( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

5: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:18:12.26 ID:NN6yVO1T0
・         ※          ※          ※

ネグローニの更に北。
深き森の中にニイト王国。かつてのニイト自治区は存在する。
ネグローニと同じく土地は固く、開墾には適さない。
同じ北方でも、ギムレットとの大きな違いはそこにある。
現代の地質調査によって、【大地の裂け目】によって大きく分かれたとは言え
かつてのギムレットはローハイドやバーボンと同じ標高の平地地帯であった事が判明している。
それがギムレットとニイトの最大の違いであろう。

常緑樹を中心とした森と、なだらかな斜面を持つ大地に点在する草原。
人々がそこで選んだ道は酪農であった。
羊や山羊を放牧し、彼らから得た乳製品を売って生計を立てる。
質素な暮らしの中でも歌と踊りを愛する事を忘れないニイトの民は、本来戦などとは無縁な牧歌的民族であった。

そこに一人の大英雄が産まれた事は、はたして喜ぶべき事であっただろうか。
【勝利の剣】ニイト=モララー。
彼の異名ともなった勝利の剣は、若くして北の大国ラウンジの更に北。
神話の国より持ち帰ったと言われる聖剣である。
板金を思わせる巨大な両手剣。
一撃必殺の破壊力を誇る大剣は、その重量ゆえに攻撃手段が大味になりがちである。
が。
『人々の祈りを星が鍛えた』とも『剣に意思があり、敵の姿を追いかけた』とも伝えられる剣は、
その伝説の通りに幾千の敵兵を退けた。

ヒロユキによるアルキュの統一後。
モララーは偉大なる【七英雄】の一人に数えられるようになり。
王の死後。
叛乱の旗をあげて敗れ、世を去った。



7: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:20:57.88 ID:NN6yVO1T0
モララー亡き後、ニイトの民は逆賊として迫害された。
具体的に言うと、戦後復興支援金の打ち切りが主である。
しかし、本来貧しい土地に暮らすニイトの民にとって、土地を復興させる為の資金を打ち切られる事は生死に関わる問題であった。
かの土地は放っておけば緑に包まれるような地ではないからだ。

人々が朝の光に希望を見出せなくなった頃。
この地に一人の女が帰還する。
ニイト=クール。
モララーと最も親しくしていた七英雄【全知全能】スカルチノフの後ろ盾を得た彼女は単身ニイトの復興に乗り出した。

力ではなく、智を武器に。
腕力ではなく、経済を武器に。
戦乱によって富を得る卑怯者と罵られても、ただ民の為に。
彼女は戦った。

そして。
彼女自身はやがてニイト自治区責任者代理から正式な責任者に。
民の支援の下、責任者から正式な王を名乗る事となった。

ギムレットの【黄金獅子】に対するニイトの【白き狼】。
智によって寡兵を無限とも思える兵の壁に変える稀代の戦術家。

???『己の民を守る為なら物語の登場人物でなくともかまわない』

そう語る彼女であったが、運命はそれを許さなかった。

(*゚∀゚)『にょろ〜ん』

三華仙が一人【無限陣】クー。
南からの旅人が居城に辿り着いた時から、彼女は運命の舞台に上がる事を余儀なくされたのかもしれない。



11: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:23:38.45 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)『いや〜っ!! 美味しいご飯に美味しいお酒っ!! これぞ旅の醍醐味ってもんだねぇっ!!
     そうは思わないかいっ、ペニス丸っ!?』

自らを乗せた愛亀・ペニス丸の甲羅をバシバシと叩きながら彼女は上機嫌であった。
その足は遅々として進まないが、その分旅の景色を『不自然にならぬように』覚える事が出来る。
経済を武器に成り上がったニイト城の市は、故郷メンヘルのそれよりも充実していて
それが彼女の機嫌を更に上昇させた。

彼女が最も気に入ったのは、山羊や羊の乳から作ったチーズであった。
御存知の様に、チーズを製造する際にあまりにも暑い地域は適さない。
よってメンヘルでは高級品として扱われる物が、ここでは当たり前のように並んでいて。
特に、茶葉で燻製にして長期保存を可能にしたそれは彼女の心を鷲掴みにした。

原料となる乳。
茶葉の醗酵具合。
燻製時間。
様々な条件下で味が全く変わってしまうのだ。
このニイト城内に入ってから、一体どれ位のチーズを口にしたか?
彼女自身もおぼえていなかった。

