( ^ω^)がどこまでも駆けるようです
- 219: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:08:31.10 ID:dDhHtpy80
第26章 王家の猟犬
━━━━━ま、簡単に言うとよ。うちの陛下は相当ブチ切れてるワケだ。
━━━━━面白くも無いが、それには全く同意見だな。あの薄汚い野良猫の裏切りを私達は許しはしない。
(;^ω^)『……』
幕舎の奥に身を隠し、青年はそのやり取りに耳を傾けていた。
どこか間の抜けたような男の声は、かつて自分の上官であった者の声。
感情を押さえ込むように低い女の声は、自分の姉のそれである。
男から見えぬように、そっと顔を出す。
( ゚∀゚)『でもよ、考えてみてくれ。戦に負けたヴィップにとって、ニイトから出された和解案は渡りに船なんだぜ。
こいつを袖にするメリットが無い』
川 ゚ -゚)『メリットなら十分にあるだろう。何処の馬の骨とも知れん官女一人を犠牲に、
我が右腕とも言うべきレーゼに深手を負わせた。十分な動機だ』
( ゚∀゚)『だがよ、動機ならニイトにだってあるわけだろうが?
元々テメェらから停戦を持ち掛けるメリットがねぇ。本当にレーゼとか言う嬢ちゃんは怪我してんのか?』
川 ゚ -゚)『……どういう意味だ?』
( ゚∀゚)『例えばよ。ショボンや俺様が戦線離脱してればニイトは次の戦いでドンと有利になるって考えもあるって事だ。
希代の戦術家様ならそれくらい思いついても不思議はねぇし、ヴィップの陣中じゃ下級兵までそう噂してやがる。
出来れば、その嬢ちゃんを見舞わせてもらえるとありがたいんだがな?』
- 222: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:12:00.47 ID:dDhHtpy80
- 川 ゚ -゚)『断る。薄汚い野良猫の使者に、傷つき臥せった友を晒すつもりはない』
( ゚∀゚)『だよなぁ』
言ってジョルジュはさも困ったと言う風に短く切り揃えた頭を掻いてみせる。
その姿さえ不敵に見えるのは、この男らしいと言うべきか。
( ゚∀゚)『ぶっちゃけた話、俺様はこの戦いどちらにとっても得る物が無いと思ってる。
が、うちの王様はカンカンだし、兵もいきり立ってる状況だ。
出来る事ならニイトから譲歩してもらえると助かるんだがな』
軽口を叩いているようでいて、ジョルジュの視線には拒絶を許さぬ凄みがある。
しかし、クーはそれを正面から受け止めて見せた。
川 ゚ -゚)『【急先鋒】よ。私は後悔しているのだ』
( ゚∀゚)『……』
それは、それだけ彼女が怒りに震えている、と言う事で。
川 ゚ -゚)『何に後悔している、とでも聞きたそうだな。
それは勿論、貴様らに情けをかけてやった事に対してだ!!
去るが良い野良猫の使者よ!! その首、戦場まで身体に乗せておく事くらいは許してやろう!!』
この宣言によって、交渉は決裂に終わった。
もはや打つ手なし、と知ると勇将は敵王に一礼し、幕舎を後にする。
- 235: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:17:55.23 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
( ゚∀゚)。oO(どうにもキナ臭ぇんだよなぁ)
誘導する下級将官の背を追いながら、陣中を観察する。
ニイトの兵は皆士気高く、擦れ違う者は彼に憎らしげな視線を送っていた。
この場にいる全ての者が、【神算子】レーゼを襲撃したと思しきヴィップを許さぬ思いで一杯なのだろう。
憎悪の念は誰か一人が一歩前に出れば、1000を越える者がジョルジュに襲い掛かるであろう程に強く。
それが為されないのも、ただジョルジュの身を包む猛将の気迫に押されているからに他ならない。
( ゚∀゚)。oO(それにしても、この空気……ヴィップとよく似てやがる)
元々、出兵に乗り気ではなかった彼だ。
観察者の立場になって全体を見渡すと、この戦いの全てが霧中にあるように感じ取れる。
まず、ニイトに加担した【白衣白面】ブーンの存在。
彼はクーについたかと思えば、前の戦いでツンを見逃すと言う不可解な行動に出ている。
不可解と言えば、ヴィップ内でのニイト討伐の声が異常に強かった事も納得できない。
外交上の接点を探るより早く民が暴走するなど、考えられぬ話だ。
『自らの意思で政に加われるようになった民が、その正しい使い方も分からずに暴走した』の一言で終わるとも思えぬ。
そして、今の状況。
糧秣を焼き本陣の襲撃まで成功させたニイトからの突然の和解提案。
それもおかしい話であったが、会談を阻止するかのように互いの使者が襲撃されたのは何故であろう?
ヴィップの兵は倒れたミセリの体の下から【金剛阿】兄者の使う投弾兵器の欠片を発見した。
ニイトの兵は、会談様幕舎の隅に【給士】ハインの使う飛刀を見つけ出したと言う。
なによりもこの襲撃事件によって昂ぶる兵達の間に流れる空気は。
ヴィップ城で民衆の一部が蜂起した時にあまりによく似ていた。
- 238: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:20:47.13 ID:dDhHtpy80
- 从*゚ー゚)『陣門に着きました、ヴィップの使者殿』
( ゚∀゚)『ん? おぅ、ありがとよ』
誘導してくれた礼だ、とでも言う風に百歩将の腕章をつけた女性将官の胸を軽く指で突いてやる。
ニイトの主力である【天馬騎士団】が全身を白銀で固めた女性騎士だけで作られている事は、前の戦で知った。
胸当てに阻まれてジョルジュの指が柔肉に届く事はなかったが、それでも女騎士は小さく悲鳴をあげて後ずさる。
それを確認してから、満足そうに白馬に飛び乗った。
( ゚∀゚)『戦場で会おうぜ、嬢ちゃん』
从#*゚皿゚)『二度と会いたくありませんっ!!』
背中に浴びせられる罵詈雑言を聞き流しながら、愛馬をヴィップ陣中に向かわせる。
思うのは、やはりあまりに不可解な事の顛末についてである。
まず、仮面の青年剣士ブーン。
彼は間違いなくヴィップの味方である。そうでなければツンを見逃す筈が無い。
それでもニイトに属しているのは、彼がただヴィップを勝たせるのではなく、戦そのものに納得していない事の表れだろう。
もし、ヴィップの勝利だけを考えるのであればクーを殺害してしまえば済む問題だから、である。
( ゚∀゚)。oO(……なんだがなぁ)
だが、それではブーンが何故ニイトに属しているのか、説明がつかない。
そればかりか、【白面】が戦に反対しているのであれば、誰が何の為に会談をぶち壊すような事をしたのか?
そこまで考え付けば、自ずと答えは導き出される。
諸兄らの中にもお気付きの者はいるだろう。
それは、つまり。
( ゚∀゚)。oO(……裏で暗躍してるヤツは……二人いる?)
- 248: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:26:36.58 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
川 ゚ -゚)『くどいぞホライゾンっ!!』
( ω )『姉様っ!! お願いだから……お願いですからっ!!』
【急先鋒】ジョルジュが退出した直後。
幕舎に飛び込んできた弟の姿を見て、クーは即座に彼が何を言いに来たのか察した。
だが、その嘆願を聞き届けられる段階は既に過ぎてしまっている。
川 ゚ -゚)『ヴィップは我らが差し伸べた手を振り払った!! それどころか、爪を立て友を傷つけた!!
