( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

4: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:25:30.34 ID:Sv3J2ZAL0
アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称)・赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=千歩



8: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:27:53.76 ID:Sv3J2ZAL0
ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。
 ニイトに潜入活動を行なっていたが流石兄弟によって多くが囚われ、投獄された。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長



12: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:30:48.35 ID:Sv3J2ZAL0
MAP 〜智弁和歌山まで負けた。もう帝京以外応援するチームが残ってない。どうしよう編〜

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader1139220.jpg

@キール山脈 未開の地。厳しい自然環境下で、隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 内乱の制圧に成功するが、国内でニイト征伐の世論が異常なまでに高まり、世論に押し切られるように出兵した。

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 ヴィップの動きに警戒しつつ、表面上では沈黙を守っている。

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



16: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:37:26.77 ID:Sv3J2ZAL0


     第25章 獅子と猟犬


ヴィップ領内からニイト領内に侵攻する場合、その侵攻ルートはたった一つに絞られる。
その逆もまた同様だ。

両国はその国境を“迷いの森”と呼ばれる原森によって分かたれており、
当然そこは大軍を動かすに向かぬ土地柄である。
よって、森を迂回して南部の荒地を進むのが唯一の道と言えた。

北には飛び石のように浮かぶ島があり、そこを進めば両国の首都を直接叩く事も出来る。
が、心細い橋で繋いだだけの島は“迷いの森”以上に行軍に不向きであったし、
あまりにも守るに易い地といわざるを得なかった。

そもそも、ヴィップは流刑地なのである。
罪人の逃亡や賊の侵攻を防ぐ為、他領との接点は出来る限り絞り込まれていたし、
だからこそツン達は“陸の孤島”ともいえる彼の地にて勢力を蓄える事が出来たのであるが。

この年、ヴィップからニイトに向けて出立した兵は、騎兵2000 歩兵4000。
騎兵は、先の内乱で出番の無かった【薔薇の騎士団】1000を【急先鋒】ジョルジュが率い戦陣を務める。
騎兵副官は【紅飛燕】しぃ。彼女が遊軍として500の騎馬隊を指揮する。
歩兵部隊の長官は【赤髪鬼】ヒート。3000の歩兵が汗血馬に跨る彼女に続く。
中央には【天智星】ショボンを軍師とした【金獅子王】ツン=デレが【九紋竜】ギコに守られながら全軍を見渡す。
率いるは選び抜かれた精鋭、弓騎兵と歩兵がそれぞれ500。
後方には糧秣輸送隊として歩兵500が官女ミセリと共にある。

首都ヴィップには【戦鍋団】ダディとフンボルトを残し、南方からの守りには【白鷲】フィレンクトを置いた進軍は、
正にヴィップの現在動かせる全軍を動員しての物と言えた。



18: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:41:55.84 ID:Sv3J2ZAL0
諸兄らの中には、この時の戦力を『少ない』と感じる者もいるだろう。
が、考えていただきたい。
【鉄壁】ヒッキーがネグローニに侵攻した際の戦力が、騎兵500・歩兵1500だ。
つまり、この度の行軍はヒッキーの3倍という数に当たる。
歩兵部隊の多くが義勇兵によって組織されているとは言え、
内乱直後のヴィップがこれだけの兵を動かす事自体が異常なのである。

なにしろ、先の内乱で反乱軍本体を破った時の戦力が騎兵500・歩兵1000だったのである。
当時はヴィップ軍の騎兵中枢を担っていた【薔薇の騎士団】が動けなかったとは言え、
比較すればどれほど異常な事かご理解いただけよう。

『遠征は民の財産の七割を奪い、国の財産の六割を消費する』。
この孫子の名言を諸兄らに説明したのは、ヒッキーのネグローニ侵攻戦の時であったか。
大軍を動かせばそれだけ国庫を圧迫する事になり、そこから考えてもツン=デレがどれだけ本気であったのかが窺い知れる。

なにしろ、相手はあの【無限陣】なのだ。
民衆の不満を押さえるだけで良いのなら、少数の兵を動かし適当に暴れさせれば良い。
だが、それは一時凌ぎに過ぎない。
ニイトは軍を動かし、派遣した兵は全滅を免れぬであろう。
その結果、不満は更に高まり全滅した兵は無駄死にである。
戦うのならば、必勝の態勢で臨まねばならない。
また、そうする事でクーに圧力をかけ、剣を交えずに内乱の首謀者を引き渡させる可能性もある、というのがツンの考えであった。

そして、この時ヴィップの前に陣を引いたニイトの軍容は、
騎兵500を前にした歩兵隊が2000。率いるは【金槍手】リーゼ。
その後方にニイトの主戦力とも言える【天馬騎士団】1000を率いた本陣。
翻る大旗の下には【白狼王】ニイト=クールがいるはずである。

彼らは城を出て決戦を選んでいた。



19: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:44:33.91 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

川 ゚ -゚)『悪い知らせだ』

非常召集された軍議の場で、開口一番クーが告げたのは、ハインが兄者の小屋を立った日の昼時であった。

( ´_ゝ`)『それは良いが……口元に食いカスがついているぞ』

川 ゚ -゚)『む?』

兄者の言葉に、クーは慌てて袖で口元を拭う。
普段から無いに等しい表情が、一層固くなっていて。随分と機嫌の悪いようだった。
そして、それは弟と楽しんでいた昼餉を邪魔されたから、と言った程度の物ではあるまい。
例えそれが、程度に拍車をかけているとしても、だ。

( ´_ゝ`)『相当に悪い知らせなのだろうな。貴様が食事を中断するくらいだ』

川#゚ -゚)

