( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

6: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:10:27.23 ID:3i0iG5sC0
アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称)・赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長



9: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:13:57.10 ID:3i0iG5sC0
白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長

ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)



10: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:16:26.23 ID:3i0iG5sC0
その他

( `貴´) 名=ジャック 民=リーマン 階級=テネシー公

( ・貴・) 名=ダニエル 民=リーマン 階級=テネシー公

??? 名=エドワード ※ ジャック、ダニエルと同じくヴィップ内乱の首謀者。

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=??? 武器=黒い長刀 階級=???

( ><) 名=ワカンナイデス ※ 鬼籍

プー゚)フ 名=エクスト ※ かつてのギムレットの暴君。鬼籍

??? 名=モララー 異名=勝利の剣 夢幻剣塵(七英雄) 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=元・ニイト最高指導者。鬼籍

??? 名=ペニサス 民=リーマン ※ 統一王と母を異にする妹。モララーの妻。鬼籍

o川*゚ー゚)o 名=??? ※ ナイトウの夢に現れた黒髪の少女



12: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:19:04.95 ID:3i0iG5sC0
MAP 〜まさか本当に今年から本気出すとは誰も思ってなかっただろ。俺も思わなかったよ編〜

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_095639.jpg

@キール山脈 未開の地。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 現在、テネシー公らが起こした反乱の鎮圧中

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 メンヘルと画策し、ヴィップの内乱に乗じる筈であったが今も尚沈黙を守っている

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



13: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:24:10.94 ID:3i0iG5sC0


     第20章 内乱の終わり


ノパ听)『お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 行くぞぉぉぉぉぉぉぉっ!! ……せーのっ!!』

兵士『『『『『よいしょーーーーーーーっ!!』』』』』

ギコの目論見通り、王軍は合戦開始と共に前線を斜陣に展開させた。
率いるは【赤髪鬼】【赤い悪魔】の異名を持つ猫耳給士ヒート。

ここ一番という大事に弱く、後世の歴史家からは『騒がし屋』『重時の前の露払い』
と言った扱いをされる事の多いヒートであったが、ここ数年の調査でその認識は覆されつつある。
確かに、ここ一番というタイミングで敗れる事の多い彼女だが、その欠点を補って余りある長所を備えていた。
錬兵。つまり、兵の士気を高めるのが異常に上手いのである。

平時においての彼女は建築や灌漑工事の全責任者もこなしていた、と記録にはある。
本来彼女の役職は司書門下、つまり領内の警備や軍部活動にまつわる全般であるからこれは全くの管轄外なのだが、
何より彼女に率いられた人夫達は平均を超えてよく働いた。
アルキュ1の美貌を持つと言われながらも、雑夫に混ざって土くれに胡坐をかいて飯をかき込む。
そんな飾りのない性格が男達の心を掴んだのだろう。

ノハ#゚听)『列を乱すなぁっ!! 気合入れろーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!』

兵士『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!』』』』』

防衛線において指揮官が最も神経を注ぐべきは、一方的に攻められ続ける事による士気の低下だ。
が、赤い給士に率いられた最前線は容易に崩れはしない。
個の武を頼りにしてバラバラに突っ込んでくる自由騎士達は、その大盾を前に死骸の山を築くのみであった。



14: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:28:03.82 ID:3i0iG5sC0
騎馬隊の突進を大盾と長槍で牽制し、勢いの衰えた所を後方からの射撃で仕留める。
一見して地味だが堅実な王軍の戦術は、波が岩を削るようにじわじわと公軍の数を減らしていく。
このまま行けば王軍が『第二作戦』に入る前に自由騎士達は撤退の憂き目を見ずにいられなかったであろう。
しかし、世の中には常に例外が存在する物なのだ。

ノハ#゚听)『くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! またアイツらかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

王軍最前線、重装歩兵隊を指揮するヒートは『アイツら』の出現に思わず声を漏らした。
初戦において、公軍で唯一規律ある用兵を披露して見せた自由騎士団。
ジョルジュを斬ったのは【九紋竜】ギコであるが、その間王軍全体を翻弄する役目をこなした男達。
元より沸騰しやすい彼女が瞬時に爆発したとしても、不思議ではない。

ノパー゚)『あたしはな。ヴィップじゃ気が優しくて有名なわけだが』

それを耳にした兵士達が一斉に『それはねーよ』と溢す。

ノハ#゚听)『だがっ!! しかしっ!! アイツらだけは別だっ!!
      とっ捕まえて鼻の穴拡張の刑にしてやるっ!!!!!!!!!!!!!!!』

威勢の良い大声に、王軍兵士の士気は更に高まった。
が、それでも彼の自由騎士達は崩れず、王軍の前線に正確な一点集中攻撃を加え続ける。
その攻撃は根気強く、休む間も無く継続され。
遂には後方で弓騎兵を指揮していたショボンが救援に駆けつけねばならなくなるほどだった。



15: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:31:02.71 ID:3i0iG5sC0
(´・ω・`)『うん、随分と厄介な攻撃をされたね』

後方で支援攻撃を行なっていた200の弓騎兵。
その全勢力を注ぎ込んでの一斉射撃で、自由騎士達は一時下がっていった。
かと言って『それでお終い』というタマでもあるまい。
陣形を整えたら再び攻撃に転じてくるのは目に見えていた。