我らは戦わねばならない!! レーゼの身体に刃を突き立てた報いを億倍にして返してやらねばならない!!』
( ω )『それは……何かの間違い……』
川 ゚ -゚)『間違い?』
空気が凍る。
それに反して、クーの緑がかった瞳に怒りの炎が巻き起こった。
川#゚ -゚)『“何かの間違い”などと言うあやふやな物の為にレーゼは伏していると言うのかっ!!
その身に生涯消えぬ傷を負ったと言うのかっ!!
レーゼの身体に刻まれた傷!! それが全てだっ!!』
怒気冷めやらぬ声に青年は圧倒される。
そして。
川#゚ -゚)『兄者っ!!』
( ´_ゝ`)『うむ?』
- 252: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:29:43.75 ID:dDhHtpy80
- 川#゚ -゚)『ホライゾンを捕縛しろ』
( ω )『……っ!!』
クーの言葉が示す物。
それは、ブーンに対しての絶対的な拒絶で。
( ´_ゝ`)『……良いのか?』
川#゚ -゚)『ホライゾンは王たる私に一度ならず逆らった。
血を分けた弟とは言え、その罪は裁かれなければならない。
この戦い、ホライゾンの力は無用とする!!』
( ω )『姉様っ!! 僕はどうなっても良いから……お願いだかr』
しかし。
青年が言葉を終える事は無かった。
黒衣の隠密が、彼の首元に渾身の手刀を叩き落したのだ。
意識を失ったブーンは、四輪車に座す姉の足にすがりつく様にして崩れ落ちる。
( ´_ゝ`)『檻車に押し込んでおけ』
幕舎の外に待機する兵を呼びつけ命じた。
それから、顎に指を当て数秒考えてから口を開く。
( ´_ゝ`)『なぁ、クーよ。本当に良かったのか?』
- 255: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:32:58.04 ID:dDhHtpy80
- 川 - )『……レーゼは』
重苦しく。ただ、言葉を吐いているだけとも思えぬほど重苦しく、クーは声を紡ぐ。
川 - )『レーゼも……私にとって家族なんだ。ホライゾンだけでなく、お前達も……ニイトの民全てが私にとっては
失う事の出来ない家族なんだ……。私は、家族を傷つける者を誰一人として許す事は出来ない。
私の全てをもって駆逐してみせる……』
思うのは、心底困り果てたとでも言いた気なレーゼの笑顔だ。
ひたすらにニイト再興を目指し進んできた自分と、能天気なリーゼ。
だが、レーゼがいてくれたからこそクーは己の理想に向けて駆け続けてこれたのだし、リーゼも笑っていられた。
その彼女を傷つける者は許せない。
許す訳にはいかない。
( ´_ゝ`)『だが、な。本当にレーゼを襲ったのがヴィップによる者だという確固たる証拠はない。
【急先鋒】の言うよう、動機としてはあまりに希薄だ。
今の貴様がしようとしている事は、単なる憂さ晴らし。八つ当たりにしか見えんのだがな』
川 - )『……それでも』
そう。それでも。
川 - )『山は動き出しているのだ。もう、止まる事は出来ん』
( ´_ゝ`)『歴史は勝者によってのみ語る事を許される、か。
確かに我らが勝てばこれからの戦は憂さ晴らしでも何でも無くなるからな。全く、大した名言だ』
クーだけではない。
ニイト陣中で声高に叫ばれるヴィップとの最終決着を望む声は、止まらない。
誰にも止める事は出来ない。
- 260: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:36:22.19 ID:dDhHtpy80
- ( ´_ゝ`)『ならば、我ら兄弟は陣に残ろう。今の貴様は冷静さを欠いているからな』
川 ゚ -゚)『なんだと? それはどう言う意味だ』
突き刺さる視線を兄者はひょいと避わす。
( ´_ゝ`)『貴様の弟が連れていた、輸送隊荒らし部隊。その存在すら忘れているのだろう?
少数とは言え、死角を突かれる可能性もある。
この時とばかりに銀髪君の奪還に動くやも知れぬ。
その時、我ら兄弟以外に誰が太刀打ちできるのだ?』
川;゚ -゚)『……あ』
その言葉でクーは自分がいかに熱くなっていたかを知る。
と、同時にこのような時、常に諌めてくれたミルクティー色の髪を思い浮かべるのだ。
( ´_ゝ`)『どうせ、もう止まらぬのだろう?
ならば、行け。後ろは我らに任せて、とっとと行くが良い』
川 ゚ -゚)『……すまぬ』
一言だけ詫びると、クーは一人の騎士を呼びつけた。
全軍に向けての通達を告げる。
川 ゚ -゚)『これより、ヴィップのツン=デレと最終決戦に出る!!
小細工の類は無用!! 正面より我ら全軍の怒りをぶつける物とする!!
【斬見殺】を持て!! この戦い、私自ら先頭に立つぞ!!』
- 266: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:38:42.04 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
ξ゚−゚)ξ『ミセリ……』
ミセ* − )リ『……』
【金獅子王】ツン=デレの前では、一人の官女が寝台に横たわっていた。
規則正しく胸は上下しているものの、小さな身体中に巻かれた包帯が痛々しい。
意識は回復せず、時折濡らした布を唇に当てて水分を与えてやらねばならなかった。
(´・ω・`)『今、ジョルジュが戻ったよ。交渉は失敗に終わったそうだ』
ξ゚−゚)ξ『……そう』
陣中で囁かれるのは、今回の襲撃がミセリではなく、上級将官を狙ってのものだ、と言う声だ。
中には、襲われたのがヴィップの頭脳とも言えるショボンや勇将ジョルジュでなくて良かった、と言う者もいる。
しかし、ツンはそうは思わなかった。
この色とりどりの花飾りを髪につけた官女とは、ともに幼い日からの付き合いである。
王都で【沈黙の塔】で窓の外だけを眺めて暮らしていた時も。
流石兄弟によって拉致され、彼らの元を逃げ出した時も。
ギムレットの台地に来てからも、常にミセリはツンの側にいてくれた。
その彼女が今、ここに伏せっている。
軍医は生命の心配はいらぬと告げてはいたが、それが何の慰みになろうか?
