( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/31(月) 20:13:45.90 ID:+aJHF24O0
登場人物紹介

アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称)・赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=千歩将

|(●),  、(●)、| 名=ダディ 異名=第六天魔王 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団団長

( ̄‥ ̄) 名=フンボルト 異名=??? 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団副団長



5: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:15:29.84 ID:+aJHF24O0
ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長



9: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:21:19.90 ID:+aJHF24O0
MAP 〜東1局4順目で親の国士直撃喰らって死亡とか泣きたい編〜

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader1154952.jpg

@キール山脈 未開の地。厳しい自然環境下で、隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 内乱の制圧に成功するが、国内でニイト征伐の世論が異常なまでに高まり、世論に押し切られるように出兵した。

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 内乱制圧後、侵攻してきたヴィップ軍を大きく破るが……

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



11: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:24:18.51 ID:+aJHF24O0


     第27章 勝利の剣


(  ω )『……お……』

川 ゚ -゚)『ホライゾンっ!!』

瞼を薄く開き、霞んだ視界に最初に飛び込んできたもの。
それは、白目を赤く充血させた姉の顔と、どこか見慣れた石造りの天井だった。

(  ω )『ここは……ニイト城かお?』

川  - )『あぁ、そうだ……よかった……もう目を覚まさないのかと……お前は何日も眠っていたんだぞ』

言ってクーは両手で包み込んだ青年の手を自らの頬にそっと押し当てる。
陶器のようにすべらかな肌は、冷たくしっとりとしているように感じられた。

(  ω )『戦は……戦争はどうなったんだお?』

川  - )『終わったよ……お前が止めてくれたんだ』

未だ眠っている状態の筋肉を無理矢理叩き起こし、青年は上半身を起こす。
ギヤマン製の水差しを姉の手から受け取り、白湯を口に流し込んで、ようやく脳が覚醒してきた。

川  - )『限界解放など……無茶をしおって。兄者がいなかったらどうなっていたか……』

(;^ω^)『兄者が?』



13: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:28:00.78 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『暴血……つまり、限界解放の反動で倒れたお前の治療をしたのは私と兄者だ。
      今は弟者やリーゼと共にカンパリに残っているが、な』

(;^ω^)『……姉様は限界解放の事を知ってるのかお?』

川 ゚ -゚)『当たり前だ。私を誰だと思っている? お前の姉だぞ?
     それに、こんな身体になるまでは、私の方がお前よりずっと早く走れていたんだ』

修練によって瞬歩法を極めたハインと違い、ブーンは生来の才能に頼りきっている面が強い。
当然ハインも人並み外れた才を持っているわけだが、青年のそれはハインをはるかに凌駕していた。
その才能は、父でありアルキュ最高の剣技【夢幻剣塵】の使い手モララーの血による物。
更に言えば、クーの蹴り技は生まれ持った脚力に義足の重量を上乗せしたものになる。

( ^ω^)『……』

青年は確かめるように、腕を軽く回した。
なるほど、惰眠を貪り過ぎた時のような気だるさは全身にある物の、覚悟していた程肉体の破損は無い様だ。
クーの知識と、“瞬歩のスペシャリスト”を自称する兄者に感謝する。

( ^ω^)『姉様』

そして、ブーンが尋ねたのは命を懸けて護ろうとした友の存在だ。
戦は終わった。
それでも、流石兄弟やリーゼはカンパリに駐留していると言う。
胸の中に残る嫌な予感を感じながら、彼は続けた。

( ^ω^)『ツンは……ヴィップはどうしているんですお?』

川 ゚ -゚)『……』



16: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:31:00.54 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『……その前に一つ教えてくれ、ホライゾン。
     お前はニイトが内乱に乗じてヴィップに侵攻するのを足止めする為、この国に潜入した。
     これは間違いないな?』

(;^ω^)『お? はい、そうですお』

この事実は、すでに姉も周知のはずである。にもかかわらず、姉は再度それを確認した。
そして、続く言葉でクーの真意を知るのだ。

川 ゚ -゚)『これは、私の憶測でしかないが、偽り無く答えて欲しい。
     お前は、ツン=デレによってニイトに派遣されたのではない。
     何故なら、ツン=デレは何故、お前がニイトにいるのかすら知らなかった。
     お前と【白衣白面】を秘密裏にニイトに送り込んだのは……ヴィップ建国の功臣【天智星】ショボンだ。
     間違いないな?』

(;^ω^)『……その通りですお』

川 ゚ -゚)『……やはり、か』

言ってクーは青年から視線を外す。
細いあごに指をかけ、なにやら考え始めた。

(;^ω^)『姉様は……何もかも分かっているんですかお?』

川 ゚ -゚)『何も知らないさ。憶測に過ぎない。
     ニイト・ヴィップ共に将官級の者ならばきな臭い物を感じ取ってはいるが、それが何なのかは分かっていない。
     正解に最も近いのは、今の私と……おそらくヴィップでは【急先鋒】。
     正解に辿り着いているのは、兄者とショボン……と言う所だろうな』



19: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:33:52.38 ID:+aJHF24O0
(;^ω^)『兄者と……ショボンさん……』

川 ゚ -゚)『あぁ。このような事態になると分かっていれば、私も先に二人を問い詰めたのだがな。
     いや、言い訳か。ここまで正解に近づいていれば、予測できた筈なんだ。
     私はアレとずっとお前の側にいたし、兄者は答えあわせでもするかのように【天智星】を連れて何処かに消えてしまった。
     このような事になって、兄者はカンパリへ。ショボンめは自軍に戻ったが……』

“このような事態”。
その言葉に、青年の心に芽生えていた嫌な予感が再び鎌首を持ち上げる。

川 ゚ -゚)『一つ、確信できている事がある。
     それは、最も早く正解に辿り着いたのが【天智星】だったであろう、と言う事だ』

(  ω )『……でも、ショボンさんは……』

この戦いで常に受け手に回っていた。
同じく“正解”に辿り着いた兄者とは違い、行動に出ようとしなかった。何故か?

川 ゚ -゚)『知りすぎていた……いや、関わり過ぎていたと言うべきだろうな。
     己の策に溺れ、更に大きな存在に気づくのが遅れた。
     気づいた時には己の張り巡らせた泥沼に足を取られ、身動きが出来なくなっていた……といった所だ。
     よほど深い情念が視界を狭めていたのだろう。あまり責めてやるな』

ショボンの不幸は、記憶も過去を持たない男の正体が、クーの実弟だった事にある。
自身が設立した【白衣白面】がニイトに残留し、その謎の解明に囚われ過ぎた。
自身が黒幕となって動いていた筈が、その実はうまく踊らされていた形になってしまい、動くに動けなかったのだろう。

が、その白面も元は彼が秘密裏に組織した物であり、今となれば疑問が残る。
ギムレットに残る悲劇の伝説【白衣白面】。
その名声をツン=デレの覇道の為に利用するとして、その存在を全ての者に伏せておく理由はないからだ。



21: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:37:13.36 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『権勢欲……とは違うのだろうな。おそらく【天智星】にはヤツなりの目的があって動いている。
      よもやすれば、ツン=デレすら利用しているだけなのかもしれん』

言ってからクーは言葉を休めた。
少しの間だけ青年を見つめ、意を決したかのように口を開く。

川 ゚ -゚)『お前が寝ている間に、な。ツン=デレとは色々と話をしたよ。
     兵は皆疲れ果てていて……波が引くように戦いは収まった。何より、王たる私達が戦意を失くしていた。
     本当に色々と話をした。ツン=デレは私の知らないお前を沢山知っていたよ』

(;^ω^)『お』

川 ゚ -゚)『最初はずっと泣いていたんだ。それから少しずつ語り出した。
     お前と出合った時の事。お前が助けてくれた事。お前が死んだ筈であると言う事。
     何度も何度も、お前を一番の友と呼んでいた』

そこまで言ってクーは微かに下唇を持ち上げた。

川 ゚ -゚)『正直、妬けてしまうな』

(;^ω^)『そ、それでツンは今どこにいるんだお!?』

それでも、【黄金獅子】ツン=デレの姿はそこに無い。
先ほどから感じ取っていた予感が、青年の気を急かしたてる。

川 ゚ -゚)『……2日前の事だ。ヴィップ城から急士が駆け込んできた。それでツン=デレ達は急ぎ国に帰還した』

(;^ω^)『え……』

川 ゚ -゚)『……ヴィップ城が正体不明の敵に襲われたのだ。ツン=デレは……今も戦っている』



25: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:42:11.83 ID:+aJHF24O0
(;^ω^)『……っそんな!!』

叫ぶや、青年は寝台から飛び降りる。
石床に足をつけた瞬間膝から崩れ、姉に抱きとめられた。

川;゚ -゚)『ホライゾン!! 無茶をするな!!』

(;゚ω゚)『そんな事言ってる場合じゃないんですお!! ツンが……ツンがっ!!』

川#゚ -゚)『分かっている!! だが、もう一度言おう!! “無茶をするな!!”
     今、お前が無茶をする事になんら意味はない!!』

( ;^ω^)『……お?』

そこで青年は姉の瞳を見た。
柔らかく垂れた緑色の宝石が、爛々たる輝きを放っている。
ヴィップとの戦いの中で幾度も見せた、その輝きが意味する物はつまり……

川#゚ -゚)『ホライゾンよ。私は怒っている。血を滾らせているのはお前だけではない』

つまり、怒り。感情を表に出さぬ彼女の内面で、炎が荒れ狂っているのだ。

川#゚ -゚)『先の戦いで、我らは多くの同胞を失った。だが、その全てが誇りある死を迎えたと私は信じている』

そこでクーは言葉を区切った。
握られた拳に力が篭もる。

川#゚ -゚)『しかし!! この戦いの影に、我らをあざ笑う者がいるとしたら!! 私はそれを許さない!!
     そして、今ツン=デレが戦っている者こそ、全ての黒幕!!
     ならば、ツン=デレだけに任せておけん!! この【無限陣】ニイト=クールがその罪を裁く!!』



29: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:47:05.03 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪#゚ー゚)『何度も説明いたしましたが。クー様は感情で全てを決めすぎます。
     この度の戦、その軽率な行動が多くの戦士を死に追いやった事をもう少し理解なさるべきです』

川;゚ -゚)『いや……でも、お前が傷つけられたと知って……それどころでは無かったし……』

爪#゚ー゚)『問答無用!! 王たる者が臣下の負傷に一々と気を荒げてどうするのです!?
     あの時、クー様は兵を宥めるのを優先せねばならぬ事だった筈でしょう!!』