その言葉に頬を赤らめつつも、クーは兄者をキッと睨みつける。
やれやれ、と肩をすくめながら、隠密は心中気が気ではなかった。
思うのは、今朝方姿を見送った“泣き虫”の事である。
まさか見つかったか、と最悪の展開が頭をよぎる。
が、クーの口から出たのは、兄者の予感から遠く離れたところの“最悪の展開”だった。

川 ゚ -゚)『ヴィップの野良猫めが我が国に向けて兵を出した。国境からの報告によれば、その数5000以上』



20: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:47:33.11 ID:Sv3J2ZAL0
(;゚ω゚)『ツンが攻めてくる……それは本当なのかお? 誤情報じゃないのかお?』

川 ゚ -゚)『それはないホライゾン。確かな情報だ』

かつて肩を並べた友が攻めてくる。
その光景を思い浮かべて、青年は息を飲んだ。
出来れば間違いであって欲しい。
しかし、どんなに思ってもそれは否定されていく。

(;゚ω゚)『でも、でも……』

川 ゚ -゚)『現実を見ろ、ホライゾン。自身の影を獅子と勘違いした野良猫が、愚かにも狼に爪を向けた。
     それが全てだ』

(;゚ω゚)『……そんな』

川 ゚ -゚)『ホライゾンよ。お前が何を考えているか、私にはよく分かる。
     しかし、お前は【勝利の剣】モララーの子なのだ。
     攻め来る敵から父の愛した民を守る為。何をするべきなのか、分からぬワケではあるまい』

言い合う姉弟を横目に兄者は思う。

( ´_ゝ`)。oO(ハインリッヒ……間に合わなかったか)

こうなると、自身の小屋でハインを休ませていた数日間が悔やまれる。
だが。
負傷と疲労で給士は歩くのもままならないほどだったのだ。
あまりにも早いヴィップの動きが憎らしかった。



22: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:50:51.68 ID:Sv3J2ZAL0
(´<_`;)『5000以上か……それにしても大軍だな』

爪ii- -)『えぇ。我が軍はすぐに動かせる兵はどんなに急いでも4000が限度だわ』

この世の不幸を全て背負っています、という顔でレーゼが漏らす。
頭の中では軍を動かす事によって生じる出費でも計算しているのだろう。

爪ii- -)『最悪。……最悪』

(´<_` )『しかし、愚痴っていても仕方あるまい』

ドーンと沈み込んだレーゼの声に被さる様にして弟者が口を開いた。

(´<_` )『まずは集められるだけの兵を集めてカンパリに籠城しよう。
       その上でニイト城に兵を集め、城攻めに疲れたヴィップを叩く……と言うのが良いと思うが』

面白味の欠片も無い戦術だ。
が、それ故に堅実で確実性の高い策。
正気な時の弟者らしい考えと言えよう。

爪ii- -)『籠城……長期戦になるわね……本当に最悪……』

金庫から金が吸いだされる様でも想像しているのか、レーゼは今にも泣き出しそうな顔をする。

爪゚∀゚)『え〜、つまんないですヨ〜。リーゼはガンガン殴りたいですヨ?』

(´<_` )『そうか。地面でも殴ってろ』

爪;>∀<)『ひどっ!?』



26: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:55:34.68 ID:Sv3J2ZAL0
川 ゚ -゚)『安心しろ、レーゼ。籠城は無い』

クーが口を開いたのは、そんな時である。

(´<_`;)『なっ……本気か!? 受け手の数が攻め手より少ないのならば籠城が基本では』

川 ゚ -゚)『貴様は』

狼狽する声を遮った。

川 ゚ -゚)『狼が薄汚い野良猫を前に巣に立て籠もるとでも思うのか』

爪;゚ー゚);^ω^);´_ゝ`)『……っ』(´<_`;(゚∀゚;爪

一同は、異論反論を一切許さぬ凍りついた声に息を飲んだ。
怒っている。表情こそ冷静を保っているが、心の奥底では怒りの炎が渦巻いている。

川 ゚ -゚)『告げる!!』

手にした羽毛扇を振るって命じた。

川 ゚ -゚)『レーゼは騎兵500を、リーゼは歩兵2000を率いて先陣を務めよ!!
     私は【天馬騎士団】を率い流石兄弟と共に後陣を率いる!!
     急げ!! 落雷が如く行動せよ!!』

その言葉に、双子の姉妹は慌てたように座を立ち上がり、玉座の間を後にする。
そして、クーは彼女の横に立つ弟の顔を見上げ、一言いうのだ。

川 ゚ -゚)『さて、ホライゾンよ。お前にもほんの少しだけ働いてもらうぞ』



28: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 21:59:00.12 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

(´・ω・`)『……なんとも厭らしい陣形だね』

久々に再会した給士が、痛む身体をおして淹れてくれた茶を飲んでもなお、ショボンの表情は晴れなかった。
ハインが動ける程度まで兄者の小屋で身を休め、合流するまで10日。
ヴィップが軍を動かしたのが7日前だから、もしハインが負傷していなかったら開戦は防げたかもしれない。
が、過ぎた事を言ってもしかたあるまいのだ。
ヴィップ軍の中には、負傷をおして貴重な情報を伝えた給士を責める者は一人もいない。
それでも、幕舎の中で身を横たえているハインは責任を感じている事だろう。

( ゚∀゚)『主力騎馬隊の前に歩兵か。前線に騎兵もいるみてぇだが、ありゃ歩兵の指揮隊って所だろうな』

ξ゚听)ξ『【薔薇の騎士団】に歩兵をぶつける、って言うのは妙ね。
      確かに荒地で機動力は殺されるけど……それでも気になるわ』

誰に言うでもなく言葉を吐くツン=デレの眉間には、深い皺が寄せられていた。
弱小勢力であった筈のヴィップが後に強大になった理由。
それは、人材に恵まれた事にも因るが、騎兵隊が充実していた事も大きな要因と言われている。
島内一の攻撃力を誇る【薔薇の騎士団】。援護を得意とする【黄天弓兵団】。
防衛線に長けた【青雲騎士団】。流水が如く陣形を変える、しぃ隊。経験豊富な【戦鍋団】。
どのような戦況下にあっても常に先手を取れる事は大きなメリットであったと言って良い。

