( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

81: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:08:14.49 ID:NN6yVO1T0
従者を一人連れただけの格好で、城門から宮殿に続く大通りを歩く。
警備の兵など必要ない。住民は自らの意思で道を空け、悠然と歩く男に喝采の声を送る。
諸兄らの中には、シャキンの無防備さを非難する者もいよう。
恐れ多くもリーマン族の大重鎮である。
このような無防備さでは暗殺の機会は数多くあるだろうし、実際身の危険に晒された事も幾度としてある。

しかし。暗殺などと言う姑息な手段に頼る者は、全てその実力と眼光で退けてきた。
その度に警備の兵を増やそうと言い出す者が現れる。
それでも彼は

(`・ω・´)『それで散るならそれまでだ。因果応報という物である』

と、その意見を退けてきたのだ。
統一王の革命に参戦し、戦場に生きる事40と数年。
数え切れないほどの敵兵の命を奪い、それと同じ位の味方を死地に送り込んできたのだろう。
それ故の覚悟だ、と人々は噂しあった。

威風堂々とした彼とは正反対に、背後に従う男こそ哀れである。
どこぞの貴族の三男坊が修行に出された、と言う感じだろうか。
もやしのようにひょろ長い全身に緊張のあまり脂汗を垂らしている。
元帥の付き人、と言うだけでもかなりの重圧であるのに、これほど多くの人々の目に晒されているのだ。
それも止むなしであろう。

と、その時。
シャキンがふ、と歩を遅らせた。
自然彼と距離の縮まった従卒の方に顔だけ振り向かせる。

(`・ω・´)『少し遅くなってしまったな。もう他の連中は集まっているやも知れぬな』

言って笑いかける。



83: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:09:34.51 ID:NN6yVO1T0
戦場で幾千万の新兵の緊張をほぐしてきた、自信に満ち溢れた微笑みである。
おおよそ、ガチガチに硬くなった従者のそれを和らげようとしたのであろう。
が、非常に残念な事に。『元帥に1対1で話をする』と言う体験は、この場合逆効果であった。

(従;@∀@)『おっ、うおっ…おひょひゅおりゃりゃらきゅきゅきゅ』

口どもってしまって話にならない。
この男も軍に配属されるまでは平民達の間を肩で風切って歩いていたのである。
それなのに【元帥】の前では蛇に睨まれた蛙のようになってしまっていて。

(`・ω・´)。oO(強い者には弱く、弱い者には強い。困ったものだ)

シャキンに溜息をつかせた。やむなく話題を変える事にする。

(`・ω・´)『バーボンも今では【鉄壁】が治めていると聞く。奴め。我が宮殿を汚してはいないだろうな』

(従;@∀@)『ど、どどどどど』

従者が答える前に続けた。

(`・ω・´)『【鉄壁】めが潔癖症であれば良いのだが』

(従;@∀@)『……』

鉄壁と潔癖。
どうリアクションを取ればよいか悩む従者を背にシャキンは再び歩を進める。

バーボン領の正統領主。

つまり、この男は【天智星】ショボンの父である。



85: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:11:54.49 ID:NN6yVO1T0
【常勝将】シャキンが宮殿の門を潜ってからしばらくして。
賑わいを取り戻した大通りを一人の女が歩いていた。
身に着けているのは【金剛阿吽】の兄弟と同じ黒装束。
それは至る所にヒラヒラしたフリルが飾られており、その色も目が痛くなるようなピンク色であった。

あどけない表情に、肩を少し越える程度の黒髪。
それだけ見れば市中の少女がエキセントリックな着こなしをしているだけに見えるだろう。
しかし、その腰には狼牙棍と呼ばれる凶悪な武器が。
それも、血で変色した物が二本ぶら下がっている。

狼牙棍とは、果物のドリアンに持ち手を付けた様な形状の武器だ。
筋骨逞しい男がそれを振るえば、受け止めた武器ごと頭蓋を叩き割る事も可能である。
もし、急所を外したとしても肉を裂き骨を砕く一撃に戦闘を続ける事は不可能であろう。
ただし、彼女のそれは非力な女性向けに改良された物で、一般の物より随分細身に作られていた。
釘を打ち付けたバットをイメージするのが最も分かりやすいかもしれない。

