( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

3: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:43:34.05 ID:3Vc1+XSSP
登場人物紹介

・アルキュ正統王国

ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王

ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=花飾り 民=リーマン 武器=槍 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税)・千歩将 ツンの付き人

(´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=槍 階級=中書令(立法長官)

从 ゚∀从 名=ハイン 異名=天駆ける給士 民=キール隠密 武器=仕込み箒・飛刀 階級=太府門下内部官(情報・流通)・千歩将

(*゚ー゚) 名=シィ 異名=紅飛燕 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下刑部官(刑罰・警備)・千騎将・黄天弓兵団団長

( ̄‥ ̄) 名=フンボルト 異名=??? 民=??? 武器=直槍 階級=中書門下法部官(法の公布)・千歩将

( ^ω^) 名=ブーン(本名ニイト=ホライゾン) 異名=王家の猟犬 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=近衛侍中(王の警備)・千歩将・白衣白面隊長

川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣 民=ニイト 武器=斬見殺 階級=軍務令(軍務長官)・ニイト公主

・神聖ピンク帝国・法王庁

ル∀゚*パ⌒ 名=アリス=マスカレイド 異名=無し 民=ピンク人 武器=神槍 階級=法王の娘

|゚ノ ^∀^) 名=レモナ=マスカレイド 異名=無し 民=ピンク人 武器=宝剣 階級=法王の娘

爪 ,_ノ`) 名=シャオラン 異名=無し 民=ピンク人 武器=三日月刀 階級=商人

斥 'ゝ') 名=アインハウゼ 異名=無し 民=ピンク人 武器=2本の蛮刀 階級=隠密



4: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:45:14.13 ID:3Vc1+XSSP
第一次革命戦争の戦士達

??? 名=ヒロユキ 異名=無し 民=リーマン 武器=禁鞭 

??? 名=クリテロ 異名=王家の猟犬 民=リーマン(?) 武器=拐 ※鬼籍

( ・∀・) 名=モララー 異名=勝利の剣 夢幻剣塵 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=万将

ミ,,゚Д゚彡 名=フッサール 異名=天使の塵 民=メンヘル 武器=十字槍 階級=???

(`・ω・´) 名=シャキン 異名=常勝将 民=リーマン 武器=??? 階級=???

/;3 名=荒巻 異名=全知全能 民=海の民 武器=??? 階級=???

/ ゚、。 / 名=ダイオード 異名=狂戦士 民=モテナイ 武器=長槍 階級=???

爪'ー`)y‐ 名=フォックス 異名=人形遣い 民=??? 武器=九尾 狐火 鉄斬糸 階級=???

( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=2本の大鉞 階級=上級兵



8: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:46:27.67 ID:3Vc1+XSSP
MAP 〜リポビタンDのCMって10年前の使い回ししても誰も気がつかないよね編〜

http://up3.viploader.net/news/src/vlnews013323.jpg

@キール山脈 未開の地。
 隠密の故郷とも呼ばれる。
 
Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 北部からの寒風の影響で気候は厳しいが、地熱に恵まれている。

Bニイト公国 ヴィップの副都【経済都市】ニイト城を有する
 ニイト族居住地。ヴィップほど寒風の影響はなく、比較的なだらかな地形である。 

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 モテナイ族居住地。山岳地帯。メンヘル族と同盟している。 

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族居住地。アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。メンヘル族と友好関係に有り、リーマンとは度々諍いを起こしている。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族居住地。その大半が岩と砂に覆われている。



10: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:48:11.63 ID:3Vc1+XSSP
・アルキュ正統王国(ヴィップ)
 国主は【金獅子王】ツン=デレ。国旗は黒地に黄金の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。
 ※給士ハインを南に送り込み、出兵の準備に追われている。

・ニイト公国
 公主は【白狼公】ニイト=クール。公旗は青地に白い狼。
 “天に二王無し”の考えから、王家の正統後継者であるツン=デレに王位を返還した。
 とは言え、ヴィップの繁栄はニイトなくしては成らなかった物であり、事実上クーはツンと比肩する実力者である。

・モテナイ王国
 国主は【黒犬王】ダイオード。国旗は赤地に黒犬。
 小さいながらも【黒色槍騎兵団】【赤枝の騎士団】と言う強力な騎士団を持つ軍事国家。
 ※メンヘルとの同盟を一方的に破棄する。国主ダイオードは病に伏せっているとされる。

・メンヘル族
 指導者は【預言者】モナー。
 南の大国【神聖ピンク帝国】の支持を受けている。
 ※神聖国教会と手を組み、フッサールを放逐する。

・海の民
 指導者は艦長【小旋風】妹者。
 島の南部シーブリーズ地区を占拠し、島で唯一塩の製造権を持つ。
 ※領境を巡ってリーマンと争っている 

・リーマン族
 指導者は【評議長】ニダー。
 北の大国ラウンジ王国の支援を受け、今もなお最も栄える民である。
 ※領境を巡って海の民と争っている。ニダー自らツンの元を訪れ、和解する。



