( ^ω^)がどこまでも駆けるようです
- 7: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:50:30.67 ID:M9rbxiAPP
- ・登場人物紹介
- ・アルキュ正統王国
- ξ゚听)ξ 名=ツン(ツン=デレ) 異名=金獅子王 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王
- ミセ*゚ー゚)リ 名=ミセリ 異名=花飾り 民=リーマン 武器=槍 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税)・千歩将 ツンの付き人
- ( ゚∀゚) 名=ジョルジュ 異名=急先鋒 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長
- (´・ω・`)名=ショボン 異名=天智星 民=リーマン 武器=槍 階級=中書令(立法長官)
- 从 ゚∀从 名=ハイン 異名=天駆ける給士 民=キール隠密 武器=仕込み箒・飛刀 階級=太府門下内部官(情報・流通)・千歩将
- ノパ听) 名=ヒート 異名=赤髪鬼 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・千歩将
- (*゚ー゚) 名=シィ 異名=紅飛燕 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下刑部官(刑罰・警備)・千騎将・黄天弓兵団団長
- ( ,,゚Д゚) 名=ギコ (本名ハニャーン) 異名=九紋竜 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・万歩将
- ( ^ω^) 名=ブーン(本名ニイト=ホライゾン) 異名=王家の猟犬 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=近衛侍中(王の警備)・千歩将・白衣白面隊長
- (,,^Д^) 名=プギャー(本名タカラ) 異名=鉄牛 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長
- 川 ゚ -゚) 名=クー(本名ニイト=クール) 異名=無限陣 民=ニイト 武器=斬見殺 階級=軍務令(軍務長官)・ニイト公主
- 爪゚ー゚) 名=レーゼ 異名=神算子 民=ニイト 武器=長剣 階級=太府令(財務長官)
- 爪゚∀゚) 名=リーゼ 異名=金槍手 民=ニイト 武器=突撃槍 階級=近衛侍中(王の警備)・千騎将・天馬騎士団団長
- 9: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:51:30.89 ID:M9rbxiAPP
- ・モテナイ王国
- / ゚、。 / 名=ダイオード 異名=狂戦士 串刺し公 黒犬王 民=モテナイ 武器=二本の短槍 階級=モテナイ王
- (=゚ω゚)ノ 名=イヨゥ 異名=繚乱 民=モテナイ 武器=斧槍 階級=黒色槍騎兵団長 万騎将
- ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 名=スパム 異名=天光弓姫 民=モテナイ 武器=大弓 階級=千歩将 遊撃歩兵部隊長
- ('A`) 名=ドクオ 異名=第三の男 三番目 民=モテナイ 武器=短槍 飛礫 階級=???
- ・メンヘル族
-
- (´∀`) 名=モナー 異名=預言者(七英雄) 民=メンヘル 武器=??? 階級=指導者
- ミ,,゚Д゚彡 名=フッサール 異名=天使の塵 砂漠の涙(七英雄) 民=メンヘル 武器=天星十字槍 階級=司祭。神聖騎士団団長(十二神将・第一位)
- (*゚∀゚) 名=ツー 異名=不敗の魔術師 民=メンヘル 武器=三本の山刀(かみつき丸・つらぬき丸・なぐり丸) 階級=砂亀騎士団団長(十二神将・第二位)
- lw´‐ _‐ノv 名=シュー 異名=光明の巫女 民=メンヘル 武器=??? 階級=十二神将・第三位
- ( ゚∋゚) 名=クックル 異名=神の巨人 民=??? 武器=拳術 階級=十二神将・第五位(モナーの護衛)
- 10: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:52:19.06 ID:M9rbxiAPP
- ・神聖ピンク帝国・法王庁
- ??? 名=トマス1世 異名=無し 民=ピンク人 武器=??? 階級=法王
- ル∀゚*パ⌒ 名=アリス=マスカレイド 異名=無し 民=ピンク人 武器=神槍 階級=法王の娘
- 斥 'ゝ') 名=アインハウゼ 異名=無し 民=ピンク人 武器=2本の蛮刀 階級=隠密
- ・神聖ピンク帝国・教皇庁(神聖国教会)
- ??? 名=ストーン1世 異名=無し 民=ピンク人 武器=??? 階級=教皇
- (’e’) 名=セント=ジョーンズ 異名=無し 民=ピンク人 武器=??? 階級=教皇の息子
- ・海の民
- l从・∀・ノ!リ人 名=妹者 異名=小旋風 民=海の民 武器=??? 階級=帆船【グラッパ号】艦長
- _、_
- ( ,_ノ` )y━・~~~ 名=渋沢 異名=破軍 民=海の民 武器=死神の爪 階級=帆船【グラッパ号】副艦長
- 12: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:53:19.22 ID:M9rbxiAPP
- ・MAP 〜南クンの恋人編〜
- ※http://up3.viploader.net/news/src/vlnews017222.jpg
- @キール山脈 未開の地。
- 隠密の故郷とも呼ばれる。
-
- Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
- 北部からの寒風の影響で気候は厳しいが、地熱に恵まれている。
- Bニイト公国 ヴィップの副都【経済都市】ニイト城を有する
- ニイト族居住地。ヴィップほど寒風の影響はなく、比較的なだらかな地形である。
- Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
- モテナイ族居住地。山岳地帯。メンヘル族と同盟している。
- Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
- 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。
- Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
- リーマン族居住地。アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。
- Fローハイド草原
- 中立帯だが、リーマンの力が強い。
- Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
- 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。メンヘル族と友好関係に有り、リーマンとは度々諍いを起こしている。
- Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
- メンヘル族居住地。その大半が岩と砂に覆われている。
- 13: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:54:12.34 ID:M9rbxiAPP
- ・アルキュ正統王国(ヴィップ)
- 国主は【金獅子王】ツン=デレ。国旗は黒地に黄金の獅子。
- 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。
- ※打倒神聖国教会軍を目的に大号令を発し、南征を開始する
- ・ニイト公国
- 公主は【白狼公】ニイト=クール。公旗は青地に白い狼。
- “天に二王無し”の考えから、王家の正統後継者であるツン=デレに王位を返還した。
- とは言え、ヴィップの繁栄はニイトなくしては成らなかった物であり、事実上クーはツンと比肩する実力者である。
- ・モテナイ王国
- 国主は【黒犬王】ダイオード。国旗は赤地に黒犬。
- 小さいながらも【黒色槍騎兵団】【赤枝の騎士団】と言う強力な騎士団を持つ軍事国家。
- ※大号令に同調するも、国主は病に臥せっている……?
