( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/22(日) 21:37:01.70 ID:/IbU359L0
     登場人物紹介


ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長



7: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 21:39:15.45 ID:/IbU359L0
アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称)・赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=千歩将

|(●),  、(●)、| 名=ダディ 異名=第六天魔王 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将

( ̄‥ ̄) 名=フンボルト 異名=??? 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将



10: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 21:44:03.52 ID:/IbU359L0
MAP 〜ここはとあるレストラン。人気メニューはナポリタン編〜

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_103099.jpg

@キール山脈 未開の地。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 テネシー公らが起こした反乱の鎮圧するが・・・・・・

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 ヴィップの内乱鎮圧後、突如国境に兵を動かす。真意は不明。

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



14: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 21:46:35.63 ID:/IbU359L0


     第22章 その真名を……


━━━━━ニイトとの領境にて【金槍手】リーゼ率いる騎士団500と遭遇。
     また、その中に【王家の猟犬】を名乗る者の姿あり。 一旦、軍を引く。

内乱の首謀者エドワードを追って兵を動かしていた【赤髪鬼】ヒート。
彼女からの早馬が届けた知らせは、ヴィップ城の将官を震撼させるに十分な物だった。

(;,゚Д゚)(幽鬼として甦った突撃部隊【白衣白面】か。噂としか思ってなかったぞゴルァ)

(;゚∀゚) (俺様だってそーだよ。でもこの眼で見ちまったからなぁ)

ヒソヒソと言い合いながら、チラと視線を送った先にいるのは、雪鼠の皮で飾られた玉座に腰を下ろす彼らの王だ。
身を守るように手足を組み、瞼を閉じた姿は一見寝ているようにも思える。
が、深く寄った眉間の皺を見れば、彼女が不機嫌を押し殺そうとしている事は明白だった。

【金獅子王】ツン=デレは激情の人ではない。むしろ、感情を理性で押さえ込みすぎる嫌いがあると後世で評価されるほどだ。
その彼女がここまで感情を顕わにするのは珍しいほどであり、誇り高き獅子の怒りを目の当たりにした者達を震えあがらせる。

ミセ;゚ー゚)リ『……陛下。ヒート千歩将、ダディ千騎将お戻りになりました』

短く切り揃えた黒髪を花細工で飾り立てた官女が、声をかける。
その声に閉じていた眼を静かに開いて。

ξ#゚听)ξ『……疲れているところ悪いけど、今すぐ此処に来てもらって。“今すぐ”よ』

あまりに平坦すぎる声で黄金の獅子はそう伝えるのだった。



19: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 21:49:33.89 ID:/IbU359L0
ノハ#゚听)『確かにアレは【白面】だった!! 間違いないっ!!!!!』

ξ#--)ξ『……そう』

両手をブンブンと振り回して力説するヒートを前に、ツンの眉間の皺は更に深くなった。
重く冷たい空気の中、【赤い悪魔】の声だけが響く。

(;゚∀゚)。oO(……頼む。空気読んでくれ)

ノハ#゚听)『間違いないッ!!!!! あいつは裏切ったんだ!!!!!』

ξ#--)ξ『……』

ノハ*゚听)『大事な事なので2回言いましたっ!!』

从;゚∀(;´・ω・`(;゚∀゚)。oO(だからっ!! 空気読めよっ!!)

オリーブ村解放の戦いで初めて姿を見せた幽鬼の剣士【白衣白面】。
彼らを率いていた【王家の猟犬】を名乗る青年と対峙した際のツンの取り乱し様は決して古い記憶ではない。
その王家の守護者がニイトに加担した。
そこから想定できる事は、彼らがニイトの【白狼王】クーをこそ真の王と認めたのではないか、という事に他ならない。

ξ#--)ξ『……』

更に言えば、ツンにはツンの想いがある。
かつて彼女の友として生きる事を誓いながらも世を去った兵奴の青年ナイトウ。
彼とあまりにも酷似した特徴を持つ白面剣士ブーンの裏切りは、彼女の心に重く圧し掛かっていた。
実はナイトウは生きていて何らかの理由で自身の側を離れているのではないか。
いや、本当に死んでいたとしても、その正体が自らを護るべく幽鬼として甦ったナイトウであったら。
その仮定は青年の死に絶望し、それでも彼との思い出と約束の為に生きてきたツンにとってささやかな希望の光であったからである。



21: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 21:52:55.66 ID:/IbU359L0
(*゚ー゚)『兵が動揺している』

重苦しい空気を破り、口を開いたのは【紅飛燕】のしぃであった。
女性としてはやや低めの。台本でも読んでいるかのような平坦な声が玉座の間に響く。
このような時、ヒートとは真逆のベクトルで空気を読めない彼女の存在はありがたかった。

(;゚∀゚)『結果論とは言え、騎兵を使ったのは失敗だったかもな』

ジョルジュが頭を掻きつつ愚痴を漏らす。
ヴィップ首脳陣で唯一【白面】と二度遭遇していたヒートの言葉は、
『見間違い』と笑い飛ばすには重すぎる真実味があった。
更に、オリーブ村の時と同様、今回のエドワード捕獲作戦についても彼らは足の速い騎兵を中心に隊を組んでいる。
その中には当然、前の戦いにも選出された者が含まれており、口止めする間も無く兵達の間に噂は広まっていた。

