( ^ω^)がどこまでも駆けるようです
- 216: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:30:47.89 ID:6DTiKndi0
- 爪'ー`)y‐『く……くく……』
しかし、狐は動かない。
何故なら、確認せずとも先程の場所に給士がいない事は分かっているから。
ブーンの身体を切り刻んだ長剣をそのまま宙に展開させ、彼が降下してきた位置の更に後方。
上空を見据え、哄笑した。
爪'∀`)y‐『ぁあっはっはっはっはっはっはっはっ!!
やはり、そこですか……ハインリッヒ』
从;゚∀从『っ!?』
その視線の先。
残る力の全てを絞り尽くして空中を舞う給士の目が、驚きに見開かれた。
ブーンとハインの狙いは、給士が盾となり青年が刃を振り下ろす、というだけの単純な物ではない。
刃であった筈の青年がその実は盾であり、盾であった筈の給士こそが真なる刃。
つまり、ブーンによる捨て身の攻撃は、迎撃される事を前提とした囮に過ぎなかったのだ。
それに目が行っている隙に、ハインが青年の生み出したフォックスの視界の死角。
すなわち、ブーンの後背に飛翔する。
その後に、青年を撃墜したフォックスの心の間隙を突いて勝負を決める。
強襲と奇襲の、二段構えによる攻撃であった。
だが、それすら陰の王にとっては想定内の行動であり。
今、給士は怨敵に無防備すぎる姿を晒してしまっている。
爪'ー`)y‐『狙いは悪くありませんでしたよ。ですが、相手が悪すぎましたね』
从#゚∀从『くそおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!』
- 223: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:34:42.08 ID:6DTiKndi0
- 爪'ー`)y‐『そうら、行きますよ?』
中空に待機させていた長剣が、一斉にハインに襲い掛かる。
“天駆ける”の異名を許された彼女とて、その脚力を生かせぬ空中では為す術もない。
身を護る事も出来ず、全身を切り裂かれた。
从# ∀从『これでも……駄目なのかっ』
力を失い、落下していく。
だが、このままおめおめと石畳に叩きつけられる訳には行かない。
从# ∀从『がぁっ!!』
エプロンドレスを引き剥がし、手に巻きつけると、張り巡らされた糸の一本にしがみ付いた。
それだけでも、鉄すら斬ると言われた糸が指に食い込み、出血する。
軽量級のハインでなければ、掴んだ指ごと切り落とされていただろう。
けれども、ダラリとぶら下ったその姿はまるで、中空に磔にされているかのような無様なもので……。
爪'ー`)y‐『おやおや。随分とみっともない姿ではないですか、ハインリッヒ』
从# ∀从『……うるせぇ、黙れ。耳が腐る』
答えるや否や、給士の鳩尾に長剣の柄が叩き込まれた。
衝撃で糸を掴む指から血が吹きだし、白かったエプロンドレスが朱に染まっていく。
流したくもない涙が瞳に浮かび、激しく咳き込む口からは、涎が一本の線となって滴り落ちた。
この体勢から挽回は不可能だろう。給士は悟った。
今の自分はフォックスにとって、ただの的に過ぎない。
だが、この男に屈するのは二度とごめんだ。最後の最後まで戦ってみせる。
- 228: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:37:35.17 ID:6DTiKndi0
- 从# ∀从『くそったれ……ハインちゃんは……絶対に負けねぇぞ……』
爪'ー`)y‐『まだ減らず口を叩く元気だけはあるようですね。
それでは、私から貴女に素敵な子守唄をさし上げます』
言って、巡らせた糸の上から地上に降り立つ。
こみあげる笑いを押さえ込むようにしながら、懐から投弾兵器を取り出した。
ハインに見せびらかすように、二度三度手の上で放ってみせる。
爪'ー`)y‐『我が“狐火”の恐ろしさは貴女もご存知ですよね?