ノハ#゚皿゚)『御主人!! あたし、アイツ嫌いだっ!! ネチネチネチネチいやらしいっ!!
      絶対アイツ、寝台の中でも嫌がってるのに脇腹突いてくるタイプだっ!!』

がるるるる、と喉を鳴らしながら給士は主に喰ってかかる。
件の自由騎士達は、隊を3つに分けての波状攻撃を仕掛けてきた。
と同時に投網を用いて大盾を引きずり倒す戦法を取ってきたのである。

直接大盾に迫る部隊は機動力を生かした突進を。
大盾から離れる部隊は投網を使った支援を。
最後方で次なる突進に控える舞台は弓による牽制を。
各隊を三角形のように布陣し、常に稼動させる事で機動力は殺さず、そのクセ変則型車掛の陣形は崩さない。
しかも、我の強い自由騎士達を率いて、である。

(´・ω・`)『驚嘆に値する、と言っておこうか』

ショボンの言葉に偽りはない。
派手さは無いが、戦況を読み確実に勝ちに近づこうとするスタイルは【紅飛燕】しぃに通じる所がある、と思う。
そして、戦場では地味な仕事を正確に成し遂げられる者こそ真に恐ろしいものなのだ。
おそらく、彼の者は【薔薇】や【黄天】【青雲】など、ヴィップが誇る三騎士団。
それどころかメンヘルの【砂亀】やリーマンの戦車隊、モテナイの【黒色槍騎兵】【赤枝の騎士団】。
そして、ショボンの懐刀ともいうべき【白衣白面】と対峙しても善く戦うのではないか、と感じた。
と、そこへ。



17: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:33:44.38 ID:3i0iG5sC0
ノハ#゚皿゚)『あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!! 御主人!! 
      アイツっ!! あそこにアイツがいたっ!! あのデカ頭っ!!!!!』

給士の声にショボンは知らぬうちに下げていた視線を上げた。
成る程。
指さす先に、規格外とも言える巨大な頭を持つ自由騎士の姿があった。
実用性を重視した飾り気の無い直槍を持ち、ひょろりとした身体に纏う外套も簡素な枯草色。
目立たぬように気を使った外装に反し、鏡のように磨き上げられた禿頭と
背に差す旗に書かれた【第六天魔王】の文字が異様な存在感を示している。

(´・ω・`)。oO(ふむ)

【第六天魔王】の五文字が彼の異名なのであろうが、その名を耳にした事も無い。
どことなく愛らしいギョロリとした眼が落ち着きなく戦場を見渡している。
規格外の頭を支える為か、やはり人並み外れて太い首が何故だか沼亀を思い出させた。
日に焼けた顔を見れば、すでに中年期後半に差し掛かっている様でもあるし、
おそらく旗の代わりに掲げているのであろう古ぼけた鉄鍋にも覚えが無い。

(´・ω・`)。oO(有能な人物というのは在野にもまだまだ多いのかもしれないな)

ならば、ツンの推し進めようとしている科挙制度にも明るい未来があろうというものだ。
その白眉を撫でつけながらショボンは、数秒間何か考えたところで

(´・ω・`)『ハイン。ヒート。ちょっと来てくれないかな?』

从#゚∀从『あ? どーした、御主人?』

ノハ#゚皿゚)『また下らない事言い出すんじゃないだろうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

(´・ω・`)。oO(……なんで僕は怒られてるんだろう)



18: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:36:49.19 ID:3i0iG5sC0
从 ゚∀从『……たまには面白い事考えるじゃねーか。どーせ【作戦その2】が前倒しになるってだけで問題ないんだろ?』

ノパ听)『全く御姉様の言うとおりだなっ!! 悪企みの天才ここにありってトコかっ!!』

眉間に皺を寄せていた二人であるが、ショボンのある提案を耳にした瞬間、一息に機嫌をなおしてしまった。
歯をむき出しにしてニシシと笑う様は、悪戯好きの子供や自らの主と何ら変わらない。
これはショボンに言わせれば『教育の成果』であろうし、二人の給士に言わせれば『毒に犯された』と言う事であろうが。

从 ゚∀从『よし、行けヒート!! ハインちゃんが許す!!』

ノパ听)『っしゃらーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!』

陣の後方から自身の汗血馬を引き出させると、ひらりと飛び乗った。
ちなみに、ハインが怒りを覚えていたのは、ままに為らない戦況に苛立ったからではない。
もし、彼女がその気になれば━━━━━主が命じるのであれば、最強の隠密は一人で戦況を引っ繰り返せるだけの自信がある。
そして、それは確かな実力と経験に裏打ちされた物だ。
そのような理由から、ハインは膠着しかけている状況に気を害したりはしない。むしろ、興味すらない。
彼女が不機嫌を顕わにしていたのは、茶を好む主の為に竹筒に入れておいた茶が思ったよりも冷めてしまっており、
苦味が出てきてしまっていたからだ。

【闇に輝く射手】ハインリッヒ。永遠に紅く濡れる月。
それが彼女の過去だ。
事実として、幼き頃の彼女は統一王の死後、評議会派の懐刀として多くの王室派重鎮を暗殺してきた。
だからこそ、一年に満たぬ短い時間で評議会は権力の全てを掌握できたと言っても過言ではない。
今でこそ『不殺』を貫いている彼女だが、ショボンが一度命じれば再び狂気に身を任せるだろう。

