( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

92: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:51:53.09 ID:+aJHF24O0
( ゚∀゚)『単刀直入にいくぜ。何故ナイトウが生きている……なんてのは野暮、か。
      ナイトウを生かしたのは。いや、死んだ風に見せかけていたのはお前だな?』

(´・ω・`)『……そうだ。いつだったか陛下が自害を図った時の薬を使い、仮死状態になってもらった。
     それから、墓をあばきナイトウ君……いや、今はブーンと名乗っているけどね……を城外に逃がしたんだ。
     その後、僕は陛下を影から支える独立部隊を。【白衣白面】を組織した』

そこまで話して、ショボンは口を止めた。
義兄が軽く頷いたのを合図に話を再開する。

(´・ω・`)『僕だって陛下のブーンに対する気持ちに気付いていなかった訳じゃない。
     全てが終わったら……責任を取るつもりでいたよ。随分と早まりそうだけどね』

“全ての終わり”。
それはおそらく、全ての戦いが終わって平和が訪れたら……と言う意味ではないのだろう。
それはきっと、ショボンが胸に秘めた戦いが終わる日の事だ。

( ゚∀゚)『……何を企んでいやがる!?』

思わず語気が強まった。
ショボンはそれを正面から受け止める。

(´・ω・`)『それには答えられない。でも、一つだけ教えよう。我が父は君の師だったね?』

( ゚∀゚)『あぁ。将としての戦い方を教えてくれたのはフィレンクト先生だが、
     剣を教えてくれたのはシャキン元帥だ。それが一体……』

それを聞いて、ショボンは少しだけ泣きそうな顔になった。それでも、言葉を紡ぐ。

(´・ω・`)『うん。それが、もし━━━━━』



96: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:55:06.20 ID:+aJHF24O0
(;゚∀゚)『そんな……馬鹿な……』

無敵の文字を背に背負った男の頬に、一筋の汗が流れた。
ひどく寒く感じる。
風に揺れる草ずれの音も、どこかで鳴いている虫の声もその耳には入らなかった。

(´・ω・`)『事実さ。本当ならば僕はヴィップにいてはいけない人間なんだ』

言ってショボンは手元に生える雑草を一本引き抜いた。
指を放すと、風に流される事を拒むように暴れながら、飛ばされていく。

(;゚∀゚)『何故……そんな事を……?』

(´・ω・`)『それは分からない。他に手を貸した者もいるし、その正体も知っている。
     でも、父がその陰謀に加担したのは確かなんだ。
     ここまで言えば……僕が何を考えているか。勘の良い君なら全てを悟っただろうね』

ショボンの言葉が事実であれば。
それは冷戦状態にあるこの島のパワーバランスを一気に狂わせる引き金となりうる物だ。
もし、公言されていればツンはヴィップ建国どころではなく。あの雑草と同じ運命を辿っていただろう。

(´・ω・`)『……勿論、この事実は“理由”であって“行動原理”じゃあない。
     しかし、僕はその目的の為に君達全員を欺き続けたんだ。
     今の僕は自業自得の生きた見本みたいな物さ。責任は取らないと……ごめんなさいしないといけないよね』

そこまで話して、ショボンは諦めきったような溜息をついた。

(´・ω・`)『所詮は罪に汚れた身体だ。これ以上名を落とす事に未練はない。
     それでも、ただでは終わらない。全てを終わらせてから……そう思っていた。
     残念ながら、それも叶いそうにないけどね』



100: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 21:57:48.40 ID:+aJHF24O0
(;゚∀゚)『馬鹿な!! お前はこんなにもヴィップの為に尽くしてきたじゃねぇか!!
     それに、陛下が親の罪を子に背負わせるとでも……』
     
(´・ω・`)『僕の行いは、結果的にニイトとの戦を早める一因になってしまった。
     その罪は裁かれなければいけない』

(;゚∀゚)『……』

ヴィップと言う国の司法の長として、自分が無茶な事を言っているのは承知していた。
国家の為に尽力したからといって、主を欺いて良い理由にはならない。
更に、それが他国への敵愾心を高める原因になったとすれば、もはや言い訳すら許されぬだろう。

ショボンは身動き一つ出来ずにいるジョルジュの手から竹筒を奪い取った。
一息に中身を胃に流し込む。
本来下戸な彼の事だから。喉を潤すと言う目的の為だけではない。
しかし、いくら飲んでも酔う事はないのだろう。悲しすぎる酒だった。

(´・ω・`)『先の内乱の際、ニイトに白面を送り込んだのも、もちろん僕だ。ニイト国内に混乱を起こし、ヴィップへの出兵をさせない為にね。
     そこでブーンは己の過去を取り戻したよ。記憶は失ったままみたいだけど』

(;゚∀゚)『ナイトウの過去……』

銀髪の青年ナイトウが過去の記憶を持たないでいた事は、ジョルジュの記憶にも残っている。
一字一句聞き漏らさぬよう、ジョルジュは義弟の言葉を待った。

(´・ω・`)『ブーンの本当の名前はニイト=ホライゾン。
     北の大地の大英雄モララーと王妹ペニサスを両親に持つ……もう一人の王位継承権所有者さ。
     この事は……陛下もクーから聞いていると思うけどね』

(;゚∀゚)『!! ……な』



103: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:00:51.89 ID:+aJHF24O0
(´・ω・`)『ブーンも辛かっただろうね。ヴィップとニイトの間に挟まれて動けなかった筈だ』

(;゚∀゚)『……それが、白面がニイトにいた理由か』

(´・ω・`)『うん。話が話だ。陛下も簡単には言い出せなかったんだろう。
     彼は……ずっとヴィップを思ってくれていたんだと思う。
     少なくとも、エドワードを追っていたヒートが生きて帰れたのは彼のおかげだ。
     でも、僕の行動がヴィップの民衆の中に混乱を巻き起こしたのは事実だよ』