寝台に身体を起こした格好の臣下の声に、先程までの威勢はどこへやら。
クーは身をちぢこませた。
ニイトが誇る文士は、きっちりと着込んだ寝巻きの下に包帯を巻きつけている物の、顔の色艶は悪くはない。
むしろ、溜まりに溜まっていた睡眠不足をこの機に解消した様でもある。
寝台の上には、所狭しと様々な書類が散乱していた。

川;゚ -゚)『しかしだな、ヴィップとの戦いは国を護る為の誇りある戦であり……』

爪#゚ー゚)『誇りだけでは国は成り立ちません!!
     国を護る事を考えるなら、私の死体など踏みにじってでも民をお護り下さい!!』

レーゼとて、クーが傷ついた彼女の為に怒りを顕わにした事が嬉しくない訳ではない。
多くの兵が、剣を振り上げた心に感動を覚えなかった訳ではない。
が、それ以上に多くの者が傷つき倒れた事に胸が痛む。
憤った兵を止めず戦に走った主の弱さを悲しく思う。

爪#゚ー゚)『将に5つの危険あり。クー様でしたらご存じない筈はないでしょう?』

川;゚ -゚)『……う』



34: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:51:02.52 ID:+aJHF24O0
孫子兵法の最も多くな特色の一つが、両面思考ではないだろうか?
“利”と“害”。“長”と“短”。一つの事項を相反する視点から論じ、そのバランスを重視する。
五危。つまり、“将に5つの危険あり”とは、指揮官の持つ5つの美徳が害悪に変わる危険性を説いた言葉だ。

まず、必死。勇敢すぎる者。
彼は己の役割も忘れて突撃し、孤立して死ぬだろう。
必生。慎重すぎる者。
勝機にも積極的に行動できず、最後は囲まれて捕虜となるだろう。
ふん速。敵愾心が強すぎる者。
敵を憎む心から冷静さを保てず、軍を簡単に危険に晒してしまうだろう。
廉潔。誇りが高すぎる者。
名誉を重視するあまり、それを傷つけられた時状況を無視して戦うだろう。
最後に、愛民。民を愛しすぎる者。
民を思うが故冷酷に扱う事が出来ず、苦戦するだろう。

これが五危である。
レーゼにとってクーは理想的な主だ。
勇敢でありながら、雌伏する事が出来、誇り高く、民を愛する。
しかしながら、ヴィップとの戦ではその美徳の多くが裏目に出てしまった。
それだけは強く諌めなければならない。

爪ii- -)『全く……にもかかわらず、次は遠征ですって? 今回の戦でどれだけ支出があったと思っているのです?』

川;゚ -゚)『う……すまない』

反論の一つも声に出せぬ主を前に、レーゼは髪をかき上げる。
『最悪ね……もう……』と呟いて、口を開いた。


爪ii- -)『兵は1000。兵糧は30日分。これが限界です』



39: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:53:56.40 ID:+aJHF24O0
川;゚ -゚)『良いのか、レーゼ!!』

爪゚ー゚)『勘違いをしないでくださいね、御二方。これはニイトの未来を思えばこそ、です』

すでに諦めかけていたのだろう。
レーゼの言葉に、クーはパチクリと垂れた瞳をまばたかせる。

爪゚ー゚)『戦を完全に終わらせ、踏みにじられた会談を開き、ヴィップとの和解を。
    彼の国との和睦は我が国に大きな利益を生む、と考えての事です』

川;゚ -゚)『……だが……ヴィップには父の仇がいるのだぞ。
     あの時はホライゾンに押し流されてしまったが……私は射手を許す事は出来ない』

爪゚ー゚)『私もあの時一度故国を失った身ですから、クー様の気持ちは分かるつもりです。
    でも、なにも射手を許せと言っているのではありません。ヴィップと言う国と和解して頂きたいのです』

年下にもかかわらず、主を諌めるレーゼは年長者のように映る。
それでも難を示すクーの姿に、レーゼは半分だけ幸せを逃がすような溜息をついた。

爪゚−゚)『これは私の妄想かもしれませんがお聞き下さい。私には、この戦を覆う闇が今だけの物とは思えない。
    父やモララー様さえ欺き、ニイトを奇襲したハインリッヒ。その影にも今日と同じ冷たさを感じるのです。
    それに……』

( ;^ω^)『お?』

言ってレーゼは、寒さから身を護るように己の両肩を抱きしめる。

爪ii- -)『それに私はヴィップとの会談の準備を進めていた時、射手に襲われたのではありません。
     私が見たのは、炎に包まれるヴィップの使者の姿。
     それと……笑われるかと思いますが……九本の尾を持つ巨大な獣の影でした……』



41: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:58:12.76 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

|(●),  、(●)、|『騎兵1000、歩兵4000……と言うところですか。我が軍の3倍ですね』

( ̄‥ ̄)『えぇ。敵軍の所属も未だ不明のままのようです』

【獅子の都】と今もなおうたわれる、ヴィップが首都ヴィップ城。
その城壁の上で二人の騎士が眼前に広がる敵陣を見下ろしていた。
一人は異常なほど巨大な頭を持つ男、【第六天魔王】ダディ。
もう一人はその副官、フンボルトである。

眼下で風車型に隊列を敷く者達。
彼らは唐突に現れた。
常に戦中に身を置き続けてきた、自由騎士と呼ばれる彼らだからこそ、咄嗟の籠城に成功したのだ。

|(●),  、(●)、|『フィレンクト殿からの返信は?』

( ̄‥ ̄)『先程、矢文が。精鋭500を率いてこちらに向かわれる、との事。
     なお、メンヘルに動きは無かったそうです』

|(●),  、(●)、|『ならば、リーマンかモテナイが……いや、それは考えづらいですね』

言って己の禿頭をペシッと叩いた。
もし、リーマンやモテナイが動いたとすれば、それはニイト国内にある本隊に逸早く知られる筈だ。
逆を言えば、ツン達に知られる事なく動いたとすれば、二国の侵入の線は限りなく薄くなる。

|(●),  、(●)、|『そう言えば、フンボルト。先日捕らえた捕虜はどうなりました?』



46: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:04:18.66 ID:+aJHF24O0
( ̄‥ ̄)『……あれは気狂いです。得られる情報は無いと思って下さい』

アルキュと言う一つの島を自由に駆け巡る自由騎士達。
ヴィップ国内で、その彼らが誰よりも得意としたのが捕虜への尋問。更に言えば拷問である。
独自のルールを持つ自由騎士達の文化内において、刑罰の類もまた中央とは異なった形で進化していったのは当然と言うべきで。
その過酷さもまた“お坊ちゃんお嬢ちゃん”のそれとは比較になる物ではない。

( ̄‥ ̄)『爪を剥がし、傷口に針を突き立てましたが、顔色一つ変えません。
     それどころか、隙を見て私に噛みかかってまいりましたので、先程歯を全部引き抜いたところです』

言って、フンボルトは左腕の袖を捲って見せた。腕にくっきりと歯型がつけられている。

|(●),  、(●)、|『“爪針”は私でも快楽どころか痛みしか感じないというのに……。
          おそらくは痛覚、もしくは感情もないのでしょうね。勿体無い事です』

だが、それも覚悟の上。戦の中で“彼ら”を見ていれば分かる事だった。

|(●),  、(●)、|『ところで。陛下達はもうこちらに向かっているのでしたね?』

( ̄‥ ̄)『はい。ですが、負傷者も多く兵も疲れております。戦力的にはかなり厳しいかと』

|(●),  、(●)、|『そうですね……。ここは我ら【戦鍋団】の力の見せ所でしょう。
          陛下には我らを信じ、兵の回復を兼ねながら帰還していただくよう。夜を待って使者を送りなさい』

ダディは再び敵陣に目を向けた。
そこでは、ガラス玉のような目をした兵達が彼を見上げている。
たとえツン=デレが帰還したとしても“彼ら”を一息に駆逐するのは難しいだろう。
そう。
表情一つ変えず人を切り、声すら漏らさず切り殺されていく。
あの、人形のような兵士達を相手にしては。



49: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:08:03.65 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

川 ゚ -゚)『一見して遠回りに思えるかも知れんがな。我らが勝利を掴むにはこれが最短の道なのだ』

( ;^ω^)『……分かっているつもりだお』

ヴィップ城にて【戦鍋団】ダディとフンボルトが謎の一団を見下ろしていた頃。
ニイト軍騎兵1000は“迷いの森”南方からではなく、
北部の浮島地帯からヴィップを目指し、進軍していた。

東部よりそれぞれ、フェルネット島。ウゾ島。パスティス島。
大小3つの島を繋ぐのは、風に心もとなく揺れる吊り橋のみ。
二頭並べた馬の背に括りつけた輿の上で、クーは何度目になろうかという台詞を、弟に向けていた。

川 ゚ -゚)『確かに、本島から進めばこの道を行くより2日は早くヴィップに辿り着くだろう。
     が、我らに許された時間は少なく、最小限の犠牲で最大限の戦果をあげねばならない。
     それには、この策しかないのだ』

( ;^ω^)『……はい、ですお』

ヴィップとの戦の中で、青年はクーによる軍神さながらの戦略をこれでもかと目にしている。
敗れたと見せかけてジョルジュやしぃを前線で足止めさせ、伏兵を使って本陣からギコを引き離した。
本来であれば後軍の援護も務めていたであろう将を引き剥がしたところで、第二の伏兵による糧秣部隊への奇襲。
慌てふためき手薄になったツンの元へ、真の切り札・第三の伏兵。

( ;^ω^)『あの……姉様。もし、あの時最後尾にいたのがミセリじゃなくて他の人達だったら……?』

川 ゚ -゚)『何も変わらんよ。二枚目の伏兵は、糧秣を焼き払うのが目的でなく
     最後尾が襲われたという事で本陣を混乱させるのが目的だからな。
     兵糧などと言う物は出来るなら奪った方が良い。焼けば炭しか残らんが、奪えば金になる』



53: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:11:53.69 ID:+aJHF24O0
だから、青年は姉の知略に全般の信頼を置いている。
クーが言うのは、こうだ。
たかが1000そこらの軍がヴィップ軍と合流したとしても、地の利を奪われてしまえば勝機は薄い。
ならば、ありえぬ場所から奇襲をかける。
北部からヴィップ国内に上陸すれば、敵軍の側面。もしくは背後を突けるだろう。
そうする事で、城内からの援護とヴィップ本隊との連携を絡めた包囲作戦が可能となる。
首都を攻められた事でヴィップ領内の2つの島が手薄な今だからこそ、可能な進軍といえた。

