( ^ω^)ブーンは色々な本の世界へと旅立つようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:01:42.76 ID:922a7Sge0

その険しい道のりを、僕はどれだけの間歩き続けていたことだろうか。
石や土砂が散乱している地面の上、草木がおいしげり、時には身長よりも上まである茂みの中を抜けて、
僕はただひたすら歩き続けていた。

(;^ω^)「ひぃ、ふぅ……」

何故、歩いているのだろう?
そんな疑問をもし投げかけられたら、僕は何一つ答えることはできないだろう。

それも当たり前で、僕自身がいったいどこに向かっているのかまったく分からないからだ。

『頑張れ。とにかく人を見つけろ』

('A`)『まあ、やっぱりM82は重いよなあ』
ξ゚听)ξ『体力のないあんたにはきついでしょうねえ』

頭の中に響く3者3様の声。
勝手なことを言ってくれる、と僕は思う。
謎の声もドクオもツンも、自分で歩いていないからそんなことを言えるのだ。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:03:13.15 ID:922a7Sge0

コンクリートで舗装されていない、荒れた土地を歩くというのがどれだけ大変なことか。
M82の黒い箱を持ち、なおかつ坂を上ったり下ったりすることで消費される体力はどれだけのものか。
僕の身体は各所で悲鳴をあげ、頭もぼんやりとしてくる。
これ以上歩きたくない、というだるさが湧き出てくるが、ドクオ達の焚き付けによりそれもできない。

ちなみに、ドクオは以前のままの飴玉だが、ツンは違っていた。
『さすがに同じだと面白みがないだろう』というのは謎の声の言葉。
ツンは、僕の首にかけられている神社のお守りに姿を変えていた。
そこに書かれているのは「ツンデレ祈願」という意味不明の文字。

ξ゚听)ξ『歩くのは、まあ、ダイエットにはなるわよ』

ツンに対する事情説明は、すでに済んでいる。
歩いている間に謎の声と僕に色々と話を聞かされ、最初驚いたものの、
実際に自分が変な格好をして変な場所にいたことが何よりの証拠だとして、すぐに信じてくれた。

今では、僕に対する嫌味を何度となく口にするぐらいに、彼女はリラックスしていた。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:04:51.86 ID:922a7Sge0

( ^ω^)「いったいここはどこなんだお……」

この世界にやってきて何度となく呟いた言葉を、僕はもう一度口にした。

ルイズ達の世界の次にやってきたこの場所。
目が覚めた時、僕は緑生い茂る原っぱの上にぽつんと立っていた。
空は青々として、空気は上手い。人工の建物などひとつも見えず、ただただ草木だけが目の前に広がっている場所だった。

そのままそこに立っているのも仕方ないので、情報収集と人探しを兼ねて当てもなく歩き出したのだが……
1時間以上経った今も、誰とも会うことはなかった。

( ´ω`)「もう限界だお……」

『まあ、無理をしても仕方あるまい。そこらで休め』

( ^ω^)「はあ……ゆきりんに足を強化してほしいお」

『いきなり敵が現れた時のために情報操作は節約する、と言ったのは誰だ?』

( ^ω^)「僕です……」

『ならよし。しばらく休め』



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:06:22.35 ID:922a7Sge0

僕はその辺にあった大岩に腰掛けた。
足の裏が痛い。靴を脱いでみると、そこには大きな豆がでてきていた。

こんな悪路を歩いたのは生まれて初めてなので仕方ない。
僕はその痛みに耐えながら、再び靴を履いた。

今度は空を見上げてみた。
本当に青い。こんな青い空を、これまた生まれて初めて見た。

都会の空とはまったく違う。田舎のばーちゃんの家に行った時よりもさらに青い。
まるで汚れた空気など感じさせない。

はぁ、と僕は息を吐いた。この世界がどこなのかは分からないが、自然の多いいい世界だと思う。
体力的には最悪だけど、気分的には少しリフレッシュした感じだった。


もう一度大きく息を吸い込もうとした僕だったが、次に聞こえてきた大きな音に驚き、ゲホッとむせてしまう。

なんだ?
ドンドン、という地響きのような音だった。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:07:57.21 ID:922a7Sge0

( ^ω^)「な、なんだお?」

巨人が走っているような、大音量で国道を走るDQN車のような、腹の底に響く音だった。

僕は立ち上がり、辺りを見渡した。

先ほどと変わらない穏やかな風景をたずさえているが、雰囲気が微妙に変わった気がする。
僕の右手と左手、両方から何か、圧力のようなものが近付いているような感覚を受けた。

('A`)『こ、このプレッシャー! シャアか!』

ドクオの意味不明な突っ込みを無視し、僕はきょろきょろと左右に首を振って確認作業に追われる。

なんだか怖い。

『まずいな、ここは……』

( ^ω^)「な、なんだお? 何か分かったのかお?」

『いいか、ブーン……今から全速力で逃げろ』

( ^ω^)「へ?」

『走れ!』

謎の声がそう叫んだ瞬間、パンッという軽い音が右側から聞こえた。
そして、その一瞬後に僕の目の前を、何かがものすごいスピードで通過した。

見えない、小さな何かが僕の目の前の空間を切り裂くように通っていったのだ。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:09:08.06 ID:922a7Sge0