市を。特に子供向けの菓子を扱っている店を覗きこみながら女は歩く。

从'ー'从 『えへへ〜☆。おじさん、これ少しオマケしてよ〜☆』

おじさん『悪いね、お嬢ちゃん。これ以上は安くできねぇや』

店主の位置からは腰にぶら下がった凶悪な棍棒が見えないのだろう。
ニコニコと笑いながらも彼女の頼みを一蹴した。
それに対して女は、まるで子供のように頬を膨らませる。

从'ー'从 『えへへ〜☆。死ね』

おじさん『へ?』



90: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:19:30.58 ID:NN6yVO1T0
从'ー'从 『えへへ〜☆。垂れ流したテメェの糞に顔突っ込んで溺れ死ね☆』

おじさん『……』

あまりに辛辣な一言に固まる店主の前で堂々と飴玉を一つ口に放り込むと、
値札の半分程度の銀を放り投げ女は店を後にする。

从'ー'从 『ちぇ☆。ニダー様のお土産にしようと思ったのになぁ』

土産なら正規の値段で買えば良いだろうに、そのような考えは無いらしい。
足元にじゃれついてくる飼い犬に 『喰っちまうぞぉ☆』などと笑いかけながら宮殿の方向に向かって進む。

と、宮殿まであと少し、と言うところで彼女は奇妙な集団を発見した。
将官達に従う少年兵の正装に身を包んだ10名前後の子供達である。
その全てが手に思い思いの楽器を持っている。

从'ー'从 。oO(ま…さか)

何やら嫌な予感に後押しされて彼女は少年達のすぐ背後。
3階建ての塔を見上げた。

そこには陽光を背に外套をひらめかせる男の姿。
と、同時に少年達が壮大な行進曲を奏で始める。
それをBGMにして。
塔の上の男が轟音が如き声で吼え叫ぶ。

\( ФωФ)/『天知る!! 地知る!! 人ぞ知る!! 【国士無双】ロマネスク!! 見!! 参!!』
     |∧
    /



93: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:21:36.38 ID:NN6yVO1T0
从'ー'从 『……』

'ー'从

ー'从

'从









(;ФωФ)『待て!! 今すぐ降りていくから少し待ってくれ!!』



96: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:23:35.71 ID:NN6yVO1T0
口の中の飴玉が溶けきる程の時間の後、
ロマネスクは几帳面に階段を使って降りてきた。
当然、住人に礼を言うのも忘れない。

真紅の外套に黄金の甲冑。
整った顔立ちをしているが、その派手な外装より人は彼の瞳にまず気を惹かれるであろう。
右の瞳は青く、左の瞳は緑。
金銀妖眼と呼ばれる一種の奇形である。

少年『おじちゃん!! 上手に出来ただろ!!』

( ФωФ)『うむ。上出来である』

少年『じゃあ、約束どおりお駄賃おくれよ!!』

騒ぎ立てる子供達に腰の袋から数枚の銀片を手渡すと、彼らは市の中心に向かって走り去った。

( ФωФ)『楽器は後日、禁軍府まで返却するのだぞ!!』

その背に呼びかけてから、ようやっと彼は女と向き合った。

( ФωФ)『偶然であるな、ワタナベよ』

从'ー'从 『えへへ〜☆。凄い偶然だねぇ☆。マジ殺してぇ☆』

ワタナベと呼ばれた女はガックシと肩を落とし、額に手をあてて大きな溜息をつく。
その表情は『厄介なのに見つかったなぁ』と如実に物語っていた。



98: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:26:28.35 ID:NN6yVO1T0
( ФωФ)『まぁ、そう言うな。共に五虎将と呼ばれた仲ではないか』

从'ー'从 『迷惑だけどね〜☆』

五虎将とは、リーマンにおいて【七英雄】を継ぐと期待されていた五人の千騎将達を指ししめす呼称である。

【国士無双】【千刃】の異名を持つ禁軍武芸師範ロマネスクを筆頭に。
王都警備を役とする【天目将】ワカッテマス。
評議会近衛兵隊長【一丈青】ワタナベ。
重層歩兵隊・鉄柱騎士団長【鉄壁】ヒッキー。
残る一人。強襲騎兵隊・薔薇の騎士団長【急先鋒】ジョルジュは王都を去り【金獅子王】に仕えている。
ニダーの近衛兵的な役割を務める前者三人を除いて、戦場に立つ事が多い後者二人を【双璧】と呼ぶ事は
諸兄らも周知の通りである。