( ,,゚Д゚)『【白衣白面】とクリテロって言やぁ、ギムレットじゃどの家に行っても姿絵護りが祀ってある大英雄だ。
      ガキの頃から色々話は聞いてるだろうし、実際目にした事のある年寄りも多い。
      それが他国に付いたってなりゃあ、混乱もするだろうぜゴルァ』

【急先鋒】の言葉に同意するのは、内乱終結後新たに客将として加わった剣士・【九紋竜】のギコだ。
しぃが冷ややかな目で見る為、毎日風呂には入っているようだが、それでも乞食のような風体は相変わらずである。

ちなみに、このジョルジュとギコ。
内乱において二度剣を交え、一勝一敗。共に生死の境を彷徨う重傷を負っている。
にも拘らず多くの負傷者が立つ事も出来ぬ今でも、平気な顔をして城中を歩き回っていた。
怪我を理由に公務こそ周囲が引き受けていたが、手持ち無沙汰なのか揃って酒家に出入りしている所が幾度か目撃されている。
『戦場でつかなかった決着を酒の場でつける』等と言っているが、本質は共に生粋の武人。
分かりあうところも多いのかもしれない。

(´・ω・`)『まぁ、過ぎた事を言っても仕方ない』



27: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 21:57:05.08 ID:/IbU359L0
ここで、沈黙を保っていた白眉の戦略家・ショボンが口を開いた。
彼もまたヴィップを代表する空気が読めない人物なのだが、今は流石に口調が重い。
何故なら【白衣白面】とは彼が秘密裏に組織した部隊だからである。
地方の弱小勢力に過ぎないヴィップが他国に対抗する為、過去の伝説を甦らせた存在。
その為ナイトウに死を装わせ、名前を変えさせてヴィップ中央を離れさせた。
ショボン自身の悲願が達成された暁には、中央への復帰も約束しているし、王の怒りを買った身の処分も未来での悪名も全て覚悟している。

(´・ω・`)。oO(……ブーン。一体どう言う事だ?)

ブーンのツンに向ける忠誠は、絶対と言って良いほどの物だった筈である。
互いに恋慕しあっているのではないかと勘繰った事すらあるし、それは間違いではなかったとの自信もある。
だからこそ、独立部隊とも言える【白衣白面】を彼に任せたのだ。

そのブーンが何故ニイトに組みしているのかが分からない。
内乱中ニイトの出兵を防ぐ為、内部撹乱を目的として密かに【白面】を動かしたのはショボン自身だ。
何らかのトラブルがあったのは間違いないだろうが、裏切りに繋がる“何か”とは? 彼の頭脳をしても答えは出ない。

(´・ω・`)『兎に角。今我々に足りないのは情報だ。ニイトが今後どのような動きに出てくるのか? それ次第で対応も変えねばならない』

ミセ;゚ー゚)リ『……そうですね。ボクは【白面】を見た事がありませんが、何を考えているのか分からない【白面】より
      ニイトがどう動くのか? そっちから考えた方が良いと思います』

(´・ω・`)『兵の中にもニイトが内乱の首謀者を受け入れた事実を知る者が多く、いずれ民からもニイト討伐を望む声が大きくなるだろう。
     正直、友好的な関係にはならないと思うけど、まずはハインにニイトの動向を探ってもらう事から始めようと思う』

ξ゚听)ξ『……そうね。ひょっとしたら、何かの作戦かもしれないし……』

それだけはないであろう事はショボンには断言できる。
しかし、微かな希望に縋りついて愁眉を開いた王の姿に、ショボンはその言葉を口に出せずにいた。



29: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:01:46.81 ID:/IbU359L0
         ※          ※          ※

(´<_` )『おぉ、銀ぱ……じゃなくて、ブーンか。何をしているのだ?』

( ^ω^)ノシ『おいすーだお、兄……じゃなくて弟者さん』

(´<_` )『うむ。俺は弟者の方だ。ようやく覚えてくれたな』

その日、警備を終えて宮殿に戻った【金剛吽】弟者は、すでに馴染みとなった青年の顔を見つけ、思わず声をかけていた。
平服に身を包んだ青年の髪は黒く染められ、対比するように白い包帯が巻きつけられている。

( ^ω^)『おっおっおっ。もう間違えないお。
       馬鹿なようで真面目なのが兄者さんで、真面目なようで馬鹿なのが弟者さんだお』

(´<_`ii)『……その覚え方は勘弁してくれんか?』

青年の言葉に、義手の隠密はがっくりと肩を落とした。
ただでさえ、数日前より急に生暖かくなった市民からの視線に心を痛めているのである。

(´<_`ii)『……昔からの悪癖と言うヤツだ。どうにも感情が昂ぶると自分が押さえきれなくなる。
       あの時も兄者に唆されたせいで……すまん、悪い事をしたと反省しているんだ。勘弁してくれ』

( ^ω^)『犬耳萌えー、でプッツンかお?』

(´<_`ii)『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

乾ききっていない傷口を抉られ、弟者はガンガンと石壁に額をガンガンと叩きつけた。
と、そこへ。

爪ii- -)『あまり弟者君で遊ばないでくれませんか、ホライゾン様』



32: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:07:59.18 ID:/IbU359L0
現われたのは、細身の官服を纏った女性だ。
隙なくピシッと着こなしている筈のそれが、かえって彼女の整った体の線を強調している。
歩くたび、ミルクティー色の髪がふわふわと柔らかく揺れた。

