( ^ω^)がどこまでも駆けるようです
- 4: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:04:59.32 ID:/fcTSHIfP
- 〜登場人物紹介〜
- ・アルキュ正統王国
- ξ゚听)ξ 【金獅子王】ツン=デレ(ツン・22) 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王
- (*゚ー゚) 【紅飛燕】シィ(23) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下刑部官(刑罰・警備)・千騎将・黄天弓兵団団長
- (‘_L’) 【白鷲】フィレンクト(63) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長
- |(●), 、(●)、| 【第六天魔王】ダディ(42) 民=??? 武器=直槍 階級=中書門下法部官(法の公布)・千騎将・戦鍋団団長
- ( ̄‥ ̄) 【不自由な自由騎士】フンボルト(33) 民=??? 武器=直槍 階級=中書門下法部官(法の公布)・千歩将
- jハ*゚ー゚ル 【祝福の鐘】ハルトシュラー(ハル・25) 民=ラウンジ 武器=二本の鉄扇 階級=太府門下内部官(情報・流通)・千歩将
- 从 ゚∀从 【天翔ける給士】ハイン(24) 民=海の民 武器=仕込み箒・飛刀 階級=太府門下内部官(情報・流通)・千歩将
- 5: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:05:47.84 ID:/fcTSHIfP
- ・南征第一軍
- ( ゚∀゚) 【急先鋒】ジョルジュ(40) 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長
- (´・ω・`)【天智星】ショボン(32) 民=リーマン 武器=槍 階級=中書令(立法長官)
- ノパ听) 【赤髪鬼】ヒート(23) 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・千歩将
- ( ,,゚Д゚) 【九紋竜】ギコ(32) (本名ハニャーン) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・万歩将
- ミセ*゚ー゚)リ 【花飾り】ミセリ(21) 民=リーマン 武器=槍 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税)・千歩将
- ミ,,゚Д゚彡 【天使の塵】フッサール(60) 民=メンヘル 武器=天星十字槍 階級=マタヨシ教司祭。軍務官鎮国士・千騎将
- lw´‐ _‐ノv 【光明の巫女】シュー(23) 民=メンヘル 武器=??? 階級=軍務官南征士・千歩将
- 6: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:06:43.06 ID:/fcTSHIfP
- ・南征第二軍
- ( ^ω^) 【王家の猟犬】ニイト=ホライゾン(ブーン・22) 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=近衛侍中(王の警備)・千歩将・白衣白面隊長
- 川 ゚ -゚) 【無限陣】ニイト=クール(クー・24) 民=ニイト 武器=斬見殺 階級=軍務令(軍務長官)・ニイト公主
- 爪゚ー゚) 【神算子】レーゼ(23) 民=ニイト 武器=長剣 階級=太府令(財務長官)
- 爪゚∀゚) 【金槍手】リーゼ(23) 民=ニイト 武器=突撃槍 階級=近衛侍中(王の警備)・千騎将・天馬騎士団団長
- ( ´_ゝ`) 【金剛阿】兄者(33) 民=海の民 武器=手斧・兄者玉 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税担当)・千歩将
- (´<_` ) 【金剛吽】弟者(33) 民=海の民 武器=手斧・弟者砲 階級=司書門下刑部官(刑罰・警備担当)・千歩将
- (,,^Д^) 【鉄牛】プギャー(本名タカラ・38) 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長・百歩長
- ( ・×・) 【笑面虎】ハートマン(本名レナード・32) 民=??? 武器=拐 階級=白衣白面隊員
- ル∀゚*パ⌒ アリス=マスカレイド(19) 民=ピンク人 武器=神槍 階級=法王の娘
- ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 【天光弓姫】スパム(22) 民=モテナイ 武器=大弓 階級=千歩将 遊撃歩兵部隊長
- 7: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:07:28.25 ID:/fcTSHIfP
- ・リーマン族
- <丶`∀´> 【翼持つ蛇】ニダー(50) 民=リーマン 武器=??? 階級=評議長
- 爪'ー`)y‐ 【人形遣い】フォックス(58) 民=??? 武器=九尾 狐火 飛刀 階級=無し
- (`・ω・´) 【常勝将】シャキン(58) 民=リーマン 武器=??? 階級=バーボン領主 元帥
- /;3 【全知全能】スカルチノフ(60) 民=リーマン 武器=??? 階級=水軍提督
- ( ФωФ) 【国士無双】ロマネスク(26) 民=リーマン 武器=??? 階級=禁軍武芸師範
- 从'ー'从 【一丈青】ワタナベ(25) 民=リーマン 武器=狼牙棍 階級=評議長近衛部隊隊長
- ( <●><●>) 【天目将】ワカッテマス(35) 民=リーマン 武器=??? 階級=王都警備部隊隊長
- (-_-) 【鉄壁】ヒッキー(30) 民=リーマン 武器=鉄鎚 階級=千騎将。鉄柱騎士団団長
- \(^o^)/ 【帝雲天君】オワタ(31) 民=??? 武器=二本の大剣 階級=フォックスの部下
- ( ,'3 ) 【神機秀士】バルケン(26) 民=リーマン 武器=??? 階級=水軍副提督
- ( "ゞ) 【鉄大虫】デルタ(28) 民=リーマン 武器=??? 階級=千騎将
- ( ・−・ ) 【神火将】シーン(28) 民=リーマン 武器=??? 階級=千歩将
- ( `ー´) 【神水将】ネーノ(27) 民=リーマン 武器=??? 階級=千歩将
- J( 'ー`)し 名=カーチャン 民=リーマン ※ ヒッキーの母
- 8: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:08:10.55 ID:/fcTSHIfP
- ・モテナイ王国
- / ゚、。 / 【黒犬王】ダイオード(52) 民=モテナイ 武器=魔槍コトリ・魔棘 階級=モテナイ王
- (=゚ω゚)ノ 【繚乱】イヨゥ(25) 民=モテナイ 武器=斧槍 階級=黒色槍騎兵団長 万騎将
- 川l.゚ ー゚ノ! 【春風の少女】ナナ(12) 民=モテナイ ※ イヨゥの妹。
- (.≠ω=) 【一枝花】ロシェ(27) 民=モテナイ 武器=??? 階級=軍師・赤枝の騎士団長
- (=゚д゚) 【青面獣】ラギ(23) 民=モテナイ 武器=小剣 階級=万歩将
- ( ´ー`) 名=シラネーヨ(35) 異名=??? 民=??? 武器=??? 階級=領主補佐
- ('A`) 【第三の男】ドクオ(22) 三番目 民=モテナイ 武器=短槍 飛礫 階級=???
- 9: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:09:06.27 ID:/fcTSHIfP
- ・海の民
- l从・∀・ノ!リ人 【小旋風】妹者(14) 民=海の民 武器=??? 階級=帆船【グラッパ号】艦長 頭領
- _、_
- ( ,_ノ` )y━・~~~ 【破軍】渋沢(45) 民=海の民 武器=死神の爪 階級=帆船【グラッパ号】副艦長 副頭領
- N| "゚'` {"゚`lリ 【白花蛇】阿部(42) 民=海の民 武器=鉄鎖 階級=???
- ・神聖ピンク帝国・法王庁
- ??? トマス1世 民=ピンク人 武器=??? 階級=法王
- |゚ノ ^∀^) レモナ=マスカレイド(21) 民=ピンク人 武器=宝剣 階級=法王の娘
- 爪 ,_ノ`) シャオラン=ディードリッヒ(27) 民=ピンク人 武器=三日月刀 階級=商人
- 斥 'ゝ') アインハウゼ=クーゲルシュライバー(37) 民=ピンク人 武器=2本の蛮刀 階級=隠密
- 11: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:09:59.75 ID:/fcTSHIfP
- ・メンヘル族
-
- (´∀`) 【預言者】モナー(59) 民=メンヘル 武器=??? 階級=指導者
- (*゚∀゚) 【不敗の魔術師】ツー(24) 民=メンヘル 武器=三本の山刀(かみつき丸・つらぬき丸・なぐり丸) 階級=砂亀騎士団団長
- ( ゚д゚ ) 【羅王】ミルナ(29) 民=メンヘル 武器=拳術 階級=十二神将・第四位
- ( ゚∋゚) 【神の巨人】クックル(37) 民=??? 武器=拳術 階級=十二神将・第五位(モナーの護衛)
- ( ・へ・)【打虎将】ジタン(30) 民=メンヘル 武器=鎚鉾(メイス) 階級=六翼騎士団団長(十二神将・第六位)
- (-@∀@) 【断罪の聖印】アサピー(35) 民=メンヘル 武器=??? 階級=神父 十二神将・第九位
- 川д川 【雷獣】貞子(24) 民=海の民 武器=闘神 階級=十二神将・第十位
- ( ∵) ビコーズ(?) 民=メンヘル 武器=長槍 階級=六翼騎士団副団長
- パー゚フェ 【斬馬刀】パフェ(15) 民=メンヘル 武器=斬馬刀 階級=神官戦士
- ・神聖ピンク帝国・教皇庁(神聖国教会)
- ??? ストーン1世 民=ピンク人 武器=??? 階級=教皇
- (’e’) セント=ジョーンズ(30) 民=ピンク人 武器=??? 階級=教皇の息子
- 14: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:11:07.04 ID:/fcTSHIfP
- ・MAP 〜アナルとアヌスの違いを調べていたら半日が終わっていた編〜
- ※http://up3.viploader.net/news/src/vlnews017609.jpg
- @キール山脈 未開の地。
- 隠密の故郷とも呼ばれる。
- Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
- 北部からの寒風の影響で気候は厳しいが、地熱に恵まれている。
- Bニイト公国 ヴィップの副都【経済都市】ニイト城を有する
- ニイト族居住地。ヴィップほど寒風の影響はなく、比較的なだらかな地形である。
- Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
- モテナイ族居住地。山岳地帯。メンヘル族と同盟している。
- Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
- 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。
- Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
- リーマン族居住地。アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。
- Fローハイド草原
- 中立帯だが、リーマンの力が強い。
- Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
- 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。メンヘル族と友好関係に有り、リーマンとは度々諍いを起こしている。
- Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
- メンヘル族居住地。その大半が岩と砂に覆われている。
- 16: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:11:53.16 ID:/fcTSHIfP
- ・アルキュ正統王国(ヴィップ)
- 国主は【金獅子王】ツン=デレ。国旗は黒地に黄金の獅子。
- 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。
- ※打倒神聖国教会軍を目的に大号令を発し、南征を開始する
- ・ニイト公国
- 公主は【白狼公】ニイト=クール。公旗は青地に白い狼。
- “天に二王無し”の考えから、王家の正統後継者であるツン=デレに王位を返還した。
- とは言え、ヴィップの繁栄はニイトなくしては成らなかった物であり、事実上クーはツンと比肩する実力者である。
- ・モテナイ王国
- 国主は【黒犬王】ダイオード。国旗は赤地に黒犬。
- 小さいながらも【黒色槍騎兵団】【赤枝の騎士団】と言う強力な騎士団を持つ軍事国家。
- ※大号令に同調するも、国主は病に臥せっている……?