かつての【心無き暗殺人形】は今でも彼女の奥底に眠っている。
笑い、怒り、涙を流すハインを支えるのは、【天智星】のショボンという存在だけ。
天に輝く智の星に依存する事で。危ういバランスの上でハインは人の心を保っていられるのだろう。



20: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:39:13.56 ID:3i0iG5sC0
         ※          ※          ※

大盾で作られた壁を開き、赤い給士はひとり陣を離れた。
一騎討ちを挑む格好になった彼女は、馬上で両腕を組み敵陣を睨みつける。

ノパー゚)『……』

が、その表情には今までのような怒りは浮かんでいなかった。むしろ自然な笑みすら浮かべている。
ショボンから彼女に下された命令はただ一つだ。
すなわち━━━━━

     (´・ω・`)『全力で喧嘩売っておいで』

そうなれば、かつて【鉄壁】ヒッキーを『童貞』と。【暴君】エクストを『粗チン』を呼びつけた彼女の事だ。
罵詈雑言には自信があった。
更に、彼女自身は意識していなかったが、美しい顔から吐き出される言葉の針は破門鎚級の破壊力を秘めている。

ノハ#゚ー゚)『……』

心地よいざわめきに全身を包まれながら、彼女の頭にあるのは『どうすれば敵将を効率良く挑発できるか?』と言う問題だけであった。
頭は氷。心は炎。風が如く戦場を駆け。振るう拳は岩をも砕く。
師と崇める老将の教えだが、どうしてもあの巨大な禿頭。首を持ち上げた亀を連想させるそれを見ていると、
全身の血が煮えくり返るような気持ちになるのだ。
そして。

ノハ#゚ー゚)。oO(あぁ、そうか)

ヒートはここでようやくその理由に気付く。
と、同時に敵自由騎士にぶつける言葉の凶器も思いついた。



21: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:40:59.89 ID:3i0iG5sC0
自軍が作りあげる大盾の壁を背に【赤い悪魔】は一人立つ。
静かな風に髪は揺れ、彼女の汗血馬もまた鬣(たてがみ)を靡かせた。

対する公軍、自由騎士団達は巨大な頭を持つ団長を先頭に陣形を整えつつあった。
これが正式な騎士であれば『騎士の名誉のために』と一騎討ちを受けたであろう。
しかし、傭兵同然の彼らにそのような有名無実の名誉など必要ない。
彼らにとって必要な物はただ『勝利』のみ。
例え卑怯と罵られようと、たかが女一人。包囲してしまえば済む話である。
むしろ、そのある種『何でもあり』なスタイルが戦場で重宝される事もあり、
この時も彼らは一斉にヒートに襲い掛かろうと身構えた。

それを見て赤い給士はニヤと唇を持ち上げると、肺が破けんばかりに大きく息を吸い込み……















ノハ#゚Д゚)『ビビってんじゃねーぞ、ち○こ頭やろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!』

吼えた。



23: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:43:19.39 ID:3i0iG5sC0
ざわっ。

【赤い悪魔】が吼えた瞬間、自由騎士達の中に小さな乱れが起こった。
彼らは『騎士の名誉』など持ちえない。
一銭の足しにもならない名誉など犬にでも喰わせてしまえと考えている。
長きに渡る戦場での毎日で『この島の未来』など考えた事はなかったし、
例え考えたとしてもすぐに頭の中から放り出してしまうのが常だった。

しかし、そんな彼らでも。いや、そんな彼らだからこそと言うべきか、譲れぬ物がある。
それが長年に渡って彼らを支えてきた『一人の男としての矜持』、
そして否応無しに認めざるを得ない『仲間との友情』。

頭上には旗印代わりの巨大な鍋が揺れている。
友と夕餉を囲ったそれは、元々巨大すぎる頭を持った彼らの団長がまだ一介の兵奴にすぎなかった時
サイズの合う兜が無かったと言う理由で被らされていたのを由来とする物。
『生きる為』と言う一つ目的の為にだけ集まった彼らにとって、蛇足ではあっても捨てられぬ想いの象徴。

煌びやかな旗印が『騎士の名誉』の象徴なれば、これは『傭兵の誇り』とも言える物。
夕餉時には彼らの中央で囲まれていたそれのボロさこそが、【戦鍋団】の名の下に集う者達の絆の深さともいえる物であって。
仲間を侮辱されて黙っていられるには、揃いも揃って少々血の気が多すぎた。

自由騎士A『おい、オヤジ!! あんな事言われてるぜ!!』

自由騎士B『アンタならあんな女の一人や二人、軽く討てるだろ!! アンタが行かないなら俺が行く!!』

自由騎士C『待てお前ら!! 勝手な真似は許さんぞ!! お前らはまだ何も知らんからそんな事が言えるのだ!!』

まだ比較的経験の浅い自由騎士達が隊列を離れ、口々に抗議を始める。
それを見た経験豊富な者達も止む無く列を動き、ほんの一時的ではあるが隊は混乱した。



25: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:46:27.34 ID:3i0iG5sC0
自由騎士副官『で、どうしましょうか? ダディ』

    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
  . |(●),   、(●)、.:| 『…個人的にはこのままでも全く構わないのですがね』
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
   \  `ニニ´  .:::::/
   /`ー‐--‐‐―´\