そこで話は終わり、とばかりにショボンが腰を上げた。
その背に向けて叫ぶ。

(;゚∀゚)『待てよ!! ニイトとの戦いの影には何者かがいる!!
     民心を煽ったのはおそらくそいつで……今、ヴィップを襲っているのも多分そいつだ!!
     それくらい分かってるんだろ!?』

( ´・ω)『勿論。しかし、それは言い訳にならない』

言ってショボンは陣に向けて歩き出した。
が、数歩進んだ所で、ふと思い出したかのように足を止める。

( ´・ω)『この戦いが終わったら……僕は陛下に死を賜るつもりだ。
     ニイトとの国交については、ブーンがうまくやってくれる事を祈ろう。
     全てが終わるまで……いや、全てが終わっても僕の事は陛下を欺いた裏切り者と言う事にしておいてくれ。
     それで人心はおさまる筈だ。
     クーや兄者は殆ど知っているだろうけど……彼らから口に出す事はないだろうね』

そして、ショボンは堪えるように空を見上げた。

(    )『最後に……こんな事を頼めるのは君しかいないんだ。ハインとヒートの事を宜しく頼む』



110: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:04:50.55 ID:+aJHF24O0
(  ∀ )『馬鹿野郎が……っ』

義弟の去った荒野に残されたジョルジュは、一人頭を抱え込んでいた。
やがて、岩に腰を下ろしていた体が、膝から崩れ落ちる。
自然、大地に丸まるような体勢になった。

最初はただ問い質し、罪を改めさせるつもりだった。
が、ショボンの口から聞かされたのはあまりに大きな真相で。
義弟が一人戦う理由。
かつて肩を並べ戦った友の正体。
そして、         の真相。

(  ∀ )『一人で抱え込みやがって……』

この時、ジョルジュはブーンがクーと共にヴィップに向かっている事を知らない。
いや、知っていたとしてもクーが全てを白日の下に晒すとは思えなかった。
何故なら、そこには利が存在しない。
それどころか、その行為はアルキュという島に大きな混迷をもたらす。
傷ついたヴィップやニイトがその大波に耐えられる筈もなく、多くの者が死ぬだろう。

人柱が必要なのだ。
黒幕の正体を知る者はなく、2つの国では互いの民が憎しみあっている。
いつかは捨てる覚悟だった命を、ショボンは今散らせようと考えているのだろう。

だから。ジョルジュにも全てを曝け出させる事は出来ない。

(  ∀ )『どうすりゃいいんだ……畜生……畜生…………
     畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』

夜空に向けて吼えた。だが、その問いに応える者は一人としていない……。



113: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:08:56.19 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

jハ*゚ー゚ル『何ですか、この汚らわしい生き物は?』

(#,^ ^)『サーセンwwwwwwwwwwwwww』

大きな障害もなく、フェルネット・ウゾ・パスティスの三島を抜け本島に再上陸した彼らを出迎えたのは、
先に出立したプギャー隊。それに、ヴィップ国内に残留していた【白衣白面】、併せて300の兵士だった。

川 ゚ -゚)『どうやら、まだ城は落ちていないようだな』

この先は南東に向けて進軍する。
緩やかな斜面は歩を進める点でありがたく、その上ヴィップを囲む湖の向こうに敵軍の陣形まで見て取る事が出来た。

(,,^ ^)『敵軍南方に向けて騎兵が500程……ありゃ、フィレンクト将軍の旗だな』

jハ*゚ー゚ル『西方からは黄金獅子の大旗……どうやら、最高のタイミングで到着したようですわね』

言いながら、ハルは黒絹を織った額あてで前髪を押さえ込んだ。
着用しているのは、左胸に鐘の紋章を彫りこんだ白金の胸当て。それと、手甲に具足であった。
【鉄の大国】ラウンジの出身だけあって、一目で良い材質の物だと分かる。
腰当ての背に挿した二本の鉄扇が、彼女の獲物なのだろう。

川 ゚ -゚)『それはどうかな……どうやら劣勢なのはヴィップ軍のようだぞ』

斬見殺を装着し、地に足をつけたクーが指差した。
確かに、西・南・東から包囲されている筈の謎の軍隊は陣列を一糸として乱さず。
ヴィップ軍の方が陣形を保つのに必死なように見える。
敵陣から放たれる矢を防ぐのに精一杯のようであった。



120: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:12:29.52 ID:+aJHF24O0
jハ*゚ー゚ル『疲労、だけと言うわけではないようですね。あの陣形は……風車陣でしょうか?』

川 ゚ -゚)『そのようだな。随分な骨董品を持ち出してきた物だ』

見れば、謎の軍は中央に500程の円陣を敷き、その周囲に1000ずつの方陣を構えている。
なるほど、確かに上空から見れば、ちょうど風車のような陣構えだった。

川 ゚ -゚)『車掛系陣列の一つだな。中央が司令塔となり、周囲の陣が回転するように移動する。
     何も考えずに突き進んできた者は、刃で作られた風車に飛び込む虫のように
     ズタズタに引き裂かれて生を終える』

jハ*゚ー゚ル『あぁやって移動しながら矢を放つ事によって、自分達に狙いは定めさせず攻撃する事も出来る。
     なかなか洗練された陣形ですわね』

(;,^ ^)『方陣を組んでやがるから、どの角度からでも敵軍を見渡せるっすねwwww』

直接刃に触れずとも、それが巻き起こす風に削られるよう、じわじわとヴィップ軍は陣列を乱していく。
それを見た青年は、思わず叫んでいた。

( ;^ω^)『姉様!! 何とか出来ないんですかお!?』








   _,,_
川 ゚ -゚)『あ?』



126: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:15:53.13 ID:+aJHF24O0
( ;^ω^)『ね……姉様?』