- ・メンヘル族
- 指導者は【預言者】モナー。
- 南の大国【神聖ピンク帝国】の支持を受けている。
- ※神聖国教会軍によって事実的に支配されている。
- ・海の民
- 指導者は艦長【小旋風】妹者。
- 島の南部シーブリーズ地区を占拠し、島で唯一塩の製造権を持つ。
- ※特になし
- ・リーマン族
- 指導者は【評議長】ニダー。
- 北の大国ラウンジ王国の支援を受け、今もなお最も栄える民である。
- ※ヴィップと和睦し、共にモスコーへ向けて兵を挙げる
- 18: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:14:12.99 ID:/fcTSHIfP
- 第35章 魔術師 還らず
- メン;`Д´)『ぎゃっ!!』
- 山頂から雨霰と降り注ぐ投石の一つを額に受けた兵士が、悲鳴をあげ大きく仰け反った。
- 崖を駆け上がろうとしていた足は蹈鞴(たたら)を踏む事も出来ず宙を虚しく蹴り、
- やがてバランスを崩した身体は急な斜面を転がり落ちていく。
- メン;゚Д゚)『う、うわぁぁぁぁっ!! こっちに来るなぁっ!!』
- メン;゚∀゚)『ひゃぇぇぇぇぇっ!!』
- 何とか投石を避わしていた数人の兵士が、彼の意に反した体当たりを身に受けて、弾き飛ばされた。
- 第二次、第三次的に被害は拡大し、その様はまるで、小規模な雪崩のようだ。
- 全ての者が岩肌にしがみつき、何とか態勢を整えようと試みるが、到底叶わぬ。
- 運良くその場に留まる事が出来たとしても、数瞬の後には転げ落ちてきた別の兵士の巻き添えとなるのがオチである。
- その連鎖は、彼の身体が傾斜が緩やかな地に到達するまで終わる事は無いのだ。
- メン#)Д´)『ぐふぇえっ!?』
- 彼もまたその例に漏れず、盛り上がった岩肌に身をしたたかにうちつけた事で、ようやく人の津波から解放された。
- 意識こそ途絶えていないものの、全身の打撲が酷く、仰向けに倒れたまま動く事も出来ない。
- やけに鮮明な視界の片隅で、太陽を背に山頂に立つ小さなシルエットが見てとれた。
- が、それも数秒。
- 続けて勢い良く転落してきた別の兵士の下敷きにされ、彼は今度こそ意識を手放した。
- 20: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:16:55.82 ID:/fcTSHIfP
- (*゚∀゚)『手を休めるんじゃないよっ!! 狙う必要なんか無い!! 片っ端から叩き落してやるさっ!!』
- あの兵士が最後に見た、山頂の影が叫ぶ。
- 山間の戦いから、2ヶ月が経過しようとしていた。
- 【不敗の魔術師】ツーは……未だ抗戦を続けている。
- 水のある高台。地の利を得られているのは、確かに大きなメリットだろう。
- が、味方は掻き集めた敗残の兵。陣容も急遽それらしき体裁を整えただけの物に過ぎない。
- 尚且つ、数十倍の軍に包囲されているにも拘らず、これだけの日数を耐え抜いているのだから、驚異的な継戦能力である。
- 山頂に陣を構えてから最初にツーが行なった事は、全ての弓矢の使用を禁止させる事であった。
- 高見から敵を見おろせる場合、弓矢は非常に有効な攻撃手段となる。
- が、それ故に底をついた時の士気の低下は計り知れぬ物となり、長期戦において戦意の糸が切れる事は何よりも恐ろしい。
- 例え、急ごしらえで作らせたとしても限度があるだろうし、精度も強度もたかが知れている事だろう。
- ならば、最初から頼らぬほうが良い、と彼女は考えたのだ。
- それに代えて砂漠の魔女が採用したのが、投石による攻撃である。
- 軽視され気味ではあるが、使う場所さえ間違えなければ投石は弓矢によるそれと比肩する遠距離攻撃手段だ。
- 飛距離こそ弓矢に劣るが、高地に陣取ればその不利を随分と穴埋めする事が出来る。
- 訓練も必要なく、足元に幾らでも転がっていて、製造の手間もかからない。
- 更に、まともに喰らった時の衝撃は盾や鎧でも防ぎきる事が出来ず、投石器を使えば威力は倍加する。
- そして、手巾の端を手首に縛り付けるだけで、遠心力を利用した簡単な投石兵器は作れてしまうのだ。
- もし、これが平地に陣を構える同士の戦であれば、飛距離のある弓に軍配が挙がるだろう。
- しかし、戦の勝敗とは装備や兵力の優劣のみで決まるものではない。
- 己の持つ力を知り、使いこなせる者こそが、真に戦局を支配できるのだ。
- 第二次大戦当時、ドイツ軍は世界最高峰のピストルと言われたワルサーP38を手にソビエト連邦に攻め込んだ。
- しかし、複雑な構造のワルサーは寒冷地において故障が多発し、厚い手袋をつけていては修理もままならない。
- 結局、単純な構造のトカレフを装備したソビエト軍に撃退されてしまう。
- 古今の違いはあれど、百戦しても危うからぬ条件と言う物は変わらない物なのだ。
- 22: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:19:30.05 ID:/fcTSHIfP
- (*゚∀゚)『気持ちで負けるんじゃないよっ!! スイートハートな一撃をお見舞いしてやるさっ!!』
- 兵士達『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!』
- 天割れ、地を揺らす声が、魔女に続いた。
- “不敗”を名乗るを許された、無二の存在。メンヘル十二神将・第二位ツー。
- 今ではその称号など剥奪されているかもしれない。
- けれど、それに何の意味があろうか。
- 傷つき、腹を空かせ、渇きに苦しみ、ろくに睡眠も取っていないというのに、山塞側の士気は寄せ手を遥かに上回っていた。
- 神将の位に無くとも、【不敗の魔術師】は健在なのである。
- (*゚∀゚)『親父様は必ず援軍を連れて帰ってくるさねっ!! アタシ様を信じろっ!!』
- もう、何十回と無く繰り返した言葉で、疲れきった兵を鼓舞する。
- 包囲軍は数の利を生かすことを考えたか、昼夜を問わず攻め込んできた。
- そして、ツーは常に先頭に立って、かつて肩を並べて戦った者達を迎え撃ったのである。
- 運び込めた食料も、底を尽きかけている。
- 腹に入れられる物と言えば、叩いて柔らかくした木の枝を浮かべたスープや、1人1抓みの麦を入れた草粥だけ。
- 目の下にクマを貼りつかせ、頬はこけ、垢に汚れ、泥にまみれ、髪はバサバサなくせに脂で潰れている。
- が、それでも彼女はあたかも本当の魔女のように、休み無く陣中を駆け回った。
- 兵の輪に混じり、諦めそうになっている男達を励ましてきた。
- 一度、包囲軍から射ち込まれた矢の一本が山頂に届き、彼女の腕に突き刺さった事がある。
- しかし、それでも彼女の心は折れなかった。
- 力任せに矢を引きぬき、鏃に肉片を絡みつかせたそれを投げ捨てる。
- そして、仕返しとばかりに山頂の林に転がっていた倒木を転げ落とし、逃げ惑う包囲軍を見おろして呵呵大笑してみせたのだ。
- 必ず助けは来る。
- その言葉を兵に信じさせ、心の何処かで湧きあがる不安を押さえ込み、抵抗を続けていたのである。
- 24: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:21:13.56 ID:/fcTSHIfP
- 爪 ,_ノ`)『水がねぇ?』
- 兵士『いえ、随分と減ってしまった……と言うだけなのですが』
- |゚ノ ^∀^)『……』
- 元・神聖ピンク帝国の塩商人シャオランと公女レモナが、
- 水の管理を任せられている兵士から相談を受けたのは、そのような日の事であった。
- 爪 ,_ノ`)『何処かの馬鹿が夜中にコソコソ盗み飲みしてる可能性は……ねぇか』
- 兵士『はい。ツー様ですら喉の渇きを耐えてらっしゃる事は皆知っておりますし……
- 昨夜は私自身が見張りに立ちましたが、そのような不届き者は現れませんでした』
- 浅黒く日焼けした顔の半分を髭で覆われたその兵士は、裸の上半身に汗を浮かび上がらせている。
- モスコー地区でも比較的涼やかな山岳地帯とは言え、陽が頂点にある時刻となれば、やはり過ごしやすいとは言いがたい。
- ほぼ一方的に遠距離攻撃を仕掛けられる高みに陣を構えている優位もあって、
- 殆どの山塞軍将兵達が、似たような格好で陣内を歩き回っていた。
- 唯一の例外が、マスカレイド家の公女様である。
- 『椿の蕾か、一途な処女か』と言われるほど堅苦しく生真面目なレモナからすれば、やはり陣中では鎧を纏って欲しいと思う。
- が、主将であるツーやシャオランでさえ布地より素肌の割合が多いような服装なのだから、強く言う事も出来ない。
- そもそも、マタヨシ教の教えでは女性が人前で肌を晒す事を禁じている。
- 砂漠の魔女のように、布キレを肌に貼りつかせているだけの格好をしている者の方が、異常なのだ。
- 自称“男”のレモナであっても、これは譲れぬ範囲内の事であるらしく、
- 幕舎を出る際には青銀塗りの全身鎧を隙間なく着込み、暑苦しい戦外套まで纏っていた。
- そして、汗を浮かび上がらせた身体に、時折吹きつける風を浴びて涼しげな顔をしている男達を、もの羨ましそうに眺めては、
- 褌一枚の格好でフラフラと出歩く一部の者にいささか私怨の混ざった怒声をぶつけていたのである。
- 26: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:22:35.78 ID:/fcTSHIfP
- 兵士『ツー様には、水場に異常があったらすぐに伝えよと厳命されております。ですが……』
- 爪 ,_ノ`)『あぁ、分かってるさ』
- 兵士『我らが陣を構えた2月前と比べ、水位は半尺(約15cm)程下がっております。
- しかも、この数日の減りが早いようにも見えるのです。
- もし、水が枯れれば……我らは干からびて死ぬほかありません』
- |゚ノ ^∀^)『……』
- 山頂中央の大池は彼らの籠城戦を支える生命線であったからか、ツーはしつこい程に水の残量を気にしていた。
- この池があるからこそシャオランは山間の戦いで敗れた者達の逃亡先にこの地を選んだのであるし、
- 長期に亘る抗戦も可能であったのである。
- 兵士『いかがなさいましょうか? やはり、ツー様にお知らせした方が……』
- |゚ノ ^∀^)『いや、それには及ばないさ』
- そのツーの姿がこの場に無いのは、夜半から昼前まで続いた攻撃を凌ぎきり、幕舎内で仮眠を取っているからだ。
- 五日ほど前に増援が加わったのを機会に、寄せ手側の攻撃は一層激しいものとなった。
- その全てにおいて兵の戦闘に立つ魔女は、一日に1刻(約2時間)の睡眠も取れていないのではないだろうか?
- 神聖ピンク帝国出身の2人を含め、他の者は1日に2〜3刻(約4〜6時間)の睡眠を取っている。
- 当然、周囲はツーにも身体を休めるよう強く言っているのだが、彼女自身がなかなかそれを是としない。
- 陽の高いうちは頂に仁王立って敵陣に睨みをきかせ、夜は草を枕に星を眺めている。
- その姿は、まるで何かを待っているかのようであり……陽光が強く、包囲軍の動きもないであろう刻に、
- まどろむ程度の眠りに入るのだ。
- そんな彼女であったから、シャオランやレモナにも、この兵士がツーの睡眠を妨げたくない、苦労を増やしたくない
- と考える気持ちも十二分に理解できるのだった。
- 27: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:24:48.47 ID:/fcTSHIfP
- そんなツーを、忸怩たる思いで見ていたのが公女レモナだ。
- 【神都】モスコーでのモナーに対する高圧的な態度が、現状の引き金になったとの気持ちが、彼女の中にはある。
- 山間の戦いでツーが逃げ遅れたのも、流れ矢を受けて落馬した自分を救助に来たからだ。
- もっとも、ツーに言わせればモナーとフッサールの衝突は遅かれ早かれ起こっていた事であり、
- 失脚を恐れて国教会の軍門に降ったモナーの弱さや、彼の心の隙を突いたセント=ジョーンズにこそ非があるという事になる。
- また、もしレモナが逃げ遅れていなかったとしても、砂漠の魔女は負傷した兵がいる限り、戦場に残っていただろう。
- だが、それで心の重荷が取り除かれるほど、レモナは面の皮が厚いつもりはない。
- 徹底した理想主義者であり、一部の兵から【椿蕾公女】と呼ばれるレモナからすれば、あまりに自分が情けなく思えてしまう。
- 傷が癒えてから度々戦闘に参加するも、戦の専門家であるツーと比べれば明らかに劣っている点もあって、
- ここで魔術師を助けねば『男がすたる』というわけなのだ。
- |゚ノ ^∀^)『僕達がここに篭もってから2月が過ぎている。
- 使えば減って当然じゃないか。雨季も近いんだ。雨さえ降れば元に戻るさ』
- 爪 ,_ノ`)『……地元の老人から、湧き池だと聞いていたのだがな』
- |゚ノ ^∀^)『そんなのアテになるもんか。溜め池だったんだよ。
- ともかく、一日も早くフッサールが戻って来てくれるのを待つしかないんだ。
- 皆には悪いが、今まで以上に節水を心がけるしか無いだろう』
- レモナの言うとおり、他に取るべき手段も無かったから、
- その場は『節約する』と言う結論が出ただけで終わってしまった。
- 後世の歴史家達の中には、この時の判断の甘さを責める者も多いが、それは酷と言うものだ。
- 三日月刀を振るわせれば一流のシャオランも、本来は一介の商人に過ぎない。
- レモナにいたっては騎士装束を纏ってはいても、ただの経済家。戦場に立った経験など片手で数えられるほどしかない、お嬢様なのだから。
- けれど、もしこの場に戦場のスペシャリストである【不敗の魔術師】ツーがいたとしたら……。
- 彼らの未来も大きく変わっていたに違いない。
- 30: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:28:11.60 ID:/fcTSHIfP
- ※ ※ ※
- (;*-∀-)『……はぁ』
- その翌日。
- ツーは、自身の幕舎に入りこむなり、大きな溜息を吐き出した。
- 中央の大柱を中心に四本の柱を地に打ちこみ、油紙を挟んだ麻布を被せただけの
- 簡素な幕舎の広さは3間(約5m)四方。
- 木箱を引っ繰り返した卓と、寝布(地に打ち付けた4本の杭に麻布の4隅を縛りつけた、ハンモック式の寝具)
- があるのみで、他の兵士達が雑魚寝をしている幕舎と全く同じ造りのものだ。
- 更なる違いと言えば、舎内に香木を焚いた煙がたちこめている事くらいだろうか。
- 喰う物にも困る山塞で香木とはあまりに不似合いだが、
- これは元々シャオランが本国で売り捌こうと買い集めていたものだ。
- 香木など飯を炊く焚き木にもならないし、喰う事も出来ないから、兵士達は見向きもしなかった。
- それを、後日払いの約束でツーが買い取ったのである。
- メンヘル族女性の例に漏れず、彼女もまた香浴や水浴びは大好きだったから、これは大変にありがたかった。
- 足に纏わりつく腰布を乱暴に解き、汗を拭った手巾と共に寝布に放り投げる。
- 寝布は備え付け式の寝台と比べて持ち運びが易く、何よりも風通しが良い。
- 寝台の代用品として使われる時もあるが、それ自体の優れた特色を好んで愛用する者も多かった。
- 自らも前のめりに倒れこむようにしてそれに飛び込んだツーは、