- ・メンヘル族
- 指導者は【預言者】モナー。
- 南の大国【神聖ピンク帝国】の支持を受けている。
- ※神聖国教会軍によって事実的に支配されている。
- ・海の民
- 指導者は艦長【小旋風】妹者。
- 島の南部シーブリーズ地区を占拠し、島で唯一塩の製造権を持つ。
- ※特になし
- ・リーマン族
- 指導者は【評議長】ニダー。
- 北の大国ラウンジ王国の支援を受け、今もなお最も栄える民である。
- ※ヴィップと和睦し、共にモスコーへ向けて兵を挙げる
- 17: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:55:39.61 ID:M9rbxiAPP
- 第34章 月下美人
- 突然だが、諸兄らは【金獅子王】が御世当時のアルキュ文化と言えば、何を思い浮かべるだろうか?
- 例えば、ギムレット地方の温泉。
- 【黒犬王】ダイオードによって甦った、モテナイ族の彩色豊かな伝統衣装。
- 海の民によって伝えられた、緑茶や包など東方に由来する生活様式。
- 【王都】デメララでは貴族層が競って高い塔を建設し、【神都】モスコーでは華やかな絵画文化が咲き誇っている。
- 当然、姓を持たないアルキュの民が持つ、異名の存在を挙げる方々も少なく無いだろう。
- だが、私は何よりも全土に共通する、重厚感溢れる石造建築物の存在を挙げたい。
- アルキュと言う島は、極端に木造建築物の数が少ない。
- モスコー領スピリタスやキール山脈などで良質の花崗岩が採掘される為、建築石には不自由する事が無いのだ。
- その最たる例が【羅王】ミルナの治める【大神殿】シルヴァラードであり、
- 岩山を刳りぬいて都市を為している程である。
- そして、何より面白いのは、世界的に稀有なほど気候差の激しく、4つの民族が覇を競った小島において、
- 全土で平等に石造建築文化が発達したと言う事実であろう。
- 北部では厳しい寒波から身を護る為に。南部では陽光と潮風を避ける為に、人々は石造家屋を築いてきた。
- それでもやはり、そこには個性豊かな各民族の特色が現れている。
- 宗教が生活の一部として根付いていたメンヘル族は、石柱や飾り窓に神話の1シーンを彫り込む事を好んだ
- 実質剛健、鉄の大国ラウンジからの影響を強く受けるリーマン族は、より高い塔を建てる事で権威を誇示しあった。
- ニイト族は【無限陣】ニイト=クールによって商業国家への転身を遂げているが、
- 彼女が文化面では強固なまでの復古主義者であった為に、独特の素朴な文化は失われなかった。
- もし、草原の一角に家畜小屋と一体化した石造建築物を見つけたら、それはニイト族の住まいと見て、ほぼ間違いが無いだろう。
- 例外的なのは失地の民モテナイ族で、元々遊牧生活を営んでいた彼らは土地に対する執着が薄く、重厚な家屋に対する拘りも殆ど無い。
- 彼らの帰る家は油でなめした獣皮のテントであり、大自然の驚異に立ち向かうのではなく、受け入れてきた、ただ一つの民族であった。
- 18: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:56:48.88 ID:M9rbxiAPP
- 天為・人為の違いはあれど、リーマン・メンヘル・ニイトの3民族の間で
- 石造建築文化が発達した背景にあったのは、外敵からの防衛。もしくは避難と言う目的が主であろう。
- 隆起した大地の高低差。
- 南北から吹き付ける季節風の影響。
- そして、戦火に焼かれる時間があまりに長すぎたアルキュ島における必然的傾向として、
- 人々は常により頑強な家屋の建設に頭を悩ませ続けてきた。
- 今も尚、数百年前の戦火を耐え抜いた建築物に、当たり前のような顔をして人々が生活をしているのだから、
- その頑強度は折り紙つきである。
- だが、この日の夜【神都】モスコーの神殿宮を形作る石壁は、外部からの防衛とは異なる形で、
- 自身の存在意義を主張させられていた。
- 預言者の間に通ずる樫材の大扉は固く閉じられ、その前では無表情な2人の兵士が周囲に睨みをきかせている。
- 兵士『……』
- 皮鎧の左胸に貼り付けられた聖印を見れば、それが【預言者】モナーの新たな支援者、
- 神聖国教会の者だと容易に想像できる。
- が、不思議な事に深く被った兜の下の素顔を見知っている者など、10万の国教会軍の中に一人として存在しない。
- 当然、国教会の兵に扮したメンヘル族の兵と言うわけでもない。
- つまり、今この時、預言者の間は国教会軍でもメンヘル族でもない、別の勢力の者によって警護されていたと言う事になる。
- では、国教会の者もメンヘルの者も例外なく近づく事すら出来ぬ密室で、何が起こっているというのか?
