( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

2: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 21:58:39.72 ID:uyCjReSs0
・アルキュ正統王国

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=花飾り 民=リーマン 武器=槍 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=槍 階級=中書令(立法長官)

从 ゚∀从 名=ハイン 異名=天駆ける給士 民=キール隠密 武器=仕込み箒・飛刀 階級=太府門下内部官(情報・流通)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・千歩将

(*゚ー゚) 名=シィ 異名=紅飛燕 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下刑部官(刑罰・警備)・千騎将・黄天弓兵団団長

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・万歩将



5: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:01:48.31 ID:uyCjReSs0
・白衣白面

( ^ω^) 名=ブーン(本名ニイト=ホライゾン) 異名=王家の猟犬 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=近衛侍中(王の警備)・千歩将・白衣白面隊長

・ニイト公国

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣 民=ニイト 武器=斬見殺 階級=軍務令(軍務長官)・ニイト公主

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=長剣 階級=太府令(財務長官)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=海の民 武器=手斧・兄者玉 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税担当)・千歩将

・モテナイ王国

(=゚ω゚)ノ 名=イヨゥ 異名=繚乱 民=モテナイ 武器=斧槍 階級=黒色槍騎兵団長

('A`) 名=ドクオ 異名=第三の男 三番目 民=モテナイ 武器=短槍 飛礫 階級=???



7: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:04:58.59 ID:uyCjReSs0
・メンヘル族
 
( ´∀`) 名=モナー 異名=預言者(七英雄) 民=メンヘル 武器=??? 階級=指導者

ミ,,゚Д゚彡 名=フッサール 異名=天使の塵・砂漠の涙(七英雄) 民=メンヘル 武器=天星十字槍 階級=司祭。神聖騎士団団長(十二神将・第一位)

(*゚∀゚) 名=ツー 異名=不敗の魔術師 民=メンヘル 武器=三本の山刀(かみつき丸・つらぬき丸・なぐり丸) 階級=十二神将・第二位

lw´‐ _‐ノv  名=シュー 異名=光明の巫女 民=メンヘル 武器=??? 階級=十二神将・第三位

・リーマン族

<丶`∀´> 名=ニダー 異名=翼持つ蛇 民=リーマン 武器=??? 階級=評議長

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=狐・人形遣い(七英雄) 民=??? 武器=九尾 狐火 飛刀 階級=無し

(`・ω・´) 名=シャキン 異名=常勝将(七英雄) 民=リーマン 武器=??? 階級=バーボン領主 元帥

/;3  名=スカルチノフ 異名=全知全能(七英雄) 民=リーマン 武器=??? 階級=元・ニイト自治区監査

从'ー'从  名=ワタナベ 異名=一丈青 民=リーマン 武器=狼牙棍 階級=評議長近衛部隊隊長

??? 名=ヒロユキ 異名=統一王 民=リーマン 武器=鉄鞭 階級=先王



11: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:10:24.80 ID:uyCjReSs0
MAP 〜流石に今の時期、肝試しってどうなの?編〜

http://up3.viploader.net/news/src/vlnews002069.jpg

@キール山脈 未開の地。
 隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 北部からの寒風の影響で気候は厳しいが、地熱に恵まれている。

Bニイト公国 ヴィップの副都【経済都市】ニイト城を有する
 ニイト族居住地。ヴィップほど寒風の影響はなく、比較的なだらかな地形である。 

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 モテナイ族居住地。山岳地帯。メンヘル族と同盟している。 

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族居住地。アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。メンヘル族と友好関係に有り、リーマンとは度々諍いを起こしている。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族居住地。その大半が岩と砂に覆われている。



14: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:12:24.74 ID:uyCjReSs0
・アルキュ正統王国(ヴィップ)
 国主は【金獅子王】ツン=デレ。国旗は黒地に黄金の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。
 ※女王ツン=デレの生誕祭を祝った夜、【評議長】ニダーの突然の訪朝を受ける

・ニイト公国
 公主は【白狼公】ニイト=クール。公旗は青地に白い狼。
 “天に二王無し”の考えから、王家の正統後継者であるツン=デレに王位を返還した。
 とは言え、ヴィップの繁栄はニイトなくしては成らなかった物であり、事実上クーはツンと比肩する実力者である。

・モテナイ王国
 国主は【黒犬王】ダイオード。国旗は赤地に黒犬。
 小さいながらも【黒色槍騎兵団】【赤枝の騎士団】と言う強力な騎士団を持つ軍事国家。
 ※現在、特に動きは見せていない

・メンヘル族
 指導者は【預言者】モナー。
 南の大国【神聖ピンク帝国】の支持を受けている。
 ※現在、特に動きは見せていない(?)

・海の民
 指導者は艦長【小旋風】妹者。
 島の南部シーブリーズ地区を占拠し、島で唯一塩の製造権を持つ。
 ※領境を巡ってリーマンと争っている 

・リーマン族
 指導者は【評議長】ニダー。
 北の大国ラウンジ王国の支援を受け、今もなお最も栄える民である。
 ※領境を巡って海の民と争っている



15: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:16:08.36 ID:uyCjReSs0


     第30章 南からの亡命者


『ある日君は言ったのさ 大きなお皿に山盛りの お魚いっぱい嬉しいな
 だから僕らは旅に出た 空が海なら星がお魚 月のお皿を追いかけて』

時は数日遡る。
夜の帳の中、見上げる空には半円の月がぽっかりと白く浮かんでいた。
美しく輝く星は、旅人にとって心を癒してくれるだけでなく、貴重な道標でもある。
御者台に古い童謡を口ずさむ女を乗せた一台の荷馬車が、ゴトゴトと道を進んでいた。

一見して、旅の楽人であろう。
荷台の片隅には葛篭(つづら)を思わせる巨大な背負い荷と、鉄の長杖。
裾を大きくギザギザに切り取った衣服は人目につきやすい紅白で、いたる所に鈴が飾り付けられている。
両耳には猫の形のピアス。
いたずら好きの子供のような瞳。
カスタード色の髪はバッサリと切っているにも拘らず落ち着きが無いようで、
赤く大きなリボンをもって後頭部で馬の尾のように縛り上げていた。

と、そこで彼女は荷台でムクリと動いた何かに気付き、声をかける。

『んにゃ? 起きたのかい? さっき大橋を渡り終えたところだよ』

lw´‐ _‐ノv 『起きてた。星を見てただけだから』

木貼りの荷台にペタンと腰を下ろし、どこかボンヤリとした目で答える者。
メンヘル十二神将が第三位【光明の巫女】シューである。



19: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:21:06.36 ID:uyCjReSs0
lw´‐ _‐ノv 『随分と可愛い歌だね』