許さない。
誰であろうと許す事は出来ない。
- 270: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:41:48.86 ID:dDhHtpy80
- (´・ω・`)『ジョルジュが言うにはね。ニイト城のエドワードが何者かに暗殺された、とニイト軍で囁かれているそうだ。
これが事実だとすれば、僕達がニイトに攻め入っている理由は無くなる。
辛いだろうけど、僕らは早急にヴィップに戻るべきだと思うんだ』
ξ )ξ『理由? そんなものはこれ以上いらないわ』
言って、獅子王はゆらりと立ち上がった。
黄金の髪が怒りにざわ、と揺れる。
ξ )ξ『すでに幕は開かれた。多くの血が流れた。
雌雄を決するには、これだけで十分すぎるでしょう』
(´・ω・`)『……そうだね』
ここに来て【天智星】ショボンは気づいていた。
影で動いている者は、自分だけではない。
彼が動かしていた【白衣白面】など、とうに端役に過ぎず。
不愉快な戯曲を奏でている者がどこかにいる。
ξ )ξ『全将兵に告げなさい。これよりヴィップはニイトとの血戦に臨みます。
全てをこの一戦で終わらせましょう』
(´・ω・`)『……分かった』
一言告げて、ショボンは王の幕舎を出る。
そして思った。
(´・ω・`)。oO(僕は負けた……でも、それは決して【無限陣】に敗れたのではない)
姿無き影に負けたのだ、と。
- 277: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:44:54.41 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
川 ゚ -゚)『……』
ξ゚听)ξ『……』
陽光照らす国境に、二人の王が対峙した。
一人は赤黒い義足を地に付けた、白き狼ニイト=クール。
一人は黄金の馬に跨った、黄金の獅子ツン=デレ。
彼女達の背後では、ニイト軍3500・ヴィップ軍5000の兵士が殺意に目を爛々と輝かせている。
ξ゚听)ξ『ニイト=クール』
舌戦の口火を切ったのは、ツンだ。
ξ゚听)ξ『野に生きる山犬が獅子に背いた罪は重い。
この戦いでその愚かさを身に染み付かせてあげましょう』
川 ゚ -゚)『獅子だと? 勘違いも甚だしい。笑わせるな』
静かに。だが、ありったけの思いを込めてクーが返す。
川 ゚ -゚)『野良猫が己の縄張りだけ守っていれば見逃してやったものを。
その思いあがり、命と言う代価で償わせてやろう』
これで“儀式”は終わった。
両軍の兵士は呼吸すら殺して、次にかかるであろう命を待つ。
そして、ついに。
ξ#゚听)ξ『 全 軍 突 撃 せ よ ! ! ! ! ! 』(゚- ゚#川
- 279: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:48:37.52 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(#,,゚Д゚)『ゴルァァァァァァァァァァァッ!!!!!』
この日、最も速くニイト軍に切り込んだ者。
それは、【急先鋒】の異名を持つ者でなく、血戦の場にあっても背中の彫り物をさらけ出した剣士だった。
すんぐりとした身体を更に低く沈めた男は、さながら小さな土石流のようだ。
東方の業物を振るえば、それだけでニイト兵の首が宙に舞う。
ニイト'A)『一人で行くな!! 複数で当たらねば止められぬぞ!!』
ギコを手強いと見た戦士が指示を出す。
同時に三方から短槍を手にしたニイト兵が襲いかかった。
だが。
(#,,゚Д゚)『ゴルァルァルァァァァァァッ!!』
放たれた神速の三段突き。
漆黒の長刀は槍と刀の有利不利など意に介さず、相する者の命を奪い去る。
( ,,゚Д゚)『判断は悪くなかったぜゴルァ』
すれ違い様に、先の戦士の胴を横に薙いだ。
鉄貼りの甲冑を容易く切断され、血を吹き出させながら男はどう、と倒れこむ。
( ,,゚Д゚)『畜生、何やってやがる猪馬鹿!! 戦が始まったら何も考えず突っ込むのがテメェの仕事だろうが!!』
ひとり語ち、左翼に目を向けた。
そこでは、【急先鋒】ジョルジュと【紅飛燕】しぃが【天馬騎士団】とぶつかっている。
- 285: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:51:34.10 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
爪#゚∀゚)『やはーーーーーーーーーーっ!!』
ノハ#゚听)『うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
中央に切り込んでいたのは、九竜の剣士だけではない。
ギコと同じく歩兵の先頭に立ってニイト軍に飛び込んだヒートは、【金槍手】リーゼと遭遇・戦闘に入っていた。
燃える様に赤い髪と涼しげな紅茶色の髪が幾度も交差する。
この時ヒートは、細やかに突き出されるリーゼの大槍をようやく腋に抱え捕まえたところであった。
おおよそ【第六天魔王】ダディとの一騎討ちの再現のような態勢である。
だが。
ノハ;゚听)『わわわわわわわっ!?』
その膂力はダディよりも遥かにリーゼが勝っていたようだ。
まるで一本釣りのように軽く投げ飛ばされてしまう。
体を丸め猫のように着地。すぐさま立ち上がった。
爪゚∀゚)『っはーーーーーーーーーっ!!』
追撃が来る。
ならば。
ノパ听)『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!』
背中から鉄製の強弓を引き抜き、矢を絞る。
放たれた矢はリーゼの髪を数本引き裂き、同時に振るわれた大槍もまたヒートの髪をかすめた。
そのまま交差し、距離を空け振り返る。
そして両雄は再び叫び声と同時に大地を蹴った。
- 287: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:53:52.48 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(;゚∀゚)『それにしても、あいつらウルセェな……ここからでも居場所が分かっちまうぜ』
ヴィップ軍左翼に軍を展開したジョルジュは思わずぼやいていた。
正面高台に陣取った【天馬騎士団】から降り注がれる矢の雨の中。
まるで涼風でもかわすかのように、降りしきる矢を風車のように回転させた大鎌で払い落としていく。
進軍の合図がかかるや否や。ジョルジュは白狼の大旗を追うように、この位置に騎馬隊を進めた。
先の戦では、この地に誘導された為動きを封じられた場所である。
にもかかわらず、彼は舞台をここに選んだ。
何故か?
( ゚∀゚)『テメェら、耐え凌げよ!! ここが崩れたら一気に崩れるぞ!!』
それが理由である。
高台に隊を向けた【天馬騎士団】。
もし、傾斜を駆け下りる勢いを利用されたら、中央を一息に突破されかねない。
故に彼はこの地を戦場に選んだのだ。
(*゚ー゚)『行く』
そして、彼にとって心強かったのは共に左翼に進軍した【紅飛燕】しぃの存在である。
300の騎兵を連れた彼女は、ただ防戦に回るのではなく、小まめに隊を分散させてはニイト軍に攻撃を仕掛けていた。
狙いを定めさせぬ様に隊を分け、かと思えばニイト軍の手薄な場所で隊を集中させる。
地味ではあるが堅実な用兵は、数度にわたって【天馬騎士団】を後退させた。
薔薇゚∀゚)『将軍!!』
外套を返り血で染め上げた騎士がジョルジュの元に駆け寄って来たのはこの時である。
- 290: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 00:57:26.97 ID:dDhHtpy80
- ( ゚∀゚)『へへ、居なかったか。やっぱりな』
騎士の報告を聞いたジョルジュは、にやりと片頬を持ち上げた。
まだ若いが、ジョルジュがリーマンに属していた頃からの部下である。
危険を冒して戦場全体を駆け巡らせ掴んだ情報は、彼にとって万金の価値がある物だった。
(*゚ー゚)『なに?』
【天馬騎士団】を後退させ帰還した女騎士が尋ねる。
( ゚∀゚)『いや、な。もしかしたら……もしかするかもしれねぇ、ってだけさ』
(*゚−゚)『意味が分からない』
湖の奥底のような冷たい目で睨まれても、【急先鋒】は嬉しそうな笑みを隠さない。
( ゚∀゚)『いいか、テメェら!! 今はこの地を守り通せ!! 俺様達が動く時は必ず来る!!』
このニイトとの戦いにおいて、【急先鋒】ジョルジュの先見の明は神がかっていた。
今、【天馬騎士団】を足止めし、尚且つ力を蓄えるというのは常人に出来る事ではない。
ただ、一つ見落としがあるとすれば。
【天馬騎士団】が掲げる白狼の大旗。
その下に、足止めしている筈の【無限陣】クーの姿が無かった事である。
