( ^ω^)はミュージカルをするようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 23:50:10.96 ID:Nkqppj0iO

五曲目・フィレンクト



フィレンクトは冷蔵庫に潰されていた。

L’)(どうしてこんなことになってしまったんだ……)

ここはいたって普通の住宅街だった。
それなのになぜ空からこんな物が降ってきたのだろうか?

L’)(いや、これは天罰というやつかもしれないな)

彼は自重気味に笑ってから、手に掴んだ女性用の下着を見た。

L’)(やはり法を犯してはならなかったんだ……これはその罰に違いない)

L’)(でも……私はそれでも……)

フィレンクトは力を振り絞って、冷蔵庫からなんとか這い出した。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 23:52:10.74 ID:Nkqppj0iO

(‘_L’)(やり遂げなければならない……)

辺りはすっかり明るくなっている。
家を出たのは深夜だったが、今は夜が明けてしまっていた。
恐らく長い時間を気絶に費やしていたのだろう。

(‘_L’)(お金がいるんだ……お金が必要なんだ!)

急がなくてはならない。早くこの下着を現金に変えなくてならない。
そう焦るフィレンクトは老いた体に鞭を打ち、走り出した。


―――――


フィレンクトは貧乏だ。
その原因は主に、彼の年齢と肉体にあった。

彼は老人で隻腕なのだ。
だから働きたくても仕事が無い。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 23:53:35.18 ID:Nkqppj0iO

それでも、探せば何かしらの仕事があるのかもしれない。
こんなに広い世の中だ、心優しい経営者や自分にでも出来る労働があるかもしれない。

でもフィレンクトには悠長に構えている暇がなかった。
なんとしてでも早急に、この朝のうちに現金が必要なのだ。

年金の受給日にはまだ日があるし、金になりそうな物は全て売ってしまっていた。
お陰で部屋の中は殺風景になっている。
しかしフィレンクトにはそれを気にかける余裕は無かった。

金だ、金がいる。
あの習慣を続けるには、金がいるのだ。
一日たりとも休むわけにはいかない。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 23:55:37.81 ID:Nkqppj0iO

困り果てたフィレンクトの脳裏に、知人から教えてもらった言葉が蘇った。

『盗んだパンティーは高値で売れるらしいぞ』

生真面目な彼にとって犯罪をすることは心苦しかった。
でも他に方法が無かった。

悪の道に踏み入る決意をしたフィレンクトは、近所の民家に下着を盗みに行った。
そこは二階から悪魔がどうのと聞こえる妙な家だったが、彼は気にしなかった。

(‘_L’)『そうさ……私は悪魔さ……』

皮肉気に口を歪め、桃色の下着を一枚かっさらうフィレンクト。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 23:57:24.97 ID:Nkqppj0iO

塀を乗り越え、さあ逃げようというところで彼を冷蔵庫が襲った。


―――――


早朝の街を駆けていたフィレンクトは、
顔見知りの人を見掛けて声をかけた。

(‘_L’)「ショボンさん!!」

(*´・ω・`)「ん?……ああ、フィレンクトの爺さんか。おはようさん」

しょぼくれた男は、酒の匂いとバナナの香りを混ぜ合わせていた。

(‘_L’)「これはこれはご丁寧に……おはようございます、ショボンさん」

深々とお辞儀をするフィレンクト。
しょぼくれた男は、懐からバナナを取り出して食べていた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/29(日) 23:58:51.27 ID:Nkqppj0iO

(‘_L’)「こんな朝早くからご出勤ですか?」

(*´・ω・`)「ちげーよ。
       夜通しキャバクラに行ってたんだよ。今はその帰り道だ」

(‘_L’)「おお……きゃばれー、というやつですか……」

(*´・ω・`)「フィレンクトさんこそどうしたんだよ?朝っぱらから走っちゃって。
       あんま無理すると死んじまうぞ?」

(‘_L’)「お心遣いに感謝いたします。
     でもご安心ください。体の方は頑健ですので」

(*´・ω・`)「そう言う奴に限ってぽっくり逝くもんだけどな。まあいいや」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:00:28.12 ID:zIj6aBHDO

