( ^ω^)がどこまでも駆けるようです
- 61: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:34:57.77 ID:3i0iG5sC0
- (#,,゚Д゚)『ゴルァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!』
【九紋竜】は雄叫びと共に、手にした長刀を振るった。
それだけで王軍騎士の突き出した槍の柄が、まるで野菜でも切るかのように両断される。
が、一瞬唖然とした表情を浮かべた騎士の首を叩き落すより早く別の騎士に斬りつけられ、ギコは数歩下がらねばならなかった。
(#,,゚Д゚)。oO(今のは牽制って所か……畜生、よく鍛えてやがるぜゴルァ)
一人に対して常に複数で襲い掛かるよう、訓練されている。
友軍の救出を最優先で行なうよう、徹底されている。
少し周囲を見渡すだけでも、それがギコに対してだけでなく自然に行なわれている事が分かった。
同時に、共に戦っている友軍がすでに20人ほどになっている事も知る。
それに数倍する王軍に完全に包囲されていた。
( ,,゚Д゚)。oO(完敗……だな)
認めざるをえなかった。主力であった筈の自由騎士団は一部を除いてがむしゃらに突っ込むしか能が無く、
今では動ける者は甲冑を捨てて逃走し、動けぬ者は剣を捨てて降伏している。
戦意のある者など、すでにギコの周囲に立っている数名を残すのみであろう。
ギコの思うとおり、完膚なきまでの大敗。これが昨夜まで戦場にも拘らず飲めや歌えやを繰り返していたとは信じられぬほどの完敗だった。
テネシー公ジャックとダニエルの消息すら誰一人把握していないだろう。
( ,,゚Д゚)。oO(ま、しょーがねぇわな。)
先刻【金獅子王】ツン=デレの奇襲で主力部隊が混乱した時、本陣でそれを知ったギコは即刻逃げるか、
混乱に乗じてこちらも奇襲を仕掛けツンを討つべきだ、と二人の貴族に進言した。
そして、何の迷いも無く逃げる事を選んだ二人は『逃走資金』を馬車に積むという作業に時間を喰い、
結局しぃの襲撃を許すという愚行を犯したのだ。
重荷を載せた馬車の存在を【三華仙】の一人が見逃す筈も無く、消息が分からぬというのはとうに捕らえられたという事なのだろう。
それでも、ギコが刃を下ろす事はない。これから先は一介の剣士としての戦いである。
- 63: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:37:31.47 ID:3i0iG5sC0
- ( ,,゚Д゚)『血路を開くぞゴルァ!!』
叫びすぎて擦れた声でギコが叫ぶ。
渇ききった喉がヒリヒリと痛むが、口の中に唾液すら湧かないのでは我慢する他なかった。
( ,,゚Д゚)『ルァッ!!』
長刀のリーチを生かした神速の三段突きで、瞬く間に三人の騎士を葬り去る。
ジョルジュを破った変則の居合い【地走り】と並ぶ得意技で、幾度と無く危機を救ってくれたものだ。
この時も『刺突』という攻撃に特化した槍よりも早く命を奪い散らしてみせた。
消え行く命にしがみつく様に、騎士がゆっくりと馬から落ちる前には、すでに他の騎士の首が宙に舞っている。
( ,,゚Д゚)『馬を奪え!! 手薄な場所を狙って包囲を抜ける……っ!?』
と、その時ギコは自らを覆う槍衾の向こうに赤い外套を纏った小柄な騎士の姿を見た。
彼女もまたギコに気付いたようで、数名の騎士達に何やら指示を出している。
受けた者達は軽く頷くと、ギコに向かって愛馬に鞭をいれ
(ii,゚Д゚)『……ゴルァ』
思わず声を漏らした。
獲物を逆腕に持ち替えた彼らが揃って振り回しているのは、石縄と呼ばれる武器だ。
三尺(90cm〜1m)程の長さの縄の両端に拳大の石を括りつけ、遠心力を使って投げつける。
扱いが易く身近な道具で作れる物だが、殺傷力は折り紙つきと言っても良い。
それだけであれば布キレを使った投石具と大差ないのだが、本当の曲者は縄の方だろう。
なにせ、元々これは遊牧民が逃げた家畜を捕らえる為に使用していた物なのだ。
縄自体に殺傷力はないが、絡みついたそれは足を封じ、剣を振るう腕も奪ってしまう。
『ヤバイ』と思った瞬間。騎士達の放った石縄が、四方からギコに襲い掛かった。
- 65: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:41:52.11 ID:3i0iG5sC0
- 最初に飛来した二本の石縄を身を屈めて回避する。
続いてのそれは、手近の転がっていた槍を咄嗟に拾い上げ体の前方から後方にすくい投げるようにして防いだ。
が。槍に絡みついた縄の勢いは止まらず、ギコはグンと腕を引かれて体勢を崩した。
必死に長刀を振るい、刃全体を使うようにして正面から飛来した物の縄を断ち切る。
縄の束縛を離れた石が頬を掠め、背後で戦っていた兵士の背に直撃し、その破壊力に男は意識を手放し倒れこんだ。
( ,, Д )『……っ!!』
しかし、ギコにもその兵士を案じてやるだけの余裕は無かった。
体勢を崩していた為、更に襲い来た石縄を避わし損なったのである。
腹部正面への直撃こそ避けたものの、アバラを数本砕かれ膝をつく。
王軍騎士『今だ!! 捕らえるぞ!!』
それを見た騎士が更に石縄を取り出すも、ギコの闘志は衰えていなかった。
これ以上の戦闘は無用と判断すると、先程犠牲になった兵士の振るっていた手斧を取り、渾身の力で投げつける。
その一撃が命中する事は無かったが、怯んだ隙に接近したギコは騎士を叩き落し馬を奪う事に成功した。
(;*゚ー゚)『!!』
こうなれば占めたものである。
しぃは自身の用兵術の法則として、兵を無駄に失う事を極端に嫌う傾向がある。
自軍の犠牲を出来る限り減らしていくのは用兵学の基礎とは言え、敵味方として彼女を良く知る者でなければ看破しうえない癖だ。
今も一瞬緩んだ包囲網をギコは一息に離脱した。
そのまま逃げ遅れた戦士の脇を駆け抜けんとして……
(;,゚Д゚)『ぬあっ!?』
- 69: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:46:04.40 ID:3i0iG5sC0
- ワケも分からぬまま、地べたを転がった。
異名となった九匹の竜の彫り物が土にまみれる。
長刀を手放さなかった事だけは流石と言わざるをえまい。
片膝をつく姿勢で起き上がった彼が見たのは、首を失い倒れこんだ馬の姿。
全身を大きく震わせながら、血を吹き流している。
それを目にすれば、たった今すれ違った戦士がギコの眼にも留まらぬ速さで"何か"したのは明らかだった。
(;*゚ー゚)『あ』
赤い燕が小声を漏らす。
(;,゚Д゚)『テメェ……あの傷で……』
九竜の剣士が嘆息する。
そして。
( )『あの傷だぁ? あんな撫でられた様な怪我で何時までも寝てられねぇんだよ。
俺様を誰だと思ってやがるんだ?』
ギコに背を向けて立つ男は、手にした片刃の長柄刀を天に掲げ、名乗りを上げるのだ。
( )『━━━━━乳を語れば天下一。ドン引きされても揉みぬいて。乳首つまめば……俺の勝ち!!』
白い戦外套と、結んだ後ろ髪が風に揺れる。
そう。彼こそは黄金獅子が臣。ヴィップ司書令。万騎将にして【薔薇の騎士団】団長。
振り返り。叫ぶ。
( ゚∀゚)『真の主役は遅れた頃にやってくる!!