15: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:50:04.57 ID:3Vc1+XSSP


     第33章 給士の冒険

ミ,,゚Д゚彡『なんと……愚かな事か』

男は思わず呟いていた。
青年と言うには少し年を取りすぎているようであったし、
中年と言うには少々若すぎる。
彼のような年齢の者を指して、壮年というのだろう。
肩まで伸ばした髪や、伸ばしっぱなしの髭は遠目に見れば黒々としているものの、
鏡を覗きこめば時折白いものを見つけて嫌になる。
全身を包むのは、油でなめした皮鎧と白の戦外套。
手にはマタヨシ聖遺物の一つ、天星十字槍を下げていた。

彼の名はフッサール。
砂漠の民・メンヘル族出身の神官にして戦士だ。
北の大地にて理想を声高に叫ぶ者に同調し、妻子を郷里に残して戦場に立ち早3年。
元より神官として尊敬を集めており、生まれた地を出る際も多くの青年がつき従ったのだが、
どうやらこの男には戦人としての素質もあったらしい。

20を超える戦いの尽くを生き抜き、その殆どで勝利した。
常に味方の先頭に立ち、策を練り、指揮を取り、多くの敵将の首を跳ね飛ばした。
最近では【天使の塵】などという大仰な異名で呼ばれる事もある。

しかし、元来の彼は心静かに聖書を捲る時間を好むような、心優しき性格だった。
どれほど戦士として優れていようとも、戦場に身を置く日々が長くなるごとに、
鬱々として眠れぬ夜が増えていく。

特に、目の前で繰り広げられているような光景を見た時は、特にだった。



16: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:51:46.42 ID:3Vc1+XSSP
積み重ねた死体を焼いていた。
赤い炎が、今にも泣き出しそうな天を背景に燃え上がっている。
立ち昇る煙が灰色の空に溶け込んでいくさまは、まるで死者の魂が受け入れられていくようだ。
その周囲で松明を手にした男達は、何の感情も持たぬ目で、炎を見つめていた。

やがて、死体の山の一部が崩れかけると、一人の青年が巨大な鍬(すき)を突っ込み、山を整える。
あれはきっと、死体の処理に使うものではない。藁の山を整える際に使っていたものだろう、と思う。

砂漠の騎士が立つ荒野はなだらかに広がっており、晴れた日に目を凝らせば大河デメララの影や、アーリーの湖影を見る事も出来た。
手を取り合って開拓すれば、きっと豊かな畑となるだろう。
が、憎しみあうが故、豊穣を約束されたであろう地は、人の身体を焼くだけの地へ成り下がっている。

ミ,,゚Д゚彡『あ……』

と、そこで彼は何かに躓きかけた。
ふと気になって爪先で掘り返すと、現れたのは錆びてボロボロに崩れかけた鉄の刃で。

ミ,,゚Д゚彡『ここは……もしかして……』

注意深く荒野を見渡すと、丁寧に地ならしされた道らしき物があるようにも思えた。
岩くれや戦車の車輪が転がり、荒野と一体化しているが、人の手が加えられたであろう形跡が僅かに残っている。
そして、その両脇で僅かに窪んで伸びているのは、大河から流れを引く用水路の成れの果てではないだろうか?
と、なればここは……

ミ,,゚Д゚彡『神よ……人は何故……何時まで、このような愚かしい行いを続けるのでしょうか』

思わず呟いていた。
そう、この荒野は“開拓すれば豊かになるであろう”地ではない。
人の手によって一度は拓かれながら、その愚行によって豊かさを手放した土地なのだ。



20: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:53:09.58 ID:3Vc1+XSSP
『フッサール様!!』

ミ,,゚Д゚彡『っ?』

突如、呼びかけられて振り返った。
一人の戦士が息を切らせて駆け寄ってくるのが見える。

砂漠の騎士は彼を知っていた。
先年新たに加入したリーマン族の将に仕える、上級兵だ。
同列の身と言う事もあって、彼の上官とは幾らかの親交がある。
しかし、その兵士とは個人的な関わりを持った事はない。
もし、彼が己の事を知っているとすれば、それは互いに戦場で馳せた勇名を聞き及んでの物であろう。

そのリーマン族の将とは、北の大国ラウンジの手足と成り下がった同胞を捨て、理想を選んだ男。
【常勝将】シャキンである。
彼の率いる戦車隊は、常勝無敵の部隊として。敵味方の違いなく、アルキュ中に名を知らしめていた。

現在、戦の大局はバーボン南部・ローハイド北部・デメララ西部を中心に動いている。
平原地帯でのぶつかり合いと、アーリー湖やデメララ河の制水権の奪い合いが、戦術の基本方針となるだろう。
平地決戦に滅法強いシャキンは、今後の活躍が一層期待されている将の一人。今後の戦局を大きく左右するであろう将なのである。
しかし。“今後の活躍が期待されている”と言う意味では、
その上級兵士もシャキンに勝らずとも劣っていないと、もっぱらの噂であった。

顔つきはまだ幼さが残っている。
年が明けてからようやく戦場に出る事を許される年齢になったらしく、元は少年兵部隊に属していた筈だ。
だが、体躯に恵まれ、熊を連想させる巨体は歴戦の戦士たちと並んでも引けを取る物ではない。
戦になると、二本の大鉞を手に誰よりも早く敵陣に飛び込んでいく勇気も併せ持っている。
初陣で2人の千将と5人の百将を討って異名を得るなど、誰にでも出来る芸当ではないだろう。
確か、名前は……



