( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

2: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:33:01.08 ID:sM54A7e90


     登場人物一覧 ・ヴィップ軍

( ^ω^) 名=ブーン(ナイトウ) 異名=??? 民=??? 
       武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長
       現在地=白面の村 状況=???
       特徴=銀髪の青年。死んだと思われていたが生存。陰でツンを支える。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン
      武器=禁鞭 階級=アルキュ王
      現在地=ギムレット 状況=???。
      特徴=金髪の少女。

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン
      武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=医学・栄養学などに精通。髪飾りを集めるのが趣味らしい。

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン
     武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=熊を思わせる大男。愛用の抱き枕が無いと眠れない。



3: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:33:34.34 ID:sM54A7e90
(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン
      武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=白眉の青年。ジョルジュとは義兄弟。馬鹿。

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手・心無き暗殺人形) 民=???
     武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=黒髪が美しい黒衣の給士。料理以外の仕事は完璧

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称) 民=リーマン
     武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=癖が強い赤髪を持つ赤い給士。料理だけなら完璧。

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙) 民=リーマン
     武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将
     現在地=ギムレット 状況=???
     特徴=灰色の髪と神秘的な瞳を持つ、無口な少女。

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン
      武器=長剣 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長
      現在地=ギムレット 状況=???
      特徴=隻腕の老将。白髪を丁寧に後頭部に流している。ジョルジュとヒートの師にあたる存在。

(,,^Д^) 名=プギャー(タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ
     武器=拐 階級=白衣白面副長
     現在地=白面の村 状況=???
     特徴=常に自嘲するかのような笑みを浮かべた筋骨隆々たる大男。



5: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:41:31.69 ID:sM54A7e90
〜そろそろここに書くネタも切れてきたなぁ編〜

             Aヴィップ(旧ギムレット高地)
@キール山脈     
                         Bニイト王国(旧ニイト自治区)

=====大地の割れ目==========     
                               Cモテナイ王国(旧ネグローニ地区)
         Eバーボン地区

              Fローハイド草原      Dデメララ地区

Gモスコー地区
   
                 Hシーブリーズ地区

※島の高度は、@→A→B→C…と番号が大きくなるにつれて低くなる。
また、南から西南に抜ける風の影響でGHは北部とは比較にならないほど気温が高くなっている。
大地の割れ目を流れるのはマティーニ河。
そこから枝分かれしてEとFの境目を流れるのがバーボン河。
バーボン河は更にGとHの境を抜けて海に出る。
@…どこにも支配されていない。
A…【金獅子王】ツン=デレによる正統王朝本拠地。
B…【無限陣】クーを王とする新政府。経済力を武器とする。
C…【黒犬王】ダイオードがリーマンから独立する形で建国。
DE…リーマン支配下。現在バーボンの領主代理を務めているのは【鉄壁】ヒッキー。
B…ニイトの自治が認められているが、実質的にはリーマンの支配下。
F…中立帯だが、リーマンの力が強い。
G…メンヘル支配下
H…中立帯だが、この地区を占拠する【海の民】とメンヘルが同盟関係にあり、メンヘルの力が強い。



6: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:43:34.26 ID:sM54A7e90


     第17章 北の内乱


ξ゚听)ξ『どうにも…芳しくないわね』

一枚の書類を前に【金獅子王】ツン=デレは形の良い眉をしかめた。
その細く整った眉に感情がストレートに表れるのは、彼女の癖である。
この時彼女は自身の手元に届けられた報告書を見て、少なくない失望感を抱いていた。

(´・ω・`)『合格者3名か。そのうち一人はヒートだから実質的には2人。
      うん、でも確実に成果は出てるんだ。焦りすぎるのもどうかと思うよ』

答えるのは、頭に竹冠を乗せた白眉の青年だ。
その眉が垂れ下がっているのは生来の物であり、彼は報告書の内容に不満を覚えてはいない。
むしろ、彼の給士が早々に寝室に篭もってしまった為、
目の前に置かれた茶が冷め切ってしまっている事の方が残念なようであった。

ξ゚听)ξ『…そうね。でもアタシは合格者の数が増えない事よりも
     受験者の数が増えない事の方が気になるわ』

言って報告書から目を離す。
薄暗い部屋で細かい字を見ていた為か。
眉間に寄った皺を指先で揉み解した。

二人が見ているのは、この春に行なわれた科挙の報告書である。
受験者37名中、合格者3名。
奇を衒った内容ではないに関わらず、合格率1割以下とは決して褒められた結果とは言い難かった。



7: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:46:17.25 ID:sM54A7e90
更に受験者達の生活階層がまたツンの悩みを深くする。
37名中30名以上が旧貴族階級の出身なのだ。
自身を支配者階級と称しながらも、その大半が政の基礎概念すら理解できていない。
ただ、出生のみで努力も無く人の上に立つのが当然と妄想しているような連中である。
それが彼女には腹ただしかった。

ξ゚听)ξ『それにね。この一般城民からの受験志望者の少なさ。これが一番の問題よねぇ』

片肘を突く姿勢で、卓に放り出された報告書をトントンと人差し指で叩きながら言う。
【金獅子王】ツン=デレによる政策の最も注目すべき点。
それが科挙による人材の発掘である。
自身が至高の座に着くまでの経緯があるからか。
彼女は能力を持ちながらも在野に留まる才能の発掘に力を注いだ。
だが、この時点でそれは思うような成果をあげていない。
諸兄らもご存知の通り、この科挙制度が実を結ぶのはアルキュ統一の後の話だ。

(´・ω・`)『うん、分かってる。今はそれも仕方ないかもしれないけどね』

今、この島は戦乱に喘いでいる。
どの家も何時男手を徴兵に取られないか、常に怯えている。
それは後に【北部の三王家】と呼ばれるヴィップ・ニイト・モテナイも例外ではなく。
貴重な働き手を政に従事させよう等と考える者は極端に少ないのだ。

(´・ω・`)『僕らは未来への足がかりを作れれば良い。
      まずは制度の確立。それに、民が政に関心を持てる体制作り。これこそが大切だと思う』

言ってショボンは茶を一口啜り、顔をしかめた。
冷えた茶からは甘味が消え去り、不快な苦味ばかりが際立って感じたからだ。



8: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:48:31.97 ID:sM54A7e90
ξ゚听)ξ『そうね。科挙を受験するにしても最低限の読み書きは出来ないと話にならないわ。
      それらを教える施設も作らないと。
      そう言えば、メンヘルでは【天使の塵】フッサールが私財をはたいて学び舎を作っていると聞いたけど…』

(´・ω・`)『うん、僕もそれは知ってる。でも僕はそのやり方は好きじゃないかな』

言いながら手元の水差しから湯を碗に注ぎこむ。
そうする事で茶に温みを甦えさせようとしたのだろう。
口に含んで、また眉をしかめた。
湯を入れすぎた碗の中身はすでに茶というよりも、ただのお湯に近くなってしまっていたからだ。

(´・ω・`)『そのやり方だと、劣化フッサールを大量に産み出すに留まる可能性がある。
      戦略家とは一つだけではなく、より多くの観点から物を見つめられねばならないんだ』

一つの観点からしか政治を見られない集団が権力を握る。
すでに独裁と変わりえないと言えるだろう。
それは彼らが目指している『民の手による政の実現』からは遠くかけ離れた物。
一個人もしくは一政治団体による権力の独占は必ずや腐敗に繋がる物だ。
その為にも野党の存在は貴重であり、
幅広い視野で。多方面から政策とは練らねばならないのではないだろうか。