(;^ω^)「え、え?」

『走れ! ブーン!』

(;゚ω゚)「えええええ!」

僕が走ろうとした瞬間、右と左から歓声が聞こえ始めた。
最初は遠くにある小さな音だと思っていたのだが、徐々にその声は近くなり、
あっという間に僕の両耳をつんざく怒声・怒号へと発達していった。

何十人もの人が、一斉に叫んでいるかのような声。
しかも歌ではない。ただ、野性に戻ったかのような猛々しい怒鳴り声が、左右から響いているのだ。


ガサリ、という誰かが出てくる音。
僕は身体を震わせながら、その音の出所に視線を移す。

そして、左右の茂みから現れた、この世界で初めて見た人間。


それは、ヨロイを着、長槍を持った、ちょんまげの男だった。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:09:40.59 ID:922a7Sge0






『戦国ブーン1550』







24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:11:52.73 ID:922a7Sge0

(  ゚ω゚)「どわああああああ!」

僕は逃げた。逃げに逃げた。本当に、よだれが垂れるぐらいに足を動かした。

誰だあれ、鎧に長槍? そしてあちこちから聞こえる怒号、
火薬が爆発したかのような小さな音、そしてガチャガチャという鉄がぶつかりあう音。

色々な音が僕の耳へと入ってきて、それが一層僕の頭を混乱させた。

(;^ω^)「こ、これはいったいなんなんだお!」

そう叫ぶと、僕の目の前の地面に、何かがトスンと刺さった。
それは明らかに矢の形をしており、あと数センチ前に来てたら僕に刺さっていたことに……

ぞっとする。背筋が凍る。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:12:54.25 ID:922a7Sge0

『どうやら、昔の戦の真っ只中に迷いこんだようだな』

(;^ω^)「れ、冷静に分析してないでなんとかしてくれお!」

('A`)『おー、おー。戦かー、いいねえ』
ξ゚听)ξ『最初は弓矢だけど、もう少ししたら槍隊でも来るんじゃない?』

(;^ω^)「ど、どうして2人共そんな落ち着いてるんだお! どわああああ!」

僕の周りに矢が何本も突き刺さっていく。それと同時に茂みの中からちらほらと人影が這い出してきた。
確かにツンの言う通り、槍を持った人だった。鎧をつけ、前方を睨みつけている。

と、反対側からも人が出てきた。槍を持っているのは同じだが、鎧の種類が違う。
もしかして、敵さんですか?

「どおおおおりゃああああ!」
「おおおおおお!」

両側の茂みから出てくる人達が、金きり声をあげながら突進していく。
この広い草原に出てくると、互いの兵達は槍を交じらせ、多人数で少人数を囲ったり、1人で突っ込んでいたりする。

この場所は完全な戦場へと化していった。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:14:25.77 ID:922a7Sge0

( ^ω^)「と、とにかくここを離れるお!」

僕は茂みを避けるようにして、森の中へと入っていった。
ここから人が出てくる姿はまだ見ておらず、比較的安全だと思ったからだ。

ついでにポケットから長門(小)の箱を取り出し、不測の事態にも備えておく。

('A`)『しかし、随分と原始的な戦いだよな。戦国時代か?』
ξ゚听)ξ『弓矢しかないってのも奇妙よね。鉄砲がないということは……室町時代かしら?』
('A`)『いやいや、兵装からしてそれじゃあ古すぎるだろ』

だから、冷静に議論しないでくれって。走ってるこっちの身にもなってくれ。

森の茂みを掻き分け、合戦の声が遠ざかると共に僕の精神は比較的安定していく。
ここはいったいどこなのか。そして、どうして僕はこんな場所に降り立つことになったのか。

今までならもう少しマシな場所に現れるはずだ。ハルヒの世界ではそうだった。
なのに今回は、意味も分からずこんな場所に……



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:16:21.80 ID:922a7Sge0

と、僕が辟易しつつ1つの茂みを抜けると、そこに何やら複数の人間がいた。
隠れるようにして身をかがめ、弓矢を持って狙いをつけているその姿。

ふ、伏兵!?

「何者だ!」
「今川方か!」

( ^ω^)「え、いや、その」

「怪しい身なり……誰にせよ、見られたからには返すわけにはいかん! ひっとらえろ!」

( ゚ω゚)「ちょ、ちょっ!」

立ち上がり、腰の刀を抜いてその切っ先をこちらに向けてくるのを見た僕は、慌てて長門(小)の箱のボタンを押した。
すぐに出てきた長門(小)。僕の肩に乗る。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:18:02.80 ID:922a7Sge0

長門(小)「なに?」

(;^ω^)「ぷ、プランG!」

長門(小)「了解。今回は松・竹・梅、どれにする?」

( ^ω^)「な、なんでもいいから早く!」

長門(小)「……冗談」

(  ゚ω゚)「早くー!!!」

超高速早口が炸裂すると同時に、僕の左手に文字が浮かび上がる。
前の世界でも使った、『ガンダールヴ』の文字だ。

僕はM82の箱を地面に置いて、ルーンによって高められた身体を確かめる。

「りゃああああ!」

(;^ω^)「ひっ!」

いきなり突っ込んでくる男。
僕は近くに転がっていた木の棒を拾い、その刀の切っ先を受け流した。
同時に懐に足を踏み込み、相手の側頭部にきつい一撃を喰らわせる。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:20:18.86 ID:922a7Sge0