22: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:55:06.66 ID:3Vc1+XSSP
ミ,,゚Д゚彡『【急先鋒】ジョルジュ百歩長でしたか。どうしました?』

(;゚∀゚)『ほ、報告です!!』

滑り込むようにフッサールの足元に膝をつくと、両手を胸の前で組み合わせる。
大きく唾を飲み込んで、乱れた息を強引に整えた。

(;゚∀゚)『ほ、本陣で……師匠様が……あの……あれです!! 早く急いでください!!』

ミ;,゚Д゚彡『いや……“あれです”では全く意味が分からないのですが。シャキンがどうかしたのですか?』

よほど慌てているのか、言葉に要領を得ていない。
如何に優秀な素質を持っていようと、まだまだ幼い。俯瞰的に周囲を見る目が備わっていないのだ。
このままでは戦士としては成功しても、将として多くの者の上に立つ事など出来ずに終わってしまうだろう。
それはあまりにも惜しい損失である。

おそらく、シャキンは自分と同じで、誰かの師たる立場は向いていないのではないか、と思う。
理想主義。完璧主義。自分ひとりで物事を済ませたがる傾向が強く、己の殻に閉じこもりやすい。
フッサールの見る、シャキンとはそのような男だ。
才覚に恵まれ、生徒が失敗を己の糧とする前に、何も言わずに穴埋めしてしまう。
そのような男に、どうして人を育てる事が出来よう。
もし、ジョルジュが将として大成を望むならば、新たな師を求める時期が来ているのでは無いだろうか。

(;゚∀゚)『えっと……とにかく、大変なんですよ!! 誰かが止めないとやばいんです!!』

ミ;,-Д-彡『あー、分かりました。そこまでで結構です』

そこまで聞いて、砂漠の騎士はジョルジュの言葉から状況を探り出す事を諦めた。
それでも、おそらくは本陣でやんごとない騒動が沸き起こっているのだろう事だけは理解できる。
なおも息の荒いジョルジュをその場に残し、ひとりフッサールは本陣に向けて駆け出した。



24: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:56:40.30 ID:3Vc1+XSSP
         ※          ※          ※

2人の男を中心に、兵が輪を作っていた。
その片隅で、一際立派な銀鎧をまとった将が片膝をついている。
鶴縫を身につけた細身の文官が、彼を助け起こそうとしていた。

/#゚、。 /『があああああああああああああっ!!!!!!!!』

2人の男の片割れ。
仮面の戦士が長槍を振るい、もう1人の男に斬りかかった。
宙を踊る長剣を払い飛ばし、道を開く。
対する男は黒髪と藍色の外套を翻して、長槍をひらりひらりと避わしていた。

爪;'ー`)y‐『貴方もしつこい人ですねぇ、ダイオード。
      あの時はお互いに敵味方に分かれていたのですから、仕方が無いでしょう。水に流そうではないですか』

/#゚、。 /『分かっているさ、フォックス!! だから、貴様が死ねば水に流してやると言っているのだ!!』

叫び、再び地を蹴った。
しかし、その槍が外套の男の身に届く事は無い。
彼の身を護る様に宙を踊る9本の長剣に遮られ、白い火花を散らすのみである。

/#゚、。 /『っ!?』

不可視の何かに切り裂かれて、仮面の男の剥きだしの腕から鮮血が噴き出した。
見れば、フォックスと呼ばれた男が全くの無傷なのに対し、ダイオードは全身から血を滴らせている。
だが、それでも仮面の戦士が怯む事は無いだろう。
それこそが【狂戦士】の異名の由縁。



26: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 01:58:11.77 ID:3Vc1+XSSP
ミ;,゚Д゚彡『シャキン!! 荒巻!! これはどうしたというのだ!?』

そこでようやく、砂漠の騎士が騒動の中心に姿を現した。
群がる兵を掻き分け、見知った顔に声をかける。

(メ`・ω・)『……見ての通りだ』

/;3『最近はダイオードも大人しくしていると思ったのですがねえ』

苦々しく漏らす男の声と、泰然とした男の声を同時に耳にしながら、フッサールはガクリと肩を落とした。
これは決闘、いや。私闘の類の物である。
しかも、私闘は一兵卒ですら許されていないというのに今、斬り結んでいるのは革命軍の中心を担う千騎将と千歩将の2人だ。

ミ,,゚Д゚彡『お止めなさい、ダイオード、フォックス!! 私闘は固く禁じられている筈だぞ!!』

爪'ー`)y‐『これは御無体な……私は降りかかる火の粉を防いでいるだけに過ぎませんよ』

/ ゚、。 /『黙れ、フッサール!! 今こそ……この仮面の下につけられたやけど傷の恨み、晴らしてやるのだ!!』

制止の声も虚しく、ダイオードはフォックスに襲い掛かる。
不可視の凶器に身を斬られるのを無視して我武者羅に長槍を振るった。
それを見たフォックスもまた、唇を大きく歪め宙を舞う長剣を仮面の戦士に集中させる。