川 ゚ -゚)『うむ、この辺で良いだろう。行軍停止せよ』

( ^ω^)『お?』

しばらくして。
クーは全軍に停止を命じた。
陽はちょうど空の頂点にあり、兵士達が石を組んで竈を作り始める。

川 ゚ -゚)『ホライゾン。少しばかりつきあってくれ』

言うと、クーは兵に命じて輿を馬から下ろさせた。
そのまま、側に用意された四輪車に乗り換える。

川 ゚ -゚)『買い物と……な。お前に会わせたい者がいる。
     北に四半刻(約30分)ほど進むとな、煉瓦造りの家が見えて来る筈だ。
     そこまで行ってくれ』

蜜をたっぷり入れた檸檬水と、炙った牛肉を挟んだ“包”を籠に詰めさせた。
ついでとばかりに、隙間には干した林檎を押し込む。

川 ゚ー゚)『それでは行こうか。少々行儀が悪いが、食事は歩きながらになるな。
     そら、押してくれホライゾン。道中は姉が飯を口に運んでやろう』



56: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:16:15.19 ID:+aJHF24O0
そうは言っても、両手で四輪車を押しながら物を咀嚼する、と言うのは容易い物ではない。
事あるごとに『花が綺麗だ』『北は風が冷たい』などと話しかけられたのでは、なおさらである。
それでも、道中を半分も過ぎる頃には籠の中はすっかり空になっていた。

川 ゚ -゚)『なんだ。もう無くなってしまった。もっと詰めさせるべきだったかな』

( ^ω^)。oO(ほとんど姉様が食べてましたお)

揃えた膝の上でからっぽになった籠を悲しそうに見つめる姉に、心の中で抗議する。

( ^ω^)『そういえば、姉様。こんな所で買い物って……?』

どこからか取り出した竹とんぼを、風にあてて遊び出した姉に尋ねた。
彼らの現在地、フェルネット島はニイト領内で最も辺鄙な地だ。風が強く、草木も育ちにくい為、羊飼いすら姿が無い。
そもそも、買い物ならば“商業都市”ニイトで手に入らぬ物の方が少なく、わざわざこのような地で求めずとも良い筈であった。

川 ゚ー゚)『うむ。ここでしか手に入らぬ物を扱っている商人が、老人の所にいるのさ。
     元はラウンジの貴族だが、今はアルキュで商人をしている。変わり者だよ』

( ;^ω^)『……はぁ』

ヴィップに負けず劣らず癖の強いニイトの者達。
あのレーゼとて、金銭の話になると目の色が変わるのだから常識人とは言いがたい。
青年には、むしろ自分が一番の常識人ではないかとすら思える。

川 ゚ -゚)『名前をハルトシュラーと言う。その商品は、目には見えぬが戦や商売には欠かせない物でな。何だか分かるか?』

言って、クーはいたずらっぽく笑った。

川 ゚ー゚)『つまり、情報だよ。ハルトシュラー……ハルはこのアルキュで一番の情報屋なんだ』



60: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:21:38.55 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

( ;^ω^)『……なんだこれ』

青年は思わず、我が目を疑った。
やがて、姉の言うとおり二人は煉瓦造りの平屋に辿り着いたのだが……問題はその後である。
一人の女が、四輪車に腰を下ろすクーの膝に横座りになり、首に細い腕を回しているのだ。

長い髪は宝石を織り込んだ白金の色。
青い瞳は意志の強さを示すようにやや上向きで。
踝まで隠れるような黒いゴシック調の服が、柔らかく風に揺れている。
それを見て、青年はハインがいつだったか自分の給士服はラウンジで着用されている物だと教えてくれたのを思い出した。

jハ*゚ー゚ル『もう……クーったら全然会いに来てくれないんだもの。相変わらず冷たいのね』 

川 ゚ー゚)『そう言うな。これでも多忙なんだ。ハルも相変わらず(気持ち悪いの)だな』

思わず周囲に白百合の花でも飾りたくなる光景だが、どう見ても姉の顔は引き攣っている。

川 ゚ー゚)『ところで、ハル。今日は弟も一緒なのだが……』

jハ*゚ー゚ル『え?』

そこでようやく、半歩離れた位置に立つ青年に目を向けた彼女は、その顔に聖母を思わせる笑みを浮かべて。

jハ*゚ー゚ル『私は貴方様を存じていますが、無知蒙昧な貴方様は私を存じないでしょうね、ホライゾン様。
      私はハルトシュラー。一部では【祝福の鐘】と呼ばれております。
      一回死んで可愛い女の子に生まれ変わりましたら、是非親しくして頂きたいと思いますわ』

(#^ω^)。oO(女の人を本気で殴りたいと思ったのは初めてだお)



61: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:23:57.92 ID:+aJHF24O0
???『ハルや。ひょっとしてクー様が来ておられるのかい?』

と、その時。平屋の扉が開いて一人の老人が姿を現した。
肩にかかる髪も、口元を覆う髭も白。
腰の曲がった身体を杖で支えている。
それでも日に焼けた肌は、この老人が未だ健在である事を証明していた。

川 ゚ -゚)『うむ、久しいなラーゼよ。たまには宮殿に顔を出せ。2人も寂しがっているぞ』

爪 ゚Д゚)『はは……この老いぼれに嬉しい御言葉を。だがしかし、今のニイトにじじいめは不要にございますれb』

(;^ω^)『ラーゼ!?』

老人の声と、青年の声が重なった。
諸兄らの中にも、この者の名を記憶している者は多いだろう。
青年もまた、この老人を知っている。
姉の語った悲劇の中に登場した父の副官の名を、覚えている。

爪 ゚Д゚)『……?』

怪訝そうな顔をしていた老人であったが、やがて青年の正体に気付いたのか、ハッと目を見開く。
その手の中から杖がこぼれ、地に転がった。

爪 ;Д;)『まさか……ホライゾン様?』

瞳から溢れ出した涙が、皺だらけの顔を濡らしていく。
膝から崩れそうになったのを、クーの膝から飛び降りたハルが支えた。

川 ゚ー゚)『あぁ、そうだ。ホライゾンがニイトに帰ってきたぞ、ラーゼよ。
     話したい事も多いだろう。が、まずは家の中に入れてくれないか?』



64: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:26:48.20 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪 ゚Д゚)『……私は薄汚い裏切り者なのです』

川 ゚ -゚)『まだそんな事を言っているのか』

小屋の中に入ってから。老人は、ブーンの両足に縋りつくようにして泣いた。
困ったような表情の青年が過去の記憶を失っているとクーから聞かされ、また酷く泣いた。
結局、四人が卓につくまでには、ハルが茶をたっぷり2杯飲み終えるまでの時間を必要としたのである。

( ^ω^)『? お茶が紅いお?』

jハ*゚ー゚ル『茶葉を醗酵させるとこのような色になります。ラウンジではこれが好まれるのですよ。
      無知なホライゾン様はご存じないかもしれませんけれども』

言って、ハルは乳と蜜をたっぷり流し込んだ茶を、クーの前にそっと置いた。
仄かに浮かべた笑みさえ、上層階級の暮らしを描いた絵画の中の人物のようだ。
続けて彼女は、ブーンの前に素焼きの大碗を無造作に置く。その表面はうっすらとひび割れていて。

jハ*゚ー゚ル『はい、お水』

(#^ω^)。oO(この女……逆さに吊るしてぇ)

見れば、平屋の主であるはずのラーゼの前にも、縁の欠けた碗が置かれている。
つまり、ハルトシュラーと言う人物はそのような人物なのだろう。
あまり深く付き合いたくないタイプだと思った青年は、早々に話題を切り替えた。

( ^ω^)『そう言えば、ラーゼさん。さっきの裏切り者って一体……?』



67: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:29:32.95 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『ラーゼは多くの命を救い、このニイトの命を繋ぎ止めた英雄なのだ!!』

老人より早く口を開いたのはクーだった。
それとほぼ同時にハルの踵が青年の足を砕かんとばかりに踏みつける。

(#^ω^)『なにするんだお!?』

jハ*゚ー゚ル『空気をお読みください、お馬鹿さん。
      ラーゼ様はモララー様亡き後、残兵を率いて評議会に降伏なさいました。
      その後、ニイトの民からどの程冷たくあしらわれようと、ひたすらに評議会の手先として行動なされたのです。
      今のニイトがあるのも、当時のラーゼ様が己を捨てて評議会に従属してきたからですのよ?
      そもそも……』

更に畳みかけようとする女を、老人が遮った。

爪 ゚Д゚)『それでも、老いぼれがニイトの民を裏切った事に変わりはないさ。
      あの頃のニイトはモララー様の仇を討たんとする者が後を断たなかった。
      彼らを片っ端から討伐してきたのは、このわしであるのは事実ですからな』

川 ゚ -゚)『しかし、だからこそ評議会が最後の最後でニイトを滅ぼせなかったのも事実だ。
     もし、ラーゼまでもが自棄的に評議会に剣を向けていたら、
     わが師スカルチノフとは言え評議会を止められなかったであろうからな』

そこでクーは、この話は終わり、とばかりに茶を一口啜った。

川 ゚ -゚)『それより、本題に移りたい。
     ここに来た理由は二人とも分かっているだろう?』

それを聞いて、老人は深く頷いた。座から立ち上がり、平屋の奥に消えていく。
白金色の髪を持つ女もまた、妖しげな笑みを浮かべ立ち上がった。



69: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:32:28.40 ID:+aJHF24O0
jハ*゚ー゚ル『はい。私はクーが何を求めているのか、存じておりますわ』

卓の上に身を乗り出し、対面に座るクーと鼻と鼻の先が接触する寸前まで顔を近づけた。
甘い吐息が黒髪の王の鼻先をくすぐる。

jハ*゚ー゚ル『情報料は私と一つの夜を共にする事。よろしいですわね?』

川 ゚ー゚)『寝台でなく酒宴の席でならいくらでも。それと顔が近い(気持ち悪い)』

jハ*゚ー゚ル『分かったわ。酔い潰れた後の事は保証いたしませんけれど』

言って、ハルは身体を翻し、卓上に座り込んで足を組んだ。
上半身を捻り、挑発するようにクーの細いあごを指先で持ち上げる。

jハ*゚ー゚ル『まず、ヴィップに侵攻している兵の正体だけれど。
      リーマンやメンヘル。モテナイや海の民まで探ったけど、動いた形跡はないわ。
      それどころか、ヴィップが攻められている事実すらまだ伝わっていないのではないかしら
      侵攻経路は……ヴィップ城の北西に、人売りが使っていた廃砦があるでしょう? そこから船で上陸したみたいね』

川 ゚ -゚)『それでは、もしやラウンジか神聖ピンクが動いたのか?』

jハ*゚ー゚ル『それはないわね。ここ数年で私が出港を把握できていない船なんか存在しないわ。
      むしろ、大地の裂け目あたりに潜んでいたと考える方が自然ね』