青年の声を耳にしたクーの顔が、明らかな不満を示した。
白金の髪をした情報屋が、心底嘲るような笑みを浮かべる。

jハ*゚ー゚ル『可哀相に……本当にお馬鹿さんですのね、ホライゾン様。
     クーはあの陣形を見て“骨董品”としか評していないのですわよ?』

川 ゚ -゚)『その通りだぞ、ホライゾン。お前も私の異名を知らぬ筈はあるまい?』

( ;^ω^)『え……? それは勿論……』

そう。
彼女こそは、このアルキュ島最高の戦術家。
無限を冠する異名を名乗る事を許された、唯一の者。
それで青年は、如何に自分が愚かしい問いを発したのか知るのだ。

川 ゚ -゚)『そうだ!! 我こそ、有をもって無限を成し、無限をもって全てを討つ者!!
     故に我が異名を【無限陣】!!
     遊兵多く、無駄な動きばかりの骨董品など、我が智が叩き割ってくれよう!!』

言って、クーは側に置かれた四輪車から一つの竹とんぼを取り出した。
ラーゼの元を訪れた際に遊んでいた、あの竹とんぼである。
そして、言う。

川 ゚ -゚)『風車陣も仕組みはこれと同じだ。竹とんぼを回らなくするにはどうすれば良いか……分かるな?』



133: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:19:28.73 ID:+aJHF24O0
(;,^ ^)『姐さんwwwwww見かけによらず大胆ッすねwwwwwwww』

クーが三人に告げた作戦の内容は、穏やかな顔つきから発せられたとは信じられぬ程、破天荒な物だった。

川 ゚ -゚)『なんだ、白面。このような作戦はお気に召さないか?』

(,,^ ^)『いえいえwwww大好物ッスwwwwサーセンwwww』

女性二人からの冷ややかな視線を受け、【鉄牛】は軽く後ずさる。

jハ*゚ー゚ル『クーの作戦には磨きぬかれた宝石のような美しさがありますわ?
     脳味噌が筋肉で出来ていると、美的感覚も損なわれるのかしら?』

川 ゚ -゚)『宝石かどうかは分からんが、現状ではこれ以外手段は無さそうだ
     本来、少数をして大軍に臨むは邪道であるし、戦意の低い兵を率いての連戦など無謀もいい所だ。
     が、ここまで来たからには贅沢は言っておれまい』

言って、クーはヴィップ城を囲む湖の先に、視線を送った。
そこには、謎の一団が。
おそらく、獅子と狼を影で煽り操った者達がいる。

( ^ω^)『……姉様は、どう動くんだお?』

愛しい弟からの問い掛けにも、クーの視線は動かない。

川 ゚ -゚)『……私は』

その瞳は敵陣を。
いや。
その彼方で風に揺れる、黄金獅子の大旗に注がれていた。



136: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:21:50.63 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

|(●),  、(●)、|『……この局面で見ている事しか出来ぬとは……好ましいプレイではありませんね』

城壁上から敵陣を見下ろしながら、【第六天魔王】ダディは音が鳴るほど歯を噛みしめた。
眼前では、自国本隊が敵軍の風車陣に苦戦を強いられている。
城門前に陣取る砦船から矢を放ってはいるのだが、距離を開けられている為に大きな成果は見られないようであった。

どのような局面でもそつなくこなす自由騎士達であるが、比較的苦手とするのが城に篭もっての防衛戦である。
本来、騎馬による戦を得意とする為、どうしても守備一辺倒の戦は好きになれない。
経験上、防衛戦も幾度となく戦ってきたが、それでもやはり野戦こそが最も持ち味を発揮できる場所であった。

鍋#゚Д゚)『親父!! こうなったら直接ぶん殴りに行こうぜ!!』

|(●),  、(●)、|『……そんな事が出来るはずないでしょう』

この戦いで最も恐れなければならないのは、ヴィップ城が陥落する事だ。
もし城門を開いて敵軍に押し込まれでもしたら、取り返しのつかない事態に陥る。
それだけは防がねばならない。
今は、ツン=デレがそうしたように、味方を信じて耐えるしかないのだ。

(; ̄‥ ̄)『ダディ!!』

|(●),  、(●)、|『? どうしました、フンボルト』

彼の副官が城壁に駆け上がって来たのは、そんな時である。
元より大きな鼻の穴を更に拡げている。

(; ̄‥ ̄)『北西の位置より新たに騎兵1000を確認!!
     あれは……あれは、ニイトの【白狼王】クーの大旗です!!』



140: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:24:26.67 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

jハ*゚ー゚ル『我らが王を信じなさい!! 狼の誇りを踏み躙った愚かさを刻み込んでやるのです!!』

【祝福の鐘】ハルトは、敵陣北面において厚みのある密集陣を敷いていた。
騎兵の強みを生かせぬ形になるが、今は機動力に頼る戦局ではない。
風車陣の刃をかすめる位置で、彼女はひたすらに耐えていた。

jハ*゚ー゚ル『恐れる事はありません!! 盾を掲げ、身を護りなさい!! 後列はありったけの矢を叩き込んでやるのです!!』

兵を鼓舞しながらも、彼女自身は最前列に立っている。
広げた鉄扇で迫る矢を払い落とし、閉じた鉄扇で敵兵を殴り倒した。

jハ*゚ー゚ル『っ!! しつこいですわよっ!!』

鉄扇で腕を折られた敵兵が表情一つ変えず立ち上がってくる。
瞬間、彼女の背後から繰り出された槍が男の喉を貫いていた。

jハ;*゚ー゚ル『活動不能にしない限り向かってくるワケ!? 全く、野蛮ったらないですわね!!』

振るった鉄扇が敵兵の脳天を叩き割る。

jハ#*゚ー゚ル『お馬鹿さんなだけじゃなく、愚図なのかしら!? 早くしてくださいまし!!』

思わず叫んでいた。
その罵倒の対象。
銀髪の青年は、すでに荒れ狂う風車の中に飛び込んでいる。



143: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:27:11.86 ID:+aJHF24O0
( ・ ・)『ファハハー!! あのお嬢さん、意外とやるじゃねぇか!!』

