( ^ω^)ブーンは魔法使いに会いにいくようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:47:58.00 ID:lRvtWySM0

暗い、暗い夜が終わり。
空が少しずつ、すこしずつ明るくなっていく。

夜明けだ。

( ^ω^)「今日もお日様が綺麗だお」

ブーンが立つこの丘は、村が一望できる場所であり、神が昇り、沈む瞬間の見える場所。

そしてブーンのお気に入りの場所だ。

( ^ω^)「神様、今日も私達に光を下さりありがとうございますだお!」

いつものようにブーンは遠方の水色のかかった山々から顔を出した神に、感謝の言葉を捧げる。

神。

いつもどんなときでも、空の上から見守ってくださる神。

ブーンはそんな神様が大好きだった。

神様はいつでも世界を照らしてくれる、優しい神様だ。

( ^ω^)「さぁーて! 今日も仕事頑張るお!」

ブーンは毎日の日課であるお祈りを終わらせると、牧場へと急いだ。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:48:46.62 ID:lRvtWySM0

ブーンの家は羊飼いだ。
ブーンのお父さんも、そのお父さんも、そのまたお父さんも……
代々羊を飼い、その毛を売って生活している。

⊂ニニニ( ^ω^)ニニ⊃「今日も毛を刈って刈って刈りつくしてやるお!」

ブーンは両手を広げ、丘を駆け下りる。
心地よい風を全身に受ける。
青々しい草木の香りが鼻腔をくすぐる。

そしてなによりも神様の暖かな光り。

今日もブーンは元気一杯に牧場へと走った。



そのときドシンと衝撃が走った。

ブーンは、前方に注意していなかったため、
誰かに派手にぶつかってしまったようだ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:50:00.57 ID:lRvtWySM0

(;^ω^)「あたたたた、どうもすみませんお」

从 ゚∀从「なに、次からは気をつけなさい」

(;゚ω゚)「!!!!!!!!11111」

ブーンがぶつかってしまった人物。

それはハインリッヒだった。

(;゚ω゚)「どどどどど、どうもすみませんでしたお!」

ブーンはすっかり気が動転してしまった。
無理も無い。

何故ならハインリッヒは、”神様の使い”なのだから。

ハインリッヒは、神の言葉を聞くことが出来る。

ハインリッヒの家は代々神に仕える、神官の家系で、なんでも数百年も前から続く旧家であり、
実質この村の最大権力者だ。

祭りごとから、作物の種を蒔く時期。はたまた病気の治療までもハインリッヒはこなす。
ハインリッヒの家はまさしく万能と言え、
中にはハインリッヒ家を”神の化身”とまで言う人もいるほどだ。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:51:37.63 ID:lRvtWySM0

从 ゚∀从「はは、そう恐縮するな」

(;゚ω゚)「いえいえ、とんだご無礼を」

从 ゚∀从「ハッハッハ、ブーンは毎日神様にお祈りしているだろ? 無礼だなんてとんでもない」

そう言いながらハインリッヒは頭をボリボリと引っ掻く。

从 ゚∀从「ブーンは家の手伝いがあるのだろ? 早く行ってきなさい」

(;゚ω゚)「はいですお!」

ブーンは急いで牧場へと走り始めた。
それをハインリッヒは黙って見つめた。

从 ゚-从





5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:52:26.03 ID:lRvtWySM0




( ^ω^)「お? あれは……」

牧場に尽くと、一人の少女が目に入った。

川 ゚ -゚)

長い、艶やかな黒髪が風にあおられ、ヒラヒラとそよいだ。


この娘はクー。
機織の娘で、羊の毛を作るブーンの家とは家族ぐるみの付き合いをしている。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:53:28.91 ID:lRvtWySM0

ブーン家が羊毛を作る。

クー家が織物を織る。

両家は連携して一つの商品を作っている。
そして出来上がった織物は都に出荷されるのだ。
なんでも貴族たちがこぞって買いに走るほど、その織物は見事なものらしい。

都や、大人の事情に詳しくないブーンにはいまいち実感の湧かない話だが。

だからブーンは一度でいいから、都に行って自分の目で確認しいと思っている。

( ^ω^)「なにしているんだお?」

川 ゚ -゚)「お、ブーンじゃないか。
     なぁに、ただキャシィの様子を見に来たんだよ」

@・ェ・@「めぇぇぇぇ」

川 ゚ -゚)「もうすぐ私も本格的に機織をさせてくれるらしくてな。
     だからちょっとキャシィの様子を見たくなってな」

( ^ω^)「僕も早くクーにこいつの毛を織らせてあげたいお」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:54:58.20 ID:lRvtWySM0