不撓不屈のおっぱい大将軍!! 【急先鋒】のジョルジュとは俺様の事だっ!!!!!!!!!!!!!』
- 75: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:50:44.42 ID:3i0iG5sC0
+ ∩
( ゚∀゚) +
m9/ | ←最大限にかっこいいポーズ
| / |
し ⌒J
(*゚−゚)『…………』
(;,゚Д゚)『…………』
王軍騎士『…………』
( ゚∀゚) +
(*゚−゚)『…………』
(;,゚Д゚)『…………』
公軍兵士『…………』
( ゚∀゚) +
(*゚−゚)『…………死ねクズ』
Σ(;゚∀゚)『え!?』
(*゚−゚)『…………ギコ。ごめん』
(;,゚Д゚)『え? あ、あぁ、なんかこっちこそ見ちゃいけない物見ちゃったみたいで……お前も大変だなゴルァ』
- 82: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:54:27.93 ID:3i0iG5sC0
- (;゚∀゚)『最っ高の決め台詞だと思ったんだけどなぁ』
(*゚−゚)『黙れ』
気まずそうに後頭部を掻くと、長柄刀の石突きを地面に突き刺す。
空いた手で腰から竹筒を外すと、ギコに軽く放り投げた。
(;*゚ー゚)『ちょ、待って』
それを見たしぃは思わず抗議の声を漏らした。
竹筒の中身など聞かずとも予想できる。
ようやく弱らせた竜に水を与えようというのだ。敵に塩、どころの話ではない。
( ゚∀゚)『おいおい。細かい事気にするんじゃねーよ』
が、そんな燕の抗議をジョルジュはさらりと受け流した。
長柄刀を引き抜くと、二度三度と柄をしごき構えを取る。
( ゚∀゚)『俺達ゃ、互いに地べた舐めさせられて黙ってるほど大人しくねーんだ』
対峙するギコは、竹筒の中身を飲み干すとそれを放り捨てた。
無精髭の生えた顎に滴る水を手の甲で拭き取り、握りを確かめるように長刀を下段に構える。
( ,,゚Д゚)『礼は言わねえぞ。こちとら寄って集って殴られてヘトヘトなんだゴルァ』
( ゚∀゚)『へっ。丁度良いじゃねえか。俺様もどっかの誰かさんの不意打ちのせいで動くのも辛ぇんだ』
共に相する者が吐き出した憎まれ口に軽く笑い。
一瞬の睨み合いの後。
先に動いたのは【急先鋒】━━━━━
- 83: ◆COOK./Fzzo :2009/01/30(金) 23:57:28.39 ID:3i0iG5sC0
- (#゚∀゚)『ぅおおおおおおおおらぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!』
肩に担ぎ上げるように振りかぶった長柄刀を、力任せに叩きつけた。
当然のようにギコは身をかわす。
"斬鉄"と称されるほど鍛え、磨き上げられた漆黒の神刀でも受けきれぬであろう一撃。
仮に刀が無事であっても、それを握る腕がただでは済むまい。
ジョルジュ渾身の一撃は大地を砕き、乾燥した土壌を宙に散らした。
(#,゚Д゚)『っこの、馬鹿力がぁっ!!』
(#゚∀゚)『人の事言えた口かよっ!!!!』
腰をズンと落とした格好から、ギコが右切り上げを放つ。
正確に首を狙ってきた一撃は重く、受け止めたジョルジュの長柄刀が跳ね上げられた。
それでも。
(#゚∀゚)『らぁっ!!!!!!』
【急先鋒】は隙を見せない。
ギコが第二撃を放つより先に、分厚い胸板を蹴り飛ばす。
受け止めようにも刀は大降りの一撃を放ったせいで間に合わず、かわそうにも身体は伸びきっている。
まともに喰らった剣士の身体は鞠のように弾かれ、大地を転がった。
更に追撃を加えんと、熊のような巨体が飛びかかる。
対するギコは咄嗟に砂を拾いあげ、ジョルジュの顔目掛けて投げかけた。
(#×∀×)『うおっ!?』
振り下ろした長柄刀は不発。
それどころか、お返しとばかりに喰らったタックルで、今度はジョルジュが地を転がる番だった。
- 86: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:01:26.70 ID:vA85jUMv0
- (#゚∀゚)『汚ぇ真似しやがって!!』
痛みで本能的に閉じようとする目を強引に開き、長柄刀を横薙ぎに振るう。
掠りもしない一撃だが、その破壊力を目の当たりにした者への牽制には十分。
ギコが追撃を踏み止まった隙に、袖で目に入った砂を拭い落とす。
(#,゚Д゚)『うるせぇ!! 泣き言ぬかすんなら!! 帰って!! マンマのおっぱいでも吸ってろ!! ゴルァ!!』
(#゚∀゚)『それは!! おっぱいのっ!! 大きさにもよるっ!! むしろ!! 大歓迎だっ!!』
(#,゚Д゚)『何だ!! そりゃっ!?』
判断は正しかったとは言え、一瞬恐怖を感じた己にギコは苛立ちを感じた。
視力を回復し立ち上がったジョルジュに正面から切りかかる。
ジョルジュもまた、ギコに小細工が無いと判断するや足を大きく開いて迎撃の態勢をとった。
全体重を乗せて振り下ろされた長刀を、ジョルジュは全身のバネをフルに使って弾き返す。
限界まで溜め込んだ反動を乗せた長柄刀を、ギコが守りを捨てきった前傾姿勢で跳ね払う。
そんな斬り合いを十合ほど続けた二人は、示し合わせたかのように距離をあけた。
(;,゚Д゚)『どう、した……息が、はぁ……あがってるじゃねぇかゴルァ』
(;゚∀゚)『うるせ、ぇよ……テメェこそ、乱れた息が、死ぬほど似合わねぇ…じゃねぇか』
肩を大きく上下させるまで乱れた呼吸を整える間も、挑発がやむ事は無い。
やがて大きく息を吸い込んだ二人は。
(#,゚Д゚)『行くぞぉぉぉぉぉぅおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』(゚∀゚#)
天も裂けよと雄叫びをあげ、斬り合いを再開する。