(,,^ ^)『wwwwwwwwwwwwwwwwwww』

背後からは降り注ぐ矢の雨。
目の前には表情一つ変えず振り下ろされる、敵兵の刃。
その中で、白面兵士達の笑い声が響きわたった。

クーが彼らに与えた命は一つである。
つまり、風車の軸たる中央への強行突破だ。
本来であれば自殺行為にしかならぬ愚策であろう。
が、ハルが外から風車の回転速度を弱める事で、少数の兵であれば飛び込む事が可能となる。
死兵である【白衣白面】だからこそ可能な暴挙であった。

( ・ ・)『それにしても、大将!! あんたの姉さん、顔に似合わずエグい事言いやがるな!!』

( ゚ ゚)『なんだお、ハートマン!! こんなのは嫌いかお!?』

( ・ ・)『馬鹿言ってんじゃねーよ!! 最高だぜ!!』

仮面の下からつぶらな瞳を覗かせた兵士が答える。
多くの白面兵士の例に漏れず、彼のハートマンと言う呼び名も両親から愛を込めてつけられた物ではない。
戦場で見殺しにした上官の名だ、と聞いたのはいつの事だったろうか?

(,,^ ^)『お喋りばっかりしてるんじゃないッすよwwwwサーセンwwwww』

振り抜いた“拐”が敵兵の脇腹を砕いた。
吹き飛ばされた身体が、数人を巻き添えにして転がっていく。



148: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:30:13.42 ID:+aJHF24O0
中央破壊を目的にしているとは言え、ただ我武者羅に突き進むのであれば、それは殺してくれと言っているような物だ。
敵の方陣が描く回転に逆らわぬよう、進む必要がある。
かと言って回転方向だけに身体を向ければ無防備な背中を晒す事になるし、
敵軍と距離を空けていれば射撃の的になるので、彼らは一つの方陣を切り崩しながら中央を目指していた。

( ・ ・)『ファハハー!! 良いぜ良いぜ!! だんだんと抵抗が激しくなってきやがる!!』

(,,^ ^)『ど真ん中を抜けるまでの楽しみっすけどねwwww』

ひし形に組まれた方陣は、中心地に近づくにつれて厚みを増す。
一人を倒しても、直後に次の顔が現れるわけだ。

( ゚ ゚)『これが風車陣……流石に厄介だお!!』

波状攻撃と回避運動を同時に可能とする車掛陣。
それに正面から飛び込むのは、兵法上において悪手でしかない。
鶴翼をもって包囲するか、複数の隊をもって攻撃と離脱を繰り返すか、が基本戦術となる。
本来は、持久戦。つまりは、疲労を待って攻めに移るのがスタンダードな対処法なのだ。
当然、クーもそれは十分に理解している。しかし、それでも敢えて悪手を選んだ。
何故か?

理由は2つ。
まず、包囲できるほど連れている兵がいない事。
そして、長期戦に耐えられる体力・精神力がヴィップ軍にない事、である。
本国に残った家族友人を救う為の戦いとは言え、ヴィップ軍の多くはニイトへの一時的な敵愾心から戦に参加した者達である。
芯のない戦意は、折れると脆い。

故にクーは綱渡りに等しい策に討って出たのだ。
そして、当然の如く彼女の策には“この先”がある。
彼らは微塵たりとも自分達の敗北を信じていなかった。



150: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:33:07.18 ID:+aJHF24O0
【白衣白面】はその一人一人が卓越した戦闘能力を持っていたと言われている。
が、その最も恐ろしい特徴は、徹底した集団戦法にあった。

つまり、一人に対して複数を持って襲い掛かるわけだ。
立ち止まれば一瞬で飲み込まれるであろう、兵の波の中でもそれは如何なく発揮された。
いや、乱戦に持ち込んだからこそ真価を見せ付けている、と言っても良い。
三者一組を基本とした白面隊は徐々に前進していく。
そして、その先頭には父の形見たる聖剣を手にした青年がいるのだ。

( ゚ ゚)『お? この剣……凄くいい感じだお』

軽く一振りしただけで、一人の敵兵が胴を両断され視界から消え去った。
両手剣の持ち味は重量に任せた必殺の一撃にあり、【勝利の剣】もそれは同様である。
が、多くの両手剣が“重量で叩き切る”のに対し、ブーンが手にする剣は研ぎ澄まされた切れ味も兼ね備えていた。

( ゚ ゚)『なるほど……これはこう使うのかお』

その理由が、刀身から垂直に伸びた補助柄にあり。
左手で補助柄を握る事で、一撃必殺を捨てる代わりに大剣ではありえぬようなコンパクトな動きも可能となる。
幅の広い刃は身を隠す盾の代わりにもなり、正に隣接戦闘において万能兵器であった。
何よりも、初めて手にしたとは思えぬほど、青年の手にしっくりと馴染む。
そして。

( ゚ ゚)。oO(あれ? もしかして、これなら……)

彼は、この大剣が与えてくれるもう一つの可能性に辿り着いた。



156: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:36:06.53 ID:+aJHF24O0
( ゚ ゚)『プギャー!! ハートマン!! 少しだけ、頼むお!!』

