( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:18:58.00 ID:qMy/EJzs0


     登場人物一覧 ・ヴィップ軍

( ^ω^) 名=ブーン(ナイトウ) 異名=??? 民=??? 
       武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長
       現在地=白面の村 状況=???
       特徴=銀髪の神の青年。死んだと思われていたが生存。陰でツンを支える。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン
      武器=禁鞭 階級=アルキュ王
      現在地=ギムレット 状況=???。
      特徴=金髪の少女。

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン
      武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=医学・栄養学などに精通。髪飾りを集めるのが趣味らしい。

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン
     武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=熊を思わせる大男。愛用の抱き枕が無いと眠れない。



5: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:20:55.80 ID:qMy/EJzs0
(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン
      武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=白眉の青年。ジョルジュとは義兄弟。馬鹿。

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手・心無き暗殺人形) 民=???
     武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=黒髪が美しい黒衣の給士。料理以外の仕事は完璧

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 民=リーマン
     武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=癖が強い赤髪を持つ赤い給士。料理だけなら完璧。

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙) 民=リーマン
     武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=灰色の髪と神秘的な瞳を持つ、無口な少女。

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン
      武器=長剣 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=隻腕の老将。白髪を丁寧に後頭部に流している。ジョルジュとヒートの師にあたる存在。

(,,^Д^) 名=プギャー(タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ
     武器=拐 階級=白衣白面副長
     現在地=白面の村 状況=???
     特徴=常に自嘲するかのような笑みを浮かべた筋骨隆々たる大男。



7: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:22:42.71 ID:qMy/EJzs0
            ・リーマン族

<丶`∀´> 名=ニダー 異名=翼持つ蛇 民=リーマン
      武器=??? 階級=評議長
      現在地=デメララ 状況=???
      特徴=黒髪を後頭部で束ねた痩せた男。評議会を牛耳る。

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=狐・人形使い(七英雄) 民=???
      武器=??? 階級=評議会情報部
      現在地=??? 状況=???
      特徴=派手派手しい外套に身を包んだ隠密。阿片の常習者。

(-_-)  名=ヒッキー 異名=鉄壁 民=リーマン
     武器=鉄鎚 階級=千騎将。鉄柱騎士団団長
     現在地=デメララ 状況=ネグローニに侵攻開始
     特徴=重厚な鎧に身を包んだ将。ジョルジュとは犬猿の仲。

(`・ω・´) 名=シャキン 異名=常勝将(七英雄) 民=リーマン
       武器=??? 階級=バーボン領主 元帥
       現在地=南部塩田 状況=海の民と交戦中
       特徴=ショボンの父。

/;3  名=スカルチノフ 異名=全知全能(七英雄) 民=リーマン
    武器=??? 階級=元・ニイト自治区監査
    現在地=デメララ 状況=???
    特徴=髭の翁。花の描かれた派手な外套を着込む

??? 名=ヒロユキ 異名=統一王 民=リーマン
    武器=鉄鞭 階級=先王



9: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:23:33.89 ID:qMy/EJzs0


( ФωФ) 名=ロマネスク 異名=国士無双 千刃 民=リーマン
       武器=??? 階級=禁軍武芸師範
       現在地=デメララ 状況=???
       特徴=金銀妖眼と呼ばれる眼をした剣士。

从'ー'从  名=ワタナベ 異名=一丈青 民=リーマン
      武器=狼牙棍 階級=評議長近衛部隊隊長
      現在地=デメララ 状況=???
      特徴=ピンクのゴスロリ忍装束に身を包む。ちょっと毒舌

( <●><●>)  名=ワカッテマス 異名=天目将 民=リーマン
        武器=??? 階級=王都警備部隊隊長
        現在地=デメララ 状況=???
        特徴=全てを見通す眼を持った戦士。



12: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:24:53.06 ID:qMy/EJzs0
            ・リーマン族(ネグローニ城)

/ ゚、。 / 名=ダイオード 異名=狂戦士 民=???
      武器=??? 階級=ネグローニ領主
      現在地=ネグローニ 状況=心を入れ替えたかのように国政に精を出す。
      特徴=仮面とフードに身を包んだ男。

(=゚ω゚)ノ 名=イヨゥ 異名=繚乱 民=モテナイ
     武器=斧槍 階級=黒色槍騎兵団長
     現在地=ネグローニ 状況=???
     特徴=頬に傷を持つ小柄な戦士。少年と間違えられても不思議は無い。

( ´ー`) 名=シラネーヨ 異名=??? 民=???
     武器=??? 階級=領主補佐
     現在地=ネグローニ 状況=???
     特徴=弛んだ二重顎の文官。自称知識人。

川l.゚ ー゚ノ! 名=ナナ 異名=??? 民=モテナイ
      特徴=イヨゥの妹。春風を思わせる笑顔を持つ。

(.≠ω=) 名=ロシェ 異名=一枝花 民=モテナイ
       武器=??? 階級=軍師・赤枝の騎士団長
       現在地=ネグローニ 状況=???
       特徴=ボサボサの長髪を気にもしない女軍師。常に気だるそうにしている。



15: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:26:43.55 ID:qMy/EJzs0
〜超手抜き地形説明・ちゃんとしたMAP? そんなの都市伝説でしょう編〜

             Aギムレット高地
@キール山脈     
                         Bニイト自治区

=====大地の割れ目==========     
                               Cネグローニ地区
         Eバーボン地区

              Fローハイド草原      Dデメララ地区

Gモスコー地区
   
                 Hシーブリーズ地区

※島の高度は、@→A→B→C…と番号が大きくなるにつれて低くなる。
人々の暮らしは温暖なD〜Fに集中している。
また、南から西南に抜ける風の影響でGHは北部とは比較にならないほど気温が高くなっている。

大地の割れ目を流れるのはマティーニ河。
そこから枝分かれしてEとFの境目を流れるのがバーボン河。
バーボン河は更にGとHの境を抜けて海に出る。

@…どこにも支配されていない。
ACDE…リーマン支配下。ただしAは厳しい気候の為か半ば放置されている。
B…ニイトの自治が認められているが、実質的にはリーマンの支配下。
F…中立帯だが、リーマンの力が強い。
G…メンヘル支配下
H…中立帯だが、この地区を占拠する【海の民】とメンヘルが同盟関係にあり、メンヘルの力が強い。



