( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

4: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:27:13.44 ID:QCNlkMb70
MAP 〜第3部からちょっと変更してみた編〜

http://up3.viploader.net/news/src/vlnews001597.jpg

@キール山脈 未開の地。
 隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 北部からの寒風の影響で気候は厳しいが、地熱に恵まれている。

Bニイト公国 ヴィップの副都【経済都市】ニイト城を有する
 ニイト族居住地。ヴィップほど寒風の影響はなく、比較的なだらかな地形である。 

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 モテナイ族居住地。山岳地帯。メンヘル族と同盟している。 

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族居住地。アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。メンヘル族と友好関係に有り、リーマンとは度々諍いを起こしている。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族居住地。その大半が岩と砂に覆われている。



7: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:31:07.44 ID:QCNlkMb70


              第三部 春風に包まれて。

     序章 生誕祭の訪問者


騎兵。軽装歩兵。重装歩兵。
この三者は古来より常に三竦みの関係にあった。
騎兵の機動力は軽装歩兵を蹴散らし。
軽装歩兵の身軽さは容易く重装歩兵の懐に飛び込める。
重畳たる重装歩兵は騎兵の機動力すら無効化した。

武具の発達によってこの関係が崩れた時はある。
騎兵の突撃槍が重装歩兵を討ち破り。
重装歩兵の甲冑を軽装歩兵は貫けなくなった。
遠距離射撃を可能とした弩の発達によって、軽装歩兵達は接触する事無く騎兵を射殺せるようになった。

だが、戦の神というのは本当に優柔不断な性格らしい。
一方に天秤が傾くと、すぐさまバランスを調整しようとするのだ。

重装歩兵は騎兵の突撃槍に長槍でもって立ち向かい。
軽装歩兵の剣は練成技術の発達によって再び重装歩兵を穿つようになった。
騎兵は重装化・もしくは軽装化の二極分化する事によって歩兵の射撃に対抗した。

このようにして、彼らの三竦みは維持されてきたのである。
では、この関係を打破する為に、我らが取らねばならぬ選択とはどのような事が考えられるだろうか?



10: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:34:31.90 ID:QCNlkMb70
まず一つが、将官の質である。
東方の格言に曰く、勇将の下に弱兵無し。
これは非常に優れた格言とされているが、決して過信してはならない。
何故なら、もしこの将が討たれた場合、唯一の大黒柱を失った軍は瓦解するほか無いからである。
更に言えば、一人の勇将の活躍が千人万人の戦を左右できる状況がどれほどあろうか?
もし、ただ一人で戦局を左右できると考える将がいた場合、それは軍にとって害となる率が非常に高いと心得るべきだろう。

二年前、このヴィップ城は七英雄が一人【人形遣い】フォックスの襲撃を受けた。
激しい争いに八人の文官武官が傷を負った。
司書令万騎将【急先鋒】ジョルジュの右目は当時失われた物だ。
彼ほどの英傑が討ち取られる寸前まで追いこまれる程の戦士が、世には存在するのだ。
当然、彼もあれから鍛錬は欠かしていないだろう。が、それでも【人形遣い】は遥か高みの存在である。
この事実を、全ての将官は胸に刻み込むべきであろう。

それでは、真の将官の質とは何であろうか?
私は、何よりも長期展望を持てる視野の深さを持つ者。これに限ると考える。
いや。この条件さえ満たしていれば、戦士として及第点をやれぬ者でも、将としては逸材と取るべきだ。

仮に、2000の兵を率いて1000を討つとしよう。
この時、1000の犠牲をもって1000を滅したとすれば、
例え勝利と言う条件を満たしたとしても指導者は無能と言わざるを得ない。

1000の兵を失うと言う事は、1000の田畑を耕す手を失うと言う事だ。
次なる戦では1000の護り手を損ない、1000の攻め手を欠くと言う事だ。
1000の未来の担い手を失うと言う事なのだ。

戦場における指導者とは、常に次なる戦いに目を向け続けなくてはならぬ。
指導者とは、一人でも多くの担い手を郷里に帰還させる責を負う者なのだ。
故に、裕福な生活を許されると言う事を、常に意識せねばならないだろう。



13: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:36:55.23 ID:QCNlkMb70
前述したよう、優れた指導者とは少ない犠牲をもって多くを討てる者の事を言う。
100の犠牲よりも10の犠牲で。10の犠牲よりも1の犠牲で。
この意識を常に持ち続ける事こそが、凡将と名将の境界線となる。
戦術の基本である、大をもって小を討つ事もまた、この理論に裏づけされた物なのだ。

では、具体的な戦術論の説明に移ろう。
もし、同数で似た装備の軍同士がぶつかり合った時、戦女神が微笑むのは、優れた指導者を持つ軍。
そして、有利な地形を選び取った軍、である。
当然、陣の配置は将官の考えによって変わるわけだから、それすなわち将官の質に直結するわけだが、
この地形効果のアドバンテージと言うものは決して馬鹿に出来ない。

熟練された騎兵であっても荒地では軽装歩兵に敗れる事すらあるのだ。
騎兵にとって機動力を生かせる広地は吉。
軽装歩兵にとって身軽さを生かせる荒地は吉。
重傷歩兵にとって隊に厚みを持たせられる狭地は吉。
最低でも、一軍の指導者たる者、この程度の知識は備えておくべきだろう。
防衛線は地形を選べる守り手が有利である事は自明の理なのだ。

陣を敷く際に高地が有利と言うのも盲信してはならぬ。
長期戦の場合、水源を断たれ包囲された場合、それは全滅を意味するからだ。
このような場合、拠点の維持が目的であれば間道を塞ぐ事を考えるべきであろう。
高地からの奇襲さえ念頭に置いておけば、数年と戦う事も可能な筈だ。
勝機とは流動的な物であり、それ故に数手先を読める視野を持った将官が必要となるのだ。

また、近頃南北の大国でジュウなる新兵器が使われ始めている。
発破の力で細筒に詰めた鉛玉を射撃する、【金剛吽】弟者の義手に似た仕組みの物だろう。
これは、北のラウンジでは製造技術が足りなく、南の神聖ピンクでは材料となる鉄の不足から
本格的に戦場に導入されていないが、今後戦局を大きく左右する兵器となる可能性もあり、
注意が必要であ



15: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:40:23.63 ID:QCNlkMb70
川 ゚ -゚)『む?』

そこまで書き上げて、【無限陣】ニイト=クールは墨が切れてしまった事に気がついた。
ふぅ、と息を吐き出し、丸まっていた背中を思いっきり伸ばしてやる。
凝り固まっていた筋肉が解放され、関節が小気味よい音を鳴らした。

手元を照らしてくれていたランプの火を消すと、締め切った部屋は暗闇に包まれる。
澱んだ空気を入れ替えようと、久方ぶりに木貼りの窓を開放した。
瞬間、彼女の目に飛び込んで来たのは、凝縮したかのような白い光と、青空。
思っていたよりも強い刺激に、思わず顔を顰めてしまう。

