( ^ω^)ブーンは奏者のようです

2: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:37:15.65 ID:7yuktrP90
 ─── auftact ───



 ─── 最高の楽器とは、なにか?

 この問いは答えなど無いであろう。

 多種多様な音色、得意とする音域、奏法。

 それらが異なるからこそ音楽が生まれ、また必要だからこそ、そこに楽器は存在する。

 故に最も高い位置にいる楽器は存在しない。

 音楽とは、楽器を並べて奏でることであるからだ。


 では、問おう。

 ─── 最強の楽器とは、なにか? 


 それぞれの理由で最強を目指す、“樂器を奏でる者”達の演奏をどうか最後までお聴きいただきたい。

 そしてその間、聴衆となる皆様もこの不可解な問いの答えを探してみてほしい。


 この演奏を聴き終えた時、あなたの胸の内にある答えが私と同じであるとすれば、それはとても作曲者冥利に尽きることだ。



4: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:38:50.83 ID:7yuktrP90




( ^ω^)ブーン達は奏者のようです




6: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:39:21.40 ID:7yuktrP90



 交響曲 第1番 「序曲」 ──────




7: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:40:48.01 ID:7yuktrP90
 ─── 第1楽章 ───


 寒い寒いと思っていたら雪が降っていた。


(;^ω^)「……これはつもるかもわからんね」


 教室の窓際の一番後ろ。
 涼宮ハ○ルと同じ位置に僕の机はある。

 数学という名の宇宙語を話す先生の一様な低音ボイスをBGMに、周りのクラスメート達は黙々と黒板の内容をノートに書き写していた。
 さすが進学校だけあって授業中のふいんき(ryは重く、背もたれに体を預けて退屈そうに暇をもてあましているのは、早々に勉強を諦めた僕だけのようだった。
 もっとも最前列で爆睡こいてる僕の同類ほど空気が読めないわけでもなく、この気まずい時間を終わらせる鐘をただボーっと待っている。

 今年最初の雪にも興味は薄れ、僕は既に8回目となる昨日発売の週刊少年跳躍のページを捲る。 やはり何回見てもH×Hはやっていなかった。
 先生は僕や最前列のあいつのことなど、まるでそこにいないかのように淡々と授業を進めている。
 この学校のほとんどの教師は、僕らのような生徒を更生させよう……なんて情熱は持ち合わせていないようだった。
 それは僕にとって、ありがたいことではあるのだけれど。

 テニスコートの中で新たな殺人術が生まれた頃、そのくだらなさを断ち切るようにチャイムが鳴った。
 顔と名前が未だに一致しないクラス委員長の号令で、やっと50分の苦行が終わる。


( ´ω`)=3「ふぅ……」



9: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:43:27.96 ID:7yuktrP90
 これが後4回続くかと思うと溜息も出る。 少なくとも今日中に後4回つく事になるんだろうと考えたら、また溜息が出た。
 退屈しのぎの話し相手は未だ夢の中のようだ。 このままいつものように昼までおやすみコースなんだろう。

 短い休憩が終わり(と言ってもその時間すら長く感じるのだけれど)、今度は世界史の荒巻が今にも生命活動を終わらせそうなやばい動きで教室に入ってくる。
 いつまで教師つづけるんだろうか、この人は。

 さっきと同じトーンで授業開始が告げられ、皆が一斉に教科書を開く。
 温厚な性格で知られる荒巻先生だからか、数学の時と比べて幾分空気がやわらかい。

 それでも暇なことに変わりはなかった。
 僕はさして眠くもない体を机に突っ伏し、目を閉じて意識を闇の中に落とそうと努める。
 眠ることにすら努力を要しなければいけない学校が、僕は大嫌いだった。

 つまらない。
 僕の今の人生はこの一言に集約されるだろう。 この一言で片付くと言ってもいい。
 高1から受験に向かって本気で動かなきゃいけないような学校で、進学する気の無い僕はクラスでも浮いた存在だ。
 なんでこんな学校を選んだんだろう。 理由はもう忘れた。 大方家が近かったとかだろう。 僕のことだから。

 これといって趣味も無い僕にとって、人生はただの時間の浪費でしかなかった。
 いつからかはわからない。 気付けばこうなっていた。
 何かに一生懸命に打ち込むだとか、年相応に恋愛するだとか。
 なぜ僕にはそういった類のことができないんだろう。

 目蓋の裏で世の中に対する呪詛を吐く。
 頭の中をぐるぐる回る不平不満。
 目を瞑るといろいろ考えてしまう。

 ……もう眠ろう。
 僕は無理矢理思考を止め、眠ること一点に集中する。



10: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:45:11.86 ID:7yuktrP90
 ─────────


 暗い暗い部屋の中。
 一切光の差し込まない、部屋。
 右も左も、上か下かさえ分からない部屋の中に僕は居た。


(;^ω^)?。oO(ここは……?)


 自分の体すら見えない暗闇で、意識だけははっきりとしている。


(;^ω^)。oO(明晰夢……ってやつかお?)