じゃあな、と言って去ろうとするしょぼくれた男を、
フィレンクトは引き留めた。

(‘_L’)「申し訳ありませんが……少しお時間をいただけますか?」

(*´・ω・`)「………別にいいけどさ、眠いんだからとっととすませてくれよな」

(‘_L’)「ありがとうございます」

彼は頭を下げてから、しょぼくれた男に耳打ちする。

(‘_L’)「実は買っていただきたい物がございまして……」

(*´・ω・`)「へえ……俺に?」

(‘_L’)「はい……」

(*´・ω・`)「俺がヤクザってのは知ってるよな?」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:02:11.57 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「存じてます」

(*´・ω・`)「つーことは、そういうことだよな?」

(‘_L’)「はい……非合法な物、というところです」

(*´・ω・`)「あんたみてーな爺さんがねぇ……世も末だな」

首をこきっ、と鳴らして深いため息をつく男。

(*´・ω・`)「まっ、細かいことはどーでもいいや。
       今夜は大事な取引きもあるし、金になりそーなら景気付けに買ってやるよ。
     ……どんな物なんだ?」

(‘_L’)「はい……こちらでございます……」

フィレンクトは辺りを伺いながら、収穫品を取り出した。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:03:35.95 ID:zIj6aBHDO

(´・ω・`)「………」

(‘_L’)「………」

(´・ω・`)「…………」

(‘_L’)「……いかがですか?」

(´・ω・`)「おい」

(‘_L’)「はい?」

(´・ω・`)「これパンティーじゃねーか」

(‘_L’)「さようでございます」

(´・ω・`)「………」

(‘_L’)「……どのくらいのお値段で買っていただけますか?」

(´・ω・`)「馬鹿にしてんのか?」

(‘_L’)「馬鹿に……?」

(´・ω・`)「なにが非合法だよ。ただのおパンティーじゃねぇか。
       ……これは娘とか孫のやつか?」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:06:10.54 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「いえ……非合法な入手方法、とだけ……」

(;´・ω・`)「盗んだのかっ!?」

(;‘_L’)「な、なぜそれを!!?見てたのですか!?」

(;´・ω・`)「見てねーよ!
        つーかなに考えてんだよフィレンクト!!もういい歳なんだろ!?」

(;‘_L’)(見てもないのになぜ……?
      まさかショボンさんは読心術の使い手なのか……?)

(´・ω・`)「おい!聞いてんのか!?ボケてんじゃねーぞジジイ!!」

(;‘_L’)「はっ、はいっ!」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:07:25.79 ID:zIj6aBHDO

(´・ω・`)「返しに行けとは言わんが、
       路上で売ろうとすんのはやめとけ。捕まんぞ?」

(;‘_L’)「はい……ご忠告、ありがとうございます」

(´・ω・`)「ちなみによ、なんで俺がパンティーなんて買うと思ったんだ?」

(;‘_L’)「そ、それは……
      非常に高価な物だと聞きましたので……是非ショボンさんにと……」

(´・ω・`)「誰から聞いたんだ?」

(‘_L’)「よく利用させてもらっている、八百屋のご主人からです」

(´・ω・`)「そこにはもう行くな」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:09:26.89 ID:zIj6aBHDO

しょぼくれた男は踵を返し、別れの言葉と共にその場を去った。


―――――


(;‘_L’)(もうやるしかない……やるしかないんだ……!)

フィレンクトは商店街を歩いていた。
きょろきょろとしているので若干、不審者のように見えなくもない。

(;‘_L’)(どこにするべきか……?
      魚屋さんは安くて美味しくアジを売ってくれたし……
      あそこのCD屋さんはいつもサブちゃんの新作を私のために取っておいてくれてるし……)

彼は強盗しようとしていた。
店に押し入り、金を奪うつもりだったのだ。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:11:01.72 ID:zIj6aBHDO

(;‘_L’)(電気屋さん……
      駄目だ、マッサージ機を無料で体験させてくれたじゃないか……)

悩んだ末の結論だった。
人に迷惑をかけることを何よりも嫌う彼だったが、
今朝はどうしても現金が必要だったからだ。

(;‘_L’)(八百屋さんは気の良い人だし、文房具屋さんだって親切だ……)

悩み過ぎて時間は大分過ぎていてしまっていた。
もう街の人々は活動している時間帯になっていた。
急がなければならない。

(;‘_L’)(情けない……私はどれだけ優順不断なんだ!)