そして今も、一つの店を覗き込んだ彼女が店主に声をかける。

(*゚∀゚)『やぁやぁ、御主人。スモークチーズはあるかいっ!?』

主人『あるわけねーだろ!! ここは鍛冶屋だ!!!!!!』

(*゚∀゚)『…にょろ〜ん』



13: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:26:08.12 ID:NN6yVO1T0
そうこうしながら道を進む彼女は、途中ある事に気付いた。
一つ目は些細な事である。

(*゚∀゚)。oO(やっぱヴィップと違って全然注目されないねぇっ)

ニイトは経済都市だ。
自然、ニイトの民だけでなくリーマンの民や、彼女と同じく浅黒い肌を持つ者もいる。
さすがに山賊の類は城内に侵入できないようだが、それが当たり前のように人々は市を満喫していた。
そしてもう一つ。

(*゚∀゚)。oO(女がやけに少ないねぇ)

いや。
よく観察すれば、少ないのは『女物の服』を着た者である事が分かる。
他領の者はまだしも。
ニイトの女は皆が皆、男物の服に身を包んでいるのだ。
本来ニイトに男装の伝統など無く、おそらくそれは王である【無限陣】とその臣下達への憧れによる影響であろう。

ほどなくしてツーは宮殿前に辿り着いた。
そのま門を潜ろうとして、当然門を警備する兵に静止させられる。

(*゚∀゚)『やぁやぁ、お仕事ご苦労さんっ!!
     ところであたしはメンヘル十二神将・第二位【不敗の魔術師】ツーってもんだっ!!
     【無限陣】は暇かいっ!?』

堂々と自身の正体を明らかにする彼女に、
衛兵達は思わず目を丸くした。



15: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:28:54.60 ID:NN6yVO1T0
???『ネグローニとメンヘルの件ですが…』

???『うん。知っている。どちらにとっても効果的な盟になるだろう。
    だが、ネグローニの独立がリーマンによる策の可能性もある。
    影に監視を強めるよう言っておいてくれ』

???『かしこまりました。我が主よ』

宮殿内の廊下を、一組の男女が歩いていた。
いや。
訂正しよう。
正確には歩いているのは只一人。
そして、彼は男物の官服を身に着けてはいるの、その声は確かに女のそれであった。

本来ダボッとしている筈の官服は、ほっそりとしたラインをしていて彼女の本職が戦士である事を微かに匂わせている。
急時、無駄にふわふわした官服は鎧を纏うのに邪魔になる。
つまり、彼女は平時は文官。戦時は武官として腕を振るうのだろう。
それだけで、この人物がどれ程重宝されているか分かろうと言うものだ。

そして、彼女は一台の四輪車を押している。
そこに座した人物。
纏うは足まですっぽりと隠す純白の鶴縫。手には羽毛扇を持ち、よく手入れされた長髪は緑がかるほどに黒い。
柔らかく垂れ気味の瞳は、光の加減で緑色に輝いた。

川 ゚ -゚)『頼んだぞ、レーゼ』

爪゚ー゚)『御意』

座している者の名を【無限陣】ニイト=クール。通称クー。
その背後で車を押している者の名をレーゼと言う。



17: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:31:25.72 ID:NN6yVO1T0
爪゚ー゚)『ところで、ギムレットの落ちぶれ貴族が援助要請をしてきている件ですが…』

川 ゚ -゚)『放っておけ』

一刀両断。
背筋をピンと伸ばしたその姿は堂々としていて。
諸兄らの周りにも一人はいる、『見るからに優等生タイプ』である。

川 ゚ -゚)『ヤツラが進んで山賊狩りでも考える性質(タチ)か?
     どうせよからぬ事を考えているのだ。相手にするな』

爪゚ー゚)『はっ。以上で本日の商い話はお終いです』

ところが。
『商いの話は終わり』と聞くや否や、その表情は途端に曇ってしまった。
それをレーゼは見逃さない。

爪゚ー゚)『……クー様』

川 - )『……すまない、レーゼ。痛むんだ』

それを聞いてレーゼは心中、大きな溜息をつく。
クーの表情からは先程までの優等生顔はどこへやら。
まるで、仮病を使って学校をサボろうとしている子供のようなそれに変わってしまっていた。