彼女の名はレーゼ。
商業国家ニイトを支える智謀の士。
特に財務計算能力に長けた彼女を、人は【神算子】の異名をもって敬っていた。

(;^ω^)『そのホライゾン様って言うのは止めてくれませんかお? ブーンって呼んでほしいですお』

爪゚ー゚)『駄目よ。私がクー様に怒られてしまうわ』

そう言う彼女の手には、赤銅色の鉄の塊が持たれている。

( ^ω^)『? それは何ですかお?』

爪゚ー゚)『クー様の義足よ。本当はコレさえ着けてれば歩く事も可能なの。
    でも、ほら。長時間着用してると、傷口との接触面が痛むらしくてね。
    お医者様にも言われてるんだけど、嫌がるのよ。でも、ホライゾン様となら……』

そこまで言って、レーゼは言葉を区切った。
数瞬の後、覚悟を決めたかのように再開する。

爪゚ー゚)『ホライゾン様。私達は貴方を拘束しないわ。貴方が今まで求めてきた理想がある事も分かってる。
    でも、貴方が本当に生きるべき場所はこのニイトなの。
    私達では引き出す事の出来なかったクー様の自然な笑顔を引き出せるのは、貴方だけなの。
    お願いだから……クー様のお側を離れないでいてあげて?』



34: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:10:39.37 ID:/IbU359L0
( ^ω^)『……正直、重い話ですお』

レーゼの言葉に青年は視線を落とした。
が、真摯な言葉を流したり誤魔化したりする程、彼は卑怯でも器用でもなく。
困り果てた風に言葉を繋ぐ。

( ^ω^)『……僕には昔の記憶がありませんお。だから“ここが僕が生きるべき場所”って言われても不思議な気分ですお』

爪 - -)『そう……よ、ね』

微かに自嘲するような笑みを浮かべ、レーゼはふぅと息を吐く。

爪゚ー゚)『クー様ったら、公務の間も暇さえあればホライゾン様の話をするのよ。
    私達姉妹だって父上の代からクー様とはお付き合いしてるのに。少し妬けてしまうわ』

( ^ω^)『おっおっ。僕も暇さえあればクー様に捕まってますお』

二人の目の下に薄くついたクマは寝不足の証だ。
レーゼは積荷隊荒らし事件の事後処理に追われ、ブーンは寝台に乗り込んできたクーと夜が白け出すまで語り明かしている。

( ^ω^)『でも、僕はクー様やニイトのみんなが大好きになりましたお。
       クー様が今みたいに笑ってくれるなら、僕も僕なりのやり方で頑張りますお』

爪゚ー゚)『ありがと。でも、あまり無茶はしないでね?
    聞いてると思うけど、クー様はヴィップがお好きではないようだから』

(;^ω^)『それが……残念だお。僕はみんなに仲良くしてほしいですお』

言って青年は大きく肩を落とす。
しかし、レーゼは彼より少しだけ器用だったから、それを敢えて目に入らぬふりをするのだった。



37: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:14:16.61 ID:/IbU359L0
???『あーーーーーっ!! クー様、目標発見しましたですヨ!?』

宮殿から響いた声に、二人は視線を送る。
やはりミルクティー色の髪をした女性が、黒髪の女性の乗った四輪車を押し駆けてくるのが目に入った。

( ^ω^)ノシ『おいすーだお、リーゼさん』

爪>∀<)ノシ『ぃやはーーーーーーーっ!!』

リーゼと呼ばれた女が、顔をくしゃくしゃにして手を振り返す。【金槍手】リーゼは【神算子】レーゼの双子の妹だ。
一国の首脳を二組の双子が占めている訳だが、【金剛阿吽】の時ほど青年は姉妹の見分け方に苦労をしなかった。
生真面目で世の中の不幸を一身に背負ったような表情をしているのが姉のレーゼ。
対して、能天気で世界中の幸せを独占しているかのような笑顔をしているのが妹のリーゼである。

( ^ω^)『クー様もお仕事お疲れ様ですお』

川 ゚ -゚)『うむ、待たせてすまなかったなホライゾン』

四輪車に座した女性がその表情を変えずに応えた。
いや、親しい者ならばその緑色の瞳が柔らかな輝きを湛えているのを見て取れるだろう。
本来の彼らの関係からすれば、『クー様』などという他人行儀な呼び方は寂しいものである。
が、そのような感情を遥かに上回る幸福感が、氷の女と呼ばれた彼女の全身を包んでいた。

川 ゚ -゚)『今日は北の草原へ行こう。そして、帰りは昔のように市で買い食いをするんだ。楽しいぞ』

その言葉を合図に、青年は四輪車の押し手をリーゼと交代すると、ゆっくりと歩き出した。
両足を失った女は身を捻り、ブーンの顔を見上げて嬉しそうに微笑んでいる。
青年もまた、そんなクーと目を合わせ、少し困ったように微笑んだ。

風が二人の首から下げられた鈴を揺らし、ちりんと小さく澄んだ音が空に響いた。



43: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:20:15.25 ID:/IbU359L0
         ※          ※          ※