- しばらくそのまま『あ〜』とか『う〜』とか唸っていたのだが、
- やがて尻にくい込んでいた黒い肌着を人差し指で直すと、ゴロリと仰向けに寝返りをうつ。
- 31 名前: てーせい ◆COOK./Fzzo 投稿日: 2010/07/11(日) 22:30:14.18 ID:/fcTSHIfP
- ※ ※ ※
- (;*-∀-)『……はぁ』
- その翌日。
- ツーは、自身の幕舎に入りこむなり、大きな溜息を吐き出した。
- 中央の大柱を中心に四本の柱を地に打ちこみ、油紙を挟んだ麻布を被せただけの
- 簡素な幕舎の広さは3間(約5m)四方。
- 木箱を引っ繰り返した卓と、寝布(地に打ち付けた4本の杭に麻布の4隅を縛りつけた、ハンモック式の寝具)
- があるのみで、他の兵士達が雑魚寝をしている幕舎と全く同じ造りのものだ。
- 更なる違いと言えば、舎内に香木を焚いた煙がたちこめている事くらいだろうか。
- 喰う物にも困る山塞で香木とはあまりに不似合いだが、
- これは元々シャオランが本国で売り捌こうと買い集めていたものだ。
- 香木など飯を炊く焚き木にもならないし、喰う事も出来ないから、兵士達は見向きもしなかった。
- それを、後日払いの約束でツーが買い取ったのである。
- メンヘル族女性の例に漏れず、彼女もまた香浴や水浴びは大好きだったから、これは大変にありがたかった。
- 足に纏わりつく腰布を乱暴に解き、汗を拭った手巾と共に寝布に放り投げる。
- 寝布は備え付け式の寝台と比べて持ち運びが易く、何よりも風通しが良い。
- 寝台の代用品として使われる時もあるが、それ自体の優れた特色を好んで愛用する者も多かった。
- 自らも前のめりに倒れこむようにしてそれに飛び込んだツーは、
- しばらくそのまま『あ〜』とか『う〜』とか唸っていたのだが、
- やがて尻にくい込んでいた黒い肌着を人差し指で直すと、ゴロリと仰向けに寝転んだ。
- (;*-∀-)『さて……どーするかねぇ』
- 32: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:31:05.94 ID:/fcTSHIfP
- 考えるのは、この戦の結末についてだ。
- 日永の頃(夏至)も過ぎ去り、気温も少しずつ下がっていけば、当然包囲軍の攻撃も厳しさを増すだろう。
- 今でこそ、ありがたい事に士気の高い山塞軍であるが、
- 現状より攻撃が厳しくなれば、それを維持し続けるのは難しい。
- また、多くの負傷者と共に逃げ込んできただけあって、医薬品は決定的に足りていなかった。
- 一部の兵達が林から薬として使える草花を集めてくるのだが、やはりその量にも限界がある。
- (;*-∀-)『……腹、へってるだろうなぁ』
- 左手の人差し指と親指で輪を作り、右手首に当ててみると、やはり大きく隙間が出来ている。
- 元々、戦場で鍛えあげられた彼女の身体は、女としての豊かさを残しつつも細やかで、
- 若竹が如く肢体と褒め称えられた事もあった。
- 確かに当時から手首に当てた指の輪に隙間はあったが、今ではそれも幾らか広がってしまっているようだ。
- 元々『一月も頑張れば援軍が来る』と言い聞かせていた戦いも、既にその倍の日数が経過しようとしている。
- 食料の不足は、何よりも深刻だった。
- 最後に肉を口に入れたのはいつだっただろうと思う。
- 数頭だけ連れてきていた軍馬はとっくに食い潰してしまっていた。
- 山鳥の巣もあらかた探し尽くしてしまったようだし、
- 頭上を鳥の群れが行く時はここぞとばかりに弓矢の使用を許したが、全員に配れば、ほんの僅かな量しか行き渡らない。
- 大のおとなが肩を寄せ合い、最後まで未練がましく骨をしゃぶっていたものだ。
- 山育ちの者は樹木から何かの幼虫をほじり出して喰っている。
- 山塞軍にとって救いとなるのは、刀剣や槍。甲冑などの近接戦闘用装備に劣えが無い事であろう。
- また、負傷者の傷も癒え、傷兵の数だけで言えば連日攻撃に失敗している包囲軍の方が圧倒的に多い筈である。
- 敵も味方もこの戦いの勝敗を分けるのがフッサールの帰還“のみ”と考えている今。
- 今ならば、第三の手を打てる。いや、その手を実行するならば今しか無いように思えた。
- (*゚∀゚)『……夜は、駄目さね』
- 35: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:33:34.49 ID:/fcTSHIfP
- 第三の手。
- それすなわち、戦場からの逃亡である。
- 包囲軍が、自分達がひたすら閉じ篭ってフッサールの帰還を待っているしか出来ない、と考えているならば、
- 突然の反攻は奇襲として成功する確率が高い。
- そう思いこませるように、ひたすら守りに専念してきたのだ。
- もしも父が帰らなかった時の為に、魔女は不敗の策を練りあげていたのだ。
- とは言え、夜陰に任せての脱出など不可能に等しい。
- 流石にそれくらいは警戒されているだろう。ならばそれは、罠の中に自ら飛び込むような物。愚の骨頂だ。
- 策を実行するならば昼が良い。今にも雨が降り出しそうな天候なら最高だ。
- 普段通りの攻撃を凌ぎきった直後、雪崩れ込むように敵陣に突っ込み、道を切り開く。
- そうしてそのまま、雨に紛れて南東へ逃亡するのだ。
- 高台からの観察で、敵陣内の構えは眼を閉じていても描けるほど、鮮明に記憶している。
- 馬小屋や食料庫、将官の幕舎などに集中して火矢を射ち込めば混乱も大きくなるだろうし、
- 使用を禁じてきただけあって矢の備蓄は十分にある。
- 雨が降れば火など消えてしまうだろうが構わない。その時は既に自分達は山の奥にいるだろうからだ。
- 双子砦を経由せず直接アーリー湖に入ってしまえば、そこはもうリーマン族の勢力下。
- 追撃の手も届かない。更に南へ下り、シーブリーズに入れれば、海の民の助力も仰げるだろう。
- (*゚∀゚)『よしっ!!』
- 小さく気合を入れ、立ち上がる。
- シャオランやレモナを呼び寄せ、策を明かそうと考えていた時、一人の兵士が幕舎に飛び込んできた。
- 兵士『ツ、ツー様!! 一大事ですっ!!』
- (*゚∀゚)『ひゃ?』
- 36: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:36:11.97 ID:/fcTSHIfP
- ※ ※ ※
- |゚ノ;^∀^)『これは……何でこんな事に……』
- 爪;,_ノ`)『……どうなってやがるんだ』
- 山頂に立て篭もる兵士のほとんどが、そこには集まっていた。
- 中には何らかの当番であったにも拘らず、その場にいる者もいたのではないだろうか?
- それほどまでに事態は貧窮していると言わざるをえず。
- ある者は呆然と。ある者は自失とした表情で、彼らの生命線とも言える大池を見つめている。
- 兵士『終わった……何もかも、お終いだ……』
- 絶望の嘆きと共に、1人の兵士が膝から崩れ落ちた。
- しかし、それを責める者は一人として存在しない。
- 誰もが彼と同じ思いで、顔を青ざめさせている。
- 死の牙が自身の影を捕らえている事に気付き、ただただ立ち尽くしているのだ。
- 山塞を支える生命線である大池は。
- いや、彼らの前にある物は、既に池と呼べる物ではなかった。
- 僅か一晩にして、水位は中央の窪みに少し大きめの盆程度の量が残っているほどまで下がってしまっている。
- 水底に沈んでいた枯葉は陽光に照らされ、じっとりと横たわっていて。
- 池の縁の大地は、早くも乾いて干からび、ひびが入り始めていた。
- (;*゚∀゚)『っ!! なんだい、これはっ!?』
- そこへ、兵の輪を掻き分けてツーが到着する。
- 惨状を目にするなり、周囲の兵に怒鳴りつけた。
- 38: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:38:56.48 ID:/fcTSHIfP
- |゚ノ;^∀^)『ツ……ツー……』
- (#*゚∀゚)『水に異変があったらすぐに言うよう、厳命した筈さっ!! 何故、誰も知らせなかったんだいっ!?』
- |゚ノ;^∀^)『そ、それは……でも、少し水がなくなったからって、僕達には雨が降るのを待つくらいしか……』
- (#*゚∀゚)『違うっ!! そんな事は問題じゃないさねっ!!』
- 苛立ちを隠しきれぬかのように、地団駄を踏む。
- 父である【天使の塵】フッサールや義妹【光明の巫女】シューであれば、
- 『水の異変に気をつけろ』と言えば、己の意を汲み取ってくれただろう。
- しかし、レモナやシャオランは戦場に生きてきた人間ではない。
- であれば、これは己の失態だ。
- 彼ら2人を過信し、細やかな説明が足りなさ過ぎた。
- 既に手遅れと知りつつも、言葉を続ける。
- (#*゚∀゚)『何故、水に異変が起きるか分かるかいっ!? 一番警戒しなきゃならないのは……』
- が、魔術師の声は突如“陣中”から響きわたった鐘の音に掻き消された。
- それと同時に山塞を包囲する8方の敵陣から時の声が挙がる。
- 見張りに回っていた兵士達の、悲鳴にも似た断末魔の絶叫が、全ての者達の鼓膜を揺らした。
- そして、その声が奇しくも魔女の言葉を代弁する事となる。
- それは、すなわち……。
- ─────うわあああああぁぁぁっ!! 敵襲、敵襲!! 穴攻めだぁぁぁっ!!!!!!!!
- 39: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:41:39.43 ID:/fcTSHIfP
- |゚ノii^∀^)『穴攻め……そんな……それじゃ……』
- (#*゚∀゚)『ちぃっ!! 早すぎるっ!!』
- レモナの震える声に答えてやるだけの余裕は無かった。
- 兵を押し退け、駆け出す。
- 視界が開けた瞬間、現れた敵兵を、すぐ側で立ち尽くしていた兵から奪った長剣で斬り倒した。
- (#*゚∀゚)『ボーっとしてるんじゃないよっ!! 生きる為には今、何をしなきゃならないか分かるだろっ!?』
- その一言で、兵士達は我に返る。
- どれだけの敵兵が入り込んでいるか分からぬが、どのみち剣を振るう以外の選択肢など残っていないのだ。
- 何故、ツーが水をずっと気にしていたか。
- 真なる答えがこれである。
- 外から崩すのが困難となれば、包囲軍は必ず内側から切り崩そうと動いてくるだろう。
- 穴を掘って攻めて来るとなれば、必ず水脈に異変を起こす。水に変化が現れる。
- そう考えての厳命だったのだ。
- |゚ノii ∀ )『僕は……僕は何て馬鹿なんだ……』
- (#*゚∀゚)『しっかりしておくれっ!! まだ……まだ、策はある!!』
- 崩れ落ちそうになるレモナの頬に、平手をうった。
- 今は彼女を優しく慰めてやっている暇などない。
- 自力で立ち上がってもらうほか無いのだ。
- 戦況を知らせようと、駆けつけてきた兵に怒鳴るようにして命じた。
- (#*゚∀゚)『砂亀を連れてきてるだけ引き出しなっ!! それと、アタシ様の刀を持ってきておくれっ!!
- これより、血路を切りひらくよっ!! 何としてでも、生き抜くんだっ!!』
- 44: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:44:41.61 ID:/fcTSHIfP
- (#*゚∀゚)『諦めたらそこで戦終了だよっ!! アタシ様にはまだ最後の策が残ってるさっ!!
- もがいて抗って、何が何でも生き残るんだっ!!』
- 兵士から受け取った三本の山刀を素早く腰につけ、ツーは駆け出した。
- 穴を抜けてきた者達の仕業だろうか。
- 山塞にはあちらこちらで黒煙があがり始めている。
- 既に山肌を登り終えた兵も陣中に斬りこみ始めており、2ヶ月間共に戦ってきた友が、いたる所で地に伏せっていた。
- (#*゚∀゚)『拳を振るえ!! 剣を払え!! 槍を突き立てるさっ!!
- こんなところで一物縮ませながら死ぬのが本望なのかいっ!?
- ここを生き延びて、アタシ様を押し倒すくらいの男気を見しておくれよっ!!』
- かみつき丸となぐり丸。左右の手にした山刀を振るい、叫んだ
- 赤い雨を全身に浴び、血の虹を幾重にも宙に描き出す。
- 必死に兵を鼓舞しながらも、心のどこかで敗北を悟っていた。
- 何故なら、返って来る声の響きは、断末魔の呻きと絶望の叫びだけだったから。
- 山塞の兵達は、ただ一方的に殺戮されているだけなのだ。
- これほどまでに早く周囲に火をつけられると言う事は、おそらく周到な準備を整えていたのだろう。
- 対する自軍は、奇襲に対する備えを欠き、多くの者が何が起こったのか分からぬままに倒れ伏していく。
- 万全の体制で奇襲に臨んだ包囲軍と、甲冑すら着込んでいない山塞軍。
- 両者の間で明らかな差が現れていた。
- いや、もしツー配下の兵達が甲冑を着込んでいたとしても、結果は変わるまい。
- 山塞への侵入を許し、命の要とも言える水は枯れ果てた。
- もし、この襲撃を防ぎきったとしても、これ以上の籠城は出来まい。
- 張り詰めていた戦意の糸が、プツリと断ち切られてしまったのだ。
- 圧倒的な数の不利もあって、あたかも炎を前にした藁山が如く、山塞軍は蹂躙されていく。
- 爪;,_ノ`)『こっちだ!! こっちはまだ兵の壁が薄い!! 何とか抜けられる!!』
- 49: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:47:11.95 ID:/fcTSHIfP
- 元・塩商人の声がする方に駆けた。
- 切り立った山頂の縁、眼下を見下ろすと確かに、そこだけ線を引いたかのように敵兵が少ない。
- が、その先には2人の男が立っていて。
- 山間の戦いで見た援軍の男と、常に【預言者】モナーの側にあった赤毛の巨漢。
- 先の者は、稚拙な遊戯でも楽しんでいるかのような笑みを浮かべて。
- 後の男は、既に見飽きた芝居でも鑑賞しているかのような目で、ただ山頂を見上げている。
- |゚ノii ∀ )『セント=ジョーンズだ……ジョーンズ家の公子……国教会教皇の息子……』
- (*゚∀゚)『……へぇ。って事は、あれが総大将ってワケかいっ!?』
- ペロリと唇を舐め、答える。
- 罠だと言う事は分かっていた。
- 網の一部を空けておき、誘導するのは包囲戦における初歩中の初歩とも言える兵法だ。
- いや、既に罠ですらないのかもしれない。
- ただ、待っている。誘っているのだ。おそらく、勝ちは万に一つも揺るがないと思っているのだろう。
- 普通であれば、罠の中に誘導しようと思えば兵を伏せるのが常だ。
- それをしないというのは、セント=ジョーンズと言うのは相当な自信家であると言う事。
- そして、決して兵法に明るくなく、机上の知識だけで万事が上手くいくと考えるタイプに違いない。
- しかし。
- それで、不敗の魔女は決意する。
- 目の前に聳え立つ、敗戦という名の壁を討ち破る策は……もう、一つしか残されていない。
- (*゚∀゚)『……シャオラン』
- 爪 ,_ノ`)『あ?』
- (*゚∀゚)『レモナを……頼めるかい?』
- 52: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:49:57.48 ID:/fcTSHIfP
- |゚ノ#^∀^)『そんな……こんな事になっても僕は役立たずなのか!?
