( ^ω^)ブーンは奏者のようです

49: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:24:11.59 ID:MRk8yPIi0
 ─── 第3楽章 ───



 ピアノの音が聴こえる。
 オクターブの跳躍を三回ごとに繰り返すピアノ。
 壊れたレコードの様に、ただそれだけをひたすら繰り返す。


( ^ω^)「……また夢かお」


 見渡す限りの暗闇。
 何も見えないのに、なぜかそれとわかる、部屋。
 変わらず退屈なその光景に僕はうんざりして溜息をつく。


( ^ω^)?「……お?」


 光だ。
 一筋の光がこの部屋に向かって降りてくる。
 訪れた変化に僕は少し期待しながら様子を見る。

 部屋の真ん中、光はあるものを照らし出す。
 古いグランドピアノだった。



51: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:25:49.71 ID:MRk8yPIi0
 そのピアノは誰に弾かれることもなく孤独に鍵盤を叩き続ける。

 誰を、待っているのだろうか。

 既に始まってしまったリサイタルの中スポットライトに晒され、それでも現れない演奏者をひたすら待ち続けて導入部を繰り返している。

 僕にはなぜか、そう聴こえた。



    「お兄ちゃん、お客さん?」


Σ(;^ω^)「おわぁっ!!」


 突然耳元から聞こえてきた少年の声に驚き、僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。


(^ω^;≡;^ω^)「ど、どこにいるんだお!?」


 辺りを見回しても相変わらず闇しか無い。
 落ち着かずきょろきょろする僕を見て楽しんでいるかのように声は続けた。


    「あはははは! 面白い人だ! ……ねぇ。 何しにここに来たの?」


(;^ω^)「何しにって……」



52: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:27:19.83 ID:MRk8yPIi0
 そもそもここは夢の中のはずだ。
 夢の中で何しに来た、なんて言われてもどう答えればいいのか見当もつかない。

 僕が返答に悩んでいると、声は気にせずに話しかけてくる。


    「ねぇねぇ! お兄ちゃんどんな人なの? 何歳? お話しようよお兄ちゃん!」


 マシンガンのように次から次へ僕に質問してくる少年の声。
 姿が見えないことに変わりは無かったけど、その人懐っこい声を相手にしている内に、いつしか僕はかわいい弟が出来たような気分になっていた。


    「でねでね! 僕はキャンディが大好きなの!」


( ^ω^)「キャンディはおいしいお」


    「でもね、パパがね、2つしかくれないの、キャンディ。 僕はたくさん欲しいのに……」


( ;ω;)「僕がキャンディを山ほど買ってやるお」


    「だけど僕が一番好きなのはピアノ! だからこの部屋にずっといるんだ!」


( ^ω^)「ほほーう。 そうだったのかお」



53: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:28:44.43 ID:MRk8yPIi0
    「でもあのピアノを誰も弾いてくれないんだ。 ……お兄ちゃんはピアノ、弾ける?」


( ^ω^)「もちろん弾け───」


 急に言葉が止まる。


 もちろん弾けるお!

 そう言おうとしたのか僕は?
                           ・ ・ ・
 ありえない。 だって僕は今まで生きてきて一度も楽器になんか触ったことがないのに。

 彼を喜ばせる為に嘘をつこうとしたのか?
 いや、違う。 さっきの言葉は “ピアノが弾ける僕” の台詞だった。


(  ω )「ぁ……え……?」


 僕の記憶に矛盾が生じる。

 僕はさっき何をしていた?
 ドクオのベースをいとも簡単に調律していたじゃないか!
 あんなこと、楽器の知識も経験も無い僕が出来るはずが無い!
 だったらなんで!?

 僕は……何を忘れている?



