( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/31(月) 20:13:45.90 ID:+aJHF24O0
登場人物紹介

アルキュ正統王国
 首都は【獅子の都】ヴィップ。王位正統継承者ツン=デレがリーマンから離れる形で建国。
 国旗は黒地に黄金色の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=無し 民=リーマン 武器=無し 階級=尚書門下(行政次官)・千歩将 ツンの付き人

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=鉄弓(轟天) 階級=中書令(立法長官)・千騎将・黄天弓兵団団長

从 ゚∀从 名=ハイン(ハインリッヒ) 異名=天駆ける給士(闇に輝く射手) 民=??? 武器=仕込み箒・飛刀 階級=中書門下(立法次官)・千歩将

ノパ听) 名=ヒート 異名=燃え叫ぶ猫耳給士(自称)・赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=司書門下(司法次官)・千歩将

(*゚ー゚) 名=しぃ 異名=紅飛燕(三華仙【花】) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下(司法次官)・千騎将

(‘_L’)  名=フィレンクト 異名=白鷲(七英雄) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長

( ,,゚Д゚) 名=ギコ 異名=九紋竜(三華仙【月】) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=千歩将

|(●),  、(●)、| 名=ダディ 異名=第六天魔王 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団団長

( ̄‥ ̄) 名=フンボルト 異名=??? 民=??? 武器=直槍 階級=千騎将・戦鍋団副団長



5: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:15:29.84 ID:+aJHF24O0
ニイト王国
 戦に破れ荒廃したニイトの地を復興させた【無限陣】クーが民の声に応える形で独立。
 卓越した戦術と共に経済・流通を武器にする。専守防衛が基本思想であり、覇権には興味を持たない。
 国旗は青地に白い狼。

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣(三華仙【雪】) 白狼王 民=ニイト 武器=??? 階級=ニイト王

爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=??? 階級=???(財務担当)

爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=ランス 階級=???(騎士団長)

( ´_ゝ`) 名=兄者 異名=金剛阿 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・兄者玉 階級=???(元メンヘル十二神将・第五位)

(´<_` ) 名=弟者 異名=金剛吽 民=メンヘル(元海の民) 武器=手斧・弟者砲 階級=???(元メンヘル十二神将・第九位)

白衣白面
 【天智星】ショボンが過去の伝説を再現させた、最強の強襲部隊。
 その強さの秘密は、全ての隊員が命を捨てる事を惜しまぬ事にあり、【突撃】と呼ばれる捨て身の特攻を得意とする。
 総勢300の白衣白面を率いるのは【王家の猟犬】を名乗るブーン(旧ナイトウ)であり、
 その柔らかな性格が白面の戦士をまとめあげていると言っても過言ではない。
 その意味では【白衣白面】とはヴィップから完全に独立した私兵集団である。

( ^ω^) 名=ブーン(旧名ナイトウ) 異名=王家の猟犬 民=??? 武器=拐(刃の映えたトンファー) 階級=白衣白面隊長

(,,^Д^) 名=プギャー(旧名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長



9: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:21:19.90 ID:+aJHF24O0
MAP 〜東1局4順目で親の国士直撃喰らって死亡とか泣きたい編〜

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader1154952.jpg

@キール山脈 未開の地。厳しい自然環境下で、隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 内乱の制圧に成功するが、国内でニイト征伐の世論が異常なまでに高まり、世論に押し切られるように出兵した。

Bニイト王国 首都はニイト城。 ニイト族の居住地。メンヘル・リーマン両陣営と同盟関係にある。
 内乱制圧後、侵攻してきたヴィップ軍を大きく破るが……

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 失地の民モテナイの再興を謳う。メンヘルとは近く同盟を結ぶ事がほぼ確定している。

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族支配化にある、アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。だが、メンヘルとの繋がりが強く同盟関係にある。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族の居住地 その大半が岩と砂に覆われている。 
 旧ギムレットの山賊やデメララを追われた貴族階級、ニイト、モテナイ、シーブリーズと数多くの勢力と密接な関係にある。



11: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:24:18.51 ID:+aJHF24O0


     第27章 勝利の剣


(  ω )『……お……』

川 ゚ -゚)『ホライゾンっ!!』

瞼を薄く開き、霞んだ視界に最初に飛び込んできたもの。
それは、白目を赤く充血させた姉の顔と、どこか見慣れた石造りの天井だった。

(  ω )『ここは……ニイト城かお?』

川  - )『あぁ、そうだ……よかった……もう目を覚まさないのかと……お前は何日も眠っていたんだぞ』

言ってクーは両手で包み込んだ青年の手を自らの頬にそっと押し当てる。
陶器のようにすべらかな肌は、冷たくしっとりとしているように感じられた。

(  ω )『戦は……戦争はどうなったんだお?』

川  - )『終わったよ……お前が止めてくれたんだ』

未だ眠っている状態の筋肉を無理矢理叩き起こし、青年は上半身を起こす。
ギヤマン製の水差しを姉の手から受け取り、白湯を口に流し込んで、ようやく脳が覚醒してきた。

川  - )『限界解放など……無茶をしおって。兄者がいなかったらどうなっていたか……』

(;^ω^)『兄者が?』



13: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:28:00.78 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『暴血……つまり、限界解放の反動で倒れたお前の治療をしたのは私と兄者だ。
      今は弟者やリーゼと共にカンパリに残っているが、な』