20: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:30:07.46 ID:qMy/EJzs0


     第16章 黒犬


ネグローニとバーボン。
双領の領境に一本の柿の木がある。
付近には双方共に小さな村があり、平時であれば子供達がその実を分け合い成長期の食欲を満たした。
しかし。
大人達のいがみ合いは子供達にまで伝染する物である。

ある秋の日。
ネグローニ領の子供とバーボン領の子供が一つの柿の実を巡って喧嘩をした。
敗れたネグローニの子供は翌日仲間を連れてバーボンの子を襲い、『戦利品』として大量の柿の実を手に入れた。

しばらくすると、その行為に逆上したバーボン領の村人がネグローニの村を襲撃し、『この罪は親の罪』とばかりに食料を強奪した。

対してネグローニは領境の警備兵が出兵し、バーボン領の村を焼き果たした。

更にバーボンも警備兵を出陣させ、ネグローニ領の詰め所を焼き払い。

ネグローニは騎士団を派遣してバーボン軍が自領に戻る前に襲い掛かるや、殲滅し多くの軍馬を奪った。

そして今、バーボンでは領主代行【鉄壁】ヒッキーがネグローニに軍を進めようとしている。

たった一つの柿の実から始まったリーマンに属する者同士の殺し合い。
歴史上最も愚かな戦の一つとして有名な【柿の木事変】の始まりである。



23: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:33:01.08 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

/ ゚、。 /『…鶴翼…で来るだろうな』

ヒッキー出陣の知らせを聞くや否や、ネグローニ領主ダイオードは自ら城を出る。
その彼が戦場に選んだのは、やはりこの度の戦の原因となった領境。
比較的なだらかな。猫の額程の小さな平地であった。

バーボン軍の主力、【鉄柱騎士団】はその名が示すよう重装歩兵部隊である。
犬猿の仲である【薔薇の騎士団】に対抗して組織されたとまで言われるそれは
長槍を装備した集団密集陣形を取る事で、騎兵に対して圧倒的な強さを誇った。

つまりは、兵をもって巨大な岩山を築くような物である。
揺るぎなき鉄の塊は騎兵の突進を受け止め、その命とも言える機動力を容易く奪いとってしまう。
まさに【鉄壁】の名に相応しい戦術であると言えよう。

更には攻防一体の陣形とも言える【鶴翼の陣】。
中央本陣が騎兵の動きを喰い止め、左右の翼がこれを叩く。
非常に理に適った戦術であり、歴史的に見ても数多くの騎兵部隊がこの陣形に敗れ去っている。

(.≠ω=)『うん…まぁ、そーくるだろうねぇ』

欠伸を噛み殺しながら答えたのは、ダイオードの軍師【一枝花】ロシェだ。
決して有利とは言えぬ状況。
もしも【鶴翼】を怖れるならば、平地ではなく重装歩兵が身動きを取れぬ山岳地帯を選ぶべきだった。
山岳地帯は騎兵にとっても鬼門だが、この地で暮らしてきた彼らにとってそれは庭のような物である。
機動力を殺す事無く削り取るように敵軍の数を減らしていく。
それこそが上策であったはずである。
しかし、彼らはそれを選ばなかった。
何故か?



28: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:35:38.44 ID:qMy/EJzs0
(.≠ω=)『ま、山岳地帯まで誘き寄せてたら途中で幾つの村が壊滅させられるか分からないし。
       仕方ないやねぇ』

それが答え・その@である。
敵将ヒッキーとて自軍主力の弱点は理解していよう。
ならば、あえて鬼門には立ち入らず周囲の村や砦を襲うだけで軍を引くやも知れぬ。
そうなれば、彼らにとって大軍を動かしただけで戦果は無しと言う結果に終わり。
無意味どころか財政的に見ても損失を出しただけ、と言う事になるのである。
そしてもう一つ。

(=゚ω゚)ノ『でも、この不利な状況を引っ繰り返せばネグローニの名は天下に轟く事間違い無しだヨゥ』

彼らにとってはこちらこそが重要であった。

兵法学的に考えて、不利な状況で戦端を開くと言うのは愚行である、と言う事は諸兄らにもご理解いただけよう。
戦とは一瞬の輝きのみを求める物にあらず。
永劫に続く歴史の中で、戦後の政治的展開も考慮せねばならない。
例えば、『辛うじて勝ちました。でも余力は残っていません』では戦後第三国の侵略を許す可能性が高く。
そういった事を考えれば、余力を残して勝利せねばならない。

戦術家の多くは寡兵をもって大軍を破り、智を持って無敵の剣と為す事に快感を覚えるだろう。
が、それでは二流以下の烙印を押されても仕方あるまい。
戦術は戦略に依存し、戦略は政治に依存し、政治は経済に依存する。
つまり、戦術。戦争行為とは最終手段に過ぎず、そこに辿り着くまでの過程こそが重要である事は
想像に難くない。
ニイトの【無限陣】クーが強大な勢力を誇っているのも、彼女が戦術だけでなく。
経済と言う分野でまで力ある存在であるに他ならないのだ。



34: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:39:30.40 ID:qMy/EJzs0
しかし。
だからこそ、戦術レベルの勝利が戦略・政治・経済レベルにまで影響を及ぼす事がある。
それはあくまでも稀有な例に過ぎない。
が、レアなケースであるからこそ、その効果は計り知れない物となる。

背水の陣、と言う言葉をご存知だろうか。
漢の高祖・劉邦の武将である韓信は、あえて不利とされる『水辺を背にする陣』を取る事で兵の戦意を高め、結果斉の大軍を討ち破った。
これにより韓信の名は天下に轟く事となり、以降彼が向かうところ敵軍は戦う事無く降伏する事を選ぶようになったのである。

この時。ダイオードがしようとしている事は、正にそれであった。

/ ゚、。 /『…シラネーヨ』

(;´ー`)『ネ、ネーヨッ!!』

仮面の領主の声にでっぷりと太った男が応える。
その身に纏った甲冑は傷一つ無く、急遽こしらえた物である事は容易に想像できる。

/ ゚、。 /『…貴様には一軍を与える。精々奮闘し、無能の肩書きを捨て去るが良い』

そうする事で自称・知識人はかつての栄光を取り戻せるだろう。
しかし、問題が一つだけある。
果たして、本当に勝てるのか?