ルω-*パ⌒『にゃはは。南の大陸の歌だよ。旅人と猫の歌。ま、最終的には少年も猫も死んじゃうんだけどね』

小動物のように口をすぼめる。

ル∀゚*パ⌒『それより、見てごらんよシュー。なかなか良い景色だよ』

lw´‐ _‐ノv 『……? ……おぉ』

旅芸人風の女の声に、荷台から身を乗り出したシューの目に映ったのは、
一面整備された麦畑だった。
まだ青い稲穂は力強く天に伸び、揃って頭を垂れている。
風が吹くと、清潔な水と大地の恵みの香りが彼女達を包み込んでくれた。

ル∀゚*パ⌒『太陽の恩恵に与れる、南部みたいな大らかさはないけどさ。これはこれで壮大な物っしょ?』

lw´‐ _‐ノv 『うん……これは……凄いかも』

言いながら巫女は手を伸ばし、一本の麦を引き抜いた。
まじまじとそれを観察する。一房だけぴょんと立った髪が揺れて見えるのは気のせいだろう。

lw´‐ _‐ノv 『なんだろう……見た事も無い品種だ。多分、ラウンジの麦だと思う。
       畑も全部、区画が統一されていて……あぁ、これなら水を引くのにも租を計算するのにも好都合だね。
       うん、身も詰まってる。この麦畑を造った人は本当に凄いよ。ひくわー』

ル∀゚*;パ⌒『褒めるかひくかどっちかにしておやりよ』

そう言ってから女は急に真顔になり、荷台を覗き込んだ。



21: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:24:54.89 ID:uyCjReSs0
ル∀゚*パ⌒『まだ、寝てるのかい?』

lw´‐ _‐ノv 『うん。暴れるから、こいつで眠り薬をぷすっとね』

言って、シューは泥にまみれた巫女装束の胸元から一本の吹き矢を取り出し、
自慢げにくるりと回して見せた。

ル∀゚*;パ⌒『ごめんよ……巻き込んじゃって、さ』

lw´‐ _‐ノv 『これはメンヘル族の問題。いつかこうなる日が来た。それだけの話。
       むしろ、そうやって殊勝な顔されると、ひくわ』

ルω-*;パ⌒『にゃはは。これでも結構責任感じてるんだぜぃ』

二人の視線の先。そこには一人の騎士が横たわっていた。
肩にかかる髪も、臍まで伸ばした顎鬚も雪のように白い。
色彩豊かなターバンや、星光を反射する銀鎧。白地に銀糸で刺繍された戦外套。
そして、彼と並ぶように置かれた十字槍を見れば、男がメンヘルにおいても相当な高職にある事が分かった。

だが。
元々彫りの深い顔に刻まれた皺は、老齢によって齎された物だけではない。
眠りの中にあってなお、男は何かに苦悩し、時折呻き声をあげている。
見れば、その全身は泥と返り血だけではない血に汚れていた。

lw´‐ _‐ノv 『急ごう。なるべく揺らさないように』

ル∀゚*パ⌒『了解。でも、その必要はないかもよ? ほら、灯りが見えてきた』

言いつつ、御者台の女は馬車の進行方向を指差す。
マティーニ城と呼ばれる軍事要塞の姿が、夜の世界の中にうっすらと浮かび上がって見えていた。



24: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:28:04.77 ID:uyCjReSs0
         ※          ※          ※

( ;^ω^)『評議長ニダー……?』

姉の言葉を聞いてなお、青年は目の前の光景を信じる事が出来なかった。
石畳に膝をつき、黄金の王に頭を垂れる者。
後頭部で縛り上げた黒髪は所々に糸のような白髪が混ざり、王を見る目には優しささえ湛えている。
それが実質的なアルキュ島の最高権力者だとは。
長年に渡ってツンを【沈黙の塔】に幽閉し、王都において考え得る全ての権力を掌握してきた男だとは、
一体誰に信じられようか?

(;//∀゚)『何で……テメェがここにいやがる?』

<丶`∀´>『何で、とはご挨拶ニダね。ジョルジュ将軍』

ホルホルと喉を鳴らすような笑い声の後、ニダーは続ける。

<丶`∀´>『ウリは王の臣にして、評議会は王家に属する組織ニダ。
      ウリが陛下の御生誕を祝う事にどんな不思議があるニダか?』

(;//∀゚)『な……?』

誰もが呼吸する事すら忘れているかのように、ただ呆然と【評議長】を見つめた。
統一王を暗殺し、モララーを謀殺し、幼い王女を幽閉してきた評議会。
彼らから王都を奪還する事は、ヴィップの将校達にとって互いに言葉で確認するまでも無い最終目標であったはずだ。
そして今、その長たる者が現れ、王家の忠臣たる言葉を口にしている。
その行動は、全ての者達にとって想像もしなかった物であり、またその意図も理解する事が出来ず。
開いた窓から吹き込む風が外套を揺らす音さえ、やたらと大きく聞こえた。



29: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:33:39.55 ID:uyCjReSs0
(#//∀゚)『随分と……都合の良い話じゃねぇか』

そんな中、最初に動いたのは【急先鋒】ジョルジュだ。
彼はニダーに同行する【一丈青】ワタナベと同じく、評議会傘下の五虎将に数えられていた事もある。
つまり、ヴィップ将官の中で最もニダーと付き合いの深い者。
それが彼なのだ。

<丶`∀´>『都合が良い……とは可笑しな事を言うニダね。意味が分からないニダ』

(#//∀゚)『分からねぇか!? だったら教えてやるぜ』

吐き捨て、熊を思わせる巨体を一歩踏み出す。

(#//∀゚)『評議会派の筆頭として、デレ王家を踏み躙ってきたのは誰だ!?
     王都において王室派を虐げてきたのは誰だ!?
     それが今になって、ヴィップが力をつけてきたと見るや、犬みてぇに尾を振ってきやがる!!
     これが都合が良い話じゃなくて何だって言うんだ!?』

(;´・ω・)『……あ』

義兄の言葉からショボンが何かを感じ取ったのと、
ニダーの背後に控えるワタナベの眼が鈍く輝いたのは、ほぼ同時だった。

从'ー'从 『えへへ〜☆ ジョルジュ君、ニダー様に手を出したらどうなるか分からないかなぁ? そこまでちょうど“十歩”だよ〜?』

(;//∀゚)『……あ』

偉大なる【急先鋒】が焦りの表情を見せた瞬間。

ワタナベの身体は掻き消え、ジョルジュの顎が跳ね上げられていた。



32: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:37:47.34 ID:uyCjReSs0
(;゚ω゚)『瞬歩法!?』