- 嫌だッ!! 僕も戦うぞっ!!』
- (*゚∀゚)『……黙っておくれ。悪いけど……レモナの意見は聞いてないさ』
- |゚ノ;^∀^)『……っ』
- ツーの全身から発する静かな気迫に押され、思わずレモナは後ずさった。
- 2ヶ月間、共に暮らしてきてこれほどまでに剣気を漲らせているツーを、彼女は見た事がなく。
- いや、21年間の人生で初めて知る感覚であった。
- よろめく肩を背後からしっかと掴み、シャオランは答える。
- 爪 ,_ノ`)『高くつくぜ。最低でも純金5貫(約50kg)だな』
- |゚ノ;^∀^)『っ!! シャオラン、お前っ!!』
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃっ!! 安いもんだっ!! 3倍にして払ってやるさねっ!!』
- 愉快そうに笑う魔術師の背後に、砂亀が並べられた。
- 手足と首を甲羅の中に引っ込め、甲羅を下にゴロンと引っ繰り返されている。
- その数、15頭。
- 1000頭を数えていた筈の、砂亀騎士団。これが今の総兵力だった。
- |゚ノ;^∀^)『止めろ、ツー……特攻なんて無謀なだけだ……。
- ここは諦めて降ろう……。生きてさえいれば、道が開けるかもしれないじゃないか……』
- (*゚∀゚)『ひゃ? 何言ってんだい、この子は』
- 言って、ツーは白い歯をむき出しにして、ニィと笑った。
- 一本だけ立てた人差し指を、チッチッと顔の前で左右に振って見せる。
- 54: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:52:24.03 ID:/fcTSHIfP
- (*゚∀゚)『諦める? 生きてさえいれば? 馬鹿チンな事お言いでないよっ!!
- アタシ様はね、何故アタシ様が“不敗”で“魔術師”なのか? それをヤツラに教えてやりに行くのさっ!!』
- |゚ノ;^∀^)。oO(……嘘だ)
- ツーの言葉を耳にした公女は、即座にそう思った。
- 絶望的な戦況。
- 勝利を手にする事は、大海の水を飲み干すよりも難しい。
- ならば、この“敗北”を“痛み分け”のレベルまで昇華させるには、何をするべきか?
- レモナが考えついた答えは、“相打ち”である。
- 山塞軍総将ツーと、包囲軍総将セント=ジョーンズが共に戦場に散る。
- 仮にそうなれば、この戦は山塞軍の一方的な“敗北”に終わらなくなる。
- そして、もしセント=ジョーンズを斬ったとしても、十重二十重に包囲された砂漠の魔女は、
- 思いつく限りの屈辱を受けた後、全身を鱠(なます)と刻まれ殺されるだろう。
- (*゚∀゚)『悪いね、レモナっ!! 本当ならアタシ様の勇姿を前に萌え萌え濡れ濡れにしてやりたいところなんだけどさっ……』
- |゚ノ ∀ )『僕は……男だ』
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃひゃひゃっ!! この期に及んでもそれだけの元気があれば十分さねっ!!
- だったら、アタシ様の勇姿を想像してカウパーだくだく垂れ流しておくれっ!!』
- ツーの決して上品とは言えぬ冗談に、周囲の者達はドッと笑った。
- だが、その表情はどこか寂しげで。
- 揺るぎない決意を秘めた者だけが持てる。
- 死の覚悟を悟った、もしくはそれ以上の覚悟を決めた者だけが浮かべられる笑顔だった。
- 故にレモナもまた、涙を流し、何時の間にか口の中に入り込んだ砂粒をジャリと噛みしめながらも、笑う。
- そうするより他に、どうして彼らを送り出す事が出来ようか。
- 決意を込めた者に対する礼は、決意を持って返す以外に無いのだから。
- 56: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:55:52.51 ID:/fcTSHIfP
- 爪 ,_ノ`)『おい。純金15貫、忘れるんじゃねぇぜ。もし約を違えたら……女が金を稼ぐ手段くらいは心得てるつもりだからな』
- 法王庁に身を置くシャオランにとって、公女レモナの身の安全は全てに優先される。
- ツーの命を軽んじるワケではないが、それはあくまで二の次になるのだ。
- そして、夢想が如き可能性を。セント=ジョーンズを討ち、尚且つ砂漠の魔女が生還すると言う奇跡を口に出せるほど、
- 彼は青臭い性格を持ち合わせていない。
- かと言って、死地に足を踏み入れようとする者を黙って送り出せるほど、冷淡にもなりきれない男なのだ。
- それが分かるからこそ、ツーは楽しげに笑う。
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃっ!! それは遠慮願いたいねぇっ!! 乙女の純潔は一人だけに捧げると決めてるんさっ!!』
- 爪 ,_ノ`)『よく言うぜ。尻の穴まで開発済みってツラしやがってよ』
- (*゚∀゚)『ひゃっ。そう思うなら、アタシ様を惚れさせてみなっ!! 寝台の中で答えあわせとシャレこもうじゃないかっ!?』
- 言って、ツーはシャオランの耳元に唇を近づけた。
- 2・3言何かを呟き、商人の目が驚きに見開かれたのを確認してから、最高の笑みを浮かべる。
- (*゚∀゚)『言った筈さっ。 何故アタシ様が“不敗”で“魔術師”なのか、教えてやるってねっ!!』
- そうして、魔女は自身の愛亀・ペニス丸の硬い腹に左足を乗せた。
- 右手にした神刀を天に掲げ、叫ぶ。
- (*゚∀゚)『行くよ、お前らっ!! 何があっても生きて還るんだっ!! 背いたヤツは死刑にしてやるさねっ!!』
- と、同時に右足が力強く大地を蹴った。
- その勢いで砂亀は山頂の縁を飛び出し、魔女を背に岩肌を滑り降りていく。
- そして、それが合図であるかのように、残る14人の砂亀乗り達も彼女に続いた。
- 【不敗の魔術師】を先頭に、やがて爆発的な加速度を纏った15頭の弾丸は、一息に包囲軍本陣目がけて突撃して行く。
- 58: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:58:07.04 ID:/fcTSHIfP
- (#*゚∀゚)『あひゃーっ!!』
- 横薙ぎに振るわれた大剣を身を屈めて避わした。
- すれ違い様、山刀の一閃でその兵士の腹を叩き斬る。
- 血飛沫が噴き上げるより早く、彼女は次の敵兵に迫っていた。
- (#*゚∀゚)『ひゃ、ひゃーっ!!』
- メン;'A`)『う……うわぁっ』
- 神;'A`)『ひえぇっ!?』
- 突進力を加算した“つらぬき丸”がメンヘル族兵士の左胸に巨大な風穴を空け、
- “なぐり丸”の刃が国教会兵士をなめし皮の鎧ごと横一文字に両断する。
- 自らの死に気づく事も出来ずに倒れこもうとする身体を、次なる砂亀が邪魔だとばかりに撥ね飛ばした。
- 更に別の砂亀の進路に放り出された身は、大槍に払われ、盾に殴られ……
- それを数度繰り返した後、大地に衝突した時には無残な肉片へと変わり果てている。
- ただ勢いに任せて滑り降りるだけでなく、体重を左右に移動させる事で山肌を縦横無尽に滑走する。
- それがメンヘル強襲部隊・砂亀騎士団の真なる戦い方であった。
- その独特の戦法ゆえ、同じ強襲部隊でもヴィップの【急先鋒】ジョルジュ率いる【薔薇の騎士団】とは、
- 平地でぶつかれば勝機は少ない。
- が、逆にこのスピリタス周辺のような起伏の激しい土地ほど真価を発揮する。
- 騎兵がその機動力を生かしきれない荒れ地こそ、彼らの活躍の場所なのだ。
- その姿を一言で言い表すならば、まさに“奇兵”。
- 砂漠の魔女と呼ばれ、宙を自在に駆け巡る【不敗の魔術師】に相応しい兵団であった。
- 60: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:00:48.47 ID:/fcTSHIfP
- (#*゚∀゚)『怪我したくなければ家に帰りなっ!!』
- 眼前に5人の兵士を確認したツーが、宙に舞った。
- 砂塵を巻き上げ疾走する砂亀の体当たりに容易く弾き飛ばされた、兵達の頭上を飛び越える。
- 降り立ったのは当然のように、愛亀の腹の上だ。
- 着地と同時、左方へほぼ直角に方向転換。ギョッとした顔の兵の首を刎ね飛ばす。
- (’e’) 『魔女め……』
- その光景を目に、苦々しげに漏らした。
- しかめた眉の角度すら、他人の視線を計算しているのでは無いかと思える。
- セント=ジョーンズの視界において、戦況は完全に逆転していた。
- 曲芸師が如く動きで包囲軍を翻弄しているのは、彼女だけではない。
- 15騎の砂亀使い、その全てが意思を持った矢のように戦場を疾駆しているのだ。
- ある者は体重を前方にかけて加速度を増し、またある者は砂亀ごと跳躍して着地点の敵兵を押し潰す。
- 数十倍の兵力差を物ともせず、血煙の中を駆け巡る。
- 広く戦場を見渡せば、それも虚しい抵抗だと。水に拳を打ち込むような行為だと、分かるだろう。
- しかし、それすらもセント=ジョーンズは不快に感じていた。
- なにせ、己の意にそぐわぬならば、蝋燭が燃え尽きる間際に見せる一瞬の輝きすらも許しがたいと思うような男なのだ。
- (#*゚∀゚)『セント=ジョーンズゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!』
- (’e’) 『……ちっ』
- そして、遂に魔術師はセント=ジョーンズを射程圏内に捕らえた。
- 岩肌の小山をジャンプ台に飛翔、そのまま隕石がように突っ込んでいく。舌打ちを一つ、公子は半歩、後退した。
- (#*゚∀゚)『その首……貰ったさぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!』
- 63: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:02:51.33 ID:/fcTSHIfP
- その時。赤毛の巨漢が、待っていたとばかりにセント=ジョーンズの前に立ち塞がった。
- 迫り来る火の玉を前にして、表情一つ動かさず、両腕を突き出して身構える。
- (#*゚∀゚)『邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!』
- (#゚∋゚)『クックドゥルドゥッドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!』
- ツーの愛亀の甲羅と、クックルの厚い胸板が衝突した。
- 小さな家屋であれば一撃で吹き飛ばすほどの破壊力を持つそれを、正面から受け止める。
- 生身の人間が、全速で突っ込んでくる軽自動車と対峙するような物だ。
- ズシン、と深い衝撃が大気を揺らし、踏み込んだ両足は堪えきれず、大地を滑った。
- (#゚∋゚)『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!!!!』
- しかし、それでもクックルは倒れない。
- 腰をズンと深く落とし、弾き飛ばされそうになるのを必死に耐える。
- 全身の筋肉が隆起し、こめかみに浮かんだ血管が弾けて、赤い液体が噴き出した。
- そして、ついに。
- (#゚∋゚)『ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!!!!』
- 轟叫一閃!!
- 鍛えあげられた肉体が、爆発的な加速度を纏った砂亀に勝利した。
- 全身の筋肉をフル稼働させ、ペニス丸を放り飛ばす。
- 数人の兵士がそれに巻き込まれて、弾き飛ばされた。
- そして。
- 兵士『…………え?』
- ツーの姿は、地上の何処にも無い。
- 67: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:06:07.61 ID:/fcTSHIfP
- (#*゚∀゚)『クックルゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!!!』
- 兵士『上っ!?』
- クックルからすれば突如、陽が翳ったように思えただろう。
- 見上げれば、太陽を背に魔術師が山刀を振りかざし、降下してくる。
- ペニス丸とクックルが衝突した瞬間、魔女は甲羅を蹴って宙に舞っていたのだ。
- 2年前、ヴィップの内乱に乗じてメンヘル軍がギムレットに侵攻した、山道の戦い。
- 【白鷲】フィレンクトを相手に幾度となく披露された、上空からの攻撃術は、
- 父である【天使の塵】フッサールや兄の【九紋竜】ギコには無い物。
- むしろ、【王家の猟犬】ブーンや【天翔ける給士】ハインの得意とする、瞬歩法に近しい。
- 神速の移動を出来ぬ代わりに、跳躍技術にのみ重みをおいた移動法というべきだろうか?