- 294: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:00:35.18 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
兵;´∀)『来たぞ!! 陛下に近寄らせるなっ!!』
叫んだ兵の顔半分が突如消え去った。
胴体に残った下顎から血を垂れ流し、ドウと倒れる。
血に染まり、その赤を更に深めた鉄の足が、地に転がる顔の上部を胡桃でも割るかのように容易く踏み砕いた。
【赤髪鬼】ヒートが【金槍手】リーゼに敗れたとの報が入り、
指揮官不在となった歩兵部隊に【天智星】ショボンが向かった直後である。
本陣中央付近に集合していたヴィップ兵が、何の前触れもなく味方に切りかかった。
咄嗟に反応できぬヴィップ兵を数人殺害した兵達は外套を脱ぎ捨て、隠し持っていた旗を高く掲げる。
兵;,゚Д゚)『なっ!? ニイトの旗だと!?』
VIP'A`)『いつの間に潜んでやがったんだ!?』
慌てふためき振り下ろした刃は、ニイト兵の先頭に立つ女の足が一閃されると、枯れ枝のように砕け散った。
彼らがそこに見た物は鋼鉄の義足。
兵;,゚Д゚)『そんな馬鹿な!! 貴様が何故こんな所に!!』
その声を軽く聞き流し、女は乱れた髪をふわりと背に流す。
川 ゚ -゚)『無論、ツン=デレの首を取る為。無益な殺生は好みでないが、野良猫も一匹で冥土を歩むは寂しかろう。
旅路の共をしたくば我が前に立つが良い』
【黄金獅子】ツン=デレと【白狼】ニイト=クール。
二人の距離は歩数にして100にまで近づいていた。
- 301: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:05:29.84 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(#゚ω゚)『くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! ここを開けろ!! 僕をここから出せおぉっ!!』
必死に叫び、鉄格子を揺すった。
しかし、手足もろくに伸ばせぬような檻車の中では出せる力など限られている。
どれほど力を込めようとも、それはただガチャガチャと耳障りな音を立てるだけだった。
( ω )『くそ……どうして……なんでなんだお……』
彼方に見えるは、人馬の捲き起こす土煙。
この場にあってもなお、鉄くさい血臭が嗅ぎ取れる気がした。
今。あの土煙の下では、彼の大切な人達が剣を交えあっている。
( ω )『僕には……どうする事も出来ないのかお……?』
誰よりも大切な友、ツン=デレ。
彼女を影から護る為に、死を装い側を離れた。
ニイトの地では自身を弟と呼ぶ女性や新たな友と出会って。
だが、姉は過去の悲しみからヴィップの友を憎んでいた。
クーの悲しみを知り、だからこそヴィップの友にも心を開いて欲しくて、ニイトに残った。
そして。どうしても争わなければならぬ意味も分からぬまま、戦争が始まった。
ツンとクー。
どちらかだけを選ぶ事などしたくなかった。
大切な二人。共に手を取り合って欲しかった。
しかし、それも適わず、二人は命を奪い合おうとしている。
( ω )『そんなの……そんなの嫌だお……』
- 307: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:09:29.43 ID:dDhHtpy80
- ???『ふむ。嫌ならばどうする、銀髪君』
背後からかけられた声に振り向いた。
眼前の光景にしか目が行っていなかったが、彼はおそらくずっとそこに居たのだろう。
地べたに胡坐をかいて座り、ジッと彼を見つめていた。
( ゚ω゚)『……兄者』
( ´_ゝ`)『嫌ならばどうするのだ? 英雄モララーの血を引く者よ。
すでに全ては終局に近づきつつある。
立ち上がるか? それとも、またいつかの様に泣いて丸く治めるか?』
立ち上がり、二歩三歩と近づく。
その細く小さな瞳は、悲しげな覚悟に染め上げられていて。
( ´_ゝ`)『貴様には貴様にしか持てぬ力があるだろう、二人目の王位継承権を持つ者よ。
覚悟を決めれば、クーもツン=デレも救えるのだ。
もし、貴様が魔道を歩むならば……煽った義務だ。この俺もそれに従おう』
この場において兄者は敢えて回りくどい言葉を選んだ。
それは、青年自らの口で答えを聞きたかったからである。
強制では意味が無い。
一時の感情に流されての決断では、いつか思い描いた理想は磨耗する。
ニイト=ホライゾン自身の意思で道を選び、駆けていかねばならない。
( ω )『……それは……僕に王様になれって言う事かお?』
( ´_ゝ`)『……今からでも遅くない。
【夢幻剣塵】モララーと王妹ペニサスの子として。もう一人の王として戦に介入するのだ。
それであれば、ヴィップの兵もニイトの兵も一人として貴様に手は出せぬ。二人を止める事が出来る』
- 318: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:15:57.25 ID:dDhHtpy80
- ( ω )『兄者は……どうして僕をそんなに王様にしたがるんだお?』
その質問は、きっと隠密には予測できていたのだろう。
広い青空を見上げ、呟くように漏らす。
( ´_ゝ`)『……妹が、な』
( ω )『お?』
( ´_ゝ`)『きっと、今も泣いているんだ。己の罪と無力さに涙を流しているんだ。
クーやツン=デレが自分の家族を傷つけた者を許さぬように。
俺はアレに泣き止んで欲しい。そして、アレに涙を流させた者を許したくない』
( ω )『……』
( ´_ゝ`)『俺は。アレを泣かせた者をぶん殴る為なら何でもするつもりだ。例え、友を裏切る事になろうとな』
兄者とハインの関係を知らぬブーンには、その言葉は酷くあいまいに聞こえる。
だが、それでも理解できるのは兄者が彼にしか分からぬ覚悟を決めているという事。
その姿は、かつての親友の姿とどこか似ていて。
( ω )『分かったお、兄者。僕はこれから、この戦争に突撃する。二人を……止めてみせるお』
( ´_ゝ`)『そうか……すまない。ならば、俺も貴様と共に魔道に堕ちよう』
その姿も。その言葉も。どこか似ていて。
決意する。
故に、青年は言うのだ。
( ^ω^)『だが。断る』
- 327: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:20:31.37 ID:dDhHtpy80
- (;´_ゝ`)『は?』
( ^ω^)『兄者の言葉を聞いて思い出した。気づいたんだお』
予想だにしなかった答えに、兄者は思わず口を半開きにしてしまう。
それを横目にブーンは言葉を繋げた。その顔は何故だか晴れやかで。
思い出したのだ。全てを捨てて修羅に生きると宣言した友の前で、自分が何を誓ったか、を。
( ^ω^)『僕が王様になって、力づくで二人に握手をさせて。それで本当に全員笑ってくれるのかお?
ヴィップに住む人も、ニイトに住む人も。みんな笑っていられるのかお?
誰も笑っていないのに、姉様もツンも笑えるのかお? きっとそれは……本当に二人を護ったとは言えないんだお』
(;´_ゝ`)『……全てを護る、とでも言うのか? そんな事は不可能だ』
( ^ω^)『誰一人笑っていないのに、兄者の大切な人は笑ってくれるのかお?』
(;´_ゝ`)『……っ!!』
それで兄者は気がついた。
罪の意識に苛まれるハインリッヒが、クーとツンが上辺だけの和解をしたとして解放される筈が無い。
きっと彼女もまた上辺だけの微笑みを浮かべて生き続ける事になる。
( ^ω^)『僕は全てを護ってみせる。この戦いを終わらせてみせる。その為になら……』
(;´_ゝ`)『貴様……死ぬぞ』
英雄の威光も王族の権威もかなぐり捨てた単身戦場突破。
それは正気の沙汰でなく、狂気に等しい。それでも青年は笑って言うのだ。
( ^ω^)『命を捨てる価値があるお』
- 333: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:24:56.73 ID:dDhHtpy80
- (;´_ゝ`)『……』
( ^ω^)『……』
( ,_ゝ )『……く』
青年の言葉を聞いた兄者は、突如檻車に背を向けた。
その肩が小刻みに震えている。
(;^ω^)『あ、あの、兄者?』
( ,_ゝ )『く……くくくっ……』
俯き、額を押さえるようにして兄者は笑っていた。
目的の為に手段を選ばず。
捨てれば捨てるほど強くなれると思っていた。
だが、目の前で格子に囲まれた男は、全てを護る事を誓い、その癖一番大事なはずの己の命は捨てる覚悟があるという。
( ,_ゝ )『矛盾しているぞ、銀髪君。覚悟があるのは良い事だが、貴様が死んで笑顔を失くす者もいるのではないか?』
(;^ω^)『あ』
指摘されて初めて自論の綻びに気づいたのだろう。
腕を組み、何秒かうんうんと唸ってから。
(;^ω^)『そ、それなら死んでも生き返ってみせるお!!