- 87: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:04:35.31 ID:vA85jUMv0
- 【急先鋒】ジョルジュと【九紋竜】ギコ。
共に恵まれた体躯を誇りながらも満身に溺れず技量を磨いた戦士ではあるが、二人の戦い方には若干の違いがある。
立ち上がった熊を思わせる長身のジョルジュは、本来騎兵と言う事もあって振り下ろす攻撃に慣れている。
対するギコはずんぐりとした体格で、下段から切り上げる剣撃を好んでいた。
(#゚∀゚)『テメェ、コラ、筋肉チビ!! 大人しく死にやがれ!!』
最も得意とする剣筋を違える二人。
自然、昇竜のようなギコの長刀と落雷のようなジョルジュの長柄刀が幾度も衝突し火花を散らす。
(#,゚Д゚)『こっちの台詞だ、発情熊!! 全身の皮ひん剥いて敷物にしてやんぞゴルァ!!』
受け止め、弾き返すだけで肩の骨まで衝撃が走った。握力などとうの昔に消え去っている。
それは正に死の絢爛舞踏と言うべき戦いだ。
岩をも砕く一撃を受ければ、その瞬間身体は肉塊へと変わり、箒と塵取りで肉片を掻き集めなければならなくなるだろう。
しかも、元の色が分からぬほどのボロ外套を纏っているギコだけでなく、
ジョルジュもまた、前を開いた戦外套の下は素肌に包帯を巻きつけているだけなのだ。
それでも。
眼光が肉を裂き、剣気が骨を絶つ空気の中、戦士達は怯まない。
前に出した足が交差し、時には額を合わせる距離で、ただひたすらに己の全力を叩き込む。
剣士はあばら骨を数本折っていたし、騎士は巻き付けた包帯に赤い血を滲ませている。
にも拘らず、両者は一歩たりとも下がる事を是としない。
(#゚∀゚)『いい加減……っ!!』
(#,゚Д゚)『しつけぇぞゴルァッ!!!!!!!!!!!!』
気合と共に刀をぶつけ合った。
そのまま獲物を退かず、力比べの体勢になる。
- 89: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:07:32.54 ID:vA85jUMv0
- 技量も五分なら膂力も互角。
交差する刃を全身の力で押し込むが、互いにビクとも動かず。
それどころか、半歩でも前に進もうと踏みしめた足がズズと後方に押しやられた。
(#゚∀゚)『いい事教えてやるぜマッチョチビ……っ!! ジャックとダニエルの二人な、とっくにぶち殺したぜ。
直に陛下のトコまで首が届く筈だ。残念だったな』
( ,,゚Д゚)『けっ』
動揺はない。
ただ、『あぁ、やっぱり』とだけ思った。
(ii ∀ )『が!?』
口に出す代わりに、押し込んでいた力をスッと抜いてやる。
支えを失いよろめく巨体の腹の傷に膝を叩き込んだ。
そのまま、身体を折り曲げたジョルジュの、がら空きの後頭部を目掛けて長刀を振り上げ━━━━━
( ,, Д )『っは!?』
横殴りの暴風に、身体をくの字に折って弾き飛ばされた。
倒れこみながらもジョルジュが強引に身体を捻り、長柄刀を一閃したのだ。
上段に振りかぶった長刀は防御に間に合わず、痛めた脇腹を強打される。
砕かれた骨が血管を切り裂き、内臓に突き刺さり、痛覚神経をズタズタに傷つけ、
ギコは地に伏せたまま低くうめきを上げた。
あまりに接近しすぎていた為、柄で殴られたのは幸運と言うべきで。
直撃したのが刃の方であれば、2つに分かれた死体が転がっている筈だった。
もっとも。
痛みを感じるより早く胴を両断された方が、はるかに楽かもしれなかったが。
- 92: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:11:47.13 ID:vA85jUMv0
- (ii ∀ )『っぐ……が……はぁ』
膝をつくジョルジュが、長柄刀を杖代わりに立ち上がろうとする。
外套の下の包帯はとうの昔に真っ赤に染まりきり、完全に開いた傷口から溢れた血が、大地に黒い点々を描いた。
( ,, Д )『ぐぉおぉ……糞……れがぁ』
ギコもまた満身創痍。極度に疲労し、幾度も地を転がった全身からはいたる所で出血している。
それでも力の入らぬ膝を鼓舞し、身体を地面から引き剥がすように立ち上がった。
(;*゚ー゚)『……』
彼らの一騎討ちを見守る王軍騎士の数はゆうに30を超える。
今、一斉にギコに襲い掛かれば大した犠牲も出さずに捕らえられるだろう。
いや、今動かねばギコだけでなくジョルジュの命も危うい。
そう感じさせるほど、互いにとって致命的な一撃が叩き込まれた筈だった。
しかし、彼らは動けない。ボロボロに傷ついた二人から立ち昇る決死の剣気が、近寄るだけで全身を切り刻まれる錯覚を覚えさせる。
それでも全ての者が決着の時が近いと悟っていた。
(# ∀ )『やる…じゃ、ねぇかチビ。主、の死を知……ても戦意を失……ぇ、たぁ……褒めてやるぜ』
(#, Д )『…るせぇ木偶……興味ねぇんだよ……ゴルァ』
声を出す事で、吹き飛びそうな意識を強引に繋ぎ止める。そして、ギコはここで小さな過ちを犯した。
それは。
(#゚∀゚)『テメェ……そりゃ、どういう意味だ!?』
剣士の言葉を耳にした瞬間。ジョルジュが突如怒りを顕わにしたのである。
- 94: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:16:09.48 ID:vA85jUMv0
- 【急先鋒】ジョルジュと言う男は、騎士の鑑たる一面を濃く持った男である。
口が悪く、師と同様に性癖に問題がある故『一面を持った』と言わなくてはならないのは非常に残念ではあるが、
それでも彼が武芸に秀で、学問を尊び、民を労わり、主に忠誠を貫く男である事に違いはない。
敵味方、階級の分け隔てなく公平であり、立派な人物には素直に尊敬を示すし、取るに足らぬと判断した者は口汚く罵倒もする。
そんな彼だから、ギコが主の死を知ってなお剣を捨てぬ事に敬意を覚えた。
