( ^ω^)がどこまでも駆けるようです

4: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:04:59.32 ID:/fcTSHIfP



〜登場人物紹介〜

・アルキュ正統王国

ξ゚听)ξ 【金獅子王】ツン=デレ(ツン・22) 民=リーマン 武器=禁鞭 階級=アルキュ王 

(*゚ー゚) 【紅飛燕】シィ(23) 民=リーマン 武器=細身の剣と外套 階級=司書門下刑部官(刑罰・警備)・千騎将・黄天弓兵団団長

(‘_L’)  【白鷲】フィレンクト(63) 民=リーマン 武器=長剣・鉄棍 階級=尚書令(行政長官)・千騎将・青雲騎士団団長

|(●),  、(●)、| 【第六天魔王】ダディ(42) 民=??? 武器=直槍 階級=中書門下法部官(法の公布)・千騎将・戦鍋団団長

( ̄‥ ̄) 【不自由な自由騎士】フンボルト(33) 民=??? 武器=直槍 階級=中書門下法部官(法の公布)・千歩将

jハ*゚ー゚ル 【祝福の鐘】ハルトシュラー(ハル・25) 民=ラウンジ 武器=二本の鉄扇 階級=太府門下内部官(情報・流通)・千歩将

从 ゚∀从 【天翔ける給士】ハイン(24) 民=海の民 武器=仕込み箒・飛刀 階級=太府門下内部官(情報・流通)・千歩将



5: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:05:47.84 ID:/fcTSHIfP
・南征第一軍

( ゚∀゚) 【急先鋒】ジョルジュ(40) 民=リーマン 武器=大鎌 階級=司書令(司法長官)・万騎将・薔薇の騎士団団長

(´・ω・`)【天智星】ショボン(32) 民=リーマン 武器=槍 階級=中書令(立法長官)

ノパ听) 【赤髪鬼】ヒート(23) 民=リーマン 武器=鉄弓・格闘 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・千歩将

( ,,゚Д゚) 【九紋竜】ギコ(32) (本名ハニャーン) 民=メンヘル 武器=黒い長刀 階級=尚書門下工部官(土木・建築)・万歩将

ミセ*゚ー゚)リ 【花飾り】ミセリ(21) 民=リーマン 武器=槍 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税)・千歩将

ミ,,゚Д゚彡 【天使の塵】フッサール(60) 民=メンヘル 武器=天星十字槍 階級=マタヨシ教司祭。軍務官鎮国士・千騎将

lw´‐ _‐ノv  【光明の巫女】シュー(23) 民=メンヘル 武器=??? 階級=軍務官南征士・千歩将



6: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:06:43.06 ID:/fcTSHIfP
・南征第二軍

( ^ω^) 【王家の猟犬】ニイト=ホライゾン(ブーン・22) 民=ニイト 武器=勝利の剣 階級=近衛侍中(王の警備)・千歩将・白衣白面隊長

川 ゚ -゚) 【無限陣】ニイト=クール(クー・24) 民=ニイト 武器=斬見殺 階級=軍務令(軍務長官)・ニイト公主

爪゚ー゚) 【神算子】レーゼ(23) 民=ニイト 武器=長剣 階級=太府令(財務長官)

爪゚∀゚) 【金槍手】リーゼ(23) 民=ニイト 武器=突撃槍 階級=近衛侍中(王の警備)・千騎将・天馬騎士団団長

( ´_ゝ`) 【金剛阿】兄者(33) 民=海の民 武器=手斧・兄者玉 階級=尚書門下戸部官(戸籍・租税担当)・千歩将

(´<_` ) 【金剛吽】弟者(33) 民=海の民 武器=手斧・弟者砲 階級=司書門下刑部官(刑罰・警備担当)・千歩将

(,,^Д^) 【鉄牛】プギャー(本名タカラ・38) 民=モテナイ 武器=拐 階級=白衣白面副長・百歩長

( ・×・) 【笑面虎】ハートマン(本名レナード・32) 民=??? 武器=拐 階級=白衣白面隊員

ル∀゚*パ⌒ アリス=マスカレイド(19) 民=ピンク人 武器=神槍 階級=法王の娘

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi 【天光弓姫】スパム(22) 民=モテナイ 武器=大弓 階級=千歩将 遊撃歩兵部隊長



7: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:07:28.25 ID:/fcTSHIfP
・リーマン族

<丶`∀´> 【翼持つ蛇】ニダー(50) 民=リーマン 武器=??? 階級=評議長

爪'ー`)y‐ 【人形遣い】フォックス(58) 民=??? 武器=九尾 狐火 飛刀 階級=無し

(`・ω・´) 【常勝将】シャキン(58) 民=リーマン 武器=??? 階級=バーボン領主 元帥

/;3  【全知全能】スカルチノフ(60) 民=リーマン 武器=??? 階級=水軍提督

( ФωФ) 【国士無双】ロマネスク(26) 民=リーマン 武器=??? 階級=禁軍武芸師範

从'ー'从  【一丈青】ワタナベ(25) 民=リーマン 武器=狼牙棍 階級=評議長近衛部隊隊長

( <●><●>)  【天目将】ワカッテマス(35) 民=リーマン 武器=??? 階級=王都警備部隊隊長

(-_-)  【鉄壁】ヒッキー(30) 民=リーマン 武器=鉄鎚 階級=千騎将。鉄柱騎士団団長

\(^o^)/ 【帝雲天君】オワタ(31) 民=??? 武器=二本の大剣 階級=フォックスの部下 

( ,'3 ) 【神機秀士】バルケン(26) 民=リーマン 武器=??? 階級=水軍副提督

( "ゞ) 【鉄大虫】デルタ(28) 民=リーマン 武器=??? 階級=千騎将

( ・−・ ) 【神火将】シーン(28) 民=リーマン 武器=??? 階級=千歩将

( `ー´) 【神水将】ネーノ(27) 民=リーマン 武器=??? 階級=千歩将

J( 'ー`)し 名=カーチャン 民=リーマン ※ ヒッキーの母



8: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:08:10.55 ID:/fcTSHIfP
・モテナイ王国

/ ゚、。 / 【黒犬王】ダイオード(52) 民=モテナイ 武器=魔槍コトリ・魔棘 階級=モテナイ王

(=゚ω゚)ノ 【繚乱】イヨゥ(25) 民=モテナイ 武器=斧槍 階級=黒色槍騎兵団長 万騎将

川l.゚ ー゚ノ! 【春風の少女】ナナ(12) 民=モテナイ ※ イヨゥの妹。

(.≠ω=) 【一枝花】ロシェ(27) 民=モテナイ 武器=??? 階級=軍師・赤枝の騎士団長

(=゚д゚)  【青面獣】ラギ(23) 民=モテナイ 武器=小剣 階級=万歩将

( ´ー`) 名=シラネーヨ(35) 異名=??? 民=??? 武器=??? 階級=領主補佐

('A`) 【第三の男】ドクオ(22) 三番目 民=モテナイ 武器=短槍 飛礫 階級=???