川 ゚ -゚)『やれやれ。また徹夜してしまったか』

真夏の太陽は、頂点に差し掛かりかけ、北の大地にも容赦なく照らしつけてくる。
窓の外を見下ろせば、宮殿敷地内の庭を女達や軽装の騎士達が忙しなく駆け回っていた。
商人が搬入してきた食料品の検品をする者がいる。
洗ったばかりのシーツを入れた編み籠を抱え、小走りに行く者がいる。
中には仕事そっちのけで目当ての宮女を口説いているような不埒者も存在したが、如何にも平和な景色であった。
視線を宮殿正面から延びる大通りに向ければ、市のシンボルたる大噴水が目に映る。
彼女は今【獅子の都】ヴィップに身を置いていた。

川 ゚ -゚)『……少し腹に入れて、仮眠でも取るか』

呟き、椅子の左右に備え付けられた車輪に手をかける。
彼女には、両足がない。
かつての日々で永遠に失われてしまった。
義足さえつければ歩行も、一流の戦士と比肩する戦闘活動も可能なのだが、クーはそれを好まない。
彼女が今、腰を下ろしているのは、【金剛吽】弟者に作らせた室内移動用の軽量型四輪車だ。
両脇の車輪を回してやる事によって、床部に接触した左右2つずつの車輪も連動して回ってくれる。
屋内専用とはいえ、誰の手も煩わせず動き回れるのは、クーにとって非常にありがたかった。



16: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:45:35.91 ID:QCNlkMb70
川 ゚ー゚)『おぉ、随分とご馳走じゃないか』

将官食堂の厨房には、一人の宮女もいなかった。
この時代、アルキュには昼食と言う概念が存在しない。
何か腹に詰める場合でも軽食で済ませるのが常であり、
その場合、手の空いている宮女を捕まえるか、市に出て兵士や城民達と卓を囲むのが通例であった。

クーが見つけ出したのは、酒に漬け込んだ山豚の肩肉や、包(食材を挟んで食べる、蒸しパンの一種)である。
種火を残している竈に藁や木屑を放り込み、火が強くなってきたところで炭を入れた。
やがて、真っ黒い炭が白くなってきた所で、鉄串に刺した肉を炙ってやる。
滴り落ちる脂が炭に垂れるたび、じゅうっと言う音と共に食欲をそそる香りが鼻を突いた。

茶を入れるのに湯を沸かし、包はその上で蒸してやる。
その間に、棚から早朝摘んだかと思われる香草類や、酢漬けの瓜を見つけ出したクーは思わずほくそえんだ。

川 ゚ー゚)『ふむ。こうしてみると、調理と言うのは戦局を見極め先を読むのに似ているのだな。
     【無限陣】と呼ばれる私には案外向いているのかもしれん』

蒸しあがった包に、肉汁の滴る肉を挟みこんだ。
ついでに、香草、白カビで覆われたチーズ、酢漬け野菜なども挟み込んでやる。
濃すぎる茶は睡眠を妨げるからと、茶にはたっぷりと蜜と乳を混ぜ合わせた。

川 ゚ー゚)『完璧だ。今度ホライゾンにも私の料理を食わせてやろう。嬉しくて泣きだすに違いない』

言いながら、いそいそと籠に詰め込む。
この時、彼女は先程目にした平和な光景と、不慣れな料理が思いのほか上手くいった事に心躍らせていた。

だから。
鼻歌交じりの己の姿をジッと見つめる影の存在に気がつかなかったとしても、
誰もそれを責める事など出来はしまい。



19: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:49:28.66 ID:QCNlkMb70
川 ゚ー゚)『うわぁ。これは……すでに、小さな塔と言うべきだな』

結局、彼女が食事場所に選んだのは、もっとも心静かに落ち着く場所。
己の自室であった。
窓枠に降り立った小鳥に、千切った包の屑を放ってやる。
その行為に対する感謝の気持ちであろうか。ちちっ……と鳴く声が、一層彼女の心を安らがせた。

クーが取り出した戦利品。
それは、大の男が顎の関節を外しても口に入らないであろう代物だ。
問題は高さだけではない。
そのボリュームたるや、見ただけで辟易するような……“怪物”と呼んでも過言はないだろう。
何せ、三枚の厚切り肉だけでなく、香草やチーズがいたる所からはみ出しているのだから当然である。
それでも彼女は、

川 ゚ー゚)『少し量が足りなかったかな? まぁ、寝る直前に食べ過ぎるのは美容に悪いというし』

などと一人で語ちている。

???『……』

お気に入りの碗に茶を注ぐクーの背後で、音もなく扉が開いた。
隙間から黒い影が、するりと室内に身体を滑り込ませる。

川 ゚ー゚)『偉大なる大地よ。恵みに感謝いたします』

両手を合わせ、感謝の言葉を口にするクーの後背。
影は、そっと踵を上げ、木靴を脱いだ。
そのまま、それを勢い良く振り上げ━━━━━

ぱこーん!



20: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:51:55.41 ID:QCNlkMb70
『何やってんだ!! この昼夜逆転女!!』

突然の大声に、餌を啄ばんでいた小鳥が慌てたように飛び去った。
思いもしなかった危害を加えられ、クーは思わず口に含んでいた茶を吹き出す。

痛む頭をさすりながら振り向くと、そこには木靴を手にした女の姿。
それを見ただけで、平和を満喫しようとしていた己の身に降りかかった災厄の正体を知った。
少女のように小柄な身体に隙無く着込んだ漆黒の給士服は、宮女達が身につけている物とは形が違っている。
そもそも、自分にこのような暴挙を働く人間が、目の前の相手以外にいるとは思えなかった。

川#゚ -゚)『貴様、何のつもりだ!! 貴様がそのつもりなら、今すぐここで決着をつけても構わんぞ!!』

『うるせぇ!! “何のつもりだ”はこっちの台詞だ!!』

しかし、給士も怯まない。
若干。いや、随分と服地に余裕のある胸元を反らし、反論する。

从#゚∀从『飯の時間になっても部屋から出てこねぇわ、勝手に厨房に入って晩飯の仕込を喰っちまうわ!!
     しかも、みんなが働いてる昼間はグースカ眠って、夜になるとゴソゴソ動き出しやがる!!
     おかげで部屋だってまともに掃除できねぇじゃねーか!!』

川;゚ -゚)『う……』

襲撃者。【天翔ける給士】ハインの怒声にクーは言葉を詰まらせた。
なるほど、確かにクーの自室はいたる所に丸めた紙くずや、高価な軍略書が寝台の上にまで散らかっている。
厨房から運び込んでそのままになっている竹筒やら皿まで何本も転がっている有様だった。

从#-∀从『全く……ハインちゃんが子供の頃想像してた公女様ってのは、こんなんじゃなかったけどなぁ』

ぼやきつつ、まずは床に散乱する本を拾い上げ始める。



23: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:54:42.75 ID:QCNlkMb70
ヴィップとニイトの連合化から二年。
最も大きな変化は、一年前にニイト王クーが王位をツンに明け渡した事だろう。
権力分化を理念とするツンと絶対王政の君主であるクーとでは、政治形式が大きく異なる。
故にクーは王の座を自ら降り、ヴィップ領ニイト公国の公主という立場に落ち着いたのだ。

川 ゚ -゚)『……ところで。早く食事を済ませたいのだが。掃除は後にしてもらえないだろうか?』

この出来事を、ヴィップによるニイトの事実的属国化と批判する歴史家も多いが、それは間違いだ。
何故なら、ニイトはヴィップに膝を屈し従っているのではない。
【経済都市】ニイトに生きる者達が、意味の無い肩書きにしがみつかず、実益を取った。それだけの話である。