素晴らしい男と命のやり取りが出来ることを嬉しく思った。
(#゚∀゚)『テメェは!! ヤツラの想いに!! 理想に共感したからこそ力を貸したんじゃねぇのか!!
ヤツラの下で護りたいもんがあったから、剣を振るったんじゃねぇのか!!』
( ,,゚Д゚)『……あのバカどもに理想なんて大それたモンはねぇよ。
ただ、ヤツラは餓えてぶっ倒れてた俺に飯を食わせてくれた。その恩義に報いるだけだゴルァ』
(#゚∀゚)『そんなモンの為にっ!!』
ジョルジュは吼える。
(#゚∀゚)『この内乱の影で!! どれだけ多くの弱き者が泣いたと思ってやがる!!
それだけの力を持ちながら、何をちっぽけなモンにしがみついてやがる!!』
(#,゚Д゚)『知った風な口きいてんじゃねぇぞゴルァ!!!!!』
その言葉に、今度はギコが眦を釣り上げた。
(#,゚Д゚)『人は何かを求める時、何かを犠牲にしなきゃいけねぇ!!
誰かを護りたいと思ったら、他の誰かを犠牲にしなきゃいけねぇ!!
だから、本当に護りたいモンを失いたくないなら!! 他の全てを諦めるしかねぇ!!
100人の民を護る為に200人の命を奪ってきたテメェが何を偉そうに!!
愉快すぎて腹が破裂すんぞゴルァ!!』
- 97: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:20:49.19 ID:vA85jUMv0
- それから二人は暫し睨みあう。
怒りが湧き上がらせた戦意はそのままに、残り僅かな剣気を凝縮する。
気を抜けば飛びそうになる意識を繋ぎ止めてくれる痛みが、今はありがたかった。
( ゚∀゚)『……それでも俺様は誰かを護りたいと思うぜ。そいつが気高き理想を持つ限り、な』
( ,,゚Д゚)『……なら、俺はその傲慢をぶち壊してやるぞゴルァ』
ギコは長刀を左手に持ち替えると、上半身を極端な前傾姿勢に落とした居合いの構えを取る。
ただし、その長すぎる黒刃は鞘に収めるのではなく、刃先を地に埋めるようにして。
先だってジョルジュに深手を負わせた、神速三段突きと並ぶギコの大技。地走りの構えだ。
思い返せば、この戦いでジョルジュは常に後の先を狙う戦い方をしてきた。
ここぞと言う時には動いてくるが、多くはギコの剣戟を見極めてから、最適な動きを選んできたように思える。
それは討ち合いが長引くにつれて顕著になり、おそらくは多量の出血で足が思うように動かぬ事もあるのだろう。
が、それ以上に徒歩での戦闘では僅かに自分が上回っていると判断した。
( ,,゚Д゚)。oO(……それなら)
今回もジョルジュが自分から動く事はない。
ギコ自身の傷も浅くはないが、怒りを力に変えねば立っている事も困難なほど血を失っているジョルジュの比ではない。
それならば、ジョルジュが後の先を放つより早く終わらせる。最速の一撃で終わらせる。
王軍騎士『……』
すでに戦は王軍勝利の形でほぼ終結し。
剣を交えているのは彼ら2人だけになっている。
風も吹かず、衣ずれの音一つしない中。
一人の騎士が生唾を飲んだのと同時に、ギコが大地を蹴った。
- 100: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:24:41.38 ID:vA85jUMv0
- 二人の一騎討ちは、最初にジョルジュが仕掛ける形で始まった。
そして、幕を引くのはギコの疾駆。
(#,゚Д゚)『ゴルァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!』
初速からトップスピードに乗った。
右肩からぶつかって行く様な突進がジョルジュに迫る。
対するジョルジュは長柄を両手で持ち、両足を大きく開いて半身に構えている。
何の工夫も感じられぬ構えに、ギコは勝利を確信した。
長刀の間合いまであと九歩。
あと七歩。
あと五歩。
ギコが地を滑らせる長刀の柄に、再度強く力を込めた瞬間。
(#゚∀゚)『…待ってたぜ!!テメェがこの技を出してくるのをよ!!!!!!!!』
グッと膝を沈めると、巨体にそぐわぬ敏捷さで地を蹴った。
ただギコを破っただけでは敗北の屈辱は拭えない。
自らの肉体に傷をつけた、【九紋竜】最速の剣技を討ち破ってこそ、その勝利に価値がある。
( ;,゚Д゚)『んだと!? ゴルァ!?』
予想だにしなかった【急先鋒】の強襲に、ギコは息を飲んだ。
その頭蓋目掛けて、ジョルジュは1000年の大樹すら薙ぎ倒す一撃を振り下ろし━━━━━
- 102: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:27:35.07 ID:vA85jUMv0
━━━━━キン
- 106 名前: 72秒規制とかなんだよ ◆COOK./Fzzo 投稿日: 2009/01/31(土) 00:29:43.77 ID:vA85jUMv0
- (;*゚ー゚)『!!』
( ∀ )『…………っ』
( ,,゚Д゚)『………ちっ』
時が止まったかのように全ての者が感じた。
剣先を大地に押し付けられていた刀身が、摩擦から解放されると同時に天高く振り上げられる。
乾いた音と共に断ち切られた長柄刀の刃がクルクルと回転しながら宙に舞い、罅割れた大地に突き刺さった。
そして。
(ii ∀ )『ぐおあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁっぁぁっぁ!!!!!!』
数秒の時を置いて、横一文字に切り裂かれたジョルジュの胸から弾けるように血が噴出す。
【急先鋒】の一撃を弾く為に間合いの半歩先で地走りを発動させた故、必殺には至らなかった。
浅い。が、それでも威力は充分。
(ii ∀ )『ぉ…………ぁあ………ぁ』
瞳から色は消え、全身の力を失い、刃を失った鉄の長柄が手を離れてカランと地に落ちる。