20: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:36:32.27 ID:NN6yVO1T0
爪゚ー゚)『いけませぬ。訓練を休んではならぬとお医者様も仰っていた筈です』

そして、男装の麗人のそれはまるで駄々っ子を嗜める母親の物である。
手馴れている。
つまり、このような事は日常茶飯事なのだろう。

川 - )『本当だ。本当に痛いんだ……』

俯く彼女は羽毛扇を手放し、ぎゅうと服の裾を握り俯いてしまっている。
背後にいるレーゼからはその表情を窺い知る事は出来なかった。

本来クーは一度口にしたら絶対に曲げない頑固者だ。
そうでも無ければ闇のネットワークを築きあげ独立するなど、まず不可能であり
ニイトの住人達も彼女を『鉄の如き強い意志の持ち主』と捕らえている。

しかし。
今の彼女からは”強さ”の欠片も見られない。
いや。
彼女が戦う真の理由を。
何故人道に背いてまでも戦い、この地にしがみつくのかを。
知っている彼女からすれば、これこそが彼女の元の姿なのである。

爪゚ー゚)『……分かりました』

川 - )『明日こそは…明日こそはちゃんとするから』

言い訳がましく呟く主の四輪車から手を離す。



23: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:37:50.90 ID:NN6yVO1T0
爪゚ー゚)『しかし、私の本日の役目はクー様の訓練にお付き合いする事です。
    それを拒否すると言うのであれば、私は本日はお暇いただきましょう』

川 - )『…!! 怒ったか? 怒ったのか、レーゼ』

それには答えず廊下を立ち去る。
彼女は主の執事であると共に姉のような存在である。
時には厳しくするのも必要なのだ。

川 - )『……』

そして、三華仙の一人に数えられた英雄【無限陣】は廊下にぽつねんと残される。
去っていくレーゼを追おうともしない。

川 - )『……ごめんなさい』

漏らす声は届いただろうか。

季節は春。
しかし、日によってはまだ石造りの廊下は冷たく寒い。

クーは座したまま動こうともしなかった。



24: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:39:56.25 ID:NN6yVO1T0
???『おやおや〜? こんなところで何やってるのですか?』

かけられた声にクーはハッと顔を上げた。
つい先程、彼女の執事が立ち去った廊下。それとは反対側から知った顔が駆け寄ってくる。

爪゚∀゚)『こんなところに一人でいたら寒いでしょう?』

レーゼ。
いや、違う。
ミルクティー色の髪や瞳の色。背丈スタイルから顔つきまで瓜二つであるが、表情の明るさがまるで違う。
レーゼが月なら、彼女の笑みはまるで太陽。
服装も、裾を引き摺るようなゆったりした橙色の文官服を、腰のところで縛って動きやすくしている。
レーゼの双子の妹、リーゼである。

川 - )『訓練を拒否したら置いてけぼりにされたんだ』

答えるクーにケラケラと笑ってみせる。

爪゚∀゚)『それでこんな所に? いやはや、お仕置きにはもう充分でしょう?』

言って四輪車の背後に回りこむ。

爪゚∀゚)『レーゼばかりが執事じゃないですよ? レーゼがいじめるなら、本日はリーゼがクーの執事ですよ?』

その明るい笑顔に、クーは助けられた気持ちになった。
行き先を訊ねる彼女に、『屋上へ』とだけ告げる。

元々、クーの四輪車を押すのはレーゼの役と決まっている。
その役目を奪ったのが嬉しいのか、リーゼは道中ずっと『お手洗いは?』だの『お腹すきませんか?』だの訊ねてきた。
それがクーにはありがたかった。



26: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:41:57.18 ID:NN6yVO1T0
階段がない。
それがニイト城の最大の特徴である。
階の移動はなだらかなスロープによって行なわれ、それに対して文句を言う者は誰一人としていない。
全てはクーの四輪車による移動の為である。

やがて屋上に辿り着いたクーは、四輪車を城の裏側に向けさせた。
眼下に広がるは大草原。
荒野帯とも言えるニイトにおいて唯一とも言える草原は若草に包まれていて。
風が吹くたびに、ざざぁと音を立てながら一斉に靡くのだ。
その光景はまるで波の満ち干きのよう。
これから季節が夏に向かうに従って、更なる深い緑に包まれるのであろう。