从#-∀从『……分かった。なるべく埃を立てないようにしてやるから、早く喰っちまえ』

現に、クーは王座を下りた代償に、ヴィップ国内において誰よりも高い実権を握っているのだし、
元ニイトの将官であるレーゼも新生ヴィップを支える中枢に身を置いている。
【アルキュ王国正史・ニイト=クール伝】にも、『其の人と形 虚飾を好まず 実益を好む』とあるのだから、
その歴史家が如何に事実を捻じ曲げようとしているか、知れようというものだ。

面白い事に、彼らがこの歪んだ歴史観を声高に叫ぶ時、その側には常に社会主義活動家の姿がある。
そもそもクーはニイト国内の民心を刺激せぬよう、実弟ニイト=ホライゾンに王位を禅譲し、
“勝利の剣の継承者”“黄金獅子の友”“クリテロの再臨”と民衆から人気の高い彼からツン=デレに王位を返還させている。
その一面から見ても、クーの側から王位返還に積極的であり、配慮したのであろう事が伺える。

川 ゚ -゚)『モノを食べる時はな、誰にも邪魔されず自由で……なんというか、救われていなきゃ駄目なんだ。
     独りで静かで豊かで……』

从#゚∀从『うるせぇっ!! 孤独の美食家気取ってねぇで、文句があるなら飯の時間に部屋から出て来いっ!!』

ヴィップ王国・軍務令・ニイト公主【無限陣】ニイト=クール。
それが彼女の官職であった。



26: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:56:43.46 ID:QCNlkMb70
身辺が大きく変わったのは、クーだけではない。
建国時に比べ将官の数も増え、それに伴って役職も細分化された。
当然、他の将官の立場も大きく変化している。

まず、文部。
行政機関である尚書省の筆頭、尚書令(行政長官)に【白鷲】フィレンクト。
尚書門下(行政官)は2つの部に分かたれ、
ヴィップ領内の戸部官(戸籍・租税担当)に【花飾り】ミセリ。ニイト領内の戸部官に【金剛阿】兄者。
工部官(土木・建築担当)は【赤髪鬼】ヒートと【九紋竜】ギコが全領を兼任する。

司法機関である司書省の筆頭、司書令(司法長官)に【急先鋒】ジョルジュ。
司書門下(司法官)として、中書省は傘下に1つの部署を持ち、
ヴィップ領内の刑部官(刑罰・警備担当)に【紅飛燕】シィ。ニイト国内の刑部官は【金剛吽】弟者が担当する。

立法機関である中書省の筆頭、中書令(立法長官)の座は空席であり、一人の男が戻ってくるのを待っている。
現在は【金獅子王】ツン=デレが【無限陣】ニイト=クールと共に穴を埋めていた。
中書門下(立法官)としての部署は1つ。
法部官(法の公布・伝達)は【第六天魔王】ダディと【自由騎士】フンボルトが全領を兼任する。
また、後述の内部官に対する支配力を持った。

新たに新設された財務機関である太府省の筆頭、太府令(財務長官)に【神算子】レーゼ。
傘下である太府門下(財務官)として内部官(島内の情報・流通全般の管理)が置かれ、
【天駆ける給士】ハインと【祝福の鐘】ハルトシュラーが担当する。
戸部官に対する支配力を持った。

もう一つ新設されたのが、全領における軍事活動の専門機関、軍務省である。
その筆頭、軍務令(軍務長官)が【無限陣】ニイト=クール。
【金槍手】リーゼの所属する近衛侍中(ツンとクーの警護)は軍務省の傘下組織である。
彼女もまた、内部官に対する支配力を持たされていた。



28: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 21:58:21.63 ID:QCNlkMb70
続いて軍部である。
これは当然、【金獅子王】ツン=デレと軍務令である【無限陣】ニイト=クールによって管理される物とする。

歩兵部隊は予備役も含め総数35000。
筆頭に万歩将・ギコ。率いるは一番歩兵隊3000。
その補佐官に千歩将・ヒートと、同じく千歩将・フンボルト。率いるは第二・第三番歩兵隊2000。
また、ミセリ、ハイン、流石兄弟、ハルトシュラーの五人も千歩将の地位に有り、
それぞれ第四〜第八番歩兵部隊1000を直轄とする。

騎兵部隊は予備役も含め総数12000。
筆頭に万騎将・ジョルジュ。率いるは強襲騎兵部隊【薔薇の騎士団】2000。
対メンヘルの最前線であるマティーニ城には千騎将・フィレンクトと【青雲騎士団】1000。
女性のみで編成された重装騎兵隊【天馬騎士団】1000を率いるは千騎将・リーゼ。
遊撃の専門家である軽装騎兵隊【黄天弓兵団】1000を率いるは千騎将・シィ。
自由騎士団【戦鍋団】1000を率いるは千騎将・ダディ。

総数およそ50000にまでヴィップ軍は成長していた。

その功績は【無限陣】ニイト=クールによる物が大きい。
彼女は、ヴィップとニイトの連合後、在野にある【天智星】ショボンの進言を取り入れ
アルキュ全土に広がるギルドへの支配力を一層強固な物としたのである。
その手は性風俗にまで及び、当然各地で影に表に反抗しようとする者が現れた。
が、その全ては【祝福の鐘】ハルの情報網を逃れる事が出来ず、
数日間【金剛阿吽】の姿がヴィップ国内から消えると“何故か”反抗者は挙って屈服してくるのである。

また、ギルドが安定すると、ショボンは続いて各地で食い扶持を失った自由騎士達に目をつけた。
【第六天魔王】ダディを通じ、彼らを屯田兵としてヴィップに呼び集めたのである。
幸い、元々不毛の地と呼ばれ続けたギムレット台地は開墾すべき地に困らない。
ハルを通じてラウンジから寒気に強い植物の苗や種、農法を今までよりも積極的に取り入れた。
これは、ヴィップとニイトが連合化した事によって始めて可能となる改革であったといえよう。



31: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:01:31.26 ID:QCNlkMb70
从 ゚∀从『……』

だが、【天智星】ショボンの姿は未だに宮殿に無い。
ニイトとヴィップの争いは【人形遣い】フォックスの陰謀であった旨は全ての民衆が知っている。
同時にそれをきっかけに舞い戻った【王家の猟犬】ニイト=ホライゾンと【白衣白面】の人気は
彼の汚名を消して余りある物であり、中にはショボンが影で動いていなければ両国の連合化もなかったと
都合の良い結果論まで持ち出して擁護しようとする者すらいる。
元々ヴィップ領内における政策の中心人物として人望も高く、民衆からは復職を望む声も高い。
それでも彼はその全てを断ってきた。在野の地位から献策だけを続けてきたのである。

川 ゚ -゚)『しかし……その優雅な生活も今日までだろう?』

从*゚∀从『あぁ。陛下が直々に怒鳴り込んできてな。
     本当に悪いと思っているなら、いつまでも民の声に耳を塞ぐのは止めなさい……って。凄い剣幕だったぜ』

ハインは自分の事のように嬉しそうに言う。
明日は【金獅子王】ツン=デレの生誕祭がヴィップ城下を挙げて行なわれる。
その場でショボンは恩赦と言う形で復帰するのだ。
これはあくまで形式的な物であり、ツンが誰よりもショボンの復官を望んでいたのは、中書令の席がいつでも空席であった事から明らかだった。