/ ゚、。 /『…心配するな』

ダイオードは仮面の下で不敵に笑って見せた。

/ ゚、。 /『…鶴翼は竜に絡め取られ血に染まる事となるだろう。
      戦術の極み。心ゆくまで味わうが良い』



45: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:42:42.44 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

(-_-) 『ダイオードめ…何を考えているんだ』

ネグローニ領に侵入した【鉄壁】ヒッキーがまず最初に行った事。
それは全ての事の発端となった村を焼き滅ぼす事だった。
男も女も。子供も老人も。
只一人の例外も許さず殺しつくした。

不穏な空気を垂れ流しているとは言え、ネグローニもリーマン領の一つに過ぎず。
結局は得る物のない同士討ちである。
流れ上バーボンに常駐している本隊まで動かさねばならなかったが、
彼の本心としては『問題を起こした村が互いに焼き払われた』と言う事で手打ちにしたい所であった。

しかし、ダイオードは草原を挟んだ向かい側に陣を張り、
戦う気満々に見える。

(-_-) 『くそっ』

忌々しげに呟いた。
元々彼がバーボンの地に赴任する事となったのも、ダイオードと協力して北の山賊を平定する為である。
しかし、その山賊は【金獅子王】ツン=デレによって粗方片付けられ。
その代わり、と言うわけでは無いだろうが【狂戦士】が評議会に影に表に反発しだした。
その行く末が今回のくだらない出兵騒ぎ、と言う訳だ、



54: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:47:16.92 ID:qMy/EJzs0
(-_-) 『…フン』

もう一度忌々しげに口に出してから、ヒッキーは手元の碗から冷めた茶を一口啜った。
今も昔もバーボンに住む者達は茶の味にうるさい。
それに影響されて舌が肥えてしまった今の彼には、戦場で飲む茶は酷く味気ない物に思えた。
しかし。
それがかえって【鉄壁】の戦士としての魂を呼び戻させる。

(-_-) 『ダイオードめ。何を考えているんだ』

腕を組み考える。
尻の下で、重装の彼の体重に負けた座が軋んで嫌な音を立てた。

戦とは金食い虫である。
大戦術家として名を馳せた孫子は『遠征は民の財産の七割を奪い、国の財産の六割を消費する』とまで言っているのだ。
やらずに済むならそれに越した事は無い。
それでも軍事行動を起こすならば、その裏に何かしらの考えがあるはずだ。

(-_-) 『……』

まず思い浮かんだのが、領主ダイオードの暴走だ。
しかし、すぐさまそれを否定する。
かつての【狂人】ならいざ知らず、今のダイオードは完全に傾いていたネグローニの財政を
僅か4年で建て直した【名君】だ。
影の報告によれば、市には物資が溢れ娯楽場まであると言う。
人々が娯楽に手を出せると言う事は、生活が安定している証拠だ。



64: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:50:33.83 ID:qMy/EJzs0
(-_-) 。oO(ならば、財政安定で調子に乗ったか?)

否。
それもありえない。
聞けばダイオードは己の野心をひた隠しにする為、愚者を演じていたと言う。
それ程の男がこのような軽挙にでるだろうか?

(-_-) 。oO(そうするとやはり…)

残る可能性は一つ。
彼が隠し通してきた野心。
リーマンからの独立。
準備が整い、ついに行動に出てきたと考えるべきか。

(-_-) 。oO(……)

そこまでヒッキーが考えをまとめた所で、幕舎に一人の騎士が飛び込んできた。

騎士『将軍!! ダイオードが兵を率いて陣を出ました!!』

(-_-) 『……フン』

雑念を払うかのように頭を振って立ち上がる。
自分は何を無駄な事を考えていたのか。
【鉄壁】ヒッキーは戦士である。
であれば、戦場に全てを賭けるべきだ。

(-_-) 『分かった。我らも出陣する』

言ってヒッキーは外套をはためかせ、薄暗い幕舎を後にした。



68: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:53:38.21 ID:qMy/EJzs0
(;-_-)『なっ!?』

敵軍の陣構えを見て、ヒッキーは思わず声を漏らした。
【戦士の街】と呼ばれるだけあってネグローニには【鉄柱】や【薔薇】に劣らぬ騎士団が存在する。
【繚乱】イヨゥ率いる【黒色槍騎兵団】とモテナイの民だけで設立された【赤枝の騎士団】である。
戦場は平地。
当然ヒッキーはダイオードが騎兵の機動力を生かした刺突陣。
もしくは、それを更に極端化した香車陣を布いてくると考えていた。

ネグローニの攻撃力がヒッキーを上回るか?
彼が率いる鉄の壁がダイオードを押し返すか?
そこに小細工など入る余地など何処にも無い。
単純な力と力の比べ合い。
それゆえの平地戦である筈である。
いや。
そうでなければおかしかった。

しかし。
ダイオードは自身率いる【赤枝の騎士団】を中心にして。
ヒッキーから見て右側、つまり左翼に【黒色槍騎兵団】を。
右翼に歩兵中心の一軍を置いて横長に陣を構えている。

(;-_-)『バカな…何を考えている……』

そう漏らすのも無理はない。

つまり、ダイオードは。
騎兵の命とも言える機動力を殺した陣形を取ってきた。
守りの色が強い鶴翼陣に鶴翼陣をぶつける。
━━━━━消耗戦を挑んできたのである。



71: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 00:58:51.95 ID:qMy/EJzs0
騎兵による鶴翼陣。
それは決して歴史的に見ても少ない例ではない。
この場合で言えば。
領土を侵しているのはヒッキーであるから、ダイオードが守り重視の陣を布いてきても決しておかしくはない。
が、だからと言って彼ら本来の持ち味を捨て去る事に意味などない筈だ。
歩兵によって形成された鶴翼同士の衝突ならまだしも、機動力に優れた騎兵が鶴翼を組み歩兵の鶴翼にぶつける。
そこに意味などないはずだ。

そして、ヒッキー自身この戦いに大して乗り気ではなく。
故に攻め手でありながら選んだ鶴翼陣。
ならば、軽く戦陣を交えただけで和解すれば、互いのメンツも傷つかず全てが丸くおさまるのである。