ミ;,゚Д゚彡『くっ!!』

堪らず砂漠の騎士は、十字槍を握りなおすと、地を蹴った。
この愚かな殺し合いを止めさせなくてはいけない。
そして、その瞬間。

大きく白光が爆ぜ、フッサールは弾き飛ばされていた。



28: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:00:34.39 ID:3Vc1+XSSP
ミ;,゚Д゚彡『な……』

/#゚、。 /『貴様……また、邪魔をする気か?』

爪#'ー`)y‐『しゃしゃりでるのも……大概にして欲しい物です』

弾き飛んだのは、砂漠の騎士だけではない。
仮面の戦士は地に膝をつき、外套の男は周囲をとりかこむ兵の輪の中にまで吹き飛ばされている。
その兵達もまた、輪の中心から突如吹き荒れた爆風に、ひとりを残さす薙ぎ倒されていた。

『やれやれだよ。お前ら、いい加減にしておけよ?』

そして、彼らの中心には1人の青年が立っていた。
クレーター状に抉り取られた大地から濛々と巻き上がる土埃の中、それを気にするそぶりも無く言葉を紡ぐ。
赤糸で縁取られた白い戦外套を身にまとい、
面倒臭そうに右肩に担ぎあげられた大剣の色は、海の青。
金竜を模した唐草飾りを巻きつけた刀身は、長大な二等辺三角形をしている。
子供の胴体ほどの幅を持つ刃の付け根からは垂直に補助柄が伸びていた。

兵士達『お……おぉ……』

兵士達の中にざわめきが起こる。
私闘は禁じられているが、私闘を見物するのは禁じられていない。
そして、千将同士の斬りあいを見物できるだけでも眼福だというのに、
生ける伝説。革命軍唯一の万将が現れたとなれば、興奮するなと言う方が難しいのでは無いだろうか。




( ・∀・)『下がってろよ、フッサール。ここは僕がちょいちょいと片付けてやるよ』



32: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:02:53.86 ID:3Vc1+XSSP
『モララーだ!! 【勝利の剣】モララー様だぞ!!』

兵士達の中から大歓声があがった。
声を聞きつけ、決闘に興味が無く幕舎で寝転んでいた者まで慌てて飛び起きる。
夕餉支度の当番だった兵士達も、竈作りを放り出して駆けつけた。
それほどまでに兵士達を沸きあがらせた本人は、余裕綽々と言った風に手を掲げ、声援に応えている。

/#゚、。 /『ちょいちょいと片付ける、だと? でしゃばり野郎が……ふざけやがって』

爪#'ー`)y‐『そこまで馬鹿にされますと……味方とは言え殺したくなってしまいますねぇ』

ダイオードが立ち上がり、腰をズンと落として長槍を構えた。
フォックスもまた、周囲に長剣を躍らせながら歩を進める。

ミ;,゚Д゚彡『モララー!?』

( ・∀・)『騒ぐなよ、フッサール。僕が負けると思ってるのかよ?』

対するモララーは、やはり大剣を肩に担ぎ上げ、身構えようともしない。
左右を仮面の戦士と外套の男に挟まれているにもかかわらず、だ。
それどころか兵の輪の中に、腰から立派な宝剣を下げた男の姿を見つけると、
いたずらっぽい笑みを浮かべて声をかける。

( ・∀・)『おい、ラーゼ!!』

爪 ゚Д゚)『は、はいっ!!』

( ・∀・)『太鼓を用意させろよ。でっかい音を立てて、50叩くんだ』

ミ;,゚Д゚彡『!?』



33: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:04:16.04 ID:3Vc1+XSSP
爪#'ー`)y‐『それは……音が止むまでに我ら2人を倒す、と言う意味でしょうか?』

( ・∀・)『ハンデって奴だよ。音が止むまで立っていられたら、お前らの勝ちで良いよ。
     でも、時間が勿体無いから、出来れば2人同時にかかってきてくれると嬉しいよ』

/#゚、。 /『そんな……恥を知らぬ真似が出来るはずが無かろう!!』

吼えたのは、ダイオードだ。
怒りのあまりか、剥き出しの両腕に血管が浮き出ている。
筋肉が膨れ上がり、素肌の上に直接着込んだ獣皮鎧が今にも弾け飛びそうであった。

/#゚、。 /『俺に殺らせろ、フォックス。1人で十分だ』

爪#'ー`)y‐『お好きにどうぞ……私は、貴方が敗れた後にゆっくりと殺らせていただきますから』

( ・∀・)『なんだよ、こんな時だけ仲良くしなくてもいいじゃないかよ』

兵士『……』

野生の獣のような怒りをあらわすダイオード。
薄氷の下に紅蓮の殺気を秘めたフォックス。
そして、静かな笑みまで浮かべる余裕を見せるモララー。
3人の剣気に煽られるように後ずさり、兵の輪が数歩分広がった。
それを掻き分け、片手に下げられる程度の小さな太鼓が、到着する。