(,,^ ^)『うん。それ無理。嘘ッスwwwwwwwwwサーセンwwwwwwwwww』

叫んで青年は意識を内面に飛び込ませた。
瞬間、身体が燃え上がるような熱を放つ。

( ゚ ゚)『我は……猟犬なり』

声が漏れ出る。
限界解放ほどの力は必要なかった。
ほんの数歩、力を爆発させられるだけの気を練りあげる。
左胸にちくりと針を刺すような痛みが走ったが、気にならなかった。
そして。

(;,^ ^)『うおっ!?』

青年は、地を蹴った。
ほんの数歩の距離であったが、力任せに吹き飛ばすのではなく、敵兵の間を縫うようにして切り倒していく。

( ゚ ゚)『やっぱりだお!!』

野生動物の尾と同じ理屈である。
巨大な大剣を振るう事によって発生する慣性を利用すれば、本来直進移動しか出来ぬ瞬歩でも、
発動中の方向転換を可能と出来る。

圧倒的不利な状況下で【白衣白面】は善戦以上の働きをしてみせていた。
だが。



160: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:39:11.83 ID:+aJHF24O0
(;・ ・)『ファハハー!! 喰いすぎて腹いっぱいな気分だぜぇ!!』

(;,^ ^)『そろそろ楽しいのも限界が近いっすねwwww』

二人の声に僅かな焦りが混ざり出している。
どんなに身体を鍛えあげ、どれほど戦術を磨いたとしても、所詮は多勢に無勢である。
『少数をもって多数に当たるは邪道』という兵法の基本は、このような局地的部分でも当然生きてくるのだ。

(;・ ・)『クソッタレ!! ハリー隊が飲み込まれた!!
     自分達だけあの世でバカンスたぁご機嫌じゃねぇか!!』

【白衣白面】は死を恐れない。
贖罪の為に戦場に立つ彼らは、むしろ死に場所を求めている。
が、それと友を失うのは、次元の違いすぎる話である。

(#゚ ゚)『伏せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!』

補助柄を握って風車が如く回転させられた大剣が、周囲を取り囲む敵兵を切り払った。

( ゚ ゚)『姉様はきっと来る!! 頑張るんだお!!』

戦を前にクーが彼らに告げた命は一つ。
だが、為さねばならぬ事は2つあった。

一つが、“その時までに”出来る限り敵軍中央に近づいておく事。
もう一つが、クーが真の策を発動させ、戦場に加わるまで生き残る事。

彼らも元よりこの作戦だけで中央に入り込めるとは考えておらず。
この場にいない、黒髪の王こそが全ての鍵を握っていた。



167: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:41:45.28 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

ξ;゚听)ξ『ニイトの……狼の大旗ですって!?』

敵軍の攻撃が弱まると同時に飛び込んできた、一人の兵士。
その男からの報告を耳にしたツンは、思わず本陣を飛び出していた。
その先には、彼女よりいち早く戦いを見つめる主従の姿がある。

(´・ω・`)『……北の三島を抜けて来たのだろうね。驚かせてくれるよ。
     使者の一人くらい送ってくるのが常識だろうに』

从 ゚−从『……ご主人』

白眉の下に輝く、小さな瞳。主が今、何を考えているのかハインには痛いほど分かってしまった。
おそらく、己に残された時間でも計算しているのだろう。
それでも漂々とした口調を崩さない姿が、あまりにも悲しかった。

その背に寄り添うようにして生きてきたハインである。
赤く染まった掌を掴んでくれた。
その温もりを信じて生を選んだ。
だから、ショボンの考えは手に取るように分かる。

この戦いが終わったら。
ショボンは人柱となり死ぬつもりだろう。
支えるのは、ヴィップとニイトの未来だ。
両国が磐石の同盟を組む事によって、リーマンを。己の父を討つ道を作る。
それが、天才と謳われた戦略家の最後の策。

だが。ショボンのいない人生に何の意味があろうか。
ハインもまた、己の命を絶つ覚悟を静かに決めていた。



169: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:43:32.86 ID:+aJHF24O0
( ゚∀゚)『……へへ……こんな事ってあるのかよ』

【急先鋒】ジョルジュは思わず呟いていた。
沸々と燃え上がる高揚感に、身が震える。

翻る狼の大旗は、王たる者があるという証だ。
ならば、きっと彼もこの戦場のどこかにいる。

ショボンは命を捨てて2つの国の争いを終わらせるつもりだ。
きっと、それは義弟にしか出来ぬ事なのだろう。

だが。
もう一人、2つの国を繋ぎとめられる者がいる。
獅子と狼。
二人の王を護った男が、必ずやここにいる。

兵;゚Д゚)『お……おい、あれって……』

数人の兵士が、敵陣から離れた場所を駆けて来る騎士に気がついたのは、このような時である。
やや小柄という他、騎士に特徴はない。
なによりも彼らを驚かせたのは、騎士の身体にしがみ付いている者の存在だ。

その足では鐙を操れぬ為、このような登場になったのだろう。
赤銅色の義足が大いなる脅威であったのは、全ての者の記憶に新しかった。

やがて、騎馬はヴィップ陣中に声が届く位置で停止する。
騎士にしがみ付いていた女が叫んだ。

川 ゚ -゚)『ニイト王【無限陣】ニイト=クールである!! ツン=デレは何処にいる!?』



170: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:46:52.30 ID:+aJHF24O0
ξ;゚听)ξ『ニイト=クール!!』

川 ゚ -゚)『ツン=デレか!?』

兵を掻き分けて顔を出した金髪の王に叫び語る。

川 ゚ -゚)『私に兵を貸せ!!
     あの陣は私だけでは破れない!! 兵が足りないからだ!!
     貴様だけでも破れない!! 戦い方を知らないからだ!!
     だが、私と貴様なら勝てる!! 勝利を掴む事が出来る!!』