(;^ω^)『……姉様は限界解放の事を知ってるのかお?』

川 ゚ -゚)『当たり前だ。私を誰だと思っている? お前の姉だぞ?
     それに、こんな身体になるまでは、私の方がお前よりずっと早く走れていたんだ』

修練によって瞬歩法を極めたハインと違い、ブーンは生来の才能に頼りきっている面が強い。
当然ハインも人並み外れた才を持っているわけだが、青年のそれはハインをはるかに凌駕していた。
その才能は、父でありアルキュ最高の剣技【夢幻剣塵】の使い手モララーの血による物。
更に言えば、クーの蹴り技は生まれ持った脚力に義足の重量を上乗せしたものになる。

( ^ω^)『……』

青年は確かめるように、腕を軽く回した。
なるほど、惰眠を貪り過ぎた時のような気だるさは全身にある物の、覚悟していた程肉体の破損は無い様だ。
クーの知識と、“瞬歩のスペシャリスト”を自称する兄者に感謝する。

( ^ω^)『姉様』

そして、ブーンが尋ねたのは命を懸けて護ろうとした友の存在だ。
戦は終わった。
それでも、流石兄弟やリーゼはカンパリに駐留していると言う。
胸の中に残る嫌な予感を感じながら、彼は続けた。

( ^ω^)『ツンは……ヴィップはどうしているんですお?』

川 ゚ -゚)『……』



16: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:31:00.54 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『……その前に一つ教えてくれ、ホライゾン。
     お前はニイトが内乱に乗じてヴィップに侵攻するのを足止めする為、この国に潜入した。
     これは間違いないな?』

(;^ω^)『お? はい、そうですお』

この事実は、すでに姉も周知のはずである。にもかかわらず、姉は再度それを確認した。
そして、続く言葉でクーの真意を知るのだ。

川 ゚ -゚)『これは、私の憶測でしかないが、偽り無く答えて欲しい。
     お前は、ツン=デレによってニイトに派遣されたのではない。
     何故なら、ツン=デレは何故、お前がニイトにいるのかすら知らなかった。
     お前と【白衣白面】を秘密裏にニイトに送り込んだのは……ヴィップ建国の功臣【天智星】ショボンだ。
     間違いないな?』

(;^ω^)『……その通りですお』

川 ゚ -゚)『……やはり、か』

言ってクーは青年から視線を外す。
細いあごに指をかけ、なにやら考え始めた。

(;^ω^)『姉様は……何もかも分かっているんですかお?』

川 ゚ -゚)『何も知らないさ。憶測に過ぎない。
     ニイト・ヴィップ共に将官級の者ならばきな臭い物を感じ取ってはいるが、それが何なのかは分かっていない。
     正解に最も近いのは、今の私と……おそらくヴィップでは【急先鋒】。
     正解に辿り着いているのは、兄者とショボン……と言う所だろうな』



19: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:33:52.38 ID:+aJHF24O0
(;^ω^)『兄者と……ショボンさん……』

川 ゚ -゚)『あぁ。このような事態になると分かっていれば、私も先に二人を問い詰めたのだがな。
     いや、言い訳か。ここまで正解に近づいていれば、予測できた筈なんだ。
     私はアレとずっとお前の側にいたし、兄者は答えあわせでもするかのように【天智星】を連れて何処かに消えてしまった。
     このような事になって、兄者はカンパリへ。ショボンめは自軍に戻ったが……』

“このような事態”。
その言葉に、青年の心に芽生えていた嫌な予感が再び鎌首を持ち上げる。

川 ゚ -゚)『一つ、確信できている事がある。
     それは、最も早く正解に辿り着いたのが【天智星】だったであろう、と言う事だ』

(  ω )『……でも、ショボンさんは……』

この戦いで常に受け手に回っていた。
同じく“正解”に辿り着いた兄者とは違い、行動に出ようとしなかった。何故か?

川 ゚ -゚)『知りすぎていた……いや、関わり過ぎていたと言うべきだろうな。
     己の策に溺れ、更に大きな存在に気づくのが遅れた。
     気づいた時には己の張り巡らせた泥沼に足を取られ、身動きが出来なくなっていた……といった所だ。
     よほど深い情念が視界を狭めていたのだろう。あまり責めてやるな』

ショボンの不幸は、記憶も過去を持たない男の正体が、クーの実弟だった事にある。
自身が設立した【白衣白面】がニイトに残留し、その謎の解明に囚われ過ぎた。
自身が黒幕となって動いていた筈が、その実はうまく踊らされていた形になってしまい、動くに動けなかったのだろう。

が、その白面も元は彼が秘密裏に組織した物であり、今となれば疑問が残る。
ギムレットに残る悲劇の伝説【白衣白面】。
その名声をツン=デレの覇道の為に利用するとして、その存在を全ての者に伏せておく理由はないからだ。



21: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:37:13.36 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『権勢欲……とは違うのだろうな。おそらく【天智星】にはヤツなりの目的があって動いている。
      よもやすれば、ツン=デレすら利用しているだけなのかもしれん』

言ってからクーは言葉を休めた。
少しの間だけ青年を見つめ、意を決したかのように口を開く。

川 ゚ -゚)『お前が寝ている間に、な。ツン=デレとは色々と話をしたよ。
     兵は皆疲れ果てていて……波が引くように戦いは収まった。何より、王たる私達が戦意を失くしていた。
     本当に色々と話をした。ツン=デレは私の知らないお前を沢山知っていたよ』

(;^ω^)『お』

川 ゚ -゚)『最初はずっと泣いていたんだ。それから少しずつ語り出した。
     お前と出合った時の事。お前が助けてくれた事。お前が死んだ筈であると言う事。
     何度も何度も、お前を一番の友と呼んでいた』