これから、これを貴女に叩きつけます。
素直に大人しく、青き炎に焼かれて落ちるも良し。
抗い、かわし続けて、力尽き落ちるも良し。好きな方を選ばせてあげましょう』
从# ∀从『……』
避ける体力など、残っていなかった。
それならば、たとえこの身を焼かれようとも、掴んだ指だけは放さない。
戦い、抗って……起こる筈のない奇跡を待ち続けてみせる。
爪'∀`)y‐『眠りなさい、ハインリッヒ。次に目覚める時は……地獄です』
フォックスの表情が愉悦に醜く歪んだ。
“狐火”を手にした腕を大きく振りかぶる。
从# ∀从『来やがれ……何回だろうと付き合ってやるぜ……』
ハインもまた、襲い来るであろう衝撃に備えて強く両目を閉じた
- 232: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:40:08.56 ID:6DTiKndi0
- 从;゚∀从『……?』
過ぎた時間は、数秒であったか。数十秒であったか。
しかし、その衝撃はいつになってもハインを貫かなかった。
恐る恐る開いた視線の先。
そこには左手を押さえこみ、呻き声をあげる【人形遣い】の姿がある。
その足元には血に濡れた“狐火”が転がっていて。
爪#'ー`)y‐『ぐぅっ!!』
小さな気合と共に、その手を貫く飛刀を引き抜いた。鮮血が激しく石畳に滴り落ちる。
だが、それを放ったのは当然……彼女ではない。
从;゚∀从『……』
フォックスの視線は、完全に彼女から外れていた。
王座の間の片隅、戦場を外れた一角を強く睨みつけている。
ハインは静々と、その視線の先を追った。
そこには。そこには、官服をボロボロに焼かれるほどの傷を負いながらも、
黄金の王に肩を支えられるようにして一人の男が立っているのだ。
爪#'ー`)y‐『死に損ないが……ふざけた真似を……』
【天翔ける給士】ハインリッヒは、その姿を決して忘れぬだろう。
从;゚∀从『あ……あぁ……』
傷つきながらもなお、強き意思を込めた瞳で邪悪を睨み据えるその姿を。
『やれやれだ、フォックス。僕がこのままやられっ放しだとでも、本当に思っていたのかい?』
- 242: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:43:56.58 ID:6DTiKndi0
(´・ωメ;)『敷き皮にしてやろうか、糞キツネ。ぶちころすぞ』
- 249: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:46:21.21 ID:6DTiKndi0
- 爪#'Д`)y‐『天智星ぃぃいいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!! 貴様ぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』
从;゚∀从『ご主人!?』
二人の声が重なった。
だが、立ち上がったとて深手を負ったショボンには、これ以上攻撃の術は残されていない。
彼に出来るのは、天にあまねく智の星光をもて、翔ける者を導く事だけ。
だから叫ぶ。
(´・ωメ;)『ハイン、跳べ!!』
从;゚∀从『……え?』
(´・ωメ;)『糸だ!! 君なら出来る!!』
从;゚∀从『!!』
爪#'ー`)y‐『っ!!』
二人は同時にショボンの言わんとしている事を理解した。
だが、この時フォックスの視線は完全にショボンに向けられている。
傷つけられた痛みと屈辱に、怒り狂っている。
故に、その男の反応は、わずかに遅れた。
(´・ωメ;)『跳べぇっ!! ハインっ!!』
从 ゚∀从『おうっ!! ご主人っ!!』
- 251: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:48:19.86 ID:6DTiKndi0
- 失われていた力が、全身に漲るのを感じる。
彼女は給士だ。
主が彼女の掌を握り締め、導いてくれるというならば。
給士はその声に、ただ粛々と従うのみ。
鉄棒の大車輪の原理で、糸の上に飛び乗った。
そのまま、糸の反動をも利用して渾身の力を込め飛翔する。
爪;'ー`)y‐『くそっ!!』
それを見たフォックスは、素早く長剣を引き戻した。
もう一瞬反応が早ければ、ハインが跳ぶよりも早く糸を回収する事も出来ただろう。
が、それを悔いている時間はなかった。
“あれ”だけは危ない。
九尾の全てをもって守りに徹しても、完全には防ぎきれない。
从 ゚∀从『行くぜ、フォックス……』
飛翔の最頂点に達すると、ハインは中空に身を翻した。
同時に漆黒の給士服に仕込まれていた糸を引き抜くと、
ふわりと舞い上がるスカートの裏に縫い付けられていた1000の飛刀が彼女の周囲に解き放たれる。
从#゚∀从『喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!!!!』
そこから放たれる技はただ一つ。
その秘技を放てる者はただ一人。
そう。それこそは、高岡流飛刀術究極奥義・飛刀乱舞━━━━━
- 256: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:50:47.61 ID:6DTiKndi0