そして、その中央にズンと根を張る一本の大樹。
アルキュにただ一本しかないとされるそれは、この季節だけ薄紅色の花に包まれている。

爪゚∀゚)『いやはや。美しいですな?』

リーゼがうっとりと漏らすのも無理はない。

クーがニイトに戻ってきた時、この草原は戦で荒れ果ててしまっていた。
至る所に転がる死骸が草を倒し、夜になればそれを狙った死体漁りや野犬が出没した。
貧しいながらも彼女を迎え入れる同族達。
その姿よりも、彼女を奮い立たせたのはその光景だった。
それから彼女は己を捨て。戦い。草原を記憶の中に残る景色にまで甦らせたのだ。
そして。



28: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:45:32.29 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)『私はこの景色を護る。例え、この世の全てを敵に回そうとな』

誰に言うでもなくクーは呟いた。

爪゚∀゚)『ならば訓練も頑張らないといけませんよ?』

茶化すように言う声は耳に入らない。
クーの手は意識するでもなく、首から下げられた銀色の鈴を玩んでいる。
言われるまでも無く。眼下に広がる景色は彼女の決意を更に固くさせてくれた。

瞳を閉じれば浮かんでくる。
父母に見守られながら、草原を駆け回った過去の自分達。
在りし日の思い出。
永遠に戻らぬ、幸せだった頃の記憶。

     川 ゚ -゚)『私はこの景色を護る』

それこそが彼女が戦う真の理由。
誰かの為などではない。エゴにまみれた。それを知ってなお戦わねばならない本当の理由。
しがみつく。それが無ければ怖くて、悲しくて。生きていけない。
クーは強いから戦うのではない。弱いから。しがみつく物が無ければ生きられぬから戦うのだ。
それこそが英雄と呼ばれた女の正体。

その時。一陣の風が吹いた。
その風はクーの長髪をなびかせ、服の裾を巻き上げる。
そしてそこから覗く足は。



膝から下が失われていた。



31: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:47:22.36 ID:NN6yVO1T0
しばらくして。
二人が宮内に戻ろうとした時、扉を開けて駆け出てきた者があった。

爪゚ー゚)『クー様!! ここにおられましたか!!』

リーゼの姉、レーゼだ。
本当に良く似た双子である。
主であるクーですら、以前は見分けがつかなかった。

だが、よく見れば髪や肌に艶が失われているレーゼに比べ、リーゼは垢抜けている。
姉がクーと共に政を行なっている時、妹は市で子供達と鞠を蹴飛ばしたり、
買い食いをしたりしているのだから当然だ。
それもその筈。
外見こそ同じだが、リーゼは全く商いや政には無知なのだ。
それは既に『努力によって解決する』レベルの話ではなく。
胎内にいた頃に才能を姉に吸収されたと感じても不思議が無い。
よって。
【神算子】の異名を持つ姉が執事なら、妹はクーの話し相手としての感覚が強かった。

爪゚∀゚)『およ? どうしたのよレーゼ?』

しかし、彼女とて無能ではない。
一度戦場に出れば【金槍手】リーゼの名を知らぬ者は無い。
大の男でも持ち上げるのがやっとの長大な突撃槍(ランス)を竹竿の様に振り回す姿は、まさに脅威であった。

爪;゚ー゚)『客人です。それも…相当な馬鹿者が』

珍しくレーゼの顔には汗が浮かんでいる。
それを見てクーとリーゼは、何事かと顔を見合わせた。



34: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:48:52.81 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)ノ『にょろ〜ん』

川;゚ -゚)ノ『にょ…にょろーん?』

あたかも当然だとばかりに手を振ってみせる女に、ついクーもつられて手を上げた。
しかし、島中の商人が集まるこの城においても、このような挨拶は初見である。

爪;゚ー゚)『戯言です、クー様』

小声で言ってくる執事の声に、ようやっと自分が遊ばれたと気付く。
むっとした顔で挙げた手を下ろした。

(*゚∀゚)ノ『ばびょ〜ん』

川 ゚ -゚)『……もういい』

成る程、確かにレーゼの言うように相当な馬鹿者であるようだ。
馬鹿者は残念そうに舌打ちをしながら手を下ろす。

(*゚∀゚)『初めましてだね、【無限陣】。あたしゃメンヘルのツーってもんだ』

メンヘルのツー。
十二神将の第二位。【不敗の魔術師】の異名を持つ戦士にして、大馬鹿者。
【天使の塵】フッサールが突如死亡したとしたら、その原因の大半は彼女による心労による物、
とすら言われる変人だ。
それを笑い話。誇張された噂としか思っていなかったクーだが、本人を目の前にして何となく納得してしまった。

