( ^ω^)はミュージカルをするようです

5: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:06:02.94 ID:1Y48UeqXO

七曲目・渡辺さん




('A`)「ぎゃああああああっ!!」

痩せた男の悲痛な叫びが店内に響いた。
彼の頭からは、噴水みたいに勢いよく血が吹き出ていた。

从'ー'从「あれれ〜?失敗しちゃったよ〜?」

渡辺さんは不思議そうな顔をしながら、顎に指をやって首をかしげた。
手には血に濡れたハサミを持っている。

('A`)「なんて……なんて酷いことをするんだ!!」

痩せた男は、何故か渡辺さんと
目を合わせないように下を向きながら言った。



6: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:08:17.29 ID:1Y48UeqXO

('A`)「俺は……気分転換にと髪を切りにきただけなのに……」

从'ー'从「なんでだろ〜?手が滑っちゃったのかな〜?」

(;A;)「なんでこんな目に合うんだぁぁぁっ!
   やっぱ床屋にしときゃ良かったぁぁぁっ!!」

从'ー'从「あれれ〜?お客さんは何で泣いてるんですか〜?」

よろよろと立ち上がりながら泣き叫ぶ男を見て、
渡辺さんは更に不思議そうな顔をした。

店長「渡辺君!!君は何やってるんだっ!?」

从'ー'从「……ふぇ?どちら様ですか〜?」

店長「渡辺くん……?ほ、本気で言ってるのかっ!?」



8: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:09:56.90 ID:1Y48UeqXO

(;A;)「ちくしょぉぉぉっ!死んでやるっ!
   死んでやるぞぉぉぉっ!!」

痩せた男はベルトを外し、首に巻き付けた。

店長「ちょっ!ちょっと待ってください!
   気を確にしてください、お客様!!」

(;A;)「うるせぇぇぇっ!!俺は死ぬんだぁぁぁぁぁっ!!」

椅子の上に立った男性は、
首に巻いたベルトをどこかに引っ掛けようと、悪戦苦闘していた。

そしてそれを見て渡辺さんは笑った。

从'ー'从「あははは〜っ!テルテルボウズみたいだねぇ〜!」

切った髪の毛が服に付着しないよう被されたカバーが、
彼女にそう連想させたのだ。



10: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:12:07.61 ID:1Y48UeqXO

(;A;)「………」

店長「………」

从'ー'从「明日は晴れるかな〜?」

(;A;)「おわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

从'ー'从「ひゃあ〜〜〜」

彼女は突然大声を出した男性に驚いた。
その痩せた男は、何事かを叫びながら、店を出て行った。

从'ー'从「……元気一杯な人だねぇ〜」

店長「…………」

从'ー'从「さってと、お仕事お仕事〜っと♪」

店長「その必要はねーよ。お前な、クビだから」

从'o'从「ふぇぇ〜?」

店長「もう来なくていい と言うか帰れ、すぐに」

从'ε'从「………?」



13: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:14:08.12 ID:1Y48UeqXO

店長「お客様の頭から流血だぞ?当然の処置だろうが」

从'ω'从「………??」

店長「退職金なんか出ねーからな。
   それより、訴えられるんのを覚悟しとけよ」

从'δ'从「………???」

店長「勤務態度も酷いと思ったけどよ、まさかここまで――」

その瞬間、美容院にトラックが突っ込んだ。

店長「うわああああああっ!?」

渡辺さんに話をしていた男は、
そのトラックに吹き飛ばされた。

从'ー'从「あれれ〜?」

外からでも店内の様子が見易いように
と設計された広い窓ガラスは粉々に砕けた。



14: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:16:53.10 ID:1Y48UeqXO

リラックスしてカットされるのを楽しめる
ふかふかの椅子も大きな車体と太いタイヤによって潰された。

ノハ;;)「私の車がぁぁぁぁっ!!」

トラックから少し遅れて、若い女が店に開いた穴から入ってくる。

店長「なに考えてるんだテメーはっ!?どうしてくれるんだよ!!」

苦しそうに油汗をかきながら、脇腹を押さえた男性がそう抗議した。



17: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:19:13.36 ID:1Y48UeqXO

从'‐'从「………」

ノハ;;)「わっ……私のせいじゃないんだよ……
    片目を髪で隠した女が急に車を奪いやがってさ……」

店長「はあぁぁぁっ!?何をホザきやがんだ!!
   妙な責任転嫁してんじゃねぇよ!!」

ノハ;゚听)「いや……本当なんだよ!!
     口の悪い女が私を引きずり降ろしてさ、
     この店に車を突っ込ませたんだって!!」

从つo`从「……ふあぁぁぁっ……」

店長「信じられるかそんな事!!
   信用して欲しいなら、今すぐそいつを連れてこい!!」



18: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:20:45.80 ID:1Y48UeqXO

ノハ;゚听)「いや、それがスゲー運動神経でさ、
     店にぶつかる前に車から飛び下りちまったんだよ!!」

从´ー`从「……ムニャムニャ」

店長「嘘つけボケ!!」

ノハ#゚听)「マジだバカ!!」

从'ー'从「……なんだか眠たいから、帰りますね〜」

ぺこりと頭を下げた渡辺さんは、
優雅に鼻唄を歌いながらその場を去った。

店で繰り広げられる喧騒に、彼女は目もくれなかった。


―――――


从'ー'从「たっだいまぁ〜」

犬「ワン!」

从'ー'从「またお仕事を辞めさせられちゃったよ〜」

犬「クゥ〜ン……」



20: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:21:46.21 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「ねー?困っちゃうよねぇ〜?
     これで18店舗目だもんねぇ〜」