(,,^Д^)『……ったく……どーすりゃいいのかねぇ』

そのニイトの城下町。
客も寄り付こうとしないうらびれた娼室の中に、白衣白面副長・【鉄牛】プギャーの姿はあった。
腰を下ろしただけで悲鳴をあげる寝台に敷かれた布団からは綿が飛び出しているし、壁には経年の傷と汚れが染み付いている。
女達も他に行く先の無い者達がポツポツといるだけの娼室である。
が、【商業都市】として名高いニイトでは、このようなところでしか“購入”出来ない物も多い。
例えば麻薬。例えば情報。そして、例えば“安全”である。
【金剛阿吽】流石兄弟の指揮する積荷隊荒らし捕縛作戦から数日後。難を逃れた彼は、この薄汚い娼室に身を潜めていた。

(,,^Д^)『……くそ』

縁の欠けた素焼きの碗に酒を注ぎ、口に流し込む。
自身をさげずむかのように浮かべた笑みも、今は困惑に濁っていた。

ニイトの地は、彼にとって良い思い出の残る土地ではない。
かつてリーマンの貴族ボルジョアの策に嵌り、妻子と引き離されて兵役に就かされた時。
派遣されたのが、当時のニイト公・【夢幻剣塵】モララー率いる反乱の鎮圧だった。
山道を潜り抜け、城主のいないニイト城を奪った日の事は、今もはっきりと覚えている。

それすなわち、妻子を人質に降伏したモララーと、妻子を奪われニイト制圧に加わった己との対比であり。
そして、モララーの子である現在のニイト王クーと、彼女の側にある白衣白面隊長ブーンの存在。
その全てが、決して愚鈍とは言い難いプギャーの思考回路を完全に麻痺させていた。

(,,^Д^)。oO(大将よぉ……お前さん本気なのか……?)

小さく呟き、また好みの味ではない酒を胃に流し込む。
床に胡坐をかいた彼の背後で、ギィ……と蝶番を軋ませながら扉が開かれたのは、ちょうどそんな時だった。



47: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:23:35.68 ID:/IbU359L0
(,,^Д^)『あ?』

女『もし……銀5片でいいのです。買って頂けないでしょうか』

言いながら、返事も聞かずに後ろ手に戸を閉める。
施錠したつもりであったが、困惑のあまりうっかりしていたか?

お分かりかと思うが、女は何も手に商品を下げて来ているわけではない。
このような娼室で女が男に売りつけようとしている物など、数が知れているだろう。
当然、そのような目的でこの場にいるわけでないプギャーは面倒臭そうに息を吐く。

女『……』

ちら、と背中越しに見れば、黒髪で細身の女である。
外套のフードを深く被っている為に顔は見えないが、声の質から判断するに歳もそう老けてはいるまい。
今後の面倒事を避ける為にも、適当に抱いて追い返すのも本来ならば悪くない。
が。

(,,^Д^)。oO(銀5片とか……相場の半分以下じゃねーか)

あまりに安すぎる値と女の服装が決断力を鈍らせた。
プギャーとて枯れきった仙人ではないし、娼室遊びも未経験と言う訳でもない。
5片と言えば、大人二人で飲み食いすれば普通に使ってしまう程度の価格でしかないのだ。
更に、女が着ているのは身を飾り立てるような衣装でなく、実用性を重視するような旅外套に近い物であった。
ただの醜女(しこめ)であれば構わぬが、病に身を窶している女だとすると問題が残る。
彼一人の軽率な行動が原因で、軍隊と言う集団全体に性病を蔓延させてしまうのは決してよろしくない。

(,,^Д^)。oO(とっとと追い返すか)



51: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:26:53.39 ID:/IbU359L0
(,,^Д^)『洗濯板に用はねーよwwwwサーセンwwww』

女『あ?』

言って、プギャーは銀を1片放り投げた。
このような所謂“押しかけ遊女”を断るには、彼女が自身の好みでない事をはっきり伝えてしまうのが一番である。
その時、少しのチップでも握らせてやれば角も立てずに女は席を離れていく。
それで互いに別の“相棒”を探すのが、スマートな遊び方とされていた。
しかし。

(;,^Д^)『うおっ!?』

女はその作法を良しとしなかった。
銀を拾い上げると、部屋を出るどころかプギャーの背に靴裏を叩き込むような蹴りを入れたのである。
ちょうど酒を飲もうとしていた彼は、ストレートに気管に液体を流し込んでしまい、激しくむせ込んだ。

(#,^Д^)『何しやがる!! この竹筒体型……って、あ?』

女の行動は、もちろん娼室で商いをする者のマナー違反である。
ようやく咳を止めたプギャーが抗議の声をあげるのも当然と言えた。
が。
フードを取った女の素顔に、思わず息を飲む。





从#゚∀从『オーケーだ、プギャー。色々と説明を聞こうじゃねーか。色々と、な』

(;,^Д^)『……サーセン』



54: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:31:01.46 ID:/IbU359L0
(#,^Д^)『俺達が裏切っただぁ!?』

ニイトの動向を探るべく、単身隣国に潜入したハインを前にプギャーは思わず声を荒げた。
彼女の目的は、一つではない。
ヴィップ内乱の首謀者の一人・エドワードの身を何故ニイトが保護しているのか?
また、ショボンによって組織された影の別働部隊【白衣白面】。
それが何故ニイトに組しているのかを調べ上げる事も、主から秘密裏に託された任務でもある。