川 ゚ -゚)『……あぁ、なるほど』

(;*゚∀゚)『……なんか今、凄く失礼な事考えなかったかいっ!?』



35: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:51:10.93 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)『……別に』

(;*゚∀゚)『いやいやいやいやっ!! 考えたっ!! 絶対考えたねっ!!』

しつこい位に噛みついて来る。

川 ゚ -゚)。oO(あぁ、なるほど)

今度は声に出さずに心で思った。
が、響きは同じでもその示す意味は全く異なる。
クーは闇市の支配者として多くの巧みな商人達と渡り合ってきた。
その結果として、観察眼にはいささかの自信がある。

つまり、目の前にいる女はこのようなタイプなのだ。
珍妙な自分のスタイルを堂々と見せつけ、相手の興味関心を引きペースを握る。
そして、おそらくそれは計算による物ではなく本能による物だ。
ならばこちらは突き放す位にするのが丁度良い。

川 ゚ -゚)『貴様がそう思うのならばそう思えば良い。私は知らん』

言い捨てると、【魔術師】は頬を膨らませて黙り込んだ。
まるで子供だ。
そして、この手のタイプは別の餌を見せつけてやると、先程までの事などコロッと忘れて飛びついてくる。

川 ゚ -゚)『ところで、砂漠の魔女殿が何のようだ?
     まさか、わざわざ面白談話をしに来た訳でもあるまい』



38: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:53:32.99 ID:NN6yVO1T0
それを聞いてツーはパァッと顔を輝かせる。

川 ゚ -゚)。oO(単純なヤツだ)

【天智星】ショボンには有効だったツーの心理術もクーには通用しそうもない。
それは相性の問題であろう。
そして、それを無意識のうちにこなしているツーは、特に傷ついたと言う素振りも見せなかった。

(*゚∀゚)『おうよっ!! 何でも、このニイトに知り合いがいるって聞いてねっ!!
     で、わざわざ【預言者】様の伝言を伝えに来たってワケさね!!』

川 ゚ -゚)『知り合い?』

訊ねれば幾らでも答えてくれそうだ。
そう直感したクーは畳み掛ける。
そして、その予感の通りにツーは言葉を続けた。












(*゚∀゚)『【金剛阿吽】流石兄弟。あんたんとこにいるんだろっ!?』



41: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:56:10.45 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)。oO(むぅ)

表情にこそ出さぬが、一瞬クーはたじろいだ。
玉座代わりの四輪車に腰かけた彼女の背後では、双子の姉妹が顔を見合わせている。

前述したよう、クーは己の理想を掴む為に百戦錬磨の商人達と互角以上に渡り合ってきた実績がある。
その中には当然目の前で客人用の座に腰を下ろしている【魔女】のような者もいた。
が、しかし。
彼らは皆意識して自身の手の内を明かしてきたのだ。
それがツーとは違う。
例えるならば、ツーは何も考えずにど真ん中に直球を投げ込んでくる投手のようなものだ。
素直にバットを振ればいいのだろうが、それを連続されるとどうにもやりづらい。

一度座を外して息を整えたいのを我慢して、クーは答えた。

川 ゚ -゚)『知らん』

(*゚∀゚)ノシ『いやいやいやいやっ!! 隠さなくていいよっ!!
      あたしも分かってるからこそココまで来たんだからさっ!!』

川 ゚ -゚)。oO(嫌なタイプだな)

相手の出方は手に取るように分かる。その対処法も弁えている。
こちらに不利は無い。にもかかわらず、お構い無しに直球勝負を挑んでくる。

川 ゚ -゚)。oO(こうなれば…)

適当に相槌だけうっておこう。
そう決めたクーはとりあえず首を縦に振った。



42: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 00:58:48.34 ID:NN6yVO1T0
(*゚∀゚)『やっぱいるんだろっ!? じゃあ、ココに呼んどくれよっ!!』