倒れる事を拒むかのように。剣士の身体にもたれる様に意識を失ったのは、最後の意地か。
しかし、それでも。
( ,,゚Д゚)『終わりだ、ゴルァ』
熱い返り血に全身を赤く染めたギコが、意識を無くしたジョルジュの髪を鷲掴み、引き剥がした。
そう。あと一撃、長刀を左胸に突き立てるだけで全てが終わる。
ジョルジュの髪を掴んで膝立ちにさせたギコが、ゆっくりと高く掲げた黒刀を下ろした、その時━━━━━。
(ii ∀ )『……あぁ。終わりだ、筋肉チビ』
- 108: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:36:27.80 ID:vA85jUMv0
- (;,゚Д゚)『なっ!?』
(#゚∀゚)『うらぁぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!』
ジョルジュの目に光が戻る。
ダラリと垂れ下がっていた両腕が素早く跳ね上がり、右手はギコの顔を。左手が長刀を持つ手首を掴んだ。
死を目前にしているとは思えない、万力のような馬鹿力で締め上げる。
( ,, Д )『ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!?』
ゴキリと手首の骨が砕け、剣士は思わず長刀を落とした。
それを見届けたジョルジュは、左手を手首から離し腰帯を掴み取る。
(#゚∀゚)『良い事を教えてやるぜ、筋肉野郎』
( ,, Д )『が、はぁ、ぐぁおぉぉぉぉ!!』
必死にもがき暴れても、ジョルジュの指は引き剥がせない。
頭蓋がミシミシと嫌な音を立てて軋んだ。
(#゚∀゚)『この世の中、普遍の真理ってヤツだ。
良いか? 世界中に存在する全てのおっぱいには愛と理想が詰まってる。
例え今は洗濯板でも、うちの陛下やあそこのしぃのおっぱいにも夢と理想が詰まってるんだ』
(#*゚−゚)
ギコは、腰帯を掴む指に更に力が込められるのを感じた。
力こぶが膨れ上がり、太い血管が浮き出る。
震える足で大地を強く踏みしめ、ジョルジュは立ち上がった。
- 112: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:41:30.47 ID:vA85jUMv0
- ( ,, Д )『テ…メェ、この期に及、でふざけ……』
(#゚∀゚)『黙って聞けよ。子供達はその母親のおっぱいから愛と理想を吸って成長する。
そして、それは俺様やテメェも例外じゃなかった筈だぜ』
( ,, Д )『……』
ジョルジュはここで大きく息を吸い込んだ。
丹田に力を込め、残る最後の力を振り絞る。
一瞬、胸の傷から小さく血が爆ぜたが、それも気にしない様子だった。
(#゚∀゚)『だったら。それだったらよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!』
(;, Д )『な!?』
雄叫びとともに、ギコの身体が浮き上がった。
まるで重量挙げでもするかのように、ジョルジュが剣士を持ち上げたのである。
支点は顔面を掴む右手と、腰帯を握った左手の二点のみ。
にも拘らず、どんなにギコが両足をバタつかせようと、身を捩ろうともビクとも動かない。
(#゚∀゚)『だったら……そのおっぱいの成長を……夢と理想でたゆんたゆんに揺れるのを……
おっぱいがないと生きられない子供達を……夜、おっぱいを揉む事だけを楽しみに仕事に励む男達を……
垂れたおっぱいの婆様を……その婆様を何十年も愛し続けた爺様を……護るってのが……』
(;, Д )『テメェ、バ、カ、やめ……』
必死に暴れた。この姿勢から己の身に何が起きようとしているのか、野生の獣ですら理解できる。
もし、ジョルジュの巨体と馬鹿力から"それ"が実行されればどうなるか?
答えは一つだ。
そして。
- 117: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:48:49.89 ID:vA85jUMv0
- (#゚∀゚)『その為に生きるってのが真の漢の道!!!!!! 本当の仁義ってもんだろうがぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』
怒号と共に、ギコの身体を大地に叩きつけた。
(;*゚ー゚)『ひっ』
大気が震え、大地が揺れる渾身の一撃。
砂煙がジョルジュの巨体を隠すほどの高さまで舞い上がる、まさに全身全霊を注ぎ込んだ必殺の一撃。
王軍騎士『……殺した……のか?』
その呟きはおそらく戦いを見守る全ての者が思った言葉。だが。
(メ, Д )『こ……の、糞馬鹿力が……』
永遠に晴れぬとも思えるほどに濃い砂煙が消えた後。九竜の剣士は死んでいなかった。
罅割れた大地にめり込むようにして横たわりながらも、無理矢理に意識を保ち続ける。
(メ, Д )『教えろ……俺は……俺の生き方は……間違っていたのか?』
( ゚∀゚)『……あのな、筋肉チビ』
照れ臭そうに頭を掻きながら、ジョルジュは尻餅をつくように座り込んだ。背後に倒れこみそうになる身体を両手で支え、空を見上げる。
( -∀-)『人様の生き方に正解不正解を出せるほど、俺様は偉くねぇ。
おっぱいを護るって最低限のルールさえ守れば、人の生き方なんて様々だ。でもよ』
(メ, Д )『……でも?』
持ち上がらない首を強引に動かし、騎士を見た。ジョルジュもまた、今まで殺しあっていたのが嘘のように笑いかける。
- 119: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:51:30.70 ID:vA85jUMv0
- ( ゚∀゚)『男ならでっかくよ、どこまでも高く生きるべきだと俺は思うぜ。
例えば、テメェは餓えて倒れていた所を助けてもらったからジャックやダニエルに手を貸したと言ったな?