地駄団を踏むフィレンクト。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:12:49.09 ID:zIj6aBHDO

(;‘_L’)「お金だ……お金さえあれば……」

刻々と過ぎる時間。
登り続ける太陽。
その全てが彼を焦らせる。

(;‘_L’)(ああ……真知子さん……私は……)

( ^ω^)「お爺さん、ちょっといいですかお?」

(;‘_L’)「……ど、どちら様ですか?」

後ろから自分にまわり込んできたのは、
若い女性向けの洋服屋の袋を持った青年だった。

( ^ω^)「失礼ですが……もし良かったら、これを受け取ってくださいお」

青年はフィレンクトに現金を差し出した。

(;‘_L’)「さ、三千円だって!?」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:14:33.34 ID:zIj6aBHDO

(;^ω^)「あっ……足りませんかお?でも手持ちがこれしか――」

(*‘_L’)「とんでもない!!助かります!本当にありがとうございます!!」

(* ^ω^)「それは良かったですお」

(‘_L’)「でも、どうして私がお金に困ってることをご存じで……?
     貴方も読心術の使い手なんですか?」

(;^ω^)「どくしん……?それについてはよく分かりませんが――」

( ^ω^)「いまあなたが、お金がどうのと言ってた気がしたので……」

(*‘_L’)「そうだったのですか……貴方はなんて親切な方なんだ……!」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:17:22.98 ID:zIj6aBHDO

(* ^ω^)「やめてくださいお。照れちゃいますお」

(*‘_L’)「是非ともお礼をさせてください!」

( ^ω^)「気にしないでくださいお。
       持ちつ持たれつ、というやつですお」

(*‘_L’)「そんなこと仰らずに!是非ご飯をご馳走させてください!」

(;^ω^)「……お?」

(*‘_L’)「美味しいおソバ屋さんがあるんですよ!
      あの喉越しと香りは正に絶品なんです!そこに行きましょう!」

(;^ω^)「そのご馳走するお金は僕のじゃ……」

(*‘_L’)「あっ!これは失念しておりました!」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:19:12.80 ID:zIj6aBHDO
(*‘_L’)「いや〜、実に聡明お方だ!
      ひょっとして、落語家か何かをなさっているのでは?」

(;^ω^)「違いますお。というかなぜ落語家なん――」

(*‘_L’)「私は笑点を見てる時にいつも思うんですよ!
      あぁ〜、この人達はなんて頭の回転が早いんだろう、って!
      だからなんですが違いましたか!」

(;^ω^)「はあ……」

(*‘_L’)「ならすぐにでも目指した方が良い!
      お名前はなんておっしゃるんですか?」

(;^ω^)「お?名前ですかお?僕は内藤ホライ――」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:21:43.34 ID:zIj6aBHDO

(*‘_L’)「内藤さんですか!
      なら……『内藤亭トロ蔵』というのは如何ですか!?」

(;^ω^)「な、なにがですかお?」

(*‘_L’)「落語家が使う名前にですよ!
      貴方は今日から『内藤亭トロ蔵』と名乗って落語界を背負うべきなんです!」

(;^ω^)「そうですかお……あの、ちょっと急いでるので――」

(;‘_L’)「あっ!大変だ!!
      トロ蔵さん、失礼なんですが、私には行くところがございまして、
      これにて失礼させていただきます!」

(;^ω^)「いや……トロ蔵って――」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:24:02.89 ID:zIj6aBHDO

(;‘_L’)「真に申し訳ありません!!
      このご恩は必ずお返しいたします!それでは!!」

呆気にとられる青年を置いて、フィレンクトは走り出した。


―――――


いつものように瓶で牛乳を二本買ったフィレンクトは、
ある民家の郵便受けの上にそれを置いた。

(‘_L’)(良かった……遅くなってしまったが、なんとかなったな……)

そう、彼が大切にしていた習慣とは、
ある女性のために匿名で牛乳を提供することだったのだ。

(‘_L’)(トロ蔵さんにはなんとお礼を言って良いものか……)