- もし、何らかの手段で扉をくぐれる者があったならば、
- その者は天井のステンドグラスを通す柔らかな月明かりに照らされた
- 数人の男達の姿を目にする事が出来たであろう。
- 21: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 21:58:04.51 ID:M9rbxiAPP
- 老人『一体、この先……どうなってしまうのかのぅ』
- 青年『そんな事俺に聞かれても……』
- 神の都と讃えられるこの街の夜は浅い。
- 日中、強すぎる陽光から身を隠していた住人達は、夜が更けて気温が下がってから、市を出歩くのを好んだ。
- 肌を焼く陽射しにも負ける事無く街中を走り回っていた子供達を寝かしつけると、大人たちの時間が始まる。
- 夫婦の営みを為す者も少なくはないが、男達は酒場で札遊びに興じ、女達は書を捲るのが、一般的なメンヘル族の夜の楽しみ方であった。
- 普段であれば一定の間隔を開けて立てられた灯柱に明かりがともされ、街を照らしている時刻。
- しかしこの夜、灯柱に光は無く、市に人影も少ない。
- 囁きあう人々の視線の先では、モスコーの象徴たる神殿宮が普段と変わらぬ姿を薄闇の中に浮かび上がらせ、それが一層不安を掻き立てる。
- 中年の男『とにかく……マタヨシ様にお祈りするしかないだろう……』
- 商人『祈る? 祈ってどうなるって言うんだ? 祈って救われるなら、何故こんな事になっている?』
- 男の悲観的な嘆きの言葉を、不敬であると咎められる者などいなかった。
- ヴィップの【金獅子王】ツン=デレが聖地に駐屯する神聖国教会に対して大号令を発した事も、
- そのヴィップが評議会と共に侵攻して来るであろう事も、このモスコーでは路地裏の乞食ですら知っている。
- 同盟関係にあった筈のモテナイは一方的に条約を破棄してツン=デレに従い、シーブリーズの妹者が国教会と交戦を開始したとの噂もある。
- このような状態では酒を飲んでも味が分からず、書を開いても言葉が頭に入らないのが当然だったと言えよう。
- こんな時、アルキュにおける神の代理人。【預言者】と呼ばれる事を許された者が姿を見せていれば、どれ程彼らの不安も和らいだ事か。
- が、神殿宮は相も変わらずひっそりと其処にあるだけで、普段であれば歩き回っている筈の、夜間警備の兵の姿すら見当たらぬ。
- 夜の帳は重苦しく人々の頭上に覆い被さり、彼らに出来る事といえば祈るような気持ちで天を仰ぐ事だけであった。
- 外部からの防衛とは異なる意味での石壁の存在意義。
- それすなわち、外界と屋内の境界を遮断し、情報漏洩を防ぐ事。
- つまり、今この時、預言者の間では決して公には出来ない密談が交わされているのである。
- 25: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:00:05.19 ID:M9rbxiAPP
- 『どうするモナ!? まさかツン=デレとニダーが手を組むとは……完全に想定外モナ!!』
- 甲高い叫び声が密室の空気を揺らした。
- 月光に照らされた者達の数は4人。
- ただし、落ち着きなく騒いでいるのは先の男のみ。
- 1人は絹張りの座に浅く腰を下ろして、それを愉快そうに。
- 1人は綽々たる笑みを浮かべて。最後の1人は我関せずと言ったふうに彼を見つめている。
- (’e’)『はっはっは。確かにこれは困ったな』
- (#´∀`)『笑い事じゃないモナ!!』
- その時、風に雲が流され、一際強く月明かりが室内を照らし出した。
- まず、悠然と腰を下ろす男に今にも掴みかからんとしているのは【預言者】モナーである。
- メンヘル族最高指導者の証たる五色のターバンに髪を包み、ゆったりした純白の被りの絹衣を身にまとっている。
- が、その表情に数多くの計略策略をもって評議会と渡り合ってきた男の影はない。
- 差し迫る破滅の足音に怯え、狼狽する男の姿がそこにあった。
- そして、只1人、座に腰を下ろす男の名をジョーンズ公セントと言う。
- 神聖国教会初代教皇ストーン1世が長子。
- また、モスコー駐屯軍を率いる国教会7太子が一角にして、最高司令官である。
- その権力は聖地管理者たるモナーですら比較にならぬほど強く、
- 生まれつき人の上に立つ事を約束されていると信じきっているような振る舞いさえも様になっていた。