しかし、ダイオードはその道を選ばなかった。
全てが黒で統一された鶴翼陣。
それは声にせずとも、ヒッキーの領土侵略を糾弾しているかのようで。

(#-_-)『フン!! 徹底的にやり合うつもりか!!』

ここに来て腹は決まった。
愛用の鉄槌を肩に担ぎ上げると、出陣の銅鑼を鳴らさせる。

そうして。
バーボン駐留軍とネグローニ軍は小さな草原を挟んで向かい合う事になったのである。



74: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:01:40.97 ID:qMy/EJzs0
(#-_-)『ダイオード!! 貴様、評議会から受けた恩を忘れ裏切るとは…恥を知れ!!』

まず、陣の先頭に出たヒッキーが慣習に習い敵軍の非を糾弾する。
しかし、同じく陣の先頭に出ながらもダイオードはそれに答えようとはしなかった。
代わりに背後を振り返り、自軍の将兵に叫びかける。

/ ゚、。 /『…我らが同胞の仇だ!! 侵略者を皆殺しにせよ!!』

翻るは赤地に黒犬が描かれたダイオードの将旗。
その声に応えるかのように左翼の先頭に立つ将が

(=゚ω゚)ノ『進撃開始だヨゥ』

命を下す。
また、右翼の歩兵隊を任された将も

(;´ー`)『し、進撃すルーヨ!!』

少し遅れて号令をかけた。
同時に中央、兜に赤い枝を飾った騎兵部隊【赤枝の騎士団】もゆるゆると軍を前に進める。

(#-_-)『愚かな!! このような消耗戦に、ただ兵力を失うだけの戦いに何の意味がある!!』

叫ぶも、ここまで来ては引き返す事など出来ない。

(#-_-)『押し潰せ!!』

全軍に命じた。
しかし、この戦いは。
熟練の将たる【鉄壁】ヒッキーをしてなお、予想できぬ展開へと進むのである。



75: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:03:47.69 ID:qMy/EJzs0
戦況が動いたのは、両軍が剣を交えて半刻も経たぬうちだった。

(;´ー`)『ネネネネネネネ、ネーヨッ!!』

横一線に広がった戦場。
軍靴が泥を跳ね上げ、汗で肌にこびり付く。
誰の物とも知れぬ血で顔を赤く染め、ひりつく喉を潤そうと唾を飲み込めば鉄の味がする。
その混戦の中、ネグローニ軍左翼。
つまり、シラネーヨ率いる歩兵部隊が極端に崩れ出したのだ。

(;´ー`)『な、何をしていルーヨ!! 斬れ!! 斬られちゃダメーヨ!!』

そんな事を叫びつつ、彼自身はとうの昔に最後方まで撤退している。
この男に兵を鼓舞する事など出来ない。
権力と保身にしか興味を持たぬ者が何を言おうと、兵は彼の為に戦わない。
そもそも、こうなる事はシラネーヨを戦場に立たせた時点で分かりきっている事だった。

それでも、彼には彼の言い分がある。



79: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:07:36.63 ID:qMy/EJzs0
/ ゚、。 /『…貴様がイヨゥやロシェに軽んじられているのは、【戦士の街】において
      貴様が唯一武功を立てていないからだ。
      戦場にて功を立て、見返してやれ。機会は作ってやる』

ある日、領主ダイオードに密かに呼び出されたシラネーヨは、そのような事を約束された。
その時に備え、大金を叩いて煌びやかな甲冑まで新調した。
比較的小柄なイヨゥやロシェ、ダイオード三人の体重を併せたよりも肥えきった彼の身を包む甲冑。
随分と値が張ったし、無駄な買い物のように思われた。
だがそれもかつての権力を取り戻すためである。
その為の出費と考えれば安い物だった。

しかし。
いざ戦場に立ってみれば、彼が任せられたのは花形とも言える騎兵ではなく歩兵部隊。
それも腰の曲がった老兵ばかりだったのだ。

血気盛んな敵兵に押されてシラネーヨはぐいぐいと後退していく。
戦場には彼の指揮する老兵達の亡骸だけが増えていった。

(;´ー`)『そ、そりゃネーヨ!! これじゃどうやって武功なんか立てろって言うんダーヨ!?』

自軍の兵をかき分け、『先頭に立って』後退しつつも
シラネーヨは領主ダイオードへの恨み言を叫んでいた。



84: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:11:44.46 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

(.≠ω=)『ん〜? 左翼が崩れ出したねぇ』

ネグローニ中軍。
その先頭で、【一枝花】ロシェはまるで他人事のように呟いた。
バーボン駐留軍の主力【鉄柱騎士団】と剣を交える場所にありながら、
彼女は甲冑も纏わなければ剣も抜いていない。
戦場の風でいつも以上に乱れた髪が肌に張り付いているのも、さほど気にはしていない様子だった。

/ ゚、。 /『…予定通りだ』

そのすぐ横で、愛馬『黒王』に跨る領主ダイオードが答える。
【狂戦士】の異名を持つ彼がいるのだから、ロシェは目の前の敵兵に気を奪われる必要などない。
ただ、戦場全体を見渡していれば良い。

(.≠ω=)『いっその事あれも討ち死にしてくれればいいんだけどねぇ』

/ ゚、。 /『…ハハ。暗殺者でも忍ばせておくんだったな。詰めが甘かったか』

『あれ』とはシラネーヨの事に他ならず。
酷い言われようである。

ダイオードが手にするは二本の短槍。
蛇のように扱い、一突きで一つの命を散らしていく。
それだけではない。
戦場の最前線にあり、数多くの精鋭に囲まれながらも彼はその攻撃を外套にすら掠らせていないのだ。
そして。しばらくしてから彼は呟く。

/ ゚、。 /『…そろそろだ。翼を奪われた鶴の死に様。とくと見るが良い』



86: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:14:42.84 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

(-_-) 『フン!!』

振るった鉄槌が、一人の騎士が跨る戦馬の頭を砕いた。
脳漿が飛び散り、頭蓋が四散する。
堪らず地に放り出された騎士は呻き声をあげるのみで身を起こす事も出来ない。
側にいた兵が襲い掛かりその首を刎ねた。

(-_-) 『くそっ』

自棄気味に動かなくなった騎士の身体を蹴り飛ばす。
戦況はバーボン駐留軍に有利に進んでいる。
ネグローニ左翼の歩兵部隊はバーボン軍の右翼によって壊滅寸前とも言えた。
にもかかわらず、敵軍中心と右翼は動じる素振りも見せない。
ただ、淡々と何かを待っているかのようにも思える。

(-_-) 。oO(何だ? 何を狙っている?)