ξ゚听)ξ『分かったわ。何にしても人材を育成する為の施設作りは今後の課題にしましょう』

言ってツンは大きく伸びをする。
それは深夜の会議の終わりを告げる行動とも言えた。



11: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:50:35.37 ID:sM54A7e90
ξ><)ξ『へくちっ!!』

宮殿の廊下を歩きながらツンは小さなくしゃみをした。
深緑の季節とは言え、時は既に深夜。
冬場であればストーブが並んでいるのであるが、それも今の時期は倉庫に放り込まれているはずである。

ξ;゚听)ξ『なんだか…今日は冷えるわね』

呟きながら両肩にかけたストールを上半身に巻きつけた。
ふ、と窓の外。高く昇った銀色の月を見上げる。

ξ゚听)ξ『……【白衣白面】…王家の猟犬ブーン……か……』

そう名乗った青年剣士の事を思う。
同時に脳裏に思い浮かぶは、独特の語尾をした銀髪の青年の顔。

あのオリーブ村での出会いから数ヶ月が過ぎていた。
以来、仮面の青年は一度として彼女の前に姿を現していない。

もし、あの白面剣士が。
彼女の道を照らし、共に歩む事を約束した青年なのだとしたら、それはどんなに喜ばしい事だろう。
しかし、心のどこかに『世の中そんなに甘いもんじゃないわよ』と囁きかけてくる者がいて、その度に彼女は我に返るのだ。

ξ゚听)ξ『…ナイトウ、見ててね。貴方が照らすと言ってくれたアタシの道。
     アタシは一人でも……どこまでも歩いてみせるわ』

首から下げられた金色の鈴をぎゅうと握り締める。
呟く声は悲愴なる決意。
銀髪の友を失って早五年。あの言葉を頼りに戦ってきた。
彼女は前に進まねばならない。あの思い出を輝いたままでいさせる為にも。



12: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:53:43.10 ID:sM54A7e90
         ※          ※          ※

从 ゚∀从『よし、こんなもんだろ♪』

窓際の小さなランタンだけが照らす暗い部屋。
ハンガーに掛けられ、しっとりと濡れた数枚の給士服を前にハインは上機嫌だった。
凹凸の殆ど無い上半身にサラシを巻いただけの姿の彼女は、
ダボッとした肌着の線が尻に喰いこんでいるのを指で直すと、満足そうに腕を組む。

从 ゚∀从『最近天気が悪くて洗濯出来なかったからな』

彼女は主である【天智星】ショボンがツンと科挙の報告書について話し合っている間。
早々に仕事を切り上げ、溜まった洗濯物と格闘していたのだ。
給士たる者、洗濯もしていない給士服で主の前に出る訳には行かぬ。
そんな決まりがある訳でもなかったが、例え戦場であってもハインが前日と同じ服で
ショボンの前に姿を見せる事は一度としてなかった。
何せ、彼女の衣装棚には全く同じ作りの給士服が十数着、ハンガーに掛けられているほどなのだ。
その全てが皺一つ無くピンとしていて。薄っすらと青い林檎の香りまで漂わせている。

从 ゚∀从『そろそろ寝るかね』

給士たる者、寝坊は許されない。
前述の言葉とは違って、これは彼女が妹分のヒートに言い聞かせているルールである。
朝に弱い主が、いつ気まぐれで早起きしてくるか分からない。
その時、寝ぼけ眼でいたのでは給士の名折れという物だ。

暗い内に寝台を出て水を浴び、寝汗を流す。
髪に櫛を入れ、唇に薄く紅を塗り、給士服に袖を通す。
庭を掃き清め、主が顔を洗う為の湯を準備し、笑顔と共に少し渋めの茶を差し出す。
もう何年も、一日として休めた事の無い彼女の日課だった。



13: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 04:58:15.74 ID:sM54A7e90
从 ゚∀从『〜♪ ……ん?』

その異変に気付いたのは、鼻歌交じりに胸に巻いたサラシを解き終えた時だった。

从 ゚∀从。oO(……何だ、コレ?)

複数の足が宮殿内の廊下を駆けている。
靴の裏に皮でも貼り付けているのだろうか?
最高の隠密と呼ばれた彼女であっても注意しなければ聞き取れぬほど、その足音は小さい。

从 ゚∀从。oO(尋常じゃねぇな)

まだ仄かに温みの残るサラシを寝台に放り投げると、衣装棚から真新しい給士服を引っ張り出し頭から被った。
足音を完全に殺すよう細工した集団が深夜の宮殿を駆ける。
それだけで真っ当な状況ではないと判断できた。

きゃあっ!!

突如階下から絹を裂くような宮女の叫び声が響きわたる。
続けて、壺でも倒したのかガシャンと言う大きな音と複数の男の咎めるような声。

从 ゚∀从『ちっ』

器用に背中のボタンを留めると、右手に竹箒。左手にエプロンを掴み部屋を飛び出した。
髪を結わいている暇は無さそうだ。口に白いリボンを銜える。

从 ゚∀从。oO(まずは陛下と御主人の身を確保しねえとな)

力強く床を蹴り、その姿は風を越える。
襲撃者はまだ階下にあり。【天翔ける給士】と呼ばれた彼女が遅れをとる事はありえない筈だった。



16: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:02:42.35 ID:sM54A7e90
从;゚∀从『うおっ!?』

???『うげっ!?』

神速の移動術・瞬歩を発動させ、廊下を駆けていたハインは曲がり角を曲がったところで
あるはずの無い壁に衝突し弾き飛ばされた。
その勢いで床に尻餅をつく。

从;゚∀从『な、何だぁ?』

???『お、お姉様!?』

思わず声を漏らした彼女は聞き覚えのある声に顔を上げた。
そこには肩より少し長い赤毛の女と、背中を押さえ呻き声をあげる熊のような巨体の男の姿。

从 ゚∀从『ヒート!! ジョルジュ!! どうしてここに!?』

ノハ;゚听)『お姉様に夜這いをかけようとしていたら急に騒ぎが起こってっ!!』

(;゚∀゚)『それをじっくり観察しようとしてたら突然っ!!』

从 ゚∀从『………』

…。
……。
………。

从#゚∀从『オーケーだ。話は後でゆっくり聞いてやる』

ノハ;゚听);゚∀゚)。oO(人生オワタ)



20: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:08:19.30 ID:sM54A7e90
从;゚∀从『御主人!! 無事か!?』

ろくでもない二人の頭に特大の拳骨を喰らわしてから、ハインは再び瞬歩を発動させる。
主の部屋に飛び込んだ彼女が見た物は、官服の上から戦場用の外套を羽織った白眉の青年の姿。
それに、至高の存在ツン=デレと、その付き人ミセリの姿だった。