その考えは嫌いじゃねぇ。
でもな、腹に入れたその飯を育てたのは誰なんだ? 手を豆だらけにして作物を作るのは誰なんだ?
人が人として生きる以上、仁義は守らなきゃいけねぇ。
が、眼の前の事に囚われすぎて、本質を見失うのは……馬鹿らしいんじゃねぇかな』
(メ, Д )『……そうか』
力が抜ける。
大の字に横たわる、彼の上空には青い空。
ギコにはギコなりに、道を貫こうと決意させた過去があり。その為に戦ってきた。
しかし、初めて彼を破った男の声と、広い大空を見ているとそれがあまりにも些細な事に思えてきて。
(メ, Д )『俺の……負けだ』
呟き、意識を手放した。
それを確かに聞き届けたジョルジュもまた。
( ゚∀゚)『へっ。当たり前だ』
(ii ∀ )『俺様を……誰だと思ってやがる』
吸い込まれるように背後に倒れこむ。
(;*゚ー゚)『ジョルジュ!!』
王軍騎士『将軍!!』
薄れていく意識の中で、ジョルジュは駆け寄ってくる友の声を遠くに聞いていた。
- 121: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:55:03.24 ID:vA85jUMv0
- ※ ※ ※
( ,,゚Д-)『……ここは……?』
ギコが意識を回復した時。
目の前に広がっていたのは大空ではなく灰色の石天井だった。
視界がぼやけているのは、灯りが窓から差し込む月明かりだけだから、と言うわけではあるまい。
( ,,゚Д゚)『っ、痛ぇなゴルァ』
身を起こそうとして、全身に走る激痛に顔を歪めた。
彼が横たわっていたのは硬い台地の上でなく、日の香りがする清潔なシーツに包まれた寝台の上。
白い包帯が裸の上半身の所々に撒かれ、ご丁寧な事に割と気に入っていた無精髭まで剃り落とされている。
( ,,゚Д゚)『そうか……俺は負けたんだったぞゴルァ』
そこで剣士は思い出す。
しかし、それは敗北と言うには余りにも爽やかな記憶で。
( ,,゚Д゚)『ぁ?』
その時、彼は部屋の中央、座の背もたれに寄りかかる様にして寝息を立てている者の姿を見た。
その人物も、部屋に人が動く気配を察したのか目を開く。
灰色の瞳がギコを捕らえ、小柄な身体が立ち上がった。
(*゚ー゚)『……』
( ,,゚Д゚)『……しぃ、か』
- 124: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:57:31.31 ID:vA85jUMv0
- ( ,,゚Д゚)『酒か?』
喉の渇きを訴えるギコに、しぃは卓に置かれた水差しから透き通る液体を注いで手渡した。
一息に飲み干したそれは、薄めてはいるものの間違い無く酒である。
(*゚ー゚)『ジョルジュから』
(;,゚Д゚)『万年発情野郎からだぁ?』
それを聞いて、ギコはジョルジュもまた生きている事を知った。
いや、それだけでなく、この様な物を寄越す以上随分と余裕があるようにも思える。
(;*゚ー゚)『"戦が終わっても俺様の酒が飲めないなんて言うほど、き、き、きんた、"』
( ,,-Д-)『金玉小さくねぇだろう、かゴルァ。あの化け物め。やっぱり生きてやがった』
棒読みで必死に言葉を紡ぐしぃに助け舟を出した。
彼女の口下手で無口な性格は知り覚えている。
それでも、これ程までにしぃが声を出すのを初めて見たので、彼は内心驚いていた。
( ,,゚Д゚)『で、ここは何処だゴルァ』
(*゚ー゚)『ヴィップの城。十日間寝てた』
聞けば内乱は完全に終結し【金獅子王】ツン=デレは無事ヴィップ城に凱旋したと言う。
テネシー公ジャックとダニエルは討ち取った者の、残るもう一人の反乱首謀者エドワードは未だ消息を捕らえていない。
緒戦で敗れ、逃げ去った後から行方が知れなくなっているのだ。
しかし、テネシー公の兄弟は緒戦で勝利しても最後は破れ死亡しているのだから、そう考えればエドワードは運が良かったのかもしれず。
今も多くの将兵が戦で疲労しきった足を引きずって、その姿を探し続けていた。
- 125: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 00:59:34.78 ID:vA85jUMv0
- (*゚ー゚)『ニイト?』
( ,,゚Д゚)『おう、ニイトだ。万が一の時はニイトに亡命できる…みてぇな事を話してた記憶がある』
寝台に並んで腰を下ろす女騎士に答えた。
このような夜更けに男女二人で寝台で座るのは、無邪気さがさせる物だろうか?
それとも、ギコが立つ事も難しい状態だと知っているからだろうか? もしくは、男として甘く見られているのであろうか?