元々僕は死んだ事になってるんだし、ツンの前でもちゃんと生き返らなきゃだし……』
( ,_ゝ )『意味が分からんぞ、貴様』
- 338: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:28:31.01 ID:dDhHtpy80
- 全てを護る為に、命を捨てる。
口に出すだけのも躊躇われる綺麗事を、きっと青年は真剣に思っているのだろう。
二律背反。両立しない生き方こそ、彼が辿り着いた答えなのだろう。
それは1つを護る為に100を捨ててきた兄者とは、正反対の生き方で。
しかし兄者は今。その生き方に光を見た。
たった1つを護る為に全てを捨てる、ちっぽけな勇気で無く。
たった1つを護る為に全てを護る、笑い出したくなる程に大きな勇気を。
きっと、それこそが【射手】と決別したハインリッヒの持つ強さなのだ。
(;^ω^)『あ、あの、兄者?』
( ´_ゝ`)『ニイト=ホライゾン』
突如真顔になった隠密は、片膝を大地につき、低く頭を下げた。
( ´_ゝ`)『だが、俺も貴様の言葉を拒絶しよう。俺も貴様と共に行く。
俺も全てを護るため。貴様と共に戦ってみせよう』
見張りに立っていた【金剛吽】弟者が駆け寄ってきたのは、ちょうどその時である。
(´<_`;)『兄者!! ニイト城の方角から敵襲だ!! その数、騎馬にしておよそ100!!』
その言葉に兄者は、ニヤリと笑う。
シナリオこそ彼の思い浮かべていた物と大いに変わってしまった。が、タイミング的には予想通りだ。
( ´_ゝ`)『構わん!! 迎え入れてやれ、弟者よ!! 奴らは貴重な戦力だ!!
それより、戦闘の準備をしろ!! これより、第二回犬耳祭の開催だ!!』
- 346: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:34:47.40 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(;´_ゝ`)『……とは言え。何の策も無いのでは無駄死にに終わるぞ……』
陣を出た彼らは、ニイト軍の背を迂回。
北方に進んでいた。
ちょうど両軍歩兵部隊がぶつかり合っている付近に小高い丘を見つけ、腹ばいになって戦場を観察する。
( ´_ゝ`)『まだツン=デレもクーも討たれてはいないようだが……
それでも両軍併せて最低5000は戦闘可能と見ていいだろうな』
(,,^ ^)『軽く50倍っすねwwwwサーセンwwww』
【金剛阿吽】流石兄弟とブーン。それに【鉄牛】プギャーによって救出されニイト城から駆けつけた白面兵100。
それが彼らの全兵力だった。
ヴィップ・ニイトが共に疲労し【白衣白面】が皆勇猛な戦士であろうと、まともに当たったのでは勝ち目が無い。
広大な湖に一滴の色水を落とした程度の影響しか戦況に与えないだろう。
( ´_ゝ`)『【天馬騎士団】は……乱戦に紛れているようだな。
元々歩兵はニイトの方が少なかった。大方、その穴埋めと言う所だろう』
(;,^ ^)『つか、あそこで戦から外れてるのって【薔薇】っすよねwwww何で傍観してるんすかwwww』
( ´_ゝ`)『知るか。だが、もし【薔薇】に妨害されたら相当厳しい事になるぞ。
それを踏まえて、どうするのだ? ブーンよ。何か考えはあるのか?』
- 349: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:39:30.38 ID:dDhHtpy80
- ( ゚ ゚)『策なんかいらないお。やる事は一つ。みんなは出来る限り道を開いてくれればいいお。
無理に戦う必要はないから、作った持ち場を守る事だけ考えてくださいお』
幽鬼の面に素顔を隠した青年は、髪の染め粉を落とし銀髪に戻っている。
雪のような白装束に身を包んでいた。
( ゚ ゚)『そうすれば……あとは僕が止める。
止められる筈だったのに止めなかった。それで沢山の人が傷ついた。
この戦い、僕が必ず止めてみせますお』
( ´_ゝ`)『とは言え、この人数で作れる道などタカが知れているだろう。
もし、瞬歩で切り抜けるとしても貴様の瞬歩ではそれ程の距離は駆けれぬ筈だ。
何より、障害物だらけの戦場で直線移動しか出来ぬ貴様に何が出来る?』
兄者の言葉は厳しいが、それは青年を否定したいが為の物ではない。
最後の最後に拾い上げた可能性をふいにせぬが為なのだ。
(,,^ ^)『……って、お前さん。まさかとは思うが“鍵”を使う気じゃねぇだろうな?』
( ´_ゝ`)『“鍵”?』
( ゚ ゚)『……』
この場合、沈黙は肯定の同意語である。
“鍵”と言う単語に兄者は覚えが無かったが、この時この場合、青年が何をしようとしているかは察する事が出来た。
(;´_ゝ`)『!! まさか、限界解放か!?』
- 355: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:46:57.21 ID:dDhHtpy80
- (´<_` )『限界解放?』
( ´_ゝ`)『何だ、弟者知らんのか……と言っても我らには元々無縁の話だからな。
いいだろう。説明してやる』
瞬歩法のメカニズムとは、脳が肉体が破損せぬよう定めたリミッターを意識的に解除してやる事にある。
ただ、このリミッターが完全に振り切れた状態だけでしか発動出来ぬのであれば
数度の使用を待たずして肉体が先に破壊されてしまうから、
身体が破損しないギリギリまで力を抑える必要が出て来る。
つまりは、この最後の過程を取り払い、文字通り己の命を削り発動される瞬歩法のこそが。
かつて、キュラソー解放戦で瞬歩に開眼した青年が力の抑制も出来ず発動させた力こそが……
(;´_ゝ`)『考え直せ、ブーン!! 限界解放など使ったら待っているのは運が良くても廃人生活だぞ!!』
( ^pゝ^)『ぱしへろんだすwwwwwwあうあうあーwwwwwww』
(;´_ゝ`)『とか言って生涯過ごす事になるんだぞ!!』
( ゚ ゚)『ハインさんは……あと3回までって言っていましたお。……それに』
(#´_ゝ`)『「……それに」、の後は何だ!! 「きめぇwwww」とか言ったら只じゃおかんぞ!!』
( ゚ ゚)『……僕は、命を捨てる覚悟だって最初から言ってある筈ですお』
それの言葉を聞いて暫くは唖然としていた兄者であったが、
これ以上は無駄と知ってガックリと肩を落とした。
肩にぽんと手を置かれ振り返る。
(,,^ ^)『やめとけって。あーなったら大将は梃子でも動かねぇよ』
- 360: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:50:25.43 ID:dDhHtpy80
- (;´_ゝ`)『全く……姉弟揃って頑固者とは……厄介なところばかり似おって』
(;゚ ゚)『すまんですお』
(,,^ ^)『ま、言っても今更だな。それよりお前さん達、声でか過ぎだ。
【薔薇】に気づかれたぜ』
プギャーの言葉を聞いて、二人はやや西方に隊を構える騎士団に目を送る。
なるほど、数人の騎士達がこちらを指差して何やら騒いでいた。
(,,^ ^)『何を言っても無駄なら、ここに何時までも寝転がってるのはただの時間の無駄っすねwwwwサーセンwwww』
皆、筋骨隆々とした白面剣士の言葉に異論を挟む余地は無く。
( ´_ゝ`)『良いか、貴様ら。ヴィップとニイトに住まう全ての者の明日をかけた一戦だ。