( ・∀・)『ちゃんとやれよ。失敗したら“西方の焔”は没収するよ? じゃ、始めろ』

合図と共に、ラーゼがばちを振り上げた。

……どぉん。



35: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:06:42.16 ID:3Vc1+XSSP
/ ゚、。;/『っ!! 消え……』

最初の音が鳴り終わるより早く、ダイオードの目はモララーの姿を見失っていた。
輪を形作る兵を背にしたモララーを前にしていた筈が、彼の目に映っているのは、灰色の雲に覆われて低い空。
足元からは大地の感覚も消えている。
見覚えのある仮面が、風に散った花弁のように宙を舞っているのが視界の隅に映った。

何が起こったのか?
モララーの姿が消えたと皆の脳が理解するより早く。
数歩離れた位置のダイオードの眼前に飛び込み。
顎を蹴りあげた。
言葉にすれば“それだけ”の事である。

だが、あまりの速度に目がついていけなかった。
ダイオードの顎が跳ね上げられた瞬間に、モララーの姿は消えた。
そう、あべこべに解した者も少なくなかった筈だ。
“瞬歩法”と言う言葉を思い浮かべた者は、5指にも満たなかっただろう。

『お前、血の気が多すぎるんだよ。ちょっと飯から塩減らせよ?』

/#゚、。 /『……っがあぁっ!!』

ただの一撃で激しく脳を揺すぶられ、意識を飛ばされかけたダイオードであったが、
呆れかえった響きの声が、彼の闘志を繋ぎ止めた。
真っ直ぐ天に向かって跳ね上げられた顎を引き戻し、そこにいるであろう男を睨みつける。
だが。

/ ゚、。;/『…………え?』

だが、彼の目に映ったのは男の顔ではなく、ピタリと揃えられた、左右の軍靴の裏で……



36: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:09:06.56 ID:3Vc1+XSSP
/ 、 ;/『ごふぁっ!!!!!』

熟れきった果実を壁に叩きつけた時のような音を響かせ、モララーの両足がダイオードの顔面に叩き込まれた。
破門鎚を思わせるほどに強力な、中空弾頭脚。
現代風に言えば、カウンターの勢いを利用した、ドロップキックである。
仮面の戦士の身体は大きく反り返ったまま後方に半回転し、顔面から大地に衝突した。
数瞬遅れて、彼の仮面も大地に落下し、当のモララーは土埃一つ立てず着地する。

/# 、  /『貴様……本当に人間か……』

( ・∀・)『当然。これは、私闘の罰だ。悪く思うなよ?』

うつ伏せに倒れるダイオードの髪をつかみ、無理矢理上半身を引き起こす。
砕けた鼻から血を流し、かろうじて意識を保っている男の鳩尾めがけて、渾身の力で鉄靴の爪先を叩きこんだ。

/# 、  /『……ごぇっ!?』

【無限陣】クーに引き継がれる蹴り。
【王家の猟犬】ブーンに託される、瞬歩法の脚力を込めた蹴りである。
幾多の戦場を生き抜いてきた戦士であろうと、厚い獣皮鎧に守られていようと、どうして耐えきる事が出来ようか。
なおかつ、この時彼は完全に筋肉が弛緩きっている状態で受けたのだから、ひとたまりも無い。
血の混じった吐瀉物を撒き散らしてから、ダイオードは自らの生み出した小さな血の池に頭から飛び込み……沈黙した。
しかし、だ。

(;・∀・)『っ!! 伏せろっ!!』

次の瞬間、モララーは意識を手放したダイオードの腰帯をつかみ、その身体を放り投げていた。
大地に勝利の剣を突き立て、兵を背にするように幅広の大剣の影に飛び込む。

と、同時に、彼の体を轟音と爆風が炎と光を伴って包み込んだ。



37: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:11:05.56 ID:3Vc1+XSSP
兵士『うわあああああああああああっ!!!!!』

兵士『ぎゃああああああああっ!!!!!!』

決戦の場は一瞬のうちに阿鼻叫喚の世界と化した。
爆風に身体の一部を千切られた者や、炎に身を焼かれた兵士達が、何が起きたのか分からぬまま重なるように伏せっている。
聴覚を破壊された者が平衡感覚を失って転び、視力をなくした者がそれに躓いて倒れこんだ。
モララーの副官ラーゼは、爆発にこそ巻き込まれなかったものの、手にしていた太鼓は手放してしまっている。
勝利を約束される者・モララーと2人の千将の斬りあいを見ようと押し寄せていた男達も、
今や腰を抜かすか、身体をぶつけ合いながら我先に逃げ出そうしていた。

ミ;,゚Д゚彡『馬鹿な!? “狐火”まで持ち出すだと!?』

/;3『ふぉっふぉっふぉ。しかも、ありったけの“狐火”を投擲したと見ましたぞ。フォックスも本気ですな』

フッサールは思わず、水軍指揮官を任せられている戦術家を睨みつけた。
が、その男。荒巻が出身する海の民は、私闘決闘を禁じていないと聞いた事がある。
楽しみの少ない船の上では賭け事と命懸けの斬りあいは娯楽のようなものだ、とも。
彼らにとって一度刃を抜いたからには、本気で殺しあわなくては意味が無いのだろう。