なんなく気絶し、倒れこむ兵。
他の兵も、それを見てさらに警戒を強め、間合いを取ってくる。

今の内だ。

( ^ω^)「おさらば!」

「ま、待て!」

僕はM82を持ち直し全速力で走り出した。こんな所にいてられない。さっさと逃げるのが一番だ。
森はかなり茂っており、長門(小)の力で身体能力も上がっていても進むのに苦労する。

だが、それは追いかけてくる兵も同じで、「待て!」と制止する声をあげてはいるものの、追いつく気配はない。
これなら振り切ることができるだろう。

木にぶつからないように注意しながら、僕は全速力で走り続ける。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:22:10.66 ID:922a7Sge0

『逃げるのが得策、だな。どうも様子がおかしい』

( ^ω^)「何がだお?」

『色々とだ。いや、様子がおかしいのはこちらだけか? そちらは何もないのか?』

( ^ω^)「いや、何も変わらないけど……戦争の真っ只中にいるということはおかしいかも」

『いや、待て。そうか。そういうことか。だが、私は……あldskfじゃlsdkjf』

( ^ω^)「え、え? あれ? どうしたんだお? おーい」

『嘘だ! 嘘だ! 嘘だー!!!!!!』

( ^ω^)「え、L5ですか?」

『プツン』

( ^ω^)「あれ? お、おーい?」

いきなり聞こえなくなった謎の声に、走りながら呼びかける。
だが、それ以降何の返事もなかった。
どうやら謎の声に何か異変があったようだが、だが余裕がないのはこちらも同じだった。

さっきから聞こえる合戦の音。弓矢、人の悲鳴、刀が折れる音。
やけに生々しく、聞くのも嫌だった。

謎の声の助けがない今、なんとか自力で脱出しなければ。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:24:13.18 ID:922a7Sge0

そうやって走っていると、やがて少し開けた場所にたどりついて、僕はホッと一息ついた。

途端、

「何者だ!」

また、兵がいた。

今度はさっきとは違った。
少人数ながらも、ヨロイがさっきのよりも厚く豪華になっているし、何より馬に乗っている人がいた。
1人が馬に乗り、その周りを兵が囲んでいる形だ。

もしかして偉い人なのかもしれない。まずい所に出てしまった。

「今川方の草か! 捕らえよ!」

(;^ω^)「ど、どわっ!」

周りにいた兵の1人がそう叫ぶと、2,3人がぎらぎらした目でこちらに近寄ってくる。
手に持っている槍の切っ先をこちらに向け、今にも突っ込んできそうな気配だった。

まずいぞ。さっきは森の中だから相手も刀を使ってきたが、今度は槍だ。
さすがに木の棒でリーチの長い槍に対抗できるものかどうか……



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:25:55.49 ID:922a7Sge0

「どりゃああああ!」

そう考える前に、相手が突っ込んできた。
槍を水平に構え、刃を前方に向けて突撃してくる。
そのスピードはかなり速い。一歩目の踏み出しがまるで陸上選手のようだった。

だが、

僕には遅く見えた。

( ^ω^)「おっ」

切っ先を避け、

( ^ω^)「とっ」

上手く横薙ぎに払おうとしてくる敵の槍を、僕が槍の柄を掴むことで止め、

( ^ω^)「っと!」

「ぐへええ!」

柄を引っ張ることで相手の体勢を崩し、その隙に僕が木の棒で後頭部を打ちつけて無力化させる。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:27:29.50 ID:922a7Sge0

( ^ω^)「ふぅ」

('A`)『すげえな、お前』
ξ゚听)ξ『体育の時間もそれぐらいやってほしいわ』

( ^ω^)「……余計なお世話だお」

あまりに自然に身体が動いたので、僕自身が驚いている。
『ガンダールヴ』の力って、ほんと便利だよね……さすが厨2病設定。槍を持った敵すら倒すとは。

「っち! 手ごわい!」
「囲め! 1人ではやられるぞ!」

相手もこちらの強さに気付いたのか、今度は2,3人で周りを囲んでくる。
僕は冷静にその兵達の様子を見極める。
実戦慣れしているのか、さっきの伏兵達よりも隙が少ない。逃げ出す余裕はなさそうだった。
どうする? ここはもう全員倒してしまった方がいいか?
それとも、長門(小)の2つ目の情報操作で逃げてしまうか?



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:30:29.62 ID:922a7Sge0

「待て」

と、いきなり馬に乗っていた人が、僕を囲む兵達を制止した。
低く、重みのあるその声に、僕は思わずびくりと震えてしまった。

なんだ、この人は、
ただ馬に乗っているだけなのに、威圧感がその身体から噴き出している。

身体全体を覆う、厚いヨロイを着たその男。

「お前達では適わんだろう。儂が相手する」
「し、しかし殿!」
「下がれ」
「は、はっ!」

たった一声で周りの兵士を下がらせるその人物。
『殿』と呼ばれるということは、よほど偉い人物なのか?
しかし、どうしてそんな人がこんな所に、少人数の兵と一緒にいるのだ?