ちなみに、ニイト公主である【無限陣】クーがヴィップ城に滞在しているのは、生誕祭を祝うためではない。
軍務令という高官に身を置く彼女はツンの側に身を置く事が多く、ニイト城はレーゼを太守に流石兄弟とハルを残している。
カンパリを守るのはリーゼ。フンボルトがその補佐に当たる。

長きに亘って【戦鍋団】の副官を務めてきたフンボルトであるが、元々机上の業務が肌に合っていたのだろう。
特に癖の強い自由騎士達の扱いが上手く、【神算子】レーゼをして感嘆させるような働き振りを見せている。
北の朽ちた砦を港町として生まれ変わらせたのも、マティーニを砦から城へと拡大化させたのも、この男の献策による物であり、
功績が讃えられた彼は、新たな港町に名をつける名誉を与えられた。
そして、数日間部屋に篭もりきった後、彼は無精髭だらけの顔で“ギブソン”と言う名を黄金の王に献上したのだ。
自由騎士達の間を鼻腔を広げて駆け回るフンボルトを、人々が【不自由な自由騎士】と呼び始めたのも、この頃とされている。



33: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:04:43.61 ID:QCNlkMb70
         ※          ※          ※

川 ゚ -゚)『もしかしたら、私は何かを食べ続けないと死んでしまう病にかかったのかも知れん』

爪ii- -)『馬鹿な事を言わないで下さい』

(;//∀゚)『なぁ? 本当にこいつはニイト復興の名君ニイト=クールなのか? 単なるグータラ公主なんだがよ?』

( ´_ゝ`)『……人とは随分と変わってしまう生き物なのだな』

結局ハインに部屋を追い出され、仕方なく宮中をふらついていたクーであったが、
運良く訓練を終え暇を持て余していた【急先鋒】ジョルジュを捕まえる事に成功した。
彼に四輪車を押させて市で買い食いを楽しんでいると、ちょうどニイトから生誕祭を祝いに来たレーゼと兄者に再会したのである。

爪ii- -)『朝はちゃんと起きる事。買い食いは控える事。以前から文にて何度も申し上げた筈ですが……』

川 ゚ -゚)『いや。これこそ、真のニイト族らしい生き方なのかもしれないと、最近思うんだ』

爪#- -)『……最悪。もう、ホントに最悪』

元々、牧農の民であるニイト族は、アルキュの四民族の中でもっとも穏やかな生活を送る者達であった。
昼は羊や山羊を番犬に見張らせ、流れる雲を眺めながら昼寝をする。
夜は陽が昇るまで酒場で踊り歌い、朝になったら再び羊を野に放つ。
それがニイトの民が理想とする生き方であり、レーゼの様に労働に美徳を求める者こそ本来は少数派なのだ。
その少数派が反動でも受けたかのように気真面目な性格になるのも、彼らの特徴かもしれない。

しかし、口では小言を言いながらもレーゼはクーの変化を悪い物だけではないと考えていた。
最後に会ったのが半年前。
表情が柔らかくなり、時折見せていた狂気に等しい険しさが消えて来ている。
常に気を張り詰めて生きてきたクーではあるが、緩やかな時間が彼女を本来の姿に生まれ返させてくれたのかもしれない。



34: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:08:31.49 ID:QCNlkMb70
         ※          ※          ※

爪゚ー゚)『それじゃ、一刻(約2時間)後に』

( ´_ゝ`)『うむ』

宮殿内に割り振りあてられた宿泊室に荷物を預けると、4人は茶の味を楽しむのもそこそこに、
男女ごとに別れて市の探索に戻った。
意外な事に、これを提案したのはレーゼである。
彼女にとっては、ほぼ半年ぶりのクーとの再会であったし、経済の専門家としてヴィップ城の繁栄を目に入れておきたい部分もあった。

( ´_ゝ`)『で、俺達はどうするのだ? 男二人で市を歩くなど、ぞっとせんぞ』

四輪車を押して雑踏に消えた背中を見送りながら、兄者が言う。
生誕祭の祝いという目的での訪問という理由もあって、彼は見慣れた黒装束を着込んでいない。
灰色を基調とした緩やかな官服に身を包んでいた。
が、その中には幾つもの投弾が仕込まれているのだろう。

( //∀゚)『まぁ、そう言うなって。大人の時間は暗くなってからでも良いだろ?』

官服の上に白い戦外套といった、不釣合いな格好のジョルジュが答える。
彼の右目は、金を刺繍した黒眼帯で隠されていた。
二年前、フォックスとの戦いで負傷した目は、眼球の摘出を余儀なくされる程の大怪我だったのだ。

しかし、彼はそれを苦にする素振りも見せない。
死神の大鎌の切れ味は衰えるどころか更に増していたし、名誉の負傷と気取る事もない。

【金剛阿】兄者と【急先鋒】ジョルジュ。
かつて、ニイトとヴィップの戦いで互いを認め合った彼らは、
自然と顔を合わせれば酒を酌み交わす仲になっていた。



35: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:13:32.08 ID:QCNlkMb70
( ,,゚Д゚)『おう、猪馬鹿じゃねぇか。なんだ、兄者も到着してやがったのかゴルァ』

(*゚ー゚)『ご無沙汰』

ヴィップ内における変化がもう1つある。【紅飛燕】が幼名を捨てた。
更に言えば、【九紋竜】ギコとの入籍を機に幼名を捨てたのである。
と、同時にギコは客将としてではなく官職を抱く身になり、二人はヴィップ将官で唯一の既婚者となった。

訓練を終えたジョルジュが、ひとり暇を持て余していた理由がこれである。
二年前であれば、ギコを誘って酒屋の戸を潜り、国家百年の大計を語るフリをして女性の胸の大小について熱弁をふるう事も出来ただろう。
が、長刀の剣士が入籍後、そのような事も出来なくなってしまった。
今も、ギコは露店で買ったギヤマンの髪飾りを妻の髪に差していたところなのである。

( ,,゚Д゚)『変な気ぃ使ってねぇで、たまには酒でも呑みに来いゴルァ。シィの飯は美味ぇぞ』

(*゚ー゚)『待ってる』

片手に青々と瑞々しい丸瓜や赤葱を入れた籠を持ち、少年のように小柄な女の手を引く男が、
ヴィップ歩兵隊の筆頭と誰に信じられようか。
立ち去り際にかけられた声に曖昧な返事をして、深く息を吐きだした。
共に心の奥底に秘めた想いを持つ兄者とジョルジュである。

( ´_ゝ`)『……今、物凄く生きているのが嫌になったぞ。酒でも呑まねばやっていられん』

(;//∀-)『俺は未だにあの口下手筋肉チビがどうやって女を口説いたのか、理解できねぇよ』

( ´_ゝ`)『……それを言ったら、あの無愛想無口女が睦言でどのような声を出すのか、想像できんな』

何か大切なものを失ったかのような面持ちで、ガックリ肩を落とす。
そして、そのまま酒場の戸を潜っていった。



37: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:16:00.85 ID:QCNlkMb70
爪゚ー゚)『最後に見た時よりも……また人が増えましたね』