答えたのは件の自由騎士だ。
キョロキョロと落ち着き無く戦場を見渡していた双眼も、今は【赤い悪魔】一人に注がれている。

|*(●),  、(●)、*|『……むしろ続けていただきたいくらいなのですが。
            こう……背筋がゾクゾクしてしまいます』

仄かな桃色に染まった頬が、何とも不気味であった。
このダディと呼ばれた騎士もまた、ギコと同じく肌で兵法を学んだ男である。
王軍右翼に控える赤い燕の騎士団が彼らの切り札である事は本能的に悟っていた。
ならば、今は共に大きく動くべき時ではない筈である。

( ̄‥ ̄)『随分と理解しがたいタイミングでけしかけてきましたな』

|(●),  、(●)、|『貴方もそう思いますか、フンボルト』

声をかけてきたのは先程の副官。
顔の中央に開いた立派な鼻腔が特徴的な男だ。



26: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:49:41.87 ID:3i0iG5sC0
( ̄‥ ̄)『王軍が燕を動かすとしたら、我らが崩れた時でしょう。
      で、あれば今中央に変化を起こす必要を感じません』

|(●),  、(●)、|『正直のままではジリ貧でしたからね。
          守勢にあそこまで士気を保たれると攻める側の体力がもちません』

そう言いあって互いに首を傾げた。
公軍側としては【九紋竜】を単独で使えない限り、まずは王軍の前線を切り崩したいところだ。
その勢いで後詰のツン率いる部隊に襲い掛かり、混乱に乗じてギコとテネシー公らが右翼を叩く。
引くも攻めるも出来ず孤立した燕の軍を打ち負かすのに手間はかからぬだろう。

( ̄‥ ̄)『であれば、【赤髪鬼】の暴走と見るべきでしょうか……?』

|(●),  、(●)、|『それも考えづらいですね』

両軍共に動くのは中央を打ち崩してから。
ダディはそう思っていたし、王軍も中央を厚く構えてきた。
考えれば考えるほど、何故今の機に一騎討ちなのか理解に苦しむ。

( ̄‥ ̄)『均衡を崩す為……でしょうか』

|(●),  、(●)、|『違うでしょうね。テネシー公の評価は兎も角、あの【天智星】がそのような判断をするとも思えません』

何せ、対騎馬隊としては完璧と言ってもいいほど堅固な陣を構えてきたのだ。
わざわざ将を失う危険のある冒険を選ぶ必要性が無い。
少しの間、吼え散らかすヒートを睨みつけていたダディは、

|(●),  、(●)、|『構いません。勿体ありませんが…ここは数で押し潰しましょう』

そう結論を出した。



27: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:52:03.00 ID:3i0iG5sC0
( ̄‥ ̄)『宜しいのですか?』

|(●),  、(●)、|『はい。何もわざわざあちらに付き合う必要はありませんからね。
          為すべき事が分からぬならば、為せる事に取り組めば良い。
          昔の人は本当に良い事を言った物です』

面倒な規律を嫌う自由騎士達の中にあって、互いに堅苦しい態度を崩さない二人の態度は異質である。
自由騎士達にとって上下関係とは己の父や兄に対して抱く感情に近いからだ。
かと言ってこの二人が不仲というわけでもなく、これは単に性格的な物に過ぎない。
【戦鍋団】設立当時からの団員であり、誰よりも気心の知れた相手だと思っている。
何よりも、虫も殺さぬような顔をして【第六天魔王】などというふざけた異名をつけたのは、この副官なのだ。

|(●),  、(●)、|『最も怖れるべきは乱戦に持ち込まれる事です。
          ならば我らは規を乱すべきではない、と私は考えますね』

( ̄‥ ̄)『成る程。その旨、すぐ全軍に伝えましょう。その後攻撃を再開いたします』

言って副官フンボルトはダディの側を離れた。
やがて波が引くように隊列を整えていく自隊を観察しながら、彼はちらと未だ大声をあげる赤い給士に視線を送り、

|(●),  、(●)、|。oO(やはり不自然ですね)

そう考える。
ヒートから見てもダディ隊が戦陣を整えつつあるのは明らかに見て取れる筈だ。
それすなわち、ダディが一騎討ちを受ける意思が無いと言う事。
そして、彼女が陣に戻らねば、僅かの時を置いて怒涛の如く包囲されるであろう事。
分かっている筈だ。

にもかかわらず、【赤い悪魔】は彼を挑発する事を心底楽しんでいるように見える。
いや、間違いない。その表情には余裕すら感じ取れる。



29: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:54:41.51 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『……』

腰に下げた竹筒を外し、栓を抜くと水を口に流し込んだ。
喉が渇いたわけではない。思考をリセットする為だ。

考えを整理する。
戦が始まるや否や考え無しに大盾に突っ込んでいった他の自由騎士隊は現在壊滅状態にあるといって良い。
ダディ達【戦鍋団】のやや後方に下がった彼らは、撤退か、隙を見て漁夫の利を狙うか見極めようとしているのだろう。
つまりは均衡を崩す戦力としては当てになら無いという事だ。

今のままではジリ貧とは言え、ダディも遊びで戦場に足を踏み入れている訳ではない。
出来る事なら勝って恩賞に与りたいと思うし、だからと言って部隊の今後に影響するほど深入りするつもりはない。
引くべきか攻めるべきか? その判断が大切なのは十分過ぎるほどに承知している。

ならば、その判断の基準はどこか?
怖れるべきは乱戦である。
もし、王軍が右翼のしぃを動かすとすれば、それは中央のダディ隊が弱りきった時。
そして、そうなれば【天智星】は大盾を捨て一斉攻撃に転じるだろう。
規律を無くし、機動力も奪われたとあれば勝機は無く、例え逃げ切ったとしても隊の再建には莫大な時間と費用がかかる。
つまり、そうなる前に王軍の前線を崩すか、戦場を離脱するかせねばならない。