川 ゚ -゚)『……なるほど。黒幕に相応しいな』

呟き、あごに添えられた指を軽く払ってから、クーは茶を啜る。
老人が両手で巨大な木箱を抱えて来たのは、その時である。

爪 ゚Д゚)『お待たせいたしました、ホライゾン様』



72: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:35:34.17 ID:+aJHF24O0
( ;^ω^)『え? 僕ですかお?』

爪 ゚Д゚)『はい。クー様がホランゾン様が帰還されるまで老いぼれに託された物です』

言いながら、木箱を卓に置いた。
その時にはハルは座に腰を下ろしている。

川 ゚ -゚)『……この足でそれは扱えぬからな。それに、それは私よりホライゾンにこそ相応しい』

( ;^ω^)『……』

促されるように、青年は木箱の前に立った。
古びているが、よほど大切に保管されていた物のようで、埃一つついていない。
赤い絹で織られた紐を解き、ゆっくりと蓋を開ける。

( ;^ω^)『……これって、もしかして』

現れたのは、あまりに巨大な両手剣であった。
鞘は見当たらず、二等辺三角形の刃がむき出しになっている。
色は海のように青く、金竜を模した唐草飾りが巻きつけられ。
子供の胴ほどの幅広の刃の付け根から垂直に、補助柄が備え付けられていた。

川 ゚ -゚)『……そうだ。これこそ、ニイトの至宝とも言える聖剣』

かつて、神話の国で湖の妖精から父が与えられた神器。
持ち主に勝利を約束する聖なる刃。
そう。
これこそが……。

川 ゚ -゚)『父モララーがお前に残した形見。━━━━━勝利の剣、だ』



75: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:38:24.81 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪 ゚Д゚)『クー様。こちらもお持ちください』

一刻(約2時間)ほど昔話に花を咲かせた姉弟が場を辞そうとした時。
老人が一振りの片手剣をクーに差し出した。
それを見た、黒髪の王の目が大きく見開かれる。

川;゚ -゚)『でも、ラーゼ……これは……』

爪 ゚Д゚)『西方の焔。勝利の剣とは由来を異にする王者の剣です。必ずやクー様をお護りするでしょう』

受け取り、鞘から引き抜いた。陽光を受けた刃に、荒々しい炎の煌きが輝く。

爪 ゚Д゚)『それと。ハルも御連れ下さい。この子は役に立つ娘です』

( ;^ω^)『げ』

青年は思わず声を漏らしていた。
が、すでに【祝福の鐘】を名乗る情報屋は戦支度を整えている。

川 ゚ー゚)『世話になったな、ラーゼ。宮殿にも顔を出せよ。
     お前を裏切り者と呼ぶ者など、今のニイトには一人としていないのだからな』

爪 ゚Д゚)『……ありがたき御言葉。しかし、この老いぼれにニイトまでの旅路は少々きつい。
     精々、いつか再会する日を気長に待つといたしましょう』

そうして、クーの乗る四輪車の押し手を奪い合うようにしながら三人は最北の平屋を後にする。
老人は、その姿が見えなくなるまでずっとそれを見ていた。
かつて見届けられなかった友の最後の姿を思い浮かべながら、ずっとずっと見ていた。



79: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:40:42.92 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪 ゚Д゚)『……ふぅ』

軽く溜息をついて、老人は扉をくぐった。
久々に楽しい時間を過ごせた気がする。

卓に置きっ放しになっていた碗を、汲み置きの水で洗い流した。
丁寧に布で水気を拭き取ってやり、ついでに卓上も綺麗に拭ってやる。
碗を棚に並べ、布を洗おうとして苦笑した。
ポイ、とゴミ入れに放り投げる。汚れた水は全て庭に流した。

爪 ゚Д゚)『モララー。全部終わったよ』

厨房に置かれていた油壺を片手に自室に戻った老人は、まず火打石でランプに火をつける。
壺を倒して木床を油びたしにし、寝台横の小物入れから一振りの小刀を取り出した。

鞘抜くと、手入れを欠かした事のない刃に皺だらけの顔が映る。
その輝きに、在りし日の思い出が映り出る。

爪 ゚Д゚)『……遅くなってしまったな、我が友よ。
     だが、これでようやくお前の所に行ける』

呟くと同時に、ランプを床に倒した。
一瞬で包まれた炎の中、老人は静かに笑みを浮かべる。

爪 ゚Д゚)『我らの子に、祝福あれ』

小刀の刃先を、己の喉に押し当てた。
そして、一息に━━━━━



84: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:44:40.84 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

( ,,゚Д゚)『こんな進軍速度で良いのか? 
      このままじゃ到着した時にはお家がありません、なんて事に成りかねぇぞゴルァ』

一方その頃。
ツン=デレ率いるヴィップ軍本隊5000は、ニイト国境沿いに陣を構えていた。
数の上では謎の軍隊と互角だが、その多くは負傷者であり、戦える者は3000と言ったところであろう。
そして、その全てが度重なる戦いに疲れ果てていた。

(´・ω・`)『……全速で進めば3日後には敵軍と交戦になるだろう。
     けど、僕達には勝ちきるだけの地力は残っていないのが現実だ』

ξ--)ξ『……』

左右に並んだ将官を前に、【金獅子王】ツン=デレの眉間には深い皺が寄せられている。
このままでは生涯消えなくなるのではないだろうか、と思うほどだ。

戦争とは、基本的に地の利を得られる守り手に有利な物。
出来れば、歴戦の猛者である【戦鍋団】に戦力が整うまでの時間を稼いで欲しかった。
そして、それは要害たるヴィップ城にて守備に徹すれば不可能ではないだろう。
が、それでもやはり心は急ぐ。

ξ゚听)ξ『あと2日だけ……兵を休ませましょう。その後、フィレンクト将軍と連携して敵軍を討ちます』

それが、今できる最大限の譲歩だった。
軍議は解散となり、戦士達は苦虫を口一杯にほうばったような顔で幕舎を後にしようとする。
しかし、その時ツンが座を立ち上がり、その背中を呼び止めた。

ξ;゚听)ξ『……あの!! ナイトウは……何か知らせは……』



86: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:47:33.54 ID:+aJHF24O0
ξ;゚听)ξ『あ……』

(*゚ー゚)『……』

そこで彼女は、自分が場違いな問いを発したか気づいたのだろう。
脱力したように座に腰を落とし、数秒うつむいた後で。

ξ^ー^)ξ『ごめんなさい。何でもないわ』

笑った。
ギコや【戦鍋団】など新参の将兵を除いて、ツンの銀髪の青年に向ける想いを知らぬ者は、ヴィップには存在しない。
立ち並ぶ剣の墓標。
その中に新たに加わった一振りの短剣。
泥濘に身を沈めるようにして涙を流す、黄金の王。
その姿を知らぬ者などいない。

( ゚∀゚)『……』

ニイトとの戦において、ヴィップ軍中に走った最も大きな衝撃こそ、青年の生還であったと言わざるを得ない。
誰もがその謎に心を乱し、それでも口に出せずにいたのだ。
ここに来て、ツンが思わず声にしたとしても、誰がそれを責める事などできようか。

ξ^ー^)ξ『少し疲れたみたいね。アタシは大丈夫。みんなも少しでも身体を休めてちょうだい』

黒衣の給士や白眉の戦略家は何も語らず、彼らがその答えを知っている事に気づいている者も、ただ一人を除いて存在しない。

( ゚∀゚)『……』

そして、そのただ一人の例外は。
心の中、一つの決意を固めていた。



89: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:49:39.02 ID:+aJHF24O0
その日の夜。
【急先鋒】ジョルジュは一人陣を抜け出していた。
愛馬は陣中に残し、死神の代名詞たる大鎌も手にしていない。
適当な岩に腰を下ろし、夜空を見上げた。
上空は風が強いのか、雲が止まる事無く流されていく。
月はその影にあって、彼を照らす事はなかった。

( ゚∀゚)『……』

大鎌の代わりというわけではないだろうが、その右手には酒を入れた竹筒が持たれている。
栓を引き抜き、中身を一口だけ流し込んだ。

???『こんな夜分に……何の用だい?』

( ゚∀゚)『……分かってるだろ? 白々しいのは嫌われるぜ』

振り返らずに答えたのは、その男がここに来る事を知っていたからだろう。
男は小さく溜息をつき、歩を進める。
ジョルジュの正面。指で示された岩に腰を下ろした。
風で流された雲の隙間から月が顔を出し、その顔を照らし出す。








(´・ω・`)『……分かっているけど、性分でね。
     それじゃ、注文を聞こうか』



92: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:51:53.09 ID:+aJHF24O0
( ゚∀゚)『単刀直入にいくぜ。何故ナイトウが生きている……なんてのは野暮、か。
      ナイトウを生かしたのは。いや、死んだ風に見せかけていたのはお前だな?』

(´・ω・`)『……そうだ。いつだったか陛下が自害を図った時の薬を使い、仮死状態になってもらった。
     それから、墓をあばきナイトウ君……いや、今はブーンと名乗っているけどね……を城外に逃がしたんだ。
     その後、僕は陛下を影から支える独立部隊を。【白衣白面】を組織した』

そこまで話して、ショボンは口を止めた。
義兄が軽く頷いたのを合図に話を再開する。

(´・ω・`)『僕だって陛下のブーンに対する気持ちに気付いていなかった訳じゃない。
     全てが終わったら……責任を取るつもりでいたよ。随分と早まりそうだけどね』

“全ての終わり”。
それはおそらく、全ての戦いが終わって平和が訪れたら……と言う意味ではないのだろう。
それはきっと、ショボンが胸に秘めた戦いが終わる日の事だ。

( ゚∀゚)『……何を企んでいやがる!?』

思わず語気が強まった。
ショボンはそれを正面から受け止める。

(´・ω・`)『それには答えられない。でも、一つだけ教えよう。我が父は君の師だったね?』

( ゚∀゚)『あぁ。将としての戦い方を教えてくれたのはフィレンクト先生だが、
     剣を教えてくれたのはシャキン元帥だ。それが一体……』

それを聞いて、ショボンは少しだけ泣きそうな顔になった。それでも、言葉を紡ぐ。

(´・ω・`)『うん。それが、もし━━━━━』



96: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:55:06.20 ID:+aJHF24O0
(;゚∀゚)『そんな……馬鹿な……』

無敵の文字を背に背負った男の頬に、一筋の汗が流れた。
ひどく寒く感じる。
風に揺れる草ずれの音も、どこかで鳴いている虫の声もその耳には入らなかった。

(´・ω・`)『事実さ。本当ならば僕はヴィップにいてはいけない人間なんだ』

言ってショボンは手元に生える雑草を一本引き抜いた。
指を放すと、風に流される事を拒むように暴れながら、飛ばされていく。

(;゚∀゚)『何故……そんな事を……?』

(´・ω・`)『それは分からない。他に手を貸した者もいるし、その正体も知っている。
     でも、父がその陰謀に加担したのは確かなんだ。
     ここまで言えば……僕が何を考えているか。勘の良い君なら全てを悟っただろうね』