すとんっ、と腰を下ろして犬の体を撫で出す渡辺さん。
彼女は拾ってきたラジカセでクラシックを流した。

从'ー'从「ふが〜♪ふんが〜っ♪」

段ボールハウスの中にバッハの音楽に響き、
渡辺さんはその音に陶酔した。

やがてお腹が減ったため、表に出て火をおこす。

从'ー'从「ふごふご〜♪ふぎぃ〜♪ぱぁ〜らぁ〜♪」

手鍋の中に水と米を入れ、火にかける。

从'o'从「おー♪おおー♪」

海水から得た塩を用意する。

从'ー'从「ぷぎぃ〜♪」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:25:47.95 ID:1Y48UeqXO
そして炊き上がるのを待つ。

つやつやに光るご飯が出来たら、
前述の調味料をかけて「渡辺ライス」の完成だ。

以上の作業を終えた彼女は家の中に入り、
炊きあがるのを待つことにした。

从'∀'从「あぎゃぱー♪」

从´ー'从「ぱっ……」

从´-`从「……――」

从- o -从「……zzZ」

そして彼女は深い眠りにつく。

―――――

从つー`从「ふぃ……?」

犬「キャインッ!キャインッ!」

从´o`从「……ふぁ〜――」

从'ー'从「よく寝たなぁ〜」

背伸びをして眠気を醒まそうとする渡辺さん。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:26:22.17 ID:1Y48UeqXO
しかし、彼女の目前には目覚ましには
最も効果的で危険な物が迫っていた。

从'ー'从「なんか焦げた匂いがするよ〜」

犬「ギャワンッ!アヒンッ!!」

从'ー'从「あれれ〜?」

眼前に広がるは赤い炎。

从'ー'从「ふえぇ?」

迫り来るは火炎。

从'ー'从「なんだか私のお家が燃えてるよ〜?」

出火の原因は渡辺さんの不注意だった。

米を炊くための火は、その器ごと墨に変えて激しさを増し、
彼女の固い紙繊維で出来た家を焼いていたのだ。

犬「ヒンッ!ヒギンッ!ワギョーンッ!!」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:28:26.87 ID:1Y48UeqXO

从;'ー'从「暑いよー!暑いよー!」

犬「ギャボォォォォッ!ワギャンッ!!」

半狂乱になった犬が小便で火を消そうとしたが、
それを見た渡辺さんが尻を叩いた。

从#'ー'从「コラッ!お家の中でオシッコしちゃダメでしょ!!」

犬「クゥーン……」

从#'ー'从「メッ!!」

犬「ワンッ!」

野良に生きる愛玩動物のしつけには成功はしたが、
命の燭は消え去る直前にまでせまっていた。

从;'ー'从「それにしても今年の夏は暑いねぇ〜」

燃え盛る炎はすぐ目の前に来ていたが、
彼女は異常気象で片付けているみたいだった。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:30:07.43 ID:1Y48UeqXO

从;'ー'从「海にでも行きたい――」

渡辺さんのセリフを遮る様に、
炭酸ガスが噴射されるような音が辺りに響く。

その音の元である白い煙は炎を消し去り、彼女の顔を白くした。

从;δ;从「ゲフンッ!ゲフンッ!!」

煙にむせて涙を流す渡辺さん。

从つ3;从 「何するの〜!酷いじゃないの〜!」

咳き込みながら表に出ると、
消火器を持った二人組が胸を張って出迎えた。

(ムΘラ)「ツインズ!」

[`↓´]「参上!!」

从;o;从「またあなた達ですか〜!」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:31:12.57 ID:1Y48UeqXO

そこには渡辺さんよりも
遥かに長い公園ライフを過ごすベテランホームレス達が、
ポーズを取りながら決め台詞を吐いていた。


―――――



(ムΘラ)「俺達の」

[`↓´]「お陰で」

(ムΘラ)[`↓´]『お前助かった!!』

从#'ー'从「だから〜!
     いちいち恩着せがましいんですよ!あなた達は〜っ!!」

(ムΘラ)[`↓´]『………』

(ムΘラ)「なんだか」

[`↓´]「ごめんね」

(ムΘラ)[`↓´]『アイム・ソーリー!!』

从'ー'从「ジャクソン!ほら〜、噛み殺しなぁ〜」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:32:51.79 ID:1Y48UeqXO

犬「ブギャンッギャンッ!ギャバギャァンッ!!」

[;`↓´]「うわっ!ひいぃぃぃっ!ぎゃっ!!」

(ムΘラ)「ひひひひひ………」

溜め息をついてから、渡辺さんは考え事をすることにした。
明日からどうしよう、と。

家は焼失し、仕事はクビになった。

从'ー'从(どうやって生活してこうかなぁ〜)

公園に住んでいるので家賃は掛らない。
それに食事も、廃棄された弁当や生活の知恵というやつで賄っている。

だがそうは言っても、年頃の女の子だ。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:34:11.39 ID:1Y48UeqXO

洗剤抜きで洗う洋服や、
ゴミをアクセサリーだと言い張るのには限界がある。

渡辺さんは、なんとか生活水準を上げたいな、と思っていたのだ。

从'ο'从「あーあ……」

犬「ブロォォォッ!ゴギャンッ!!ギョーーンッ!!!」

(;ムΘラ)「痛っ!痛いから!!止めろ!!」

[`↓´]「ぷぷぷ、ぷっー!クスクスクスッ!」

从'‐'从「どうすれば、いいのかな〜?」

犬「ワゴォォォォォォォォォッ!!!ギョボゴォォォォォォォンッ!!!」

(;ムΘラ)「ぎゃあああああああああああっ!!」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:35:58.87 ID:1Y48UeqXO

[;`↓´]「……あら?もうそろそろ洒落にならない……か?」

(#ムΘラ)「あたりめーだろ!さっさと助けろよ!!」

[;`↓´]「ちょ、ちょっとカルカン買ってくるわ!」

(#ムΘラ)「それは『猫まっしぐら』だろ!!」

渡辺さんは考える。
なぜ自分の人生が上手くいかないかと。

从'‐'从「……私の何がいけなかったんだろぉ〜?」

(#ムΘラ)「大体テメーにはそんなもん買う金あんのかよ!?」

[;`↓´]「いや、ねーよ」

(#ムΘラ)「だったら棒とかでこの犬叩け!!」

[;`↓´]「それはダメだろ。可哀想じゃん」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:37:49.80 ID:1Y48UeqXO

(#ムΘラ)「…………それもそうだよなあああああっ!
     ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

この街に来て、美容師の専門学校を卒業した。
なぜその道に進んだかというと、手に職をつけたかったからだ。

技術があれば、食いっぱぐれない。
そんな風に渡辺さんは思っていたのだ。

しかし蓋を開ければ、失職の嵐。
二十歳を越えて周りを見れば、段ボールの家すらも残っていなかった。

从'ー'从「あれれ〜?私の人生設計はどこで狂っちゃったんだろ〜?」

不可思議な現状だった。
なぜ、こうなったのだろう?