 僕が最後に見たのは自分の机の木目だ。
 実は今日は僕の誕生日で、クラスメートがサプライズパーティーなんか開いてくれない限り、今の状況が夢だという以外に選択肢はなさそうだった。


( ^ω^)。oO(ねーよwwwwwwwww)


 思わず声に出したはずの台詞は、何を震わすことも無く意識の中に沈んでいく。



12: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:47:10.14 ID:7yuktrP90
 それにしても困った。
 夢の中ですら退屈そうだ。

 辺りを見回しても部屋は相変わらず真っ暗で、目に付くものなんか何一つありやしない。
 ここまで何も無い人間なのか僕は、ともはや癖になりつつある溜息をつく。 いや、正確にはついたつもりになる……だろうか。

 部屋にある変化が起きるのは、それと同時だったか、それともその少し前か。

 ポロン……と一粒の音が耳に届いた。
 音を聞き取る耳があったのか、なんて冷静に考えてたら、いつの間にか僕は両の足を地につけ、自由に動く手があることに気付く。
 部屋は相変わらず暗いままだったけど、それでもここが四角い空間なんだということは感じられるほどになる。

 ポロンポロン……と飛び跳ねる音の粒はいつしか流れるメロディに変わる。
 聞き覚えがあった。 これは僕が好きだった……


(;^ω^)?「……あれ? なんだったかお……?」


 メロディは追える。
 時折つっかえそうになるけれど、聞こえてくる旋律を僕は頭の中で再現できる。
 それなのにタイトルは思い出せなかった。
 ……いや、なんで僕が好きだった、なんて思ったのかもわからない。
 こんな粗雑で、好き放題飛んだり跳ねたりする曲、聴いてて疲れるじゃないか。

 この曲はもっと繊細で、跳躍だって上品で……そんな曲だったはずだ。
 あぁ耳障りだ。 頼むからそんな下手な演奏を聴かせないでくれよ。
 大体そんなメロディ入ってないだろ。 それじゃまるで学校のチャイムみたいじゃないか……



13: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:49:12.82 ID:7yuktrP90
 ─────────



( ^ω^)「お?」


 そこは四角い部屋。
 だけど光に満ち溢れてて、窓の外は曇ってるけど雪が降っていて。
 辺りは喧騒に包まれていて、その光景と僕のお腹の虫が今の状況を教えてくれる。


(^ω^)「……そうそう、あれは夢だったんだお」


('A`)「あにが夢だったって?」


 キョロキョロしながら百面相していた僕を見てドクオが不思議そうに尋ねてくる。
 こいつが学校に来て起きているのは登校、昼休み、下校と統計学的に決まっている。
 そのことが、今が昼休みだという現実を確かなものにしてくれた。



15: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:51:13.88 ID:7yuktrP90
( ^ω^)「えーと……」


 何の話だったか。
 そうそう夢の話だ。


(;^ω^)「……覚えてないお」


('A`)「あーそう」


 ま、夢なんてそんなもんだよな、なんて大して興味もなさそうに言いながらドクオはカレーパンの袋を開ける。
 僕も朝買ったパンを鞄から取り出そうとして、やめた。 何故だか食欲が無い。


('A`)「食わねーならくれ」


 それを目ざとく見つけたドクオに半ば呆れつつも、僕はパンを手渡す。


('∀`)「いやー悪いね。 今日朝食ってなくてさ」


( ^ω^)「またネトゲかお。 廃人乙」



16: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:52:40.58 ID:7yuktrP90
 起きてる時間の9割がネトゲに使われ、数々のネトゲでトップの座に君臨しているらしい。 前にどんなにマゾくとも課金はしないのが俺のジャスティスだとかどうでもいいことを言っていた。
 本人曰く、暇つぶしなんだそうだが、どう考えても生活の全てがネトゲにつぎ込まれてるとしか思えない。


('∀`)「それがよー。 昨日面白いもん拾っちったんだなーこれが」


( ^ω^)?「kwsk」


('∀`)「まぁまぁ今日どうせ暇だろ?wwwww 帰りに家よってけよwwwww 見せてやっからwwwww」


(;^ω^)。oO(ハイテンションきめぇ……)


 しかし日々を惰性で生きているドクオがここまで浮かれるのもめずらしい。
 僕としても退屈しのぎになるならありがたいことだ。
 ここはドクオの提案に乗っかることにする。


( ^ω^)「それじゃあ久々にお邪魔するお」


('∀`)「おkwwwwwww 放課後なwwwwwwww」


(;^ω^)。oO(うぜぇ……)



19: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:54:10.55 ID:7yuktrP90
 あれだけハイテンションだったドクオも、昼休みが終わるとまるで電源が切れたかの様に眠り始める。
 便利なスキルだな……とか思いながら、僕はどうやって暇をつぶすかを考えることで暇をつぶすことにした。


( ^ω^)。oO(タカさんは……俺の嫁……と)