从#゚∀从『━━━━━ 1 0 8 れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ん っ !!!!!!!!!!!!!!!』
- 265: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:55:03.08 ID:6DTiKndi0
- ※ ※ ※
音もなく着地した給士に数秒遅れて、高く跳ね上げられた最後の飛刀が石畳に落ちる。
カラカラと乾いた音を立てながら、やがて動きを止めた。
(;´・ωメ;)『そんな……化け物、か』
深、と静まり返った王座の間に【天智星】ショボンの漏らす声が響きわたる。
その男は、全ての者達の視線を全身に浴びながら。給士に背を向け、ゆるりと歩を進めはじめた。
気障な外套も、首に巻きつけた薄絹も散り散りに千切れ、見る影もない。
全身から血を垂れ流し、八本の尾を引き摺り。それでも男は倒れこむのを堪え、よろめき歩いた。
ほどなく、石壁まで辿り着く。
壁に背を預けると、懐から取り出した阿片の煙管を口にくわえ、松明を使って火をつけた。
静かに、深く煙を吸い込み、数秒の後に満足そうに吹き出す。
そうしてから、足元に転がる折れた長剣の刃を、愛おしそうに拾い上げた。
从;゚∀从『……冗談だろ?』
給士もまた、石畳に転がっていた“西方の焔”を拾い上げる。
足が震えているのは、恐怖心からではない。全身に受けた負傷と疲労によるものだ。
だが、その足では神速の移動術は発動させられず、
飛ぶ羽虫すら穿つほどに使い慣れた飛刀は手元に1本として残っていない。
手にした焔の刃だけが、唯一の頼りだった。
爪;メー`)y‐『冗談などではありませんよ。【陰の王】と呼ばれた私でも、不死の術だけは体得していないものですから』
飛刀の嵐を身に受けてなお。
【人形遣い】フォックスは生きている。
- 269: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 22:57:33.28 ID:6DTiKndi0
- 从;゚∀从『まだ……戦えるってのかよ』
半ば絶望にも似た面持ちで、ハインは長剣を身構えた。
フォックスの狙いが読みきれない。
瀕死を装って誘い込もうとしているようにも見える。
口調の中に余裕を感じ取れるが、その実あと一押しで倒れそうにも見える。
斬りかかった瞬間、力なく垂れた狐の尾を大きく広げるくらいの事は、この男なら仕掛けてくるだろう。
が、そう思わせて自分の足を封じる程度の事も、容易い筈だ。
真か、偽か?
裏か、表か?
偽か、真か?
表か、裏か?
判断のつかぬまま、ハインは緩々とすり足で歩を進める。
それでも、フォックスは動かない。
ただ、ニヤニヤと彼女を見据え、阿片の煙を垂れ流すのみ、である。
一歩。
更に、一歩。
次なる一歩で、ハインの爪先がフォックスの射程圏に触れた瞬間。
从;゚∀从『うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
狐の八本の尾が、ぞぅと宙を舞う。
それを見た給士は、その場を大きく飛び退いていた。
そして。
从;゚∀从『……え?』
- 273: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:00:31.00 ID:6DTiKndi0
- その時、彼女が見た物。
それは宙を舞った長剣が、石壁に取り付けられた木窓を木っ端微塵に破壊する光景。
そして、自ら作り出した逃走経路に、身体を飛び込ませる陰の王の姿であった。
从;゚∀从『あ……』
してやられた、と瞬時に気づく。
やはり、フォックスは戦いを継続できる身体ではなかったのだ。
故に、彼女を牽制しつつ逃げ通せるだけの体力回復を待った。
それから如何にも待ち構えていた、と言うふうに見せかけて給士を後退かせ、一気に逃走に入ったのだ。
しかし。気づいた時には既に遅い。
窓枠に立つ【人形遣い】は、夜空を背にして満足げに顔を歪め……笑っている。
吹き込む風が、濃紺の外套を激しく揺らした。
爪;メー`)y‐『よくもまぁ……私の尾を破壊したのは貴女が初めてですよ、ハインリッヒ。
ますます貴女が欲しくなりました。今回は……痛み分け、という所でしょうか』
从#゚∀从『痛み分けだと……?』
冗談ではない。
たかが一本の刃を折るだけに、己を含めて8人の将官が深手を負っているのだ。
今、倒さねば次があるとも思えない。
大脳からの信号を拒否する筋肉を無理矢理に動かし、斬りかかった。
だがしかし、同時にフォックスは夜の闇に身を飛び込ませている。
从#゚∀从『フォックスっ!!!!』
数瞬遅れて、窓に飛びついた。
が、その時既に眼前に広がっているのは夜の闇のみで━━━━━
- 278: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:03:30.75 ID:6DTiKndi0
- どこからともなく、忌まわしき声が聞こえてくる。
━━━━━これだけは、覚えておきなさい。我が最高傑作【闇に輝く射手】ハインリッヒよ。
その身に背負った罪がある限り、貴女は必ず私の元に帰って来る。必ず……必ず、だ。
从#゚∀从『黙れ!! ハインちゃんは二度と人形になんか戻らねぇ!!