55: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:30:11.20 ID:MRk8yPIi0
    「どうしたの、お兄ちゃん?」


 豹変した僕の様子に心配そうな声をかけて来る少年の声。


(  ω )「いや……」


 頭が痛い。
 急にこの部屋にいることが息苦しく感じる。
 古いグランドピアノが繰り返すオクターブの跳躍が耳に痛い。
 この部屋に居たくない。


(  ω )「もうそろそろ……帰るお」


 搾り出したように掠れた声でそう告げると、小さく、そっか、と返ってくる。


    「また……来てくれるよね?」


(  ω )「………」


 僕は答えない。
 ここは僕を狂わせる。
 彼に嘘をつく気にはなれなかった。



56: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:31:43.87 ID:MRk8yPIi0




                                 「それでも僕は、待ってるから」


                             ───最後に一瞬だけ見えた少年の顔は

                                   泣いてるように笑っていて

                                その顔がなぜかいやに懐かしくて

                                   また僕の胸を締め付けた





57: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:33:11.00 ID:MRk8yPIi0
 ─────────



( ^ω-)「んお?」


 暗い部屋。
 さっきまで夢の中で居た部屋とは違うのに、そこにまだ居るかの様な錯覚を覚える。


( ^ω^)「また……夢かお」


 夢の内容は思い出せない。
 でも最後に見せた少年の顔だけはくっきりと脳裏に焼きついている。


('A`)「あー? ……なんだ、ようやく起きやがったか」


 部屋の主がパソコンのディスプレイの光の中から話しかけてくる。


('A`;)「いやーびびったぜ。 お前急にぶっ倒れるもんだからよー。
   これは救急車沙汰か? とか思ってたらよ、お前ただ爆睡してるだけでやんの。
   マジどんだけー」


(;^ω^)「……それはすまんかったお」



58: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:34:41.30 ID:MRk8yPIi0
 気付けば僕は暖かい布団に包まれ、服も学生服からジャージに変わっている。


('A`)「なんか知んねぇけど、まぁ疲れてたんだろ?
   一応お前んちに電話したけど誰もいねぇみたいだしよ、今日はこのまま泊まってけって」


( ^ω^)「ドクオ愛してる」


('∀`)「きめぇよ氏ねwww」


 僕はその話に甘えさせてもらうことにした。



 ─────────



 十分に寝ていた僕は結局朝までドクオとニコ動を観たり馬鹿話をしたりして過ごした。
 とはいえそのまま学校へ行くのもすっきりしないので、朝早くにドクオの家を出て一旦自分の家に帰ることにする。

 朝の刺すような冷たい空気が僕の眠気を吹き飛ばしていく。
 昨日の雪雲は既に無く、朝焼けのオレンジの光が気持ちよかった。
 鞄から家の鍵を取り出す。


( ^ω^)「……ただいまーだお」



60: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:36:10.64 ID:MRk8yPIi0
 シンと静まり返る我が家。
 空気は冷え切っていて、家はまだ眠っているかのようだった。
 とは言え僕がいなければ起きることも無いので当然だ。

 適当にその辺に服を放っぽってシャワーを浴びる。

 僕はこの広い一軒家に一人で住んでいる。
 理由は僕にもわからない。
 高校に入学してからすぐ、母さんは家を出て行った。
 父親は僕が生まれる前に亡くなったらしい。

 昔から母さんとは干渉しあわなかった。
 仲が悪いとかそういうのではなくて、ただ一緒に住んでいる他人みたいな関係だった。
 そうやって育ってきたから僕にとってはそれが普通だったし、愛に飢える……なんてことも無い。
 お金は十分なほど送ってもらっているし、今のところ困る理由も無かった。

 ……少しぼーっとしすぎたみたいだ。
 シャワーから上がる頃にはいつもの登校時刻をとっくに過ぎていた。


( ^ω^)「……走るかお」


 そう決めて僕は冷蔵庫から牛乳を取り出した。



62: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:37:43.65 ID:MRk8yPIi0
=      ブーン
≡⊂ニ(;^ω^)ニ⊃「ちょwwwwさすがに余裕ぶっこきすぎたおwwwww」


 修正した時刻よりさらに遅い時間になって家を出た僕は全力疾走を余儀なくされていた。
 まだ髪が乾ききっていないせいで頭が痛いほど寒い。
 なにより牛乳の消費期限が五日も過ぎてたのがいけなかったんだ。

 そろそろ無駄に厳しいだけの生活指導がご出勤なさる時間だ。
 もはや一秒の無駄も許されない。
 切羽詰った僕はいつもの通学路から一つ道を折れ、近道になる細い路地に入り込む。

=        ヒュン
≡⊂ニ( ^ω^)ニ⊃Z「サンダードリフトだお!!」
=          ヒュン

    「きゃっ……!」


Σ(;^ω^)「おわっ! ごめんなさいですお!」


 封印していた移動技を解禁した瞬間、思いっきり人にぶつかってしまった。
 ミニ四駆は人を傷つける道具じゃないんだぞ!って土屋博士に言われてたのに!