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:25:54.75 ID:zIj6aBHDO

フィレンクトはこれを半年の間、続けていた。
牛乳好きの彼女が喜ぶのが嬉しかったからだ。

ちなみになぜ匿名かというと、その理由は簡単だ。
好意を悟られるのが恥ずかしいからだった。

(‘_L’)(彼がくれたお金のおかげで、数日は持つ。
     もう少ししたら年金が貰えるから問題はない……。
     本当にありがとうございます、トロ蔵さん)

後は電信柱の陰に隠れて、彼女が牛乳を発見するのを待つだけだ。
そう思って移動するフィレンクトの背中に声が掛けられた。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:28:05.00 ID:zIj6aBHDO

∬'ー`)「あら……ひょっとして、フィレンクトさん?」

年老いた婦人の声に、フィレンクトは驚いた。

(;‘_L’)「真知子さん!!?」

∬'ー`)「やっぱりそうだったわ。後ろ姿ですぐ分かったんですよ」

そう言って、ころころと笑う婦人。
一方のフィレンクトはというと、かなり動揺していた。

((((*‘_L’;))))「おはおはおは、おはようございます!!!」

∬'ー`)「おはようございます。今日も暑いですわね」

((((*‘_L’;))))「そそそそそ、そうですねぇ!!」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:29:06.34 ID:zIj6aBHDO

∬'ー`)「夏は好きなんですが、この老体にはちょっと堪えてしまいますわ」

フィレンクトは彼女に反論したかった。

(*‘_L’)(老体だなんてとんでもない……!貴方は充分若く、美しい……!)

でも当然、そんなことを面と向かって言える度胸はないので、
心の中で呟くだけだ。

(*‘_L’;)「ち、地球の温暖化には困ったものですねぇ!!」

そう言ってお茶を濁すフィレンクト。
そこで彼の目はちらりと牛乳に向いた。

∬'ー`)「ええ、その通りですわ。
    北極や南極の氷が溶けていっているらしいですわね……
    恐ろしいことです」」



62: すみません、連投しちゃいました :2007/07/30(月) 00:31:03.17 ID:zIj6aBHDO

(*‘_L’;)「こ、怖いですよねぇ!
       いっそのこと、大きな扇風機を作って地球を冷やせば良いのにと思ってしまいますよ!」

そこで彼の目はちらりと牛乳に向いた。

∬'ー`)「あらあら、フィレンクトさんったらご冗談がお上手ですこと」

再び笑い出す婦人。
再びちらりと牛乳に目を向けるフィレンクト。

(;‘_L’)(……やるぞ……やってやるぞ……)

∬'ー`)「でも最後にフィレンクトさんに会え――」

(‘_L’)「やや!!あらららら!!?」

∬'ー`)「?」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:32:58.91 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「こんなところに牛乳がありますよ!!牛乳が!!!」

∬'ー`)「あら……」

(‘_L’)「なんてことだ……信じられない……!」

∬'ー`)「………」

(‘_L’)「こんなところに……なぜ……牛乳が……」

∬'ー`)「……実はこれ、少し不思議なんですよ?」

(;‘_L’)「え……?」

∬'ー`)「半年ぐらい前から毎日誰かが置いてくださるんですが、
    私には注文した覚えがないんですの」

(;‘_L’)(……)

∬'ー`)「だから配達するお家を間違えたんじゃないかと思ったんです」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:34:58.85 ID:zIj6aBHDO

∬'ー`)「それでこの牛乳会社さんに問い合わせてみたら、
    そんなことはないって言われてしまいましたわ」

(‘_L’)(………)

∬'ー`)「じゃあ誰が何のためにと不思議に思ったんですが……
    捨てるのももったいないし、好物なのでいただいちゃったんです」

(*‘_L’)(……ふふっ)

∬'ー`)「それからというもの、
    ことあるごとに米俵や貴金属やら
    果ては高級そうな仏像なんかが置いてあったりして……」

(*‘_L’)(ふふふっ……みーんな私が用意したのですよー!)