ショボンの言葉が事実であれば。
それは冷戦状態にあるこの島のパワーバランスを一気に狂わせる引き金となりうる物だ。
もし、公言されていればツンはヴィップ建国どころではなく。あの雑草と同じ運命を辿っていただろう。

(´・ω・`)『……勿論、この事実は“理由”であって“行動原理”じゃあない。
     しかし、僕はその目的の為に君達全員を欺き続けたんだ。
     今の僕は自業自得の生きた見本みたいな物さ。責任は取らないと……ごめんなさいしないといけないよね』

そこまで話して、ショボンは諦めきったような溜息をついた。

(´・ω・`)『所詮は罪に汚れた身体だ。これ以上名を落とす事に未練はない。
     それでも、ただでは終わらない。全てを終わらせてから……そう思っていた。
     残念ながら、それも叶いそうにないけどね』



100: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:57:48.40 ID:+aJHF24O0
(;゚∀゚)『馬鹿な!! お前はこんなにもヴィップの為に尽くしてきたじゃねぇか!!
     それに、陛下が親の罪を子に背負わせるとでも……』
     
(´・ω・`)『僕の行いは、結果的にニイトとの戦を早める一因になってしまった。
     その罪は裁かれなければいけない』

(;゚∀゚)『……』

ヴィップと言う国の司法の長として、自分が無茶な事を言っているのは承知していた。
国家の為に尽力したからといって、主を欺いて良い理由にはならない。
更に、それが他国への敵愾心を高める原因になったとすれば、もはや言い訳すら許されぬだろう。

ショボンは身動き一つ出来ずにいるジョルジュの手から竹筒を奪い取った。
一息に中身を胃に流し込む。
本来下戸な彼の事だから。喉を潤すと言う目的の為だけではない。
しかし、いくら飲んでも酔う事はないのだろう。悲しすぎる酒だった。

(´・ω・`)『先の内乱の際、ニイトに白面を送り込んだのも、もちろん僕だ。ニイト国内に混乱を起こし、ヴィップへの出兵をさせない為にね。
     そこでブーンは己の過去を取り戻したよ。記憶は失ったままみたいだけど』

(;゚∀゚)『ナイトウの過去……』

銀髪の青年ナイトウが過去の記憶を持たないでいた事は、ジョルジュの記憶にも残っている。
一字一句聞き漏らさぬよう、ジョルジュは義弟の言葉を待った。

(´・ω・`)『ブーンの本当の名前はニイト=ホライゾン。
     北の大地の大英雄モララーと王妹ペニサスを両親に持つ……もう一人の王位継承権所有者さ。
     この事は……陛下もクーから聞いていると思うけどね』

(;゚∀゚)『!! ……な』



103: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:00:51.89 ID:+aJHF24O0
(´・ω・`)『ブーンも辛かっただろうね。ヴィップとニイトの間に挟まれて動けなかった筈だ』

(;゚∀゚)『……それが、白面がニイトにいた理由か』

(´・ω・`)『うん。話が話だ。陛下も簡単には言い出せなかったんだろう。
     彼は……ずっとヴィップを思ってくれていたんだと思う。
     少なくとも、エドワードを追っていたヒートが生きて帰れたのは彼のおかげだ。
     でも、僕の行動がヴィップの民衆の中に混乱を巻き起こしたのは事実だよ』

そこで話は終わり、とばかりにショボンが腰を上げた。
その背に向けて叫ぶ。

(;゚∀゚)『待てよ!! ニイトとの戦いの影には何者かがいる!!
     民心を煽ったのはおそらくそいつで……今、ヴィップを襲っているのも多分そいつだ!!
     それくらい分かってるんだろ!?』

( ´・ω)『勿論。しかし、それは言い訳にならない』

言ってショボンは陣に向けて歩き出した。
が、数歩進んだ所で、ふと思い出したかのように足を止める。

( ´・ω)『この戦いが終わったら……僕は陛下に死を賜るつもりだ。
     ニイトとの国交については、ブーンがうまくやってくれる事を祈ろう。
     全てが終わるまで……いや、全てが終わっても僕の事は陛下を欺いた裏切り者と言う事にしておいてくれ。
     それで人心はおさまる筈だ。
     クーや兄者は殆ど知っているだろうけど……彼らから口に出す事はないだろうね』

そして、ショボンは堪えるように空を見上げた。

(    )『最後に……こんな事を頼めるのは君しかいないんだ。ハインとヒートの事を宜しく頼む』



110: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:04:50.55 ID:+aJHF24O0
(  ∀ )『馬鹿野郎が……っ』

義弟の去った荒野に残されたジョルジュは、一人頭を抱え込んでいた。
やがて、岩に腰を下ろしていた体が、膝から崩れ落ちる。
自然、大地に丸まるような体勢になった。

最初はただ問い質し、罪を改めさせるつもりだった。
が、ショボンの口から聞かされたのはあまりに大きな真相で。
義弟が一人戦う理由。
かつて肩を並べ戦った友の正体。
そして、         の真相。

(  ∀ )『一人で抱え込みやがって……』

この時、ジョルジュはブーンがクーと共にヴィップに向かっている事を知らない。
いや、知っていたとしてもクーが全てを白日の下に晒すとは思えなかった。
何故なら、そこには利が存在しない。
それどころか、その行為はアルキュという島に大きな混迷をもたらす。
傷ついたヴィップやニイトがその大波に耐えられる筈もなく、多くの者が死ぬだろう。

人柱が必要なのだ。
黒幕の正体を知る者はなく、2つの国では互いの民が憎しみあっている。
いつかは捨てる覚悟だった命を、ショボンは今散らせようと考えているのだろう。

だから。ジョルジュにも全てを曝け出させる事は出来ない。

(  ∀ )『どうすりゃいいんだ……畜生……畜生…………
     畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』

夜空に向けて吼えた。だが、その問いに応える者は一人としていない……。



113: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:08:56.19 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

jハ*゚ー゚ル『何ですか、この汚らわしい生き物は?』

(#,^ ^)『サーセンwwwwwwwwwwwwww』

大きな障害もなく、フェルネット・ウゾ・パスティスの三島を抜け本島に再上陸した彼らを出迎えたのは、
先に出立したプギャー隊。それに、ヴィップ国内に残留していた【白衣白面】、併せて300の兵士だった。

川 ゚ -゚)『どうやら、まだ城は落ちていないようだな』

この先は南東に向けて進軍する。
緩やかな斜面は歩を進める点でありがたく、その上ヴィップを囲む湖の向こうに敵軍の陣形まで見て取る事が出来た。

(,,^ ^)『敵軍南方に向けて騎兵が500程……ありゃ、フィレンクト将軍の旗だな』

jハ*゚ー゚ル『西方からは黄金獅子の大旗……どうやら、最高のタイミングで到着したようですわね』

言いながら、ハルは黒絹を織った額あてで前髪を押さえ込んだ。
着用しているのは、左胸に鐘の紋章を彫りこんだ白金の胸当て。それと、手甲に具足であった。
【鉄の大国】ラウンジの出身だけあって、一目で良い材質の物だと分かる。
腰当ての背に挿した二本の鉄扇が、彼女の獲物なのだろう。

川 ゚ -゚)『それはどうかな……どうやら劣勢なのはヴィップ軍のようだぞ』

斬見殺を装着し、地に足をつけたクーが指差した。
確かに、西・南・東から包囲されている筈の謎の軍隊は陣列を一糸として乱さず。
ヴィップ軍の方が陣形を保つのに必死なように見える。
敵陣から放たれる矢を防ぐのに精一杯のようであった。



120: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:12:29.52 ID:+aJHF24O0
jハ*゚ー゚ル『疲労、だけと言うわけではないようですね。あの陣形は……風車陣でしょうか?』

川 ゚ -゚)『そのようだな。随分な骨董品を持ち出してきた物だ』

見れば、謎の軍は中央に500程の円陣を敷き、その周囲に1000ずつの方陣を構えている。
なるほど、確かに上空から見れば、ちょうど風車のような陣構えだった。

川 ゚ -゚)『車掛系陣列の一つだな。中央が司令塔となり、周囲の陣が回転するように移動する。
     何も考えずに突き進んできた者は、刃で作られた風車に飛び込む虫のように
     ズタズタに引き裂かれて生を終える』

jハ*゚ー゚ル『あぁやって移動しながら矢を放つ事によって、自分達に狙いは定めさせず攻撃する事も出来る。
     なかなか洗練された陣形ですわね』

(;,^ ^)『方陣を組んでやがるから、どの角度からでも敵軍を見渡せるっすねwwww』

直接刃に触れずとも、それが巻き起こす風に削られるよう、じわじわとヴィップ軍は陣列を乱していく。
それを見た青年は、思わず叫んでいた。

( ;^ω^)『姉様!! 何とか出来ないんですかお!?』








   _,,_
川 ゚ -゚)『あ?』



126: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:15:53.13 ID:+aJHF24O0
( ;^ω^)『ね……姉様?』

青年の声を耳にしたクーの顔が、明らかな不満を示した。
白金の髪をした情報屋が、心底嘲るような笑みを浮かべる。

jハ*゚ー゚ル『可哀相に……本当にお馬鹿さんですのね、ホライゾン様。
     クーはあの陣形を見て“骨董品”としか評していないのですわよ?』

川 ゚ -゚)『その通りだぞ、ホライゾン。お前も私の異名を知らぬ筈はあるまい?』

( ;^ω^)『え……? それは勿論……』

そう。
彼女こそは、このアルキュ島最高の戦術家。
無限を冠する異名を名乗る事を許された、唯一の者。
それで青年は、如何に自分が愚かしい問いを発したのか知るのだ。

川 ゚ -゚)『そうだ!! 我こそ、有をもって無限を成し、無限をもって全てを討つ者!!
     故に我が異名を【無限陣】!!
     遊兵多く、無駄な動きばかりの骨董品など、我が智が叩き割ってくれよう!!』

言って、クーは側に置かれた四輪車から一つの竹とんぼを取り出した。
ラーゼの元を訪れた際に遊んでいた、あの竹とんぼである。
そして、言う。

川 ゚ -゚)『風車陣も仕組みはこれと同じだ。竹とんぼを回らなくするにはどうすれば良いか……分かるな?』



133: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:19:28.73 ID:+aJHF24O0
(;,^ ^)『姐さんwwwwww見かけによらず大胆ッすねwwwwwwww』