(´・ω・`)『遠見眼鏡で見ても、あの歩兵隊は弓も長槍も持っていない。
      騎兵と真っ向からやり合おうとするには妙だね』

もし、この場に黒い方の給士が居たのであれば、偶然生まれた“槍”と“やり合う”と言う駄洒落を、
さも最初から計算していましたとでもいう風にアピールしているところだ。
が、今のショボンにはそのようなつもりは更々無く。



33: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:03:05.53 ID:Sv3J2ZAL0
(´・ω・`)『……兄者の姿が見えないのも癪に障るね』

葉を入れすぎた茶を飲んだ時のような顔で呟いた。
【金剛阿吽】の兄弟がニイトに身を置いているというのは、ハインが伝えた貴重な情報の一つである。
メンヘルにおいて十二神将の第五位にまで就いていた兄者と、第九位であった弟者。
歩兵を指揮する騎馬隊の中に弟者の姿は確認したが、兄者が戦場の何処にもいないというのは考えられない。

( ,,゚Д゚)『って事は伏兵かゴルァ』

(´・ω・`)『だろうね』

ギコの言葉は皆の考えを代表した物で。
高低のある荒地に、北面には身を潜めるに適した森。
攻め手より少数であるにもかかわらず、籠城を選ばなかったと言う事は知略戦を選んできたと言う事に他ならなかった。

(´・ω・`)。oO(と言う事は、だ)

クーがもっとも恐れる事は伏兵の位置を探られる事である筈だ。
ならば、こちらに探らせる隙を与えず動いてくる。

兵,゚Д゚)『申し上げます!! ニイト陣中より一人の将が現れ、一騎討ちを望んでいます!!』

見張りの兵が幕舎に飛び込んできたのは、ちょうどそんな時だった。
その声を聞いたツンはジョルジュと目を合わせ、コクリと頷く。

ξ゚听)ξ『勝って来なさい!!』

告げたのは只一言。
だが、全般の信頼をこめた一言。
それを聞いたジョルジュは軽く片唇を上げると、外套を翻し幕舎を後にする。



35: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:07:14.26 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

爪゚∀゚)ノシ『やはー』

( ゚∀゚)『……』

戦の勝敗がここで決まると言っても過言ではない、緒戦の一騎討ち。
ヴィップ全軍の期待と信頼を背に陣を出たジョルジュの前に現れたのは、能天気が人の形を為したかのような女騎士だった。
ミルクティー色の髪を両耳の後ろで束ね、ゆったりとした官服の上に白銀の胸当てをつけている。
跨る馬の色も白。
陽の光を浴びるその姿は、眩いばかりに輝いて見える。

( ゚∀゚)『……女は寝台の中でしか泣かせねぇと決めてるんだがな。まずは名を聞こう』

何よりジョルジュの目を引くのは彼女が軽々と肩に担ぐ獲物だ。
北の大国ラウンジの重装突撃騎兵隊が愛用する、超重量級の刺突武器・突撃槍。
ランスと呼ばれる大槍を、竹竿でも扱うかのように手にしている。

爪゚∀゚)『名乗るほどの者じゃありませんし、貴様に名乗る名前はないけど
    【天馬騎士団】団長リーゼと申しますですヨ?』

( ゚∀゚)『……へぇ』

その名を聞いたジョルジュの瞳が野生の獣の輝きを持つ。
久々に手にした大鎌の感触を確かめるように、二度三度しごいてみせた。

( ゚∀゚)『天下に知られた槍の名手、【金槍手】のリーゼか!!
     相手にとって不足はねぇ!! 黄金に値すると言われた槍捌き、しっかり見せてもらうぜ!!』

叫ぶと同時に、愛馬の腹を蹴った。



39: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:12:00.23 ID:Sv3J2ZAL0
爪゚∀゚)『やっはーい!!』

力任せに振りぬかれたランスがジョルジュの鼻先をかすめた。
鐙(あぶみ)にかけた両足だけで愛馬を操り、危険区域から離脱する。

(;゚∀゚)『あっぶねぇ……こえぇ女だな、おい』

爪>∀<)『もっちろん!! 大人の女ですモンっ!!』

言って再び突撃槍を振るう。
本来は刺突専門である筈のそれを、ジョルジュは巨体を仰け反らせるようにして避わした。

人並み外れた腕力で相する者を薙ぎ倒すスタイルは【白鷲】フィレンクトに似ているように思える。
が、あたかも大鷲が獲物を狩るように乾坤一擲の一撃を叩き込もうとするフィレンクトと違い、レーゼは初撃から敵を叩き潰しに行く。

爪>∀<)『何時でも何処でも誰とでもあーでもこーでも何でもかんでも全力全開っ!!』

袈裟懸けに振るわれた一閃を、今度は身をかがめてやり過ごした。
星の欠片をもって鍛えられたと言われる死神の大鎌ではあるが、圧倒的な馬鹿力で振るわれる大槍を受ける事など出来まい。
圧し折られるのがオチと言う物だ。

(;゚∀゚)『てめぇ、どっかの誰かさんとキャラ被ってるぜ』

爪゚∀゚)『ならばっ!! そやつも倒してリーゼが世界の神となっちゃいますヨっ!?』

(;゚∀゚)『なんだそりゃっ!?』

自軍最前線で一騎討ちの行方を見守る、赤い給士をチラと見ながらジョルジュは一歩後退する。
一方的に攻め立てられるような展開の中で、ジョルジュは未だ自慢の大鎌を一度も振るわずにいた。



42: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:16:10.65 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