ξ;゚听)ξ『え……?』

陣中にざわめきが起こった。
ヴィップの者達からすれば、何故ここにクーがいるのか分からない。
ほんの数日前まで剣を交えていた者が、何故利益もないのに援軍に駆けつけてきたのか、理解できない。

川 ゚ -゚)『聞くがいい!! 我らが戦の裏には影があった!! それが奴らだ!!
     力を貸せ!! 冥界に旅立った同胞の魂を救う為、我らは奴らを許してはならん!!』

それでも、ツンには確信があった。
思うのは、常に心の中で彼女を支えてくれていた優しい微笑み。

川#゚ -゚)『急げ!! あの中でホライゾンが戦っている!! 時間は少ないのだ!!』

ξ;゚听)ξ『!!』

そして、彼女は決意する。戸惑う兵に向けて叫んだ。

ξ゚听)ξ『アタシの……アタシの馬をここへ!!』



181: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:54:41.65 ID:+aJHF24O0
( ゚∀゚)『陛下っ!!』

そこに現れたのは、自らの騎士団を率いた【急先鋒】ジョルジュだ。左手に、栃栗毛の牝馬の手綱を引いている。飛び乗りつつ叫んだ。

ξ゚听)ξ『どうすればいい!?』

川 ゚ -゚)『私の連れてきた兵が敵軍と当たっている。ヤツラにとっては計算外だった筈だ。
     包囲攻撃を仕掛け、回転を止めるぞ。そうすれば、ホライゾンが軸を破壊してくれる』

( ゚∀゚)『で、後は各個撃破って事だな』

ジョルジュの言葉に強く頷く。

ξ゚ー゚)ξ『で。貴女、そんなかっこうで戦えるの?』

川 ゚ -゚)『舐めるな。私は剣も使えるんだ。それに、交戦になったら馬を降りるまで』

視線を交差させ、二人の王は軽く笑いあった。

兵;゚Д゚)『お……おぉ……』

兵士達には、今でも何故クーがここにいるのか分からない。
だが、確かな事は二人の王が並び立っていると言う事だ。
初めてヴィップに苦杯を舐めさせた強敵が、共に戦うという事だ。

ξ゚听)ξ『銅鑼を!! 一斉攻撃の銅鑼を鳴らしなさい!! ヴィップ城やフィレンクト将軍にも聞こえるよう!! 高らかに!!』

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!

地鳴りのような喚声が。ヴィップ軍陣中に響きわたった。



187: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 22:59:57.35 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

(#゚∀゚)『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!』

咆哮をあげながら、敵陣に最も早く切り込んだのはこの男。
ニイトとの戦いにおいて誰よりも冷静に状況を観察し続けた者、【急先鋒】ジョルジュであった。
後世の歴史家達の中には、内乱に端を発した一連こそジョルジュ最大の黄金時代だと主張する者も少なくない。
そして、それは誰もが納得しえる事実の一つだろう。

やや左翼に軍を展開し、突貫していく。
細部に至るまで戦局を見渡す視野を持ちながら、やはりこの男には死神の大鎌こそがよく似合った。
鬱憤を晴らすかのように、戦場を朱に染めていく。

(‘_L’) 『ジョルジュ!!』

( ゚∀゚)『先生!!』

その【薔薇の騎士団】に合流したのは南方に隊を構えていた【白鷲】フィレンクトだ。
甲冑を脱ぎ捨て、背中に白鷲の彫り物をさらけ出している。

( ゚∀゚)『難しい話は後です!! 風車陣の回転を止めます!!』

(‘_L’) 『うむ』

鉄棍の一振りが、表情無き兵の首を“切断”した。
その背後ではジョルジュ率いる騎士達が、白の外套を薔薇の色に染め上げ槍を振るっている。

その頃、右翼ではヒート率いる歩兵隊が敵陣と交戦に入り。
ヴィップ城でも動きが起こっていた。



191: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:02:07.07 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

|(●),  、(●)、|『開門!!』

その声と同時に、重い音を立てゆっくりと城門が開き出した。
徐々に開けていく視界の向こうに、討つべき者の姿が見えてくる。

( ̄‥ ̄)『遠慮はいりません!! 溜め込んだ怒りを叩きつけてあげなさい!!』

城門が開ききると同時、彼らの団長を戦闘に【戦鍋団】は馬を駆けさせた。

|(●),  、(●)、|『散々焦らされた後に振り下ろされる鞭の味は格別だ、と名言にもありますからねぇ。
          うふふふ……ゾクゾクしますよ』

( ̄‥ ̄)『そのような名言、初めて耳にしました』

巨大な禿頭を陽光に輝かせ、ダディは楽しそうに笑う。

|(●),  、(●)、|『さぁ、狩の時間ですよ!! 駆けつつ一斉射撃!!
          全ての矢を使い切るつもりで撃ちなさい!!』

言い終えるより早く、矢の雨が謎の一団の上空から降り注いでいた。
ざざぁ、と草鳴りのような音と共に、数十の兵士達が倒れていく。
それでも、表情無き者達は怯まなかったが、そのような事は気にならない。
構わず突撃した。

頭上には、トレードマークである鍋が旗竿の先でがらんがらんと揺れており。
その音が彼らを一層鼓舞する。



194: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:04:41.36 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

(;´・ω・)『うっ?』

歩兵隊と共に右翼に展開していた【黄天弓兵団】。
その中で、【天智星】ショボンは小さな呻き声をあげた。
負傷した訳ではない。
引き絞っていた鉄弓【轟天】の弦に、敵兵が苦し紛れに放った矢が掠めたのである。
ぱつん、と音を立てて千切れた弦が頬に当たり、顔をしかめた。