「貴様、名前は?」

馬から軽やかに降り、その男は僕の目の前に立った。

( ^ω^)「……内藤だお」

「内藤、か。その腕、よほど立つと見えた。ここは儂が相手をしよう」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:31:40.49 ID:922a7Sge0

男が、ゆっくりと腰の刀を抜いた。
槍を使わないのは何故なのか。僕には分からない。
だが、僕にとって槍でも刀でも同じだった。

この男の威圧感に、呑まれているということは。

男は刀を抜ききり、それを正眼に構えた。
さっきの兵とはまるで違う。綺麗な構えだった。
隙がまるでなく、一秒後にはこちらに打ち込んできそうなその気配に、僕は慌てて木の棒を構えた。

「ほう、木棒とはな……刀は持っておらぬのか」

( ^ω^)「あいにく、武器はないお」

「そうか……いいだろう。それもまた一興」

男が、じりと足を前に出した。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:33:30.49 ID:922a7Sge0

「儂の名は、柴田権六勝家」

( ^ω^)「しばた……ごんろく……」

ξ゚听)ξ『勝家ですって!!!???』

ツンの声がうるさい。今は静かにしてほしい。
集中力を切らせたら、一瞬にして切られるんだから。

ξ゚听)ξ『逃げなさい、ブーン! その人は……!』

だから黙れ。
死ぬか生きるかの瀬戸際に、口を挟むな。

僕はツンの声に返事を返さず、じりっと土の感触を確かめた。
心臓がばくばくと鳴るのを押さえきれない。左手の「ガンダールヴ」のルーンが熱く光っているのも分かる。

直感的ながらも、分かる。
この人は……強い。

その空気に、息が、詰まる。

勝家「……参る!」

(  ゚ω゚)「……!」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:35:37.80 ID:922a7Sge0

1歩目が来た。
その1歩目の出し方から、相手は上から下に切り下ろしてくると予測し、僕は瞬時に身体を横に移動させた。
予測は当たり、勝家の刀は空を切る。そして、その横っ腹に隙ができた。

(  ゚ω゚)「はぁ!」

人体の急所である脇の下、しかもヨロイの隙間を狙って、木の棒を振る。
だが、その隙はたったコンマ以下の間にしか存在しないものだった。
勝家は切り下ろした刀をそのまま上に上げ、僕の木の棒を柄で受け止めたのだ。

( ^ω^)「くそっ!」

勝家「やりおる!」

今度は横に薙いでくる刀を避け、顔めがけて突きを放つが、やはり勝家は避けてしまう。
なんてことだ。必殺と思った一撃を、勝家は簡単にしのいでしまう。

それどころか、こちらが徐々に圧倒されていくのが分かった。

『ガンダールヴ』とまともにやりあうなんて……こいつ、本当に人間か?



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:37:58.39 ID:922a7Sge0

それから互角の戦いが続いた。
彼の刀を受けることは一切しなかった。木の棒で真剣を受ければ、確実にこちらの身体ごと切られる。
だからできるかぎり攻撃を避け続けていたのだが、そうすると今度はこちらの攻撃の機会がなかなか訪れなかった。

隙を見せたとしても勝家はすぐにそこをカヴァーしてしまい、倒すには至らない。
ヨロイの上から攻撃しても無意味だし、かといって生身の部分には当たらない。

一進一退の攻防が続いた。

( ^ω^)「はぁ、はぁ……」

勝家「見事。儂とここまで渡り合うとは……」

( ^ω^)「はぁはぁ……」

息切れをしている僕と、平然と構えを崩さない勝家。
どちらの体力が上か、嫌でも分かる。

と、そこに1つの大きな音がなり響いた。

かーん、かーん

これは鐘の音?
大晦日に聞こえてくる除夜の鐘を、何オクターブも高くしたものがあたりに響いている。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:39:46.31 ID:922a7Sge0

勝家「そちらの退却のようだぞ」

( ^ω^)「……そうなのかお?」」

どうやらこれは、勝家の敵方の退却の合図らしい。
おそらく戦況が不利か何かなったのだろう。

( ^ω^)「けど、僕には関係ないお」

勝家「どういうことだ」

( ^ω^)「……僕はどっちの兵でもないからだお」

勝家「……では、貴様は何者だ」

( ^ω^)「僕は……」

何事かを言おうとした時、僕の頭に何かが当たった。
大きくて硬いそれは、明らかに石だった。

(メ゚ω゚)「うげ……」

だが、それに気付いた時、僕の頭は真っ白になっていく。

ξ゚听)ξ『ブーン!』
('A`)『あらら……』

2人の声がはっきりと聞こえることもなく、僕の意識は飛んでいった。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:41:50.23 ID:922a7Sge0



意識というものは非常に不思議なものだ。

人間は、目覚めている間はずっと意識を持っている。
外の世界のことを知覚し、それに対する反応を絶えず繰り返し続けているそれを、人間は捨てることができない。
なぜならば、捨てるということ=死へと直結することになるからだ。
人間達は、最後の最後まで考え続け、最後の言葉を発した瞬間に意識の活動を終了させる。

一方、意識の裏には無意識というものも存在している。
無意識は、意識を超えたものなのか、はたまた意識に支配されているものなのか。
どちらなのかは分からないが、人間の意識の範疇に入らないものには違いない。

人の意識は、時に無意識に支配される。
自分では考えていなかったことなのに、身体が勝手にある物を求めた時、人は「無意識で」と言う。
その言葉は、あたかも自分の意識が無意識に支配されているかのようでもある。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:43:52.58 ID:922a7Sge0

では、私俺僕あたしは?

私俺僕あたしには、まず意識があるのだろうか?