更に言えば、私闘の見物は禁じられていないが、それは『身の安全は保障しない』と言う、ただし書き付きでの条件。
つまるところ、荒巻の言動には非がないのだが、それでも一宗教の神官である
フッサールにしてみれば、どうしても不謹慎さを感じざるをえない。

(#・∀・)『馬鹿野郎がよ……自衛の為の戦いだって言うなら、泣いて謝れば許してやろうと思ってたのによ』

爪'ー`)y‐『いえいえ、ご心配には及びませんよ。おや? 太鼓の音は止んでしまったようですね』



38: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:13:06.72 ID:3Vc1+XSSP
爪'∀`)y‐『ちょうどいい!! 戦いの終焉は“貴方が全身を切り刻まれるまで”に延長いたしましょう!!』

(#・∀・)『くっ』

愉悦に顔を歪め、フォックスが腕を振るった。宙に浮かぶ九本の凶器が、一斉に剣先を白外套の英雄に向ける。
モララーは大地に突き立てた【勝利の剣】を引き抜き、身構えた。
たとえ幅広の刃の背に身を隠そうとも、最も間近で“狐火”の炎を浴びたのは彼である。
轟音に鼓膜を打たれ、烈光に目を焼かれた。荒野を焦がす煙に嗅覚は狂わされ、熱風にあおられた身体は感覚が麻痺している。

爪'∀`)y‐『はっはっはっ!! どうしましたか、モララー!! 【勝利の剣】も大した事がありませんねぇ!!』

五感のうち四つを潰された状態で、何が出来よう。フォックスは完全に己の勝利を確信していた。
狐が傷ついた野兎を追い詰めた時のように、じわじわと歩を進める。
モララーは大剣の影で身を守る事しか出来ず。
そんな彼の身体を切り刻まんと、飛刀が。九本の長剣が。不可視の糸が襲いかかった。
かろうじて身に受ける事だけは避けるが、白い外套が切り裂かれ、野兎の毛のように宙に散る。

ミ#,゚Д゚彡『っ!! 非道な!!』

爪#゚Д゚)『おのれ、フォックスっ!!』

卑劣極まりないフォックスの攻撃に、思わずフッサールは十字槍を手に歩を踏み出した。
ラーゼもまた、神剣“西方の焔”を鞘抜く。
だが、その時。

(#・∀・)『フォックス……お前、いい加減にしておけよ?』

爪;'ー`)y‐『っ!!』

突然、圧倒的有利にあった筈のフォックスが、何かを避けるかのように大きく背後に跳びずさった。



40: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:14:50.16 ID:3Vc1+XSSP
ミ;,゚Д゚彡『……?』

爪;'Д`)y‐『あ……? うぁ……あぁあ……』

まるで、そこにある事を確認するかのように、ぺたぺたと自身の顔を撫でまわす。
敗北の可能性など微塵も無い戦いだった。
【狂戦士】ダイオードを囮に使っての“狐火”全弾投擲。
この世に存在する、ありとあらゆる者を打ち倒すであろう炎の嵐。
最強の剣神と怖れられた“あの”モララーですら避けきる事は出来ず、赤い風に身を焼かれたのだ。
陰の奏手フォックス、会心の奇襲だった。

一撃で四肢を吹き飛ばす事は叶わなかったが、剣士の命たる視覚・聴覚・嗅覚・触覚は完全に封じ込んだ。
あとは、傷つき血を垂れ流す獲物が倒れこむのを、ジッと見守るかのように、待てば良い。
死から逃れるように地べたを這いずり回る喉笛に、とどめの牙を突き立ててやるだけで良い。
完膚なきまでの勝利を約束された。トンと一押しすれば自然勝利が転がり込んでくる。
そんな戦いの筈だった。

爪;'Д`)y‐『な……何が……竜? ……でも、何処へ……』

それがどうした事か。
フォックスは今、恐怖に震えていた。奥歯が小さく音を鳴らし、全身から噴出した汗が体温を奪い去って、酷く寒い。
視界が歪み、グルグルと回っているように見える。ギヤマンの板を引っ掻いたかのような、不快な耳鳴りが止まない。
しかし、そんな事すらどうでも良かった。

何せ、彼は既に死んだ。既に殺された筈なのだ。
防戦一方だったモララーの身体から突如、紅炎(プロミネンス)が如く剣気が噴き上がり、巨大な白竜の姿を為した。
雷鳴が速さで襲いかかった顎を避わしきれず、己の首は喰らい千切られた筈なのだ。
焼き滅ぼされるかのような痛みの中、一瞬で絶命した筈なのだ。

が、彼の首は胴体の上に乗っており、痛みを感じるどころか、傷一つついていない。



42: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:16:52.57 ID:3Vc1+XSSP
(;メ`・ω・)『……? フォックスは……何をしているのだ?』

ミ;,゚Д゚彡『いえ……分かりませぬ』

そして、フォックスの他には、一人として“白き巨竜”などというものを見た者はいない。
彼らが目にしたのは、圧倒的優勢のフォックスが、突如小さく悲鳴をあげて飛び退いた、という事だけ。
何が、狐を動かした、などと分かる者は只の一人も存在せず。
戦いを最後まで見守ろうとしていた十人ほどの男達は、何が起きたのかと顔を見合わせる。