(;´・ω・)『っ!! ハインっ!!』

ショボンの半ば悲鳴のような声より早く、黒い給士は動いていた。
脳を揺すぶられ、たたらを踏むジョルジュと襲撃者の間に身を滑り込ませる。
手にする竹箒が、ワタナベの上段蹴りを受け止めた。

从#゚∀从『なるほどな……制限が多い代わりに加速力はハインちゃんレベルの瞬歩ってとこか』

从'ー'从 『ぶぶ〜、外れ〜☆ 君以上の瞬歩だよ〜☆』

振り上げた足を戻すと見せかけ、膝をハインの腹に叩き込みにいく。
が、給士もまた竹箒を回転させ、ワタナベの軸足を払った。
堪らず桃色の隠密が石畳に尻をついた時には、ハインは箒に仕込まれた小太刀を抜き払っている。

从#゚∀从『教えてやるぜっ!! ハインちゃんがこの世で一番嫌いなモンは、自分で作った飯と暗殺者だ!!』

そのまま、逆刃の小太刀を振り下ろすが、それはワタナベの身体をかすめる事無く空振りに終わった。
ニダーが部下の襟首をむんずと掴み、引き戻したのだ。
その時にはヴィップの将官達が腰に下げた儀礼剣を抜き、近衛門下であるブーンは勝利の剣を構えている。
ワタナベの奇襲に不覚を取ったジョルジュもまた、同様に宝剣を引き抜いた。
が。

<;丶`∀´>『ワタナベ、馬鹿な事をするんじゃないニダ!!
      陛下、部下の非礼はウリが謝罪するニダよ!!』

彼らは一様にして、ニダーに切りかかる事が出来なかった。
評議長と呼ばれた男がワタナベの頭を掴んで石畳に押し付け、自身も同じように床に額をつけてみせたからである。
更に。



36: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:40:30.61 ID:uyCjReSs0
川#゚ -゚)『貴様、なんのつもりだ?』

ニダーと彼らの間に、もう一人立ちはだかる者がいた。
両手を大きく広げ、評議長の身を庇う様にして諸将を睨みつける。

(´・ω・`)『うん、すまない。でも、多分。ニダーを傷つけさせるワケにはいかないんだ』

【天智星】ショボン。
この日、宮職に復帰した彼は、漂々とした口ぶりで自軍将官を押さえつける。

(#//∀゚)『おい、ショボン。隠居生活でボケちまったんじゃねぇだろうな? そいつが今まで何をしてきたか、知ってるだろ?』

(´・ω・`)『正気さ。元々【評議会】はシャキンと並んでハインの運命を狂わせた仇だからね。君よりも良く知っている自信はあるよ』

(#//∀゚)『だったら、何故!?』

そこでショボンはもう一度諸将を見渡した。
皆の眼がニダーらではなく、自分に注がれている事を確認すると、ゆっくり両腕を下ろす。
そのまま腰に手を当て、学生に講義する教授の様な姿勢で静かに歩き始めた。

(´-ω-`)『野に身を置いている時、ずっと考えていた事があるんだ。でも、その答えは出ないままだった。……今の今まで、ね』

川 ゚ -゚)『……何を意味の分からん事を』

(´-ω-`)『……』

クーの言葉に、ショボンは沈黙をもって返答とした。
しばらくそのまま押し黙っていた【天智星】であったが、ようやく言葉がまとまりあがったとばかりに口を開く。

(´・ω・`)『……どうして、【評議会】は陛下を幽閉しておくだけで殺さなかったんだろうね?』



44: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:45:26.93 ID:uyCjReSs0
( //∀゚)『そりゃ、お前。傀儡政権を作りあげる為……』

(´・ω・`)『いや、その考えはおかしい』

義兄の言葉をショボンはキッパリと否定した。

(´・ω・`)『すでに王家の権力と言える物は全て手中に収め、ラウンジと言う強力な後ろ盾も出来た。
     南の大国・神聖ピンクはメンヘルと手を組み、沈黙している。
     その状態で傀儡政権? 馬鹿げているよ。
     傀儡政権と言うものは、王家の威光が絶対の物であると言う背景があって初めて成立する物だ。
     そのデレ王家を超える支援者が背後にいる以上、傀儡の王を担ぎ上げる意味はどこにも無い』

(;´_ゝ`)『確かにそうかもしれんが……あぁ、なるほど。分かってきた気がするぞ』

ショボンの言葉に兄者が軽く頷く。
元よりラウンジも神聖ピンクもアルキュ島においては表面上、不可侵条約を貫いている。
互いに貿易の足がかりがある事こそ最低条件なのだ。
もし、ラウンジにとってその足がかりであるリーマン族内に王家と評議会と言う2つの勢力が残った場合、
それは百害あって一利も無い。

そもそもツンの独立も、流石兄弟によって彼女が【沈黙の塔】から連れ去られた事を発端にしているのだ。
用済みの王女を生かしておいて禍根を残す。
ヒロユキを暗殺し、モララーを謀殺した【評議会】がそのような愚行を犯すだろうか?
ショボンの疑問はそこにある。
【評議会】がツンを生かした理由。それは、彼女に利用価値が残っていたか、あるいは……。

(´・ω・`)『とりあえず、座を運ばせ腰を据えて話そう。
     ハイン、濃いお茶を入れておくれ。どうも今夜は眠る暇も無さそうだ』

言って、ショボンは一旦会話を中断した。



48: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:49:21.80 ID:uyCjReSs0
         ※          ※          ※

賊A゚Д゚)『ひぃぃっ!! 逃げろ!! 化け物だ!!』

賊B゚Д゚)『ば、馬鹿野郎、逃げるな!! 囲んじまえば何とかなる!!』

燃え上がる積み荷に顔を照らされ、彼らは混乱の極みにあった。
彼らは、山賊と呼ばれる稼業の者達である。
その晩一つの村を襲い、数頭の羊と収穫を終えたばかりの野菜を奪った帰りだった。

元は自由騎士と呼ばれた男達である。
が、かつてヴィップの内乱でテネシー公側についた彼らは、
他の自由騎士達と違って今更ヴィップに安住の地を求める事は出来なかった。
腕を奮える大きな戦も無く、このモテナイに30人程で粗末な山砦を築いたのが、ほんの数ヶ月前。
行き場を無くした自由騎士は彼らだけでなく、ある程度の勢力は成せると思い込んでいた。
しかし。