(´・ω・`)『うん、大丈夫だよ。ありがとう』

いつも通りの漂々とした物言いにハインはホッと胸を撫で下ろす。
その背後では髪をほどいたツンと寝巻き姿のミセリが顔を青ざめさせていた。

(;゚∀゚)『おいおい。こりゃ、一体何が起きたって言うんだ?』

遅れて部屋に飛び込んできたジョルジュが開口一番問い詰める。

(´・ω・`)『……僕も状況を全部把握している訳じゃないけどね』

言って窓の外をチラと見る。
それにつられる様にして窓に飛びついた一同が見た物は、所々で炎のあがった町の姿。
気のせいか、剣戟の音まで聞こえてきている。

(´・ω・`)『城門は固く閉じられている。外部から何者かが侵入した形跡はない』

(;゚∀゚)『は? ちょっと待てよ…それじゃあ…』

(´・ω・`)『侵入者は内部にいる。おそらくこれはクーデターだ』

ショボンの言葉の通りだとすれば可能性はひどく限られてくる。
しかし、それは誰もが認めたくはない事実だ。
しかし、天才と言われた男はあっさりとそれを肯定した。



22: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:12:02.05 ID:sM54A7e90
(´・ω・`)『我らが取るべきは一つしかない』

言ってショボンは両手を腰に回し、歩き出した。
普段と何ら変わらぬその仕草が、一堂の心に安らぎを与えてくれる。

(´・ω・`)『市中にて警備の任に当たっていた、しぃ将軍と合流して城を出る事だ。
      その後南下してアマレット砦の守備に当たっているフィレンクト将軍と合流する』

その言葉を聞いて顔を硬直させたのは至高の存在ツン=デレだった。
ざわ、と金色の髪が怒りに揺れる。

ξ#゚听)ξ『民を…捨てて脱出しろと言うの?』

この黄金色の獅子にとって、それは王たる身の存在意義を否定する行為に他ならない。
国家の礎たる国民を捨てて逃亡するくらいならば死を選ぶ。
それが【金獅子王】ツン=デレという女性だった。
しかし、戦略家たるショボンは彼女と考えを異にする。

(´・ω・`)『うん、そうだ。民を捨てて城を抜け再起を計る。
      ただ、僕は君の臣だからね。もしも君が城に残って決戦を望むならそれに従う。
      でもその場合、勝利は約束できないし、我らが敗れた後の民の処遇についても約束は出来ない』

ξ#゚听)ξ『……』

王たる者が理想を貫こうとする存在ならば。
戦略家。政治家とは、とことん現実主義であるべきだ。
そして、この時もショボンは現実を見据えとおした。

(´・ω・`)『さぁ、陛下。決断を』



23: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:16:18.82 ID:sM54A7e90
ξ# )ξ『…随分と卑怯な選択をさせるのね』

(´・ω・`)『……承知の上さ』

ショボンにも分かっている。
一時とは言え民を見殺しにするか。
民と共に運命を共にするか。
それを選ばせると言う事がどれ程残酷か。

しかし、ショボンはあえてその道を選ばせた。
それもまた王の義務であるからだ。

(´・ω・`)『……もしも、これが本当にクーデターであるならば。
      襲撃者の狙いは我らである筈だ。民に被害は及ばないと思う』

彼女の負担を少しでも和らげようと言う声は届いただろうか?
その声に後押しされるように、ツンは顔を上げた。

ξ゚听)ξ『しぃ将軍と合流し城を抜けます。【急先鋒】ジョルジュ将軍!! 先頭に立ち血路を開きなさい!!
     それと…全ての民に告げなさい。我らは必ず三月で戻る。下手な抵抗で命を粗末にせぬように、と!!』

それが彼女なりの譲歩だった。
が、白眉の青年は静かに首を横に振る。

(´・ω・`)『一月だ。この名に誓って一月で我らはこの地を取り戻す』

朝日が昇るより少し早い時刻。
彼らは全身を返り血で赤く染め城を脱出する。
連れ従った兵は200にも満たなかった。



25: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:20:15.41 ID:sM54A7e90
         ※          ※          ※

(‘_L’) 『内乱…の可能性が最も高いと私も思います』

メンヘルの侵入に備えて建設された小砦アマレットにて。
隻腕の老将フィレンクトに出迎えられた一堂は、そこでようやく汗と埃を洗い流し腰を下ろす事が出来た。
彼らが車座になっているのは、その軍議室である。
当初、金髪の王は

     ξ#゚听)ξ『そんな悠長な事してる場合じゃないでしょ!!』

とそれを拒んだのだが、

     (´・ω・`)『うん、でも情報が何も無い以上動きようが無いんだよ』

と窘められ、形の良い眉を吊り上げながらも大人しくしている。
兎にも角にも、彼らは一名を除いて無事全ての将官が避難する事に成功していた。
ちなみに、ここにいない一名とは【天翔ける給士】ハインである。
彼女だけは主ショボンの命を受け、襲撃者の正体を探る為にヴィップに潜んでいた。
だが、『天翔ける』と言われた彼女の事である。
求める情報を得れば、あと半刻も経たぬうちにアマレットに到着するだろう。

(‘_L’) 『そうですね。今はショボン様の仰るとおり期を待つべきでしょう』

言いながら、手づから入れた茶を一堂に渡して周る。
灰色の髪をした【紅飛燕】しぃだけは、温めた牛乳を渡されていたが。



27: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:23:10.78 ID:sM54A7e90
( ゚∀゚)『でも、先生。内乱以外の可能性なんかあるんですか?』

口を開いたのは、ジョルジュだ。
どのような気まずい状況であっても気後れせず会話の切り口を切り開く。
それは、この男独特の人懐っこい雰囲気があってこそ成立する芸当だった。
そのジョルジュを、まるで出来の悪い生徒を扱うように一瞥してフィレンクトは答える。

(‘_L’) 『そうですね。まず最も考えられるのは、やはりクーデターの線でしょう。
      なにせ、急な改革に着いていけぬ者も少なくないですから』

ミセ*゚ー゚)リ『山賊の生き残りが…って事は考えられませんか?』

ミセリの言葉に首を横に振って答えた。

(‘_L’) 『可能性は極端に低いと見るべきでしょう。
      春にヴィップに潜入した【不敗の魔術師】めの言葉を信じるならば、
      モナーはとうに山賊どもを見限っていると考えるべきです。
      そうなれば、きやつらが単独で夜襲など出来るとは思えませんし、そのような動きも無かった。
      そして、残念ながら…あの魔女が嘘を言うとは思えません』

最後の言葉はこの気難しい老将なりの褒め言葉である。
そして、フィレンクトの言葉を糸口にするならば、今回の襲撃者の正体も自ずと明らかになっていく。

(‘_L’) 『実を申しますと…メンヘルの【打虎将】ジタンが【大地の割れ目】を越えて
      ギムレットに侵略してきた、との報も受けております。
      モナーの支援を受けた旧貴族階級によるクーデター。
      それに合わせて兵を向けてきた、と考えるのが一番自然かと』



29: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:28:08.02 ID:sM54A7e90
从 ゚∀从『ま、そんな感じだな』

突如あがったハスキーな声の響きに、一堂は振り返った。
音も無く扉を開けて、【天翔ける給士】ハインがそこに立っている。
髪は乱れ、汗で頬に貼りついてはいるが彼女の持つ可憐さは微塵も失われてはいない。
いや。任務を達成した誇りに満ちる顔は、彼女の魅力を倍増させている風にも感じられた。