そこまで言ってクーは微かに下唇を持ち上げた。

川 ゚ -゚)『正直、妬けてしまうな』

(;^ω^)『そ、それでツンは今どこにいるんだお!?』

それでも、【黄金獅子】ツン=デレの姿はそこに無い。
先ほどから感じ取っていた予感が、青年の気を急かしたてる。

川 ゚ -゚)『……2日前の事だ。ヴィップ城から急士が駆け込んできた。それでツン=デレ達は急ぎ国に帰還した』

(;^ω^)『え……』

川 ゚ -゚)『……ヴィップ城が正体不明の敵に襲われたのだ。ツン=デレは……今も戦っている』



25: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:42:11.83 ID:+aJHF24O0
(;^ω^)『……っそんな!!』

叫ぶや、青年は寝台から飛び降りる。
石床に足をつけた瞬間膝から崩れ、姉に抱きとめられた。

川;゚ -゚)『ホライゾン!! 無茶をするな!!』

(;゚ω゚)『そんな事言ってる場合じゃないんですお!! ツンが……ツンがっ!!』

川#゚ -゚)『分かっている!! だが、もう一度言おう!! “無茶をするな!!”
     今、お前が無茶をする事になんら意味はない!!』

( ;^ω^)『……お?』

そこで青年は姉の瞳を見た。
柔らかく垂れた緑色の宝石が、爛々たる輝きを放っている。
ヴィップとの戦いの中で幾度も見せた、その輝きが意味する物はつまり……

川#゚ -゚)『ホライゾンよ。私は怒っている。血を滾らせているのはお前だけではない』

つまり、怒り。感情を表に出さぬ彼女の内面で、炎が荒れ狂っているのだ。

川#゚ -゚)『先の戦いで、我らは多くの同胞を失った。だが、その全てが誇りある死を迎えたと私は信じている』

そこでクーは言葉を区切った。
握られた拳に力が篭もる。

川#゚ -゚)『しかし!! この戦いの影に、我らをあざ笑う者がいるとしたら!! 私はそれを許さない!!
     そして、今ツン=デレが戦っている者こそ、全ての黒幕!!
     ならば、ツン=デレだけに任せておけん!! この【無限陣】ニイト=クールがその罪を裁く!!』



29: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:47:05.03 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪#゚ー゚)『何度も説明いたしましたが。クー様は感情で全てを決めすぎます。
     この度の戦、その軽率な行動が多くの戦士を死に追いやった事をもう少し理解なさるべきです』

川;゚ -゚)『いや……でも、お前が傷つけられたと知って……それどころでは無かったし……』

爪#゚ー゚)『問答無用!! 王たる者が臣下の負傷に一々と気を荒げてどうするのです!?
     あの時、クー様は兵を宥めるのを優先せねばならぬ事だった筈でしょう!!』

寝台に身体を起こした格好の臣下の声に、先程までの威勢はどこへやら。
クーは身をちぢこませた。
ニイトが誇る文士は、きっちりと着込んだ寝巻きの下に包帯を巻きつけている物の、顔の色艶は悪くはない。
むしろ、溜まりに溜まっていた睡眠不足をこの機に解消した様でもある。
寝台の上には、所狭しと様々な書類が散乱していた。

川;゚ -゚)『しかしだな、ヴィップとの戦いは国を護る為の誇りある戦であり……』

爪#゚ー゚)『誇りだけでは国は成り立ちません!!
     国を護る事を考えるなら、私の死体など踏みにじってでも民をお護り下さい!!』

レーゼとて、クーが傷ついた彼女の為に怒りを顕わにした事が嬉しくない訳ではない。
多くの兵が、剣を振り上げた心に感動を覚えなかった訳ではない。
が、それ以上に多くの者が傷つき倒れた事に胸が痛む。
憤った兵を止めず戦に走った主の弱さを悲しく思う。

爪#゚ー゚)『将に5つの危険あり。クー様でしたらご存じない筈はないでしょう?』

川;゚ -゚)『……う』



34: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:51:02.52 ID:+aJHF24O0
孫子兵法の最も多くな特色の一つが、両面思考ではないだろうか?
“利”と“害”。“長”と“短”。一つの事項を相反する視点から論じ、そのバランスを重視する。
五危。つまり、“将に5つの危険あり”とは、指揮官の持つ5つの美徳が害悪に変わる危険性を説いた言葉だ。

まず、必死。勇敢すぎる者。
彼は己の役割も忘れて突撃し、孤立して死ぬだろう。
必生。慎重すぎる者。
勝機にも積極的に行動できず、最後は囲まれて捕虜となるだろう。
ふん速。敵愾心が強すぎる者。
敵を憎む心から冷静さを保てず、軍を簡単に危険に晒してしまうだろう。
廉潔。誇りが高すぎる者。
名誉を重視するあまり、それを傷つけられた時状況を無視して戦うだろう。
最後に、愛民。民を愛しすぎる者。
民を思うが故冷酷に扱う事が出来ず、苦戦するだろう。

これが五危である。
レーゼにとってクーは理想的な主だ。
勇敢でありながら、雌伏する事が出来、誇り高く、民を愛する。
しかしながら、ヴィップとの戦ではその美徳の多くが裏目に出てしまった。
それだけは強く諌めなければならない。

爪ii- -)『全く……にもかかわらず、次は遠征ですって? 今回の戦でどれだけ支出があったと思っているのです?』

川;゚ -゚)『う……すまない』

反論の一つも声に出せぬ主を前に、レーゼは髪をかき上げる。
『最悪ね……もう……』と呟いて、口を開いた。


爪ii- -)『兵は1000。兵糧は30日分。これが限界です』



39: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:53:56.40 ID:+aJHF24O0
川;゚ -゚)『良いのか、レーゼ!!』