賊C Д )『あああぁぁぁあぁぁ、痛ぇよぉおおぉおおぉおおぉぉ、腕……俺の腕がぁあぁああぁ』

賊A゚Д゚)『何だよ、これ……なんでこんな事に』

彼らは今、瀕死の状態にある。
戦場を我が物顔で駆け回った元自由騎士達が、壊滅の危機にある。

帰路の途上で先頭が、薄汚い笛吹きを進路に発見した、との報告までは伝わっていた。
そして、その者が物乞いでもするかのように笛を吹き始めた瞬間。
それまで物音一つ立てなかった山林から突如、火矢が放たれたのだ。
矢は正確に縦隊中央に集中され、隊は両断された。
彼らの位置からは見えぬが、後方部隊。つまり、炎の壁の向こう側でも一方的な虐殺が繰り広げられている事だろう。



51: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:54:22.04 ID:uyCjReSs0
だが、後方を気にしている余裕など彼らにはなかった。
理由は、茂みの影にでも隠していたのだろう、二本の短槍を振るっている先程の笛吹きにある。
ただ一人で道を塞ぎ、複数の男達が一斉に斬りかかろうとも、涼しい顔で避わしてみせる。
黒髪の奥で金剛石の輝きを見せる瞳。
それを見て、一人の賊が叫んだ。

賊D;゚Д゚)『こ、こいつ!! 【三番目】だ!!』

賊A;゚Д゚)『何だと!? ってぇ事はこいつら、国軍本隊か!!』

賊B;゚Д゚)『馬鹿な!? 本当に存在していやがったのか!?』

その言葉は賊達に更なる絶望を与えた。
荒れ果てたネグローニを変革した、イヨゥ・ロシェに次ぐ第三の男。
戦場において未来を見ると言うモテナイの秘術【時詠み】の眼を持つ者。
風説によれば、黒犬王ダイオードにその秘術を伝えたとも言われる【三番目】の影。

('A`)『…ちっ。ビビりやがって、腰抜けが』

呟くや、それまで守勢に専念していた笛吹き……ドクオが攻めに転じた。
手にするはモテナイの悲劇の象徴とも呼ばれる呪いの短槍【魔棘】と【コトリ】。
自棄気味に振るわれる賊達の錆びた刃を身にかすめる寸前で避わし、がら空きの左胸を必殺の一撃で貫き穿つ。

賊A Д )『この……ばけもの……め』

('A`)『…好きで斬った斬られたの世界にいるんだろうが。だが、良いぜ。その恨みも貰い受けてやる』

最後の一人に突きたてた短槍を引き抜き、男が倒れこむのに合わせて槍を振るって血を払う。
10を超える賊達を皆殺してなお、ドクオは息すら乱していない。
その身体は衣服を斬られるどころか、一滴の返り血すら浴びていなかった。



54: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 22:59:45.66 ID:uyCjReSs0
(=゚д゚) 『後方殲滅、および火災消化完了したラギ』

('A`)『…おう、分かった。兵士達に休憩を取らせてやれ』

言って、ドクオは自らも賊が被っていた兜の上に腰を下ろす。
新兵訓練と野に埋もれた才能発掘を目的とした、山賊狩り。
残念な事に、所詮賊に身を窶す程度の者は、その程度の者でしかなかった。
が、イヨゥから推薦を受けた、このラギと言う名の若い戦士は掘り出し物だ。

モテナイ出身者の例に漏れず体格にこそ恵まれていないが、幅広の短剣を振るう太刀筋は悪くない。
命令にも忠実で、しぶとい戦い方をする。派手な勝利よりも地味でも堅実な勝ち方を選べるタイプなのだろう。
モテナイが誇る2つの騎士団は共に騎兵であって、戦局の中心となる歩兵の強化は絶対の課題であったから、ありがたい。
何よりも、無駄口を叩かないのと、右頬にくっきりついた“男の顔飾り”と言うべき青痣も気に入った。

('A`)『…お前、異名は?』

(=゚д゚) 『この面構えにて【青面獣】……ラギ』

('A`)『…悪くねぇな』

名のある勇者こそ少ないが、その一人一人が戦乱を憎む不撓不屈の戦士達。
モテナイもまた、磨き上げた刃へと成長を遂げている。

('A`)『……』

ドクオは懐から先程の横笛を取り出すと、静かに唇に当てた。
そこから流れるのは、安住の地を失ったモテナイの民が、流浪の生活の中で歌い続けた悲しい旋律で。
彼に従う50の新兵は、ただ瞳を閉じてそれに聞き入っている。
今頃はイヨゥに指揮された別部隊が山賊の砦を陥落させているだろう。
その知らせが入るまで、こうして笛を吹いているのも悪くない。ドクオは、そう思った。



56: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:02:46.01 ID:uyCjReSs0
         ※          ※          ※

ξ#゚听)ξ『そー言えば、昔アタシが花摘みに行くの覗いてたわよね?』

爪ii- -)『うわ……最悪』

( ´_ゝ`)『過ぎた話さ。人は過去ばかり見ていては先に進めんぞ』

(#^ω^)

夜警の兵に折りたたみ式の座を運び込ませた彼らは、給士ハインが茶を配り終えるまで、しばし閑談に興じた。
が、それは張り詰めた緊張感を誤魔化す為の手段に過ぎない。
敵国である筈の【評議長】ニダーや、彼を庇った【天智星】ショボンは黙して語らず
それがただでさえ不穏な空気を一層重苦しい物にする。

川 ゚ -゚)『……』

( //∀゚)『……』

口を開こうとしないのは、この二人も同様だ。
閑談組を好々爺の眼差しで見つめるニダーを、ジッと睨みつけている。

クーにとってニダーは、父モララーの首を刎ねた仇。
ジョルジュにとっては、かつて王都で政争を繰り広げた敵である。
そして、ショボンにとっても給士ハインの運命を狂わせた【評議会派】の重鎮である筈。
それが何故ニダーを庇い立てるような真似をするのか?