( ̄‥ ̄)『ダディ。隊は整いました。いつでも行けます』

そこまで考えたところで彼の副官が声をかけてきた。
ダディは考えを中断させると、すぐ側の騎士に攻撃の合図を示す銅鑼を構えさせる。
どのような小細工があろうとも、結局最後は己の為せる全力を尽くすしかないのだから。

|(●),  、(●)、|『分かりました。続きなさい!! 我が兄弟達よ!!』

高らかにあげた声に重なるようにして、銅鑼の音が鳴り響き━━━━━



31: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 22:59:40.38 ID:3i0iG5sC0
( ̄‥ ̄)『な、何事ですかっ!?』

ダディ隊の中に湧き上がったのは威勢の良い合いの手ではない。
ただ、ただ混乱の声だった。
何故なら。

|(●),  、(●)、|『落ち着きなさい!! 状況を報告!!』

叫ぶダディの声もまた完全に落ち着きを欠いている。
何故なら。
何故なら、"彼らはまだ"銅鑼を鳴らしていないから。

思いもよらぬ方向から鳴り響いた銅鑼の音に、自由騎士達は浮き足立つ。
王軍に向け愛馬に鞭をいれた者、駆け出す者、必死に馬首を押さえる者、
何が起きたのか分からずに整えられた隊列は再び大きく乱れた。

自由騎士A『報告!! 南西の方角より奇襲!! その数およそ騎兵100!!』

(; ̄‥ ̄)『なっ!?』

自由騎士D『南西だと!? そんな馬鹿な!!』

南西からの攻撃と言えば、ちょうど彼らの脇腹を抉る様な形になる。
その方向に王軍は兵を割いていなかった筈。
正面切っての対決で雌雄を決しようと言うこのタイミングでの奇襲。
完全に不意を突かれた。

そして、南西に位置するは七英雄フィレンクトを擁くアマレット砦。
多くの者達が【白鷲】の異名を持つ隻腕の老将の姿を思い浮かべる。



32: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:02:53.11 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『フンボルト!! 貴方は100を率いて奇襲に当たりなさい!!
          一撃を加えた後離脱!! 生き延びる事だけを考えるように!!
          私は正面に当たります!!』

と、同時に正面に陣取った王軍中央の中から銅鑼の音が鳴り渡り、ダディの希望とは正反対の形で大盾の壁が開かれる。
赤い給士は早くもダディ隊に肉薄し、大混乱の最中にある態勢で王軍の総攻撃を受けきる事など出来まい。
ダディは頭を完全に撤退に切り替えた。矢継ぎ早に指示を飛ばしていくと、

自由騎士B『オヤジ!! あれを!!』

指差すその先、王軍奇襲隊の方を見る。

|(●),  、(●)、|『……やられましたね。時間稼ぎというわけでしたか』

思わず、青い柿を齧ったような顔になった。

常に戦場全体を見渡していたつもりだった。
が、その実は赤い悪魔の挑発に眼を奪われていた。
その隙を突いて王軍は大盾の影で大きく隊を動かしていたのである。

奇襲隊が掲げるは、この世に一つしか存在しない旗。
黒地に黄金獅子の描かれたる大旗。
その先頭で栃栗毛の駿馬に跨る者の目鼻立ちまでくっきりと見る事が出来た。
黄金の甲冑を身にまとい、翻すは真紅の外套。手にするは支配の象徴、禁鞭。
そう、すなわち━━━━━

ξ#゚听)ξ『アルキュの戦士達よ!! 汝らの命、我と共にあり!! 怖れる事無く突き進め!!
      反逆者達に王に逆らう愚かさを教えてあげなさい!!』

━━━━━アルキュの至宝。【金獅子王】ツン=デレ。



37: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:05:59.83 ID:3i0iG5sC0
自由騎士B『そんな!! 王自らが敵陣に乗り込んでくるだと!?』

ξ#゚听)ξ『獅子は流血を厭わない!! アルキュの王は常に戦士達の前にあるっ!!』

自身に向けて突き出された槍を掻い潜ると、その手に禁鞭を叩きつけた。
本来であればツンでは到底太刀打ちできぬ実力差の持ち主であっても、浮き足立って腰の入らぬ様では当てる事も敵わない。
風切る鉄鞭の一撃に獲物を落とした男は、続いて襲い掛かった王軍騎士の槍で馬上から叩き落された。

( ̄‥ ̄)『くそっ……【戦鍋団】が副官フンボルト!! 参る!!』

その光景を見たフンボルトは、黄金の王に向けて愛馬に鞭を入れた。
落ち着き払った王軍に対し、自隊は混乱の極みにある。
ならば、ツン=デレに一撃でも加え、掻き乱した隙に隊を離脱させるしかない。
最悪、王軍の眼を惹きつけて囮になるという選択肢もある。しかし。

从 ゚∀从『残念。させねーよ』

ひょいと彼の前に躍り出た黒衣の給士の竹箒が一閃されたかと思うと、手にした槍は宙に跳ね上げられていた。
次の瞬間、こめかみをツンの鉄鞭で打たれ、たまらず馬から転げ落ちる。
衝撃で意識を手放しかけた彼は、わっと襲い掛かった兵達に抵抗する間も無く取り押さえられた。
数人の自由騎士達が駆け寄ろうとするが、全てハインの小太刀によって防ぎ止められる。