川 ゚ -゚)『知らん』

これは本当の事だ。
確かに数年前、寝室に侵入しt……もとい、領内をウロウロしていた兄弟の身柄を捕獲したのは事実である。
が、今では二人は罪人としてではなく客将として手を貸してもらっている。罪人でも、臣下でもなく客将。

爪゚∀゚)『つまり、【金剛阿吽】の兄弟は急時でもない限りある程度の自由を約束されてる訳なのですよ?』

(*゚∀゚)『ありゃ? あんたもそーじゃないのかいっ!?
     さっき市でガキンチョどもと追いかけっこしてるの見かけたけど?』

爪;゚∀゚)『うっ!?』

ツーの辛らつな一言にリーゼは言葉を失った。刺さる視線が痛い。
そんな遊び人に目もくれず、ツーは『困ったなぁ』などと呟いている。

(*゚∀゚)『じゃあさ、じゃあさ、アンタが代わりに答えてくれないかなっ!?』

川 ゚ -゚)『は?』

意味が分からない。
ほんの一瞬であるが困惑するクーを前に【魔女】はピンと背筋をはって立ち上がった。

(*゚∀゚)『【金剛阿吽】流石兄弟に【預言者】モナーが命ず!!
     メンヘルの民を裏切った罪、真に重く!! その魂は死後永遠に焼かれるであろう!!
     滅びを怖れるならば方法は一つ!! その地に留まり我が影として【無限陣】を監視せよ!!
     さらば、魂は救われ天上にて永久の平和を迎えるであろう!! 以上!!
     ……と、まぁこんな感じなんだけどさっ? アンタが流石の代わりに答とくれよっ!!』



44: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:01:01.83 ID:NN6yVO1T0
川 ゚ -゚)『答は否、だ』

(;*゚∀゚)『ありゃ』

即答され、思わずツーはずっこける。

(;*゚∀゚)『ア、アンタ全く考えずに答えたろっ!?』

川 ゚ -゚)『当然だ』

【不敗の魔術師】ツーの旅の理由。
それは、メンヘルを裏切りニイトに仕えている流石兄弟を懐柔し二重スパイに仕立て上げる事。
が、それは失敗に終わった。
いや。彼女自身がわざと失敗させたと言うべきだろう。

ともかく、だ。彼女の『仕事』は終了した。
【魔女】はやれやれとばかりに腰を上げる。

(*゚∀゚)『それじゃ仕方ないっ!! 邪魔したね【無限陣】っ!! いつか戦場でっ!!』

言うや片手を頭越しにヒラヒラと動かしながら部屋を後にする。

川 ゚ -゚)『……メンヘルには』

爪゚ー゚)『はい?』(゚∀゚爪

川 ゚ -゚)『あんなのしかいないのか?』

あまりに酷い一言。
だが、双子の姉妹はそれを否定する事が出来なかった。



45: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 01:03:05.69 ID:NN6yVO1T0
         ※          ※          ※

森の中の小さな湖が彼のお気に入りの場所だった。
葉陰を縫って射し込んでくる日の光は柔らかく、書を読むにも考え事をするにも最適な場所である。
だが、その日彼は草の上に座り込み頬杖をつきながら湖を見つめていた。
いや、正確には水を撥ねる影を眺めていたのである。

潜っていた体が水しぶきを撒き散らしながら湖上に姿を見せる。
それは日の光を浴びて宝石のように輝き、彼は素直にそれを『美しいな』と思った。

やがて泳ぎ疲れたのか、飽きたのか。
その者は水から上がって来た。

(´<_` )。oO(美しいものだな)

彼。【金剛吽】弟者は再度そう思う。
裸体を隠そうともせずに歩くその者には、必要以上の脂肪も筋肉もついていない。
引き締まった身体は水を弾き、七色の玉を纏ったように輝いている。
濡れた髪の下に見える顔は、適度な運動を心ゆくまで楽しんだのか満足げであった。

(´<_` )『……』

嫉妬する。
弟者の片腕は義腕である。
かつて戦場で永遠に失われた。
以来、代わりに付けられた義腕【弟者腕】は数多くのからくりを仕込み、彼の自慢にもなっている。
物事をとことん追及しなければ気がすまないメンヘル族の技術者達と、
彼の訓練の成果もあって日常生活には一切の支障も無い。
それでも、こうも目の前で見せ付けられると心のどこかがチクリと痛むのだ。



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