クーが三人に告げた作戦の内容は、穏やかな顔つきから発せられたとは信じられぬ程、破天荒な物だった。

川 ゚ -゚)『なんだ、白面。このような作戦はお気に召さないか?』

(,,^ ^)『いえいえwwww大好物ッスwwwwサーセンwwww』

女性二人からの冷ややかな視線を受け、【鉄牛】は軽く後ずさる。

jハ*゚ー゚ル『クーの作戦には磨きぬかれた宝石のような美しさがありますわ?
     脳味噌が筋肉で出来ていると、美的感覚も損なわれるのかしら?』

川 ゚ -゚)『宝石かどうかは分からんが、現状ではこれ以外手段は無さそうだ
     本来、少数をして大軍に臨むは邪道であるし、戦意の低い兵を率いての連戦など無謀もいい所だ。
     が、ここまで来たからには贅沢は言っておれまい』

言って、クーはヴィップ城を囲む湖の先に、視線を送った。
そこには、謎の一団が。
おそらく、獅子と狼を影で煽り操った者達がいる。

( ^ω^)『……姉様は、どう動くんだお?』

愛しい弟からの問い掛けにも、クーの視線は動かない。

川 ゚ -゚)『……私は』

その瞳は敵陣を。
いや。
その彼方で風に揺れる、黄金獅子の大旗に注がれていた。



136: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:21:50.63 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

|(●),  、(●)、|『……この局面で見ている事しか出来ぬとは……好ましいプレイではありませんね』

城壁上から敵陣を見下ろしながら、【第六天魔王】ダディは音が鳴るほど歯を噛みしめた。
眼前では、自国本隊が敵軍の風車陣に苦戦を強いられている。
城門前に陣取る砦船から矢を放ってはいるのだが、距離を開けられている為に大きな成果は見られないようであった。

どのような局面でもそつなくこなす自由騎士達であるが、比較的苦手とするのが城に篭もっての防衛戦である。
本来、騎馬による戦を得意とする為、どうしても守備一辺倒の戦は好きになれない。
経験上、防衛戦も幾度となく戦ってきたが、それでもやはり野戦こそが最も持ち味を発揮できる場所であった。

鍋#゚Д゚)『親父!! こうなったら直接ぶん殴りに行こうぜ!!』

|(●),  、(●)、|『……そんな事が出来るはずないでしょう』

この戦いで最も恐れなければならないのは、ヴィップ城が陥落する事だ。
もし城門を開いて敵軍に押し込まれでもしたら、取り返しのつかない事態に陥る。
それだけは防がねばならない。
今は、ツン=デレがそうしたように、味方を信じて耐えるしかないのだ。

(; ̄‥ ̄)『ダディ!!』

|(●),  、(●)、|『? どうしました、フンボルト』

彼の副官が城壁に駆け上がって来たのは、そんな時である。
元より大きな鼻の穴を更に拡げている。

(; ̄‥ ̄)『北西の位置より新たに騎兵1000を確認!!
     あれは……あれは、ニイトの【白狼王】クーの大旗です!!』



140: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:24:26.67 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

jハ*゚ー゚ル『我らが王を信じなさい!! 狼の誇りを踏み躙った愚かさを刻み込んでやるのです!!』

【祝福の鐘】ハルトは、敵陣北面において厚みのある密集陣を敷いていた。
騎兵の強みを生かせぬ形になるが、今は機動力に頼る戦局ではない。
風車陣の刃をかすめる位置で、彼女はひたすらに耐えていた。

jハ*゚ー゚ル『恐れる事はありません!! 盾を掲げ、身を護りなさい!! 後列はありったけの矢を叩き込んでやるのです!!』

兵を鼓舞しながらも、彼女自身は最前列に立っている。
広げた鉄扇で迫る矢を払い落とし、閉じた鉄扇で敵兵を殴り倒した。

jハ*゚ー゚ル『っ!! しつこいですわよっ!!』

鉄扇で腕を折られた敵兵が表情一つ変えず立ち上がってくる。
瞬間、彼女の背後から繰り出された槍が男の喉を貫いていた。

jハ;*゚ー゚ル『活動不能にしない限り向かってくるワケ!? 全く、野蛮ったらないですわね!!』

振るった鉄扇が敵兵の脳天を叩き割る。

jハ#*゚ー゚ル『お馬鹿さんなだけじゃなく、愚図なのかしら!? 早くしてくださいまし!!』

思わず叫んでいた。
その罵倒の対象。
銀髪の青年は、すでに荒れ狂う風車の中に飛び込んでいる。



143: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:27:11.86 ID:+aJHF24O0
( ・ ・)『ファハハー!! あのお嬢さん、意外とやるじゃねぇか!!』

(,,^ ^)『wwwwwwwwwwwwwwwwwww』

背後からは降り注ぐ矢の雨。
目の前には表情一つ変えず振り下ろされる、敵兵の刃。
その中で、白面兵士達の笑い声が響きわたった。

クーが彼らに与えた命は一つである。
つまり、風車の軸たる中央への強行突破だ。
本来であれば自殺行為にしかならぬ愚策であろう。
が、ハルが外から風車の回転速度を弱める事で、少数の兵であれば飛び込む事が可能となる。
死兵である【白衣白面】だからこそ可能な暴挙であった。

( ・ ・)『それにしても、大将!! あんたの姉さん、顔に似合わずエグい事言いやがるな!!』

( ゚ ゚)『なんだお、ハートマン!! こんなのは嫌いかお!?』

( ・ ・)『馬鹿言ってんじゃねーよ!! 最高だぜ!!』

仮面の下からつぶらな瞳を覗かせた兵士が答える。
多くの白面兵士の例に漏れず、彼のハートマンと言う呼び名も両親から愛を込めてつけられた物ではない。
戦場で見殺しにした上官の名だ、と聞いたのはいつの事だったろうか?

(,,^ ^)『お喋りばっかりしてるんじゃないッすよwwwwサーセンwwwww』

振り抜いた“拐”が敵兵の脇腹を砕いた。
吹き飛ばされた身体が、数人を巻き添えにして転がっていく。



148: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:30:13.42 ID:+aJHF24O0
中央破壊を目的にしているとは言え、ただ我武者羅に突き進むのであれば、それは殺してくれと言っているような物だ。
敵の方陣が描く回転に逆らわぬよう、進む必要がある。
かと言って回転方向だけに身体を向ければ無防備な背中を晒す事になるし、
敵軍と距離を空けていれば射撃の的になるので、彼らは一つの方陣を切り崩しながら中央を目指していた。

( ・ ・)『ファハハー!! 良いぜ良いぜ!! だんだんと抵抗が激しくなってきやがる!!』

(,,^ ^)『ど真ん中を抜けるまでの楽しみっすけどねwwww』

ひし形に組まれた方陣は、中心地に近づくにつれて厚みを増す。
一人を倒しても、直後に次の顔が現れるわけだ。

( ゚ ゚)『これが風車陣……流石に厄介だお!!』

波状攻撃と回避運動を同時に可能とする車掛陣。
それに正面から飛び込むのは、兵法上において悪手でしかない。
鶴翼をもって包囲するか、複数の隊をもって攻撃と離脱を繰り返すか、が基本戦術となる。
本来は、持久戦。つまりは、疲労を待って攻めに移るのがスタンダードな対処法なのだ。
当然、クーもそれは十分に理解している。しかし、それでも敢えて悪手を選んだ。
何故か?

理由は2つ。
まず、包囲できるほど連れている兵がいない事。
そして、長期戦に耐えられる体力・精神力がヴィップ軍にない事、である。
本国に残った家族友人を救う為の戦いとは言え、ヴィップ軍の多くはニイトへの一時的な敵愾心から戦に参加した者達である。
芯のない戦意は、折れると脆い。

故にクーは綱渡りに等しい策に討って出たのだ。
そして、当然の如く彼女の策には“この先”がある。
彼らは微塵たりとも自分達の敗北を信じていなかった。



150: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:33:07.18 ID:+aJHF24O0
【白衣白面】はその一人一人が卓越した戦闘能力を持っていたと言われている。
が、その最も恐ろしい特徴は、徹底した集団戦法にあった。

つまり、一人に対して複数を持って襲い掛かるわけだ。
立ち止まれば一瞬で飲み込まれるであろう、兵の波の中でもそれは如何なく発揮された。
いや、乱戦に持ち込んだからこそ真価を見せ付けている、と言っても良い。
三者一組を基本とした白面隊は徐々に前進していく。
そして、その先頭には父の形見たる聖剣を手にした青年がいるのだ。

( ゚ ゚)『お? この剣……凄くいい感じだお』

軽く一振りしただけで、一人の敵兵が胴を両断され視界から消え去った。
両手剣の持ち味は重量に任せた必殺の一撃にあり、【勝利の剣】もそれは同様である。
が、多くの両手剣が“重量で叩き切る”のに対し、ブーンが手にする剣は研ぎ澄まされた切れ味も兼ね備えていた。

( ゚ ゚)『なるほど……これはこう使うのかお』

その理由が、刀身から垂直に伸びた補助柄にあり。
左手で補助柄を握る事で、一撃必殺を捨てる代わりに大剣ではありえぬようなコンパクトな動きも可能となる。
幅の広い刃は身を隠す盾の代わりにもなり、正に隣接戦闘において万能兵器であった。
何よりも、初めて手にしたとは思えぬほど、青年の手にしっくりと馴染む。
そして。

( ゚ ゚)。oO(あれ? もしかして、これなら……)

彼は、この大剣が与えてくれるもう一つの可能性に辿り着いた。



156: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:36:06.53 ID:+aJHF24O0
( ゚ ゚)『プギャー!! ハートマン!! 少しだけ、頼むお!!』

(,,^ ^)『うん。それ無理。嘘ッスwwwwwwwwwサーセンwwwwwwwwww』

叫んで青年は意識を内面に飛び込ませた。
瞬間、身体が燃え上がるような熱を放つ。

( ゚ ゚)『我は……猟犬なり』

声が漏れ出る。
限界解放ほどの力は必要なかった。
ほんの数歩、力を爆発させられるだけの気を練りあげる。
左胸にちくりと針を刺すような痛みが走ったが、気にならなかった。
そして。

(;,^ ^)『うおっ!?』

青年は、地を蹴った。
ほんの数歩の距離であったが、力任せに吹き飛ばすのではなく、敵兵の間を縫うようにして切り倒していく。

( ゚ ゚)『やっぱりだお!!』

野生動物の尾と同じ理屈である。
巨大な大剣を振るう事によって発生する慣性を利用すれば、本来直進移動しか出来ぬ瞬歩でも、
発動中の方向転換を可能と出来る。

圧倒的不利な状況下で【白衣白面】は善戦以上の働きをしてみせていた。
だが。



160: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:39:11.83 ID:+aJHF24O0
(;・ ・)『ファハハー!! 喰いすぎて腹いっぱいな気分だぜぇ!!』