キャシィはブーンが初めて父親から与えられた羊だ。

そのときブーンは真っ先にクーに自慢しに行った。

そのときクーは、初めて母親に機織の機械に触れさせて貰ったところだった。

そのとき二人は約束した。

お互いに初めてを使って初めての織物を作ろう。と。

川 ゚ -゚)「どうだ? キャシィの毛はいつ頃刈れそうだ?」

( ^ω^)「うーん……あと2,3週間もあれば……」

川 ゚ -゚)「そうか。それがわかってなによりだ」

川 ゚ -゚)「私も頑張って練習しないとな」

( ^ω^)「頑張るお! そして二人で織物作るお!」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:55:40.13 ID:lRvtWySM0

するとクーは悪戯っぽく笑い、

川 ゚ -゚)「子作りもするか?」

(;゚ω゚)「!!!!!!!!11111」

川 ゚ -゚)「……」

(;゚ω゚)「……ぉ?」

川 ゚ -゚)「ワッハッハッハッハ! 冗談だ!」

(;^ω^)「なんだ冗談か」

川 ゚ -゚)「アーッハッハッハッハ! じゃぁ私は帰るよ。じゃあな」

そしてクーはクルリと踵を返し、機織小屋へと去っていった。
ブーンはそれを妙な汗をかきながら見送る。

(;^ω^)「……ジョーダンカ」

残念そうなブーンであった。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:57:13.34 ID:lRvtWySM0


正午。

この時間は神の加護が最も大きくなる時間だ。

本来は村人全員が祈りを捧げる時間だ。

そして神殿にはいつものようにたくさんの人が、祈りを捧げるはずだった。


しかし今日の神殿の雰囲気は違った。

村の重鎮達が、何事かといった様子で続々と本殿前に集まってきているのだ。

何故重鎮達が集まっているのか?
その理由は、今日の早朝にまで遡る。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 20:58:08.63 ID:lRvtWySM0

早朝、一人の村人が神殿を訪れた時だ。

普段ならば自由に参拝が出来るよう、本殿の戸は開け放たれていた。
しかし、今日は本殿の戸が閉め切られ、蟻一匹も通さないようになっていたのだ。

その村人は何事かと、本殿の戸を叩いた。

するとすぐにハインリッヒの声が返ってきた。


「今日の正午。ここに村の重鎮達を集めろ」


ただ、それだけ。

その後は何を聞き返しても、再び言葉が返ってくることは無かったのだ。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:00:03.41 ID:lRvtWySM0
「ハインリッヒ様、は一体どんな用事で私達を呼び出したのでしょうか?」

一人の男がおそるおそる口を開いた。

しかし誰もその質問には答えない。

実はこの場にいる全員はわかっているのだ。
ハインリッヒが突然、村の重鎮達を正午に呼び出す”理由”が。

「そんなのわかりきっているだろ。”儀式”だ」

違う男が震えを抑えながら、声を絞り出した。

「そんな……俺たちの代で回ってきちまったのか?」

「わからん。でも他に神官が俺たちを呼び出す理由が無い」

「でも……案外ただ種もみを蒔く時期が来たことを伝えるだけじゃないか?」

しかし次の一言で、今度こそこの場の空気が凍りつくのだった。

「じゃあ……なんで ” 正 午 ” なんだよ!」

その時、本殿の戸がギシリと音をたて、開いた。
そしてその隙間からハインリッヒの首が飛び出す。

从 ゚-从「全員揃っているな? 入れ」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:01:31.09 ID:lRvtWySM0

夕方。
あんなにも力強く光り輝いていた神様も、いささか元気が無さそうに見える。
これを疑問に思い、ブーンはカーチャンに聞いてみたことがあった。

「なんで太陽神様は夕方になると沈んでしまうんだお?」

するとカーチャンは、優しくこう答えてくれた。

「神様だって疲れるんだよ。休ませてあげなさい」

だからその日からブーンは、夜どんなに暗闇が怖くても、神様を恨まなかった。
だってもし自分が、「夜も羊の世話をしろ」だなんて言われたら、クタクタに疲れきってしまうから。
神様にだって休養は必要なのだから。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:03:08.38 ID:lRvtWySM0

( ^ω^)「どうだお? キャシィ? 気持ちいいかお?」

@・ェ・@「めぇぇぇぇ」

( ^ω^)「そうかそうかお。気持ちいいかお。おおよしよしぃ〜」

@・ェ・@「めぇぇぇぇぇ」

川 ゚ -゚)「なんだその超高速ブラッシングは。どうみても嫌がってるぞ」

(;^ω^)「え? マジ? つかクーはもう稽古終わったのかお?」

ブーンはその時、キャシィから手を離した。
何故かキャシィは一目散に走り去っていった。

川 ゚ -゚)「お昼になったら、急に用事が出来たとかいってすっぽかされた。
     んでさっきまで昼寝していた」

( ^ω^)「そういえばトーチャンもお昼頃に出掛けていったお」

川 ゚ -゚)「うむぅ……集会でもあったのか?」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:05:35.24 ID:lRvtWySM0