 見れば女の子は尻餅をついていた。
 周りには女の子の鞄から、かわいらしい筆箱やらノートやらが散乱してしまっている。


ξ;-听)ξ「あ……ったたた」



65: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:41:57.48 ID:ysNFN5Oy0
 女の子は慌てて自分の荷物を拾う。
 僕も手伝ったほうがいいかと思ったけど、女の子の私物に触るのはどこか抵抗があったからただ慌てることしかしなかった。

 最後のノートの砂を払い鞄に入れた所で、その子はすごい剣幕で僕を睨みつけてくる。


ξ# )ξ「あんたねぇ……」


 彼女は勢いよく立ち上がる。
 制服姿だから僕と同い年ぐらいなのだろうけど、ずいぶんと背が低いみたいだった。
 綺麗な金髪の巻き髪が人形のような美しさを強調している。


ξ#゚听)ξ「ふざけんじゃないわよ! 曲がり角にいきなり飛び込んできて! 危ないに決まってんじゃないの!!」


(;^ω^)「いや僕も急いでたもんで……」


ξ#゚听)ξ「こんな狭い道で両腕広げて! どんな神経してんのよあんた!!」


(;^ω^)「僕走るときそれやんないと天の声に叩かれるんだお……」


ξ#゚听)ξ「なぁにがだお……よ! なぁにがサンダードリフト(笑)よ!! ばっかじゃないの!!」


(;^ω^)「ちょwwwテラフルボッコwwwww」



67: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:43:43.53 ID:ysNFN5Oy0
ξ#゚听)ξ「あぁもう! あんたのせいで学校遅れちゃうじゃない! どうしてくれんのよこのクソバカ!」


 ひたすら僕を罵りまくる彼女を相手にしているうちに僕もだんだんイライラしてくる。


( ^ω^)「ちゃんとあやまったのにそこまで言うかお!? だいたい飛び出してきたのは君も一緒だお!」


ξ#゚听)ξ「私は遅れそうだって言ってるでしょ! 走るのは当たり前じゃない! そんなことも考えられないのあんたは!」


(#^ω^)「それは君の勝手な都合だお! 僕には全然関係無いことだお!」


ξ#゚听)ξ「あぁもううるっさい!! 私はあんたなんかにかまってる暇なんて無いの! 早くそこ退いて!!」


 言うなり彼女は僕の脇をすり抜け走り去っていく。


( ^ω^)「ちょまてよ」


 キムタク(の真似をするホリ)の真似で呼び止めてみたけど余裕でガン無視されました。


(;^ω^)「嵐のような女だったお……」



70: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:45:10.12 ID:ysNFN5Oy0
( ^ω^)「お?」


 僕のかかとが何かを蹴っ飛ばす。
 くるくると回りながら道をすべる何か。


( ^ω^)「……ノート?」


 飾り気の無いシックな表紙のノート。
 僕の物ではないから思い当たる持ち主は一人しかいない。
 おそらく僕の影に隠れて拾い損ねたんだろう。


( ^ω^)「おーい……って」


 僕は曲がり角に戻ってさっきの娘を呼び止めようと声をかけた。
 だけどそこに彼女の姿は既にない。
 ついさっきまで僕が走っていた道はこの細い路地に入る曲がり角を除けばずっと一本道だ。
 死角になるようなものも無いし、ついさっき別れたばかりで見失うはずは無いんだけど……。


(;^ω^)「足速すぎだろ……常考……」


 遠くから登校完了を知らせる鐘の音が聞こえた。



71: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:46:40.89 ID:ysNFN5Oy0
(;^ω^)「………」