从 ゚∀从『申し開きは御主人にするんだな。
     ブーンが【天馬騎士団】と共に領境に現われた事は、多くの兵士が目撃してるんだ』

(,,^Д^)『……随分とふざけた事言いやがるんだな』

木板を貼っただけの床に胡坐をかいたプギャーが、寝台に腰を下ろすハインを睨みつけた。
二人の間に流れる空気は、決して友好的と言える類の物ではない。

プギャーにしてみれば事実をある程度知る者として、ヴィップ内部で囁かれている疑惑は面白い物ではなかったし、
背中の痛みも反抗心を後押ししてくる。
ハインにしてみれば事の真相が掴めぬ不安は当然。綿埃が散らかる部屋の空気や【鉄牛】の暴言が不機嫌を増大させていた。

(#,^Д^)『……言っておくが、な。俺達が忠誠を誓っているのはお前の飼い主やヴィップの姫さんじゃねぇぞ。
     確かに、【白面】を組織したのはショボンだ。
     が、死地にしか己の存在を置けなかった俺達に、もう一度生きる意味を与えてくれたのはブーンだ。
     あいつがいるから、俺達【白面】は生きている。
     【白衣白面】は【王家の猟犬】ブーンの為に生き、ブーンの為に死ぬ部隊だ。“裏切り”なんてのはお門違いすぎるぜ』

その言い草にハインは目を細めた。
給士服の裾から引き抜いた両手の指には、それぞれ数本の飛刀が挟み込まれている。

从#゚∀从『……随分と良く舌が回るじゃねぇか。何ならハインちゃんが切り落としてやろうか?』



61: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:36:05.04 ID:/IbU359L0
(#,^Д^)『……』

从#゚∀从『……』

凍りつく空気の中、二人は視線を逸らさず睨みあう。
窓から入る光はほとんど無く、灯りは寝台の枕元に置かれた小さな燭台のみ。
それが互いの身体から立ち昇る殺気を、浮かび上がらせているようにも思えた。
そして。

(,,^Д^)『……サーセン。言い過ぎた』

从 ゚∀从『……あぁ。ハインちゃんもだ。悪かった』

二人は肩を落とした。目の前の相手に当たっても意味が無い事は分かっているのだ。
プギャーにとってニイトは忌まわしき思い出の残る土地。
だが、それは彼だけが持つ記憶ではない。

【夢幻剣塵】モララーの居ないニイト城強襲作戦。
それにはかつて、暗殺人形と呼ばれていた頃のハインも加わっている。
この地は【闇に輝く射手】ハインリッヒ終焉の地でもあるのだ。

それを分かっているからこそ、プギャーは頭を下げた。
頭で理解はしていても、心が平穏でいる事を許さない。
彼ら二人にとってのニイトとは、そのような呪縛の地なのだ。

从 ゚∀从『……なら、話してくれ。一体、ブーンの身に何があったのか』

ハインの声に頷き【鉄牛】は語りだす。
この娼室に身を潜めて数日、得た情報は決して多くはない。
それでも、その全てを明かそうとプギャーは心中誓っていた。



65: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:39:25.84 ID:/IbU359L0
从 ゚∀从『……エドワードを保護した理由はわからねぇか』

(,,^Д^)『おう。金で買える情報は全部掻き集めたつもりだが……サーセン』

内乱の首謀者を匿うと言う事は、ニイトがヴィップに対して明らかな敵対心を示したと言う事である。
メンヘルからの出兵要請を散々理由づけて断ろうとしていたニイトが、
今更になってエドワードを保護し、ヴィップに剣を向けるというのはどうにも合点の行かぬ話であった。

(,,^Д^)『積荷隊荒らしの正体がヴィップによる物だと分かったんで、それでじゃねぇのか?』

从 ゚∀从『その可能性は御主人も言ってたな。
     でもよ、それならそれを理由に宣戦すれば良いだけの話だ。
     エドワードを匿う理由にはならねぇ』

(,,^Д^)『そーすねwwwwサーセンwwww』

強いて言えば、メンヘルに恩を売るのが目的か?
だが、王都からの亡命貴族であるエドワードを保護する事でメンヘルに恩を着せられるとは到底考えられない。

从 ゚∀从『まぁ、わからねぇ事をグダグダ言いあっても仕方ねぇ』

言いながらハインは室内をキョロキョロと見渡した。
が、当然そこに茶具の用意などある筈も無く。
がっかりした顔で腰の袋から蜜を煮固めた飴玉を取り出し、口に放り込む。

从 ゚∀从『で、次の話だ。お前らの隊長の話なんだが……』

(,,^Д^)『おう。これも全て知ってる訳じゃねぇけどな……』



67: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:43:12.26 ID:/IbU359L0
从;゚∀从『裏切ってねぇ、だと?』

(,,^Д^)『そうだ。うちの大将がいたから、ヴィップのエドワード捕獲隊は全滅しなかった。
     今日の時点でヴィップ国内にニイトが侵略していないのも、全部ブーンが動いたからこそだ』

从;゚∀从『……マジかよ』

ハインは思わず生唾を飲み込んだ。
プギャーの説明はこうだ。
元々、ヴィップが軍を動かした時、クーは領境の大森林に兵を伏せ、境を越えた時点で殲滅するつもりであったらしい。
それをブーンが説得し、ヴィップが境を越えず大人しく兵を引くなら……という条件で交戦を阻止したと言うのだ。

从;゚∀从『って事は、もしナイト……ブーンがいなかったら……』

(,,^Д^)『全滅っすねwwww』

プギャーの口調に軽々しさが戻ってきたのは、自身が抱え込んでいた事実をようやっと明らかに出来たと言う事による物だろう。
対するハインは、微かに寒々しさを覚えていた。
エドワード一人の身を捕縛すると言うだけの任を負った100の騎兵部隊。
彼らに十分な戦闘準備があったとは聞いていない。
もし、そこに数倍する伏兵が襲いかかったとしたら……。
隊を指揮するのがヒートやダディと言った勇将であっても、ひとたまりも無かっただろう。