格好良く死のうなどと思うなよ。足掻き、生き残り、持ち場を死守するんだ』
Λ_Λ
(゚<_ ゚ )『100対5000か……犬耳祭の前座には丁度良い。血が滾るわ』
(;,^ ^)『……』
弟者の頭にいつの間にか乗せられている物体については、誰もが何も言おうとしなかった。
視線を交え、コクリと頷くと【猟犬】を先頭に立ち上がる。
(#´_ゝ`)『行くぞ!! 我らが拳と刃もて、全てを護ってみせよ!!』
(#,^ ^)『応!!!!!!!!!!!!!』
叫ぶと同時に、この戦場に生まれた第三の勢力が両軍の中に駆け込んでいく。
目指すは、戦場の中央。二人の王が接触しようとしている、その一点のみ━━━━━。
- 365: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:55:12.90 ID:dDhHtpy80
- ( ゚ ゚)『みんな。少しの間だけ、頼むお』
一人、高台に残った青年の目もまた、戦場の中心に注がれていた。
黄金の髪と緑がかった黒髪が近づきつつある。
( ゚ ゚)『……ツン……姉様。今、行くお』
陽光を全身に浴びるように全身を“大”の字に広げ、瞼を閉じる。
ゆっくりと息を吸い込み、丹田に気を集中させる。
( ‐ ‐)『……』
深く深く、己の内面に潜っていく。
無意識下で肉体に制限をかけている扉に近づいていく。
身体を削る行為に恐怖を感じぬわけではない。
が、恐れや戸惑いは別の感情が押し潰す。
( ‐ ‐)『……』
ただ、立っているだけで青年の足元で小石が爆ぜ飛んだ。
ゆっくりと、静かに立ち昇る風が、砂を巻き上げる。
しかし、まだまだ足りない。
自身が心の、もっとも深い場所にまで身を沈めていかねばならない。
そして、吐き出される言葉は━━━━━
( ‐ ‐)『我は……猟犬なり』
【白衣白面】の代名詞。突撃の詩。
- 368: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 01:59:30.71 ID:dDhHtpy80
- ( ‐ ‐)『……引き千切る爪 貫き穿つ牙なり』
紡がれる言葉に意味はない。
言葉は暗示だ。
更に深く、深層に潜り行く為の感情を沸きあがらせる為の暗示だ。
何故、ツンは己の姉と戦わねばならない。
何故、クーは己の友と戦わねばならない。
何故、誰がこの戦いをあざ笑い見ている。
何故、己はこの戦いを防ぎとめられなかった。
( ‐ ‐)『……我が命は我が物に非ず 我が魂は我が物に非ず』
怒り。
その感情が恐れも迷いも掻き消して、次々と扉を開いていく。
( ‐ ‐)『……我ら 群れを成すとも一人にて。
届かずを知るも ただ月を見上げ吼える』
全てを失い、求める物は遥か彼方にあって。
それでも戦う道を選んだ悲しい男達の詩が、感情を更に高めていく。
今や、青年はさながら風そのものに変わろうとしていた。
- 370: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:02:02.87 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
ノハ;゚听)『なぁ、ご主人。一体どうなってるんだ……?』
(;´・ω・)『……僕にも分からないよ』
痛む左腕を押さえた赤毛の給士が、ペタンと主に並ぶようにして腰を下ろす。
ふわりとめくれあがった給士服の奥から、何やら白い物が見えた気がするが、興味は全く起こらない。
標準よりも遥かに短い給士服を年がら年中ヒラヒラさせている彼女の事より、不可解な事実が目の前で起こっているのである。
(゚<_ ゚ )『わっしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっい!!!!!!!』
爪;゚∀゚)『や、やはーーーーーーーーーーーーっ???????????』
雷電が如く突き出された大槍を駆け上がった。
そのまま、一人だけ重力から解放されているように女騎士の肩に飛び乗ると、顔を蹴り飛ばす。
爪;゚∀゚)『な、なんなのさーーーーーーーーーーーーーーーっ???????????』
叩き落そうと振るわれた大槍は、後方宙返りで避わした。
そのまま空中で身を反転させ、
(゚<_ ゚ )『ねむれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!』
頭が下になった体勢から左腕を突き出し、開いた掌から無数の飛礫を撃ち出す。
飛礫の大半は大槍に弾かれ、急所を打つ事は無かったが、射出の反動を生かした弟者はトンと着地してみせた。
(;´・ω・)『なんで……【金剛吽】が僕らを助けるんだ?』
ノハ;゚听)『ご主人に分からない事があたしに分かる訳ないだろ……つか、ご主人なんか失礼な事、考えなかったか?』
- 371: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:05:22.01 ID:dDhHtpy80
- 爪;゚∀゚)『そ、そうそうそうそうそれそれそれそれそれっ!! リーゼもそれが言いたかったっ!!』
右腕をブンブンと振り回し、主従の会話に入り込んできたのは大槍を持った女騎士であった。
爪;゚∀゚)『な、なんで弟者がリーゼと戦ってるんですかねっ!? 意味分からないんですけどっ!?』
(゚<_ ゚ )『黙れ!! お前は何も気づかぬのか!!』
一喝する。
(゚<_ ゚ )『この戦いの向こうに明日はない!!
憎しまなくてもよい者達が憎しみ合い、共に手を取り合える者達が殺しあう!!
それに何の意味がある!! 今この戦いを止めなくば、歩める道は暗黒のみ!!』
爪;゚∀゚)『で、でもリーゼはクー様のために……レーゼのために戦わないと……』
(゚<_ ゚ )『そうかもしれん!! だが、それは楽な道を歩んでいるにすぎない!!
奈落へ続く下り坂、確かに進むは楽だろう!!
しかし、本当に大切な人を思うなら奈落へ進むを止めなくてはならん!!』
そこで弟者は一拍言葉を止める。
そうして、ありったけの思いを込めて叫ぶのだ。
(゚<_ ゚ )『しかし!! どんなに辛い上り坂でも、大切な者と歩むなら人は笑って進める!!
そして!! 荊の道の彼方に広がるは、真なる楽園!! “犬耳”と言う名の黄金郷!!』
爪;>∀<)『途中まで感動してたし分かったような気もしたけど、
最後で意味分からなくなっちゃいましたっ!?』
- 375: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:08:49.18 ID:dDhHtpy80
- ノハ;゚听)『ご主人……分かったか?』
(;´・ω・)『なんとなく、ね。少なくとも弟者が犬耳好きって事だけは分かったよ』
主従揃って、うんうんと頷く。
弟者の頭に飾られたふわふわの飾り物。仕掛けがしてあるのか、時折ぴょこぴょこと動く辺り更に意味が分からない。
(゚<_ ゚ )『お喋りはここまでだ、リーゼよ。俺もここで時間を喰う訳には行かぬ』
言って腰から手斧を引き抜いた。
義手の甲からは一尺(約30cm)程の刃が生え出ている。
(゚<_ ゚ )『言葉で説明しても分からぬのなら、肉体に我が意思を刻み込んでやろう!!』
爪;>∀<)『あの説明で理解しろって言われても、無理無茶無謀!!