从;゚∀从『ご主人!!』

駆け寄ろうとする給士に、目で心配無用だと答える。
滑車を組み込んだからくり弓を見つめ、ポイと投げ捨てた。
腕力の無い彼が、戦場に立つにあたって製作し、訓練を重ねた弓とその技術。
捨てるには惜しいが、それももうすぐ役に立たぬ物となるのだ。

(´・ω・`)『大丈夫だよ。ここではまだ死ねない。ただの犬死で終わるつもりはないさ』

从 ∀从『……ご主人……ハインちゃんは……』

続く言葉を制止する。
ハインがショボンの心を分かるよう、主もまた給士の心は分かるつもりだ。
彼女は間違いなく、自分の後を追おうとする。
しかし、それは彼が望むことではない。
ジョルジュなら。義兄なら自分亡き後もきっと彼女を支えてくれる。
彼だけではない。全ての真相を知るもう一人の人物。
ニイトの【金剛阿】も、ハインの良き理解者となってくれるだろう。

死、そのものは怖くない。ただ、残される二人の給士の事だけが気がかりでならなかった。



202: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:06:51.09 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

兵;゚Д゚)『夢……みたいだ』

一人の兵士が呟く。
彼の視線の先で、一人の敵兵が義足の王が放った蹴りで胴体に大穴を開けられ、倒れこんだ。
同時に三人の兵士が神速の突きを胸に受け絶命していく。

( ,,゚Д゚)『まさかテメェと肩を並べて戦う日が来るとは思わなかったぞゴルァ』

川 ゚ -゚)『悔しいが同感だ。しぃ!! 右方を切り崩せ!!』

(*゚−゚)『言われなくても分かってる。寅に百、縄にて分断せよ』

兵が呆然と見とれるのも無理はないだろう。

理想を持たぬ根無し草、月下剣士【九紋竜】ギコ。
ニイト王、氷雪の戦術家【無限陣】ニイト=クール。
キュラソー解放戦線の騎士、花が如く静かなる用兵家【紅飛燕】しぃ。
【三華仙】と讃えられながらも、思想も立場も異にしていた雪月花が共に戦っているのだ。
そして、彼らのやや左方では。

ξ#゚听)ξ『はぁあああああああああっ!!!』

黄金の獅子が禁鞭を振るっている。
自ら陣頭に立つ王の姿に、一時は消沈していた兵の士気は否が応にも高まった。

兵#゚Д゚)『俺達も負けていられねぇぞ!! 陛下の御身を危険に晒させるな!!』

雄叫びと共に切り込んでいく姿には、一抹の恐れも無かった。



209: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:11:11.05 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

(;,^ ^)『風車陣の勢いが……弱まった?』

【鉄牛】プギャーが口にするまでも無く。
誰より早く風車陣に突撃していた白面隊は、その事を肌で実感していた。
見渡せば四方からヴィップの旗が押し寄せてきており、
背後からも【祝福の鐘】ハルト率いるニイト騎馬隊が白面の後押しをせんと進出している。

( ゚ ゚)『姉様が……ツンが動いたんだお』

( ・ ・)『ファハハーっ!! 一気にメインディッシュを平らげるとしようじゃねぇか!!』

( ゚ ゚)『おっおっ、デザートじゃないのかお』

(,,^ ^)『何言ってるんすかwwww大将にはこの後、甘〜いデザートタイムが待ってる筈っすよwwww』

(#゚ ゚)

(,,^ ^)『サーセンwwwwww』

仲間達の軽口に、余裕が戻りつつある。
こうなれば、その一人一人が万夫不当の【白衣白面】に敵はない。

( ゚ ゚)『一気に中央まで道を作る!! 左右を頼むお!!』

叫び、全集中力を己の内面に飛び込ませた。
先程のような、数歩で終わる瞬歩ではない。敵陣深くまで斬りこめる様、気を練りあげる。

( - -)『我は…………猟犬なり!!』



215: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:14:14.14 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

ξ;゚听)ξ『あれは!?』

中軍先頭で禁鞭を振るっていたツンは、不思議な光景を目にした。
敵軍深くの位置。一直線に走った地割れから噴き出た“何か”に、吹き飛ばされるよう、
十を越える敵兵の身体が宙に舞ったのだ。

川;゚ -゚)『限界解放……までは行かぬか。ホライゾンめ、無茶をしおって』

彼女の横で黒髪の王が呟く。
ツンは、その光景を知っていた。
直接しっかと見た事はない。
が、かつて2度にわたって、その力に護られた。

( ,,゚Д゚)『ゴルァ?』

程無くして、プツリと切れたかのように風車陣の回転が乱れだす。
回転運動を続けようとする者。その場にとどまる者。剣を振るう者。盾を構える物。
統率する者を失い、それらが入り混じった敵軍には、すでに軍としての体裁はない。
ただの、集団に過ぎなかった。

川 ゚ -゚)『ホライゾンが中央を撃破したのだ!! 一息に殲滅せよ!!』

【無限陣】クーの突撃命令に従い、四方に展開していた全てのヴィップ軍将兵が中央に切り込んでいく。

兵;゚Д゚)『お……おい、あれって……』

そこで彼らが目の当たりにしたものは。



223: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:18:29.06 ID:+aJHF24O0
(,,^ ^)『ようやく来たみたいッすねwwwwwwww』