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:36:24.25 ID:zIj6aBHDO

(*‘_L’)(貴方のためなら、
      家財道具だってなんだって売れちゃうんですよー!ふふふふっ……)

∬'ー`)「でもそれも今日で最後に――」

(;‘_L’)「えっ!?最後ってどういうことですか?」

∬'ー`)「……言い出しにくかったんですが……」

∬'ー`)「私、今日でこの街から引っ越すんです」


―――――


フィレンクトが腕を失ったのは事故のせいだった。

当時彼が勤めていた工場で大規模な爆発事故があったのだ。
それに巻き込まれたフィレンクトは意識不明の状態で病院へ搬送された。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:37:48.48 ID:zIj6aBHDO

数日間を経て目を覚ました彼に待っていたのは、
隻腕になった体と妻からの三下り半だった。

彼は全く気付いていなかったが随分と前から浮気をされていたらしく、
フィレンクトの失職と同時に妻は別れを決意したらしい。

喪失感と絶望から、妻にはあっさりと離婚を同意し、
工場を訴えるなどのことはしなかった。
だがこれはフィレンクトの強気になれない
性格の弱さが起因しているせいでもある。

彼は弱い人間だ。確かに優しさや暖かさを持っている人格者でもあったが、
本質的には臆病なだけなのだ。

(‘_L’)(真知子さん……)



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:39:25.87 ID:zIj6aBHDO

そして彼はまたもや失おうとしていた。
今度は長い孤独の生活に、彩りをくれたあの人を。

(‘_L’)(……私は……どうしたら……)

元々彼女は別の土地で暮らしていたのだが、
生まれ故郷であるこの街で余生を過ごそうと、一軒家で独り暮らしをしていた。

だが、いつまでも母親を放っておけないと息子夫婦が同居を申し出て、
根負けした彼女はそれを承諾したらしい。

(‘_L’)(引き止められるはずがない……私にはそんな権利はない……)

重い足を引きずり、彼はとぼとぼと歩いていた。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:41:40.31 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(……しかし……でも……)

今日、彼女はこの街を去る。
港から船に乗り、遠い地へと行ってしまう。

(‘_L’)(私、は……)

正確な時刻は分からない。
なぜならフィレンクトは彼女の話の途中で立ち去ってしまったからだ。
それは涙を堪えられる自信が無かったせいだ。

「なんでモナァァァッ!モナーは何にも悪くないモナァァァァッ!!」

(‘_L’)(おや……?)

その時、彼の耳には大きな涙声が届いた。

( ;∀;)「モナァァァ!モナァァァァァ!」

(;^ω^)「な、泣かないでくださいお……」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:42:59.24 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(トロ蔵さん!?)

そこには駅前の広場で号泣する少年に、
袋を持ったまま狼狽している青年がいた。

(‘_L’)(そうだ……トロ蔵さんに相談してみよう!)

あれほど親切な彼なら、
きっと自分の話も聞いてくれるに違いない、とフィレンクトは思った。

(‘_L’)「トロ蔵さぁぁぁぁんっ!」

走り寄るフィレンクト。

(^ω^;)「お?」

( ;∀;)「モナァァァはっ!
       どーしてこぉぉぉなんだ、モナァァァァァァッ!!」

泣き叫ぶ少年。

(;^ω^)「おおっ……?」



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:44:07.86 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「実はご相談したいことがあるんですよぉぉぉ!!」

すがり寄るフィレンクト。

(^ω^;)「おっ……おお?」

( ;∀;)「教えてモナ!お願いモナァァァ!!」

(;^ω^)「おー……おっ?」

(‘_L’)「聞いてますかトロ蔵さぁぁぁぁぁんっ!?」

(^ω^;)「おっ……?」

( ;∀;)「モナァァァァァ!!」

(;^ω^)「………」

(‘_L’)「トロ蔵さぁぁぁぁぁんっ!?」

(^ω^;)「………」

 (^ω^)

\(^ω^)/

青年は両手を上げた。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:45:45.30 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「トロ蔵さん!トロ蔵さんったら!!」

( ;∀;)「モナァァァ!モナァァァ!」

そして頭の上、ぴしゃりと手を叩く。

( ^ω^)「1・2・3・4!!」

( ^ω^)「だおだおっ♪だおだおんっ♪」

(‘_L’)「……トロ蔵さん?」

体を揺すりながら足踏みする青年。

( ^ω^)「だっだっだっだっ♪」

( ^ω^)「だおだおんっ♪」

(;‘_L’)(………)

いったいどうしたというのだろう?
なぜか青年は突然、歌い出したのだ。
なにが彼をこうさせたのだろうか?