雑踏の中を縫うようにしながら、四輪車を押す。
道すがら、擦れ違う者達は口々とクーに堅苦しさのない挨拶をかけ、彼女がこの街に完全に溶け込めている事が良く分かった。

爪゚ー゚)『物が豊かなだけでなく、萎びやすいサヤ豆まであんなにふっくらしていて。流通が安定している証拠ね。
    これが2年前までニイトと剣を交え、7年前は流刑地だった国とは信じられないわ』

川 ゚ -゚)『あぁ。これも、アルキュを流浪していた民が頑張ってくれたおかげだ。
     流民を文句1つ言わず受け入れるヴィップの民も凄いが……フンボルトと言うのは本当に優れた男かもしれんぞ』

この男の話題を口に出す時、クーですら手放しで褒め称えざるを得ない。
アルキュ中を放浪していた自由騎士であったが、生涯根無し草としての生活を望んでいるわけではない。
多くの者は金を貯めると自由騎士ギルドの幹部に落ち着いたり、小さな酒家を開いたりする。
人は誰もが、心のどこかで安寧な生活を求めてしまう生き物なのだ。

これを誰よりも早く見抜いていたのが、元・戦鍋団副団長フンボルトというわけである。
新生ヴィップの玄関口となったカンパリにおいて、彼は誰よりも的確な人員配置に取り組んだ。
旅の生活に未練を持つ若い者や商才を持つ者は【経済都市】ニイトに送り、商隊の護衛に。
土地に根付いた生活を求める者はギムレット大地北部の開拓に。
戦の中に生き方を見出す者はメンヘルの最前線であるマティーニ……と言う風に振り分けて行ったのだ。

【天智星】ショボンの献案した屯田制度は、フンボルトによって完成したと言っても決して褒めすぎではない。
貴族階級出身のショボンやレーゼ、クーでは為せなかった事を、この男は短期間で成功させてみせたのだ。
その意味では、彼を新生ヴィップ内政の中心人物と数える歴史家達を、慧眼の士と見る他ないだろう。

爪゚ー゚)『あら? あれは……?』

と、そこでレーゼはかつて見知った銀色の頭髪を発見した。
大噴水広場の片隅でこちらに背を向けて誰かと話し込んでいるようだが、彼女の位置からその“誰か”の顔を、見る事は出来ない。



39: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:18:43.68 ID:QCNlkMb70
爪;゚ー゚)『は?』

突如、青年の身体が“く”の字に折れ曲がった。
そのまま膝をつくように崩れ落ち、その影になっていた人物の姿が顕わになる。

ξ#゚听)ξ

爪;゚ー゚)『陛下……?』

正統王位継承者、ヴィップ女王【金獅子王】ツンデレ。
彼女はレーゼやクーに気付いた素振りもなく、目の前でうずくまる青年に何やら怒鳴り散らしている。

(;^ω^)『ツ、ツン……僕の話を……』

ξ#゚听)ξ『うるさいっ!! 馬鹿っ!!』

最後に大きく怒鳴ると、彼女は一人ノシノシと宮殿に向かう道を歩き去った。
だが、それを見ていたクーは意外にもあっさりした物で、

川 ゚ -゚)『ふむ。今日は裾を踏んで転ばなかったか』

などと言っている。

爪;゚ー゚)『な、何を悠長な事を言っているんですか!? 行きますよ!!』

言うや、【神算子】の異名を持つ才女は四輪車を押し、青年に駆け寄った。



44: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:21:51.82 ID:QCNlkMb70
( ´ω`)『明日の食事会で髪につける飾りを買いに行きたいって、昨夜言われたんだお』

広場を囲む石垣の上に腰を下ろし、青年はポツポツと語り始めた。
レーゼはその隣に並ぶように。クーは二人の目の前で興味無さそうに噴水を眺めている。

( ´ω`)『で、さっき待ち合わせの時間に少し遅れてツンが来て「待たせてゴメン」って言うから……』

爪゚ー゚)『はい』

( ´ω`)『……「仕事だから気にする必要はない」って答えたら、いきなり殴られたお』

爪ii- -)。oO(あちゃ〜)

青年の言葉に、レーゼはミルクティー色の頭を思わず抱え込んだ。
近衛侍中・千歩将・第零番歩兵部隊【白衣白面】隊長、【王家の猟犬】ブーン。
それが、今の青年の官職である。
ニイト=ホライゾンと言う真名は、あまりに大仰だというので、青年があまり好んでいない。
正史においても、儀礼の場など一部を除いて“ブーン”と表記されているのはご存知の通りだ。

ツンが職務によって青年を呼びつけたわけではない事くらいは、仕事人間のレーゼですら十分理解できる。
いや、日頃の激務の後、己の肌の張りがなくなりつつあると密かに焦っている彼女だからこそ人一倍分かってしまうのだ。
おそらくは、相応の勇気をもって誘い出したのだろう。
了解の返事を貰った後は、期待に胸を膨らませて床に着いたはずだ。
それを、「これも仕事だから」と言われてしまっては、あまりにもツンが不憫すぎる。

( ´ω`)『いつも思うんだけど、護衛を頼まれて殴られるのは割に合わないお……』

爪ii- -)『ホライ……ブーン様。それは最悪です』

本気で首を捻る青年の姿に、レーゼは大きな大きな溜息を吐き出した。



46: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:24:24.40 ID:QCNlkMb70
青年の名誉のために断言しておくが、彼は決して悪意をもってツンに接している訳ではない。
“いつも”“殴られ”ているにも関わらず、彼女に尽くしているのであるし、
むしろ好意をもって接しているつもりだ。
が、だからこそ余計にタチが悪い。

原因は二人の感情の温度差。それを生み出した空白の三年間にある。
ブーンがショボンの命により、謎の一団【白衣白面】隊長としてツンの側を離れている間。
銀髪の青年は、常に友人の身を影から支え続ける事“だけ”を考えてきた。

が、ツンは違う。
もう2度と増える筈の無かった青年との思い出を支えに生きてきた彼女にとって、
その想いが恋慕の情を越えた物になっていたとしても、何の不思議も無いであろう。

もし、これが互いに同じ距離で想いを高めあってきたのならば、何の問題も無かった筈だ。
もし、青年が『好色さにおいても【白鷲】の高みを行く』と言われた父モララーの悪癖を爪の先程も継いでいれば、
ツンの気持ちに気付いてやる事も出来ただろう。
だがしかし、現実の世界に“もしも”が存在する事はありえなくて。
『色恋沙汰において鈍感さは一種の罪』というニイトの格言が、レーゼの脳裏をふとかすめた。

川 ゚ -゚)『まぁ、あまり気にするな。ヴィップでは新兵が訓練で怪我をするのと同じくらい良く見る光景だ』

そこに口を挟んできたのは、何時の間にか蜜団子(団子に蜜をかけた冷菓)の碗を手にしたクーである。
咄嗟に反論の言葉も浮かばぬレーゼに向け、なおも言葉を続けた。

川 ゚ -゚)『そんな事よりも、覚悟しておけよ。おそらく今晩は睡眠時間を大幅に削る事になりそうだ』

爪;゚ー゚)『……はぁ?』

クーの言葉の意味は、今の時点で知る事は出来ない。
が、数刻後。彼女は身を持って、半ば強制的に理解させられる事になる。



48: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:27:44.61 ID:QCNlkMb70
         ※          ※          ※