从 ゚∀从『首謀者は元テネシー公ジャックとダニエル。他にもジョニィやらエドワードやら、
     おつむが少ないくせに格好つけたがる連中が揃ってたよ』

言いながら、背中に担いでいた大人2人は包み込めそうな風呂敷を丁寧に床に降ろす。

(;´・ω・)『…ハイン、それは?』

从 ゚∀从『給士の嗜みだ』

開いた中から出て来たのは、愛用の茶器一式。給士服と、対になるエプロンやカチューシャ。それらが十数枚であった。

(;´・ω・)『…そんなの放っておきなよ』

从 ゚∀从『あ? やだよ。これが無いと御主人に茶も煎れられねぇし…この服は御主人がくれたもんだからな』

彼女にとってはショボンとの毎日が詰まった大切な宝物。
それらを物の価値も分からない愚者の汚れた手で弄りまわされるなど、我慢がならない事だった。
そして。

(´・ω・`)『ん? これはなんだい?』

風呂敷包みの奥に隠されていたハインの洗濯物や下着類の一式を青年が発見し。
蹴り飛ばされたのは数秒後の事であった。



30: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:31:06.34 ID:sM54A7e90
(メ´・ω・)『…僕…何も悪い事してないよね…』

从#゚∀从『うるせぇ!! 見るな!! 触るな!! 匂いを嗅ぐな!!』

たおやかな肩を怒らせて叫ぶ。
それは彼女にとって大切な茶器や給士服を陵辱されるよりも耐え難い事だった。
しかし、ハインにもハインの言い分がある。
下手人が山賊どもやクーデターを企てた反逆者であれば問答無用で骨の数本も折ってやれる。
が、主が下手人の場合それも出来ない。
ならば、犯行が行なわれる前に鉄拳をもって静止するしかないではないか。

(#‘_L) 『…貴女の下着についての話などどうでもよろしい。
      それよりむしろ、クーデター軍…いや、反乱軍の動向をお伺いしたいのですが?』

从#゚∀从『あ?』

一瞬鼻白むハインであったが、声の主が素面であれば気難しい事で知られる老将軍と知って姿勢を正す。
八つ当たり気味に主の前に置かれた茶をぐい、と飲み干すと口を開いた。

从 ゚∀从『反乱軍は500程度の兵士を連れて南下しようとしている。
     主将はジャックとダニエルだ。エドワードはヴィップに残るみてぇだな』

(‘_L’) 『ふむ。おそらくメンヘル軍との合流を考えているのでしょうね』

言ってからフィレンクトは『愚かな…』と一人語ちた。
確かにメンヘルの助けを借りれば、彼らの目的を達成するのも容易いだろう。
が、その後の事をまるで考えていない。
例え反乱軍が勝利する事があったとしても、後々までメンヘルの介入は避けられないだろう。
結果、走狗は利用されるだけ利用されて煮られる事になる。
愚者の末路としてはお似合いだろうが、その巻き添えになるのは御免だった。



32: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:36:58.46 ID:sM54A7e90
ミセ*゚ー゚)リ『ところで…今回の反乱の目的は何なんでしょうか?
      それ次第では血を流さずに解決させる方法もあるかもしれませんし…』

この期に及んで甘い言葉を発するのは髪飾りが華々しい宮女だ。
しかし彼女とて本心からこのような事を考えている訳ではあるまい。
全ては、俯き肩を震わせている金髪の主が為。
薄っすらとこめかみに青筋を浮かべている女王の為だった。

(‘_L’) 『権勢欲…以外に何がありますか?
      おおよそ、我らが高職に就き彼らが就けないのが気に喰わない。
      陛下を誑かし権力を占有する悪臣より至高の身を救い出す…その様な所でしょう』

そして老将はそのような気遣いに手を貸そうとはしない。
今、ツンに必要なのは現実を見据え戦う事。
己に出来る事はその彼女を支える事と認識しているが故である。

ミセ*゚ー゚)リ『……』

そもそも、だ。
姦臣の手より王を救い出す、というシナリオ自体がフィレンクトには気に入らぬ。
それすなわちデメララの評議会とヴィップにおける新政府の関係に酷似しているからだ。
皮肉な事に、平和とは多々にして長きに渡る混乱の後に訪れる。
そして、それは大河の如く流れた戦士達の血の中から生み出されるのだ。
それを信じるから彼らは戦える。
いや、信じねば友の亡骸を踏み越えて行く事などどうしてできようか。
だからこそ、我欲などと言うくだらぬ物の為に戦端を開いた彼らを許すつもりなどない。

(‘_L’) 『陛下。この戦、私に指揮をお任せいただけませんか?』



33: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:41:06.08 ID:sM54A7e90
ξ;゚听)ξ『ほぇ?』

その言葉があまりにも意外だったので、ツンは思わず間抜けな声をあげてしまった。
彼女の父に仕えた七英雄が一人【白鷲】フィレンクト。
この厳格な老将は【キュラソー解放戦線】所属時は【紅飛燕】しぃの。
そして今ではツンのサポートを務めるのが常であった。
高齢、というのも理由の一つなのだろう。

戦場においても突飛な活躍をするわけではなく、地味な後方支援や守備を黙々とこなしていく。
彼が率いる【青雲騎士団】自体がその為に設立された部隊であり、
内政においても実務機関である尚書省の長として地味ながらも必要な仕事をコツコツと済ませていた。
そんな彼だから、この度の戦いにおいても前線に立たず後方に回るものと思っていたのだ。

(‘_L’) 『? 如何されました? 阿呆のような声を出されて』

ξ;゚听)ξ『あ、いや…フィレンクト将軍が前線に出られるとは珍しいな…と思いまして』

白眉の戦略家と赤い燕を除いた誰もが呆気に取られた表情で老人を見つめる。
敵は北上してくるメンヘル軍1500。南下してくる反乱軍500。
対して自軍はどれ程掻き集めても700が関の山、と言った所であり
更に兵の戦準備や心構えと言った点でも数歩劣っていた。
寡兵を持って大軍に当たるは兵法の邪道。
ならばこれは【白鷲】フィレンクトよりも【天智星】ショボンが得意とするペテンが活躍する舞台である、
と皆が感じていた所であったのだ。
そして。

(‘_L’) 『勘違いなさるな。最前線にはあくまで陛下に出ていただく。
      そもそも、勝ちが分かった戦の露払いです。安心してお任せいただきたい』

老将は更に思いもよらぬ言葉を続ける。



34: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:44:55.70 ID:sM54A7e90
ノハ;゚听)『勝ちが分かっている戦…?』

その言葉が示す意味に皆が息を飲んだ。
敵軍は三倍近い規模を誇る大軍である。
老将の自信がどこから湧いて出たものなのか、それすら理解できない。

ミセ#゚ー゚)リ『おい、ジジイ。また酔ってんのか?』

などと言う暴言を吐く者まで出る始末である。
しかし老人がその気難しい表情を崩す事はない。

(‘_L’) 『このような戦は本来【天智星】殿の専門分野なのでしょう。
      が、この地が陛下に治められる以前は私も幾度と無く侵入してきたメンヘルと剣を交えてまいりました。
      つまり私には対メンヘルの経験があり、今この場にいる将の中で最も適任かと思います。
      更に敵軍は数は多いとは言え率いるは猪武者ジタン。恐るるに足りません』

そうなのだ。
だからこそ、この老将はギムレット南部の守りを任されているのである。

(‘_L’) 『もう一つ付け加えさせていただくなら。戦とはそれのみを見る物ではありません。
      長期的視野で考えた時、最も重要な【時】はいつなのか?
      それを考慮していただければ、今この時誰に戦を任せるべきなのか、
      自ずと結論は出るかと思います』