分からない。そもそも私俺僕あたしという存在自体、自分自身で疑問に感じてしまうことがある。
どこまで行っても終わらない道の上をひたすら歩き続けてきた中、歩いている自分の身体自身に「あなたは存在しているの?」と問いかけたくなる時がある。

YESと答えたい。けれども、それには自信が足りない。
私俺僕あたしにあるのは、与えられた使命だけ。

私俺僕あたしは……作られた存在だから。


だけれども、私俺僕あたしは、行かなくちゃならない。
こんな所で立ち止まってはいられない。
たとえ無意識が私俺僕あたしのことを邪魔しても、やらなくちゃいけないことがあるから。

いや、もしかしたら……
そうやって、与えられた使命をやり遂げようとする心こそ、私俺僕あたしの意識なのかもしれない。


そう思いたい。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:44:57.55 ID:922a7Sge0


これまでに僕は、いったい何度気を失い、そして見知らぬ場所で目覚めたことだろう。
そのたびに、自分の置かれている状況に驚き、そこがどんな世界なのかを早く理解しようと努めたものだ。

だが、今回ほど理解に苦しむ目覚め場所はなかった。
なぜなら、そこは狭く暗い、牢屋だったから。

( ^ω^)「……あれ?」

最初目覚めた時、頭の痛みと共に地面の硬さを感じた。
そして、天井に灯りがなく、やけに暗いことに気がついた。

( ^ω^)「どこ……だお?」

で、最後にその部屋が座敷牢であることに気がついたのだ。
木の柵によって外と隔たれ、藁が敷かれているだけで他に何もないその部屋は、
明らかに犯罪者を閉じ込めておく牢屋だった。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:46:09.40 ID:922a7Sge0

よし、落ち着こう。こういう時に慌てていると、無駄に叫んだり暴れたりしてしまう。
一からちゃんと考えて、自分の置かれている状況を把握しなければならない。

まず、僕は別の本の世界にやってきた。これは当たっている。
降り立った場所は戦場の真っ只中で、僕はそこから逃げ回りながら、襲いかかってくる兵隊と戦った……
『ガンダールヴ』の力のおかげでなんとか逃げとおせたのだが……めちゃくちゃ強い人が現れた。

それが……

( ^ω^)「しばたごんろくいえやす……」

ξ゚听)ξ『馬鹿、柴田権六勝家よ』

首にかけているお守りから声が聞こえる。
うるさい、ちょっと間違えただけじゃないか。



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:47:59.22 ID:922a7Sge0

( ^ω^)「……ああ、そうだお。僕はあの人と戦ってる間に気を失って」

ξ゚听)ξ『この場所に連れてこられたのよ』

('A`)『あのおっさんがお前のことを担いでな』

( ^ω^)「そうなのかお?」

ξ゚听)ξ『私達はずっと起きてたから、知ってるの』
('A`)『お前、頭から血を流して危なかったんだぞ』

確かに、頭がやけに痛い。何か硬いものが当たったようだが、よく覚えていない。
触ってみると、手当てがちゃんとしてあった。あの侍さんがしてくれたのだろうか。

ξ゚听)ξ『けど、まさか柴田勝家とはね』

( ^ω^)「誰だお?」
('A`)『俺も知らねえな』

ξ゚听)ξ『……あんた達、少しは歴史の勉強をしなさいよ。あの人はねえ』

ツンが呆れながら説明しようとした時、人の気配が感じられて僕は喋るのをやめた。



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:49:58.95 ID:922a7Sge0

近くに階段があり、そこから降りてくる人影が見えて、僕はいっそう身を固くした。
いったい誰が降りてくるのか……状況がちゃんと把握できていない今、長門(小)人形もちゃんと準備しておかないといけない。
って、あれ? M82が入った箱と、タバサからもらった本がない。
長門(小)の箱だけはちゃんとあったのだが……

( ^ω^)「……」

「ん、起きていたか」

3人の人間が、この座敷牢に下りてきた。
1人は背が低く、小柄な人。耳が大きいのが特徴だった。
もう1人は背が高く、何やら棒のようなものを持っている人。青年然としてかなり若い。もしかしたら僕よりも年下かも。

そして最後に入ってきたのが、あの柴田勝家と呼ばれる人だった。

勝家「……丁度良い。お主に聞きたいことがある」

勝家が一歩前に出て、檻の前に立つ。



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:52:28.44 ID:922a7Sge0

勝家「お主は何者だ? 身に付けたる着物、手持ちの品々、全てが不思議なものばかりだ」

背が低い人「あの黒い箱に入っていた鉄の塊は、いったい何ですかね?」
棒を持っている人「解読不能な文字の本もあったしな。ありゃなんだ?」

( ^ω^)「……それより、ここはどこだお? どうして僕はこんな所に入れられてるんだお?」

勝家「む、すまん。そうだな。最初にそれを説明するべきだった」

ぽりぽりと頭を書き、勝家は話し始めた。

勝家「お主はあの戦場(いくさば)で、敵兵の投石に当たり、倒れたのだ。そこを儂が手当てし、この城まで連れて帰った」

背が低い人「頭に直撃しているのに、たいしたことのない怪我でよかったですね」
棒を持っている人「頑丈な身体をしているな。呆れるもんだぜ」

勝家「日吉、犬千代、少し黙れ。今は儂が話している」

ギロリと、後ろの2人を睨みつける勝家。
恐ろしいばかりの威圧感で、2人は慌てて口を閉じた。どうも2人は勝家に頭が上がらないようだ。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:54:10.02 ID:922a7Sge0