その日の夜。
日課となりつつある美乳体操を終えたレーゼは、翌日に控えた【金獅子王】生誕祭に備え、早々に床に入った。

思えば、二年前。
ヴィップとニイトの連合化に伴い、財政担当の筆頭を任じられてから、日が変わるより早く床に着いた事など一度も無い。
内政が安定するに従って、日和見を決め込んでいた連中も次々と領内への移住を求めはじめ、
フンボルトという優秀な片腕を得ても、仕事の量が減る事は無かった。

今回の生誕祭参加は、休暇どころか徹夜続きの彼女に対して与えられた息抜きの意味も大きいのだ。

爪*- -)。oO(はぁ……幸せ……)

まどろみながら思う。
身体が沈み込む程ふかふかの布団からは太陽の匂いがする。
食事も業務の合間に詰め込むような物でなく、久々にゆっくりと堪能した。
特に、野性味の強い鹿肉に甘酸っぱい黒スグリのソースをかけた物は絶品だったと思う。
鹿肉は北のラウンジでも好まれているから、留守を預かるハルにも食べさせてやりたい。

爪*- -)。oO(…………)

ニイトにいた頃は、どんな監視の目も潜り抜けて寝室に闖入してきた兄者は【急先鋒】らに連れられて夜の街に出ているし、
何よりも明日の業務の事を考えながら眠らなくてもよい。
意識が徐々に薄れ、心地よい夢の世界に完全に蕩け込んで……

ミセ*゚ー゚)リ『お邪魔しまーす』

爪;゚ー゚)『ひぃっ!?』



51: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:31:38.62 ID:QCNlkMb70
ξ - -)ξ『……第127回……女だらけのヴィップ改革案大会議……始まるよー……』

ミセ*゚ー゚)リ『わーわー』

川 ゚ -゚)『いやっほー。盛り上がってきたー』

爪;゚ー゚)『……はあ』

あと数秒で眠りの世界に飛び込めるというところを襲撃され、
拉致当然に連れてこられたのは【金獅子王】ツン=デレの自室であった。
黄金の王という呼び名に反して部屋の作りは非常に質素な物で、
調度品の一つ一つもレーゼに与えられた部屋のそれと大差ない。
壁にかけられた獅子の旗と、寝台の枕元に飾られた山百合が印象的だった。

部屋の主は寝台に靴を履いたままうつ伏せになって、水鳥の羽を詰めたクッションに顔を埋めているし、
ミセリとクーの二人はツンにやる気の無い賛同の声をあげながら、
いそいそと部屋の中央に置かれた卓に碗を並べている。
その卓上には、このような時間に不似合いな量の焼き菓子が大皿に山と盛られ、
客間に飾る花瓶にように大きな壺には酒でも入っているのであろうか……?

ξ - -)ξ『今日の議題……どうも我が国の将官には、以心伝心のような物が欠けていると思います……。
      これというのは、実務を効率良くこなすにあたって必要不可欠な物であり……』

クッションに口元を埋めたまま、ボソボソと話す。

ミセ*゚ー゚)リ『まぁ、ようするにもーちょっと乙女心を理解しろって事です』

爪ii- -)『あぁ……そう言う事ですか。確かにアレは最悪でしたけど……』



55: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:35:11.90 ID:QCNlkMb70
ミセリの一言で、レーゼはこの会合の意味を理解した。
脳裏に浮かぶのは、昼間がっくりと肩を落としていた青年の姿だ。
つまり、色恋沙汰の愚痴を聴かされる為に呼びつけられたのであり、
“第127回”と言う数が大袈裟な物ではないであろう事は、淡々と酒宴の支度を整えるクーやミセリを見れば良く分かる。

ミセ*゚ー゚)リ『思うに、陛下はもう少し強気で押していった方が良いのではないでしょうか?』

川 ゚ -゚)『押し倒せ。面倒臭い』

ξ#゚皿゚)ξ『そんな事出来る訳ないでしょ!!』

勢い良く身を起こして抗議する。
が、すぐにポテンとクッションに倒れこんでしまった。

ξ#- -)ξ『アタシね……ナイトウが白面だって知らない時、凄く“変な事”口走っちゃったのよ……。
      それなのに「仕事だから」とかどーゆー事よ? 何でいつも平然とニコニコしてるのよ!?』

爪ii- -)。oO(なんて不憫な……)

そこでツンはガバッと跳ね起きると、卓に並べられた碗の1つを奪い取り、一息に口に流し込んだ。
彼女が言っているのは、ヴィップとニイトの緒戦。
クーの策によって本隊を分断され、仮面の青年と向かい合った時の事である。

ツンの悲劇は、青年との距離は勿論の事として、『青年に死を装わせ、影から支援させる』というショボンの策が
完璧すぎた事にも起因する。
二度と会えぬと思いその存在を神聖化させていたブーンが、実は生きていてひょっこり帰ってきた。
これでは、高めた感情をどう扱えば良いのか分からないし、どう接していけば良いのかも分からない。
その上、告白紛いの言葉を伝えているわ、にもかかわらず青年との距離が縮まらないわでは、
あんまりな話であろう。



57: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:37:58.40 ID:QCNlkMb70
川 ゚ -゚)『ところで、ミセリ。槍の訓練はどうなっているのだ?』

ミセ*゚ー゚)リ『ヘヘ。ジョルジュ将軍が言うには、ボクって筋がいいそうです。褒められちゃいました』

長年に渡って銀髪の青年と離れ離れになり、やがて再会したと言う意味では、実姉であるクーもツンとよく似ている。
が、レーゼが見る限り今のクーからは、かつて見せていた度を過ぎた溺愛ぶりが影を潜めているように思えた。
本来家族があるべき距離を取り戻した為、あたりまえの姉と弟としての関わり方が出来る様になったのだろう。
過去の記憶は相変わらず失ったままだが、青年はクーを姉として慕っていて。
クーもまた、無理にブーンの記憶を戻させようとはせず、ただ一人の弟として可愛がっている。

つまり、互いに姉弟としての付き合いを望んでいるという面では、クーは黄金の王より恵まれており。
互いに抱く感情に距離があるという事情から、ツンは黒髪の友と比べて不幸であると言えるのだ。

ξ#゚听)ξ『ちょっと、そこ!! 何で2人でのんびり気分な会話を楽しんでるのよ!?』

川 ゚ -゚)『正直飽きた。もう面倒だから今からホライゾンの部屋に忍び込んで来い。姉として許す』

ξ#゚皿゚)ξ『出来るわけないでしょ!!』

一国の元首と、その軍事最高司令官の会話とは、とても思えない。
おおよそ城下の街娘がするような話である。が、二人の顔はどこか楽しそうで。

レーゼ自身も決して幸福な少女時代を過ごしてきた訳ではない。
モララーの死後、父であるラーゼが自ら進んでリーマンへの反抗を押さえ込む立場にまわった為、彼女とリーゼは父と離れ母の実家で過ごしてきた。
周囲には友と呼べる者も無く、思えば数字に囲まれて終えた幼少期だったと記憶している。