( ^ω^)「さぁ……お! 丁度いいところにトーチャンが帰ってきたお」

「ああぁ、ブーン。……クーちゃんも一緒か……」

何故かトーチャンの表情は暗い。
心此処にあらずといった感じだ。
キャシィが足にまとわりついているのも、全然気がついていないようだ。

「そうだ、二人ともちょっとそこらへ遊んできなさい」

( ^ω^)「え? でもこれから羊を小屋に誘導する仕事があるお」

「いいから、最近ブーンも家の仕事が続いていたしな」

そしてトーチャンは乾いた声で笑った。

「ほら、どうした? 子供は遊ぶのが仕事だぞ!」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:06:17.36 ID:lRvtWySM0

川 ゚ -゚)「なんか白々しいぞ。義父さん」

(;゚ω゚)「!!!!!!!!11111」

「!!!!!!!!!1111111」

@・ェ・@「めぇぇぇぇぇ」

川 ゚ -゚)「親子揃って同じリアクションをするな。行こうかブーン」

(;^ω^)「お?お?」

「夕飯までには帰って来るんだぞぉ〜」





「さてと、どうすっかなぁ……」

@・ェ・@「めぇぇぇぇぇ」






20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:07:11.00 ID:lRvtWySM0




何処かへ行って来いと急に言われても、特に何処も思いつかない。

なのでブーンはとりあえず、太陽の丘に向かうことにした。
考えてみれば神様が昇るときは毎日見るが、
沈む瞬間というのは見ることが少なかったからだ。

川 ゚ -゚)「黄昏ってやつだな……」

クーは髪を手で掻き揚げる。
夕焼けが映えた髪が、美しいオレンジに輝く。

( ^ω^)「たまには神様が沈む姿を見るのも良いものだお」

神様が遠方の山に沈んでいく。
オレンジが徐々に、徐々にトーンを落とし、空が藍色に染まっていく。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:08:27.83 ID:lRvtWySM0
川 ゚ -゚)「なぁブーン?」

( ^ω^)「なんだお?」

川 ゚ -゚)「私は立派に母さんの後を継げるだろうか?」

( ^ω^)「……」

神が完全にその姿を、山々に沈めた。

( ^ω^)「クーは頑張り屋さんだからきっと大丈夫だお」

川 ゚ -゚)「本当にそう思うか?」

闇が広がり始めた。

川 ゚ -゚)「努力には限界がある。努力ではどうしようも無いことがこの世の中にはたくさんある」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「果たして私の織った物は売れるだろうか? 私の代で先代達の顔を潰すことになってしまうのだろうか?」

クーの不安。
それはそのままブーンにも当てはまることだった。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:09:18.26 ID:lRvtWySM0

( ^ω^)「たしかに……でも……」

川 ゚ -゚)「子供の時は何も考えずに、ただ無心に『母さんの後を継ぎたい』と思っていたが、
     いざ大人になろうとする今になると、随分と不安なものだ……」

从 ゚∀从「何を悩んでいるのだ? 少年少女達」

( ^ω^)「ハ、ハインリッヒ様!」

川 ゚ -゚)「い、いつの間に!」

从 ゚∀从「ハッハッハッハッハ! どうやら大人になるのが不安なようだね」

从 ゚∀从「しかし大丈夫だ」




从 ゚-从「もうすぐ何も悩まなくても良いようになるからな」




(;^ω^)「そ……それはどういった意味ですかお?」

心なしか、ブーンは今のハインリッヒの言葉にはどうにも冷徹な部分を感じた。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:10:38.92 ID:lRvtWySM0

从 ゚∀从「はは、そのまんまの意味だよ」

川 ゚ -゚)「……教養の無い私達にわかりやすく説明してくれないか?」

从 ゚∀从「ハハハハハ……」

从 ゚-从「私の良心ってやつだ」

(;^ω^)「良心……ですかお?」

从 ゚-从「ああ、良心だ」

そう言い捨てると、ハインリッヒはブーン達に背を向ける。
話すことは話した。
もう用は済んだということなのだろう。

从 ゚∀从「まぁそれが一つ忠告しておきたかった。それだけだ」

从 ゚-从「さらばだ。最後にもう一言付け加えておこう」

从 ゚-从「時間は大切にな。案外人に与えられた時間というものは短いものなのだから」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:11:26.47 ID:lRvtWySM0