あ〜れ〜御無体な〜、良いではないか良いではないか〜、なんですけどっ!?』
リーゼ必死の抗議など耳にも入らぬ、と言った風に弟者は大地を蹴る。
それを見ながら、ショボンは感じ取っていた。
(´・ω・`)。oO(誰が……いや、でも確かにきっと誰かが……)
何者かが奏で、自身も歌わされていた不快な戯曲。
その舞台に踊りこんだ者達がいるのだ。
そして、【赤髪鬼】ヒートもまた、二人の戦いを見ながらこんな事を思っていたと言う。
ノハ*゚听)。oO(お姉様に犬耳っていうのも……いいなぁ)
- 379: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:11:53.39 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(;,゚Д゚)『な、なんだテメェら!! 何処から沸いて出やがった!?』
(,,^ ^)『【白衣白面】副長プギャーっすwwwwサーセンwwww』
ギコの長刀と、プギャーの二本の拐(爪型の刃を先端につけたトンファー)が交差する。
共に人並みはずれた膂力に恵まれた肉体を持つ同士。
岩石に例えられる剣士の筋肉がはちきれんまでに膨れ上がり、【鉄牛】の異名を持つ白面兵の骨は軋んで悲鳴をあげた。
(#,゚Д゚)『ゴルァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
(#,^ ^)『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
ギコがプギャーの背中越しに見る物。
それは、次々と薙ぎ倒されていくニイト兵。そして地に伏せていくヴィップ兵の姿である。
ある者は味方の背を踏み台替わりにして兵の中に飛び込み、
ある者は舞踏でもしているかのように兵の間をすり抜けていく。
ひたすら一直線に突き進む様は、正に“当たるを幸いに蹴散らす”と言う言葉が相応しい。
从;゚∀゚)『な、何なのよ一体!? ヴィップの援軍!?』
VIP;゚听)『そんなわけあるかよっ!! こいつら手当たり次第に殴ってきやがるっ!!』
戸惑い困惑した兵達は、意味も分からぬまま新たに表れた共通の敵に向けて剣を抜く。
が、それも白面兵の振るった拐に容易く弾き返されてしまった。
( ・ ・)『殺されるかもしれねぇけど、殺しちゃならねぇ!! フハハー、全く戦場は地獄だぜぇっ!!』
- 383: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:14:19.64 ID:dDhHtpy80
- ( ´_ゝ`)『兄者玉・72式っ!!』
ギコとプギャーの一騎討ちは呆気なく終了した。
ギコの背後に駆け寄った兄者が、得意の投弾兵器を叩き付けたのである。
中に仕込まれていた粘性物質に絡めとられ、ギコは転倒する。
(#,゚Д゚)『テメェェェェェェェェェ汚ぇぞゴルァァァァァァァァァッ!!』
( ´_ゝ`)『隠密に汚いも糞もあるか、馬鹿者が。油断していた貴様が悪いのだ』
(;,^ ^)『えげつない真似するっすねwwwwサーセン』
( ´_ゝ`)『樹脂の加工物だ。火で炙ってやれば動けるようになるさ』
淡々と言いつつ、周囲を見渡す。
一時は破竹の勢いだった白面であったが、ニイトとヴィップが共に当たってくるようになると、戦況は変わった。
切り開いた道を崩さぬよう、防戦に回る者が多くなって来ている。
(,,^ ^)『この辺が限界っすかねwwww』
( ´_ゝ`)『もう少し先まで進みたかったのだが……戦線が延びればその分守りも薄くなるからな。
止むを得まい。それと、もう一つ悪い知らせだ』
言って兄者は、戦場の片隅をアゴで指した。
その上空には濛々と土煙が舞っている。
(;,^ ^)『ちょwwwwwwwあれってwwwwwwwwww』
( ´_ゝ`)『あぁ。早すぎるな。【薔薇】が動いた』
- 387: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:18:01.47 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
━━━━━━━━━━
━━━━━━━━
━━━━━━
薔薇゚∀゚)『将軍!! 動きがありました!! 何者かが戦場に介入!!』
( ゚∀゚)『来やがったか!! 何処だっ!!』
答えが返るよりも早く、ジョルジュの目はその集団を捕らえていた。
【天馬騎士団】が撤退した高台を駆け下りるようにして、白装束を纏った戦士達が戦場に切り込んでいく。
( ゚∀゚)『【猟犬】は!? あの野郎はいるか!?』
薔薇゚∀゚)『確認!! 一人、高台に残っているようでありますっ!!』
( ゚∀゚)『へへ……そうか。やっぱり、そうか』
不敵に笑い、唇を舐めてみせる。
この戦の影に何者かがいると考えた時、ジョルジュは思った。
すでにこの戦、舞台に立っている者では止められない。
それが可能なのは第三の勢力のみ。
ニイトに身を置きながら、ツンを見逃した【白衣白面】の青年、ただ一人。
だから、ジョルジュは時を待った。
敗れればヴィップその物を失う、あまりにも危険な賭け。だが、彼はそれに勝利した。
万感の思いを込め叫ぶ。
( ゚∀゚)『今こそ我らが動く時!! 【薔薇の騎士団】、出撃する!!!!!!!!!!』
- 395: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:20:54.52 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(;´_ゝ`)『なっ!?』
当然、兄者はそのようなジョルジュの思惑など知らない。
だから、自分達が切り開いてきた道を駆けてきた【薔薇】が
白面を無視してニイト・ヴィップへの中に飛び込んでいった時、思わず声を漏らしていた。
(#,゚Д゚)『テメェ、猪馬鹿!! 今頃ノコノコ出てきて何やってやがるゴルァ!!』
(#゚∀゚)『うるせぇ、筋肉チビ!! この戦は裏に何かある!! 寝てねぇで手伝え!!』
大鎌の柄で数人の兵を薙ぎ払い、兄者と目を合わせる。
( ゚∀゚)『この戦いを止めるんだろ!? ヴィップが万騎将【急先鋒】ジョルジュ!! 助太刀するぜ!!』
( ´_ゝ`)『……っ!! ありがたいっ!! 5式っ!!』
叫ぶと同時に大地に縫い付けられているギコに投弾兵器を叩きつけた。
一瞬包まれた炎の中から、剣士が飛び出してくる。
( ,,゚Д゚)『クソ……やっぱりテメェは気にくわねぇぞゴルァ』
愚痴りながらも前線に駆け込んだ。
戦力を数倍した彼らは、無人が野を行くが如く、背後に立つ青年が為の道を切り開いていく。
だが。
その時、すでに二人の王は対峙していた━━━━━。
- 400: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:23:01.19 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
ξ゚听)ξ『来たわね……ニイト=クール』
川 ゚ -゚)『決着をつけようか……ツン=デレ』
向かい合う。
すでに周囲の兵は背後に下がらせていた。
二人を中心に輪を為すかのようにして、舞台は完成している。
義足の重量を生かした蹴りを中心としたクーの攻撃は、馬上にあれば急所に当たる事はない。
が、まず馬を狙われその下敷きになることを恐れたツンは、徒歩(かち)の一騎討ちを選んだ。
ξ゚ー゚)ξ『今だから言うけどね。アタシは貴女を尊敬していたわ。
ひたすら民の為に生きる強さに、憧れていた』
川 ゚ -゚)『……私も、君個人に憎しみを抱いた事はないよ。
もし、出会う場所が違っていたら我らは共に手を取り合えたかも知れんな』
しかし、すでにもう後戻りは出来ない。
ツンが手にする禁鞭は、甲冑の類を身に着けていないクーの身体を容易く引き裂くだろう。
クーの赤銅色の義足は、黄金の甲冑を一撃で粉砕し、それごとツンの身体を破壊するだろう。
共に国の頂点に立ち、家族同様に過ごしてきた友を戦で傷つけられた以上。
引く事は出来ない。
ξ゚听)ξ『行くわよ!! ニイト=クール!!』
川 ゚ -゚)『来い、ツン=デレ!!』
二人の一騎討ちは、まずツン=デレが仕掛けるようにして始まった。
- 402: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:25:27.14 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(#゚∀゚)『おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』
怒号一閃。まるで草でも刈るかのようにして数人の兵達を払い飛ばした。
すでに、どこにヴィップの者がいてどこにニイトの兵がいるのか分からぬ程、周囲は混乱している。
真横でドスンドスンと駆ける剣士に叫んだ。
( ゚∀゚)『殺すんじゃねぇぞっ!!』
( ,,゚Д゚)『分かってるぞゴルァ!!』
連続突きを放った長刀は、鞘に包まれている。重量は随分増したが、それでもその速度に翳りは無かった。
薔薇;゚∀゚)『報告!! 今、両王が接触いたしました!!』
(;゚∀゚)『……っ!! ちぃっ!!』
思わず舌打ちする。それでも大鎌を振るった。
(;,^ ^)『まさか、間に合わねぇんじゃねーだろうな』
プギャーの言葉は、今戦っている【白面】と【薔薇】の即席連合軍、誰もが思い浮かべた物だろう。
(;´_ゝ`)。oO(くそっ!! まだか、まだなのかブーンよ!!)