 携帯で糞スレ巡りをしてるうちに時は過ぎ、ようやく放課後となる。


('A`)「帰んべー」


 僕とドクオは軽い鞄を引っつかんで教室を出た。

 外はまだ雪が降り続けている。
 僕らほど放課後の学校に用が無い人もいないのか、昇降口を出ても周りに生徒の姿はまだ見当たらない。

 吐く息が白い。
 コンビニで買ったおでんで冷えた体を温めながら、薄暗くなりつつある街を歩く。


('A`)「うい到着」


( ^ω^)「だおー」



20: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:55:40.07 ID:7yuktrP90
 しょっちゅう来ているドクオの家なので、ここは遠慮なく上がらせてもらう。
 ドクオが部屋のストーブにチャッカマンで火を点ける。
 学ランを放って部屋着に着替えると、ドクオは部屋の隅に立てかけてあるものを指差した。


('∀`)「あれだ!」


( ^ω^)「………」


 それは赤いエレキベースだった。
 とは言っても弦は張られておらず、所々塗装も剥がれてきている。


( ^ω^)「……それ、どうしたんだお?」


('∀`)「おう! 捨ててあったの拾ってきた!」


 なるほど。 どうりで。


('∀`)「いやー大変だったんだぜ? もうボロッボロでさ、正直一晩でここまで復元した俺はベースの才能があるとしか思えないね!」


( ^ω^)「いやそれはねーお」



22: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:57:11.85 ID:7yuktrP90
('A`)「ところでブーンよ」


( ^ω^)「なんだお」


('A`)「これどうすりゃ音でるんだ?」


(;^ω^)「そっから!?」



 ─────────



 そんな訳で僕らは駅前のデパートの中にある楽器店に向かう。


( ^ω^)「これがベース用の弦だお」


('∀`)「おいwwwww 丸まってんぞwwwwww かっけぇwwwww」


(;^ω^)「うぜぇ……」


 ひたすらはしゃぐドクオを促してレジへ。



25: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 00:58:39.55 ID:7yuktrP90
川 ゚ -゚)「いらっしゃいませ。 ……823円になります」


 うるさくしてる僕ら(つかドクオ)に怒っているのか、店員のお姉さんは無表情で機械的にレジをこなす。


(;^ω^)「おいドクオ……早く払えお……」


('∀`)「足りねぇwwwwwwwwwww」


( ^ω^)「ドクオ自重しろ」


 結局僕が払って事なきを得る。


川 ゚ ー゚)「……ありがとうございました」


 うわ、笑われたよ。


('∀`)「おいwwwww 今微笑んだぜwwwwww 俺らどっちかに気があんじゃねwwwwっうぇwwwwww」


( ^ω^)「はいワロはいワロ。 つかさみぃお。 肉まん奢れお。 でなければ氏ねお」



27: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:00:11.30 ID:7yuktrP90
 その後コンビニで82円しか持ってない事が発覚する。
 僕は思いつく限りの悪態をつきながらドクオの家に帰った。


('A`)「さてここでベースの才能が光るわけだな。 弦張りは任せろ!」


( ^ω^)「あ、4弦逆だお」


('A`)「………」


 テンションだけで突っ走るドクオに呆れながら、僕はベースの復活計画に付き合った。


('A`)「おい、これでおkか?」


( ^ω^)「まだだお。 チューニングしないと」


('A`)?「kwsk」


( ^ω^)「弦ごとに正しい音程ってのが決まってるんだお」



29: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:01:42.77 ID:7yuktrP90
('A`)「音程とかわかんねぇし」


( ^ω^)「……貸すお」


 僕は弦を指で弾きながらペグを回す。
 ボディ越しに体に響く低音が僕をなんともいえない気分にさせた。


( ^ω^)「……これで大体合ってると思うお。 さすがに細かいピッチは合わせられないから、今度自分でチューナー買えお」


 ドクオにベースを返す。
 しかしなかなか受け取ろうとせず、ドクオはポカーンとした顔で僕を見ていた。


('∀`)「すげぇwwwww 人間じゃねぇwwwww」


( ^ω^)「………」


 ドクオのテンションとは裏腹に、僕の中で何かが急速に冷めていくのを感じていた。
 さっきから頭が痛い。 吐き気がする。
 僕の脳が警告する。 これは自己防衛本能だと。



30: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:03:11.24 ID:7yuktrP90
( ∀ )「おい……ン! お前な…か楽……きんのか!?」


(  ω )「いや……僕は楽器なんか……」


 急にドクオの声が僕の中でドレミに変わる。
 受信する情報の変化に僕の脳内はパニックを起こしていた。


(   )「釣……ろww…ww 別に隠……な事…も………ゃんww……w 教え…よwww」


(  ω )「僕は……」


(    「バン……もーぜ……www …ンドwwwww 学祭……でモテ………ね?wwwww」


 目の前が真っ暗になっていく。
 頭の中ではどこかで聴いたメロディが暴力的な音量で駆け巡っていた。
 これ以上は……まずい。
 もう……限界……



31: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:04:40.58 ID:7yuktrP90







                             ('∀`)「「なぁ、演奏してくれよ」」(   )

                                  
                              ─── ピアノの音が、聴こえた。








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