( ,,゚Д゚)『なぁ。俺が行った方が良かったんじゃねぇかゴルァ?』

ヴィップ軍陣中。
移動櫓の上で遠見眼鏡を覗くギコが思わずボヤいた。
前線では【薔薇の騎士団】が楔に隊列を作り上げ、彼らの団長が勝利する瞬間を待っている。
その右翼・つまり南方にしぃ率いる騎兵500。
総計1500の騎兵の背後には3000の歩兵が、固唾を呑んで勝負を見守っていた。

(´・ω・`)『……何て言うか、ヒートを更に能天気にしたような女性だね』

市を駆け回る子供のような掛け声は、歩兵部隊後方の本陣にまで届いている。
いや、それだけでなくリーゼの振るう大槍の風圧までもが感じられるような錯覚を覚えていた。

( ,,゚Д゚)『けっ。ただ力任せに振り回してるだけじゃねぇか。俺ならとっくに勝ってるぜ。
      何やってやがるんだゴルァ』

(´・ω・`)『うん、まぁそうだろうけど、仕方ないよね』

ギコの言う通り。
ひたすらに一撃必殺の大振りを繰り返すレーゼの動きには、あまりにも隙が大きい。
ランスを振り終えた時、重量に負けて体が大きく流されるのだ。
そこからでも慣性の法則を無視して、腕力で態勢を整えるのは流石、と言えるだろうが、
もし相手がギコであったらその隙に懐に飛び込まれていたであろう。

が、騎馬のジョルジュではそうはいかない。
自らの攻撃距離に迫ろうとした時には、すでにレーゼは攻撃の態勢に移っている。
防戦一方。
前進と後退を繰り返すジョルジュの動きは、誰が見ても歯痒い物だった。



45: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:19:49.97 ID:Sv3J2ZAL0
( ,,゚Д゚)『なぁ。今からでも遅くねぇぜ。俺に行かせろよゴルァ』

\(´・ω・`)/『駄目』

ショボンにはギコの考えが手に取るように分かる。
彼は生まれついての戦士だ。
楽しそうに大槍を振るうリーゼの姿を見て、腕が疼いてきたのだろう。
が、ここでギコを使うわけには行かぬ。

(´・ω・`)。oO(籠城策を捨てた、と言う事は必勝の策があるはず)

ならば、どう動いてくるか。
消耗戦はありえない。
最も考えられるのは、本陣への直接攻撃である。
その時、側にギコがいるのといないのでは、対応の幅が大きく変わってくるからだ。

( ,,゚Д゚)『なぁ、姫さんよぉ。俺にやらせろって。いきなり将官を失う訳には行かねぇだろゴルァ』

ξ゚听)ξ『……その必要はないわ』

痺れを切らした剣士は、ついに無言で遠見眼鏡を覗き込んでいたツンに直談判を始める。
が、ツンはショボンとは違う形でギコの言葉を退けた。
何故なら。

バーボン城の戦い。
キュラソー奪還戦。
テネシー公兄弟の起こした内乱。
ヴィップが誇る勇将は、その全てで最前線に立ち、そして勝利してきたのだから。

ξ゚ー゚)ξ『その必要はないわ。将軍は必ず勝ちます』



51: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:23:48.65 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

爪゚∀゚)『やっはーーーーーーっ!!』

裂帛の気合と共に振り下ろされた大槍を、半歩飛び退くようにして避ける。
ここに来て、女騎士の大槍は慣性を押さえ込む事が出来ず、大地に深々と叩きつけられた。
一騎討ちが始まって早、四半刻(約30分)。
常に攻勢にあったリーゼの表情には明らかな疲労が浮かび始めている。

( ゚∀゚)『ふぅ。ま、こんなもんかな』

爪#>∀<)『なにを賢者っぽく余裕綽々なんだコンチクショーっ!?』

掬い上げるような攻撃もヒョイとかわす。

( ゚∀゚)『いや、実際余裕だしな。うん、先生はあの時こーやってたのか』

爪#>∀<)『ガーン!! 余裕とか言われたっ!?』

事実、肩で息をしているリーゼに対し、ジョルジュは汗もかいていない。
頭に思い浮かべているのは、師であるフィレンクトがキール山道でメンヘル十二神将が一人ジタンを圧倒した際の光景である。

爪#゚∀゚)『なんか、実験台にされてるみたいでムカつくんですけどっ!?』

( ゚∀゚)『まぁ、な。つか、俺だってちょっとムカついてるんだぜ?』

準備運動はここまで、とでも言う風に首をコキコキと鳴らしつつ言う。

( ゚∀゚)『お前さ、本気で俺様を倒そうとしてねぇだろ?』



55: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:28:35.16 ID:Sv3J2ZAL0
爪;゚∀゚)『ななななななにを言ってるんですかネ?』

( ゚∀゚)『伏兵』

必死に誤魔化そうとするリーゼだが、ジョルジュの一言に目を泳がせた。
明らかに動揺が見て取れる。

( ゚∀゚)『数で劣るお前らは必ず戦場の何処かに伏兵を忍ばせている。
     大方、この一騎討ちで敗れたフリをして適当に逃げ出す。で、俺達が勢いに乗ったところで側面をつく。
     そんなところだろ?』

爪;゚∀゚)『ワタシ、アルキュ語ワカリマセーン?』

リーゼの反応が自分の考えと同じだった事を確認すると、【急先鋒】は大鎌の柄を握りなおした。
使い慣れた鉄の柄が、掌の中でギュウと鳴る。

( ゚∀゚)『悪ぃな。お前らに恨みはねぇが、俺様は戦士だ。
     どんな戦であろうと、この背に民の命を背負っている以上、負けるワケにはいかねぇ。
     お前らが策を用いるなら、その全てをこの大鎌で切り裂いてみせる。
     それに、な』