爪ii'Д`)y‐『今のは……一体……? 幻覚……幻術? いや、違う……そんな生易しい物では……』

(#・∀・)『あぁ、そうだよ。そんなもんじゃないよ』

爪ii'Д`)y‐『っ!? ひぃっ!!』

ボソリと響いた声に、フォックスは我にかえった。
五臓を握り潰され、六腑を吐き出さんばかりに怯えている。
今すぐこの場を逃げ出したい衝動に襲われるが、震える足がそれを許さないのだ。

モララーの五感は、未だ回復していなかった。
猛攻が止んだ今、大剣を杖代わりにしてようやっと身を支えている有様だ。
対するフォックスは、少なくとも外見的には傷一つ負っていない。

だが、しかし。
戦況が完全に覆っているのは、誰の目から見ても明らかだった。
勝利の担い手は滾らんばかりの怒りに瞳を燃やし、
陰の奏手は哀れなまでに顔を青ざめさせている。

静かにそよぐ風が、モララーの外套を揺らした。



43: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:19:24.80 ID:3Vc1+XSSP
(#・∀・)『やりすぎだよ。見物の連中まで巻き込んだとなれば、ダイオードほど手加減は出来ないよ』

爪ii'Д`)y‐『あ……あぁぁ……』

首だけを動かして周囲に倒れ伏す兵に視線を送ってから、白い剣気を全身にまとうモララーが歩を進める。
押されたように、フォックスは後ずさった。
その心中の恐れをあらわすように、九本の長剣はただ大地に転がっている。

(#・∀・)『お前……人の世の歴史の中に、眼の見えぬ剣士、耳の聞こえない戦士がいなかったとでも思うのかよ?』

爪ii'ー`)y‐『な……何を言って……?』

モララーが答えを告げる事は無かった。
海の色をした大剣の柄を両手で握り、顔の前で剣先を天に向けて構える。
身を包む白い剣気が、一瞬だけ鮮やかなオーロラ色に輝く。
瞳は静かに閉じられ、口が小さく動いた。

ミ;,゚Д゚彡『……? 風が……』

(;`・ω・)『……なんだ? おかしいぞ、この風は?』

異変に気付いたのは、一人二人ではなかった。
風は、輪を形作る“全ての兵士達の背後”から、吹いている。
それは、モララーただ一人に向かって。
あたかも、そこが世界の中心であるかのように。そうであるのが決められていたかのように。
蒼き剣の使い手に注ぎ込まれていく。
集い、行く場を失くした風は、勝利の担い手の剣気と混ざり合って、彼の上空に緩やかな竜巻を為した。
そして─────。

( −∀−)『暗き闇より出でよ……。“夢幻、剣塵”』



45: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:22:09.53 ID:3Vc1+XSSP
瞬間。
今までの劣勢が嘘のように、モララーの脚が力強く大地を蹴った。
ただの一歩でフォックスに肉薄し、蒼の大剣を振り上げる。

爪;'Д`)y‐『うわああああああああああああっ!!!!!!!!!!』

恐怖の悲鳴をあげ、狐が腕を振るった。
地に転がっていた長剣が、主の身を守らんとするように、ぶゎぁと宙に舞い上がる。
だが。

ミ;,゚Д゚彡『っ!! あれはっ!?』

だが、それまで。モララーの腕から放たれた神速の突きが、いとも容易くその全てを粉砕した。
あたかも、夜空の星のように長剣の破片が宙に散る。

( ・∀・)『最初は、泣いて謝れば許してやろうって思ってたんだよ。ホントだよ?』

爪; Д )y‐『ぐぶぇっ!!!!!!』

続いて振るわれた、横薙ぎの一撃がフォックスの腹をうちぬいた。
刃ではなく、腹の部分で殴るに止めたのはモララーなりの配慮であり、“殺さぬ程度に痛めつける”だけの加減はしているのだろう。
しかし、その攻撃だけでフォックスの肋骨はへし折れ、口から鮮やかな色の血を吹き出させる。
身体をくの字に曲げて弾き飛ばされた狐は、受身も取れず大地に衝突し、二度三度転がってから動きを静止させた。
天を見る目は大きく見開かれ、ぐるりと白目をむいている。

爪ii Дメ)y‐

(  ・∀)『まぁ、こんなもんだ。僕の勝ちだよ……馬鹿野郎』

宣言を待つまでもない。勝敗は完全に決していた。



47: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:26:15.49 ID:3Vc1+XSSP
( ・∀・)『片付けろ!!』

勝者にのみ贈られる大歓声に軽く応えてから、モララーは残った兵に命じた。
槍に布を張っただけの担架が持ち込まれ、負傷者が治療用の幕舎に運ばれていく。
それはダイオードやフォックスも例外ではなく、同時にこの2人には1月の謹慎が命じられた。
いや。謹慎など命じなくとも、寝台から立ち上がる事すら出来ない筈だ。
シャキンも、ようやく戻ってきたジョルジュと荒巻に両側から肩を支えられ、立ち去っていく。