9: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:09:06.27 ID:/fcTSHIfP
・海の民

l从・∀・ノ!リ人 【小旋風】妹者(14) 民=海の民 武器=??? 階級=帆船【グラッパ号】艦長 頭領
  _、_
( ,_ノ` )y━・~~~ 【破軍】渋沢(45) 民=海の民 武器=死神の爪 階級=帆船【グラッパ号】副艦長 副頭領

N| "゚'` {"゚`lリ 【白花蛇】阿部(42) 民=海の民 武器=鉄鎖 階級=???

・神聖ピンク帝国・法王庁

??? トマス1世 民=ピンク人 武器=??? 階級=法王

|゚ノ ^∀^) レモナ=マスカレイド(21) 民=ピンク人 武器=宝剣 階級=法王の娘

爪 ,_ノ`) シャオラン=ディードリッヒ(27) 民=ピンク人 武器=三日月刀 階級=商人

斥 'ゝ') アインハウゼ=クーゲルシュライバー(37) 民=ピンク人 武器=2本の蛮刀 階級=隠密



11: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:09:59.75 ID:/fcTSHIfP
・メンヘル族
 
(´∀`) 【預言者】モナー(59) 民=メンヘル 武器=??? 階級=指導者

(*゚∀゚) 【不敗の魔術師】ツー(24) 民=メンヘル 武器=三本の山刀(かみつき丸・つらぬき丸・なぐり丸) 階級=砂亀騎士団団長

( ゚д゚ ) 【羅王】ミルナ(29) 民=メンヘル 武器=拳術 階級=十二神将・第四位

( ゚∋゚) 【神の巨人】クックル(37) 民=??? 武器=拳術 階級=十二神将・第五位(モナーの護衛)

( ・へ・)【打虎将】ジタン(30) 民=メンヘル 武器=鎚鉾(メイス) 階級=六翼騎士団団長(十二神将・第六位)

(-@∀@) 【断罪の聖印】アサピー(35) 民=メンヘル 武器=??? 階級=神父 十二神将・第九位

川д川 【雷獣】貞子(24) 民=海の民 武器=闘神 階級=十二神将・第十位

( ∵) ビコーズ(?) 民=メンヘル 武器=長槍 階級=六翼騎士団副団長

パー゚フェ 【斬馬刀】パフェ(15) 民=メンヘル 武器=斬馬刀 階級=神官戦士

・神聖ピンク帝国・教皇庁(神聖国教会)

??? ストーン1世 民=ピンク人 武器=??? 階級=教皇

(’e’)  セント=ジョーンズ(30) 民=ピンク人 武器=??? 階級=教皇の息子



14: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:11:07.04 ID:/fcTSHIfP
・MAP 〜アナルとアヌスの違いを調べていたら半日が終わっていた編〜

http://up3.viploader.net/news/src/vlnews017609.jpg

@キール山脈 未開の地。
 隠密の故郷とも呼ばれる。

Aヴィップ(ギムレット高地) 首都は【獅子の都】ヴィップ城
 北部からの寒風の影響で気候は厳しいが、地熱に恵まれている。

Bニイト公国 ヴィップの副都【経済都市】ニイト城を有する
 ニイト族居住地。ヴィップほど寒風の影響はなく、比較的なだらかな地形である。 

Cモテナイ王国 首都は【戦士の街】ネグローニ
 モテナイ族居住地。山岳地帯。メンヘル族と同盟している。 

Dバーボン地区 首都はバーボン城。 本来は中立領だが、リーマンの影響下にある。
 領主は【元帥】シャキン。現在は【鉄壁】ヒッキーが領主代行を務めている。

Eデメララ地区 首都は【王都】デメララ
 リーマン族居住地。アルキュの中心とも言える土地。もっとも気候がよく住みやすいとされる。

Fローハイド草原
 中立帯だが、リーマンの力が強い。

Gシーブリーズ地区 首都はシーブリーズ。
 海の民の根城であり、表面上は中立地帯。メンヘル族と友好関係に有り、リーマンとは度々諍いを起こしている。

Hモスコー地区 首都は【神都】モスコー。
 メンヘル族居住地。その大半が岩と砂に覆われている。



16: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:11:53.16 ID:/fcTSHIfP
・アルキュ正統王国(ヴィップ)
 国主は【金獅子王】ツン=デレ。国旗は黒地に黄金の獅子。
 王都の評議会派と差異を明らかにする為、国号は首都名と同じくヴィップを使用している。
 ※打倒神聖国教会軍を目的に大号令を発し、南征を開始する

・ニイト公国
 公主は【白狼公】ニイト=クール。公旗は青地に白い狼。
 “天に二王無し”の考えから、王家の正統後継者であるツン=デレに王位を返還した。
 とは言え、ヴィップの繁栄はニイトなくしては成らなかった物であり、事実上クーはツンと比肩する実力者である。

・モテナイ王国
 国主は【黒犬王】ダイオード。国旗は赤地に黒犬。
 小さいながらも【黒色槍騎兵団】【赤枝の騎士団】と言う強力な騎士団を持つ軍事国家。
 ※大号令に同調するも、国主は病に臥せっている……?

・メンヘル族
 指導者は【預言者】モナー。
 南の大国【神聖ピンク帝国】の支持を受けている。
 ※神聖国教会軍によって事実的に支配されている。

・海の民
 指導者は艦長【小旋風】妹者。
 島の南部シーブリーズ地区を占拠し、島で唯一塩の製造権を持つ。
 ※特になし

・リーマン族
 指導者は【評議長】ニダー。
 北の大国ラウンジ王国の支援を受け、今もなお最も栄える民である。
 ※ヴィップと和睦し、共にモスコーへ向けて兵を挙げる



18: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:14:12.99 ID:/fcTSHIfP


     第35章 魔術師 還らず

メン;`Д´)『ぎゃっ!!』

山頂から雨霰と降り注ぐ投石の一つを額に受けた兵士が、悲鳴をあげ大きく仰け反った。
崖を駆け上がろうとしていた足は蹈鞴(たたら)を踏む事も出来ず宙を虚しく蹴り、
やがてバランスを崩した身体は急な斜面を転がり落ちていく。

メン;゚Д゚)『う、うわぁぁぁぁっ!! こっちに来るなぁっ!!』

メン;゚∀゚)『ひゃぇぇぇぇぇっ!!』

何とか投石を避わしていた数人の兵士が、彼の意に反した体当たりを身に受けて、弾き飛ばされた。
第二次、第三次的に被害は拡大し、その様はまるで、小規模な雪崩のようだ。
全ての者が岩肌にしがみつき、何とか態勢を整えようと試みるが、到底叶わぬ。
運良くその場に留まる事が出来たとしても、数瞬の後には転げ落ちてきた別の兵士の巻き添えとなるのがオチである。
その連鎖は、彼の身体が傾斜が緩やかな地に到達するまで終わる事は無いのだ。