35: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:47:17.41 ID:sM54A7e90
ξ゚听)ξ『……』

戦を歴史上の点ではなく線で捕らえる。
その重要さについては以前も述べており、覚えている方も多いだろう。
確かに、対多数戦と言う状況下では奇策を練りあげる才からショボンに軍杯があがる。
が、フィレンクトの言うようにこの戦いにおいて最も重要なポイントを考慮するのであれば。
それは今ではないのだ。

(´・ω・`)『なるほどね。反逆者達が僕らを為政者として認めない…というのであれば。
      彼らの土俵の上で勝負してやろうじゃないか。
      その戦いに勝利してはじめて僕らは、真にギムレットの民と歩む事が出来る。
      フィレンクト老のご意見はそういう事でよろしいでしょうか?』

ショボンの言葉に老将は満足げに頷いた。
【金獅子王】ツン=デレがその短すぎる即位期間にもかかわらず名君に数え上げられる理由。
それは、権力の分散や科挙による人材登用に代表されるように、
絶対君主としての立場にありながら民主政への転換を開いたからに他ならない。
底意地の悪い歴史家の中には『目上目線の改革』『軍部を率いて民主政を確立させた数少ない幸運な例の一つ』
などとこき下ろす者も少なくない。
『ツン=デレが存在しなければ夢見がちな革命家が暴走する事も無かっただろう。
 当然、千万を越える民が無用の革命によって命を落とす事も無かったはずだ』などと極論する者すらいるのだ。

だがしかし。
果たしてそれは真に公平な意見であろうか?
当時は世界各国を見比べてみても王政が盛りの時代であり、平民が政に口を出す機会など千に一つも無かった。
民=貴族の所有物とすら思われていた時代である。
そのような時代にあって、今も続くアルキュ民主政権の礎を築いた彼女の功績は
決して貶められてよい物ではない。



36: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:49:11.48 ID:sM54A7e90
白眉の青年と老将の会話に、黄金の王は愁眉を開いた。
決戦の時は今にあらず。
彼女が本当に民と歩む道を選ぶのならば、民もその意思を見せねばならないのだ。
今までも彼女は彼女なりに『民と歩む政の方法』を模索してきた。
しかし、それだけでは足りない。
彼女の提案する政を民が受け入れるには、民も一歩踏み出さねばならぬ。
そして、今をその時とするならば【天智星】ショボンは彼女の横にいなければならぬ存在なのだ。

ξ゚听)ξ『分かったわ。この戦、【白鷲】フィレンクトを総大将に任命します。
     【急先鋒】ジョルジュ、【紅飛燕】しぃ、【赤髪鬼】ヒートの三将は
     フィレンクト将軍の指示に従い敵軍を殲滅するように』

それで全ては決まった。
【天智星】ショボンは幕僚としてツンの補佐に就き、【天翔ける給士】ハインは更にその補佐にまわる。
ただ、彼らは皆が皆ほぼ着のみ着のままヴィップを脱出してきた身である。
アマレットに備蓄されている装備品の中から身支度を整える時間を考え、
一刻(約2時間)後に再度軍議室に集合する旨が伝えられた。

(‘_L’) 『ご安心下さい、陛下。貴族の出でもないこの老骨が何故先代の下【七英雄】とまで数えられるようになったか。
      その理由を御覧入れましょうぞ』

几帳面に白髪を撫で付けた老人が最後にそう宣言する。
大言雑語を嫌う老人のそれは、しっかと一同の心を勇気づけてくれるのであった。



38: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:53:05.86 ID:sM54A7e90
         ※          ※          ※

从 ゚∀从『さて、と。こんなもんかな』

皆が与えられた部屋に向かい、戦支度を整えている中。
黒衣の給士もまた、自室に篭もっていた。
軽装を常とする彼女に戦支度は必要ないが、彼女にとってそれ以上に大切な身支度があるのである。

扉に鍵をかけ、窓に閂を通して厚いカーテンを閉じた。
念には念を入れて、壁に不自然な穴など空いていないか確かめてから

从 ゚∀从『全く。あいつらと来たら揃いも揃って変態ばかりだからな』

呟きつつ、手にした壺に満たされた湯を石造りの床に置かれたタライに注ぎ込んだ。
湯は、灰色の髪の女騎士しぃから頂戴した物だ。
暇さえあれば湯に使っている印象があるしぃだが、実際にもその通りである。
清潔をモットーにするハインもまた風呂は嫌いではなく、浴場で時間を共にするにつれ二人は親しくなった。
実際に話しかけているのは給士一人なのだが、付き合いも長くなればそれを嫌がられていない事も分かってくる。

从 ゚∀从『いつか、バーボンのお屋敷の風呂に連れてってやりてぇな。きっと喜ぶぞ』

言いながら腰袋から愛用の香玉を湯に溶かし込んで、即席の沐浴場が完成した。
汗で身体が重く感じるのは我慢しよう。
しかし、給士として。 給 士 と し て、汗臭い身体で主の前に出る訳にはいかぬのだ。
本来ならば湯を浴びたいところだが、流石にこのタイミングでそれも出来ない。
それでも香玉を溶かし込んだ湯で汗を拭き流すだけでも随分と違うだろう。
給士服の背中についたボタンを外し、白くも傷だらけの肌が顕わになる。
若干寂しげな胸元に巻かれたサラシに解き、まずは髪を濯ごうと床に置かれたタライの前に膝をついて

(´・ω・`)『やぁ』



40: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:56:10.84 ID:sM54A7e90
从 ゚∀从『……』

寝台の下、眼があった。
ようやく大人が一人潜り込めるかと言うスペースの中で、確かにこちらを向いた視線。

从 ∀从『……』

一瞬で頭が真っ白になったが、訓練を重ねた体はすぐに動いた。
間近にあった鈍器、湯を満たしていた素焼きの壺を手に取ると
その丸みを利用し主の顔面目掛けて床を滑らせる。
小手先の技術などは必要ない。
ただひたすらに力に頼った一撃は『ガゴン』と言う鈍い音を響かせショボンの顔面を直撃した。

从 ∀从『……』

やがて。
冬眠から覚めた熊のようにフラフラとショボンは寝台の下から這い出してくる。

(メ)ω・`)『君は…僕を殺す気かい?』

从 ∀从『良く分かったな、御主人。ハインちゃんは今、明確な意思を持って殺そうとしてた所だ』

床にペタンと座り込みながら、給士は言った。



42: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 05:58:49.03 ID:sM54A7e90
(´・ω・`)『まぁ、僕も大切な話があって来たんだけどさ』

寝台の上に胡坐をかいたショボンが言う。
対するハインはシーツで全身を包む様にして床に座り込んでいた。
その眼は恨めしそうに、湯気をあげているタライを見つめている。

从#゚∀从『それが隠れてた言い訳にはならねぇけどな』

(´・ω・`)『人目を憚る話なんだよ』

だからと言って、ハインの部屋に入った後は隠れる必要などない筈であって。
これはもう確実に確信犯なのだが、口先の勝負でショボンに勝てるはずもなく。
ハインは口を摘むんでいる。
本音を言えば、一秒でも早く主に部屋を出て行って欲しいのだ。