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:40:08.57 ID:1Y48UeqXO

[;`↓´]「ちょっとお嬢ちゃん!
      もう勘弁してくれよ!相棒が死んじまうよ!!」

(ムΘラ)「うわああ……あっ……ああ……」

从'‐'从(世間の荒波は想像以上に厳しいねぇ〜)

[;`↓´]「…………」

[`↓´]「共同墓地を予約しておこうか?」

(ムΘラ)「あきらめ……てんじゃ……ねぇ……」

从'‐'从(明日からどうしよう……)

[;`↓´]「そう言われてもなぁ……」

(ムΘラ)「お嬢……ちゃん……ご飯……
     ご馳走するから……助けて……」

从'ー'从「!!」

从'ー'从「ビリー!もう止めていいよ!」

犬「ワン」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:42:30.87 ID:1Y48UeqXO

男の首から口を離す犬。
噛まれていた男は、咳き込んだ。

[`↓´]「おおっ!良かったな!」

(;ムΘラ)「ゲホッ……ゴホッ……てめぇ……後で殴るからな……」

从'ー'从「ねえ」

渡辺さんは二人に向かい言った。

从^ー^从「私、ウナギが食べたいな〜」


―――――


二人組は自動販売機の下から十円玉を何個か拾い、
公衆電話に向かっていた。
渡辺さんもその後に続いて歩いている。

[`↓´]「携帯なんぞが普及するから、探すのも一苦労だな」

(ムΘラ)「時代の流れってやつだろ。仕方ねーよ」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:45:05.36 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「あれれ〜なんでウナギを食べるのに電話なんて掛けるの〜?」

(ムΘラ)「あのな、俺達にそんな高級品を奢る金なんてあると思うか?」

[`↓´]「答えは否だ」

(ムΘラ)「ならばどうする?」

[`↓´]「作れば良い」

(ムΘラ)「どうやって?」

[`↓´]「そこが頭の見せ処」

(ムΘラ)「そう、スゲェ賢い」

[`↓´]「俺ら二人が」

(ムΘラ)[`↓´]『錬金術を披露しよう』

从'o'从「ふぇぇ?」

(ムΘラ)「まあ、見とけって」

公衆電話に十円を入れ、適当に番号を押す男。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:46:59.83 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「ほれ、受話器だ」

[`↓´]「あいよ、任せてくれ」

从'ー'从「……?」

(ムΘラ)「分からないよな、教えてやろうか?」

(ムΘラ)「こいつは『オレオレ詐欺』ってやつさ」

从'ー'从「おれ……?」

[`↓´]】「あっ、もしもし?」

『もしもし、どちら様ですか?』

[`↓´]】「俺だよ、俺」

(ムΘラ)「……開口一番にこう言われると、
     電話の相手が自分の身内みてぇに思えるだろ?」

从'ー'从「うん!」

(ムΘラ)「ここで金を貸してくれって言われれば?」

从'ー'从「貸しちゃう!」

从;'Д'从「あっ!!」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/15(土) 00:48:45.34 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「そういうことさ……クックックッ……」

[`↓´]】「俺だって!俺!!」

『失礼ですが、どちら様でしょうか?』

[`↓´]】「だから俺だって!俺よ!!」

『……どちら様ですか?』

[;`↓´]「ええ……うおっ……」

(ムΘラ)「……ん?」

从'ε'从「?」

[;`↓´]】「俺、俺、俺!俺だって!!」

『いや、だからお名前を……』

[;`↓´]】「ちょっと待っててね!!!」

[;`↓´]「おい!変わってくれよ!!」

(;ムΘラ)「……俺が?」

[;`↓´]「早く早く!!」



52: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:50:49.48 ID:1Y48UeqXO
(;ムΘラ)「……マジかよ……」

(;ムΘラ)】「もっ……もしもし……?」

『……なんですか?いたずら電話ですか?』

(;ムΘラ)】「ち、違いますよ……」

『じゃあ、いったい誰なんですか?』

(;ムΘラ)】「…………」

(ムΘラ)】「ツインズです」

『…………』

電話が、切られた。

[`↓´]「…………」

从'‐'从「…………ウナギ……」

(ムΘラ)「…………」
―――――

渡辺さんは二人組から、路地裏に誰か連れて来い、
と言われたのでその通りにした。

从'ー'从「連れて来たよ〜」



53: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:52:54.93 ID:1Y48UeqXO
彼女がそう言うと、
待ってましたと言わんばかりに色めき立つ二人。