- (’e’)『戯れだ。許せ。だが、想定外と言っても対処できぬ訳ではあるまい』
- 言って、座の背後に控え笑みを浮かべている男にチラと視線を送る。
- 応えるように、その者は唇に当てていたパイプを離した。
- ややあって、毒々しい紫色の煙を静かに吐き出す。
- 26: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:02:19.66 ID:M9rbxiAPP
- 『くすくす。モナーよ。全く貴方と言う人は慎重を絵に描いたようなお人だ』
- (;´∀`)『モナっ!?』
- 密室に阿片の甘い毒の香りが漂った。
- 薄闇の中にあっても、男の瞳が惑ろみの中にいるように虚ろなのが見てとれる。
- 讃える言葉で、ぞの実は嘲られていると分かって、モナーは怒りと羞恥から顔を赤らめた。
- ( ゚∋゚)『……』
- 最後の一人。
- 【神の巨人】クックルは主が貶められていると知って尚、表情一つ動かさない。
- むしろ、この力関係が当然の物と受け取っているのではないだろうか。
- ( ´∀`)『慎重で何が悪いモナ!! ……モナはこうやって生きてきた……このモスコーを守ってきたモナ!!』
- (’e’)『悪くないさ。策に頼り圧倒的な力に惧れを抱くのは、臆病者の本能。弱者の特権だ。
- そんな惨めな生き様を否定するほど私は傲慢ではない。
- 真の支配者には無能な凡夫の不安を解消してやる義務がある……全く、損な役割よ』
- ( ´∀`)『……っ』
- 一人の男の哀れな自尊心をズタズタに引き裂いたのがよほど楽しかったのか。
- セントは満足げに唇の両端を持ち上げた。
- 堪えきれぬと言うふうに、しばらく小さく笑ってから身体を捻り、背後に立つパイプの男に振り返った。
- (’e’)『さて、親愛なる陰の王よ。【預言者】様は不安で不安で夜も眠れぬそうだ。
- 我らが友に心の安らぎを得ていただく為の策を示してくれぬか?』
- 『ふむ……そうですねぇ』
- 29: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:03:41.40 ID:M9rbxiAPP
- 『では、神聖ピンク帝国の法王を名乗る逆賊が、7日後に暗殺される……と言うのはどうでしょうか?
- トマスなる反逆者に裁きが下ったと知れば、正統なる神の代理人たる教皇庁のつわものどもの士気は否応にも高まりましょう』
- (;´∀`)『っ!!』
- モナーは愕然と立ちつくした。
- 男の言葉は、予言の体裁を借りた予告だ。
- 少なくともモナーは、暗殺と言う分野に関してこの男の予告が外れたのを知らないし、
- 法王の暗殺予告など、これまた【預言者】の地位にある彼ですら聞き及んだ事の無い程の不逞行為である。
- 深酒をしすぎた場での軽口であっても許される言動ではない。
- だが、しかし。
- (’e’)『あっさり殺すなよ。恥辱にまみれ、苦しみぬいての死こそヤツには相応しい』
- 『……御意』
- セント=ジョーンズはあっさりとそれを容認しただけでなく、死に様の注文までつけてみせた。
- 男もまた、深々と頭を垂れ、その言葉に従う意思を表す。
- 政治闘争に敗れたとは言え、セントにとっても法王とは傅くべく存在である筈だ。
- にも拘らず、その言動。
- 権勢欲とはかくも人を狂わせる物なのか? それとも、彼の生まれ持った性質なのか?
- その事がモナーの常識では考えられず、また空恐ろしく感じる。
- 『どうなさいました? なにやら、まだ不満がありそうですねぇ』
- ( ´∀`)『……』
- と、そこでモナーは男の視線が自身に注ぎ込まれている事に気付いた。
- その者は、わざとらしく黒い長髪をかきあげてみせる。
- 首に巻いた瀟洒な桃色の薄絹がふわりと揺れた。
- 30: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:06:05.67 ID:M9rbxiAPP
- 『では……そろそろ、目障りな魔女めを討ち取るとしましょうか?
- そろそろ準備が整うとの報告も入っておりますので』
- (’e’)『ちょうど良い……退屈をしていたところだ。我自ら出陣してやろう。
- ツーとか言う女は、裏切り者フッサールの娘なのだろう?