从 ゚∀从『はいはい、そうですか。で、大切な話とは何でしょうか? ご主人様』

\(´・ω・`)/『あれ? 怒ってる? ねぇ、怒ってる? 怒ってる? ねぇ? ねぇねぇ?』

从♯゚∀从  

不機嫌さを表に出せば出すほど、この男を調子づかせる事になる。
それは分かっているのだが、抑える事が出来ない。
給士が壁に立てかけられた竹箒から仕込み小太刀を引き抜いた所で、ショボンは真顔になって口を開いた。
ここらが限界と悟ったのであろう。

(´・ω・`)『城を出る前に頼んでおいた事さ。【無限陣】はどう動く?』



43: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:01:51.53 ID:sM54A7e90
【無限陣】こと白狼王クーのニイトとメンヘルは経済上利害を共にする同盟関係にある。
同盟関係、とは言っても経済を武器にのし上がったニイトと知略を武器にするメンヘルとの関係は
狸と狐の化かし合いに近いものだ。
笑顔で握手をしていても、心の中ではポケットに忍ばせた毒薬をどうやって相手に飲ませようか考えている。
そのような仲である。

そして、当然メンヘルは今回の北伐において自分達だけで火中の栗を拾うような真似はしていない。
支出は少なく。収益は大きくが、政治・経済・戦略に共通するスローガンであると言える。
それを証明するかのように、モナーはギムレット内部に反乱と言う先兵隊を作りあげ、
メンヘル領からの出兵は1500のみと最小限の数字に押さえ込んでいた。
ならばこそ、同盟関係にありギムレットと領境を隣接しているニイトに出兵の圧力をかけていないのは
不自然と言う訳だ。

从 ゚∀从『あぁ、その事か。ご主人の見当どおりニイトも出兵準備を整えてるみてえだな。
     でも、あくまで兵を集めてるってだけだ。進軍する気配は今のところ無さそうだぜ』

(´・ω・`)『うん』

白眉を撫でつけながらショボンは考える。
ニイトの【無限陣】は卓越した戦術家であるが、基本的に好戦的な性格ではない。
いや。
戦を熟知しているからこそ、無用な出兵をしたがらないと見るべきか。
それなら、こちらとしてもニイトと交戦する事は避けられる。

(´・ω・`)『分かったよ、ありがとうハイン。いつも助かるよ』



44: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:04:20.32 ID:sM54A7e90
从 ゚∀从『あ?』

主の発した一言にハインは耳を疑った。
淡々とした性格ながら、人が困っている姿を見て喜ぶ困り者。
それが【天智星】ショボンその人である。

(´・ω・`)『本当にありがとう。君がいてくれて僕はどんなに助かってるか…言葉にしきれないよ』

だからこそ、このような言葉に重みが生まれてくる。

从*゚∀从『あ? え? えへへ…そうか?』

思わず耳朶が熱を帯びるのをハインは感じていた。
そして。

(´・ω・`)『うん。ところで、今から一つ頼まれ事をお願いしたいんだけど』

从;゚∀从『うぇ?』

そして。

从;゚∀从『今から?』

(´・ω・`)『うん。今から。すぐに。ブーンの元に向かって欲しいんだ』

そして。
だからこそ、続く言葉に給士は拒否する言葉を選べない。



45: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:05:30.72 ID:sM54A7e90
从;゚∀从『あっと…えっと…ほら。ハインちゃん、汗かいてるし…』

冷め始めている湯を張ったタライをチラ、と見る。

从;゚∀从『せめて…髪だけは濯ぎたいなぁ…なんて…』

(´・ω・`)『ダメ。急ぐんだ』

その言葉に給士は細い肩をガックシと落とした。
体を拭くのは諦める他無さそうだ。

(´・ω・`)『今回、白面にはニイト領内に潜入してもらって何でもいいから騒動を起こしてもらいたい。
      そうすれば、元々出兵を望まない【無限陣】の事だ。それを言い訳に進軍を控えるだろう。
      結果、我が軍は犠牲をはるかに減らす事が出来る』

ニイトが軍を進めるにあたって。メンヘルとの間にどのような取引があったのかは分からない。
が、最も考えられるのは経済的圧迫であって、それならば直接的実害が生まれるわけでもない。
【無限陣】は天の助けとばかりに出兵を控えるだろう。

从 ゚∀从『分かったよ、御主人。一っ走りしてくるぜ』

幸い、白面部隊は反乱の報を聞くやヴィップ城付近に潜んでいる。
彼らに湯を借りれば、簡単ではあるが汗を流す事も出来るはずだ。

(´・ω・`)『ありがとう、ハイン。ところで…また、胸痩せた?』

从#゚∀从『……』

しばらくして。
何故か全身ずぶ濡れでショボンが軍議室に姿を見せたのは、また別の話である。



47: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:07:56.99 ID:sM54A7e90
         ※          ※          ※

(*゚∀゚)『思うんだけどさっ!! フサ×フィルってのも斬新じゃないかねっ!?』

lw´‐ _‐ノv 『…新しければ良いってもんじゃないよ。ここは手堅く兄者×弟者で行くべき』

(*゚∀゚)『それこそ駄目駄目だよっ!! 前回やった企画の二番煎じも良いトコさっ!!
     せめて弟者×兄者!! これだけは譲れないねっ!!』

(#・へ・)『……』

乙女とも思えぬ会話を声高に繰り広げる二人の乙女。
白い虎の毛皮を腰に巻いた【打虎将】ジタンは、硬く閉じた唇を一層不機嫌そうに結んだ。
ここが神都モスコーであれば、この二人の姿を確認した直後に踵を返す事も可能だったであろう。
が、今はそうは行かない。
なにしろ今、彼らは【預言者】モナーの命を受けてギムレットに軍を進めている最中なのだ。

lw´‐ _‐ノv 『ジジイ二人の絡みなんて誰も見たくないよ』

(*゚∀゚)『甘いっ!! 蜂蜜一気飲みくらい甘いよっ!! 眼で見るんじゃないっ!! 心で感じるんだっ!!』

その言葉に、シューは眼を瞑ってしばらく何かを思い浮かべた後。

lw´‐ _‐ノv 『……いいかも』

(*゚∀゚)『だろっ!?』

(#・へ・) プチン



50: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:28:20.73 ID:sM54A7e90
(#・へ・)『いい加減にしろ!! バカどもっ!!』

それが我慢の限界だった。
押さえ込んでいた感情を吐き出すかのように一喝する。
兵糧を積み込む荷台の上で大口を開けていた二人は、それでようやく声のトーンが上がりすぎていた事に気がついた。

(*゚∀゚)(なんだい、アレ? 今更ツンツンキャラで売り出す気かい?)

lw´‐ _‐ノv (ツンツンキャラは飽和状態だと言うのに気付かないなんて…愚か)

(#・へ・)『聞こえてるぞ、バカども』

言って聞こえよがしに舌を打った。
副将・参謀として遠征に加わっているツーとシューであるが、ジタンからして見ればこの二人は邪魔でしかない。
確かにシューの戦略や、砂亀を駆って砂漠を疾走するツーの戦闘技術は認めざるを得ない。
が、この二人は揃って馬にすら乗れないのだ。
この北の地での戦いにおいて役に立つとは到底思えなかった。

(将゚∀゚)『将軍。後続の兵との距離が開いているようですが…』

そこへ声をかけてきたのは、彼直属の百人将だ。
なるほど、気が昂ぶって歩を急ぎすぎたやも知れない。
予定より随分と先へ進んでいるようであり、見渡せば周囲は陣を張るのにちょうど良い平地となっていた。