得意とする刺突陣を捨ててまで鶴翼陣を布いてきた。
その裏に何やら思惑があるのは間違いない。
だが、それが何なのかまではヒッキーにも分からないでいた。

更に完全に崩れている敵左翼。
報告によれば、率いているのは戦経験の全く無いシラネーヨ。
兵も槍を杖の代わりにしているような老兵ばかりだと言う。

(;-_-) 。oO(これでは左翼を切り崩してくれといっているような物じゃないか)



90: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:17:42.67 ID:qMy/EJzs0
不気味だった。
敵将は戦上手で知られるダイオードだ。
そして、その側には彼が三顧の礼を尽くしてまで召喚したと言う【一枝花】ロシェがいる。
この軍師の実力はいまだ未知数のままであったが、それが更にヒッキーを不安にさせた。

(;-_-)。oO(こうなれば…ダイオードが策を発動させる前に押し潰すかしかないか)

もとより兵を引くなどと言う選択肢はありえない。
ネグローニ左翼は潰したとは言え、主力である騎兵隊は健在だ。
背後を見せた瞬間、戦況は一息に引っくり返されるだろう。

(-_-) 『総攻撃を仕掛ける!! 銅鑼を鳴らせ!!』

声高に命を下す。
いや。
命を下そうとしたのと、違和感に気付いたのはほぼ同時だった。

おかしい。
周囲にいたはずの見慣れた兵の姿が見えない。
代わってネグローニ右翼、【黒色槍騎兵団】と対していた筈の自軍左翼に属していた兵長達の顔が
随分と近くに目視できるようになっていた。

つまり。
ヒッキーの思惑とは別に。
 兵 が 右 方 向 に 引 っ 張 ら れ て い る のだ。

(;-_-)『な、なんだコレは!! 一体何がどうなって…』



91: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:20:12.21 ID:qMy/EJzs0
(;-_-)『ああっ!!』

声に出して初めて気がついた。
ヒッキーの鶴翼陣は独立した3つの集団を横に並べる陣形ではない。
それでは機動力の優れた騎兵によって各個撃破の格好の的になってしまう。
例えるならば隙間なく並べた三枚の板。
それらはほぼ例外なく均等に戦力を分散させられている。
鶴翼陣の基本形の一つだ。

不自然なネグローニの鶴翼陣。
バランス的にありえない左翼の歩兵部隊。
それが指し示す所が、諸兄らにはご理解いただけるだろうか?

そう。
兵とは勢いを尊ぶ物である。
『手柄』と言う実質的な問題もあるだろうが、敵軍の弱点を集中するのは用兵の初歩でもある。
それはあたかも水が板を流れるが如く自然に行なわれる。
まるでじわじわと浸蝕するかのように怠惰な力場の移動。
だから、歴戦の名将たる【鉄壁】ヒッキーも気付けなかった。
いや、ダイオードが気付かせなかった。

(;-_-)『な、何をしている!! 持ち場を離れるな!!』

叫ぶも時既に遅し。
右翼方面に兵が集中しようとすれば起こるのは必然的な左翼の弱体化。
そしてそれが意味する事は━━━━━

(=゚ω゚)ノ『殺し尽くせヨゥ!!!!!!!!!!』

【黒色槍騎兵団】による左翼への総攻撃である。



92: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:24:34.33 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

(.≠ω=)『…こんな陣形は初めて見たよぉ』

/ ゚、。 /『…だろうな。俺も初めてだ』

更に半刻もすると戦況は見る影も無く変化していた。
逃げるネグローニ軍左翼にバーボン駐留軍右翼が喰らいつく。
右翼に気をとられて手薄になったバーボン駐留軍左翼にネグローニ右翼【黒色槍騎兵団】が襲い掛かる。
草原の中心部にはただ死体が転がっているのみで。
その外周を互いに半円状になった両軍がグルグルと回っている、異様な光景がそこには展開されていた。

二羽の鶴による消耗戦の格好はどこへやら。
戦場はまるで二匹の蛇が互いの尾を飲み込もうとしているような姿に変わってしまっているのだ。

(.≠ω=)『【鉄壁】は消耗戦を挑んできたと思っただろうねぇ』

乱れきった髪が流石に気になったのか。
取り出した布で適当に包みながら言う。
戦が始まる前までその布には菓子が包まれていた事など、彼女にはどうでもいい話のようだった。

/ ゚、。 /『…あぁ。しかし、その時点でヤツの負けだ』

馬を駆けさせながら答えた。
その目の先では【繚乱】イヨゥが逃げるバーボン駐留軍左翼。
いや、既に『左翼』と言う表現すらそぐわないだろう。
駐留軍最後尾を追い立てている。
その小柄な騎士が槍斧を振るうたび、まるで玩具のようにバーボン兵が宙に舞った。



95: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:27:22.65 ID:qMy/EJzs0
互いに喰らい合おうとする『黒い蛇』と『鉄の蛇』。
当初こそ『鉄の蛇』優勢だった流れも、今ではなし崩し的に『黒い蛇』優勢になっていた。
その理由は3つある。

1つ。
ネグローニ軍が騎兵の特性である機動力を生かせるのに対し、
バーボン駐留軍は重装歩兵の特性である岩の如き不動性をまるで生かせない事。

1つ。
ネグローニ軍が今や最後尾となったシラネーヨ歩兵隊を切り捨てる覚悟で臨んでいるのに対し、
バーボン駐留軍はその覚悟が出来ていなかった事。

そして最後の1つ。
これは最も単純な答えである。
消耗戦における騎兵と歩兵の体力消耗差。
馬上にある者達と比べ、重い甲冑を着込んで走り回らねばならぬ者達の消耗は激しい。
それは時が経つに連れて大きく差が開いていった。

(.≠ω=)『こりゃ完全勝利ってヤツだねぇ』

バーボン駐留軍ヒッキーも自軍がこのままでは全滅させられると分かっているだろう。
かと言って全軍を反転させる事など出来ない。
行進中に兵を反転させるなど、愚の骨頂だ。
陣形を整える前に喰らい尽くされてしまう。
この戦いを終わらせられるのは、有利に動いているダイオードの命だけなのだ。
そして、その仮面の領主は━━━━━