- その分野に限定すれば、【天翔ける】を名乗るを許された者とすら、五分に渡り合えるやもしれぬ。
- (#*゚∀゚)『あひゃーーーーーーーーっ!!!!!』
- (#゚∋゚)『ヌン!!』
- 振り下ろされた山刀を、振り上げた拳が迎撃した。
- これがもし、2月前に繰り広げられた山間の戦いの際に展開された光景であれば、
- 如何に鍛えあげた筋肉を誇ろうとも巨人の腕は肩まで両断されていた事だろう。
- が、ガギンと激しい金属音と共に青い火花が宙に舞い散り、魔女の身体は錐揉みうつように吹き飛ばされた。
- しかし、それもまたツーには想定されていた事態なのだろう。
- 接触の刹那、クックルの拳が陽光を反射したのを一瞬で見てとったからだ。
- 回転の勢いを殺さず、逆に完全に生かしきって空中で身を捻ると、体勢を見事に立て直した。
- そして、巨人の両の腕には、ツーの太腿ほどはあろうかと言う巨大な鉄甲が輝いている。
- 69: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:10:46.09 ID:/fcTSHIfP
- (*゚∀゚)『へぇ、それがアンタの獲物かいっ!? 初めて見たさっ!!』
- 体を猫のように丸め、砂埃一つ立てずにツーが着地した。
- ニィと唇の両端を持ち上げると、姿勢を半身に開き、両の神刀を十字に交差させ身構える。
- 踵を僅かに浮かせた足を見れば、何時でも放たれた矢が如く飛び出せる心構えが出来ているのは明らかだった。
- ( ゚∋゚)『……遊びの時間はもう終わりと言う事だ』
- 対するクックルは、両手をダラリと突き出し襲撃に備える。
- ペニス丸の一撃を跳ね返した時の様に腰を深く落とした姿勢は、迎撃に専念するつもりなのであろう。
- (’e’) 『よくやったぞ、木偶!! そのまま魔女を捕らえるのだ!! 殺す事は許さんぞ!!』
- 興奮気味に叫ぶセント=ジョーンズを、ツーは侮蔑を込めた瞳で一瞥した。
- 彼女とて軽々しく他者を蔑視する性格ではない。
- が、その言動を聞けば、少なくともこの男が尊敬の対象に当たらぬ事はあまりにも明確だった。
- 軽々しく蔑視せぬ代わりと言うわけでもないだろうが、尊敬できぬ者に敬意を払うほど自分を安く売るつもりは無いのだ。
- 故に、魔女が選んだ選択肢は……無視。
- ただただ、目の前の巨人にだけ全神経を集中させる。
- (*゚∀゚)『アンタの飼い主が何か吼えてるよっ!!
- モナーの次はセント=ジョーンズ……アンタもつくづく萌えってもんを分かってないねぇっ!!』
- ( ゚∋゚)『黙れ。俺は誰かに飼われた事などない。これまでも……これからも、だ』
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃっ!! 鶏程度の脳味噌でも、その程度の分別はあるんだねっ!! 感心したさっ!!』
- 赤毛の巨人が先手を打ってくる事は、間違いなくあるまい。
- そして、2人が対峙するは、包囲軍陣中。
- 長期戦は不利と察した魔女が、先に仕掛けた。
- 76: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:26:57.70 ID:/fcTSHIfP
- (*゚∀゚)『ばっびょぉぉぉぉぉぉぉっん!!』
- 助走をつけ、小さく跳躍。
- 着地の瞬間に深く沈みこみ、全身のバネを使って高く高く飛翔する。
- ( ゚∋゚)『馬鹿の一つ覚えか』
- 全体重を乗せた上空からの攻撃は、破壊力を増すという目的だけでなく、ツー自身の非力さを補う手段でもある。
- その威力はまさに一撃必殺。
- まともに喰らえば、重装兵すら脳天から股下まで叩き斬るほどの攻撃力を秘めている。
- けれども、その分大振りにならざるを得ず、見極められやすく、また隙も大きい。
- 故に本来であれば、先のような奇襲や連撃を可能とさせる狭地においてのみ活用される物であり、
- この攻撃はあまりにも単純すぎるように思えた。
- (*゚∀゚)『さっきは1本……今度は、2本さっ!!!!』
- ( ゚∋゚)『その程度……叩き折ってくれる!!』
- クックルが天に向けて突き上げた拳と、ツーが左右の手にした山刀が、再び火花を散らした。
- その光景を見守っていた兵達は、その瞬間、衝撃波に吹き飛ばされる錯覚を覚える。
- いや、事実として2人の攻撃にはそれほどの剣気が込められていたのだろう。
- (*゚∀゚)『ひーひゃーっ!!』
- ( ゚∋゚)『っ!?』
- そして、直前と全く同じ攻撃を繰り返すほど、魔術師の底は浅くなかった。
- 鉄甲と刃がぶつかった瞬間、両足を大きく広げ、跳び箱の要領で巨人の頭上を飛び越えたのだ。
- クックルの背後、空中で身を捻り、無防備な延髄に蹴りを叩き込む。
- 流石の巨漢もよろめき、たたらを踏んだ。
- 77: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:28:37.93 ID:/fcTSHIfP
- (;*゚∀゚)『……ちっ』
- しかし、それまで。
- 鍛えあげた首の筋肉は、衝撃を最小限に押さえ、脳を揺らす事もない。
- 静かに振り返り、魔術師を睨み据える。
- 全くダメージは無いとでも言いたげに、ゴキゴキと首の関節を鳴らして見せた。
- ( ゚∋゚)『いいぞ。そうでなければ面白くない』
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃひゃひゃっ!! 遊びは終わり、じゃなかったのかいっ!?』
- 言うや、地を蹴って巨人に迫る。
- 跳躍するかと思いきや、そのままフェイントすら入れずに直進。
- 自身の胸の先がクックルの身体に接触する直前で、ピタリと静止する。
- その顔を真下から見上げ、挑発するかのようにニヤリと笑った。
- ( ゚∋゚)『……シッ!!』
- 何の前触れもなく、クックルの右腕が横薙ぎに振るわれる。
- 当たれば即死。かすめただけでも脳震盪を起こすであろう一撃を、ツーはしゃがみこむようにして避わした。
- 更に、大男の股間を正面から渾身の力で蹴りあげる。
- そのまま後方に連続回転して、再び距離を広げた。
- (;*゚∀゚)『……これも駄目なのかいっ!?』
- 呆れたふうに溢す。
- 先の延髄と同じく、人体の急所である睾丸への攻撃。
- それをまともに受けてなお、巨人は平然としていた。
- それどころか、数多くの引き出しを持つツーに攻撃の選択権を与える不利を悟ったか。
- 地を揺らして魔術師に襲い掛かる。
- 78: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:30:17.64 ID:/fcTSHIfP
- (;*゚∀゚)『わわっ!?』
- 慌ててツーは背後に飛び退いた。
- 筋骨に恵まれたクックルの巨体は、最小限の動作だけで彼女の全力攻撃以上の破壊力を持つ一撃を生み出せる。
- フェイントも何も無い、ただひたすらに振るわれる連撃を、魔術師は必死に捌いた。
- 鉄の拳と神刀がぶつかるたび、蒼い火花が宙に煌く。
- (;*゚∀゚)『ちょ、ちょっと待ちなって!! あんっ、そこは駄目だって!?』
- 両腕を素早く振るいながら、焦りをこめた口調でツーは騒ぎたてた。
- 彼女が右手にするのは、厚刃の山刀“なぐり丸”。左手に持っているのは、のこぎり型の刃を持つ“かみつき丸”である。
- “なぐり丸”はともかくとして、3本の神刀の中で最も繊細な造りの“かみつき丸”は、クックルの剛拳とぶつけあうには分が悪い。
- 刃を折る剣である“かみつき丸”は、単純な打撃を前にしてはどうしても相性が良くないからだ。
- そして、そうとなれば魔女の決断は早かった。
- お手玉のように左手の神刀を宙に放り投げると、空いた手で腰のギヤマン玉飾りを引き千切る。
- (*゚∀゚)『焔星っ!!!!!!』
- 顔面が蒼い炎に包まれ、巨人はほんの一瞬怯んだ。
- 焔星と名付けられたギヤマン玉に仕込まれた、発火性液体が効果を示すのはたったの数秒間。
- が、砂漠の魔女にはそれだけで十分な時間だった。
- 落下してくる“かみつき丸”を掴むと、腰の鞘に素早く戻し入れる。
- 次の瞬間には、円錐形の刃を持つ刺突用武器“つらぬき丸”がその手に握られていた。
- (*゚∀゚)『あっひゃーーーーーーっ!!!!!!』
- 気合と共に“つらぬき丸”を振り下ろした。
- 特殊形状の刃と、クックルの拳が衝突する。
- ガキン、と派手な音が鳴り響いて、初めて巨人は表情を顰め後退した。
- 81: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:32:37.94 ID:/fcTSHIfP
- ( ゚∋゚)『……やってくれる』
- 血の滴り落ちる右拳をまじまじと見つめながら、クックルは呟いた。
- 鋼鉄の手甲が、ものの見事にひしゃげ、陥没している。
- ツーの一撃は、巨人の獲物だけでなく、拳までも破壊していた。
- 当然、非力なツーの攻撃では本来ここまでの効果は発揮できない。
- が、刺突と受け流しに長けた“つらぬき丸”は、打撃武器としての破壊力も3本の山刀の中で最も優れており。
- 焔星によって目の眩んでいたクックルは、それを渾身の力で殴りつけてしまったのだ。
- 人並み外れた力量が災いし、自爆気味に負傷してしまったのである。
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃひゃひゃっ!! 神話の国より齎された妖精銀の刀に、ただの鉄が敵うと思うのかいっ!?』
- これを好機と見るや、ツーが仕掛けた。
- 彼女自身の左手も酷く痺れているが、回復を待つ暇はない。
- 再び攻守が逆転した。
- (*゚∀゚)『クックル!! 約束を、覚えているかいっ!?』
- ( ゚∋゚)『何の、話、だ?』
- (*゚∀゚)『アンタを、石窯に、放り込んで、丸焼きにしてやるって、約束さね、鶏頭っ!!』
- 距離を空けず、巨人の右方から斬撃を集中させる。
- 幾重にも銀色の軌跡を描く双刀を、クックルは無理に弾き返そうとはせず、掌底で器用に受け流した。
- しかし、傷は思っていたよりも重いのか、腕を振るうたび赤い血が周囲に飛び散っていく。
- そして、遂に逆袈裟に斬りあげた“なぐり丸”が、巨人の胸元をかすめた。
- 苦し紛れに繰り出したクックルの下段蹴りを跳躍で避わし、逆に傷口に蹴りを叩き込む。
- 更に狙いすましたかのような顎への空中後ろ回し蹴りが、巨人の膝を地につかせた。
- 85: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:36:43.67 ID:/fcTSHIfP
- (’e’) 『はっはっはっ!! どうした、苦戦しているな!! 我の助太刀が必要か!?』
- ( ゚∋゚)『悪い冗談だ。もし、邪魔をすると言うなら貴様から肉片に変えてやるぞ』
- それまで2人の一騎討ちを観戦していたセント=ジョーンズが破顔した。
- 顔も向けずに答えを返すと、クックルは両手を高く掲げ、魔女に跳びかかる。
- 連撃の直後ゆえ体勢の整っていなかったツーは、やむなく後方に飛び退いた。
- (#゚∋゚)『ドゥルゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!』
- 砕けた右拳を硬く握り締め、咆哮と共に振り下ろす。
- 落雷を思わせる一撃が、魔女の腰布をかすめ、大地に叩きつけられた。
- 砕け、弾け散った土塊が、ツーの身体を散弾が如く撃ちつける。
- (#*゚∀゚)『こ……のぉぉぉぉぉぉっ!!』
- が、砂漠の魔術師はしっかと踏みとどまった。
- 顔の前で交差させていた両腕を大きく広げるように、双刀を振るう。
- 巨人の胸に新たな赤い十字線が描かれ、ほんの一瞬血が噴き上がった。
- 傍目から見ても、優位にあるのはツーの方だ。
- 巨人の双腕は竜巻が如く振るわれるが、それは魔女の身体に触れる事すらあたわない。
- それどころか、並みの戦士であれば致命傷になるであろう攻撃を幾度も身に受けている。
- しかし、巨人は止まらなかった。
- 宙に散る血の赤に愉悦を覚え、刻まれた傷の痛みが高揚感を増していく。
- (’e’) 『……フン。野蛮な木偶めが。ならば、好きなだけ暴れるがいい。だが、殺すなよ』
- もとより参戦するつもりなど無かったのか、セント=ジョーンズは腕を組んだ姿勢でニヤニヤと笑っている。
- 片唇を持ち上げるだけの仕草さえ、誰かの目を意識しているのではないかと思えた。
- 93: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:44:09.66 ID:/fcTSHIfP
- (#゚∋゚)『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!』
- (#*゚∀゚)『ちぃっ!!』
- 再び、2人の距離が急接近した。
- 血に染まった外套を背に回した巨人の上半身には、太い血管がいたる所に浮かび上がっている。
- 力強く踏み込んだ足が大地をひび割り、振るった腕が背後に退いたツーの前髪を宙に散らした。
- 対する砂漠の魔女も、譲らない。
- 型に嵌らぬ、曲芸師が如き体術こそが彼女の本領なれば、数歩距離を取る事はある。
- が、その目は爛々と不退転の決意に燃えていた。
- (#*゚∀゚)『あひゃーーーーっ!!!!!』
- 叫び、削岩機のような正拳を掻い潜る。
- 突き出した“つらぬき丸”が、後の先となってクックルの肩を削った。
- 巨人も常に彼女の身を射程圏内に捕らえようと前に出るが、それも叶わず苛立ちを見せている。
- それを承知だからこそ、ツーはクックルの周囲を素早く駆け回り、股下を潜り抜け、頭上を飛び越えて挑発を続けるのだ。
- (#゚∋゚)『ちょこまかと……うっとおしい女だ』
- クックルの振り上げた蹴りが、ツーの身体をふわりと浮かせた。
- が、それすらも魔女の計算のうち。
- 空中で身を翻し、距離を取って息をつく。
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃひゃひゃっ!! アンタはまるででっかい風車だねぇっ!! 涼しくてたまらないよっ!!』
- (#゚∋゚)『黙れ』
- 休ませはせぬと、赤毛の巨人が跳びかかった。
- 94: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:45:53.92 ID:/fcTSHIfP
- 両手を組み合わせ、魔女の脳天に叩きつける。
- 大振りの一撃は容易く避わされ、ツーの膝蹴りがクックルの鼻骨を打ち砕いた。
- 宙にある身体に風穴を空けんと、間髪入れずに拳を振るうが、柳の葉を殴った時のような手応えしか伝わらず。
- 吹き飛ばされたはずのツーは、ひらりと大地に着地して見せた。
- (*゚∀゚)『お舐めじゃないよ、クックルッ!! アンタじゃアタシ様に勝てないって、まだ分からないのかいっ!?