- 血祭りにあげ我らが神への戦勝祈願の供物としてやろうではないか』
- ( ´∀`)『……そんな事をしても無駄モナよ』
- モナーの呟きは、セント=ジョーンズの大笑に掻き消された。
- 信仰の道に目覚めてより、五十幾年。
- 彼の崇める神が血の捧げ物を好んだなどと言う話は聞いた事もない。
- そして、もし天上の住人がフッサールの血縁と言う理由で砂漠の魔女の命を求めるならば、
- それもまた意味のない事だという事も、彼は知っているのだ。
- 『しかし……ジョーンズ公だけに面倒事を押し付けると言うのも、心苦しいですねぇ』
- ( ゚∋゚)『あぁ。俺も出陣しよう』
- ここにきて、それまで沈黙を貫いてきたクックルが低く声を発した。
- チラ、とモナーをさげずむように一瞥する。
- おそらく【預言者】の力無き呟きは、赤毛の巨人の耳にだけは届いていたのだ。
- ( ´∀`)『……』
- だが、クックルは主である筈のモナーに賛同するそぶりも見せなかった。
- つまりは、そう言う事なのだ。
- 呟きなど聞こえなかったと言うふうに振舞ってくれれば遥かに気が楽だと言うのに、
- そのような心遣いをする気も、する必要も既に無いのであろう。
- 32: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:07:46.84 ID:M9rbxiAPP
- ( ´∀`)『……モナの知らぬうちに種は蒔かれ……深く深く根を張り巡らせていたと言う事モナか』
- (’e’)『己の無能を嘆く必要は無いぞ、モナーよ。それが貴様の生まれ持った器であったというだけの話だ。
- 我からすれば、驚きに満ちた人生を送る貴様が羨ましくてならぬわ』
- モナーの漏らした言葉の真意など読み取れていない、的外れな嘲笑などまるで気にかからなかった。
- が、その無反応を愚鈍による物だと判断したのだろう。
- セント=ジョーンズは殊更満足げに頷いた。
- 『私の不可視の糸は、既に全てを絡め取っております。御安心下さい』
- (’e’)『おいおい、親愛なる陰の王よ。その糸はまさか、この我すらも絡め取っていると言うのではあるまいな?』
- 『御冗談を。巨象を絡めるに糸では役に立ちません。神話にある天の鎖でも用いなければ』
- 言って、長髪の男はペコリと芝居じみた礼をしてみせる。
- あまりにも見え見えのおべっかであるのだが、それすらも上機嫌な公子殿の琴線に触れたのだろう。
- 天を仰ぎ、両手を叩き合わせながら大笑した。
- しばらくし、両目に浮かんだ涙をふき取ってから、おもむろに座から立ち上がる。
- (’e’)『賢き友との一時は愉快でならぬが……今宵はここまでにしようか。
- 明日は楽しい楽しい“狩り”が控えているのでな』
- 白く輝く絹外套を翻し、答えも待たずに大扉に向けて歩を進めた。
- まるで時を示し合わせていたかのように、扉がゆっくりと外より開かれていく。
- (’e’)『5000だ。夜が明けるまでに、我に相応しい精鋭を揃えておけよ、モナー』
- 吐き捨てるような口調で告げ、高笑いを響かせながら大扉の先にある闇の中に歩み去る。
- 【神の巨人】クックルも巨体を揺らしながら己の寝所に向かい、長髪の男は何時しか阿片の煙だけを残して消えていた。
- 35: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:08:57.31 ID:M9rbxiAPP
- ※ ※ ※
- ( ´∀`)『……』
- 一人だけになった謁見の間。
- ようやく己のもとに帰ってきた絹貼りの座に腰を下ろし、モナーは脱力したかのように天井を見上げていた。
- 謁見の間のシンボルとも言える大天井のステンドグラスにはポルカ・ミゼーリア。
- つまり、聖美母神が彼に向けてたおやかな笑みを浮かべている。
- ( ´∀`)『くだらぬ……夢を見たモナ』
- 小さく呟いていた。
- 己の理想を。野望を実現させる為に、この座を誰かに譲るわけにはいかなかった。
- いや、権勢欲を持たぬフッサールであれば、いずれは自身に席を譲り渡そうとしただろう。
- そうなれば、かつてよりも互いの立場を理解でき、良い関係が築けていたかもしれない。
- しかし、当時の彼はそこまで考えが回らなかった。
- 悲観し、酒に逃げるほか無いと思っていたところに投げ込まれた甘い誘惑。
- それに夢中で飛びついた。そして、気付いた時には只の数日のうちに全ては手遅れになっていて……このザマだ。
- どれ程強大な権力を持っていようと、セント=ジョーンズなど怖くはない。
- 何故なら、セント=ジョーンズとは傀儡(くぐつ)の糸の存在にも気付かず踊り狂う、哀れな人形に過ぎないからだ。
- 踊らされているという意味では、預言者も教皇家の公子も違いはない。
- が、糸繰る者の存在を知っているかいないかでは、そこに天と地ほどの差が生じる。
- 結局のところ、本当に戦うべき相手は“あの男”ただ1人なのだ。
- 一体、いつから策を練っていたと言うのか?