/ ゚、。 /『…つまらんな。兵を引こう』

軍師ロシェが思いもよらなかった言葉を発したのである。



96: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:30:19.53 ID:qMy/EJzs0
(.≠ω=)『ちょいと、ダイオード。本気かい?』

呆れたように嗜める。
いや、実際彼女は呆れかけていた。

(.≠ω=)『このまま戦いを継続してれば、間違いなく大勝利だよ?
      【鉄壁】の鶴翼陣を壊滅させての大勝利だよ?
      目的は達成されたも当然じゃないか?』

彼らの最大の目的。
それは、【鉄壁】ヒッキーを撃退すると言う戦術レベルの勝利をもってアルキュ中に名を轟かせる事。
そうする事によって、戦略政治レベルでも有利な立場に立とうという物である。
つまり、『名のある将』というだけで標的に定められたヒッキーこそ災難なのであるが、
ロシェの言葉を聞いてダイオードはそれでも首を横に振る。

/ ゚、。 /『…足りない』

(.≠ω=)『足りない?』

言を返す軍師に向けてダイオードは続けた。

/ ゚、。 /『…この鶴翼陣潰しは一度しか使えぬ奇策だ。
      ただ一度の奇策による勝利を収めても、マグレ程度の見方しかされんだろう』

偶然による戦果と思われては意味が無い。
むしろ、『運良く【鉄壁】を破っただけなのに天狗になっている』などと判断されては
外交上不利にすらなりえる。
ダイオードが危惧する事はまさにそれであった。
言い終えると彼は早々に撤退の銅鑼を鳴らさせようとする。



99: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:32:52.03 ID:qMy/EJzs0
(.≠ω=)『でも、でもさ、クロ様』

ロシェはそれでも食い下がった。

/ ゚、。 /『…誰がクロ様だ』

(.≠ω=)『あんただよ。ナナちゃんがそう呼んでるだろ?』

/ ゚、。 /『…歳考えろ』

(#.≠ω=)『……』

【繚乱】イヨゥの妹。春風の笑顔を持つ少女ナナは、未だ初潮も迎えていないような少女である。
対してロシェはイヨゥから『行かず後家』扱いされる歳なのだから、この時のダイオードの反応もやむなしか。
が、プライドを傷つけられた代償にロシェは再びダイオードの意識を自分に向けさせる事に成功する。

(.≠ω=)『一番の問題は勝てるかどうか、だよ?
      確かに今のままじゃ目的まで足りないかもしれないけどさ。
      負けたら何の意味もなくなるんだよ?』

彼女の懸念はそこにあった。
今でこそ低い扱いを受けてはいるが、ヒッキーは決して弱将ではない。
彼が敗れるのも、全ては不得手な攻撃を強いられた時。
もしも兵を引けばヒッキーは陣を堅く守ってくるだろう。
そして、【鉄壁】の名が示すとおり一旦防戦にまわったヒッキーの強さは伊達ではないのだ。
しかし。

/ ゚、。 /『…だからこそ破る価値がある』

ダイオードは不敵に笑ってみせた。



101: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:35:28.23 ID:qMy/EJzs0
(.≠ω=)『…………はぁ』

ダメだコリャ、とばかりに大きな溜息。こうなればダイオードは意見を曲げようとしないだろう。

(.≠ω=)『勝てるんだろうねぇ?』

/ ゚、。 /『…無論だ』

自信ありげな笑みを見ると寂しくなる。
ダイオードの戦術家としての才能は、専門家である自分ですら思いつかぬ奇策を生み出してくる時がある。
政治家としての能力はイヨゥより優れていたし、戦士としての実力もイヨゥと大差あるまい。
この男は自分とは違う。この男は一人でも遥かな高みに辿り着ける。
世を儚んで放浪の日々を過ごしてきた自分とは違うのだ。

/ ゚、。 /『…どうした、ロシェ』

と、そこでロシェは自分の顔を覗き込んでくる領主の顔に気付いた。
仮面の目元から覗く瞳は不安げな色を湛えていて。

(.≠ω=)『…なんでもないょ』

それでもこの男は自分達を頼ってくれる。
ならば、この男と共に高みを目指そう。
この男の理想を信じ、戦乱に喘ぐこの島を一つにしてみせよう。

(.≠ω=)『何でもないさ、クロ様。さぁ、うちは何をすれば良いんだぃ? 策を示しておくれょ』

その言葉にダイオードは胸を撫で下ろす。

/ ゚、。 /『…あぁ。先の戦いで奪った軍馬がいただろう? まずはあれをだな…』



103: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:38:45.64 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

(#-_-)『クソッ!! 一体何なんだ!?』

一息に酒を飲み干した碗を足元に叩きつける。
渇いた音と共にそれは砕け散り、左右に控える従者達を怯えさせた。

時は夜。
【鉄壁】ヒッキーは陣中の幕舎にいた。
麻布を合わせ間に油紙を挟んだ幕舎の生地は雨風や夏の虫を防いではくれるが、
足元からの冷えだけはどうしようもない。
それ以上に主将ヒッキーの機嫌の悪さが幕舎内の空気を冷え込ませていた。

圧倒的有利な状況にもかかわらずダイオードは兵を引いた。
今は同じく草原を挟んで向かい側の陣中に篭もっている。

(#-_-)『ダイオードめ…』

忌々しい。
兵を引いたのは休戦目的にあらず。
バーボン駐留軍を徹底的に叩こうと言う意思表示である。
いや。
あのまま戦いを続行していてもネグローニの勝利は揺るがなかったのだから、
ヒッキーにしてみれば『玩ばれている』と感じている事だろう。

(#-_-)『フン!! 【五虎将】が一人【鉄壁】と呼ばれた僕も舐められたもんだ』

それが余計に忌々しさを募らせる。



105: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:42:11.03 ID:qMy/EJzs0
手甲を外し顕わになった爪を噛んだ。
身体は限界を越えて疲労している。
一時も早く全身を包む甲冑を脱ぎ捨てて横になりたいのが、本音だ。
が、それも出来ない。

(#-_-)。oO(夜襲か…)

多くの兵を失い、それ以上の兵が傷ついた。
疲弊していない者など一人もいない。
だからこそダイオードがこの機を逃すはずがない。
策を講じてくるならば夜襲以外にありえない。

(#-_-)。oO(今晩だ。今晩さえ乗り切れれば…)