四半刻。練りに練りあげてきた剣気を解放した。
背にした主の気を察知した愛馬もまた、頭を下げ突進の構えをみせる。

(#゚∀゚)『俺様は陛下に「勝って来い」って言われてんだっ!!
     適当なトコで逃げて来いなんて言われてるテメェに負けるわけにいかねぇんだよっ!!』

叫ぶと同時に愛馬の腹に合図を入れた。
ここにきて【急先鋒】が攻勢に移る。



62: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:35:18.66 ID:Sv3J2ZAL0
爪;゚∀゚)『っはーーーーーーーっい!!』

( ゚∀゚)『そんなもんが……』

起死回生を狙ったリーゼ渾身の一撃。
それをジョルジュは初めて避わそうとしなかった。
駆ける愛馬の速度を落とさぬよう、鞍上で身を沈め獲物を構える。

(#゚∀゚)『俺様に何時までも通用すると思うなぁっ!!』

大鎌を振るった。
が、それはリーゼの大槍を受け止めようとしての物ではない。
全力で振るわれた大槍の勢いを殺さぬよう。むしろ“加速”させてやるかのように払い上げる。

爪;゚∀゚)『やっ!?』

自身の力だけでも振るえば大きな隙が生まれる攻撃。
予測していなかった方向に身体を流され、更に勢いを加算されたリーゼは、今までに無かったほど大きく態勢を崩した。
その一瞬、ジョルジュはリーゼの死角に飛び込んでおり

( ゚∀゚)『貰ったっ!!』

胸当ての襟に大鎌の刃を引っ掛けると、力任せに馬上から放り投げ落とした。
そして。

(´<_`;)『いかん!! リーゼを殺させるな!! 全軍前進するぞ!!』

ノハ#゚听)『させるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ヴィップの力を見せてやれぇっ!!』

一騎討ちが終わりを告げたと同時に、両軍が動き出す。



66: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:39:26.17 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

(´・ω・`)『……ふむ』

戦場を僅かに離れた本陣で、ショボンは戦況を見守っていた。
今、中央では互いの最大勢力である歩兵部隊がぶつかっている。
しぃ率いる遊軍はその中でレーゼ率いる騎馬隊と衝突しており。
【薔薇の騎士団】と合流したジョルジュは北部からニイト歩兵の側面をつこうと軍を動かし、
ニイト主力である【天馬騎士団】と交戦状態にあった。

ξ゚听)ξ『将軍は苦戦しているみたいね』

(´・ω・`)『うん。流石は【無限陣】だ。この展開も想定内だったらしい』

僅かな平地に進んだ【薔薇の騎士団】は、高みに隊を展開した【天馬騎士団】の射撃を前にして防戦一方になっている。
盾を広げて犠牲を最小限にしてはいるが、進むも退くも出来ない様子であった。

ξ゚听)ξ『それでも、矢の数だけは無限じゃないわ。無限の策を持つと言われている彼女でもね』

ツンの言うよう、矢が尽きればジョルジュはすぐさま攻勢に移ろう。
いや、それが出来ずとも【天馬騎士団】を足止めしているだけで十分である。
中央の戦いは数で勝るヴィップが徐々に圧しつつあった。

(´・ω・`)『仕掛けてくるなら今だ。ギコ。“迷いの森”に向け騎兵500を動かせるようにしてくれ』

一旦優勢になったと思わせて伏兵を仕掛ける。
本陣を狙ってくるなら、この瞬間しか考えられなかった。
そして、ショボンが命じたと同時に一人の兵が幕舎に転がり込んでくる。

ヘ;゚∀゚)イ『陛下っ!! ニイト軍の奇襲ですっ!! その数200、先頭に【金剛阿】兄者っ!!』



70: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:44:25.29 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

ξ゚听)ξ『……とりあえず、今日のところは勝った……と言っても良いのかしら』

(´・ω・`)『伏兵は完全に防いだ。ここまでは僕らの勝ちだ』

小さく安堵の溜息をついたショボンは、手にした碗を唇に当てた。
が、いつのまにかそれが空になっていた事に気づき、卓に戻す。

(´・ω・`)『でも、相手はニイト。そしてクーだ。被害を出さぬよう緩やかに撤退しているし、今回はただの様子見と見るべきだろうね。
      フィレンクト老が守っているとは言え、手薄な本土をメンヘルやリーマンが侵攻して来る可能性もあるし、
      新興国家とは言えモテナイのダイオードが動く事も考えられる。
      特にモテナイはリーマンとぶつかるつもりなら後背のニイトに恩を売っておきたいだろうしね』

ξ゚听)ξ『……モテナイがヴィップに手を貸してくれる事はないのかしら』

(´・ω・`)『さぁね。もしダイオードがニイトに加担したとしても、突如こちらに寝返る可能性はある。
      まぁ、モテナイは今自分達の国の事で精一杯だろうけどね』

クーとしてはもっと乱戦に近い状況で伏兵を動かしたかった事だろう。
が、それはジョルジュが圧倒的にリーゼを討ち破った事で出来なくなり。
結局、終始ヴィップ有利なまま苦し紛れに伏兵を動かしたような形になってしまった。

(´・ω・`)『こうなったからには次の戦はもっと厳しくなるだろうね。
      出来ればジョルジュにクーを捕らえてしまって欲しいものだ』

今の勝利にとらわれず、ショボンの目は次なる勝利に向かっている。
そこには油断の文字など微塵も無い。
だが。
“それ”の報告を受けた時、彼らは全てが間違いであったと知る。



75: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:49:50.86 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

(*゚−゚)『勝敗は決した。貴女は降伏すべき』

爪゚ー゚)『あら、そうかしら? 勝負は終わるまで分からないわよ?』

中央の戦いでは、すでにニイトは敗走の態勢になりかけていた。
足の遅い歩兵を連れたヒートは、深入りせぬ程度に追走に入っており、
北部では矢の尽きた【天馬騎士団】が圧され始めている。
ヴィップ本陣に襲いかかった奇襲兵も、【九紋竜】ギコらによって足止めされていた。

