('A`)ドクオが現実にスクゥようです
- 3: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 16:30:56.21 ID:dOGw8XmU0
モニターの放つ青白い光が、目に痛い。
ハードディスクの発する音が、耳に痛い。
僕の世界にはそれだけだった。
仮に他があったとしても、それは虚構か、ただの思い出だ。
もう随分とこの世界にいる。
いつかは終わる事も知っている。もしかしたら、それを望んでいるのかも知れない。
そして、その望みを叶えるのは、その実簡単だ。
「簡単だ、……いつだって簡単なんだ。簡単すぎるくらいだ」
今日も、僕が待ち続けている声は聞こえない。
明日も、その次もきっと、聞こえない。
7th_mobile world.
- 5: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 16:34:59.10 ID:dOGw8XmU0
天候は良好。
枕もとの時計を見る。
午後二時。
随分と眠っていたようだ。
かと言って、特に予定がある訳ではないので、
なんら支障はない。
何だか懐かしい夢を見たような気もするが、
いつも通り、目が覚めると同時に忘れていた。
- 7: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 16:48:46.19 ID:yw3J/+MEO
寝起きのぼんやりとした頭の中には、ただ懐かしさだけが残されている。
('A`)「高校生ねぇ……」
窓の外を、制服に身を包んだ学生がまるで見計らったように通り過ぎた。
ここ数年で、自転車にさえどこか遠いものになってしまった気がする。
- 10: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:05:43.44 ID:yw3J/+MEO
今はちょうど新学期がはじまる時期だ。
同時に俺が高校を卒業してから、二周年ということになる。
('A`)「……」
何かが決定的に変わってしまったような、何一つ変われていないような感覚。
それをなるたけ意識しないよう、俺はケータイを耳に当てた。
- 12: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:14:06.66 ID:yw3J/+MEO
当然、何も聞こえない。
携帯電話は喋らない。
淡い期待と、自虐的な気持ちで、俺はずっとそうしていた。
7th_mobile world...step.
- 13: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:18:26.47 ID:yw3J/+MEO
('A`)「……やっぱ出ない」
( ・∀・)「そっか……」
変わらず呼び出しを続けるケータイの終話ボタンを押す。
二人同時に溜息を吐き、携帯電話を弄り出す。
俺たちが俗にいう「保健室登校」をはじめてから早くも二ヶ月が経つ。
- 14: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:24:35.44 ID:yw3J/+MEO
その間に俺たちは「高校三年生」へと成り変わり、
特に何を意識するでもなく日々を過ごしていた。
( ・∀・)「……どうしたんだろうね」
している事と言えば、新学期を迎えて以来、一度も顔を出さない後輩に、
しつこく電話を掛けているくらいだ。
- 15: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:28:53.17 ID:yw3J/+MEO
('A`)「……さぁ」
かくいう俺も、ついこの間まで「目が覚めたら登校」という、
素人にはおすすめ出来ない学生生活を送っていたので、
割と現状を楽観視している。
( ・∀・)「どうしたんだろ……」
問題はやたらと心配性なこの男だ。
- 16: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:33:27.23 ID:yw3J/+MEO
('A`)「先取り五月病とかでしょ……」
( ・∀・)「電話もメールも放置して?」
('A`)「俺も良くするだろ」
( ・∀・)「……」
説得を試みるが、恐らく無駄である事は知っている。
いずれ挙がるであろう提案も予測済みだ。
- 17: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:40:05.69 ID:yw3J/+MEO
( ・∀・)「……あのさ、」
('A`)「行くの……?」
「彼女の自宅に」、という主語は敢えて言わない。
こうなるとこいつが止まらない事も知っている俺は、いっそ先回りして見る事にした。
( ・∀・)「へぇ……分かってるね」
('A`)「まぁね……」
- 18: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:49:46.38 ID:yw3J/+MEO
体よく口うるさい友人に対して早退の口実を作っていると、
唐突に保健室のドアが開いた。
('A`)「……」
( ・∀・)「……あれ?」
(*゚ー゚)「……え」
顔を出した彼女は、向けられた二つの視線に気まずさを感じたのか、
小さく「どうも」と返した。
- 20: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 17:57:23.69 ID:yw3J/+MEO
(;*゚ー゚)「……どうしたんですか?」
('A`)「別に……」
(;・∀・)「いや……久し振り」
近くにあったパイプ椅子に鞄を置き、やはり気まずそうに彼女は言う。
何故だか空気全体が気まずい。
- 22: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 18:03:25.62 ID:yw3J/+MEO
(;'A`)「いや、久し振り……」
何とか気まずさを払拭しようと、出た言葉がこれだ。
つまり、「久し振り」の原因を聞きたいわけだが、
意志疎通は難しいものだ、と思った。
- 23: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 18:13:17.85 ID:yw3J/+MEO
(;*゚ー゚)「……あっ、これ! お土産です!!」
彼女は元気良く、ガサゴソと鞄を漁り、微妙なセンスの紙袋を取り出した。
( ・∀・)「……え、旅行?」
(*゚ー゚)「旅行と言うか、父方の実家に……」
( ・∀・)「あぁあぁ、成る程ね!!」
釣られて元気一杯の友人に、冷たい視線を送る。
(;・∀・)「旅行かぁ……いや、連絡つかなかったしさ……」
- 24: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 18:18:26.74 ID:yw3J/+MEO
(;*゚ー゚)「あ、ケータイ壊れたんです……川に落として」
今日遅刻してきたのは、新しいケータイを取りに行っていた為、らしい。
一体、どういった状況でケータイを川に落とすのか聞いてみたい気もしたが、
全ての心配事は解消されたようだったので、俺は口を閉ざした。
- 26: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 18:25:38.26 ID:yw3J/+MEO
それから俺たちは新しいアドレスを聞き、
お土産である洋菓子をつまみながら、今まで通りの下らない話をした。
お互いの核心を避けながら。
気付けば室内は、差し込む夕日に赤く染まり、最終下校時刻を告げるチャイムが鳴る。
( ・∀・)「……帰ろっか」
- 28: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 18:34:03.70 ID:yw3J/+MEO
同じくいつも通りの合図で、それぞれが帰路につく。
随分と久しく感じる「いつも通り」は、時間の経過を早めたようで、
校門で別れるまでが一瞬のようだった。
( ・∀・)「……じゃあ、またね」
(*゚ー゚)「また明日っ」
('A`)「……うん」
小さくなる彼女の背中を見送り、俺たちもぽつぽつと歩き出す。
- 31: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 18:48:34.20 ID:yw3J/+MEO
('A`)「……心配性め」
( ・∀・)「おかげ様で」
下らない会話を繰り返し、やがて俺たちも「じゃあ」、と別れた。
今日という日は零時を待たずに今、終わった。そんな気がした。
- 32: ◆hNdx3bVk06 :2008/04/14(月) 18:57:23.98 ID:yw3J/+MEO
7th_mobile world...jump.
( ・∀・)「……」
これで何度目だろう。
変わらず呼び出しを続けるケータイの終話ボタンを押し、
僕は息を吐いた。
( ∀ )「どうしたんだろうね……」
僕はもう一度、ケータイを耳にあてた。
今日も、僕が待ち続けている声は聞こえない。
明日も、その次もきっと、聞こえない。
7th_mobile world...end.
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