- 十数日前まで忠実な護衛であった男が神将の座に着いたのが14年前。
- きっと、クックルは“あの男”と何らかの密約を結び、メンヘルに潜入していたのだろう。
- ならば、その頃には既に“あの男”は確かな野心を抱いていたと言う事になる。
- 38: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:10:47.54 ID:M9rbxiAPP
- ( ´∀`)『考えてみれば……当然モナね』
- 14年前。
- それは【王都】デメララに暗殺人形が暗躍した年であり、【勝利の剣】モララーが命を落とした年だ。
- 更に、その前年には【統一王】ヒロユキが急逝を遂げている。
- もし、ヒロユキの娘【金獅子王】ツンの公表した事実が正しいとすれば、
- “あの男”は己が野心の為にその全てに関わっている筈なのだ。
- ( ´∀`)『14年……気が遠くなるような時間モナね』
- 権謀術策で己の右に出る者はいないと思っていた。
- しかし、今となってはそれも児戯に過ぎない程度の物だったと思う。
- “あの男”も、常にこうなる事を考えていたわけではないだろう。
- が、逆を返せばどのような状況に追い込まれようとも最前の一手を打てるだけ根を深く張っていたと言う事。
- 深く、広く、幾重にも。
- 朝露を集めて碗を満たすような思いで、舞台を整えてきたのに違いないのだ。
- それを陰湿とか、執念深いとかと嘲る者もいるだろう。
- しかし、世の中の深慮遠謀を刃とする者達に言わせれば、それは裏返せば辛抱強いと言う事。
- すなわち、優れた策術家の条件という事にもなる。
- 何故なら策とは突き詰めれば、荒地を耕し、石を取り除き、水路を引き……最後は豊かな農地に生まれ変わらせるような。
- 確かな計画性と強い意思力を無くして成り立たないものだからだ。
- モナーとて策士の端くれであるから、分かってしまう。
- 自身と“あの男”の間には乗り越え難い壁がある。
- そして、その壁を越えて先に進むには、彼はあまりにも無為に時を過ごしすぎてしまった。
- 何と言う事は無い。
- 彼もまた、セント=ジョーンズと同じく、箱庭を世界の全てだと思い込んでいる蟻に過ぎなかったのだ。
- 今となれば、その考えの矮小さが恥ずかしく思えてくる。
- けれど、世界の真の広大さに気付いた今。箱庭は完全に閉ざされてしまっていて。
- 41: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:12:23.97 ID:M9rbxiAPP
- ( ´∀`)『だが……モナもこのままでは終わらないモナよ……』
- だが、それでもモナーは諦めるつもりは無かった。
- ぎゅうと音が鳴るほど強く、座の肘掛を握り締める。
- 既に兵権も政権も、その内実を失い、首を縦に振るだけの人形としての価値しか己には無い。
- かの北の大英雄すらも葬り去った“あの男”に、自身が勝てるなどとは思っていない。
- けれど、彼もまたヒロユキを支えた英雄達の一人にして、一つの民の頂点に立つ者。
- 【統一王】七英雄。【預言者】。聖地管理者。
- メンヘル族1000年の歴史の中で育まれ、引き継がれてきた誇りを継ぐ者として。
- そして、己の名と名誉に賭けて。
- このまま敗れるわけにはいかぬのだ。
- “あの男”の真意までは計りきれない。
- 表面では【金獅子王】ツン=デレと【評議会】への復讐。
- 互いに利害の一致した、神聖国教会と結んでいるに過ぎぬと公言している。
- しかし、策術家の本能が『それだけではない』と叫んでいる。
- もっと、恐ろしい。
- 全てを無茶苦茶にしてしまうような、何かをまだ胸の奥底に隠し潜めているような気がしてならぬ。
- 故にまだ、道を降りる事は出来ない。
- 例え一度は権力の誘惑に心揺らごうとも、彼の根底にある物はメンヘルの民への、
- アルキュという島への、そして神への揺るぎない愛だ。
- だからこそ、自分だけの。
- 自分にしか出来ないやり方で戦わねばならない。
- ( ´∀`)『フッサール……許すモナ。
- モナはきっと、お前の娘に最低最悪の絶望を与える事になるモナよ……。
- でも……モナ達の時代の残り火は……何としてでも次を生きる者達に繋げてみせるモナ……』
- 43: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:13:57.95 ID:M9rbxiAPP
- モナーに残された武器は少ない。
- まず、聖地管理者の証・聖杯。
- 次に、限られた者しか知らぬ幾つかの小さな秘密。
- 最後に、評議長ニダーと長年渡り合ってきた頭脳。
- たったの、それだけだ。
- おそらく、既に“あの男”の眼中に己の姿は無い事は承知している。
- 今のモナーが命を保っていられるのは聖杯の行方を明かしていないからだけであって、
- もしそれを明かしてしまえば、次の夜明けを待たずして“処分”される程度の存在に過ぎない。
- そして、だからこそ策を成就させるだけの隙が生じる。
- ( ´∀`)『モナも……甘く見られた物モナ。これだけ揃っていれば十分モナよ。
- 貴様が繰る糸の数本くらいは噛み千切ってやるモナ。
- 例え、この島の全てを暗黒で覆おうとも、地を照らす光明の一筋だけは護ってみせるモナ』