( ФωФ)『ククク…照れずとも良いのだぞ』

言いながらロマネスクは塔に立てかけられていた巨大な棺桶を背に担いだ。

( ФωФ)『吾輩の耳には聞こえる!! 貴様の股座から滝のように滴る水の音がな!!
       恥ずかしがらずに一言「吾輩の子種が欲しい」と言うが良い!!
       貴様の足腰が立たなくなるまで天国を見せてやろうではないか!!』

完全なる性的嫌がらせ。流石のワタナベも頬を赤らめた。

从'ー'从 『えへへ〜☆。引き千切られたタマ喉に詰め込まれて窒息死するかぁ?』

(;ФωФ)『ごめんなさい』

電光石火が如くの土下座に背を向けてワタナベは再び宮殿に向けて歩く。
なお、彼女が頬を赤らめていたのは恥ずかしさによる物ではなく怒りによる物であるのは、諸兄らが想像するとおりである。



100: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:29:13.75 ID:NN6yVO1T0
宮殿警護の兵に言われたとおり、【円卓】と呼ばれる部屋に入ったロマネスクが見た物は、
互いに口を開く事も無くムッツリとした将達の姿であった。

( <●><●>) 『貴方が遅刻してくるのは分かってました』

そう挨拶をしてきたのはやはり瞳が印象的な男だ。
が、それは金銀妖眼を持つロマネスクのそれとは性質が大きく異なる。
心の深遠まで覗き込むようなそれは、むしろヴィップの【紅飛燕】しぃに近い。

( ФωФ)『ククク…吾輩ほどの男にもなると忙しくてな』

言いながらその隣に腰を下ろす。

( <●><●>) 『確かに土下座にお忙しいようで』

(;ФωФ)『貴様!! 何故それを!?』

全てを見通すと呼ばれる男ワカッテマス。
その特殊能力を用いて敵陣の最も弱き点を突き、一騎討ちにおいても連勝を重ねてきた。
故に人々は彼を【天目将】と呼ぶのである。
この時ロマネスクが

(;ФωФ)。oO(まさか…吾輩の心を読んだのか!?)

と思ったのもせん無き事であろう。

( <●><●>) 『見てましたから。犬に小便をかけられてましたね』

(;ФωФ)『助けろよ!!』



102: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:31:43.30 ID:NN6yVO1T0
( ФωФ)。oO(それにしても)

ロマネスクは部屋内を見渡す。
ワカッテマスを挟んだ向こう側にはワタナベがほわわんと妄想に浸っている。
おおよそ、【評議長】ニダーの事でも考えているのであろう。
その更に奥。2つの座は空席になっている。
ネグローニとの交戦を控えているとされるヒッキーと、この地を去ったジョルジュの席だ。

空席になっているのはその2つだけではない。
本来この【円卓】は評議会による会議専用の場である。
それに出席すべき【勝利の剣】モララーはすでにこの世に無く。
【白鷲】フィレンクトは一時は引退したが、今ではジョルジュと同じく【金獅子王】に仕えている。
【預言者】モナーと【天使の塵】フッサールは遥か西メンヘルの地で敵対する関係だ。

そして。
腕を組み石像のように動かない【常勝将】の隣で茶を啜っている好々爺。
花を散らせた外套を纏った彼は白い顎鬚を撫でつけながらにこやかに笑っている。

/;3『ほっほっほっ。なかなかの甘露じゃて』

数幾多の戦を勝利に導いた天才軍師。
今もなお王都を囲う、デメララ湖を守護する水軍の長である老人。
人呼んで【全知全能】。
海の民の出身である彼は、今では『荒巻』と言う名を捨て
『荒巻く波』と言う意味の『スカルチノフ』と言う名を王から与えられていた。



103: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:33:14.89 ID:NN6yVO1T0
共に【七英雄】と崇められる立場にあり、今も隣り合って座りながらも
シャキンとスカルチノフは挨拶すら交わそうとしない。
この二人がお互いを嫌悪しあっている事は、王都では子供すら知っている事実だ。

ヒロユキの遺志を継ぎ、アルキュの統一こそが平和に繋がると主張するシャキン。
個々の思想には違いがあるのだから、無理に統一に拘らず郡県制を採用すべきだと主張するスカルチノフ。

シャキンはスカルチノフの出身地である【海の民】を制圧にかかっているし、
スカルチノフはシャキンらがやっとの思いで制圧した【勝利の剣】モララーの娘を庇護し、結果独立までさせている。