[`↓´]「よっしゃ!よくやった!!」

(ムΘラ)「これで『美人局大作戦』が出来るぜ!!」

(#ムΘラ)「おい!このクソ野郎!人の女に手を出すとは良い度胸じゃ――」

(;゚ー゚)「は?」

学生服を着た少女が、困惑しながら言った。

[`↓´]「…………」

(ムΘラ)「…………」

从'ー'从「?」

(*゚‐゚)「あの……なにか?」

―――――

[#`↓´]「オラ!金出せや!」

ATM『いらっしゃいませ』

(#ムΘラ)「なんだその態度はよ!?」



54: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:54:37.55 ID:1Y48UeqXO

(#ムΘラ)「ずいぶんと余裕じゃねーか!ぶん殴られてーのか!?」

ATM『カードをお入れください』

[`↓´]「……カードってなんのことだ?」

从'ー'从「前に拾ったテレホンカードならあるよ〜?」

(ムΘラ)「きっとそれだ!入れろ!」

カードが、入らなかった。


―――――


店員「あと十秒でーす」

[;`↓´]「もう食えねー……ラーメンなんか見るのも嫌だ……」

(#ムΘラ)「ふざけんな!黙って箸を動かせよ!!」

从;ー;从「食べ過ぎて気持ち悪いよ〜」

(#ムΘラ)「甘ったれたこと抜かすな!!」



56: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:56:50.11 ID:1Y48UeqXO

(#ムΘラ)「食いきれば合計で1万5千円だぞ!頑張れ!!」

店員「――3、2、1……時間でーす」

店員「制限時間内に食べられなかったので、
お一人様2千円づついただきまーす」

[`↓´]「…………」

从;ー;从「…………」

(ムΘラ)「…………」


(;ムΘラ)「うおおおおおっ!!走れぇぇぇぇっ!」

立ち上がり、風のように逃げ出した。


―――――


从;'ー'从「ふええ〜食べたばっか運動は疲れるよ〜」

[;`↓´]「しっかしよ……どのくらい掘れば石油なんて出てくるんだ?」



57: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 00:57:41.41 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「たしか……ざっと1000〜4000mのはずだな」

[;`↓´]「深っ!!」

从'ー'从「でも私、学生の時は1500mを30分ぐらいで走れたよ〜?」

[`↓´]「……じゃあ、掘るのに1、2時間ってとこか?」

(ムΘラ)「そんなもんだろ。
     掘るのも走るのも、そう違いがあるとは思えねーからな」

彼女達は掘り続けた。
一心不乱に掘り続けた。

やがて日が暮れた。

石油なんて、出なかった。


―――――


同日の深夜。
さっぱりと思うように行かなかった三人は、肩を落として歩いていた。



60: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:00:30.05 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「…………」

[`↓´]「…………」

从'ー'从「……ねぇ〜、いつになったらウナギが食べれるの〜?」

[`↓´]「……うるせぇな、メシなら食っただろ?」

从'ー'从「ふえぇ〜……話が違うよぉ〜」

(ムΘラ)「少し黙ってろ」

从'ε'从「…………」

[`↓´]「おい、あれ見ろよ」

(ムΘラ)「……なんだよ?」

しんと静まりかえった路上に、
ぽつんと冷蔵庫があるのが三人の目に止まった。

(ムΘラ)「なんだこりゃ?粗大ゴミか?」

そう言って扉を開ける男。



62: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:02:27.54 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「……中身入ってるじゃんか。
     こりゃいいや、ちょうど喉が渇いてたんだ」

[`↓´]「俺、オレンジ系な」

从'ー'从「私ポカリ〜!」

(ムΘラ)「牛乳とポンジュースしかねぇな」

[*`↓´]「ポンジュースたぁ、分かってるじゃねぇか!」

从'ー'从「ポカリ無いの〜?」

(ムΘラ)「無い」

从'ー'从「じゃあジュースで我慢するよ〜」

[`↓´]「半分こしよーぜ」

从'ー'从「うん!」

(;ムΘラ)「おいおい、俺は強制で牛乳か?」

瓶の蓋を取り、回しのみする二人。



63: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:04:02.63 ID:1Y48UeqXO

[*`↓´]从'ー'从『美味い!もう一杯!!』

(#ムΘラ)「人の話聞けや!!」

怒声をあげながら扉を叩き閉める男。

L’)「――ぐぅっ!」

(ムΘラ)「ん?なんか声しなかったか?」

从'ー'从「しないよ〜」

(ムΘラ)「……ならいいや」

頭を振って、歩き出す男。
それを見てジュースを飲みきってから後に続く二人。

[*`↓´]「いや〜久しぶりに甘いもん飲んだわ!」

(ムΘラ)「…………」

从'ー'从「美味しかったねぇ〜」

(ムΘラ)「……駄目だな、このままじゃ」

从'o'从「ふええ〜?」



65: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:06:20.39 ID:1Y48UeqXO

[`↓´]「そんなに牛乳が気に入らないのか?心が狭いやっちゃのー」

(#ムΘラ)「違ぇーよ!」

牛乳パックの中身をラッパ飲みで空にすると、それを投げ捨てる男。

(ムΘラ)「俺達はこのままじゃいけねぇってことだ!!」

(ムΘラ)「お前らは今の暮らしで満足してんのか!?
     いいや、そんな筈は無いね!」

从'ー'从「そうだねぇ〜なんとかしたいねぇ〜」

[`↓´]「だな」

(ムΘラ)「だったらよ、何が必要だと思うよ?」

从'ω'从「…………」

[`↓´]「…………」



67: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:07:44.04 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「答えはシンプルだ!
    金だ!金だよ!!金がありゃ俺達は人生をやり直せるんだよ!」

[`↓´]「かもな」

从'‐'从「…………」

(ムΘラ)「だったらよ、ドカンと稼ごうぜ?イチかバチかでよ」

从'ー'从「……何するの〜?」

(ムΘラ)「ハッ!決まってんだろ!」

(ムΘラ)「銀行強盗だよ、定番だろ?」


―――――


今ではエコロジストも青くなるような地球に優しい暮らしをしていたが、
生まれ育ちはかなり裕福だった。

父親は政治家をし、母親は化粧品会社を経営していたからだ。



68: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:09:57.41 ID:1Y48UeqXO

そんな両親は、注意散漫でおっとりとした性格の渡辺さんを溺愛していた。
だが彼女はその過保護とも言える束縛から、常に解放されたいと思っていた。

間伸びした言動と浅慮な思考。
これは自分でも容易に認められる欠点だ。

でもだからと言って、無遠慮にあれこれと口を挟む両親には辟易する。

自分の人生ぐらい、自分で決めたかったのだ。

そんな風に不満を溜め込む高校時代に、節目とも言える出来事が起きた。
それは、進学先までを勝手に決められたことだ。

選ばれた大学自体には特に文句が無い。



69: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:11:00.86 ID:1Y48UeqXO

だが、いくらなんでもやり過ぎだと言いたかった。

両親が出した傍若無人な結論には、呑気な彼女と言えども頭にきた。

彼等が勝手を言うなら、私にだってその権利はあるだろう。
渡辺さんはそう思い、生まれて初めて両親に反論した。
貴方達が用意したレールの上を、これ以上走る気にはならない、と。