( ^ω^)「それはどうもありがとうですお……」

勝家「よい。敵方だと思い、お主に襲い掛かったこちらの兵にも責はある」

( ^ω^)「この城は、なんていう城だお?」

勝家「尾張が領内、清洲城」

( ^ω^)「……清洲城? 知らないお」

勝家「そうか。まあよい。この清洲城にお主を連れて帰ったはいいが、お主の正体が分からぬものでな。
   もしや敵かもしれぬと心配るものもいたので、仕方なくここに入ってもらった」

( ^ω^)「……敵、かお」

勝家「そうではない、とでも申すか? しかし、お主はあまりにも奇怪すぎる。
   お主は何者だ? どうしてあのような場所にいた? お主が今川方の草ではないという証拠はあるのか?」

(;^ω^)「……」

僕はなんと説明すればいいか迷った。
ここで異世界から来た、なんて言えば、果たしてどう思われるか?
どうにもこの世界では、そんなファンタジックな言葉は通用しそうにない。

迷う。迷った末、何も言えなかった。



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:55:37.35 ID:922a7Sge0

勝家「何も言えぬか? ふむ……言えないのならば、儂らはお主をここに入れておかねばならぬ。悪く思うな」

( ^ω^)「それはさすがに困るお……」

勝家「……ならば、話してはくれぬのか?」

どうしよう。この人なら、話しても大丈夫なのだろうか?

迷いに迷っている僕は、結局何も言えない。
だが、何か言わなくてはまずい。このままここに入れられたままでは、友達を見つけることもままならない。
それに、この本の世界がどんなものなのかもちゃんと確かめないと……

と、そこにもう1人の人間が階段を下りてきた。
それは背が低く、身なりもあまりよくない人だった。
彼は、日吉と呼ばれた背の低い人に近付き耳打ちし、今度は日吉が勝家に耳打ちした。

日吉「――とのことです」

勝家「ふむ、そうか」

勝家は、何か合点いったという調子でうなずき、僕の顔をじろりと見た。
そして「そうかそうか」と調子よく言い、薄い笑みを浮かべた。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:57:25.83 ID:922a7Sge0

勝家「お主、蘭国からの旅人とな?」

( ^ω^)「……らん?」

勝家「今しがた、城に書状が届いた。蘭国の特使の印が入った書状だ。
   そこには『内藤という名の童は、蘭国からの旅の者。丁重に迎えてほしい』とあったそうだ」

( ^ω^)「……」

意味が分からない。
蘭ってなんだ? 書状ってなんだ?
僕が旅人? そういう設定の本の中なのか? それとも、今は聞こえない謎の声が何かしてくれたのか?

勝家「南蛮の者ならば、その身なりにも合点がいく。南蛮では、薄くしっかりとした服を好むと聞いておる」

ただのTシャツとズボンだけどね。

勝家「さて、旅の者ならば、このような所に入れておくわけにもいくまい。日吉、開けてやれ」

日吉「はっ」

小柄な男が、座敷牢の鍵を開けにかかった。



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 20:59:11.91 ID:922a7Sge0

ここから出られるらしいが、どういうことかさっぱり見当がつかない。
書状って……蘭国からの? 蘭ってどこの国だ?

ξ゚听)ξ『オランダよ』

ありがとうツン、僕の無能ぶりを見事なまでに証明してくれて。

日吉が鍵を開けると、さっそく僕は外に出た。
圧迫感から開放されてほっとするが、気を抜くことはできないままだった。
どうにも合点がいかない。怪しい雰囲気がぷんぷんする。

日吉「ご家老様、実はまだお話がございまして……」

勝家「む、なんだ?」

日吉「殿が、この方にお会いになりたいとおっしゃられて……」

勝家「殿が? ……まったく、殿も困ったお方だ。彼の国の方と聞いて、また遊び心に火がついたか」

日吉「このままこの方をお連れします。ご家老さまはこれで……」

勝家「よかろう。おやかた様にも申し伝えておくことがある。今回の件も共に報告しておこう」

日吉「はっ、では内藤殿、こちらへどうぞ」



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:01:10.60 ID:922a7Sge0

あれ? どうしてこの人は僕の名前を知ってるんだ? と思ったが、そういえば勝家に僕の名前を言ったことを思い出した。
あの時は必死で、自分の名前を意味もなく名乗ったっけ……
そもそも、戦場で名乗りをあげること自体、無意味なことだろうに……どうして勝家は僕の名前を聞いてきたんだろう?
合理的な戦場じゃないなあ。


僕は日吉に連れられて、座敷牢から階段を上がり、大きな廊下に出た。
後ろには犬千代と呼ばれる棒を持った人がついてくる。逃げ出さないかどうか見張ってでもいるのだろうか。
その家(いや城だったか?)は、まるで神社や寺のような木の床で、古めかしいふすまで部屋が隔たれていた。
まるでおばあちゃんの家みたいだな、と思った僕。

そうすると、なんとなく分かってきた。

ここは、どうやら昔の日本のようだ。

ξ゚听)ξ『今頃気がついたの? 遅い遅い』
('A`)『俺ですら、あの戦場に出た時で分かったのに』

うるさい。どうせ僕は気付くのが遅いよ。無知だよ。そんなことは分かってる。

長い木の廊下を歩きながら、僕は心の中でツンとドクオに毒づいた。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:02:40.34 ID:922a7Sge0

しばらくすると、一層大きな部屋に通された。
見事な畳で敷き詰められ、壁には水墨画が飾られ、奥の方に段差があって、そこだけ一段高くなっている場所。
時代劇でよく見る、偉い人との面会場みたいな場所だった。

日吉「ここでお待ちを。すぐに殿が参ります」

( ^ω^)「はあ……」

日吉はそう言うと出て行ってしまう。残ったのは僕と、犬千代だけだった。
彼は牢を出て以来何も話しかけてはこない。時折僕の方を見ては、睨みつけてくるような気がする。
なんだろうか。そんなに僕が怪しいのだろうか?