 ゆっくり歩こう。
 僕は元の通学路に進路を戻し、まだ少し遠い校舎を目指して歩き始めた。



 ─────────



(´・ω・`)「それでね。 僕の前いた学校では購買にいろんな種類のパンが置いてあったんだけどさ。
      その中でも異彩を放ってたのがその真っ青なコッペパンで……」


('A`)「ふんふん」


(´・ω・`)「普通そんな気色悪いパン食べようなんて思わないじゃない?
      でもなぜだかすっごい人気があってさ。 そのパンが売り出されると一瞬のうちに売り切れちゃうんだよ」


('A`)「つかどんな味なんだよその真っ青なコッペパン」


(´・ω・`)「そこなんだよ。 僕も興味沸いてきて買ってみようと思ってたんだけど、二年近くあの学校通って一回も買えなかったんだ。
      だから僕そのパン買った人に聞いたんだよ。 その真っ青なコッペパンはどんな味なんですか?……ってね。 そしたらさ……」



73: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:48:10.95 ID:ysNFN5Oy0
(;^ω^)「おいすー……ってドクオが起きてるお。 え? もう昼かお?」


 休み時間。 教室に入るなり僕は不思議な光景を目にする。
 昼まで絶対に起きないドクオが起きてて、見知らぬ男子生徒と話している謎な状況。
 僕の時間の概念を打ち崩すには十分な光景だった。


('A`)「んあ? おうブーン。 あんだけ早く出た割には重役出勤じゃん」


( ^ω^)「ちょっとフラグ立てるのに忙しかったんだお」


('A`)「ワロタ」


( ^ω^)「いやいやマジだお。 曲がり角で女の子と正面衝突だお。 でもパンはくわえてなかったお」


 実際そんなほほえましいエピソードでもないけど。


( ^ω^)「これは間違いなく運命。 たぶん今日辺り転校してくるんじゃないかお」


('A`)「はーん」


 割とスルーですねこの人。



75: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:49:40.43 ID:ysNFN5Oy0
( ^ω^)「んで。 さっきから知らない人いるんですけど誰だお?」


('A`)「あぁ、お前の運命の人だよ」


(´・ω・`)「どうも、転校生のショボンです」


( ^ω^)「………」


 さいですか。



 話題は変わって。


( ^ω^)「ショボンはなんでドクオなんかと喋ってんだお?」


('A`)「なにその汚物みたいな扱い」


(´・ω・`)「いやどうやらクラスのほかの皆には受け入れてもらえないみたいでね……」


(;^ω^)?「お?」



77: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:51:11.48 ID:ysNFN5Oy0
 ドクオと普通に喋っててクラスメートには受け入れられないってことは……。


(^ω^)「バカか……」


('A`)「こっちみんな。 つか逆なんだよこいつは」


( ^ω^)?「逆?」


('A`)「頭良すぎんの。 編入試験満点だとよ」


(;^ω^)「mjsk……。 そんな出来杉君がなぜこんな底辺と……」


('A`)「あいつらプライド高ぇかんな。 転校生にいきなりクラストップとられんのが気に食わねぇんだろ」


 平気でクラス中に聞こえるようなトーンで喋るドクオに反論してくるやつはいない。
 この変わらずピリピリとした空気は、既にショボンを異物として見ているようだった。


( ^ω^)「それでも友達は選んだほうがいいお……」


(´・ω・`)「いないよりはずっといいって。 悪い人には見えないし」



80: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:52:46.65 ID:ysNFN5Oy0
('A`)「あ、おいそんなことよりよ。 さっきの話の続き聞かせろよ」


(´・ω・`)「あぁそうだね。 どこまで話したっけ……。 そうそう、その真っ青なコッペパンの味なんだけど……」


    「おいそこ、席付け。 ……転校生もそんな奴らと話してたらバカが移るぞ」


('A`)「………」


(´・ω・`)「おっと……。 また今度みたいだね」


 先生が教室に入ってくるなり、ショボンはさっさと自分の席に戻る。


('A`)「味は? ねぇ味は?」


 ドクオの声も虚しく、授業はいつもどおり始まった。


('A`)「寝れねぇじゃん!」


 それが本当ならこの学校で誰一人として出来なかったことを、転校生がたった一日でやってのけたことになる。
 まぁ結局すぐに寝たんだけど。



82: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:54:10.65 ID:ysNFN5Oy0
 ─────────