爪゚ー゚)『勘違いをしないでくださいね、御二方。これはニイトの未来を思えばこそ、です』

すでに諦めかけていたのだろう。
レーゼの言葉に、クーはパチクリと垂れた瞳をまばたかせる。

爪゚ー゚)『戦を完全に終わらせ、踏みにじられた会談を開き、ヴィップとの和解を。
    彼の国との和睦は我が国に大きな利益を生む、と考えての事です』

川;゚ -゚)『……だが……ヴィップには父の仇がいるのだぞ。
     あの時はホライゾンに押し流されてしまったが……私は射手を許す事は出来ない』

爪゚ー゚)『私もあの時一度故国を失った身ですから、クー様の気持ちは分かるつもりです。
    でも、なにも射手を許せと言っているのではありません。ヴィップと言う国と和解して頂きたいのです』

年下にもかかわらず、主を諌めるレーゼは年長者のように映る。
それでも難を示すクーの姿に、レーゼは半分だけ幸せを逃がすような溜息をついた。

爪゚−゚)『これは私の妄想かもしれませんがお聞き下さい。私には、この戦を覆う闇が今だけの物とは思えない。
    父やモララー様さえ欺き、ニイトを奇襲したハインリッヒ。その影にも今日と同じ冷たさを感じるのです。
    それに……』

( ;^ω^)『お?』

言ってレーゼは、寒さから身を護るように己の両肩を抱きしめる。

爪ii- -)『それに私はヴィップとの会談の準備を進めていた時、射手に襲われたのではありません。
     私が見たのは、炎に包まれるヴィップの使者の姿。
     それと……笑われるかと思いますが……九本の尾を持つ巨大な獣の影でした……』



41: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 20:58:12.76 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

|(●),  、(●)、|『騎兵1000、歩兵4000……と言うところですか。我が軍の3倍ですね』

( ̄‥ ̄)『えぇ。敵軍の所属も未だ不明のままのようです』

【獅子の都】と今もなおうたわれる、ヴィップが首都ヴィップ城。
その城壁の上で二人の騎士が眼前に広がる敵陣を見下ろしていた。
一人は異常なほど巨大な頭を持つ男、【第六天魔王】ダディ。
もう一人はその副官、フンボルトである。

眼下で風車型に隊列を敷く者達。
彼らは唐突に現れた。
常に戦中に身を置き続けてきた、自由騎士と呼ばれる彼らだからこそ、咄嗟の籠城に成功したのだ。

|(●),  、(●)、|『フィレンクト殿からの返信は?』

( ̄‥ ̄)『先程、矢文が。精鋭500を率いてこちらに向かわれる、との事。
     なお、メンヘルに動きは無かったそうです』

|(●),  、(●)、|『ならば、リーマンかモテナイが……いや、それは考えづらいですね』

言って己の禿頭をペシッと叩いた。
もし、リーマンやモテナイが動いたとすれば、それはニイト国内にある本隊に逸早く知られる筈だ。
逆を言えば、ツン達に知られる事なく動いたとすれば、二国の侵入の線は限りなく薄くなる。

|(●),  、(●)、|『そう言えば、フンボルト。先日捕らえた捕虜はどうなりました?』



46: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:04:18.66 ID:+aJHF24O0
( ̄‥ ̄)『……あれは気狂いです。得られる情報は無いと思って下さい』

アルキュと言う一つの島を自由に駆け巡る自由騎士達。
ヴィップ国内で、その彼らが誰よりも得意としたのが捕虜への尋問。更に言えば拷問である。
独自のルールを持つ自由騎士達の文化内において、刑罰の類もまた中央とは異なった形で進化していったのは当然と言うべきで。
その過酷さもまた“お坊ちゃんお嬢ちゃん”のそれとは比較になる物ではない。

( ̄‥ ̄)『爪を剥がし、傷口に針を突き立てましたが、顔色一つ変えません。
     それどころか、隙を見て私に噛みかかってまいりましたので、先程歯を全部引き抜いたところです』

言って、フンボルトは左腕の袖を捲って見せた。腕にくっきりと歯型がつけられている。

|(●),  、(●)、|『“爪針”は私でも快楽どころか痛みしか感じないというのに……。
          おそらくは痛覚、もしくは感情もないのでしょうね。勿体無い事です』

だが、それも覚悟の上。戦の中で“彼ら”を見ていれば分かる事だった。

|(●),  、(●)、|『ところで。陛下達はもうこちらに向かっているのでしたね?』

( ̄‥ ̄)『はい。ですが、負傷者も多く兵も疲れております。戦力的にはかなり厳しいかと』

|(●),  、(●)、|『そうですね……。ここは我ら【戦鍋団】の力の見せ所でしょう。
          陛下には我らを信じ、兵の回復を兼ねながら帰還していただくよう。夜を待って使者を送りなさい』

ダディは再び敵陣に目を向けた。
そこでは、ガラス玉のような目をした兵達が彼を見上げている。
たとえツン=デレが帰還したとしても“彼ら”を一息に駆逐するのは難しいだろう。
そう。
表情一つ変えず人を切り、声すら漏らさず切り殺されていく。
あの、人形のような兵士達を相手にしては。



49: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:08:03.65 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