そしてハインリッヒは、ゆっくりと丘を降りていく。
その後姿はなんだか、力が感じられなかった。

川 ゚ -゚)「なんだか今日の村の大人達はどこか様子が変だな」

(;^ω^)「きっと大人の事情というやつだお」



このときブーンは思いもしなかった。
その大人の事情というものが、自分の人生を大いに狂わせることになるとは。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:12:29.79 ID:lRvtWySM0


深夜。

ブーンの家に、二人の男と二人の女が居た。
それはブーンとクーの両親だった。

「困ったことになりましたな……」

「ああ、まさかうちから出すことになるとは思いもしませんでしたよ」

「ハインリッヒ様のお言葉は神様のお言葉。逆らえませんよ」

「せめては、あの子には残された時間を楽しく過ごしてもらうだけね」






30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:14:06.19 ID:lRvtWySM0




全ては今日ハインリッヒが太陽の丘に登ったとき始まったのだ。


从 ゚-从「今日私は朝目覚めると妙な胸騒ぎを感じた。
    これは何かあるのでは? と思い太陽の丘に登り太陽神様の御言葉を聞くことにしたのだ」

村の重鎮達がごくりと息を飲んだ。

从 ゚-从「すると太陽神は私にこう語りかけて来たのだ」



「”終末の日”はそこまで来ている」



「終末の日!? まさかあの!」

一人の男が大声で叫んだ。

動揺しているのはその男だけでなく、
みな口々に「まさかあの……」などと話し始める。

それをハインリッヒは一喝して黙らせる。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:14:48.09 ID:lRvtWySM0

从 ゚-从「コホン、みな”終末の日”については先代達から聞いているようだな」

「知っているも何も、あっしなんか祖父さんに何度も聞かされましたよ。
 ”終末の日”の恐ろしさを!」

从 ゚-从「ならば話しは早い。ならば知っているだろう?
     ”終末の日”を回避する唯一無二の方法……」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:16:01.28 ID:lRvtWySM0



「村の子供一人を神に生贄に捧げること」





33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:16:44.32 ID:lRvtWySM0

从 ゚-从「生贄を喰らうことにより神は力を得、”終末の日”を回避することができる」

「た……たしかその生贄を決める方法とやらが……」

从 ゚-从「うむ、それが今から行う儀式だ。
    この儀式は太陽神の力が最も強まる正午ではないと出来ないからな。
    みな忙しい中急に呼び出してすまなかったな」

そしてハインリッヒは奥から大きな壺のようなものを持ち出してきた。

その壺には「陽」という文字が刻まれていた。

ハインリッヒはその壺の中に、鉄の棒を突っ込み、掻き回す。

从 ゚-从「今からこの壺の上で火を炊く」

壺の中にはぎっしりと砂が詰まっている。
どうやら室内で火を炊く場合を考えて作られた、灰受けのような役割をする壺らしい。

ハインリッヒは壺の上に、よく乾燥した木の葉を敷き詰め、
手元に置いてあった火種を使い、着火した。

ぼうと火が燃え上がる。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:17:35.78 ID:lRvtWySM0

そして今度は懐から一つの白い塊を取り出した。

「骨……?」

そんな呟きが重鎮達から漏れた。

从 ゚-从「よくこれを見ておけ。そして念じろ。全ては村の為。誰かが犠牲となるのだ」

そしてその白い塊を火にくべた。

パチパチと音が鳴る。

その間誰も口を開かない。

みな喋ったら死んでしまうと思っているかのように押し黙る。


怖いのだ。

自分……もしくわ家族が生贄に選ばれるのではないのかと、みな恐怖と戦っているのだ。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:18:32.76 ID:lRvtWySM0

そして誰かが恐怖に耐え切れず、思わず叫び声をあげてしまいそうになった、

その時。


ピシィッ!


一際甲高い音が響いた。

从 ゚-从「みな両の眼を見開くがいい、これが神の答えだ」

ハインリッヒが鉄の棒を二本使い、白い塊を挟み、持ち上げた。

そこにははっきりと文字が刻まれていた。

「!!!!!」

誰かが息を呑んだ。

从 ゚-从「神が指名しめし人物。それは――」





37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:19:28.98 ID:lRvtWySM0

おかしい。

ブーンは最近特にそれを感じる。

何故か両親が家の仕事の手伝いをさせない。
そして「まぁ……なんだ? クーちゃんとでも遊んできなさい」
が二言目なのだ。

妙におかしい。

おかしいのは両親だけでもない。

村の大人達もおかしい。

何かお祭りでも始めるのだろうか?
大人達は最近なにかの準備に追われているようだ。

そして子供が「何の準備をしているの?」と聞くと、
何故かギクリとした表情を見せ、しばらく考え込むのだが、
結局、

「子供には関係がない」

と突き放す。

おかしい。

絶対におかしい。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:21:32.36 ID:lRvtWySM0