(;,^ ^)『そろそろ楽しいのも限界が近いっすねwwww』

二人の声に僅かな焦りが混ざり出している。
どんなに身体を鍛えあげ、どれほど戦術を磨いたとしても、所詮は多勢に無勢である。
『少数をもって多数に当たるは邪道』という兵法の基本は、このような局地的部分でも当然生きてくるのだ。

(;・ ・)『クソッタレ!! ハリー隊が飲み込まれた!!
     自分達だけあの世でバカンスたぁご機嫌じゃねぇか!!』

【白衣白面】は死を恐れない。
贖罪の為に戦場に立つ彼らは、むしろ死に場所を求めている。
が、それと友を失うのは、次元の違いすぎる話である。

(#゚ ゚)『伏せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!』

補助柄を握って風車が如く回転させられた大剣が、周囲を取り囲む敵兵を切り払った。

( ゚ ゚)『姉様はきっと来る!! 頑張るんだお!!』

戦を前にクーが彼らに告げた命は一つ。
だが、為さねばならぬ事は2つあった。

一つが、“その時までに”出来る限り敵軍中央に近づいておく事。
もう一つが、クーが真の策を発動させ、戦場に加わるまで生き残る事。

彼らも元よりこの作戦だけで中央に入り込めるとは考えておらず。
この場にいない、黒髪の王こそが全ての鍵を握っていた。



167: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:41:45.28 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

ξ;゚听)ξ『ニイトの……狼の大旗ですって!?』

敵軍の攻撃が弱まると同時に飛び込んできた、一人の兵士。
その男からの報告を耳にしたツンは、思わず本陣を飛び出していた。
その先には、彼女よりいち早く戦いを見つめる主従の姿がある。

(´・ω・`)『……北の三島を抜けて来たのだろうね。驚かせてくれるよ。
     使者の一人くらい送ってくるのが常識だろうに』

从 ゚−从『……ご主人』

白眉の下に輝く、小さな瞳。主が今、何を考えているのかハインには痛いほど分かってしまった。
おそらく、己に残された時間でも計算しているのだろう。
それでも漂々とした口調を崩さない姿が、あまりにも悲しかった。

その背に寄り添うようにして生きてきたハインである。
赤く染まった掌を掴んでくれた。
その温もりを信じて生を選んだ。
だから、ショボンの考えは手に取るように分かる。

この戦いが終わったら。
ショボンは人柱となり死ぬつもりだろう。
支えるのは、ヴィップとニイトの未来だ。
両国が磐石の同盟を組む事によって、リーマンを。己の父を討つ道を作る。
それが、天才と謳われた戦略家の最後の策。

だが。ショボンのいない人生に何の意味があろうか。
ハインもまた、己の命を絶つ覚悟を静かに決めていた。



169: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:43:32.86 ID:+aJHF24O0
( ゚∀゚)『……へへ……こんな事ってあるのかよ』

【急先鋒】ジョルジュは思わず呟いていた。
沸々と燃え上がる高揚感に、身が震える。

翻る狼の大旗は、王たる者があるという証だ。
ならば、きっと彼もこの戦場のどこかにいる。

ショボンは命を捨てて2つの国の争いを終わらせるつもりだ。
きっと、それは義弟にしか出来ぬ事なのだろう。

だが。
もう一人、2つの国を繋ぎとめられる者がいる。
獅子と狼。
二人の王を護った男が、必ずやここにいる。

兵;゚Д゚)『お……おい、あれって……』

数人の兵士が、敵陣から離れた場所を駆けて来る騎士に気がついたのは、このような時である。
やや小柄という他、騎士に特徴はない。
なによりも彼らを驚かせたのは、騎士の身体にしがみ付いている者の存在だ。

その足では鐙を操れぬ為、このような登場になったのだろう。
赤銅色の義足が大いなる脅威であったのは、全ての者の記憶に新しかった。

やがて、騎馬はヴィップ陣中に声が届く位置で停止する。
騎士にしがみ付いていた女が叫んだ。

川 ゚ -゚)『ニイト王【無限陣】ニイト=クールである!! ツン=デレは何処にいる!?』



170: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:46:52.30 ID:+aJHF24O0
ξ;゚听)ξ『ニイト=クール!!』

川 ゚ -゚)『ツン=デレか!?』

兵を掻き分けて顔を出した金髪の王に叫び語る。

川 ゚ -゚)『私に兵を貸せ!!
     あの陣は私だけでは破れない!! 兵が足りないからだ!!
     貴様だけでも破れない!! 戦い方を知らないからだ!!
     だが、私と貴様なら勝てる!! 勝利を掴む事が出来る!!』

ξ;゚听)ξ『え……?』

陣中にざわめきが起こった。
ヴィップの者達からすれば、何故ここにクーがいるのか分からない。
ほんの数日前まで剣を交えていた者が、何故利益もないのに援軍に駆けつけてきたのか、理解できない。

川 ゚ -゚)『聞くがいい!! 我らが戦の裏には影があった!! それが奴らだ!!
     力を貸せ!! 冥界に旅立った同胞の魂を救う為、我らは奴らを許してはならん!!』

それでも、ツンには確信があった。
思うのは、常に心の中で彼女を支えてくれていた優しい微笑み。

川#゚ -゚)『急げ!! あの中でホライゾンが戦っている!! 時間は少ないのだ!!』

ξ;゚听)ξ『!!』

そして、彼女は決意する。戸惑う兵に向けて叫んだ。

ξ゚听)ξ『アタシの……アタシの馬をここへ!!』



181: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:54:41.65 ID:+aJHF24O0
( ゚∀゚)『陛下っ!!』

そこに現れたのは、自らの騎士団を率いた【急先鋒】ジョルジュだ。左手に、栃栗毛の牝馬の手綱を引いている。飛び乗りつつ叫んだ。

ξ゚听)ξ『どうすればいい!?』

川 ゚ -゚)『私の連れてきた兵が敵軍と当たっている。ヤツラにとっては計算外だった筈だ。
     包囲攻撃を仕掛け、回転を止めるぞ。そうすれば、ホライゾンが軸を破壊してくれる』

( ゚∀゚)『で、後は各個撃破って事だな』

ジョルジュの言葉に強く頷く。

ξ゚ー゚)ξ『で。貴女、そんなかっこうで戦えるの?』

川 ゚ -゚)『舐めるな。私は剣も使えるんだ。それに、交戦になったら馬を降りるまで』

視線を交差させ、二人の王は軽く笑いあった。

兵;゚Д゚)『お……おぉ……』

兵士達には、今でも何故クーがここにいるのか分からない。
だが、確かな事は二人の王が並び立っていると言う事だ。
初めてヴィップに苦杯を舐めさせた強敵が、共に戦うという事だ。

ξ゚听)ξ『銅鑼を!! 一斉攻撃の銅鑼を鳴らしなさい!! ヴィップ城やフィレンクト将軍にも聞こえるよう!! 高らかに!!』

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!

地鳴りのような喚声が。ヴィップ軍陣中に響きわたった。



187: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:59:57.35 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

(#゚∀゚)『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!』

咆哮をあげながら、敵陣に最も早く切り込んだのはこの男。
ニイトとの戦いにおいて誰よりも冷静に状況を観察し続けた者、【急先鋒】ジョルジュであった。
後世の歴史家達の中には、内乱に端を発した一連こそジョルジュ最大の黄金時代だと主張する者も少なくない。
そして、それは誰もが納得しえる事実の一つだろう。

やや左翼に軍を展開し、突貫していく。
細部に至るまで戦局を見渡す視野を持ちながら、やはりこの男には死神の大鎌こそがよく似合った。
鬱憤を晴らすかのように、戦場を朱に染めていく。

(‘_L’) 『ジョルジュ!!』

( ゚∀゚)『先生!!』

その【薔薇の騎士団】に合流したのは南方に隊を構えていた【白鷲】フィレンクトだ。
甲冑を脱ぎ捨て、背中に白鷲の彫り物をさらけ出している。

( ゚∀゚)『難しい話は後です!! 風車陣の回転を止めます!!』

(‘_L’) 『うむ』

鉄棍の一振りが、表情無き兵の首を“切断”した。
その背後ではジョルジュ率いる騎士達が、白の外套を薔薇の色に染め上げ槍を振るっている。

その頃、右翼ではヒート率いる歩兵隊が敵陣と交戦に入り。
ヴィップ城でも動きが起こっていた。



191: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:02:07.07 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

|(●),  、(●)、|『開門!!』

その声と同時に、重い音を立てゆっくりと城門が開き出した。
徐々に開けていく視界の向こうに、討つべき者の姿が見えてくる。

( ̄‥ ̄)『遠慮はいりません!! 溜め込んだ怒りを叩きつけてあげなさい!!』

城門が開ききると同時、彼らの団長を戦闘に【戦鍋団】は馬を駆けさせた。

|(●),  、(●)、|『散々焦らされた後に振り下ろされる鞭の味は格別だ、と名言にもありますからねぇ。
          うふふふ……ゾクゾクしますよ』

( ̄‥ ̄)『そのような名言、初めて耳にしました』

巨大な禿頭を陽光に輝かせ、ダディは楽しそうに笑う。

|(●),  、(●)、|『さぁ、狩の時間ですよ!! 駆けつつ一斉射撃!!
          全ての矢を使い切るつもりで撃ちなさい!!』

言い終えるより早く、矢の雨が謎の一団の上空から降り注いでいた。
ざざぁ、と草鳴りのような音と共に、数十の兵士達が倒れていく。
それでも、表情無き者達は怯まなかったが、そのような事は気にならない。
構わず突撃した。

頭上には、トレードマークである鍋が旗竿の先でがらんがらんと揺れており。
その音が彼らを一層鼓舞する。



194: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:04:41.36 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

(;´・ω・)『うっ?』

歩兵隊と共に右翼に展開していた【黄天弓兵団】。
その中で、【天智星】ショボンは小さな呻き声をあげた。
負傷した訳ではない。
引き絞っていた鉄弓【轟天】の弦に、敵兵が苦し紛れに放った矢が掠めたのである。
ぱつん、と音を立てて千切れた弦が頬に当たり、顔をしかめた。

从;゚∀从『ご主人!!』

駆け寄ろうとする給士に、目で心配無用だと答える。
滑車を組み込んだからくり弓を見つめ、ポイと投げ捨てた。
腕力の無い彼が、戦場に立つにあたって製作し、訓練を重ねた弓とその技術。
捨てるには惜しいが、それももうすぐ役に立たぬ物となるのだ。