- 力強い眼差しで、彼を見おろす聖母図を見つめる。
- 既に裁きを受ける覚悟は整った。
- 欲に染まり道を踏み外した身が、死した後に天上の楽園に招かれる事は決してあるまい。
- 紅蓮の業火に焼かれ、無限の苦しみを味わう事となるのだ。
- だが、己が死は必ず明日を歩む者達の道となる。
- であれば、何を恐れる必要があろうか。
- もし、恐れる物があるとすれば、それは暗闇の中で神の慈愛を忘れてしまう事のみである。
- ( ´∀`)『モナは……この美しい微笑みをあと何度見る事が出来るモナかね……』
- ならばせめて、生きているうちに美しき女神の微笑みを両の目に焼き付けておきたい。
- 男の擦れた様な呟きが、閉ざされた空気の中に悲しく溶け込んでいった……。
- 45: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:15:33.99 ID:M9rbxiAPP
- ※ ※ ※
- ここで舞台は南へ移る。
- 金銀に輝く海の上、錨を下ろした数隻の船が静かに揺れていた。
- その中央には、一際巨大な船が鎮座している。
- 帆船グラッパ号。
- 海上戦闘にて敵無しを謳われる、海の民が主艦である。
- 10を数える大船の中でも最も巨大なそれは、甲板に1000人の大人を並べる事が可能。
- 左右には12門ずつの大筒を、船尾には竜を模した一際大きな鉄筒が備え付けられている。
- 投石台や射槍砲も完備しており、あたかも海上の要塞とでもいうべき風体であった。
- それだけではない。
- 海に生まれ海で死ぬと言われる者達にとって、船とは一種の“街”でもあるのだ。
- 深夜ゆえ暖簾を畳んではいるが、陽も出れば衣服や調度品。はたまた飾り細工や家具までも扱う市が甲板上に広がる。
- 刀剣の類は支給されるとは言え、砥ぎ屋も商売に精を出していたし、
- 唯一見ない物といえば完全配給制の飯を扱う者達。
- とは言え、酒や菓子、果実類などの嗜好品を売る店は連日賑わいを見せている。
- 今は深い眠りの中にあっても、女子供や腰の曲がった老人まで船に乗り込んでいるのだ。
- そんなであるから、当然夜の見張りも厳重に行なわれている。
- 帆を畳んだマストの先では2人の男が遠見眼鏡を手に鋭い視線を走らせ、
- 甲板には一定間隔で水では消えぬ炎を湛えた灯台が並んでいた。
- 更に、当直の男達が精度の低い酒を手に、寝ずの番を務めている。
- 海原に煌く銀の輝きは月明かり。
- 金の輝きは炎の煌きである。
- アルキュ海沿いに住む者達は、その美しさを讃えて“夜海の宝石”と呼んだと歴史書には残っている。
- 48: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:16:49.13 ID:M9rbxiAPP
- 从ii Д从『……ちくしょう……』
- その甲板で、給士は仰向けに倒れこんでいる。
- 男達が土足で駆け回った板貼りの甲板。
- 清潔を好しとしている筈のハインであるが、そんな事を気にするだけの余裕もなかった。
- 指一本動かすのも。息をするのも辛い。
- 視界には夜の帳に散りばめられた、満天の星。
- 夜露が頬を濡らし、風が頬を撫でていくのが、妙に心地よく感じられるのがどこか不思議だった。
- 从ii Д从『……この……ハインちゃんともあろう者が……』
- 【統一王】ヒロユキの時代から戦場に立っているジョルジュやフッサールほどの経験は無いが、
- 彼女もまたヴィップが誇る勇者の一人である。
- 山を駆け、草原を走り、河上を行く。様々な戦場で幾多の敵と戦い、その全てに勝利してきたのだ。
- しかし、今回の敵は勝手が違いすぎた。
- 彼女が戦ってきた者達の中で最も強大であり、恐ろしかった。
- 勝てない。
- 心の底からそう思った。
- 从ii Д从『っ!! また……きやがった……』
- 突如、給士は内臓をかき回されているかのような衝動に襲われた。
- 跳ね起きるように立ち上がると、夜警の兵を突き飛ばし、船縁から上半身を海上に乗り出す。
- ─────そして。
- 从ii Д从『おぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜……げろげろげろ』
- 52: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:19:27.52 ID:M9rbxiAPP
- 斥;'ゝ')『……なんだい、ちびっこ。また吐いてやがるのか』
- 星空を肴に酒を楽しんでいた男が、呆れ果てたふうに給士の背をさすりはじめた。
- が、給士にはかけられた声に答えるだけの余裕もない。
- 胃は腹の中で暴れまわり、五臓を海に放り捨てられたら、どんなに楽かと思う。
- ようやく人心地つけたハインは、懐紙で口元を拭い、それを海に放り捨ててから甲板に倒れこんだ。
- 斥;'ゝ')『部屋で大人しく寝ていれば良かろう。夜の風は身に毒と言うものだ』
- 从ii Д从『……だってよ……部屋で吐きたくねぇんだもん』
- 斥;-ゝ-)『まぁ……そりゃ、そうだな』
- 給士ハインが出会った、人生最大の強敵。
- それが船酔いである。
- 共にこのグラッパに乗船した、この男がケロリとしているにも拘らず、彼女は連日の船酔いにひどく苦しめられていた。