川 ゚ -゚)「まぁなんだ? そのおかげで私と遊べるのだから良いことじゃないか」

( ^ω^)「でも……なんか気になるお」

川 ゚ -゚)「気にするな。子供は何も考えずに遊ぶのが一番。そうだろ?」

( ^ω^)「……」

( ^ω^)「大人だお……」

川 ゚ -゚)「? 急にどうした?」

( ^ω^)「クーは大人と同じ反応をするお……」

川 ゚ -゚)「……そうか……」

( ^ω^)「そうだお……」

二人の間に一陣の風が吹いた。

花が散った。

小鳥が飛び立った。

川 ゚ -゚)「……ブーン」

( ^ω^)「なんだお?」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:23:27.66 ID:lRvtWySM0
川 ゚ -゚)「好きだ」

( ^ω^)「へ?」

川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ -゚)「愛してるぞ」

(;゚ω゚)「!!!!!!!!11111」

(;゚ω゚)「何を急に!!!!」

川 ゚ -゚)「ハッハッハッハッハ、なぁに」



川 ゚ -゚)「悔いを残したくない。それだけだ」



(;^ω^)「クーは……何か知っているのかお?」

川 ゚ -゚)「……私の愛の告白に対する返答は無しか?」

( ^ω^)「話を逸らさないで欲しいお」

川 ゚ -゚)「私は大真面目なのだがな……」

まあいい。
そう言ってクーは立ち上がった。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:25:26.38 ID:lRvtWySM0

川 ゚ -゚)「私は帰るよ。ブーンもそろそろ帰った方が良い。
     両親を大切にしてやれよ」


クーもおかしくなった。

何故?

家に帰ると、何故か両親もよそよそしかった。

まるで何かを隠している悪戯っ子のようだった。

とりあえずブーンは目の前の夕食を平らげる。

心なしか今日の夕飯は豪華な気がした。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:26:33.82 ID:lRvtWySM0

食べ終わると眠くなった。
どうしたのだろう?
最近は仕事の手伝いが無かったから疲れてないはずなのに……

薄れ行く意識の中、ブーンは最後に一言。
両親の言葉を聞いた。


「お前を悲しませないためだ。
 そして厚かましいかもしれないが、私達を許してくれ」


そしてブーンは真っ白な世界に溶け込んだ。








44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:27:39.33 ID:lRvtWySM0

なんて居心地の良い世界なんだ。

ブーンが感じた、この世界の率直な感想だった。

そしてブーンはこの真っ白な世界の淵にゆっくりと沈み始めた。


ずぶずぶ……


      ずぶずぶ……


            ずぶずぶ……


「それでいいのか?」

「誰だお」

「神だ」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:28:26.51 ID:lRvtWySM0

「そうですかお」

「流すな」

「すいませんお」

「目を開けろ」

「なんでですかお」

「それがお前の為だ」

「この眠りは僕の両親が与えたものだお
 両親が僕の為をと思って与えた眠りだお」

「しかし人間には間違いがある。この眠りはお前のためにならない

      きっとお前は後悔する。眠り続けた自分を呪うだろう」

「あなたに間違いはないのですかお」

「無いな」

「なんでですかお?」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:30:42.94 ID:lRvtWySM0

「それは私が神だからだ。神に間違いなど無い」

「じゃあ起きるお」

「それが良い」


ふわり




47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:31:23.52 ID:lRvtWySM0

「世界の終わりだああ!!!!」

( ^ω^)「!!!!!」

いきなりの叫び声でブーンは目を覚ました。

どうやら夕食の後眠ってしまったらしい。
まだ寝ぼけなまこの体を無理矢理奮い立たせる。

どうも外が騒がしい。

ブーンはやれやれといった感じで、表に出た。

するとそこは


暗い世界だった。


薄暗い世界を、人々が恐怖でのたうちまわる世界だった。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:32:52.79 ID:lRvtWySM0

「”終末の日”だ!!」

誰かが叫んだ。

「誰か助けてくれ!!!!!!!」

誰かが懇願した。

「神様が死ぬだなんて!!!!!」

誰かが絶望した。



ブーンは空を見上げた。

神様が死ぬだって!?

有り得ない。


でも


それは有り得たらしい。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:33:44.74 ID:lRvtWySM0

上空に輝く神様。
でもその神様は死にそうだ。

こんな昼間なのに。

神様がゆっくりと、ゆっくりと端から順に黒くなっていく。



誰かに食べられているの?

体が腐り落ちていくの?

神様を病魔が蝕むの?