兄者は思わず背後を振り返った。
そして、見る。
風を纏った青年が、静かに第一歩を踏み出したのを。
- 406: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:28:41.08 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
━━━━━━━━━━我は 猟犬なり
引き千切る爪 貫き穿つ牙なり。
我が命は我が物に非ず 我が魂は我が物に非ず。
我ら 群れを成すとも一人にて。
届かずを知るも ただ月を見上げ吼える。
残すべき名も無きは 人ざるを捨てた身であるが故。
我が身かえり見ざるは 誇るべき毛皮も持たざるが故。
ならば今……
( ゚ ゚)『ならば今 我ら皆猟犬として 我らが死を此処に望まんとす』
静かに目を開いた青年は、まず確かめるように一歩を踏み出した。
早鐘のように鼓動を繰り返す心臓が、全身に煮え滾る血を送り続ける。
全身は剣気と言う名の炎に包まれ、触れた大気まで蒸発するようだ。
研ぎ澄まされた神経回路は、肉体が叫ぶ悲鳴を不要物として遮断し。
ただ“駆ける”事だけに特化した肉体の両腕を、青年は翼のように広げる。
( ゚ ゚)『今、行くお。ツン。姉様』
そして。【王家の猟犬】は全てを護る為、駆け出した。
- 416: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:32:11.99 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
(;´_ゝ`)『来たぞ!! 身を伏せろ!! 巻き込まれるぞ!!』
(;,^ ^)『遅いっすよ、大将wwwwサーセンwwww』
叫ぶと共に、地に伏せた。
瞬間、突風が兄者の真横を通過し、身体が浮き上がりそうになるのを必死で大地にしがみつき堪える。
(;´_ゝ`)『こ、これが限界解放か』
(;,^ ^)『うちの大将は特別っすwwwwあーなったら姐さんでも止められないっすwwwwサーセンwwww』
青年が“道”を駆けたのは、ほんの一瞬でしかなかった。
すぐさま兵の中に飛び込んでいく。
(#゚ ゚)『どけおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!』
殴り。
跳ね飛ばし。
飛び越えて。
見据えるのは、ただ戦場の中心。
青年の目はついに二人の王を捕らえる。
足を振り上げる姉と、禁鞭を振りかざす友の姿を見る。
(;゚ ゚)『……っ!! 間に合わな……』
- 421: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:36:21.28 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
川#゚ -゚)『はぁっ!!』
前方宙返りの勢いを加算したあびせ蹴りが、大地を穿った。
立ち上がる反動を利用して前蹴りを放つが、それも惜しいところでかわされる。
川 ゚ -゚)『ちょこまかと……。野良猫のような女だな、本当に』
ξ゚听)ξ『貴女こそ。粗暴な攻撃はまるで野犬みたいだわ』
大きく息を吸い、整えた。ツンが選んだのは持久戦である。
技量で差をつけられている彼女がクーに勝つには、疲労で動きが鈍くなった時を狙うしかない。
【急先鋒】ジョルジュがリーゼ相手にしてみせたのを真似る様に、最小限の動きで攻撃を避わしていく。
これまでに何十を越えるヴィップ兵を相手にしてきたのだ。必ず、どこかで勝機が来る。
川 ゚ -゚)『っ!!』
ツンの牽制を避わしたクーが膝を崩した。
ξ゚听)ξ『!! 今っ!!』
深く踏み込んだ。
しかし。
川 ゚ -゚)『かかったな、ツン=デレ!!』
クーが一撃必殺の足を振り上げた。
避わせぬと見るや、ツンもまた禁鞭を振り上げ━━━━━
- 423: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:41:12.75 ID:dDhHtpy80
- ※ ※ ※
足を振り上げる姉と、禁鞭を振りかざす友の姿を見る。
(;゚ ゚)『……っ!! 間に合わな……』
そう。このままでは間に合わない。
決定的に足りない。ならば、どうするか?
怒れ。家族に牙をむく全てに。
怒れ。友に剣を向ける全てに。
怒れ。この戦いの全てに。
怒れ。二人を争わせる者に。
怒れ。第一歩を踏み出すのに遅れた、優柔不断な自分に。
怒れ。大切な者を護れない、無力な自分に。
燃え滾る感情を力と変え、更に強き一歩を踏み出せ。
更に強く大地を蹴れ。
そして。
(#゚ ゚)『うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!』
- 426: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:43:22.76 ID:dDhHtpy80
喧騒は瞬時にして静寂へと変わり。
静寂は徐々に喧騒へと生まれ変わる。
- 430: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:46:24.08 ID:dDhHtpy80
- ( ・ ・)『フハハーまた死に損なっちまったぜ』
爪;゚∀゚)『……あ……れ?????????』
(;,^ ^)『……ふぅ』
(´・ω・`)『そうか……君だったのか』
兵;,゚Д゚)『……陛下っ!!』
(;゚∀゚)『なん……だと……』
( ,,゚Д゚)『やるじゃねぇかゴルァ』
ニイト;'A)『クー様っ!!』
(;*゚ー゚)『そんな……うそ……』
从;*゚ー゚)『……』
(;´_ゝ`)『……おぉ』
(゚<_ ゚ )『……犬耳わっしょい』
薔薇;゚∀゚)『あの人は……死んだ……筈では……?』
ノハ;゚听)『……なんで……なんでお前が生きて……ここにいるんだ……?』
- 435: ◆COOK./Fzzo :2009/08/21(金) 02:50:31.98 ID:dDhHtpy80
- ( ω )『……』
ξ;゚听)ξ『……ナイト……ウ?』
川;゚ -゚)『ホライゾン……?』
二人の王の渾身の一撃は。
互いの身には届かなかった。
そして、二人の間に割り込むようにして立つ、銀髪の青年。
両手にしていた拐は、白き狼の放った蹴りによって粉砕された。
素顔を隠す幽鬼の面は、黄金獅子の鞭によって叩き落とされた。
それでも【王家の猟犬】は。
全てを護ると誓った青年は、そこに立っている。
( ω )『遅くなってゴメンだお……この戦い……止めに来たお』
それだけ言って、青年は膝から崩れ落ちた。
そのまま、大地に倒れこむ。
ξ;;)ξ『ナイトウ!! ナイトウ、貴方本当に……っ』
川 ; -;)『ホライゾン!! どうした!? しっかりしろ!!』
薄れ行く意識の中で。
ブーンは、二人が共に自分の名を呼んでいるのを、確かに聞いた。
今の瞬間まで争っていた事など、忘れたかのように。
自分の名を何度も何度も呼び続けるのを。確かに聞いていた。
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