(´・ω・`)『大丈夫だよ。ここではまだ死ねない。ただの犬死で終わるつもりはないさ』

从 ∀从『……ご主人……ハインちゃんは……』

続く言葉を制止する。
ハインがショボンの心を分かるよう、主もまた給士の心は分かるつもりだ。
彼女は間違いなく、自分の後を追おうとする。
しかし、それは彼が望むことではない。
ジョルジュなら。義兄なら自分亡き後もきっと彼女を支えてくれる。
彼だけではない。全ての真相を知るもう一人の人物。
ニイトの【金剛阿】も、ハインの良き理解者となってくれるだろう。

死、そのものは怖くない。ただ、残される二人の給士の事だけが気がかりでならなかった。



202: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:06:51.09 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

兵;゚Д゚)『夢……みたいだ』

一人の兵士が呟く。
彼の視線の先で、一人の敵兵が義足の王が放った蹴りで胴体に大穴を開けられ、倒れこんだ。
同時に三人の兵士が神速の突きを胸に受け絶命していく。

( ,,゚Д゚)『まさかテメェと肩を並べて戦う日が来るとは思わなかったぞゴルァ』

川 ゚ -゚)『悔しいが同感だ。しぃ!! 右方を切り崩せ!!』

(*゚−゚)『言われなくても分かってる。寅に百、縄にて分断せよ』

兵が呆然と見とれるのも無理はないだろう。

理想を持たぬ根無し草、月下剣士【九紋竜】ギコ。
ニイト王、氷雪の戦術家【無限陣】ニイト=クール。
キュラソー解放戦線の騎士、花が如く静かなる用兵家【紅飛燕】しぃ。
【三華仙】と讃えられながらも、思想も立場も異にしていた雪月花が共に戦っているのだ。
そして、彼らのやや左方では。

ξ#゚听)ξ『はぁあああああああああっ!!!』

黄金の獅子が禁鞭を振るっている。
自ら陣頭に立つ王の姿に、一時は消沈していた兵の士気は否が応にも高まった。

兵#゚Д゚)『俺達も負けていられねぇぞ!! 陛下の御身を危険に晒させるな!!』

雄叫びと共に切り込んでいく姿には、一抹の恐れも無かった。



209: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:11:11.05 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

(;,^ ^)『風車陣の勢いが……弱まった?』

【鉄牛】プギャーが口にするまでも無く。
誰より早く風車陣に突撃していた白面隊は、その事を肌で実感していた。
見渡せば四方からヴィップの旗が押し寄せてきており、
背後からも【祝福の鐘】ハルト率いるニイト騎馬隊が白面の後押しをせんと進出している。

( ゚ ゚)『姉様が……ツンが動いたんだお』

( ・ ・)『ファハハーっ!! 一気にメインディッシュを平らげるとしようじゃねぇか!!』

( ゚ ゚)『おっおっ、デザートじゃないのかお』

(,,^ ^)『何言ってるんすかwwww大将にはこの後、甘〜いデザートタイムが待ってる筈っすよwwww』

(#゚ ゚)

(,,^ ^)『サーセンwwwwww』

仲間達の軽口に、余裕が戻りつつある。
こうなれば、その一人一人が万夫不当の【白衣白面】に敵はない。

( ゚ ゚)『一気に中央まで道を作る!! 左右を頼むお!!』

叫び、全集中力を己の内面に飛び込ませた。
先程のような、数歩で終わる瞬歩ではない。敵陣深くまで斬りこめる様、気を練りあげる。

( - -)『我は…………猟犬なり!!』



215: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:14:14.14 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

ξ;゚听)ξ『あれは!?』

中軍先頭で禁鞭を振るっていたツンは、不思議な光景を目にした。
敵軍深くの位置。一直線に走った地割れから噴き出た“何か”に、吹き飛ばされるよう、
十を越える敵兵の身体が宙に舞ったのだ。

川;゚ -゚)『限界解放……までは行かぬか。ホライゾンめ、無茶をしおって』

彼女の横で黒髪の王が呟く。
ツンは、その光景を知っていた。
直接しっかと見た事はない。
が、かつて2度にわたって、その力に護られた。

( ,,゚Д゚)『ゴルァ?』

程無くして、プツリと切れたかのように風車陣の回転が乱れだす。
回転運動を続けようとする者。その場にとどまる者。剣を振るう者。盾を構える物。
統率する者を失い、それらが入り混じった敵軍には、すでに軍としての体裁はない。
ただの、集団に過ぎなかった。

川 ゚ -゚)『ホライゾンが中央を撃破したのだ!! 一息に殲滅せよ!!』

【無限陣】クーの突撃命令に従い、四方に展開していた全てのヴィップ軍将兵が中央に切り込んでいく。

兵;゚Д゚)『お……おい、あれって……』

そこで彼らが目の当たりにしたものは。



223: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:18:29.06 ID:+aJHF24O0
(,,^ ^)『ようやく来たみたいッすねwwwwwwww』

( ・ ・)『ファハハー!! また死に損なっちまったぜ!!』

全身を朱に染めた、悲劇の伝説【白衣白面】。

( ゚ ゚)『……っ!! ツン!!』

そして、儚く散った大英雄モララーが手にしたと言われてる聖剣【勝利の剣】の姿であった。

ξ゚听)ξ『……ナイトウ』

黄金の王は禁鞭を放り投げ、一人の白面剣士の元へ愛馬を駆けさせる。
銀髪の男は大剣を地面に突き立てると、顔を覆っていた仮面を投げ捨て、両腕を広げた。
そして、擦れ違いざま。
ツンは馬を止めるのももどかしい、と言う風に馬上から青年の胸に飛び込む。
彼もまた、その軽い身体をしっかりと抱きとめた。

ξ;;)ξ『ナイトウ!! ナイトウ!! ナイトウ!!』

( ;ω;)『ツン!! そうだお!! 僕だお!! 君の一番の友達ナイトウだお!!』

ξ;;)ξ『馬鹿!! 馬鹿!! 死んだと思ってたのに!! ずっと……ずっと寂しかったのに!!
     ……う……うぅ…………うわああああああああああああああああああああん』

剣戟の音が静まりゆき、至る所で勝ち鬨の声があがる戦場に、ツンの号泣する声が響きわたる。
今、この時。

三年を越える年月を経て、黄金の王と銀髪の青年は本当の意味での再会を果たしたのだった。



235: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:24:53.69 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

ξ;;)ξ『ナイトウ……ナイトウ……ナイトウ…………』

( ;^ω^)『大丈夫だお、ツン。僕はここにいるお』

戦が終わり、ヴィップ城に凱旋してからもツンはブーンの腕にしがみつき、肩に顔を埋めたままだった。
その事自体は悪い気分ではないのだが、何しろ背中に突き刺さる視線が痛い。

jハ*゚ー゚ル『あらあら。お馬鹿さんの癖に手を出すのは早いのね。
     モララー様に似たのかしら?』

川#- -)。oO(私はホライゾンの姉……私はホライゾンの姉……怒る必要はない、怒る必要はないんだ)

【白鷲】フィレンクトは国境の守りの為、早々にマティーニ砦に引き返し、
【第六天魔王】ダディとフンボルトは籠城の憂さでも晴らすように残党狩りに向かっている。

( ,,゚Д゚)『それにしても、あいつら何だったんだゴルァ。
     腕の一本無くしたくらいじゃ表情も変えずに向かってきやがった』

ノハ;゚听)『そうだ!! それに、どうしてナイトウが生きてる!?
     どうしてニイトにいたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

その言葉に給士の肩が、ビクリと震えた。
静かに。
【天智星】ショボンが足を一歩踏み出す。

(´・ω・`)『その事は……僕が説明しよう。
     ナイトウ君に死を欺かせ、ニイトに送り込んだのは……僕だ』



242: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:28:20.85 ID:+aJHF24O0
ξ;゚听)ξ『……え?』

(;゚∀゚)『ショボン!!』

从; д从『ご主人!!』

驚き、顔をあげたツンの声と二人の声が重なる。
が、白眉の青年は固い覚悟をこめた視線でそれを睨みつける。

(´・ω・`)『聞こえなかったのかい? この戦の影でナイトウ君を操っていたのは僕だ、と言ったんだ』

ξ;゚听)ξ『そんな……嘘……?』

(´・ω・`)『嘘じゃないさ』

青年の腕を握る手に力が入る。
それを見て、ショボンは更に一歩。ずい、と前に踏み出した。

(´・ω・`)『それだけじゃないよ。正直な話、僕はこの島の未来や天下の事なんか興味が無いんだ。
     散々、君を煽っておいて悪いけど……僕はずっと僕の野望の為だけに戦ってきた』

( ,,゚Д゚)『……汚ねぇ野郎だ』

呟き、長刀を鞘から引き抜く。

(´・ω・`)『そう思うなら殺せばいい。諸悪の根源として僕の首でも晒せば、人民も納得するだろうさ』

(#,゚Д゚)『……っ!!』

ショボンの挑発に、ギコが刀を振り上げた……その時。



249: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:32:56.48 ID:+aJHF24O0











━━━━━昔々のお話です。
       キールの山奥に、2匹の亀と1匹の兎が住んでいました。
       池の中を自由に泳ぎまわる亀を、兎は羨ましそうに見つめ。
       山の中を自在に駆けまわる兎を、亀は『いつかあのように走りたい』と思いながら眺めていました。
       それでも3匹は、楽しく暮らしていたのです。











255: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:38:52.85 ID:+aJHF24O0
一同の目が、声のした方に集中した。
そこには、黒装束を纏った二人の男が立っている。

从; д从『……あ』

川 ゚ -゚)『……何故お前達がここにいる? カンパリを護れと命じた筈だが?』

その言葉に、ニヤと笑うと男は気だるそうに歩を進めだした。
当然のように、もう一人の男もその後を追う。

( ´_ゝ`)『なぁに。弟者が「犬耳祭はまだか」と五月蝿いのでな』

(´<_` )『犬耳祭を否定はせぬが、そのような事を言った記憶はない』

そのまま輪の前に立つと、兄者は細く小さな瞳でショボンを睨みつけた。

( ´_ゝ`)『決意は立派だがな【天智星】。真の黒幕は他にいる。
       貴様のしている事は一時凌ぎにしかならぬ事くらい分かっているだろう?』

(´ ω `)『……』

一同を見渡し、言葉を続ける。

( ´_ゝ`)『全てを知る者は一人だけではないのだ。
       貴様が話せぬと言うなら、俺が語ってやろう。
       この戦の影で暗躍する真の邪悪の正体を。過去より繋がる忌まわしき本当の真実を』

そう。
兎と亀。狼と猟犬。獅子の親子。
そして、最後に彼らの運命を狂わせ、今も嘲笑う者の話を。



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