一番最後の答えであれば少々悲しく思うし、一人で立つ事は難しくても助けがあれば勃たせる事は出来ると思う。
自由騎士団の一つ【戦鍋団】を率いていたダディとフンボルトの二人がツンに降り、仕えているのはしぃから聞いていた。
彼女は多く人材を求めており、自分が丁寧な治療を受けている事からも、近く仕官の話があるであろう事は予想できる。
実際に会ってみない事にはどうしようもないが、それでもエドワードの逃亡先を隠しておくような義理も無かった。
( ,,-Д-)。oO(まぁ、それでも)
ジョルジュほどの男が忠誠を誓う人物である。
正式な将としてではなく、客将という立場であれば手を貸してもいいと思えた。
(*゚ー゚)『ギコ。ありがとう』
話を終え、下らぬ事やら真面目な事やらに没頭していると、しぃが静かに立ち上がった。
おそらく、ギコが目を覚ました事、エドワードの行方が分かった事を皆に伝えに行くのだろう。
そして。
月の光を浴びて、闇の中うっすらと銀色に輝く姿が美しくて。
敵として刃を交え、味方として轡を並べた記憶の何処にも無い姿がとても綺麗で。
( ,,゚Д゚)『しぃ……あのな』
気付いた時には、ギコは彼女に声をかけていた。
- 128: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:03:01.75 ID:vA85jUMv0
- (*゚ー゚)『何?』
( ,,゚Д゚)『あ、あう、その、な?』
(*゚ー゚)『?』
何から話せばよいのか整理もつけていなかった為、金魚のように口をパクパクさせるギコ。
それを見たしぃは、細い腰を紐で縛った白い夜着の裾を押さえるようにして、再び彼に並んで腰を下ろした。
ギコにしてみれば、それは言わずとも良い事なのだ。
今まで、誰にも語る事は無く。心の中に押し留めたまま戦ってきた。
しかし、過去の自分を乗り越える為にも、それは誰かに話さねばならない気もしていて。
覚悟が決まらぬうちに、ギコはその誰かをしぃに選んでしまっていて。
困り果てて下を向けば、しぃの白く細い足が目に入り、また困惑して。
(ii,゚Д゚)『あ〜、その〜、ゴルァ、だ』
(*゚ー゚)『うん』
その灰色の瞳が語る。
自分は全てを受け入れてみせる、と。
それで剣士は腹を括った。
(ii,゚Д゚)『誰かに……、いや、お前に聞いてもらいてぇ事がある。……つまらねぇ昔話だ』
彼が語るのは、かつての彼の物語。
卓越した一人の剣士が、孤独を尊び、一匹狼として生きる事を選ぶ事になった過去の話。
瞳を閉じたギコは、深く埋めた記憶を掘り出すように、ゆっくりと話しはじめる。
( ,,-Д-)『俺は……元々メンヘルの生まれなんだ、ゴルァ』
- 130: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:06:19.43 ID:vA85jUMv0
- (*゚ー゚)『うん』
それ自体は、さほど意外な話では無かった。
重なっては離れていく螺旋のような腐れ縁の中で、そのような噂は幾度も耳にした事がある。
事実、彼が南方訛りの話し方をするのを聞いた者もいたし、
乞食のような服装の剣士が頭に巻き付けているのは
ぼろきれの様になってはいるものの、確かにメンヘル族の成人男性が着用するターバンであったから。
( ,,-Д-)『俺の親父はちょいとばかし有名な坊さんでよ。聞き慣れねぇかもしれねぇが、小乗派。
つまりは"己を磨く事こそ神に近づき平和に辿り着く道"って教えを説いてきた。
その頃もメンヘルはモナーを頂点にした大乗派。
まぁ、簡単に言えば"皆で頑張っていきましょう"みてぇなもんだな。
そいつが主流だったから、モナーの野郎と衝突したり親父も苦労してたらしい。
それでも、親父とお袋と小せぇ妹と。楽しく暮らしてたんだ』
(;*゚ー゚)『うん』
そんな【紅飛燕】でも、これは意外に過ぎた。
ギコの口から長々とマタヨシ教の宗派の違いを説明されるとは思ってもいなかったし、
統一王七英雄の一人としてメンヘル族全体を纏めた【指導者】モナーと衝突したとなれば、それは相当な実力者の可能性が高い。
何年も風呂に入っていないような乞食剣士が、実はお坊ちゃんであったと言われれば、それは目を丸くするしかない話であった。
( ,,-Д-)『でもな、親父が小乗の教えを説けば説くほど、親父の周りには人が集まりだした。
親父の話に共感した連中だけじゃなくて、親父の力を利用したがる連中や、モナーから逃げてきたヤツも沢山いた。
そんな馬鹿の為にも、親父やお袋は走り回ってたんだ』
(*゚ー゚)『うん』
( ,,゚Д゚)『そんな事をしてるうちにお袋は苦労が祟って倒れた。
で、そのまま死んじまった。そんだけだ』
- 132: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:10:27.49 ID:vA85jUMv0
- そこでギコは話を区切った。
続く言葉を、選びだす為の沈黙が続く。
(;*゚ー゚)『……』
しぃもまた、かける言葉を見つけ出せずにいた。
己克の教えを説く者が、それを理解しようとせぬ者達の為に奔走し、大切な物を失ったのだ。
あまりに皮肉な話ではないか。
( ,,゚Д゚)『……だから、俺は全てを捨てた。
お袋の死の間際までクズどもの為に走り回ってた親父の面なんか見たくなかったし、
それからもずっと態度を崩そうとしない親父には、裏切られたと思った。
お袋が死んでも貫こうとした己克の教えを、俺だけは貫こうと決めた。
妹は…まだ小さかったから可哀相な事をしたがな。とにかく、そうやって生きてきた』
そこまで話して、ギコは袖で目許を拭った。
閉じ込めていた記憶を取り出す毎に、感情の堤防が決壊して行く。
これ以上は言うべき台詞ではないと思った。しかし、一度口に出した想いは止まらない。
( ,,;Д;)『それでも!! 【急先鋒】に俺は負けた!!
傷つき!! 大鎌も無く!! 本来互角の筈のヤツに!!
ヤツの想いの強さに俺は完全に負けた!! 負ける筈が無い戦いで、ムシケラみてぇに叩き潰された!!
だから分からなくなったんだゴルァ!!
親父は正しかったのか!? お袋は幸せだったのか!?