川 ゚ -゚)『一見して遠回りに思えるかも知れんがな。我らが勝利を掴むにはこれが最短の道なのだ』

( ;^ω^)『……分かっているつもりだお』

ヴィップ城にて【戦鍋団】ダディとフンボルトが謎の一団を見下ろしていた頃。
ニイト軍騎兵1000は“迷いの森”南方からではなく、
北部の浮島地帯からヴィップを目指し、進軍していた。

東部よりそれぞれ、フェルネット島。ウゾ島。パスティス島。
大小3つの島を繋ぐのは、風に心もとなく揺れる吊り橋のみ。
二頭並べた馬の背に括りつけた輿の上で、クーは何度目になろうかという台詞を、弟に向けていた。

川 ゚ -゚)『確かに、本島から進めばこの道を行くより2日は早くヴィップに辿り着くだろう。
     が、我らに許された時間は少なく、最小限の犠牲で最大限の戦果をあげねばならない。
     それには、この策しかないのだ』

( ;^ω^)『……はい、ですお』

ヴィップとの戦の中で、青年はクーによる軍神さながらの戦略をこれでもかと目にしている。
敗れたと見せかけてジョルジュやしぃを前線で足止めさせ、伏兵を使って本陣からギコを引き離した。
本来であれば後軍の援護も務めていたであろう将を引き剥がしたところで、第二の伏兵による糧秣部隊への奇襲。
慌てふためき手薄になったツンの元へ、真の切り札・第三の伏兵。

( ;^ω^)『あの……姉様。もし、あの時最後尾にいたのがミセリじゃなくて他の人達だったら……?』

川 ゚ -゚)『何も変わらんよ。二枚目の伏兵は、糧秣を焼き払うのが目的でなく
     最後尾が襲われたという事で本陣を混乱させるのが目的だからな。
     兵糧などと言う物は出来るなら奪った方が良い。焼けば炭しか残らんが、奪えば金になる』



53: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:11:53.69 ID:+aJHF24O0
だから、青年は姉の知略に全般の信頼を置いている。
クーが言うのは、こうだ。
たかが1000そこらの軍がヴィップ軍と合流したとしても、地の利を奪われてしまえば勝機は薄い。
ならば、ありえぬ場所から奇襲をかける。
北部からヴィップ国内に上陸すれば、敵軍の側面。もしくは背後を突けるだろう。
そうする事で、城内からの援護とヴィップ本隊との連携を絡めた包囲作戦が可能となる。
首都を攻められた事でヴィップ領内の2つの島が手薄な今だからこそ、可能な進軍といえた。

川 ゚ -゚)『うむ、この辺で良いだろう。行軍停止せよ』

( ^ω^)『お?』

しばらくして。
クーは全軍に停止を命じた。
陽はちょうど空の頂点にあり、兵士達が石を組んで竈を作り始める。

川 ゚ -゚)『ホライゾン。少しばかりつきあってくれ』

言うと、クーは兵に命じて輿を馬から下ろさせた。
そのまま、側に用意された四輪車に乗り換える。

川 ゚ -゚)『買い物と……な。お前に会わせたい者がいる。
     北に四半刻(約30分)ほど進むとな、煉瓦造りの家が見えて来る筈だ。
     そこまで行ってくれ』

蜜をたっぷり入れた檸檬水と、炙った牛肉を挟んだ“包”を籠に詰めさせた。
ついでとばかりに、隙間には干した林檎を押し込む。

川 ゚ー゚)『それでは行こうか。少々行儀が悪いが、食事は歩きながらになるな。
     そら、押してくれホライゾン。道中は姉が飯を口に運んでやろう』



56: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:16:15.19 ID:+aJHF24O0
そうは言っても、両手で四輪車を押しながら物を咀嚼する、と言うのは容易い物ではない。
事あるごとに『花が綺麗だ』『北は風が冷たい』などと話しかけられたのでは、なおさらである。
それでも、道中を半分も過ぎる頃には籠の中はすっかり空になっていた。

川 ゚ -゚)『なんだ。もう無くなってしまった。もっと詰めさせるべきだったかな』

( ^ω^)。oO(ほとんど姉様が食べてましたお)

揃えた膝の上でからっぽになった籠を悲しそうに見つめる姉に、心の中で抗議する。

( ^ω^)『そういえば、姉様。こんな所で買い物って……?』

どこからか取り出した竹とんぼを、風にあてて遊び出した姉に尋ねた。
彼らの現在地、フェルネット島はニイト領内で最も辺鄙な地だ。風が強く、草木も育ちにくい為、羊飼いすら姿が無い。
そもそも、買い物ならば“商業都市”ニイトで手に入らぬ物の方が少なく、わざわざこのような地で求めずとも良い筈であった。

川 ゚ー゚)『うむ。ここでしか手に入らぬ物を扱っている商人が、老人の所にいるのさ。
     元はラウンジの貴族だが、今はアルキュで商人をしている。変わり者だよ』

( ;^ω^)『……はぁ』

ヴィップに負けず劣らず癖の強いニイトの者達。
あのレーゼとて、金銭の話になると目の色が変わるのだから常識人とは言いがたい。
青年には、むしろ自分が一番の常識人ではないかとすら思える。

川 ゚ -゚)『名前をハルトシュラーと言う。その商品は、目には見えぬが戦や商売には欠かせない物でな。何だか分かるか?』

言って、クーはいたずらっぽく笑った。

川 ゚ー゚)『つまり、情報だよ。ハルトシュラー……ハルはこのアルキュで一番の情報屋なんだ』



60: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:21:38.55 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