いつの日か……お前をぶち殺してみせる!! 絶対……絶対、だ!!』
しかし、返ってきた答えは…………ただ、ただ静寂。
从# ∀从『っだああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!』
行き所のない、給士の叫び声だけが、いつまでも深い闇の中に響きわたっていた。
- 283: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:07:17.94 ID:6DTiKndi0
- ※ ※ ※
川 ゚ -゚)『……ぅ……む?』
自身の四輪車に腰を下ろす格好で【無限陣】ニイト=クールは目を覚ました。
背中の傷をいたわっているのか、背もたれに分厚い綿が敷かれている。
何故か首元までビッシリと閉じられた鶴縫が、息苦しさの原因だと気づくまでに、少しの時間を必要とした。
(´<_` )『おぉ、やっと起きたのか、クーよ』
( ´_ゝ`)『いつまで寝ているつもりだ? それとも腹でもへったのか?』
クーの前で背中を丸め、石畳に胡坐をかいているのは【金剛阿吽】流石兄弟だ。
何故か褌一枚の姿で、彼女を下から見上げている。
川 ゚ -゚)『……。我らは……勝ったのか?』
問いかけるクーに水の入った竹筒を投げわたし、答えたのは弟者だ。
(´<_` )『勝つには勝ったが……逃げられたよ。最後はハインリッヒによる超上空からの飛刀乱舞だ。
あれを全身に受けて生きているのだから……全く、とんでもない化け物を相手にしたもんだ』
兄者もまた、続けて口を開く。
( ´_ゝ`)『あぁ。それにしても相変わらずのブーム君パンツだったな。
あの年齢であれはちょっとどうかと思う』
川 ゚ -゚)『その情報を私に伝える必要があるのか?』
(´<_` )『俺は兄者の方こそどうかと思うが、な』
- 290: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:11:15.00 ID:6DTiKndi0
- 川 ゚ -゚)『ところで……何故に貴様らは脱いでいるのだ?
やはり、あれか? “こんな関係誰にも言えないよな……”とか、そんな感じか?』
(´<_`;)『……貴様、どこでそのような俗物的知識を入れたのだ?』
川 ゚ -゚)『メンヘルの商人が置いていった本で読んだ。なかなかに興味深い』
(´<_`;)『……』
【神算子】レーゼのような溜息を吐く弟者の脳裏に浮かんだのは、明るい色をした髪を左耳の上で束ねた女の姿。
彼女が、何らかの形でクーが手にしたという本に関わっているのは間違いない。
次に会った時、手加減無しにぶん殴ろうと心に誓う。
(´<_`;)『やけど傷に膏薬を塗っていたのだ。どのみち、服は着ていられる代物ではなくなってしまったからな』
( ´_ゝ`)『その通りだ。第一、貴様だってその鶴縫を脱げば似たような格好であろう』
川 ゚ -゚)『……』
クーが兄者の言葉の意味を理解し終わるまでには、数秒の時間を要した。
慌てて鶴縫の中を覗き込む。
そして、そこには身につけていたはずの水色の衣は存在せず……。
川#゚ -゚)『私の服を脱がしたのはどっちだ!! 弟者なら鞭打ち!!