メン#)Д´)『ぐふぇえっ!?』

彼もまたその例に漏れず、盛り上がった岩肌に身をしたたかにうちつけた事で、ようやく人の津波から解放された。
意識こそ途絶えていないものの、全身の打撲が酷く、仰向けに倒れたまま動く事も出来ない。
やけに鮮明な視界の片隅で、太陽を背に山頂に立つ小さなシルエットが見てとれた。

が、それも数秒。
続けて勢い良く転落してきた別の兵士の下敷きにされ、彼は今度こそ意識を手放した。



20: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:16:55.82 ID:/fcTSHIfP
(*゚∀゚)『手を休めるんじゃないよっ!! 狙う必要なんか無い!! 片っ端から叩き落してやるさっ!!』

あの兵士が最後に見た、山頂の影が叫ぶ。
山間の戦いから、2ヶ月が経過しようとしていた。
【不敗の魔術師】ツーは……未だ抗戦を続けている。

水のある高台。地の利を得られているのは、確かに大きなメリットだろう。
が、味方は掻き集めた敗残の兵。陣容も急遽それらしき体裁を整えただけの物に過ぎない。
尚且つ、数十倍の軍に包囲されているにも拘らず、これだけの日数を耐え抜いているのだから、驚異的な継戦能力である。

山頂に陣を構えてから最初にツーが行なった事は、全ての弓矢の使用を禁止させる事であった。
高見から敵を見おろせる場合、弓矢は非常に有効な攻撃手段となる。
が、それ故に底をついた時の士気の低下は計り知れぬ物となり、長期戦において戦意の糸が切れる事は何よりも恐ろしい。
例え、急ごしらえで作らせたとしても限度があるだろうし、精度も強度もたかが知れている事だろう。
ならば、最初から頼らぬほうが良い、と彼女は考えたのだ。

それに代えて砂漠の魔女が採用したのが、投石による攻撃である。
軽視され気味ではあるが、使う場所さえ間違えなければ投石は弓矢によるそれと比肩する遠距離攻撃手段だ。
飛距離こそ弓矢に劣るが、高地に陣取ればその不利を随分と穴埋めする事が出来る。
訓練も必要なく、足元に幾らでも転がっていて、製造の手間もかからない。
更に、まともに喰らった時の衝撃は盾や鎧でも防ぎきる事が出来ず、投石器を使えば威力は倍加する。
そして、手巾の端を手首に縛り付けるだけで、遠心力を利用した簡単な投石兵器は作れてしまうのだ。

もし、これが平地に陣を構える同士の戦であれば、飛距離のある弓に軍配が挙がるだろう。
しかし、戦の勝敗とは装備や兵力の優劣のみで決まるものではない。
己の持つ力を知り、使いこなせる者こそが、真に戦局を支配できるのだ。
第二次大戦当時、ドイツ軍は世界最高峰のピストルと言われたワルサーP38を手にソビエト連邦に攻め込んだ。
しかし、複雑な構造のワルサーは寒冷地において故障が多発し、厚い手袋をつけていては修理もままならない。
結局、単純な構造のトカレフを装備したソビエト軍に撃退されてしまう。
古今の違いはあれど、百戦しても危うからぬ条件と言う物は変わらない物なのだ。



22: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:19:30.05 ID:/fcTSHIfP
(*゚∀゚)『気持ちで負けるんじゃないよっ!! スイートハートな一撃をお見舞いしてやるさっ!!』

兵士達『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!』

天割れ、地を揺らす声が、魔女に続いた。
“不敗”を名乗るを許された、無二の存在。メンヘル十二神将・第二位ツー。
今ではその称号など剥奪されているかもしれない。
けれど、それに何の意味があろうか。
傷つき、腹を空かせ、渇きに苦しみ、ろくに睡眠も取っていないというのに、山塞側の士気は寄せ手を遥かに上回っていた。
神将の位に無くとも、【不敗の魔術師】は健在なのである。

(*゚∀゚)『親父様は必ず援軍を連れて帰ってくるさねっ!! アタシ様を信じろっ!!』

もう、何十回と無く繰り返した言葉で、疲れきった兵を鼓舞する。
包囲軍は数の利を生かすことを考えたか、昼夜を問わず攻め込んできた。
そして、ツーは常に先頭に立って、かつて肩を並べて戦った者達を迎え撃ったのである。

運び込めた食料も、底を尽きかけている。
腹に入れられる物と言えば、叩いて柔らかくした木の枝を浮かべたスープや、1人1抓みの麦を入れた草粥だけ。
目の下にクマを貼りつかせ、頬はこけ、垢に汚れ、泥にまみれ、髪はバサバサなくせに脂で潰れている。
が、それでも彼女はあたかも本当の魔女のように、休み無く陣中を駆け回った。
兵の輪に混じり、諦めそうになっている男達を励ましてきた。

一度、包囲軍から射ち込まれた矢の一本が山頂に届き、彼女の腕に突き刺さった事がある。
しかし、それでも彼女の心は折れなかった。
力任せに矢を引きぬき、鏃に肉片を絡みつかせたそれを投げ捨てる。
そして、仕返しとばかりに山頂の林に転がっていた倒木を転げ落とし、逃げ惑う包囲軍を見おろして呵呵大笑してみせたのだ。
必ず助けは来る。
その言葉を兵に信じさせ、心の何処かで湧きあがる不安を押さえ込み、抵抗を続けていたのである。



24: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:21:13.56 ID:/fcTSHIfP
爪 ,_ノ`)『水がねぇ?』

兵士『いえ、随分と減ってしまった……と言うだけなのですが』

|゚ノ ^∀^)『……』

元・神聖ピンク帝国の塩商人シャオランと公女レモナが、
水の管理を任せられている兵士から相談を受けたのは、そのような日の事であった。

爪 ,_ノ`)『何処かの馬鹿が夜中にコソコソ盗み飲みしてる可能性は……ねぇか』

兵士『はい。ツー様ですら喉の渇きを耐えてらっしゃる事は皆知っておりますし……
   昨夜は私自身が見張りに立ちましたが、そのような不届き者は現れませんでした』

浅黒く日焼けした顔の半分を髭で覆われたその兵士は、裸の上半身に汗を浮かび上がらせている。
モスコー地区でも比較的涼やかな山岳地帯とは言え、陽が頂点にある時刻となれば、やはり過ごしやすいとは言いがたい。
ほぼ一方的に遠距離攻撃を仕掛けられる高みに陣を構えている優位もあって、
殆どの山塞軍将兵達が、似たような格好で陣内を歩き回っていた。

唯一の例外が、マスカレイド家の公女様である。
『椿の蕾か、一途な処女か』と言われるほど堅苦しく生真面目なレモナからすれば、やはり陣中では鎧を纏って欲しいと思う。
が、主将であるツーやシャオランでさえ布地より素肌の割合が多いような服装なのだから、強く言う事も出来ない。