( ;^ω^)『……なんだこれ』

青年は思わず、我が目を疑った。
やがて、姉の言うとおり二人は煉瓦造りの平屋に辿り着いたのだが……問題はその後である。
一人の女が、四輪車に腰を下ろすクーの膝に横座りになり、首に細い腕を回しているのだ。

長い髪は宝石を織り込んだ白金の色。
青い瞳は意志の強さを示すようにやや上向きで。
踝まで隠れるような黒いゴシック調の服が、柔らかく風に揺れている。
それを見て、青年はハインがいつだったか自分の給士服はラウンジで着用されている物だと教えてくれたのを思い出した。

jハ*゚ー゚ル『もう……クーったら全然会いに来てくれないんだもの。相変わらず冷たいのね』 

川 ゚ー゚)『そう言うな。これでも多忙なんだ。ハルも相変わらず(気持ち悪いの)だな』

思わず周囲に白百合の花でも飾りたくなる光景だが、どう見ても姉の顔は引き攣っている。

川 ゚ー゚)『ところで、ハル。今日は弟も一緒なのだが……』

jハ*゚ー゚ル『え?』

そこでようやく、半歩離れた位置に立つ青年に目を向けた彼女は、その顔に聖母を思わせる笑みを浮かべて。

jハ*゚ー゚ル『私は貴方様を存じていますが、無知蒙昧な貴方様は私を存じないでしょうね、ホライゾン様。
      私はハルトシュラー。一部では【祝福の鐘】と呼ばれております。
      一回死んで可愛い女の子に生まれ変わりましたら、是非親しくして頂きたいと思いますわ』

(#^ω^)。oO(女の人を本気で殴りたいと思ったのは初めてだお)



61: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:23:57.92 ID:+aJHF24O0
???『ハルや。ひょっとしてクー様が来ておられるのかい?』

と、その時。平屋の扉が開いて一人の老人が姿を現した。
肩にかかる髪も、口元を覆う髭も白。
腰の曲がった身体を杖で支えている。
それでも日に焼けた肌は、この老人が未だ健在である事を証明していた。

川 ゚ -゚)『うむ、久しいなラーゼよ。たまには宮殿に顔を出せ。2人も寂しがっているぞ』

爪 ゚Д゚)『はは……この老いぼれに嬉しい御言葉を。だがしかし、今のニイトにじじいめは不要にございますれb』

(;^ω^)『ラーゼ!?』

老人の声と、青年の声が重なった。
諸兄らの中にも、この者の名を記憶している者は多いだろう。
青年もまた、この老人を知っている。
姉の語った悲劇の中に登場した父の副官の名を、覚えている。

爪 ゚Д゚)『……?』

怪訝そうな顔をしていた老人であったが、やがて青年の正体に気付いたのか、ハッと目を見開く。
その手の中から杖がこぼれ、地に転がった。

爪 ;Д;)『まさか……ホライゾン様?』

瞳から溢れ出した涙が、皺だらけの顔を濡らしていく。
膝から崩れそうになったのを、クーの膝から飛び降りたハルが支えた。

川 ゚ー゚)『あぁ、そうだ。ホライゾンがニイトに帰ってきたぞ、ラーゼよ。
     話したい事も多いだろう。が、まずは家の中に入れてくれないか?』



64: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:26:48.20 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪 ゚Д゚)『……私は薄汚い裏切り者なのです』

川 ゚ -゚)『まだそんな事を言っているのか』

小屋の中に入ってから。老人は、ブーンの両足に縋りつくようにして泣いた。
困ったような表情の青年が過去の記憶を失っているとクーから聞かされ、また酷く泣いた。
結局、四人が卓につくまでには、ハルが茶をたっぷり2杯飲み終えるまでの時間を必要としたのである。

( ^ω^)『? お茶が紅いお?』

jハ*゚ー゚ル『茶葉を醗酵させるとこのような色になります。ラウンジではこれが好まれるのですよ。
      無知なホライゾン様はご存じないかもしれませんけれども』

言って、ハルは乳と蜜をたっぷり流し込んだ茶を、クーの前にそっと置いた。
仄かに浮かべた笑みさえ、上層階級の暮らしを描いた絵画の中の人物のようだ。
続けて彼女は、ブーンの前に素焼きの大碗を無造作に置く。その表面はうっすらとひび割れていて。

jハ*゚ー゚ル『はい、お水』

(#^ω^)。oO(この女……逆さに吊るしてぇ)

見れば、平屋の主であるはずのラーゼの前にも、縁の欠けた碗が置かれている。
つまり、ハルトシュラーと言う人物はそのような人物なのだろう。
あまり深く付き合いたくないタイプだと思った青年は、早々に話題を切り替えた。

( ^ω^)『そう言えば、ラーゼさん。さっきの裏切り者って一体……?』



67: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:29:32.95 ID:+aJHF24O0
川 ゚ -゚)『ラーゼは多くの命を救い、このニイトの命を繋ぎ止めた英雄なのだ!!』

老人より早く口を開いたのはクーだった。
それとほぼ同時にハルの踵が青年の足を砕かんとばかりに踏みつける。

(#^ω^)『なにするんだお!?』

jハ*゚ー゚ル『空気をお読みください、お馬鹿さん。
      ラーゼ様はモララー様亡き後、残兵を率いて評議会に降伏なさいました。
      その後、ニイトの民からどの程冷たくあしらわれようと、ひたすらに評議会の手先として行動なされたのです。
      今のニイトがあるのも、当時のラーゼ様が己を捨てて評議会に従属してきたからですのよ?
      そもそも……』