('A`)「それはあの音高の制服だな」


(;^ω^)「なんという制服マニア……」


 昼休み。 喧騒のけの字もないような冷めた教室を出て、ショボンの案内がてら設備だけは整った学食で昼食を取る。
 そこで何気なくでた朝の女の子の話題なんだけど……。


(´・ω・`)「へぇ、この近くに音高なんてあるんだ」


('A`)「隣町にな。 この辺で黒のブレザーに赤いリボンっつったらそこしかねぇよ。 やたら目立つからな」


 ドクオは無駄に味の濃いうどんを啜る。

 ドクオの言うとおり、隣町には小さな音楽高校がある。
 有名では無いにしろ、どうやらレベルは高いらしく、並大抵の技術では入学できないそうだ。


(;^ω^)「あんな性格悪そうなのが、あの音高生なのかお……」


 ということはいいとこのお嬢さんってことだ。 想像できないけど。



84: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:55:44.39 ID:ysNFN5Oy0
('A`)「ブーン、放課後そのノート返しに行ってこいよ」


Σ(;^ω^)「はいぃ!?」


('A`)「お前これは間違いなくフラグだぞ。 ここで動かなきゃお前は一週間は後悔するね」


(・ω・`;)「あ、一生とかじゃないんだ」


(;^ω^)「んなこと言っても、その子の名前も知らないのにどうやって探すんだお」


('A`)「たかが200人ちょっとの学校だろ? 校門で待ってりゃそのうち見つかんよ」


(;^ω^)「………」


 ……この男、絶対楽しんでる。



86: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:57:15.51 ID:ysNFN5Oy0
(;^ω^)「それじゃあ二人とも一緒に来てくれお。 僕一人じゃ不安だお」


(´・ω・`)「うーん、僕はパスかな。 まだ家の引越しの片付けとかしなくちゃいけないし」


('A`)「俺はカリスマベーシストになるための特訓があるからダメだ」


(´・ω・`)「それに女の子一人に会いに行くのに男がぞろぞろ仲間引き連れてるのはスマートじゃないんじゃない?」


('A`)「まさしく。 さすが天才はフラグ管理がうまいな」


(;^ω^)「あの、僕フラグとか割とどうでもいいんですけど」


 僕の訴えは当然のように無視され、当事者を置いて会話はどんどん進んでいく。


('A`)「てな訳だ。 音高のお嬢さん、がんばってゲットしてこいよ」


(;^ω^)「どんな訳だお……」


 そんな訳で僕は今日の放課後、音高へ行くことに決まりました。 まる。



87: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 01:58:44.80 ID:ysNFN5Oy0
 ─────────



( ^ω^)「確かこの道を曲がって……」


 いつものように退屈な時間を終えた放課後。 僕は歩いて40分ちょっとの道を行き音高に向かう。
 はっきり言ってしまえばどう考えても要らない手間だ。
 いつもならこんなのは無視して、次の日適当に話を合わせて終わりという程度の出来事だろう。

 それなのに何故僕は今この道を歩いているのか。
 理由はなんとなく分かっていた。

 今朝会ったあの少女にもう一度会ってみたい。
 ドクオ達にはああ言ったけれど、どこかに彼女に惹かれている自分がいることに、僕は気付いていた。


(;^ω^)「……ここかお」


 まず見えてきたのは大きな音楽ホールと、その上に建つ時計塔。
 敷地内の道には石畳が敷かれ、そのホールを囲むように数々の棟が建っている。
 ここだけ国と時代を間違えているとしか思えないような建築様式の建物に僕は圧倒されていた。
 音楽学校と言うよりは音楽院といったところだろうか。
 まるで中世ヨーロッパにタイムスリップしてきたかのような錯覚すら覚える。