从;゚∀从『ハインちゃん達はブーンに感謝しなきゃいけなかったのか……』

(,,^Д^)『そーゆーこった』

プギャーは満足そうに杯をあおった。
彼が嬉しそうにしているのは、ハインをやり込めたからではない。
自身の友人であり、上官でもあるブーンに向けられた疑いを晴らせたのが、ただただ嬉しいのだ。



69: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:47:10.53 ID:/IbU359L0
从 ゚∀从『でもよ、そーするとまた一つ疑問が出てくるな』

(,,^Д^)『おう』

ブーンがエドワード捜索隊への奇襲を防いだという事は、
それすなわち彼がニイトにおいてそれだけの力を持っていると言う事に他ならない。
過去の記憶も無く、親から与えられた本当の名も知らず。唯一手にしていた銀の鈴に掘られていた文字から、ナイトウを名乗っていた青年。
その彼がニイトの地で権力を積み重ねていたとは思えず、またそのような時間も無かった筈だ。

从 ゚∀从『ブーンの正体か……。それがあいつがニイトに組している鍵ってワケだな』

(,,^Д^)『サーセンwwwwそこまでは情報が無いッス』

从 ゚∀从『いや、良いさ。この先はハインちゃんが自分で調べてみる』

言って黒衣の給士は立ち上がった。旅外套を身にまといフードを深く下ろす。

(,,^Д^)『気をつけろよ。ニイトには【金剛阿吽】がいやがる。あいつらがいなかったら俺達もとっくに撤収できてた筈なんだ』

从 ゚∀从『流石兄弟か……安心しろ。ハインちゃんはあいつらには負けねーよ』

双子の隠密がハインを熟知しているように、ハインもまた彼らを知り尽くしていると言っても過言ではない。
ブーンが敗れたとは言え、格段に高い瞬歩の技術を持つ自分が敗れるとは全く思えなかった。

从 ゚∀从。oO(そんな事より……だな)

小国とは言え、一つの国家の動きを左右する事の出来る青年ブーン。彼の失われた正体とは何なのか?
プギャーの話では、彼の周囲には【神算子】【金槍手】の双子姉妹や【無限陣】クーが常に付きまとっていると言う。
多少の危険を冒してでも、彼に接触せねばなるまい。
薄暗い娼室の戸を開きながら、ハインはそんな事を考えていた。



73: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:50:54.28 ID:/IbU359L0
         ※          ※          ※

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━━━━━━━━
━━━━━━

『ほら、行くよーホライゾン!!』

『おっおっおっ、ちょっと早すぎるおー!!』

草原を二人の子供が駆け回っていた。
両腕を翼のように広げ、その手の中で風を受けくるくると回っているのは竹とんぼ。
先を行く少女の柔らかい黒髪は風に泳ぎ、やはり黒髪のやや幼い少年がそれを追いかける。
春の草原は大地を覆う若草も柔らかく、子供達のむき出しになった足を傷つける事も無い。

乾いた土の匂い。青々とした草木の香り。そして、微かに甘く漂う花の薫り。高い空は青く、厚みのある白い雲が浮かんでいる。
草原は駆けるのが大好きな子供達にとって世界の全てと言っても良いほどに広く、その中央には桜色の花に包まれた大樹が根を下ろしていて。
その全てが一体となって少女と少年を包んでいた。

駆け回るのに疲れると、子供達は若草の絨毯に身を横たえて空を見上げる。
そして、風に流れる雲が形を変えていく様を楽しむのだ。

『ほら、見てホライゾン!! あの雲、お菓子に見えない!?』

『おっおっおっ、………は食べ物のお話ばかりだお』

『あーっ!! 言ったなホライゾン!!』

陽光をたっぷり浴びた大地はポカポカと暖かく、風で二人の身体を冷やしすぎる事も無い。
そうして休むのが退屈になってきた頃、二人は追いかけっこを再開するのだ。



75: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:54:25.36 ID:/IbU359L0
やがて、太陽が西の果てに沈む頃。
二人の世界は美しい夕焼け色に染め上げられる。
背後には、くっきりと長い影が足元から伸びていて。
子供達は手を繋ぎ、飽きる事も無く巨大な夕陽が消えていくのを眺めた。

夕焼けは子供達にとって、幸せな遊びの時間が終わる合図だ。
どんなに楽しくても、日が沈めば今日と言う日はお終い。
だから、美しい夕陽はどこか寂しく。
二人はいつも、日が沈まなければ良いのに、と願っていた。

???『おーーーーーーーーーーーーーい。二人とも、ご飯だよーーーーーーーーー!!』

それでも、城門を潜ってきた男が二人を呼ぶと、そんな寂寥感など消え去ってしまう。
競う様にして男の下に駆け寄ると、少女はその逞しい腕に。少年は広く厚い背中に飛びつくのだ。

『ご飯だおー、ご飯だおー』

『違うよホライゾン!! “だおー”じゃなくて“だよー”だよ!!』

『だおー、だおー』

1つしか離れていないくせに年上風を吹かす少女と、舌っ足らずな少年。
その姿を目を細めて見ていた男は、やがて二人を肩に乗せて歩き出す。
子供達は高くなった目線が楽しくて、それでも少しだけ怖くて、男のゴツゴツした大きな手にしがみつき。
男は、そんな二人に嬉しそうに問いかけるのだ。