座に腰を下ろした今でも、一触即発の空気は少しも削がれていない。
その証拠に、ギコやジョルジュと言った戦士達は、腰に下げた宝剣の柄から手を離そうとしていなかった。



59: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:06:05.49 ID:uyCjReSs0
从 ゚∀从『……お待たせしました……だぜ』

(´・ω・`)『うん、ありがとう。でも、君にしては遅かったね?』

从 ゚∀从『あぁ、こんな時間だからな。湯がほとんど沸いてなかったんだよ』

そこに碗を乗せた盆を手に戻ってきたのはハインだ。
各々の前に備え付けられた簡易な卓の上に、芳香豊かな湯気をあげる碗を配っていく。

<丶`∀´>『ふむ。確かに急いで沸かしてきたみたいニダね。水の硬さが抜けきっていないニダ』

給士から受け取った茶を啜ったニダーが、そう感想を漏らした。

从 ゚∀从『はん。そんな事、分かるのかよ?』

<丶`∀´>『ウリは元々ギムレットの出身ニダよ。
      確かに茶を入れるには癖がある水質ニダが……懐かしい。決して嫌いでは無い味ニダ』

( ,,゚Д゚)『そんな話はどうでもいいぞゴルァ』

ニダーの声を遮ったのは、九竜の剣士ギコだ。
【赤髪鬼】ヒートと並んでヴィップ内で最も直情的な彼には、この微妙な空気が耐えられぬのだろう。
斬ってしまえば全ては解決するのに、何故そうしないのか? そんな不満がありありと見てとれた。

(´・ω・`)『そうだね、話を再開しようか。さっきの僕の疑問だけど、ある仮定を当て嵌めるとすっきり解決するんだ』

言いながらショボンは腰を上げる。
車座に並んだ一同の背後を、ゆっくりと歩き始めた。

(´・ω・`)『王室派と評議会派の争いなんて最初から無かった。そう考える事は出来ないだろうか?』



61: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:08:54.42 ID:uyCjReSs0
(#//∀゚)『そんな馬鹿な事があるはずねぇだろうが!!』

義弟の声に、思わず立ち上がったのは【急先鋒】ジョルジュだ。
その勢いで、軽い座が後方に倒れこむ。

从 ∀从『ご主人……それは……』

【天駆ける給士】ハインもまた、声に出していた。
ジョルジュはかつて王室派の重要人物として王家の番人を自称していたのだし、
ハインには王室派貴族を暗殺してきたと言う過去がある。
言葉尻だけを捕らえれば、ショボンの仮定はあまりにも無理がありすぎるように思えた。

(´・ω・`)『うん、すまない。これだけだと少し語弊があったかな。
     では、両派閥の争いは本質的な物でなく、負の副産物に過ぎない。
     が、それを理解してでも護らねばならぬ物があった。戦えぬ相手がいた。
     こう考えてみてはどうだろうか?』

川 ゚ -゚)『……何かを護る為に、争いが起きても見過ごす他なかった、と言う事か。解せんな』

(´・ω・`)『そうだね。でも、この護るべき物の正体が。抗わなくてはならない者の正体が
     あまりに大きな存在であったと考えれば、事の全体図が見えてくると思うんだ』

ショボンは敢えて回りくどい話し方を選んでいるのではない。
一度己の中で出した結論を、一つ一つ細部まで再検証しているかのように見える。
そして。
いくど検証しても、その中心にあるどす黒い闇の正体は一つしか思いつかないのだ。

(´・ω・`)『例えば、王家。例えば、この島の全て。これだけの物を巻き込める男を、僕らは一人知っている』

ξ;゚听)ξ『っ!!』



64: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:12:22.63 ID:uyCjReSs0
この時。皆の脳裏に一人の男の姿が思い浮かんだ。
二年前、ヴィップを襲った九尾の悪魔。
陰の王。この世の全ての悪。

( ;^ω^)『……【人形遣い】……フォックス』

悪夢が甦る。幼いハインの心を破壊して、暗殺者として暗躍させた男。
偽りの降伏をもってニイトを奇襲し、【勝利の剣】モララーを謀殺した男。
ニイトとヴィップを争わせ、たった一人で十人もの文官武官に傷を負わせた男。

(´・ω・`)『……評議会とラウンジの繋がりを考えれば、僕の仮定は間違っていないと思う。
     王家を。いや、この島を護る為に両派閥の争いを放置するほか無かったとすれば……。
     分かってもらえたかい? それが僕がニダーを殺させる訳にいかなかった理由さ。
     僕らは真実を知らねばならない。そして、それはこの戦いを一日でも早く終わらせる鍵となる筈なんだ』

いつしか、ショボンは輪の中心に立っていた。白眉の下のつぶらな瞳が、ニダーを見据える。

(´・ω・`)『【金獅子王】が五大令が一人、中書令ショボンが問おう。
     ニダーよ。君がこのヴィップを訪れた真の理由は王の生誕を祝う為だけではない筈だ。
     統一王の死の影に何があったのか? 語ってくれないか』

<丶`∀´>『……』

ショボンの言葉にニダーは答えない。が、やがて緩々とその重すぎる口を開き始めた。

<丶`∀´>『ヒロユキの……独立宣言を知っているニダか?』

( ;^ω^)『いや、全然知りませんお』

<;丶`∀´>『ニダっ!?』



67: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:14:41.83 ID:uyCjReSs0
(;´・ω・)『……』

ξ;゚听)ξ『……』

青年の一言で、王座の間を沈黙が包み込んだ。
いきなり話の腰を折られたニダーはあんぐりと口を開き、開いた窓から吹き込む風もどこか虚しい。
【神算子】レーゼは、肺腑の全てを吐き出すように大きな溜息をついた。

爪ii- -)『ブーン様、空気をお読み下さい。……最っ悪です』

从'ー'从 『えへへ〜☆ 馬鹿って怖いね〜。殴って良い〜?』

川 ゚ -゚)『ホライゾン。お前はもう少し書物を紐解くべきだぞ』

ノハ;゚听)『そ、そうだぞ!! 勉強が足りん!! 馬鹿っ!! 馬鹿馬鹿っ!!』

八方から思わぬ罵倒を受け、青年は僅かに肩を落とす。
一部、目が泳いでいる者もいたが、それすら相手にされなかった。
が、彼は仮にも王族に身を連ねる者なのだ。
市井の学人程度であれば頭に入っている知識を知らないというのは、少々問題がある。
そこで、【金剛阿】兄者が『やれやれ』といったふうに助け舟を出した。

(;´_ゝ`)『統一王の独立宣言と言うのはだな、この島が南北の大国による干渉を受けず、一つの国家として自立する宣言だ。
       貿易の中間点と言う立場を使って、アルキュをラウンジや神聖ピンクと同等の地位に立たせようとしたのだな』

(;^ω^)『でも、それって別におかしい事は無い気がするお。
       ラウンジや神聖ピンクから独立しても、この島が貿易の中間点である事に変わりは無い……』

( ´_ゝ`)『我らの側から見れば、な。だが、ラウンジからして見れば鉄の輸出、塩の輸入を押さえられたも同然だ。
       もし、独立を認めてしまえば……国家の生命線をこの小国に握られる事になる』



69: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:17:01.64 ID:uyCjReSs0
(;^ω^)『……あ』