(*゚ー゚)『それは無い』

爪゚ー゚)『そうかもね。だからと言って私が降伏する理由にはならないわ』

言ってレーゼは細身の剣を振るった。
が、それはいとも簡単に避けられてしまう。
文官の彼女ではしぃに勝てる要素は一つとして無かった。

(*゚ー゚)『もう一度だけ言う。降伏して』

戦いが始まる前に、ショボンから全将官に伝えられた事がある。
それは、ヴィップが有利になった瞬間ニイトが奇襲を仕掛けてくる、と言う事だ。
彼らはそれを避わした。今となっては、負ける要素は一つとして無い。

爪゚ー゚)『お断りするわ。それに“あれ”を見ても降伏しろなんて言えるのかしら?』

伏兵は完全に見破られ、勝敗は揺るがないであろう。
誰もがそう思っていた時。
戦場に小さな変化が生まれつつあった。



77: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:52:36.81 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

(#゚∀゚)『クソッ!! 俺様はテメェラに構ってる暇はねぇんだっ!! さっさと引きやがれっ!!』

爪゚∀゚)『やはー。そうもいかないんですヨっ?』

永劫とも思える矢の雨を防ぎきり、【天馬騎士団】と衝突したジョルジュの前に現れたのは、
【無限陣】クーではなく男装の女騎士【金槍手】リーゼであった。
先程のような大振りでなく、まるで刺突剣(レイピア)のように大槍を扱う彼女の前にジョルジュは完全に足止めされていた。

(#゚∀゚)『やっぱり手ぇ抜いてやがったか!!』

爪゚∀゚)『悪く思わないから反省しないですヨ!! 演技派と言って欲しいですヨ!!』

乗馬を狙ったかのように思われた槍先がクンと跳ね上がり、正確に左胸を突いてくる。
全腕力を込めぬ一撃は何とか受け止める事が出来たが、その超重量に腕が痺れた。

(#゚∀゚)『言え!! テメェラの王様は何処にいやがる!?』

爪゚∀゚)『馬鹿ですか? “あれ”を見れば分かるでしょ? 馬鹿ですか?』

(#゚∀゚)『馬鹿って2回も言いやがったなっ!!』

ジョルジュは完全に冷静さを欠いている。
先の一騎討ちとは完全に立場が逆転していた。
しかし、それも止むを得ないだろう。

西の空に見える“それ”を見て、【薔薇の騎士団】は大きな混乱の中にあった。



81: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 22:58:57.06 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

(#,,゚Д゚)『汚ぇぞゴルァっ!!』

( ´_ゝ`)『ふむ。娼室の王子様と呼ばれた俺に対して随分と酷い事を言うのだな?』

遠目に見れば“迷いの森”から現れた伏兵隊を足止めしているかのように見えたギコであったが。
その実は、兄者率いる奇襲隊によって逆に身動きを封じられていた。
500の騎馬隊は、地中に埋められていた“絡め縄”によって半壊状態にある。
そこに投石攻撃を仕掛けられ、身を守るのが精一杯といった体であった。

伏兵を完全に読みきっていた、と思っていた。
それすらも読まれていたと知ったのは、罠に嵌り“あれ”を見てからである。
急ぎ離脱して戻らねばならない。
思えば思うほど、絡みついた縄が解けなくなっていく。

( ,,×Д×)『ゴルァッ!?』

ギコの顔を襲ったのは投石ではない。
たっぷりの水を染み込ませた泥玉だ。
が、視界を奪われた者は縄から脱出できず、投石を避ける事も出来なくなる。

( ´_ゝ`)。oO(くそ……何をしているのだ俺は)

兄者の心は複雑であった。
若き日の友を救う為にハインを逃がした筈が、こうして彼女の国を討ち破る作戦に加担している。
惰性に流される蝙蝠のようだ。
それでも、どうする事も出来ず。
兄者はひたすら己の義務を果たす事に逃避した。



85: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:01:49.68 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

(;*゚ー゚)『……っ!!』

━━━━━では、この時戦場にいる者達は何を見ていたのだろうか?

(;゚∀゚)『くそっ!! 退きやがれぇっ!!』

西の空。ヴィップ軍最後方。

(;,゚Д゚)『急げ!! 間に合わなくなるぞ!!』

遠征の生命線とも呼べる糧秣部隊。

(;´・ω・)『まさか……クーの狙いは本陣でなく……』

立ち昇る黒煙。

ξ;゚听)ξ『伏兵の……更に伏兵……』

そう。
この時、クーの狙いは本陣でなく、その更に奥の糧秣部隊。
ヴィップ軍全ての目を前線と本陣に向けさせた上で発動させた、必勝の策。

4000の本隊も、切り札のように思わせた伏兵も全て囮に過ぎず。
云わば。



━━━━━伏兵の二段構え!!!!!!!!!!!!!



