと回収してこようと考えています』

(`・ω・´)『……』

???『そうそう。ヒロユキもモララーもラウンジが望む支配者ではありませんでした。
    しかし、モララーの娘。【無限陣】ニイト=クール。あれはいい。
    彼女は停滞に身を任す道を選んでいる。我がラウンジの理想通りの人形になるでしょう。
    が、傀儡は一人で良い。そうは思いませんか?』

振り返る。その正体は。

爪'ー`)y‐『物はついで、と言う奴です。私の可愛い可愛い暗殺人形を回収するついでに。
      【金獅子王】とやらを始末してご覧に入れましょう』

【七英雄】が一人。
【人形遣い】フォックス━━━━━。



116: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:47:05.17 ID:NN6yVO1T0
影は消えた。
今度こそ【円卓】に一人残されて、【常勝将】は物思いに耽る。

確かに【黄金の獅子】ツン=デレがいなくなればニダーの言葉は実現しなくなる。

しかし、彼女がいなくなれば誰一人として【王の理想】を継ぐ者がいなくなる。

しかし、ニダーの意思通りに事が進めば王の遺産たる【評議会】の力は弱まる。
今は良くとも将来必ず、嫌悪すべき独裁者が。理想を持たぬ王が現れる。
それだけは避けねばならない。

しかし、フォックスの自由を許しては近い未来に玉座に座るのは傀儡の王だ。

しかし、今のまま。ただ日々を過ごして時を待つには彼は老いすぎた。

否定の連鎖にシャキンは思わず白髪頭を抱え込む。

(`・ω・´)。oO(どこで…どこで道を間違えた)

問いかける声に。








答えは無い。



117: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:47:45.30 ID:NN6yVO1T0
         ※          ※          ※

季節は巡り、柔らかかった若芽が濃い緑色に変わる頃。

【鉄壁】ヒッキーは歩兵1000、騎兵500、重装歩兵部隊【鉄柱騎士団】500を連れ
隣領ネグローニに侵攻した。

その更に西。
砂漠の民メンヘルは【海の民】にリーマンを牽制させつつ、虎視眈々と北部を狙っている。

ギムレットのツン=デレは『獅子身中の虫』に手を焼き。

ニイトの【無限陣】は強き力を持ちつつも弱き心から掌を赤く染め。
思い出にしがみつき、答える者の無い助けの声をあげ続けている。

銀髪の青年ブーンは王家の猟犬として北の大地を駆け回る。
やがて知る事になる己の真実になど、全く関心の無いように。

そして。









戦乱の日々がまた始まる。



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