フィレンクトは困惑した。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:47:30.02 ID:zIj6aBHDO

そこに大勢の人が走ってくる音が轟いた。

(‘_L’)「……なんだ?」

音の方向に目をやる。
すると、自分達の方へと駆けてくる人の群がいた。

( ^ω^)「悩みっぱなしじゃ元気がなくなるお♪」

( ^ω^)「だおだおっ♪だおだおんっ♪」

(‘_L’)「電車の出る時間……なのかな?」

ここは駅前だ。もしそうならおかしくはない。

だが明らかに仕事中であっただろう警察官や
ウエイトレスまで走っていたのが不自然だった。

( ^ω^)「そーんな君達なんか見たくないんだお♪」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:48:55.11 ID:zIj6aBHDO

( ^ω^)「だおだおっ♪だおだおんっ♪」

やがて自分達に接近したその大勢の人達は――

( ^ω^)「だから歌ってそんなのぶっ飛ばしちゃうお♪」

いっせいに、ジャンプした。

( ^ω^)&皆さん『だおだおっ♪だおだおんっ♪おんっ♪』

(;‘_L’)「っ!!!?」

青年と合唱した多くの人達。
フィレンクトは驚きを隠せなかった。

(;‘_L’)「………」

だが彼は、その驚きを上回るぐらい混ざりたくて仕方ない気がし、叫んだ。

(‘_L’)「うおおおおおっ!!」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:50:45.72 ID:zIj6aBHDO

するとフィレンクトの体中から力が湧いた。
腰と背筋が伸び、目に輝きが現れた。

( ^ω^)&皆さん『だおだおっ♪だおだおんっ♪』

(‘_L’)「ヘイッ!ヘイッ!ヘイッ!ヘイッ!
     ヘヘヘッヘイッ!!」

彼はパチンパチンと指を鳴らしながら、青年に肩を寄せた。

(‘_L’)「ちょいと私の悩みを聞いてよ〜♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』

(‘_L’)「慕ってた人が遠くに行っちゃうの〜♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』

(‘_L’)「どーすりゃいいかな?教えてちょーだいな♪」

皆さん『だおだおんっ♪だおだおんっ♪おんっ♪』



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:53:14.34 ID:zIj6aBHDO

一回転して大股を広げるフィレンクト。
そしてリズムを取りながら、じりじりと青年に近付いていく。

青年は左右に尻を振りながら、フィレンクトから押されるように離れていく。
ある一定の距離を進むと、今度は青年がじわりじわりと彼に寄り、
フィレンクトはゆっくり後ろに下がる。

二人はこれを交互に続けていた。

( ^ω^)「そいつは悲しい困ったことだおね♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』

( ^ω^)「それならいっーちょ頑張らないとだおっ♪」

皆さん『だおだおっ♪だおだおっ♪』



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:54:54.97 ID:zIj6aBHDO

( ^ω^)「貴方のあつーいハートをぶつけるお♪」

皆さん『だおだおんっ♪だおだおんっ♪おんっ♪』

するとそこで泣いていた少年の鼻から、
トランペットの様な音がした。

( ´∀`)〜<パプーッ♪

(* ´∀`)「モナッ♪」

これは恐らく鼻水がつまったせいで笛の原理が作用したのだろう、
とフィレンクトは思った。

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

\(^ω^)/「ヘーイ!」



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:56:28.34 ID:zIj6aBHDO

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

(* ´∀`)〜<パッパッパーパッパッパパッ♪

 (‘_L’)/「ハーイ!」

(* ´∀`)〜<パパパパパッパッパッパッパラ〜パッ♪

(* ´∀`)〜<パァーッパパッパッパパパッ♪

皆さん『イェーイ♪』

向かい合って両手を持ち、青年の股の間を滑るフィレンクト。
それを一回、二回と往復し、立ち上がりながら回転してぴたっ、と静止する。

(‘_L’)(トロ蔵さん……私は……)

青年は右へ左へと体を揺すりながら、ノリノリで踊っていた。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:57:09.10 ID:zIj6aBHDO