从 ゚∀从『姫さん』

ツンは軽く頷くと、手にした鉄鞭を振り上げ叫んだ。

ξ゚听)ξ『【戦鍋団】副官フンボルチョ!! 【金獅子王】ツン=デレが召し捕った!!』

その声は戦場に響きわたり、王軍兵士の中から盛大な歓声が響きわたる。
若干噛んだ事に関しては、すでに誰も突っ込まなくなっていた。



40: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:08:49.56 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『フンボルトッ!?』

その声は中央で王軍の総攻撃を受け止めていたダディの耳にも届いた。
元々フンボルト個人の戦闘技術は高い物ではないが、副官が囚われたとなると他自由騎士達の戦意にも影響する。
いや、すでに包囲され獲物を捨てて降伏する者たちの姿がチラホラと見て取れた。

ノハ#゚听)『よそ見してる暇があるのかぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

|(●),  、(●)、|『ちっ』

大声に向けて直槍を振り回す。
すでに汗血馬を降り、地上でダディと向かい合っていた猫耳給士は、身を低くしてそれを掻い潜った。
続けて繰り出した突きも回避されたが、その間にダディは距離を広げる。

ノパ听)『舌打ちしたいのはこっちだ、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!』

それもつかの間。
怒号一閃、ヒートが這うような低い姿勢で距離を詰めた。
牽制の槍を殴りつけるようにして払い、懐に飛び込もうとする。

|(●),  、(●)、|『貴女に罵倒していただける覚えはないのですが』

ノハ#゚听)『五月蝿いっ!! お前を見てるとトラウマの蓋が開くんだよ!!!!!!!!!!
     ち○こ頭ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!』

|(●),  、(●)、|『その品が無い呼び名は止めなさい。…………嬉しいではないですかっ!!』

遊びはお終い、とばかりに裂帛の気合と共に直槍を突き出した。
まともに喰らえば岩すら砕く一撃を、ヒートは脇腹をかすめる様にして避わした。
そして、そのまま抱え込む。



43: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:11:33.97 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『む?』

ノハ#゚ー゚)『……やっと捕まえたぞ』

とっさに引き抜こうとするが、渾身の力で抱え込まれた直槍はビクともしない。
いや、引き抜く事に固執しすぎれば、最悪ダディ自身の力を利用して飛び込まれるかもしれない。
格闘に自信が無い訳ではないが、わざわざ相手の土俵に上がってやりたいとも思わなかった。

|(●),  、(●)、|『……ならば、力比べといきましょうか』

腹を括った。
両の太股で愛馬の腹をガッシと挟み、上半身を沈めるようにして給士の体ごと槍を持ち上げようとする。
対するヒートもまた、その思惑を悟ったのか腰をグイと沈め渾身の力でダディに対抗した。

|#(●),  、(●)、|『グ……ググググググ……』

ノハ#゚听)『ぅぉらあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ……』

互いに、まるで巨大魚でも釣り上げようとするかのような体勢。
全身の血を集めたかのようにヒートの顔は赤く染まり、強く噛みしめたダディの奥歯が軋む。
両者を繋いだ鉄の直槍が竹のように撓り、悲鳴をあげた。

互いに譲らず、全くの五分。永遠に続くのかと思われた力比べも、息を吸う事も吐く事も出来ぬのだから長くは続かない。
その癖、頭だけはやけに冷静で相手の姿をよく見て取れた。
ダディは限界を超えたヒートの膝が震えだすのがよく分かったし、
ヒートはダディの亀を思わせる禿頭に血管が浮き出るのをはっきりと確認した。

ノハ# )『だから……だから……っ!!』

|#(●),  、(●)、|『ぬ?』



46: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:13:59.39 ID:3i0iG5sC0




ノハ#゚Д゚)『それを止めろって言ってるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!
      ちん○頭ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!』


赤い給士が吼えたのと、ダディの体が重力から解放されたのは全くの同時だった。
視界がグルリと一回転し、すぐさま闇に包まれる。

|(○),  、(○)、|『……』

ダディが自身の敗北を知ったのは、背に強烈な痛みを覚えてからだ。
真っ暗だった視界に白い火花が飛び散っている。
あれほど懐に入られる事を警戒していたというのに、ヒートの顔はすぐ間近にあって。
その赤い髪の向こうに青空がくっきりと見えた。

ゼェゼェと肩で息をしていたヒートの喉がゴクンと動く。
この時になって初めて、咳き込んでいるのが自分だと気付いた。
それ程の痛み。時と場所を変えればこれ以上無い程の至福であったのだろうが、そう思う余裕も無い。

そして。

ノパД゚)『敵将ち○こ頭、アルキュ王が臣ヒートが捕らえたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!』

ダディの身体に馬乗りになったヒートが勝ち名乗りを上げる。
と、同時にツンの時に劣らぬほどの大歓声が沸き起こり。

それは彼らが中央の戦いを征した事もまた意味していた。



47: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:16:39.48 ID:3i0iG5sC0
         ※          ※          ※