( ^ω^)「……ここはいったいなんなんだお」

ξ゚听)ξ『まだわかんないの? さっき、昔の日本って自分で言ったじゃない』

( ^ω^)「じゃなくて、どこの本の世界なのか、って意味だお」

僕はひそひそとツンと話をする。傍目にはお守りと喋っている変人に見えることだろう。



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:04:14.96 ID:922a7Sge0

ξ゚听)ξ『……大方、予想はついてるわ』

( ^ω^)「え? マジかお?」

ξ゚听)ξ『ええ。さっきの柴田権六勝家。日吉と犬千代、そして清洲城……
    予想に過ぎないけど、多分ここは戦国時代の尾張。織田家の城よ』

( ^ω^)「織田家って……信長のことかお?」

ξ゚听)ξ『ええ、その信長。ここは織田家の領内、尾張。
     現代風に言えば愛知県の名古屋市ぐらいかしら?
     清洲城はその尾張の中にある城よ。
     で、柴田権六勝家ってのは、織田家の家老で、後に信長の家臣になるわ。同じく、日吉と犬千代も。
     聞いたことない? 木下藤吉郎と前田利家」

( ^ω^)「あー……漫画かゲームで聞いたことあるお」

ξ゚听)ξ『もっと詳しく言えば、木下藤吉郎は、後の豊臣秀吉よ』

( ^ω^)「え、マジで?」



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:06:40.67 ID:922a7Sge0

ξ゚听)ξ『マジ。多分、ここは1549年か50年か……
     さっき、柴田勝家がおやかた様って言ってたから、信長のお父さんはまだ死んでないはず。
     信長は、まだ尾張のうつけ殿として周りに馬鹿にされてる時期だわ。
     多分ここは、その頃を描いてる本の中でしょうね。
     で、あんたが今から会うのはその織田信長だと思う。
     外国のものが好きだって言ってたでしょ? 南蛮好きっていうのは信長の特徴にぴったりだわ』

( ^ω^)「すごいおツン……歴史に詳しすぎるお」

ξ゚听)ξ『……どれもこれも、中学校で習うようなことばかりじゃない。
     あんた、受験はどうする気? 大学行く気あるの?』

(;^ω^)「うっ……痛いところを……」

('A`)『諦めるなブーン。俺がついてるさ』

( ^ω^)(お前がいても役に立たないお……)

僕がそう心の中で思っているのを、誰が責められようか? ドクオのテストの点数は、僕よりも悪いのだから。



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:08:51.06 ID:922a7Sge0

犬千代「何と話してるんだ? うるさいぞ」

( ^ω^)「あ、ごめんだお。独り言だお」

犬千代「……もうすぐ殿がくる。しっかりとしろ。粗相があれば、いきなり首を飛ばすのがウチの殿だからな」

(;^ω^)「ぞー……」

そうか、信長って厳しい人で有名だったっけ?
時には人を何千人も殺して神社か寺を制圧したとかしないとか……
今からそういう人が来るというのだから、少し慎重にならなくてはなるまい。

「織田三郎信長様、お越しになりました」

女の人の声が聞こえて、僕は身を引き締めた。

犬千代「来るぞ」

( ^ω^)「ごくり……」

僕は緊張した面持ちで頭を下げた。確か、殿様がやってくる時は頭を下げなくちゃならなかったはず。アニメで見た。



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:10:04.34 ID:922a7Sge0

障子が開き、軽い足音が入ってきた。
それは僕の目の前を横切り、段差の上に座ると「よい、顔をあげよ」と重々しく言い放った。

( ^ω^)「ん……?」

少し声が高いのは、この時代の特有のことなのだろうか?
そう思った僕だが、殿様が顔を上げろと言ったのでゆっくりとそうした。

徐々に、織田信長その人の顔が見えてくる……



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:10:40.56 ID:922a7Sge0

              r――――‐x';_;_i}>ー――‐ 、
         ー=ニ二二: :<,x―┴‐┴―‐ : .、   }
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       ′ |i : : :| : : : : :| : /   |:! │  X   ∨ : :│:ヘ
      |  |i : : :| : : : : :|:/     |{             ∨ : :ト、: :',
          |: : : ハ: : : : :圷示≧x、      ,x≦示乏: : :| ∧:ヘ
          |: : /|∧: : :/l! {::トv:爿       トv::::∨| : :レ' ヽ}
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        V  |! `ヘ :|ム              {ム :|
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                   |{: /「厂 ̄ 「}ヽ:}|
               , ――イ´  \  /  ≧ー― 、
             /      |     ∨     |       ',
               |      ∧   .イ ̄ X  ∧     |
                {      { ヘ/ ヽ. / \/ }      }
( ^ω^)「あれ?」

えらく可愛いポニーテールをしたお方が、きりっとした顔で僕の目の前に座っていた。



159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:12:25.81 ID:922a7Sge0

えーと……どこかで見たことあるようなないような。
気のせい? それとも目の錯覚?