その真っ黒い病魔が……



そのときブーンは、人混みの中に自分の両親を見つけた。
クーの両親も一緒のようだ。

ブーンは両親に走り寄る。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:37:08.29 ID:lRvtWySM0

⊂ニニニ(;゚ω゚)ニニ⊃「トーチャン! カーチャン!」

「ブ、ブーン……起きてしまったのか……?」

(;゚ω゚)「そんなことよりも……これは一体なんなんだお!
      神様の姿が消えていくお! 真っ黒になっていくお!」

「”終末の日”……だ」

両親はポツリと言った。

(;゚ω゚)「そ、そんな……世界は終わるのかお……」

そのとき、誰かがブーンの肩を叩いた。
ブーンは振り返ってその人物を確認する。

クーの母さんだ。

「大丈夫。私の娘が世界を救うから……」

クーの母さんの目には、涙が一杯に溜まっていた。

(;゚ω゚)「クー……が……?」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:38:18.40 ID:lRvtWySM0

「そう……私の娘が神様に命を差し出します。そう……すれば……あぁ」

クーの母さんはそこまで言うと泣き崩れてしまった。
するとブーンの父さんが前に出てきた。
クーの母さんの言葉を代弁しようということなのだろう

「そうすれば”終末の日”は回避される。見ろ」

ブーンの父さんがどこかを指差す。
ブーンはその方向に目をやる。
そこはブーンのお気に入りの丘。


神が昇り、沈む瞬間の見える場所。


そしてその丘の頂上に立つのは……

ハインリッヒと……クー!



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:38:59.34 ID:lRvtWySM0

「父さんは頼まれたんだよ。クーちゃんのお母さんに」


「娘の残り少ない時間……
    せめて娘の好きな子と一緒に過ごさせたい。って」


「父さんはブーンが、クーちゃんが生贄に捧げられるところを見せたくなかった」

クーが……生贄……?

ブーンの思考が停止した。
時間が止まる。

何故?

頭の中で誰かに必死に問いかける。
でも誰も答えてくれない。


そして気づいたらときには、ブーンは両手を広げ、駆け出していた。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:40:23.51 ID:lRvtWySM0

⊂ニニニ(;゚ω゚)ニニ⊃「クー! クー!」

「ブーン!!」

ブーンの父さんは止めようと叫んだ。

手を伸ばせばブーンの首根っこを掴めただろう。

でもブーンの父さんはそうしなかった。

ただ叫んだだけ。

それだけ。


⊂ニニニ(;゚ω゚)ニニ⊃「クー! クー!」

从 ゚∀从「ブーン。止まれ」

⊂ニニニ(;゚ω゚)ニニ⊃「止まらないお!」

ブーンは丘を駆け上がる。

クーを助けるために。

ハインリッヒを吹き飛ばすために。

しかしブーンの猛進は、たった一言で止まった。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:42:28.92 ID:lRvtWySM0

川 ゚ -゚)「止まってくれ。ブーン」

クーの一言。

ブーンの足が止まった。

(;゚ω゚)「クー……なんでだお? 僕が今すぐ助けてあげるお!」

川 ゚σ゚)「自惚れるな!!!!」

(;゚ω゚)「え……?」

川 ゚ -゚)「ブーンは……私が助ける」

(;゚ω゚)「え……?え?」

川 ゚ -゚)「私は生贄に選ばれた話を両親から聞かされたとき、泣いた。
     怖くて泣き喚いた。生きたいと、死にたくないと叫んだ」

クーは手を握り締める。
握りこぶしが震える。

川 ゚ -゚)「でもな、私が死ぬことでブーンが助かると気づいたとき」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:43:38.54 ID:lRvtWySM0



「何も怖く無くなったんだよ」




(;゚ω゚)


川 ゚ -゚)


从 ゚∀从





59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:44:24.37 ID:lRvtWySM0

クー……最後に一ついいかお?


なんだ?


好きだお


照れるな


全然照れてるようにみえないお


それはすまない




60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:45:30.70 ID:lRvtWySM0

从 ゚∀从「別れの言葉は済んだか?」

川 ゚ -゚)「ああ、最後にブーンと話せて良かった」

从 ゚∀从「じゃぁ……始めようか」




神様が真っ黒になった。

この世が真っ黒になった。

何も見えない。

とても寒い。

人々が恐怖で泣き喚く。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:47:01.63 ID:lRvtWySM0

そのとき


黄金の輝きが現れた。

すべてを包み込む暖かな光り。


そしてこの世に光が戻ったとき。

全ては終わっていた。



从 ∀从



川  - )


ハインリッヒは俯いていた。

悔しそうに俯いていた。

こうすることしか出来なかった自分に怒り、俯いていた。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:47:56.13 ID:lRvtWySM0