- 眼に見える敵ならば一部の例外を除いて負けるつもりは無いが、
- 己の三半規管に敵があるとなると、【天翔ける給士】といえども勝ち目は無いらしい。
- 斥 'ゝ')『だが、ちびっこ。お前も船旅は初めてではない筈だろう?』
- 从ii Д从『うるせぇよ、オッサン。……海は初めて……うぷっ』
- 落ち着く事無くハインは再び海上に身を乗り出させ、男はわざとらしく肩をすくめた。
- この者は、名をアインハウゼ=クーゲルシュライバーと言う。
- 姓を持つ事からも分かるよう、彼はアルキュ島の住人ではない。
- 神聖ピンク帝国・法王トマス1世が長女レモナに仕える執事にして隠密である。
- 給士とは数日前に初めて出会い、互いの初印象は最悪だったものの、今では憎まれ口を叩きあえる仲となっている。
- 从ii Д从『げろげろ〜〜〜』
- 54: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:21:13.11 ID:M9rbxiAPP
- l从・∀・ノ!リ人『なんじゃ……騒がしい客人達じゃな!!』
- と、そこへ新たに語りかけてきた者がいる。
- バッサリと切り揃えた赤茶色の髪の上に、肩幅ほどもある麦藁帽子を乗せた少女だ。
- 身に纏うは、年季の入った黒絹の戦外套。背には帆に描かれているのと同じ、黄金の髑髏が刺繍されている。
- 小柄なハインより更に2指(5〜6cm)ほど背が低く、その為外套の裾を引き摺ってしまっているが、気にもかけていないようだ。
- その身長に比例するように体つきもハインとどっこいどっこいであるが、
- 年明けに元服を迎えるという彼女にはまだまだ成長の可能性が残されているのが、給士には少々口惜しい。
- 斥 'ゝ')『妹者よ。騒がしいのはこっちのちびっこだけだぜ。一緒にしないで欲しいもんだ』
- l从・∀・ノ!リ人『そうか? それはすまなかったのじゃ、オッサンハウゼ』
- 斥 'ゝ')『……テメェ、今わざと間違えやがっただろ?』
- あからさまに執事が落ち込んだのを見て、少女はケラケラと笑った。
- 彼女の名は妹者。
- 一見して年端も行かぬ少女のように思えるが、彼女こそ海の民頭領にして、帆船グラッパの艦長である。
- 10年前、リーマンとメンヘルの大戦争にメンヘル陣営として参戦した海の民は、
- その戦いで当時の頭領【花和尚】父者を失った。
- 所謂ローハイド事変であり、その彼を斬った者こそ【急先鋒】ジョルジュであったのだが……閑話休題。
- まだまだ男盛りであり、ヒロユキの革命においても一角を担った最高指導者を亡くした海の民は大混乱に陥る。
- その2年に亘る混乱を治めたのが、先の頭領の忘れ形見・妹者と言うわけだ。
- 父の残した忠臣の働きもあったであろうが、当時彼女は僅か齢6歳であったのだから、只者ではない事が御理解いただけよう。
- 後世の歴史家達の中には、水上戦闘に限定すれば評議会水軍提督【全知全能】スカルチノフや
- ヴィップの軍神【無限陣】クーを凌駕する才能の持ち主であると評価する者も少なくない。
- 人呼んで【小旋風】の妹者。
- 全ての海の民の信望と尊敬を身に浴びる存在であった。
- 56: ◆COOK./Fzzo :2010/07/04(日) 22:23:05.41 ID:M9rbxiAPP
- l从x∀xノ!リ人『痛っ!!』
- だが。
- そんな少女の頭を、背後から小突く者があった。
- ほっそりした長身に、やはり黒絹の戦外套を纏い、その背に刺繍された髑髏は月明かりのような銀色。
- 尖った顎に、細く垂れた瞳。潮に焼けた顔には深い皺が刻まれているが、決して老けこんでいるというわけではない。
- 針金のような身体は引き締まった筋肉に包まれており、どことなく引き絞った長弓を連想させる。
- _、_
- ( , ノ` )『オッサンにオッサンって言うんじゃねぇよ』
- \ζ
- _、_
- ( ,_ノ` )y━・~~~『本当の事を言うのは失礼ってもんだ。
- 頭髪が気になりだす年齢の男って言うのはデリケートな生き物なんだぜ』
- 斥;'ゝ')『そそそそそそそんな事は無いっ!! 俺はオッサンでもなければ禿げでも無いっ!!!!』
- 慌てて若草色のターバンを押さえ込んだアインハウゼを見て、一同の頭の中に『図星』と言う単語が思う浮かんだ。
- この男、名を【破軍】渋沢という。
- 父者が妹者に残した忠臣の1人であり、海の民副頭領である。
- 何故だか、当時はまだ珍しい紙巻を常に唇の端に銜えており、妹者などは事につけて『煙い』『臭い』と文句を言っていた。
- 実を言えば、渋沢はアインハウゼよりも随分と年長者にあたるのだが、だからと言って彼を擁護するつもりはないらしい。
- 続けて甲板に大の字に横たわる給士に視線を移すと、ニヤと薄い唇の片端を持ち上げた。
- _、_
- ( , ノ` )『よぉ。食料係が感謝してたぜ』
- \ζ
- _、_
- ( ,_ノ` )y━・~~~『お前さんがゲーゲー吐くから、魚が寄ってきて簡単に捕まえられるそうだ』
- 从ii -∀从『あぁ……そうかよ。感謝するなら、明日からハインちゃんの飯には魚を出すな、って伝えておいてくれ』
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