94: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:10:06.22 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

兵;゚Д゚)『申し上げますっ!! 敵軍第二の伏兵部隊の中に輿に乗った黒髪の将を発見!!』

ヘ;゚∀゚)イ『へ、陛下っ!! 指示をっ!!』

台風の勢いで次々にもたらせられる報告を聞き、ショボンは自らが敗れたのを知った。
気の緩みなど微塵もないと思っていた。
だが、この戦に勝利し次の戦の事を考えていた時、すでに油断は生じていたのだ。

(;´・ω・)『そんな……後方にも兵を残している……簡単に襲われる筈が……』

ξ;゚听)ξ『ショボン!! 貴方は本陣で指示を!! アタシはミセリの救援に向かいます!!』

言うより早くツンは幕舎を飛び出していた。
身近な歩兵100を連れると、後陣に向けて駆け出す。
ショボンが愚かだったのではない。ただ、ヴィップ軍の視線を後方から外させたクーが一枚上手だっただけ。

そして。
この時、まだ一人としてクーと言う戦術家の本当の恐ろしさを分かっていなかった。

ツンとショボン。どちらが本陣に残るにしても、混乱の最中に王の周辺が手薄になる事に変わりはない。
皆が皆、クーの狙いは本陣でなく糧秣だと“思い込んでしまった”時に現れたのは。

二重三重に張り巡らせた罠の、真の切り札。

ξ;゚听)ξ『……あ……』


第三の伏兵。その数200。



100: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:16:05.11 ID:Sv3J2ZAL0









ξ;゚听)ξ『ナイト……ブーン……』









(;゚ ゚)『……ツン……』









107: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:19:37.24 ID:Sv3J2ZAL0
ξ゚ー゚)ξ『そっか……結局、最後までアタシ達はクーの掌の上で踊ってただけだったのね』

静かに言葉を紡ぐ表情は、とても晴れ晴れとしていて。倍する敵を前にしても、恐れはない。
本来ならば後方支援に動かせる手駒であったギコを誘導された時点で、こうなる事は決まっていたのだろう。
思うのはただ、おのれらの旅路の終わりが近い、と言う事だけ。

(;゚ ゚)『ツン……僕は君と戦いたくな』

ξ゚ー゚)ξ『喋らないで。分かってる』

民意の暴走に端を発した出兵だった。
予想を遥かに超えた昂ぶりを抑えきれず、その事に対しての後悔はある。

ξ^ー^)ξ『でもね。アタシはみんなの王様なんだ。
     負けると分かってても……逃げられない。戦わなきゃ駄目なんだ』

言って腰から禁鞭を引き抜いた。
完敗だった。
それでも“人々が自分で生きる道を選べる国”への種は撒いた。
今は誤ったが、それでも人は先に進む事が出来るだろうと信じる。

(;゚ ゚)『……それは違うお。君は死んじゃいけないお……。
      信じてくれる人の為に……生き延びなくちゃ駄目なんだお……』

ξ^ー^)ξ『そうだね。でも、貴方だってアタシを逃がす訳にはいかないでしょ?
     戦う覚悟は出来てるし、勝てない事も分かっているわ』

(;゚ ゚)『……っ!!』

そして、ツンは西に視線を送った。



114: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:23:34.29 ID:Sv3J2ZAL0
ξ゚ー゚)ξ『クーは撤退したみたいだね。貴方に全てを任せたみたい』

それも仮面の青年には分かっている事だった。
ツンが言うよう、全てはクーのシナリオどおりに事は進んだ。
糧秣部隊への攻撃は、あくまでツンの周辺を手薄にする為だけの罠。そして、自分が金髪の王を討てば全てが終わる。

ξ゚ー゚)ξ『剣を抜いて、ブーン。たとえ勝てなくても、貴方が言うとおりアタシは最後まで足掻いてみせる。
     最後の瞬間まで王であり続ける』

(;゚ ゚)『……』

その声に引かれる様、青年は緩々と腰に十字に差す“拐”を引き抜いた。
猟犬の爪を模した刃が陽光に鈍く輝く。

ξ゚ー゚)ξ『ありがと。あのね、アタシは貴方に凄くよく似た人を知ってるんだ』

(;゚ ゚)『お?』

突然話を切り替えたツンを前に、青年は間抜けな声をあげた。
それに構わず黄金の獅子は美しい思い出でも語るかのように続けるのだ。

ξ^ー^)ξ『アタシの一番の友達。胸に生まれた感情の正体も教えてくれずに消えてしまった人。
     あの人の面影を持つ貴方に負けるなら……【王家の猟犬】である貴方が選んだ国に敗れるなら……悔いはないわ』

(;゚ ゚)『……っ!!!!!!!!』

黄金色の髪が風に揺れる。
そして、それに気圧されるようにカラカラに乾いた喉から絞り出すようにして、青年は口を開いた。

(;゚ ゚)『……を……お』



124: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:26:26.79 ID:Sv3J2ZAL0









(;゚ ゚)『ヴィップ軍は陣形を整えつつある……ここは撤退しますお……』





敵軍の総大将を前に。千載一遇の好機を前にしての撤退宣言。
当然のようにざわめく自軍兵士を前に拐を腰に戻した青年は、そのまま振り返り森へ消えていく。
最初こそ何が起こったのか分からぬでいた兵達も、指揮官が立ち去ったのを見て、慌てた風に後を追う。
納得いかずヴィップ軍に攻めかかろうとした者もいたが、混乱した自軍では勝負にならぬと知るや逃走した。

ξ;゚听)ξ『え……嘘……?』

何が起こったのか分からぬのは、ツンも同じである。
それでも生き延びた事を知って、脱力したかのように地面に腰から崩れ落ちた。

ξ;゚听)ξ『……どうして……?』

その理由は分からない。
ただ、森の奥に消えていく青年の背中をジッと見ていた。
それは、あたかも老人のそれのように小さく丸まっていた。



131: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:30:23.02 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

川#゚ -゚)『どう言う事だ、ホライゾン!!』

陣に戻った青年を待っていたのは、興奮に顔を染めた姉からの叱責だった。
碗を叩きつけられた額が鈍く痛む。
足元にぽたりと一滴、赤い血が落ちた。

(  ω )『……僕は……戦いが……嫌だお』

川#゚ -゚)『理由にならん!!』

四輪車に座した白い狼が、その足元に両膝をつく弟を殴りつける。
それでも青年は微動だにせず、それを受け入れた。

川#゚ -゚)『多くの者が傷つき、倒れた!! 多くの者を傷つけ、倒した!!
     それは何の為だ!! 侵略者を討ち、より多くの者を護る為だ!! 貴様はその全ての信頼を裏切ったのだぞ!!』