( ФωФ)。oO(全く下らぬ事だ)

心の中で溜息を一つ。
突出した才を持つ将が集まりながらも、全ての歯車が噛みあっていない。
手を取り合えさえすれば戦乱など簡単に治められるであろうに、
皆が皆心に持つ理想を信じるが故に協力し合えない。
しかし、その柱を捨ててしまっては戦いに生きる意味すら無くしてしまう事もまた確かなのだ。

( ФωФ)。oO(吾輩も人の事は言えぬか)

そして。
自らが置かれた立場の事を考え、ロマネスクは思わず苦笑した。



105: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:33:56.56 ID:NN6yVO1T0
てんでバラバラになってしまっているのは、アルキュ各地に散らばる【七英雄】だけではない。
彼が身を置く【五虎将】もまた、反目しあっているのだ。

王家の守護者を自称していた【急先鋒】は王都に無く。
評議会の先兵を名乗っていた【鉄壁】はジョルジュと犬猿の仲である。
ニダーの近辺警備を受け持つ【一丈青】ワタナベはニダー個人にしか興味が無い。
名門軍閥の出身である【天目将】ワカッテマスは自身の一族の発展にのみ血肉を注いだ。
かく言うロマネスクも自らの技量を高める事以外に関心を持てないのだ。

( ФωФ)『……』

ずず、と音を立てて茶を啜りながらロマネスクは考える。
西の砂漠の覇者メンヘルもまた、諸将の意思が統一されていないと聞く。
【預言者】モナーと【天使の塵】フッサール。
あまりに強い光を持つ二人が同居している為、派閥が出来てしまっている。

しかし、このリーマンはそうではない。
【常勝将】シャキン。【全知全能】スカルチノフ。【人形遣い】フォックス。
三人の【七英雄】が居並びつつも、更にその上には【評議長】ニダーその人が存在している。
が、リーマンの頂点に立ち国政の全権を握りながらもニダーが諸将を自由にしすぎている事もまた事実なのだ。

( ФωФ)。oO(これは…ニダーめの考えを明らかにしてもらわねばならぬだろうな)

元々ロマネスクは国政などに興味は無い。
今までも【円卓】の機会には仮病を使って欠席を繰り返してきた。
しかし、北部でツン。クーの両王族が即位を宣言し、
新たにネグローニのダイオードまでが独立を計っている今の状況ではそうもいくまい。
ニダーの考えを表明させる。
それがロマネスクがこの【円卓】に出席した最大にして唯一の理由であった。



106: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:35:16.98 ID:NN6yVO1T0
<丶`∀´>『【金獅子王】ツン陛下にウリの全権を返還し帰順するニダ』

やがて【評議長】ニダーと【人形遣い】フォックスが入場する。
そして、座に着いたニダーが最初に発した一言がそれであったから一同は目を見開いて驚いた。

(`・ω・´)『ニダー!! 貴様、正気か!?』

<丶`∀´>『勿論ニダ』

元帥シャキンなどは思わず立ち上がってしまっており、その勢いで座が背後に倒れ込んでしまっている。

(`・ω・´)『貴様は王女が貴様を許すとでも思っているのか!?
       長きに亘り実権を奪い【沈黙の塔】に己を幽閉した貴様を!!』

<丶`∀´>『あの時はそうせねばならなかったニダ。
      そうせねば王女は殺され、この島はラウンジ・神聖ピンクによる戦場になっていた筈ニダ』

統一王死後の王女幽閉は、ニダーによる権力簒奪が目的であったと言うのが世間一般の見方であった。
【急先鋒】ジョルジュを始めとする【王権派】もそれを頑なに信じている。
しかし、この時ニダーはその行動を『次期王の身を護る為』と主張した。
その言葉に嘘偽りはなく、それ故にこの場にいる者たちもそれを否定はしない。
何故なら彼らは『全ての真実』を知っているから。
だからこそ彼らの間で、今この時真相が語られる事は無い。

だが。
諸兄らにはこの時の【評議長】ニダーの言葉を強く心に留めておいていただきたい。
それは、この物語の終焉に向けての鍵となり。
そして【天智星】ショボンが戦いの道を選んだ最大の理由に繋がる出来事だからである。



108: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:37:56.30 ID:NN6yVO1T0
シャキンは納得しない。いや、出来ない。
戦場に生きた幾十年。
後半は統一王ヒロユキと。彼の掲げた理想と共にあった。
その中で何度も手を汚した。
友を殺し、大罪すら犯した。
そうまでして護ろうとした物を、矜持をそう簡単に曲げる事などどうして出来ようか?