しかし、それは即座に却下されることになる。

世事に疎く、どこか抜けている彼女は、
自分達の言う通りにした方が良いに決まっていると
両親は信じこんでいたのだ。

从'‐'从(それならそれでいいもん……)



72: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:12:35.64 ID:1Y48UeqXO

行動力と自立心が希薄だった渡辺さん。
けれどもそれは、無器用な両親からの
愛情を我慢しながらも受け入れていた結果だ。

今まで抑圧されていた分、
彼女の解放されたそれは、大胆な行動に出ることになる。

大学受験に行く振りをして、美容師の専門学校への入学の手続きをし、
預金通帳からありったけの現金を引き出して家を出たのだ。

从'ー'从(世界の全てを見たいんだよぉ〜)

随分前に読んだ冒険小説の中で、
旅立ちの景気付けにお尻の穴にフリスクを突っ込む、
というのがあったので彼女は実践してみた。



73: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:14:12.49 ID:1Y48UeqXO

从*'ー'从(みwwなwwぎっwwてwwきwwたwwwwww!!!)

痺れるような清涼感が体内で爆発し、
束縛からの解放が如実に実感出来たものだ。

そして専門学校に入学し、
住居のための保証人などいないので公園に住むこにした。

そこで、あの二人に出会った。

(ムΘラ)『ツインズ!!』

[`↓´]『参上!!』

从'ー'从『ふぇぇ?』

路上生活のノウハウを教えてもらい、
あれこれと面倒を見てもらった。

細々と使っていた現金が尽き、
片っ端から仕事をクビになる現在まで、その付き合いは続いていた。



75: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:15:35.74 ID:1Y48UeqXO


―――――


翌朝。

从'ー'从「朝だよ〜!」

細かい計画は明日にたてる、
ということに決まったので昨晩はそうそうに就寝した。

焼失した家はやっつけ仕事で修復させ、
渡辺さんはそこで寝た。

心地良い朝の空気を肺に溜めながら、
顔を洗うために表に出る。

家の前には、二人組が熟睡していた。

(ムΘラ)「ごがぁぁぁぁ!ぐごぉぉぉぉっ!!」

[`↓´]「クピー……クピー……ムニャムニャ……」

从'ー'从「…………」

彼等はいつもこうして夜の番をしてくれていた。



76: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:16:26.08 ID:1Y48UeqXO

冬場でも毛布と新聞紙にくるまり、
渡辺さんに何か起きないようにと気を配っていた。

从'ー'从(いつもありがとうだよぉ……)

蛇口から出る生温い水で眠気を覚ます。
塩を指先につけて歯を磨く。

从'ー'从(でも……いつまでもおんぶにだっこじゃ女が廃るよ〜)

学習とは優れた物を模倣することだ。
彼女はそう思いつつ、昨日の出来事を反芻した。

渡辺さんは、彼等の手助けをしたかったのだ。

从'ー'从「電話〜電話〜♪」

公衆電話に行き、ポケットから出した小銭を入れる。



78: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:18:05.29 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从(今日から私も出来る女だよ〜)

最初の十円で104に掛け、目的の電話番号を聞く。
時間は大丈夫だ。もう開店しているはずだ。

意を決して番号をプッシュする。

从'ー'从(ドキドキするよぉ〜)

電話が掛り、非常に丁寧な言葉使いな女性が対応してくれた。
渡辺さんは相手の言葉の終りを待たずに口を開く。

从'ー'从「私だよ〜私だよ〜」

『……はい?』

从'ー'从「私、私だよ〜」

『どちら様でしょうか?』

从;'ー'从(う〜ん、この後なんて言えば良いんだろ……)

从'ー'从(そうだ!)



79: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:19:37.11 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「銀行強盗の私だよ〜後で行くからお金を貸してね〜」

そう言うと、満面の笑みで受話器を置く渡辺さん。

これで相手は知り合いが強盗に来るに違いないと勘違いするはずだ。
それならきっと同情してくれる。

これでスムーズにお金の受け渡しが出来ることになるだろうな、
と彼女は思った。

从'ー'从(あれれ〜?私も意外と賢いよ〜)

鼻唄を歌いながら、段ボールハウスに戻る。
ぐんぐんと日が登り、真夏の暑さが空気に混じり出した。


―――――


(ムΘラ)「…………」

[`↓´]「…………」



81: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:20:53.49 ID:1Y48UeqXO

从'‐'从「ふぇぇ……なんで銀行が閉まってるのぉ〜?」

渡辺さんは目を覚ました二人に連れられて、
襲撃予定の場所に辿り着いた。

しかしなぜかシャッターが下ろされており、
休業しているようだった。

[`↓´]「正月でもねーのに銀行が休みとはなぁ……」

(ムΘラ)「クソッ!幸先悪いな」

从'‐'从(せっかく電話したのに……酷いよ……)

自分の行為が徒労に終ったことに落ち込む渡辺さん。

(ムΘラ)「仕方ねー、他のとこ行くか」

从'ー'从「どこにするの〜?」

[`↓´]「隣街にあったな。でっかいやつが」



83: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:22:59.71 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「バストと銀行は大きい方が良いからな。そこにしよう」