(´・ω・`)『やぁ、ようこそ。随分と梃子摺らせてくれたね』

|(●),  、(●)、|『……』

後ろ手に縛り上げられたダディが連れて行かれたのは、竹冠を頭に乗せた男の前だった。
垂れ下がった太い白眉から、この男が天才と名高い【天智星】だと判断する。
周囲に【戦鍋団】の者の姿は一人しか見当たらず、降伏した者は他の場所に連れて行かれたのだろう。
王軍もまた20人前後の兵士が側にいるだけで、多くの者達は追撃に出ているらしかった。

( ̄‥ ̄)『……ダディ。申し訳ありません』

|(●),  、(●)、|『いえ……貴方は今までよくやってくれました』

縄を解かれ、この場にいる唯一の仲間、フンボルトの横に並んで背もたれの無い座に腰を下ろす。
本来であれば地べたに座らされる屈辱を受ける所だ。
王軍の者達にとってこれも一つの礼のつもりなのだろうが、生涯で一度しか味わえぬ屈辱を奪われたのは少々残念でもある。
戦場に生きてきた者として、敗軍の将が辿る道は心得ているから、
口から漏れる言葉に諦めが混ざっていたとしても今更恥とは思わなかった。

|(●),  、(●)、|『一つだけ教えてください』

(´・ω・`)『うん?』

|(●),  、(●)、|『あのまま戦闘を継続していても、あなた方は勝てたのではないですか?
          ならば、何故王の身を危険に晒してでも奇襲に転じたのでしょう?』

それは彼の心に引っかかっていた疑念である。
普段であれば問い掛けを無視して流されるのも決して嫌いではないのだが、どうせ死ぬのであればすっきりした気持ちで死にたかった。



50: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:19:36.06 ID:3i0iG5sC0
(´・ω・`)『大盾の壁は騎兵の機動力を殺すためだけに構えたんじゃない』

言いながらショボンは立ち上がった。
いつもそうするように、両手を腰に当てて組み、老いた学士のように語り始める。

(´・ω・`)『中軍の切り札はあくまで陛下が率いる部隊であって、動きを悟られない目隠しでもあったんだ。
      今後、同じ様な愚行に走る者を防ぐ為にも、この戦いは陛下自身に決めていただく必要があった。
      本当は勢いを駆って公軍本陣まで攻め込んでいただきたかったけど、思いの外君達が手強かった物でね。
      それに、あのまま我が軍が勝利したとして。君達はそれを悟れば一息に戦場を離脱してしまうだろう?』

从 ゚∀从『御主人』

ショボンは音も無く近づいてきた黒衣の給士が手にする盆から碗を受け取った。
二度二度息を吹きかけてから、ゆっくりと口に運ぶ。

从 ゚∀从『ほら』

ハインはそのまま捕虜となった二人にも碗を手渡した。
ダディもフンボルトも茶に詳しい訳ではない。
が、鼻腔をくすぐる仄かな甘い香りに、たとえこれが末期の水になったとしても良いとすら思った。

(´・ω・`)『僕はそれを防ぎたかった。それ故の奇襲さ』

|(●),  、(●)、|『……それでは答えになっていません』

(´・ω・`)『ほう? どうして?』

|(●),  、(●)、|『問われなければ分からない……とも思えませんが』

そう前置きしてからダディは言葉を紡ぐ。



51: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:22:04.92 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『我らの力を正確に計っていたのなら、それこそ持久戦に持ち込むべきではないのでしょうか?
          王の威光を示すのであれば、完全に我らが引いてからの出陣でも遅くはない筈です。
          最終的に、この戦いの首謀者を王が破ればよいのですから』

(´・ω・`)『……』

|(●),  、(●)、|『晒す必要の無い危険に身を晒すのは、巨象の前で鎌を振り上げる蟷螂の勇にすぎません。
          貴方達はいずれそのやり方を民にまで押し付ける事になる。理想の名の下に守るべき民を地獄の釜に放り込む。全く滑稽な話です』

首を刎ねられる事を覚悟した者だけが吐ける暴言に、王軍兵士達の顔色が変わった。
このまま続けようものなら断首を告げられるより前に細切れにされそうな勢いだ。

|(●),  、(●)、|。oO(まぁ、構いませんけどね)

もし、彼の言をショボンが訂正しなかったら、彼は人生の最後において最大の屈辱を受ける事になる。
愚者に破れ、友と作りあげてきた【戦鍋団】を失うと言う屈辱。それは、この巨大な頭を持つ男が求める屈辱ではない。
死は怖れずとも、歩んできた人生を否定させぬ為、ダディは言葉を止める事が出来なかった。

|(●),  、(●)、|『更に言わせていただくとすれb……?』

敗れてもあくまで腰を折らない彼に業を煮やしたのか、一人の兵士が腰に下がった剣の柄に手を伸ばす。
が、それも一瞬。慌てたように姿勢を正した。

(´・ω・`)『うん、もう大丈夫なのかい? もう少し休んでいても良いのに』

ダディの演説を悠然と聴いていたショボンが、彼らの背後に向けて声をかけた。
馬蹄に踏み荒らされた大地を、確かめるような速度で歩く音。
長時間馬上にある事に慣れていない者は、時として平衡感覚を失う事がある。
イメージとしては車酔い……というより立ち眩みに近い物で、
気血失調。つまり、貧血気味の者や若い婦人がなるのが多い事をダディは聞き及んでいた。



53: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:26:33.06 ID:3i0iG5sC0
???『どうしても戦場の匂いには慣れないわね。ダメだわ』