兄者であれば全身の皮を剥がした後、車裂きにしてやる!!』
( ´_ゝ`)『……対応に差がある理由を是非知りたいところだな』
- 295: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:14:18.18 ID:6DTiKndi0
- 決して、クーは兄者を蔑ろに扱っているのではない。
むしろ、このヴィップとの戦い。いや、フォックスとの戦いで最も貢献した一人だと思っている。
だが、今彼女の目の前にいるのは、ニイト城下の酒場で猥談をしていた時と、同じ表情をした男だ。
贔屓目に見ても、己を叱咤してきた男と同一人物には思えるはずもなく。
どう接すればよいのか分からない。
故に、口調がきつくなる。
『あら? 安心しなさいな。貴女の服を脱がせたのは私ですから』
声と同時に、背後から細い腕が首に巻きつけられた。
耳に吹きかけるような話し方と、頬に触れる白金色の髪を見れば、振り向かずとも正体は知れる。
jハ*゚ー゚ル『大丈夫よ。汚い男達の目が無い所で。2人っきりで脱がせたから……誰にも見られていませんわ』
川;゚ -゚)『それはそれで不安なのだがな』
jハ*゚ー゚ル『どうしてかしら? 私としましては、続きは今晩にでも……と期待しているのですけれども』
川;゚ -゚)『その言動が不安だと言っているのだ。あと、顔が近い』
『あら、残念』などと囁きながら、ハルは懐から何やら取り出した。
そっと、クーの手に握らせる。
川;゚ -゚)『……あ』
jハ*゚ー゚ル『ハインリッヒを庇った時に吹き飛ばされたみたいですわね。
宝物なんでしょ? 大事になさいな』
それは……。
父が姉弟に贈ってくれた、銀色の鈴。
- 297: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:16:39.87 ID:6DTiKndi0
- 川 ゚ -゚)『……』
黒髪の王は、自分達から少し離れた所で車座に座り込む者達に目を送る。
(#,,゚Д゚)『おい、猪馬鹿!! こっちにも酒よこせゴルァ!!』
(#//∀゚)『黙れ、筋肉チビ!! 俺様の方が重傷なんだから、多く飲むに決まってるだろうが!!』
(#*゚−゚)『……うざったい』
━━━━━そこには、重傷を負いながら楽しげに酒杯を傾ける者達がいて。
ノハ;;)『お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』
从;゚∀从『だあああああああああああっ!! ヒートうるせぇっ!!』
(´・ωメ;)『……君達、何でそんなに元気なのさ?』
━━━━━勝利の喜びを分かち合う、主従の姿があって。
ξ゚ー゚)ξ『全く……大人しくするって言うから医療班に運ばせなかったのに』
( ^ω^)『おっおっおっ。でも、楽しいお』
━━━━━手を重ねあい、彼らを見守る二人がいる。
川 ゚ -゚)『……ホライゾンは……本当はあのように笑うのだな』
呟き、ぎゅうと握り締めていた掌を開いて、視線を落とす。
そして、誰に言うでもなく口を開いた。
- 302: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:20:18.29 ID:6DTiKndi0
- 川 - )『宝物だったんだ。でも……随分と汚れてしまった』
掌の上に乗せられた鈴は、爆炎に黒ずみ。
石畳を跳ねた際の物か、細かい傷が所々についている。
( ´_ゝ`)『汚れたら磨けば良い。それだけだ』
川 ー )『私に……そんな資格はないよ』
( ´_ゝ`)『貴様に出来なければ、頼れる者に助けを求めれば良いのだ。
貴様はそれを許される。それだけ……本当にそれだけなんだ』
川 - )『……』
しばらく俯いていたクーであったが、やがて意を決したかのように顔をあげた。
その視界の先では、愛しい弟がジョルジュの腋に首を固められている。
ツン=デレがそれを引き剥がそうとし、しぃは「やれやれ」とでも言いたげに首を横に振っていて。
皆が笑い、彼女の弟もその輪の中心で涙を浮かべ笑っていた。
思えば、ニイトにいた頃、青年はいつもどこか困ったような笑顔しか見せなかった。
クーはそれを、記憶に無い思い出話をされている為、と思っていたが、
あの光景を見ればそれが間違いであった事が、いやがおうにも分かってしまう。
きっと、あの時青年は、姉を名乗る人間が自分の友人達を憎む姿を見て、困惑していたのだ。
“生まれ育った故国”という言葉も“血を分かち合った姉弟”という響きも、青年の心を打つ事は無かった。
当たり前だ。
全ては、彼女のエゴイズムを押し付けていただけなのだから。
そうであれば、彼女に選べる道は一つしかないように思えた。
川 - )『ハル。兄者。弟者。……ニイトへ、帰ろう』
- 308: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:23:57.88 ID:6DTiKndi0
- ( ´_ゝ`)『……ブーンは……どうするのだ?』
重苦しい空気を破って兄者が口を開く。
川 - )『……ヴィップに残れば良い。ホライゾンは……もうとっくに自分の世界を見つけていたのだ』
奪い去られた幸せだった毎日。それを取り戻す事だけを考えてきた。
その景色を夢に見る時、自分の隣にはいつも弟の姿があって。それが当たり前だと思っていた。
だが、今この時。青年の隣に、自分の姿はない。
結局、思い出は何処まで行っても過去でしかなく。
“しあわせなひび”など、とうに終わっていたのだ。
故に、言う。
川 - )『さぁ、行こう。ハル、済まないが車を押してくれないか?』
( ´_ゝ`)『……』
jハ*゚ー゚ル『……』
(´<_` )『……』
そして、三人は。
jハii-д-ルii´_ゝ`)『はぁああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ』(´<_`ii)
川;゚ -゚)『なっ!?』
合わせた様に、盛大な溜息をついた。
- 312: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:26:29.14 ID:6DTiKndi0
- jハ#*゚ー゚ル『全く……。貴女は、いざと言う時に限って本当にお馬鹿さんですわね。調教が必要なのかしら?』
( *´_ゝ`)『な? な? 俺が言ったとおりだっただろう?』
(´<_` )『何を自分の一人勝ち気分でいるのだ?