(  ω )『それは違いますおっ!! 誰もが傷つかず、傷つけないのが一番なんですおっ!!』

川#゚ -゚)『黙れ!! 婦女子の理屈だっ!! 現実はそんなに甘くないっ!!』

(  ω )『黙りませんおっ!! クー様は……クー様はあまりに悲しい事が多すぎて……見えなくなっているだけなんですおっ!!』

川#゚ -゚)『ホライゾンっ!! 貴様、私達の思い出まで……愚弄する気かっ!!』

掴みかからんとばかりに怒りを顕わにするクー。
しかし、青年は引かなかった。大地に額を擦りつけ懇願する。

(  ω )『お願いですおっ……僕はツンと姉様に争って欲しくないですおっ!!』



144: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:34:59.90 ID:Sv3J2ZAL0
川#゚ -゚)『……』

(  ω )『……』

お互いに口を開かず、緊迫した空気が流れる。
そして、それを破ったのは諦めたかのようなクーの溜息だった。

川#- -)『ホライゾン。貴様は卑怯だ。再会して初めて“姉”と呼んでくれたのが、このような時とはな』

不機嫌さは隠せない。
だが、その声から怒りは消え去っていた。

( ;ω;)『姉様!! それじゃあ……っ!!』

川 ゚ -゚)『貴様は貴様なりにニイトを思っての事だろう。
     レーゼを使者に送り、会談の場を作らせる。貴様の望み、一度だけ聞いてやろうではないか』

言って手を叩く。
幕舎外に待機していた兵が飛び込んできた。

川 ゚ -゚)『レーゼを呼べ。この戦い、和解の使者とする。
     ホライゾンよ。お前は自分の幕舎で休むがいい。会談にはお前にも同行してもらおう』

それで議は終了となった。
青年が退場し、独りになった幕舎内でクーは天を仰ぎ呟く。

川 ゚ -゚)『父様……これでよかったのでしょうか』

その右手は、首から下げられた鈴を握り締めていて。
誰もその声に応える者はない……。



152: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:37:36.51 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

( ´_ゝ`)『随分と偉い立場だな、銀髪君。やはり王妹の子は一味違う』

( ;ω;)『おっ?』

涙で顔中を濡らした青年が幕舎を出た時。
待っていたのは【金剛阿】兄者の不機嫌そうな顔だった。

( ´_ゝ`)『ツン=デレもクーも争わず、仲良くか。この戦乱の時代によくそんな事が言えた物だ』

(  ω )『……何か……言いたい事があるんですかお?』

( ´_ゝ`)『あぁ、あるさ。俺は貴様のその甘い考えが気に入らない』

言うや、兄者はブーンの胸元を掴み上げる。
ブーンもまた、兄者の胸元に手をかけていた。

(# ω )『……誰も傷つかない世界を目指して……何が悪いんですかお?』

(#´_ゝ`)『悪くないさ。だが、その為に貴様がやっている事はなんだ?』

汚らわしい者でも触っていたかのように、隠密は青年の身体を弾き飛ばした。
二歩三歩よろめく様に、ブーンは後退する。

( ´_ゝ`)『理想ばかり高く掲げるくせに、手は穢そうとしない。
       誰もが持てぬほどのモノを持ちながら、やっている事はただの泣き落とし。違うのか、銀髪君』

(  ω )『……意味が……分かりませんお?』



163: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:42:47.95 ID:Sv3J2ZAL0
( ´_ゝ`)『分からぬか? ならば教えてやる。
        貴様は今すぐ手薄のニイト城に舞い戻り、手勢を掻き集めて王となれ。
        王妹ペニサスの子、英雄モララーの子として王を名乗れ』

(  ω )『……』

( ´_ゝ`)『そうすればクーは必ず貴様に降るだろう。
       その後にヴィップを併合すれば、万事解決。
       貴様が手を汚す覚悟さえあるのなら、それでめでたしめでたし、だ』

(  ω )『僕に……二人を裏切れ、と言うのかお?』

その言葉に兄者はつまらなさそうに唾を吐き捨てる。

( ´_ゝ`)『視点の違いだ。そもそも、今の段階で貴様はどっちつかずの状態なのであろうが。
       俺ならば、そうする。俺が裏切り者と呼ばれるだけで全てを救えるなら、喜んで汚名を着てみせる』

言って兄者は背を向けた。
言葉が過ぎた事を後悔するかのように。逃げ出すように歩き出す。

(  _ゝ )『……少し、言い過ぎたな。だが、覚えておいてくれ銀髪君よ。
       世の中には、どれほど汚名を着たくともそれすら出来ぬ人間の方が多いのだ』

(  ω )『……お』

兄者の呟きの意味など、ブーンには分からない。
ただ、立ち去るその背中が、あまりにも寂しそうに見えた。



173: ◆COOK./Fzzo :2009/08/20(木) 23:47:26.35 ID:Sv3J2ZAL0
         ※          ※          ※

━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━

後日。
使者レーゼから提案された和解会談の案を、【金獅子王】ツン=デレは一も二も無く承諾した。
会談の場は両国国境沿い。
ニイトからは【神算子】レーゼが。
ヴィップからは官女ミセリが代表に選ばれ、会談を行なう幕舎の建設にかかった。
だが。





この会談は行なわれぬまま、終局を迎えた。
何故なら。

ニイト城のエドワードが暗殺され、
幕舎設立を行なっていたレーゼとミセリも何者かに襲われ重傷を負うという事件が起こったのである。
二人は話も出来ぬほど酷く傷つき。



現場には投弾兵器の欠片と、一振りの飛刀が残されていた。

ここにきて、青年の想いも虚しく。
両国和睦への道は完全に断たれたのである。



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