(`・ω・´)『ニダー。貴様、死ぬ気か?』

それでもニダーの身を案じたのは、この男なりの譲歩である。
例え全ての真相を明かしたとしても、黄金の獅子はニダーを許すだろうか?
仮に王が許したとしても、【常勝将】シャキンを始めとする側近達は?
今は許されたとしても、走狗は煮られる運命にあるものなのだ。

しかしニダーは静かに首を横に振った。
その細い目には確かな光が浮かび、背後の窓から差し込む光がこけた頬に影を作る。

<丶`∀´>『シャキン。貴様は忘れたニダか? 我らの夢を……』

答えは無い。

<丶`∀´>『我らは王の夢。民が作りあげる民の為のアルキュを作りあげる為に戦ってきたニダ。
      そして今。かの王女はあの時王が犯した過ちを繰り返さず…民と共に歩もうとしていると聞くニダ』



110: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:39:56.69 ID:NN6yVO1T0
かつて辺境の地とされていたギムレット。
その地で即位を宣言したツン=デレは、三権を分立し。科挙による登用を推進し。
優れた臣を登用する反面、家柄のみで身を起こそうとする者達を遠ざけてきた。
重臣である筈の【白鷲】フィレンクトや【天智星】ショボンも例外ではなく。
【赤髪鬼】ヒートなどは科挙に及第するまで司書門下。
つまりは司法副官としての全権及び給金を与えられなかった程なのだ。

(`・ω・´)『……』

<丶`∀´>『ならば。我らの夢は北で叶おうとしているニダ。
      一度は諦めかけた理想はヒロユキの血を引く者が実現させようとしているニダ』

それこそがニダーの真なる野望。
かつて北の地で『民の手によるアルキュ』を旗印に立ち上がった統一王ヒロユキ。
その王亡き後、人々に『裏切り者』『権力の亡者』とさげずまれても耐えてきたのは
夜を明かして語り合った夢の為。
その為にこの男は。【議会】と言うシステムを残し、民による政治を護る為に戦ってきたのだ。

<丶`∀´>『真なる王・ツン=デレと我らが手を組めば、この島は今度こそ一つになれるニダ。
      いや。もし、王の死後権力を握ったウリを憎む形で民が政治に理想を求めるようになったのならば』

ピタピタとその細い首を叩いてみせる。

<丶`∀´>『この皺首。幾らでもくれてやるニダ。
      それ位の。死を怖れぬ覚悟は出来ているニダ』

言って【評議長】は愉快そうに笑って見せた。



111: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:41:32.74 ID:NN6yVO1T0
全てが終わった【円卓】に一人の男が腰を下ろしている。
窓から差し込む日は赤く、夕闇が迫っている事を彼に教えてくれた。

(`・ω・´)『このような事になるのならば…あの時モララーを殺さず全てを渡してしまえばよかったのだ』

男。【常勝将】シャキンはそう一人呟く。
その彼の背後に一つの影。

(`・ω・´)『寄るな。貴様は臭い』

???『おやおや。これはつれないお言葉ですね』

影は肩をすくめて訊ねる。
【影を極めし者】と呼ばれる彼にどうして気付く事が出来たのか、と。

(`・ω・´)『言ったであろう。貴様は臭い。阿片の甘ったるい香りが染み付いている』

その返答に影は愉快そうに笑った。

???『先程の独り言ですがね。あの時ニダーはモララーを殺さぬ訳には行かなかったのですよ。
    【真相】を知って挙兵したモララーを生かしておいては、全てが明るみに出る可能性がありましたから。
    そうなれば我ら…いや、貴方がたが手を汚した意味が無くなる。
    下手をすればラウンジ・神聖ピンクの両国が「逆臣討伐」の名目の元攻め込んできたでしょうからねぇ』

甘ったるい声。
この男は阿片に。いや、それ以上に己に酔っている。



113: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:44:06.32 ID:NN6yVO1T0
(`・ω・´)『一つだけ教えろ』