( ・∀・)『二人とも、今日も一日楽しかったかよ?』



78: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 22:58:34.25 ID:/IbU359L0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

( ^ω^)『……』

川 ゚ -゚)『……どうだ? 何か思い出したか、ホライゾン?』

ニイト城を出た二人は、北に広がる草原に来ていた。
その中央に佇む大樹は花の季節を過ぎてしまっており、深緑に覆われている。
美しい思い出も、時を過ぎればその美しさゆえ残酷にもなるもので。
クーの身体からは、あの日草原を駆け回った両足は永遠に失われ、今では冷たい鉄の義足に代わられているのだ。

(;^ω^)『……ごめんなさいですお。この景色もぼんやりと夢で見たような気がするんですけど……』

川 ゚ -゚)『いや、いいんだ。ここもあの頃と全く同じと言う訳ではないからな』

言ってクーは青年の手を包み取り、そっと自らの頬に押し当てる。
柔らかな頬はひんやりと冷たく、それでも奥にある温かさを青年に伝えてきてくれた。

川 ゚ -゚)『ホライゾンの手は温かいな。お互い成長したが、この温もりはあの頃と同じだ』

( ^ω^)『……クー様の手も温かいですお』

そのままクーは愛しそうにして緩やかに垂れた瞳を閉じる。
その姿は『己の全てを使ってニイトを評議会から奪い返した鉄の女』と言う世間の風評からは程遠く。
ただ、ただ年相応の乙女の姿がそこにはあった。



82: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 23:03:44.14 ID:/IbU359L0
クーが青年に語ったのは彼女が幸せに包まれていた頃の記憶。思い出話だ。
広い草原。黒髪の少女。竹とんぼ。
その全てが青年の見た夢と合致する。
しかし、それでもブーンは彼女の話を、どこか遠い他人事のようにしか思えなかった。
何故か?

川 ゚ -゚)『これでも……随分と昔に近づいたんだ。
     あの日の思い出を取り返したくて……私はその為だけに生きてきた。その想いが私を生かしてくれたんだ』

(;^ω^)『……思い出せなくてごめんなさいですお』

川 ゚ -゚)『謝るなと言っただろう』

言いながらクーは少し怒った風にして青年を見上げる。
その表情は怒っているような、青年を怒る事を少しだけ楽しんでいるような、そんな複雑な顔だった。

モララーが評議会に降伏して処刑された後、ニイトは荒廃の一路を辿った。
宮殿は焼け落ち、城内には風も防げぬ粗末な小屋が並んだ。
二人がいる草原は病人や老人を死体と共に密かに捨てる場所へとなり下がり、夜にもなれば野犬の群れや死体漁りの賊が出没した。
人々は雑草や木の根を煮て飢えを満たし、誰もがその日を生き抜くだけで精一杯だったと言う。

そのニイトを再興したのが【無限陣】クーだ。ニイトを商業国家として建て直し、【神算子】レーゼと共に市場を開発した。
モララーの死後彼女を引き取った【全知全能】スカルチノフの元で学んだ戦術を生かし、【金槍手】リーゼと共に野犬や賊を一掃した。

その再興計画はかつての日々に拘るクーの元、出来る限りは過去のそれと全く同じになるように進められた。
だが、新生ニイトは牧農を主としていた時代の物と違い、商業国家なのだ。
当然、市は大きく拡大されたし、足を失ったクーの移動の為にも城内は至る所にスロープが取り付けられた。

つまり、夢での景色と全く同じ様に見えて所々で大きく違ってしまっている。
その事がブーンを困惑させていた。



85: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 23:08:48.26 ID:/IbU359L0
川 ゚ -゚)『いいんだ。焦る必要はない。これからゆっくり思い出せば良い。
      きっとホライゾンもあの満開の桜を見れば何かを思い出すさ』

( ^ω^)『……ありがとうですお』

それでも青年には一つだけ確信を持って言える事がある。
それは、クーがついに現われた己の過去を知る人物だという事だ。
流石兄弟に捕らえられ、彼女と初めて(?)会ったあの日。
語り明かされた自身の正体は、今もなお信じられる物ではないとしても。

(;^ω^)『でも……僕の髪の色はクー様のお話とは……』

川 ゚ -゚)『あぁ、確かにな。だが、人はあまりに恐ろしい体験をすると一晩で老人のようになってしまう事もあると言う。
     きっと、“あの日の事”が恐ろしすぎて起こった変化だろうと私は思う。
     ホライゾンの記憶が戻らぬのも、それが関係しているのかもな』

話しながら青年はクーの座した四輪車を押す。
そして、城門の前。堀にかけられた橋の上で、彼を待ち構えていた人物と再会を果たすのである。









从 ゚∀从『よぉ、ナイトウ。ちょっと話があるんだが付き合ってくれねぇか?』

(;^ω^)『……ハインさん』



89: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 23:13:15.73 ID:/IbU359L0
川 ゚ -゚)『ハインだと!! まさか、【闇に輝く射手】ハインリッヒか!?』