- それとも、アタシ様の身体がそんなに魅力的なのかねっ!?』
- 夜の女がするように、腰布をチラと持ち上げて誘うように太腿の奥を見せ付ける。
- 曲がった鼻を指で摘み、ゴキッと形を整えると、クックルは血の混ざった唾を吐き捨てた。
- ( ゚∋゚)『貴様の鶏がらのような身体になど興味は無い』
- (*゚∀゚)『ひゃひゃひゃっ!! そりゃ、偶然だっ!! アタシ様もアンタの鶏頭には興味が無くてねっ!!』
- 魔女が言い終えるより早く、雄叫びをあげながらクックルは襲いかかった。
- かつて山間の戦いで披露して見せたように、巨人はその単なる一挙一足が圧倒的な殺傷力を持っている。
- もしも腹に拳が当たれば、腸を巻きつけた腕が背から飛び出すだろう。
- 膝に蹴りを喰らえば、その瞬間膝から下が永遠に失われる事になるだろう。
- だが、その尽くが当たらない。
- 砂漠の魔女は3本の山刀を器用に使い分け、蜂の群れがように細かい傷をクックルに与えていく。
- むしろ、巨人の右拳を破壊したように、彼の度を超えた破壊力が仇となっているかのように思えた。
- その拳が魔女の髪に触れれば、ツーの刀がクックルの肌の上を斬りつけている。
- 蹴りが腰布を千切ったかと思えば、懐に飛び込んだ彼女の肘打ちが巨人の鳩尾にめり込んでいた。
- 幾重にも交差する銀の線と、宙に散る蒼い火花。
- それを彩る物は、ひたすらに巨人の身体から噴き上げる赤い血であったのだ。
- (#*゚∀゚)『いい加減に……倒れるさねっ!!!!!!!』
- 97: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:48:29.38 ID:/fcTSHIfP
- 既に十何度目にもなろうかと言う突進を避わし、すれ違い様の脇腹に“つらぬき丸”の刀身を叩き込む。
- 左手に骨が砕ける確かな感触が伝わり、今度こそツーは勝利を確信した。
- しかし。
- (#゚∋゚)『ドゥルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!』
- (;*゚∀゚)『だぁぁっ!? しつこい男は嫌いだよっ!!』
- 巨人はまるで、それしか出来ぬ人形のように、愚直なまでの突進を繰り返す。
- その様はまるで、意味が無いと知りながらも一つ事に挑み続ける美学に裏打ちされているかのようだ。
- 軽口を叩いてはいるが、ツーもまた余裕があるわけではない。
- 長く戦う事で火が入るタイプなのか、クックルの拳が徐々に掠める様になって来ている。
- 巨人の威圧感に押されて動く事すら出来ぬ周囲の兵達は、この一騎討ちに幕が引かれると共に雲霞と押し寄せてくるだろう。
- つまり、クックルを討ち取ったとして、控えるセント=ジョーンズに斬りつけるまでの時間は限り無く短い。
- そして、それが叶わなかったとしても……不敗と謳われた自身の、最後になるかもしれぬ逆転の大魔術。
- それを為し遂げるためにも、握った刃を下ろすわけにはいかない。
- (#゚∋゚)『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!』
- またもや、無謀とも思われる突進が敢行される。
- 肩で息をついていた魔女も、大きく息を吸い込んで腰を落とした。
- (’e’) 『ふむ……そろそろ、だな』
- 振り向きもせず手を差し出すと、背後に立っていた兵が、冷えた果実水を満たした竹筒を恭しく差し出す。
- それを口内に注ぎ込んでから、セント=ジョーンズは空を見上げた。
- 山頂の塞は陥落して、立ち昇る黒い煙と聖印を刺繍した旗が風に揺れている。
- その地に立て篭もっていた者達は、あれ程うるさく走り回っていた砂亀隊も含めて、影も形もなくなっていた。
- 戦いの終わりが、差し迫っている。
- 98: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:50:36.29 ID:/fcTSHIfP
- (;*゚∀゚)『え?』
- そして、それはあまりにも唐突に訪れた。
- 巨人の横薙ぎに振るわれた拳を、背後に飛び退いて避わそうとした魔女が、間の抜けた声を思わず漏らす。
- 数歩の距離を一息に跳ぶ筈の足が、思っていただけの半分も距離を広げられなかったのだ。
- その好機を見逃すクックルではない。
- (#゚∋゚)『ドゥルゥルゥルゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!』
- (;*゚∀゚)『……あ』
- 赤い血の玉を宙に撒き散らせながら、巨人が魔女に覆いかぶさるように、跳んだ。
- 日の光を遮る、クックルの巨体を見上げながらツーは思う。
- クックルの攻撃が掠めるようになったのは、戦いの高揚感が彼を燃え上がらせただけではない。
- 2ヶ月に亘る籠城と、巨人との一騎討ち。
- それは、予想していたよりも遥かに自身の体力を消耗させていたのだ。
- それでも、咄嗟に両手の神刀を交差させ、身を護る。
- (#゚∋゚)『ルゥグァルォゥゴゥドゥルルルゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!』
- だが。
- 圧倒的な力を前にして、それが一体何になろう。
- 双刀の交差点に衝突した拳は、微塵も威力を弱める事無く振り抜かれる。
- そのまま、魔女の身体をひび割れた大地に叩きつけた。
- (* ∀ )『……ぐぁっ!!』
- 更に、逃げ場の無いツーの腹を全体重を乗せた膝が串刺しにする。
- ゆっくりとクックルが立ち上がった時、魔女は蛇のように痙攣する腹を押さえて、身を丸めるのみであった。
- 101: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:53:15.83 ID:/fcTSHIfP
- (* ∀ )『う……ぐぅ…………くそ……』
- ( ゚∋゚)『一撃。小蝿がどんなにうるさく飛び回ろうと、所詮はその程度だ』
- (* ∀ )『ぁぅっ!!』
- 額の汗を拭ってから、クックルはツーの茶色い髪をつかんで無理矢理に引き起こした。
- 2振りの神刀は両の手を離れ、地に転がっている。
- 巨人は、残る一本の刀を魔女の腰から鞘抜くと、ひょいと投げ捨てた。
- ( ゚∋゚)『ヌンッ!!』
- (* ∀ )『うがっ!!』
- 細かい痙攣を続けるツーの腹に膝がめり込んだ。
- あばらをへし折られ、思わず苦痛の声が吐き出る。
- (* ∀ )『……痛いじゃ……ないのさっ』
- 仕返しとばかりに、握った拳をクックルの腹に打ちつける。
- が、それはポスンとあまりにも弱々しい衝撃を、巨人に与えるのみに終わった。
- それでも、それすら気に入らなかったのか、クックルは魔女の瞳を覗き込む。
- ( ゚∋゚)『ふん……まだ、戦う気があるのか』
- (* ∀ )『ひゃひゃ……当然さ……ね』
- ( ゚∋゚)『ならば、大人しくする気になってもらおうか』
- 103: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:56:10.73 ID:/fcTSHIfP
- それからは、一方的な暴力のオンパレードであった。
- 顔面を平手で何度も殴られ、ツーの顔はみるみるうちに腫れあがっていった。
- 頬に頭突きが叩き込まれて、最も頑丈な奥歯が砕けた。
- 豊かな胸に掌底が炸裂すると、血の混ざった悲鳴が魔女の口から零れた。
- 身を護るべき両腕を持ち上げるだけの気力すらも……完全に失われている。
- ( ゚∋゚)『……』
- 時折、クックルは腕を休め、品定めるようにツーの目の奥を覗き込む。
- そして、その中にまだ輝きが残っている事を確認すると、暴力を再開するのだ。
- 命を奪わぬように慎重に。苦痛で気を失わぬよう繊細に、いたぶるような攻撃がしばらく続く。
- いや、事実としてクックルは相当な手加減を加えていたのだろう。
- もし、巨人が本気であれば、最初の膝蹴りで折れた肋骨が内臓に突き刺さっていただろう。
- 平手で顔面を撥ね飛ばし、頭突きで粉砕し。
- 掌底は胸を突き破っていただろう。
- それをせぬのは、単に彼女を殺さぬようにしているからだ。
- 既に戦いの愉悦などなく、何かの作業であるかのように、淡々とツーの肉体を破壊していく。
- メン;`エ´)『うわ……』
- ネ;゚Д゚)申『いくらなんでも……ここまでする必要があるのか?』
- 躊躇いがちな兵の声に、魔女の肉を打つ鈍い音が。微かな叫びが入り混じった。
- 新ii Д )『……お……おぇぇぇぇっ』
- 勝利の興奮などどこへやら。新兵の1人がその場に蹲り、胃の中の物を吐き始める。
- それはメンヘル族の兵だけでなく、国教会に属していて彼女の事を良く知らぬ者達まで、
- 思わず目を背けたくなるような凄惨な光景だった。
- 106: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:58:20.83 ID:/fcTSHIfP
- (* ∀ )『か……ぅぁ……』
- ( ゚∋゚)『負けを認めろ。地獄から逃れたければな』
- 言いながら、クックルは鷲づかみにしたツーの頭を揺さぶる。
- 腫れあがった瞼の奥、半ば潰れた瞳からは光が消えうせ、全身のどこを探しても傷の無い場所は無い。
- それでも、クックルは“不敗”と呼ばれた者が自身の敗北を口にするまで、解放するつもりは無かった。
- ( ゚∋゚)『どうした? 何も聞こえぬぞ。“許してください、クックル様”と言ってみろ』
- 返答が無い事を、反抗の意思と判断したのだろう。
- クックルは、急かすように魔女の下腹を殴りつけた。
- 宙吊りになったツーの身体が、振り子のように揺れる。
- 巨人の手の中で、ブチブチと髪の千切れる音が鳴り響いた。
- (* ∀ )『ぅ……ゆ……る……』
- 度重なる暴力の嵐に、とうとう心が折れたのだろうか?
- 魔女の唇が、小さくすぼめられる。
- それを見て、クックルは一仕事終えた時の様な表情を浮かべた。
- ひたすらに繰り返す暴力は、さしものクックルをも疲労させた。
- それほどまで、彼女は耐えて見せたのだ。
- ( ゚∋゚)『そうだ、諦めろ。そうすれば楽に殺してやる』
- 漏らす声を聞き漏らすまいと、赤毛の巨漢は彼女の顔を引き寄せる。
- そして。
- ─────ぐわぁっ!!!!
- 108: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:00:32.16 ID:K3cbs8RNP
- 巨人が己の左目を両手で押さえ込み、小さくよろめいた。
- その腕から解放された魔女の身体が、大地に砂埃をあげて倒れこむ。
- 最後の抵抗を見事に果たし、遂に全ての抗う手段を失った魔女の唇は満足げに笑っていた。
- (* ∀ )『ひゃ……ひ……ゃ……ざまぁ……みやがれ』
- (#゚∋メ)『貴様……』
- 巨人がツーに視線を刺しつけた。
- その右目は怒りに燃え、左目からは血が滴り落ちている。
- 砂漠の魔女が口から吹きだした歯の欠片が、クックルの瞳に突き刺さったのだ。
- (’e’) 『そこまでにしておけ、木偶』
- と、そこで歩を進めてきたのは神聖国教会教皇家の公子だ。
- 憎々しげに突きたてられるクックルの視線を容易く受け流し、ツーの傍らに片膝をついて座り込む。
- 先程、兵士から受け取った冷たい果実水を彼女の顔に浴びせ、意識が少し回復したのを見届けてから、その腰布を剥ぎ取った。
- 更に、黒い肌着の中に手を滑り込ませる。
- (* ∀ )『痛っ!?』
- いきなり秘所に指を差し込まれたツーの口から、小さな苦痛の声が漏れた。
- その反応に、セント=ジョーンズは満足げに破顔し、立ち上がる。
- (’e’) 『まだ男を知らぬか。結構、結構。神への貢ぎ物に相応しい。
- 穢れた身であればこの場で殺してしまうところだが……いいだろう。
- 神都に贄の祭壇が完成するまで、その命預かっておいてやる』
- ( ゚∋メ)『っ!?』
- 109: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:02:04.09 ID:K3cbs8RNP
- ( ゚∋メ)『貴様……何を言っているか分かっているだろうな?』
- (’e’) 『身の程を知れ、木偶。誰に意見している?』
- 巨人がセント=ジョーンズに詰め寄った。
- 公子もまた、正面からクックルの視線を受け止める。
- 身の丈も、体の幅も、身体の厚さも、まるで違う巨人を前にして一歩も譲らぬ様は、
- まるで自身の為に道を空けぬ者はない、と信じきっているかのようであった。
- ( ゚∋メ)『何の為にこの女を贄に捧げると思っている? このモスコーに残る、フッサール派閥の者達の心を折る為ではないのか?