[`↓´]「胸はツルペタだろ」

(ムΘラ)「知るか」

从'ー'从「どうやって行くの〜?」

(ムΘラ)「歩くの面倒だからタクシーだな」

[`↓´]「おい、ツルペタなめんなよ」

从'ー'从「あれれ〜贅沢過ぎるんじゃない〜?」

(ムΘラ)「贅沢もクソもはなから金なんてねーだろ。踏み倒せばいい」

[`↓´]「ツルペタ……」

从'ー'从「それもそうだね〜」

(ムΘラ)「ほれ、ちょうど来たみたいだぜ」

[`↓´]「ツルペタがかっ!?」

(#ムΘラ)「いい加減うるせーぞ」



85: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:24:30.91 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「ねぇねぇ〜私が止めてもいい〜?」

(ムΘラ)「ガキかよ。まっ、好きにしな」

[`↓´]「えー!俺がやりたかったのに……」

(ムΘラ)「きめぇー」

从'ー'从「じゃあ一緒にやろ〜」

[*`↓´]「ふへへへ……ありがと」

(ムΘラ)「ガチできめぇー」

\从'ー'从人[`↓´]/「「ヘイ、タクシー!」」

手と手を合わせて片足を上げる二人。

(ムΘラ)「おっさん、キモ過ぎるぞ」

緩やかに減速して目の前で停止するタクシー。



87: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:25:43.02 ID:1Y48UeqXO

しかし運転手はドアを開け、
渡辺さん達に一瞥もせずにどこかへ歩き出してしまった。

从'‐'从「……あれれ〜?」

[`↓´]「新手の乗車拒否か?」

(ムΘラ)「テメーのせいで吐きに行ったんだろ」

運転手を追う渡辺さんの目。
二人組の会話は耳に入らない。

从'‐'从(なんだろ……胸がざわざわするよ……)

膝まずき、頭を垂れる運転手。
ぞくぞくと集まり、次々とそれに倣う通行人達。

从 ‐ 从「…………」

その光景は大名行列のために道を開けている民衆を連想させた。

(ムΘラ)「あれっ、銀行が開いてやがる」



88: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:26:38.03 ID:1Y48UeqXO

[`↓´]「おお、いつの間に……」

(ムΘラ)「手間が省けたな、あそこに行こうぜ」

[`↓´]「えぇ〜タクシー乗りたかったのにぃ」

(ムΘラ)「ボコボコにしてやるから救急車に来てもらうか?」

从 ‐ 从「うっ……ううっ……」

(ムΘラ)「……?どうしたよ、お嬢ちゃん?」

胸を押さえてうつむく渡辺さんを心配そうに見る男。

从 ‐ 从「……うぅ………」

(;ムΘラ)「おいっ!どうしたんだ!?」

[;`↓´]「病気か?持病かなにかの病か!?」

慌てる二人。
尋常じゃない彼女に気が動転しているようだった。



90: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:27:55.01 ID:1Y48UeqXO

(;ムΘラ)「びょ、病院だ!病院!!」

[;`↓´]「救急車呼ぼう!」

(;ムΘラ)「だから金なんて無いだろ!このタクシーをパクるぞ!!」

渡辺さんは手を引かれ、車に乗せられた。

[;`↓´]「しっかりしろ!息だ!息をしろ!ひっひっふー!ひっひっふー!」

从 ‐ 从「うぅぅ……うっ………」

(#ムΘラ)「そりゃ妊婦の呼吸法だろ!?
     余計なことしてねぇで背中でもさすってやれよ!!」

運転席に座った男が怒号を上げながらエンジンをかけ、車を発進させる。

[;`↓´]「わ、分かった……」



92: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:29:16.73 ID:1Y48UeqXO

後部座席にいる男が渡辺さんの背中を撫でる。

[;`↓´]「大丈夫か?なあ?」

从 ‐ 从「うっ……うっうっ……………」

問いに、答えない。
うつむき続ける。

息を吸う。
大きく。

そして、叫んだ。

从゚□゚从「おわあああああああああああっ!!!!」

介抱する手を振りほどき、車の窓を拳で叩き割る渡辺さん。

[;`↓´]「なになになに!?」

(;ムΘラ)「ええええええっ!?」

从 ゚Д゚从「うえぇあああああああああああっ!!!!」

彼女は両足で床を踏み鳴らし、
両手を天井にがつんがつんとぶつける。



95: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:32:30.15 ID:1Y48UeqXO

そして渡辺さんは割れた窓から飛び下りた。

―――――


从 ゚ー゚从「うひょ、うひょ、うひょおおおおおおおおおおおおっ!!」

彼女は全速力で疾走していた。
股が裂ける程に足を伸ばし、腕が肩から千切れるぐらいに振った。

それでもまだ、足りないぐらい、一刻も早くあそこに行きたかった。

从 ゚ー゚从「フオォォォォォォォォォッ!!」

本能が命じるままに駆けたその先。
そこには銀行から飛び出すびしょ濡れになった柔和に微笑む青年がいた。

( ^ω^)「ホライゾーン♪勝手気ままなホライゾーン♪」



96: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:33:42.49 ID:1Y48UeqXO

膝まずく人の列の中央を両手を広げて走る青年。
彼が通るたびに次々と回りながら立ち上がる人々。
銀行からも大勢の人たちが水に濡れた顔を拭いもせずに青年に続いた。

从゚ー゚从「はあああああっ!!!」

とにかくもう、この宴に参加したかった渡辺さん。
彼女は今まで出したこともない速度で青年の前までダッシュした。

从;'ー'从「くっ!」

しかし彼女は意図せずに転倒してしまう。
それも青年の進行方向上でだ。

从'ー'从(しまったよ!!)

不味い、邪魔だ。これでは野暮になる。



97: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:35:46.43 ID:1Y48UeqXO

そう思った彼女は、
苦肉の策で上半身を倒したまま両足を左右に広げた。

( ^ω^)「やりたい放題やっちゃうもーん♪」

すると青年は、歌いながら
陸上競技のハードルをクリアーするみたいに、自分の上を飛び越えた。

从'ー'从(よっしゃっ!!)