少年は鼻から管楽器の音を響かせながら、服を脱いでいる。
集まって住人達は、思い思いに体を揺する。

(‘_L’)「行ってきます!!」

青年に一礼し、走り出すフィレンクト。
そこで車に跳ね飛ばされた。

(メ‘_L’)「ぐわぁぁぁっ!」

道路に叩き付けられる体。
一瞬消えそうになる意識。

(;゚∀゚)「お、お爺さんっ!!大丈夫ですか!!?」

車からスーツ姿の男が降りてきて、自分に駆け寄る。
だがフィレンクトは何でもないように立ち上がる。

(#‘_L’)「……車を貸せ」

(;゚∀゚)「え?」



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 00:59:18.43 ID:zIj6aBHDO

(#‘_L’)「車を貸すんだ!!」

(;゚∀゚)「は、はい!!」

開いたままのドアから車内に体を滑り込ませるフィレンクト。
ドアミラーをチェックし、
シートを足の長さに合わせて調節させ、シートベルトをしめた。

(‘_L’)(ATか……なんとか運転出来るだろうか……?)

エンジンをかけ、覚悟する。

(‘_L’)「いや、させるんだ!!」

振り上げた足をアクセルに叩き付けた。
唸るエンジン音と共に猛烈なスピードで車は発進した。

(‘_L’)「うおおおおおおおおおおおお!!!」



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:01:31.40 ID:zIj6aBHDO

制限速度を強烈なまでに無視した速度で車は加速する。
路上駐車していた車にぶつけ、対向車の車体を削り、赤信号を突破した。

(#‘_L’)「真知子さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

フィレンクトは加速する。
その様はまるで公道を駆ける彗星のようだった。


―――――


12台の車に傷をつけ、4台の車を大破させ、
電柱やガードレール等を破壊しながら港に辿りついた。

しかしすでに彼女を乗せた船は出港してしまっていた。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:03:45.55 ID:zIj6aBHDO

そこでフィレンクトは海を満喫する金持ちの老人からモーターボートを強引に借り、
漁船を一隻転覆させ、やっとのことで船に追い付いた。

止まれ止まれと大声を上げながら船を叩くフィレンクトに恐怖した船長は、
顔を引きつらせながらも、彼を船上へ迎入れた。

(‘_L’)「真知子さん!!」

∬'ー`)「フィレンクトさん……!来てくださったんですか!?」

彼女は驚きながらもフィレンクトを笑顔で見つめた。

∬'ー`)「良かった……怒らせてしまったんじゃないかと、不安でしたの……」



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:04:48.62 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「まさか貴方に怒るだなんて!
     ……なぜ私が怒っていると思ったんですか?」

∬'ー`)「引っ越すことを言い出せなかったからですよ」

(‘_L’)「そんな――」

∬'ー`)「でも急に走り出してしまったでしょう?
    本当に申し訳なく思いましたわ」

(‘_L’)「……真知子さん、お話があります。
     貴方に聞いていただきたいことがあります」

∬'ー`)「あら……何かしら?」

そこでぶるりと体が震え、臆病さが顔を出す。
下腹の辺りに違和感を感じ、足がすくむ。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:06:25.51 ID:zIj6aBHDO

(;‘_L’)(……ク、クソ……しっかりするんだ……)

この歳になって告白など、
みっともなくはないか、と頭にちらりとよぎった。

(‘_L’)(年甲斐さなど踊った時に路傍に捨てた!
     そうでしょう?トロ蔵さん!!)

彼の続きの言葉を待つ彼女を見て、
フィレンクトは大きく息を吸う。

(‘_L’)「実は私にも、言い出せなかったことがあるんです」

∬'ー`)「……?」

(‘_L’)「真知子さん。……私は貴方のことが好きです」

∬*'ー`)「っ!?」

(‘_L’)「誰よりも愛してます」



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:08:01.63 ID:zIj6aBHDO

∬*'ー`)「フィ、フィレンクトさん……?」

(‘_L’)「本当に、心から、愛しております」

∬*'ー`)「あの……えっと……」

(‘_L’)「今はまだ、お返事は結構です」

∬*'ー`)「えっ……?」

(‘_L’)「私の気持ちを知っていただければ、それで充分なんです」

∬*'ー`)「………」

(‘_L’)「……私は今までとても長い人生を送ってきました。
     それは悠久と言っても過言ではないものだと思えるぐらいです。
     貴方にとっても、きっとそうだと思います」