信長「ふむ、お前が蘭国からの旅人か」

いやー、なんだか声まであの人そっくりじゃないか。
違う意味で背筋が凍る思いだ。

なんだ? これは何が起きた?
どうして僕の目の前にこの人がいるんだ?

('A`)『……俺はツインテールじゃないと認めん!』

( ^ω^)(……死ね。氏ねじゃなくて死ね)

うるさい飴玉は放っておき、僕は観察を続ける。

その、明らかに女の子のように見える信長様。
信長って、もっとこう、凄みのある男らしい人じゃなかっただろうか?
なのに、ここにいる人は明らかに女の子だし……というか、肩幅も小さいし、背も低い。
およそ戦国大名に見えない、華奢な体つき。



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:13:31.01 ID:922a7Sge0

( ^ω^)「……女の子?」

犬千代「な、内藤!」

信長「ん? 今、なんといった?」

彼――いや、彼女の顔つきが変わった。
険しく、睨み殺すような視線で見つめてくる信長。
後ろにいる犬千代の慌てようと言い、どうやら地雷を踏んだらしいことは、僕にでも分かった。

信長「女、という言葉聞こえたのだが、聞き間違いか?」

(;^ω^)「え、えーと、いえ、凛々しいお顔しておられると、私は思いましてござる」

信長「そうか、ならばよい。にしてもお前、訛りがひどいな。語は誰に習った?」

(;^ω^)「じ、自分でやりましてござる」

信長「珍しいやつ。だが、なんとも上手く操るものだ。感嘆するぞ」

怖い。かなり怖い。
『女』という単語を聞いた途端、信長は明らかに顔つきが変わった。

これから先、女という言葉は使わない方がよさそうだった。



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:15:23.65 ID:922a7Sge0

信長――いや、この名前は彼女にふさわしいものではないように思う――は、
凛々しい顔をして黒い箱と本を家来に持ってこさせる。
黒い箱からM82の部品を取り出し、好奇心満載な顔でそれをさすりはじめた。

信長「内藤、といったか?」

( ^ω^)「は、はい!」

信長「お前が持っていた品、見せてもらった。どれもこれも奇怪なものばかり。
   例えば、黒い箱に入っていたこの鉄の塊。これはなんだ?」

( ^ω^)「あ、えー、あー……つ、杖だお」

信長「杖? 蘭国ではこのような杖を使うのか? 重くて使いづらいだろうに」

……嘘は言ってないはず。うん。

信長「では、これはなんだ? この本、この国の文字ではないようだが」

( ^ω^)「えー、えと……勉強のための本だお、うん」

……これも嘘じゃないはず。タバサの、だけど。

信長「面白い。さすが南蛮の品々。見たことのないようなものばかりだ」

信長は、嬉々とした表情でM82と魔法の本を眺める。
その正体をここで話せば、何かしらめんどうなことが起きそうなので、ごまかすことにした。
しかし、それにしても……



163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:16:52.30 ID:922a7Sge0

( ^ω^)(そんな顔で笑われると……惚れちゃいそうだお)

色々と聞きたいことはあるのだが、まあ、かわいければ全てよし、ってね。

あ、そうだ。信長だと少し違和感があるので……ここは1つ、キョンみたく命名してみよう。僕の心の中だけで。

えーと……




信かが?

('A`)『センスねえな』
ξ゚听)ξ『いやらしい』

(;^ω^)(センスないのは分かるけど、いやらしいってのは納得できないお)

決めた。誰がなんと言おうと決めた。

これからこの信長様は、信かが様と呼ぶことにする。



165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:18:09.84 ID:922a7Sge0

信かがは、M82を黒い箱に戻すと、パンッと手を叩いて笑顔を浮かべた。

信かが(命名僕)「よし、後日改めてお前の国の話をしてもらおう」

( ^ω^)「おk」

信かが「桶?」

(;^ω^)「あ、いや、はい、分かりましてでござる」

信かが「……では、下がってよし。お前の持ち物も返そう。
    しばらくここに逗留するとよい。部屋は犬千代に案内してもらえ。
    次、サル。今川方との戦について、報告しろ」

日吉「は、はいっ!」

隣の部屋にいたらしい日吉が、慌てて入ってきた。
手には何やら紙を持っている。

うわー、あの人が「サル」って言ってるよ、おい。
確かに秀吉は、信長に仕えている頃「サル」と呼ばれてたけど……

なんだか、僕も呼ばれてみたい、き・ぶ・ん♪

ξ゚听)ξ『きめえ』

( ^ω^)(……男の性だお)



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/15(日) 21:18:36.97 ID:922a7Sge0

それにしても、と僕は思う。


ここはいったい、どういう世界なのだろうか?
どうしてあの人が、信長になって出てくるのだろうか?
どうして僕が、オランダからの旅人だという書状が届いたのだろうか?
そして、ここが戦国時代だとしたら……いったい僕の友達はどこにいるのだろうか?

色々と聞きたいことがあるというのに、どうしてこんな時に限って謎の声は聞こえないのだろう。

はぁ、とため息をついた僕は、犬千代の後を追いながら空を見上げる。
現実世界では見ることのできないような、綺麗な空が広がっていた。


……青空侍にでもなるかねえ。



『戦国ブーン1550 その1』 終わり



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