爪゚ー゚)『私も本格的に参加させてもらおうかしら、ね』

そんな彼女にとって、この会合は未知の楽しみに溢れているように思えて。
卓を囲む座の1つに腰を下ろすと、レーゼは黄金色の焼き菓子に手を伸ばした。



61: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:40:38.44 ID:QCNlkMb70
         ※          ※          ※

兵士『【金獅子王】ツン=デレ陛下、ばんざーーーーーーーーーーい!!!!!!!』

民衆『ばんざーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!』

翌日。
生誕祭は、青空の下で無事に執り行われた。
黄金の甲冑の上に黒の戦外套を纏ったツンが宮殿2階部分に設置されたテラスに姿を現すと、
眼下を埋め尽くした民衆から千歳万歳を叫ぶ声が響きわたる。

老人『まさか、今年も陛下の御生誕を祝えるなど、去年は考えもしなかったわい。ありがたい話じゃ』

商人『お、そうかい!? それなら次は来年の御生誕を祝わねぇとな!!』

青年『違いねぇな!! そら、爺さん!! これでも飲みな!!』

言いつつ、一人の青年が手にした柄杓を満たしていた液体を、老人の頭からぶちまけた。
が、老人はその行いに声を荒げる事もしない。
それどころか、『愉快愉快』などと言いながら、笑いあっている。

柄杓の中身は当然、水ではない。酒だ。
一目でも正装した王を見ようと集まった民衆達は、酒を入れた大樽を幾つも運び込んでいる。
それは乾杯の為だけでなく、誰彼構わず頭からぶっかけあったりするのに使われ、
中には興奮のあまり頭から飛び込む者まで続出した。

背後に文武の官を従えたツンは、その光景を見て嬉しそうに微笑んでいる。
時折、民の声に応えて手を振ると、その度に人々の興奮は高まった。



63: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:42:48.40 ID:QCNlkMb70
爪;゚ー゚)『噂には聞いていたけど……凄い光景ね』

唖然とした表情でレーゼがこぼす。
かつてニイトの王であった頃のクーも、復興の救世主として民衆からの人気は高かった。
が、ツンのそれはクーを遥かに上回っているように思える。

( ^ω^)『おっおっおっ。でも、これがヴィップらしさだお』

青年は笑った。
元々、罪人の流される地であったヴィップの民は、他領と比べられぬほど貧しい生活を送ってきた。
中央を追われた指導者達は、憂さを晴らすかのように圧政を行なった歴史がある。
が、それは同時にこの大地に住まう者達の心を鍛え上げてくれた。
厳しい暮らしに俯くようにしていても、片手で数え切れるだけの慶事には財を投げ打って笑いあう。
それがヴィップの民が掴んだ強さの一つなのである。

( //∀゚)『へへっ。覚悟しておけよ、兄者。こーゆー日は本気で激しくなるからな。
     腰を痛めても文句は言わせねぇぜ』

( ´_ゝ`)『2日連続か。貴様も若くない筈だが……流石だな』

黄金の王は、背後で“今晩”の相談をヒソヒソとしている二人を軽く一瞥した。
絶対に後で赤と黒の給士に話してやろうと心に決め、民に向かって口を開く。

ξ゚ー゚)ξ『我が事ではありますが、今日と言う日を皆と喜べる事。非常に嬉しく思います。
     さて、話は変わりますが。我が国における五大令が1つ、中書令が今もなお空席である事は皆も知っている事でしょう。
     今日、この楽しき日に。アタシは【金獅子王】ツン=デレの名において、一人の男を中書令に任じたいと思います』

ツンの言葉と共に、一人の青年が宮殿奥から姿を現す。
その彼が王の前に膝まづいた所で民衆の声は一気に高まりかけたが、
ツンがスッと手を上げるとそれが合図だったかのようにざわめきは静まっていった。



68: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:46:33.80 ID:QCNlkMb70
ξ゚ー゚)ξ『日が昇ると共に罪に服す時間は終わりました。過分な遠慮は無しにしましょう』

ツンの声と同時に男が顔をあげた。
まず、目に付くにはつぶらな瞳の上にもさっと生えた白い八の字眉であろう。
宮を離れ、城外で庵住まいをしていたはずのその男。
晴耕雨読の生活がよほど合っていたのか、肌艶は良い様子だった。
男は、片膝をついた姿勢で両手を胸の前に組み合わせ、ゆっくりと言葉を紡ぐ出す。

(´・ω・`)『大罪人ショボン。この場にて陛下の御生誕を祝う機会を与えられ、恐悦にございます』

ξ゚ー゚)ξ『こう見ると……やっぱり少し太ったみたいね。でも、これからは痩せ細るまで働いてもらうわよ』

(´-ω-`)『……御意。不徳の身でありますが、陛下とヴィップの民の為、粉骨砕身させて頂きます』

そこで、宮女の一人がスッと前に出た。
王自ら、ショボンの黒髪を撫で付けた頭に宮女から受け取った竹冠を乗せ、続いて中書令の証たる錫杖を差し渡す。
恭しくショボンがそれを受け賜ったところで、民衆の中の誰かが叫んだ。

『【金獅子王】ツン=デレ陛下ばんざいーーーーい!! 中書令ショボン様ばんざーーーーーい!!』

それに数瞬遅れるようにして、2人を讃える声が民衆達からドッと沸きあがった。
元々ショボンが官職を退いていたのも、皆を欺いたという自責の念から、進んで罰を受けていた面が強い。
民の目から見ればショボンはフォックスに踊らされていたに過ぎず、彼の組織した【白衣白面】も
オリーブ村の人売り退治やニイトへの潜入活動など、あくまで自分らに害の出る活動を行なってきた訳でもない。

ξ゚ー゚)ξ『中書令ショボン、最初の命を下します。民の声に応えてあげなさい』

ツンの声にショボンは立ち上がり、おずおずと眼下の民に向けて手を振って見せる。
そこで、民衆の興奮は最高潮に達した。
こうして……。2年の空白をあけ、【天智星】ショボンは帰ってきたのである。



71: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:50:04.42 ID:QCNlkMb70
         ※          ※          ※

(´・ω・`)『本当はね、そろそろ復官を考えていたんだよ。在野にいるのはもう嫌だ……なんてね』

爪゚ー゚)『あ、そう。これからはビシビシ働いて貰うわよ』

川 ゚ -゚)『うむ。貴様は在野から献策するのみで、実際に働くのは我々と言うのは割に合わんからな。
     どこが罪に服しているというんだ。楽をしていただけではないか……全く』

在野。嫌。
ざいや。いや。
ショボンがこの日の為に寝る間も惜しんで考えた駄洒落は呆気なく無視される。
時は夜。
生誕祭も無事終わって、将官達は宮殿の食事室で軽い酒宴を開いていた。

話題の中心人物は、主にこの日復帰した中書令ショボンである。
本来の主役であるはずのツンは、領内各地から祝賀の為に集った者達の対応にやや疲れを見せており、
分厚いクッションを敷いた座の上でぐったりしていた。

ギコとシィは、水で薄めた酒で乾杯して。
ブーンは、抱擁し互いの背をポンポンと叩きあって。
ジョルジュは、握った拳を軽く合わせあって。
皆、それぞれのやり方でショボンの復帰を歓迎した。