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:09:51.62 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)「だから私たちが共に過ごした時間など、
     その長い時の流れに比べてしまえば、
     すれ違いと言える程に短いものでしょう」

∬'ー`)「……そうかもしれませんね」

(‘_L’)「でも……もったいないと思いませんか?」

(‘_L’)「すれ違いだけで終らせるには、
     人生というのは余りに貴重過ぎると思えませんか?」

(‘_L’)「だから……会いに行きます。私は貴方に会いに行きます。
     どんなに離れても、貴方の笑顔が見たいから……」

∬*'ー`)「………」

(‘_L’)「……さようなら、真知子さん。必ずまた、会いましょう」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:11:17.24 ID:zIj6aBHDO

真っ直ぐに目を見て微笑するフィレンクト。
彼はそれだけ言うと、船上から海へと降りるために歩き始めた。

∬'ー`)「……待ってください……牛乳屋さん」

(;‘_L’)「っ!!?」

フィレンクトは彼女の言葉に振り返った。

∬'ー`)「今まで毎日……美味しい牛乳を届けてくださって、
    ありがとうございました」

(;‘_L’)「なっ……なぜ貴方がそれを!?
      貴方も読心術の使い手なんですか!!」

∬'ー`)「……気付いたのは今日なんです。だって――」

∬'ー`)「冷たい牛乳のすぐそばに、あなたがいたから……」



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:13:12.22 ID:zIj6aBHDO

(;//_L/)「……………」

∬'ー`)「またお会い出来るのを待っています。私も貴方の――」

(;//_L/)「うおおおおおおおっ!!!」

恥ずかしさの余り、フィレンクトは海に飛込んだ。
かなりの高さがあったが、彼にそれを気にかける余裕なんて全くなかった。


―――――


船が水平線へと消えた。
それを見送った後に、泳ぐ力を緩め、水面に漂うことにする。

(‘_L’)「………」

緩やかに波立つ海面に、フィレンクトの体は揺れる。
視線の先には夕日に染められた茜色の空。
静かにそれを見つめていた。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:15:30.14 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(綺麗だな……)

これ程美しい景色を見たことがあっただろうか?
彼は自分の記憶を掘り返してみたが、思い出すのは辛い経験ばかりだった。

仕事を失い、腕を失い、妻に去られてしまった。
それからは空虚で無益な時間の積み重ねだ。

ただ生きてきただけ。
気が付いたら、もう枯れ果てた老人へとなっていた。

(‘_L’)「………」

だがどうだろうか、この素晴らしい景色と晴々とした心境は。
フィレンクトは今まで、自分の人生は惨めで不幸なものだと思っていた。
だが本当にそうだったのか、と問掛ける。



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:17:18.41 ID:zIj6aBHDO

(‘_L’)(……きっとそんなことはない)

そう、今まで過ごした時間がなければ、
この場所に来てこんな気持ちになれなかったはずだ。

(‘_L’)(実に……良い気分だな……)

青年が大事なことを教えてくれた。

それは、自分にはまだ歌える喉と踊れる体があるということだ。
そして楽しむことを躊躇しなければ、存外に人生は面白い。

そして大事な人が教えてくれた。

自分にはまだ、美しいものを美しいと思える心があることを。
それは好意を持つ人の笑顔や達成感と共に見る風景だ。

(‘_L’)(良い人生だ……本当に……)



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/30(月) 01:18:36.71 ID:zIj6aBHDO

そしてそれはこれからも続くだろう、
自分が生きている限り。

気の持ちようと行動だけで、
こんなにも素晴らしく愉快なものになるのだから。

(‘_L’)「さあ!帰ろうじゃないか!」

フィレンクトは反転し、泳ぎ出した。
この海を渡る帰り道の先には、
どんなことが待っているのかと夢想しながら。

長い時間をかけて泳ぎ続け、やがて港が見えてきた。
そして波の音に紛れながら、誰かの歌声が聞こえてくる気がした。

きっと貴方ですよね、トロ蔵さん?

声に出さずに呟いて、彼は楽しそうに微笑んだ。




五曲目・完



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