そもそも、マタヨシ教の教えでは女性が人前で肌を晒す事を禁じている。
砂漠の魔女のように、布キレを肌に貼りつかせているだけの格好をしている者の方が、異常なのだ。
自称“男”のレモナであっても、これは譲れぬ範囲内の事であるらしく、
幕舎を出る際には青銀塗りの全身鎧を隙間なく着込み、暑苦しい戦外套まで纏っていた。
そして、汗を浮かび上がらせた身体に、時折吹きつける風を浴びて涼しげな顔をしている男達を、もの羨ましそうに眺めては、
褌一枚の格好でフラフラと出歩く一部の者にいささか私怨の混ざった怒声をぶつけていたのである。



26: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:22:35.78 ID:/fcTSHIfP
兵士『ツー様には、水場に異常があったらすぐに伝えよと厳命されております。ですが……』

爪 ,_ノ`)『あぁ、分かってるさ』

兵士『我らが陣を構えた2月前と比べ、水位は半尺(約15cm)程下がっております。
   しかも、この数日の減りが早いようにも見えるのです。
   もし、水が枯れれば……我らは干からびて死ぬほかありません』

|゚ノ ^∀^)『……』

山頂中央の大池は彼らの籠城戦を支える生命線であったからか、ツーはしつこい程に水の残量を気にしていた。
この池があるからこそシャオランは山間の戦いで敗れた者達の逃亡先にこの地を選んだのであるし、
長期に亘る抗戦も可能であったのである。

兵士『いかがなさいましょうか? やはり、ツー様にお知らせした方が……』

|゚ノ ^∀^)『いや、それには及ばないさ』

そのツーの姿がこの場に無いのは、夜半から昼前まで続いた攻撃を凌ぎきり、幕舎内で仮眠を取っているからだ。
五日ほど前に増援が加わったのを機会に、寄せ手側の攻撃は一層激しいものとなった。
その全てにおいて兵の戦闘に立つ魔女は、一日に1刻(約2時間)の睡眠も取れていないのではないだろうか?

神聖ピンク帝国出身の2人を含め、他の者は1日に2〜3刻(約4〜6時間)の睡眠を取っている。
当然、周囲はツーにも身体を休めるよう強く言っているのだが、彼女自身がなかなかそれを是としない。
陽の高いうちは頂に仁王立って敵陣に睨みをきかせ、夜は草を枕に星を眺めている。
その姿は、まるで何かを待っているかのようであり……陽光が強く、包囲軍の動きもないであろう刻に、
まどろむ程度の眠りに入るのだ。
そんな彼女であったから、シャオランやレモナにも、この兵士がツーの睡眠を妨げたくない、苦労を増やしたくない
と考える気持ちも十二分に理解できるのだった。



27: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:24:48.47 ID:/fcTSHIfP
そんなツーを、忸怩たる思いで見ていたのが公女レモナだ。
【神都】モスコーでのモナーに対する高圧的な態度が、現状の引き金になったとの気持ちが、彼女の中にはある。
山間の戦いでツーが逃げ遅れたのも、流れ矢を受けて落馬した自分を救助に来たからだ。

もっとも、ツーに言わせればモナーとフッサールの衝突は遅かれ早かれ起こっていた事であり、
失脚を恐れて国教会の軍門に降ったモナーの弱さや、彼の心の隙を突いたセント=ジョーンズにこそ非があるという事になる。
また、もしレモナが逃げ遅れていなかったとしても、砂漠の魔女は負傷した兵がいる限り、戦場に残っていただろう。

だが、それで心の重荷が取り除かれるほど、レモナは面の皮が厚いつもりはない。
徹底した理想主義者であり、一部の兵から【椿蕾公女】と呼ばれるレモナからすれば、あまりに自分が情けなく思えてしまう。
傷が癒えてから度々戦闘に参加するも、戦の専門家であるツーと比べれば明らかに劣っている点もあって、
ここで魔術師を助けねば『男がすたる』というわけなのだ。

|゚ノ ^∀^)『僕達がここに篭もってから2月が過ぎている。
      使えば減って当然じゃないか。雨季も近いんだ。雨さえ降れば元に戻るさ』

爪 ,_ノ`)『……地元の老人から、湧き池だと聞いていたのだがな』

|゚ノ ^∀^)『そんなのアテになるもんか。溜め池だったんだよ。
      ともかく、一日も早くフッサールが戻って来てくれるのを待つしかないんだ。
      皆には悪いが、今まで以上に節水を心がけるしか無いだろう』

レモナの言うとおり、他に取るべき手段も無かったから、
その場は『節約する』と言う結論が出ただけで終わってしまった。

後世の歴史家達の中には、この時の判断の甘さを責める者も多いが、それは酷と言うものだ。
三日月刀を振るわせれば一流のシャオランも、本来は一介の商人に過ぎない。
レモナにいたっては騎士装束を纏ってはいても、ただの経済家。戦場に立った経験など片手で数えられるほどしかない、お嬢様なのだから。
けれど、もしこの場に戦場のスペシャリストである【不敗の魔術師】ツーがいたとしたら……。
彼らの未来も大きく変わっていたに違いない。



30: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:28:11.60 ID:/fcTSHIfP
         ※          ※          ※

(;*-∀-)『……はぁ』

その翌日。
ツーは、自身の幕舎に入りこむなり、大きな溜息を吐き出した。
中央の大柱を中心に四本の柱を地に打ちこみ、油紙を挟んだ麻布を被せただけの
簡素な幕舎の広さは3間(約5m)四方。
木箱を引っ繰り返した卓と、寝布(地に打ち付けた4本の杭に麻布の4隅を縛りつけた、ハンモック式の寝具)
があるのみで、他の兵士達が雑魚寝をしている幕舎と全く同じ造りのものだ。
更なる違いと言えば、舎内に香木を焚いた煙がたちこめている事くらいだろうか。

喰う物にも困る山塞で香木とはあまりに不似合いだが、
これは元々シャオランが本国で売り捌こうと買い集めていたものだ。
香木など飯を炊く焚き木にもならないし、喰う事も出来ないから、兵士達は見向きもしなかった。
それを、後日払いの約束でツーが買い取ったのである。
メンヘル族女性の例に漏れず、彼女もまた香浴や水浴びは大好きだったから、これは大変にありがたかった。

足に纏わりつく腰布を乱暴に解き、汗を拭った手巾と共に寝布に放り投げる。
寝布は備え付け式の寝台と比べて持ち運びが易く、何よりも風通しが良い。
寝台の代用品として使われる時もあるが、それ自体の優れた特色を好んで愛用する者も多かった。

自らも前のめりに倒れこむようにしてそれに飛び込んだツーは、
しばらくそのまま『あ〜』とか『う〜』とか唸っていたのだが、
やがて尻にくい込んでいた黒い肌着を人差し指で直すと、ゴロリと仰向けに寝返りをうつ。



31 名前: てーせい ◆COOK./Fzzo 投稿日: 2010/07/11(日) 22:30:14.18 ID:/fcTSHIfP
         ※          ※          ※