自嘲するような声は、【天智星】に向けられた物だ。
柔らかくとも芯の通った響きが、それだけでどのような人物か教えてくれる。

元々、ただの新鮮な血肉であれば無臭に近い。
が、それが空気に触れて酸化し、汗と吐瀉物と糞便とを馬蹄や軍靴で捏ね回せば想像を絶する臭気を放つ事になる。
この中で飯を掻きこむ事が出来るようになれば、立派な戦廃人の出来上がりと言う訳だ。

???『フンボルトさん……でしたね。確かに貴方の言う事は間違っていないと思うわ』

やがて、ようやっと彼らの前に辿り着いた彼女は、その身を支えるようにしていた侍女の手を離した。
片膝を地について座ると、二人の瞳を覗き込みように見あげる。
その姿勢になる事で、至高の者だけが纏う事を許された真紅の外套が土に汚れても、気にならない様だった。

ξ゚听)ξ『でも、理想を実現させるには力がいるわ。
     アタシにはまだまだ民を守りきれるだけの力はないの。
     それが今日、素晴らしき力を持った戦士達に出会えた。
     貴方達を得る為ならば、アタシは幾らでも死地に飛び込んでみせるわ』

|;(●),  、(●)、|『……』

(; ̄‥ ̄)『……』




ξ゚ー゚)ξ『これじゃ、答えにならないかしら?』



57: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:28:39.99 ID:3i0iG5sC0
|(●),  、(●)、|『……我らはどうやら敗れるべくして敗れたようです』

嘆息して空を見上げる。

美しい王だと思った。
いや、ただ美しいと言うだけならば口の悪い赤毛の給士に軍杯が上がるだろう。
彼にそう呟かせたのはツンの持つ瞳の輝き。その中にダディは純粋な、混じりっ気のない覚悟を見た。
その覚悟が何なのかは分からずとも、見せ掛けの権威に囚われず前に進もうとする想いの深さに敗れたのだ。

二人の自由騎士は頷きあうと、座を外し黄金の獅子の前に膝をつく。
運命が、彼女が望むのであれば彼らがするべき事は一つだった。
深く考える必要はない。為すべき事を為せば良いのだ。

|*(●),  、(●)、*|『【戦鍋団】団長ダディ。見ての通りの風体ゆえ【第六天魔王】と呼ばれております。
            この日、今の時から女王様と呼ばせていただきたい。
            そして出来る事なら私の事は、薄汚い豚野郎とお呼b』

(; ̄‥ ̄)『っ!! 同じく副官フンボルト!! これより我ら【戦鍋団】、全て我が王に命を捧げましょう!!』

ダディが言葉を終えるより早く、彼の副官が慌てたように口を挟んだ。
倍も歳の離れた男達に低頭され、どうして良いのか分からずツンが間誤付いている。
どれほどの覚悟を持とうとも、至高の王と呼ばれようとも、どうにも慣れないのだ。
そんな景色を視界の片隅に置きながら、ショボンは北に眼を送った。
彼の場所は公軍。いや反乱軍本陣が構えられていた場所。
テネシー公ジャック、ダニエル、そして【九紋竜】ギコが率いる部隊が待ち構えている筈で。
砂埃は収まっておらず、未だ交戦中である事が見て取れる。

(´・ω・`)。oO(まぁ、彼がいれば今度は間違いないだろうけどね)

白眉を撫でつけながら、ショボンはそんな事を考えていた。



60: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:32:15.49 ID:3i0iG5sC0
         ※          ※          ※

王軍本隊が自由騎士団の中に切り込んだのと時を同じくして。
もう一つの切り札・右翼後方隊もまた、公軍本陣にて剣を交えていた。

(*゚ー゚)『丑に50。縄にて射。円にて離。後、切り込む』

百騎長A『北北東に50騎だ!! 列陣を組んで射撃の後に円陣を成して離脱、本隊後方に合流する!!』

百騎長B『怯んだら一気に突っ込むぞ!! 楔に構えろ!!』

【紅飛燕】しぃの出す指示を、左右に控える百騎長達が正確に読み取り周囲に伝える。。
極端に簡略化された言葉から、彼女が想定する用兵を判断し兵を動かすのは容易ではあるまい。
しかし、その困難さが逆に将兵を強くした。
自身で戦況を判断し行動に移れるのも、それが生き残る事に繋がるからだ。
そうやって鍛えられた者達にとって、しぃの声は最終的な確認に過ぎない。
もっとも彼女が【キュラソー解放戦線】として戦っていた頃は、
一言も言葉を発する事無く指差すだけで指示を出していたのだから、今では随分とやり易くなった方なのだ。

これが【急先鋒】ジョルジュであれば、自ら先頭に立ち将兵を引っぱっていくのだろう。
多少敵陣が厚くとも、多少遊兵を作っても、爆発的な攻撃力で戦況を支配するのだろう。

が、それは彼女の戦い方ではない。
最前線から数歩下がった位置で戦況を見極め、より的確な場所に最高のタイミングで最少数の兵力をもって最大限の打撃を与える。
個の武ではなく、兵の全てをもって己の刃とし敵陣を切り崩すには『意思持つ手』とも言える練熟した将兵が不可欠なのだ。

退こうとする者達には怒涛と化して襲い掛かり、自棄になって討ちかかって来る者達に対しては包囲して射殺す。
近距離と遠距離、静と動を使い分ける彼女達によって公軍本隊は確実に削られていった。

そして、燕は戦場の中、かつて見知った顔を見つけ出す━━━━━。



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