( ´_ゝ`)『……』

【金剛阿】兄者は、直接ショボンに声をかけたりはせず。
少し離れた場所から主の姿を潤んだ瞳で見つめる二人の給士の尻を、
『良かったな』とでも言う風にポンと叩いて歓迎の意思を表した。
そして、そんな彼の行動は鉄拳と蹴りによって受け入れられたと、記録には残っている。



73: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:54:32.30 ID:QCNlkMb70
財のレーゼ。政のショボン。軍のクー。
この三人を揃えたヴィップは、この日この時こそが最も輝いていた時代であっただろうと、多くの歴史家達に言われる事はご存知の筈だ。
それぞれが別の分野でも頂点を掴める程の智を治めた彼らによって支えられたヴィップは、世界的に見ても有数の実力派国家であっただろう。
彼らだけでなく、法部官フンボルトのような新たな才能も姿を見せ、客人の立場に甘んじていたギコや兄者も政に手を貸すようになっている。
ミセリのように、不得手な分野の修練に励む者も多かった。

ξ゚ー゚)ξ『……』

熟成しつつあるのは、宮中だけではない。
市中においても【人形遣い】フォックスに煽動された反省から私塾を開く者も現れはじめ、時折ツン自ら子供達に文字を教える役を買って出る事もある。
若人は進んで先達に教えを乞い、熟達した者は決してそれを鼻にかけず未熟な後人を見守り。
ツンの目指した国家がここに完成しようとしていた。

( ^ω^)『お? ツン、どうしたんだお?』

ξ゚ー゚)ξ『うん、ちょっと考え事をしてただけ』

強大勢力に成長したヴィップに対し、リーマンやメンヘル、ネグローニは動く素振りも見せず、
評議会を追放された【人形遣い】フォックスは、その名前すら風の噂にも挙がらない。
各勢力は鼎立されたバランス関係を崩す事を得策とせず沈黙し。精々、南部塩田の領境を巡って【常勝将】シャキンと海の民が小競り合いを続けているだけだった。

( ^ω^)『そうかお』

言って、青年は赤い花を模った髪飾りを、そっとツンの髪に挿してやる。
昨日、姉やレーゼに追いやられるようにして自ら市を歩き回って探し出してきた物だ。
青年の急な行動に最初は目を白黒させていた黄金の王であったが、それが先日の些細な事件に対する青年からの謝罪の気持ちと知ると、

ξ*゚ー゚)ξ『ありがと』

そう言って静かに笑った。



75: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 22:58:31.51 ID:QCNlkMb70
兵;゚Д゚)『失礼致します。只今、祝辞の者が到着し、陛下に参拝を希望しております』

( //∀゚)『あ? 参拝だぁ? こんな時間にか?』

一人の兵士が戸を叩いて姿を現したのは、そんな時である。
すでに日も変わろうとしており、めでたい日を祝いたいという気持ちがあっても、このような時刻に参拝を求めるのは些か非常識である。
通例であれば上官に許可を得ずとも、兵の判断で翌日に出直させる事が認められていた。
が。

兵;゚Д゚)『それが……その……』

にもかかわらず、兵士は助けを求めるような面持ちで諸将を見渡している。
その表情から只事ではない何かを感じ取ったのか、コクリと頷いてツンは座から立ち上がった。

ξ゚听)ξ『分かりました。王座の間に通して頂戴。ミセリ。支度を整えるのを手伝ってくれる?』

ミセ*゚ー゚)リ『かしこまりました、陛下』

ツンに一礼して、髪飾りの宮女は部屋を飛び出していく。
ホッとした顔の兵士もミセリに続いた。

( ;^ω^)『姉様、僕らは……』

川 ゚ -゚)『うむ、我らも玉座の間に向かうとしよう。諸兄らも礼装を整えよ』

クーの一言で、諸将もまた一斉に動き出す。

川 ゚ -゚)。oO(……今日も長い夜になるやもしれんな)

その光景を眺めながら、クーはそんな気配を感じ取っていた。



77: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 23:01:45.96 ID:QCNlkMb70
         ※          ※          ※

(;//∀゚)『そんな……嘘だろ……?』

(;´_ゝ`)『気持ちは分かるが、心を乱すなジョルジュよ。
       今、我らが目の当たりにしてるのは間違いなく現実の光景だ』

(;´・ω・)『これはちょっと僕にも予想できなかったかな……逆にこんな時間で良かったかもしれないよね』

四半刻(約30分)後。諸将は日暮れ前まで集っていた王座の間に再び揃っていた。
二年前、フォックスとの戦いで破損された雪鼠の毛皮を敷いた玉座や石畳は、
その痕跡すら残らぬように修復されている。

背後にミセリを。左右にクーとブーンを従えたツンの前には、
両脇を文武の官に挟まれるようにして一組の男女が膝をつき、頭を下げている。
途中、馬車が破損し到着が遅れた旨はすでに聞き及んでいたが、要らぬ混乱を避ける為の処置とも考えられた。

川;゚ -゚)『そんな馬鹿な……ありえん』

( ;^ω^)『……姉様?』

クーの呟きは、皆の心中を代弁するに十分な物であっただろう。
ツンは勿論として、ショボンやジョルジュといったリーマンの貴族層出身者は当然この男女を良く知っている。
元ニイト王であったクーや側近であったレーゼは、男とは面識もあり、確執もあった。
銀髪の青年は男の顔こそ知らぬまでも、その名前くらいは聞き及んだ事があるだろう。
いや、アルキュに住む者で男の名を知らぬ者が一人としているだろうか?

ξ;゚听)ξ『と、とにかく顔をあげちぇ……あげて下さい』

ツンの一言で、男女がゆっくりと顔をあげた。



83: ◆COOK./Fzzo :2009/09/23(水) 23:06:03.20 ID:QCNlkMb70
まず、女である。
その着こなしは、目が痛くなるような桃色の隠密装束。
思わず引き千切りたくなるほど、そのいたる所にフリルが揺れている。
肩先まで伸ばした黒髪は、毛先が軽く丸まっており、
歌と踊りでも商売にした方が人気が出るであろう、あどけない顔つきをしていた。

女『えへへ〜。ジョルジュ君、久し振り〜☆ その右目フォックスにやられたんだって? かっこわる〜☆』

(;//∀゚)『テメェは相変わらずだな、桃色脳味噌』

男『これ。場所をわきまえるニダ』

だが、何よりも一同の目を引いたのは場違いな服装と言動の女を嗜めた男の方であっただろう。
年齢で言えば、老将フィレンクトより幾つか若い程度か?
伸ばした黒髪を後頭部で縛り上げ、吊り上がった目は糸のように細い。
女と違って衣服は普通に文官が着るような物だったが、袖口から覗く手首は太く、
隆々とした肉体をしているであろう事が見てとれた。

从'ー'从 『あれれ〜? ジョルジュ君のせいで怒られちゃったよ〜☆
     あとで中身が詰まってない頭をぶち砕いてあげるね〜☆』

ペロリと舌を出しておどける女の名は、【一丈青】ワタナベ。
リーマン評議会・評議長近衛部隊長にして、五虎大将軍が一角。

そして、彼女を嗜めた男こそ。

<丶`∀´>『アルキュ王家が臣、ニダー。陛下のご健勝と国家の繁栄を祝すべく、参りましたニダ』

リーマン評議会・評議長。
━━━━━【翼持つ蛇】ニダーであった。



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