(;*-∀-)『……はぁ』

その翌日。
ツーは、自身の幕舎に入りこむなり、大きな溜息を吐き出した。
中央の大柱を中心に四本の柱を地に打ちこみ、油紙を挟んだ麻布を被せただけの
簡素な幕舎の広さは3間(約5m)四方。
木箱を引っ繰り返した卓と、寝布(地に打ち付けた4本の杭に麻布の4隅を縛りつけた、ハンモック式の寝具)
があるのみで、他の兵士達が雑魚寝をしている幕舎と全く同じ造りのものだ。
更なる違いと言えば、舎内に香木を焚いた煙がたちこめている事くらいだろうか。

喰う物にも困る山塞で香木とはあまりに不似合いだが、
これは元々シャオランが本国で売り捌こうと買い集めていたものだ。
香木など飯を炊く焚き木にもならないし、喰う事も出来ないから、兵士達は見向きもしなかった。
それを、後日払いの約束でツーが買い取ったのである。
メンヘル族女性の例に漏れず、彼女もまた香浴や水浴びは大好きだったから、これは大変にありがたかった。

足に纏わりつく腰布を乱暴に解き、汗を拭った手巾と共に寝布に放り投げる。
寝布は備え付け式の寝台と比べて持ち運びが易く、何よりも風通しが良い。
寝台の代用品として使われる時もあるが、それ自体の優れた特色を好んで愛用する者も多かった。

自らも前のめりに倒れこむようにしてそれに飛び込んだツーは、
しばらくそのまま『あ〜』とか『う〜』とか唸っていたのだが、
やがて尻にくい込んでいた黒い肌着を人差し指で直すと、ゴロリと仰向けに寝転んだ。



(;*-∀-)『さて……どーするかねぇ』



32: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:31:05.94 ID:/fcTSHIfP
考えるのは、この戦の結末についてだ。
日永の頃(夏至)も過ぎ去り、気温も少しずつ下がっていけば、当然包囲軍の攻撃も厳しさを増すだろう。
今でこそ、ありがたい事に士気の高い山塞軍であるが、
現状より攻撃が厳しくなれば、それを維持し続けるのは難しい。

また、多くの負傷者と共に逃げ込んできただけあって、医薬品は決定的に足りていなかった。
一部の兵達が林から薬として使える草花を集めてくるのだが、やはりその量にも限界がある。

(;*-∀-)『……腹、へってるだろうなぁ』

左手の人差し指と親指で輪を作り、右手首に当ててみると、やはり大きく隙間が出来ている。
元々、戦場で鍛えあげられた彼女の身体は、女としての豊かさを残しつつも細やかで、
若竹が如く肢体と褒め称えられた事もあった。
確かに当時から手首に当てた指の輪に隙間はあったが、今ではそれも幾らか広がってしまっているようだ。
元々『一月も頑張れば援軍が来る』と言い聞かせていた戦いも、既にその倍の日数が経過しようとしている。

食料の不足は、何よりも深刻だった。
最後に肉を口に入れたのはいつだっただろうと思う。
数頭だけ連れてきていた軍馬はとっくに食い潰してしまっていた。
山鳥の巣もあらかた探し尽くしてしまったようだし、
頭上を鳥の群れが行く時はここぞとばかりに弓矢の使用を許したが、全員に配れば、ほんの僅かな量しか行き渡らない。
大のおとなが肩を寄せ合い、最後まで未練がましく骨をしゃぶっていたものだ。
山育ちの者は樹木から何かの幼虫をほじり出して喰っている。

山塞軍にとって救いとなるのは、刀剣や槍。甲冑などの近接戦闘用装備に劣えが無い事であろう。
また、負傷者の傷も癒え、傷兵の数だけで言えば連日攻撃に失敗している包囲軍の方が圧倒的に多い筈である。
敵も味方もこの戦いの勝敗を分けるのがフッサールの帰還“のみ”と考えている今。
今ならば、第三の手を打てる。いや、その手を実行するならば今しか無いように思えた。

(*゚∀゚)『……夜は、駄目さね』



35: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:33:34.49 ID:/fcTSHIfP
第三の手。
それすなわち、戦場からの逃亡である。
包囲軍が、自分達がひたすら閉じ篭ってフッサールの帰還を待っているしか出来ない、と考えているならば、
突然の反攻は奇襲として成功する確率が高い。
そう思いこませるように、ひたすら守りに専念してきたのだ。
もしも父が帰らなかった時の為に、魔女は不敗の策を練りあげていたのだ。

とは言え、夜陰に任せての脱出など不可能に等しい。
流石にそれくらいは警戒されているだろう。ならばそれは、罠の中に自ら飛び込むような物。愚の骨頂だ。

策を実行するならば昼が良い。今にも雨が降り出しそうな天候なら最高だ。
普段通りの攻撃を凌ぎきった直後、雪崩れ込むように敵陣に突っ込み、道を切り開く。
そうしてそのまま、雨に紛れて南東へ逃亡するのだ。

高台からの観察で、敵陣内の構えは眼を閉じていても描けるほど、鮮明に記憶している。
馬小屋や食料庫、将官の幕舎などに集中して火矢を射ち込めば混乱も大きくなるだろうし、
使用を禁じてきただけあって矢の備蓄は十分にある。

雨が降れば火など消えてしまうだろうが構わない。その時は既に自分達は山の奥にいるだろうからだ。
双子砦を経由せず直接アーリー湖に入ってしまえば、そこはもうリーマン族の勢力下。
追撃の手も届かない。更に南へ下り、シーブリーズに入れれば、海の民の助力も仰げるだろう。

(*゚∀゚)『よしっ!!』

小さく気合を入れ、立ち上がる。
シャオランやレモナを呼び寄せ、策を明かそうと考えていた時、一人の兵士が幕舎に飛び込んできた。

兵士『ツ、ツー様!! 一大事ですっ!!』

(*゚∀゚)『ひゃ?』



36: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:36:11.97 ID:/fcTSHIfP
         ※          ※          ※

|゚ノ;^∀^)『これは……何でこんな事に……』

爪;,_ノ`)『……どうなってやがるんだ』

山頂に立て篭もる兵士のほとんどが、そこには集まっていた。
中には何らかの当番であったにも拘らず、その場にいる者もいたのではないだろうか?
それほどまでに事態は貧窮していると言わざるをえず。
ある者は呆然と。ある者は自失とした表情で、彼らの生命線とも言える大池を見つめている。

兵士『終わった……何もかも、お終いだ……』

絶望の嘆きと共に、1人の兵士が膝から崩れ落ちた。
しかし、それを責める者は一人として存在しない。
誰もが彼と同じ思いで、顔を青ざめさせている。
死の牙が自身の影を捕らえている事に気付き、ただただ立ち尽くしているのだ。

山塞を支える生命線である大池は。
いや、彼らの前にある物は、既に池と呼べる物ではなかった。
僅か一晩にして、水位は中央の窪みに少し大きめの盆程度の量が残っているほどまで下がってしまっている。
水底に沈んでいた枯葉は陽光に照らされ、じっとりと横たわっていて。
池の縁の大地は、早くも乾いて干からび、ひびが入り始めていた。