シャキンは背後の影に声をかける。

(`・ω・´)『何故貴様はあの時モララー討伐に力を貸した?
       貴様らラウンジにとってはモララーの叛乱は濡れ手に粟だったはずだ』

???『そうですね』

影は懐から取り出した阿片のパイプを口にくわえた。
毒々しい煙が吐き出される。

???『我がラウンジも一枚岩ではない、と言う事ですよ。
    モララーが手を組もうとしたのは私が属する派閥とは別…穏健派とやらの臆病者の集まりでしてね』

(`・ω・´)『……』

???『それに時期が悪すぎた。
    ラウンジは神聖ピンクとの戦を望んではいません。
    どうせならもっと効率よく…この島を手に入れたいものです』

(`・ω・´)『下衆め。何故貴様如きが我らの戦いに口を挟むのか。理解に苦しむ』

それを聞いて、影は口元を歪めた。



115: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:45:13.80 ID:NN6yVO1T0
???『それは私がこの島の事を案じているからですよ。力無き者達が自分の主張を声高に叫ぶから民が苦しむ。
    我がラウンジの傘下に入る事。それこそが民が平和な生活を掴む最高の近道なのです』

(`・ω・´)『それは家畜の生き方だ。人間の生き方では無い』

???『家畜の生き方を選んだからこそ…ヒロユキが現れるまで民は誰一人として立ち上がらなかった。
    違うのですか? 民は求めているのです。豚と同じ扱いを。
    島の事など。未来の事など考えたくは無い。ただ日々を自堕落に生きていられれば良い。それが民と言うものなのです』

言って影は『これ以上の討論は無用』とばかりに歩を進めた。その姿が夕陽に晒される。

(`・ω・´)『どこへ行く?』

???『北へ。どうやら昔壊れたと思っていた人形が面白い動きをするようになったようでして。
    ちょっと回収してこようと考えています』

(`・ω・´)『……』

???『そうそう。ヒロユキもモララーもラウンジが望む支配者ではありませんでした。
    しかし、モララーの娘。【無限陣】ニイト=クール。あれはいい。
    彼女は停滞に身を任す道を選んでいる。我がラウンジの理想通りの人形になるでしょう。
    が、傀儡は一人で良い。そうは思いませんか?』

振り返る。その正体は。

爪'ー`)y‐『物はついで、と言う奴です。私の可愛い可愛い暗殺人形を回収するついでに。
      【金獅子王】とやらを始末してご覧に入れましょう』

【七英雄】が一人。
【人形遣い】フォックス━━━━━。



116: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:47:05.17 ID:NN6yVO1T0
影は消えた。
今度こそ【円卓】に一人残されて、【常勝将】は物思いに耽る。

確かに【黄金の獅子】ツン=デレがいなくなればニダーの言葉は実現しなくなる。

しかし、彼女がいなくなれば誰一人として【王の理想】を継ぐ者がいなくなる。

しかし、ニダーの意思通りに事が進めば王の遺産たる【評議会】の力は弱まる。
今は良くとも将来必ず、嫌悪すべき独裁者が。理想を持たぬ王が現れる。
それだけは避けねばならない。

しかし、フォックスの自由を許しては近い未来に玉座に座るのは傀儡の王だ。

しかし、今のまま。ただ日々を過ごして時を待つには彼は老いすぎた。

否定の連鎖にシャキンは思わず白髪頭を抱え込む。

(`・ω・´)。oO(どこで…どこで道を間違えた)

問いかける声に。








答えは無い。



117: ◆COOK./Fzzo :2008/05/28(水) 02:47:45.30 ID:NN6yVO1T0
         ※          ※          ※

季節は巡り、柔らかかった若芽が濃い緑色に変わる頃。

【鉄壁】ヒッキーは歩兵1000、騎兵500、重装歩兵部隊【鉄柱騎士団】500を連れ
隣領ネグローニに侵攻した。

その更に西。
砂漠の民メンヘルは【海の民】にリーマンを牽制させつつ、虎視眈々と北部を狙っている。

ギムレットのツン=デレは『獅子身中の虫』に手を焼き。

ニイトの【無限陣】は強き力を持ちつつも弱き心から掌を赤く染め。
思い出にしがみつき、答える者の無い助けの声をあげ続けている。

銀髪の青年ブーンは王家の猟犬として北の大地を駆け回る。
やがて知る事になる己の真実になど、全く関心の無いように。

そして。









戦乱の日々がまた始まる。



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