ミ;,゚Д゚彡『……何と言う強さか』

思わずフッサールは零していた。
遥か北、神話の国を旅して精霊から祝福を受けたと言う噂も、あながち嘘とは思えぬ強さだった。
戦場で敵将に後れを取った経験は少ないとは言え、自身ではフォックスどころか
ダイオードを相手にするだけでも苦戦は免れなかったはずだ。

それを、一人で。しかもあっさりと撃破してしまった。
“狐火”という反則技が無ければ、白の外套を汚す事無く勝利したのではないかと思う。
その場合、あの副官が途中で太鼓を鳴らすのを止めていなければ、10を数える前に戦いは終わっていただろう。
それほどまでにモララーの強さは際立っており、圧倒的だった。

ミ,,゚Д゚彡『……』

今、モララーはフッサールに背を向けて、最後まで戦いを見守っていた女と、何やら話し込んでいる。
距離がある為に何を話しているかまでは聞き取れなかったが、膝まで伸ばした黒髪の美しい女だった。
やがて、女から何やら丸められた布を受け取り、かわって傷ついた外套を脱いで女に手渡す。
軽い口づけを交わし、ラーゼに連れられて歩み去って行く女の背を少しだけ見送ってから、フッサールに振り返った。

( ・∀・)『よぉ、おまたせだよ』



49: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:27:37.87 ID:3Vc1+XSSP
2人の男は、肩を並べて万将用の幕舎に向けて歩き出した。
フッサールの手には、天星十字槍。
モララーは蒼の大剣を右肩に担ぎ上げている。その刀身に巻きつけられているのは、先程女から受け取った布だ。

ミ,,゚Д゚彡『今の女性は……?』

( ・∀・)『あ? 妻だ。クルウと言う』

何気なく発せられた一言に、フッサールは目をぱちくりとさせた。
【勝利の剣】モララーの妻と言えば、ヒロユキの妹ペニサスであったはずだ。
彼女は兄と同じ、美しい金髪を誇っており、先程の女は見事な黒髪である。
思わず口を半開きにする砂漠の騎士に、モララーは悪びれもせずに説明を始めた。

( ・∀・)『クルウは最初の妻だよ。幼馴染でよ。15になると同時に籍を入れたんだよ。
     よくない事があって心を病んでいるが……良い女だよ。
     ペニサスは6人目の妻だ。その事は、ペニサスもヒロユキも納得している』

ミ;,゚Д゚彡『はぁ……』

( ・∀・)『神話の国には2人。ラウンジにも1人、妻がいる。
     スピリタスの妻は、子を孕んだと便りを寄越したよ。
     こいつは書を読むのが好きな控えめな女でな……』

ミ;,゚Д゚彡。oO(うわぁ)

この時代、有力貴族であれば妻と妾を持つ事は珍しい事ではない。
が、主の妹を妻にしながらも他の女を『妻』と呼ぶ男など、世界の何処を探しても存在しないだろう。
また、生涯ひとりの女を愛するのが当たり前と考えていたフッサールにはあまりに衝撃的な告白で。
そんな砂漠の騎士の無言の非難に気付いたのか、取り繕うようにモララーは口を開く。



50: ◆COOK./Fzzo :2010/04/18(日) 02:29:25.68 ID:3Vc1+XSSP
(;・∀・)『あ……いや、やっぱり1人だけ特別扱いするのは良くないと思うんだよ。
      ほら、僕ぐらいになると、平等に愛を振りまかないとと言うか……』

ミ;,-Д-彡『個人の思想に口を挟む気はありません。
      ただ、その性格がお子様に引き継がれないようにとは、神に祈らせていただきましょう』

言って、フッサールはわざとらしく両手を組み、祈りの言葉を紡いだ。
如何に同意の元とは言え、彼の6人の妻が寂しい想いをしているであろう事は想像に難くなく。
彼女達の為にも、これくらいの嫌がらせはしてもよいだろう。

英雄色を好む、と言う。
だが、英雄が例外なく好色なのではないし、好色だから英雄と言うわけでもない。
むしろ、この男の場合は剛毅であるのと同時に、優柔不断な部分も強いのではないか、とフッサールは思う。
強がって見せようとはしているが、結局はひとりを選べなかっただけではないだろうか。

余談になるが、諸兄らもご存知の通り、フッサールの懸念は的中し、祈りは神に届かなかった。
この優柔不断な性格は後に彼の息子へと継がれていくのだが……。

ミ;,-Д-彡『貴方の最期は、そのあまりの強さが仇になるか、寝台の中で女性に刺されて……となる気がしますよ』

(;・∀・)『はは……どっちも遠慮させてもらいたいよ』

先の戦いで見せた圧倒的強さは何処へ消えたのか。
モララーは身を縮こまらせ、呟くように答える。
それでも何とかこの場の空気を変えようと思ったのか、精一杯の声で口を開いた。

(;・∀・)『そ、それにしても兵も増えたが、馬鹿も増えて困ったもんだよ。
     なんとかしないと駄目だよなぁ』

ミ,,゚Д゚彡『む?』



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