( ・へ・)『うむ。今夜はここに陣を張るとするか』

疲労で足を棒にしている後続の兵達を元気づけるよう、進軍停止の鐘を鳴らさせる。
長年眼をかけてきた百人将の気遣いに心中頷きつつ、彼は副将・参謀の使えなさを思っていた。
そして。
その晩、彼の幕舎を一人の客が訪れる。



52: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:30:01.48 ID:sM54A7e90
( ゚八゚)『お初にお目にかかる、ジタン将軍。テネシー公ダニエルと申す』

その男は、貴族らしい嫌味な髭と肉食の獣を思わせる巨体を誇っていた。
金箔をふんだんにあしらった悪趣味な外套はサイズが2まわりほど小さく、まるで似合っていない。
この時とばかりに急遽こしらえたか、親の代からの伝え物を手直ししていない。
いや、手直しする金銭的余裕すら無かった事が想像できた。

( ゚八゚)『それにしても…臭い。貴族を迎えるに香も焚かないのがメンヘルの流儀なのですかな?』

( ・へ・)『…なにぶん戦場故。非礼をお詫びいたします』

漂う香りは、羊の肉を焼いた脂が火中に垂れて生じる物だ。
メンヘルの民は羊肉を好む。
聖書にも『神は人の子に羊を家畜とするよう教えた』とあり、好食家ほど歳を取ったそれを食した。
今でも『羊臭い』と言えば、メンヘル出身の者を侮蔑する意味で使われているほどだ。

( ・へ・)。oO(この香りが臭いとは…貧乏貴族め)

独特の臭みがある羊肉だが、食べ慣れればそれが癖になるという。
そして、日々をその中で過ごしている者にとっては何事にも変えがたい生活の一部となるのだ。
更に言わせれば、無能の癖に傲岸不遜な態度をとっている事も気に喰わない。
が、相手はこの度の戦で鍵を握っている人物だ。
殴りつけたい気持ちをグッと堪え、やんわりと対応する。

( ・へ・)『で、ダニエル公ほどのお人がこのようなお時間に…どのような御用ですかな?』

( ゚八゚)『うむ、その事である。火急の危機が迫っているゆえわざわざ足を運んでやったのだ。
     【白鷲】に貴様らの動きがバレた。ヤツラは城外に陣を構え、貴様らを待ち構えているぞ』



55: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:35:18.17 ID:sM54A7e90
( ・へ・)。oO(なんだ、そんな事か)

心中溜息をつく。
闇に潜んでの奇襲ではない。
【七英雄】に数えられたほどの人物であれば、彼らの侵入を知る事など容易いだろう。

( ・へ・)。oO(……)

にもかかわらず、目の前の貧乏貴族は自分が如何にメンヘルのためを思い駆けつけてきたか、必死に主張している。
それで虎殺しの猛将は気付いた。

( ・へ・)。oO(あぁ、こいつらは自分達を高く売りつけたいのだな)

針が如き小さき問題を天を突く巨木のように言い表しているのは、そういう事だ。
無能とは言え、彼らも全てが終わった後に自分達が栄光を掴めるとは思っていないのだろう。
ならば、少しでも手柄を立てておきたい。
それを思えば、この男の尊大さも可愛い物に思えてくるものだ。

( ・へ・)『それで、ダニエル公。フィレンクトはどのような陣を構えておりますかな?』

( ゚八゚)『うむ。ヤツラは城を北にする形で、鳩胸陣を組んでおる』

( ・へ・)。oO(鳩胸? あぁ、鶴翼か)

防衛陣の基本形の一つ、鶴翼については諸兄らに説明は不要と言う物だろう。
攻撃力を一つに集中させた刺突系の陣に対し、鶴翼は左右に分けた陣で刺突系の脇腹を叩く。
遊兵作るべからずは全ての兵法の基礎であり、故に縦長陣形の基本『刺突』と横長陣形の基本【鶴翼】は
兵法を学んだ経験を持つ者ならば誰もが知る所であるのだ。



56: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:38:11.87 ID:sM54A7e90
しかし、目の前の男はそれすらも言い違えた。
つまり、その程度の男だとジタンは判断する。
それでも、利用してくれと尻尾を振ってくる犬を追い払うのは、礼を欠くと言う物ではなかろうか?

( ・へ・)『なるほど。それは厄介ですな。
      で、ダニエル公は我らにどのような妙策を授けてくださるのですか?』

その言葉にダニエルの顔がパァと明るくなる。

( ゚八゚)『うむ。我らは現在、敵軍左翼。つまり東側の背後に300の兵を潜ませておる。
     ニイトの【無限陣】が援軍500を連れて合流し次第奇襲をかけるつもりだったのだが…
     その援軍が遅れているのだ。
     このまま伏せていては発見される可能性もあり、危険が高い。
     そこで、将軍。足の速い騎兵500を貸していただきたい。
     そして、将軍はキール方面に進路を変え、南からではなく西からフィレンクトめの右翼を攻めて頂きたいのだ』

( ・へ・)『……』

フィレンクトが護るアマレット砦はギムレットの西南端にある。
それは南のメンヘル、西のキールからの侵入を防ぐ目的で建設された物だ。
このまま北上すれば、陣を張るフィレンクトの虎口に飛び込む事は重々承知している。
それこそが猛将の呼び名高い彼の思う所であったのだが、此処に来て考えを改める必要がありそうだった。

( ・へ・)。oO(なるほど。なるほどな)



57: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:40:03.15 ID:sM54A7e90
鶴翼陣の弱点。
それは、どの陣形にも言える事なのだが、この陣形は極めて背後からの奇襲に弱いのだ。
元々が正面からの中央突破に備えた構えであり、横長に広がった陣は容易く強襲で切り裂かれてしまう。

( ・へ・)。oO(全く。随分とあざとい考えをする物だな)

魅力的な策であった。
だがしかし。
これ程の策、鶴翼の名も知らぬ者が考えた物ではあるまい。
おそらくは稀代の兵法家【無限陣】クーが与えた物。
そして、目の前の亡命貴族は、それをあたかも自分らが考えたかのように振舞っているだけなのだろう。
それの意味する所、将来に向けた自己アピールと言ったところか。

( ・へ・)。oO(血統ばかり立派で何の芸もない駄犬だな)

自らの編み出した策を勝手に流用されれば【無限陣】は怒るだろう。
が、それは彼には関係のない事だ。
彼はダニエルの『考え出した』策に乗っただけである。
ニイトの干渉無しにギムレットを制圧すれば、彼の昇進を妨げようとする者はいなくなるはずだ。

( ・へ・)『少々御時間を頂けますかな? 協議せねばならぬ故』

言って兵卒を呼び、ダニエルを客用の幕舎に案内させる。
しかし、彼の腹は既に決まっていた。
時間を空けたのは、彼自身を安売りしない為に他ならない。

( ・へ・)。oO(別働隊の隊長はツーにでも任せればよい。厄介払いが出来て一石二鳥だ)