満足気にそれを見届けた渡辺さんは、
開いた足をそのままに、腕の力だけで上体を持ち上げた。

从'ー'从「最高にクールだよっ!!」

宣言し、頭の天辺をアスファルトに着ける。
そしてそこを支点に渡辺さんは、勢いをつけて回り出した。

「あれ見ろよ!ヘッドスピンだ!!」

「スゲー勢いだ!!」



99: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:36:29.92 ID:1Y48UeqXO

通行人が自分を見て声を張り上げた。
嬉しくなって、更に回った。

从'ー'从「ワオッ!!」

回転数を増やす。
それを意識しながら、手で地面を押して更に回る。

从'ー'从「ヘイヘーイッ!!」

そして足の先を掴み、両足を広げる渡辺さん。
スカートをはいていたのでパンツは全開だったが、気にしない。

( ^ω^)「だからあなたもカモンだお♪」

从'ー'从「ひゅーっ!」

周りを見ると自分と同じように
頭で回転する人達が現れていた。

まるでお花畑みたい――渡辺さんは
そう思いながら回り続けていた。



102: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:38:54.72 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「ちょっと目を離した隙になーにしてんだよ?」

[`↓´]「やれやれだぜ!」

いつの間にかいなくなっていたはずの二人組が、
肩で風を切りながらこちらに向かってきた。

(ムΘラ)「こんな無茶な――」

男が言い切る前に、ぴたりと回るのを止める渡辺さん。
そして逆さになったまま言う。

从゚ー゚从「うるせぇ!!」

(;ムΘラ)「え?」

[;`↓´]「き、決めセリフが台無しに――」

从゚ー゚从「だからうっせぇって!!!」

((((;Θ;))))「なななな、なんだよぉ……」

[;`↓´]「おいおい、泣くなよ……」



103: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:39:50.21 ID:1Y48UeqXO

从゚ー゚从「ガタガタ言ってんじゃないよっ!!」

从゚ー゚从「歌えっ!!!」

((((;Θ;))))「ひいぃぃ……キャラが違う……」

[;`↓´]「お前もな」

从゚ー゚从「歌うんだよぉぉぉぉぉっ!!!」

( ^ω^)「そうだお♪みんなでやるんだお♪」

渡辺さんの両足を穏やかに
微笑む青年が閉じさせ、抱え、反転させながら持ち上げた。

( ^ω^)「やりたい放題やっちゃうお♪」

从*'ー'从「空が!近いぃぃぃ!!」

青年に抱き抱えられ、両手を広げる渡辺さん。

ノパ听)「よっしゃあっ!!」



105: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:41:07.91 ID:1Y48UeqXO

そして男物のシャツを着た女が青年ごと更に持ち上げる。

( ^ω^)「そら行くお♪」

青年が両腕の力だけで彼女を放り投げる。
渡辺さんはその勢いを利用して、華麗にバク宙した。

从'ー'从「ヘーイ♪」

着地するとすぐに青年も宙を舞ったのが見えた。

( ^ω^)「だおー♪」

青年が地に足を着けたのを確認するシャツを着た女。

ノパ听)「こっち来ーい♪」

そう歌って手招きをした。

同時に走り出し、同じタイミングで飛び上がる青年と渡辺さん。
女は手を差し伸ばす。
その掌に足を掛け、再びバク宙した。



106: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:41:45.18 ID:1Y48UeqXO

( ^ω^)从'ー'从『ヒャホーウ♪』

小気味良く一回転半し、背中から落ちる二人。
その体を受け止めるホームレスの二人組。

(^ω^ )↓´]「よいしょー♪」

(ムΘ从'ー'从「こらしょー♪」

渡辺さんは丁寧に着地させてもらい、中腰になった。
そしてその上を男が馬飛びする。
彼の目の先には同じように飛び越えた相方がいた。

(ムΘラ)「俺は小汚い公園暮らし♪どうやら社会の負け犬らしい♪」

(ムΘラ)「毎日夕食、残飯三昧♪それでもお腹はパンパン万歳♪」



107: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:42:32.53 ID:1Y48UeqXO

[`↓´]「そいつは奇遇だ俺そう♪うんざりにしてるぜそれはもう♪」

[`↓´]「賞味期限はいい加減♪だから壊す腹、もう吐けん♪」

お互いを指差し境遇を嘆き合う二人組。
若干涙目になっているのは誰の目から見ても明らかだった。

彼等は下を向き、溜め息を吐いた。

そんな二人の肩に手を置き、
分かるよ分かるよ、といった感じで頷く青年。

( ^ω^)「それは大変命がけ、毎日必死のサバイバル♪
       だけど必要なのは心がけ、見方を変えればカーニバル♪」

手近にいる渡辺さんの腰を掴む青年。

从*'ー'从「きゃっ」



109: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:43:09.70 ID:1Y48UeqXO

ぐいっと持ち上げてお姫さまだっこをされる渡辺さん。

从*'‐'从「…………」

青年は顎を上げていたので顔が見えない。
しかし唐突に彼女を目を直視する。

それに思わず、照れてしまった。

( ^ω^)「さあさあそれじゃやるんだお♪恥ずかしがらずやっちゃうお♪」

自分の片手だけを握って放り投げる青年。
びっくりするぐらい上手に立てる渡辺さん。

そんな彼女に顔を近付けて青年は歌う。

( ^ω^)「好きに勝手にやっちゃうお♪やりたい放題やっちゃうお♪」

青年が左右に手を引いた。
逆らえずに体が揺れた。



111: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:43:44.79 ID:1Y48UeqXO

从*'ー'从「わわっ……」

( ^ω^)「僕の名前はホライゾーン♪やりたい放題やっちゃうもーん♪」

( ^ω^)「だからみんなもカモンだおっ♪」

鳴りを潜めていた群衆が、いっせいに湧いた。
歌う青年の元へと集まった。

( ^ω^)「ホライゾーン♪」

そして組体操をする。
ピラミッドだ。
青年は渡辺さんの手を引きながらその階段を上がる。

( ^ω^)「僕の名前はホライゾーン♪」

渡辺さんは地面とは違う柔かい感触を足で踏む。
聞いたことも無い歌の歌詞が頭に浮かぶ。



113: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:44:20.44 ID:1Y48UeqXO

从*'ー'从「ナ・イ・ト・ウ♪ホライゾーン♪」