軍をバーボン領に引く事が出来る。
流石にそこまで深入りしてくるとは思えなかった。
夜の暗みに隠れて兵を引く、と言う選択肢も無い訳ではない、
が、ダイオードが夜襲を考えているとすればそれは命取りだ。
バーボン駐留軍は伏兵の網の中、四方八方から襲撃される事になるだろう。
いや、こうしている間にも罠を練りあげ、兵を至る所に伏せていると読むべきか。
ネグローニ陣の動きの無さがかえって不気味だった。

しかし、夜が開ければ話は別だ。
日の光の中整然と軍を保ち撤退するのであれば、如何に戦上手のダイオードとは言え簡単には手を出せまい。
そして仮面の【狂戦士】もそれを分かっている筈である。
故にこの一晩。この夜が重要なのだ。



107: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:45:27.59 ID:qMy/EJzs0
(-_-)。oO(……)

耳を澄ませば。
陣中の兵舎から、呻くような低い声が漏れ出しているのが聞き取れる。
目を凝らせば。
幕舎を形成する麻布を透かして、篝火の灯りやその周辺を歩き回る兵の姿を見て取る事が出来た。

(-_-) 『……フン』

吐き捨てる声に力はない。
傲慢を絵に描いたような男、と思われがちだがヒッキーは本質的に気の優しい男である。
その一面だけを見れば、豪胆にして気配りの効く【急先鋒】や大胆にして繊細な【不敗の魔術師】と変わりえない。
が、後者二人と違ってその裏の顔を人に見せられないのが彼の不幸ではないだろうか。

疲労しきった足を引き摺って夜警に励む兵士達。
それを見てヒッキーは申し訳なく思う。
真に傲慢な者であれば、その光景を目にも留めず寝台に入っていただろう。
ヒッキーにはそれが出来ない。思いもつかない。だからこそ兵は彼を主と認めるのだ。

やがて、日も変わろうかという頃、一人の兵が幕舎に飛び込んでくる。
完全武装に身を包み座に腰を下ろした将を見たその兵は目を白黒させていた。
おそらくバーボン駐留軍に編成されて日も浅いのだろう。

(-_-) 『夜襲か?』

その言葉にブンブンと首を縦に振る。

(-_-) 『フン。ついて来い』

言うとヒッキーは血で変色した鉄槌を肩に担ぎ上げ幕舎を後にした。



108: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:48:08.01 ID:qMy/EJzs0
(兵゚ー゚)『ヒッキー将軍が出られたぞ!!』

戦場に駆けつけたヒッキーを出迎えたのは、陣を囲む策を破壊し侵入しようと試みるネグローニ軍騎兵隊。
そして、疲弊しながらもそれに抗う自軍兵士の姿だった。
敗軍の将にもかかわらず、自分の姿を見て歓声をあげてくれる兵士達。
それがヒッキーに力を与えてくれる。

(-_-) 『どけ!! 僕が前に出る!!』

兵士達をかき分け、最前線に躍り出た。
当たるを幸いに鉄槌を振るい、周囲を朱に染め上げる。
【鉄壁】ヒッキーの最も恐るべき力。
それは身に纏う重装でもなければ、防衛戦の実力。粘り強さ。はたまた狡猾さでもない。
全身鎧を身に着けながら戦場を駆け回る、鍛え上げた身体能力だ。
そのヒッキーを兵達の声が後押しする。
殴り、なぎ倒し、巨木すらへし折るような一撃を叩き込む。
その鉄槌を免れられる者は無く。
その姿に勇気づけられた兵達も疲れを忘れて騎兵に襲い掛かった。

やがて。

(;-_-)『ぜぇ…ぜぇ…撤退したか……』

その鬼神が如き奮闘ぶりに恐れをなしたか、ネグローニ騎兵隊は兵を引く。
バーボン駐留軍の被害も0とは言えない。
が、ネグローニ軍のそれは数倍に値するだろう。

それでも陣を囲む柵の一部は破壊された。
今回の襲撃に【繚乱】イヨゥやダイオードの姿は無く、これで諦めるとも思えない。



111: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:50:19.32 ID:qMy/EJzs0
(-_-) 『必ず第二陣が来るぞ』

周囲で地べたに座り込んでしまっている兵に告げた。
当然、夜眠らせずに翌日総攻撃を仕掛けてくる可能性も考えられる。
が、それは今宵再び夜襲を仕掛けてくる可能性に比べれば遥かに低い物だった。
そうでなければ先日ダイオードが兵を引いた理由が無い。

(-_-) 『傷の少ない者を選び、破壊箇所の守備に当たらせろ。
     念の為に全体の警備も怠るな。
     その他の者は交代で少しでも休憩を取るようにするんだ。
     負傷者の手当も忘れるなよ』

そう言い終えると、ヒッキーは自信の幕舎から座を持ち出させる。
星空の下、夏独特の湿り気を帯びた地面にそれを置かせると、腰を下ろした。

(兵゚ー゚)『将軍は…休まれないのですか?』

(-_-) 『フン。気が昂ぶってしまってそれどころじゃない。
     ここで少し夜風に当たるとしよう。
     しかし、これは僕の勝手だ。お前達は命令どおり休むんだぞ』

嘘である。
肉体的精神的疲労にありながら警備にあたる兵をよそに休む気など毛頭無い。
外套を夜風に靡かせながら、ヒッキーは従者の持ってきた水を一息に飲み干した。



115: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 01:56:30.79 ID:qMy/EJzs0
(;-_-)『…何だと…』

そのヒッキーでも次なる襲撃には抗えなかった。
ネグローニ軍の次なる夜襲は第一陣で破壊した策を狙う、力任せの正攻法。
が、彼らはその破壊箇所に火のついた藁を引かせた軍馬の群れを投入してきたのである。
自らの引いた炎を怖れて馬どもは半狂乱となり陣中を駆け回る。
兵達も異変と熱に混乱した。
多くの者が身を焼かれ、多くの者が狂った馬に蹴り殺された。

如何に熟練した名将でも、その相手は常に人であり。
言葉の通じぬ動物ではない。

(;-_-) 『撤退だ!! 荷を捨てよ!! 何も考えずに西へ引くんだ!!』

このような時。
守備に長じた将、としてヒッキーの指示は的確であった。
抗えぬ、と判断するや陣を捨て誇りを捨て敗残の者として命を拾う事だけを優先させる。
しかし、その命を耳にするより先に多くの者が戦意を失い逃走を始めていた。