虎殺しの猛将はそのような事を考えていた。



59: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:43:20.32 ID:sM54A7e90

(*゚∀゚)『あいよっ!! その任務引きうけたっ!!』

口煩いフッサールからお目付け役を仰せつかっているはずのツーである。
その彼女があまりにも呆気なく命に従ったので、ジタンは続ける言葉を失ってしまった。
この戦いが終われば、ギムレットはメンヘルの傘下に入る。
長年に亘って幾度と無く北伐を繰り返してきた、十二神将・第2位【不敗の魔術師】では為せなかった偉業である。
それに対する嫌味の一つも言ってやつもりだったのだが、あまりに淡々とした態度に猛将は毒気を抜かれた形となった。

lw´‐ _‐ノv 『あいや待たれい。その人選はおかしい』

対して異論を唱えてきたのは【光明の巫女】シューであった。
普段通りのジト眼で抗議の声をあげる。

lw´‐ _‐ノv 『姉上は何度と無くフィレンクトやしぃと剣を交えてきた。
        その経験は貴重。他の将官を任命すべき』

確かに、この場にいる者で最も彼らを知っているのはツーであった。
いや。
彼女以外にギムレットの将兵と戦をした経験がある者はいないと言って良い。
が、反論の声は意外な所からあがる。

(*゚∀゚)『いやいや。ここは主将の命に従うさねっ!!
     別働隊の選抜は済んでるのかねっ!? だったらあたしは出発させてもらうよっ!!』

lw´‐ _‐ノv 『………』



lw´‐ _‐ノv 『なん……だと……?』



61: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:45:46.65 ID:sM54A7e90
lw´‐ _‐ノv 『説明して』

ツーの一声で軍議は終了した。
夜明けを待って移動を開始する別働隊の中には、【魔術師】を乗せた荷台を引く二頭の軍馬の姿。
その上で毛布に包まっている義姉に、シューは声をかけた。
どうしても納得がいかない。
ギムレット征伐は彼女の念願であった筈である。

(*゚∀゚)『ん〜。長くなるよ』

lw´‐ _‐ノv 『構わないから』

二人の表情に、春画本の内容を熱く語っていた時のそれはない。
相手の語る一字一句も聞き漏らさぬと言う意思が、瞳に漲っていた。

(*゚∀゚)『まずさ、この策は本当に【無限陣】の考えなんだろうね?
     戦術の天才と呼ばれたあの女が、素人将軍を放置して敵軍の背後に伏せたりするかね?
     それがあたしは気に喰わないのさっ!!』

lw´‐ _‐ノv 『……罠の可能性がある、と?』

(*゚∀゚)『限りなく高い可能性でねっ!!
     そして、おそらくあたしらは既にフィレンクトの策中に嵌っている』

言って砂漠の魔女は指を4本立て、ずいと見せ付けた。

(*゚∀゚)『さて、とっ!! あたしらが取れる道は4つある。何だか分かるかいっ!?』



62: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:48:48.09 ID:sM54A7e90
lw´‐ _‐ノv 『えっと…』

まず最初にダニエルの策に従ったキール方面からの侵攻。
次にダニエルの策に従わず北上する策であろう。

(*゚∀゚)『そうだねっ!! その2つが中策って所か。
     軍を分けずに北上するって方法もあるけど、そうなればフィレンクトは籠城策を取る筈さっ!!
     ここからヴィップを目指すのに、中継拠点としてアマレットは必ず陥とさなきゃ駄目さね。
     籠城で時間を稼がれて冬になれば我らは引かざるを得ない。
     その間にツン=デレはヴィップを奪還しちまうだろうねっ!!』

lw´‐ _‐ノv 『ニイトは動かない、と?』

(*゚∀゚)『あぁ。断言しても良いねっ!!』

うんうんと首を縦に振った。

(*゚∀゚)『【無限陣】に何の得があってギムレットを攻めるのさ?
     どうせモナーの事だ。経済貿易の弱みをちらつかせでもしたんだろうけど…
     そんなんじゃあの女は動かないねっ!!
     何だかんだと理由をつけて先延ばしにするに決まってるよっ!!』

lw´‐ _‐ノv 『そうなると、アマレットを無視して北上…あ、これは駄目か』

そのような事をすれば、退路と兵糧のルートを遮断され路頭に迷うのがオチである。
戦術としては最低最悪。
おそらくこれはツーの考える下策の分野に値する物だろう。



63: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 06:51:08.39 ID:sM54A7e90
lw´‐ _‐ノv 『それじゃ、上策って言うのは…』

(*゚∀゚)『深入りせずに撤退する。これが一番さね』

lw´‐ _‐ノv 『それはジタンが首を縦に振らないと思う』

言ってシューは大袈裟に両手を高くあげて見せた。

lw´‐ _‐ノv 『お手上げ』

(*゚∀゚)『だね。この遠征に意味はない。ニイトと挟撃できるならまだしも、
     アマレットの堅牢さとフィレンクトの強さはあたしが一番良く知ってるよっ!!
     つまり、今回の北伐はメンヘルが進撃しない隙を突いてニイトが動かぬように牽制する為。
     このままヴィップを陥とせれば一番なんだろうけど、そうは簡単にいかないだろうさっ!!
     おそらくモナーの事だ。二の手三の手は撃ってる筈。撤退が不利益を産む事はないさね』

言いながら魔女は毛布に包まったまま上半身を起こした。
もぞもぞと足が動いているのは、胡坐を組もうとしているのだろう。

lw´‐ _‐ノv 『姉上の考えは分かった。でも、問題はジタンが納得するか?
       それに、その考えが果たして正しいのか? ソースが存在しない』

そうだ。
ツーと言う戦士は、常に思いつきで行動しているように思われがちだが
その実冷静な分析力によって全ての行動を取ってきている。
今回のツーの考えはあくまで推測の域を出ず、もしそれが見当違いで終わった場合
メンヘルに多大な損失を出す危険なものだった。



65: ◆COOK./Fzzo :2008/07/25(金) 07:02:11.61 ID:sM54A7e90
(*゚∀゚)『うん。だから、あたしが動く』

それが彼女が出した結論だ。

(*゚∀゚)『今回の作戦。あたしらがフィレンクトの掌の上で踊らされているのでなければ、効果的な作戦だと思うよっ!!
     でも、もし既に手中に収められているのであれば…戦況を打開できるのはあたしだけの筈さっ!!
     だから、あたしが動く。その為には、ある程度自由がきく場所にいなければ駄目なのさね』

lw´‐ _‐ノv 『……なるほど』

それで深夜の会合は終わった。
出発までの短い時間。少しでも体を休められる時を惜しむかのようにツーは再びごろんと横になり、シューは踵を返して歩き出す。

(*゚∀゚)『あ。一つ言い忘れてた。フィレンクトには気をつけな。アイツとだけは戦っちゃダメさね。
     それと…もしも何かあったら……この魔術師様が行くまで死ぬんじゃないよ』

義姉の言葉を背に受けたシューはコクリと頷いた。
見上げた月はあまりにも高く、それが一層頼れる義姉と離れ離れになる心細さを増大させる。
『フィレンクトとは戦うな』
その言葉を心の中で反復しながら、巫女は自身の幕舎への道を急ぐのであった。

翌朝、ツーは騎兵500を率いて北東へ。
ジタンは残る1000の歩兵と共にキールへ向かう。

この北の内乱において、彼らは脇役に過ぎない。
しかし、この戦いは一人の給士と銀髪の青年の過去への邂逅を巡る幕開けとなり。
いずれそれは北伐軍を率いる三人の男女の未来にも関わる物となる。

そして。
その運命を、今は誰も知らない。



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