この件に関しては3人揃って同じ意見しか出ていなかったではないか』
川;゚ -゚)『な……なな……』
突如、目の前で騒ぎ出した三人に、クーは固まりつく。
が、徐々に顔を紅化させると、ついには怒りを爆発させた。
川#゚ -゚)『何をふざけている、貴様ら!! 私は真剣に言っているのだぞ!!』
jハ*゚ー゚ル『はいはい。それくらい分かってるわよ』
言って、ハルは四輪車に腰を下ろすクーの膝に、横座りに飛び乗った。
腕を首に絡めると、心得たとばかりに兄弟が車の背後に回りこむ。
( ´_ゝ`)『さぁ、弟者よ。主の命令だ。行け、と言うなら行こうではないか』
(´<_`* )『うむ、兄者よ。犬耳前日祭・飛翔編というわけだな』
言うや、兄弟は車輪も外れんと言う勢いで四輪車を押し始める。
だが、その疾走。いや、暴走は宮殿の出口に向けての物ではない。
その進行方向に待っていたのは……。
( ^ω^)『姉様!!』
川;゚ -゚)『あ……ぅ……』
- 316: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:29:13.94 ID:6DTiKndi0
- jハ*゚ー゚ル『ここまで来れば、もう逃げられないですわね』
言って、ハルはクーの膝から飛び降りると、四輪車の背後に回りこんだ。
クーの正面には、ヴィップ王ツン=デレと、銀髪の青年が並び立ち、
その背後には文官武官6人が踵を揃えて整列している。
おそらく、彼女の背後でも流石兄弟やハルが同じようにしているのだろう。
( ^ω^)『ツン』
青年の声にコクリと頷くと、金髪の王は足を踏み出した。
やがて、クーの目の前で視線を合わせるように両膝をつくと、掌を組み合わせて一礼する。
ξ゚ー゚)ξ『【白狼王】ニイト=クール。この度の援軍、ヴィップに住む全ての民を代表して感謝します』
川;゚ -゚)『うぅ……わ、私にとっては児戯のような物だ。礼を言われる程の事でも無い』
ξ゚ー゚)ξ『……』
川;゚ -゚)『……』
何を口にすればよいのか分からず、クーは黙り込んでしまう。
眼前ではツンが自分の目を正面からジッと見つめていて。
助け舟を出すかのように、銀髪の青年が口を開いた。
( ^ω^)『ところで、姉様。これから、どうするんだお?』
川;゚ -゚)『!! あ、あぁ。ニイトに帰ろうかと考えている』
- 319: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:30:34.50 ID:6DTiKndi0
- ( ^ω^)『……』
川;゚ -゚)『ほら、あれだ。私も色々と多忙の身であるし、長く国を離れる事は出来ない。
なによりも、レーゼが色々とうるさいだろうから…………な』
自分が子供染みた言い訳の様な事を口にしている、と気づいたのは、
彼女の弟が笑いを堪えるような顔をしているのを見たからである。
いや、彼だけではない。
右目に包帯を巻きつけたジョルジュや、何故かエプロンドレスを外しているハインは
あからさまに吹き出しそうな顔をしていたし、
唯一鉄仮面のような顔のしぃにいたっては、何故か湯浴み後の格好をしているのだから、表情どころの問題ではなかった。
おそらく彼女の背後でも兄者あたりは同じような顔をしているのだろう。
『お馬鹿さんねぇ』と言う声はハルの物だろうし、『頑固者め』と言う呟きはおそらく弟者による物だ。
川;゚ -゚)。oO(兄者の奴、か? 一体、私が寝ている間にヴィップの連中に何を吹き込んだと言うのだ)
正面に居並んだ者達の顔から判断するに、その推測は間違っていないだろう。