大切な人間を守れなかったのに!! 大切な人間に守られなかったのに!!』
言葉は既に慟哭に等しく、ギコは両目を掌で覆い、うずくまった。
それが全ての物語。一人の人間が孤独に生きる道を選ばずにいられなくなった、悲しい物語。
野生の獣を思わせるギコの力強い肉体は、今や小さく背を丸め嗚咽に震えている。
だから、しぃは。
- 134: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:15:41.44 ID:vA85jUMv0
- (*- -)『大丈夫。お母さんはきっと幸せだった』
両手で包み込むように、ギコの頭を抱きしめる。
( ,,;Д;)『……本当か? 親父に守られなかったのに……お袋は幸せだったのか?』
(*- -)『うん。でも忘れないで』
優しく諭すように、幼子に言い聞かせるように、ボサボサの髪を撫で付けた。
(*- -)『わたしもジョルジュもツンを守ってるだけじゃない。同時にツンに守ってもらってる。
きっとギコのお父さんやお母さんもおんなじで。
だから、大切な人の為に死ねたお母さんは幸せだったし、そんなお母さんと一緒だったお父さんもきっと幸せ』
( ,,;Д;)『そうか…そうかよ……良かった。本当に良かったぞゴルァ』
言ってギコはしぃの細すぎる腰にしがみついた。
怯える子供のような、自分より遥かに大きい男の頭を、しぃは優しく抱きかかえる。
ギコは知る。自身の人生を捻じ曲げた悲しい出来事の中で、それでも想いあった両親の愛を。
しぃは知る。剣士の人生を捻じ曲げた悲しい出来事の結末を、一人の男が今ここに乗り越えたのを。
( ,,;Д;)『それなら……俺も今からなれるかなぁ?
親父みたいに……なれるかなぁ……』
(*- -)『大丈夫。ギコにはわたし達がいる』
それからの二人に言葉は不要だった。
一つになった二つの影を、月明かりがいつまでも優しく照らしていた。
- 136: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:18:11.60 ID:vA85jUMv0
- ※ ※ ※
( ゚∀゚)『ゆうべはおたのしみでしたね』
(#*゚−゚)『死ね』
傷口が交差するあたりを渾身の力で殴りつける。
一撃でジョルジュは泡を吹いて昏倒し、その背を踏みつけて赤い燕は玉座の間に向かった。
謂れの無い噂話に心乱すほどか弱くないが、避けられる面倒事はやはり避けた方が良い。
何よりも、口煩い老将の耳に入ったりなどしたら数刻は説教されるのが目に見えているので、ここでジョルジュの口を封じておくのは正しい結論だと思えた。
この内乱でヴィップは多くの人命を失った。それらは二度と帰らぬものであり、悲しみの声も決して小さくない。
しかし、【金獅子王】ツン=デレはギムレット高地に根付いていた旧貴族階級による反勢力を一掃する事に成功した。
ギムレットは完全に彼女の元に統一されたのだ。
統一王の後継を自任する2つの勢力、【評議会】と【金獅子王】。
王都デメララを拠点とする【評議会】との区別をつける為、ツンが自身らをヴィップと呼んでいたのは諸兄らも承知であろうが、
いつをもってその名を語りだしたかについては、歴史書に記述が残っていない。
それについて、『王が統一宣言を出した日』だと言う者と『ギムレット統一のこの日だ』と主張する者で意見が分かれているのは、この為である。
更に、この戦いでツンは有能な三人の将と戦士達を手に入れた。
【第六天魔王】ダディ。その副官フンボルト。そして【三華仙】が一人、月下剣士【九紋竜】のギコである。
残る内乱の首謀者はエドワードただ一人。
その逃亡先も判明し、この日の会議では彼の捕獲についてを中心に進められ、
最終的に【赤髪鬼】ヒートを主将、ダディを副将にした騎兵100のニイト領境への派遣が決定した。
エドワードが領境を越えていないなら良し。
もし領境を越えたとしても、内乱の最中に動かなかったニイトが動くとも考えられず。
また、メンヘルと何かしらの密約があろうとも、内乱が終わった今となってはニイトにエドワードを匿う必要性などない、と判断してである。
これで本当に内乱が終わり、しばしの平和が訪れる。全ての者がそう信じていた。
- 139: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:22:02.16 ID:vA85jUMv0
- |;(●), 、(●)、|『これは……どう言う事でしょうか?』
ノハ;゚听)『あたしに聞かれても……知るか』
そして、その期待は脆くも裏切られる事になる。
今、彼女らの前に立ち塞がるは領境に沿って隊を揃える、ニイトの主力【天馬騎士団】。
その数およそ500。
白馬で統一された騎士達が、静かに命令の声を待っている。
爪゚∀゚)『悪いけど、エドワード殿はニイトの大事な客人ですヨ?
もし、身柄を明け渡せと言うなら痛い目見てもらうしかないですヨ?』
その先頭に立つは、ミルクを多めに入れた紅茶色の髪と瞳を持った男装の女騎士。
長大な突撃槍・ランスを手にするニイト只一人の猛将【金槍手】リーゼ。
爪゚∀゚)『いや〜。リーゼとしてはむしろ戦いたいみたいな?
"エドワードを奪えー、突撃ー!!"みたいな展開だと燃えるんですけど、駄目ですかね?』
ノハ;゚听)『五月蝿い……少し黙っててくれ。頭が栗を火に放り込んだみたいだ』
本心から戦いになるのを期待している風のリーゼ。
対するヒートは己の存在意義すら忘れたように呆然としている。
諸兄らはこの意味がお分かりであろうか?
『あの』ヒートが声を張り上げる事もせず、ただ立ち尽くしているのだ。
それは何故か?
それは━━━━━
- 143: ◆COOK./Fzzo :2009/01/31(土) 01:29:05.05 ID:vA85jUMv0
ノハ;゚听)『どう言う事だ、貴様……裏切ったの……か?』
(;゚ ゚)『……ごめんなさいですお。理由は言えないけど……僕はヒートさんと戦いたくありませんお。
ここは……黙って兵を引いて欲しいですお』
【金槍手】リーゼのすぐ横に。
銀色の髪を持ち、白衣白面に身を包んだ謎の瞬歩使い。
かつて彼女らを救い、ツンに味方である事を約束した幽鬼の剣士。
【王家の猟犬】を名乗る者、ブーンの姿を見出したからであった……。
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