(;*゚∀゚)『っ!! なんだい、これはっ!?』

そこへ、兵の輪を掻き分けてツーが到着する。
惨状を目にするなり、周囲の兵に怒鳴りつけた。



38: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:38:56.48 ID:/fcTSHIfP
|゚ノ;^∀^)『ツ……ツー……』

(#*゚∀゚)『水に異変があったらすぐに言うよう、厳命した筈さっ!! 何故、誰も知らせなかったんだいっ!?』

|゚ノ;^∀^)『そ、それは……でも、少し水がなくなったからって、僕達には雨が降るのを待つくらいしか……』

(#*゚∀゚)『違うっ!! そんな事は問題じゃないさねっ!!』

苛立ちを隠しきれぬかのように、地団駄を踏む。
父である【天使の塵】フッサールや義妹【光明の巫女】シューであれば、
『水の異変に気をつけろ』と言えば、己の意を汲み取ってくれただろう。
しかし、レモナやシャオランは戦場に生きてきた人間ではない。
であれば、これは己の失態だ。
彼ら2人を過信し、細やかな説明が足りなさ過ぎた。
既に手遅れと知りつつも、言葉を続ける。

(#*゚∀゚)『何故、水に異変が起きるか分かるかいっ!? 一番警戒しなきゃならないのは……』

が、魔術師の声は突如“陣中”から響きわたった鐘の音に掻き消された。
それと同時に山塞を包囲する8方の敵陣から時の声が挙がる。
見張りに回っていた兵士達の、悲鳴にも似た断末魔の絶叫が、全ての者達の鼓膜を揺らした。
そして、その声が奇しくも魔女の言葉を代弁する事となる。
それは、すなわち……。






─────うわあああああぁぁぁっ!! 敵襲、敵襲!! 穴攻めだぁぁぁっ!!!!!!!!



39: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:41:39.43 ID:/fcTSHIfP
|゚ノii^∀^)『穴攻め……そんな……それじゃ……』

(#*゚∀゚)『ちぃっ!! 早すぎるっ!!』

レモナの震える声に答えてやるだけの余裕は無かった。
兵を押し退け、駆け出す。
視界が開けた瞬間、現れた敵兵を、すぐ側で立ち尽くしていた兵から奪った長剣で斬り倒した。

(#*゚∀゚)『ボーっとしてるんじゃないよっ!! 生きる為には今、何をしなきゃならないか分かるだろっ!?』

その一言で、兵士達は我に返る。
どれだけの敵兵が入り込んでいるか分からぬが、どのみち剣を振るう以外の選択肢など残っていないのだ。

何故、ツーが水をずっと気にしていたか。
真なる答えがこれである。
外から崩すのが困難となれば、包囲軍は必ず内側から切り崩そうと動いてくるだろう。
穴を掘って攻めて来るとなれば、必ず水脈に異変を起こす。水に変化が現れる。
そう考えての厳命だったのだ。

|゚ノii ∀ )『僕は……僕は何て馬鹿なんだ……』

(#*゚∀゚)『しっかりしておくれっ!! まだ……まだ、策はある!!』

崩れ落ちそうになるレモナの頬に、平手をうった。
今は彼女を優しく慰めてやっている暇などない。
自力で立ち上がってもらうほか無いのだ。
戦況を知らせようと、駆けつけてきた兵に怒鳴るようにして命じた。

(#*゚∀゚)『砂亀を連れてきてるだけ引き出しなっ!! それと、アタシ様の刀を持ってきておくれっ!!
     これより、血路を切りひらくよっ!! 何としてでも、生き抜くんだっ!!』



44: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:44:41.61 ID:/fcTSHIfP
(#*゚∀゚)『諦めたらそこで戦終了だよっ!! アタシ様にはまだ最後の策が残ってるさっ!!
     もがいて抗って、何が何でも生き残るんだっ!!』

兵士から受け取った三本の山刀を素早く腰につけ、ツーは駆け出した。
穴を抜けてきた者達の仕業だろうか。
山塞にはあちらこちらで黒煙があがり始めている。
既に山肌を登り終えた兵も陣中に斬りこみ始めており、2ヶ月間共に戦ってきた友が、いたる所で地に伏せっていた。

(#*゚∀゚)『拳を振るえ!! 剣を払え!! 槍を突き立てるさっ!! 
     こんなところで一物縮ませながら死ぬのが本望なのかいっ!?
     ここを生き延びて、アタシ様を押し倒すくらいの男気を見しておくれよっ!!』

かみつき丸となぐり丸。左右の手にした山刀を振るい、叫んだ
赤い雨を全身に浴び、血の虹を幾重にも宙に描き出す。
必死に兵を鼓舞しながらも、心のどこかで敗北を悟っていた。
何故なら、返って来る声の響きは、断末魔の呻きと絶望の叫びだけだったから。
山塞の兵達は、ただ一方的に殺戮されているだけなのだ。

これほどまでに早く周囲に火をつけられると言う事は、おそらく周到な準備を整えていたのだろう。
対する自軍は、奇襲に対する備えを欠き、多くの者が何が起こったのか分からぬままに倒れ伏していく。
万全の体制で奇襲に臨んだ包囲軍と、甲冑すら着込んでいない山塞軍。
両者の間で明らかな差が現れていた。

いや、もしツー配下の兵達が甲冑を着込んでいたとしても、結果は変わるまい。
山塞への侵入を許し、命の要とも言える水は枯れ果てた。
もし、この襲撃を防ぎきったとしても、これ以上の籠城は出来まい。
張り詰めていた戦意の糸が、プツリと断ち切られてしまったのだ。
圧倒的な数の不利もあって、あたかも炎を前にした藁山が如く、山塞軍は蹂躙されていく。

爪;,_ノ`)『こっちだ!! こっちはまだ兵の壁が薄い!! 何とか抜けられる!!』



49: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:47:11.95 ID:/fcTSHIfP
元・塩商人の声がする方に駆けた。
切り立った山頂の縁、眼下を見下ろすと確かに、そこだけ線を引いたかのように敵兵が少ない。
が、その先には2人の男が立っていて。
山間の戦いで見た援軍の男と、常に【預言者】モナーの側にあった赤毛の巨漢。
先の者は、稚拙な遊戯でも楽しんでいるかのような笑みを浮かべて。
後の男は、既に見飽きた芝居でも鑑賞しているかのような目で、ただ山頂を見上げている。

|゚ノii ∀ )『セント=ジョーンズだ……ジョーンズ家の公子……国教会教皇の息子……』

(*゚∀゚)『……へぇ。って事は、あれが総大将ってワケかいっ!?』

ペロリと唇を舐め、答える。
罠だと言う事は分かっていた。
網の一部を空けておき、誘導するのは包囲戦における初歩中の初歩とも言える兵法だ。
いや、既に罠ですらないのかもしれない。
ただ、待っている。誘っているのだ。おそらく、勝ちは万に一つも揺るがないと思っているのだろう。