更に畳みかけようとする女を、老人が遮った。

爪 ゚Д゚)『それでも、老いぼれがニイトの民を裏切った事に変わりはないさ。
      あの頃のニイトはモララー様の仇を討たんとする者が後を断たなかった。
      彼らを片っ端から討伐してきたのは、このわしであるのは事実ですからな』

川 ゚ -゚)『しかし、だからこそ評議会が最後の最後でニイトを滅ぼせなかったのも事実だ。
     もし、ラーゼまでもが自棄的に評議会に剣を向けていたら、
     わが師スカルチノフとは言え評議会を止められなかったであろうからな』

そこでクーは、この話は終わり、とばかりに茶を一口啜った。

川 ゚ -゚)『それより、本題に移りたい。
     ここに来た理由は二人とも分かっているだろう?』

それを聞いて、老人は深く頷いた。座から立ち上がり、平屋の奥に消えていく。
白金色の髪を持つ女もまた、妖しげな笑みを浮かべ立ち上がった。



69: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:32:28.40 ID:+aJHF24O0
jハ*゚ー゚ル『はい。私はクーが何を求めているのか、存じておりますわ』

卓の上に身を乗り出し、対面に座るクーと鼻と鼻の先が接触する寸前まで顔を近づけた。
甘い吐息が黒髪の王の鼻先をくすぐる。

jハ*゚ー゚ル『情報料は私と一つの夜を共にする事。よろしいですわね?』

川 ゚ー゚)『寝台でなく酒宴の席でならいくらでも。それと顔が近い(気持ち悪い)』

jハ*゚ー゚ル『分かったわ。酔い潰れた後の事は保証いたしませんけれど』

言って、ハルは身体を翻し、卓上に座り込んで足を組んだ。
上半身を捻り、挑発するようにクーの細いあごを指先で持ち上げる。

jハ*゚ー゚ル『まず、ヴィップに侵攻している兵の正体だけれど。
      リーマンやメンヘル。モテナイや海の民まで探ったけど、動いた形跡はないわ。
      それどころか、ヴィップが攻められている事実すらまだ伝わっていないのではないかしら
      侵攻経路は……ヴィップ城の北西に、人売りが使っていた廃砦があるでしょう? そこから船で上陸したみたいね』

川 ゚ -゚)『それでは、もしやラウンジか神聖ピンクが動いたのか?』

jハ*゚ー゚ル『それはないわね。ここ数年で私が出港を把握できていない船なんか存在しないわ。
      むしろ、大地の裂け目あたりに潜んでいたと考える方が自然ね』

川 ゚ -゚)『……なるほど。黒幕に相応しいな』

呟き、あごに添えられた指を軽く払ってから、クーは茶を啜る。
老人が両手で巨大な木箱を抱えて来たのは、その時である。

爪 ゚Д゚)『お待たせいたしました、ホライゾン様』



72: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:35:34.17 ID:+aJHF24O0
( ;^ω^)『え? 僕ですかお?』

爪 ゚Д゚)『はい。クー様がホランゾン様が帰還されるまで老いぼれに託された物です』

言いながら、木箱を卓に置いた。
その時にはハルは座に腰を下ろしている。

川 ゚ -゚)『……この足でそれは扱えぬからな。それに、それは私よりホライゾンにこそ相応しい』

( ;^ω^)『……』

促されるように、青年は木箱の前に立った。
古びているが、よほど大切に保管されていた物のようで、埃一つついていない。
赤い絹で織られた紐を解き、ゆっくりと蓋を開ける。

( ;^ω^)『……これって、もしかして』

現れたのは、あまりに巨大な両手剣であった。
鞘は見当たらず、二等辺三角形の刃がむき出しになっている。
色は海のように青く、金竜を模した唐草飾りが巻きつけられ。
子供の胴ほどの幅広の刃の付け根から垂直に、補助柄が備え付けられていた。

川 ゚ -゚)『……そうだ。これこそ、ニイトの至宝とも言える聖剣』

かつて、神話の国で湖の妖精から父が与えられた神器。
持ち主に勝利を約束する聖なる刃。
そう。
これこそが……。

川 ゚ -゚)『父モララーがお前に残した形見。━━━━━勝利の剣、だ』



75: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:38:24.81 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪 ゚Д゚)『クー様。こちらもお持ちください』

一刻(約2時間)ほど昔話に花を咲かせた姉弟が場を辞そうとした時。
老人が一振りの片手剣をクーに差し出した。
それを見た、黒髪の王の目が大きく見開かれる。

川;゚ -゚)『でも、ラーゼ……これは……』

爪 ゚Д゚)『西方の焔。勝利の剣とは由来を異にする王者の剣です。必ずやクー様をお護りするでしょう』

受け取り、鞘から引き抜いた。陽光を受けた刃に、荒々しい炎の煌きが輝く。

爪 ゚Д゚)『それと。ハルも御連れ下さい。この子は役に立つ娘です』

( ;^ω^)『げ』

青年は思わず声を漏らしていた。
が、すでに【祝福の鐘】を名乗る情報屋は戦支度を整えている。

川 ゚ー゚)『世話になったな、ラーゼ。宮殿にも顔を出せよ。
     お前を裏切り者と呼ぶ者など、今のニイトには一人としていないのだからな』

爪 ゚Д゚)『……ありがたき御言葉。しかし、この老いぼれにニイトまでの旅路は少々きつい。
     精々、いつか再会する日を気長に待つといたしましょう』

そうして、クーの乗る四輪車の押し手を奪い合うようにしながら三人は最北の平屋を後にする。
老人は、その姿が見えなくなるまでずっとそれを見ていた。
かつて見届けられなかった友の最後の姿を思い浮かべながら、ずっとずっと見ていた。