いくら兄者とて、自分の目が届かぬ背後でヴィップの面々を笑わせようとしているとは思えない。
そのような事をすれば、弟者はともかくハルが黙っていないはずだ。
と、なれば兄者が。もしくは3人が示し合わせて何か企んでいる、と見るべきだろう。
そうすれば、先程の溜息も説明づけられる、と言うものだ。
再びのぎこちない沈黙。
それを破って口を開いたのは、黄金の王ツンであった。
ξ゚ー゚)ξ『クー。ヴィップと言う国名の意味を知ってる?』
- 326: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:33:31.72 ID:6DTiKndi0
- 川 ゚ -゚)『……? 確か、遥か北の国の言葉で“集い選ばれし者”と言う意味だったと記憶しているが』
【鉄の大国】ラウンジの更に北。
神話の国、と呼ばれる地は父モララーが2振りの聖剣を、湖の妖精から譲り受けた地だ。
故に、クーもその言葉を若干は会得している。けれども、金髪の王は静かに首を横に振った。
ξ゚ー゚)ξ『言葉の意味だけ、ではね。
でも、アタシはこの国を“選ばれた者”だけが作っていく国にはしたくない。
一人一人の民が、人としての誇りを持って築いていける国にしていきたい』
川 ゚ -゚)『……生まれや育ちで“選ばれた”のではなく、
自らの意思で生きる道を“選んだ”者の国……という事か』
微笑みを浮かべ、今度は首を縦に振る。
ξ゚ー゚)ξ『そう。民族や思想の垣根を越えて。たとえ歩く道が違っていても、理想持つ人が手を取り合って生きていける国。
アタシは、貴女にも過去に“選ばれた”のではなく、本当の意味で未来を“選んで”ほしいと思う』
川 ゚ -゚)『私が……過去に縛られている、とでも言いたいのか?
それは違う。過去とは人の行動原理だ。思考の原点だ。
確かに私が幼き日々の再現と復讐に生きてきた事は認めよう。
だが、この道は私が自分で“選んだ”物だ。
私は過去に縛られているのではない。それが事実であるならば……
全てを受け入れ、自らで“選んで”生きていく』
一息に言い捨てた。
またしても、場が沈黙に支配されようか、と言うところでブーンが口を開く。
( ^ω^)『それなら……それなら、どうして姉様は僕を置いてニイトに帰ろうとするんですお?』
- 329: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:37:00.65 ID:6DTiKndi0
- 川;゚ -゚)『そ、それは……』
( ^ω^)『やっぱり、図星かお』
言いよどんで、背後を睨みつけた。そこでは褌一枚と言う格好で兄者が大袈裟に肩を竦めている。
( ´_ゝ`)『勘違いはしないでくれよ。俺はただ、貴様の思考から何を事を言い出すであろうか、言い当ててみせただけだ』
ニヤリ、と笑って腕を組む。そうしてから、言葉を続けた。
( ´_ゝ`)『貴様の考えは、おそらくこうだ。
復讐に固執し続けてきた自分では、今のブーンの側に居場所が無い。
だから、ブーンは自分で見つけ出した世界に残し、己は黙ってニイトに帰ろう……という感じか。
間抜けめ。その時点で過去に縛られている事に、何故気づかん?
最初から自身の中で選択肢を一つしか見ていないのなら、それは“選んだ”とは言えんよ』
jハ*゚ー゚ル『だ・か・ら。お馬鹿さんって言っているのよ。
このままニイトに戻ったら、貴女は何を求めて生きていくのかしら?
抜け殻になったクーなんて、床に零したミルクほどの魅力もありませんわよ』
从 ゚∀从『人は人であろうとするならば、戦うより他に逃げ道など無いんじゃねぇのかよ?