そしてその足元には

クーの抜け殻が横たわっていた。

もう喋ることも、動くことも無い、クーの抜け殻。


ブーンはクーの抜け殻に手を伸ばす。

手が震える。

震えたままの手で、クーの頬をゆっくりと撫でる。

とても冷たかった。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:48:40.16 ID:lRvtWySM0


クー……

   君はもう動いてくれないんだね。

君は抜け殻になってしまったんだね。

   悲しいよ。   僕は悲しいよ……




67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:49:27.11 ID:lRvtWySM0

( ゚ω゚)「お……おお……」


( ;ω;)「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

ブーンは叫んだ。

声が枯れ果てるまで叫んだ。








68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:50:10.05 ID:lRvtWySM0






そしてブーンも抜け殻になった。

周りがいくら”終末の日”は回避されたと喜んだが。


ブーンの”終末の日”は回避されなかった。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:52:52.85 ID:lRvtWySM0

ブーンはひたすら部屋に篭り、

そしてたまに丘に出掛けては三日三晩泣き続けた。

从 ゚∀从「それでいいのか? ブーン?」

いつもの様にブーンが丘で一人泣いていたとき、
ハインリッヒが訪れ、話しかけてきた。

(  ω )「どういうことだお?」

从 ゚∀从「今のお前の姿を見てクーは喜ばない」

(  ω )「そうかお」

ブーンの態度は素っ気無い。
いや、誰に対してもブーンの態度は素っ気無かったのだが、
ハインリッヒには特別に素っ気無い反応を見せた。

从 ゚∀从「……ブーン。彼女の犠牲は必要な犠牲だった。
     彼女のお陰で今の我々があるんだ」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:53:58.87 ID:lRvtWySM0

(  ω )「ハインリッヒ……」

从 ゚∀从「なんだ?」

(  ω )「クーの命を犠牲にしないと世界は救われなかったのかお?」

从 ゚∀从「ああ」




誰かの命を犠牲にしないと存続出来ない世界。

             そんな世界……必要無い。




それ以来ハインリッヒがブーンの元に来ることは無かった。






73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:55:03.75 ID:lRvtWySM0




”終末の日”から数週間が経ったある日。

「あーあれは誰だ?」

村人の一人が、村の入り口を指差す。

そこには一人の男が立っていた。

一目見て村人では無い身なりをしている。

「都の者じゃないか?」

人々が口々に噂する。

するとその男はゆっくりと村人達に歩み寄った。
そして懐に手を突っ込む。


短刀でも出すのか!?


村人達に一瞬緊張が走る。

するとその予感は的中したのか。
男は銀色に光る、吸い付くような輝きをした短刀を出し、村人に襲い掛かった。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:56:04.10 ID:lRvtWySM0

「う、うあわっ!」

しかし次の瞬間。

ポンッ

軽い破裂音。
そして

「は……花束?」

短刀が一瞬にして花束に変わった。
拍子抜けした村人を見て、男が笑う。

「ハッハッハッハッハ、驚かしてすまない。
 しかし僕はは人を驚かすのが仕事でね。いや許してもらおうとも思っていないのだがどうか許して欲しい」

(´・ω・`)「僕の名はショボン。流浪の奇術師さ」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:56:54.21 ID:lRvtWySM0

ショボンと名乗る男は、村人達に様々な芸をみせた。

袖から炎を出してみせたり、

羊を一瞬にして鶏に変えて見せたり、

人を宙に浮かせてみたり。


ショボンの芸によって、”終末の日”以来表情に陰りのあった村人達に笑顔がもどった。

村人達はショボンに聞いた。

「あなたはあの”魔法使い”ですか?」

するとショボンは二カッと笑い、こう答えるのだった。

(´・ω・`)「ふふふ、たしかに僕は魔法使いかもしれないね。
      人に笑顔を与える魔法が使えるのだからね」





76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:57:38.61 ID:lRvtWySM0



ショボンがそろそろ村を出ようとしたとき、ハインリッヒに呼び出され、神殿に通された。

从 ゚∀从「こんな村にわざわざお越しくださりありがとうございました。
     おかげで村人達にも笑顔が戻りました」

(´・ω・`)「いえいえ、これが僕の仕事。生き甲斐ですから」

話自体は、お礼の言葉とほんの世間話だった。

二人は暫く話し込み、そしてショボンはそろそろ出発しようと立ち上がった。

从 ゚∀从「そろそろ行ってしまうのですか?」

(´・ω・`)「ええ、次の村が僕を待っていますから」

从 ゚∀从「そう……ですか」

(´・ω・`)「……ブーン」

从 ゚∀从



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:58:42.95 ID:lRvtWySM0

(´・ω・`)「ブーンといいましたっけ? あの少年」

从 ゚∀从「……ええ」

(´・ω・`)「僕の芸で笑わない子は初めてですよ」

从 ゚∀从「……なんとかなりませんか? 魔法使いさん」

(´・ω・`)「ハッハッハ、僕は魔法使いなんかじゃありませんって。
      村人達が面白いこと聞いてくるんで、ちょいと洒落てみただけですってあれは」


(´・ω・`)「あの子のご両親は?」

从 ゚∀从「最初のうちはかなり心配していたのですが……
     結局時間が解決してくれることを待つことにしたようですね。
     干渉すればするほど悪化するばかりです」