( ・ ・)『ファハハー!! また死に損なっちまったぜ!!』

全身を朱に染めた、悲劇の伝説【白衣白面】。

( ゚ ゚)『……っ!! ツン!!』

そして、儚く散った大英雄モララーが手にしたと言われてる聖剣【勝利の剣】の姿であった。

ξ゚听)ξ『……ナイトウ』

黄金の王は禁鞭を放り投げ、一人の白面剣士の元へ愛馬を駆けさせる。
銀髪の男は大剣を地面に突き立てると、顔を覆っていた仮面を投げ捨て、両腕を広げた。
そして、擦れ違いざま。
ツンは馬を止めるのももどかしい、と言う風に馬上から青年の胸に飛び込む。
彼もまた、その軽い身体をしっかりと抱きとめた。

ξ;;)ξ『ナイトウ!! ナイトウ!! ナイトウ!!』

( ;ω;)『ツン!! そうだお!! 僕だお!! 君の一番の友達ナイトウだお!!』

ξ;;)ξ『馬鹿!! 馬鹿!! 死んだと思ってたのに!! ずっと……ずっと寂しかったのに!!
     ……う……うぅ…………うわああああああああああああああああああああん』

剣戟の音が静まりゆき、至る所で勝ち鬨の声があがる戦場に、ツンの号泣する声が響きわたる。
今、この時。

三年を越える年月を経て、黄金の王と銀髪の青年は本当の意味での再会を果たしたのだった。



235: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:24:53.69 ID:+aJHF24O0
         ※          ※          ※

ξ;;)ξ『ナイトウ……ナイトウ……ナイトウ…………』

( ;^ω^)『大丈夫だお、ツン。僕はここにいるお』

戦が終わり、ヴィップ城に凱旋してからもツンはブーンの腕にしがみつき、肩に顔を埋めたままだった。
その事自体は悪い気分ではないのだが、何しろ背中に突き刺さる視線が痛い。

jハ*゚ー゚ル『あらあら。お馬鹿さんの癖に手を出すのは早いのね。
     モララー様に似たのかしら?』

川#- -)。oO(私はホライゾンの姉……私はホライゾンの姉……怒る必要はない、怒る必要はないんだ)

【白鷲】フィレンクトは国境の守りの為、早々にマティーニ砦に引き返し、
【第六天魔王】ダディとフンボルトは籠城の憂さでも晴らすように残党狩りに向かっている。

( ,,゚Д゚)『それにしても、あいつら何だったんだゴルァ。
     腕の一本無くしたくらいじゃ表情も変えずに向かってきやがった』

ノハ;゚听)『そうだ!! それに、どうしてナイトウが生きてる!?
     どうしてニイトにいたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

その言葉に給士の肩が、ビクリと震えた。
静かに。
【天智星】ショボンが足を一歩踏み出す。

(´・ω・`)『その事は……僕が説明しよう。
     ナイトウ君に死を欺かせ、ニイトに送り込んだのは……僕だ』



242: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:28:20.85 ID:+aJHF24O0
ξ;゚听)ξ『……え?』

(;゚∀゚)『ショボン!!』

从; д从『ご主人!!』

驚き、顔をあげたツンの声と二人の声が重なる。
が、白眉の青年は固い覚悟をこめた視線でそれを睨みつける。

(´・ω・`)『聞こえなかったのかい? この戦の影でナイトウ君を操っていたのは僕だ、と言ったんだ』

ξ;゚听)ξ『そんな……嘘……?』

(´・ω・`)『嘘じゃないさ』

青年の腕を握る手に力が入る。
それを見て、ショボンは更に一歩。ずい、と前に踏み出した。

(´・ω・`)『それだけじゃないよ。正直な話、僕はこの島の未来や天下の事なんか興味が無いんだ。
     散々、君を煽っておいて悪いけど……僕はずっと僕の野望の為だけに戦ってきた』

( ,,゚Д゚)『……汚ねぇ野郎だ』

呟き、長刀を鞘から引き抜く。

(´・ω・`)『そう思うなら殺せばいい。諸悪の根源として僕の首でも晒せば、人民も納得するだろうさ』

(#,゚Д゚)『……っ!!』

ショボンの挑発に、ギコが刀を振り上げた……その時。



249: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:32:56.48 ID:+aJHF24O0











━━━━━昔々のお話です。
       キールの山奥に、2匹の亀と1匹の兎が住んでいました。
       池の中を自由に泳ぎまわる亀を、兎は羨ましそうに見つめ。
       山の中を自在に駆けまわる兎を、亀は『いつかあのように走りたい』と思いながら眺めていました。
       それでも3匹は、楽しく暮らしていたのです。











255: ◆COOK./Fzzo :2009/08/31(月) 23:38:52.85 ID:+aJHF24O0
一同の目が、声のした方に集中した。
そこには、黒装束を纏った二人の男が立っている。

从; д从『……あ』

川 ゚ -゚)『……何故お前達がここにいる? カンパリを護れと命じた筈だが?』

その言葉に、ニヤと笑うと男は気だるそうに歩を進めだした。
当然のように、もう一人の男もその後を追う。

( ´_ゝ`)『なぁに。弟者が「犬耳祭はまだか」と五月蝿いのでな』

(´<_` )『犬耳祭を否定はせぬが、そのような事を言った記憶はない』

そのまま輪の前に立つと、兄者は細く小さな瞳でショボンを睨みつけた。

( ´_ゝ`)『決意は立派だがな【天智星】。真の黒幕は他にいる。
       貴様のしている事は一時凌ぎにしかならぬ事くらい分かっているだろう?』

(´ ω `)『……』

一同を見渡し、言葉を続ける。

( ´_ゝ`)『全てを知る者は一人だけではないのだ。
       貴様が話せぬと言うなら、俺が語ってやろう。
       この戦の影で暗躍する真の邪悪の正体を。過去より繋がる忌まわしき本当の真実を』

そう。
兎と亀。狼と猟犬。獅子の親子。
そして、最後に彼らの運命を狂わせ、今も嘲笑う者の話を。



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