それでブーンは全てを理解した。
青年は元々、智に疎いわけではない。

ラウンジからすれば、この独立は認めざるを得ない。
が、認めてしまえばアルキュという島は彼らと同格どころか上位の存在となってしまう。

統一王の革命において、ラウンジをバックに持つリーマンは、ヒロユキを認め迎え入れる事で戦乱の収束を計った。
高まりすぎた民の声を抑える事が出来ず、恩を売る事でパイプを繋ごうとしたのだ。
しかし、ヒロユキはそれを由とせず、電撃的な独立宣言を行なった。
当時のラウンジは慌てふためいた事だろう。

(´・ω・`)『あまりに強行的な手段だったけど……上位に立つ事で、
     二度と南北の大国にアルキュが弄ばれる事が無いようにしたかったんだろうね』

ショボンの言葉を否定も肯定もせず、ニダーが口を開く。

<丶`∀´>『……神聖ピンクがマタヨシ教団の聖地をアルキュ内に持っていた事も不運だったニダ。
      宗教と言う繋がりをメンヘル族を通して持っていた南と違って、
      ラウンジとリーマン族の繋がりは貿易に限定されていたニダ。
      つまり、三国の力関係は圧倒的にラウンジが弱くなってしまうニダね』

ξ;゚听)ξ『それで……ラウンジは、お父様を……』

それでラウンジは動いた。
自らの利権を守る為には、動くしかなかったから。



72: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:18:31.05 ID:uyCjReSs0
(;//∀゚)『だが……ちょっと待てよ。だからってどうして元帥が……統一王暗殺に関与しなきゃならねぇんだ?』

【人形遣い】フォックスは元々、狂的な親北主義者だったから暗殺に関わる理由や動機は十二分にある。
が、ショボンの父であるシャキンが暗殺に加担する理由はない。

爪ii- -)『統一王は挙兵の際“民の手によって主導される政治”を旗印に掲げていました。
     当時は七英雄によって席を埋められていた【評議会】ですが、
     絶対君主に依存しない政治形態の設立は、統一王の主流理念として当時幼かった私でも知っていた記憶があります』

( ´_ゝ`)『一人の王を殺す事は出来ても、【評議会】その物を解体するには至らなかった……。
      故に、壊す事ではなく懐柔する……もしくは取り込む事を選んだ、と見るべきだな』

(#//∀゚)『だからって、元帥が……師匠が王を暗殺する理由にはならねぇだろうが!!
     シャキン元帥なら王と共に戦う道を選ぶ筈だ!!』

(´-ω-`)『……』

ジョルジュにとってシャキンは剣の師にあたる。
騎士としての生き方を教えたのは【薔薇の騎士団】先代団長【白鷲】フィレンクトだが、
少年兵として革命後期に参加したジョルジュを引き上げたのは、他ならぬシャキンなのだ。
そしてまた、ショボンにとっては誇り高く優しい父でもあり。
【常勝将】とまで謳われたシャキンが、戦わずしてラウンジの思惑に乗るとは思えない。
この疑問に答えたのは、やはりニダーであった。

<丶`∀´>『百万』

( //∀゚)『あ?』

<丶`∀´>『ラウンジは脅迫してきたニダよ。【評議会】の者だけでヒロユキを殺す事。
      さもなくば、独立後のアルキュを神聖ピンクとの不可侵条約対象外と見なし、百万の兵をもって侵攻する、と』



75: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:22:07.89 ID:uyCjReSs0
川;゚ -゚)『百万……だと……?』

百万の兵の群れ。誇張されているのであろうが、この島の全人口すら凌駕する。
その先に広がる光景は、虐殺。皆殺しだ。
南の神聖ピンクも指をくわえて見ているだけである筈が無く、この島は両大国によって蹂躙され滅びるだろう。

(;//∀゚)『それで元帥は……』

(´-ω-`)『……だからと言って、罪が消えるわけじゃない。あの男がハインの運命を狂わせた事に違いは無いけどね』

<丶`∀´>『……当然理由は一つだけとは限らないし、シャキンにはシャキンなりの考えもあったかもしれないニダ。
      が、ヒロユキと追い求めた理想を……“民の手で主導される政治”の場である評議会をも失うわけにはいかなかったニダよ。
      そして、ウリはヒロユキの死後、評議会の頂点に立ったニダが……』

( ;^ω^)『ちょっと待って下さいお』

そこでニダーの言葉を遮ったのは、先程の無知暴露発言からすっかり肩身を狭くしていた銀髪の青年だ。
出来の悪い生徒のように、おずおずと手を挙げ発言の権利を求める。

( ´_ゝ`)『何だ、ブーンよ。まだ理解できぬ事があるのか?』

( ;^ω^)『一つだけ気になる事があるんですお。今までの話だと……評議会は七英雄が主導していたんですおね?』

爪゚ー゚)『その頃にはモララー様やメンヘルのモナー達は国に帰っていたはずだし、
     フィレンクト様は統一王の死の直後に官職を離れた筈だから実質三人だけど……それが何か?』

何を今更、と言った風にレーゼが口を挟んだ。
が、青年の発言は彼らを別の視点から驚かせる事になる。

( ;^ω^)『そんなに凄い人達が揃っていて、何で評議長はニダー……さん。なのかお?』



78: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:26:35.41 ID:uyCjReSs0
爪;゚ー゚)『あ……』

<丶`∀´>『……』

禁軍元帥【常勝将】シャキン。
水軍提督【全知全能】スカルチノフ。
そして【人形遣い】フォックス。
青年が疑問を持ったよう、これらの人材が揃っていてニダーが頂点に立つ理由は無い。
ラウンジの傀儡としての評議会に否定的なスカルチノフや、謀略を好むフォックスはありえぬとしても、
暗殺に携わったシャキンまで評議会の長から除外する必要は無いはずだ。

にもかかわらずニダーが評議長の座に着くという事は、考えられるパターンは2つ。
一つは彼自身がラウンジの傀儡として派遣されていると言う場合。
だが、そうなると彼が今ヴィップを訪れている理由が成り立たないから、残った可能性は一つ。
ひょっこり出てきたように評議長の座に付いた男の正体が【常勝将】シャキンと比肩し、
ラウンジと強い繋がりを持つフォックスですら無視できない実力と権威を持った者であった場合である。

<丶`∀´>『……良い所に気がついたニダね、我らの名を継ぐ者。北の英雄モララーの子、ニイト=ホライゾン』

( ;^ω^)『……っ!! 僕の事を知っているんですかお?』

<丶`∀´>『当然ニダ。その【勝利の剣】を持てる者がモララーの子以外、誰がいるニダか?』

喉を震わせるようにして笑う。
そして、王都からの訪問者は自らの正体を明かすのだ。

<丶`∀´>『ウリはお前の先達……。
     つまり、ヒロユキをニイトに送り届ける為に全滅した、初代【白衣白面】唯一の生き残りニダ』



83: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:30:46.44 ID:uyCjReSs0
(;´_ゝ`)『白面に生き残りがいたと言うのか……』