 校門は普通に開放されているけど、この中に入るのは相当勇気が要りそうだ。



89: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 02:00:10.39 ID:ysNFN5Oy0
( ゚∀゚)「よう少年。 この学校になにか用か?」 


 僕がそうして躊躇していた時、不意に男の人に声をかけられる。
 部外者である僕を追っ払いにきたんだろうか。


(;^ω^)「いや……あの……人を……」

  _
( ゚∀゚)「なんだ彼女か? 名前言ってみろよ。 俺が呼んでやっから」


 その人はやけに馴れ馴れしく接してくる。
 変な人だ。 僕は最初にそう思った。
 態度もそうだけど、こんな寒い季節にアロハシャツ+短パン+便所サンダルってどんな格好なんだ。


(;^ω^)「あ……いやその彼女とかじゃないし名前知らないんですけど……落し物を……」

  _
( ゚∀゚)「ほーそうかいそうかい。 んじゃ見た目どんなやつだったよ。 俺ぁこの学校の女生徒の外見なら全部インプットしてあっからよ!」


 面白おかしそうに僕の背中をバンバン叩くうさんくさいおっさん。
 この人この学校の何なんだ?



92: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 02:01:41.34 ID:ysNFN5Oy0
(;^ω^)「えと確か……金髪で……それを巻き髪にしてて……あと背が結構小さかったですお」

  _
( ゚∀゚)「胸は?」


Σ(^ω^;)「ムネ!? ……そこまではちょっと記憶にないですお」

  _
( ゚∀゚)「なんだよ、そこ一番大事だろうが。 おめぇ女の胸見ねぇでどこ見んだよこのインポヤローが」


(;^ω^)「………」


 やっかいな人にからまれたなぁ……。


(;^ω^)「あの、今日は……」

  _
( ゚∀゚)「まぁ待てって。 金髪で巻き髪っつったらウチにゃ一人しかいねぇよ。 多分AAAのことだろ」


(;^ω^)「………」


 じゃあ何で胸のことを聞いたんだ。
 それにしてもとりぷるえーって何だろう。 あだ名かな?



94: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 02:03:10.23 ID:ysNFN5Oy0
( ゚∀゚)「そいつぁ今、実習棟で練習してるはずだからよ。 実習棟はあっちな」


 そういってホールの奥に立つ建物を指差す。


(;^ω^)「え? 呼んでくれるんじゃなかったのかお?」

  _
( ゚∀゚)「ばっきゃろー! 男が勝負に行くならタイマンに決まってんだろうがよ!!」


 あぁ、だめだ。 この人は苦手だ。

  _
( ゚∀゚)「そんじゃぁせいぜいがんばんな! ……あーセックスはすんなよ? なぜか真っ先に疑われんの俺だからよー」


 あっはっは、と笑いながらおっさんが立ち去る。
 たった5分程度の出来事だったにもかかわらず、やたらと疲れてしまった。


( ^ω^)「……いくかお」


 一息ついて校門を潜り抜ける。
 僕はその不思議な空間に足を踏み入れた。



96: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 02:04:40.27 ID:ysNFN5Oy0
 ─── tacet ───



 男は挙動不審な少年と別れた後、携帯電話を取り出す。


    『……はーい』


 コールは2回。
 ノイズと共に聞こえてきたのは気怠そうな女性の声。

  _
( ゚∀゚)「俺だ。 ちょいと頼みてぇ事があるんだが」


    『なんですかー?』

  _
( ゚∀゚)「案内してほしい奴がいるんだ。 ……“交響曲”のステージにな」


 男はそれだけ告げると電話を切った。

 胸で何かが光る。



98: ◆q5YwUlmw7k :2008/01/02(水) 02:06:10.39 ID:ysNFN5Oy0
( ゚∀゚)「内藤ホライゾン。 ……お前に客席は似合わねぇよ」


 静かにそう呟く。

  _
( ゚∀゚)「そう思うだろう? ……あんたも」


 その問いかけはただ鈍色の空に消えてゆく。
 低い空は再び銀雪を降ろし始めていた。



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