だったら、ブーンに何も言わず帰るってのは、戦ってもいねぇし“選んで”もいねぇって事じゃねぇのか?』
川;゚ -゚)『……ぅ』
一斉に責め立てられ、言葉を失う。そこに声をかけてきたのは、やはり金髪の王であった。
ξ゚ー゚)ξ『ナイトウが言っていたわ。自分の理想は、みんなが笑っている国だって。
そして、それにはアタシも貴女も。ヴィップの民もニイトの民も一人も欠けてはいけないんだって
だから、もう一度言います。アタシは……本当の意味で、未来を“選んで”ほしいと思う』
- 335: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:40:29.03 ID:6DTiKndi0
- ( ´_ゝ`)『ま、難しく考えるな。ようするに、もう少し素直になれって事だ。クーよ』
ポン、とクーの肩を叩くと、兄者はどっかと石畳に腰を下ろす。
その姿は、これ以上口を出す事を拒んでいるようでもあった。
川 ゚ -゚)『……本当の意味で……選ぶ』
ツンの言う“選ぶ”とは、おそらく“求める”と言う意味でもあるのだろう。
自らの意思で生きる道を“求める”者達。
それこそが、ツンの選び求めたヴィップと言う国の。この島の未来の有り方であるに違いない。
きっと自分は今まで本当に求めた物は一つしか無くって。
幼き日々の再現も復讐も、所詮は手段や誤魔化しでしかない。
本当に必要だったのは、振り返る過去ではなく。共に未来へ歩む友や家族であったのだ。
川 ゚ -゚)『私は……私が本当に選びたいのは……』
そこで、クーの口は動きを止めた。
本当に求めている物に気付いても、口に出す言葉を知らないのだ。
だから、ツンは語りかける。
ξ゚ー゚)ξ『ねぇ、クー。あの可哀相な人形達と戦った時、貴女は言ってくれたわよね?
アタシと貴女が手を取り合えば、風車陣は討ち破れる、って』
川 ゚ -゚)『む。……あぁ、そうだったな』
その声を待って、黄金の王は広げた両腕を差し伸ばした。
ξ゚ー゚)ξ『きっと、それだけじゃないわ。アタシと貴女が手を取り合えば、どんな高みにだって手が届く。
アタシは……ずっと。ずっと、クーと手を取り合って歩いていきちゃ……いきたい』
- 349: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:44:48.90 ID:6DTiKndi0
- 川 - )『…………』
気付いた時。
クーは、その両手を固く握り締めていた。
深く埋めた頭は、表情を隠す為。
しかし、震える両肩と漏れ出る嗚咽が、何よりも彼女の心を表わしていたと言って良いだろう。
( ´_ゝ`)『全く……ガラにも無い事をさせおって。頑固者が。
今日だけで一生分の真剣さを使い果たしたわ』
jハ*゚ー゚ル『あら。私は正直見直したわよ? ただの変態だと思っていたけど、やれば出来るんじゃない』
(´・ωメ;)『やれば出来るのにやらないのは、やりたくても出来ない無能者と変わらないけどね』
( ´_ゝ`)『……何故、俺は今罵倒されているのだろうな』
言い合いながらも、彼らの視線は固く手を握りあう二人の王に注がれている。
“しあわせなひび”の再現と復讐。
決して届かぬ過去を振り返り続け、憎しみを糧に生きてきた者。【無限陣】ニイト=クール。
彼女の悲しい戦いはこの日終わりを告げた。
そして、クーは新たに生きる意味を。
新たな“しあわせなひび”を築きあげると言う生き方を手に入れたのである。
- 356: ◆COOK./Fzzo :2009/09/14(月) 23:47:47.44 ID:6DTiKndi0
━━━━━数日後。
【金獅子王】ツン=デレは、ニイトとの一連の争いは
【人形遣い】フォックスの陰謀であった旨、天下に公表した。
王都デメララの評議会は、即座にフォックスとの関わりを否定。
官職・称号の剥奪と王都からの永久追放を宣言する。
同日。
【白狼王】ニイト=クールは、もう一人の王位継承権所有者ニイト=ホライゾンの帰還を発表。
更に両国は、このニイト=ホライゾンの名に誓っての連合王国設立を表明。
このあまりに慌ただしい連合は、
ニイトの民は大英雄モララーの子を感涙をもって迎え入れ。
ヴィップの民は王の友の生還を宴をもって祝う形で認められたと言う。
そして。
この一連の出来事は、ツン=デレにとって新たな友を得たと言うだけでは終わらない。
それは同時に、流浪の一団であった彼女らが、リーマンやメンヘルと言った大国と。
互角に戦えるだけの勢力に成長した事もまた、意味しているのであった。
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