普通であれば、罠の中に誘導しようと思えば兵を伏せるのが常だ。
それをしないというのは、セント=ジョーンズと言うのは相当な自信家であると言う事。
そして、決して兵法に明るくなく、机上の知識だけで万事が上手くいくと考えるタイプに違いない。

しかし。
それで、不敗の魔女は決意する。
目の前に聳え立つ、敗戦という名の壁を討ち破る策は……もう、一つしか残されていない。

(*゚∀゚)『……シャオラン』

爪 ,_ノ`)『あ?』

(*゚∀゚)『レモナを……頼めるかい?』



52: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:49:57.48 ID:/fcTSHIfP
|゚ノ#^∀^)『そんな……こんな事になっても僕は役立たずなのか!?
      嫌だッ!! 僕も戦うぞっ!!』

(*゚∀゚)『……黙っておくれ。悪いけど……レモナの意見は聞いてないさ』

|゚ノ;^∀^)『……っ』

ツーの全身から発する静かな気迫に押され、思わずレモナは後ずさった。
2ヶ月間、共に暮らしてきてこれほどまでに剣気を漲らせているツーを、彼女は見た事がなく。
いや、21年間の人生で初めて知る感覚であった。
よろめく肩を背後からしっかと掴み、シャオランは答える。

爪 ,_ノ`)『高くつくぜ。最低でも純金5貫(約50kg)だな』

|゚ノ;^∀^)『っ!! シャオラン、お前っ!!』

(*゚∀゚)『ひゃひゃひゃっ!! 安いもんだっ!! 3倍にして払ってやるさねっ!!』

愉快そうに笑う魔術師の背後に、砂亀が並べられた。
手足と首を甲羅の中に引っ込め、甲羅を下にゴロンと引っ繰り返されている。
その数、15頭。
1000頭を数えていた筈の、砂亀騎士団。これが今の総兵力だった。

|゚ノ;^∀^)『止めろ、ツー……特攻なんて無謀なだけだ……。
       ここは諦めて降ろう……。生きてさえいれば、道が開けるかもしれないじゃないか……』

(*゚∀゚)『ひゃ? 何言ってんだい、この子は』

言って、ツーは白い歯をむき出しにして、ニィと笑った。
一本だけ立てた人差し指を、チッチッと顔の前で左右に振って見せる。



54: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:52:24.03 ID:/fcTSHIfP
(*゚∀゚)『諦める? 生きてさえいれば? 馬鹿チンな事お言いでないよっ!!
     アタシ様はね、何故アタシ様が“不敗”で“魔術師”なのか? それをヤツラに教えてやりに行くのさっ!!』

|゚ノ;^∀^)。oO(……嘘だ)

ツーの言葉を耳にした公女は、即座にそう思った。
絶望的な戦況。
勝利を手にする事は、大海の水を飲み干すよりも難しい。
ならば、この“敗北”を“痛み分け”のレベルまで昇華させるには、何をするべきか?

レモナが考えついた答えは、“相打ち”である。
山塞軍総将ツーと、包囲軍総将セント=ジョーンズが共に戦場に散る。
仮にそうなれば、この戦は山塞軍の一方的な“敗北”に終わらなくなる。
そして、もしセント=ジョーンズを斬ったとしても、十重二十重に包囲された砂漠の魔女は、
思いつく限りの屈辱を受けた後、全身を鱠(なます)と刻まれ殺されるだろう。

(*゚∀゚)『悪いね、レモナっ!! 本当ならアタシ様の勇姿を前に萌え萌え濡れ濡れにしてやりたいところなんだけどさっ……』

|゚ノ  ∀ )『僕は……男だ』

(*゚∀゚)『ひゃひゃひゃひゃひゃっ!! この期に及んでもそれだけの元気があれば十分さねっ!!
    だったら、アタシ様の勇姿を想像してカウパーだくだく垂れ流しておくれっ!!』

ツーの決して上品とは言えぬ冗談に、周囲の者達はドッと笑った。
だが、その表情はどこか寂しげで。
揺るぎない決意を秘めた者だけが持てる。
死の覚悟を悟った、もしくはそれ以上の覚悟を決めた者だけが浮かべられる笑顔だった。
故にレモナもまた、涙を流し、何時の間にか口の中に入り込んだ砂粒をジャリと噛みしめながらも、笑う。
そうするより他に、どうして彼らを送り出す事が出来ようか。
決意を込めた者に対する礼は、決意を持って返す以外に無いのだから。



56: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:55:52.51 ID:/fcTSHIfP
爪 ,_ノ`)『おい。純金15貫、忘れるんじゃねぇぜ。もし約を違えたら……女が金を稼ぐ手段くらいは心得てるつもりだからな』

法王庁に身を置くシャオランにとって、公女レモナの身の安全は全てに優先される。
ツーの命を軽んじるワケではないが、それはあくまで二の次になるのだ。
そして、夢想が如き可能性を。セント=ジョーンズを討ち、尚且つ砂漠の魔女が生還すると言う奇跡を口に出せるほど、
彼は青臭い性格を持ち合わせていない。
かと言って、死地に足を踏み入れようとする者を黙って送り出せるほど、冷淡にもなりきれない男なのだ。
それが分かるからこそ、ツーは楽しげに笑う。

(*゚∀゚)『ひゃひゃひゃっ!! それは遠慮願いたいねぇっ!! 乙女の純潔は一人だけに捧げると決めてるんさっ!!』

爪 ,_ノ`)『よく言うぜ。尻の穴まで開発済みってツラしやがってよ』

(*゚∀゚)『ひゃっ。そう思うなら、アタシ様を惚れさせてみなっ!! 寝台の中で答えあわせとシャレこもうじゃないかっ!?』

言って、ツーはシャオランの耳元に唇を近づけた。
2・3言何かを呟き、商人の目が驚きに見開かれたのを確認してから、最高の笑みを浮かべる。

(*゚∀゚)『言った筈さっ。 何故アタシ様が“不敗”で“魔術師”なのか、教えてやるってねっ!!』

そうして、魔女は自身の愛亀・ペニス丸の硬い腹に左足を乗せた。
右手にした神刀を天に掲げ、叫ぶ。

(*゚∀゚)『行くよ、お前らっ!! 何があっても生きて還るんだっ!! 背いたヤツは死刑にしてやるさねっ!!』

と、同時に右足が力強く大地を蹴った。
その勢いで砂亀は山頂の縁を飛び出し、魔女を背に岩肌を滑り降りていく。
そして、それが合図であるかのように、残る14人の砂亀乗り達も彼女に続いた。
【不敗の魔術師】を先頭に、やがて爆発的な加速度を纏った15頭の弾丸は、一息に包囲軍本陣目がけて突撃して行く。



58: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 22:58:07.04 ID:/fcTSHIfP
(#*゚∀゚)『あひゃーっ!!』