(´・ω・`)「つまり両親は暫くあの子を放っておくことに?」

从 ゚∀从「それが本人の為でしょう」



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 21:59:24.35 ID:lRvtWySM0

(´・ω・`)「……そういえばあの子は羊飼いでしたっけ?」

从 ゚∀从「……ええ、あの子は働き者ですよ」

(´・ω・`)「働き者ですか……」

ショボンにある一つの考えが浮かんだ。

そしてショボンはその考えを実行に移すために、村を出る前に丘へと目指した。


丘の上には、ブーンが精気の無い目で座っていた。

ショボンはブーンの前に立つ。

(´・ω・`)「やあ」

(  ω )「……」

ブーンは何も反応をしない。
しかしショボンは、ブーンの反応なんておかまいなしに、前に立ち続けた。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 22:00:07.68 ID:lRvtWySM0

やがてなかなか去らないショボンにしびれを切らしたのか、
ブーンがやっと一言返事を返した。

(  ω )「なんですかお……魔法使いさん」

(´・ω・`)「はっはっは、きみまで僕を魔法使いと称すのかい?」

(  ω )「……」

(´・ω・`)「神をも超越した力の持ち主。
      その昔、その名を各地に残した伝説の魔法使い」

(  ω )「……」

(´・ω・`)「単刀直入に言おう。君はクーを生き返らせたいか?」

(  ω )「……」

(;゚ω゚)「え!?」

ブーンの目に精気が宿った。

ショボンはにんまりと笑う。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 22:01:36.64 ID:lRvtWySM0

(´・ω・`)「魔法使いになら人を一人生き返らせるなんて造作もないだろうね。
      なんせ彼は神を超越した人間だそうだからね」

(;゚ω゚)「……でも、魔法使いは大昔の人だってカーチャンが……」

(´・ω・`)「一つ昔話をしてあげよう――




むかしむかし、一人の魔法使いがいました。

魔法使いは神をも超えるその力で、各地のその名を轟かせました。


魔法使いは無敵でした。

でも、最強を誇った魔法使いも、ある”敵”には勝つことが出来ませんでした。




(´・ω・`)「時間。全てのものにひとしく与えられる、この世の真理。
      魔法使いも時間には勝てなかった」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 22:02:31.21 ID:lRvtWySM0
(  ω )「ええ、僕もクーが神様に生贄に捧げられたとき、
      魔法使いならと考えたお。でもすぐにそんな考えは捨てたお
      時間にも勝てない魔法使いが、死に勝つことなんて……」

(´・ω・`)「勝ったのさ」

(;゚ω゚)「!?」




魔法使いは流れ行く時間の河に流され……

そして死という大海が目前まで迫りました。


しかし魔法使いは諦めませんでした。
そして不治の病に倒れ、病床に伏したとき、こんなことを言いました。


「私はもうじき死ぬだろう。
  しかし、時間にも死にも勝てなかった私だが……


               きっといつか戻ってくるだろう




(;゚ω゚)「まさか!?」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 22:03:28.64 ID:lRvtWySM0

(´・ω・`)「……魔法使いは死んでも、その後生き返る道を選んだ。
      体の寿命は尽きても、魂は潰えない。
      体が死ぬなら、別の体を使えばいい」

(;゚ω゚)「そ……そんな話が……」

(´・ω・`)「信じる信じないは君の自由。
      でも一つ言わせてくれ。この話は有名な話だ。
      決して僕のでまかせではない。これは保証する。だから」


(´・ω・`)「もし良かったら、都に連れていってあげるよ。
      きっと都なら魔法使いの情報を得られる。
      もしかしたら会えるかもしれない」



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/24(木) 22:04:10.20 ID:lRvtWySM0

(;゚ω゚)「……会いたいですお」

(´・ω・`)「……」

(;゚ω゚)「魔法使いに会いたいですお」

(´・ω・`)「ふふ、僕もだよ」

そしてショボンは、ブーンに手を差し出してきた。
握手を求めているようだ。

(´・ω・`)「僕はショボン。流浪の奇術師さ」

ブーンはショボンの手を掴む。

( ^ω^)「僕はブーン。羊飼いのブーンですお」



そしてその日、人知れず二人の男が村を旅立った。



プロローグ 完



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