そして。
更なる混乱が起こったのはその直後である。

(=゚ω゚)ノ『ヨヨッヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨォォォォォォォォォッ!!!!!!!』

(.≠ω=)『ほら、とっとと働いとくれ』

/ ゚、。 /『…皆殺しだ』

陣の北面から【繚乱】イヨゥが。南から【一枝花】ロシェが。
正面からダイオードが騎兵を引き連れ襲い掛かってきたのであった。



119: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 02:01:13.69 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

戦場のその後については深く語る必要もあるまい。
ヒッキーはほうほうの体でバーボン領に退却した。
しばらくネグローニを脅かそう、と言う気も起きないだろう。

ダイオード勝利の報は、一夜にして島中を駆け巡る。
【鉄壁】の鶴翼を粉砕し、続けざまの夜襲によって陣すら焼き払った。
これによりネグローニ領主ダイオードの実力は誰もが知るところとなる。
そして。

(民゚ー゚)『王様バンザーイ!!』

(民゚ー゚)『我らが王!! ネグローニ王バンザーイ!!』

城に帰還したダイオードらを出迎えたのは、圧倒的なまでの城民の歓声。
『王』の響きに怪訝な顔をするダイオードを見て

(.≠ω=)『あんたの事を言ってるんだよ、クロ様』

/ ゚、。 /『…歳考えろと言ってるだろうが。全く』

軍師の言葉に苦々しげに答える。

/ ゚、。 /『…気の早い話だ』

それでも、民の声を。
ダイオードは否定しようとはしなかった。



123: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 02:06:30.48 ID:qMy/EJzs0
         ※          ※          ※

石造りの宮殿に渇いた音が響いた。
一人の少女が全身黒づくめの領主の頬を平手で叩いたのである。
衝撃で仮面が床に転がる。
ダイオードは事も無げにそれを拾い上げると、再び顔に被せた。

(;=゚ω゚)ノ『ナナ!! お前、何やってるんだヨゥ!?』

詰め寄ろうとする少女の兄を手で静止する。

川l.゚ -゚ノ!『クロ様…沢山のお爺ちゃんを見殺しにしたんだって…』

どんな時も笑みを絶やさぬその顔はこの時だけは曇っていて。

/ ゚、。 /『…違う。俺が死地に追いやったんだ』

川l.゚ -゚ノ!『どうして…どうしてそんな事を……』

/ ゚、。 /『…勝つ為だ』

勝たねばならない。
高みを目指さねばならない。
だから、多くの老兵を囮にして。その結果勝利を掴み取った。

そのダイオードの言葉を耳にして。
少女は悲しげに歯を喰いしばる。



126: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 02:11:45.14 ID:qMy/EJzs0
川l.゚ -゚ノ!『戦いなんか…嫌いだよ』

これ以上は堪えきれぬ、とばかりに両手で顔を覆った。
肩が小刻みに震えだす。

川l. - ノ!『みんなが…もう少しだけ仲良くしようと思えば…誰も死なずに済む筈なのに』

/ ゚、。 /『…そうだな。でもそれは理想論だ』

その声に少女は顔を上げ、キッと領主を睨みつける。
そして、まるで逃げ出すようにして駆け去っていってしまった。

(=゚ω゚)ノ『ド…イオード様……』

心配そうに声をかけてくる小柄な黒騎士には目も向けず。
ダイオードは高く暗い天井を見上げる。

/ ゚、。 /『…俺は誰に恨まれようとも……さげずまれようともこの島を一つにしてみせると誓った。
      だが……あの子一人に嫌われるだけでこんなにも胸が痛むのだな』

それは独り言だったのかもしれない。
だが、【繚乱】の異名を持つ騎士は答えずにいられなかった。

(=゚ω゚)ノ『あの子は領主様の事を嫌ってなんかいないヨゥ。
     ただ、まだ子供なだけなんだヨゥ』

それでダイオードの心は少しだけ救われる。
仮面の下で小さく微笑んだ。



128: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 02:16:32.64 ID:qMy/EJzs0
/ ゚、。 /『…イヨゥよ。俺はこの島を導けるのだろうか』

その言葉にイヨゥは引かれる様にして片膝をつく。
頭を垂れ、確固たる自信を持って答えた。

(=゚ω゚)ノ『領主様以外に…誰がそれを成し遂げられますかヨゥ』

/ ゚、。 /『…そうか』

揺らぎかけた決意は再び固まった。
ふ、と耳を澄ませば、
宮殿の周りに集まった民が領主、いや。新たな王を讃える声が聞こえる。

/ ゚、。 /『…行こう、イヨゥ。我らはもう止まれぬのだ』

今回の勝利で失った多くの老兵達の命。
それには出来る限りの補償をしよう。
そして、散った者の為にも敗北は。後戻りは許されない。

漆黒の外套と甲冑を返り血でさらに暗く染め。
仮面の領主とその騎士は歓声の聞こえる方へ歩き出した。
そこには彼らの民が待っている筈である。



129: ◆COOK./Fzzo :2008/06/11(水) 02:18:09.19 ID:qMy/EJzs0
その日。
ネグローニ領主ダイオードはリーマンからの独立を宣言。
自ら王を名乗り、即位した。

同時にネグローニ領をモテナイ王国と改名。
ネグローニの名は首都の名称に留め置かれるのみとなる。
これにより、失地の民モテナイは例外なくかの地を目指しダイオードの為に剣を振るう事を誓った。

翻るは赤地に黒犬の描かれた国旗。
リーマンはこの独立を『独善的で身勝手な物』として批判し、
メンヘルは『領民を思う心がさせた勇気ある行動』と支援した。

こうして、アルキュ北部には
強大な戦力を持つ新政権、モテナイの【黒犬王】ダイオード。
島の経済を闇から支配する、ニイトの【白狼王】ニイト=クール。
正統なる後継者を主張する、ヴィップの【金獅子王】ツン=デレ。
小規模ながらも3つの国が独立を宣言したのである。

そしてこの時、ヴィップのツン=デレはダイオードの独立に何ら意を表明しなかった。
何故なら、彼女自身が自国内部のいざこざに手を焼いていたから。

具体的にはメンヘルとニイトによる同時侵攻。
そしてクーデターである。



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