(;^ω^)『お?』

思わず漏らした呟きに驚くほど過剰に反応したのは、意外にもクーであった。
ゴシック調の給士服を纏ったハインもまた、【無限陣】の声に眦を吊り上げる。

从#゚∀从『ハインちゃんをその名で呼ぶんじゃねぇ!! とうに捨てた名だ!!』

川 ゚ -゚)『捨てた、だと? ……そうか。では、間違いないのだな』

誰に言うでもなく口にすると、クーは頭を垂れた。
背後に立つ元・銀髪の青年は、その彼女の肩が小刻みに揺れているのを見る。
そのくせ、身を包む殺気だけは禍々しいほどに強く立ち昇っているのだ。

川 - )『く……くく……』

(;^ω^)『クー様?』

从;゚∀从『……』

突如クーに起きた変化にブーンは対応する事が出来ず。
給士もあんぐりと口を開いて呆然と立ちつくす。
そして。





川 ゚∀゚)『あーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!』



97: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 23:18:16.16 ID:/IbU359L0
从;゚∀从『な、なんだいきなり!! 気持ち悪ぃ!!』

(;^ω^)『クー様!? どうしたんですかお!?』

川 ゚∀゚)『これが笑わずにいられるか、ホライゾン!!』

言ってクーは鶴縫の袖で浮かんだ涙を拭き取った。

川 ゚∀゚)『私は実に運が良い!! 生涯を賭けて捜し求めようと決意した二人と、こうも立て続けに出会う事が出来たのだからな!!』

感極まったと言う風に叫ぶ。
ハインは背を向けて逃げ出したい気持ちをグッと堪えた。
ブーンは突如豹変したクーを見て思わずたじろいだ。
そこにあるのは、草原で青年の身体に寄り添っていた乙女ではない。
狂気の神に自ら望んで魂を売り渡した、鬼姫の姿がそこにある。

从;゚∀从『お、おい、ナイトウ!! こいつ一体どうs』

川#゚ -゚)『黙れ!! 薄汚い暗殺者風情が口を開くな!!』

从;゚∀从『なっ!?』

その一言は、ハインの心の古傷を火箸で抉る言葉であった筈である。
が、にも拘らず給士は一歩たりとも身動きする事が出来なかった。
何故なら。クーの狂気の正体に、最悪の予感を察しかけていたから。
それはあたかも数百の毒蛇のように、ハインの身体を縛り付ける。

そう。
クーは過去、モララーの反乱におけるニイト城陥落の際、友人家族と自身の両足を失ったと言う過去を持つ。
そしてそれは━━━━━━━━━━【闇に輝く射手】ハインリッヒ最後の戦い。



102: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 23:22:28.54 ID:/IbU359L0
川 ゚ー゚)『……そうだ。貴様は今、ホライゾンの事をナイトウと呼んだな?』

良い事を思いついたとばかりに、クーの顔が愉悦に歪んだ。
しかし、その表情からは無邪気な喜びなど微塵も感じ取れない。
それは、蜘蛛の巣にかかった蝶の運命をただ見つめるような、冷酷な喜びに満ちた物だ。

川 ゚ー゚)『確か、その名はホライゾンが持っていた鈴に彫られていた文字から自分で考え出した物。
     そう聞いているが、間違いないな?』

从;゚∀从『あ……あぁ……そう、だ』

ハインの言葉に満足そうに頷くと、クーは己の後ろ首に両手を回し入れた。
数秒の後に突き出された右手の先にぶら下っているのは、皮紐の先に揺れる銀色の鈴。

从;゚∀从『それはナイトウの……どうしてお前がそれを……』

川 ゚ー゚)『違う。確かに全く同じ作りの物だが、これは私の物だ』

从;゚∀从『……』

確かに青年の持っていた鈴はところどころで黒く酸化してしまっており、
浮き彫りにされた文字もよく読み取れぬほどになってしまっていた。
が、今クーの指先で揺れているそれは、丁寧に磨き上げられて陽光に輝いている。

川 ゚ー゚)『貴様に良い事を教えてやろう。この鈴に彫られているのは“ナイトウ”などと言う文字ではない。“ニイト”と彫られているのだ』

从;゚∀从『ニイト……だと……?』

そこでクーの表情から歪みが消える。
それは、続く言葉があまりにも気高い物である事を示しているようで……



108: ◆COOK./Fzzo :2009/02/22(日) 23:27:33.61 ID:/IbU359L0
川 ゚ -゚)『冥土の土産に覚えておくと良い、哀れな暗殺者よ。
      貴様がナイトウなどと気安く呼んでいた者は、その真名をニイト=ホライゾン』

从;゚∀从『ニイト……ホライゾン』

ぐるぐると回る視界の中、給士が思い出していたのはかつて主・ショボンが語った【王姓令】の事だった。
細やかに説明すればキリがないが、その大きな特徴は二つ。
一つが、姓を持つ事を許されるのは王族。もしくはそれと血縁にある者に限ると言う事。
もう一つが、統一王の直系は姓が名の後に。傍系は姓が名の先につくと言う事。

川 ゚ -゚)『父はニイト公・【勝利の剣】にして【夢幻剣塵】ニイト=モララー。
     母は統一王が妹、ニイト=ペニサス』

从 ∀从『……』

ハインはクーの声を、まるで夢の中にいるかのような心地で聞いていた。
その言葉が意味する事は決して少なくない。
そのうちの一つが━━━━━そう、つまり。








川 ゚ -゚)『この【無限陣】ニイト=クールの……世界でただ一人の弟だ!!』



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