( ^ω^)「マイ・ネーム・イズ――」

頂上の人の背中に足を置く青年と渡辺さん。
胸を張り、顔を上げる。
歌う。

从'ー'从( ^ω^)皆さん『ホライゾーン♪』

声が、揃った。
その合唱は、夏の空に響いていた。


―――――


なぜか銀行内から流れ出した水には、沢山の一万円札が浮いていた。
それをちゃっかり拾ったホームレスの二人組は、
警察に届けることもしないで散財した。



115: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:45:04.18 ID:1Y48UeqXO

彼曰く、(ムΘラ)『銀行にゃあ保険がかかってるから大丈夫だ。
それにあいつらの手口は、汚い』だそうだ。

食い逃げしたお店の料金を払い、
詐欺の電話した相手に謝罪し、掘った穴を埋めた。

そして、うなぎをご馳走してもらった。

从*'ー'从「ふええ〜美味しかったよ〜」

[*`↓´]「マジとろけたわ、舌で」

(ムΘラ)「昨日今日と忙しかったからな、労いがてらに奮発よ」

(ムΘラ)「それと――」

(ムΘラ)「餞に、か」

从'ー'从「……そうだね〜」

[`↓´]「ん?」

立ち止まる三人。
お互いの顔を見合う。



117: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:45:47.31 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「本当は、とっくに気付いてたんだ。
     でもお前らとつるむのは楽しいから、つい、な……」

[`↓´]「……そうか……そうだよな」

从'ー'从「私も楽しかったよ〜」

[`↓´]「うん、俺も」

(ムΘラ)「…………」

从'ー'从「やっぱこのままじゃいけないよね……」

渡辺さんは嬉しかった。
二人の気持ちが自分と同じだったことが。
自分達は本当に仲が良かったのだな、と思った。

(ムΘラ)「俺とお前が出会って十年ちょっと、
     そんでお嬢ちゃんとは三年弱ってとこか?」



119: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:47:35.52 ID:1Y48UeqXO

[`↓´]「よくもまぁ、ここまでブラブラしたもんだ」

从'ー'从「同感だよ〜」

切っ掛けはあの柔和に微笑む青年との出会い。
正確に言うと、あそこに集って踊っていた人達だった。

平日の朝に参加してきた束の間の仲間達は、多くが働く社会人だ。
それは服装や雰囲気で察せられた。

真摯に毎日を生き抜く彼等や彼女達にとって、
あの集まりは楽しそうな息抜きに見えた。

それに引き替え自分は、
無器用なことを良いことに怠惰に過ごしていた、と実感してしまった。

表情で、分かったのだ。
自分とあの人達との違いに。



121: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:48:54.57 ID:1Y48UeqXO

誰もが生き生きとした、実に良い顔だった。

彼女は、なりたいと思った。
あんな顔に。

だから立ち止まるのはやめることにした。
愉快な日々に別れを告げることを決意した。

[`↓´]「しかしよ……社会復帰なんて出来るのかねぇ……」

(;ムΘラ)「確かにな。人生サボり過ぎたわ」

从'ー'从「私たち、駄目人間だしね〜」

束縛からの逃避ではなく、
充実した時間が欲しくて自立したかった。

今度こそ、自分の力で。
自分の面倒を自分で見れるようになるために。

从'ー'从「でも、一度失敗したからもう怖くないよ」



124: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:50:02.11 ID:1Y48UeqXO

(ムΘラ)「…………」

[`↓´]「…………」

从'ー'从「転んでも、こうやって立てるってことを私は知っちゃったもん」

从'ー'从「だから、また会おうよ。そんで再会を豪遊して祝おうよ!」

(ムΘラ)「……いいな、豪遊。
     いつかその日のために働くってのも、悪くないな」

[`↓´]「その時もしお前らが貧乏でも安心していいぞ。
     俺が奢ってやるから」

(#ムΘラ)「なんでテメーが勝ち組なんだよ!どう考えても俺の方が――」

从'ー'从「あれれ〜?人生は勝ち負けなんかじゃ決まらないよ〜?」



125: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:50:49.33 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「頑張ってる人が一番なだけだよ〜」

(ムΘラ)「……この野郎!いいこと言うじゃねーか!!」

[`↓´]「それもそーだな!やってやるぜ!!」

从'ー'从「それじゃお別れだね!元気でね!!」

从'ー'从(ムΘラ)[`↓´]『また会う日までさようなら!!』

三人は、いっせいに歩き出した。
別々の方向へ。

お互いに身の振り方は聞かなかった。
聞くのが楽しみだったからだ。
また会った時に。

从'ー'从「〜♪」

これからどうしようか?

それは何度もした自問自答。



127: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:51:31.35 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从(いっぺん実家に帰ってみようかな〜
     それとも住み込みのお仕事を探そうかな〜)

もう美容師にはこだわらない。
向いてなかったのだと諦めた。
でも無駄だとは思わない。あれはあれでいい経験だった。

从'ー'从「らら〜らんが〜♪」

これから何をしていこうか?

色々なことを想像して、
自分は本当に自由なんだなと実感した。

从'ー'从「らごらご〜らんぎ〜♪」

そして彼等のことを考える。

今度会う時、あの二人はどんな風になっているのだろうかと。

仕事は何をしているだろう。
服装はどんな感じだろう。



128: ◆PxaeLV0ois :2007/09/15(土) 01:52:17.41 ID:1Y48UeqXO

从'ー'从「マ〜イ・ネ〜ム・イズゥ〜・ワッタナベ〜♪」

でも、一つだけ変わらないことを彼女は知っている。

それは再会したら、また馬鹿みたいなやりとりで
大騒ぎするに決まっている、ということだ。

これだけは、きっと変わらない。

だから彼女は安心して前を歩けた。

そして一度だって振り返らない。

きっと彼等も、そうしているはずだから。





七曲目・完



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