79: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:40:42.92 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

爪 ゚Д゚)『……ふぅ』

軽く溜息をついて、老人は扉をくぐった。
久々に楽しい時間を過ごせた気がする。

卓に置きっ放しになっていた碗を、汲み置きの水で洗い流した。
丁寧に布で水気を拭き取ってやり、ついでに卓上も綺麗に拭ってやる。
碗を棚に並べ、布を洗おうとして苦笑した。
ポイ、とゴミ入れに放り投げる。汚れた水は全て庭に流した。

爪 ゚Д゚)『モララー。全部終わったよ』

厨房に置かれていた油壺を片手に自室に戻った老人は、まず火打石でランプに火をつける。
壺を倒して木床を油びたしにし、寝台横の小物入れから一振りの小刀を取り出した。

鞘抜くと、手入れを欠かした事のない刃に皺だらけの顔が映る。
その輝きに、在りし日の思い出が映り出る。

爪 ゚Д゚)『……遅くなってしまったな、我が友よ。
     だが、これでようやくお前の所に行ける』

呟くと同時に、ランプを床に倒した。
一瞬で包まれた炎の中、老人は静かに笑みを浮かべる。

爪 ゚Д゚)『我らの子に、祝福あれ』

小刀の刃先を、己の喉に押し当てた。
そして、一息に━━━━━



84: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:44:40.84 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

( ,,゚Д゚)『こんな進軍速度で良いのか? 
      このままじゃ到着した時にはお家がありません、なんて事に成りかねぇぞゴルァ』

一方その頃。
ツン=デレ率いるヴィップ軍本隊5000は、ニイト国境沿いに陣を構えていた。
数の上では謎の軍隊と互角だが、その多くは負傷者であり、戦える者は3000と言ったところであろう。
そして、その全てが度重なる戦いに疲れ果てていた。

(´・ω・`)『……全速で進めば3日後には敵軍と交戦になるだろう。
     けど、僕達には勝ちきるだけの地力は残っていないのが現実だ』

ξ--)ξ『……』

左右に並んだ将官を前に、【金獅子王】ツン=デレの眉間には深い皺が寄せられている。
このままでは生涯消えなくなるのではないだろうか、と思うほどだ。

戦争とは、基本的に地の利を得られる守り手に有利な物。
出来れば、歴戦の猛者である【戦鍋団】に戦力が整うまでの時間を稼いで欲しかった。
そして、それは要害たるヴィップ城にて守備に徹すれば不可能ではないだろう。
が、それでもやはり心は急ぐ。

ξ゚听)ξ『あと2日だけ……兵を休ませましょう。その後、フィレンクト将軍と連携して敵軍を討ちます』

それが、今できる最大限の譲歩だった。
軍議は解散となり、戦士達は苦虫を口一杯にほうばったような顔で幕舎を後にしようとする。
しかし、その時ツンが座を立ち上がり、その背中を呼び止めた。

ξ;゚听)ξ『……あの!! ナイトウは……何か知らせは……』



86: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:47:33.54 ID:+aJHF24O0
ξ;゚听)ξ『あ……』

(*゚ー゚)『……』

そこで彼女は、自分が場違いな問いを発したか気づいたのだろう。
脱力したように座に腰を落とし、数秒うつむいた後で。

ξ^ー^)ξ『ごめんなさい。何でもないわ』

笑った。
ギコや【戦鍋団】など新参の将兵を除いて、ツンの銀髪の青年に向ける想いを知らぬ者は、ヴィップには存在しない。
立ち並ぶ剣の墓標。
その中に新たに加わった一振りの短剣。
泥濘に身を沈めるようにして涙を流す、黄金の王。
その姿を知らぬ者などいない。

( ゚∀゚)『……』

ニイトとの戦において、ヴィップ軍中に走った最も大きな衝撃こそ、青年の生還であったと言わざるを得ない。
誰もがその謎に心を乱し、それでも口に出せずにいたのだ。
ここに来て、ツンが思わず声にしたとしても、誰がそれを責める事などできようか。

ξ^ー^)ξ『少し疲れたみたいね。アタシは大丈夫。みんなも少しでも身体を休めてちょうだい』

黒衣の給士や白眉の戦略家は何も語らず、彼らがその答えを知っている事に気づいている者も、ただ一人を除いて存在しない。

( ゚∀゚)『……』

そして、そのただ一人の例外は。
心の中、一つの決意を固めていた。



89: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:49:39.02 ID:+aJHF24O0
その日の夜。
【急先鋒】ジョルジュは一人陣を抜け出していた。
愛馬は陣中に残し、死神の代名詞たる大鎌も手にしていない。
適当な岩に腰を下ろし、夜空を見上げた。
上空は風が強いのか、雲が止まる事無く流されていく。
月はその影にあって、彼を照らす事はなかった。

( ゚∀゚)『……』

大鎌の代わりというわけではないだろうが、その右手には酒を入れた竹筒が持たれている。
栓を引き抜き、中身を一口だけ流し込んだ。

???『こんな夜分に……何の用だい?』

( ゚∀゚)『……分かってるだろ? 白々しいのは嫌われるぜ』

振り返らずに答えたのは、その男がここに来る事を知っていたからだろう。
男は小さく溜息をつき、歩を進める。
ジョルジュの正面。指で示された岩に腰を下ろした。
風で流された雲の隙間から月が顔を出し、その顔を照らし出す。








(´・ω・`)『……分かっているけど、性分でね。
     それじゃ、注文を聞こうか』



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