(´・ω・`)『……』

この時、史実にショボンがニダーの正体に気付いていたかどうかの記述はない。
だが、彼はブーンを隊長とする第二の【白衣白面】設立の首謀者だ。
おそらく、可能性の一つとして捕らえていたと考える方が自然であろう。

【白衣白面】。
ニイトのモララーと並ぶ、もう一人の北の英雄クリテロに率いられた伝説。
彼らは、キュラソーと呼ばれていた頃のヴィップ城包囲からヒロユキを逃がす為、一人残らず戦死したと言う。
そして、そのたった一人の生き残りと言う事であれば、統一王存命下であっても要職についていたであろうし、
フォックスが存在を無視できなかったとしても不思議は無い。
しかし、この時ニダーの言葉を見過ごせぬ者がいた。

川 ゚ -゚)『待ってもらおうか。クリテロと白面と言えばヒロユキの友であり、我が父とも親交があった筈。
     であれば、貴様は友でもあった父の首を刎ねたというのか』

【無限陣】ニイト=クールである。
彼女の父モララーを策に嵌めたのが【人形遣い】フォックスであっても、最後に命を奪ったのがニダーである事に変わりは無い。
【闇に輝く射手】の真実を知り、ショボンやハインと和解した今でも、評議会は彼女やニイトの民にとって憎き敵のままなのだ。

<丶`∀´>『……ニイトの姉弟よ。そなたらの父モララーは勇敢な男だったニダ。
      たとえ百万の兵が雲霞と押し寄せようと、一人で戦い抜く。そんな男だったニダよ』

川#゚ -゚)『そんな事は貴様に言われなくても知っている!!
     何故だ!? 何故貴様は……我が父まで殺さなければならなかった!?』

この時、クーは義足を着用していなかったからニダーに掴みかかる事は出来なかった。
けれども、その右手はニイトのもう一つの至宝“西方の焔”に伸びていて……。



89: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:34:01.58 ID:uyCjReSs0
(´・ω・`)『……また、フォックスか』

返答は意外な所から発せられた。
いや、クーも本当は気付いているのだろう。
【人形遣い】の邪悪な影は、ここまで伸びて来ているのだ。

<丶`∀´>『……あの化け物に勝てるのは、世界その物と言われた剣技【夢幻剣塵】の使い手ただ一人。
      フォックスがどんな戦略上の不利も単独で打破できるよう、
      モララーもまたどのような陰謀も覆すだけの出鱈目な武を誇っていたニダ。
      故に、フォックスはモララーを恐れたニダよ……』

( ´_ゝ`)『統一王の首とモララーの首。それがラウンジの侵攻を食い止める最低条件だったワケか。
       なるほど、あの性悪狐が考えそうな事だな』

川# - )『〜〜〜〜〜っ』

分かっている。
あの父がフォックスの陰謀に加担する筈はなく、ならば殺すしかない。
だが、頭で理解できようとも、心が納得するかは別問題だ。

川# - )『私は……私は、父の命を奪った敵を憎む事も許されないのかっ!!』

腹立ち紛れに、クーが目の前の卓を払い倒した。
派手な音を立てて払い飛ばされたそれを見て、ショボンは溜息を一つ。
そして、自身も気を落ち着かせようと手にした碗がとっくに空になっているのを見て、もう一つ溜息を吐き出す。

(´・ω・`)『真に憎むべき邪悪は、まだ死んだ訳じゃないさ。
     それより、ここらで一度頭を冷やそうか。茶も無くなってしまったし……そろそろ腰も痛くなってきた』

言って、白眉の青年は『よっこいしょ』と年寄り臭い声と共に、腰を持ち上げた。



92: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:38:08.03 ID:uyCjReSs0
         ※          ※          ※

(*゚∀゚)『やー。それにしても……頭にくる景色だねぇ』

父フッサールと己の居城たる【城砦都市】スピリタスの城外。
小高い山頂にて周囲を見渡しながら、メンヘル十二神将が一人【不敗の魔術師】ツーは呟いた。
健康的に焼けた肌に、申し分程度に貼り付けたような衣服は相変わらずである。
無駄な脂肪の欠片も見当たらない、外気に晒した腹が、ぐぅと可愛らしく鳴った。

モスコー地区に吹く夜風は、渇ききった死体のように。無慈悲なまでに冷たい。
眼下に広がるのは一面の松明の灯りだ。360度、蟻の抜け出る隙間さえ無い程に包囲されている。
彼女の立つ山頂の陣は攻略するのも困難であろうが、そこから脱出するのもまた不可能なように思えた。

強い日差しを遮る物は、幕舎を形作っている麻布と陣を張るには適さない猫の額のような林のみ。
食料も乏しく、最後に口にしたのはスープのように薄い豆粥だけだった。
当然、体力の消耗も激しいが、この際贅沢は言えまい。

生きてこの場に辿り着けた事すら奇跡とも思える戦いだった。
子飼いの兵たる砂漠の強襲部隊【砂亀騎士団】を欠いて、善戦したと自分でも思う。
【不敗】の名に恥じぬ、勝てなくとも決して敗れたとは言えぬ戦いであった。
もし、あれがスピリタス城と自身の騎士団を有しての戦いであったらと思うと、どうしても悔しさは残る。
少なくとも、今のように追い詰められるような事にはなっていなかった筈だ。

数倍する敵を前に、包囲される地に陣を構える愚は彼女も承知している。
だが、この山頂には水が湧くのだ。水さえあれば、圧倒的不利でも戦い続けられる地形でもある。
そして、負けない為の戦いに徹せるのならば、自分に並ぶ者などどこにも存在しない。

(*゚∀゚)。oO(それでも……いくらあたし様でも一月が限界さね。早くしておくれよ……)

ぺたんと凹んだ腹を押さえながら、ツーは星空に向けて祈るような言葉を漏らしていた。



95: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:40:21.68 ID:uyCjReSs0
         ※          ※          ※

<丶`∀´>『さて……どこまで話したニダか?』

( ´_ゝ`)『ラウンジが統一王暗殺と言う既成事実を作らせる事で
      貴様やシャキンを縛りつけ、評議会を実質上の支配下においた……所までだな。
      ここまで話が進めば答えは出たような物だが……ようやく本題に戻ってきたわけだ』