横薙ぎに振るわれた大剣を身を屈めて避わした。
すれ違い様、山刀の一閃でその兵士の腹を叩き斬る。
血飛沫が噴き上げるより早く、彼女は次の敵兵に迫っていた。

(#*゚∀゚)『ひゃ、ひゃーっ!!』

メン;'A`)『う……うわぁっ』

神;'A`)『ひえぇっ!?』

突進力を加算した“つらぬき丸”がメンヘル族兵士の左胸に巨大な風穴を空け、
“なぐり丸”の刃が国教会兵士をなめし皮の鎧ごと横一文字に両断する。
自らの死に気づく事も出来ずに倒れこもうとする身体を、次なる砂亀が邪魔だとばかりに撥ね飛ばした。
更に別の砂亀の進路に放り出された身は、大槍に払われ、盾に殴られ……
それを数度繰り返した後、大地に衝突した時には無残な肉片へと変わり果てている。

ただ勢いに任せて滑り降りるだけでなく、体重を左右に移動させる事で山肌を縦横無尽に滑走する。
それがメンヘル強襲部隊・砂亀騎士団の真なる戦い方であった。
その独特の戦法ゆえ、同じ強襲部隊でもヴィップの【急先鋒】ジョルジュ率いる【薔薇の騎士団】とは、
平地でぶつかれば勝機は少ない。
が、逆にこのスピリタス周辺のような起伏の激しい土地ほど真価を発揮する。
騎兵がその機動力を生かしきれない荒れ地こそ、彼らの活躍の場所なのだ。

その姿を一言で言い表すならば、まさに“奇兵”。
砂漠の魔女と呼ばれ、宙を自在に駆け巡る【不敗の魔術師】に相応しい兵団であった。



60: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:00:48.47 ID:/fcTSHIfP
(#*゚∀゚)『怪我したくなければ家に帰りなっ!!』

眼前に5人の兵士を確認したツーが、宙に舞った。
砂塵を巻き上げ疾走する砂亀の体当たりに容易く弾き飛ばされた、兵達の頭上を飛び越える。
降り立ったのは当然のように、愛亀の腹の上だ。
着地と同時、左方へほぼ直角に方向転換。ギョッとした顔の兵の首を刎ね飛ばす。

(’e’) 『魔女め……』

その光景を目に、苦々しげに漏らした。
しかめた眉の角度すら、他人の視線を計算しているのでは無いかと思える。
セント=ジョーンズの視界において、戦況は完全に逆転していた。

曲芸師が如く動きで包囲軍を翻弄しているのは、彼女だけではない。
15騎の砂亀使い、その全てが意思を持った矢のように戦場を疾駆しているのだ。
ある者は体重を前方にかけて加速度を増し、またある者は砂亀ごと跳躍して着地点の敵兵を押し潰す。
数十倍の兵力差を物ともせず、血煙の中を駆け巡る。

広く戦場を見渡せば、それも虚しい抵抗だと。水に拳を打ち込むような行為だと、分かるだろう。
しかし、それすらもセント=ジョーンズは不快に感じていた。
なにせ、己の意にそぐわぬならば、蝋燭が燃え尽きる間際に見せる一瞬の輝きすらも許しがたいと思うような男なのだ。

(#*゚∀゚)『セント=ジョーンズゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!』

(’e’) 『……ちっ』

そして、遂に魔術師はセント=ジョーンズを射程圏内に捕らえた。
岩肌の小山をジャンプ台に飛翔、そのまま隕石がように突っ込んでいく。舌打ちを一つ、公子は半歩、後退した。

(#*゚∀゚)『その首……貰ったさぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!』



63: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:02:51.33 ID:/fcTSHIfP
その時。赤毛の巨漢が、待っていたとばかりにセント=ジョーンズの前に立ち塞がった。
迫り来る火の玉を前にして、表情一つ動かさず、両腕を突き出して身構える。

(#*゚∀゚)『邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!』

(#゚∋゚)『クックドゥルドゥッドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!』

ツーの愛亀の甲羅と、クックルの厚い胸板が衝突した。
小さな家屋であれば一撃で吹き飛ばすほどの破壊力を持つそれを、正面から受け止める。
生身の人間が、全速で突っ込んでくる軽自動車と対峙するような物だ。
ズシン、と深い衝撃が大気を揺らし、踏み込んだ両足は堪えきれず、大地を滑った。

(#゚∋゚)『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!!!!』

しかし、それでもクックルは倒れない。
腰をズンと深く落とし、弾き飛ばされそうになるのを必死に耐える。
全身の筋肉が隆起し、こめかみに浮かんだ血管が弾けて、赤い液体が噴き出した。
そして、ついに。

(#゚∋゚)『ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥルゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!!!!』

轟叫一閃!!
鍛えあげられた肉体が、爆発的な加速度を纏った砂亀に勝利した。
全身の筋肉をフル稼働させ、ペニス丸を放り飛ばす。
数人の兵士がそれに巻き込まれて、弾き飛ばされた。
そして。

兵士『…………え?』

ツーの姿は、地上の何処にも無い。



67: ◆COOK./Fzzo :2010/07/11(日) 23:06:07.61 ID:/fcTSHIfP
(#*゚∀゚)『クックルゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!!!』

兵士『上っ!?』

クックルからすれば突如、陽が翳ったように思えただろう。
見上げれば、太陽を背に魔術師が山刀を振りかざし、降下してくる。
ペニス丸とクックルが衝突した瞬間、魔女は甲羅を蹴って宙に舞っていたのだ。

2年前、ヴィップの内乱に乗じてメンヘル軍がギムレットに侵攻した、山道の戦い。
【白鷲】フィレンクトを相手に幾度となく披露された、上空からの攻撃術は、
父である【天使の塵】フッサールや兄の【九紋竜】ギコには無い物。
むしろ、【王家の猟犬】ブーンや【天翔ける給士】ハインの得意とする、瞬歩法に近しい。
神速の移動を出来ぬ代わりに、跳躍技術にのみ重みをおいた移動法というべきだろうか?
その分野に限定すれば、【天翔ける】を名乗るを許された者とすら、五分に渡り合えるやもしれぬ。

(#*゚∀゚)『あひゃーーーーーーーーっ!!!!!』

(#゚∋゚)『ヌン!!』

振り下ろされた山刀を、振り上げた拳が迎撃した。
これがもし、2月前に繰り広げられた山間の戦いの際に展開された光景であれば、
如何に鍛えあげた筋肉を誇ろうとも巨人の腕は肩まで両断されていた事だろう。
が、ガギンと激しい金属音と共に青い火花が宙に舞い散り、魔女の身体は錐揉みうつように吹き飛ばされた。

しかし、それもまたツーには想定されていた事態なのだろう。
接触の刹那、クックルの拳が陽光を反射したのを一瞬で見てとったからだ。
回転の勢いを殺さず、逆に完全に生かしきって空中で身を捻ると、体勢を見事に立て直した。

そして、巨人の両の腕には、ツーの太腿ほどはあろうかと言う巨大な鉄甲が輝いている。



戻る次のページ