- もし、コイツを“不敗”のまま葬れば、奴らはコイツを“悲劇の聖女”として祀り上げる。
- いたずらに結束を強めるだけだぞ』
- (’e’) 『フン。随分と弁が立つではないか。何が何でも負けを認めさせねば、自尊心が保たれぬか?』
- クックルが眦をくわ、と持ち上げたのを見て、セント=ジョーンズは愉悦の笑みを浮かべる。
- (’e’) 『考えてもみよ。この女がどのような死を迎えようと“悲劇の聖女”となるのは変わらん。
- そして、こやつはこの場で死ぬ事こそが己の名を守る事だと知っている。
- ならば、生かしてやって、我らの道具としての滅びを与える事こそ、最高の屈辱だとは思わんか?』
- ( ゚∋メ)『詭弁だな。俺にこの女を殺される事が、そんなに惜しいか』
- (’e’) 『本音が出たぞ、木偶。女を力で組み敷くしか能が無い鶏の分際で、我に物を言うか?』
- それでも、クックルは引き下がらない。
- 当然、セント=ジョーンズも持論を曲げようとせず、2人は睨みあった。
- と、そこで。
- ……ゃ……ひゃ……ひゃひゃひゃ……
- 112: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:05:17.04 ID:K3cbs8RNP
- 突如、響いた微かな笑い声に、2人は視線を落とした。
- 彼らの足元にぐったりと横たわる砂漠の魔女が、唇を己が血で赤く染め、それでも満足げに笑っている。
- (* ∀ )『ひゃひゃ……ゃひゃひゃ……こりゃ、愉快だ……ねぇ。
- 2人、で……アタシ様を取り合、て……そんなにアタ…………は、魅力的か、いっ?』
- (’e’) 『何が可笑しい、売女』
- セント=ジョーンズが、面白く無さそうにツーの胸を力任せに踏みつけた。
- 魔女の口から、ごぼりと赤い血が吐き出される。
- が、にも拘らずツーは赤い飛沫を口から飛散させながら、笑い続けた。
- (* ∀ )『……ゃ、ひゃひゃ……っひゃ……あんた、ら……誰を、相手に…………分かって、るのかい?
- アタ、様……策は完璧……ったさね…………、アタシ様は……敗けて、ない』
- その宣言がよほど癪に障ったのか、巨人がセント=ジョーンズを押し退けると、ツーの首を掴んで引き起こした。
- 魔女の口から血が溢れ出て、クックルの腕を赤く濡らす。
- 灯火の消えかけた瞳は、けれども確かに2人を見据えていた。
- (* ∀ )『ケホッ……1で勝てず、とも……10では敗れ、ず…………それが“不、敗”って……事さ。
- さぁ、アンタ……ら、本当に勝った…………思って、かい?』
- (’e’) 『何を言っている? 気でも触れたか?』
- 訝しげな眼で、問いかける。
- こみあげてきた血をゴクリと飲み干し、ツーは言葉を続けた。
- (* ∀ )『ひゃ……ひゃっ……それじゃ、質、問だ……レモナは……何処……いる、だい?
- まさか、この戦……い、アタシ様が欲しくて…………わけじゃ、ないんだ、ろ?』
- 114: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:07:24.11 ID:K3cbs8RNP
- (’e’) 『……っ!! 貴様、まさか……』
- その言葉の意味に気付いたセント=ジョーンズが、背後に控える長職にある者達に視線を向けた。
- が、そこにある者どもは、周囲の同僚達と視線を交わしあうのみで。
- それはあたかも、責任の置き場を求め、押し付けようとしているかのようだった。
- (’e’) 『貴様ら……まさか、誰一人としてレモナを捕らえていないというのでは無いだろうな?』
- メン;゚Д゚)『は、はっ……ですがっ……』
- (#’e’) 『黙れ、役立たずどもめ!! 一体、何をしていたのだ!?』
- 怒鳴りつけると同時に、足元の土塊を蹴り飛ばす。
- しかし、彼らにも言い分はあった。
- 包囲網の一部を開けておけば、山塞の者達は活路を求めて一人残らず殺到してくる。
- そこを捕らえれば良いと、そう言ったのはセント=ジョーンズ自身なのだ。
- それでも、反論は火に油を注ぐ結果にしかならぬと分かっているから、誰も口を開けない。
- 神妙な様を見せている彼らを責めたてても反応は薄いと知るや、公子の怒りは未だ大笑を続けるツーに向けられた。
- (#’e’) 『総将たる者自身が囮になるとは……気が狂っているのか?』
- (* ∀ )『ひゃ、ひゃ……ひゃ……不敗、の魔術師……大魔術お、楽しみいただけた……かね?』
- なおも魔女は残る力を振り絞って言葉を紡ぐ。
- (* ∀ )『……クック、ル……ひとりで、1000を皆殺しに……きるアンタが……こ、の戦いで何人……殺し、た?』
- ( ゚∋メ)『……黙れ』
- 115: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:09:07.42 ID:K3cbs8RNP
- (* ∀ )『嫌……だ、ね。アンタらは……勝ったよう、で……勝ってないのさね……
- アタシ様は、還らずとも……み……なが生きている、限り……シ様達は敗けて、ない。
- この、不、敗のツー、相手にする……100、年早いって、の』
- ( ゚∋メ)『黙れと言っている。殺すぞ』
- (* ∀ )『ひゃひゃひゃ……殺せばいいさ……それで、も……この戦い、アタシ様、の勝ちだ。
- アンタは一生……、アタシ様に勝てなかった……負け犬として、生きていくのさ』
- (#゚∋メ)『黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!!』
- クックルの叫び声が、ビリビリと空気を振動させた。
- これ以上は堪えきれぬとでも言わんばかりに、高くつかみあげた細い身体を、地面に叩きつける。
- (* ∀ )『ぐぁっ!!!!!!!』
- ぼろぬののように振り回された魔女の身体は、砂埃をあげながら小さく跳ねあがってから、大地に横たわった。
- 一度だけビクンと身体を痙攣させ、それから完全に沈黙する。
- 肩を震わせ、怒りに息を荒げる巨人の姿を、誰もが声も漏らせず呆然と見据えていた。
- やがて、教皇家の公子が肺腑の空気を絞り出すように声を漏らす。
- (#’e’) 『貴様……まさか、殺したのではないだろうな?』
- (# ∋メ)『…………ろう』
- (#’e’) 『ぬ?』
- 119: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:12:18.13 ID:K3cbs8RNP
- (#゚∋メ)『見くびるな!! あれだけの事を言われて……殺せる筈が無いだろう!!
- それとも、貴様から先に殺されたいか!?』
- (;’e’) 『ぐ……そうか、ならば良い!!』
- 力なく横たわる肢体に、クックルは憎悪をこめた視線を送る。
- なんとしてでも己の権威を保とうとする、セント=ジョーンズなどに興味は無かった。
- ツーの最後の言葉。あれは呪いだ。
- 自身の命を奪う者に災いを与える、呪詛の言葉。
- 故に、クックルは最後の最後でツーを殺せなかった。
- もしも、あの場でツーの命を奪っていれば、彼はこの先自身を負け犬と罵りながら生きていかねばならなかっただろう。
- そして、きっと、魔女は五体の全てを破壊されながら、最後の最後での逆転勝利を諦めていない。
- なぜならば、それが“不敗”と言う事だからだ。
- (’e’) 『治療してやれ。こうなればどうあっても、この女を生かしたまま我らが神への供物とするのだ!!
- それと……家畜用の檻車を一台、徴収してこい!!
- 我に逆らう者の末路を見せしめとし、モスコーに凱旋する!!』
- セント=ジョーンズの命に従い、周囲の兵達が慌てて駆け散っていく。
- ( ゚∋メ)『……くだらぬ権威にしがみつく、餓えた豚めが』
- 低くボソリと漏らしながら、クックルは己の左目に軽く触れた。
- そこには、魔女の白い歯が、血に濡れて深々と突き刺さっている。
- ( ゚∋メ)『……ちっ』
- 舌を打つと、太く骨ばった指を眼窩に突っ込んだ。
- 顔色一つ変えずに眼球を抉り出し、用を成さなくなったそれを事もなさげに握りつぶす。
- それから、ただの肉片と成り果てたのを放り捨て、その場を立ち去っていった。
- 120: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:15:06.73 ID:K3cbs8RNP
- ※ ※ ※
- ━━━━━━━━━━
- ━━━━━━━━
- ━━━━━━
- |゚ノii ∀ )『……僕の、せいだ』
- 激しく殴りつけるような雨音が、そんな呟きを掻き消した。
- スピリタス城東の山中に、おそらくは獣の巣であったのだろう、ぽっかりと口を空けた小さな洞窟。
- そこにレモナ=マスカレイドはいた。
- 土壁に背を預け、抱えた膝の中に頭を埋めている。
- 彼女に背を向け、焚き火で生木を乾かそうとしている男の耳には、その声は届かなかったのだろうか?
- 表情を動かす事はない。
- 【不敗の魔術師】ツーが囚われてから、まる1日が経とうとしていた。
- |゚ノii ∀ )『……僕が馬鹿だから……ツーは死んだ……僕が殺したんだ』
- 爪 ,_ノ`)『……そんな事言っちゃいけねぇよ』
- それだけ言って、シャオランは唇を硬く引き結んだ。
- レモナの言葉を否定しても、それは気休めにすらならないだろう。
- かと言って、それを肯定したとしても続く慰めの言葉など浮かばない。
- 水場の警戒を甘く見て包囲軍の奇襲を許し、にも拘らずツーを置いて逃亡したのは、彼も同じなのだ。
- これがもし、金銭契約が絡んでいれば舌を3枚に増やしてレモナを励ました事だろう。
- が、彼らの関係は金銭もさながら、主従としての信頼関係の一面が強すぎた。
- これでは歯の浮くような文句も思い浮かばず、つくづく自分の性格が嫌になる。
- 雨の音だけが鳴り響き、気まずい沈黙が焚き火に照らされた洞窟の中に流れた。
- 122: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:18:32.63 ID:K3cbs8RNP
- |゚ノii ∀ )『……ツーだけじゃない……みんな、みんな僕の為に……僕のせいで』
- 爪 ,_ノ`)『止めな。奴らは自分の意思で死に場所を決めたんだ。
- それを踏み躙ったとなりゃ、天界で会わせる顔がなくなるぜ』
- それでレモナは言葉を縛り止めた。
- 山塞軍の結末は、2人に追いついた兵達から聞かされている。
- 苦しい日々を共にした者達の大半は、逃げる事も出来ず山頂で戦死。
- 【不敗の魔術師】ツーもまた、【神の巨人】クックルとの一騎討ちの末、囚われの身となったと言う。
- その壮絶な戦いぶりは、伝え聞いただけのレモナとシャオランの顔を青ざめさせるに十分すぎる物であった。
- 亀メ゚д゚)『我らはここに残ります。人の数が多いと、捜索の網にかかる率も高くなります故』
- そして更に、2人と合流した数名の騎士達は瞳に強い意思の光を湛え、そう告げたのだ。
- 折れた槍を杖にしなければ立てぬ者がいる。
- 腕の刀傷を蔦で縛っている者がいる。
- 追っ手の眼を逃れるためなら、単に別行動を取れば良いだけであり、
- つまり彼らはレモナを逃す為に捨石になる道を選んだのだ。
- パチッ、と音を立てて焚き火が爆ぜる。
- 表情無くそれを見つめていた元・塩商人がゆらりと立ち上がった。
- 手元の三日月刀をスラリと鞘抜き、身構える。
- その気配を察したレモナもまた、顔をあげた。
- 爪 ,_ノ`)『悪いな、ここは貸し切りだ。お引取り願おうか。
- ……とは言え、場合によっちゃ生かして返すわけにもいかねぇがな』
- 何処か遠くで、雷鳴が小さく鳴り響いている。
- 126: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:24:00.15 ID:K3cbs8RNP
- いつから。
- いや、どうやってと言うべきだろうか?
- 洞窟の入口を塞ぐように、1人の男が立っていた。
- 肩を悠々と超える黒い長髪は、まるで雨に濡れていない。
- 首に巻いた、瀟洒な絹のスカーフ。
- 紺色の外套は、嫌味にならない程度に金糸が飾り付けられている。
- 空に稲光が走り、男の姿を照らし出した。
- 爪'ー`)y‐『ご挨拶ですねぇ。この私がわざわざ足を運んで差し上げたと言うのに』
- |゚ノ ^∀^)『……フォックス殿?』
- 『知り合いか?』と尋ねるシャオランに、レモナは首をコクコクと振って答えた。
- 元・塩商人シャオランがアインハウゼ=クーゲルシュライバーによってマスカレイド領を訪れるより以前。
- 彼女は、北の大国ラウンジよりの使者として父を訪問してきた彼と面識を持っている。
- 次期法王の座につく事は間違いないと言われていたトマス=マスカレイドに、彼はアルキュへの不可侵条約を再確認する為、
- 南の大国に足を踏み入れていたのだ。
- 更に言えば、トマスにアルキュ島内での教会の腐敗。
- つまり、モナーの背信を教え込んだのも、この男であったと記憶している。
- ラウンジよりの使者でありながら、マタヨシの教義に明るく公明正大な彼を、父も自身も信頼していた筈だった。
- だが。
- だが……。
- |゚ノ;^∀^)『……失礼を承知で問おう。貴公は本当に、フォックス殿か?』
- 129: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:26:59.98 ID:K3cbs8RNP
- あの頃、常に柔らかな笑みを浮かべていた唇は、今や禍々しく歪んでいた。
- じぃと彼女を見つめる瞳は、氷のように冷たく。
- 生きながらにして刃で魂を削りとられていくような錯覚を、レモナは覚える。
- 爪'ー`)y‐『……全く。私は貴女がたに素晴らしい知らせをお持ちしたのですよ?