(´-ω-`)『……』

川 ゚ -゚)『……』

ヴィップ将官の顔は、決して明るくない。
クーやブーンは父と祖国を、レーゼは祖国を失った。
ツンは父を害された上に長きに渡って己も幽閉され、ハインは家族を奪われ罪に掌を赤く染めた。
ジョルジュは王室の番人としての確執があるし、ショボンにとって評議会は想い人の心を破壊した仇である。

程度の差はあれ、各々が評議会とその長たる者に良い感情は抱いていないのだ。
おそらく、ニダーの話には一つとして嘘は無いのだろうし、そこには当事者にしか分からぬ葛藤もあったのだろう。
従者一人を連れただけで乗り込んできた覚悟や、二年前に暗躍した狐の狡猾さを思い出しても、そう思う。
が、だからと言って掌を返すように感情を支配する事が出来ようか。
信じる事と許す事、受け入れる事は全く次元の違う問題である。

<丶`∀´>『……ヒロユキの死後、やはりラウンジの目は幼かった陛下に向けられたニダよ。
      死してなおヒロユキの威光は大きく、成長すれば遺恨を残す可能性があるニダ。
      政の中枢は評議会にあり、王女を生かしておく必要はどこにも無い……。
      ウリが知っているだけでも、事故に見せかけた暗殺を2回。毒殺を狙った者は3人いたニダ』

既に諸兄らも何故ニダーが幼いツンを殺さず、幽閉するにとどめたか。答えに辿り着いている筈だ。
それは、つまり……。



100: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:43:03.19 ID:uyCjReSs0
(´・ω・`)『幽閉に見せかけた保護……この島と王家、そして“民の手で主導される政治”の舞台となる評議会。
      全てを護り抜く為の唯一の手段だった、というワケか』

幼かったツンを幽閉する事により、ラウンジは暗殺の機を逃した。
やがて、ヒロユキとは同盟関係にあったメンヘルのモナーが評議会に対し同盟の破棄を宣言すると、
本格的にフォックスは王女の暗殺を断念せざるを得なくなる。
リーマン領内だけでなく、島内には多くの王室派勢力が残存しており、ツンを殺せば彼らとメンヘル。
2者と争う事になるだろう。
かと言って、王室派の粛清に本腰を入れれば、メンヘルに隙を見せる可能性も出てくる。
よって、ラウンジは評議会の傀儡化という成果だけで満足するほかなくなったのである。

<丶`∀´>『その通りニダ!!』

叫ぶや、ニダーは座を跳ねる様に立ち上がった。
そのまま、黄金の王の前に両膝をつき、額を石畳に擦りつける。

<丶;Д;>『長かった……本当に長かったニダ。しかし、フォックスは失脚し……王の妨げになる者はいなくなったニダ……。
      ウリは……ウリは、多くの友を手にかけながら……どんなにこの日を待った事ニか……』

ニダーの頬に大粒の涙が流れた。
それは石畳に染みを作り、いつしか立ち上がっていたショボンがその肩に手をかける。

(´・ω・`)『……もう一度、問おう。評議長ニダー。君の本当の目的を教えてくれ』

<丶;Д;>『言うまでも無いニダ!!』

叫ぶ。

<丶;Д;>『王よ!! 我が友の忘れ形見よ!! この皺首をもって、評議会との和睦を!!
      そして、ウリが預かってきた全ての権威を手に王都へ帰還し、長き戦乱の終結を!!』



107: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:47:48.16 ID:uyCjReSs0
ξ;゚听)ξ『デメララに帰る……?』

( ;^ω^)『……』

誰かが生唾を飲む音が聞こえた。
評議会の吸収と王都への帰還。
それはすなわち、ツンがリーマン支配下にあるデメララ、バーボン、ローハイドの
三地区を傘下に治める事に直結する。

ショボンと実父シャキンの関係のような蟠り(わだかまり)は残るだろう。
が、そうする事によってヴィップはこの島の六割を掌握する事になるのだ。
アルキュの勢力図は大きく傾き、モテナイとメンヘル。両国がどのように動いても、ヴィップは圧倒的有利に動く事が出来る。
優秀な人材に恵まれ、戦略的優位に立ったヴィップによる勝利は揺るがないだろう。

爪ii- -)『結局……統一王も私達も、ラウンジに翻弄され続けていただけって事なのかしら。複雑ね』

( ´_ゝ`)『……小国の命運など、大国の前では水面に浮かぶ木の葉のような物。
       我らは常に、ラウンジや神聖ピンクに左右され続けるのかもしれん。
       しかし……だからと言って、我らが誇りある生き方を選んではならぬ理由にはならないさ』

爪ii- -)『こんな時に、格好良い事言わないでよ。もう……最悪』

気落ちしていた所に声をかけたのを軽くあしらわれ、兄者はやれやれと肩をすくめる。
どのみち、問題はあまりにも大きく、今すぐ返答を出せる物ではない。
全ての者達が困惑しており、ひとまずは会談の中断をツンが宣言しようとした時、事件は起きた。
一人の老将が、三人の男女を引き連れ王座の間に飛び込んで来たのである。

(;‘_L) 『陛下!! 一大事にございます!!』

ξ;゚听)ξ『フィレンクト……将軍?』



112: ◆COOK./Fzzo :2009/09/30(水) 23:51:11.50 ID:uyCjReSs0
『お願いでございます!!』

フィレンクトの背後で、両脇を二人の女に支えられ立っていた男。
その者が、隻腕の将を払い退けるように前に出た。
そのままツンの前に駆け寄ると、両膝を床につき、懇願の声をあげながら何度も石畳に額を叩きつけ始める。

(;‘_L) 『お止めなさい!! そのような事をしても意味はありません!!』

lw´‐ _‐ノv 『ひくわー』

フィレンクトと、男を支えていた二人の女が慌てたように飛び掛り、その身を取り押さえた。
そこでようやく、彼はその顔をツンに向ける。

(;//∀゚)『……っ!!』

(;,゚Д゚)『なんでテメェが……ゴルァ』

その場に居合わせた全ての者が、思わず息を飲んだ。
肩まで伸ばした長髪と顎鬚は染めたように白く。
血と泥に汚れた戦外套の下には、銀の装飾を施した皮鎧。
代名詞たる天星十字槍を手にしていなくとも、誰もにその名を知られた砂漠の国の老将軍。

ミ,;メД゚彡『お願いでございます!! お力をお貸し下さい!! このままではメンヘルは……いや、この島は滅びてしまう!!』

統一王七英雄が一人。メンヘル十二神将筆頭【天使の塵】フッサール。

爪;゚ー゚)『……』

小国とは常に、大国に左右され続ける運命にあるのかもしれない。
【神算子】レーゼは、ふと今しがた耳にしたばかりの言葉を思い返していた。



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