- だと言うのに、この仕打ち……まぁ、南の蛮族に礼を求める事が間違いだったのでしょうねぇ』
- |゚ノ;^∀^)『なっ……蛮族、だと!?』
- 爪 ,_ノ`)『殺戮対象認定だな。冥府の門の番人に渡す、賄賂の支度は済んでやがるのかい?』
- しかし、フォックスは動じなかった。
- 何事も無し、とでも言うふうに歩を進める。
- そして、外套の懐から、使いこまれたパイプを取り出した。
- 爪'ー`)y‐『全く、嫌な雨です。葉が湿って仕方ありませんよ』
- |゚ノ;^∀^)『えっ?』
- 何の前触れも無く、焚き火の中から1本の薪が、宙に浮かび上がった。
- 先端に赤々と炎を灯したそれを手に取り、唇に咥えたパイプに火を移した。
- 数秒の後、満足げに薄紫色の煙を吐き出す。
- 爪'ー`)y‐『用件を済ませてしまいましょうかねぇ、レモナ=マスカレイド。
- 3日ほど前でしょうか……貴女のお父上はお亡くなりになりました。お悔やみを申し上げます』
- |゚ノ;^∀^)『…………。え?』
- 132: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:29:01.10 ID:K3cbs8RNP
- その瞬間。
- 元・塩商人が焚き火を飛び越え、フォックスに斬りかかった。
- 振り下ろした三日月刀は中空で何かに受け止められ、前髪に触れる寸前の刃を狐は涼しげに見つめている。
- 爪 ,_ノ`)『気を確かに持て、レモナ!! 3日ほど前だと!?
- それが本当なら、どうやってそれを知りやがった!?』
- |゚ノ;^∀^)『……あ』
- 数秒間ポカンとした顔をしてから、レモナはシャオランの言わんとしている事に気付いた。
- 風を帆に受け、海流に乗ったとしても南の大国からアルキュに渡るには、5日を要する。
- つまり、もし法王トマスが本当に死んでいたとすれば、それをフォックスが知っている筈は無いのだ。
- と、なればその言葉の意味する可能性は2つ。
- 謀って(たばかって)いるか。
- 父の命をいつでも奪えるところまで深く入り込んでおり、遂にそれを実行したか……である。
- 後者であれば勿論、前者であっても度を超えた冗談で済まされる言動ではない。
- 爪'ー`)y‐『幼い娼婦を寝室に連れ込んだところ、彼女が暗殺者だったそうで。
- 竜舌草の毒により、全身を爛れさせて……恐ろしい世の中です』
- 爪 ,_ノ`)『っ!! 貴様!!』
- その一言は言外に正解は後者だと言ってのけたようなものであろう。
- 眦を吊り上げたシャオランが、三日月刀を横薙ぎに振るう。
- それを狐は、トンと背後に跳んで避わした。
- そして、追撃せんと彼が地を蹴った瞬間。
- 爪 ,_ノ )『─────く……はっ』
- 不可視の何かに全身を切り刻まれ、塩商人の身体はどうと地に倒れ伏せた。
- 133: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:31:11.98 ID:K3cbs8RNP
- 爪'ー`)y‐『歯向かわねば怪我をする事も無かったのですが……まぁ、台本の内容に問題はありませんし。
- 良しとしましょうか』
- |゚ノ;^∀^)『……あ……あああああ……』
- 唇を濡らした赤い血の斑点を、舌で舐めとりニヤァと笑う。
- 今にも崩れ落ちそうな膝をグッと堪え、レモナはフォックスを見据えた。
- |゚ノ;^∀^)『何で……どうして……何故なんだ!?』
- 何で、父を殺害したのか?
- どうして、シャオランを斬ったのか?
- 何故、今この場にいるのか?
- そして、自分をどうするつもりなのか?
- 混乱の最中にある彼女では、回答者が意味を解しかねる形でしか言葉を並べあげる事が出来なかった。
- しかし、それもまたフォックスの“台本”の通りだったのだろう。
- 平然と狐は口を開いた。
- 爪'ー`)y‐『いえ、別段大した事ではないのですがね。
- もし、本国の戦況が不利になったりでもして、ジョーンズ公が帰国を命じられでもしたら……困るのですよ。
- あのお方は私の趣味ではありませんが……なかなかに優秀な人形ですので。
- 法王トマスが崩御し、本国に残った者達が次々と手柄を挙げていくとなれば……
- 彼は必ずこの島に残る。そうは思いませんか?』
- |゚ノ;^∀^)『それじゃ……それでは、その為に父に取り入り、殺す機会を窺っていたというのか!?』
- 爪'ー`)y‐『それには若干の訂正を加えさせて頂きましょうか。
- まず、私は貴女の父上にだけ近づいていたのではありませんし、機会など窺う必要もありませんでした。
- この度は、単に物語をより円滑に進める為、トマスに死んで頂いただけの事なのですよ』
- 135: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:32:51.45 ID:K3cbs8RNP
- |゚ノ;^∀^)『お前は……一体、何者だ……? 何の為に動いているんだ?』
- 目の前の世界がグルグルと回転しているようだった。
- 最初、フォックスが父の殺害に関与したと理解した時、
- レモナは彼が元よりジョーンズ家と結んでいたのではないかと憶測した。
- が、彼の言動を聞けば聞くほど、その答えに自信が持てなくなっていく。
- 爪'ー`)y‐『まぁ、それでも父上を亡くされた貴女の悲しみは痛いほどに理解できるつもりです。
- そこで、どうでしょうか? いずれ近いうちに教皇にも死んで頂くという事で……ご納得頂けませんかねぇ』
- |゚ノ;^∀^)『何だと……それじゃ、お前はまさか……?』
- 爪'∀`)y‐『……貴女の、ご想像の、通りかと』
- 恭しく、頭を垂れた。
- そこで再び稲光。
- 洞窟の壁に長く伸びた男の影を見て、レモナは地の底に住まうと言われる悪魔を思い浮かべた。
- 法王と手を取り、教皇と繋がり。
- トマス=マスカレイドを殺し、ストーン=ジョーンズを腹背して。
- |゚ノ;^∀^)『もう一度聞くぞ……お前の目的はなんだ?』
- フォックスはパイプを唇に当てた。
- ややあって、蕩けるような眼で煙を吐き出す。
- 爪'ー`)y‐『そうですね……復讐、とでも言っておきましょうか』
- 138: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:34:46.53 ID:K3cbs8RNP
- |゚ノ;^∀^)『復讐だと!? 一体何の……』
- 爪'ー`)y‐『その問いには……答えないでおきましょう。どの道、貴女に理解できる筈もない事です。
- それより、貴女は気にならないのですか?』
- |゚ノ;^∀^)『…………何が、だ?』
- 爪'ー`)y‐『それは当然……何を知ったとしても、全てが無駄になる可能性についてですよ』
- 生唾を飲みこんだ、公女の喉がゴクリと動く。
- そう。ここで何を聞き出したとしても、それを誰かに伝える事が出来なければ何の意味も無いのだ。
- が、彼女の反応を目にしたフォックスは、満足げにクスクスと笑う。
- 爪'ー`)y‐『失礼。冗談ですよ。いずれは全て陽の下に晒さねばならぬ故、ここで貴女の命を頂く筋書きは御座いません。
- それに……トマス亡き今、貴女まで失ってはバランスが崩れすぎますので』
- |゚ノ;^∀^)『バランス? それはどう言う……』
- しかし、レモナ=マスカレイドはその問いを発し終える事が出来ず。
- また、答えを知る事も、考えようとする事も許されなかった。
- 何故なら、突如足元に転がる拳大の岩が跳ね上がり、彼女の鳩尾に突き刺さったからだ。
- 堪らず身体をくの字に折り曲げたところを、にゅうと闇から現れた影が押し倒し、素早く縛りあげる。
- 爪'ー`)y‐『ご心配なく。貴女の身を保護させていただくだけですから。
- それに、囚われの姫は勇者が救いにくると言うのが、物語の王道と言うものでしょう?』
- 小さく頷くと、影がレモナの身体を肩に担ぎ上げた。
- そして、そのまま洞窟を出ようとしたところで……ピタリと足を止める。
- 爪'ー`)y‐『そうそう。貴方にも大切な役を与えるのを忘れるところでしたよ』
- 139: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:38:44.82 ID:K3cbs8RNP
- 踵を返し、立ち去ろうとしていたフォックスの足を、一人の男の手が掴んでいた。
- シャオラン=ディードリッヒ。
- 神聖ピンク帝国の元・塩商人は鋼の意志力で気を繋ぎ止め、狐にしがみつく。
- 爪 ,_ノ`)『させねぇよ……約束なんだ……それに……純金15貫が掛かってるんでな』
- 爪'ー`)y‐『忠告した筈ですがねぇ。余計な事をしなければ、痛い思いもしないものを……』
- シャオランの視線の先で、何かがピッと揺らめいた。
- そして、フォックスの足首を握り掴んでいた、彼の四指がばらりと落ちる。
- 何が起こったのか理解できなかったシャオランであったが、
- 傷口から鮮血が噴き出すと同時に、洞窟中に響きわたるような苦痛の叫びをあげた。
- 爪'ー`)y‐『貴方では私に勝てませんよ』
- 爪#,_ノ`)『糞野郎が……この代償は高くつくぜ……』
- それでも戦意を失わぬ元・塩商人の姿に、狐は満足そうな微笑みを浮かべる。
- 爪'ー`)y‐『私は【無法都市】と呼ばれる地で貴方を待ちます。ですが、貴方が私に歯向かうには少々力不足。
- まっすぐ南へ向かいなさい。やがて、貴方の力になるであろう者達が港に現われる筈です。
- 特別に、この周囲を捜索している兵は全て殺しておいてあげましょう』
- 言い終えると同時に、シャオランの目の前に転がっていた岩が、ふわと宙に浮いた。
- それは、勢いをつけて彼の首筋に落下し、微かな息を吐いてから商人は気を失う。
- 爪'ー`)y‐『では、行きましょうか。じき、雨も止むでしょう』
- レモナの身を担いだ影にそう告げると、フォックスは洞窟を後にした。
- 地に倒れ伏した、シャオランの身体を残して。
- 142: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:41:32.86 ID:K3cbs8RNP
- ※ ※ ※
- 爪 ,_ノ`)『う……うぅ』
- 小さな呻き声と共に、シャオランは意識を取り戻した。
- 全身に刻み付けられた傷からは、血が止まりかけている。ただ、4指の傷からだけは、未だ血が流れ出していた。
- 爪 ,_ノ`)『面白すぎるじゃねぇか……やってくれやがって』
- 誰に言うでもなく呟いたのは、気を繋ぎ止める為だ。
- 心もち湿った大地に転がる三日月刀を拾い上げ、這うようにして焚き火に近づく。
- 火の残り具合を見ると、おそらくフォックスが立ち去ってから、そう時間は過ぎていないだろう。
- しかし、その後を追う気にはなれなかった。
- 這うのがやっとの自身では狐に追いつく事など到底出来ぬであろうし、勝ち目も無い。
- 今、彼が為さねばならぬ事は、ただ生きる事だけであった。
- 火の中に三日月刀の刀身を突っ込み、しばし待つ。
- 少ししてからそれを引き抜くと、傷口から滴る血を一滴落とした。
- じゅぅ、と音を立て瞬時に蒸発したのを見て、歯を喰いしばる。
- そして、第二関節より下を失った指の傷を、刀に押し当てた。
- 爪 ,_ノ゚)『ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!』
- 絶叫が響きわたる。
- 指をなくした左手首をガッシと掴み、しばらくもんどりうっていたシャオランは、
- やがて肩を大きく上下させながらゴロリと天井を向いて横たわった。
- 爪 ,_ノ`)『畜生……これで純金15貫じゃ割りにあわねぇぜ……最低でも25貫だ』
- その場にいない砂漠の魔女に言い捨てる。何故か、彼女の笑い声が聞こえた気がした。
- 147: ◆COOK./Fzzo :2010/07/12(月) 00:46:01.80 ID:K3cbs8RNP
- それから、シャオランは洞窟に運び込んだ食料を、片っ端から口に詰めはじめる。
- 山塞を脱出した際に持たされた最後の麦も、
- 途中合流した兵達が捕らえたという山鳥も、何も考えずに食い荒らした。
- 特に肉は火も入れずに食い千切り、むしろ体中に血が足りぬ今は、それこそが相応しいように思える。
- あまりにも荒々しい食事を終えると、外套に包まり目を閉じた。
- 身体は水を求めているが、血を薄めてしまう事を恐れて、我慢する。
- このようなところを捜索の兵に見つかったら何もかもお終いであるが、それは開き直るしかあるまい。
- いや、先程傷を焼いた時の絶叫で人が集まらぬという事は、フォックスは本当に周囲の兵を片付けたのかもしれなかった。
- 爪 ,_ノ`)『南……港……って事はスミノフか』
- 脈打つような痛みが、眠りに落ちるのを妨げる。
- それでも、少しでも体力回復に努めようと目を閉じながら、彼は狐の言葉を反芻させていた。
- 何故、フォックスが自身の不利になるような事を告げて行ったのか、理由は分からぬ。
- しかし、彼にはそれに従うより他の選択肢は残されていなかった。
- 人形繰りの糸に踊らされると分かっていても、そうせねば道は開けないのだ。
- やがて塩商人シャオランの意識は深い眠りの池に沈んでいく。
- 【南の玄関口】スミノフ。
- かの都市は、海の民頭領【小旋風】妹者が標的と定める街である。
- そして、少女の下で大海原を駆ける船には、2人の勇者が身を置いている。
- レモナ=マスカレイドの忠実なる執事にして影、アインハウゼ=クーゲルシュライバー。
- 【人形遣い】フォックスと限り無い因縁を持つ【天翔ける給士】ハイン。
- また、狐によって滅ぼされたキール隠密の村で幼き日を過ごした【破軍】渋沢や、
- 小さな海戦の天才もまた、運命の瀑布は飲み込んでいくのだろう。
- それはきっと。遠き日のことでは無い筈である。
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